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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025149785
(43)【公開日】2025-10-08
(54)【発明の名称】測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/20 20060101AFI20251001BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20251001BHJP
【FI】
G01R33/20 101
G01N24/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024128718
(22)【出願日】2024-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2024048895
(32)【優先日】2024-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和5年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「冷却を必要とせずにNMRの高感度化を可能にする超高感度量子磁気センシングシステムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504063242
【氏名又は名称】スミダ電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】佐光 暁史
(72)【発明者】
【氏名】芳井 義治
(72)【発明者】
【氏名】福田 諒介
(72)【発明者】
【氏名】水落 憲和
(72)【発明者】
【氏名】中村 将也
(57)【要約】
【課題】 より高い感度が得られる測定装置および測定方法を得る。
【解決手段】 高周波磁場発生器は、被測定交流場に対応して電子スピン量子状態が変化するとともにマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材に対してマイクロ波を印加する。高周波電源は、高周波磁場発生器にマイクロ波を発生させる。発光装置は、磁気共鳴部材に照射すべき励起光を出射する。測定制御部は、高周波電源および発光装置を制御して所定の測定シーケンスでマイクロ波および励起光を磁気共鳴部材に印加する。特に、測定制御部は、ハーンエコーパルスシーケンスまたはダイナミックデカップリングに基づくマイクロ波のパルスシーケンスを磁気共鳴部材に印加する。その際、上述のマイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数(1/fLOCK)が被測定交流場の周期(1/fAC)とは異なる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定交流場に対応して電子スピン量子状態が変化するとともにマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材と、
前記マイクロ波で前記磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行う高周波磁場発生器と、
前記高周波磁場発生器に前記マイクロ波を発生させる高周波電源と、
前記磁気共鳴部材に照射すべき励起光を出射する発光装置と、
前記磁気共鳴部材により前記励起光に対応して発せられる蛍光を受光し前記蛍光の強度に対応する検出信号を生成する受光装置と、
前記高周波電源および前記発光装置を制御して所定の測定シーケンスで前記マイクロ波および前記励起光を前記磁気共鳴部材に印加する測定制御部と、
前記検出信号に基づいて測定値を導出する測定処理部とを備え、
前記測定制御部は、ハーンエコーパルスシーケンスまたはダイナミックデカップリングに基づく前記マイクロ波のパルスシーケンスを前記磁気共鳴部材に印加し、
前記マイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数が前記被測定交流場の周期とは異なること、
を特徴とする測定装置。
【請求項2】
被測定交流場に対応して電子スピン量子状態が変化するとともにマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材に対して、所定の測定シーケンスに従って、前記マイクロ波で前記磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行うとともに、前記磁気共鳴部材に照射すべき励起光を出射し、
前記磁気共鳴部材により前記励起光に対応して発せられる蛍光を受光し前記蛍光の強度に対応する検出信号を生成し、
前記検出信号に基づいて測定値を導出し、
前記測定シーケンスにおいて、ハーンエコーパルスシーケンスまたはダイナミックデカップリングに基づく前記マイクロ波のパルスシーケンスを前記磁気共鳴部材に印加し、
前記マイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数が前記被測定交流場の周期とは異なること、
を特徴とする測定方法。
【請求項3】
前記被測定交流場の磁束密度に対する前記検出信号の強度の微分の最大値が、前記マイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数が前記被測定交流場の周期に一致するときより大きくなるように、前記スピンロック周波数の逆数および前記被測定交流場の周期が設定されていることを特徴とする請求項2記載の測定方法。
【請求項4】
前記測定シーケンスにおいて、ハーンエコーパルスシーケンスに基づく前記マイクロ波のパルスシーケンスを前記磁気共鳴部材に印加し、
前記マイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数が、前記被測定交流場の周期より短いこと、
を特徴とする請求項2または請求項3記載の測定方法。
【請求項5】
前記測定シーケンスにおいて、ダイナミックデカップリングに基づく前記マイクロ波のパルスシーケンスを前記磁気共鳴部材に印加し、
前記マイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数が、前記被測定交流場の周期より長いこと、
を特徴とする請求項2または請求項3記載の測定方法。
【請求項6】
アンダーサンプリング条件のサンプリング周波数で前記検出信号のサンプリングを行い、
サンプリングされた前記検出信号に基づいて測定値を導出し、
前記検出信号に対して、所定の測定帯域以外の帯域を減衰させるフィルター処理を行い、
前記測定帯域は、前記スピンロック周波数に対応し、
前記スピンロック周波数は、前記測定帯域が、0から前記サンプリング周波数の2分の1までの範囲に対応し、かつ前記被測定交流場の磁束密度に対する前記検出信号の強度の微分の最大値となるピーク周波数を含む帯域となるように設定されること、
を特徴とする請求項2または請求項3記載の測定方法。
【請求項7】
アンダーサンプリング条件のサンプリング周波数で前記検出信号のサンプリングを行い、
サンプリングされた前記検出信号に基づいて測定値を導出し、
前記検出信号に対して、所定の測定帯域以外の帯域を減衰させるフィルター処理を行い、
前記測定帯域は、前記スピンロック周波数に対応し、
前記スピンロック周波数は、前記測定帯域が、前記サンプリング周波数の2分の1から前記サンプリング周波数までの範囲に対応し、かつ前記被測定交流場の磁束密度に対する前記検出信号の強度の微分の最大値となるピーク周波数を含む帯域となるように設定されること、
を特徴とする請求項2または請求項3記載の測定方法。
【請求項8】
前記高周波電源および前記発光装置を制御して第1の測定シーケンスで前記マイクロ波および前記励起光を前記磁気共鳴部材に印加するとともに、第2の測定シーケンスで前記マイクロ波および前記励起光を前記磁気共鳴部材に印加し、
前記第2の測定シーケンスの前記マイクロ波の最終パルスの位相が、前記第1の測定シーケンスの前記マイクロ波の最終パルスの位相に対して反転しており、
前記第1の測定シーケンスの前記検出信号に基づいて第1検出値を導出するとともに前記第2の測定シーケンスの前記検出信号に基づいて第2検出値を導出し、
前記第1検出値と前記第2検出値との差分を前記測定値として導出すること、
を特徴とする請求項2または請求項3記載の測定方法。
【請求項9】
アンダーサンプリング条件のサンプリング周波数で前記検出信号のサンプリングを行い、
サンプリングされた前記検出信号に基づいて測定値を導出し、
前記検出信号に対して、所定の測定帯域以外の帯域を減衰させるフィルター処理を行い、
前記サンプリング周波数は、前記測定帯域内に、または前記測定帯域に隣接して、前記被測定交流場の磁束密度に対する前記検出信号の強度の微分の最大値についての最大ピーク周波数が位置するように設定されること、
を特徴とする請求項8記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置および測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある磁場測定装置は、窒素と格子欠陥(NVセンター:Nitrogen Vacancy Center)を有するダイヤモンド構造などといったセンシング部材の電子スピン共鳴を利用した光検出磁気共鳴(ODMR:Optically Detected Magnetic Resonance)で磁気計測を行っている。ODMRでは、このようなNVセンターを有するダイヤモンドといった磁気共鳴部材に対して、被測定磁場とは別に静磁場が印加されるとともに、所定のシーケンスでレーザー光(初期化および測定のための励起光)並びにマイクロ波が印加され、その磁気共鳴部材から出射する蛍光の光量が検出されその光量に基づいて被測定磁場の磁束密度が導出される(例えば特許文献1参照)。
【0003】
例えば、被測定磁場が交流磁場である場合、ハーンエコー(スピンエコー)パルスシーケンスが使用される。ハーンエコーパルスシーケンスでは、(a)励起光をNVセンターに照射し、(b)マイクロ波の第1のπ/2パルスを被測定磁場の位相0度でNVセンターに印加し、(c)マイクロ波のπパルスを被測定磁場の位相180度でNVセンターに印加し、(d)マイクロ波の第2のπ/2パルスを被測定磁場の位相360度でNVセンターに印加し、(e)励起光をNVセンターに照射してNVセンターの発光量を測定し、(f)測定した発光量に基づいて磁束密度を導出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-138772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、被測定磁場が交流磁場である場合、一般的に、ハーンエコー(スピンエコー)パルスシーケンスやダイナミックデカップリングなどが使用される。これらの手法では、NVセンターのスピンをπパルスで反転させることで、磁場の作用が蓄積される位相量が大きくして、感度を高めている。しかしながら、より高い感度が得られるようにすることが望まれている。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされてものであり、より高い感度が得られる測定装置および測定方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る測定装置は、被測定交流場に対応して電子スピン量子状態が変化するとともにマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材と、そのマイクロ波で磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行う高周波磁場発生器と、高周波磁場発生器にマイクロ波を発生させる高周波電源と、磁気共鳴部材に照射すべき励起光を出射する発光装置と、磁気共鳴部材により励起光に対応して発せられる蛍光を受光し蛍光の強度に対応する検出信号を生成する受光装置と、高周波電源および発光装置を制御して所定の測定シーケンスでマイクロ波および励起光を磁気共鳴部材に印加する測定制御部と、その検出信号に基づいて測定値を導出する測定処理部とを備える。測定制御部は、ハーンエコーパルスシーケンスまたはダイナミックデカップリングに基づくマイクロ波のパルスシーケンスを磁気共鳴部材に印加する。そして、上述のマイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数が被測定交流場の周期とは異なる。
【0008】
本発明に係る測定方法は、(a)被測定交流場に対応して電子スピン量子状態が変化するとともにマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材に対して、所定の測定シーケンスに従って、そのマイクロ波で磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行うとともに、磁気共鳴部材に照射すべき励起光を出射し、(b)磁気共鳴部材により励起光に対応して発せられる蛍光を受光し蛍光の強度に対応する検出信号を生成し、(c)その検出信号に基づいて測定値を導出する。測定シーケンスにおいて、ハーンエコーパルスシーケンスまたはダイナミックデカップリングに基づくマイクロ波のパルスシーケンスを磁気共鳴部材に印加する。そして、上述のマイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数が被測定交流場の周期とは異なる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より高い感度が得られる測定装置および測定方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施の形態1に係る測定装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、実施の形態1における測定シーケンスの一例を示す図である。
図3図3は、スピンロック周波数fLOCKおよび被測定交流場の周波数fACと、検出信号の強度Sおよび被測定交流場の磁束密度Bに対する検出信号の強度Sの微分(dS/dB)の最大値max|dS/dB|との関係を説明する図である。
図4図4は、被測定交流場の周波数fACおよび位相ずれに対する検出信号強度S(相対値)の分布について説明する図である。
図5図5は、実施の形態1における被測定交流場の周波数fACに対する傾き最大値max|dS/dB|について説明する図である。
図6図6は、実施の形態2における検出信号のサンプリングについて説明する図である。
図7図7は、実施の形態2において可観測帯域に現れる検出信号について説明する図である。
図8図8は、フィルター処理で、サンプリング周波数fsの2分の1(fs/2)からサンプリング周波数fsまでの範囲に対応する帯域を減衰させる場合について説明する図である。
図9図9は、フィルター処理で、0からサンプリング周波数の2分の1(fs/2)までの範囲に対応する帯域を減衰させる場合について説明する図である。
図10図10は、実施の形態3における測定シーケンス(ダイナミックデカップリング)について説明する図である。
図11図11は、実施の形態3における被測定交流場の周波数fACに対する傾き最大値max|dS/dB|について説明する図である。
図12図12は、実施の形態4における測定シーケンスの一例を示す図である。
図13図13は、実施の形態4における被測定交流場の周波数fACに対応する感度について説明する図である。
図14図14は、実施の形態4における第1検出値、第2検出値、および測定値について説明する図である。
図15図15は、実施の形態4における被測定交流場の周波数fACに対する傾き最大値max|dS/dB|について説明する図である(1/2)。
図16図16は、実施の形態4における被測定交流場の周波数fACに対する傾き最大値max|dS/dB|について説明する図である(2/2)。
図17図17は、実施の形態5における被測定交流場の周波数fACに対する傾き最大値max|dS/dB|について説明する図である(1/2)。
図18図18は、実施の形態5における被測定交流場の周波数fACに対する傾き最大値max|dS/dB|について説明する図である(2/2)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
実施の形態1.
【0013】
図1は、本発明の実施の形態1に係る測定装置の構成を示すブロック図である。図1に示す測定装置は、センサー部10と、高周波電源11と、発光装置12と、受光装置13とを備える。
【0014】
センサー部10は、所定の位置(例えば、検査対象物体の表面上または表面上方)において、被測定場(例えば磁場の強度、向きなどといった磁場)を検出する。なお、被測定場は、単一周波数の交流場でもよいし、複数の周波数成分を有する所定周期の交流場でもよい。
【0015】
この実施の形態では、センサー部10は、磁気共鳴部材1、高周波磁場発生器2、および磁石3を備え、ODMRで被測定場を検出する。
【0016】
磁気共鳴部材1は、結晶構造を有し、被測定場(ここでは、磁場)に対応して電子スピン量子状態が変化するとともに、結晶格子における欠陥および不純物の配列方向に応じた周波数のマイクロ波で(ラビ振動に基づく)電子スピン量子操作の可能な部材である。つまり、磁場の測定位置に、磁気共鳴部材1が配置される。
【0017】
この実施の形態では、磁気共鳴部材1は、複数(つまり、アンサンブル)の特定カラーセンターを有する光検出磁気共鳴部材である。この特定カラーセンターは、ゼーマン分裂可能なエネルギー準位を有し、かつ、ゼーマン分裂時のエネルギー準位のシフト幅が互いに異なる複数の向きを取り得る。
【0018】
ここでは、磁気共鳴部材1は、単一種別の特定カラーセンターとして複数のNV(Nitrogen Vacancy)センターを含むダイヤモンドなどの部材である。NVセンターの場合、基底状態がms=0,+1,-1の三重項状態であり、ms=+1の準位およびms=-1の準位がゼーマン分裂する。NVセンターが、ms=+1およびms=-1の準位の励起状態から基底状態へ遷移する際に、所定の割合で蛍光を伴い、残りの割合のNVセンターは、励起状態(ms=+1またはms=-1)から基底状態(ms=0)へ無輻射で遷移する。
【0019】
なお、磁気共鳴部材1に含まれるカラーセンターは、NVセンター以外のカラーセンターでもよい。
【0020】
高周波磁場発生器2は、マイクロ波を磁気共鳴部材1に印加して、磁気共鳴部材1の電子スピン量子操作を行う。高周波電源11は、そのマイクロ波の電流を生成して高周波磁場発生器2に導通させることで、高周波磁場発生器2にマイクロ波を発生させる。
【0021】
例えば、高周波磁場発生器2は、板状コイルであって、マイクロ波を放出する略円形状のコイル部と、そのコイル部の両端から延び基板に固定される端子部とを備える。そのコイル部は、その両端面部分において、磁気共鳴部材1を挟むように所定の間隔で互いに平行な2つの電流を導通させ、上述のマイクロ波を放出する。ここでは、コイル部は板状コイルであるが、表皮効果により、コイル部の端面部分をマイクロ波の電流が流れるため、2つの電流が形成される。これにより、空間的に均一な強度のマイクロ波が磁気共鳴部材1に印加される。
【0022】
NVセンターの場合、ダイヤモンド結晶において、欠陥(空孔)(V)および不純物としての窒素(N)によってカラーセンターが形成されており、ダイヤモンド結晶内の欠陥(空孔)(V)に対して、隣接する窒素(N)の取り得る位置(つまり空孔と窒素との対の配列方向)は4種類あり、それらの配列方向のそれぞれに対応するゼーマン分裂後のサブ準位(つまり、基底からのエネルギー準位)が互いに異なる。したがって、マイクロ波の周波数に対する静磁場によるゼーマン分裂後の蛍光強度の特性において、それぞれの向きi(i=1,2,3,4)に対応して、互いに異なる4つのディップ周波数対(fi+,fi-)が現れる。ここでは、この4つのディップ周波数対のうちのいずれかのディップ周波数に対応して、上述のマイクロ波の周波数(波長)が設定される。
【0023】
また、磁石3は、磁気共鳴部材1に静磁場(直流磁場)を印加し、磁気共鳴部材1内の複数の特定カラーセンター(ここでは、複数のNVセンター)のエネルギー準位をゼーマン分裂させる。ここでは、磁石3は、リング型の永久磁石であり、例えば、フェライト磁石、アルニコ磁石、サマコバ磁石などである。
【0024】
この実施の形態では、上述の静磁場の印加方向は、上述の被測定磁場の印加方向と同一となり、上述の静磁場の印加によって、上述のディップ周波数での蛍光強度変化が増強され、感度が高くなる。
【0025】
さらに、この実施の形態では、磁気共鳴部材1は、上述のマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な複数のカラーセンター(ここでは、NVセンター)を備え、磁石3は、磁気共鳴部材1の所定領域(励起光の照射領域)に対して略均一な静磁場を印加する。例えば、その所定領域における静磁場の強度についての最大値と最低値との差分や比率が所定値以下となるように静磁場が印加される。
【0026】
また、磁気共鳴部材1において、上述の欠陥および不純物の配列方向が、上述の静磁場の向き(および印加磁場の向き)に略一致するように、磁気共鳴部材1の結晶が形成され、磁気共鳴部材1の向きが設定される。
【0027】
さらに、この実施の形態では、励起光を磁気共鳴部材1に照射するために、発光装置12から磁気共鳴部材1までの光学系が設けられており、また、磁気共鳴部材1からの蛍光を検出するために、磁気共鳴部材1から受光装置13までの光学系が設けられている。
【0028】
発光装置12は、光源としてのレーザーダイオードなどを備え、その光源で、磁気共鳴部材1に照射すべき励起光として、所定波長のレーザー光を出射する。また、受光装置13は、受光素子としてのフォトダイオードやフォトトランジスターなどを備え、磁気共鳴部材1により励起光に対応して発せられる蛍光を受光し、その蛍光の強度に対応する蛍光センサー信号PLを生成する。この蛍光は、例えば複合放物面型集光器(CPC)などの光学系によって受光装置13へ向けて集光される。
【0029】
受光装置13は、光電効果によって入射光に対応する電気信号を生成する受光素子などを備え、磁気共鳴部材1により励起光に対応して発せられる蛍光を受光しその蛍光の強度に対応する検出信号を生成する。受光装置13は、受光素子から出力される電気信号に対して所定の信号処理を行って検出信号を生成する信号処理部を備えていてもよいし、受光素子から出力される電気信号を検出信号としてもよい。
【0030】
例えば、上記の信号処理として、励起光から分岐した参照光に基づく参照信号を使用したコモンモードリジェクションを行ってもよい。
【0031】
さらに、図1に示す測定装置は、検出信号をデジタイズするアナログデジタル変換器21と、測定装置の制御および信号処理を行う演算処理装置31とを備える。
【0032】
アナログデジタル変換器21は、所定のサンプリング周波数fsで、検出信号をサンプリングしてデジタイズし、デジタイズした検出信号を演算処理装置31に出力する。
【0033】
演算処理装置31は、例えばコンピューターを備え、信号処理プログラムをコンピューターで実行して、各種処理部として動作する。この実施の形態では、演算処理装置31は、そのコンピューターを測定制御部41および測定処理部42として動作させ、また、不揮発性の記憶装置43を備える。
【0034】
記憶装置43には、信号処理プログラムが記憶されており、そのコンピューターは、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備え、信号処理プログラムをRAMにロードしてCPUで実行することで、測定制御部41および測定処理部42として動作する。
【0035】
測定制御部41は、(a)高周波電源11および発光装置12を制御して所定の測定シーケンスでマイクロ波および励起光を磁気共鳴部材1に印加し、(b)上述のようにデジタイズされた検出信号を取得してRAMや記憶装置43に記憶し、測定処理部42に、被測定交流場の測定値を導出させる。測定処理部42は、デジタイズされた検出信号に基づいて測定値を導出する。
【0036】
ただし、通常のハーンエコーパルスシーケンス(スピンエコーパルスシーケンス)や通常のダイナミックデカップリングではマイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数1/fLOCK)を被測定交流場の周期(1/fAC)に一致させるが、当該実施の形態では、測定シーケンスにおけるマイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数(1/fLOCK)が被測定交流場の周期(1/fAC)とは異なる。ここで、fLOCKは、スピンロック周波数であり、fACは、被測定交流場の周波数である。
【0037】
図2は、測定シーケンスの一例を示す図である。図2は、実施の形態1の測定シーケンスにおける、被測定交流磁場に対するマイクロ波パルスのタイミング、および励起光の照射タイミング(初期化と測定の2回)を示している。図2に示すように、各測定について、励起光の照射期間において、蛍光が検出される。
【0038】
特に、測定制御部41は、ハーンエコーパルスシーケンスまたはダイナミックデカップリングに基づくマイクロ波のパルスシーケンスを磁気共鳴部材1に印加する。その際、マイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数(1/fLOCK)が、被測定交流場の周期(1/fAC)とは異なる。実施の形態1では、ハーンエコーシーケンス(スピンエコーパルスシーケンス)に基づくマイクロ波のパルスシーケンスが磁気共鳴部材1に印加される。
【0039】
ハーンエコーパルスシーケンスの場合のスピンロック周波数の逆数(1/fLOCK)は、例えば図2に示すように、1つ目のπ/2パルスの終端から2つ目のπ/2パルスの先端までの時間長となる。実施の形態1では、測定制御部41は、測定シーケンスにおいて、ハーンエコーパルスシーケンスに基づくマイクロ波のパルスシーケンスを磁気共鳴部材1に印加する。ただし、マイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数(1/fLOCK)が、被測定交流場の周期(1/fAC)より短い。
【0040】
図3は、スピンロック周波数fLOCKおよび被測定交流場の周波数fACと、検出信号の強度Sおよび被測定交流場の磁束密度Bに対する検出信号の強度Sの微分(dS/dB)の最大値max|dS/dB|との関係を説明する図である。
【0041】
図3に示すように、検出信号の強度Sは、B、fAC、およびfLOCKの関数になっており、max|dS/dB|は、fACおよびfLOCKの関数になっている。なお、図3に示す式において、γは、磁気回転比(定数)であり、φ0は、マイクロ波のパルスシーケンスと被測定交流場との間の位相ずれである。
【0042】
ここで、例えば図3に示すように、dS/dBは、傾きを表しており、dS/dBが大きいほど感度が高くなるため、max|dS/dB|が最大となる条件でfACおよびfLOCKが設定されることが好ましい。
【0043】
図4は、被測定交流場の周波数fACおよび位相ずれに対する検出信号強度S(相対値)の分布について説明する図である。図4では、検出信号強度S(相対値)が等高線で表されている。図5は、実施の形態1における被測定交流場の周波数fACに対する傾き最大値max|dS/dB|について説明する図である。
【0044】
例えば図4に示すように、被測定交流場と測定シーケンスとの間の位相ずれの大きさによって検出信号強度Sが変化するが、例えば図4および図5に示すように、検出信号強度Sの最大値は、fACがfLOCKと同じである場合よりfACがfLOCKより低い場合のほうが大きくなる。なお、図5は、位相ずれの考慮せずにfACの各値での傾き最大値max|dS/dB|を示している。
【0045】
つまり、被測定交流場の磁束密度Bに対する検出信号の強度Sの微分(dS/dB)の最大値(max|dS/dB|)が、マイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数fLOCKが被測定交流場の周波数fACに一致するときより大きくなるように、スピンロック周波数fLOCKおよび被測定交流場の波数fACが設定されている。なお、被測定交流場の周波数fACは、図5における特性曲線のピーク周波数(またはその近傍)に設定されることが好ましい。
【0046】
また、被測定交流場の周波数fACに所定幅の変動やずれが生じる可能性がある場合には、図5における特性曲線のピーク周波数を含む所定幅の測定帯域が設定される。このように測定帯域を設定することで、傾き最大値(max|dS/dB|)(つまり、感度)が良好な条件で測定を行うことができる。
【0047】
次に、実施の形態1に係る測定装置の動作について説明する。
【0048】
被測定交流場(ここでは、交流磁場)の測定位置にセンサー部10が配置される。なお、センサー部10を走査しつつ複数の測定位置でそれぞれ測定を行うようにしてもよい。
【0049】
測定制御部41は、例えば図2に示すように連続的に測定シーケンスを実行し、各測定シーケンス(実施の形態1では、fACより高いfLOCKのハーンエコーシーケンス)において発光装置12に励起光を発光させたり、高周波磁場発生器2にマイクロ波を送出させたりする。
【0050】
これにより、測定時の励起光の照射期間において、受光装置13によって検出信号が得られ、アナログデジタル変換器21によりサンプリングかつデジタイズされた検出信号が連続的に生成される。
【0051】
測定処理部42は、この検出信号を取得すると、既存の手法で検出信号から被測定交流場の測定値を導出する。
【0052】
以上のように、上記実施の形態1によれば、高周波磁場発生器2は、被測定交流場に対応して電子スピン量子状態が変化するとともにマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材1に対してマイクロ波を印加する。高周波電源11は、高周波磁場発生器2にマイクロ波を発生させる。発光装置12は、磁気共鳴部材1に照射すべき励起光を出射する。測定制御部41は、高周波電源および発光装置を制御して所定の測定シーケンスでマイクロ波および励起光を磁気共鳴部材に印加する。特に、測定制御部41は、ハーンエコーパルスシーケンス(またはダイナミックデカップリング)に基づくマイクロ波のパルスシーケンスを磁気共鳴部材1に印加する。その際、上述のマイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数が被測定交流場の周期とは異なる。
【0053】
これにより、通常のハーンエコーシーケンス(あるいは通常のダイナミックデカップリング)より高い感度で被測定交流場の測定が行われる。
【0054】
実施の形態2.
【0055】
図6は、実施の形態2における検出信号のサンプリングについて説明する図である。実施の形態2では、例えば図6に示すように、アナログデジタル変換器21は、アンダーサンプリング条件の所定のサンプリング周波数fsで検出信号をサンプリングしてデジタイズし、デジタイズした検出信号を演算処理装置31に出力する。アンダーサンプリング条件のため、実施の形態2では、検出信号に基づく可観測帯域は、0からfs/2までの帯域となる。
【0056】
図7は、実施の形態2において可観測帯域に現れる検出信号について説明する図である。例えば図7に示すように、測定対象である交流場の成分の他、不要な成分が検出信号に含まれている場合、エイリアシングによって、不要な成分が可観測帯域に入り込むことがある。そのため、このような不要な成分を減衰させるために、実施の形態2では、検出信号に対して、所定の測定帯域以外の帯域を減衰させるフィルター処理が行われる。この測定帯域は、サンプリング周波数fsに対応して設定される。なお、このフィルター処理は、アナログ信号としての検出信号に対してアナログ回路によって行われてもよいし、デジタル信号としての検出信号に対してデジタルシグナルプロセッサーや上述の測定処理部42によって行われてもよい。
【0057】
図8は、上述のフィルター処理で、サンプリング周波数fsの2分の1(fs/2)からサンプリング周波数fsまでの範囲に対応する帯域を減衰させる場合について説明する図である。例えば、上述の測定帯域が、0からサンプリング周波数fsの2分の1までの範囲に対応し、かつ被測定交流場の磁束密度に対する検出信号の強度の微分の最大値(max|dS/dB|)となるピーク周波数を含む帯域となるように、スピンロック周波数fLOCKが設定される。この場合、エイリアシングが抑制され、例えば図8に示すように、サンプリング周波数fsの整数(n-1)倍の周波数((n-1)fs)とサンプリング周波数fsの整数(n-1)倍にサンプリング周波数fsの2分の1を加算した周波数((n-1)fs+fs/2)との間の範囲に測定帯域が設定され、これにより、可観測帯域において良好な感度で検出信号が検出される。
【0058】
図9は、上述のフィルター処理で、0からサンプリング周波数の2分の1(fs/2)までの範囲に対応する帯域を減衰させる場合について説明する図である。例えば、上述の測定帯域が、サンプリング周波数fsの2分の1からサンプリング周波数fsまでの範囲に対応し、かつ被測定交流場の磁束密度に対する検出信号の強度の微分の最大値となるピーク周波数を含む帯域となるように、スピンロック周波数fLOCKが設定される。この場合、エイリアシングを利用することを前提として、例えば図9に示すように、サンプリング周波数fsの整数(n-1)倍にサンプリング周波数fsの2分の1を加算した周波数((n-1)fs+fs/2)とサンプリング周波数fsの整数n倍の周波数(nfs)との間の範囲に測定帯域が設定され、これにより、可観測帯域において良好な感度で検出信号が検出される。なお、この場合、エイリアシングによって、検出信号は、(n-1/2)×fsに対して対称となる周波数で検出される。
【0059】
なお、実施の形態2に係る測定装置のその他の構成および動作については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0060】
以上のように、上記実施の形態2によれば、上述のフィルター処理によって、良好な感度の測定帯域に対応して不要成分が抑制される。
【0061】
実施の形態3.
【0062】
図10は、実施の形態3における測定シーケンス(ダイナミックデカップリング)について説明する図である。実施の形態3では、例えば図10に示すように、測定シーケンスとしてダイナミックデカップリングが使用される。ダイナミックデカップリングとしては、XY8-k、CPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)などがある。
【0063】
測定制御部41は、この測定シーケンスにおいて、ダイナミックデカップリングに基づくマイクロ波のパルスシーケンスを磁気共鳴部材1に印加する。ただし、マイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数(1/fLOCK)が、被測定交流場の周期(1/fAC)より長い。なお、ダイナミックデカップリングの場合のスピンロック周波数の逆数(1/fLOCK)は、例えば図10に示すように、パルスシーケンスにおけるN個のπパルスにおいて連続する3つのπパルスのうちの最初のπパルスの中心から最後のπパルスの中心までの時間長となる。
【0064】
図11は、実施の形態3における被測定交流場の周波数fACに対する傾き最大値max|dS/dB|について説明する図である。
【0065】
ダイナミックデカップリングの場合、例えば図11に示すように、被測定交流場の周波数fACに対する傾き最大値max|dS/dB|の特性が、πパルス数Nに応じて変化するものの、ピーク周波数がスピンロック周波数fLOCKより高くなっている。そのため、被測定交流場の周波数fACが、スピンロック周波数fLOCKより高く設定される。つまり、マイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数(1/fLOCK)が、被測定交流場の周期(1/fAC)より長く設定される。
【0066】
なお、実施の形態3に係る測定装置のその他の構成および動作については実施の形態1または2と同様であるので、その説明を省略する。
【0067】
実施の形態4.
【0068】
図12は、実施の形態4における測定シーケンスの一例を示す図である。実施の形態4では、例えば図12に示すように、測定制御部41は、高周波電源11および発光装置12を制御して第1の測定シーケンス(前半シーケンス)でマイクロ波および励起光を磁気共鳴部材1に印加するとともに、第2の測定シーケンス(後半シーケンス)でマイクロ波および励起光を磁気共鳴部材1に印加する。第1の測定シーケンスおよび第2の測定シーケンスは、それぞれ、実施の形態1の測定シーケンスと同様である。ただし、第2の測定シーケンスのマイクロ波の最終パルスの位相が、第1の測定シーケンスのマイクロ波の最終パルスの位相に対して反転している。実施の形態4では、測定制御部41は、第1の測定シーケンスおよび第2の測定シーケンスのそれぞれにおいて、ハーンエコーパルスシーケンスに基づくマイクロ波のパルスシーケンスを磁気共鳴部材1に印加する。ここでは、第1および第2の測定シーケンスは、連続している。なお、実施の形態1では、第2の測定シーケンスのマイクロ波の最終パルスは、第1の測定シーケンスのマイクロ波の最終パルスと同位相となっている。
【0069】
ここでは、マイクロ波のパルスシーケンスにおける最終のπ/2パルスについて、前半シーケンスの最終パルスは、スピン状態を、ブロッホ球におけるy軸の正方向を中心としてπ/2だけ(反時計回りに)回転させ、後半シーケンスの最終パルスは、スピン状態を、ブロッホ球におけるy軸の負方向を中心としてπ/2だけ(反時計回りに)回転させる。これにより、パルスシーケンス終了時のスピン状態の回転角が互いに180度異なるため、検出値の正負が反転する。なお、図12に示す場合では、前半シーケンスおよび後半シーケンスの最終パルスは、y軸を中心としてスピン状態を回転させているが、その代わりに、x軸を中心としてスピン状態を(互いに反対方向に)回転させるようにしてもよい。
【0070】
測定処理部42は、(a)第1の測定シーケンスの検出信号および第2の測定シーケンスの検出信号を取得し、(b)既存の手法でそれらの検出信号に基づいて被測定交流場の検出値(つまり、それぞれの測定シーケンスについての測定値である第1検出値および第2検出値)をそれぞれ導出し、(c)第1検出値と第2検出値との差分を、被測定交流場の測定値として導出する。
【0071】
図13は、実施の形態4における被測定交流場の周波数fACに対応する感度について説明する図である。図14は、実施の形態4における第1検出値、第2検出値、および測定値について説明する図である。図14は、連続的に繰り返し測定(第1および第2測定シーケンス)を行った際の波形を示している。図15および図16は、実施の形態4における被測定交流場の周波数fACに対する傾き最大値max|dS/dB|について説明する図である。なお、図15では、サンプリング周波数fsが9kHzに設定されており、図16では、サンプリング周波数fsが6kHzに設定されている。また、図15および図16では、実施の形態1の場合(つまり、1回の測定シーケンスで1つの測定値を得る場合)をシングルシーケンスと称し、実施の形態4の場合(つまり、2回の測定シーケンスで1つの測定値を得る場合)をダブルシーケンスと称している。
【0072】
実施の形態4では、第2の測定シーケンスのマイクロ波の最終パルスの位相が、第1の測定シーケンスのマイクロ波の最終パルスの位相に対して反転しているため、被測定交流場の周波数fACがサンプリング周波数fsの略整数倍である場合、例えば図13に示すように、前半シーケンスと後半シーケンスとで、マイクロ波のパルスシーケンスに対する被測定交流場の位相が略同相となり、検出値の正負が反転するため、例えば図14および図15並びに図16に示すように、測定値(検出値の差分)の振幅が各検出値の振幅の略2倍となる。
【0073】
一方、被測定交流場の周波数fACがサンプリング周波数fsの略半整数倍である場合、例えば図13に示すように、前半シーケンスと後半シーケンスとで、マイクロ波のパルスシーケンスに対する被測定交流場の位相が略逆相となり、例えば図15および図16に示すように、検出値の正負が反転するため、測定値(検出値の差分)がゼロに近くなる。
【0074】
したがって、感度(傾き最大値max|dS/dB|)が被測定交流場の周波数fACをスピンロック周波数fLOCKに一致させたときの感度より高くなるように、被測定交流場の周波数fACは、最大ピーク周波数(図15では27kHz、図16では24kHz)に隣接する測定帯域内に設定される。
【0075】
なお、この場合、実施の形態2のようにアンダーサンプリング条件で検出信号のデジタイズを行うと、可観測帯域(0からfs/4まで)において、最大ピークの周波数は、可観測帯域の0Hzに対応してしまうため、最大ピーク周波数を含まないように測定帯域(例えば、図15および図16における測定帯域#1や測定帯域#2)が設定される。
【0076】
また、図15の場合(つまり、サンプリング周波数fsが9kHzである場合)、ダブルシーケンスでの最大ピーク周波数(傾き最大値max|dS/dB|が最大となる磁場周波数fAC)がシングルシーケンスでのピーク周波数に一致しているが、サンプリング周波数fsなどに起因してダブルシーケンスでの最大ピーク周波数がシングルシーケンスでのピーク周波数に一致しない場合でも測定帯域を上述のように適切に設定することで、磁場周波数fACがスピンロック周波数fLOCKに一致する場合の傾き最大値max|dS/dB|より高い傾き最大値max|dS/dB|(つまり、感度)で磁場測定が行われる。例えば図16に示すように、シングルシーケンスでのピーク周波数27kHzが、ダブルシーケンスでの周波数特性のノッチ部分に位置するような場合でも、最大ピーク周波数24kHzに隣接して測定帯域を設定することで、上述のような高い感度で磁場測定が行われる。
【0077】
他方、所望の測定帯域が予めある場合、その測定帯域内に、またはその測定帯域に隣接して、最大ピーク周波数が位置するように、サンプリング周波数fsを設定することで、上述のような高い感度で磁場測定が行われる。
【0078】
なお、実施の形態4に係る測定装置のその他の構成および動作については他の実施の形態のいずれかと同様であるので、その説明を省略する。
【0079】
以上のように、上記実施の形態4では、測定値の振幅が大きくなるため、良好な感度で磁場が測定される。また、上述のように前半シーケンスおよび後半シーケンスの2つの検出値の差分を導出するため、当該2つの検出値に含まれる同相のノイズ成分が抑制される。
【0080】
実施の形態5.
【0081】
実施の形態5では、測定制御部41は、第1の測定シーケンスおよび第2の測定シーケンスのそれぞれにおいて、例えば図10に示すようなダイナミックデカップリングに基づくマイクロ波のパルスシーケンスを磁気共鳴部材1に印加する。ただし、実施の形態4と同様に、第2の測定シーケンスのマイクロ波の最終パルスの位相が、第1の測定シーケンスのマイクロ波の最終パルスの位相に対して反転している。ここでは、第1および第2の測定シーケンスは、連続している。なお、実施の形態3では、第2の測定シーケンスのマイクロ波の最終パルスは、第1の測定シーケンスのマイクロ波の最終パルスと同位相となっている。
【0082】
また、実施の形態3と同様に、マイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数(1/fLOCK)が、被測定交流場の周期(1/fAC)より長い。なお、ダイナミックデカップリングの場合のスピンロック周波数の逆数(1/fLOCK)は、前半シーケンスおよび後半シーケンスのそれぞれのパルスシーケンスにおけるN個のπパルスにおいて連続する3つのπパルスのうちの最初のπパルスの中心から最後のπパルスの中心までの時間長となる。
【0083】
図17および図18は、実施の形態5における被測定交流場の周波数fACに対する傾き最大値max|dS/dB|について説明する図である。図18は、図17の一部(ピーク部分)を拡大したものである。なお、図17および図18は、πパルス数Nが8であり、サンプリング周波数fsが9kHzであり、スピンロック周波数fLOCKが36kHzである場合の特性を示している。また、図17および図18では、実施の形態3の場合(つまり、1回の測定シーケンスで1つの測定値を得る場合)をシングルシーケンスと称し、実施の形態5の場合(つまり、2回の測定シーケンスで1つの測定値を得る場合)をダブルシーケンスと称している。
【0084】
ダイナミックデカップリングの場合、被測定交流場の周波数fACに対する傾き最大値max|dS/dB|の特性が、πパルス数Nに応じて変化するものの、例えば図17および図18に示すように、ピーク周波数がスピンロック周波数fLOCKより高くなっている。そのため、被測定交流場の周波数fACが、スピンロック周波数fLOCKより高く設定される。つまり、マイクロ波のパルスシーケンスのスピンロック周波数の逆数(1/fLOCK)が、被測定交流場の周期(1/fAC)より長く設定される。
【0085】
なお、実施の形態5に係る測定装置のその他の構成および動作については実施の形態4と同様であるので、その説明を省略する。
【0086】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、例えば、光検出磁気共鳴を利用した測定装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 磁気共鳴部材
2 高周波磁場発生器
3 磁石
11 高周波電源
12 発光装置
13 受光装置
41 測定制御部
42 測定処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18