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  • 特開-真空断熱材及びHIPEフォーム 図1
  • 特開-真空断熱材及びHIPEフォーム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015122
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】真空断熱材及びHIPEフォーム
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20250123BHJP
   F16L 59/065 20060101ALI20250123BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20250123BHJP
   C08F 212/08 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
C08J9/04 101
F16L59/065
C08J9/28 CET
C08F212/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118284
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 洋平
(72)【発明者】
【氏名】中村 隼
【テーマコード(参考)】
3H036
4F074
4J100
【Fターム(参考)】
3H036AA09
3H036AB18
3H036AB33
3H036AC01
3H036AE13
4F074AA32
4F074AA33
4F074CB31
4F074CC04Y
4F074CC06X
4F074CC22X
4F074CC27X
4F074CC28Y
4F074CD08
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA07
4F074DA23
4F074DA24
4F074DA32
4J100AB02P
4J100AB16Q
4J100AL62Q
4J100CA04
4J100CA23
4J100DA11
4J100DA19
4J100DA22
4J100DA25
4J100DA47
4J100EA13
4J100FA02
4J100FA03
4J100FA20
4J100FA28
4J100GB05
4J100GC26
4J100GC35
4J100JA28
4J100JA43
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】製造性に優れ、軽量であるとともに良好な断熱性を有する真空断熱材及びこの真空断熱材の芯材に適したHIPEフォームを提供する。
【解決手段】真空断熱材1は、外包材11と、外包材11内に封入された芯材12と、を有している。芯材12はHIPEフォーム2から構成されている。HIPEフォーム2がスチレン系単量体の架橋重合体から構成されている。HIPEフォーム2の見掛け密度が25kg/m3以上90kg/m3以下である。HIPEフォーム2の平均ストラット幅が2μm以上10μm以下である。HIPEフォーム2の5%ひずみ時圧縮応力が105kPa以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外包材と、前記外包材内に封入された芯材と、を有する真空断熱材であって、
前記芯材がHIPEフォームから構成されており、
前記HIPEフォームがスチレン系単量体の架橋重合体から構成されており、
前記HIPEフォームの見掛け密度が25kg/m3以上90kg/m3以下であり、
前記HIPEフォームの平均ストラット幅が2μm以上10μm以下であり、
前記HIPEフォームの5%ひずみ時圧縮応力が105kPa以上である、真空断熱材。
【請求項2】
前記真空断熱材の熱伝導率が7.5mW/(m・K)未満である、請求項1に記載の真空断熱材。
【請求項3】
前記HIPEフォームの厚みが2mm以上30mm以下である、請求項1または2に記載の真空断熱材。
【請求項4】
前記HIPEフォームのガラス転移温度が70℃以上150℃以下である、請求項1または2に記載の真空断熱材。
【請求項5】
前記HIPEフォームの架橋点間分子量が8×103以上2×105以下である、請求項1または2に記載の真空断熱材。
【請求項6】
外包材と、前記外包材内に封入された芯材とを有する真空断熱材における前記芯材として用いられるHIPEフォームであって、
前記HIPEフォームがスチレン系単量体の架橋重合体から構成されており、
前記HIPEフォームの見掛け密度が25kg/m3以上90kg/m3以下であり、
前記HIPEフォームの平均ストラット幅が2μm以上10μm以下であり、
前記HIPEフォームの5%ひずみ時圧縮応力が105kPa以上である、HIPEフォーム。
【請求項7】
前記HIPEフォームの厚みが2mm以上30mm以下である、請求項6に記載のHIPEフォーム。
【請求項8】
前記HIPEフォームのガラス転移温度が70℃以上150℃以下である、請求項6または7に記載のHIPEフォーム。
【請求項9】
前記HIPEフォームの架橋点間分子量が8×103以上2×105以下である、請求項6または7に記載のHIPEフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空断熱材及びHIPEフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止のため温室効果ガスの削減が推進されている。かかる観点から、電気製品や車両、設備機器ならびに建物等におけるエネルギー消費量の低減を目的として真空断熱材の採用が進められている。真空断熱材は、外包材と、外包材内に封入された芯材とを有している。真空断熱材の内部空間は減圧されており、対流による熱伝達等を抑制することにより、高い断熱性を実現している。
【0003】
真空断熱材に用いられる芯材としては、従来、グラスウールなどの熱伝導率が低い無機繊維が使用されている。しかし、無機繊維を芯材として用いる場合、内部空間を減圧する際の収縮を考慮し、外包材内に比較的多量の無機繊維を封入する必要がある。そのため、無機繊維からなる芯材を有する真空断熱材は、質量が大きくなりやすいという問題があった。
【0004】
かかる問題に対し、真空断熱材の芯材として、無機繊維に比べて軽量な樹脂発泡体を用いることが検討されている。例えば特許文献1には、連続気泡の微小気泡アルケニル芳香族ポリマー発泡体を真空断熱材の芯材として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平11-504362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1において、発泡体を真空断熱材の芯材として用いる場合にさらに真空断熱材の断熱性を高めるための改善の余地があった。また、特許文献1の発泡体を真空断熱材の芯材として用いる場合、真空断熱材の内部空間の減圧に比較的長い時間を要するため、生産性が低いという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、製造性に優れ、軽量であるとともに良好な断熱性を有する真空断熱材及びこの真空断熱材の芯材に適したHIPEフォームを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、以下の〔1〕~〔5〕に係る真空断熱材にある。
【0009】
〔1〕外包材と、前記外包材内に封入された芯材と、を有する真空断熱材であって、
前記芯材がHIPEフォームから構成されており、
前記HIPEフォームがスチレン系単量体の架橋重合体から構成されており、
前記HIPEフォームの見掛け密度が25kg/m3以上90kg/m3以下であり、
前記HIPEフォームの平均ストラット幅が2μm以上10μm以下であり、
前記HIPEフォームの5%ひずみ時圧縮応力が105kPa以上である、真空断熱材。
【0010】
〔2〕前記真空断熱材の熱伝導率が7.5mW/(m・K)未満である、〔1〕に記載の真空断熱材。
〔3〕前記HIPEフォームの厚みが2mm以上30mm以下である、〔1〕または〔2〕に記載の真空断熱材。
〔4〕前記HIPEフォームのガラス転移温度が70℃以上150℃以下である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の真空断熱材。
〔5〕前記HIPEフォームの架橋点間分子量が8×103以上2×105以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の真空断熱材。
【0011】
本発明の他の態様は、以下の〔6〕~〔9〕に係るHIPEフォームにある。
【0012】
〔6〕外包材と、前記外包材内に封入された芯材とを有する真空断熱材における前記芯材として用いられるHIPEフォームであって、
前記HIPEフォームがスチレン系単量体の架橋重合体から構成されており、
前記HIPEフォームの見掛け密度が25kg/m3以上90kg/m3以下であり、
前記HIPEフォームの平均ストラット幅が2μm以上10μm以下であり、
前記HIPEフォームの5%ひずみ時圧縮応力が105kPa以上である、HIPEフォーム。
【0013】
〔7〕前記HIPEフォームの厚みが2mm以上30mm以下である、〔6〕に記載のHIPEフォーム。
〔8〕前記HIPEフォームのガラス転移温度が70℃以上150℃以下である、〔6〕または〔7〕に記載のHIPEフォーム。
〔9〕前記HIPEフォームの架橋点間分子量が8×103以上2×105以下である、〔6〕~〔8〕のいずれか1つに記載のHIPEフォーム。
【発明の効果】
【0014】
前記の態様によれば、製造性に優れ、軽量であるとともに良好な断熱性を有する真空断熱材及びこの真空断熱材の芯材に適したHIPEフォームを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、真空断熱材の要部を示す一部断面図である。
図2図2は、芯材を構成するHIPEフォームの断面の拡大写真を示す説明図である。
図3図3は、HIPEフォームの温度Tと貯蔵弾性率E’との関係を示す温度-貯蔵弾性率曲線の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(真空断熱材)
真空断熱材1は、図1に示すように、外包材11と、外包材11内に封入された芯材12と、を有している。芯材12は、前記特定の範囲内の見掛け密度、平均ストラット幅及び5%ひずみ時圧縮応力を有するHIPEフォーム2から構成されている。また、HIPEフォーム2は、スチレン系単量体の架橋重合体から構成されている。以下、真空断熱材1の各部の構成について詳細に説明する。
【0017】
〔HIPEフォーム〕
真空断熱材の芯材は、スチレン系単量体の架橋重合体から構成されるHIPEフォームである。HIPEフォームは、ポリHIPEフォーム、ポリHIPE材料、HIPE由来フォーム物質、高内相エマルション多孔体、高内相エマルション発泡体等とも呼ばれる多孔質重合体である。HIPEフォームは、例えば、水相を有機相中に高比率で内包させた、油中水型の高内相エマルション(つまり、HIPE)中で単量体を重合することにより得られる。このようにして得られるHIPEフォームは、構造中に多数の気泡が存在すると共に、隣接する気泡間に存在する気泡壁に多数の貫通孔が形成された、連続気泡構造を有する。前記HIPEフォームは連続気泡構造を有するため、HIPEフォームの内部の気体が外部に排気されやすい。このため、HIPEフォームを真空断熱材の芯材として用いた場合、減圧する工程にかかる時間を短くすることができる。
【0018】
HIPEフォームは、例えば、水相を有機相中に高比率で内包させた、油中水型の高内相エマルション中において、架橋剤の存在下でスチレン系単量体を重合することにより得られる。HIPEフォームは、スチレン系単量体に由来する単量体成分を含む架橋重合体から構成されている。より具体的には、HIPEフォームは、架橋重合体の重合体骨格中にスチレン系単量体に由来する単量体成分を含んでいる。
【0019】
また、HIPEフォームは、高内相エマルションを硬化してなる多孔質の硬化物であり、その気泡壁が前記架橋重合体(例えばスチレン系重合体)から構成されているともいえる。気泡は気孔ということもできる。HIPEフォームにおける気泡壁及び気泡の形状には、重合時における、高内相エマルションでの有機相と水相との分散形態や水相(つまり、分散相)の分散形状が反映されている。
【0020】
HIPEフォームの製造過程においては架橋重合体が延伸されにくい。そのため、HIPEフォームは、一般的に、架橋重合体に分子配向を生じにくいと共に、気泡の形状の異方性が少ない多孔質体となる。HIPEフォームは、押出機を用いた押出発泡法により得られる発泡体や、発泡性樹脂粒子を発泡させて得られる発泡粒子を型内成形することにより得られる発泡粒子成形体等のように、製造時に延伸されて製造される発泡体とは容易に区別することができる。
【0021】
また、HIPEフォームは、その製造過程において発泡剤などの揮発性の成分を使用する必要がないため、架橋重合体から揮発性の成分を除去するための操作を行わない場合にもHIPEフォームからの揮発性の成分の放散量を容易に低減することができる。さらに、HIPEフォームは、前述した連続気泡構造を有しているため、HIPEフォームの気泡内に存在する気体がHIPEフォームの外部へと移動しやすい。それ故、HIPEフォームを真空断熱材の芯材として用いることにより、真空断熱材の製造過程において、内部空間に存在する気体を速やかに排気することができる。その結果、真空断熱材の製造性を容易に向上させることができる。
【0022】
〔HIPEフォームの見掛け密度〕
前記HIPEフォームの見掛け密度は25kg/m3以上90kg/m3以下である。HIPEフォームの見掛け密度を前記特定の範囲内とすることにより、HIPEフォームの強度を確保しつつ軽量性を向上させることができる。そして、かかるHIPEフォームを真空断熱材の芯材として用いることにより、真空断熱材の断熱性を向上させることができる。さらに、この場合には、真空断熱材の質量を容易に低減するとともに、外包材の内側に封入され、外包材の内側と外側との間に圧力差が加わった状態においても芯材の形状を維持することができる。
【0023】
HIPEフォームの見掛け密度が低すぎる場合には、HIPEフォームを芯材に用いた真空断熱材の断熱性が不十分となりやすい。また、HIPEフォームの強度が不十分となり、真空断熱材の製造過程において内部空間を減圧した際に、芯材が大気圧と内部空間の圧力との圧力差によって収縮しやすい。この場合には、真空断熱材の寸法が所望する寸法からずれやすくなるおそれがある。また、場合によっては気泡が潰れ、真空断熱材の内部に真空状態の空間を形成することができなくなるおそれがある。このように、見掛け密度の低いHIPEフォームは、真空断熱材の芯材としての利用に適さないおそれがある。一方、HIPEフォームの見掛け密度が高すぎる場合には、HIPEフォームを芯材に用いた真空断熱材の断熱性が不十分となりやすい。
【0024】
HIPEフォームの見掛け密度は、30kg/m3以上であることが好ましく、35kg/m3以上であることがより好ましく、40kg/m3以上であることがさらに好ましい。この場合には、HIPEフォームの強度をより高め、真空断熱材における芯材の収縮をより抑制することができる。
【0025】
また、HIPEフォームの見掛け密度は、80kg/m3以下であることが好ましく、70kg/m3以下であることがより好ましく、65kg/m3以下であることがさらに好ましく、60kg/m3以下であることが特に好ましい。この場合には、HIPEフォームをより容易に軽量化することができる。
【0026】
HIPEフォームの見掛け密度の好ましい範囲を構成するに当たっては、前述したHIPEフォームの見掛け密度の好ましい範囲の上限と下限とを任意に組み合わせることができる。例えば、HIPEフォームの見掛け密度の好ましい範囲は、30kg/m3以上80kg/m3以下であってもよく、30kg/m3以上70kg/m3以下であってもよく、35kg/m3以上65kg/m3以下であってもよく、35kg/m3以上60kg/m3以下であってもよく、40kg/m3以上60kg/m3以下であってもよい。
【0027】
前述したHIPEフォームの見掛け密度は、HIPEフォームの質量をHIPEフォームの体積で除することにより算出される。HIPEフォームの体積は、外包材から取り出した状態のHIPEフォームの外形寸法に基づいて算出することができる。
【0028】
HIPEフォームの見掛け密度は、後述のHIPEフォームの製造方法において、有機相の量(具体的には、スチレン系単量体、架橋剤、乳化剤、及び重合開始剤の総量)と、水相の量(具体的には、水性液体の量)との比率等を調整することにより、上記範囲に調整される。
【0029】
〔HIPEフォームの気泡構造〕
HIPEフォームは、上記のごとく連続気泡構造を有する多孔質重合体である。図2に例示されるように、HIPEフォーム2は架橋重合体から構成された気泡壁21を有している。また、HIPEフォーム2は、多数の気泡22が均質に存在する気泡構造を有すると共に、気泡壁21を貫通し、隣接する気泡間を連通する多数の貫通孔23が形成された連続気泡構造を有する。なお、図2において、気泡22は、気泡壁21により囲まれた部分である。貫通孔23は、気泡壁21を貫通し、隣接する気泡22間を連通する穴である。具体的には、貫通孔23は、気泡壁21に形成されると共に、気泡壁21を挟んで隣接する気泡22間を連通する穴である。貫通孔23のことを、貫通窓、連結孔ということもできる。
【0030】
気泡壁21は、隣り合う貫通孔23を区画する柱状のストラット211と、複数本のストラット211が合流するハブ212とを有している。HIPEフォームの平均ストラット幅は、2μm以上10μm以下である。HIPEフォームの見掛け密度を前記特定の範囲内とした上で、さらに平均ストラット幅を前記特定の範囲内とすることにより、真空断熱材の断熱性を向上させることができる。
【0031】
HIPEフォームの平均ストラット幅を前記特定の範囲内とすることにより真空断熱材の熱伝導率を向上させることができる理由としては、例えば以下の理由が考えられる。真空断熱材の内部空間は大気圧よりも低い圧力を有しているため、内部空間に残存する気体による熱伝導が抑制される。また、HIPEフォームは数十から数百μm程度の微細な気泡構造を有しているため、対流による熱伝導が抑制される。それ故、真空断熱材の内部における伝熱の形態は、主に、HIPEフォームの気泡壁21を介した熱伝導と、気泡壁21からの熱放射との2つであると考えられる。
【0032】
熱伝導による伝熱を抑制するためには、熱が伝わる物体の熱抵抗を高くすればよい。そして、物体の熱抵抗は、物体の断面積が小さいほど高くなる。従って、HIPEフォームのストラットを細くすることにより、ストラットにおける熱抵抗を高め、熱伝導による伝熱を抑制することができると考えられる。また、熱伝導による伝熱を抑制するためには、HIPEフォームの見掛け密度を低くして真空断熱材中の空隙率を高くすることも有効であると考えられる。このように、HIPEフォームの見掛け密度を低くすることにより、熱伝導を抑制することができると考えられる。
【0033】
一方、熱放射による伝熱を抑制するためには、物体から放射された電磁波(具体的には赤外線)を遮蔽物によって遮蔽すればよい。従って、例えばHIPEフォームのストラットを太くすることにより、ストラットによって電磁波が遮蔽されやすくなり、熱放射による伝熱を抑制することができると考えられる。また、熱放射による伝熱を抑制するためには、HIPEフォームの見掛け密度を大きくし、気泡壁の体積分率を高くすることも有効であると考えられる。このように、HIPEフォームにおける気泡壁の樹脂分率を高くすることにより、電磁波が遮蔽されやすくなり、熱放射を抑制することができると考えられる。
【0034】
以上のように、HIPEフォームからなる芯材においては、ストラットを細くするとストラットの熱抵抗が上昇し、熱伝導による伝熱を抑制することができる。その反面、ストラットを細くすると電磁波がストラットに当たりにくくなり、熱放射による伝熱を抑制することが難しくなると考えられる。また、ストラットを太くすると電磁波がストラットに当たりやすくなり、熱放射による伝熱を抑制することができる。その反面、ストラットを太くするとストラットの熱抵抗が低くなり、熱伝導による伝熱を抑制することが難しくなると考えられる。同様に、HIPEフォームの見掛け密度を小さくすると熱伝導を抑制することができる一方で、熱放射が増加する。また、HIPEフォームの見掛け密度を大きくすると熱放射を抑制することができる一方で、熱伝導が増加する。従って、HIPEフォームの平均ストラット幅及び見掛け密度を前記特定の範囲内とすることにより、熱伝導による伝熱及び熱放射による伝熱の両方をバランスよく抑制し、真空断熱材の断熱性を向上させることができると考えられる。
【0035】
HIPEフォームにおける平均ストラット幅の測定方法は以下の通りである。まず、HIPEフォームを任意の断面で切断し、切断面を露出させる。次に、走査型電子顕微鏡等を用いて切断面を観察し、切断面の拡大写真を取得する。この拡大写真上において、無作為に複数本のストラットを選択し、各ストラットにおける最も細い部分の幅を計測する。このようにして得られるストラットの幅の算術平均値を平均ストラット幅とする。平均ストラット幅の算出に用いるストラットの数は特に限定されることはないが、ストラットの数を多くするほど正確な平均ストラット幅を算出することができる。かかる観点から、平均ストラット幅の算出に用いるストラットの数は、例えば20本以上であることが好ましい。
【0036】
HIPEフォームの平均ストラット幅は、後述のHIPEフォームの製造方法において、高内相エマルションの水相(つまり分散相)の水滴径、及び有機相の量と水相の量との比率等を調整することにより制御できる。例えば、有機相の量を少なくすることにより、HIPEフォームの平均ストラット幅を細くすることができる。また、有機相の量が同程度の場合であっても、攪拌時の動力を大きくすると水相の水滴径が小さくなり、HIPEフォームの平均ストラット幅を細くすることができる。
【0037】
〔HIPEフォームの平均気泡径〕
HIPEフォームの平均気泡径は10μm以上100μm以下であることが好ましく、15μm以上90μm以下であることがより好ましく、20μm以上80μm以下であることがさらに好ましい。HIPEフォームの平均気泡径を前記特定の範囲内とすることにより、HIPEフォームの平均ストラット幅をより容易に前記特定の範囲内に調整することができる。
【0038】
HIPEフォームの平均気泡径は、具体的には気泡の円相当直径の平均値である。気泡の円相当直径は、HIPEフォームの断面における気泡の面積と同じ面積の円の直径である。HIPEフォームの平均気泡径は、例えば、HIPEフォームの連続気泡構造を画像解析することにより得られる。なお、平均気泡径のより詳細な測定方法については、実施例において説明する。
【0039】
〔HIPEフォームの圧縮物性〕
HIPEフォームの5%ひずみ時圧縮応力σ5は、105kPa以上である。前記特定の範囲内の5%ひずみ時圧縮応力σ5を有するHIPEフォームは、十分な強度を有しているため、外包材の内側に封入され、外包材の内側と外側との間に圧力差が加わった状態においても収縮しにくい。そのため、かかるHIPEフォームを真空断熱材の芯材として用いることにより、外包材の内側に真空状態の内部空間を形成し、真空断熱材の断熱性を向上させることができる。
【0040】
HIPEフォームの5%ひずみ時圧縮応力σ5が低すぎる場合には、真空断熱材の製造過程において内部空間を減圧した際に、芯材が大気圧と内部空間の圧力との圧力差によって収縮しやすくなり、HIPEフォームが真空断熱材の芯材としての使用に適さないおそれがある。
【0041】
HIPEフォームの強度をより高め、芯材の収縮をより抑制する観点からは、HIPEフォームの5%ひずみ時圧縮応力σ5は、120kPa以上であることが好ましく、140kPa以上であることがさらに好ましく、160kPa以上であることが特に好ましい。芯材の収縮を抑制する観点からはHIPEフォームの5%ひずみ時圧縮応力σ5の上限は特に限定されることはないが、スチレン系単量体の架橋重合体からなるHIPEフォームにおける5%ひずみ時圧縮応力σ5の上限は、通常900kPa程度である。
【0042】
また、HIPEフォームの50%ひずみ時圧縮応力σ50に対する5%ひずみ時圧縮応力σ5の比σ5/σ50は0.5よりも大きいことが好ましい。なお、HIPEフォームの5%ひずみ時圧縮応力σ5及び50%ひずみ時圧縮応力σ50は、JIS K6767:1999に基づいて測定することにより得られる値である。
【0043】
〔架橋重合体〕
HIPEフォームは、スチレン系単量体の架橋重合体から構成されている。すなわち、HIPEフォームの樹脂部分は、架橋剤の存在下でスチレン系単量体を重合することにより得られる重合体であり、スチレン系単量体に由来する単量体成分と、架橋剤に由来する成分とを含んでいる。架橋重合体を構成する、単量体成分100質量%中におけるスチレン系単量体の割合は70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0044】
スチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,4,6-トリブロモスチレン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウムなどの、芳香環上に1つのビニル基を有するスチレン化合物等が挙げられる。
【0045】
スチレン系単量体としては、スチレンを用いることが好ましい。スチレン系単量体としてスチレンを用いる場合、スチレン系単量体中のスチレンの含有割合が、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0046】
また、HIPEフォームの樹脂部分は、前述した作用効果を損なわない範囲内において、アクリル系単量体に由来する単量体成分を含んでいても良い。すなわち、HIPEフォームの樹脂部分が、架橋剤の存在下でスチレン系単量体とアクリル系単量体を重合することにより得られる、架橋された共重合体であってもよい。アクリル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ジシクロペンタニル、アクリル酸アダマンチル等のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸アダマンチル等のメタクリル酸アルキルエステル等の、1分子あたり1つのビニル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。なお、架橋重合体を構成する単量体成分において、アクリル系単量体成分の割合は、スチレン系単量体成分とアクリル系単量体成分との合計100質量%に対して30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
架橋剤は、重合体を構成する高分子鎖間を架橋(結合)し、重合体中に架橋構造を形成する化合物である。より具体的には、架橋剤としては、例えば、ビニル基及びイソプロペニル基から選択される架橋性官能基を分子内に少なくとも2つ有するビニル系化合物が用いられる。架橋重合体が架橋剤成分を含有することにより、架橋重合体の剛性、靭性を高めることができる。なお、上記ビニル系化合物には、アクリロイル基やメタクリロイル基のように、架橋性官能基の構造中にビニル基及び/又はイソプロペニル基を含む化合物も含まれる。架橋剤を安定して重合させる観点から、架橋剤に含まれる架橋性官能基の数は、架橋剤1分子あたり6個以下であることが好ましく、5個以下であることが好ましく、4個以下であることがさらに好ましい。また、架橋重合体の靭性をより高めやすくなるという観点から、架橋剤は、分子の少なくとも両末端に架橋性官能基を有することが好ましく、分子の両末端のみに架橋性官能基を有することがより好ましい。
【0048】
架橋剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、ポリエーテルグリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、ウレタンオリゴマーと(メタ)アクリル酸とのエステル、エポキシオリゴマーと(メタ)アクリル酸とのエステル、及び(メタ)アクリル変性シリコーン等の、1分子あたり2つ以上の架橋性官能基を有するビニル系化合物を使用することができる。多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルとしては、ブタンジオールジアクリレート等のブタンジオール(メタ)アクリレート;ヘキサンジオールジアクリレート等のヘキサンジオール(メタ)アクリレート;ノナンジオールジアクリレート等のノナンジオール(メタ)アクリレート;デカンジオールジアクリレート等のデカンジオール(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレート等のトリメチロールプロパン(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等が挙げられる。ポリエーテルグリコールと(メタ)アクリル酸とのエステルとしては、ポリエチレングリコールジアクリレート等のポリエチレングリコール(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコールジアクリレート等のポリプロピレン(メタ)アクリレート;ポリテトラメチレングリコールジアクリレート等のポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。架橋剤における架橋性官能基は、ビニル基及び/又はイソプロペニル基であることが好ましい。これらの架橋剤は、単独で使用されてもよく、2種以上の架橋剤が併用されてもよい。つまり、HIPEフォームに含まれる架橋剤成分は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0049】
HIPEフォームの強度を高め、外包材に封入された状態においても芯材の形状を維持しやすくする観点からは、架橋剤の主成分は、分子量が100以上400以下のビニル系化合物であることが好ましく、分子量が100以上250以下のビニル系化合物であることがより好ましい。なお、架橋剤の主成分とは、架橋剤中の割合が50質量%以上である成分を意味する。また、架橋剤において主成分となる前記ビニル系化合物の割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることが特に好ましい。
【0050】
HIPEフォームにおけるスチレン系単量体成分、つまり、スチレン系単量体に由来する単量体成分の含有量は、スチレン系単量体成分と架橋剤成分との合計100質量部に対して、80質量部以上97質量部以下であることが好ましく、85質量部以上95質量部以下であることがより好ましい。この場合には、HIPEフォームの強度を真空断熱材の芯材として好適な範囲内までより容易に高めることができる。
【0051】
〔HIPEフォームの形状〕
HIPEフォームの形状は特に限定されることはないが、真空断熱材の断熱性及び取り扱い性を高める観点からは、HIPEフォームの形状は板状であることが好ましい。同様の観点から、HIPEフォームの厚みは2mm以上30mm以下であることが好ましい。
【0052】
〔HIPEフォームの熱伝導率〕
HIPEフォームの熱伝導率は、40mW/(m・K)以下であることが好ましい。真空断熱材の芯材として前記特定の範囲内の熱伝導率を有するHIPEフォームを用いることにより、真空断熱材の断熱性をより高めることができる。なお、真空断熱材の断熱性を高める観点からは、HIPEフォームの熱伝導率の下限は特に限定されることはないが、前記HIPEフォームの熱伝導率の下限は、その構成上、20mW/(m・K)程度となる。
【0053】
HIPEフォームの熱伝導率は、JIS A1412-2:1999に規定された熱流計法により測定することができる。より具体的には、HIPEフォームの熱伝導率の測定には、例えば、熱伝導測定装置(英弘精機株式会社製「HC-074/200」)を用いることができる。熱伝導率の測定に当たっては、まず、HIPEフォームから長さ180mm、幅180mm、厚み10mmの平板状の試験体を作製する。この試験体の長さ180mmの辺と幅180mmの辺とによって囲まれた2つの面のうち、一方の面を高温面と接触させ、他方の面を低温面と接触させる。この状態で、高温面と低温面との間に温度差を与える。そして、定常状態において試験体を通過する熱流を測定し、得られた熱流等に基づいて熱伝導率を算出すればよい。熱伝導率を測定する際の高温面の温度は33℃、低温面の温度は13℃、試験体平均温度は23℃であればよい。
【0054】
〔HIPEフォームのガラス転移温度〕
HIPEフォームのガラス転移温度Tgは70℃以上150℃以下であることが好ましく、80℃以上140℃以下であることがより好ましく、90℃以上130℃以下であることがさらに好ましい。この場合には、HIPEフォームの強度を真空断熱材の芯材として好適な範囲内までより容易に高めることができる。
【0055】
HIPEフォームのガラス転移温度Tgは、JIS K7121:1987に基づいて測定される。具体的には、HIPEフォームからなる試験片を準備し、JIS K 7121:1987における「3.試験片の状態調節」の「(3)一定の熱処理を行った後、ガラス転移温度を測定する場合」に基づいて試験片の状態調節を行う。そして、状態調節を行った試験片を構成する樹脂の示差走査熱量分析(DSC)を行うことにより、DSC曲線を取得する。このようにして得られるDSC曲線における中間点ガラス転移温度をHIPEフォームのガラス転移温度Tgとする。
【0056】
HIPEフォームのガラス転移温度Tgは、後述のHIPEフォームの製造方法において、スチレン系単量体の種類、その配合割合、架橋剤の種類、その配合割合等を調整することにより、上記範囲に調整される。
【0057】
〔HIPEフォームの架橋点間分子量〕
HIPEフォームの架橋点間分子量Mcは8×103以上2×105以下であることが好ましく、1×104以上1×105以下であることがより好ましく、2×104以上8×104以下であることがさらに好ましい。この場合には、HIPEフォームの強度を真空断熱材の芯材として好適な範囲内までより容易に高めることができる。
【0058】
HIPEフォームの架橋点間分子量Mcは、次のようにして測定される。HIPEフォームに対して、周波数:1Hz、荷重:98mN、変形モード:圧縮という測定条件で動的粘弾性測定を行う。動的粘弾性測定の昇温過程において、HIPEフォームの温度がガラス転移温度Tgを超えるまでの間は、横軸に温度、縦軸に貯蔵弾性率E’をプロットして得られる温度-貯蔵弾性率曲線(以下、「T-E’曲線」という。)が比較的平坦な形状を示す。HIPEフォームの温度がガラス転移温度Tgの付近まで上昇すると、HIPEフォームを構成する架橋重合体がガラス状態からゴム状態へと転移する。そして、架橋重合体がガラス状態からゴム状態へ転移すると、T-E’曲線において貯蔵弾性率E’が急激に低下する(図3参照)。
【0059】
HIPEフォームの温度がガラス転移温度Tgを超えた後のT-E’曲線は、再び比較的平坦な形状を示す。T-E’曲線における、ガラス転移温度Tgを超えた後の平坦な部分をプラトー領域(ゴム状平坦部)という。プラトー領域において、E’は温度に比例するため、以下の式(I)から架橋点間分子量Mcを計算することができる。
Mc=2(1+μ)ρRT/E’ ・・・(I)
【0060】
ただし、前記式(I)におけるμはポアソン比であり、ρはHIPEフォームの見掛け密度(単位:kg/m3)であり、Rは気体定数であり、Tはゴム状平坦部上の任意の点における温度(単位:K)であり、E’は当該温度Tにおける貯蔵弾性率(単位:kPa)である。また、ポアソン比μの値は、具体的には0.5であり、気体定数Rの値は、具体的には8.314J/(K・mol)である。
【0061】
架橋点間分子量Mcを適切に算出する観点から、架橋点間分子量Mcの算出に用いる温度Tは、Tg+50℃からTg+80℃までの範囲内(但し、Tgは、HIPEフォームのガラス転移温度である)から選択することが好ましい。
【0062】
なお、ポアソン比とは材料固有の値であり、物体に応力を印加した際の、応力に対して垂直な方向に生じるひずみを応力に対して平行な方向に生じるひずみで除し、これに-1を乗じた値である。理論上、ポアソン比は-1から0.5の範囲の値をととる。ポアソン比が負の値である場合、HIPEフォームを縦方向に潰すと、横方向にも潰れることを意味する。逆に、正の値である場合は、HIPEフォームを縦方向に潰すと横方向に伸びることを意味する。上述した動的粘弾性測定の測定条件では、HIPEフォームを構成する架橋重合体に生じる歪はごく微小であり、体積変化が起こらないと見なすことができるため、体積一定の条件、すなわちポアソン比を0.5として、貯蔵弾性率E’、架橋点間分子量Mcを算出する。
【0063】
HIPEフォームの架橋点間分子量Mcは、後述のHIPEフォームの製造方法において、架橋剤を配合することにより小さくすることができ、架橋剤の種類およびその配合割合、単量体の種類およびその配合割合等を調整することにより所望の値に調整することができる。例えば、架橋重合体に架橋剤成分を多く含有させることで、架橋点間分子量を低くすることができる。
【0064】
〔外包材〕
真空断熱材の外包材は、水蒸気透過度及びガス透過度が低い性質、つまりガスバリア性を有している。これにより、真空断熱材の内部空間の圧力を大気圧よりも低い圧力に保ち、真空断熱材の断熱性を維持することができる。外包材としては、例えば、ガスバリア性を有する材料からなるガスバリア層と、ガスバリア層の片面に積層された熱溶着層とを有する多層フィルムが用いられる。
【0065】
ガスバリア層を構成する材料としては、例えば、アルミニウムなどの金属からなる金属箔又は金属蒸着薄膜が用いられる。熱溶着層を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂フィルム;ポリエチレンテレフタラートやポリブチレンテレフタラート等のポリエステル系樹脂フィルム;ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムが用いられる。
【0066】
外包材は、さらに、ガスバリア層における熱溶着層を有する面の背面に積層された保護フィルム層を有していることが好ましい。保護フィルム層を構成する材料としては、例えば、ナイロン等のポリアミド系樹脂フィルム;ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタラート等のポリエステル系樹脂フィルム等が用いられる。前記保護フィルム層の数は1層以上であればよい。例えば、外包材は、ガスバリア層における熱溶着層が積層された面の背面に1層の保護フィルム層を有していてもよく、互いに積層された2層以上の保護フィルム層を有していてもよい。外包材の厚みは30μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0067】
〔真空断熱材の熱伝導率〕
真空断熱材の熱伝導率は、7.5mW/(m・K)未満であることが好ましい。この場合には、真空断熱材の断熱性をより高めることができる。なお、真空断熱材の断熱性を高める観点からは真空断熱材の熱伝導率の下限は特に限定されることはないが、前記特定のHIPEフォームを芯材として用いる場合の真空断熱材の熱伝導率の下限は3.0mW/(m・K)程度となる。
【0068】
真空断熱材の熱伝導率は、JIS A1412-2:1999に規定された熱流計法により測定することができる。真空断熱材の熱伝導率の測定方法は、試験体として真空断熱材を用いる点以外は前述したHIPEフォームの熱伝導率の測定方法と同様である。
【0069】
(真空断熱材の製造方法)
前記真空断熱材の製造方法は特に限定されることはなく、公知の方法を採用することができる。例えば、芯材の表面を外包材で包んだ後、真空断熱材の内部空間内に存在する気体を排気して内部空間を真空状態とし、この真空状態を維持した状態で外包材によって芯材を封止することにより、真空断熱材を得ることができる。真空断熱材の内部の真空度は、より良好な断熱性を得る観点から10Pa以下であることが好ましく、5Pa以下であることがより好ましい。
【0070】
外包材によって囲まれた真空断熱材の内部空間には、少なくともHIPEフォームからなる芯材が封入されている。また、真空断熱材の内部空間には、芯材に加え、水分及び/またはガスを吸着する吸着材が封入されていてもよい。この場合には、真空断熱材の内部空間の圧力をより長期間にわたって大気圧よりも低い圧力に保つことができる。その結果、真空断熱材の断熱性をより長期間にわたって維持することができる。
【0071】
(HIPEフォームの製造方法)
真空断熱材の芯材となるHIPEフォームは、油中水型高内相エマルションを重合させることにより得られる。油中水型高内相エマルションの有機相は、スチレン系単量体、架橋剤、乳化剤、重合開始剤等を含む連続相であり、水相は、脱イオン水等の水を含む分散相である。
【0072】
HIPEフォームの製造方法は、例えば、スチレン系単量体と、架橋剤と、乳化剤と、重合開始剤とを含む有機相に、水を含む水相を内包させた油中水型高内相エマルションを形成する乳化工程と、反応容器に充填された前記油中水型高内相エマルション中で、スチレン系単量体及び架橋剤を重合する重合工程とを有している。
【0073】
〔乳化工程〕
乳化工程においては、スチレン系単量体、架橋剤、乳化剤及び重合開始剤等の有機物を含む油性液体(有機相)と水を含む水性液体(水相)とを混合し、乳化させることにより、油中水型高内相エマルションを作製する。乳化工程では、体積比で水相が有機相の例えば3倍以上となるように油性液体と水性液体とを混合することにより、高内相エマルションを作製することができる。なお、有機相に内包させる水相の比率は、有機相と水相との質量比で調整することができる。高内相エマルションにおける前記水相の含有量は、前記有機相100質量部に対して、250質量部以上3000質量部以下であることが好ましく、400質量部以上2500質量部以下であることがより好ましく、500質量部以上2000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0074】
油性液体と水性液体とを乳化させる方法は、特に限定されないが、攪拌容器内に油性液体と水性液体を入れた状態で攪拌を開始して乳化を行う方法や、攪拌容器内に油性液体のみを入れて攪拌を開始し、攪拌下で、容器内の油性液体にポンプ等を用いて水性液体を添加して乳化を行う方法等を採用することができる。油性液体にポンプなどを用いて水性液体を添加する場合、水性液体の添加速度は、特に限定されないが、例えば、油性液体100質量%に対して10質量%/min以上1000質量%/min以下の範囲内から適宜調整すればよい。水性液体の添加速度は、油性液体(有機相)100質量%に対して100質量%/min以上800質量%/min以下であることがより好ましく、200質量%/min以上600質量%/min以下であることがさらに好ましい。また、乳化工程の具体的な態様は特に限定されることはなく、例えば、攪拌装置を備えた攪拌容器や遠心振とう機を用いて乳化するバッチ式の乳化工程、スタティックミキサーやメッシュ等を備えたライン中に、油性液体と水性液体を連続的に供給して混合させる連続式の乳化工程の種々の態様を採用することができる。
【0075】
乳化工程での攪拌速度は、特に限定されないが、例えば、攪拌動力密度が0.01kW/m3以上10kW/m3以下となる範囲内から適宜設定することができる。所望の気泡構造を有するHIPEフォームをより容易に得やすくなる観点からは、乳化工程における攪拌動力密度は0.03kW/m3以上7kW/m3以下であることがより好ましい。なお、乳化工程における攪拌動力密度(単位:kW/m3)は、乳化工程において用いる攪拌装置のトルク(単位:N・m)、回転数(単位:rpm)から、攪拌時における動力(単位:kW)を算出し、この動力を乳化工程における容器の内容物の体積(単位:m3)で除することで求めることができる。
【0076】
水相は、脱イオン水等の水、重合開始剤、電解質などを含むことができる。乳化工程では、例えば、油性液体、水性液体をそれぞれ作製し、攪拌下で油性液体に水性液体を添加して、高内相エマルションを作製する。また、乳化工程において、水相及び/又は有機相には、難燃剤、難燃助剤、耐光剤、着色剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0077】
難燃剤は、HIPEフォームの難燃性を向上させるために用いられる。難燃剤としては、ハロゲン、リン、窒素、シリコーン等を含む有機化合物;金属水酸化物、リン、窒素等を含む無機化合物等が挙げられる。難燃剤は、本発明の効果を損なわない範囲で使用され得る。難燃剤を配合する場合、その配合量は、重合体を構成するスチレン系単量体成分と架橋剤成分との合計100質量部に対して、5質量部以上20質量部以下であることが好ましい。少量の添加でも優れた難燃性を付与しやすい観点から、難燃剤としては、臭素化ビスフェノール系難燃剤を用いることが好ましく、2,3-ジブロモ-2-メチルプロピル基を有する臭素化ビスフェノール系難燃剤及び/又は2,3-ジブロモプロピル基を有する臭素化ビスフェノール系難燃剤を用いることがより好ましく、2,2-ビス[4-(2、3-ジブロモ-2-メチルプロポキシ)-3,5-ジブロモフェニル]プロパンを用いることがさらに好ましい。
【0078】
また、HIPEフォームには、難燃性のさらなる向上を目的として、難燃助剤を適宜配合することができる。例えば、ハロゲン系難燃剤を用いる場合において、難燃助剤としてジクミルパーオキサイド等のラジカル発生剤を用いると、ラジカル発生剤の分解によって難燃剤中のハロゲンの脱離が促進され、難燃性の向上が期待できる。また、ハロゲン系難燃剤を用いる場合において、難燃助剤として三酸化アンチモン等のアンチモン化合物を用いると、ハロゲン系難燃剤によるラジカルトラップの効果と、酸化アンチモンによる空気遮断の効果とが相乗的に作用することで難燃性の向上が期待できる。なお、難燃剤は単独で用いても良く、異なる難燃機構の難燃剤を2種以上併用しても良い。
【0079】
重合開始剤は、スチレン系単量体の重合を開始させるために用いられる。重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、より具体的には、ジラウロイルパーオキサイド(LPO)、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(LTCP)、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレエート、t-ヘキシルパーオキシピバレエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)等のアゾ化合物等が用いられる。
【0080】
重合時の水の沸騰を抑制するという観点からは、重合開始剤の1時間半減期温度は、95℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましい。また、安全性の観点から、室温における重合開始剤の分解を抑制するため、重合開始剤の1時間半減期温度は、50℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがより好ましい。
【0081】
重合開始剤としては、1種類以上の物質を用いることができる。また、HIPEフォームの見掛け密度の均一性を低下させることなく、重合時間を短縮することができる観点からは、1時間半減期温度が50℃以上70℃未満である有機過酸化物と、1時間半減期温度が70℃以上90℃以下である有機過酸化物とを、組み合わせて用いることが好ましい。
【0082】
重合開始剤は、有機相に添加されてもよく、水相に添加されてもよい。また、重合開始剤を有機相と水相との両方に添加することができる。水相に重合開始剤を添加する場合は、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性の重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤の添加量は、例えば、スチレン系単量体と架橋剤との合計100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下の範囲内であればよい。
【0083】
乳化剤は、高内相エマルションの形成及び安定化のために用いられる。乳化剤としては、例えば、界面活性剤を用いることができる。乳化剤としては、より具体的には、ポリグリセリン縮合リシノレート、ポリグリセリンステアレート、ポリグリセリンオレエート、ポリグリセリンラウレート、ポリグリセリンミリステート等のグリセロールエステル類;ソルビタンオレエート、ソルビタンステアレート、ソルビタンラウレート、ソルビタンラウレート、ソルビタンパルミテート等のソルビトールエステル類;エチレングリコールソルビタンエステル類;エチレングリコールエステル類;ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体等が用いられる。これらの乳化剤は、単独で使用されてもよいし、2種以上の乳化剤が併用されてもよい。乳化剤の添加量は、例えば、スチレン系単量体と架橋剤と乳化剤との合計100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下の範囲内であればよい。
【0084】
電解質は、水相にイオン強度を付与し、乳化物の安定性を高めるために用いられる。電解質としては、水溶性の電解質を用いることができる。電解質としては、より具体的には、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等が用いられる。電解質の添加量は、例えば、水性液体100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下の範囲内であればよい。
【0085】
〔重合工程〕
重合工程においては、前記油中水型高内相エマルションを反応容器に充填した後、反応容器内でスチレン系単量体を重合させる。重合工程においては、例えば、反応容器内の高内相エマルションを加熱することにより、スチレン系単量体を重合させて重合生成物(具体的には、水分を含んだ架橋重合体)を得ることができる。重合工程における高内相エマルションの加熱方法としては、温水等の熱媒体液による加熱や、高周波及びマイクロ波などの電磁波による加熱等を好適に採用することができる。
【0086】
重合工程での重合温度は、例えば、スチレン系単量体の種類、重合開始剤の種類、架橋剤の種類等によって調整される。
【0087】
〔乾燥工程〕
以上のようにして得られた重合生成物、つまり、水分を含んだ架橋重合体から水分を除去することにより、HIPEフォームを得ることができる(乾燥工程)。乾燥工程では、オーブン、真空乾燥機、高周波・マイクロ波乾燥機等を用いて、重合生成物を乾燥させる。乾燥が完了することで、重合前の乳化物において水滴があった箇所が、乾燥後の重合体においては気泡となり、HIPEフォームを得ることができる。一例として、HIPEフォームは、前記重合生成物を90℃に設定したオーブン中で恒量となるまで十分乾燥することで得ることができる。
【0088】
〔脱水工程〕
前記製造方法においては、乾燥工程を行う前に、必要に応じて重合生成物に含まれる水分の一部を重合生成物から除去する脱水工程を行うこともできる。乾燥工程の前に脱水工程を行うことにより、乾燥工程に要する時間をより短縮することができる。脱水工程において重合生成物から水分の一部を除去する方法としては、例えばプレス機等を用いて重合生成物を圧搾する方法や、遠心分離を行う方法などが挙げられる。
【0089】
重合生成物の脱水は、室温(例えば23℃)で行ってもよいが、例えば、重合生成物のガラス転移温度以上の温度で行うこともできる。この場合には、圧搾や遠心分離による脱水が容易になり、乾燥時間を短くすることができる。
【0090】
脱水工程においては、水分の除去を開始してから完了するまでの間の重合生成物の温度をガラス転移温度以上の温度に維持することが好ましい。このように、脱水工程において外力が加わっている間の重合生成物の温度をガラス転移温度以上の温度に保つことにより、脱水工程が完了し、外力から開放された際に、重合生成物の寸法が脱水工程を行う前の寸法程度にまで復元しやすくなる。その結果、脱水工程前の重合生成物の構造が乾燥工程後のHIPEフォームにより反映されやすくなる。さらに、この場合には、乾燥工程に要する時間をより短縮することができる。
【実施例0091】
前記真空断熱材及びHIPEフォームの実施例を以下に説明する。なお、実施例及び比較例において用いたスチレン系単量体、アクリル系単量体、架橋剤、乳化剤及び重合開始剤及びこれらの略称は以下の通りである。
【0092】
・スチレン系単量体
St:スチレン
・アクリル系単量体
BA:ブチルアクリレート
【0093】
・架橋剤
DVB:ジビニルベンゼン(分子量130、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製「DVB-570」、純度57%)
PEGDA:ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量508、新中村化学工業株式会社製「NKエステルA-400」)
【0094】
・重合開始剤
LPO:ジラウロイルパーオキサイド(日油株式会社製「パーロイル(登録商標)L」、1時間半減期温度:79.5℃)
LTCP:ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(日油株式会社製「パーロイルTCP」、1時間半減期温度:57.5℃)
【0095】
(実施例1)
本例では、まず、以下の方法によりHIPEフォームからなる芯材を製造した。
【0096】
〔芯材の作製〕
まず、トルク変換器付攪拌装置の付いた内容積が3Lのガラス容器に、スチレン系単量体としてのスチレン82.5質量部と、架橋剤としてのジビニルベンゼン10質量部、乳化剤としてのポリグリセリン縮合リシノレート7.5質量部と、重合開始剤としてのジラウロイルパーオキサイド0.5質量部及びビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.5質量部とを投入した。これらをガラス容器内で混合することにより、有機相を形成した。
【0097】
次に、脱イオン水1900質量部に対して電解質としての塩化カルシウム0.10質量部を溶解させ、水相を調製した。そして、有機相を400rpmの回転速度で攪拌しながら、温度20℃の水相を約450g/minの速度でガラス容器内に添加した。脱イオン水の添加が終了してから10分間攪拌を継続することにより、油中水型(つまりW/O型)の高内相エマルションを調製した。乳化完了後の攪拌動力密度は1.4kW/m3であった。なお、攪拌動力密度(単位:kW/m3)は、攪拌装置のトルク(単位:N・m)、回転数(単位:rpm)より動力(単位:kW)を算出し、内容物の体積(単位:m3)で除することで求めることができる。
【0098】
次に、攪拌動力密度を0.1kW/m3に下げ、ガラス容器にアスピレーターを接続して容器内を減圧することにより、エマルション中に含まれる微小気泡を除去した。減圧開始から10分後、攪拌を停止して容器内を大気圧に戻した。なお、攪拌開始から攪拌終了までの間、チラーを用いてガラス容器内の温度を20℃に維持した。
【0099】
このようにして得られた高内相エマルションを、縦200mm、横200mm、深さ40mmの容器内に充填した。そして、70℃の恒温水槽にて約10時間かけて反応容器内の高内相エマルションの有機相を重合させることにより、反応容器内に重合生成物(つまり、水を内包した架橋重合体)を形成した。重合が完了した後、恒温水槽から反応容器を取り出し、室温まで冷却した。
【0100】
次に、反応容器から取り出した重合生成物を水で洗浄した。洗浄後の重合生成物を脱水した後、90℃のオーブンで恒量になるまで乾燥させることによりHIPEフォームを得た。その後、バンドソーを用い、乾燥後のHIPEフォームを縦約180mm、横約180mm、厚み約15mmの板状となるように切断し、さらに、ドラムサンダーを用いて厚みが10mmとなるようにHIPEフォームの両面を研磨した。このようにして成形したHIPEフォームを200℃の温度で30分加熱し、HIPEフォームに含まれる水分等の揮発分を除去した。以上により、真空断熱材の芯材となるHIPEフォームを得た。
【0101】
〔真空断熱材の作製〕
次に、芯材を外包材に入れ、外包材の内部空間を真空状態とした後に芯材を外包材に封入することにより真空断熱材を作製した。外包材の作製には、アルミニウム箔からなるガスバリア層と、ポリエチレンからなり、ガスバリア層の一方の面に積層された熱溶着層と、ナイロンフィルムとポリエチレンテレフタラートフィルムとの積層フィルムからなり、ガスバリア層における熱溶着層の背面に積層された保護フィルム層と、を有する多層フィルムを用いた。まず、長さ230mm、幅230mmの正方形状の多層フィルムを2枚準備した。次に、熱溶着層が内側になるように2枚の多層フィルムを重ね合わせ、多層フィルムの三辺を熱溶着することで一辺が開口する袋状の外包材を得た。
【0102】
この外包材に芯材を入れた後、真空包装機(株式会社MDJ製「MDKT500-RD」)を用いて外包材の内部空間に存在する気体を排気した。そして、内部空間の圧力が1Paに到達した時点からさらに60秒間排気を継続した後、外包材の開口した一辺を熱溶着することにより、外包材内に芯材を封入した。その後、芯材を含まない端部を切断することで長さ200mm、幅200mm、厚み40mmの寸法とした。以上により、実施例1の真空断熱材を得た。
【0103】
本例のHIPEフォームにおける各種成分の仕込み組成等を表1に示す。なお、HIPEフォーム中の各種成分(スチレン系単量体及び架橋剤)の含有量は、仕込み時における、各種成分の配合量(架橋剤に関しては、不純物を除く配合量)と、スチレン系単量体成分と架橋剤成分(不純物を除く)との合計配合量とから求めることができる。
【0104】
(実施例2)
本例においては、水相の配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法によりHIPEフォーム及び真空断熱材を作製した。
【0105】
(実施例3)
本例においては、水相の配合量及び攪拌動力密度を表1に示すように変更した点以外は、実施例1と同様の方法によりHIPEフォーム及び真空断熱材を作製した。
【0106】
(実施例4~5)
これらの実施例においては、攪拌動力密度を表1に示すように変更した点以外は、実施例1と同様の方法によりHIPEフォーム及び真空断熱材を作製した。
【0107】
(実施例6~7)
これらの実施例においては、乾燥後のHIPEフォームを切断、研磨した際の厚みを変更した点以外は、実施例1と同様の方法によりHIPEフォーム及び真空断熱材を作製した。なお、実施例6~7におけるHIPEフォームの厚みは、具体的には表1に示す通りである。
【0108】
(比較例1~2)
これらの比較例においては、水相の配合量及び攪拌動力密度を表2に示すように変更した点以外は、実施例1と同様の方法によりHIPEフォーム及び真空断熱材を作製した。
【0109】
(比較例3)
本例においては、水相中に電解質を添加しない点、及び攪拌動力密度を表2に示すように変更した点以外は、実施例1と同様の方法によりHIPEフォーム及び真空断熱材を作製した。
【0110】
(比較例4~5)
これらの比較例においては、有機相中のスチレン系単量体及び乳化剤の添加量と、攪拌動力密度とを表2に示すように変更した点以外は、実施例1と同様の方法によりHIPEフォーム及び真空断熱材を作製した。
【0111】
(比較例6)
本例においては、有機相中に、スチレン系単量体に加えてアクリル系単量体としてのブチルアクリレートを配合した点、重合開始剤として、ジビニルベンゼンに加えてポリエチレングリコールジアクリレートを配合した点、水相中の電解質の量を変更した点、及び攪拌動力密度を表2に示すように変更した点以外は、実施例1と同様の方法によりHIPEフォーム及び真空断熱材を作製した。
【0112】
次に、表1及び表2に示した各物性の評価方法を説明する。
【0113】
〔HIPEフォームの見掛け密度〕
HIPEフォームから、スキン面、つまり重合時に容器と接触していた面を含まないようにして、長さ50mm、幅50mm、厚み25mmの試験片を3つ切り出した。次いで、試験片の質量(単位:kg)を外形寸法から算出される体積(単位:m3)で除することにより、各試験片の見掛け密度(単位:kg/m3)を算出した。そして、これらの見掛け密度の算術平均値をHIPEフォームの見掛け密度(単位:kg/m3)とした。
【0114】
〔HIPEフォームのガラス転移温度Tg〕
JIS K7121:1987に基づいてHIPEフォームのガラス転移温度Tgを測定した。具体的には、まず、HIPEフォームを切断して試験片を採取した。次に、JIS K 7121:1987における「3.試験片の状態調節」の「(3)一定の熱処理を行った後、ガラス転移温度を測定する場合」に基づいて試験片の状態調節を行った。そして、状態調節を行った試験片の示差走査熱量分析(DSC)を行うことにより、DSC曲線を取得した。このようにして得られるDSC曲線における中間点ガラス転移温度をHIPEフォームのガラス転移温度Tgとした。
【0115】
〔HIPEフォームの平均気泡径〕
フェザー刃を用いて、直方体形状のHIPEフォームにおける短手方向と厚み方向との中央、及び、短手方向の両端における厚み方向の中央から観察用の試料をそれぞれ切り出した。次いで、低真空走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクサイエンス製「Miniscope(登録商標) TM3030Plus」)を用いて各試料を観察し、試料の断面の拡大写真を撮影した。
【0116】
・試料の前処理:メタルコーティング装置(株式会社真空デバイス製「MSP-1S」)を用いて、試料の導電処理を行った。ターゲット電極にはAu-Pdを用いた。
・観察倍率:50倍
・加速電圧:5kV
・観察条件:表面(低倍率)
・観察モード:二次電子(標準)
【0117】
次に、撮影した拡大写真を画像処理ソフト(ナノシステム株式会社製「NanoHunter NS2K-Pro」)を用いて解析し、拡大写真上に存在する個々の気泡の気泡径(円相当直径)を算出した。そして、これらの気泡径を算術平均した値をHIPEフォームの平均気泡径とした。詳細な解析の手順および条件は以下の通りとした。
【0118】
(1)モノクロ変換
(2)平滑化フィルタ(3×3、8近傍、処理回数=1)
(3)濃度ムラ補正(背景より明るい、大きさ=5)
(4)NS法2値化(背景より暗い、鮮明度=9、感度=1、ノイズ除去、濃度範囲=0~255)
(5)収縮(8近傍、処理回数=1)
(6)特徴量(面積)による画像の選択(50~∞μm2のみ選択、8近傍)
(7)隣と接続されない膨張(8近傍、処理回数=3)
(8)円相当直径計測(面積から計算、8近傍)
【0119】
〔HIPEフォームの平均ストラット幅〕
まず、HIPEフォームを任意の断面で切断し、切断面を露出させた。次に、走査型電子顕微鏡等を用いて切断面を観察し、切断面の拡大写真を取得した。この拡大写真上において、無作為に20本のストラットを選択し、各ストラットにおける最も細い部分の幅を計測した。このようにして得られるストラットの幅の算術平均値を平均ストラット幅とした。
【0120】
〔HIPEフォームの圧縮物性〕
HIPEフォームの中心付近から、スキン面、つまり重合時に容器と接触していた面を含まないようにして長さ50mm、幅50mm、厚み25mmの試験片を切り出した。この試験片を温度23℃、湿度50%の環境下に静置して試験片の状態調節を行った。そして、状態調節後の試験片を用い、JIS6767:1999に基づいてHIPEフォームの5%ひずみ時圧縮応力σ5及び50%ひずみ時圧縮応力σ50を測定した。また、これらの値に基づき、HIPEフォームの50%ひずみ時圧縮応力σ50に対する5%ひずみ時圧縮応力σ5の比σ5/σ50を算出した。
【0121】
なお、圧縮試験には卓上形精密万能試験機(株式会社島津製作所製「AGS-10kNX」)を用いた。また、圧縮試験における圧縮速度は10mm/minとした。
【0122】
〔HIPEフォームの熱伝導率〕
前述した方法により得られる真空断熱材の芯材を試験体として用い、JIS A1412-2:1999に基づいてHIPEフォームの熱伝導率を測定した。より具体的には、試験体における長さ180mmの辺と幅180mmの辺とで囲まれた2つの面のうち、一方の面が熱伝導測定装置(英弘精機株式会社製「HC-074/200」)の高温面と接触し、他方の面が低温面と接触するようにして、試験体を熱伝導測定装置に取り付けた。その後、高温面の温度を33℃に設定するとともに、低温面の温度を13℃に設定した。そして、試験体の温度分布が定常状態に達した後に熱伝導率の測定を行った。熱伝導率の測定の際の試験体平均温度は23℃であった。
【0123】
〔HIPEフォームの架橋点間分子量Mc〕
HIPEフォームに対して、周波数:1Hz、荷重:98mN、変形モード:圧縮という測定条件で動的粘弾性測定を行い、T-E’曲線を取得した。得られたT-E’曲線における、Tg+50℃からTg+80℃までの範囲内の任意の温度T(単位:K)と、当該温度Tにおける貯蔵弾性率E’(単位:kPa)と、HIPEフォームの見掛け密度ρ(単位:kg/m3)とを用い、下記式(1)に基づいてHIPEフォームの架橋点間分子量Mcを算出した。
Mc=2(1+μ)ρRT/E’ ・・・(I)
【0124】
ただし、前記式(I)におけるμはポアソン比であり、Rは気体定数である。ポアソン比μの値は、具体的には0.5とし、気体定数Rの値は、具体的には8.314J/(K・mol)とした。
【0125】
〔製造性〕
真空断熱材の製造過程において内部空間に存在する気体を排気する際の、排気開始から圧力が1Paに到達するまでの所要時間、及び外包材を封止する際の到達圧力を測定し、表1及び表2に記載した。
【0126】
〔断熱性〕
真空断熱材の熱伝導率に基づいて真空断熱材の断熱性を評価した。真空断熱材の熱伝導率の測定方法は、HIPEフォームからなる芯材に替えて真空断熱材を用いたこと以外はHIPEフォームの熱伝導率の測定方法と同様である。表1及び表2の「断熱性」における「評価」欄には、真空断熱材の熱伝導率が7.5mW/(m・K)未満の場合に「Good」と記載し、7.5mW/(m・K)以上の場合に「Poor」と記載した。
【0127】
〔形状保持性〕
減圧による芯材の収縮率に基づいて真空断熱材の形状保持性を評価した。具体的には、まず、真空断熱材における最も厚みの薄い部分の厚みを測定し、この厚みから外包材の厚みを差し引くことにより、真空断熱材内における芯材の厚みを算出した。次に、外包材内に封入する前の芯材の厚みから真空断熱材内における芯材の厚みを差し引くことにより、減圧による芯材の収縮量を算出した。そして、外包材内に封入する前の芯材の厚みに対する芯材の収縮量の比を百分率で表した値を、芯材の収縮率(単位:%)とした。表1及び表2の「形状保持性」における「評価」欄には、芯材の収縮率が5%以下の場合に「Good」と記載し、5%を超える場合に「Poor」と記載した。
【0128】
【表1】
【0129】
【表2】
【0130】
表1に示したように、実施例1~7のHIPEフォームを構成する樹脂はスチレン系単量体の架橋重合体である。また、実施例1~7のHIPEフォームの見掛け密度、平均ストラット幅及び5%ひずみ時圧縮応力σ5は、いずれも前記特定の範囲内である。そのため、実施例1~7の真空断熱材は、製造性に優れ、軽量であるとともに良好な断熱性を有している。
【0131】
一方、表2に示したように、比較例1のHIPEフォームは、見掛け密度が前記特定の範囲よりも低く、5%ひずみ時圧縮応力σ5が前記特定の範囲よりも低い。そのため、比較例1のHIPEフォームを芯材として用いた真空断熱材の断熱性は不十分である。加えて、内部空間を減圧した際に、真空断熱材の内部と外部との圧力差に耐えられず、芯材が著しく収縮した。
【0132】
比較例2のHIPEフォームは、見掛け密度が前記特定の範囲よりも高い。そのため、比較例2のHIPEフォームを芯材として用いた真空断熱材は断熱性に劣っていた。これは、芯材としてのHIPEフォームの見掛け密度が高すぎたために、HIPEフォームの熱抵抗が低下したことが原因と考えられる。
【0133】
比較例3及び比較例4のHIPEフォームは、平均ストラット幅が前記特定の範囲から外れていた。そのため、これらの比較例の真空断熱材は断熱性に劣っていた。
【0134】
比較例5及び比較例6のHIPEフォームは、5%ひずみ時圧縮応力σ5が前記特定の範囲よりも低い。そのため、これらの比較例のHIPEフォームを芯材として用いた真空断熱材においては、内部空間を減圧した際に、真空断熱材の内部と外部との圧力差に耐えられず、芯材が著しく収縮した。
【0135】
以上、実施例に基づいて本発明に係る真空断熱材及びHIPEフォームの具体的な態様を説明したが、本発明に係る真空断熱材及びHIPEフォームの態様は実施例の態様に限定されることはなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【符号の説明】
【0136】
1 真空断熱材
11 外包材
12 芯材
2 HIPEフォーム
図1
図2
図3