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特開2025-149206部分放電診断装置、部分放電診断方法、及び部分放電診断システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025149206
(43)【公開日】2025-10-08
(54)【発明の名称】部分放電診断装置、部分放電診断方法、及び部分放電診断システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20251001BHJP
【FI】
G01R31/12 A
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024049701
(22)【出願日】2024-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100125151
【弁理士】
【氏名又は名称】新畠 弘之
(72)【発明者】
【氏名】柏瀬 翔一
(72)【発明者】
【氏名】原川 崇
(72)【発明者】
【氏名】三浦 崇広
(72)【発明者】
【氏名】椿原 大貴
(72)【発明者】
【氏名】岡野 祐也
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 晃彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 友彰
(72)【発明者】
【氏名】根元 雄大
(72)【発明者】
【氏名】藤本 旺
【テーマコード(参考)】
2G015
【Fターム(参考)】
2G015AA13
2G015AA14
2G015AA16
2G015AA27
2G015BA10
2G015CA01
2G015CA20
(57)【要約】
【課題】疑似部分放電が発生する場合にも、部分放電の判定精度の低下を抑制可能な部分放電診断システム、部分放電診断装置、及び部分放電診断方法を提供することである。
【解決手段】本発明の実施形態に係る機器の部分放電診断装置は、絶縁物の部分放電信号の要因判定を実行する部分放電診断装置であって、処理部と、学習モデル生成部と、を備える。処理部は、位相に応じて変動する電気信号における疑似部分放電信号を抑制した所定形式のデータを生成処理する。学習モデル生成部は、データに基づき、前記部分放電の要因、及び前記部分放電の有無の少なくともいずれかを判定する学習モデルを生成する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁物の部分放電の要因判定を実行可能である部分放電診断装置であって、
位相に応じて変動する電気信号における疑似部分放電信号を抑制した所定形式のデータを生成処理する処理部と、
前記データに基づき、前記部分放電の要因、及び前記部分放電の有無の少なくともいずれかを判定する学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
を備える、部分放電診断装置。
【請求項2】
前記処理部は、所定の位相範囲の前記電気信号を前記疑似部分放電信号として抑制した前記データを生成する、請求項1に記載の部分放電診断装置。
【請求項3】
前記処理部は、絶対値が所定の大きさ以上である前記電気信号を前記疑似部分放電信号として抑制した前記データを生成する、請求項2に記載の部分放電診断装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記電気信号の所定の周波数範囲の前記電気信号を前記疑似部分放電信号として抑制した前記データを生成する、請求項1に記載の部分放電診断装置。
【請求項5】
前記電気信号は、位相差のある複数の信号であり、
前記複数の信号のうちの一つの信号に対して発生するタイミングの部分放電信号が、前記複数の信号のうちの前記一つの信号と異なる信号に対して発生する前記疑似部分放電信号に対応し、
前記処理部は、前記異なる信号に対して、前記一つの信号に対して前記部分放電信号が発生するタイミングに基づく位相範囲の前記電気信号を前記疑似部分放電信号として、抑制する、請求項1に記載の部分放電診断装置。
【請求項6】
前記電気信号は、位相差のある複数の信号であり、
前記処理部は、前記位相が一致するように、前記電気信号の位相を変更する、請求項1に記載の部分放電診断装置。
【請求項7】
前記処理部は、前記データを二次元配列の数値を有する画像データとして生成し、
表示装置に前記画像データを表示させる表示制御部を、更に備える、請求項1に記載の部分放電診断装置。
【請求項8】
電力機器、または、その周囲に取り付けたセンサーによって計測された前記電気信号を取得するデータ取得部を、更に備える、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の部分放電診断装置。
【請求項9】
前記電力機器は、発電機、電動機、インバータ装置、スイッチギア、及びケーブルの少なくともいずれかであり、
前記電気信号は、前記電力機器への印加電圧の位相に対応する電荷量、電流、及び電圧の少なくともいずれかを示す信号である、請求項8に記載の部分放電診断装置。
【請求項10】
学習用の電気信号を生成、及び前記データ取得部を介して取得の少なくともいずれかを実行する電気信号生成部を、更に備える、請求項9に記載の部分放電診断装置。
【請求項11】
前記処理部は、前記計測された前記電気信号、及び、前記学習用の電気信号の少なくともいずれかに基づき、前記データを生成する、請求項10に記載の部分放電診断装置。
【請求項12】
前記電気信号生成部は、絶縁劣化状態を模擬した試験データ、或いは、シミュレーション結果の少なくとも1つを用いて前記電気信号を生成する、請求項11に記載の部分放電診断装置。
【請求項13】
前記計測された前記電気信号、及び前記学習用の電気信号の少なくともいずれかを組み合わせることで前記データの数を増加させる学習データ拡張部を更に備える、請求項12に記載の部分放電診断装置。
【請求項14】
前記電気信号生成部により生成した絶縁劣化時の前記電気信号に基づき、前記部分放電信号の範囲を示す特徴量を抽出する特徴量抽出部を更に備え、
前記処理部は、前記特徴量に基づいて前記電気信号における前記疑似部分放電信号を抑制する、請求項13に記載の部分放電診断装置。
【請求項15】
前記処理部は、前記電気信号の信号強度範囲を調整することが可能である、請求項14に記載の部分放電診断装置。
【請求項16】
前記電気信号は、前記電力機器への印加電圧の位相に対応する電荷量を示す信号であり、
前記処理部は、前記位相範囲と、前記電荷量の範囲をそれぞれ複数の区分に分け、前記電荷量の発生頻度を前記位相範囲の区分と、前記電荷量の範囲の区分とで示す領域毎に生成し、前記データとする、請求項15に記載の部分放電診断装置。
【請求項17】
前記処理部は、前記発生頻度を非線形に変換する、請求項16に記載の部分放電診断装置。
【請求項18】
前記処理部は、判定時に前記データ取得部が取得した前記電気信号に基づき、前記データを生成し、
前記データに基づき、前記学習モデルを用いて前記部分放電の有無、及び前記発生要因の少なくともいずれかを判定する部分放電判定部を更に備える、請求項10乃至17のいずれか一項に記載の部分放電診断装置。
【請求項19】
絶縁物の部分放電信号の要因判定を実行する部分放電診断方法であって、
位相に応じて変動する電気信号における疑似部分放電信号を抑制した所定形式のデータを生成処理する処理工程と、
前記データに基づき、前記部分放電の有無、及び前記発生要因の少なくともいずれかを判定する学習モデルを生成する学習モデル生成工程と、
を備える、部分放電診断方法。
【請求項20】
絶縁物の部分放電信号の要因判定を実行する部分放電診断システムであって、
電力機器またはその周囲に取り付けたセンサーによって電気信号を計測する計測器と、
部分放電診断装置と、を備え、
前記部分放電診断装置は、
位相に応じて変動する電気信号における疑似部分放電信号を抑制した所定形式のデータを生成処理する処理部と、
前記データに基づき、前記部分放電の要因、及び前記部分放電の有無の少なくともいずれかを判定する学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
を有する、部分放電診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、部分放電診断装置、部分放電診断方法、及び部分放電診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラント設備として、発電機、電動機、インバータ装置、スイッチギア、及びケーブル等の電力機器を備える。電力機器は、導体表面に絶縁物を有しており、絶縁物の絶縁性能は経年劣化する。発電機の発電機コイルのように、温度変化による熱伸縮を繰り返すと、絶縁物に劣化が生じる。このような絶縁物の劣化は、絶縁破壊による電力設備の故障要因となる。
【0003】
絶縁物が劣化すると電力機器から部分放電が発生することが知られている。このため、部分放電の発生現象に基づき、絶縁状態を判定することが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-161713号公報
【特許文献2】特開2023-180397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、部分放電に類似した疑似部分放電が発生する場合がある。このような場合に、絶縁状態の判定精度が低下してしまう恐れがある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、疑似部分放電が発生する場合にも、部分放電の判定精度の低下を抑制可能な部分放電診断システム、部分放電診断装置、及び部分放電診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る機器の部分放電診断装置は、絶縁物の部分放電信号の要因判定を実行する部分放電診断装置であって、処理部と、学習モデル生成部と、
を備える。処理部は、位相に応じて変動する電気信号における疑似部分放電信号を抑制した所定形式のデータを生成処理する。学習モデル生成部は、データに基づき、前記部分放電の要因、及び前記部分放電の有無の少なくともいずれかを判定する学習モデルを生成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電力機器の部分放電要因の判定精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】部分放電要因ごとのφ―q―n特性図の様相の違いを例示する図。
図2】部分放電信号と疑似放電信号の例を示す図。
図3】U相およびW相により発生した部分放電信号がV相に重畳した場合の例を示す図。
図4】部分放電診断システムの構成例を示すブロック図。
図5】データ処理部の構成例を示すブロック図。
図6】演算部によるφ―q特性図の生成方法例を示す図。
図7】演算部によるφ―q―n特性図の生成方法例を示す図。
図8】電気信号の時系列データの時間区間に対して高速フーリエ変換を実行する例を示す図。
図9】演算部によるスペクトログラムの生成例を示す図。
図10】電気信号の時系列データに対する規格化の例を示す図。
図11】φ―q―n特性図の二次元行列に対して対数変換を実施した例を示す図。
図12】平均化を用いた増加処理方法について説明する図。
図13】特徴量抽出部の構成例を示すブロック図。
図14】模擬電気信号に対して高速フーリエ変換により生成した周波数スペクトルの例を示す図。
図15】模擬電気信号のスペクトルの値から周波数範囲を設定する例を示す図。
図16】スペクトルの大きさと出現回数から周波数範囲を選定する例を示す図。
図17】スペクトログラムを用いて周波数範囲を選定する例を示す図。
図18】φ―q―n特性図から位相範囲を選定する方法を例示する図。
図19】電荷量に対する電荷量ヒストグラムの生成例を示す図。
図20】φ―q特性図におけるデータ点のピーク位置から位相範囲を選定する方法を例示する図。
図21】疑似部分放電を矢印で示すφ―q特性図。
図22】φ―q特性図上のデータ点を包括処理した例を示す図。
図23】スペクトログラムから位相範囲を選定する方法を例示する図。
図24】部分放電診断システムの処理例を示すフローチャート。
図25】画像生成部による画像化処理例を示す図。
図26】フィルタリング部によるマスキング処理例を示す図。
図27】水車発電機コイルとセンサーの配置例を模式的に示す図。
図28】フィルタリング部による印加電圧の基点調整処理例を示す図。
図29】フィルタリング部によるマスキング処理例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る部分放電診断装置、部分放電診断方法、及び部分放電診断システムについて、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。また、本実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号又は類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なる場合や、構成の一部が図面から省略される場合がある。以下では、先ず、図1乃至図3を用いて、部分放電、及び疑似部分放電について説明する。
【0011】
[絶縁物の部分放電の様相]
絶縁物の部分放電の様相について、図1を用いて説明する。φ―q特性図は、印加電圧位相と電気信号の値との関係を示す図である。電気信号は、電力機器などへの印加電圧の位相に対応する信号である。例えば電気信号は、位相に応じて変動する電荷量、電流、及び電圧の少なくともいずれかである。このため、本実施形態では、電気信号と称する場合には、位相に応じて変動する電荷量信号、電流信号、及び電圧信号の少なくともいずれかが含まれるものとする。
【0012】
また、本実施形態では、電気信号として電荷量信号を用いて説明するが、これに限定されず、電流信号、及び電圧信号のいずれかなどを用いることも可能である。φ―q―n特性図は、φ―q特性を一定時間累積し、部分放電電荷量とその発生回数及び印加電圧位相との相関を表現した特性図である。
【0013】
図1は部分放電の要因ごとのφ―q特性図である。図1のφ―q特性図は、印加電圧L10の位相φと電荷量qの関係を示す図である。縦軸は電荷量であり、横軸は位相(時間)である。印加電圧L10の一周期の間に、部分放電信号が発生する絶縁劣化要因は複数ある。このため、絶縁劣化要因ごとにφ―q特性図の様相が異なる。例えば、図1(a)は、180°から270°の間に部分放電信号が発生し、図1(b)は、0°から90°、及び90°から270°に部分放電信号が発生している。部分放電信号は、後述するように、例えば平均的な電荷量よりも大きな電荷量として測定される。
【0014】
図1(c)は、0°から90°のマイナス側、及び90°から270°のプラス側に部分放電信号が発生している。このような、各様相に、発生要因を関連付けることが可能である。本実施形態では、電力機器の絶縁状態を判定するための機械学習を実行する際に、発生要因を関連付けた学習データを用いることが可能である。なお、図1は部分放電要因ごとのφ―q特性図の様相の例示であり、部分放電要因のパターンはこれらに限定されないものである。
【0015】
[疑似部分放電信号]
本実施系形態では、判別対象の絶縁物に起因せずに発生する電気信号を疑似部分放電信号と称する場合がある。疑似部分放電の発生要因には、例えば測定対象外で発生した放電信号がセンサーに伝搬して、センサーで測定される場合などがあると考えられている。図2は疑似部分放電信号の例を示すφ―q特性図である。縦軸は電荷量であり、横軸は位相(時間)である。例えば、図2(a)は、0°から90°、及び90°から270°の範囲に部分放電信号が発生している様相例である。これに対して、図2(b)は、90°近辺、及び270°近辺に疑似部分放電信号が発生している様相例である。
【0016】
例えば、φ―q特性図において、部分放電信号は図1、及び図2(a)に示すように印加電圧位相の0°から90°、180°から270°の少なくとも1つの範囲付近で多く発生する。これに対して、疑似部分放電信号は、図2(b)のように、疑似部分放電信号は、統計的に、部分放電信号の発生位相とは、ずれる傾向を示すことが本出願人の実験結果からわかってきている。
【0017】
[3相交流における疑似部分放電信号]
また、発電機および電動機においては、U相、V相、W相間の信号重畳が発生する場合があることが本出願人の実験結果からわかってきている。図3はU相およびW相により発生した部分放電信号がV相に重畳した場合の例を示す図である。縦軸は電荷量であり、横軸は位相(時間)である。図3(a)は、U相のφ―q特性図であり、図3(b)は、V相のφ―q特性図であり、図3(c)はW相のφ―q特性図である。この例では、U、W相の部分放電信号が疑似部分放電信号PU、PWとして、V相の部分放電信号S10に重畳している例を例示している。
【0018】
[部分放電診断システムの構成]
次に、部分放電診断システム1のシステム構成を説明する。図4は、部分放電診断システム1の構成例を示すブロック図である。図4に示すように、部分放電診断システム1は、疑似部分放電信号の影響を低減可能とし、部分放電の有無、及び部分放電の要因判定の少なくともいずれかが可能なシステムである。部分放電診断システム1は、計測器10と、表示装置20と、操作装置30と、部分放電診断処理装置40とを、備える。
【0019】
計測器10は、電力機器に取り付けられたセンサーから計測された電気信号の時系列データを電診断処理装置40に供給する。例えば、センサーは、電流方式としての高周波電流センサーや、電磁波方式の電磁波アンテナ等である。上述のように、電気信号には、電荷信号、電流信号、及び電圧信号の少なくともいずれかが含まれる。
【0020】
表示装置20は、例えばモニタである。この表示装置20は、部分放電診断処理装置40から供給される画像データを表示する。
【0021】
操作装置30は、例えばキーボード、マウスなどの入力デバイスにより構成される。この操作装置30は、操作者の操作に応じた信号を部分放電診断処理装置40に入力する。
【0022】
図4に示すように、部分放電診断処理装置40は、疑似部分放電の影響を抑制しつつ、部分放電診断が可能な装置である。この部分放電診断処理装置40は、データ取得部100と、電気信号生成部102と、特徴量抽出部104と、処理部105と、学習モデル生成部110と、部分放電判定部112と、記憶部116を備える。処理部105は、データ処理部106と、画像生成部108とを有する。
【0023】
部分放電診断処理装置40は、CPU(Central Processing Unit)を有しており、例えばコンピュータである。この部分放電診断処理装置40は、記憶部116に記憶されるプログラムを実行することにより、データ取得部100と、電気信号生成部102と、特徴量抽出部104と、処理部105と、学習モデル生成部110と、部分放電判定部112と、を構成することが可能である。なお、データ取得部100と、電気信号生成部102と、特徴量抽出部104と、データ処理部106と、画像生成部108と、学習モデル生成部110と、部分放電判定部112と、を電子回路で構成することも可能である。
【0024】
データ取得部100は、電力機器に取り付けられたセンサーから計測された電気信号の時系列データを計測器10から取得する。計測器10は、複数のセンサーを有している。データ取得部100は、計測器10から複数の異なる電気信号の時系列データを取得可能である。なお、計測器10は、一つに限定されず、複数の計測器10を用いることも可能である。
【0025】
電気信号生成部102は、機械学習に用いる学習用の電気信号(模擬電気信号)を取得、或いは生成する。電気信号生成部102は、例えば部分放電信号データを有する模擬電気信号を生成する。電気信号生成部102は、例えば図1のφ―q特性図に示すような、部分放電信号を有する模擬電気信号を生成する。また、電気信号生成部102は、部分放電信号を有さない模擬電気信号を生成することも可能である。
【0026】
電気信号生成部102は、データ取得部100を介して、例えば電力機器全体またはその一部を再現した試験装置において、部分放電が発生する要因を模擬した模擬電気信号を取得する。また、電気信号生成部102は、部分放電信号データを有するデータに、疑似部分放電信号データを加えて生成することも可能である。これらのデータは、発生要因と関連付けて、記憶部116に記憶される。
【0027】
また、電気信号生成部102は、模擬電気信号の生成方法として、シミュレーションを用いてもよい。或いは、電気信号生成部102は、試験装置で取得した模擬電気信号とシミュレーションで生成したデータを組み合わせてもよい。このようにすれば、各要因における部分放電信号に関してデータ量を増加させることができ、機械学習による判定精度をより上げることができる。電気信号生成部102が生成する模擬電気信号は、データ取得部100で取得される電気信号と同様に、位相(時間)に対する電荷量、電圧、電流などを示す信号である。
【0028】
特徴量抽出部104は、電気信号生成部102により生成された模擬電気信号から、部分放電信号の発生要因ごとに部分放電信号の発生を示す特徴を抽出する。特徴量抽出部104は、例えば、電気信号の大きさ、周波数などから部分放電信号の発生を示す特徴を抽出し、例えば部分放電信号の位相範囲、周波数範囲、大きさ範囲などの部分放電信号が発生する範囲情報を特徴量として生成する。すなわち、この特徴量は、例えば部分放電信号の位相範囲、周波数範囲、大きさ範囲などの部分放電信号が発生する範囲情報を意味する。なお、模擬電気信号を用いることで疑似部分放電信号などのノイズの影響が少なく、発生要因ごとに部分放電信号に関する特徴量を効果的に抽出することができる。なお、特徴量抽出部104の詳細は、後述する。
【0029】
データ処理部106は、データ取得部100により取得された電気信号、及び電気信号生成部102が生成した模擬電気信号に対して前処理を実行する。また、データ処理部106は、特徴量抽出部104が生成した部分放電信号に関する情報に基づいて疑似部分放電信号の抑制処理を実行する。例えば、データ処理部106は、部分放電信号が存在しない可能性が高い範囲の電気信号を抑制することが可能である。本実施形態に係る抑制には削除も含まれる。なお、データ処理部106の詳細も、後述する。
【0030】
画像生成部108は、データ処理部106の処理後、或いは、データ処理部106の処理前のデータを用いて所定形式のデータを生成することが可能である。例えば、画像生成部108は、所定形式のデータを二次元配列の数値を有する画像データとして生成する。このように、データ処理部106、及び画像生成部108を有する処理部105は、位相に応じて変動する電気信号における疑似部分放電信号を抑制した所定形式のデータを生成処理する。
【0031】
より具体的には、画像生成部108は、画像をグレースケール画像、或いは、カラー画像で生成可能である。なお、本実施形態では、機械学習、或いは判定処理で用いるデータを、二次元の行列状に配置する場合があるが、これに限定されない。このような、二次元の行列状に配置した学習用データ、判定用データを画像データと称する場合がある。すなわち、このような二次元の行列状にデータを配置した画像化可能な学習用データ、判定用データを画像データと称する場合がある。このような画像データを表示装置20に表示させることにより、学習用データ、判定用データの特徴を目視により、把握可能となる。
【0032】
学習モデル生成部110は、データ処理部106の処理後のデータを学習データとして、学習モデル(判別器)を生成する。また、学習モデル生成部110は、画像生成部108が生成した二次元の行列状に配置した画像化可能な画像データを学習データとして学習モデルを生成することも可能である。この学習モデル生成部110は、データ処理部106の処理後のデータに教師信号として部分放電の発生要因、部分放電の発生有無などを関連付けて、学習データとする。学習モデル生成部110の機械学習には、ニューラルネットワーク、その他の判別学習アルゴリズムを用いることが可能であり、その学習アルゴリズムは限定されない。このように、学習モデル生成部110は、処理部105が生成したデータに、部分放電の要因、及び部分放電の有無の少なくともいずれかをなどを関連付けた学習データを用いて、学習モデルを生成する。
【0033】
部分放電判定部112は、例えばデータ処理部106の処理結果に対して、学習モデル生成部110が生成した学習モデルを用いて、診断対象となる電気信号(判定用データ)における部分放電信号の有無やその要因を判定する。表示制御部114は、画像生成部108が生成した二次元データを表示装置20に表示させることが可能である。
【0034】
記憶部116は、例えばHDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)等で構成される。この記憶部116は、部分放電診断処理装置40で使用される各種のデータ、及びプログラムなどを記憶する。例えば、記憶部116は、データ取得部100が取得したデータ、学習用データ、判定用データ、学習済の学習モデルなどに関するデータを記憶する。
【0035】
ここで、データ処理部106の詳細を説明する。図5は、データ処理部106の構成例を示すブロック図である。この図5に示すように、データ処理部106は、演算部200と、スケール調整部202と、データ拡張部204と、閾値処理部206と、フィルタリング部208とを有する。演算部200は、データ取得部100により取得された電気信号、及び電気信号生成部102が生成した模擬電気信号に対して、統計処理、高速フーリエ変換、ウェーブレット変換、線形変換、対数変換などの非線形変換、規格化、正規化、正準化、平均化などの演算処理を実行する。或いは、演算部200は、これらの処理のなかの単体、或いは複数の処理を組み合わせた演算処理を実行することが可能である。
【0036】
また、演算部200は、演算処理結果として、例えば、φ―q特性図、φ―q―n特性図、スペクトログラム、及びスカログラムを出力することが可能である。ここで、図6、及び図7を用いて、演算部200によるφ―q―n特性図の生成例を説明する。
【0037】
図6は、演算部200によるφ―q特性図の生成方法例を示す図である。図6(a)は、データ取得部100が取得した時系列な電気信号である。縦軸は電荷量であり、横軸は印加電圧の1周期区間における位相0度から360度までの位相(時間)である。図6(b)は、1周期区間を複数の区間に区分けし、図6(a)のデータを区間毎の離散値にした図である。なお、時系列データは、1周期分でもよいし、多周期分でもよい。すなわち、時系列データの重畳回数は、任意の回数に設定可能である。演算部200は、このように印加電圧の位相に対する電荷量をプロットしたφ―q特性図を生成することが可能である。
【0038】
図7は、演算部200によるφ―q―n特性図の生成方法例を示す図である。縦軸は電荷量であり、横軸は印加電圧の1周期区間における位相0度から360度までの位相(時間)である。φ―q―n特性図は、図6のφ―q特性図において、縦軸の電荷量および横軸の位相に対して任意の区間N10に区切り、その区間N10に対して発生した電荷の出現回数を累積加算して出現頻度A~Fなどとして2次元ヒストグラムで表現したものである。電荷の出現回数の累積は、1周期分の電気信号に対して実施してもよいし、多周期分の電気信号に対して実施してもよい。
【0039】
ここで、図8、及び図9を用いて、演算部200によるスペクトログラムの生成例を説明する。図8は、電気信号の時系列データを任意の時間区間に対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transformation)を実行する例を示す図である。図8(a)は、電気信号の時系列データを周波数に対するスペクトルへの変換例を示す図である。縦軸は電荷量であり、横軸は印加電圧の1周期区間における位相0度から360度までの位相(時間)である。図8(b)は、1区間TSnにおけるスペクトルを示す図である。縦軸はスペクトルであり、横軸は周波数である。
【0040】
図8(a)に示すように、演算部200は、位相の範囲を、時間区分TS1~TSnにn分割する。nは、任意の数に設定可能である。演算部200は、位相に対応する間区分TS1~TSn毎に、電気信号の時系列データに対して高速フーリエ変換を実行する。つまり、図8(b)の電荷量に対応するスペクトルは、1区間における電気信号の時系列データに対しての高速フーリエ変換による周波数毎の成分値を示す。
【0041】
図9は、演算部200によるスペクトログラムの生成例を示す図である。図9(a)は、図8(b)に対応する位相に対応する間区分TS1~TSn毎のスペクトル図を模式的に示す図である。図9(b)は、図9(a)の位相を複数区分に分け、区分S10ごとのスペクトルの値を2次元ヒストグラムで表現したものである。横軸は、位相であり、縦軸は、周波数である。各区画内の数値a~fは、区分S10ごとのスペクトルの値である。このように、スペクトログラムは、電気信号の時系列データを任意の時間区間に対して高速フーリエ変換を実施し、周波数を縦軸、印加電圧に対する位相を横軸、電荷量に対応するスペクトルを2次元行列で表現したものである。
【0042】
演算部200によるスカログラムの生成では、電気信号の時系列データに対して、高速フーリエ変換の替わりに、ウェーブレット変換を実施する。すなわち、ウェーブレット変換の実施結果による周波数成分の発生頻度を2次元ヒストグラムで表現したものである。このように、スカログラムは、電気信号の時系列データを任意の時間区間に対してウェーブレット変換を実施し、周波数を縦軸、印加電圧に対する位相を横軸、電荷量に対応する周波数成分を2次元行列で表現したものである。
【0043】
スケール調整部202は、演算処理結果として、電気信号の時系列データのスケール変換を実行することが可能である。図10は、電気信号の時系列データに対する規格化の例を示す図である。横軸は、位相に対応する時間であり、縦軸は電荷量である。図10(a)、(c)は、規格化前のデータであり、図10(b)、(d)は、規格化のデータである。
【0044】
図10に示すように、スケール調整部202は、任意の時間範囲に測定された基準値が、所定値になるように、電気信号の時系列データの値を変換する。例えば、所定値を1とする。このような、スケール調整部202による規格化処理により、データ取得部により取得される実機の電気信号の信号強度と、電気信号生成部102において生成される模擬電気信号との、スケール(信号強度の範囲)が異なる場合にも、統一化が可能となる。このようにすれば、最大値及び最小値が決まっていない場合や、統計的に突発的に発生する外れ値が存在する場合の影響を抑制することができる。これにより、電気信号生成部102において生成される模擬電気信号と、実機で取得される電気信号の信号強度が異なる場合においても、学習モデルによる判定精度の低下を防ぐことができる。
【0045】
なお、規格化の基準値は、任意の値を用いてもよい。例えば、印加電圧の1周期における最大値や、複数周期における最大値を基準値とすることにより、スケール化がより安定する。なお、図10では例として時系列データの電荷量に対して規格化を行っているがこれに限定されない。スケール調整部202は、別のデータに対して規格化実施してもよい。また、スケール調整部202は、規格化の代わりに、最小値と最大値の範囲が所定の範囲になる正規化を用いてもよい。
【0046】
スケール調整部202は、φ―q―n特性図、スペクトログラム、スカログラムの二次元行列データに対して、スケール変換を実行することも可能である。スケール調整部202は、スケール変換として、線形変換、対数変換、シグモイド変換、二値化、規格化、正規化、正準化などを実行することが可能である。
【0047】
図11はφ―q―n特性図の二次元行列に対して、スケール変換として対数変換を実施した例を示す図である。図11(a)は、変換前であり、図11(b)は、変換後である。横軸は、位相であり、縦軸は電荷量である。このように、対数変換を用いてスケール変換すれば、通常の放電波形に対して電荷の出現頻度が少ない部分放電による電気信号を強調することが可能となる。なお、スケール調整部202は、図11の対数変換においては対数の底として10を用いているがこれに限定されない。例えば、スケール調整部202はネイピア数などその他の底を用いてもよい。
【0048】
データ拡張部204は、データの増加処理を実行する。例えば、取得したデータにおいて、部分放電の要因ごとにデータ量に偏りが発生する場合がある。このような場合、学習モデル生成部110は、学習モデル構築の際にデータ量の多い要因を重視して学習する傾向を示すため、頻度が少ない事象に対して判定精度の低下を招くおそれがある。
【0049】
そこで、データ拡張部204は、このようなデータに対してデータの増加処理を実行し、学習データの統計的な偏りを抑制する。これにより、学習モデルの構築に際して、統計的に偏りのない学習データを生成することができ、要因判定精度を向上させることができる。同様に、データ拡張部204は、模擬電気信号に対して増加処理を実施することにより、試験やシミュレーションによってデータを取得する時間や労力を削減することができる。このように、データ拡張部204は、発生要因毎の学習データ数を均一化することが可能である。
【0050】
すなわち、このデータ拡張部204は、データの増加処理方法として、例えば、電気信号生成部が生成した電気信号(模擬電気信号)、模擬器などからデータ取得部を介して取得した電気信号の少なくとも一方に対して、ランダムノイズを付加したり、データのスケールを変換したりする。また、データ拡張部204は、これらのデータを組み合わせるデータの増加処理を行うことも可能である。例えば、データ拡張部204は、生成した電気信号と、取得した電気信号との少なくとも一方に対して、平均化(または加算)を用いた増加処理方法を実行可能である。
【0051】
図12を用いて、より詳細にデータ拡張部204による平均化を用いた増加処理方法について、説明する。図12は、平均化を用いた増加処理方法について説明する図である。図12に示すように、データ拡張部204は、1つの部分放電要因に対する電気信号(模擬電気信号も含めれることが可能である)から50データ分のデータを取得し、その中から8つのデータを抽出する。そして、データ拡張部204は、1抽出した8つのデータの各時間における電荷量に対して平均をとることで、元データと電荷量の異なる電気信号を生成する。このようにすれば、平均をとる組み合わせの数(50C8)だけデータを増加できる。
【0052】
なお、図12では、50データから8つのデータを選ぶ組み合わせを例示したものであり、これに限定されない。例えば、元となるデータの数と抽出するデータの数は任意に設定することができる。例えば、m個のデータからn個を抽出する組み合わせの数(mCn)が最大となるようにnを設定してもよいし、計算コストを考慮してnの数を設定してもよい。また、増加処理を水増し処理と称する場合がある。
【0053】
さらにまた、増加したmCn個のデータからさらにデータをランダムに抽出してもよい。このようにすれば、各部分放電要因ごとのデータ数を均一化することが可能となる。これにより、学習データとして用いる場合に、データ数の均一化を維持した状態で、学習に要する時間を調整することができる。
【0054】
また、増加処理方法として、学習用の電気信号に対して、診断対象となる電力機器から直接的に取得したデータを付加する方法を用いてもよい。特に、診断対象となる電力機器の停止時に取得した電気信号を組み合わせて、データを生成する。電力機器の停止時には、電力機器の発生するランダムノイズが低減されるので、学習データの統計的な偏りを抑制しつつ、ノイズを低減した学習データの生成が可能となる。このようなデータの増加処理は、時系列データだけでなくφ―q―n特性図、スペクトログラム、スカログラムなどの二次元行列データに変換した後に行ってもよい。
【0055】
閾値処理部206は、閾値の設定を実行する。また、閾値処理部206は、閾値を用いた、予備的な判定処理の実行が可能である。例えば、閾値処理部206は、部分放電信号の有無を、最大放電電荷量に対する閾値から判定することができる。より具体的には、閾値処理部206は、閾値を超える放電電荷量の1秒当たりの回数が所定値を超える場合に、部分放電信号有りと判定する。例えば、閾値処理部206が、部分放電信号有りと判定する場合に、機械学習よる学習モデル(判別器)を用いた部分放電要因分類を実施してもよい。このように、部分放電判定部112は、閾値処理部206と、学習モデルとを用いて、部分放電有無、要因判定などを実行することも可能である。
【0056】
フィルタリング部208は、特徴量抽出部104により抽出された部分放電信号に関する情報を用いて、学習処理、或いは判定処理に用いるデータから特徴的な範囲を学習データ、或いは判定データとして、生成する。例えば、フィルタリング部208は、電気信号に対して、バンドパスフィルタなどのフィルタ処理や窓関数、マスキング処理を実行することが可能である。また、フィルタリング部208は、電気信号などの位相の基準点を合わせる調整処理の実行も可能である。
【0057】
ここで、特徴量抽出部104の詳細を説明する。図13は、特徴量抽出部104の構成例を示すブロック図である。図13に示すように、特徴量抽出部104は、周波数範囲選定部302と、位相範囲選定部304と、を有する。
【0058】
周波数範囲選定部302は、例えば電気信号生成部102により生成、或いは取得された電気信号(模擬電気信号を含むことが可能である)に基づき、部分放電信号の周波数に関する特徴を抽出する。この周波数範囲選定部302は、発生要因毎の電気信号を用いて、発生要因毎における部分放電信号の周波数に関する特徴を抽出する。
【0059】
図14は、電気信号に対して高速フーリエ変換により生成した周波数スペクトルの例を示す図である。横軸は、周波数を示し、縦軸はスペクトルを示す。図14(a)は、部分放電ありの模擬電気信号であり、図14(b)は、部分放電なしの電気信号である。
【0060】
図14(a)、(b)を比較すると、部分放電なしの場合の模擬電気信号に比べて、部分放電ありの模擬電気信号のスペクトルの値が大きくなる範囲が存在する。周波数範囲選定部302は、例えば、所定の閾値を超える周波数範囲を特徴として生成する。なお、周波数範囲選定部302は、例えば周波数の範囲をスペクトルの大きさや頻度に応じて自動的に設定する。或いは、周波数範囲選定部302は、人が確認して、操作装置30を介して決定した周波数範囲を特徴として生成してもよい。また、周波数の範囲は1つの領域でもよいし、或いは、複数の領域もよい。さらにまた、高速フーリエ変換は1周期分の電気信号に対して実施してもよいし、多周期分の電気信号に対して実施してもよい。或いは、電気信号を任意の長さに分割した領域に対して高速フーリエ変換を実行してもよい。
【0061】
図15は、複数の部分放電ありの電気信号のスペクトルの値から周波数範囲を設定する例を示す図である。軸は、周波数を示し、縦軸はスペクトルを示す。図15(a)~(c)は、分放電ありの模擬電気信号である。周波数範囲選定部302は、例えば図15に示すように、複数の周波数スペクトルから部分放電信号に特徴的な周波数範囲を選定することも可能である。このとき、周波数範囲選定部302は、各周波数スペクトルで決定した周波数範囲で最も広い範囲を部分放電信号の周波数範囲として選定する。このようにすれば、試験で電気信号の取得中に、単発的に発生したノイズの影響を抑制することができる。
【0062】
このとき、周波数範囲選定部302は、比較対象となる部分放電なしの電気信号として、複数の部分放電なしの電気信号中から代表的なデータを選択してもよい。或いは、周波数範囲選定部302は、比較対象となる部分放電なしの電気信号として、複数の部分放電なしの電気信号の周波数スペクトルに対して平均処理を行ったデータを用いてもよい。
【0063】
図16は、周波数範囲選定部302が二次元ヒストグラムを用いて周波数範囲を選定する例を示す図である。横軸は周波数であり、縦軸は、スペクトルである。各小区画内の数字は区画内の条件を満たすスペクトルの発生頻度である。つまわり、図16は、図15の各データの周波数とスペクトルに対してその出現回数を累積した二次元ヒストグラムである。この、周波数範囲選定部302は、この二次元ヒストグラムを用いて、スペクトルの大きさと出現回数に基づき、周波数範囲を選定する。例えば、周波数範囲選定部302は、スペクトルが所定値を超え、且つ発生頻度も所定値を超える区画の周波数を周波数範囲S20として、選定する。一方で、周波数範囲選定部302は、周波数範囲N20は、発生頻度は所定値を超えるが、スペクトルが所定値を超えないため、選定しないものである。
【0064】
周波数範囲選定部302は、部分放電信号の周波数に関する特徴の抽出は、スペクトログラム、及びスカログラムに対して実施してもよいし、これらを組み合わせてもよい。例えば周波数範囲選定部302は、これらを組み合わせた場合、各二次元データにおいて決定した周波数範囲で最も広い範囲を部分放電信号の周波数範囲として選定する。
【0065】
図17は、周波数範囲選定部302がスペクトログラムを用いて周波数範囲を選定する例を示す図である。図17(a)は、部分放電ありの電気信号を示す図である。横軸は時間であり、縦軸は電気信号を示す。図17(b)は、部分放電ありの電気信号に対するスペクトログラムある。横軸は時間であり、縦軸は周波数を示す。なお、図17では、図面の表示濃度の関係で、濃度が薄くなるほど、スペクトル強度が強いことを示している。
【0066】
図17(b)に示すように、部分放電なしの場合の電気信号に比べて、部分放電ありの電気信号のスペクトル強度が大きくなる周波数範囲が存在する。周波数範囲選定部302は、所定値を超える周波数範囲を部分放電信号の特徴量として抽出することができる。特徴量は、複数のスペクトログラムから決定することも可能である。この場合、周波数範囲選定部302は、各スペクトログラムで決定した周波数範囲で最も広い範囲を部分放電信号の周波数範囲として選定する。スペクトログラムの場合も同様に周波数に関する特徴量を抽出する。
【0067】
このとき、周波数範囲選定部302は、比較対象となる部分放電なしのスペクトログラムとして、複数の部分放電なしのスペクトログラム中から代表的なデータを選択してもよい。或いは、周波数範囲選定部302は、比較対象となる部分放電なしのスペクトログラムとして、複数の部分放電なしのスペクトログラムに対して平均処理を行ったデータを用いてもよい。なお、上述の説明では、電気信号生成部102により生成、或いは取得された電気信号(模擬電気信号を含むことが可能である)に基づき説明しているが、これに限定されず、任意の電気信号を用いて処理が可能である。すなわち、周波数範囲選定部302に用いるデータとして、模擬電気信号、診断対象の電力機器から取得した電気信号などを用いることが可能である。また、操作者は、周波数範囲の選定を、予め任意の範囲に設定することも可能である。
【0068】
位相範囲選定部304は、電気信号生成部102により生成、或いは取得された電気信号(模擬電気信号を含むことが可能である)に基づき、部分放電信号の位相に関する特徴を抽出する。この位相範囲選定部304は、発生要因毎の電気信号を用いて、発生要因毎における部分放電信号の位相範囲に関する特徴を抽出する。
【0069】
図18は、φ―q―n特性図から位相範囲を選定する方法を例示する図である。複数の電気信号に対して、電荷量の出現回数の累積を全周期分で行ったφ―q特性図を示す。図18(a)、(b)、(c)は、異なる模擬電気信号に対するφ―q特性図である。横軸は、位相(時間)であり、縦軸は、電荷量である。
【0070】
図18(a)、(b)、(c)に示すように、位相範囲選定部304は、各部分放電要因のφ―q特性図に対して、部分放電信号が発生している位相範囲を選定し、各部分放電要因の位相範囲の中で、最も広い範囲を部分放電信号の位相範囲として選定する。位相範囲選定部304は、位相範囲を、部分放電信号の大きさや出現回数に応じて自動的に設定可能である。或いは、位相範囲選定部304は、操作者の操作装置30の入力信号に基づき、位相の範囲を決定してもよい。
【0071】
また、位相範囲選定部304は、図18では位相の範囲S30、S32を2つの領域としている。これは、部分放電信号が印加電圧位相の0°~90°、180°~270°の少なくとも1つの範囲付近で発生することが知られていることを考慮しているためであるが、任意の数の領域で設定してもよい。
【0072】
より具体的に、図19を用いて、位相範囲選定部304による部分放電信号の位相範囲の自動設定方法について説明する。図19はφ―q特性図において、電荷量に対する電荷量ヒストグラムの生成例を示す図である。図19(a)は、部分放電信号ありの電気信号に対するφ―q特性図である。横軸は、位相を示し、縦軸は、電荷量を示す。図19(b)は、図19(a)のφ―q特性図の電荷量ヒストグラムである。横軸は電荷量の発生頻度を示し、縦軸は電荷量を示す。
【0073】
図19(b)に示すよう、位相範囲選定部304は、電荷量ヒストグラムにおける度数が最大となる電荷量を中心として、所定範囲を超えるデータを部分放電信号として設定し、部分放電信号が発生している位相範囲を特徴量S40、S42として抽出する。
【0074】
図20は、φ―q特性図におけるデータ点のピーク位置から位相範囲を選定する方法を例示する図である。図20(a)、(b)、(c)は、異なる電気信号に対するφ―q特性図である。横軸は、位相(時間)であり、縦軸は、電荷量である。図20(a)、(b)、(c)では、模擬電気信号のピークを矢印で示している。
【0075】
図20(a)、(b)、(c)に示すように、位相範囲選定部304は、各部分放電要因のφ―q特性図における模擬電気信のピーク位置に基づき、部分放電信号の位相範囲を選定することも可能である。ピークの位置は、電荷量が極大(極小)となるデータ点として選定してもよいし、後述する図22のようにデータを包括処理した結果からビーク位置を選定することも可能である。なお、ピーク位置は、1周期分の信号データに対して実施することも可能である。この場合、位相範囲は、統計的なばらつきを有する範囲として設定される。
【0076】
図21は、疑似部分放電を矢印で示すφ―q特性図である。横軸は、位相(時間)であり、縦軸は、電荷量である。上述のように、位相範囲選定部304が図19を用いて、部分放電信号の位相範囲S34、S36を設定する場合には、例えば、図21のように位相に対して広範囲にわたって疑似部分放電が発生した場合においても、部分放電信号との切り分けが統計的に可能となる。
【0077】
図22は、φ―q特性図上のデータ点を包括処理した例を示す図である。横軸は、位相(時間)であり、縦軸は、電荷量である。位相範囲選定部304は、ピークの位置を、図22のようにデータを包括処理した結果からビーク位置を選定することも可能である。
【0078】
また、位相範囲選定部304は、部分放電信号の位相に関する特徴量の選定方法として、ピーク位置と同様に部分放電信号のデータ点の重心位置から位相範囲を選定することも可能である。
【0079】
さらにまた、位相範囲選定部304は、部分放電信号の位相に関する特徴の抽出は、スペクトログラム、及びスカログラムに対して実施してもよいし、これらを組み合わせてもよい。位相範囲選定部304は、例えば、これらを組み合わせた場合、各二次元データにおいて決定した位相範囲で最も広い範囲を部分放電信号の位相範囲として選定する。
【0080】
図23は、位相範囲選定部304がスペクトログラムを用いて位相範囲を選定する例を示す図である。図23(a)は、部分放電ありの模擬電気信号を示す図である。横軸は時間であり、縦軸は電気信号を示す。図23(b)は、部分放電ありの模擬電気信号に対するスペクトログラムある。横軸は時間であり、縦軸は周波数を示す。なお、図23では、図面の表示濃度の関係で、濃度が薄くなるほど、スペクトル強度が強いことを示している。
【0081】
図23(b)に示すように、部分放電なしの場合の電気信号に比べて、部分放電ありの電気信号のスペクトル強度が大きくなる位相範囲が存在する。位相範囲選定部304は、スペクトル強度が所定値を超える位相範囲S38、S40を部分放電信号の特徴量として抽出することができる。特徴量は、複数のスペクトログラムから決定することも可能である。この場合、周波数範囲選定部302は、各スペクトログラムで決定した周波数範囲で最も広い範囲を部分放電信号の周波数範囲として選定する。スペクトログラムの場合も同様に周波数に関する特徴量を抽出する。
【0082】
このとき、周波数範囲選定部302は、比較対象となる部分放電なしのスペクトログラムとして、複数の部分放電なしのスペクトログラム中から代表的なデータを選択してもよい。或いは、周波数範囲選定部302は、比較対象となる部分放電なしのスペクトログラムとして、複数の部分放電なしのスペクトログラムに対して平均処理を行ったデータを用いてもよい。なお、位相範囲選定部304に用いるデータとして、電気信号生成部102により生成、或いは取得された電気信号(模擬電気信号を含むことが可能である)に基づき説明しているが、これに限定されず、任意の電気信号を用いて処理が可能である。すなわち、周波数範囲選定部302に用いるデータとして、模擬電気信号、診断対象の電力機器から取得した電気信号などを用いることが可能である。また、操作者は、位相範囲の選定を、予め任意の範囲に設定することも可能である。このように、特徴量抽出部104は、部分放電信号の特徴が現れる周波数範囲と位相範囲とを選定することができる。
【0083】
[部分放電診断システムの処理例]
図25乃至図29を参照し、図24を用いて部分放電診断システム1の処理例を説明する。図24は、部分放電診断システム1の処理例を示すフローチャートである。ここでは、診断対象として水車発電機コイルに発生する部分放電信号の要因判定を例に説明する。診断対象となる電気信号として、センサーで計測された電荷量データを用いることとする。なお、診断対象となる電気信号には、常時、電力機器から電気信号を取得する断続的なデータの他に、定期的に測定した断続的なデータも含まれる。以下では、電気信号として電荷量を例に説明するが、これに限定されず、位相に応じて変動する信号を用いることができる。例えば、電気信号、電圧信号のなどの電荷量以外の信号でもよい。
【0084】
[学習モデルの生成プロセス]
先ず、電気信号生成部102は、機械学習に用いる電気信号を生成する。電気信号生成部102は、発電機コイルの絶縁材料に発生する絶縁劣化のパターンに対して、模擬試験を実施し、部分放電要因毎の電気信号を生成する(ステップS100)。部分放電要因となるパターンは、予め、現場機器から取得されている。電気信号生成部102は、例えば、部分放電要因となるパターンをA~Gの7パターンとして模擬し、部分放電要因毎の電気信号を生成する。また、パターンをA~Gの7パターンのうちの一つは、部分放電無しの電気信号を生成する。
【0085】
次に、データ処理部106の演算部200は、生成した電気信号(電荷量信号)に基づき、各1周期分のスペクトログラムを生成する。そして、特徴量抽出部104の周波数範囲選定部302は、各1周期分のスペクトログラムに基づき、部分放電要因毎の周波数範囲を選定し(ステップS102a)、位相範囲選定部304は、位相範囲を選定する(ステップS102b)。
【0086】
次に、データ処理部106のデータ拡張部204は、生成した電荷量信号に対して平均化によるデータの増加処理を実行する(ステップS104)。この場合、部分放電要因となる7パターンの発生頻度が均一化されるように処理される。なお、図12に示すように、測定された時系列データに対して、平均化処理を実施してもよい。このように、部分放電無しの電気信号を含めることにより、部分信号が発生しなかったデータに対しても総合的に判断可能となる。
【0087】
次に、データ処理部106のフィルタリング部208は、増加処理後の各電荷量信号に対して、選定した周波数範囲を、及び位相範囲に基づいてバンドパスフィルタ処理を実行する(ステップS106a)。
【0088】
次に、データ処理部106のスケール調整部202は、バンドパスフィルタ処理後の電荷量信号に対して電荷量の規格化を実行する。この場合、印加電圧1周期分のうち振幅が最大となる値で規格化する(ステップS108)。
【0089】
次に、データ処理部106の演算部200は、規格化後の電荷量信号に基づき、φ―q―n特性図を生成する(ステップS110)。
【0090】
次に、データ処理部106のスケール調整部202は、電荷量信号のφ―q―n特性図において、頻度に対するスケール変換として対数変換を実施する(ステップS112)。
【0091】
次に、画像生成部108は、電荷量信号のφ―q―n特性図を二次元のグレースケール画像に画像化し、φ―q―n特性図画像を生成する(ステップS114a)。図25は、画像生成部108による画像化処理例を示す図である。図25(a)は、電荷量信号のφ―q―n特性図の例を示す図である。図25(b)は、二次元のグレースケール画像に画像化した例を示す図である。表示制御部116は、φ―q―n特性図の二次元グレースケール画像を表示装置20に表示する。これにより、操作者は、φ―q―n特性図の特徴を目視可能となる。
【0092】
続けて、データ処理部106のフィルタリング部208は、電荷量信号のφ―q―n特性図画像に対して、選定した位相範囲に基づき、部分放電信号に特徴的な位相範囲外の位相領域についてマスキングを実行する(ステップS114b)。
【0093】
図26は、フィルタリング部208によるマスキング処理例を示す図である。図26(a)は、二次元のグレースケール画像に画像化し例を示す図である。図26(b)は、二次元のグレースケール画像をマスキングした例を示す図である。なお、図26では、マスキングによりデータを削除しているが、これに限定されない。例えば、フィルタリング部208は、位相範囲外の位相領域のデータ値をより小さくなるように、マスキングする。すなわち、フィルタリング部208は、位相範囲外の位相領域のデータ値を抑制する。
【0094】
次に、学習モデル生成部110は、マスキング後の電荷量信号のφ―q―n特性図画像を学習データとした学習モデルを生成する(ステップS116)。ここでは、φ―q―n特性図画像に部分放電要因となる7パターンA~Gのいずれかが教師信号として、関連付けられている。これにより、この学習モデルは、φ―q―n特性図画像と同等の二次元配列のデータ入力に対して、部分放電要因となる7パターンA~Gのいずれかを出力する。
【0095】
[判定プロセス]
次に、診断対象となる水車発電機コイルから取得した電荷量信号に対して、学習モデルの生成プロセスと同様に、φ―q―n特性図画像を生成し、判定するプロセスについて説明する。
【0096】
データ取得部100は、測定対象である水車発電機コイルに配置された計測器10から時系列な電気信号(電荷量信号)を取得する(ステップS118)。
【0097】
図27は、水車発電機コイルとセンサーの配置例を模式的に示す図である。U相、V相、W相の各導体400まわりには、それぞれセンサー402が配置される。センサー402は、電荷量データを測定する部分放電センサーがある。このセンサーを水車発電機の口出し導体まわりに設置することで、既設のプラントにおいても容易に電荷量データを取得することができる。
【0098】
図27に示すように、U相、V相、W相の口出し導体まわりにセンサーが隣接して設置されている場合がある。例えば図3のφ―q―n特性図のように異相間重畳が発生する。異相間重畳とは、口出し導体に伝播してきた部分放電信号が3つのセンサーに到達するため、目的とする相以外の信号が検出されることである。
【0099】
データ処理部106のフィルタリング部208は、水車発電機コイルから取得した電荷量信号に対して、各相の印加電圧の基点を選定し、位相情報を変更する。このとき、フィルタリング部208は、各電荷量信号の位相が揃うように、位相情報を変更する。
【0100】
図28は、フィルタリング部208による印加電圧の基点調整処理例を示す図である。横軸は時間を示し、縦軸は電荷量を示す。図28(a)、(b)、(c)は、それぞれ、U相、V相、W相の口出し導体まわりのセンサーから取得された電荷量信号である。図28(d)、(e)、(f)は、基点を選定し、位相情報を変更した電荷量信号である。
【0101】
次に、データ処理部106のフィルタリング部208は、基点調整処理後の各電荷量信号に対して、選定した周波数範囲を、及び位相範囲に基づいてバンドパスフィルタ処理を実行する(ステップS106b)。
【0102】
次に、データ処理部106のスケール調整部202は、バンドパスフィルタ処理後の電荷量信号に対して電荷量の規格化を実行する。この場合、印加電圧1周期分のうち振幅が最大となる値で規格化する(ステップS120)。
【0103】
次に、データ処理部106の演算部200は、規格化後の電荷量信号に基づき、φ―q―n特性図を生成する(ステップS122)。
【0104】
次に、データ処理部106のスケール調整部202は、電荷量信号のφ―q―n特性図において、頻度に対するスケール変換として対数変換を実施する(ステップS1124)。
【0105】
次に、画像生成部108は、基点調整処理後の電荷量信号のφ―q―n特性図を二次元のグレースケール画像に画像化し、φ―q―n特性図画像を生成する(ステップS114c)。
【0106】
続けて、データ処理部106のフィルタリング部208は、基点調整処理後の電荷量信号のφ―q―n特性図画像に対して、選定した位相範囲に基づき、部分放電信号に特徴的な位相範囲外の位相領域についてマスキングを実行する(ステップS114d)。
【0107】
図29は、フィルタリング部208によるマスキング処理例を示す図である。図29(a)は、基点調整処理後の電荷量信号のφ―q―n特性図を次元のグレースケール画像に画像化し例を示す図である。図29(b)は、二次元のグレースケール画像をマスキンした例を示す図である。なお、図29では、マスキングによりデータを削除しているが、これに限定されない。例えば、フィルタリング部208は、特徴量である位相範囲位の部分放電信号S44、S48を残し、位相範囲外の位相領域の電荷量信号S42、S46のデータ値をより小さくなるように、マスキングする。すなわち、フィルタリング部208は、位相範囲外の位相領域のデータ値を抑制する。
【0108】
次に、部分放電判定部112は、学習後の学習モデルを用いて、マスキング後の電荷量信号のφ―q―n特性図画像を判別用データとした判別処理を実行する(ステップS116)。部分放電判定部112は、部分放電要因となる7パターンA~Gのいずれかを判別結果として出力する。このように、この部分放電判定部112は、φ―q―n特性図画像と同等の二次元配列のデータ入力に対して、部分放電の有無又は発生要因判定する。
【0109】
以上、説明した実施形態によれば、位相に応じて変動する電気信号における疑似部分放電信号を抑制した所定形式のデータを生成処理し、このデータに基づき、部分放電の要因、及び前記部分放電の有無の少なくともいずれかを判定する学習モデルを生成する。このように、疑似部分放電信号を抑制したデータに基づき、機械学習による学習モデルを生成することにより、電力機器の部分放電要因の判定精度を向上することができる。
【0110】
本発明の実施形態を説明したが、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを実行することができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0111】
1:部分放電診断システム、10:計測器、20:表示装置、40:部分放電診断処理装置、100:データ取得部、102:電気信号生成部、104:特徴量抽出部、105:処理部、106:データ処理部、108:画像生成部、110:学習モデル生成部、112:部分放電判定部、200:演算部、202:スケール調整部、204:データ拡張部、206:閾値処理部、208:フィルタリング部、302:周波数範囲選定部、304:位相範囲選定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
【手続補正書】
【提出日】2025-08-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁物の部分放電の要因判定を実行可能である部分放電診断装置であって、
前記要因毎に、位相に応じて変動する第1電気信号を組み合わせて平均化処理を実行して第2電気信号を生成し、前記第2電気信号の数を前記第1電気信号の数よりも増加させるデータ拡張部と、
前記第2電気信号に基づくφ-q-n特性データを生成処理する演算部と、
前記要因毎の前記φ-q-n特性データに基づき、前記部分放電の要因を判定する学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
を備える、部分放電診断装置。
【請求項2】
前記第2電気信号の大きさを規格化した第3電気信号を生成するスケール調整部を更に備え、
前記演算部は、前記第3電気信号の前記φ-q-n特性データを生成処理し、
前記学習モデル生成部は、前記第3電気信号の前記φ-q-n特性データに基づき、前記部分放電の要因を判定する、請求項1に記載の部分放電診断装置。
【請求項3】
前記データ拡張部で生成された前記第2電気信号から、前記第2電気信号の前記部分放電が発生する範囲情報を特徴量として抽出する特徴量抽出部と、
前記特徴量に基づき、前記第2電気信号のうち、前記範囲情報の範囲外の電気信号を疑似部分放電信号として抑制処理した前記第2電気信号を生成するフィルタリング部と、を更に備え、
前記スケール調整部は、前記抑制処理後の前記第2電気信号の大きさを規格化した前記第3電気信号を生成する、請求項2に記載の部分放電診断装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記φ-q-n特性データを二次元配列の数値を有する画像データとして生成し、
表示装置に前記画像データを表示させる表示制御部を、更に備える、請求項1に記載の部分放電診断装置。
【請求項5】
電力機器、または、その周囲に取り付けたセンサーによって計測された前記第1電気信号を取得するデータ取得部を、更に備える、請求項1に記載の部分放電診断装置。
【請求項6】
前記電力機器は、発電機、電動機、インバータ装置、スイッチギア、及びケーブルの少なくともいずれかであり、
前記第1電気信号は、前記電力機器への印加電圧の位相に対応する電荷量、電流、及び電圧の少なくともいずれかを示す信号である、請求項5に記載の部分放電診断装置。
【請求項7】
前記第1電気信号を生成、及び前記データ取得部を介して取得の少なくともいずれかを実行する電気信号生成部を、更に備える、請求項5に記載の部分放電診断装置。
【請求項8】
前記電気信号生成部は、絶縁劣化状態を模擬した試験データ、或いは、シミュレーション結果の少なくとも1つを用いて前記第1電気信号を生成する、請求項7に記載の部分放電診断装置。
【請求項9】
前記スケール調整部は、前記第1電気信号の信号強度範囲を調整することが可能である、請求項2に記載の部分放電診断装置。
【請求項10】
前記第1電気信号は、電力機器への印加電圧の位相に対応する電荷量を示す信号であり、
前記演算部は、前記位相の範囲と、前記電荷量の範囲をそれぞれ複数の区分に分け、前記電荷量の発生頻度を前記位相の範囲の区分と、前記電荷量の範囲の区分とで示す領域毎に生成し、前記φ-q-n特性データとする、請求項2に記載の部分放電診断装置。
【請求項11】
前記スケール調整部は、前記発生頻度を非線形に変換する、請求項10に記載の部分放電診断装置。
【請求項12】
前記演算部は、判定時に前記データ取得部が取得した前記第1電気信号に基づき、前記φ-q-n特性データを生成し、
前記φ-q-n特性データに基づき、前記学習モデルを用いて前記部分放電の前記要因を判定する部分放電判定部を更に備える、請求項5に記載の部分放電診断装置。
【請求項13】
絶縁物の部分放電の要因判定を実行する部分放電診断方法であって、
前記要因毎に、位相に応じて変動する第1電気信号を組み合わせて平均化処理を実行して第2電気信号を生成し、前記第2電気信号の数を前記第1電気信号の数よりも増加させるデータ拡張工程と、
前記第2電気信号に基づくφ-q-n特性データを生成処理する演算工程と、
前記要因毎の前記φ-q-n特性データに基づき、前記部分放電の要因を判定する学習モデルを生成する学習モデル生成工程と、
を備える、部分放電診断方法。
【請求項14】
絶縁物の部分放電の要因判定を実行する部分放電診断システムであって、
電力機器またはその周囲に取り付けたセンサーによって、位相に応じて変動する第1電気信号を計測する計測器と、
部分放電診断装置と、を備え、
前記部分放電診断装置は、
前記要因毎の前記第1電気信号を組み合わせて平均化処理を実行して第2電気信号を生成し、前記第2電気信号の数を前記第1電気信号の数よりも増加させるデータ拡張部と、
前記第2電気信号のφ-q-n特性データを生成処理する演算部と、
前記要因毎の前記φ-q-n特性データに基づき、前記部分放電の要因を判定する学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
を有する、部分放電診断システム。
【請求項15】
絶縁物の部分放電の要因判定を実行可能である部分放電診断装置であって、
前記要因毎に、位相に応じて変動する第1電気信号を組み合わせて平均化処理を実行して第2電気信号を生成し、前記第2電気信号の数を前記第1電気信号の数よりも増加させるデータ拡張部と、
前記第2電気信号の前記位相、及び前記第2電気信号の特性値毎の頻度を示す特性データを生成処理する演算部と、
前記要因毎の前記特性データに基づき、前記部分放電の要因を判定する学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
を備える、部分放電診断装置。
【請求項16】
絶縁物の部分放電の要因判定を実行可能である部分放電診断装置であって、
前記要因毎に、位相に応じて変動する第1電気信号を組み合わせて平均化処理を実行して第2電気信号を生成し、前記第2電気信号の数を前記第1電気信号の数よりも増加させるデータ拡張部と、
前記第2電気信号の前記位相及び前記第2電気信号の特性値毎の特性データを生成処理する演算部と、
前記要因毎の前記特性データに基づき、前記部分放電の要因を判定する学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
を備える、部分放電診断装置。
【手続補正書】
【提出日】2025-09-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁物の部分放電の要因判定を実行可能である部分放電診断装置であって、
前記部分放電の要因毎にデータ量に偏りがあり、頻度が少ない前記要因において、位相に応じて変動する第1電気信号から所定数の第1電気信号を取得し、組み合わせるために前記取得した第1電気信号から所定数の第1電気信号を抽出し、前記抽出した所定数の第1電気信号の各時間における電荷量、電流、及び電圧のいずれかに対して平均または加算をとり、前記取得した所定数の第1電気信号から前記平均または加算をとる組み合わせの数だけ第1電気信号を増加し、さらに前記増加した第1電気信号から第1電気信号をランダムに抽出する均一化処理を実行して第2電気信号を生成することで、前記第2電気信号の数を前記均一化処理前の第1電気信号の数よりも増加させるデータ拡張部と、
前記第2電気信号の大きさを規格化した第3電気信号を生成するスケール調整部と、
前記第電気信号に基づくφ-q-n特性画像データを生成処理する演算部と、
記φ-q-n特性画像データを学習データとすることで、前記頻度が少ない要因を判定する学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
を備える、部分放電診断装置。
【請求項2】
前記第電気信号から、前記第1電気信号の前記部分放電が発生する位相範囲情報を特徴量として抽出する特徴量抽出部と、
前記特徴量に基づき、前記φ-q-n特性画像データのうち、前記位相範囲情報の範囲外の電気信号を疑似部分放電信号として抑制処理したφ-q-n特性画像データを生成するフィルタリング部と、を更に備え、
前記学習モデル生成部は、前記抑制処理した前記φ-q-n特性画像データを前記学習データとする、請求項に記載の部分放電診断装置。