(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015044
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】トルクリミッタ及びステアリング装置
(51)【国際特許分類】
F16D 7/02 20060101AFI20250123BHJP
B60R 25/021 20130101ALI20250123BHJP
【FI】
F16D7/02 F
B60R25/021
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118119
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000237307
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトコラムシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】谷岡 康弘
(72)【発明者】
【氏名】仲秋 貴雄
(57)【要約】
【課題】製造される個体毎のすべりトルクのばらつきを抑制可能としたトルクリミッタ及びステアリング装置を提供する。
【解決手段】ステアリング装置は、中間シャフト22と、中間シャフト22の外周に配置される環状のキーリング51と、中間シャフト22とキーリング51との間に配置される環状のトレランスリング53と、中間シャフト22とトレランスリング53との間に配置される環状の中間部材52とを備える。中間部材52は、中間部材52を中間シャフト22と一体回転可能に連結する連結部81と、連結部81から軸方向に延出される延出部82とを有する。連結部81は、中間シャフト22の外周に圧入されるように構成され、延出部82は、連結部81よりも中間シャフト22に加える圧力が小さくなるように構成される。トレランスリング53は、連結部81が設けられる軸方向範囲L1と重ならないように延出部82の外周に配置される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転部材と、
前記第1回転部材の外周に配置される環状の第2回転部材と、
前記第1回転部材と前記第2回転部材との間に配置され、径方向に弾性変形可能なバネ部を有する環状のトレランスリングと、
前記第1回転部材と前記トレランスリングとの間に配置される環状の中間部材と、を備え、
前記中間部材は、前記中間部材を前記第1回転部材と一体回転可能に連結する連結部と、前記連結部から軸方向に延出される延出部と、を有し、
前記連結部は、前記第1回転部材の外周に圧入されるように構成され、
前記延出部は、前記連結部よりも前記第1回転部材に加える圧力が小さくなるように構成され、
前記トレランスリングは、前記連結部が設けられる軸方向範囲と重ならないように前記延出部の外周に配置される、トルクリミッタ。
【請求項2】
前記延出部の内周面と前記第1回転部材の外周面との間には、環状の空間が形成される、請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項3】
前記第1回転部材は、軸方向に沿って延びる外歯セレーションが設けられた被連結部を有し、
前記連結部には、軸方向に沿って延びるとともに前記外歯セレーションが圧入状態で噛み合わされる内歯セレーションが設けられ、
前記外歯セレーション及び前記内歯セレーションのうちの少なくとも一方のセレーションには、前記少なくとも一方のセレーションと軸方向に連続するとともに前記中間部材の前記第1回転部材に対する連結に寄与しないガイドセレーションが設けられる、請求項1又は2に記載のトルクリミッタ。
【請求項4】
ステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトの外周に配置される環状のキーリングと、
前記ステアリングシャフトと前記キーリングとの間に配置され、径方向に弾性変形可能なバネ部を有する環状のトレランスリングと、
前記ステアリングシャフトと前記トレランスリングとの間に配置される環状の中間部材と、を備え、
前記中間部材は、前記中間部材を前記ステアリングシャフトと一体回転可能に連結する連結部と、前記連結部から軸方向に延出される延出部と、を有し、
前記連結部は、前記ステアリングシャフトの外周に圧入されるように構成され、
前記延出部は、前記連結部よりも前記ステアリングシャフトに加える圧力が小さくなるように構成され、
前記トレランスリングは、前記連結部が設けられる軸方向範囲と重ならないように前記延出部の外周に配置される、ステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクリミッタ及びステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されるように、多くの場合、車両用のステアリング装置には、ステアリングロック機構が設けられる。ステアリングロック機構は、盗難防止の観点から、イグニッションスイッチ等の起動スイッチのオフ時において、ステアリングシャフトの回転を規制する。
【0003】
特許文献1のステアリング装置において、ステアリングロック機構は、ステアリングシャフトの外周に設けられている。ステアリングシャフトは、ステアリングホイールが連結されるアッパシャフト、アッパシャフトに連結される中間シャフト、及び中間シャフトに連結されるとともにモータの回転が伝達される駆動シャフトを備えている。駆動シャフトは、筒状の入力軸及び出力軸と、棒状のトーションバーとを備えている。入力軸と出力軸とは、トーションバーを介して互いに連結されている。中間シャフトは、軸方向の一端に開口する嵌合穴が設けられた嵌合部を有している。駆動シャフトは、入力軸の端部が嵌合穴に圧入されることにより中間シャフトに連結されている。ステアリングロック機構を構成するキーリングには、その外周にロックバーが挿入可能な挿入部が設けられている。キーリングは、中間シャフトの嵌合部の外周にトレランスリングを介して嵌合されている。トレランスリングは、径方向に弾性変形可能なバネ部を有する環状の部材であり、バネ部の圧縮量に応じた摩擦力をトレランスリングと中間シャフトの嵌合部及びキーリングとの間に発生させる。
【0004】
キーリングの挿入部にロックバーが挿入された状態では、キーリングの回転が規制される。そのため、ステアリングシャフトに入力されるトルクがトレランスリングの摩擦力に応じたすべりトルク未満である場合には、ステアリングシャフトの回転が規制される。一方、ステアリングシャフトに入力されるトルクがすべりトルク以上である場合には、ステアリングシャフトがトレランスリングに対して相対回転することでその回転が許容される。これにより、例えばステアリングロック機構の誤作動によりステアリングシャフトの回転が規制される場合でも操舵が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようにすべりトルクは、トレランスリングと中間シャフトとの間に作用する摩擦力、すなわちトレランスリングのバネ部の圧縮量に応じて決まるため、中間シャフトの嵌合部の寸法管理が重要となる。一方、上記特許文献1のような構成において、嵌合部の外径は、入力軸の端部が圧入されることにより僅かながら変化するおそれがある。その結果、バネ部の圧縮量がばらつき、当該圧縮量に応じた摩擦力に基づくすべりトルクが製造される個体毎にばらつくおそれがある。
【0007】
なお、上記のような課題は、ステアリング装置に限らず、トレランスリングを用いて第1回転部材と第2回転部材との相対回転を規制するトルクリミッタを含む装置であれば、同様に生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するトルクリミッタは、第1回転部材と、前記第1回転部材の外周に配置される環状の第2回転部材と、前記第1回転部材と前記第2回転部材との間に配置され、径方向に弾性変形可能なバネ部を有する環状のトレランスリングと、前記第1回転部材と前記トレランスリングとの間に配置される環状の中間部材と、を備え、前記中間部材は、前記中間部材を前記第1回転部材と一体回転可能に連結する連結部と、前記連結部から軸方向に延出される延出部と、を有し、前記連結部は、前記第1回転部材の外周に圧入されるように構成され、前記延出部は、前記連結部よりも前記第1回転部材に加える圧力が小さくなるように構成され、前記トレランスリングは、前記連結部が設けられる軸方向範囲と重ならないように前記延出部の外周に配置される。
【0009】
上記構成によれば、中間部材は、連結部を第1回転部材の外周に圧入することにより、該第1回転部材と一体回転可能に連結される。延出部は、連結部よりも第1回転部材に加える圧力が小さくなるように構成されるため、中間部材を第1回転部材に連結したときにその外径が変化しにくい。また、第1回転部材の外径が変化した場合にも、延出部の外径が変化しにくい。そして、トレランスリングは、延出部の外周において、連結部が設けられる軸方向範囲と重ならないように配置されるため、トレランスリングのバネ部の変形量がばらつき難い。これにより、バネ部の変形量に応じた摩擦力、すなわちすべりトルクが製造される個体毎にばらつくことを抑制できる。
【0010】
上記トルクリミッタにおいて、前記延出部の内周面と前記第1回転部材の外周面との間には、環状の空間が形成されてもよい。
上記構成によれば、延出部が第1回転部材に対して接触しない、すなわち延出部から第1回転部材に加えられる圧力がゼロであるため、第1回転部材の外径が変化した場合に延出部の外径がより一層変化しにくい。また、上記構成では、延出部が縮径するように変形可能である。そのため、延出部と第1回転部材との間に環状の空間が形成されない場合に比べて、例えば公差範囲内で延出部の外径が設計値より大きくなった場合に、トレランスリングのバネ部の変形量が過大になることを抑制できる。これにより、すべりトルクが製造される個体毎にばらつくことを好適に抑制できる。
【0011】
上記トルクリミッタにおいて、前記第1回転部材は、軸方向に沿って延びる外歯セレーションが設けられた被連結部を有し、前記連結部には、軸方向に沿って延びるとともに前記外歯セレーションが圧入状態で噛み合わされる内歯セレーションが設けられ、前記外歯セレーション及び前記内歯セレーションのうちの少なくとも一方のセレーションには、前記少なくとも一方のセレーションと軸方向に連続するとともに前記中間部材の前記第1回転部材に対する連結に寄与しないガイドセレーションが設けられてもよい。
【0012】
上記構成によれば、中間部材を第1回転部材に連結する際において、外歯セレーション及び内歯セレーションの少なくとも一方をガイドセレーションと噛み合わせることで、中間部材の第1回転部材に対する周方向の大まかな位置合わせが行われる。そして、ガイドセレーションは、中間部材の第1回転部材に対する連結に寄与しないものであるため、外歯セレーション及び内歯セレーションの少なくとも一方をガイドセレーションに沿って容易にスライドさせることができる。これにより、中間部材の連結部を第1回転部材に容易に圧入することができ、中間部材の組み付け性を向上させることができる。
【0013】
上記課題を解決するステアリング装置は、ステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトの外周に配置される環状のキーリングと、前記ステアリングシャフトと前記キーリングとの間に配置され、径方向に弾性変形可能なバネ部を有する環状のトレランスリングと、前記ステアリングシャフトと前記トレランスリングとの間に配置される環状の中間部材と、を備え、前記中間部材は、前記中間部材を前記ステアリングシャフトと一体回転可能に連結する連結部と、前記連結部から軸方向に延出される延出部と、を有し、前記連結部は、前記ステアリングシャフトの外周に圧入されるように構成され、前記延出部は、前記連結部よりも前記ステアリングシャフトに加える圧力が小さくなるように構成され、前記トレランスリングは、前記連結部が設けられる軸方向範囲と重ならないように前記延出部の外周に配置される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、製造される個体毎のすべりトルクのばらつきを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態のステアリング装置の軸方向に沿った断面図である。
【
図2】第1実施形態のコラムシャフトにおけるキーリングの嵌合部分の軸方向に沿った拡大断面図である。
【
図3】第1実施形態のコラムシャフトにおけるキーリングの嵌合部分の軸方向と直交する断面であって、
図2のIII-III線断面図である。
【
図4】コラムシャフトの外歯セレーションと中間部材の内歯セレーションとの噛み合いを示す断面図である。
【
図5】第2実施形態のコラムシャフトにおけるキーリングの嵌合部分の軸方向に沿った拡大断面図である。
【
図6】コラムシャフトのガイドセレーションと中間部材のガイドセレーションとの間の噛み合いを示す断面図である。
【
図7】第3実施形態のコラムシャフトにおけるキーリングの嵌合部分の軸方向に沿った拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、トルクリミッタをステアリング装置のステアリングロック機構に適用した第1実施形態を図面に従って説明する。
【0017】
本明細書における「環状」は、全体として環状と見なせればよく、複数の部品又は部分を組み合わせて環状をなすものや、C字状のように一部に切り欠き等を有するものも含む。「環状」の形状には、軸方向視で、円形、楕円形、及び鋭い又は丸い角を持つ多角形が含まれるが、これらに限定されない。本明細書における「筒状」は、全体として筒状と見なせればよく、複数の部品又は部分を組み合わせて筒状をなすものや、C字状のように一部に切欠き等を有するものも含む。「筒状」の形状には、軸方向視で、円形、楕円形、及び鋭い又は丸い角を持つ多角形が含まれるが、これらに限定されない。本明細書における「棒状」は、全体として棒状と見なせればよく、複数の部品又は部分を組み合わせて棒状をなすものや、一部に切欠き等を有するものも含む。「棒状」の形状には、軸方向視で、円形、楕円形、及び鋭い又は丸い角を持つ多角形が含まれるが、これらに限定されない。
【0018】
(全体構成)
図1に示すように、ステアリング装置1は、ステアリングシャフト2を構成するコラムシャフト3と、コラムシャフト3を回転可能に収容するステアリングコラム4とを備えている。また、ステアリング装置1は、運転者による操舵を補助するためのアシスト力を付与する電動アクチュエータ5を備えている。ステアリングコラム4は、概ね車両前後方向に沿うように車両に搭載される。以下の説明では、
図1における左側を車両前側とし、
図1における右側を車両後側とする。また、「前」、「後」、「上」、「下」、「左」、「右」等の用語で表される向きは、車両を基準として定義する。
【0019】
コラムシャフト3の後側端部には、ステアリングホイール6が連結される。コラムシャフト3の前側端部には、ステアリングシャフト2を構成するインターミディエイトシャフト及びピニオンシャフト(いずれも図示略)が連結される。ピニオンシャフトは、ラックシャフトを介して転舵輪に連結される。これにより、運転者のステアリング操作に応じて転舵輪が転舵する。つまり、本実施形態のステアリング装置1は、ステアリングホイール6の回転が転舵輪を転舵させる転舵部に機械的に伝達される操舵装置である。なお、詳細な説明は省略するが、ステアリング装置1は、ステアリングホイール6の高さ位置を調整するチルト調整機能、及びその前後位置を調整するテレスコ調整機能を備えている。
【0020】
電動アクチュエータ5は、駆動源であるモータ11と、モータ11の回転を減速する減速機構12とを備えている。なお、減速機構12は、例えばウォーム減速機である。そして、電動アクチュエータ5は、モータ11の回転を減速してコラムシャフト3に伝達することで、アシスト力を付与する。
【0021】
詳しくは、コラムシャフト3は、アッパシャフト21と、第1回転部材及び第1シャフトである中間シャフト22と、第2シャフトであるトーションバー23と、ロアシャフト24とを備えている。
【0022】
アッパシャフト21は、長尺の筒状をなしている。本実施形態のアッパシャフト21は、軸方向視で、円形の形状を有している。アッパシャフト21の後側端部には、ステアリングホイール6が連結される。中間シャフト22は、長尺の棒状をなしている。本実施形態の中間シャフト22は、軸方向視で、円形の形状を有している。アッパシャフト21は、中間シャフト22にスプライン嵌合されている。これにより、アッパシャフト21は、中間シャフト22と一体回転可能かつ中間シャフト22に対して軸方向に相対移動可能に連結されている。中間シャフト22における前側端部には、嵌合部25が設けられている。嵌合部25は、車両前側に開口した嵌合穴26を有している。中間シャフト22の嵌合部25の外周には、後述するように、中間部材52及びトレランスリング53を介して第2回転部材であるキーリング51が嵌合されている。
【0023】
トーションバー23は、長尺の棒状をなしている。本実施形態のトーションバー23は、軸方向視で、円形の形状を有している。ロアシャフト24は、長尺の筒状をなしている。本実施形態のロアシャフト24は、軸方向視で、円形の形状を有している。トーションバー23の後側端部は、嵌合穴26に圧入されることにより、中間シャフト22と一体回転可能に連結されている。トーションバー23の前側端部は、ロアシャフト24における前側端部の開口に圧入されることにより、ロアシャフト24と一体回転可能に連結されている。つまり、ロアシャフト24は、トーションバー23を介して中間シャフト22と一体回転可能に連結されている。トーションバー23は、例えば中間シャフト22及びロアシャフト24にセレーション嵌合することにより、これらと一体回転可能に連結されている。
【0024】
ロアシャフト24には、減速機構12を構成するウォームホイール27が一体回転可能に連結されている。モータ11は、減速機構12を構成する図示しないウォームシャフトを介してウォームホイール27に連結されている。これにより、モータ11の回転が減速機構12により減速されてロアシャフト24に伝達されることで、アシスト力が付与される。
【0025】
ステアリングコラム4は、アッパシャフト21を回転可能に収容する筒状のインナチューブ31及びアウタチューブ32と、電動アクチュエータ5を構成するハウジング33とを備えている。本実施形態のインナチューブ31及びアウタチューブ32は、軸方向視で、円形の形状を有している。インナチューブ31は、軸受34を介してアッパシャフト21を回転可能に支持している。インナチューブ31とアウタチューブ32とは、通常時は軸方向への相対移動が規制された状態で嵌合しており、いわゆるテレスコ動作時にも一体的に動作するが、車両衝突等による衝撃荷重が作用した場合に軸方向に相対移動して収縮するように構成されている。
【0026】
ハウジング33は、トーションバー23の捩れ量に基づいて操舵トルクを検出するセンサ部41や減速機構12等を収容している。ハウジング33は、軸受42を介して中間シャフト22を回転可能に支持するとともに、軸受43,44を介してロアシャフト24を回転可能に支持している。
【0027】
(キーリングの嵌合構造)
次に、ステアリングロック機構Sを構成するキーリング51の嵌合構造について説明する。ステアリングロック機構Sは、イグニッションスイッチやスタートスイッチ等の車両の起動スイッチがオフである場合に、コラムシャフト3の回転を規制するように構成されている。
【0028】
図2及び
図3に示すように、ステアリングロック機構Sは、中間シャフト22の外周に嵌合されたキーリング51と、車体に設けられたロックバーBとを備えている。中間シャフト22の嵌合部25の外周には、中間部材52が一体回転可能に連結されている。そして、キーリング51は、トレランスリング53を介して中間部材52の外周に嵌合されている。ステアリングロック機構Sは、ロックバーBによってキーリング51の回転を拘束することにより、トレランスリング53とキーリング51及び中間部材52との間に発生する摩擦力に応じてコラムシャフト3の回転を規制する。つまり、キーリング51、中間部材52及びトレランスリング53によってトルクリミッタが構成されている。
【0029】
詳しくは、
図1及び
図2に示すように、嵌合部25は、その軸方向中央部に設けられるフランジ部61と、フランジ部61の後側に連続する被連結部62と、被連結部62の後側に連続する円形部63とを有している。フランジ部61は、径方向外側に延出された環状をなしている。本実施形態のフランジ部61は、軸方向視で、円形の形状を有している。被連結部62には、複数の外歯セレーション64が設けられている。外歯セレーション64は、径方向外側に突出するとともに、フランジ部61から連続して軸方向に沿って後側に延びている。円形部63の外周面は、滑らかな円筒状をなしている。円形部63の外径は、外歯セレーション64の歯底での外径以下となるように設定されている。
【0030】
図2及び
図3に示すように、キーリング51は、環状をなしている。本実施形態のキーリング51は、軸方向視で、円形の形状を有している。キーリング51の外周には、ロックバーBが挿入可能な複数の挿入部71が設けられている。挿入部71は、例えば軸方向に延びる溝状をなしている。複数の挿入部71は、キーリング51の外周に等角度間隔で配置されている。キーリング51の内周には、後側に開口した環状の収容凹部72が設けられている。
【0031】
トレランスリング53は、環状をなしている。本実施形態のトレランスリング53は、軸方向視で、C字状の形状を有している。トレランスリング53は、板状のバネ鋼をC字状に湾曲させることにより形成されている。トレランスリング53には、径方向に弾性変形可能な複数のバネ部53aが設けられている。各バネ部53aは、径方向外側に膨出した略長方形状をなしている。複数のバネ部53aは、例えばトレランスリング53の周方向に等角度間隔で形成されるとともに、軸方向に間隔を空けて二列形成されている。トレランスリング53は、キーリング51の収容凹部72内に収容されている。
【0032】
中間部材52は、環状をなしている。本実施形態の中間部材52は、軸方向視で円形の形状を有している。中間部材52は、中間部材52をコラムシャフト3と一体回転可能に連結する連結部81と、連結部81から軸方向に沿って後側に延出される延出部82とを有している。中間部材52の外径は、該中間部材52の軸方向全域に亘ってトレランスリング53の内径に応じた所定外径に設定されている。なお、所定外径は、キーリング51と中間部材52との間で径方向に圧縮されるバネ部53aの圧縮量が所定圧縮量となる外径である。所定圧縮量は、トレランスリング53と中間部材52との間に発生する摩擦力に応じたすべりトルクが予め決められたトルクとなるような垂直抗力をバネ部53aにおいて発生させる圧縮量である。これら所定外径及び所定圧縮量は、実験等の結果に基づいて予め設定されている。
【0033】
連結部81の内周面には、径方向内側に突出する複数の内歯セレーション83が設けられている。内歯セレーション83は、中間部材52の前側端面から軸方向に沿って後側に延びている。内歯セレーション83の軸方向に沿った長さは、外歯セレーション64の軸方向に沿った長さと略等しく設定されている。延出部82の内周面は滑らかな円筒状をなしている。延出部82の内径は、内歯セレーション83の歯底での内径以上となるように設定されており、円形部63の外径よりも大きい。延出部82の軸方向に沿った長さは、トレランスリング53の軸方向に沿った長さよりも長く設定されている。
【0034】
図4に示すように、外歯セレーション64の歯厚は、内歯セレーション83の歯溝幅よりも大きく設定されている。これにより、連結部81は、中間シャフト22の外周に圧入されるように構成されている。なお、外歯セレーション64の歯厚は、内歯セレーション83の歯溝幅よりも大きければ、軸方向に沿って一定であっても、軸方向に沿って変化してもよい。同様に、内歯セレーション83の歯溝幅は、外歯セレーション64の歯厚よりも小さければ、軸方向に沿って一定であっても、軸方向に沿って変化してもよい。なお、
図4は、中間部材52が中間シャフト22の嵌合部25に連結された状態を示すため、便宜上、外歯セレーション64の歯厚が内歯セレーション83の歯溝幅と一致している。
【0035】
図2及び
図3に示すように、中間部材52は、内歯セレーション83を嵌合部25の外歯セレーション64に対して圧入状態で噛み合わせることにより、中間シャフト22にセレーション嵌合されている。これにより、中間部材52は、中間シャフト22(すなわち、コラムシャフト3)と一体回転可能に連結されている。中間部材52の前側端部は、フランジ部61に当接している。
【0036】
上記のように円形部63の外周面及び延出部82の内周面は、滑らかな円筒状をなしている。そして、延出部82の内径は、円形部63の外径よりも大きいため、嵌合部25の外周面と中間部材52の内周面との間には、円環状の隙間が形成されている。したがって、中間シャフト22は、中間部材52の延出部82から圧力を受けていない。つまり、本実施形態では、中間部材52は、連結部81によってのみ中間シャフト22に連結されており、延出部82は中間部材52の中間シャフト22に対する連結に寄与していない。換言すると、延出部82から中間シャフト22に対して作用する圧力は、連結部81から中間シャフト22に対して作用する圧力が小さい。そして、トレランスリング53は、延出部82の外周において、連結部81が設けられた軸方向範囲L1と重ならないように、中間部材52とキーリング51との間に配置されている。換言すると、トレランスリング53が設けられた軸方向範囲L2は、連結部81が設けられた軸方向範囲L1と重複していない。
【0037】
このように構成されたステアリングロック機構Sでは、キーリング51の挿入部71にロックバーBが挿入されると、キーリング51の回転が規制される。そのため、コラムシャフト3に入力されるトルクがすべりトルク未満である場合には、コラムシャフト3の回転が規制される。一方、コラムシャフト3に入力されるトルクがすべりトルク以上である場合には、コラムシャフト3がトレランスリング53に対して相対回転することでその回転が許容される。
【0038】
次に、コラムシャフト3へのキーリング51の取り付けを説明する。
先ず、トレランスリング53が中間部材52における延出部82の外周に配置されるように、キーリング51を中間部材52の外周にトレランスリング53を介して嵌合させる。これにより、キーリング51、トレランスリング53及び中間部材52を一体化したキーリングユニットを製造する。
【0039】
続いて、図示しない検査装置を用いて、製造したキーリングユニットの中間部材52とトレランスリング53とを相対回転させることにより、すべりトルクを計測する。計測したすべりトルクが設計上の許容範囲内であれば、中間部材52の連結部81を嵌合部25の被連結部62に圧入することで、このキーリングユニットを中間シャフト22に取り付ける。
【0040】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)中間部材52は、中間部材52を中間シャフト22と一体回転可能に連結する連結部81と、連結部81から軸方向に延出される延出部82とを有する。連結部81は、中間シャフト22の外周に圧入されるように構成され、延出部82は、連結部81よりも中間シャフト22に加える圧力が小さくなるように構成される。トレランスリング53は、連結部81が設けられる軸方向範囲L1と重ならないように中間部材52の外周に配置される。
【0041】
上記構成によれば、中間部材52は、連結部81を中間シャフト22の外周に圧入することにより、中間シャフト22と一体回転可能に連結される。延出部82は、連結部81よりも中間シャフト22に加える圧力が小さくなるように構成されるため、中間部材52を中間シャフト22に連結したときにその外径が変化しにくい。また、中間シャフト22の嵌合部25の嵌合穴26にトーションバー23を圧入することで嵌合部25の外径が変化した場合にも、延出部82の外径が変化しにくい。そして、トレランスリング53は、連結部81が設けられる軸方向範囲L1と重ならないように延出部82に外周に配置されるため、トレランスリング53のバネ部53aの変形量がばらつき難い。これにより、バネ部53aの変形量に応じた摩擦力、すなわちすべりトルクが製造される個体毎にばらつくことを抑制できる。
【0042】
(2)延出部82の内周面と中間シャフト22の円形部63の外周面との間には、環状の隙間が形成される。したがって、延出部82が中間シャフト22に対して接触しない、すなわち延出部82から中間シャフト22に加えられる圧力がゼロであるため、嵌合部25の外径が変化した場合に延出部82の外径がより一層変化しにくい。また、上記構成では、延出部82が縮径するように変形可能である。そのため、延出部82と中間シャフト22との間に環状の空間が形成されない場合に比べて、例えば公差範囲内で延出部82の外径が設計値より大きくなった場合に、トレランスリング53のバネ部53aの変形量が過大になることを抑制できる。これにより、すべりトルクが製造される個体毎にばらつくことを好適に抑制できる。
【0043】
(3)キーリング51は、トレランスリング53及び中間部材52を介して中間シャフト22の外周に嵌合されるため、キーリング51をコラムシャフト3に取り付ける前に、すべりトルクを計測可能な構成のキーリングユニットを製造できる。そのため、例えばトレランスリング53のみを介してキーリング51を中間シャフト22の外周に嵌合させる構成に比べ、サイズの小さい状態ですべりトルクが許容範囲内にあるか否かの検査を行うことができる。これにより、ステアリング装置1の製造が容易になる。
【0044】
(第2実施形態)
次に、トルクリミッタをステアリング装置のステアリングロック機構に適用した第2実施形態を図面に従って説明する。なお、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0045】
図5に示すように、本実施形態の嵌合部25の円形部63には、外歯セレーション64の後側端部から連続して軸方向に延びる外歯ガイドセレーション91が設けられている。外歯ガイドセレーション91は、円形部63の後側端部まで軸方向に沿って延びている。外歯ガイドセレーション91の歯厚は、内歯セレーション83の歯溝幅よりも小さく設定されている。
【0046】
外歯ガイドセレーション91の歯厚は、内歯セレーション83の歯溝幅よりも小さければ、軸方向に沿って一定であっても、軸方向に沿って変化してもよい。外歯ガイドセレーション91の歯厚が軸方向に沿って変化する場合において、外歯セレーション64と外歯ガイドセレーション91との境界位置で、歯厚がステップ状に変化しても、連続的に変化してもよい。
【0047】
本実施形態の中間部材52の延出部82には、内歯セレーション83の後側端部から連続して軸方向に延びる内歯ガイドセレーション92が設けられている。内歯ガイドセレーション92は、延出部82の後側端部まで軸方向に沿って延びている。内歯ガイドセレーション92の歯溝幅は、外歯セレーション64の歯厚よりも大きく設定されている。
【0048】
内歯ガイドセレーション92の歯溝幅は、外歯セレーション64の歯厚よりも大きければ、軸方向に沿って一定であっても、軸方向に沿って変化してもよい。内歯ガイドセレーション92の歯溝幅が軸方向に沿って変化する場合において、内歯セレーション83と内歯ガイドセレーション92との境界位置で、歯溝幅がステップ状に変化しても、連続的に変化してもよい。
【0049】
図6に示すように、中間部材52が嵌合部25に一体回転可能に連結された状態で、外歯ガイドセレーション91と内歯ガイドセレーション92との間には、周方向の全域に亘って隙間が形成されている。そのため、外歯ガイドセレーション91及び内歯ガイドセレーション92は、中間部材52の中間シャフト22に対する連結に寄与していない。
【0050】
以上、本実施形態では、上記第1実施形態の(1),(2)の作用及び効果と同様の作用及び効果に加え、以下の作用及び効果を奏する。
(3)外歯セレーション64には、該外歯セレーション64と軸方向に連続するとともに、中間部材52の中間シャフト22に対する連結に寄与しない外歯ガイドセレーション91が設けられる。内歯セレーション83には、該内歯セレーション83と軸方向に連続するとともに、中間部材52の中間シャフト22に対する連結に寄与しない内歯ガイドセレーション92が設けられる。
【0051】
上記構成によれば、中間部材52を中間シャフト22に連結する際において、内歯セレーション83を外歯ガイドセレーション91と噛み合わせることで、中間部材52の中間シャフト22に対する周方向の大まかな位置合わせが行われる。そして、外歯ガイドセレーション91の歯厚は、内歯セレーション83の歯溝幅よりも小さいため、内歯セレーション83を外歯ガイドセレーション91に沿って容易にスライドさせることができる。これにより、中間部材52の連結部81を中間シャフト22に容易に圧入することができ、中間部材52の組み付け性を向上させることができる。
【0052】
(第3実施形態)
次に、トルクリミッタをステアリング装置のステアリングロック機構に適用した第3実施形態を図面に従って説明する。なお、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0053】
図7に示すように、本実施形態の第1シャフトである中間シャフト22の嵌合部25には、トーションバー23が直接圧入されず、第2シャフトである連結シャフト101を介して圧入されている。具体的には、本実施形態の嵌合穴26の内径は、上記第1実施形態の嵌合穴26の内径よりも大きく設定されている。連結シャフト101は、長尺の筒状をなしている。本実施形態の連結シャフト101は、軸方向視で、円形の形状を有している。連結シャフト101の形状は、例えば第1実施形態の中間シャフト22におけるフランジ部61よりも前側部分に類似した形状であってもよい。トーションバー23の後側端部は、連結シャフト101における後側端部の開口に圧入されることにより、連結シャフト101と一体回転可能に連結されている。トーションバー23の前側端部は、上記第1実施形態と同様に、ロアシャフト24における前側端部の開口に圧入されることにより、ロアシャフト24と一体回転可能に連結されている。つまり、連結シャフト101は、トーションバー23を介してロアシャフト24に連結されている。
【0054】
本実施形態の嵌合部25の軸方向長さは、第1実施形態の嵌合部25に比べて短くなっており、フランジ部61は嵌合部25の前側端部に設けられている。そして、嵌合穴26には、トーションバー23が圧入された連結シャフト101の後側端部が圧入されている。これにより、中間シャフト22には、連結シャフト101が一体回転可能に連結されている。
【0055】
また、嵌合部25は、フランジ部61の後側に連続する円形部111と、円形部111の後側に連続する被連結部112とを有している。円形部111の外周面は、上記第1実施形態と同様に、滑らかな円筒状をなしている。被連結部112には、円形部111の後側に隣接して複数の外歯セレーション113が設けられている。外歯セレーション113は、上記第1実施形態の外歯セレーション64と同様に構成されている。円形部111の外径は、外歯セレーション113の歯底での外径以下となるように設定されている。
【0056】
中間部材52は、上記第1実施形態と前後方向に反転した状態で、内歯セレーション83を外歯セレーション113に圧入状態で噛み合わせることで、嵌合部25に連結されている。なお、キーリング51及びトレランスリング53も、上記第1実施形態と前後方向に反転した状態で、中間部材52の外周に嵌合されている。
【0057】
以上、本実施形態では、上記第1実施形態の(1),(2)の作用及び効果と同様の作用及び効果を奏する。
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0058】
・上記各実施形態では、キーリング51、トレランスリング53及び中間部材52を一体化したキーリングユニットを製造してから、該キーリングユニットを中間シャフト22に取り付けた。しかし、これに限らず、キーリングユニットを先に製造せず、中間シャフト22に中間部材52を取り付けた後に、キーリング51及びトレランスリング53を取り付けてもよい。
【0059】
・上記第2実施形態において、外歯セレーション64及び内歯セレーション83のいずれか一方にのみ、ガイドセレーションを設けてもよい。上記第3実施形態において、外歯セレーション113及び内歯セレーション83の少なくとも一方にガイドセレーションを設けてもよい。
【0060】
・上記各実施形態では、連結部81に内歯セレーション83を設けるとともに、被連結部62,112に外歯セレーション64,113を設けたが、これに限らず、連結部81の内周面及び被連結部62,112の外周面をいずれも円筒状に形成してもよい。そして、中間部材52が中間シャフト22と一体回転するように、連結部81を被連結部62,112の外周に圧入してもよい。つまり、中間部材52を中間シャフト22と一体回転可能に連結できれば、中間部材52を中間シャフト22にセレーション嵌合させなくてもよい。
【0061】
・上記第1実施形態において、延出部82の内周面と円形部63の外周面との間に環状の隙間が形成されなくてもよい。この場合、延出部82は、連結部81よりも中間シャフト22に加える圧力が小さければ、円形部63に圧入(軽圧入)されてもよい。つまり、延出部82の円形部63に対する圧入代が連結部81の被連結部62に対する圧入代よりも小さければ、延出部82を円形部63に圧入してもよい。上記第2及び第3実施形態においても同様に、延出部82の内周面と円形部63,111の外周面との間に環状の隙間が形成されなくてもよい。
【0062】
・ステアリング装置1は、運転者により操舵される操舵部と、運転者の操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達が分離したステアバイワイヤ式の操舵装置であってもよい。
【0063】
・ステアリング装置1のステアリングロック機構S以外に、トルクリミッタを適用してもよい。
次に、上記各実施形態及び変形例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
【0064】
(付記)前記ステアリングシャフトは、軸方向の一端に開口する嵌合穴を有する第1シャフト、及び前記嵌合穴に圧入される第2シャフトを含み、前記中間部材は、前記第1シャフトにおける前記嵌合穴が設けられた嵌合部の外周に配置される、ステアリング装置。
【符号の説明】
【0065】
1…ステアリング装置
2…ステアリングシャフト
22…中間シャフト
51…キーリング
52…中間部材
53…トレランスリング
53a…バネ部
81…連結部
82…延出部