(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014958
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20250123BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20250123BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250123BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250123BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20250123BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/0565
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117958
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】390039929
【氏名又は名称】三桜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 由宇
(72)【発明者】
【氏名】阪口 芳樹
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AK04
5H029AL04
5H029AM12
5H029AM16
5H029DJ09
5H029HJ01
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA11
5H050CB04
5H050DA09
5H050DA13
5H050EA15
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】負極と正極との間に固体電解質を備えた固体電池においては、室温で充放電反応を起こすことが困難であるという課題がある。そこで、固体電解質を備えた二次電池の室温での充放電を実現する。
【解決手段】固体電解質4と、固体電解質4に接して正極3として用いられる電極とを備えた二次電池10を用いる。ここで、正極3は電解質と添加剤とを含み、前記添加剤は、金属系カウンターカチオンを持つハロゲン化物を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質と、
前記固体電解質に接して正極として用いられる電極と、
を備え、
前記電極は、電解質と添加剤とを含み、
前記添加剤は、金属系カウンターカチオンを持つハロゲン化物を含む、二次電池。
【請求項2】
請求項1記載の二次電池において、
前記電極を構成する材料のうち、前記ハロゲン化物の配合比は、2%以上、30%以下である、二次電池。
【請求項3】
請求項1記載の二次電池において、
前記ハロゲン化物は、塩化リチウム、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムである、二次電池。
【請求項4】
請求項1記載の二次電池において、
前記電極は、バインダーをさらに含む、二次電池。
【請求項5】
請求項1記載の二次電池において、
前記電極は、導電助剤である炭素をさらに含む、二次電池。
【請求項6】
請求項1記載の二次電池において、
塩化リチウムを含み、
前記電極の前記固体電解質側の第1面における塩化リチウムの配合比と、前記二次電池の前記第1面とは反対側の第2面における塩化リチウムの配合比との差は、±2%以下である、二次電池。
【請求項7】
請求項1記載の二次電池において、
塩化リチウムを含み、
前記二次電池の充電または放電を行った後、前記電極の前記固体電解質側の第1面における塩化リチウムの配合比は、前記二次電池の前記第1面とは反対側の第2面における塩化リチウムの配合比よりも小さい、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質を備えた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、充放電が可能な二次電池として、リチウムイオン二次電池の利用が拡大している。その中でも、電解質として固体電解質を用いる固体電池(半固体電池)は、可燃性の電解液の使用量が少ないため安全性が高い。また、固体電池は理論的に高いエネルギー密度を達成できる可能性もあるため、多くの企業などで研究が進められている。
【0003】
特許文献1(特開2004-47416号公報)および特許文献2(特開2016-131081号公報)には、液体である非水電解質に正極および負極が浸された二次電池が記載されている。特許文献1では、リチウム化合物(例えばLiClなど)が正極、非水電解質または負極のいずれかに含まれている。特許文献2では、リチウム塩として正極にLiClが含まれている。
【0004】
特許文献3(国際公開第2019/146236号)には、リチウムを固体電解質に含む固体電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-47416号公報
【特許文献2】特開2016-131081号公報
【特許文献3】国際公開第2019/146236号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体電池においては、高温の条件下では充放電反応を起こすが、室温で充放電反応を起こすことが困難であるという課題がある。本発明の目的は、室温での充放電が可能な二次電池を実現することにある。
【0007】
その他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0009】
一実施の形態である二次電池は、固体電解質と、固体電解質に接して正極として用いられる電極とを備えたものである。前記電極は、電解質と添加剤とを含み、前記添加剤は、金属系カウンターカチオンを持つハロゲン化物を含む。
【発明の効果】
【0010】
室温での充放電が可能な二次電池を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係る二次電池を示す断面図である。
【
図2】比較例である二次電池の電極(正極)を構成する材料の配合比を示す表である。
【
図3】実施の形態に係る二次電池の電極(正極)を構成する材料の配合比を示す表である。
【
図4】比較例である二次電池を用い室温で充放電を行った際の容量と電圧の関係を示すグラフである。
【
図5】実施の形態である二次電池を用い室温で充放電を行った際の容量と電圧の関係を示すグラフである。
【
図6】比較例である二次電池を用い室温で充放電を行った後の活物質濃度勾配などを示す模式図である。
【
図7】実施の形態である二次電池の活物質濃度勾配を示す模式図である。
【
図8】実施の形態である二次電池を用い室温で充放電を行った後の活物質濃度勾配などを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。また、実施の形態を説明する図面においては、構成を分かり易くするために、平面図または斜視図などであってもハッチングを付す場合がある。さらに、実施の形態を説明する図面においては、構成を分かり易くするために、断面図においてハッチングを省略する場合がある。
【0013】
(実施の形態)
インターカレーション反応によるリチウム(Li)イオン二次電池よりも高エネルギー密度化が実現可能な二次電池として、コンバージョン反応によるリチウムイオン二次電池がある。コンバージョン反応によるリチウムイオン二次電池は、ホスト材料が活物質の収容サイトを提供するだけでなく、ホスト材料自身が酸化還元反応にあずかることができる。
【0014】
コンバージョン反応によるリチウムイオン二次電池のうち、液状の電解質(電解液)を用いない全固体電池と、電解液を一部に用い、電解液と正極とを離間させた固体電池(以下、半固体電池と呼ぶ場合がある)とがある。
【0015】
固体電池では、室温での充放電が困難であるという課題ある。本発明者らはその原因を、電解質の固体化により、反応を起こすための塩素イオンの授受が行われ難くなっていることにあると考えた。以下では、当該課題を解決するため、二次電池の正極に添加剤として塩化リチウムを含有させることについて説明する。
【0016】
<二次電池の構造>
図1に、本実施の形態に係る二次電池の断面図を示す。
図1に示すように、固体電池(半固体電池)である二次電池10は、X方向およびY方向に沿うX-Y平面において延在するシート状の部材と一部の液体(電解液)とを積層した構造を有している。二次電池10は、
図1の下から順に積層された集電体1、プライマーコート層2、正極3、固体電解質4、電解液5a、セパレータ6、電解液5b、負極7および集電体8からなる。
【0017】
集電体(集電箔)1、8は、例えばステンレスからなる。集電体1、8のそれぞれは、横方向(X方向またはY方向)に延在する突出部(図示しない)を有しており、これらの突出部が二次電池10と外部とを接続する端子として使用される。プライマーコート層2は、例えば炭素を含む塗布層である。プライマーコート層2は、例えばAu(金)めっき層などであってもよい。正極3は、二次電池10が有する2つの電極のうちの1つであるコンバージョン電極である。コンバージョン電極は、可逆的な分解再生成反応(コンバージョン反応)が電極反応として起こる電極である。正極3の具体的な構成については後述する。固体電解質4は、固体状態のまま、外部から電場をかけることで容易にイオンを移動させることができる物質である。固体電解質4は、例えば酸化リチウムを含むLICGC(登録商標)である。
【0018】
セパレータ6には、電解液5a、5bが浸してある。セパレータ6は、負極7と固体電解質とを離間させる役割を有する。
図1ではセパレータ6に対し固体電解質4および負極7は離間しているが、実際には固体電解質4および負極7はセパレータ6に密着していてもよい。セパレータ6には、高いリチウムイオン伝導性を有する高分子材料(例えばポリエチレン)が用いられる。LICGC(登録商標)は負極7を構成するリチウム金属に還元されるため、電解液5a、5bと共にセパレータ6を使用することで、固体電解質4と負極7との直接の接触を防いでいる。
図1では電解液5a、5bのそれぞれを別々に示しているが、電解液5a、5bはセパレータ6に含浸しているのであって、互いに分離されてはいない。電解液5a、5bは、負極7と固体電解質4との間でリチウムイオンをスムーズに移動させる役割を有する。電解液5a、5bは主に、リチウム塩、有機溶媒、および添加剤で構成されている。負極7は、二次電池10が有する2つの電極のうちの1つである。負極7は、例えばリチウムを含む金属層である。
【0019】
図1に示す積層構造は、その周囲をラミネートフィルム(図示しない)により封止されている。ただし、上述した集電体1、8のそれぞれの一部である突出部はラミネートフィルムの外に露出し、端子として用いられる。当該積層構造と、それを封止するラミネートフィルムとにより、固体電池のセルが構成されている。ラミネートフィルム内において、電解液5a、5bはセパレータ6に染み込んでいるもののみであり、その液量が少ないため、電解液5a、5bが正極3に触れることはない。つまり、本実施の形態の二次電池10は、電解液5a、5bと固体電解質4を有し、電解液5a、5bと正極3とが分離(離間)している半固体電池である。
【0020】
本実施の形態の二次電池の電極である正極3は、活物質、添加剤、電解質およびバインダーを含んでいる。ただし、バインダーは必須の要素ではない。また、正極3は、さらに導電助剤を含んでいてもよい。二次電池10は、固体電解質を備えた固体電池である。この固体電池を含むリチウムイオン二次電池は、化学反応を容量として取り出す化学電池である。この化学反応に関与する物質を活物質と呼ぶ。導電助剤は、二次電池10内での電気の流れを担保する役割を有するものであり、当該化学反応に直接関与するものではない。添加剤は当該化学反応に直接関与するものであり、それにより電極反応を集電体(基板)側から起こさせる役割を有している。
【0021】
電解質は、正極3の全体での化学反応をスムーズに起こすための材料である。すなわち、固体電池の正極3での化学反応は、固体電解質4に触れている面から順に起こり、正極3内のその面以外の箇所では化学反応が起き難いと考えられている。そこで、正極3に電解質を混ぜ込むことで、正極3と電解質との接触点を増やし、正極3の全体での化学反応を起こし易くすることができる。バインダーは、正極3の均質な膜厚を実現するものである。つまり、正極3は半液状のスラリーを乾燥工程により固化させることで形成されるものである。バインダーは、当該スラリーに粘弾性を付与するものであり、スラリーを集電体1上に塗布した際にスラリーが流れることを防ぐ役割を有する。
【0022】
次に、正極3を構成する材料を例示する。活物質は塩化銅(CuCl2)からなる。電解質は、酸化リチウムを含む材料であって、例えばLICGC(登録商標)からなる。添加剤は塩化リチウム(LiCl)からなる。バインダーは、PEO(ポリエチレンオキシド)とウレタンとの混合物からなる。本実施の形態の主な特徴の1つは、添加剤の材料として塩化リチウムを用いていることにある。添加剤の材料は、LiClの他に、NaCl(塩化ナトリウム)またはKCl(塩化カリウム)などの金属系カウンターカチオンを持つハロゲン化物を使用可能である。カチオンとは電荷が+(プラス)であるイオンであり、アニオンとは電荷が-(マイナス)であるイオンである。電離した物質において陰イオン(例えばCl-イオン)から見た、もう一方の異符号のイオン(例えばLi+イオン)のことをカウンターカチオンと呼ぶ。
【0023】
<二次電池の作製手順>
次に、二次電池(固体電池)のセルの作製手順について説明する。ここでは、製造工程中の二次電池を積層体と呼ぶ場合がある。まず、正極を形成するための材料を混合したスラリーを用意する。スラリーは、上述した活物質(例えば塩化銅)、導電助剤(例えば酸化リチウム含有物)、添加剤(塩化リチウム)およびバインダー(PEO/ウレタン)を混合したものである。これらの材料は液状であり、バインダーを含むスラリーは半液状となる。
【0024】
次に、主にステンレスからなり上面がプライマーコート層2により覆われた集電体1の上に上記スラリーを塗布する。次に、当該スラリー上に、板状の固体電解質4を貼り付ける。次に、集電体1上にスラリーを介して固体電解質4が配置されたものを、真空引きされた乾燥装置内に載置し、ヒータにより加熱して真空乾燥させる。これによりスラリーは固化し、正極3が形成される。次に、乾燥装置内から取り出された積層体の上面、つまり固体電解質4の上面の上に、電解液5a、5bが注入されたセパレータ6、負極7および集電体8を順に重ねる。このようにして形成した積層体からなる二次電池10を、ラミネートフィルムにより封止する。以上により、本実施の形態の二次電池(固体電池、半固体電池)が略完成する。
【0025】
<本実施の形態の効果>
比較例の半固体電池(二次電池)において、正極を構成する添加剤として塩化リチウムを用いず、例えば正極を構成する導電助剤として炭素からなるアセチレンブラック(カーボンブラック)を用いることが考えられる。このような電解液を介さない半固体電池または全固体電池の場合、正極と負極との間で電解液を介して電気を取り出す二次電池(液系電池)に比べて反応効率が著しく低下し、低温(室温以下、25℃以下)の充放電を起こすことが非常に厳しくなる。
【0026】
すなわち、液系電池で使用されている材料および構造などを全固体電池または半固体電池にそのまま代替しても、同じ性能を容易に得られるわけではない。これは、固体電池の場合、反応に寄与する部分に電解液が含まれておらず、リチウムイオンの拡散が液系電池と比較して容易に起こらないためである。また、多段階反応を用いたコンバージョン反応の場合、リチウムイオン、塩素イオンおよび銅イオンの3種類の拡散および再度のイオン同士の出会いを繰り返さなければ、放電後の再充電を起こすことができなくなる。
【0027】
固体電池において室温での充放電反応を起こすことが困難である理由の1つとして、本発明者らは、正極における塩素イオンの授受が行われ難いことが挙げられると考えた。以下に、正極において充放電時に起こる化学反応の反応式(1)、(2)を示す。
【0028】
CuCl2+Li++e-←→CuCl+LiCl(3.41V vs. Li+/Li)・・・(1)
CuCl+Li++e-←→Cu+LiCl(2.74V vs. Li+/Li)・・・(2)
すなわち、放電時においては、反応式(1)のCuCl2+Li++e-→CuCl+LiClの反応が起き、その後、反応式(2)のCuCl+Li++e-→Cu+LiClが起こる。このようにして、CuCl2はLi+によりCuまで還元される。また、充電時には逆の反応が起こる。すなわち、充電時には、反応式(2)のCu+LiCl→CuCl+Li++e-の反応が起き、その後、反応式(1)のCuCl+LiCl→CuCl2+Li++e-が起こる。このようにして、CuはLiClによりCuCl2まで還元される。この酸化還元反応により、固体電池は二次電池として機能する。
【0029】
比較例の固体電池では、正極の全体のうち、固体電解質と接する最表面から順番に反応を起こす表面反応が起こり、反応を終えた活物質(生成物)が固体電解質側の当該最表面近傍に集中していることで、イオン伝導経路におけるイオンの移動を阻害していると考えられる。ここでいう反応を終えた活物質(生成物)とは、反応式(1)において生じるLiCl(
図1の反応式(1)の右辺参照)である。
【0030】
そこで、本発明者らは、上記比較例の二次電池とは異なり、正極を構成する添加剤としてLiCl(塩化リチウム)を用いることを考えた。ここで、
図2に比較例の二次電池の正極を構成する材料の配合比を示し、
図3に本実施の形態の二次電池の正極を構成する材料の配合比を示す。
図2に示すように、比較例では正極を構成する導電助剤としてアセチレンブラックを配合しており、本実施の形態では正極を構成する添加剤として塩化リチウムを配合している。各材料の配合比(単位:重量パーセント)は、
図2および
図3に示す通りである。
【0031】
本実施の形態の添加剤である塩化リチウムの正極内における配合比(重量比)は、2%以上、30%以下が好ましい。これは、塩化リチウムの配合比が2%未満である場合、添加剤として塩化リチウムを用いることによる二次電池の充放電時の容量が十分に得られず、当該配合比が30%より大きいと、活物質および電解質の配合比が小さくなり、充放電反応が阻害されるためである。ここでは、例として塩化リチウムの正極内における配合比は12.54%である。塩化リチウムの正極内における配合比は上記数値範囲内に収まっていれば、導電助剤として他の材料(例えばアセチレンブラック)が配合されていてもよい。
【0032】
発明者らが、
図2に示す配合比を有する正極を備えた比較例の二次電池を用いて充放電試験を行った結果、
図4のグラフに示す特性が得られた。
図4および後述する
図5に示すグラフにおいて、横軸は二次電池の容量を示し、縦軸は二次電池の電圧を示している。また、
図4および
図5では、放電時のグラフを実線で示し、充電時のグラフを破線で示している。この充放電は、環境温度は室温とし、カットオフ電圧は3.6V以上、2.2V以下とし、充放電レートを0.05Cとする条件で行われた1サイクル目の充放電である。
【0033】
図4に示すように、比較例の二次電池ではいずれの電圧において容量が非常に小さい。
図4では確認しづらいが、グラフは容量が0mAh/gの近傍において、電圧2.2~3.6Vの間で縦方向に延びている。なお、比較例の二次電池であっても、高温の状況では大きい容量を示す。しかし、常温において容量が非常に小さい電池は、二次電池として使用することが困難である。これに対し、本実施の形態の二次電池では、常温の環境であっても大きな容量が得られ、二次電池としての使用が可能である。
【0034】
このように比較例と本実施の形態とで二次電池の性能に差が生じる理由についての本発明者らの考察を、以下に
図6~
図8を用いて説明する。
図6~
図8では、二次電池の正極の模式図を示し、LiCl(塩化リチウム)濃度が高い箇所を濃い色(高い密度のドット)で示している。
【0035】
図6に示すように、導電助剤としてアセチレンブラックを用い、添加剤である塩化リチウムを添加されていない比較例の二次電池の正極3aでは、固体電解質4(
図1参照)側の表面から化学反応が順に起こり、当該表面側に反応を終えた活物質(生成物)である塩化リチウムが高い濃度で集まっている。その結果、当該表面側ではイオン伝導度が低くなり、塩素イオンの授受を速やかに行うことができなくなっている。
【0036】
これに対し、
図7に示すように、本実施の形態の正極3では、添加剤として塩化リチウムを含有している。このため、正極3の全体に塩化リチウムがほぼ均一に分布している。言い換えれば、正極3の固体電解質4側の表面における塩化リチウムの配合比と、当該表面とは反対側の表面における塩化リチウムの配合比との差は、±2%以下である。
【0037】
その結果、正極3は、その全体にCl-イオンが過剰に添加された状態となっている。このように、活物質の周りにCl-イオンが過剰に存在するという状況を作ることで、化学反応は集電体1側の表面から順に起こる。つまり、MClが触媒(M=Li(リチウム)、Na(ナトリウム)またはK(カリウム)などの金属系カチオン触媒)のようにCl-イオンを脱離し、これにより集電体1側から充放電を素早く行うことができる。
【0038】
図8に示すように、瞬間的な反応後の活物質(LiCl)の濃度勾配は、固体電解質4側から集電体1(
図1参照)側に向かって徐々に高くなっている。言い換えれば、二次電池の充電または放電を行った後、二次電池の正極3の固体電解質4側の表面における塩化リチウムの配合比は、当該表面とは反対側の表面における塩化リチウムの配合比よりも小さい。
【0039】
このため、固体電解質4側に活物質が集中して発生することを防げる。すなわち、反応後の正極3内の固体電解質4側は活物質の濃度が低いため、イオン伝導度が高くなる。よって、固体電解質4の近傍で塩素イオンの授受を速やかに行うことができる。これにより、室温での充放電が可能となると考えられる。
【0040】
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0041】
例えば、上記実施の形態では半固体電池を例に説明したが、本実施の形態は全固体電池の正極にも適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 集電体
2 プライマーコート層
3、3a 正極
4 固体電解質
5a、5b 電解液
6 セパレータ
7 負極
8 集電体
10 二次電池