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特開2025-150521制御装置、水電解システム、制御方法および制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025150521
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】制御装置、水電解システム、制御方法および制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/021 20210101AFI20251002BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20251002BHJP
   C25B 15/027 20210101ALI20251002BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20251002BHJP
   C25B 9/67 20210101ALI20251002BHJP
【FI】
C25B15/021
C25B1/04
C25B15/027
C25B9/00 A
C25B9/67
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024051430
(22)【出願日】2024-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】カナデビア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小川 祥太
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC05
4K021CA12
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】水電解システムにおける循環水を適切に冷却する。
【解決手段】制御装置(5)は、水を電気分解する電解槽(1)と当該電解槽(1)で発生した酸素と水とを分離する酸素気液分離器(3)との間を循環する循環水の温度変化を予測し、温度予測結果に基づいて、循環水を冷却する熱交換器(82)を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を電気分解して酸素と水素とを発生させる水電解システムの制御装置であって、
水を電気分解する電解槽と当該電解槽で発生した酸素と水とを分離する酸素気液分離器との間を循環する循環水の温度変化を予測する温度予測部と、
前記温度予測部の温度予測結果に基づいて、前記循環水を冷却する冷却装置を制御する機器制御部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記温度予測部は、
前記電解槽の自己発熱による前記循環水の温度上昇量と、
前記循環水が流れる循環水配管からの放熱による前記循環水の温度低下量と、
に基づいて、前記循環水の温度変化を予測する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記温度予測部は、
さらに、前記酸素気液分離器に供給される供給水による前記循環水の温度低下量に基づいて、前記循環水の温度変化を予測する、請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記温度予測部は、前記電解槽の発熱量、前記循環水の温度および環境温度を含む入力値に基づいて、前記循環水の温度変化を予測する、請求項1から3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記温度予測部は、前記電解槽の発熱量、前記循環水の温度および環境温度を含む入力値と前記循環水の温度変化とを対応付けた教師データを用いて機械学習した学習モデルを利用して、前記循環水の温度変化を予測する、請求項1から3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記機器制御部は、前記温度予測結果に基づいて、前記酸素気液分離器へ供給水を供給する供給装置を制御する、請求項1から3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記機器制御部は、
前記温度予測結果に示される前記循環水の温度予測値が規定温度以下である場合、前記供給水の供給量が減少するように前記供給装置を制御する、請求項6に記載の制御装置。
【請求項8】
請求項1から3のいずれか1項に記載の制御装置と、
水を電気分解する電解槽と、
前記電解槽で発生した酸素と水とを分離する酸素気液分離器と、
前記電解槽と前記酸素気液分離器との間を循環する循環水を冷却する冷却器と、
を含む、水電解システム。
【請求項9】
水を電気分解して酸素と水素とを発生させる水電解システムの制御方法であって、
水を電気分解する電解槽と当該電解槽で発生した酸素と水とを分離する酸素気液分離器との間を循環する循環水の温度変化を予測する温度予測ステップと、
前記温度予測ステップの温度予測結果に基づいて、前記循環水を冷却する冷却装置を制御する機器制御ステップと、
を含む制御方法。
【請求項10】
請求項1に記載の制御装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記温度予測部および前記機器制御部としてコンピュータを機能させるための制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水を電気分解して酸素と水素とを発生させる水電解システムの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水を電気分解して酸素と水素とを発生させる水電解システムでは、水の電気分解時の発熱により電解槽が温まるため、電解槽と酸素気液分離器との間を循環する循環水を冷却することにより電解槽を冷却している。この種の水電解システムに関し、例えば特許文献1には、循環水温度の測定値(実測値)と規定値(閾値)との差に基づいて、循環水を冷却する冷却器を制御することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-203203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、循環水温度の測定値に基づいて冷却器を制御する構成では、例えば純水の供給(補給)または電解槽の電流低下等により循環水の温度降下が急に生じた場合、循環水が過剰に冷却され電解効率が低下する場合があった。特に大型の水電解システムにおいては循環水の温度制御の応答性、追従性が悪く、電解効率が低下しやすいという課題があった。
【0005】
本開示の一態様は、水電解システムにおける循環水を適切に冷却することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本開示の一態様に係る制御装置は、水を電気分解して酸素と水素とを発生させる水電解システムの制御装置であって、水を電気分解する電解槽と当該電解槽で発生した酸素と水とを分離する酸素気液分離器との間を循環する循環水の温度変化を予測する温度予測部と、前記温度予測部の温度予測結果に基づいて、前記循環水を冷却する冷却装置を制御する機器制御部と、を備える。
【0007】
前記課題を解決するために、本開示の一態様に係る制御方法は、水を電気分解して酸素と水素とを発生させる水電解システムの制御方法であって、水を電気分解する電解槽と当該電解槽で発生した酸素と水とを分離する酸素気液分離器との間を循環する循環水の温度変化を予測する温度予測ステップと、前記温度予測ステップの温度予測結果に基づいて、前記循環水を冷却する冷却装置を制御する機器制御ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、水電解システムにおける循環水を適切に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態に係る水電解システムの概略構成を示す概略図である。
図2図1に示した制御装置の要部構成例を示す機能ブロック図である。
図3図1に示した水電解システムの制御の一例を示すフローチャートである。
図4図1に示した酸素気液分離器の断面図であり、図3に示した給水制御の一例を示す。
図5】循環水温度の測定値(実測値)に基づいて熱交換器を制御した場合の温度測定値の推移の一例を示すグラフである。
図6】循環水温度の温度予測値に基づいて熱交換器を制御した場合の循環水の温度測定値の推移の一例を示すグラフである。
図7図1に示した電解槽の電圧と循環水温度との関係性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態について、図1から図7に基づいて説明する。ただし、以下の説明は本開示に係る制御装置の一例であり、本開示の技術的範囲は図示例に限定されるものではない。
【0011】
〔水電解システム100の構成〕
図1は、本実施形態に係る水電解システム100の概略構成を示す概略図である。図1に示すように、水電解システム100は、電解槽1と、水素気液分離器2と、酸素気液分離器3と、純水タンク4と、制御装置5と、を含む。また、水電解システム100は、電解槽1へ電力を供給する整流器6と、純水タンク4へ供給水(純水)を供給する純水製造装置7と、電解槽1と酸素気液分離器3との間で循環水を循環させる水循環ライン8と、を含む。水電解システム100は、水循環ライン8を循環する循環水を電解槽1で電気分解することによって、酸素および水素を発生させる。
【0012】
この水電解システム100において、制御装置5は、循環水の将来(例えば数秒後)の温度変化を予測し、温度予測結果に基づいて循環水温度を制御する。このため、循環水に温度変化を生じさせる各種要因の影響を考慮した循環水温度の制御が可能となり、これにより循環水を適切な温度範囲に維持する。
【0013】
電解槽1は、例えば複数の電解セルが直列に接続された電解セルスタックである。電解槽1には、水の電気分解に必要な電力(直流電流)が整流器6から供給される。電解槽1へ供給する電力としては、商用電源からの電力のほか、例えば太陽光発電、風力発電等の再生可能エネルギーまたはその余剰電力等を使用することができる。
【0014】
電解槽1の陰極で発生した水素は、気液混合水の状態で水素気液分離器2へ送られる。また、電解槽1の陽極で発生した酸素は、気液混合水の状態で酸素気液分離器3へ送られる。
【0015】
電解槽1における循環水(純水)の電気分解は、電圧を印加して電流を流すことにより行われる。電解槽1は、例えば固体高分子電解質膜に電圧を印加して電流を流すことにより循環水を電気分解し、水素と酸素とを発生させる固体高分子型水電解装置であってよい。ただし、電解槽1は、固体高分子型水電解装置に限られず、例えばアルカリ水電解装置、アニオン交換膜型水電解装置等であってもよい。電解槽1には、電圧計11および電流計12が設置される。電圧計11は、電解槽1の電圧(例えば、電解セルスタックの積層方向の両側の電圧)を検出するセンサであり、検出信号を制御装置5へ出力する。電流計12は、電解槽1に通電する電流を検出するセンサであり、検出信号を制御装置5へ出力する。電流計12は、電解槽1と整流器6とに直列になるように設置される。
【0016】
水素気液分離器2は、電解槽1で発生した水素と水とを分離する。水素気液分離器2には、水素水位センサ21が設置される。水素水位センサ21は、水素気液分離器2の液面レベルを検出するセンサであり、検出信号を制御装置5へ出力する。水素気液分離器2で分離された水素は、図示しない冷却器、触媒塔および乾燥機(除湿器)等に供給され、酸素および水分が除去されて製品ガスとなる。一方、水素気液分離器2にて分離された水は、例えば純水タンク4へ供給される。なお、水素気液分離器2にて分離された水は、水電解システム100の性能回復運転時に系外に排水されてもよい。
【0017】
酸素気液分離器3は、電解槽1で発生した酸素と水とを分離する。酸素気液分離器3には、酸素水位センサ31が設置される。酸素水位センサ31は、酸素気液分離器3の液面レベルを検出するセンサであり、検出信号を制御装置5へ出力する。酸素気液分離器3で分離された酸素は、例えば図示しない冷却器によって冷却された後、大気中へ排気される。一方、酸素気液分離器3で分離された水は、水循環ライン8を通って再び電解槽1に供給される。
【0018】
水循環ライン8は、循環水を循環させる配管である。この水循環ライン8には、循環水を循環させるための循環ポンプ81、および循環水を冷却するための熱交換器(冷却装置)82が設置される。循環水は電気分解時の電解槽1の発熱により温められるため、循環水は熱交換器82で規定温度(例えば80℃)に冷却され、電解槽1へ供給される。熱交換器82は、例えば冷却水を用いて循環水を冷却する構成であってよく、当該冷却水の流量を調整するための冷却水バルブ(流量調整バルブ)を含む。
【0019】
なお、図示の例では、循環ポンプ81に対して下流側に熱交換器82が設置される。つまり、循環ポンプ81と電解槽1との間に熱交換器82が設置される。このように循環ポンプ81に対して下流側に熱交換器82を設置することにより、循環ポンプ81の吐出圧を利用して、循環水が熱交換器82を通過しやすくなる。
【0020】
また、水循環ライン8には、循環水温度計83および循環水流量計84が設置される。循環水温度計83は、水循環ライン8を流れる循環水の温度を検出するセンサであり、検出信号を制御装置5へ出力する。循環水流量計84は、水循環ライン8を流れる循環水の流量を検出するセンサであり、検出信号を制御装置5へ出力する。図示の例では、熱交換器82に対して下流側に、循環水温度計83および循環水流量計84が配置される。つまり、熱交換器82と電解槽1との間に、循環水温度計83および循環水流量計84が設置される。
【0021】
純水タンク4は、酸素気液分離器3に供給される供給水(純水)を貯える貯水槽である。純水タンク4には、例えば市水等の水道水を純水製造装置7によって処理した純水が貯えられる。純水製造装置7は、例えばイオン交換器を含み、当該イオン交換器によって水道水を処理することによって純水を製造してもよい。また、純水タンク4には、水素気液分離器2で分離された水が貯えられてもよい。
【0022】
酸素気液分離器3と純水タンク4とを繋ぐ給水ライン9には、純水タンク4の純水を酸素気液分離器3へ送るための供給ポンプ(供給装置)91が設置される。水電解システム100では、水の電気分解により循環水を消費する。このため、酸素気液分離器3の水位が低下した場合、純水タンク4に貯えられた純水が供給ポンプ91によって酸素気液分離器3へ給水されるようになっている。
【0023】
また、水電解システム100には、環境温度計10が設置されている。環境温度計10は、例えば水電解システム100が設置された場所の室温または外気温を検出するセンサであり、検出信号を制御装置5へ出力する。
【0024】
なお、純水製造装置7へ供給される水道水の温度は水電解システム100が設置されている場所の外気温と概ね等しくなるため、純水製造装置7から純水タンク4へ供給される純水の温度も外気温と概ね等しくなる。このため、純水タンク4に貯えられた純水の温度と外気温とは概ね等しくなる。従って、本開示において、環境温度計10によって検出した外気温は、純水タンク4から酸素気液分離器3へ供給される供給水の温度とほぼ同義である。
【0025】
制御装置5は、水電解システム100の動作を統括的に制御する。図2は、図1に示した制御装置5の要部構成例を示す機能ブロック図である。図2に示すように、制御装置5は、通信部51と、制御部52と、記憶部53と、を備える。
【0026】
通信部51は、各種信号を有線または無線で送受信する。通信部51は、例えば水電解システム100の各種センサから検出信号を受信する。また、通信部51は、制御部52から出力される制御信号を水電解システム100の各部へ送信する。
【0027】
制御部52は、温度予測部521と、機器制御部522と、を備える。温度予測部521は、電解槽1と酸素気液分離器3との間を循環する循環水の将来の温度変化を予測する。本実施形態では、温度予測部521は、電解槽1の入口側における循環水の温度変化を予測するようになっている。温度予測部521は、例えば、予測実施時点(現時点)から一定時間経過後(例えば数秒後)の予測対象時点(将来の時点)までの間に生じる循環水温度の変化量、つまり予測実施時点の循環水温度と予測対象時点の循環水温度との差を予測してもよい。または、温度予測部521は、前記予測対象時点における循環水温度(温度予測値)を予測してもよい。温度予測部521は、循環水の温度予測結果を機器制御部522へ出力する。なお、循環水の温度変化を予測する方法については後述する。
【0028】
機器制御部522は、水電解システム100の各部を制御する。例えば、機器制御部522は、整流器6を制御し、電解槽1への給電を制御する給電制御を行う。また、制御装置5は、温度予測部521から取得した温度予測結果に基づいて供給ポンプ91を制御し、純水タンク4から酸素気液分離器3に供給される供給水量を制御する給水制御を行う。さらに、機器制御部522は、温度予測部521から取得した温度予測結果に基づいて熱交換器82の冷却水バルブの開度を調整し、循環水の温度を調整(冷却)する温度制御を行う。
【0029】
記憶部53は、制御装置5が使用する各種データを記憶する。記憶部53は、例えば、水電解システム100の各部の制御に使用する運転データ、または循環水温度の予測に使用するモデルデータ等が記憶されている。
【0030】
〔温度変化の予測方法〕
次に、循環水の温度変化を予測する予測方法について説明する。ただし、以下の説明は予測方法の一例であり、本開示の予測方法は以下の方法に限定されるものではない。
【0031】
(予測モデル)
温度予測部521は、例えば下記の予測モデルを用いて、単位時間当たりの循環水の温度変化量である循環水温度変化量△Twを予測してもよい。この予測モデルは、例えば記憶部53に記憶される。
【数1】

△Tw:循環水温度変化量[K/sec]
△Pe:電解槽発熱量[J/sec]
Qw:循環水量[g]
Cw:循環水比熱[J/g・K]
Tw:循環水温度[K]
Te:環境温度[K]
△Qs:給水量[g/sec]
α:係数
β:係数
【0032】
電解槽発熱量△Peは、電解槽1の単位時間当たりの発熱量である。この電解槽発熱量△Peは、例えば電圧計11が検出した電圧値と電流計12が検出した電流値とに基づいて求めることができる。なお、電圧計11が検出した電圧値から熱中性電圧値(例えば、1.48[V])を差し引いた電圧値を用いて、電解槽発熱量△Peを求めてもよい。これにより、水の電気分解に消費された熱量分を除いた電解槽発熱量△Peを求めることができるため、循環水温度変化量△Twの予測精度を高めることができる。
【0033】
循環水量Qwは、水循環ライン8を循環する循環水の総量である。循環水量Qwは、電解槽1と酸素気液分離器3との間を循環する循環水の総量であり、例えば、酸素気液分離器3内の循環水量と、電解槽1内の酸素側の循環水量と、水循環ライン8を流れる循環水量との総和である。この循環水量Qwは、例えば水循環ライン8に設置された循環水流量計84が検出した流量値に基づいて求めることができる。
【0034】
循環水温度Twは、水循環ライン8を循環する循環水の温度である。この循環水温度Twは、例えば水循環ライン8に設置された循環水温度計83が検出した温度値に基づいて求めることができる。
【0035】
循環水比熱Cwは、単位当たりの循環水の温度を1度上げるために必要な熱量であり、本開示において純水の比熱とほぼ同義である。このため、循環水比熱Cwとして、純水(水)の比熱を用いてもよい。
【0036】
環境温度Teは、例えば水電解システム100が設置された場所の外気温であり、本開示において純水製造装置7へ供給される水道水の温度、つまり酸素気液分離器3へ供給される供給水の温度とほぼ同義である。この環境温度Teは、例えば環境温度計10が検出した温度値に基づいて求めることができる。
【0037】
給水量△Qsは、純水タンク4から酸素気液分離器3へ供給される供給水の単位時間当たりの供給量である。この給水量△Qsは、例えば酸素気液分離器3に設置された酸素水位センサ31が検出した液面レベルに基づいて求めることができる。
【0038】
係数αおよび係数βは、水電解システム100の構成、性能、規模等に応じて定まる定数である。例えば、予測誤差の二乗和を目的関数として最小化するように係数αおよび係数βを決定してもよい。
【0039】
このように、温度予測部521は、例えば水電解システム100の各種センサからの検出信号に基づく入力値と予測モデルとに基づいて、循環水温度変化量△Twを予測してもよい。
【0040】
予測モデルに示すように、温度予測部521は、電解槽1の自己発熱による循環水の温度上昇量と、循環水が流れる水循環ライン(循環水配管)8からの放熱による循環水の温度低下量と、に基づいて、循環水の温度変化(循環水温度変化量△Tw)を予測してもよい。例えば、温度予測部521は、電解槽1の自己発熱による循環水の温度上昇量と、循環水配管からの放熱による循環水の温度低下量との差に基づいて、循環水の温度変化を予測することができる。
【0041】
また、予測モデルに示すように、温度予測部521は、さらに酸素気液分離器3に供給される供給水による循環水の温度低下量に基づいて、循環水の温度変化を予測してもよい。これにより、供給水による循環水の温度低下を考慮した循環水の温度変化の予測が可能となるため、温度変化の予測精度を高めることができる。
【0042】
このように、温度予測部521は、水電解システム100の各種センサから検出信号を取得し、例えば電解槽発熱量△Pe、循環水温度Twおよび環境温度Te等を含む入力値に基づいて、循環水温度変化△Peを予測することができる。
【0043】
(学習済みモデル)
温度予測部521は、各種センサからの各種入力値と循環水の温度変化とを対応付けた教師データを用いて機械学習した学習済みモデル(学習モデル)を利用して、循環水の温度変化を予測してもよい。
【0044】
この場合、学習済みモデルは、説明変数と目的変数との関係を示す教師データを用いた機械学習により構築されてもよい。教師データは、対象施設である水電解システム100で取得された電解槽発熱量△Pe、循環水量Qw、循環水比熱Cw、循環水温度Tw、環境温度(外気温)Teおよび給水量△Qsの少なくとも1つを含む入力値と、循環水温度変化量△Twとを対応付けたものであってもよい。このように、水電解システム100で収集されたデータを教師データとして用いて、水電解システム100における循環水の温度変化の予測することができる。温度予測部521は、学習済みモデルを用いることにより、前述のような計算を介さずに循環水温度変化量△Twを予測することができる。この学習済み学習モデルは、例えば記憶部53に記憶される。
【0045】
学習済みモデルの学習アルゴリズムは、前述のような説明変数から目的変数を導出できるようなものであればよく、特に限定されない。例えば、ニューラルネットワークまたはサポートベクターマシン等の学習アルゴリズムを適用してもよい。また、例えば、ELM(Extreme Learning Machine)のような順伝搬型ニューラルネットワークを適用してもよい。学習済みモデルとしてELMを適用することにより、比較的少ない教師データにより実用に足りる精度の循環水温度変化量△Twを予測することができる。
【0046】
なお、制御装置5は、学習済みモデルの生成、またはその機械学習に用いる前述のような教師データの生成を行ってもよい。この場合、教師データを生成または取得する教師データ取得部と、前記教師データを用いて学習済みモデルを生成する学習部とを制御装置5に追加すればよい。
【0047】
また、制御装置5は、水電解システム100の運転時において初期の学習済みモデルを用いて循環水温度変化量△Twの予測を行い、その予測結果に基づき再学習を行って学習済みモデルの更新を繰り返し行ってもよい。
【0048】
〔水電解システム100の制御〕
次に、制御装置5による水電解システム100の制御例(制御方法)を説明する。図3は、水電解システム100の制御の一例を示すフローチャートである。制御装置5は、水電解システム100の運転開始後、図3に示す制御フローを繰り返し実行する。
【0049】
水電解システム100の運転開始後、図3に示すように、温度予測部521は、水電解システム100の各種センサから検出信号を取得する(ステップS1)。
【0050】
次に、温度予測部521は、循環水温度を予測する(ステップS2:温度予測ステップ)。例えば、温度予測部521は、前述した学習済みモデルを記憶部53から読み出し、当該学習済みモデルを用いて循環水温度変化量△Twを予測する。この場合、検出信号に基づく電解槽発熱量△Pe、循環水量Qw、循環水比熱Cw、循環水温度Tw、環境温度Teおよび給水量△Qsを学習済みモデルへ入力することにより、学習済みモデルから循環水温度変化量△Twが出力される。温度予測部521は、例えば循環水温度Twおよび循環水温度変化量△Twから循環水の温度予測値T1を算出し、当該温度予測値T1を含む温度予測結果を機器制御部522へ出力する。
【0051】
次に、温度予測部521から温度予測結果を取得した場合、機器制御部522は、温度予測結果に示される循環水の温度予測値T1が、予め設定された循環水の規定温度(例えば80℃)T2よりも高いか否かを判定する(ステップS3)。
【0052】
温度予測値T1が規定温度T2よりも高い場合(ステップS3でYES)、機器制御部522は、純水タンク4から酸素気液分離器3に供給される供給水が増加するように、給水閾値をHI(高)に設定する(ステップS4)。一方、温度予測値T1が規定温度T2以下である場合(ステップS3でNO)、機器制御部522は、純水タンク4から酸素気液分離器3に供給される供給水の供給量が減少するように、給水閾値をLOW(低)に設定する(ステップS5)。
【0053】
図4は、酸素気液分離器3の断面図であり、図3に示した給水制御の一例を示す。図4に示すように、酸素気液分離器3には、純水タンク4から供給される供給水の給水量を制御するための給水閾値がLOW(低)およびHI(高)の2種類設定されている。給水閾値HI(第2給水閾値)は、給水閾値LOW(第1給水閾値)に比べて高い液面レベルFLを維持するように設定されている。水電解システム100の運転開始時は、例えば給水閾値がLOWに設定されていてもよい。
【0054】
ステップS3にて温度予測値T1が規定温度T2よりも高い場合(ステップS3でYES)、つまり規定温度T2を超える循環水温度の上昇が予測された場合、機器制御部522は、給水閾値をHIに設定する(ステップS4)。これにより、例えば酸素気液分離器3内の液面レベルFLが給水開始閾値H1よりも低い場合(図中の液面レベルFL1の場合)、液面レベルFLが給水停止閾値H2に達するまで、純水タンク4から酸素気液分離器3に給水されるようになる。このように、循環水温度が規定温度T2を超えることが予測された場合に酸素気液分離器3への給水量が増加するように供給ポンプ91を制御することにより、循環水温度の上昇を抑えることができる。なお、ステップS4の時点で給水閾値が既にHIに設定されている場合、機器制御部522は給水閾値をHIのまま維持する。
【0055】
一方、温度予測値T1が規定温度T2以下の場合(ステップS3でNO)、つまり循環水温度が規定温度T2以下になることが予測された場合、機器制御部522は、給水閾値をLOWに設定する(ステップS5)。これにより、例えば酸素気液分離器3内の液面レベルFLが給水開始閾値L1よりも高い場合(図中の液面レベルFL2の場合)、循環水の消費により液面レベルFLが給水開始閾値L1に低下するまで、純水タンク4から酸素気液分離器3に給水されなくなる。このように、循環水温度が規定温度T2以下になることが予測された場合、機器制御部522は、酸素気液分離器3への給水量が減少するように供給ポンプ91を制御する。これにより、給水による循環水温度のさらなる低下を抑えて、循環水が過剰に冷却されることを防ぐことができる。なお、ステップS5の時点で給水閾値が既にLOWに設定されている場合、機器制御部522は給水閾値をLOWのまま維持する。
【0056】
次に、機器制御部522は、前述した給水制御の後、熱交換器82を制御して循環水温度を調整する温度制御を行う。例えばステップS4にて給水閾値をHIに設定した場合、機器制御部522は、温度予測値T1と規定温度T2との差分を計算する(ステップS6)。そして、機器制御部522は、前記差分に応じて熱交換器82の冷却水バルブ開度を調整する(ステップS7:機器制御ステップ)。これにより、温度予測値T1に応じて熱交換器82を流れる冷却水量を調整し、循環水温度が規定温度T2に近づくように循環水を適切に冷却することができる。
【0057】
一方、ステップS5にて給水閾値をLOWに設定した場合、機器制御部522は、熱交換器82の冷却水バルブを閉にする(ステップS8:機器制御ステップ)。これにより、熱交換器82に冷却水が流れなくなるため、冷却水による循環水温度のさらなる低下を抑えることができる。
【0058】
なお、図3に示した給水制御(ステップS4およびステップS5)は必須ではなく、省略することも可能である。この場合、前述した温度予測ステップ(ステップS3)にて温度予測値T1が規定温度T2よりも高いか否かを判定した後、判定結果に応じて82を制御する温度制御(ステップS6からステップS8)を行えばよい。
【0059】
図5は、循環水温度の測定値(実測値)に基づいて熱交換器82を制御した場合の温度測定値の推移の一例を示すグラフである。図6は、循環水温度の温度予測値に基づいて熱交換器82を制御した場合の温度測定値の推移の一例を示すグラフである。図5および図6では、横軸に時間[S]を示し、縦軸に温度測定値[℃]を示している。
【0060】
図5に示したグラフは、前述した給水制御および温度制御を行わずに、従来のように循環水温度の測定値(実測値)に基づいて熱交換器82を制御した場合の温度測定値の推移を示している。一方、図6は、本開示のように温度予測値に基づいて給水制御および温度制御を行った場合の温度測定値の推移を示している。
【0061】
循環水温度の測定値に基づいて熱交換器82を制御した場合、供給水の給水または電解槽1の電流低下等の循環水に温度変化を生じさせる各種要因の影響を受けやすい。特に大型の水電解システム100においては循環水の温度制御の応答性、追従性が悪く、電解効率が低下しやすくなる。このため、図5に示すように、循環水温度が振動的になりやすく(図中の符号R1)、また電解槽1の急激な電流低下が生じた場合に循環水が過剰に冷却されることがある(図中の符号R2)。
【0062】
一方、循環水温度の温度予測値に基づいて熱交換器82を制御した場合、前述した循環水に温度変化を生じさせる各種要因、および水電解システム100の大型化に伴う応答性の悪化等の影響を考慮して循環水温度を予測することにより、これらの影響を考慮した循環水温度の制御が可能となる。従って、図6に示すように、循環水温度の制御の応答性が改善されて循環水温度が振動的になりにくくなると共に、電解槽1の急激な電流低下が生じた場合であっても循環水が過剰に冷却されることを防ぐことができる。
【0063】
図7は、電解槽1の電圧と循環水温度との関係性を示すグラフである。図7では、横軸に循環水温度(電解槽酸素側温度)[℃]を示し、縦軸に電解槽1のセル電圧[V]を示している。
【0064】
図7に示すように、電解槽1では、循環水温度が高いほうが電気分解に必要な電圧値が下がる。このため、本開示のように循環水の過剰な冷却を抑えて循環水温度を規定温度近傍に維持することにより、電解槽1の電圧値を下げて電解効率を改善することができる。
【0065】
〔制御装置5の作用効果〕
このように、本実施形態に係る制御装置5は、水を電気分解する電解槽1と当該電解槽1で発生した酸素と水とを分離する酸素気液分離器3との間を循環する循環水の温度変化を予測する温度予測部521と、温度予測部521の温度予測結果に基づいて、循環水を冷却する熱交換器82を制御する機器制御部522と、を備える。
【0066】
制御装置5は、循環水の将来の温度変化を予測した温度予測結果に基づいて熱交換器82を制御する。このため、例えば循環水に温度変化を生じさせる各種要因、および水電解システム100の大型化に伴う応答性の悪化等の影響を考慮して循環水の温度変化を予測することにより、当該影響を考慮した熱交換器82の制御が可能となる。
【0067】
従って、本実施形態によれば、循環水を適切に冷却することが可能となり、水電解システム100の電解効率を改善することができる。
【0068】
また、このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」等の達成にも貢献するものである。
【0069】
〔ソフトウェアによる実現例〕
制御装置5(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御装置5に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるための制御プログラムにより実現することができる。
【0070】
この場合、前記装置は、前記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により前記プログラムを実行することにより、前記実施形態で説明した各機能が実現される。
【0071】
前記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、前記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、前記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0072】
また、前記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、前記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本開示の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより前記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0073】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る制御装置は、水を電気分解して酸素と水素とを発生させる水電解システムの制御装置であって、水を電気分解する電解槽と当該電解槽で発生した酸素と水とを分離する酸素気液分離器との間を循環する循環水の温度変化を予測する温度予測部と、前記温度予測部の温度予測結果に基づいて、前記循環水を冷却する冷却装置(熱交換器82)を制御する機器制御部と、を備える。
【0074】
本開示の態様2に係る制御装置では、前記態様1において、前記温度予測部は、前記電解槽の自己発熱による前記循環水の温度上昇量と、前記循環水が流れる循環水配管からの放熱による前記循環水の温度低下量と、に基づいて、前記循環水の温度変化を予測してもよい。
【0075】
本開示の態様3に係る制御装置では、前記態様1または2において、前記温度予測部は、さらに、前記酸素気液分離器に供給される供給水による前記循環水の温度低下量に基づいて、前記循環水の温度変化を予測してもよい。
【0076】
本開示の態様4に係る制御装置では、前記態様1から3のいずれかにおいて、前記温度予測部は、前記電解槽の発熱量、前記循環水の温度および環境温度を含む入力値に基づいて、前記循環水の温度変化を予測してもよい。
【0077】
本開示の態様5に係る制御装置では、前記態様1から4のいずれかにおいて、前記温度予測部は、前記電解槽の発熱量、前記循環水の温度および環境温度を含む入力値と前記循環水の温度変化とを対応付けた教師データを用いて機械学習した学習モデルを利用して、前記循環水の温度変化を予測してもよい。
【0078】
本開示の態様6に係る制御装置では、前記態様1から5のいずれかにおいて、前記機器制御部は、前記温度予測結果に基づいて、前記酸素気液分離器へ供給水を供給する供給装置(供給ポンプ91)を制御してもよい。
【0079】
本開示の態様7に係る制御装置では、前記態様6において、前記機器制御部は、前記温度予測結果に示される前記循環水の温度予測値が規定温度以下である場合、前記供給水の供給量が減少するように前記供給装置を制御してもよい。
【0080】
本開示の態様8に係る水電解システムは、前記態様1から7のいずれかの制御装置と、水を電気分解する電解槽と、前記電解槽で発生した酸素と水とを分離する酸素気液分離器と、前記電解槽と前記酸素気液分離器との間を循環する循環水を冷却する冷却器と、
を含む。
【0081】
本開示の態様9に係る制御方法は、水を電気分解して酸素と水素とを発生させる水電解システムの制御方法であって、水を電気分解する電解槽と当該電解槽で発生した酸素と水とを分離する酸素気液分離器との間を循環する循環水の温度変化を予測する温度予測ステップと、前記温度予測ステップの温度予測結果に基づいて、前記循環水を冷却する冷却装置を制御する機器制御ステップと、を含む。
【0082】
本開示の態様10に係る制御プログラムは、前記態様1に記載の制御装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記温度予測部および前記機器制御部としてコンピュータを機能させる。
【0083】
本開示は前述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0084】
1:電解槽
3:酸素気液分離器
8:水循環ライン(循環水配管)
82:熱交換器(冷却装置)
91:供給ポンプ(供給装置)
521:温度予測部
522:機器制御部
S2:温度予測ステップ
S7:機器制御ステップ
S8:機器制御ステップ
T1:温度予測値
T2:規定温度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7