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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015073
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20250123BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250123BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20250123BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01M4/134
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118176
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 英起
(72)【発明者】
【氏名】植村 友一郎
(72)【発明者】
【氏名】大倉 仁寿
(72)【発明者】
【氏名】石溪 秀樹
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK16
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL16
5H029AM16
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ04
5H050AA07
5H050BA16
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB20
5H050FA04
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA04
(57)【要約】
【課題】金属リチウムを電極として使用した場合でも、充放電を繰り返してもサイクル特性が悪化しにくいリチウムイオン電池を提供すること。
【解決手段】金属リチウムと対極となる電極活物質層とが、高分子固体電解質を介して対向しているリチウムイオン電池であって、
前記高分子固体電解質が、水酸基を3個以上有するポリオール(A-1)、ジオール(A-2)及びイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート(B)を含む組成物の反応物と電解液(C)とを含み、
前記高分子固体電解質における前記電解液(C)の重量割合が、前記高分子固体電解質の重量を基準として60~80重量%であり、
前記高分子固体電解質の貯蔵せん断弾性率が10kPa以上であることを特徴とするリチウムイオン電池。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属リチウムと対極となる電極活物質層とが、高分子固体電解質を介して対向しているリチウムイオン電池であって、
前記高分子固体電解質が、水酸基を3個以上有するポリオール(A-1)、ジオール(A-2)及びイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート(B)を含む組成物の反応物と電解液(C)とを含み、
前記高分子固体電解質における前記電解液(C)の重量割合が、前記高分子固体電解質の重量を基準として60~80重量%であり、
前記高分子固体電解質の貯蔵せん断弾性率が10kPa以上であることを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項2】
前記ポリイソシアネート(B)がポリメリックジフェニルメタンジイソシアネートである請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記金属リチウムと前記高分子固体電解質との間にさらに保護膜を有し、
前記保護膜が、架橋性ビニル単量体を必須構成単量体とする共重合体と電解液(D)とを含み、
前記保護膜の貯蔵せん断弾性率が10~32MPaであり、
前記保護膜の膜厚が10~15μmである請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記架橋性ビニル単量体が、ビニル基、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群より選ばれるラジカル重合性官能基を4個以上有する単量体を含み、
前記保護膜における前記架橋性ビニル単量体の重量が、前記共重合体を構成する単量体及び電解液(D)の合計重量を基準として12~18重量%である請求項3に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記電解液(D)のSP値と前記共重合体の構成単量体それぞれのSP値との差の絶対値がすべて4.9(cal/cm1/2以下である請求項3に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記保護膜における前記電解液(D)の重量割合が、前記共重合体を構成する単量体及び電解液(D)の合計重量を基準として40~60重量%である請求項3に記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力密度が達成できるリチウムイオン電池に注目が集まっている。
【0003】
リチウムイオン電池において活物質として金属リチウムを用いる場合、電池の容量が大きくできるという利点はあるものの、電池の充放電を繰り返すうちに金属リチウムが溶解、電極表面に析出、針状に成長して電池を短絡させる(サイクル特性を悪化させる)という課題があった。
これを解決する方法として、例えば、特許文献1には、リチウムと合金化することが可能な金属を含む保護膜を金属リチウム上に設けることが提示されている。また、特許文献2には、高分子樹脂を含む保護層を金属リチウム上に設けることでリチウムの析出を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-035226号公報
【特許文献2】特表2021-527936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、リチウムと合金化することが可能な金属を含む保護膜を設けるにはめっき等の操作が必要となり、商業的に実施するには設備面での課題が多い。高分子樹脂を含む保護層についても、イオン伝導度と保護層の強度を両立することは困難であった。
また、上記提案ではいずれも無機系固体電解質が用いられているが、無機系固体電解質と前記保護膜との界面でもリチウムの析出は生じるため、固体電解質と保護膜との界面におけるリチウムの析出抑制とその結果としての電池のサイクル特性の悪化は依然として課題であった。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みて為されたものであり、金属リチウムを電極として使用した場合でも、充放電を繰り返してもサイクル特性が悪化しにくいリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
本発明は、金属リチウムと対極となる電極活物質層とが、高分子固体電解質を介して対向しているリチウムイオン電池であって、前記高分子固体電解質が、水酸基を3個以上有するポリオール(A-1)、ジオール(A-2)及びイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート(B)を含む組成物の反応物と電解液(C)とを含み、前記高分子固体電解質における前記電解液(C)の重量割合が、前記高分子固体電解質の重量を基準として60~80重量%であり、前記高分子固体電解質の貯蔵せん断弾性率が10kPa以上であることを特徴とするリチウムイオン電池、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属リチウムを電極として使用した場合でも、充放電を繰り返してもサイクル特性が悪化しにくいリチウムイオン電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のリチウムイオン電池は、金属リチウムと対極となる電極活物質層とが、高分子固体電解質を介して対向する構造を有する。
金属リチウムが負極として機能する場合、対極となる電極活物質層は正極活物質層となる。正極活物質層は正極活物質を含む。
正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiAlMnO、LiMnO及びLiMn等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO、LiNi1-xCo、LiMn1-yCo、LiNi1/3Co1/3Al1/3及びLiNi0.8Co0.15Al0.05)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMM’M’’(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO、LiCoPO、LiMnPO及びLiNiPO)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)、遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0010】
金属リチウムが正極として機能する場合、対極となる電極活物質層は負極活物質層となる。負極活物質層は負極活物質を含む。
負極活物質としては、炭素系材料[黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)及び炭素繊維等]、珪素系材料[珪素、酸化珪素(SiO)、珪素-炭素複合体(炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等)及び珪素合金(珪素-アルミニウム合金、珪素-リチウム合金、珪素-ニッケル合金、珪素-鉄合金、珪素-チタン合金、珪素-マンガン合金、珪素-銅合金及び珪素-スズ合金等)等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金及びリチウム-アルミニウム-マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。
上記負極活物質のうち、内部にリチウム又はリチウムイオンを含まないものについては、予め負極活物質の一部又は全部にリチウム又はリチウムイオンを含ませるプレドープ処理を施してもよい。
【0011】
本発明における高分子固体電解質は、金属リチウムと対極となる電極活物質層との間に存在する。
前記高分子固体電解質は、水酸基を3個以上有するポリオール(A-1)、ジオール(A-2)及びイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート(B)を含む組成物の反応物と電解液(C)とを含む。
【0012】
前記水酸基を3個以上有するポリオール(A-1)としては、アルカンポリオール及びその分子内又は分子間脱水物が挙げられ、例えばグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ポリグリセリン及びジペンタエリスリトール等が挙げられる。
前記ポリオール(A-1)は、上記を単独で使用しても2種以上を併用しても良い。単独で使用する場合、得られる高分子固体電解質の弾性の観点から、水酸基を3個又は4個有するポリオールを使用することが好ましい。
【0013】
前記ジオール(A-2)としては、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びポリエステルジオール等が挙げられる。
ポリエーテルジオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合ジオール、ポリオキシエチレンオキシテトラメチレンブロック共重合ジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-ジフェニルプロパンなどの低分子グリコールのエチレンオキシド付加物、数平均分子量2,000以下のPEGとジカルボン酸[炭素数4~10の脂肪族ジカルボン酸(例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸など)、炭素数8~15の芳香族ジカルボン酸(例えばテレフタル酸、イソフタル酸など)など]の1種以上とを反応させて得られる縮合ポリエーテルエステルジオール及びこれら2種以上の混合物が挙げられる。
これらのうち、好ましくはPEG、PPG、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合ジオール及びポリオキシエチレンオキシテトラメチレンブロック共重合ジオールであり、特に好ましくはPEG、PPGである。
【0014】
ポリカーボネートジオールとしては、炭素数4~12、好ましくは炭素数6~10、さらに好ましくは炭素数6~9のアルキレン基を有するアルキレンジオールの1種又は2種以上と、低分子カーボネート化合物(例えば、アルキル基の炭素数1~6のジアルキルカーボネート、炭素数2~6のアルキレン基を有するアルキレンカーボネート及び炭素数6~9のアリール基を有するジアリールカーボネートなど)から、脱アルコール反応させながら縮合させることによって製造されるポリカーボネートポリオール(例えばポリヘキサメチレンカーボネートジオール)が挙げられる。
【0015】
ポリエステルジオールとしては、数平均分子量1,000以下のジオール及び/又は数平均分子量1,000以下のポリエーテルジオールと前述のジカルボン酸の1種以上とを反応させて得られる縮合ポリエステルジオールや、炭素数4~12のラクトンの開環重合により得られるポリラクトンジオールなどが挙げられる。上記低分子ジオールとして上記ポリエーテルジオールの項で例示した低分子グリコールなどが挙げられる。上記数平均分子量1,000以下のポリエーテルジオールとしてはポリオキシプロピレングリコール、PTMGなどが挙げられる。上記ラクトンとしては、例えばε-カプロラクトン、γ-バレロラクトンなどが挙げられる。該ポリエステルジオールの具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチレンアジペートジオール、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンアジペート)ジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリカプロラクトンジオール及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0016】
高分子固体電解質の機械強度の観点から、前記ジオール(A-2)の数平均分子量は、1,000~35,000であることが好ましい。
【0017】
前記ジオール(A-2)の数平均分子量は、下記の条件によるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記する場合がある)により測定される。
【0018】
<ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの条件>
装置:HLC-8320GPC(東ソー(株)製)
溶媒:DMF
標準物質:ポリスチレン
サンプル濃度:0.125mg/ml
カラム固定相:TSKgel SuperAW4000、TSKgel SuperAW3000、TSKgel SuperAW2500 3本直列(東ソー(株)製)
カラム温度:40℃
【0019】
本発明におけるイソシアネート(B)としては、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様)2~18の脂肪族イソシアネート(b1)、炭素数8~15の芳香脂肪族イソシアネート(b2)、炭素数6~20の芳香族イソシアネート(b3)、これらのイソシアヌレート基、ウレトイミン基、アロファネート基、ビウレット基、カルボジイミド基及び/又はウレトジオン基を有するイソシアネート変性体(b4)等が挙げられる。イソシアネート(B)は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
炭素数2~18の脂肪族イソシアネート(b1)としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ヘプタメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-又は2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、2,6-ジイソシアナトエチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキシレン-1,2-ジカルボキシレート及び2,5-又は2,6-ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0021】
炭素数8~15の芳香脂肪族イソシアネート(b2)としては、m-又はp-キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジエチルベンゼンジイソシアネート及びα,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等が挙げられる。
【0022】
炭素数6~20の芳香族イソシアネート(b3)としては、1,3-又は1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-又は2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、m-又はp-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン及び1,5-ナフチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0023】
イソシアヌレート基、ウレトイミン基、アロファネート基、ビウレット基、カルボジイミド基及び/又はウレトジオン基を有するイソシアネート変性体(b4)としては、MDIのウレトイミン基を有する変成体、HDIのビウレット基を有する変性体及びHDIのイソシアヌレート基を有する変性体等が挙げられる。
【0024】
前記イソシアネート(B)としては、得られる高分子固体電解質の弾性及び伸縮性の観点からMDIが好ましく、さらに好ましくはポリメリックMDIである。ポリメリックMDIは、種々な異性体含有率のモノメリックMDIと数種の構造の多核体の混合物である。
【0025】
高分子固体電解質の弾性の観点から、前記水酸基を3個以上有するポリオール(A-1)の重量割合は、前記高分子固体電解質の重量を基準として0.1~1.0重量%であることが好ましい。
同じく高分子固体電解質の弾性の観点から、ジオール(A-2)の重量割合は、前記高分子固体電解質の重量を基準として20~40重量%であることが好ましい。
また、同じく高分子固体電解質の弾性の観点から、イソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート(B)の重量割合は、前記高分子固体電解質の重量を基準として1.0~5重量%であることが好ましい。
【0026】
本発明における電解液(C)は、電解質と電解液溶媒とからなる。
電解質としては、リチウム塩としてリチウムイオン電池に用いられる公知のものを使用することができ、LiCFSO、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF及びLiClO等の無機酸のリチウム塩系電解質、LiFSi、LiN(FSO、LiN(CFSO及びLiN(CSO及びLiCNO(LiTFSI)等のスルホニルイミド系電解質、LiC(CFSO等のフッ素原子を有するスルホニルメチド系電解質等が挙げられる。
熱安定性や耐加水分解性の観点から、電解質はスルホニルイミド系電解質であることが好ましい。
【0027】
電解液溶媒は、引火点が100℃以上であることが好ましい。
電解液溶媒の引火点が100℃以上であると、高分子固体電解質の安全性(難燃性)が向上する。
電解液溶媒としては、複数の溶媒を混合して使用してもよく、混合後の電解液溶媒の引火点が100℃であれば、引火点が100℃未満の溶媒を含んでもよい。
電解液溶媒としては、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテル、ジグライム、トリグライム、テトラグライム及びスルホラン等が挙げられる。
【0028】
本明細書において、電解液溶媒及び電解液の引火点は、JIS K 2265-1-2007で規定されるタグ密閉法により測定される温度である。
【0029】
前記高分子固体電解質における前記電解液(C)の重量割合は、前記高分子固体電解質の重量を基準として60~80重量%である。前記高分子固体電解質における前記電解液(C)の重量割合が前記高分子固体電解質の重量を基準として60重量%未満であると高分子固体電解質のイオン伝導性が低下し、前記高分子固体電解質における前記電解液(C)の重量割合が前記高分子固体電解質の重量を基準として80重量%を超えると高分子固体電解質の機械強度が不足する。
高分子固体電解質のイオン伝導性及び強度の両立の観点から、前記高分子固体電解質における前記電解液(C)の重量割合は、前記高分子固体電解質の重量を基準として65~80重量%であることが好ましい。
【0030】
前記高分子固体電解質の貯蔵せん断弾性率は、10kPa以上である。前記高分子固体電解質の貯蔵せん断弾性率が10kPa未満であると電極形状が不安定になる。電極の柔軟性及び電解液保持率の観点から、前記高分子固体電解質の貯蔵せん断弾性率は、10~100kPaであることが好ましく、10~61kPaであることがより好ましい。
前記高分子固体電解質の貯蔵せん断弾性率は、前期高分子固体電解質における前期水酸基を3個以上有するポリオール(A-1)の重量割合及び電解液(C)の重量割合で調整することができる。
【0031】
本発明における貯蔵せん断弾性率は、以下の方法で測定した。
高分子固体電解質を構成する材料すべてを、直径8mm、厚さ1mmのシリコン型に充填し80℃、3時間硬化させて成型し、測定サンプルを得た。前記測定サンプルをアントンパール社製レオメーター「MCR-802」に直径8mmのパラレルプレートで挟みこみ、25℃で温調した状態での垂直抗力が1.0Nになるようプレートのギャップを調整した後、回転ひずみ2%の条件で0.01~10Hzのせん断周波数条件で測定した。
【0032】
本発明における前記高分子固体電解質は、前記構成要素以外に、通常の高分子化合物に使用される添加剤を本発明の目的に反しない範囲内で含有していてもよい。添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、及び耐光安定剤などの安定剤;紫外線吸収剤;無機フィラーや有機フィラーなどの充填剤;滑剤;離型剤;可塑剤;帯電防止剤などが挙げられる。
【0033】
機械特性の観点から、前記高分子固体電解質の膜厚は30~150μmであることが好ましい。前記高分子固体電解質の膜厚は成形条件によって調整することができる。
【0034】
本発明における前記高分子固体電解質は、高分子固体電解質を構成する全成分を混合した後、50℃~100℃に加熱して硬化させることにより製造することができる。
【0035】
本発明のリチウムイオン電池は、前記金属リチウムと前記高分子固体電解質との間にさらに保護膜を有することが好ましい。前記保護膜を有するとリチウムイオン電池のサイクル特性がさらに向上する。
【0036】
前記保護膜は、架橋性ビニル単量体を必須構成単量体とする共重合体と電解液(D)とを含むことが好ましい。
架橋性ビニル単量体としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールペンタもしくはヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタアクリレートを意味する。
【0037】
前記保護膜の機械特性の観点から、前記架橋性ビニル単量体は、ビニル基、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群より選ばれるラジカル重合性官能基を4個以上有する単量体を含むことがより好ましい。具体的には、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられる。ラジカル重合性官能基を4個以上有する単量体を含むことで機械強度が向上しLi金属の繰り返し充放電に伴う溶解・析出にともなう電極に対して垂直方向へのデンドライドの成長を抑制することができる。
【0038】
前記保護膜の機械特性及び製膜性の観点から、前記保護膜における前記架橋性ビニル単量体の重量は、前記共重合体を構成する単量体及び電解液(D)の合計重量を基準として12~18重量%であることが好ましい。
【0039】
前記共重合体は、前記共重合体を構成する単量体として前記架橋性ビニル単量体の他にその他の重合性ビニル単量体(E)を含むことが好ましい。その他の重合性ビニル単量体(E)としては、活性水素原子を含有しない共重合性ビニルモノマー(e1)が挙げられる。
【0040】
(e1)としては、下記の(e11)~(e14)が挙げられる。
(e11)ハイドロカルビル(メタ)アクリレート
ハイドロカルビル基が、脂肪族〔炭素数(以下、Cと略記)1~25(好ましくは4~18)、例えばアルキル基[メチル、エチル、n-又はi-プロピル、n-、i-、sec-又はt-ブチル、n-、i-、sec-、t-又はネオペンチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、ノニル、デシル、ラウリル、トリデシル、ミリスチル、セチル及びステアリル基等]及びアルケニル基[エテニル、プロペニル、ブテニル、ヘキセニル、デセニル及びオレイル基等]等〕、脂環式[C4~18、例えばシクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシル基]及び芳香脂肪族[C7~18、例えばベンジル及びフェニルエチル基]カルビル基等;
【0041】
(e12)ポリ(n=2~30)オキシアルキレンアルキル(C1~18)エーテル(メタ)アクリレート
メタノールのエチレンオキシド(以下、EOと略記)10モル付加物の(メタ)アクリレート、メタノールのプロピレンオキシド(以下、POと略記)10モル付加物の(メタ)アクリレート等;
【0042】
(e13)窒素原子含有ビニルモノマー
(e131)C3~20の、3級又は4級窒素含有(メタ)アクリルアミド化合物
3級窒素含有(メタ)アクリルアミド化合物[ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等];
4級窒素含有ビニル化合物[上記3級窒素含有ビニル化合物の4級化物(メチルクロライド、ジメチル硫酸、ベンジルクロライド、ジメチルカーボネート等の4級化剤を用いて
4級化したもの)等];
【0043】
(e132)3級又は4級窒素含有(メタ)アクリレート
3級窒素含有〔ジアルキル(C1~4)アミノアルキル(C1~4)(メタ)アクリレート[N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等]、複素環含有(メタ)アクリレート[モルホリノエチル(メタ)アクリレート等]等〕;
4級窒素含有〔(メタ)アクリレート[上記3級アミノ基含有(メタ)アクリレートの4級化物(前記の4級化剤を用いて4級化したもの)等]等〕;
【0044】
(e133)複素環含有ビニル化合物
ピリジン化合物(C7~14、例えば2-又は4-ビニルピリジン)、イミダゾール化合物(C5~12、例えばN-ビニルイミダゾール)、ピロール化合物(C6~13、例えばN-ビニルピロール)等;
(e134)ニトリル基含有ビニル化合物
C3~15のニトリル基含有ビニル化合物、例えば(メタ)アクリロニトリル、シアノスチレン、シアノアルキル(C1~4)アクリレート;
(e135)その他の窒素原子含有ビニル化合物
ニトロ基含有ビニル化合物(C8~16、例えばニトロスチレン)等;
【0045】
(e14)不飽和炭化水素
(e141)脂肪族不飽和炭化水素
C2~18又はそれ以上のオレフィン[エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、オクタデセン等]、C4~10又はそれ以上のジエン[ブタジエン、イソプレン、1,4-ペンタジエン、1,6-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等]等;
(e142)脂環式不飽和炭化水素
C4~18又はそれ以上の環状不飽和炭化水素、例えばシクロヘキセン、(ジ)シクロペンタジエン、ピネン、リモネン、インデン;
(e143)芳香族不飽和炭化水素
C8~20又はそれ以上の芳香族不飽和炭化水素、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン;
【0046】
(e15)ビニルエステル、ビニルエーテル、ビニルケトン、不飽和ジカルボン酸ジエステル
(e151)ビニルエステル
脂肪族ビニルエステル(C4~15、例えば酢酸ビニル、ビニルブチレート、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ジアリルアジペート、イソプロペニルアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルベンゾエート);
芳香族ビニルエステル(C9~20、例えばジアリルフタレート、メチル-4-ビニルベンゾエート、アセトキシスチレン);
【0047】
(e152)ビニルエーテル
脂肪族ビニルエーテル〔C3~15、例えばビニルアルキル(C1~10)エーテル[ビニルメチルエーテル、ビニルブチルエーテル、ビニル2-エチルヘキシルエーテル等]、ビニルアルコキシ(C1~6)アルキル(C1~4)エーテル[ビニル-2-メトキシエチルエーテル、メトキシブタジエン、3,4-ジヒドロ-1,2-ピラン、2-ブトキシ-2’-ビニロキシジエチルエーテル、ビニル-2-エチルメルカプトエチルエーテル等]、ポリ(2~4)(メタ)アリロキシアルカン(C2~6)[ジアリロキシエタン、トリアリロキシエタン、テトラアリロキシブタン、テトラメタアリロキシエタン等]〕;
芳香族ビニルエーテル(C8~20、例えばビニルフェニルエーテル、フェノキシスチレン);
【0048】
(e153)ビニルケトン
脂肪族ビニルケトン(C4~25、例えばビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン);
芳香族ビニルケトン(C9~21 、例えばビニルフェニルケトン);
(e154)不飽和ジカルボン酸ジエステル
C4~34の不飽和ジカルボン酸ジエステル、例えばジ(シクロ)アルキルフマレート、ジ(シクロ)アルキルマレエート[いずれにおいても2個の(シクロ)アルキル基は、C1~22の直鎖、分枝鎖又は脂環式の基を表す]。
【0049】
前記保護膜の機械特性及び金属リチウムとの親和性の観点から、その他の重合性ビニル単量体(E)としては、単量体の重合反応で得られる重合体のガラス転移温度が25℃以上かつ単量体のSP値が6.8以上であることが好ましく、より好ましくは重合体のガラス転移温度が45℃以上かつ単量体のSP値が8以上である。
例えば、イソボルニルメタクリレート、メチルメタクリレート、ビニル安息香酸及び3-(ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミドが好ましい。
【0050】
前記電解液(D)としては、前述した電解液(C)と同様のものが使用できる。
なお、電解液(D)と電解液(C)は同じであっても異なっていてもよい。
【0051】
前記保護膜の機械特性とイオン伝導性との両立の観点から、前記保護膜における前記電解液(D)の重量割合は、前記共重合体を構成する単量体及び電解液(D)の合計重量を基準として40~60重量%であることが好ましい。
【0052】
前記共重合体と前記電解液(D)とのなじみやすさの観点から、前記保護膜において、前記電解液(D)のSP値と前記共重合体の構成単量体それぞれのSP値との差の絶対値は4.9(cal/cm1/2以下であることが好ましい。前記電解液(D)は2種以上の混合物であってもよいが、その場合前記電解液(D)のSP値は以下の方法で算出した値の加重平均とする。
なお、前記電解液(D)のSP値は、前記電解液(D)を構成する電解液溶媒のSP値がそのまま引き継がれると考えてよい。
【0053】
本願においてSP値(溶解度パラメータ)[単位は(cal/cm1/2]は、Fedors法(Polymer Engineering and Science,February,1974,Vol.14、No.2 P.147~154)の152頁(Table.5)に記載の数値(原子又は官能基の25℃における蒸発熱及びモル体積)を用いて、同153頁の数式(28)に記載の方法で算出される値である。具体的には、Fedors法のパラメータである下記表1に記載のΔei及びΔviの数値から、分子構造内の原子及び原子団の種類に対応した数値を用いて、下記数式(1)に当てはめることで算出することができる。
SP値=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2 ・・・(1)
上記数式におけるΣΔei(単位はcal/モル)は凝集エネルギー密度(単位はcal/モル)であり、ΣΔviは分子容(単位はcm/モル)である。
【0054】
【表1】
【0055】
電極の安定性の観点から、前記保護膜の貯蔵せん断弾性率は10~32MPaであることが好ましい。前記保護膜の貯蔵せん断弾性率は、前記保護膜における前記架橋性ビニル単量体の重量割合又は前記電解液(D)の重量割合で調整することができる。
【0056】
機械特性の観点から、前記保護膜の膜厚は10~15μmであることが好ましい。前記保護膜の膜厚は成形条件によって調整することができる。
【0057】
本発明における前記保護膜は、前記構成要素以外に、通常の高分子化合物に使用される添加剤を本発明の目的に反しない範囲内で含有していてもよい。添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、及び耐光安定剤などの安定剤;紫外線吸収剤;無機フィラーや有機フィラーなどの充填剤;滑剤;離型剤;可塑剤;帯電防止剤などが挙げられる。
【0058】
本発明における前記保護膜は、保護膜を構成する全成分を混合した後、50℃~100℃に加熱して硬化させることにより製造することができる。
【実施例0059】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。
【0060】
<電解液の作製>
温度19℃、露点-60℃dpの環境下にて1日乾燥させた反応容器に、撹拌子及びトリプロピレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業(株)製)38.3重量部を加えマグネチックスターラーで撹拌した。そこにリチウム(ビスフルオロスルホニル)イミド(キシダ化学(株)製)15.1重量部及びエチレンカーボネート(東京化成工業(株)製)16.4重量部を加えて溶解、均一化させて電解を作製した。
【0061】
(高分子固体電解質の作製:製造例1)
作製した電解液を69.8重量部に3官能性プロピレンオキシド付加物(三洋化成工業(株)製、サンニックスGP-250)0.4重量部、2官能性ポリプロピレンオキシド(三洋化成工業(株)製、サンニックスPPG-600)1.2重量部、及び2官能性ポリプロピレンオキシド(三洋化成工業(株)製、サンニックスPPG-4000)25.3重量部を加えた。次いでビスマス系金属触媒(日東化成(株)製、ネオスタンU-600)0.2重量部を加えて10分間撹拌し透明均一なポリアルコール液を得た。
作製したポリアルコール液にポリメリックMDI(東ソー(株)製、ミリオネートMR-200)3.0重量部を加えて5分撹拌し薄黄色の液体を得た。得られた薄黄色の液体を、ベルジャーにて19℃、30分間、減圧脱泡して高分子電解質前駆体を作製した。
作製した高分子電解質前駆体を5cm×10cm角のPPトレーに静かに流し込みトレー底全体に前駆体を行き渡らせた後、平行の取れた恒温槽にて80℃、3時間で温調をおこなった。温調完了後、PPトレーから剥がして薄黄色の透明な高分子固体電解質(K-1)を得た。厚み計で測定した高分子固体電解質の厚みは500μmだった。
【0062】
(高分子固体電解質の作製:製造例2~4及び比較製造例1~5)
表2に示すように、各種構成種及び重量割合を変更した以外は、製造例1と同様に、製造例2~4及び比較製造例1~5に係る高分子固体電解質を作製した。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に記載の略称の詳細は以下の通り。
PEG-2000:ポリエチレングリコール[三洋化成工業株式会社製]
PE-68:「ニューポールPE-68」[三洋化成工業株式会社製]
PPG-4000:ポリプロピレングリコール[三洋化成工業株式会社製]
PEG-200:ポリエチレングリコール[三洋化成工業株式会社製]
PPG-600:ポリプロピレングリコール[三洋化成工業株式会社製]
EC:エチレンカーボネート[東京化成工業株式会社製]
PC:プロピレンカーボネート[東京化成工業株式会社製]
DEC:ジエチルカーボネート[東京化成工業株式会社製]
TGDE:トリエチレングリコールジメチルエーテル[キシダ化学株式会社製]
G4:テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)[キシダ化学株式会社製]
PG3:トリプロピレングリコールジメチルエーテル[富士フイルム和光純薬株式会社製]
LiPF:六フッ化リン酸リチウム
LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド
LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド
【0065】
<貯蔵せん断弾性率の測定>
前記高分子電解質前駆体を、直径8mm、厚さ1mmのシリコン型に充填し80℃、3時間硬化させて成型し、測定サンプルを得た。前記測定サンプルをアントンパール社製レオメーター「MCR-802」に直径8mmのパラレルプレートで挟みこみ、25℃で温調した状態での垂直抗力が1.0Nになるようプレートのギャップを調整した後、回転ひずみ2%の条件で0.01~10Hzのせん断周波数条件で測定した。結果を表3に示した。
【0066】
<電解液保持率及び1気圧自立性の測定>
得られた高分子固体電解質を20mm×20mm角に切り出し電解液保持率評価用サンプルを作製した。サンプルの両面に30mm×30mm角に切り出したPPセパレータ(「セルガード#3501」)を3枚ずつ配置し、さらに厚さ10mm、60mm×100mm角のステンレス板で挟んだ。さらに、上側のステンレス板の上に、サンプルへの荷重が4kgになるように錘を配置して25℃にて48時間の温調をおこなった。温調完了後セパレータ6枚を取り出し、評価前の重量W0と評価後の重量W1、及びサンプルの初期重量S0から、電解液保持率を次式で算出した。
電解液保持率=(1-((W1-W0)/S0))×100(%)
また評価後のサンプルについて4辺をノギスで測定し変形有無の確認及び外観からクラック等がないかを確認した。結果は表3に示した。
【0067】
<イオン伝導度評価>
得られた高分子固体電解質を直径18mmの円形に打ち抜きイオン伝導度評価用サンプルを作製した。サンプルは直径16mmの円形状に打ち抜いたLi金属(本条金属(株)製、Li-Foil:厚み0.5mm)2枚で挟みさらにステンレス金属極を外側に配した。インピーダンス測定はBioLogic社の電気化学測定装置「VSP-300」を用いて25℃に温調した恒温槽内で7MHz~1Hzの周波数域でおこなった。得られたNyquistプロットにおける高周波数側の半円をサンプルのバルク抵抗Rとし、サンプルの厚みd、Li金属との対向面積Aからイオン伝導度δを次式で算出した。結果を表3に示した。
δ=d/(R×A)
【0068】
<電流密度の測定>
高分子固体電解質がどの程度の電流を安定して流すことができるかをクロノポテンショメトリ―を用いて評価した。
得られた高分子固体電解質を直径18mmの円形に打ち抜き電流密度評価用のサンプルを作成した。サンプルは直径16mmの円形状に打ち抜いたリチウム金属(本条金属(株)製、Li-Foil:厚み0.5mm)2枚で挟みさらにステンレス金属極を外側に配した。次いで、BioLogic社の電気化学測定装置(VSP-300)を用いて25℃に温調した恒温槽内で0.01mA/cmの電流密度で1時間保持し電圧が安定化するかの確認をおこなった。電圧が安定化している場合、サンプル内でのイオン伝導が十分におこなえていると言える。次いで-0.01mA/cmの電流密度でも同様に1時間保持をおこなった。その後、電流密度を+と-を交互に変えながら増やしていき、電圧が±2Vに当たった時点で測定を終了した。電圧が±2Vに当たった直前に測定した電流密度を出力可能な限界電流密度とした。結果を表3に示した。
【0069】
【表3】
【0070】
(保護膜の作製:製造例5)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(三洋化成工業(株)製、ネオマーDA-600)15重量部、安息香酸ビニル(東京化成工業(株)製)35重量部、エチレンカーボネート17重量部、、プロピレンカーボネート(東京化成工業(株)製)17重量部、LiFSI16重量部及び2,2‘-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬(株)製:V-65)0.01重量部をスクリュー管で混合し保護膜前駆体を得た。前記保護膜前駆体の硬化時間をレオメーターで80℃で測定したところ45分となった。
作成した保護膜前駆体1.0部を、各種内径を持った厚さ1mmのシリコン型に静かに流し込み、平行の取れた恒温槽にて80℃、1時間の温調をおこなった。温調完了後、シリコン型から外して透明な保護膜を得た。
【0071】
(保護膜の作製:製造例6~10)
表4に示すように、各種構成種及び重量割合を変更した以外は、製造例5と同様に、製造例6~10に係る保護膜を作製した。
【0072】
【表4】
【0073】
<貯蔵せん断弾性率の測定>
直径8mmのシリコン型から外して得られた保護膜を、アントンパール社製レオメーター「MCR-802」に直径8mmのパラレルプレートで挟みこみ、25℃で温調した状態での垂直抗力が1.0Nになるようプレートのギャップを調整した後、回転ひずみ2%の条件で1Hzのせん断周波数条件で測定した。結果を表5に示した。
【0074】
<電解液保持率の測定>
直径16mmのシリコン型から外して得られた保護膜を測定用サンプルとした。サンプルの両面に30mm×30mm角に切り出したPPセパレータ(「セルガード#3501」)を3枚ずつ配置し、さらに厚さ10mm、60mm×100mm角のステンレス板で挟んだ。さらに、上側のステンレス板の上に、サンプルへの荷重が4kgになるように錘を配置して25℃にて48時間の温調をおこなった。温調完了後セパレータ6枚を取り出し、評価前の重量W0と評価後の重量W1、及びサンプルの初期重量S0から、電解液保持率を次式で算出した。結果を表5に示した。
電解液保持率=(1-((W1-W0)/S0))×100(%)
【0075】
<イオン伝導度評価>
直径8mmのシリコン型から外して得られた保護膜を測定用サンプルとした。サンプルを内径10mm、外径18mmに加工したPPリングの内側に配し、直径16mmの円形状に打ち抜いたリチウム金属2枚を上下に挟みさらにステンレス金属極を外側に配した。インピーダンス測定はBioLogic社の電気化学測定装置(VSP-300)を用いて25℃に温調した恒温槽内で7mHz~1Hzの周波数域でおこなった。得られたNyquiStプロットにおける高周波数側の半円をサンプルのバルク抵抗Rとし、サンプルの厚みd、リチウム金属との対向面積Aからイオン伝導度δを次式から算出した。結果を表5に示した。
δ=d/(R×A)
【0076】
<リチウム析出サイクル数の測定>
直径16mmのシリコン型から外して得られた保護膜を測定用サンプルとした。金属リチウムを直径16mmの円形に打ち抜き、金属リチウム、保護膜、金属リチウムの順にCR2032型のコインセルに格納した。得られたコインセルについて、Biologic社の電気化学測定装置(VSP-300)を用いて、±2.0mA/cmの電流密度を1時間ずつ交互にかけ続け、過電圧が低下した(金属リチウムの溶解・析出による反応表面積の増加にともなう抵抗減少が生じたと考えられる)時点のサイクル数をリチウム析出サイクル数とした。結果を表5に示した。
【0077】
【表5】
【0078】
(リチウムイオン電池の作製:実施例1)
リン酸鉄リチウム(メルク製、LiFePO)82重量部、アセチレンブラック(デンカ(株)製、デンカブラック:平均粒径35nm)12重量部及びポリフッ化ビニリデンのN-メチルピロリドン(以後、NMPと省略)溶液(株)クラレ製、KFポリマーL)46重量部を混錬装置((株)シンキー製、あわとり練太郎)専用容器に入れ、2000rpmで1分間の混錬をおこなった。ついで、NMPを44重量部加えて2000rpmで1分間の混錬をおこなう操作を5回繰り返し電極組成物のスラリーを得た。
得られたスラリーをアルミ箔上にスキージ塗工した後、平行の取れた乾燥機で120℃、1時間の熱風乾燥をおこない平均目付2.3mg_LFP/cmの電極を得た。
【0079】
得られた電極の膜厚を計測し、電極の厚みに対して33μmギャップを上げたスキージを用いて製造例1で作製した高分子固体電解質前駆体(組成:K-1)を塗工した。その後平行の取れた恒温槽で80℃、3時間の温調をおこない電極上に高分子固体電解質を作製した。高分子固体電解質の厚みは30μmだった。
【0080】
前記高分子固体電解質を備えた電極を直径18mmの円形に打ち抜き正極とした。次いで直径16mmの円形に打ち抜いた金属リチウムを高分子固体電解質の上に配置しCR2032型のコインセルに格納してリチウムイオン電池を作製した。
【0081】
(リチウムイオン電池の作製:実施例2)
使用する高分子固体電解質の組成を(K-1)から(K-3)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2に係るリチウムイオン電池を作製した。
【0082】
(リチウムイオン電池の作製:実施例3)
アルゴングローブボックス内で金属リチウムを平坦な塗工台に設置し、製造例5で作製した保護膜前駆体(組成:H-1)をアズワン製バーコーターNo.7を用いて金属リチウム上に塗工した。保護膜前駆体を塗工した金属リチウムをグローブボックス内に設置した80℃の恒温槽に1時間静置して金属リチウム上に保護膜を形成した。形成した保護膜の外観は均一であり、膜厚を計測したところ13μmであった。
【0083】
実施例1で作製した電極の膜厚を計測し、電極の厚みに対して73μmギャップを上げたスキージを用いて製造例1で作製した高分子固体電解質前駆体(組成:K-1)を塗工した。その後平行の取れた恒温槽で80℃、3時間の温調をおこない電極上に高分子固体電解質を作製した。高分子固体電解質の厚みは70μmだった。
前記高分子固体電解質を備えた電極を直径18mmの円形に打ち抜き正極とした。次いで直径16mmの円形に打ち抜いた保護膜を備えた金属リチウムを、保護膜と高分子固体電解質が直接重なるように配置しCR2032型のコインセルに格納してリチウムイオン電池を作成した。
【0084】
(リチウムイオン電池の作製:実施例4)
アルゴングローブボックス内で金属リチウムを平坦な塗工台に設置し、製造例6で作製した保護膜前駆体(組成:H-2)をアズワン製バーコーターNo.7を用いて金属リチウム上に塗工した。保護膜前駆体を塗工した金属リチウムをグローブボックス内に設置した80℃の恒温槽に1時間静置して金属リチウム上に保護膜を形成した。形成した保護膜の外観は均一であり、膜厚を計測したところ13μmであった。
【0085】
実施例1で作製した電極の膜厚を計測し、電極の厚みに対して33μmギャップを上げたスキージを用いて製造例3で作製した高分子固体電解質前駆体(組成:K-3)を塗工した。その後平行の取れた恒温槽で80℃、3時間の温調をおこない電極上に高分子固体電解質を作製した。高分子固体電解質の厚みは30μmだった。前記高分子固体電解質を備えた電極を直径18mmの円形に打ち抜き正極とした。
【0086】
製造例3で作製した高分子固体電解質前駆体(組成:K-3)をPET離型フィルムに120μmのギャップで塗工し、平行の取れた恒温槽で80℃、3時間の温調をおこなった後、PET離型フィルムから離型して高分子固体電解質膜(組成:K-3)を得た。得られた高分子固体電解質膜の膜厚は120μmだった。
前記高分子固体電解質膜を直径18mmの円形に打ち抜き、前記正極の高分子固体電解質と重なるように配置した。次いで直径16mmの円形に打ち抜いた保護膜を備えた金属リチウムを、保護膜と高分子固体電解質が直接重なるように配置しCR2032型のコインセルに格納しリチウムイオン電池を作成した。
【0087】
(リチウムイオン電池の作製:実施例5~8)
高分子固体電解質前駆体及び保護膜前駆体の組成と膜厚を表6の通り変更した以外は、実施例3と同様にして実施例5~8に係るリチウムイオン電池を作製した。なお、実施例6及び実施例8では、保護膜前駆体を金属リチウムに塗工する際にアズワン製バーコーターNo.8を用いた。
【0088】
(リチウムイオン電池の作製:比較例1)
アルゴングローブボックス内で金属リチウムを平坦な塗工台に設置し、製造例5で作製した保護膜前駆体(組成:H-1)をアズワン製バーコーターNo.7を用いて金属リチウム上に塗工した。保護膜前駆体を塗工した金属リチウムをグローブボックス内に設置した80℃の恒温槽に1時間静置して金属リチウム上に保護膜を形成した。形成した保護膜の外観は均一であり、膜厚を計測したところ13μmであった。
【0089】
実施例1で作製した電極の膜厚を計測し、電極の厚みに対して33μmギャップを上げたスキージを用いて比較製造例1で作製した高分子固体電解質前駆体(組成:K’-1)を塗工した。その後平行の取れた恒温槽で80℃、3時間の温調をおこない電極上に高分子固体電解質を作製した。高分子固体電解質の厚みは30μmだった。前記高分子固体電解質を備えた電極を直径18mmの円形に打ち抜き正極とした。
【0090】
比較製造例1で作製した高分子固体電解質前駆体(組成:K’-1)をPET離型フィルムに90μmのギャップで塗工し、平行の取れた恒温槽で80℃、3時間の温調をおこなった後、PET離型フィルムから離型して高分子固体電解質膜(組成:K’-1)を得た。得られた高分子固体電解質膜の膜厚は90μmだった。
前記高分子固体電解質膜を直径18mmの円形に打ち抜き、前記正極の高分子固体電解質と重なるように配置した。次いで直径16mmの円形に打ち抜いた保護膜を備えた金属リチウムを、保護膜と高分子固体電解質が直接重なるように配置しCR2032型のコインセルに格納しリチウムイオン電池を作成した。
【0091】
(リチウムイオン電池の作製:比較例2)
実施例1で作製した電極の膜厚を計測し、電極の厚みに対して65μmギャップを上げたスキージを用いて製造例5で作成した保護膜前駆体(組成:H―1)を高分子固体電解質前駆体の代わりに塗工した。その後平行の取れた恒温槽で80℃、1時間の温調をおこない電極上に高分子固体電解質膜を作成した。高分子固体電解質の厚みは50μmだった。
得られた高分子固体電解質を備える電極を直径18mmの円形に打ち抜き正極とした。次いで、直径16mmの円形に打ち抜いた実施例3で作製した保護膜(組成:H-1)を備えた金属リチウムを、保護膜と正極が直接重なるように配置しCR2032型のコインセルに格納してリチウムイオン電池を作成した。
【0092】
(リチウムイオン電池の作製:比較例3)
実施例1で作製した電極を直径16mmの円形に打ち抜き正極とした。ここに、EC、DEC及びLiPFを30:50:20重量%の割合で調製した電解液を10μL、マイクロピペッターを用いて注液した。次いで、直径18mmの円形に打ち抜いたセルガード2500(PP製、厚さ25μm)を2枚積層し上述の電解液を10μL注液した。次いで、、直径16mmの円形に打ち抜いた金属リチウムを積層しCR2032型のコインセルに格納してリチウムイオン電池を作成した。
【0093】
<耐久サイクル数の測定>
得られたリチウムイオン電池について、BioLogic社製充放電システム「BCS-805」を用いて充放電評価をおこなった。充電条件は0.04mA/cmで4.0Vまでの定電流充電、放電は0.04mA/cmで2.0Vまでの定電流放電を実施した。この充放電を1サイクルとして繰り返しおこなう際に、充電が15時間を経過しても4.0Vに到達しなくなった時点で、電池内部が部分的に短絡を起こしていると判断した。充電しても4.0Vまで到達しなくなったサイクルの直前のサイクル数を耐久サイクル数とした。結果は表6に示した。
【0094】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のリチウムイオン電池は、燃料電池、水電解装置、ハロゲン化水素酸電解装置、食塩電解装置、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサー等に用いられる。特に車載用電源や家庭用電源としての固体高分子型燃料電池として好適に用いられる。