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特開2025-14996低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法
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  • 特開-低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法 図1
  • 特開-低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014996
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/12 20060101AFI20250123BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20250123BHJP
   C22B 3/20 20060101ALI20250123BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20250123BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20250123BHJP
   C25B 1/16 20060101ALI20250123BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20250123BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B7/02 Z
C22B3/20
C22B3/24
C22B3/44 101Z
C25B1/16
C25B9/19
H01M10/54
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118028
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】391023415
【氏名又は名称】株式会社アサカ理研
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 慶太
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】平岡 太郎
【テーマコード(参考)】
4K001
4K021
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA34
4K001BA24
4K001DB16
4K001DB35
4K001EA01
4K001EA03
4K021AB01
4K021BA05
4K021DB31
4K021DC15
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】リチウム濃度が低いリチウム塩水溶液から短時間で、高純度の水酸化リチウム又はリチウム塩を高収率で製造できる方法を提供する。
【解決手段】低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法が、この低濃度リチウム塩水溶液中のリチウムをリチウム吸着剤に吸着させ、リチウムを吸着したこのリチウム吸着剤中のリチウムを鉱酸で溶離し、この低濃度リチウム塩水溶液から第1のリチウム塩水溶液を得るリチウム抽出工程、この第1のリチウム塩水溶液を精製して第3のリチウム塩水溶液を得る精製工程、この第3のリチウム塩水溶液を蒸発濃縮して第4のリチウム塩水溶液を得る蒸発濃縮工程、及び、この第4のリチウム塩水溶液を膜電解して水酸化リチウム水溶液と、鉱酸と、この第4のリチウム塩水溶液よりも希薄な第5のリチウム塩水溶液を得る膜電解工程を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法であって、
当該低濃度リチウム塩水溶液中のリチウムをリチウム吸着剤に吸着させ、リチウムを吸着した該リチウム吸着剤中のリチウムを鉱酸で溶離し、当該低濃度リチウム塩水溶液から第1のリチウム塩水溶液を得る工程、
当該第1のリチウム塩水溶液を精製して第3のリチウム塩水溶液を得る精製工程、
当該第3のリチウム塩水溶液を蒸発濃縮して第4のリチウム塩水溶液を得る蒸発濃縮工程、及び、
当該第4のリチウム塩水溶液を膜電解して水酸化リチウム水溶液と、鉱酸と、当該第4のリチウム塩水溶液よりも希薄な第5のリチウム塩水溶液を得る膜電解工程を含む、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項2】
請求項1に記載された低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法であって、
沈殿が発生しない量のアルカリを前記低濃度リチウム塩水溶液に添加する前処理工程を更に含む、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項3】
請求項1に記載された低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法であって、
前記リチウム吸着剤中のリチウムの溶離は、前記膜電解工程で得られた前記鉱酸を含む鉱酸を前記リチウム吸着剤と接触させて実施される、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項4】
請求項1に記載された低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法であって、前記精製工程が、水酸化リチウム水溶液及び炭酸リチウム水溶液を前記第1のリチウム塩水溶液に添加し、前記第1のリチウム塩水溶液中のカルシウム、マグネシウム、及びマンガンを除去し、第2のリチウム塩水溶液を得る第1の精製工程を含む、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項5】
請求項4に記載された低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法であって、前記精製工程が、前記第2のリチウム塩水溶液とキレート剤を接触させ、前記第2のリチウム塩水溶液中のカルシウム、マグネシウム、及びマンガンを除去し、前記第3のリチウム塩水溶液を得る第2の精製工程を更に含む、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項6】
請求項1に記載された低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法であって、前記膜電解工程で得られる前記第5のリチウム塩水溶液中の、膜電解で生成する残留塩素及び塩素酸を鉱酸で処理し、第6のリチウム塩水溶液を得る第3の精製工程を含み、当該第6のリチウム塩水溶液を前記蒸発濃縮工程で前記第3のリチウム塩水溶液と共に蒸発濃縮する、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項7】
請求項1に記載された低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法であって、前記膜電解工程で得られる前記水酸化リチウム水溶液を、晶析、及び炭酸化からなる群から選ばれる少なくとも1つに付す製品化工程を更に含む、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項8】
請求項7に記載された低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法であって、前記炭酸化で使用する炭酸ガスが、大気から二酸化炭素を吸収して生成された炭酸ガスを含む、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項9】
請求項6に記載された低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法において、前記鉱酸は前記膜電解工程で得た鉱酸を含む、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法
【請求項10】
請求項4に記載された低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法において、前記水酸化リチウム水溶液は前記膜電解工程で得られた水酸化リチウム水溶液を含み、前記炭酸リチウム水溶液は、前記膜電解工程で得られた水酸化リチウム水溶液を炭酸化した炭酸リチウム水溶液を含む、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項11】
請求項1に記載された低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法であって、前記蒸発濃縮工程で発生する蒸留水は、前記リチウム吸着工程で使用される前記鉱酸の希釈水、前記膜電解工程の陰極液、及び前記膜電解工程で得られる鉱酸の希釈水からなる群から選ばれる少なくとも1つとして利用される、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項12】
請求項7に記載された低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法であって、前記製品化工程で発生する蒸留水は、前記リチウム吸着工程で使用される前記鉱酸の希釈水、前記膜電解工程の陰極液、及び前記膜電解工程で得られる鉱酸の希釈水から選ばれる少なくとも1つとして利用される、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項13】
請求項1に記載された低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法であって、前記鉱酸は、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項14】
請求項1に記載され低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法であって、前記鉱酸は塩酸を含む、濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載された低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法であって、前記膜電解工程で用いる電力は、再生可能エネルギーによって得られた電力を含む、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項16】
請求項15に記載された低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法であって、前記再生可能エネルギーによって得られた電力は、太陽光発電、風力発電、水力発電、及びバイオマス発電からなる群から選択される少なくとも1つによって得られた電力を含む、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムはリチウムイオン二次電池等のリチウムイオン電池の原料として注目されており、その供給源としては、廃リチウム電池からリサイクルされるものの他、鉱物、かん水、海水等が知られている。前記かん水は天然の塩湖から得られ、通常、塩化リチウムの形態でリチウムを含有している。前記塩水中に含有されるリチウムの濃度は1g/L程度の低濃度リチウム塩水溶液である。
【0003】
そこで、天然の塩湖から得られる前記かん水を露地の蒸発池に供給し、1年以上かけて自然蒸発させて濃縮し、Mg、Ca、B等の不純物を除去した後、炭酸源と反応させ炭酸リチウムとして回収することが行われている。しかし、前記かん水を自然蒸発により濃縮する方法は、前記かん水の濃縮に長時間を要する上、天候等の自然条件の影響を受けやすく、更には濃縮過程でリチウムが他の不純物と塩を形成して失われる、硫酸塩が前記かん水に溶解している場合、硫酸リチウムは水に対する溶解度が小さく、当該かん水中のリチウムは硫酸リチウムとして析出してしまうので、当該かん水からリチウムを回収しきれないという問題がある。また、かん水からリチウムを回収するには、大量の水が必要で、水の乏しい地域では、水の枯渇や汚染などの環境汚染を引き起こすという問題がある。
【0004】
一方、かん水からリチウムを選択的に吸着し、分離することにより得られた液体等の第1塩化リチウム含有液に水酸化ナトリウムを添加し、中和後液を得る中和工程、前記中和後液とイオン交換樹脂とを接触させて、第2塩化リチウム含有液を得るイオン交換工程、及び、前記第2塩化リチウム含有液を電気透析に供して水酸化リチウム含有液を得る転換工程を包含する水酸化リチウムの製造方法が、特許文献1に開示されている。
【0005】
前記電気透析とは、バイポーラ膜電気透析である。バイポーラ膜電気透析では、精製した塩化リチウム水溶液から、直接塩酸と水酸化リチウムが生成される。しかし、生成する塩酸及び水酸化リチウムそれぞれの濃度は数%であるので、バイポーラ膜電気透析で生成した塩酸をリチウム溶離液として使用する場合、当該リチウム溶離液のリチウム濃度が十分に大きくならない。さらにバイポーラ膜電気透析で生成する水酸化リチウム水溶液の濃度も低いため、水酸化リチウムの晶析工程で大量の水を蒸発させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第7156322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている水酸化リチウムの製造方法の前記転換工程で電気透析に付される前記第2塩化リチウム含有液には、前記中和工程及びイオン交換工程で水酸化ナトリウムが使用され、前記第2塩化リチウム含有液はナトリウムを含有するので、前記第2塩化リチウム含有液を電気透析して得られる水酸化リチウム中には水酸化ナトリウムが混入するという問題と、ナトリウムが移動するための無駄な電力を使用するという問題があった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、リチウム濃度が低いリチウム塩水溶液から短時間で、高純度、高収率及び低コストで、かつ、環境汚染を引き起こさないリチウム塩の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、低濃度リチウム塩水溶液中のリチウムをリチウム吸着剤に吸着させ、リチウムを吸着した該リチウム吸着剤中のリチウムを鉱酸で溶離し、当該低濃度リチウム塩水溶液から第1のリチウム塩水溶液を得る工程、当該第1のリチウム塩水溶液を精製工程、蒸発濃縮工程、及び膜電解工程の順に付し、リチウム濃度が低いリチウム塩水溶液から短時間で、高純度、高収率及び低コストで、かつ、環境汚染を引き起こさないリチウム塩を製造できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0010】
本発明は、低濃度リチウム塩水溶液中のリチウムをリチウム吸着剤に吸着させ、リチウムを吸着した該リチウム吸着剤中のリチウムを鉱酸で溶離し、当該低濃度リチウム塩水溶液から第1のリチウム塩水溶液を得る工程、当該第1のリチウム塩水溶液を精製して第3のリチウム塩水溶液を得る精製工程、当該第3のリチウム塩水溶液を蒸発濃縮して第4のリチウム塩水溶液を得る蒸発濃縮工程、及び、当該第4のリチウム塩水溶液を膜電解して水酸化リチウム水溶液と、鉱酸と、当該第4のリチウム塩水溶液よりも希薄な第5のリチウム塩水溶液を得る膜電解工程を含む、低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法に関する。
【0011】
前記低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法は、好ましくは、沈殿が発生しない量のアルカリを前記低濃度リチウム塩水溶液に添加する前処理工程を更に含む。前記低濃度リチウム塩水溶液が、塩湖、海水、及び汽水からなる群から選ばれる少なくとも1つ由来のかん水である場合、リチウムを前記リチウム吸着剤に吸着させて得られる吸着後液を塩湖、海水、及び汽水からなる群から選ばれる少なくとも1つに戻す戻し工程を更に含んでいてよい。
【0012】
前記リチウム吸着剤中のリチウムの溶離は、好ましくは、前記膜電解工程で得られた前記鉱酸を含む鉱酸を前記リチウム吸着剤と接触させて実施される。
前記精製工程は、好ましくは、水酸化リチウム水溶液及び炭酸リチウム水溶液を前記第1のリチウム塩水溶液に添加し、前記第1のリチウム塩水溶液中のカルシウム、マグネシウム、及びマンガンを除去し、第2のリチウム塩水溶液を得る第1の精製工程を含む。
前記精製工程は、より好ましくは、前記第2のリチウム塩水溶液とキレート剤を接触させ、前記第2のリチウム塩水溶液中のカルシウム、マグネシウム、及びマンガンを除去し、前記第3のリチウム塩水溶液を得る第2の精製工程を更に含む。
前記低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法は、好ましくは、前記膜電解工程で得られる前記第5のリチウム塩水溶液中の、膜電解で生成する残留塩素及び塩素酸を鉱酸で処理し、第6のリチウム塩水溶液を得る第3の精製工程を含み、当該第6のリチウム塩水溶液は前記蒸発濃縮工程で前記第3のリチウム塩水溶液と共に蒸発濃縮される。
【0013】
前記低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法は、好ましくは、前記膜電解工程で得られる前記水酸化リチウム水溶液を、晶析、及び炭酸化からなる群から選ばれる少なくとも1つに付す製品化工程を更に含む。
前記炭酸化で使用する炭酸ガスは、好ましくは、大気から二酸化炭素を吸収して生成された炭酸ガスを含む。
前記鉱酸は、好ましくは前記膜電解工程で得た鉱酸を含む。
前記水酸化リチウム水溶液は、好ましくは、前記膜電解工程で得られた水酸化リチウム水溶液を含み、前記炭酸リチウム水溶液は、前記膜電解工程で得られた水酸化リチウム水溶液を炭酸化した炭酸リチウム水溶液を含む。
【0014】
前記蒸発濃縮工程で発生する蒸留水は、好ましくは、前記リチウム吸着工程で使用する溶離液、前記膜電解工程の陰極液、及び前記膜電解工程で得られる鉱酸の溶解水からなる群から選ばれる少なくとも1つとして利用される。
前記製品化工程で発生する蒸留水は、好ましくは、前記リチウム吸着工程で使用する溶離液、前記膜電解工程の陰極液、及び前記膜電解工程で得られる鉱酸の溶解水からなる群から選ばれる少なくとも1つとして利用される。
前記リチウム抽出工程で使用される前記鉱酸は、好ましくは、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選択される少なくとも1種を含み、より好ましくは、塩酸を含む。
前記膜電解工程で用いる電力は、好ましくは、再生可能エネルギーによって得られた電力を含み、より好ましくは、太陽光発電、風力発電、水力発電、及びバイオマス発電からなる群から選択される少なくとも1つによって得られた電力を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明の低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法は、リチウム濃度が低い前記リチウム塩水溶液から短時間で、高純度のリチウム塩を高収率及び低コストで、かつ、環境汚染を引き起こさないリチウム塩を製造できる方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法の1実施態様を示す説明図。
図2】本発明の低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法に用いるイオン交換膜電解槽の構造の1実施態様を示す説明的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明について更に詳細に説明する。
なお、数値範囲の「~」は、断りがなければ、以上から以下を表し、両端の数値をいずれも含む。また、数値範囲を示したときは、上限値および下限値を適宜組み合わせることができ、それにより得られた数値範囲も開示したものとする。
さらに図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0018】
添付の図面を参照しながら本発明の実施形態について更に詳しく説明する。
<リチウム抽出工程>
図1に示すように、前記実施形態の低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法(以後、リチウム回収方法と称する場合がある)は、低濃度リチウム塩水溶液1を出発物質とする。前記低濃度リチウム塩水溶液1中のリチウム含有量は、2mol/kg以下である。前記低濃度リチウム塩水溶液1は、好ましくは、塩湖、海水、及び汽水からなる群から選ばれる少なくとも1つ由来のかん水、より好ましくは塩湖由来のかん水である。
【0019】
前記低濃度リチウム塩水溶液1は、活物質粉等のリチウムを含む固体から得られる水溶液であってもよい。
【0020】
前記活物質粉について説明する。廃リチウムイオン電池が電池製品としての寿命が消尽した使用済みのリチウムイオン電池、又は、製造工程で不良品等として廃棄されたリチウムイオン電池である場合、まず、放電処理を行う。放電処理は抵抗放電など、安全性の高い種々の方法が採用され得る。放電により残留している電荷を全て放電させ、次いで、該廃リチウムイオン電池の筐体に開口部を形成した後、例えば、100~800℃の範囲の温度で加熱処理(焙焼)した後、ないし加熱処理せずにハンマーミル、ジョークラッシャー等の粉砕機で粉砕し、前記廃リチウムイオン電池を構成する筐体、集電体等を篩分けにより除去(分級)することにより、前記活物質粉を得ることができる。あるいは、前記放電処理後の前記廃リチウムイオン電池を前記粉砕機で粉砕し、前記筐体、集電体等を篩分けにより除去した後、前記範囲の温度で加熱処理することにより、前記活物質粉を得るようにしてもよい。
【0021】
前記廃リチウムイオン電池が、製造工程において製品化に用いられた残余の正極材料等である場合、前記放電処理及び開口部の形成を行わず、前記範囲の温度で加熱処理した後、ないし加熱処理せずに前記粉砕機で粉砕し、集電体等を篩分けにより除去して前記活物質粉を得るようにしてもよい。さらに前記廃リチウムイオン電池を前記粉砕機で粉砕し、集電体等を篩分けにより除去した後に前記範囲の温度で加熱処理して、ないし加熱処理せずに活物質粉を得るようにしてもよい。
【0022】
さらに前記リチウムを含む固体は、リチウムとアルミニウムを含むケイ酸塩鉱物の一種であるスポジュメンであってもよい。
【0023】
前記リチウムを含む固体を鉱酸に溶解して、前記リチウムを含む固体の酸溶解液を得る。前記リチウムを含む固体はリチウムの他に、鉄、アルミニウム、マンガン、コバルト、ニッケル等の有価金属を含んでいる場合がある。前記リチウムを含む固体の溶解に使用される前記鉱酸は、好ましくは、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選択される少なくとも1種を含み、より好ましくは塩酸を含み、更に好ましくは塩酸である。
【0024】
前記酸溶解液は、次に、水酸化リチウム(LiOH)が添加されることにより中和される。前記中和後の前記酸溶解液は、次に、溶媒抽出に供せられる。前記溶媒抽出では、前記有価金属のうち、リチウムを除く、マンガン、コバルト、ニッケルが各別に溶媒抽出され、あるいは鉄、アルミニウムが分離され、それぞれの金属硫酸塩水溶液として除去され、前記低濃度リチウム塩水溶液1が得られる。
【0025】
前記低濃度リチウム塩水溶液1は、塩湖、海水、及び汽水からなる群から選ばれる少なくとも1つ由来のかん水であってもよい。
【0026】
<リチウム吸着工程>
前記低濃度リチウム塩水溶液1は、好ましくは、貯留タンクで貯留され、沈殿が発生しない量のアルカリが前記低濃度リチウム塩水溶液1に添加され、リチウム吸着剤が充填された吸着塔へ液送される。前記吸着塔は好ましくはカラム式である。前記吸着塔では、リチウムと水素イオンが交換され、得られる溶液は酸性を呈し、貯留タンクへ戻される。以上の操作が繰り返され、前記低濃度リチウム塩水溶液1中のリチウムがリチウム吸着剤に吸着される。前記低濃度リチウム塩水溶液1に添加される前記アルカリとして、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。コストの観点から、好ましい前記アルカリは水酸化ナトリウムである。
【0027】
前記低濃度リチウム塩水溶液1の貯留タンクへの貯留量(kg)は、下記式(1)を満たすように調整される。
貯留量(kg)≦[リチウム吸着剤量(kg)×リチウム吸着剤のリチウム吸着容量(g/kg)]/低濃度リチウム塩水溶液1のリチウム濃度(g/kg)・・・(1)
前記式(1)が満たされる場合、低濃度リチウム塩水溶液中1のリチウムイオンが、効率良くリチウム吸着剤に吸着される。
【0028】
前記リチウム吸着剤として、公知のスピネル型マンガン酸リチウムが使用されてよい。前記リチウム吸着剤は、例えば特許3937865号公報に記載の製造方法により製造される。
【0029】
<溶離工程>
STEP1で前記低濃度リチウム塩水溶液1中のリチウムを吸着した前記吸着剤には、STEP2で鉱酸が添加され、前記吸着剤に吸着されたリチウムが溶離される。後述する蒸発濃縮工程、及び製品化工程で発生する蒸留水と、後述する膜電解工程で得られる鉱酸が溶離液タンクに添加され、前記リチウムが吸着された吸着剤が充填された吸着塔に液送される。前記吸着塔では、リチウムと水素イオンが交換され、得られる溶液は弱酸性を呈し溶離液タンクへ戻ってくる。以上の操作が繰り返され、前記低濃度リチウム塩水溶液1中のリチウムがリチウム吸着剤から溶離される。前記鉱酸は、好ましくは、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選択される少なくとも1種を含み、より好ましくは塩酸を含み、更に好ましくは塩酸である。前記低濃度リチウム塩水溶液1が塩化リチウム水溶液である場合、後述する膜電解工程で得られる塩酸濃度は35質量%まで上昇させられるので、前記溶離液中のリチウム濃度も大きくできる。一方、特許文献1に記載されている電気透析で得られる塩酸濃度は数%でしかない。
【0030】
前記低濃度リチウム塩水溶液1が、塩湖、海水、及び汽水からなる群から選ばれる少なくとも1つ由来のかん水である場合、前記実施形態のリチウム回収方法は、リチウムを前記リチウム吸着剤に吸着させて得られる吸着後液を塩湖、海水、及び汽水からなる群から選ばれる少なくとも1つに戻す戻し工程を含んでいてよい。
【0031】
<精製工程>
前記実施形態のリチウム回収方法は、STEP3で、前記第1のリチウム塩水溶液を精製して第3のリチウム塩水溶液を得る精製工程を含む。前記精製工程は、好ましくは、水酸化リチウム水溶液及び炭酸リチウム水溶液を前記第1のリチウム塩水溶液に添加し、前記第1のリチウム塩水溶液中のカルシウム、マグネシウム、及びマンガン2を除去し、第2のリチウム塩水溶液を得る第1の精製工程を含む。前記第2のリチウム塩水溶液中の不純物の含有量は数ppmである。前記第1の精製工程で使用される水酸化リチウム水溶液の少なくとも一部は、後述する膜電解工程で得られた水酸化リチウム水溶液であってよい。さらに前記第1の精製工程で使用される炭酸リチウム水溶液の少なくとも一部は、後述する膜電解工程で得られた水酸化リチウム水溶液を炭酸化した残液の炭酸リチウム水溶液であってよい。前記第1のリチウム塩水溶液が塩化リチウム水溶液である場合、前記第1の精製工程では、下記式(2)~(4)で示される反応が起きている。
2LiOH+MgCl→Mg(OH)↓+2LiCl・・・(2)
2LiOH+MnCl→Mn(OH)↓+2LiCl・・・(3)
LiCO+CaCl→CaCO↓+2LiCl・・・・・(4)
【0032】
前記精製工程は、好ましくは、前記第2のリチウム塩水溶液とキレート剤を接触させ、前記第2のリチウム塩水溶液中の微量のカルシウム、マグネシウム、及びマンガン2を除去し、前記第3のリチウム塩水溶液を得る第2の精製工程を更に含む。
前記第1の精製工程で除去されなかった不純物はキレート樹脂に より除去される。前記第3のリチウム塩水溶液中の不純物の含有量は100ppb未満である。前記キレート樹脂として、例えば三菱化学株式会社製ダイヤイオン CR11が挙げられる。前記キレート樹脂により他の重金属も除去されるので、前記第3のリチウム塩水溶液は重金属を含まず、前記第3のリチウム塩水溶液中の水酸化リチウムの純度は非常に高くなる。なお、前記CR11は、2価以上の金属を吸着するが、1価の金属を補足しにくい。また、前記第1の精製工程でカルシウム、マグネシウム、及びマンガンが除去されているので、前記第2の精製工程で使用される高価なキレート樹脂の負荷は低減される。
【0033】
前記第1の精製工程で水酸化リチウムが使用されるので、前記第3のリチウム塩にナトリウムが混入せず、後述する製品化工程でえられる製品の純度が高くなり、更に後述する膜電解工程の効率も上げられる。
【0034】
<蒸発濃縮工程>
前記実施形態のリチウム回収方法は、STEP4で、前記第3のリチウム塩水溶液を蒸発濃縮して第4のリチウム塩水溶液を得る蒸発濃縮工程を含む。前記第3のリチウム塩水溶液は、好ましくは、後述する膜電解工程で生成する残留塩素、及び塩素酸を鉱酸で処理して得られる第6のリチウム塩水溶液と共に前記蒸発濃縮工程に付される。前記蒸発濃縮工程で使用される蒸発濃縮装置として、例えば多重効用缶蒸発装置が挙げられる。さらに前記蒸発濃縮工程で発生する蒸留水7は、前記リチウム吸着工程で使用する溶離液、後述する膜電解工程の陰極液、及び後述する膜電解工程で得られる鉱酸の溶解水からなる群から選ばれる少なくとも1つとして利用されてよい。
【0035】
<膜電解工程>
前記実施形態のリチウム回収方法は、STEP5で、前記第4のリチウム塩水溶液を膜電解して水酸化リチウム水溶液と、鉱酸4と、前記第4のリチウム塩水溶液よりも希薄な第5のリチウム塩水溶液を得る膜電解工程を含む。STEP5の前記膜電解工程は、例えば、図2に示す膜電解槽11を用いて行うことができる。
【0036】
膜電解槽11は、一方の内側面に陽極板12を備え、陽極板12と対向する内側面に陰極板13を備え、陽極板12は電源の陽極14に接続され、陰極板13は電源の陰極15に接続されている。また、膜電解槽11は、イオン交換膜16により、陽極板12を備える陽極室17と、陰極板13を備える陰極室18とに区画されている。
【0037】
膜電解槽11では、陽極室17に前記第4のリチウム塩水溶液として例えば塩化リチウムを供給して電解を行うと、塩化物イオンが陽極板12上で残留塩素(Cl)を生成する一方、リチウムイオンはイオン交換膜16を介して陰極室18に移動する。
【0038】
陰極室18では、陰極液(HO)が水酸化物イオン(OH)と水素イオン(H)とに電離し、水素イオンが陰極板13上で水素ガス(H)を生成する一方、水酸化物イオンがリチウムと化合して水酸化リチウム水溶液3を生成する。前記蒸留水7、及び後述する晶析で生成する蒸留水8からなる群から選ばれる少なくとも1つの一部が前記陰極液として使用されてよい。
【0039】
前記膜電解工程で用いる電力は、好ましくは再生可能エネルギーによって得られた電力を含み、より好ましくは太陽光発電、風力発電、水力発電、及びバイオマス発電からなる群から選択される少なくとも1つによって得られた電力を含む。
【0040】
前記実施形態では、前記膜電解工程で生成した水素ガス(H)と残留塩素(Cl)とを反応させることにより、塩酸4を得ることができ、塩酸4はSTEP1で前記固体1の溶解に用いることができる。図2には示されていないが、前記第4のリチウム塩水溶液が硫酸イオンを含む場合、陽極室17で硫酸を得ることができる。前記第4のリチウム塩水溶液が硝酸イオンを含む場合、陽極室17で硝酸を得ることができる。すなわち、前記電解工程で鉱酸4を得ることができ、当該鉱酸4は前記活物質粉の溶解、及び前記第3の精製工程からなる群から選ばれる少なくとも1つに用いてよい。
【0041】
<製品化工程>
前記膜電解工程で得られた水酸化リチウム水溶液3は、STEP6で晶析により水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)5として回収することもでき、STEP7で炭酸化することにより、炭酸リチウム(LiCO)6としても回収でき、当該晶析及び炭酸化に付して酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)5及び炭酸リチウム(LiCO)6としても回収できる。前記晶析時には、蒸留水8が生成する。前記炭酸化は、例えば、水酸化リチウム水溶液3を、大気から二酸化炭素を吸収して生成された炭酸ガス(CO)と反応させることにより実施されてよい。
【0042】
前記膜電解工程で得られる水酸化リチウム成分は、不純物を含まない高純度水酸化リチウム水溶液である。したがって、晶析して得られる水酸化リチウム一水和物及び炭酸ガスを付加して得られる炭酸リチウムは、高純度リチウム塩となる。炭酸リチウムは水にわずかに溶解する(20℃における炭酸リチウムの水に対する溶解度は1.31質量%、Li量で2.46g/kg)。
前記製品化工程で発生する水は、前記リチウム吸着剤中のリチウムの鉱酸による溶離、前記膜電解工程で生成する鉱酸の希釈からなる群から選ばれる少なくとも1つで再利用され、本発明の低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法において水は循環する。したがって、系外からの水の添加を最小限に抑えられ、本発明の低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法は環境にやさしい。
さらに前記膜電解工程で得られる鉱酸は前記リチウムの溶離、及び前記第3の精製工程からなる群から選ばれる少なくとも1つで再利用され、前記製品化工程で得られる炭酸リチウム前記第1の精製工程で再利用される。したがって、本発明の低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法は、薬品コストを低減できるとともに、薬液循環することで、塩を排出しないため、環境にやさしい。
【0043】
前記鉱酸が塩酸である場合、前記膜電解工程では、塩素酸塩が陰極室18から逆泳動してくる水酸化物イオンによって生成され、蓄積される。前記蓄積された塩素酸塩は、水酸化リチウム水溶液の膜電解におけるリチウムの品質悪化、設備材質の劣化、及びイオン交換樹脂の劣化の原因となる。そこで、前記実施形態のリチウム回収方法は、好ましくは、STEP8として、前記膜電解工程で得られる前記第5のリチウム塩水溶液中の、膜電解で生成する残留塩素及び塩素酸を鉱酸で処理し、第6のリチウム塩水溶液を得る第3の精製工程を含む。前記第6のリチウム塩水溶液は、前記蒸発濃縮工程で前記第3のリチウム塩水溶液と共に蒸発濃縮されてよい。この操作はリチウムの回収率の向上に寄与する。さらに前記第3の精製工程で使用される鉱酸の少なくとも一部は、前記膜電解工程で得た鉱酸であってよい。
【0044】
前記第3の精製工程では、前記膜電解工程で膜電解に付された、陰極室17内の陰極液を空気と接触(曝気)させて脱気し、当該陰極液中の残留塩素濃度を非常に小さくする。さらに当該陰極液の一部を前記鉱酸で処理し、前記第6のリチウム塩水溶液を得る(下記式(2)参照)。
LiClO+6HCl→LiCl+3Cl+3HO・・・(2)
本発明の低濃度リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法が前記第3の精製工程を含み、リチウム塩水溶液が塩化リチウム水溶液である場合、前記膜電解工程得られる塩酸濃度は35質量%、水酸化リチウム水溶液中の水酸化リチウム濃度は5~11質量%にできる。
【符号の説明】
【0045】
1・・・低濃度リチウム塩水溶液、 2・・・カルシウム、マグネシウム及びマンガン
3・・・水酸化リチウム水溶液、 4・・・鉱酸又は塩酸、
5・・・水酸化リチウム・一水和物、 6・・・炭酸リチウム、 11…電解槽、
12…陽極板、 13…陰極板、 14…陽極、 15…陰極、 16…イオン交換膜、
17…陽極室、 18…陰極室。
図1
図2