(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025149689
(43)【公開日】2025-10-08
(54)【発明の名称】コバルト被覆ニッケル含有水酸化物及びコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20251001BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20251001BHJP
H01M 4/32 20060101ALI20251001BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/48
H01M4/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024050492
(22)【出願日】2024-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】石田 大晃
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AB04
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA14
5H050CA03
5H050CB16
5H050DA09
5H050EA12
5H050FA18
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】正極作製時における塗工ムラを低減して電池抵抗の増加を防止でき、また、体積抵抗率が低減されたコバルト被覆ニッケル含有水酸化物及び前記コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法を提供する。
【解決手段】ニッケル含有水酸化物にオキシ水酸化コバルトを含む被覆層が形成されたコバルト被覆ニッケル含有水酸化物であって、累積体積百分率が50体積%の粒子径(D50)以上の平均円形度が、0.900以上0.990以下の範囲である、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル含有水酸化物にオキシ水酸化コバルトを含む被覆層が形成されたコバルト被覆ニッケル含有水酸化物であって、 累積体積百分率が50体積%の粒子径(D50)以上の平均円形度が、0.900以上0.990以下の範囲である、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
【請求項2】
累積体積百分率が50体積%の粒子径(D50)が、8.5μm以上14.5μm以下である請求項1に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
【請求項3】
体積抵抗率が、4.0Ω・cm以下である請求項1または2に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
【請求項4】
前記ニッケル含有水酸化物が、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)及び亜鉛(Zn)からなる群から選択される1種以上の添加金属元素Mと、を含む請求項1または2に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
【請求項5】
ニッケル(Ni):添加金属元素Mのモル比が、100-m:m(0.00≦m≦20.0を意味する。)である請求項4に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
【請求項6】
前記コバルト被覆ニッケル含有水酸化物が、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)、またはニッケル(Ni)とコバルト(Co)と亜鉛(Zn)を含み、ニッケル(Ni):コバルト(Co):亜鉛(Zn)のモル比が、100-x-y:x:y(0.00<x≦10.0、0.00≦y≦10.0を意味する。)である請求項1または2に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
【請求項7】
BET比表面積が、10.0m2/g以上25.0m2/g以下である請求項1または2に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
【請求項8】
タップ密度が、1.5g/cm3以上2.4g/cm3以下である請求項1または2に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
【請求項9】
ニッケル水素二次電池の正極活物質用である請求項1または2に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
【請求項10】
請求項1または2に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物と金属集電体を有する正極。
【請求項11】
請求項10に記載の正極を備えたニッケル水素二次電池。
【請求項12】
ニッケルを含む金属塩溶液と、アルカリ溶液と、錯化剤と、を反応槽内に添加して、晶析反応により、ニッケル含有水酸化物を調製する、ニッケル含有水酸化物調製工程と、
前記ニッケル含有水酸化物と、コバルト塩溶液と、アルカリ溶液と、錯化剤と、を反応槽内に添加して、晶析反応により、ニッケル含有水酸化物粒子の表面に、価数が2価のコバルトを含む被覆層を形成する、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物調製工程と、
加熱条件下、前記コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物にアルカリ溶液を添加し、前記被覆層の2価のコバルトを化学酸化する酸化工程と、
を含む、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法であり、
前記コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物に前記アルカリ溶液を添加して得られたアルカリ溶液含有材料の、前記アルカリ溶液の添加開始0秒における温度(℃)、及び前記アルカリ溶液含有材料の、前記アルカリ溶液の添加開始後280秒までの温度(℃)を前記アルカリ溶液の添加開始から20秒ごとに測定し、[アルカリ溶液含有材料の温度(℃)×20(秒)]/60で表される20秒ごとの計算値A(℃×min)の、前記アルカリ溶液の添加開始0秒から300秒までの合計が、350以上420以下であるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法。
【請求項13】
前記酸化工程が、反応槽内で行われ、前記反応槽内の気相を加熱されたガスで置換する請求項12に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法。
【請求項14】
前記酸化工程が、反応槽内で行われ、前記反応槽内にて前記アルカリ溶液含有材料を乾燥させる請求項12または13に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、累積体積百分率が50体積%の粒子径(D50)以上の平均円形度が所定の範囲に制御されていることで、二次電池の正極作製時に正極活物質であるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラを低減して電池抵抗の増加が防止され、また、体積抵抗率が低減されたコバルト被覆ニッケル含有水酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機器の高機能化等に伴い、ニッケル水素二次電池等の二次電池の電池特性向上の要求がますます高まっている。そこで、二次電池の正極活物質用のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物において、電池特性を向上させるために、コバルトの含有量を高めたニッケル含有水酸化物が開発されている。
【0003】
また、コバルトの含有量を高めるために、水酸化ニッケル粒子にコバルト化合物の被覆層を形成することも行われている。コバルト化合物の被覆層を形成した水酸化ニッケル粒子として、例えば、該被覆層の均一性と密着性を確保するために、水酸化ニッケル粉末の粒子表面をオキシ水酸化コバルト若しくはオキシ水酸化コバルトと水酸化コバルトの混合物を主成分とするコバルト化合物で被覆したアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末であって、前記被覆中のコバルトの価数が2.5以上であり、前記被覆水酸化ニッケル粉末20gを密閉容器中で1時間振盪したときの被覆の剥離量が、全被覆量の20質量%以下であることを特徴とするアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末が提案されている(特許文献1)。
【0004】
一方で、正極作製時に正極活物質であるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラが発生すると電池抵抗が増加する場合があることから、電池特性を向上させるためには、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラを低減させることが要求される場合がある。また、電池特性を向上させるためには、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の体積抵抗率のさらなる低減が要求される場合がある。
【0005】
しかし、特許文献1のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末では、正極作製時にアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末の塗工ムラを低減させる点及び体積抵抗率のさらなる低減の点で、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、累積体積百分率が50体積%の粒子径(D50)以上の平均円形度が所定の範囲に制御されていることで、正極作製時における塗工ムラを低減して電池抵抗の増加を防止でき、また、体積抵抗率が低減されたコバルト被覆ニッケル含有水酸化物及び前記コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]ニッケル含有水酸化物にオキシ水酸化コバルトを含む被覆層が形成されたコバルト被覆ニッケル含有水酸化物であって、
累積体積百分率が50体積%の粒子径(D50)以上の平均円形度が、0.900以上0.990以下の範囲である、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
[2]累積体積百分率が50体積%の粒子径(D50)が、8.5μm以上14.5μm以下である[1]に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
[3]体積抵抗率が、4.0Ω・cm以下である[1]または[2]に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
[4]前記ニッケル含有水酸化物が、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)及び亜鉛(Zn)からなる群から選択される1種以上の添加金属元素Mと、を含む[1]~[3]のいずれか1つに記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
[5]ニッケル(Ni):添加金属元素Mのモル比が、100-m:m(0.00≦m≦20.0を意味する。)である[4]に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
[6]前記コバルト被覆ニッケル含有水酸化物が、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)、またはニッケル(Ni)とコバルト(Co)と亜鉛(Zn)を含み、ニッケル(Ni):コバルト(Co):亜鉛(Zn)のモル比が、100-x-y:x:y(0.00<x≦10.0、0.00≦y≦10.0を意味する。)である[1]~[5]のいずれか1つに記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
[7]BET比表面積が、10.0m2/g以上25.0m2/g以下である[1]~[6]のいずれか1つに記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
[8]タップ密度が、1.5g/cm3以上2.4g/cm3以下である[1]~[7]のいずれか1つに記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
[9]ニッケル水素二次電池の正極活物質用である[1]~[8]のいずれか1つに記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物。
[10][1]~[9]のいずれか1つに記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物と金属集電体を有する正極。
[11][10]に記載の正極を備えたニッケル水素二次電池。
[12]ニッケルを含む金属塩溶液と、アルカリ溶液と、錯化剤と、を反応槽内に添加して、晶析反応により、ニッケル含有水酸化物を調製する、ニッケル含有水酸化物調製工程と、前記ニッケル含有水酸化物と、コバルト塩溶液と、アルカリ溶液と、錯化剤と、を反応槽内に添加して、晶析反応により、ニッケル含有水酸化物粒子の表面に、価数が2価のコバルトを含む被覆層を形成する、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物調製工程と、
加熱条件下、前記コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物にアルカリ溶液を添加し、前記被覆層の2価のコバルトを化学酸化する酸化工程と、
を含む、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法であり、
前記コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物に前記アルカリ溶液を添加して得られたアルカリ溶液含有材料の、前記アルカリ溶液の添加開始0秒における温度(℃)、及び前記アルカリ溶液含有材料の、前記アルカリ溶液の添加開始後280秒までの温度(℃)を前記アルカリ溶液の添加開始から20秒ごとに測定し、[アルカリ溶液含有材料の温度(℃)×20(秒)]/60で表される20秒ごとの計算値A(℃×min)の、前記アルカリ溶液の添加開始0秒から300秒までの合計が、350以上420以下であるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法。
[13]前記酸化工程が、反応槽内で行われ、前記反応槽内の気相を加熱されたガスで置換する[12]に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法。
[14]前記酸化工程が、反応槽内で行われ、前記反応槽内にて前記アルカリ溶液含有材料を乾燥させる[12]または[13]に記載のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法。
【0009】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物は、ニッケル含有水酸化物が被覆層を有し、該被覆層がコバルト化合物を含んでいる。
【0010】
上記[1]の態様において、「平均円形度」とは、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子について、それぞれ、静的自動画像分析装置により円形度を測定し、測定したコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粉末の円形度の平均値を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物によれば、累積体積百分率が50体積%の粒子径(D50)以上の平均円形度が、0.900以上0.990以下の範囲であることにより、正極作製時におけるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラを低減して電池抵抗の増加を防止でき、また、体積抵抗率が低減されたコバルト被覆ニッケル含有水酸化物を得ることができる。
【0012】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物によれば、体積抵抗率が、4.0Ω・cm以下であることにより、電気伝導性がより向上して、さらに優れた電池特性を得ることができる。
【0013】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物によれば、前記コバルト被覆ニッケル含有水酸化物が、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)、またはニッケル(Ni)とコバルト(Co)と亜鉛(Zn)を含み、ニッケル(Ni):コバルト(Co):亜鉛(Zn)のモル比が、100-x-y:x:y(0.00<x≦10.0、0.00≦y≦10.0を意味する。)であることにより、高い利用率と優れた充放電特性を得られ、また、さらに優れた電気伝導性を得ることができる。
【0014】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法によれば、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物にアルカリ溶液を添加して得られたアルカリ溶液含有材料の、前記アルカリ溶液の添加開始0秒における温度(℃)、及び前記アルカリ溶液含有材料の、前記アルカリ溶液の添加開始後280秒までの温度(℃)を前記アルカリ溶液の添加開始から20秒ごとに測定し、[アルカリ溶液含有材料の温度(℃)×20(秒)]/60で表される20秒ごとの計算値A(℃×min)の、前記アルカリ溶液の添加開始0秒から300秒までの合計が、350以上420以下であることにより、正極作製時におけるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラを低減できることで電池抵抗の増加を防止でき、また、体積抵抗率が低減されたコバルト被覆ニッケル含有水酸化物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物について、詳細を説明する。本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物は、ニッケル含有水酸化物粒子の表面に、コバルト化合物の被覆層が形成されている。すなわち、ニッケル含有水酸化物粒子がコア粒子となっており、該コア粒子は、コバルト化合物の層、例えば、主に、コバルトの価数が3価であるコバルト化合物の層によって被覆されている。コバルトの価数が3価であるコバルト化合物としては、オキシ水酸化コバルトを挙げることができる。上記から、本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物は、ニッケル含有水酸化物粒子にオキシ水酸化コバルトを含む被覆層が形成された粒子である。
【0016】
コバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子の形状は、特に限定されないが、例えば、略球形を挙げることができる。また、ニッケル含有水酸化物粒子は、例えば、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子の態様である。コバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子の、オキシ水酸化コバルトを含む被覆層は、ニッケル含有水酸化物粒子の表面全体を被覆してもよく、ニッケル含有水酸化物粒子の表面の一部領域を被覆していてもよい。
【0017】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物は、累積体積百分率が50体積%の粒子径(D50)(以下、単に「D50」ということがある。)以上の平均円形度が、0.900以上0.990以下の範囲である。上記の範囲であることにより、正極作製時におけるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラを低減して電池抵抗の増加を防止でき、また、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の体積抵抗率を低減することができる。
【0018】
D50以上のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粉末の平均円形度は、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子10000個について、それぞれ、静的自動画像分析装置(例えば、モフォロギ4、マルバーン・パナリティカル社)により円形度を測定し、測定したD50以上のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粉末における円形度の平均値である。具体的には、以下の方法により平均円形度を算出することができる。コバルト被覆ニッケル含有水酸化物粉末を分析装置供給部に導入し、プレパラートに吹き付けて固定する。固定したコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子を光学顕微鏡により10000個観察し、画像を取得する。取得した画像を解析し、D50以上のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粉末の平均円形度を算出する。なお、D50は、レーザ回折・散乱法を用い、粒度分布測定装置で測定した粒子径を意味する。
【0019】
コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のD50以上の平均円形度は、後述するように、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物を製造する際に、被覆層の酸化工程において、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物にアルカリ溶液を添加して得られたアルカリ溶液含有材料の加熱条件を制御することで調整することができる。
【0020】
コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のD50以上の平均円形度は、0.900以上0.990以下の範囲であれば、特に限定されないが、その下限値は、正極作製時におけるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラをさらに低減して電池抵抗の増加をさらに防止し、また、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の体積抵抗率をさらに低減できる点から、0.905が好ましく、0.910が特に好ましい。一方で、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のD50以上の平均円形度の上限値は、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の体積抵抗率を低減できる点から、0.970が好ましく、0.950が特に好ましい。なお、上記した下限値と上限値は、任意で組み合わせることができる。コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のD50以上の平均円形度は、例えば、0.905以上0.970以下が好ましく、0.910以上0.950以下が特に好ましい。
【0021】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の体積抵抗率は、特に限定されないが、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の電気伝導性がより向上して、さらに優れた電池特性を得ることができる点から、4.0Ω・cm以下が好ましく、3.9Ω・cm以下がより好ましく、3.5Ω・cm以下が特に好ましい。一方で、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の体積抵抗率の下限値は、低ければ低いほど好ましい。コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の体積抵抗率の下限値としては、例えば、0.4Ω・cmが挙げられる。なお、上記した上限値と下限値は、任意で組み合わせることができる。コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の体積抵抗率は、例えば、0.4Ω・cm以上4.0Ω・cm以下が好ましく、0.4Ω・cm以上3.9Ω・cm以下がより好ましく、0.4Ω・cm以上3.5Ω・cm以下が特に好ましい。
【0022】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物のD50は、特に限定されないが、その下限値は、正極作製時におけるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラを低減しつつ、円形度を高く保つ点から、8.5μm以上が好ましく、9.0μm以上がより好ましく、9.5μm以上が特に好ましい。一方で、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のD50の上限値は、正極作製時におけるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラを低減する点から、14.5μm以下が好ましく、14.0μm以下がより好ましく、13.5μm以下が特に好ましい。なお、上記した下限値と上限値は、任意で組み合わせることができる。コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のD50は、例えば、8.5μm以上14.5μm以下が好ましく、9.0μm以上14.0μm以下がより好ましく、9.5μm以上13.5μm以下が特に好ましい。
【0023】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の累積体積百分率が90体積%の粒子径(D90)(以下、単に「D90」ということがある。)は、特に限定されないが、その下限値は、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の充填密度の向上の点から、14.0μm以上が好ましく、14.5μm以上が特に好ましい。一方で、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のD90の上限値は、塗工ムラを低減する点から、20.0μm以下が好ましく、19.5μm以下が特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のD90は、例えば、14.0μm以上20.0μm以下が好ましく、14.5μm以上19.5μm以下が特に好ましい。D90は、レーザ回折・散乱法を用い、粒度分布測定装置で測定した粒子径を意味する。
【0024】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の累積体積百分率が10体積%の粒子径(D10)(以下、単に「D10」ということがある。)は、特に限定されないが、その下限値は、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の充填密度の向上の点から、5.5μm以上が好ましく、6.0μm以上が特に好ましい。一方で、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のD10の上限値は、電解液との接触面を確保する点から、10.0μm以下が好ましく、9.5μm以下が特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のD10は、例えば、5.5μm以上10.0μm以下が好ましく、6.0μm以上9.5μm以下が特に好ましい。D10は、レーザ回折・散乱法を用い、粒度分布測定装置で測定した粒子径を意味する。
【0025】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の粒度分布幅((D90-D10)/D50)は、特に限定されないが、正極作製時におけるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラをさらに低減できる点から、0.5以上1.2以下が好ましく、0.6以上1.1以下が特に好ましい。
【0026】
コア粒子であるニッケル含有水酸化物は、ニッケル(Ni)を含む水酸化物であれば、組成は特に限定されないが、高い利用率、優れた充放電特性と電気伝導性を得る点から、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)及び亜鉛(Zn)からなる群から選択される1種以上の添加金属元素Mと、を含むことが好ましい。また、コバルト及び亜鉛は、固溶コバルト、固溶亜鉛の状態で含まれることが好ましい。すなわち、コア粒子であるニッケル含有水酸化物は、コバルト及び/または亜鉛が固溶された水酸化ニッケル、すなわち、ニッケル含有水酸化物が好ましい。
【0027】
ニッケル:添加金属元素Mのモル比は、特に限定されないが、高い利用率、優れた充放電特性と電気伝導性を得る点から、ニッケル:添加金属元素Mのモル比は、100-m:m(0.00≦m≦20.0を意味する。)が好ましく、2.00≦m≦18.0がより好ましく、4.00≦m≦15.0が特に好ましい。
【0028】
コバルト被覆ニッケル含有水酸化物は、高い利用率、優れた充放電特性と電気伝導性をさらに得る点から、ニッケルとコバルトを含む、またはニッケルとコバルトと亜鉛を含むことが好ましい。ニッケル:コバルト:亜鉛のモル比は、特に限定されないが、高い利用率と優れた充放電特性を得られ、また、さらに優れた電気伝導性を得ることができる点から、ニッケル:コバルト:亜鉛のモル比は、100-x-y:x:y(0.00<x≦10.0、0.00≦y≦10.0を意味する。)が好ましく、1.00≦x≦9.00、1.00≦y≦8.00がより好ましく、3.00≦x≦8.00、2.00≦y≦6.00が特に好ましい。
【0029】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物では、オキシ水酸化コバルトを含む被覆層のコバルト化合物におけるオキシ水酸化コバルトの含有率は、特に限定されないが、その下限値は、電気伝導性をより向上させる点から、70質量%以上が好ましく、80質量%以上が特に好ましい。また、オキシ水酸化コバルトを含む被覆層のコバルト化合物におけるオキシ水酸化コバルトの含有率の上限値は、高ければ高いほど好ましく、オキシ水酸化コバルトからなる被覆層(オキシ水酸化コバルトの含有率が約100質量%)が特に好ましい。オキシ水酸化コバルトを含む被覆層には、オキシ水酸化コバルト以外に、製造工程にて、不可避的に酸化コバルトが含まれる場合がある。
【0030】
被覆層に含まれるオキシ水酸化コバルトは、X線回折測定で得られる回折パターンの2θで表される回折角度65°~66°の間に回折ピークを有する。また、被覆層に含まれるコバルト含有量は、特に限定されないが、高い利用率、優れた充放電特性と電気伝導性を得る点から、コバルトを含む被覆層のコバルト含有量は、0質量%を超え6質量%以下が好ましく、2質量%以上5質量%以下が特に好ましい。
【0031】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物は、ニッケル含有水酸化物中のニッケルの含有量は、特に限定されないが、その下限値は、85モル%以上が好ましく、87モル%以上がより好ましく、90モル%以上が特に好ましい。一方で、上限値は、100モル%以下が好ましく、97モル%以下が特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。ニッケル含有水酸化物中のニッケルの含有量は、例えば、85モル%以上100モル%以下が好ましく、87モル%以上100モル%以下がより好ましく、90モル%以上97モル%以下が特に好ましい
【0032】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物のBET比表面積は、特に限定されないが、その下限値は、密度の向上と電解液との接触面を確保しつつ、正極作製時におけるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラをさらに低減する点から、10.0m2/g以上が好ましく、10.5m2/g以上がより好ましく、11.0m2/g以上が特に好ましい。一方で、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子のBET比表面積の上限値は、正極作製時におけるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラを低減しつつ、粒子強度を得る点から、25.0m2/g以下が好ましく、24.5m2/g以下がより好ましく、24.0m2/g以下が特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のBET比表面積は、例えば、10.0m2/g以上25.0m2/g以下が好ましく、10.5m2/g以上24.5m2/g以下がより好ましく、11.0m2/g以上24.0m2/g以下が特に好ましい。
【0033】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物のタップ密度は、特に限定されないが、その下限値は、充填密度を向上させつつ、正極作製時におけるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラをさらに低減する点から、1.5g/cm3以上が好ましく、1.6g/cm3以上がより好ましく、1.7g/cm3以上が特に好ましい。一方で、上限値は、正極作製時におけるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラを低減しつつ、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の粒子強度を得る点から、2.4g/cm3以下が好ましく、2.3g/cm3以下がより好ましく、2.2g/cm3以下が特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のタップ密度は、例えば、1.5g/cm3以上2.4g/cm3以下が好ましく、1.6g/cm3以上2.3g/cm3以下がより好ましく、1.7g/cm3以上2.2g/cm3以下が特に好ましい。
【0034】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物は、例えば、ニッケル水素二次電池の正極活物質用として使用することができる。
【0035】
次に、本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法例について説明する。
【0036】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法としては、例えば、ニッケルを含む金属塩溶液と、アルカリ溶液と、錯化剤と、を反応槽内に添加して、晶析反応により、ニッケル含有水酸化物を調製する、ニッケル含有水酸化物調製工程と、前記ニッケル含有水酸化物と、コバルト塩溶液と、アルカリ溶液と、錯化剤と、を反応槽内に添加して、晶析反応により、ニッケル含有水酸化物粒子の表面に、価数が2価のコバルトを含む被覆層を形成する、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物調製工程と、加熱条件下、前記コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物にアルカリ溶液を添加し、前記被覆層の2価のコバルトを化学酸化する酸化工程と、を含む。
【0037】
<ニッケル含有水酸化物調製工程>
コア粒子であるニッケル含有水酸化物の調製工程について、以下に説明する。ここでは、コバルトと亜鉛が固溶したニッケル含有水酸化物の調製方法を例にとって説明する。まず、共沈法により、ニッケルとコバルトと亜鉛の塩溶液(例えば、硫酸塩溶液)と錯化剤とアルカリ溶液を反応させて、ニッケル含有水酸化物を製造して、ニッケル含有水酸化物を含むスラリー状の懸濁物を得る。懸濁物の溶媒としては、例えば、水が使用される。
【0038】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケル、コバルト及び亜鉛のイオンと錯体を形成可能なものであれば、特に限定されず、例えば、アンモニウムイオン供給体(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。アルカリ溶液としては、共沈に際して、水溶液のpH値を調整するものであれば、特に限定されず、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)が挙げられる。
【0039】
上記塩溶液に加えて、アルカリ溶液と、錯化剤を反応槽に連続的に供給すると、ニッケル、コバルト及び亜鉛が晶析反応し、ニッケル含有水酸化物が製造される。晶析反応に際しては、反応槽の温度を、例えば、10℃~80℃、好ましくは20~70℃の範囲内で制御し、反応槽内のpH値を液温40℃基準で、例えば、pH9~pH13、好ましくはpH11~13の範囲内で制御しつつ、反応槽内の物質を、適宜、撹拌する。反応槽としては、例えば、形成されたニッケル含有水酸化物を分離するためにオーバーフローさせる、連続式を挙げることができる。
【0040】
<コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物調製工程>
次に、ニッケル含有水酸化物を含む懸濁物と、コバルト塩溶液(例えば、硫酸コバルトの水溶液等)と、アルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液等)と、錯化剤(例えば、硫酸アンモニウム水溶液等)を、撹拌機で撹拌しながら添加して、中和晶析により、ニッケル含有水酸化物粒子の表面に、水酸化コバルト等、コバルトの価数が2価であるコバルト化合物を主成分とする被覆層を形成して、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物を調製する。上記被覆層を形成する工程のpHは、液温40℃基準で、9~13の範囲に維持することが好ましい。コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物は、スラリー状の懸濁物として得ることができる。
【0041】
<酸化工程前の固液分離及び乾燥工程>
また、酸化工程前に、必要に応じて、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物を含む懸濁物を、固相と液相に分離して、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物を含む固相を乾燥して、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物の乾燥粉を得る工程を、さらに含んでもよい。また、固相を乾燥する前に、必要に応じて、固相を水等で洗浄してもよい。
【0042】
<酸化工程>
次に、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物を酸化処理する。酸化処理の方法としては、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物に水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液を添加して混合し、加熱する、化学酸化処理が挙げられる。上記酸化処理によって、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物中の2価のコバルトを酸化し、3価のコバルトであるオキシ水酸化コバルトとすることができる。被覆層の2価のコバルトを酸化してオキシ水酸化コバルトとすることで、オキシ水酸化コバルトを含む被覆層が形成されたコバルト被覆ニッケル含有水酸化物を得ることができる。なお、酸化処理にあたり、アルカリ溶液の添加と、混合と、加熱を同時に行ってもよい。
【0043】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法では、酸化工程において、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物に水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液を添加して得られたアルカリ溶液含有材料の、アルカリ溶液の添加開始0秒における温度(℃)、及びアルカリ溶液含有材料の、アルカリ溶液の添加開始後280秒までの温度(℃)をアルカリ溶液の添加開始から20秒ごとに測定し、[アルカリ溶液含有材料の温度(℃)×20(秒)]/60で表される20秒ごとの計算値A(℃×min)の、アルカリ溶液の添加開始0秒から300秒までの合計が、350以上420以下に制御されている。
【0044】
すなわち、[アルカリ溶液の添加開始0秒(すなわち、アルカリ溶液の添加直後)におけるアルカリ溶液含有材料の温度(℃)×20(秒)]/60の計算値A1(℃×min)、[アルカリ溶液の添加開始から20秒後におけるアルカリ溶液含有材料の温度(℃)×20(秒)]/60の計算値A2(℃×min)、[アルカリ溶液の添加開始から40秒後におけるアルカリ溶液含有材料の温度(℃)×20(秒)]/60の計算値A3(℃×min)、[アルカリ溶液の添加開始から60秒後におけるアルカリ溶液含有材料の温度(℃)×20(秒)]/60の計算値A4(℃×min)、・・・[アルカリ溶液の添加開始から180秒後におけるアルカリ溶液含有材料の温度(℃)×20(秒)]/60の計算値A10、[アルカリ溶液の添加開始から200秒後におけるアルカリ溶液含有材料の温度(℃)×20(秒)]/60の計算値A11、・・・[アルカリ溶液の添加開始から280秒後におけるアルカリ溶液含有材料の温度(℃)×20(秒)]/60の計算値A15を算出し、算出された15個の計算値であるA1~A15について、その合計が、350(℃×min)以上420(℃×min)以下に制御されている。
【0045】
上記から、本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法では、酸化工程において、アルカリ溶液を添加する際の加熱条件を制御することで、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物にアルカリ溶液を添加する際に、アルカリ溶液含有材料の急激な温度上昇を防止して、水等の溶媒分の蒸発の程度を調整することで、酸化反応の進行を均一化する。
【0046】
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の製造方法では、A1~A15について、その合計が、350以上420以下に制御されていることにより、酸化反応の進行が均一化されて、正極作製時におけるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラを低減することができる。また、酸化反応の進行が均一化されることで体積抵抗率が低減されたコバルト被覆ニッケル含有水酸化物を得ることができる。
【0047】
酸化工程は、例えば、反応槽内で行われる。酸化工程における反応槽内の温度は、80℃以上150℃以下が好ましく、90℃以上140℃以下がより好ましい。酸化処理時間は0.5時間以上10時間以下が好ましく、1時間以上5時間以下がより好ましい。また、反応槽内の気相に投入する加熱されたガスの温度は、100℃以上150℃以下が好ましく、110℃以上140℃以下がより好ましい。反応槽内の気相を加熱されたガスで置換することで、水等の溶媒分の蒸発の程度を調整または促進することができる。なお、アルカリ溶液含有材料は、反応槽内の温度または加熱されたガスの温度から熱影響を受けるが、同一の温度とならなくてもよい。
【0048】
また、酸化工程では、反応槽内にてアルカリ溶液含有材料を乾燥させて、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の乾燥粉を得るまで、水等の溶媒分を蒸発させてもよい。
【0049】
<酸化工程後の固液分離及び乾燥工程>
また、酸化工程後に、必要に応じて、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物を水洗し、水洗後、固相と液相に分離して、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物を含む固相を乾燥してもよい。
【0050】
次に、本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物を用いた正極、該正極を用いた二次電池について説明する。ここでは、二次電池として、ニッケル水素二次電池を例にとって説明する。ニッケル水素二次電池は、上記した本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物を用いた正極と、負極と、アルカリ性の電解液と、セパレータとを備える。
【0051】
正極は、正極集電体と、正極集電体表面に形成された正極活物質層を備える。正極活物質層は、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物とバインダー(結着剤)、必要に応じて導電助剤とを有する。導電助剤としては、例えば、ニッケル水素二次電池のために使用できるものであれば、特に限定されず、金属コバルトや酸化コバルト等を用いることができる。バインダーとしては、特に限定されないが、ポリマー樹脂、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ブタジエンゴム(BR)、ポリビニルアルコール(PVA)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等、並びにこれらの組み合わせを挙げることができる。正極集電体としては、特に限定されないが、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属(例えば、発泡ニッケル)、網状金属繊維焼結体、金属メッキ樹脂板、金属箔などを挙げることが出来る。
【0052】
正極の製造方法としては、例えば、まず、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物と導電助剤と結着剤と水とを混合して正極活物質スラリーを調製する。次いで、上記正極活物質スラリーを正極集電体に、公知の充填方法で充填して乾燥後、プレス等にて圧延・固着する。
【0053】
負極は、負極集電体と負極集電体表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層を備える。負極活物質としては、通常使用されるものであれば、特に限定されず、例えば、水素吸蔵合金が挙げられる。負極集電体としては、正極集電体と同じ材料である、ニッケル、アルミニウム、ステンレス等の導電性の金属材料を使用することができる。
【0054】
また、負極活物質層には、必要に応じて、導電助剤、バインダー等がさらに添加されてもよい。導電助剤、バインダーとしては、上記正極活物質層に使用されるものと同様のものが挙げられる。
【0055】
負極の製造方法としては、例えば、先ず、負極活物質と、必要に応じて導電助剤と結着剤と、水とを混合して負極活物質スラリーを調製する。次いで、上記負極活物質スラリーを負極集電体に、公知の充填方法で充填し、乾燥後、プレス等にて圧延・固着する。
【0056】
アルカリ性の電解液としては、例えば、溶媒としては水を挙げることができ、溶媒に溶解させる溶質としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムを挙げることができる。上記溶質は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
セパレータは、特に限定されないが、ポリオレフィン不織布、例えばポリエチレン不織布及びポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布、並びにそれらを親水性処理したものを挙げることができる。
【実施例0058】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0059】
実施例1 ニッケル含有水酸化物の調製
硫酸亜鉛と硫酸ニッケルとをモル比で4.0:96.0となる割合にて溶解した水溶液、硫酸アンモニウム水溶液(錯化剤)及び水酸化ナトリウム水溶液を、所定容積を有する反応槽へ滴下して、反応槽内の温度を45℃、反応槽内のpHを液温40℃基準で11.5~12.5に維持しながら、撹拌機により連続的に撹拌した。生成した水酸化物は反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて取り出した。取り出した上記水酸化物に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、ニッケル含有水酸化物を得た。
【0060】
コバルトを含む被覆層の形成
錯化剤である硫酸アンモニウム水溶液を反応槽内のアンモニア濃度が9.0~13.0g/Lとなるように、水を入れた反応槽内に投入した後、上記のようにして得られたニッケル含有水酸化物を投入してスラリー化し、水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、反応槽内のpHを液温40℃基準で9~13の範囲に維持しながら、撹拌機により連続的に撹拌した。反応槽中の溶液を撹拌羽根にて撹拌しながら、濃度90g/Lの硫酸コバルト水溶液を滴下した。この間、水酸化ナトリウム水溶液を適宜滴下して、反応槽中の溶液のpHを液温40℃基準で9~13の範囲に維持して、ニッケル含有水酸化物粒子の表面に水酸化コバルトの被覆層を形成させて、水酸化コバルトで被覆されたニッケル含有水酸化物の懸濁液を得た。被覆したコバルト含有量は3質量%以上5質量%以下となるように調製した。
【0061】
水酸化コバルトで被覆されたニッケル含有水酸化物の酸化処理
上記のようにして得られた、水酸化コバルトで被覆されたニッケル含有水酸化物の懸濁液を固液分離して、水酸化コバルトで被覆されたニッケル含有水酸化物の乾燥粉を得た。得られた水酸化コバルトで被覆されたニッケル含有水酸化物の乾燥粉に48質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、上記したA1~A15の合計が412.7(℃×min)となる加熱条件にて混合し、さらに、混合しながら1時間120℃で加熱乾燥して、酸化処理を行った。なお、水酸化コバルトで被覆されたニッケル含有水酸化物の乾燥粉1.0質量部に対して48質量%水酸化ナトリウム水溶液0.10質量部を添加した。上記酸化処理にて、ニッケル含有水酸化物粒子の表面に形成された被覆層の水酸化コバルトを酸化して、3価のコバルトであるオキシ水酸化コバルトとした。
【0062】
固液分離及び乾燥処理
次に、酸化処理にて得られたオキシ水酸化コバルトで被覆されたニッケル含有水酸化物に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、実施例1のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物を得た。
【0063】
実施例2
上記したA1~A15の合計が394.7(℃×min)となる加熱条件とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物を得た。
【0064】
比較例1 上記したA1~A15の合計が424.2(℃×min)となる加熱条件とした以外は、実施例1と同様にして、比較例1のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物を得た。
【0065】
比較例2 上記したA1~A15の合計が428.0(℃×min)となる加熱条件とした以外は、実施例1と同様にして、比較例2のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物を得た。
【0066】
評価項目
(1)累積体積百分率が50体積%の粒子径(D50)以上の平均円形度
コバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子10000個について、それぞれ、静的自動画像分析装置(「モフォロギ4」、マルバーン・パナリティカル社)により円形度を測定し、測定したD50以上のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の円形度の平均値を算出した。具体的には、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物粉末を静的自動画像分析装置の供給部に導入し、プレパラートに吹き付けて固定し、固定したコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子を光学顕微鏡により10000個観察し、画像を取得した。取得した画像を解析し、D50以上のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粉末の平均円形度を算出した。D50は、粒度分布測定装置(「LA-960」、株式会社堀場製作所)で測定した(原理はレーザ回折・散乱法)。
静的自動画像分析装置の測定条件は、以下のとおりである。
・倍率:×50(0.5μm~50μm)
【0067】
(2)D10、D50、D90
コバルト被覆ニッケル含有水酸化物について、上記の通り、粒度分布測定装置(「LA-960」、株式会社堀場製作所)で測定した(原理はレーザ回折・散乱法)。測定条件として、水を溶媒とし、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを1mL投入し、サンプル投入後の透過率は85±3%の範囲とし、超音波を発生させサンプルを分散させた。また、解析時の溶媒屈折率は水の屈折率である1.333を使用した。
【0068】
(3)体積抵抗率
株式会社三菱ケミカルアナリテック製、MCP-PD51型の粉体抵抗率システム(ロレスタ)を使用し、下記条件にて、得られたコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粉末の体積抵抗率(Ω・cm)を測定した。
使用プローブ:四探針プローブ
電極間隔:3.0mm
電極半径:0.7mm
試料半径:10.0mm
試料質量:3.00g 印加圧力:20kPa
【0069】
(4)塗工ムラ防止性
コバルト被覆ニッケル含有水酸化物:バインダー(カルボキシメチルセルロース(CMC)):水=1:0.1:0.2(質量比)の割合で混合して正極活物質スラリーを調製し、0.015mmのアルミニウム箔に正極活物質スラリーをアプリケーターを用いて0.1mmの厚みになるよう塗工して、アルミニウム箔表面上に正極活物質層を作製した。正極活物質層の厚み(単位:mm)をランダムに10か所測定(n=10)し、厚みのばらつきを標準偏差として算出した。
【0070】
(5)タップ密度
コバルト被覆ニッケル含有水酸化物について、タップデンサー(株式会社セイシン企業製、「KYT-4000」)を用いて、JIS R1628に記載の手法のうち、定質量測定法によってタップ密度の測定を行った。
【0071】
(6)BET比表面積
コバルト被覆ニッケル含有水酸化物1gを、窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させた後、比表面積測定装置(株式会社マウンテック、「Macsorb」)を用い、1点BET法によって測定した。
【0072】
(7)ニッケル含有水酸化物の組成
ニッケル含有水酸化物5gを波長分散型蛍光X線分光装置(株式会社リガク、「ZSX Primus」)を用いて組成の測定を行った。
【0073】
コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のD50以上の平均円形度、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のD50、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の体積抵抗率、正極活物質層の厚みのばらつきの標準偏差、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のタップ密度、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のBET比表面積の結果を表1に、正極活物質層の厚みのばらつきの標準偏差に関するN=10のデータを表2に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
表1及び2に示すように、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のD50以上の平均円形度が0.900以上0.990以下である実施例1及び2では、それぞれ、正極活物質層の厚みのばらつきの標準偏差が0.004mm、0.003mmに低減され、正極作製時におけるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラを低減して電池抵抗の増加を防止できた。また、実施例1及び2では、それぞれ、体積抵抗率が2.3Ω・cm、2.9Ω・cmに低減されることが判明した。
【0077】
また、表1に示すように、実施例1及び2では、タップ密度が2.17g/cm3、BET比表面積が、それぞれ、14.7m2/g、15.0m2/gであった。なお、実施例1及び2では、上記の通り、上記したアルカリ酸化処理におけるA1~A15の合計は、350以上420以下の範囲に制御されていた。
【0078】
一方で、表1に示すように、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物のD50以上の平均円形度が0.892である比較例1、0.861である比較例2では、それぞれ、正極活物質層の厚みのばらつきの標準偏差が0.011mm、0.014mmであり、正極作製時におけるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラを低減できず、電池抵抗の増加を十分には防止できなかった。また、比較例2では、体積抵抗率が5.9Ω・cmであり、低減された体積抵抗率を得ることができないことが判明した。
【0079】
また、表1に示すように、比較例1及び2では、上記したアルカリ酸化処理におけるA1~A15の合計は、それぞれ、424.2、428.0であり、350以上420以下の範囲に制御されていなかった。
本発明のコバルト被覆ニッケル含有水酸化物は、D50以上の平均円形度が、0.900以上0.990以下の範囲であることにより、正極作製時におけるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物の塗工ムラを低減して電池抵抗の増加を防止でき、また、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物の体積抵抗率が低減されるので、広汎な二次電池の分野で利用可能であり、例えば、さらなる高出力化と利用率向上等、高い電池特性が要求されるニッケル水素二次電池の分野で利用価値が高い。