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  • 特開-制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015032
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/24 20160101AFI20250123BHJP
【FI】
H02P21/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118092
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【弁理士】
【氏名又は名称】梅景 篤
(72)【発明者】
【氏名】古田 大地
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 和希
(72)【発明者】
【氏名】井手 徹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭義
(72)【発明者】
【氏名】上辻 清
(72)【発明者】
【氏名】松本 純
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB06
5H505CC01
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505GG05
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505LL13
5H505LL22
5H505MM10
5H505MM12
(57)【要約】
【課題】モータの低速域において、推定位置誤差の算出精度を向上可能な制御装置を提供すること。
【解決手段】制御装置は、モータが低速域で動作している場合に、第1周波数で変化するγ軸高調波成分を含むγ軸電流指令値I γ及び第1周波数で変化するδ軸高調波成分を含むδ軸電流指令値I δを出力するγ-δ電流指令値出力部52と、モータが低速域で動作している場合に、瞬時有効電力及び瞬時無効電力を算出し、瞬時有効電力から第1周波数の2倍の第2周波数で変化する第1脈動成分を抽出するとともに、瞬時無効電力から第2周波数で変化する第2脈動成分を抽出し、第1脈動成分及び第2脈動成分に基づいて推定位置誤差Δθ^reを算出する推定部55と、を備え、γ軸高調波成分はδ軸高調波成分と同じ振幅を有し、γ軸高調波成分の位相はδ軸高調波成分の位相よりも90度進んでいる。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動させるインバータを制御する駆動信号を生成する制御装置であって、
前記モータに流れる電流をγ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部と、
前記モータが所定の角速度よりも低い低速域で動作している場合に、第1周波数で変化するγ軸高調波成分を含むγ軸電流指令値及び前記第1周波数で変化するδ軸高調波成分を含むδ軸電流指令値を出力するγ-δ電流指令値出力部と、
前記γ軸電流値と前記γ軸電流指令値と前記δ軸電流値と前記δ軸電流指令値とに基づいてγ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値を算出するγ-δ電圧指令値算出部と、
前記γ軸電圧指令値及び前記δ軸電圧指令値を前記駆動信号に変換する駆動信号出力部と、
γ-δ座標系のγ軸とd-q座標系のd軸との位置誤差の推定値である推定位置誤差を算出する推定部と、
を備え、
前記γ軸高調波成分は、前記δ軸高調波成分と同じ振幅を有し、
前記γ軸高調波成分の位相は、前記δ軸高調波成分の位相よりも90度進んでおり、
前記推定部は、前記モータが前記低速域で動作している場合に、前記γ軸電流指令値又は前記γ軸電流値と、前記δ軸電流指令値又は前記δ軸電流値と、前記γ軸電圧指令値と、前記δ軸電圧指令値と、を用いて瞬時有効電力及び瞬時無効電力を算出し、前記瞬時有効電力から前記第1周波数の2倍の第2周波数で変化する第1脈動成分を抽出するとともに、前記瞬時無効電力から前記第2周波数で変化する第2脈動成分を抽出し、前記第1脈動成分及び前記第2脈動成分に基づいて前記推定位置誤差を算出する、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
位置センサを用いないでモータを制御する位置センサレス制御が知られている。例えば、非特許文献1には、d-q座標系の拡張誘起電圧を推定し、推定したd軸拡張誘起電圧とq軸拡張誘起電圧とに基づいて、永久磁石同期モータの全速度域において位置推定を行う位置センサレス制御が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】二村拓未、道木慎二,“信号重畳と速度により励起される拡張誘起電圧を利用した永久磁石同期モータの全速度域位置センサレス制御”,電気学会論文誌D(産業応用部門誌),電気学会,2020年,140巻,8号,p.589-596
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載されているような位置センサレス制御においては、q軸インダクタンスなどのモータパラメータを用いて、モータの低速域におけるd-q座標系のd軸とγ-δ座標系のγ軸との電気角誤差(推定位置誤差)が算出されることがある。しかしながら、モータパラメータには誤差が生じ得るので、推定位置誤差の算出精度が低下するおそれがある。
【0005】
本開示は、モータの低速域において、推定位置誤差の算出精度を向上可能な制御装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る制御装置は、モータを駆動させるインバータを制御する駆動信号を生成する装置である。この制御装置は、モータに流れる電流をγ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部と、モータが所定の角速度よりも低い低速域で動作している場合に、第1周波数で変化するγ軸高調波成分を含むγ軸電流指令値及び第1周波数で変化するδ軸高調波成分を含むδ軸電流指令値を出力するγ-δ電流指令値出力部と、γ軸電流値とγ軸電流指令値とδ軸電流値とδ軸電流指令値とに基づいてγ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値を算出するγ-δ電圧指令値算出部と、γ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値を駆動信号に変換する駆動信号出力部と、γ-δ座標系のγ軸とd-q座標系のd軸との位置誤差の推定値である推定位置誤差を算出する推定部と、を備える。γ軸高調波成分は、δ軸高調波成分と同じ振幅を有する。γ軸高調波成分の位相は、δ軸高調波成分の位相よりも90度進んでいる。推定部は、モータが低速域で動作している場合に、γ軸電流指令値又はγ軸電流値と、δ軸電流指令値又はδ軸電流値と、γ軸電圧指令値と、δ軸電圧指令値と、を用いて瞬時有効電力及び瞬時無効電力を算出し、瞬時有効電力から第1周波数の2倍の第2周波数で変化する第1脈動成分を抽出するとともに、瞬時無効電力から第2周波数で変化する第2脈動成分を抽出し、第1脈動成分及び第2脈動成分に基づいて推定位置誤差を算出する。
【0007】
上記制御装置においては、モータが低速域で動作している場合に、第1周波数で変化するγ軸高調波成分を含むγ軸電流指令値及び第1周波数で変化するδ軸高調波成分を含むδ軸電流指令値が出力される。そして、γ軸電流指令値又はγ軸電流値と、δ軸電流指令値又はδ軸電流値と、γ軸電圧指令値と、δ軸電圧指令値と、を用いて瞬時有効電力及び瞬時無効電力が算出される。γ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値は、推定位置誤差の位相を有する同じ振幅の項を含む式で表され、γ軸電圧指令値の項の位相はδ軸電圧指令値の項の位相よりも90度進んでいる。γ軸高調波成分はδ軸高調波成分と同じ振幅を有し、γ軸高調波成分の位相はδ軸高調波成分の位相よりも90度進んでいる。このため、瞬時有効電力は、推定位置誤差で表される初期位相を有するとともに第1周波数の2倍の第2周波数で変化する第1脈動成分を含み、瞬時無効電力は、推定位置誤差で表される初期位相を有するとともに第2周波数で変化する第2脈動成分を含み、第1脈動成分と第2脈動成分とは、同一の振幅を有し、モータパラメータを含まない。推定位置誤差は、第1脈動成分及び第2脈動成分に基づいて算出されるので、推定位置誤差はモータパラメータの影響を受けない。その結果、モータの低速域において、推定位置誤差の算出精度を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、モータの低速域において、推定位置誤差の算出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係る制御装置を含む制御システムの概略構成図である。
図2図2は、図1に示される演算器の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は、d軸とγ軸との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら一実施形態に係る制御装置を詳細に説明する。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。
【0011】
図1を参照しながら、一実施形態に係る制御装置を含む制御システムの概略構成を説明する。図1は、一実施形態に係る制御装置を含む制御システムの概略構成図である。図1に示される制御システム1は、モータ(電動機)Mの位置センサレス制御を行うシステムである。モータMは、位置センサレスのモータであり、例えば、永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)である。モータMは、例えば、電動フォークリフト及びプラグインハイブリッド車などの車両に搭載される。制御システム1は、インバータ回路2(インバータ)と、制御装置3と、電流センサSe1,Se2,Se3と、を含む。
【0012】
インバータ回路2は、直流電源PSから供給される直流電力によりモータMを駆動する。インバータ回路2は、コンデンサCと、スイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4,SW5,SW6と、を含む。
【0013】
コンデンサCは、直流電源PSから出力され、インバータ回路2へ入力される電圧を平滑化する。
【0014】
スイッチング素子SW1~SW6は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。スイッチング素子SW1は、U相の上アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW2は、U相の下アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW3は、V相の上アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW4は、V相の下アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW5は、W相の上アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW6は、W相の下アームのスイッチング素子である。コンデンサCの一方の端子は、直流電源PSの正極端子及びスイッチング素子SW1,SW3,SW5のそれぞれのコレクタ端子に接続されている。コンデンサCの他方の端子は、直流電源PSの負極端子及びスイッチング素子SW2,SW4,SW6のそれぞれのエミッタ端子に接続されている。
【0015】
スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は、モータMのU相の入力端子に接続され、この接続線にはU相の電流値を検出する電流センサSe1が配置されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は、モータMのV相の入力端子に接続され、この接続線にはV相の電流値を検出する電流センサSe2が配置されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は、モータMのW相の入力端子に接続され、この接続線にはW相の電流値を検出する電流センサSe3が配置されている。
【0016】
スイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲートには、制御装置3から駆動信号が供給される。スイッチング素子SW1~SW6のそれぞれは、ゲートに供給される駆動信号に基づいて、オン又はオフする。スイッチング素子SW1~SW6がそれぞれオン又はオフすることで、直流電源PSから出力される直流電力が、互いに位相が120度ずつ異なる3つの交流電力に変換され、それらの交流電力がモータMの3つの相(U相、V相、及びW相)の入力端子に入力されてモータMの回転子が回転する。
【0017】
電流センサSe1~Se3は、ホール素子又はシャント抵抗などによって構成される。電流センサSe1は、モータMのU相に流れる交流電流の電流値であるU相電流値Iを検出して制御装置3に出力する。電流センサSe2は、モータMのV相に流れる交流電流の電流値であるV相電流値Iを検出して制御装置3に出力する。電流センサSe3は、モータMのW相に流れる交流電流の電流値であるW相電流値Iを検出して制御装置3に出力する。なお、本実施形態では、制御システム1は、3つの電流センサ(電流センサSe1~Se3)を含んでいるが、2つの電流センサを含んでもよい。
【0018】
制御装置3は、モータMの位置センサレス制御を行う装置である。制御装置3は、インバータ回路2を制御することによって、モータMを駆動させる。制御装置3は、インバータ回路2を制御する駆動信号を生成する。制御装置3は、ドライブ回路4と、演算器5と、を含む。
【0019】
ドライブ回路4は、IC(Integrated Circuit)などによって構成される。ドライブ回路4は、演算器5から出力されるU相電圧指令値V 、V相電圧指令値V 、及びW相電圧指令値V と搬送波(三角波、ノコギリ波、又は逆ノコギリ波など)とを比較し、その比較結果に応じた駆動信号をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。
【0020】
演算器5は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などから構成される電子制御ユニットである。例えばROMに格納されているプログラムがRAM上にロードされてCPUで実行されることにより、図2に示される演算器5の各種機能が実現される。
【0021】
次に、図2及び図3を参照しながら、演算器5の機能構成を説明する。図2は、図1に示される演算器の機能構成を示すブロック図である。図3は、d軸とγ軸との関係を説明するための図である。図2に示されるように、演算器5は、機能的な構成要素として、座標変換部51と、γ-δ電流指令値出力部52と、γ-δ電圧指令値算出部53と、座標変換部54と、推定部55と、を含む。
【0022】
座標変換部51は、推定部55から出力される推定位置θ^reに基づいて、U相電流値I、V相電流値I及びW相電流値Iをγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する。すなわち、座標変換部51は、モータMに流れる電流をγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する電流値変換部として機能する。推定位置θ^reは、モータMの回転子の位置θreの推定値である。位置θreは、電気角とも称される。この変換方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0023】
座標変換部51は、γ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδをγ-δ電圧指令値算出部53及び推定部55に出力する。座標変換部51には、U相電流値I、V相電流値I及びW相電流値Iのうち、二相の電流値が入力され、残りの一相の電流値は、入力された二相の電流値から算出されてもよい。
【0024】
なお、「θ^re」の表記では「^」が「θ」の右上に位置しているが、「θ^re」と図2の推定部55から座標変換部51に向かう矢印に記載されている記号とは同じ意味である。他の「^」の表記についても同様とする。本明細書において記号「^」は、推定値を意味する。
【0025】
図3に示されるように、位置θreは、α-β座標系のα軸とd-q座標系のd軸とが成す角度である。推定位置θ^reは、α-β座標系のα軸とγ-δ座標系のγ軸とが成す角度である。α-β座標系は、固定座標系である。d-q座標系は、モータMの磁石のN極方向をd軸とし、d軸に直交する方向をq軸とした回転座標系である。γ-δ座標系は、位置センサレス制御における推定回転座標系であり、d-q座標系のd軸に相当する軸をγ軸とし、q軸に相当する軸をδ軸とした座標系である。γ-δ座標系のγ軸とd-q座標系のd軸とは、位置誤差Δθreだけずれている。
【0026】
すなわち、位置誤差Δθreは、γ-δ座標系のγ軸とd-q座標系のd軸とが成す角度(又はγ-δ座標系のδ軸とd-q座標系のq軸とが成す角度)の真値である。位置誤差Δθreは、電気角誤差とも称される。位置誤差Δθreがゼロである場合、γ軸はd軸に一致し、δ軸はq軸に一致する。
【0027】
γ-δ電流指令値出力部52は、外部から入力される角速度指令値ωと推定部55から出力される推定角速度ω^reとの角速度差Δωを算出し、角速度差Δωを用いてトルク指令値Tを算出する。推定角速度ω^reは、モータMの回転子の角速度ωreの推定値である。γ-δ電流指令値出力部52は、トルク指令値Tを用いてγ軸電流指令値及びδ軸電流指令値を算出する。なお、γ軸電流指令値及びδ軸電流指令値の算出方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0028】
モータMが中高速域で動作している場合、γ-δ電流指令値出力部52は、上述のように算出されたγ軸電流指令値及びδ軸電流指令値をγ軸電流指令値I γ及びδ軸電流指令値I δとしてγ-δ電圧指令値算出部53に出力する。γ-δ電流指令値出力部52は、例えば、推定角速度ω^reが所定の角速度以上である場合に、モータMが中高速域で動作していると判定し、推定角速度ω^reが所定の角速度よりも低い場合に、モータMが低速域で動作していると判定する。所定の角速度は、低速域と中高速域とを区分する角速度であり、例えば、後述する高調波成分を重畳しなくても、誘起電圧から位置誤差Δθreを所望の精度で推定可能な角速度であり、予め定められている。中高速域は、所定の角速度以上の速度領域である。低速域は、所定の角速度よりも低い速度領域である。
【0029】
なお、モータMが低速域で動作しているか中高速域で動作しているかの判定方法は、上記判定方法に限られない。
【0030】
モータMが低速域で動作している場合、γ-δ電流指令値出力部52は、上述のように算出されたγ軸電流指令値に、γ軸高調波成分I γhを重畳(加算)することによってγ軸電流指令値I γを算出する。同様に、モータMが低速域で動作している場合、γ-δ電流指令値出力部52は、上述のように算出されたδ軸電流指令値に、δ軸高調波成分I δhを重畳(加算)することによってδ軸電流指令値I δを算出する。γ-δ電流指令値出力部52は、γ軸電流指令値I γ及びδ軸電流指令値I δをγ-δ電圧指令値算出部53に出力する。すなわち、γ-δ電流指令値出力部52は、モータMが低速域で動作している場合に、γ軸高調波成分I γhを含むγ軸電流指令値I γ及びδ軸高調波成分I δhを含むδ軸電流指令値I δを出力する。
【0031】
γ軸高調波成分I γh及びδ軸高調波成分I δhは、振幅Iを有するとともに角速度ω(第1周波数)で変化し、γ軸高調波成分I γhの位相は、δ軸高調波成分I δhの位相よりも90度(π/2ラジアン)進んでいる。ここでは、式(1)で表されるγ軸高調波成分I γh及びδ軸高調波成分I δhが用いられる。なお、振幅Iは角速度によらず一定でもよいし、角速度が小さいほど大きくしてもよい。
【数1】
【0032】
γ-δ電圧指令値算出部53は、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δを生成する。γ-δ電圧指令値算出部53は、例えば、γ軸電流指令値I γとγ軸電流値Iγとの差である差分γ軸電流指令値ΔI γを算出するとともに、δ軸電流指令値I δとδ軸電流値Iδとの差である差分δ軸電流指令値ΔI δを算出し、差分γ軸電流指令値ΔI γ及び差分δ軸電流指令値ΔI δをγ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δに変換する。
【0033】
すなわち、γ-δ電圧指令値算出部53は、γ軸電流指令値I γとγ軸電流値Iγとδ軸電流指令値I δとδ軸電流値Iδとに基づいてγ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δを算出する。γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δの算出方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。γ-δ電圧指令値算出部53は、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δを座標変換部54及び推定部55に出力する。
【0034】
座標変換部54は、推定部55から出力される推定位置θ^reに基づいて、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δをU相電圧指令値V 、V相電圧指令値V 、及びW相電圧指令値V に変換する。この変換方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。座標変換部54は、U相電圧指令値V 、V相電圧指令値V 、及びW相電圧指令値V をドライブ回路4に出力する。すなわち、座標変換部54とドライブ回路4とは、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δを駆動信号に変換する駆動信号出力部として機能するといえる。
【0035】
推定部55は、推定位置誤差Δθ^reを算出する。推定位置誤差Δθ^reは、位置誤差Δθreの推定値である。推定部55は、推定位置誤差Δθ^reに基づいて、推定角速度ω^re及び推定位置θ^reを算出する。推定部55の動作の詳細は後述する。
【0036】
次に、モータMが低速域で動作している場合における推定位置誤差Δθ^reの導出理論を説明する。
【0037】
γ-δ座標系上の拡張誘起電圧モデル(γ軸電圧値Vγ及びδ軸電圧値Vδ)は、式(2)で表される。なお、pは、時間微分演算子d/dtを表す。巻線抵抗R、d軸インダクタンスL、q軸インダクタンスL、及び誘起電圧定数Kは、制御対象のモータMのモータパラメータである。
【数2】
【0038】
pΔθre、pL及びpLはゼロとみなされ得るので、式(2)にpΔθre=0、pL=0及びpL=0を代入することによって、式(3)が得られる。
【数3】
【0039】
式(3)において、γ軸電圧値Vγ、δ軸電圧値Vδ、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、d軸電流値I、及びq軸電流値Iを、高調波成分を有するγ軸電圧値Vγh、δ軸電圧値Vδh、γ軸電流値Iγh、δ軸電流値Iδh、d軸電流値Idh、及びq軸電流値Iqhにそれぞれ置き換えることで、式(4)で表される高調波モデルが得られる。γ軸電圧値Vγh、δ軸電圧値Vδh、γ軸電流値Iγh、δ軸電流値Iδh、d軸電流値Idh、及びq軸電流値Iqhは、角速度ωの周波数成分を含む。なお、後述のバンドパスフィルタによって基本波成分が除去されるので、以降の計算を簡単にするために、式(4)において基本波成分は除去されている。
【数4】
【0040】
ここで、高周波瞬時有効電力P(瞬時有効電力)及び高周波瞬時無効電力Q(瞬時無効電力)は、式(5)及び式(6)によってそれぞれ導出される。
【数5】

【数6】
【0041】
式(4)を用いて式(5)を変形することによって、式(7)が得られる。同様に、式(4)を用いて式(6)を変形することによって、式(8)が得られる。
【数7】

【数8】
【0042】
d軸電流値Idh及びq軸電流値Iqhは、式(9)及び式(10)でそれぞれ表される。
【数9】

【数10】
【0043】
式(10)を用いて式(7)を変形することによって、式(11)が得られる。同様に、式(9)を用いて式(8)を変形することによって、式(12)が得られる。
【数11】

【数12】
【0044】
モータMが低速域で動作している場合には、γ軸高調波成分I γhを含むγ軸電流指令値I γとδ軸高調波成分I δhを含むδ軸電流指令値I δとが用いられる。後述のバンドパスフィルタによって高調波成分が抽出されることから、以降の計算を簡単にするために、γ軸高調波成分I γhがγ軸電流値Iγhとして用いられ、δ軸高調波成分I δhがδ軸電流値Iδhとして用いられる。この場合、γ軸電流値Iγhの微分値pIγh及びδ軸電流値Iδhの微分値pIδhは、式(13)で表される。
【数13】
【0045】
式(1)、式(9)、式(10)及び式(13)を用いて、式(11)を整理することによって、式(14)に示されるように、モータMが低速域で動作している場合の高周波瞬時有効電力Pが定式化される。
【数14】
【0046】
式(1)、式(9)、式(10)及び式(13)を用いて、式(12)を整理することによって、式(15)に示されるように、モータMが低速域で動作している場合の高周波瞬時無効電力Qが定式化される。
【数15】
【0047】
式(14)に示されるように、高周波瞬時有効電力Pの脈動成分Ph(h)(第1脈動成分)は、sin2(ωt-Δθre)に応じて変化する。すなわち、脈動成分Ph(h)は、角速度ωの2倍の角速度2ω(第2周波数)で変化する。したがって、角速度2ωを含む周波数帯を通過させるバンドパスフィルタを式(14)に適用することで、式(16)に示される脈動成分Ph(h)が抽出される。
【数16】
【0048】
式(15)に示されるように、高周波瞬時無効電力Qの脈動成分Qh(h)(第2脈動成分)は、cos2(ωt-Δθre)に応じて変化する。すなわち、脈動成分Qh(h)は、角速度ωの2倍の角速度2ωで変化する。したがって、角速度2ωを含む周波数帯を通過させるバンドパスフィルタを式(15)に適用することで、式(17)に示される脈動成分Qh(h)が抽出される。
【数17】
【0049】
dq電流位相θih(dq)は、脈動成分Ph(h)と脈動成分Qh(h)とを用いて式(18)で表される。
【数18】
【0050】
指令値に対して実測値はπ/4(rad)遅れることから、γδ電流位相θih(γδ)は、式(19)で表される。
【数19】
【0051】
推定位置誤差Δθ^reは、dq電流位相θih(dq)とγδ電流位相θih(γδ)とを用いて式(20)で表される。
【数20】
【0052】
以上説明した導出理論に基づき、推定部55は、推定位置誤差Δθ^reを算出する。まず、推定部55は、モータMが低速域で動作している場合に、γ軸電流指令値I γ、δ軸電流指令値I δ、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δを用いて、高周波瞬時有効電力Pの脈動成分Ph(h)及び高周波瞬時無効電力Qの脈動成分Qh(h)を算出する。具体的には、推定部55は、γ軸電流指令値I γ、δ軸電流指令値I δ、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δを用いて、瞬時有効電力P及び瞬時無効電力Qを算出する。続いて、推定部55は、瞬時有効電力Pに角速度2ωを含む周波数帯を通過させるバンドパスフィルタを適用することで、脈動成分Ph(h)を抽出する。同様に、推定部55は、瞬時無効電力Qに上記バンドパスフィルタを適用することで、脈動成分Qh(h)を抽出する。なお、モータMが低速域で動作しているか中高速域で動作しているかの判定方法としては、上述の判定方法が用いられる。
【0053】
続いて、推定部55は、脈動成分Ph(h)及び脈動成分Qh(h)に基づいて推定位置誤差Δθ^reを算出する。具体的に説明すると、まず、推定部55は、脈動成分Ph(h)と脈動成分Qh(h)とを用いて、式(18)によってdq電流位相θih(dq)を算出する。そして、推定部55は、式(19)によってγδ電流位相θih(γδ)を算出する。そして、推定部55は、dq電流位相θih(dq)とγδ電流位相θih(γδ)とを用いて式(20)によって推定位置誤差Δθ^reを算出する。
【0054】
続いて、推定部55は、推定位置誤差Δθ^reと所定の伝達関数とを乗算して推定角速度ω^reを求める。そして、推定部55は、推定角速度ω^reと推定位置誤差Δθ^reとに基づいて推定位置θ^reを算出する。推定角速度ω^re及び推定位置θ^reの算出方法は、例えば“拡張誘起電圧モデルに基づく突極型永久磁石同期モータのセンサレス制御”, 電気学会論文誌D(産業応用部門誌),2020年,122巻,12号,p.1088-1096に記載されているとおり公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。そして、推定部55は、推定位置θ^reを座標変換部51及び座標変換部54に出力し、推定角速度ω^reをγ-δ電流指令値出力部52に出力する。
【0055】
以上説明した制御装置3においては、モータMが低速域で動作している場合に、角速度ωで変化するγ軸高調波成分I γhを含むγ軸電流指令値I γ及び角速度ωで変化するδ軸高調波成分I δhを含むδ軸電流指令値I δが出力される。そして、式(5)及び式(6)に示されるように、γ軸電流指令値I γ、δ軸電流指令値I δ、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δを用いて高周波瞬時有効電力P及び高周波瞬時無効電力Qが算出される。
【0056】
式(1)に示されるように、γ軸高調波成分I γhはδ軸高調波成分I δhと同じ振幅Iを有し、γ軸高調波成分I γhの位相はδ軸高調波成分I δhの位相よりも90度(π/2ラジアン)進んでいる。式(2)に示されるように、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δは、推定位置誤差Δθ^reの位相を有する同じ振幅の項を含み、γ軸電圧指令値V γの項の位相がδ軸電圧指令値V δの項の位相よりも90度(π/2ラジアン)進んでいる。このため、式(14)に示されるように、高周波瞬時有効電力Pは、推定位置誤差Δθ^reで表される初期位相を有するとともに角速度2ωで変化する脈動成分Ph(h)を含み、式(15)に示されるように、高周波瞬時無効電力Qは、推定位置誤差Δθ^reで表される初期位相を有するとともに角速度2ωで変化する脈動成分Qh(h)を含む。脈動成分Ph(h)と脈動成分Qh(h)とは、同一の振幅を有する。
【0057】
高周波瞬時有効電力Pから脈動成分Ph(h)が抽出され、高周波瞬時無効電力Qから脈動成分Qh(h)が抽出され、式(18)に示されるように、脈動成分Ph(h)及び脈動成分Qh(h)に基づいてdq電流位相θih(dq)が算出される。さらに、式(20)に示されるように、dq電流位相θih(dq)とγδ電流位相θih(γδ)とから推定位置誤差Δθ^reが算出される。式(18)及び式(19)に示されるように、dq電流位相θih(dq)及びγδ電流位相θih(γδ)は、モータパラメータを含まない。したがって、推定位置誤差Δθ^reは、モータパラメータの影響を受けないので、モータMの低速域において、推定位置誤差の算出精度を向上させることが可能となる。
【0058】
以上、本開示の一実施形態について詳細に説明されたが、本開示に係る制御装置は上記実施形態に限定されない。
【0059】
上記実施形態では、推定部55は、モータMが低速域で動作している場合に、γ軸電流指令値I γ、δ軸電流指令値I δ、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δを用いて、高周波瞬時有効電力P及び高周波瞬時無効電力Qを算出しているが、この構成に代えて、推定部55は、モータMが低速域で動作している場合に、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δを用いて、高周波瞬時有効電力P及び高周波瞬時無効電力Qを算出する構成が採用されてもよい。具体的には、推定部55は、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δをそれぞれγ軸電流値Iγh、δ軸電流値Iδh、γ軸電圧値Vγh、及びδ軸電圧値Vδhとして用いて、式(5)によって高周波瞬時有効電力Pを算出し、式(6)によって高周波瞬時無効電力Qを算出してもよい。
【0060】
推定部55は、バンドパスフィルタに代えて、角速度2ωを含む周波数帯を通過させるハイパスフィルタを高周波瞬時有効電力Pに適用することで、脈動成分Ph(h)を抽出してもよい。同様に、推定部55は、バンドパスフィルタに代えて、上記ハイパスフィルタを高周波瞬時無効電力Qに適用することで、脈動成分Qh(h)を抽出してもよい。
【0061】
推定部55は、推定位置誤差Δθ^reに基づいて、モータMの脱調を検出してもよい。具体的には、推定部55は、推定位置誤差Δθ^reと予め定められた閾値とを比較し、推定位置誤差Δθ^reが閾値よりも大きい場合にモータMの脱調が生じたと判定し、推定位置誤差Δθ^reが閾値以下である場合にモータMの脱調が生じていないと判定する。閾値としては、例えば、π/2(rad)が用いられる。
【符号の説明】
【0062】
2…インバータ回路(インバータ)、3…制御装置、4…ドライブ回路(駆動信号出力部)、51…座標変換部(電流値変換部)、52…γ-δ電流指令値出力部、53…γ-δ電圧指令値算出部、54…座標変換部(駆動信号出力部)、55…推定部、M…モータ。
図1
図2
図3