(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015087
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】放射線検出装置、放射性核種検出装置、放射性核種分布測定方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/22 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
G01T1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118210
(22)【出願日】2023-07-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物名:Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A, Vol.1049, Article 168071 発行日:2023年1月23日(オンライン公開日) 第4回日本保健物理学会・日本放射線安全管理学会合同大会 開催場所:福岡市西区元岡 国立大学法人九州大学 開催日:2022年11月24日~11月26日(予稿公開:2022年11月17日) JAEA-review-2022-2023 第35頁~第40頁「一次元光ファイバ放射線センサを用いた原子炉建屋内放射線源分布計測」ウェブサイトの掲載日:2022年12月 https://jopss.jaea.go.jp/search/servlet/search?5073936 https://jopss.jaea.go.jp/pdfdata/JAEA-Review-2022-033.pdf
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】寺阪 祐太
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA23
2G188BB04
2G188BB05
2G188CC39
2G188EE01
2G188EE06
2G188EE39
(57)【要約】
【課題】放射線を検出することによって放射性核種の分布を認識する際に、この放射線のエネルギーに関する情報も認識することによって、複数の放射性核種が混在している場合でも、特定の放射性核種を検出する。
【解決手段】液体ライトガイド10の両端には、それぞれ端部で光を検出する光検出器21A、21Bが設けられる。MCA26で、液体ライトガイド10に荷電粒子が入射した際における1回の発光に対する、光検出器21A、21Bにおける検出タイミングの時間差を認識することができる。放射線検出装置1によって得られた検出強度分布においては、両端部側に第2の検出光(端面での反射を経た光)に基づく反射ピークが形成され、これらの間に第1の検出光(端面での反射を経ない光)に基づく非反射ピークが形成される。荷電粒子に起因するチェレンコフ光を検出する場合には、これらのピークの強度比は荷電粒子のエネルギーによって変化する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した荷電粒子によって発生したチェレンコフ光を検出することによって前記荷電粒子を検出する放射線検出器であって、
前記チェレンコフ光である光を発生させ、当該光を長手方向における両端部の側にそれぞれ伝搬させると共に、前記両端部の各々の端面で当該光の一部を反射させる導光部材と、
前記導光部材中において前記チェレンコフ光の発生箇所から前記端面で反射されずに前記両端部のうちのいずれかに達した光である第1の検出光、及び前記発生箇所から前記端面での反射を経て前記両端部のうちのいずれかに達した光である第2の検出光を、前記導光部材の前記両端部の側の各々でそれぞれ検出する第1の光検出器、第2の光検出器と、
前記第1の光検出器と前記第2の光検出器における光検出の組み合わせの時間差を前記導光部材の前記長手方向における位置に対応させ、前記組み合わせのカウント数の前記位置に対する依存性の測定結果であり、前記第1の検出光に起因して前記両端部側以外で形成されるピークである非反射ピークと、前記第2の検出光に起因して前記両端部側で形成されるピークである反射ピークと、を有する検出強度分布を認識し、当該検出強度分布より、エネルギーの異なる前記荷電粒子を区別して検出する解析部と、
を具備することを特徴とする放射線検出装置。
【請求項2】
前記導光部材でチェレンコフ光を発生させる前記荷電粒子はγ線により生成されたコンプトン電子であり、前記解析部は、前記荷電粒子を検出することにより前記γ線を検出することを特徴とする請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項3】
測定対象領域における、荷電粒子である放射線又は荷電粒子を発生させる放射線を発する放射性核種を検出する放射性核種検出装置であって、
請求項1に記載の放射線検出装置を用い、
前記導光部材は前記測定対象領域に敷設され、
前記解析部は、前記検出強度分布より、当該測定対象領域における測定対象となる放射性核種の存在を、他の放射性核種から区別して認識することを特徴とする放射性核種検出装置。
【請求項4】
前記解析部は、前記測定対象となる放射性核種の前記測定対象領域内における分布を、前記導光部材の前記長手方向に沿った分布として認識することを特徴とする請求項3に記載の放射性核種検出装置。
【請求項5】
前記解析部は、
エネルギーの異なる前記荷電粒子を発生させる2種類の核種を前記測定対象となる放射性核種として設定し、
前記導光部材の前記長手方向における位置を、両端部側の各々に対応した領域を含む3つ以上の区間に区分し、
前記2種類の核種の各々が各前記区間の各々に存在した場合の前記検出強度分布である参照用検出強度分布における各前記区間におけるカウント数より算出された応答係数を用い、前記測定対象領域に対して得られた前記検出強度分布より、前記2種類の核種の各々の前記導光部材の前記長手方向に沿った分布を認識することを特徴とする請求項4に記載の放射性核種検出装置。
【請求項6】
前記解析部は、前記検出強度分布において、前記導光部材の長手方向における両端側のピークとして前記反射ピークを、前記長手方向における中央側のピークとして前記非反射ピークをそれぞれ認識し、前記反射ピークと前記非反射ピークの強度比から、前記測定対象領域における前記測定対象となる放射性核種の存在を、前記他の放射性核種から区別して認識することを特徴とする請求項3に記載の放射性核種検出装置。
【請求項7】
前記測定対象となる放射性核種には90Sr又は90Yが含まれることを特徴とする請求項3から請求項6までのいずれか1項に記載の放射性核種検出装置。
【請求項8】
前記2種類の核種は、それぞれ90Sr又は90Y、137Csであることを特徴とする請求項5に記載の放射性核種検出装置。
【請求項9】
入射した荷電粒子によって発生したチェレンコフ光を検出することによって前記荷電粒子である放射線、又は前記荷電粒子を発生させる放射線を検出し、前記放射線を発し測定対象となる放射性核種を、他の放射性核種と区別して測定対象領域内における分布を測定する放射性核種分布測定方法であって、
前記チェレンコフ光である光を発生させ、当該光を長手方向における両端部の側にそれぞれ伝搬させると共に、前記両端部の各々の端面で当該光の一部を反射させる導光部材を前記測定対象領域に敷設し、
前記導光部材中において前記チェレンコフ光の発生箇所から前記端面で反射されずに前記両端部のうちの一方に達した光である第1の検出光、及び前記発生箇所から前記端面での反射を経て前記両端部のうちの一方に達した光である第2の検出光を、前記導光部材の前記両端部の側の各々でそれぞれ検出する第1の光検出器、第2の光検出器を用い、
前記第1の光検出器と前記第2の光検出器における光検出の組み合わせの時間差を前記導光部材の前記長手方向における位置に対応させ、前記組み合わせのカウント数の前記位置に対する依存性の測定結果であり、前記第1の検出光に起因して両端部側以外で形成されるピークである非反射ピークと、前記第2の検出光に起因して両端部側で形成されるピークである反射ピークと、を有する検出強度分布を認識し、
前記検出強度分布より、前記測定対象となる放射性核種の分布を、前記他の放射性核種の分布と分離して認識することを特徴とする、放射性核種分布測定方法。
【請求項10】
前記導光部材の前記長手方向における位置を、両端部側の各々に対応した領域を含む3つ以上の区間に区分し、
前記測定対象となる放射性核種と前記他の放射性核種の各々が各前記区間の各々に存在した場合の前記検出強度分布である参照用検出強度分布における各前記区間におけるカウント数より算出された応答係数を用い、前記測定対象領域に対して得られた前記検出強度分布より、前記測定対象となる放射性核種と前記他の放射性核種の各々の前記導光部材の前記長手方向に沿った分布を認識することを特徴とする請求項9に記載の放射性核種分布測定方法。
【請求項11】
前記測定対象となる放射性核種、前記他の放射性核種は、それぞれ90Sr又は90Y、137Csであることを特徴とする請求項10に記載の放射性核種分布測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線強度を測定する放射線検出装置、これを用いた放射性核種検出装置、放射性核種分布測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を発する核種の空間分布を測定する技術は、放射性物質で汚染された環境を評価する上で重要である。このための技術として、非特許文献1には、シンチレータとして機能する光ファイバーや液体ライトガイドを敷設し、その両端部でそれぞれ発光を検出し、その受光タイミングの時間差より発光位置(放射線の入射位置)を算出する技術が記載されている。この技術においては、測定対象となる領域において所望の形態で光ファイバー等を敷設することができるため、これによって放射線を発した核種の1次元、2次元分布を測定することができる。
【0003】
放射線の線量が低い場合には、この技術によって放射線の入射位置を正確に算出できるが、線量が高い場合には、検出される発光の数が多くなり、時間差を検出すべき発光出力の組み合わせの特定が困難となるため、放射線の入射位置を正確に算出することが困難となった。これに対して、特許文献1には、光ファイバーの端部に設けられた分光器でその発光のスペクトルを測定することによって、放射線の入射位置を認識する技術が記載されている。この技術においては、線量が高い場合でも、放射線を発した核種の分布を測定することができる。
【0004】
これらの技術においては、単純な装置構成で、放射線を発した核種(放射性核種)の空間分布を測定することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.Hayashi、J.Kawarabayashi、K.Asai、H.Iwai、Yuri Nakagawa、and T.Iguchi、「Position-Sensitive Radiation Detector with Flexible Light Guide and Liquid Organic Scintillator to Monitor Distributions of Radioactive Isotopes」、Journal of Nuclear Science and Technology、 Vol.45(sup.6)、p.81(2008年)
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の技術においては、発光位置を認識することによって、放射線核種の位置(空間分布)を測定することができる。一方、この放射性核種が何であるかを特定する、あるいは特定の放射性核種の分布を他の放射性核種と区別して測定する際には、検出された放射線のエネルギーに関する情報が必要である。上記の技術においては、放射線(あるいはこれを発した核種)の分布を測定すると同時に、この放射線のエネルギーに関する情報を得ることは困難であった。
【0008】
このため、放射線を検出することによって放射性核種の分布を認識する際に、この放射線のエネルギーに関する情報も認識することによって、複数の放射性核種が混在している場合でも、特定の放射性核種を検出することができる技術が望まれた。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の放射線検出装置は、入射した荷電粒子によって発生したチェレンコフ光を検出することによって前記荷電粒子を検出する放射線検出器であって、前記チェレンコフ光である光を発生させ、当該光を長手方向における両端部の側にそれぞれ伝搬させると共に、前記両端部の各々の端面で当該光の一部を反射させる導光部材と、前記導光部材中において前記チェレンコフ光の発生箇所から前記端面で反射されずに前記両端部のうちのいずれかに達した光である第1の検出光、及び前記発生箇所から前記端面での反射を経て前記両端部のうちのいずれかに達した光である第2の検出光を、前記導光部材の前記両端部の側の各々でそれぞれ検出する第1の光検出器、第2の光検出器と、前記第1の光検出器と前記第2の光検出器における光検出の組み合わせの時間差を前記導光部材の前記長手方向における位置に対応させ、前記組み合わせのカウント数の前記位置に対する依存性の測定結果であり、前記第1の検出光に起因して前記両端部側以外で形成されるピークである非反射ピークと、前記第2の検出光に起因して前記両端部側で形成されるピークである反射ピークと、を有する検出強度分布を認識し、当該検出強度分布より、エネルギーの異なる前記荷電粒子を区別して検出する解析部と、を具備することを特徴とする。
本発明の放射線検出装置において、前記導光部材でチェレンコフ光を発生させる前記荷電粒子はγ線により生成されたコンプトン電子であり、前記解析部は、前記荷電粒子を検出することにより前記γ線を検出することを特徴とする。
本発明の放射性核種検出装置は、測定対象領域における、荷電粒子である放射線又は荷電粒子を発生させる放射線を発する放射性核種を検出する放射性核種検出装置であって、前記放射線検出装置を用い、前記導光部材は前記測定対象領域に敷設され、前記解析部は、前記検出強度分布より、当該測定対象領域における測定対象となる放射性核種の存在を、他の放射性核種から区別して認識することを特徴とする。
本発明の放射性核種検出装置において、前記解析部は、前記測定対象となる放射性核種の前記測定対象領域内における分布を、前記導光部材の前記長手方向に沿った分布として認識することを特徴とする。
本発明の放射性核種検出装置において、前記解析部は、エネルギーの異なる前記荷電粒子を発生させる2種類の核種を前記測定対象となる放射性核種として設定し、前記導光部材の前記長手方向における位置を、両端部側の各々に対応した領域を含む3つ以上の区間に区分し、前記2種類の核種の各々が各前記区間の各々に存在した場合の前記検出強度分布である参照用検出強度分布における各前記区間におけるカウント数より算出された応答係数を用い、前記測定対象領域に対して得られた前記検出強度分布より、前記2種類の核種の各々の前記導光部材の前記長手方向に沿った分布を認識することを特徴とする。
本発明の放射性核種検出装置において、前記解析部は、前記検出強度分布において、前記導光部材の長手方向における両端側のピークとして前記反射ピークを、前記長手方向における中央側のピークとして前記非反射ピークをそれぞれ認識し、前記反射ピークと前記非反射ピークの強度比から、前記測定対象領域における前記測定対象となる放射性核種の存在を、前記他の放射性核種から区別して認識することを特徴とする。
本発明の放射性核種検出装置において、前記測定対象となる放射性核種には90Sr又は90Yが含まれることを特徴とする。
本発明の放射性核種検出装置において、前記2種類の核種は、それぞれ90Sr又は90Y、137Csであることを特徴とする。
本発明の放射性核種分布測定方法は、入射した荷電粒子によって発生したチェレンコフ光を検出することによって前記荷電粒子である放射線、又は前記荷電粒子を発生させる放射線を検出し、前記放射線を発し測定対象となる放射性核種を、他の放射性核種と区別して測定対象領域内における分布を測定する放射性核種分布測定方法であって、前記チェレンコフ光である光を発生させ、当該光を長手方向における両端部の側にそれぞれ伝搬させると共に、前記両端部の各々の端面で当該光の一部を反射させる導光部材を前記測定対象領域に敷設し、前記導光部材中において前記チェレンコフ光の発生箇所から前記端面で反射されずに前記両端部のうちの一方に達した光である第1の検出光、及び前記発生箇所から前記端面での反射を経て前記両端部のうちの一方に達した光である第2の検出光を、前記導光部材の前記両端部の側の各々でそれぞれ検出する第1の光検出器、第2の光検出器を用い、前記第1の光検出器と前記第2の光検出器における光検出の組み合わせの時間差を前記導光部材の前記長手方向における位置に対応させ、前記組み合わせのカウント数の前記位置に対する依存性の測定結果であり、前記第1の検出光に起因して両端部側以外で形成されるピークである非反射ピークと、前記第2の検出光に起因して両端部側で形成されるピークである反射ピークと、を有する検出強度分布を認識し、前記検出強度分布より、前記測定対象となる放射性核種の分布を、前記他の放射性核種の分布と分離して認識することを特徴とする。
本発明の放射性核種分布測定方法は、前記導光部材の前記長手方向における位置を、両端部側の各々に対応した領域を含む3つ以上の区間に区分し、前記測定対象となる放射性核種と前記他の放射性核種の各々が各前記区間の各々に存在した場合の前記検出強度分布である参照用検出強度分布における各前記区間におけるカウント数より算出された応答係数を用い、前記測定対象領域に対して得られた前記検出強度分布より、前記測定対象となる放射性核種と前記他の放射性核種の各々の前記導光部材の前記長手方向に沿った分布を認識することを特徴とする。
本発明の放射性核種分布測定方法において、前記測定対象となる放射性核種、前記他の放射性核種は、それぞれ90Sr又は90Y、137Csであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は以上のように構成されているので、放射線の空間分布と、この放射線のエネルギーに関する情報を同時に認識することができる。あるいは、この技術を用いて、複数の放射性核種が混在している場合でも、特定の放射性核種の分布を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る放射線検出装置の構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る放射線検出装置によって
90Sr(
90Y)に対して得られた検出強度分布の例である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る放射線検出装置によって
137Csに対して得られた検出強度分布の例である。
【
図4】測定された検出強度分布を模式的に示す図である。
【
図5】液体ライトガイド内で発生したチェレンコフ光が発光位置から端面に達するまでの伝搬状況を、線源が
90Sr(
90Y)である場合(a)、線源が
137Csである場合(b)において模式的に示す図である。
【
図6】液体ライトガイド内で発生したチェレンコフ光が端面で反射されてからの伝搬状況を、線源が
90Sr(
90Y)である場合(a)、線源が
137Csである場合(b)において模式的に示す図である。
【
図7】チェレンコフ光の放射角の電子エネルギー依存性を計算した結果である。
【
図8】線源を
90Sr(
90Y))、
137Csとした場合における検出強度分布の非反射・反射ピーク強度比を線源の位置毎に算出した結果である。
【
図9】本発明の実施の形態に係る放射性核種検出装置によって、第1の試料に対して実際に得られた検出強度分布(a)、
90Sr/
90Yの分布(b)、
137Csの分布(c)である。
【
図10】本発明の実施の形態に係る放射性核種検出装置によって、第2の試料に対して実際に得られた検出強度分布(a)、
90Sr/
90Yの分布(b)、
137Csの分布(c)である。
【
図11】本発明の実施の形態に係る放射性核種検出装置の変形例を示す図である。
【
図12】本発明の実施の形態に係る放射性核種検出装置の変形例によって得られる検出強度分布を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る放射線検出装置について説明する。この放射線検出装置は、検出された放射線を発した放射性核種の検出、更にはその空間分布を測定する放射性核種検出装置としても機能する。
図1は、この放射線検出装置(放射性核種検出装置)1の構成を示す図である。この放射線検出装置1においても、非特許文献1に記載の技術と同様に、液体ライトガイド(導光部材)10が用いられる。液体ライトガイド10は、液体をコアとする光ファイバーと考えることができ、その長さ方向に沿って光を伝搬させることができる。
【0014】
この液体ライトガイド10内の液体の屈折率nは1よりも大きく、この中を伝搬する光の伝搬速度は、真空中の光速度をcとするとc/n(<c)となる。このような場合には、高速の荷電粒子(例えば電子)がこの液体に入射すると、この荷電粒子のこの液体中における速度をvとして、v>c/nとなりえ、この場合にチェレンコフ効果により光(チェレンコフ光)が発せられる。この場合には、チェレンコフ光は、荷電粒子の進行方向の周りにおける、cosθ=c/(n・v)で定まる角度θ内の円錐形状の領域においてのみ、指向性をもって発せられる。この光が液体ライトガイド10を延伸方向(長手方向)に沿って伝搬して両端部に達した場合、非特許文献1に記載の技術と同様に、液体ライトガイド10の両端部においてこの発光が検出された時間差を認識すれば、この時間差より、液体ライトガイド10の長手方向における発光位置(荷電粒子線の入射位置)を認識することができる。
【0015】
ここで、例えば90Srはβ崩壊をして90Yとなり、90Yからは、最大で2.28MeVの電子(β線)が発せられ、このエネルギーの電子は液体ライトガイド10内でチェレンコフ光を発生させることができる。またβ線の飛程は短いため、90Sr(90Y)を上記の液体ライトガイド10に近接させれば、90Sr(90Y)の存在、あるいは液体ライトガイド10の長手方向に沿った90Sr(90Y)の位置を上記の手法により認識することができる。
【0016】
一方、例えば137Csはβ崩壊、γ崩壊をするが、放出されるβ線のエネルギーは90Sr(90Y)よりも低い。また、γ線自身はチェレンコフ光を発生させないが、γ線と物質(液体)中の電子との間のコンプトン散乱によって低エネルギーの電子(コンプトン電子)が発生し、このコンプトン電子がチェレンコフ光を発生させうる。このため、137Csの存在、位置も、同様の原理によって90Sr(90Y)と同様に認識することができる。
【0017】
図1において、液体ライトガイド10の両端(図中上側と下側)には、それぞれ端部で光を検出する光検出器(第1の光検出器)21A、光検出器(第2の光検出器)21Bが設けられる。光検出器21A、21Bとしては、微弱なチェレンコフ光を検出する際に後述するような高い感度と高い時間分解能が要求されるために、光電子増倍管が特に好ましく用いられる。
【0018】
光検出器21A、21Bの出力(パルス出力)は、増幅器22A、22Bにそれぞれ入力して増幅された後に、そのタイミングが比較される。このため、光検出器21A、21Bよりも後段の構成は、これらの出力の時間差を認識するための周知のTOF(Time of Flight)回路となっている。まず、これらの各出力は、CFD(Constant Fraction Discriminator)23A、23Bに入力し、出力パルスの波高が異なる場合においてもそのタイミングが適正に認識されたタイミングパルスとして出力され、CFD23Aの出力には遅延部24によって一定の遅延時間を付与された後に、TAC(Time to Amplitude Converter)25によって、認識された時間差が電圧に変換されたパルスとして出力される。この出力により、マルチチャネルアナライザ(MCA)26で、液体ライトガイド10に荷電粒子が入射した際における1回の発光に対する、光検出器21A、21Bにおける検出タイミングの時間差を認識することができる。
【0019】
MCA26からの出力は、コンピュータである解析部30に入力する。TAC25において、光検出器21A、21Bにおける検出タイミングが近い光検出の組み合わせは、1回の発光に起因するものと推定できる。このため、解析部30は、認識された時間差から、液体ライトガイド10内における発光の位置(放射線の入射位置)を認識することができる。前記のように、90Sr(90Y)や137Csを液体ライトガイド10に近接させれば、これらの延伸方向に沿った位置を認識することができる。実際には、放射線(電子線、γ線)を検出する毎に上記の結果が得られるため、解析部30は、放射線の検出強度(カウント数)の位置依存性となる検出強度分布を、液体ライトガイド10の延伸方向にわたり得ることができる。この検出強度分布におけるピークの位置が、放射性核種がある位置に対応する。
【0020】
上記の内容は、非特許文献1に記載の技術と同様である。本発明の実施の形態に係る放射線検出装置(放射性核種検出装置)1においては、上記のような検出タイミングの時間差以外の解析も行い、検出された荷電粒子のエネルギーに関する情報を得る、あるいはこれを用いて荷電粒子の元となった放射性核種の識別を行うこと等ができる。このような装置の動作、あるいは放射性核種分布測定方法について以下に説明する。
【0021】
まず、解析部30は、前記のように、光検出器21A、21Bにおける光検出の組み合わせのカウント数(発光強度に対応)を縦軸、液体ライトガイド10内の位置を横軸としたヒストグラム(検出強度分布)として認識する。実際に、
図1の構成において、液体ライトガイド10の長さを5mとし、
90Sr(
90Y)、
137Csの各々を液体ライトガイド10の延伸方向における一定の箇所(一端側から1.5m、2.5m、3.5m)に置いた場合における、前記のような放射線の検出強度分布(ヒストグラム)を実測した結果について説明する。
【0022】
図2は、線源として100kBqの
90Sr(
90Y)を用いた場合、
図3は、10MBqの
137Csを用いた場合の測定結果である。どちらにおいても、前記の通り、線源を設置した位置にピークをもつ分布が得られており、これにより、どちらの場合においても線源の位置を認識できることが明らかである。一方、
図2、
図3のどちらにおいても、両端部側(0m、5m側)にもピークが認識できる。このピークの強度は、線源の位置に応じて変化するものの、どの位置においてもこのピークは存在する。更に、このピークの強度は、線源の位置に対応した本来のピーク(1.5m、2.5m、3.5mの位置)の強度と比べると、
図2の場合(
90Sr(
90Y))の方が、
図3の場合(
137Cs)の場合よりも小さい。
【0023】
図4は、検出強度分布においてここで得られた3つのピークをもつ特性を単純化して模式的に示す図である。中央のピークP0は、前記のように発光位置に対応したピークであり、このピークの頂点の位置は、発光位置(放射線の入射位置)に対応する。すなわち、ピークP0を構成する光検出器21A、21Bの出力の組み合わせは、発光位置における1回の発光において左右の端部側にそれぞれ進行して検出された光の組み合わせに相当する。この点については、非特許文献1に記載のとおりである。
【0024】
ここで、1回の放射線(電子)の入射で発せられた光が一方の端部まで伝搬すると、この光は、この端部側の光検出器で検出される場合と、この端部側では検出されずにこの端面で反射されて他方の端部側まで伝搬する場合がある。また、前記のようにチェレンコフ光は一定の角度θとなる放射角度で発せられるため、この同じ発光において、反対側(他方の端部側)に伝搬する光も同時に発生し、こちら側でも同様に、この端部側の光検出器で検出される場合と、この端面で反射される場合がある。ピークP0を構成する光検出の組み合わせは、このような端面での反射を経ないで一方の端部側で検出された光と、同様に端面での反射を経ないで他方の端部側で検出された光との組み合わせに対応する。
【0025】
ここで、特に指向性のあるチェレンコフ光が液体ライトガイド10中のある一点で発生した場合におけるその後の伝搬状況について考察する。
図5(a)(b)においては、電子(荷電粒子)の入射によって発生したチェレンコフ光の液体ライトガイド10内における両端部までの光の伝搬の状況が模式的に示され、
図5(a)においては、線源が
90Sr(
90Y)(検出される放射線がβ線(電子)である場合)、
図5(b)においては、線源が
137Cs(検出される放射線がγ線)である場合が、それぞれ示されている。実際には電子は液体ライトガイド10内を直進するとは限らず、発光過程はより複雑となるが、ここでは、ある一点(発光位置P)で光が発せられるものとして単純化して記載されている。
【0026】
前記の通り、チェレンコフ光は、発光位置Pにおいて、電子の進行方向の周りの角度(放射角度)θ内の円錐形の領域で発せられる。
図5(a)においては、
90Sr(
90Y)から発せられた電子が下側から下側の外壁Wを透過して液体ライトガイド10中に入射してチェレンコフ光が発せられる。この際の電子のエネルギーは最大で2.28MeV程度である。一方、
図5(b)においては、
137Csから発せられた0.662MeVのγ線自身はチェレンコフ光を発生させないが、このγ線は液体ライトガイド10内でコンプトン散乱されることによって最大0.48MeV程度のコンプトン電子を発生させ、このコンプトン電子(電子)が
図5(a)と同様に発光位置Pでチェレンコフ光を発生させる。ただし、
図5(a)の場合と比べると、このコンプトン電子のエネルギーは低い(前記のvが小さい)ため、チェレンコフ光の放射角度θは小さい。
【0027】
ここで、光が液体ライトガイド10内の長さ方向を伝搬するためには、光が上下の外壁W間を反射されることが要求され、光が外壁Wで全反射されることが必要であり、図中上下にある外壁Wに対する入射角(外壁Wの法線方向を基準とする)が大きく、π/2に近い(図中水平に近い)、すなわち、外壁Wに対して斜入射となることが要求される。このため、例えば
図5(a)において、L1、L2の光はこの液体ライトガイド10内を伝搬してそれぞれ左側の端面LF、右側の端面RFに達するが、外壁Wに対して直入射に近いL3の光は液体ライトガイド10内を伝搬できず、どちらの端面にも達さない。この場合におけるL1の光の左側の端面LFでの光検出D1とL2の光の右側の端面RFでの光検出D2の組み合わせは前記のピークP0を構成する。光検出D1と光検出D2の時間差は長さ方向における発光位置Pに依存するため、非特許文献1に記載されるように、ピークP0のピーク位置より、発光位置Pを算出することができる。
【0028】
一方、
図5(b)において
図5(a)のL1に対応するL4の光は、L1と同様に左側の端面LFに達するが、L2に対応するL5の光は、L3の光と同様に外壁Wに対して直入射に近くなり、どちらの端面にも達さず、検出されない。このため、
図5(b)の場合には、L4の光の光検出D3は認識されるが、これと対になるL5の光の光検出(図中のD4)は認識されないため、L4の光に起因する光検出D3は前記のピークP0を構成する組み合わせには含まれない。なお、
図5(b)においては、L5の光は左上側に向けて発せられているが、右上側に向けて発せられた場合においても同様である。このように、電子のエネルギーが低く放射角度θが小さい場合には、端面に達さない光の割合が増えるため、ピークP0を構成する光検出の組み合わせは少なくなり、エネルギーが高い場合と比べてピークP0の強度(ピーク値あるいは積分値)が低下する。
【0029】
一方、前記のように、各端面に達した光のうち、光検出器で検出されずにこの端面で反射されて反対側の端面にまで達する成分が存在する。
図6(a)(b)は、
図5(a)(b)で各端面に達した光が反射された後の経路を示す。ここで、
図5(a)(b)において初めに左側(反射後には右側)に伝搬した光の反射後の経路が点線、初めに右側(反射後には左側)に伝搬した光の反射後の経路が破線で示されている。前記のように、
図6(b)には後者の光は存在しない。
【0030】
図6(a)において、左側の光検出D5は
図5(a)におけるL2の光のうち右側の端面RFで反射した成分を左側の光検出器で検出した出力である。このため、
図5(a)における光検出D2と
図6(a)における光検出D5の時間差は液体ライトガイド10の長さに対応し、この組み合わせは前記のピークP1、P2を構成する。
図5(a)における光検出D1と
図6(a)における光検出D6についても、光の伝搬方向が逆向きであること以外については同様である。
【0031】
一方、
図6(b)において、右側の光検出D7は
図5(b)におけるL4の光のうち左側の端面LFで反射した成分を右側の光検出器で検出した出力である。このため、
図5(b)における光検出D3と
図6(b)における光検出D7の時間差も液体ライトガイド10の長さに対応し、この組み合わせも前記のピークP1、P2を構成する。このため、
図5(b)におけるL4の光は、ピークP0には全く寄与しないが、ピークP1、P2には寄与する。
【0032】
すなわち、
図4におけるピークP0は、端面で反射されずに両端部のうちのいずれかに達した光である第1の検出光に基づくピーク(非反射ピーク)であり、
図4におけるピークP1、P2は、端面での反射を経て両端部のうちのいずれかに達した光である第2の検出光に基づくピーク(反射ピーク)であると考えられる。
【0033】
前記の通り、電子のエネルギーが低くθが小さい場合には、特に上側の外壁Wに対して斜入射となる光の成分は減少するため、発光位置Pから左右の端面側にそれぞれ向かう光は減少し、ピークP0を構成する組み合わせの数は減少し、これに応じて、端面で発生する反射光の数(ピークP1、P2を構成する組み合わせの数)も減少する。しかしながら、
図5(b)、
図6(b)におけるL4の光のように、ピークP0には全く寄与しないがピークP1、P2には寄与する組み合わせを発生させる光も存在する。このため、θが大きい場合と比べて、θが小さい場合にはピークP0~P2の強度は減少するものの、ピークP1、P2の減少割合は、ピークP0の減少割合よりも小さい。このため、ピークP0の強度の、ピークP1又はP2の強度に対する比率(非反射・反射ピーク強度比)を考えたときに、θが小さい場合にはこの比率は小さくなる。すなわち、θの大小(電子のエネルギーの高低)に関わらずピークP0、P1、P2は同様に形成されるが、この比率はθ(電子のエネルギー)に応じて異なる。
【0034】
すなわち、上記の放射線検出装置1によって得られた検出強度分布においては、両端部側に第2の検出光(端面での反射を経た光)に基づく反射ピークP1、P2が形成され、これらの間に第1の検出光(端面での反射を経ない光)に基づく非反射ピークP0が形成される。これらのピークの強度比は検出された荷電粒子(電子)のエネルギーによって変化する。これを用いて、検出された荷電粒子のエネルギーを推定することができる。あるいは、この荷電粒子を放射線として発した線源、あるいはこの荷電粒子を生成させた放射線を発した線源を検出し、特にこの線源の液体ライトガイド10の長手方向における位置あるいは分布を算出することができる。
【0035】
図7は、チェレンコフ光の放射角θの電子エネルギー依存性を0~1MeVまでの範囲で算出した結果である。ここで、液体ライトガイド10中の液体(媒体)として、石英と水の2種類を想定した。この結果より、1MeV以下ではθの減少は大きいことが確認でき、
図5(a)(b)の状況が実際に成立することが明らかである。
【0036】
また、前記の
図2(
90Sr(
90Y))、
図3(
137Cs)の結果からこの非反射・反射ピーク強度比を線源の位置毎に算出した結果を
図8に示す。ここで、反射ピークの強度は左右(P1、P2)で等しくない場合があるが、ここでは両者の和を採用した。ここで示されるように、この比率は線源の位置によらずに一定であり、前記のように
90Sr(
90Y)の場合に一様に
137Csよりも大きいことが確認できる。この比率はθによって定まり、結局電子のエネルギーで定まる。すなわち、非反射・反射ピーク強度比より、検出された電子(荷電粒子)のエネルギーを認識することができる。電子のエネルギーと非反射・反射ピーク強度比との関係を予め実験的に求めておけば、解析部30は、検出された電子のエネルギーも算出することができる。
【0037】
このため、例えば生成される電子のエネルギーが異なる2種類の放射性核種を測定の対象とする場合において、
図1の装置により
図2、3に対応した測定結果(位置毎の検出強度を線源の位置毎に測定した結果を、2種類の線源について求めた結果)を元にして、この2種類の放射性核種が試料中に混在する場合における各放射性核種の分布を、特許文献1と同様にアンフォールディング法により算出することが可能である。
【0038】
以下では、このための算出方法の一例について具体的に説明する。ここで、
図2、3の結果(検出強度分布)における位置(横軸)を単純化して(-0.5m~0.5m)、(1.0m~2.0m)、(2.0m~3.0m)、(3.0m~4.0m)、(4.5m~5.5m)の5区間(ROI
1~ROI
5)に区分し、実測のカウント数や、認識すべき各線源の分布も、この区分に従って定義されるものとする。ここで、両端側となるROI
1、ROI
5には前記のような反射ピークが含まれ非反射ピークは含まれず、ROI
2~ROI
4には非反射ピークが含まれ反射ピークは含まれない。また、検出強度分布としてはROI
1~ROI
5の全ての結果は考慮されるが、実際の放射性核種がある場所はROI
2~ROI
4の範囲となる。また、前記のような測定対象となる放射性核種として、
90Sr(
90Y)を核種1、
137Csを核種2とする。
【0039】
測定対象となる試料(測定対象領域)を測定した際のROI1~ROI5におけるカウント数(検出強度)をそれぞれS1~S5とすると、S1~S5は、(1)式で表される。ここで、X2~Xj(j=4)は、それぞれ核種1のROI2~ROI4における存在量であり、Y2~Yj(j=4)は、それぞれ核種2のROI2~ROI4における存在量であり、これらがそれぞれ算出すべき量となる。R1,2~Ri,jは、核種1のみが存在した時の応答係数であり、C1,2~Ci,jは、核種2のみが存在した時の応答係数である。
【0040】
【0041】
ここで、
図2の特性においては、(X
2~X
j)と(S
1~S
5)の3種類の組み合わせが認識されると共に、Y
2~Y
jは常に零であるため、これによって(1)式におけるR
1,2~R
i,jを定めることができる。同様に、
図3の特性においては、(Y
2~Y
j)と(S
1~S
5)の3種類の組み合わせが認識されると共に、X
2~X
jは常に零であるため、これによって(1)式におけるC
1,2~C
i,jを算出することができる。すなわち、
図2、3の測定結果を予め得ることにより、応答係数R
1,2~R
i,j、C
1,2~C
i,jを定めることができる。すなわち、2種類の核種の各々がROI
2~ROI
4の各々に存在した場合の検出強度分布である
図2、
図3の検出強度分布(参照用検出強度分布)におけるROI
1~ROI
5の検出強度より応答係数を算出することができる。ここで算出された応答係数は、
図2、3より、前記のような反射ピークの効果が含まれた上で定まる。
【0042】
このため、実際の試料に対して得られたS1~S5を用い、(1)式より、X2~Xj、Y2~Yjを算出することができる。具体的には、(1)式の左辺と右辺に対して最小二乗法を適用し、(2)式で定義されるΔが最小となるようにX2~Xj、Y2~Yjを定めればよい。ここで、σSkは、測定値Skの誤差である。
【0043】
【0044】
上記の手法で実際に所定強度の核種1(90Sr(90Y))、核種2(137Cs)をROI2~ROI4に設置し、実際の強度(Bq)と上記の手法で算出された強度とを測定した結果について説明する。ここで、液体ライトガイド10としては商品名LLG3-8H(Thorlab社製)(コア径3.0mmΦ、長さ5m)を用い、光検出器21A、21Bとしては光電子増倍管(商品名H10721P-01(浜松ホトニクス社製)を用いた。
【0045】
図9、10は、この場合における2種類の試料(第1の試料、第2の試料)に対する測定結果を示す。
図9、10において、(a)は実測された検出強度分布(認識された位置毎のカウント数)、(b)はこれにより算出された核種1(
90Sr/
90Y)の分布(X
2~X
4)と実際の分布、(c)はこれにより算出された核種2(
137Cs)の分布(Y
2~Y
4)と実際の分布、をそれぞれ示す。ここに示されるように、全く異なる分布に対しても、高い精度で核種1、2の分布が測定できる。
【0046】
原子力事故等に起因した汚染環境においては、90Sr(90Y)のようなβ線を発する核種の分布を測定することが要求されるが、例えば、137Csのようなγ線を発する核種が混在しているためにγ線の線量の高い環境下では、この測定が従来は困難であった。これに対して、上記の構成によって、このような場合でも、90Sr(90Y)の分布が測定可能となる。
【0047】
なお上記の例においては、分布が測定される区間を3つ(反射ピークを認識するための端部の区間を入れて5つ)としたが、この区分をより多くすることにより、測定の位置分解能をより高めることができる。ただし、一つの区間を短くした場合には、この区間内で検出されるカウント数が小さくなり(2)式のσSkが大きくなり測定の精度が低下するため、この区間の幅は位置分解能と測定精度を考慮した上で適宜設定される。また、上記の例では、(1)(2)式を用いて各核種の分布が測定されたが、このような精度を考慮した上で、適宜他の手法を用いてこの分布を算出することもできる。
【0048】
また、上記の例では、液体ライトガイド10の延伸方向に沿った1次元方向における位置が測定された。しかしながら、特許文献1に記載の技術と同様に、屈曲自在である液体ライトガイド10を2次元領域内で屈曲させて敷設すれば、この2次元領域内における核種の2次元分布を液体ライトガイド10の延伸方向に沿った1次元分布として測定することも可能である。
【0049】
逆に、測定対象となる区間を一つとし、両端における反射光のピークを認識するための区間を設けた合計3つの区間のみを設定することによって、測定対象となる区間における核種1、核種2の存在量をより簡易的かつ高精度で測定することもできる。
【0050】
図11は、この場合における
図1に対応した構成(変形例)を示す図である。ここでは、
図1における光検出器21A、21Bよりも後段の構成要素の記載は省略されている。この場合には、測定対象領域AA内において液体ライトガイド10は2次元的に重複するように巻かれて載置され、測定対象領域AA内の領域は、前記の液体ライトガイド10における前記のROI
2~ROI
4が統合されたROとして認識され、その両側のRO
1、RO
5は同様となるため、液体ライトガイド10は長手方向でこの3つの区間に分別される。このように液体ライトガイド10が2次元的に重複した状態で載置されるため、測定対象領域AA内において核種が発した放射線が液体ライトガイド10で検出される検出効率は高くなる。
【0051】
この場合の区間毎の測定結果は、このように区間が3つであるものとして、模式的には
図12のように認識される。この場合には測定結果はROの周りで対称となるため、両端側の区間RO
1、RO
5のカウント数(検出強度)は等しくZ1となり、中央の区間ROのカウント数をZ0とする。
【0052】
この場合、前記のように、カウントが137Csからのγ線に起因する場合には反射ピークの影響が大きいためにZ0/Z1が小さくなり、カウントが90Sr(90Y)からのβ線に起因する場合には反射ピークの影響が小さくZ0/Z1が大きくなる。このため、例えば、137Csからγ線の線量が高い環境下で90Sr(90Y)の有無を認識するためにZ0/Z1に閾値を設定し、Z0/Z1がこの閾値を超えた場合には、区間RO(測定対象領域AA)内に90Sr(90Y)が存在すると認識することができる。すなわち、測定対象領域AA内における90Sr(90Y)の有無を容易かつ高精度で認識することができる。逆に、Z0/Z1が小さな場合には、137Csが支配的であると判定することができる。
【0053】
前記のように液体ライトガイド10が屈曲性であれば、こうした構成とすること、あるいは前記のように放射性核種の1次元あるいは2次元分布を測定するための構成を、共通の液体ライトガイド10を用いて実現することが可能である。
【0054】
なお、上記の例ではチェレンコフ光の検出のために液体ライトガイドが用いられたが、同様にチェレンコフ光を発生させ、かつこの光を端部側まで伝達できる光ファイバー(導光部材)であれば、同様に用いることができる。例えば、1よりも大きくチェレンコフ光を発生させる媒質がこれよりも大きな屈折率をもつ材料で構成された外壁内に充填されれば、同様に用いることができる。この際、
図7の結果より、この媒質の屈折率は、石英よりも小さいことが好ましい。
【0055】
また、例えば、屈折率が1に非常に近い材料で外壁を構成し、この媒質をこの外壁よりも僅かに大きな屈折率をもつ材料とすることにより、チェレンコフ光が発せられる条件(v>c/n)を満たすvを大きく(cに近く)設定し、電子のエネルギーが高くなる90Sr(90Y)によるチェレンコフ光のみを発生させ、137Csによるチェレンコフ光を発生させないようにすることができる。この場合には、選択的に90Sr(90Y)のみを検知することができる。
【0056】
また、前記の例では90Sr(90Y)と137Csが区別されて検出されるものとしたが、原理的には、上記の放射線検出装置(放射性核種検出装置)は、チェレンコフ光を発生させる2種類の荷電粒子のエネルギーが異なる場合には、これらの荷電粒子を区別して検出することができる。このため、例えば、発するβ線のエネルギーが異なる2つの核種、あるいは発するγ線のエネルギーが異なるためにこれによって発生するコンプトン電子のエネルギーが異なるような2つの核種等を区別して検出することも原理的に可能である。
【0057】
また、
図1の構成以外でも、導光部材の両端側における光検出の時間差を測定できる構成を用いた場合には、同様の測定を行うことができ、同様の結果を得ることができる。例えば、光検出器として光電子増倍管以外のものを用いることもできる。また、放射性核種分布測定方法(区間毎の核種の存在量の算出方法)についても、上記のような反射ピークと非反射ピークとの間の関係が考慮されるものであれば、同様に用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 放射線検出装置(放射性核種検出装置)
10 液体ライトガイド(導光部材)
21A 光検出器(第1の光検出器)
21B 光検出器(第2の光検出器)
22A、22B 増幅器
23A、23B CFD(Constant Fraction Discriminator)
24 遅延部
25 TAC(Time to Amplitude Converter)
30 解析部
LF、RF 端面
P 発光点
P0 非反射ピーク
P1、P2 反射ピーク
W 外壁