(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025150528
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】新規な化合物、および、その利用
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20251002BHJP
A61K 51/04 20060101ALI20251002BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
C07F5/02 D CSP
A61K51/04 100
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024051438
(22)【出願日】2024-03-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、創発的研究支援事業「オージェ電子放出核種を利用した放射線内照射治療法の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】牧野 顕
(72)【発明者】
【氏名】清野 泰
【テーマコード(参考)】
4C084
4H048
【Fターム(参考)】
4C084AA11
4C084AA12
4C084NA14
4C084ZB26
4H048AA01
4H048AB20
4H048AB28
4H048VA11
4H048VA13
4H048VA20
4H048VA30
4H048VA32
4H048VA77
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】新規な化合物、および、その利用を提供する。
【解決手段】細胞の核内へ移行する性質を有する核移行ユニットと、特定の構造を有する機能ユニットと、核移行ユニットと機能ユニットとを結合させるリンカーユニットとを有する化合物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の核内へ移行する性質を有する核移行ユニットと、以下の式(1)にて示されるもの、または、その誘導体である機能ユニットと、上記核移行ユニットと上記機能ユニットとを結合させるリンカーユニットとを有する、化合物:
【化1】
(上記式(1)中、R
1およびR
2は、
77Brまたは任意の官能基であり、かつ、R
1およびR
2の少なくとも1つは、
77Brである。)。
【請求項2】
細胞の核内へ移行する性質を有する核移行ユニットと、以下の式(1)にて示されるもの、または、その誘導体である機能ユニットと、上記核移行ユニットと上記機能ユニットとを結合させるリンカーユニットとを有する化合物、を有効成分として含有する、薬学的組成物:
【化2】
(上記式(1)中、R
1およびR
2は、
77Brまたは任意の官能基であり、かつ、R
1およびR
2の少なくとも1つは、
77Brである。)。
【請求項3】
上記薬学的組成物は、核医学治療用、および/または、光線力学治療用のものである、請求項2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
上記薬学的組成物は、癌治療用のものである、請求項2または3に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物、および、その利用に関する。
【背景技術】
【0002】
核医学治療では、これまで、主にβ線を放出する核種が使用されてきた。近年、ドラッグデリバリー技術の発展により、薬剤を治療部位により精緻に送達することができるようになってきたことから、放射線の飛程がβ線よりも短く、かつ、線エネルギー付与が大きなα線の臨床応用が進められている。
【0003】
オージェ電子はα線よりも更に飛程が短いため、治療標的の細胞(例えば、癌細胞)に障害を与えるためには、オージェ電子を放出する薬剤を、治療標的の細胞の核内へ送達する必要があると考えられている。一方で、薬剤を取り込んだ治療標的の細胞以外の細胞への障害は、抑止できると期待される。それ故に、オージェ電子による核医学治療を可能とする、様々な化合物の開発が試みられている。
【0004】
例えば、オージェ電子を放出する125Iによって標識されたBODIPY(boron dipyrromethene)と、Hoechstとを結合させた化合物が開発されている(例えば、非特許文献1および2を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ryotaro Onoue et. al., "Hoechst-tagged radioiodinated BODIPY derivative for Auger-electron cancer therapy" Chem. Commun., 2023, 59(7), 928-931
【非特許文献2】Ryotaro Onoue et. al., "Synthesis and biological evaluation of bimodal BODIPY-conjugated Hoechst applicable for Auger-electron and photodynamic cancer therapy" Bioorg. Med. Chem. Lett., 2023, 96, 129534
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来の化合物は、臨床応用にとって十分とは言えず、新規な化合物の開発が求められている。
【0007】
本発明の一態様は、新規な化合物、および、その利用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、77Brによって標識された特定の構造を有する機能ユニットと、核移行ユニットと、上記核移行ユニットと上記機能ユニットとを結合させるリンカーユニットとを有する化合物は、生体内での安定性、細胞内および核内への取り込み、および、細胞傷害性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の一態様は、以下である。
【0009】
〔1〕細胞の核内へ移行する性質を有する核移行ユニットと、以下の式(1)にて示されるもの、または、その誘導体である機能ユニットと、上記核移行ユニットと上記機能ユニットとを結合させるリンカーユニットとを有する、化合物:
【0010】
【0011】
(上記式(1)中、R1およびR2は、77Brまたは任意の官能基であり、かつ、R1およびR2の少なくとも1つは、77Brである。)。
【0012】
〔2〕細胞の核内へ移行する性質を有する核移行ユニットと、以下の式(1)にて示されるもの、または、その誘導体である機能ユニットと、上記核移行ユニットと上記機能ユニットとを結合させるリンカーユニットとを有する化合物、を有効成分として含有する、薬学的組成物:
【0013】
【0014】
(上記式(1)中、R1およびR2は、77Brまたは任意の官能基であり、かつ、R1およびR2の少なくとも1つは、77Brである。)。
【0015】
〔3〕上記薬学的組成物は、核医学治療用、および/または、光線力学治療用のものである、〔2〕に記載の薬学的組成物。
【0016】
〔4〕上記薬学的組成物は、癌治療用のものである、〔2〕または〔3〕に記載の薬学的組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、新規な化合物、および、その利用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例において、合成した化合物の安定性評価の試験結果を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施例において、合成した化合物の細胞内および核内への取り込み評価の試験結果を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例において、合成した化合物の細胞傷害性評価の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0020】
〔1.化合物〕
本発明の一実施形態に係る化合物は、細胞の核内へ移行する性質を有する核移行ユニットと、以下の式(1)にて示されるもの、または、その誘導体である機能ユニットと、上記核移行ユニットと上記機能ユニットとを結合させるリンカーユニットとを有する:
【0021】
【0022】
(上記式(1)中、R1およびR2は、77Brまたは任意の官能基であり、かつ、R1およびR2の少なくとも1つは、77Brである。)。
【0023】
本発明の一実施形態は、例えば、以下の(a)~(f)のような利点を有する:
(a)X線の組織内飛程は数cm以上であり、β線の組織内飛程は2~10mmであり、α線の組織内飛程は28~100μmである。一方、オージェ電子の組織内飛程は0.5μ未満である。本発明の一実施形態は、飛程距離が極めて短いオージェ電子を放出する化合物を用いるので、当該化合物(薬剤)を取り込んだ標的細胞に対して特異的に傷害を与えること、および、当該化合物(薬剤)を取り込まなかった非標的細胞に対して傷害を与えることを防ぐこと、ができる。
【0024】
(b)X線の線エネルギー付与(LET)は低く、β線の線エネルギー付与は0.1~10keV/μmであり、α線の線エネルギー付与は50~230keV/μmである。一方、オージェ電子の線エネルギー付与は4~26keV/μmである。本発明の一実施形態は、線エネルギー付与が十分に大きなオージェ電子を放出する化合物を用いるので、当該化合物(薬剤)を取り込んだ標的細胞に対して、十分に傷害を与えることができる。
【0025】
(c)77Brは、医療用小型サイクロトンによって製造することが可能である。本発明の一実施形態は、77Brによって標識された、BODIPYに由来する構造を有する機能ユニットと、核移行ユニットと、上記核移行ユニットと上記機能ユニットとを結合させるリンカーユニットとを有する化合物を用いるので、当該化合物を、医療用小型サイクロトンが設置された環境下において、容易に製造することができる。
【0026】
(d)本発明の一実施形態は、77Brによって標識された、BODIPYに由来する構造を有する機能ユニットと、核移行ユニットと、上記核移行ユニットと上記機能ユニットとを結合させるリンカーユニットとを有する化合物を用いる。当該化合物は、核移行ユニットの機能によって標的細胞の核内へ移行し、極めて近い距離から、核内のゲノムに対してオージェ電子を照射する。それ故に、本発明の一実施形態は、当該化合物(薬剤)を取り込んだ標的細胞に対して、効率よく傷害を与えることができる。
【0027】
(e)本発明の一実施形態は、77Brによって標識された、BODIPYに由来する構造を有する機能ユニットを用いる。当該機能ユニットは、BODIPYに由来する構造を有するため、当該機能ユニットに光を照射することによって、活性酸素を発生させることができる。それ故に、本発明の一実施形態は、核医学治療、および/または、光線力学治療に用いることができる。例えば、核医学治療および光線力学治療を併用すれば、より効果的に標的細胞に傷害を与えることができる。
【0028】
(f)125Iは半減期(約60日間)が長く生体内に長期間残存し、125Iは構造的に不安定であって標識体から遊離し易く、かつ、遊離した125Iは甲状腺に蓄積されて非特異的な被曝を生じ得る。一方、77Brは半減期(約57時間)が適度な長さであって生体内に長期間残存することはなく、77Brは125Iに比べて構造的に安定であって標識体から遊離し難く、かつ、仮に77Brが遊離したとしても非特異的な被曝が生じる懸念はない。それ故に、本発明の一実施形態は、125Iを用いる技術と比較して、極めて安全性が高い技術を提供することができる。
【0029】
以下では、機能ユニット、核移行ユニット、および、リンカーユニットの各々について説明する。
【0030】
〔1-1.機能ユニット〕
上記機能ユニットは、以下の式(1)にて示されるもの、または、その誘導体である:
【0031】
【0032】
(上記式(1)中、R1およびR2は、77Brまたは任意の官能基であり、かつ、R1およびR2の少なくとも1つは、77Brである。)。なお、上記式(1)では、波線にて記載されている箇所を介して、機能ユニットとリンカーユニットとが結合し得る。
【0033】
上記機能ユニットは、オージェ電子を放出する77Br、および、光によって活性酸素を発生させるBODIPYに由来する構造を有する。それ故に、上記機能ユニットであれば、核医学治療、および/または、光線力学治療を可能にすることができる。
【0034】
上記式(1)中、R1およびR2の少なくとも1つは、77Brである。具体的に、(i)R1が77Brであり、かつ、R2が任意の官能基であってもよく、(ii)R1が任意の官能基であり、かつ、R2が77Brであってもよく、(iii)R1およびR2の両方が77Brであってもよい。
【0035】
上記式(1)中、R1およびR2は、任意の官能基であり得る。当該任意の官能基としては、限定されず、例えば、H、スルホ基、ヒドロキシル基、カルボニル基、アセチル基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アリル基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルフォニルオキシ基、アルキルスルフォニルオキシ基、および、ニトロ基などが挙げられる。
【0036】
上記機能ユニットは、式(1)にて示される機能ユニットの誘導体であり得る。当該誘導体は、式(1)にて示される機能ユニットの一部が他の官能基または他の原子と置換されることにより生じる誘導体であって、かつ、少なくとも1つの77Brを含む誘導体であればよく、具体的な構成は限定されない。
【0037】
上記他の官能基の例としては、スルホ基、ヒドロキシル基、カルボニル基、アセチル基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アリル基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルフォニルオキシ基、アルキルスルフォニルオキシ基、および、ニトロ基などが挙げられる。上記他の原子の例としては、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、および、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0038】
〔1-2.核移行ユニット〕
上記核移行ユニットは、細胞の核内へ移行する性質を有するものである。
【0039】
上記核移行ユニットは、細胞の核内へ移行する性質を有するものであればよく、具体的な構成は限定されない。
【0040】
上記各移行ユニットとしては、例えば、Hochest(例えば、Hochest 33258、Hochest 33342、Hochest 34580)、DAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)、エチジウムブロマイド、ヨウ化プロピジウム、アクリジンオレンジ、および、これらの化合物の誘導体を挙げることができる。核内への集積性および/または細胞膜の透過性を考慮して、適度な、分子量および/または脂溶性を兼ね備えた化合物(移行ユニット)を選択することが好ましい。
【0041】
上記核移行ユニットにおける誘導体は、上述した化合物の一部が他の官能基または他の原子と置換されることにより生じる誘導体であり得る。なお、当該核移行ユニットにおける当該他の官能基および当該他の原子の具体的な構成は、〔1-1.機能ユニット〕にて説明した上記機能ユニットにおける上記他の官能基および上記他の原子の具体的な構成と同じであるので、ここでは、その説明を省略する。
【0042】
上記核移行ユニットは、より具体的に、以下の式(2)にて示されるもの、または、その誘導体であってもよい。なお、以下の式(2)では、波線にて記載されている箇所を介して、核移行ユニットとリンカーユニットとが結合し得る:
【0043】
【0044】
〔1-3.リンカーユニット〕
上記リンカーユニットは、上記核移行ユニットと上記機能ユニットとを結合させるものである。
【0045】
上記リンカーユニットは、上記核移行ユニットと上記機能ユニットとを結合させることができるものであればよく、具体的な構成は限定されない。本発明の一実施形態に係る化合物の合成手順の観点、および/または、本発明の一実施形態に係る化合物の合成を容易にする観点などから、上記リンカーユニットの構成を、適宜、選択することができる。
【0046】
上記リンカーユニットは、例えば、(i)炭素数が1~30個、1~20個、1~15個、または、10~15個のもの、(ii)環構造(例えば、3~6員環、4~6員環、5~6員環、または、6員環)を1個または複数個有するもの、(iii)官能基(例えば、-NH-、および/または、-CO-)を有するもの、または、(iv)上記(i)~(iii)の任意の組み合わせ、であり得る。
【0047】
上記リンカーユニットは、より具体的に、以下の式(3)にて示されるもの、または、その誘導体であってもよい。なお、以下の式(3)では、2つの波線にて記載されている箇所を介して、核移行ユニットとリンカーユニットとが結合し得(例えば、式(3)の左側の波線の箇所)、機能ユニットとリンカーユニットとが結合し得る(例えば、式(3)の右側の波線の箇所):
【0048】
【0049】
上記リンカーユニットにおける誘導体は、式(3)にて示されるリンカーユニットの一部が他の官能基または他の原子と置換されることにより生じる誘導体であり得る。なお、当該リンカーユニットにおける当該他の官能基および当該他の原子の具体的な構成は、〔1-1.機能ユニット〕にて説明した上記機能ユニットにおける上記他の官能基および上記他の原子の具体的な構成と同じであるので、ここでは、その説明を省略する。
【0050】
より具体的に、本発明の一実施形態に係る化合物は、以下の式(4)にて示されるもの、または、その誘導体であってもよい:
【0051】
【0052】
(上記式(4)中、R1およびR2は、77Brまたは任意の官能基であり、かつ、R1およびR2の少なくとも1つは、77Brである。)。なお、R1およびR2の具体的な構成は、上述した〔1-1.機能ユニット〕にて説明したので、ここでは、その説明を省略する。
【0053】
上記本発明の一実施形態に係る化合物における誘導体は、式(4)にて示される化合物の一部が他の官能基または他の原子と置換されることにより生じる誘導体であり得る。なお、当該本発明の一実施形態に係る化合物における当該他の官能基および当該他の原子の具体的な構成は、〔1-1.機能ユニット〕にて説明した機能ユニットにおける上記他の官能基および上記他の原子の具体的な構成と同じであるので、ここでは、その説明を省略する。
【0054】
〔2.薬学的組成物〕
本発明の一実施形態に係る薬学的組成物は、細胞の核内へ移行する性質を有する核移行ユニットと、以下の式(1)にて示されるもの、または、その誘導体である機能ユニットと、上記核移行ユニットと上記機能ユニットとを結合させるリンカーユニットとを有する化合物、を有効成分として含有する:
【0055】
【0056】
(上記式(1)中、R1およびR2は、77Brまたは任意の官能基であり、かつ、R1およびR2の少なくとも1つは、77Brである。)。
【0057】
本発明の一実施形態に係る化合物については、上述した〔1.化合物〕にて説明したので、ここでは、その説明を省略する。
【0058】
上記薬学的組成物は、核医学治療用、および/または、光線力学治療用のものであり得る。
【0059】
上記薬学的組成物の有効成分である化合物に含まれる機能ユニットは、オージェ電子を放出する77Br、および、光によって活性酸素を発生させるBODIPYに由来する構造を有する。それ故に、上記薬学的組成物であれば、核医学治療、および/または、光線力学治療を可能にすることができる。
【0060】
近年のドラッグデリバリー技術の発展により、薬剤を治療部位に送達することができる。公知のドラッグデリバリー技術を選択すれば、本発明の一実施形態に係る薬学的組成物を、疾患の原因となる標的細胞へ運搬することができる。つまり、処置される疾患の種類に応じて、適宜、公知のドラッグデリバリー技術を選択すればよい。それ故に、本発明の一実施形態に係る薬学的組成物によって処置される疾患は、限定されない。
【0061】
上記薬学的組成物は、一例として、癌などの疾患の治療に用いることができる。
【0062】
上記薬学的組成物に含有される有効成分の量は、特に限定されず、例えば、薬学的組成物を100質量%とした場合に、0.00001質量%~100質量%であってもよく、0.0001質量%~100質量%であってもよく、0.001質量%~100質量%であってもよく、0.01質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~95質量%であってもよく、0.1質量%~90質量%であってもよく、0.1質量%~80質量%であってもよく、0.1質量%~70質量%であってもよく、0.1質量%~60質量%であってもよく、0.1質量%~50質量%であってもよく、0.1質量%~40質量%であってもよく、0.1質量%~30質量%であってもよく、0.1質量%~20質量%であってもよく、0.1質量%~10質量%であってもよい。
【0063】
別の観点から、上記薬学的組成物に含有される有効成分の量は、特に限定されず、例えば、1.0×10-3~1.0×1012kBqであってもよく、1.0×10-2~1.0×1012kBqであってもよく、1.0×10-1~1.0×1012kBqであってもよく、1.0~1.0×109kBqであってもよく、1.0~1.0×106kBqであってもよく、1.0~1.0×103kBqであってもよい。
【0064】
上記薬学的組成物は、上述した有効成分以外の成分を含有していてもよい。
【0065】
有効成分以外の成分は、特に限定されず、例えば、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、高分子量重合体、賦形剤、溶媒、抗菌剤などであり得る。
【0066】
上記緩衝剤としては、例えば、リン酸またはリン酸塩、ホウ酸またはホウ酸塩、クエン酸またはクエン酸塩、酢酸または酢酸塩、炭酸または炭酸塩、酒石酸または酒石酸塩、ε-アミノカプロン酸、トロメタモールが挙げられる。上記リン酸塩としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムが挙げられる。上記ホウ酸塩としては、例えば、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムが挙げられる。上記クエン酸塩としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウムが挙げられる。上記酢酸塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムが挙げられる。上記炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。上記酒石酸塩としては、例えば、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウムが挙げられる。
【0067】
上記pH調整剤としては、例えば、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
【0068】
上記等張化剤としては、例えば、イオン性等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム)、非イオン性等張化剤(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール)が挙げられる。
【0069】
上記防腐剤としては、例えば、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム臭化物、ベンゼトニウム塩化物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノールが挙げられる。
【0070】
上記抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸、トコフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0071】
上記高分子量重合体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、アテロコラーゲンが挙げられる。
【0072】
上記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、デンプン、結晶セルロースが挙げられる。
【0073】
上記溶媒としては、例えば、水、生理的食塩水、アルコールが挙げられる。
【0074】
上記抗菌剤としては、例えば、β-ラクタム系、アミノグリコシド系、テトラサイクリン系、リンコマイシン系、クロラムフェニコール系、マクロライド系、ケトライド系、ポリペプチド系、グリコペプチド系の抗生物質;ピリドンカルボン酸(キノロン)系、ニューキノロン系、オキサゾリジノン系、サルファ剤系の合成抗菌薬が挙げられる。
【0075】
上記薬学的組成物に含有される有効成分以外の成分の量は、特に限定されず、例えば、薬学的組成物を100質量%とした場合に、0質量%~99.99999質量%であってもよく、0質量%~99.9999質量%であってもよく、0質量%~99.999質量%であってもよく、0質量%~99.99質量%であってもよく、0質量%~99.9質量%であってもよく、5質量%~99.9質量%であってもよく、10質量%~99.9質量%であってもよく、20質量%~99.9質量%であってもよく、30質量%~99.9質量%であってもよく、40質量%~99.9質量%であってもよく、50質量%~99.9質量%であってもよく、60質量%~99.9質量%であってもよく、70質量%~99.9質量%であってもよく、80質量%~99.9質量%であってもよく、90質量%~99.9質量%であってもよい。
【0076】
上記薬学的組成物の剤型は、限定されず、例えば、内服薬、経皮薬、注射剤、または、点滴剤であり得る。
【0077】
上記薬学的組成物の投与間隔は、限定されず、例えば、1時間に1回、2時間に1回、3時間に1回、6時間に1回、12時間に1回、1日間に1回、2日間に1回、3日間に1回、4日間に1回、5日間に1回、6日間に1回、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、1箇月間に1回、2箇月間に1回、3箇月間に1回、4箇月間に1回、5箇月間に1回、6箇月間に1回、投与され得る。
【0078】
上記薬学的組成物の投与対象は、限定されず、例えば、ヒト、および、非ヒト生物(例えば、家畜、愛玩動物、および、実験動物)を挙げることができる。非ヒト生物としては、例えば、サル、チンパンジー、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、および、ラットを挙げることができる。
【0079】
〔3.その他〕
<1>
細胞の核内へ移行する性質を有する核移行ユニットと、以下の式(1)にて示されるもの、または、その誘導体である機能ユニットと、上記核移行ユニットと上記機能ユニットとを結合させるリンカーユニットとを有する化合物を含有する薬学的組成物を、被験体(例えば、ヒト、または、非ヒト生物)に投与する工程を有する、核医学治療、および/または、光線力学治療:
【0080】
【0081】
(上記式(1)中、R1およびR2は、77Brまたは任意の官能基であり、かつ、R1およびR2の少なくとも1つは、77Brである。)。
【0082】
<2>
上記被験体は、癌患者である、<1>に記載の核医学治療、および/または、光線力学治療。
【0083】
本発明は、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「すべての人に健康と福祉を」等の達成にも貢献することができる可能性がある。
【実施例0084】
<1.化合物の合成>
<1-1.化合物7のCold体(安定同位体)の合成>
以下のスキームにしたがって、化合物7のCold体を合成した。
【0085】
【0086】
上述したスキームを参照しながら、以下に、化合物1から化合物7のCold体を合成するまでの手順を説明する。
【0087】
(化合物2)
化合物1(0.53g、2.80mmol)とトリフェニルホスフィン(1.43g、5.46mmol)とを含有するTHF(27mL)溶液中に、臭化炭素(1.81g、5.46mmol)を少しずつ加え、室温で1日間反応させた。反応後の溶液をセライトにてろ過した後、得られたろ過物をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール系)にて分離および精製することによって、化合物2(0.27g、1.07mmol)を収率38%で得た。
【0088】
(化合物4)
化合物3(53mg、0.10mmol)と化合物2(86mg、0.34mmol)とを含有するDMF(1.0mL)溶液中に、炭酸カリウム(45mg、0.32mmol)を加え、60℃にて一晩攪拌した。反応後の溶液に水15mLを加え、当該混合物をクロロホルム(15mL×3)にて抽出した。得られた抽出物を、硫酸ナトリウムを用いて脱水した後に、シリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール系)にて分離および精製することによって、化合物4(6.7mg、0.011mmol)を収率11%で得た。
【0089】
(化合物6)
化合物5(50mg、0.11mmol)を、脱水ジクロロメタン11.7mLに溶解した。当該溶解液に、N-ブロモスクシイミド(19mg、0.11mmol)を含有する脱水ジクロロメタン(4.7mL)溶液を氷冷しながら滴下しつつ、当該溶解液を30分間撹拌した。その後、当該溶解液を、室温にて一晩攪拌した。反応溶媒を減圧除去した後、得られた反応産物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル系)にて分離および精製することによって、化合物6(49mg、0.90mmol)を収率82%で得た。
【0090】
(化合物7)
氷冷した化合物4(6.7mg、0.011mmol)を含有するジクロロメタン(0.75mL)溶液にトリフルオロ酢酸(0.50mL)を加えた後に、室温にて30分間反応させた。エバポレーターを用いて反応後の溶液から溶媒を減圧除去した後、得られた反応産物へ、化合物6(6.4mg)を含有するDMF(0.75mL)とジイソプロピルエチルアミン(20μL)とを加えて、室温にて一晩反応させた。反応後の溶液に水15mLを加え、当該混合物をクロロホルム(15mL×3)にて抽出した。得られた有機層を硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、当該有機層をシリカゲルクロマトグラフィーにて分離および精製することによって、化合物7(3.5mg、3.8μmol)を収率34%で得た。
【0091】
<1-2.化合物7のHot体(放射性Br-77標識体)の合成>
以下のスキームにしたがって、化合物9のHot体を合成した。
【0092】
【0093】
上述したスキームを参照しながら、以下に、化合物4から化合物9のHot体を合成するまでの手順を説明する。
【0094】
(化合物8)
化合物4と化合物5とを出発原料として、化合物7の合成方法と同様の手法にて、化合物8を収率36%で得た。
【0095】
(放射性Br)
サイクロトロンによる77Se(p,n)77Br反応により、放射性の77Brを製造した。得られた77Brを含むタングステン製のターゲットディスクを1070℃に加熱し、乾湿蒸留法により、77Brを0.5N アンモニア水溶液として回収した。
【0096】
(化合物9)
77Br(15.3MBq)を含んだ0.5N アンモニア水溶液を減圧下で蒸発乾固させたバイアル中に、化合物8(25μg)と、N-クロロスクシイミド(12.5μg)と、1%酢酸-メタノール溶液(50μL)とを加え、室温にて5分間振盪させながら反応を行った。その後、反応後の溶液を、HPLC(カラム:ナカライテスクAR-II 4.6×150mm、Eluent:水-アセトニトリル混合溶媒(0.1%TFA)、Flow rate:1.0mL/min)に注入した後、溶出を開始してから18分前後のピークを分取することによって、化合物9(2.6MBq)を、総作業時間23分間、放射化学的収率17%、放射化学的純度95%以上にて得た。得られた化合物9に対して、Sep-pak C18 Lightを用いて溶媒変換し、当該化合物9を、その後の実験に使用した。尚、化合物9の生成の確認は、同一のHPLC分析条件下において、化合物9の保持時間と化合物7の保持時間とを比較することによって、行った。
【0097】
<2.物性評価>
<2-1.安定性評価>
マウス(BALB/cCrSlc)から採取した血液を、4℃にて16時間保存した後に遠心分離(1000g、25分間)することによって、血漿を回収した。
【0098】
上記血漿(180μL)に、化合物9をPBSに分散させた溶液(1.0MBq、20μL)を加えて混合し、当該混合物を37℃にて保存した。
【0099】
上記血漿と上記溶液とを混合してから5分間後、24時間後、および、48時間後に混合物をサンプリングし、サンプリングした混合物をHPLC(カラム:ナカライテスクAR-II 4.6×150mm、Eluent:水-アセトニトリル混合溶媒(0.1%TFA)、Flow rate:1.0mL/min)に注入した後、18分間後のピークを分取した画分に含まれる放射能をγカウンターで計測することにより、化合物9の生体内での安定性を評価した。
【0100】
試験結果を
図1に示す。
図1から明らかなように、化合物9は、生体内において極めて安定であった。より具体的に、化合物9は、少なくとも
77Brの半減期(約57時間)相当期間中は、生体内において極めて安定であった。
【0101】
<2-2.細胞内および核内への取り込み評価>
実験前日に、HeLa細胞を1×106細胞/wellにて、6ウェルプレート上に播種した。当該HeLa細胞を、化合物9(37kBq)を含む2mLのDMEM培地(25mM HEPES、0.5% EtOH、0.2% BSA)中にてインキュベートした。
【0102】
インキュベートを開始してから2時間後、4時間後、および、6時間後に、HeLa細胞をスクレーパーによって回収した。その後、HeLa細胞のみを遠心分離(2100g、3分間)によって回収し、当該HeLa細胞を、PBS(1mL×3)を用いて洗浄した。細胞ペレットに残った放射能をγカウンターにて測定することによって、細胞内に取り込まれた放射能を決定した。
【0103】
回収した細胞に、10mM Tris、1.5mM MgCl2、140mM NaCl、および、0.1% IGEPAL-CA630から構成された細胞溶解バッファーを2.0mL加えた。当該混合物を0℃にて10分間処理した後に遠心分離(1300g、2分間)して、沈殿物(核画分)を回収した。回収した沈殿物に含まれる放射能をγカウンターにて測定することによって、核内に取り込まれた放射能を決定した。
【0104】
試験結果を
図2に示す。なお、
図2において、「Intracellular」は、細胞内に取り込まれた放射能を示し、「Nuclear」は、核内に取り込まれた放射能を示す。
図2から明らかなように、化合物9は、細胞内および核内へ移行する能力が高いことが明らかになった。より具体的に、化合物9は、細胞と接触してから極めて短い時間にて、核内へ移行することが明らかになった。
【0105】
なお、化合物9と、非特許文献1および2に記載されている125Iにて標識された化合物とを比較すると、化合物9は、125Iにて標識された化合物よりも、例えば、細胞と接触してから核内へ移行するまでの時間が短い点において優れていた。
【0106】
<2-3.細胞傷害性評価>
実験前日に、HeLa細胞を1×104細胞/wellにて、96ウェルプレート上に播種した。化合物9の濃度が0kBq/mL、1.85kBq/mL、3.7kBq/mL、18.5kBq/mL、37kBq/mL、185kBq/mL、または、370kBq/mLになるように調製した、1%EtOHを含むDMEM培地を、上記HeLa細胞が播種された各ウェルに100μLずつ入れた。
【0107】
上記HeLa細胞を、37℃、5%CO2に維持したインキュベーター内にて、2時間培養した。その後、ナカライテスク社製のMTT細胞数測定キットのMTT溶液を、各ウェルに10μL加えた。
【0108】
上記HeLa細胞を、更に4時間培養した。その後、当該HeLa細胞をPBS(150μL×2)にて洗浄し、キットに含まれる可溶化液を各ウェルに100μL加えた。ウェルの底に生成したホルマザンが完全に溶解したことを確認した後、プレートリーダーを用いて570nmの吸光度を測定し、当該吸光度に基づいてHeLa細胞の生存率を算出した。
【0109】
試験結果を
図3に示す。
図3から明らかなように、化合物9は、放射活性が増すにつれて、HeLa細胞の生存率を低下させることが明らかになった。つまり、化合物9は、標的細胞を効果的に死滅させることが明らかになった。
【0110】
なお、化合物9と、非特許文献1および2に記載されている125Iにて標識された化合物とを比較すると、細胞障害能力は同程度に高かった。このことは、本発明を用いることによって、極めて高い安全性と、極めて高い細胞傷害性とを両立できることを示している。