(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015132
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】差動信号伝送装置および差動信号伝送装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01P 5/02 20060101AFI20250123BHJP
H01P 3/04 20060101ALI20250123BHJP
H01P 3/08 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
H01P5/02 603H
H01P3/04
H01P3/08 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118310
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】324003048
【氏名又は名称】三菱電機モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 和宏
【テーマコード(参考)】
5J014
【Fターム(参考)】
5J014CA09
(57)【要約】
【課題】インピーダンスの不整合が抑制され、エネルギー損失が少ない差動信号伝送装置を提供すること。
【解決手段】グランドプレーンを有する誘電体基板に、互いに平行に配置された正側信号線と負側信号線により構成される第一差動伝送線路と、前記誘電体基板に配置され、正側信号線と負側信号線との間隔が変化する部分を有する第二差動伝送線路と、が接続点において接続された差動信号伝送装置において、前記第二差動伝送線路の前記正側信号線および前記負側信号線の単位長当たりの自己インダクタンスおよび自己キャパシタンスの値が前記正側信号線と前記負側信号線との間隔にしたがって変化しているようにした。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グランドプレーンを有する誘電体基板に、互いに平行に配置された正側信号線と負側信号線により構成される第一差動伝送線路と、前記誘電体基板に配置され、正側信号線と負側信号線との間隔が変化する部分を有する第二差動伝送線路と、が接続点において接続された差動信号伝送装置において、
前記第二差動伝送線路の前記正側信号線および前記負側信号線の単位長当たりの自己インダクタンスおよび自己キャパシタンスの値が前記正側信号線と前記負側信号線との間隔にしたがって変化している差動信号伝送装置。
【請求項2】
前記第二差動伝送線路において、前記正側信号線と前記負側信号線との間隔が前記接続点から離れるにしたがって拡大しており、前記正側信号線および前記負側信号線の幅が前記接続点から離れるにしたがって拡大している請求項1に記載の差動信号伝送装置。
【請求項3】
前記第一差動伝送線路および前記第二差動伝送線路は、前記誘電体基板の一面に形成されたそれぞれの前記正側信号線と前記負側信号線と、前記誘電体基板の他面または内層に形成された導体の第一グランドプレーンとを有する、マイクロストリップラインにより構成されており、前記第二差動伝送線路の前記正側信号線と前記負側信号線が形成されている領域に対向する前記第一グランドプレーンの領域に、導体が形成されない導体削除領域を有する請求項2に記載の差動信号伝送装置。
【請求項4】
前記第一差動伝送線路および前記第二差動伝送線路は、それぞれの前記正側信号線と前記負側信号線とが、第一誘電体基板と第二誘電体基板とに挟まれた信号線内層に形成され、前記第一誘電体基板の前記信号線内層とは反対側の面または内層に導体の第一グランドプレーンを、前記第二誘電体基板の前記信号線内層とは反対側の面または内層に導体の第二グランドプレーンを有する、ストリップラインにより構成されており、前記第二差動伝送線路の前記正側信号線と前記負側信号線が形成されている領域に対向する前記第一グランドプレーンおよび前記第二グランドプレーンの領域に、導体が形成されない導体削除領域を有する請求項2に記載の差動信号伝送装置。
【請求項5】
前記第一差動伝送線路および前記第二差動伝送線路は、前記誘電体基板の一面に形成されたそれぞれの前記正側信号線と前記負側信号線と、前記誘電体基板の一面に形成され、それぞれの前記正側信号線と前記負側信号線のそれぞれに沿って配置された、導体の側面グランドプレーンと、前記誘電体基板の他面または内層に形成された導体の第一グランドプレーンとを有するコプレーナラインであり、前記側面グランドプレーンは、前記第二差動伝送線路における前記正側信号線および前記負側信号線との間隔が、前記接続点から離れるにしたがって拡大している請求項2に記載の差動信号伝送装置。
【請求項6】
前記第二差動伝送線路において、前記正側信号線と前記負側信号線との間隔が前記接続点から離れるにしたがって拡大しており、前記正側信号線および前記負側信号線の幅が前記接続点から離れるにしたがって縮小している請求項1に記載の差動信号伝送装置。
【請求項7】
前記第二差動伝送線路において、前記正側信号線と前記負側信号線との間に、前記正側信号線および前記負側信号線との間隔が前記接続点から離れるにしたがって縮小するよう磁性体金属の中間プレーンが配置され、
前記正側信号線および前記負側信号線の、前記中間プレーンの反対側に沿って、それぞれ前記正側信号線および前記負側信号線との間隔が前記接続点から離れるにしたがって縮小するようそれぞれ側面グランドプレーンが配置された請求項6に記載の差動信号伝送装置。
【請求項8】
前記第一差動伝送線路および前記第二差動伝送線路は、前記誘電体基板の一面に形成されたそれぞれの前記正側信号線と前記負側信号線と、前記誘電体基板の他面または内層に形成された導体の第一グランドプレーンとを有する、マイクロストリップラインにより構成されており、前記中間プレーンが配置されている領域に対向する前記第一グランドプレーンの領域には、導体が形成されない導体削除領域を有する請求項7に記載の差動信号伝送装置。
【請求項9】
前記誘電体基板の一面と、前記第一グランドプレーンが形成されている層の間であって、前記第二差動伝送線路の領域に対応する領域に、導体の内層グランドプレーンが形成されており、前記内層グランドプレーンの前記中間プレーンに対向する領域には、導体が形成されない導体削除領域を有する請求項8に記載の差動信号伝送装置。
【請求項10】
前記第一差動伝送線路および前記第二差動伝送線路は、それぞれの前記正側信号線と前記負側信号線とが、第一誘電体基板と第二誘電体基板とに挟まれた信号線内層に形成され、前記第一誘電体基板の前記信号線内層とは反対側の面または内層に導体の第一グランドプレーンを、前記第二誘電体基板の前記信号線内層とは反対側の面または内層に導体の第二グランドプレーンを有する、ストリップラインにより構成されており、前記中間プレーンが配置されている領域に対向する、前記第一グランドプレーンおよび前記第二グランドプレーンの領域に、導体が形成されない導体削除領域を有する請求項7に記載の差動信号伝送装置。
【請求項11】
前記信号線内層と前記第一グランドプレーンの間、および前記信号線内層と前記第二グランドプレーンの間の、前記第二差動伝送線路の領域に対応する領域に、それぞれ導体の内層グランドプレーンが形成されており、それぞれの前記内層グランドプレーンの前記中間プレーンに対向する領域に、導体が形成されない導体削除領域を有する請求項10に記載の差動信号伝送装置。
【請求項12】
前記第一差動伝送線路および前記第二差動伝送線路は、前記誘電体基板の一面に形成されたそれぞれの前記正側信号線と前記負側信号線と、前記誘電体基板の一面に形成され、それぞれの前記正側信号線と前記負側信号線のそれぞれに沿って配置された、導体の側面グランドプレーンと、前記誘電体基板の他面または内層に形成された導体の第一グランドプレーンとを有するコプレーナラインにより構成されており、それぞれの前記側面グランドプレーンは、前記第二差動伝送線路における前記正側信号線および前記負側信号線との間隔が、それぞれ前記接続点から離れるにしたがって縮小しており、前記第二差動伝送線路における前記正側信号線および前記負側信号線との間に、前記正側信号線および前記負側信号線との間隔が前記接続点から離れるにしたがって縮小するよう磁性体の金属の中間プレーンが配置された請求項6に記載の差動信号伝送装置。
【請求項13】
前記第二差動伝送線路の前記正側信号線と前記負側信号線間の単位長当たりの相互インダクタンスに対する前記正側信号線および前記負側信号線の単位長当たりのそれぞれの自己インダクタンスの比、および前記正側信号線と前記負側信号線間の単位長当たりの相互キャパシタンスに対する前記正側信号線および前記負側信号線の単位長当たりのそれぞれの自己キャパシタンスの比が前記正側信号線と前記負側信号線との間隔によらず一定である請求項1から12のいずれか1項に記載の差動信号伝送装置。
【請求項14】
誘電体基板の一面に形成され、平行に配置された正側信号線と負側信号線とを有する第一差動伝送線路と、間隔が変化する部分を有し、それぞれの自己インダクタンスおよび自己キャパシタンスが位置によって変化しない正側信号線と負側信号線とを有する第二差動伝送線路とが接続点において接続され、少なくとも、前記誘電体基板の他面または内層にグランドプレーンを有する差動信号伝送装置において、
前記第二差動伝送線路において、前記正側信号線と前記負側信号線との間隔が前記接続点から離れるにしたがって拡大しており、
前記第二差動伝送線路において、前記正側信号線と前記負側信号線との間に、前記正側信号線および前記負側信号線との間隔が前記接続点から離れるにしたがって縮小するよう非磁性体金属の中間プレーンが配置され、
前記中間プレーンが形成されている領域に対向する前記グランドプレーンの領域には、導体が形成されない導体削除領域を有する差動信号伝送装置。
【請求項15】
誘電体基板の一面に形成され、平行に配置された正側信号線と負側信号線とを有する第一差動伝送線路と、間隔が変化する部分を有し、それぞれの自己インダクタンスおよび自己キャパシタンスが位置によって変化しない正側信号線と負側信号線とを有する第二差動伝送線路とが接続点において接続され、少なくとも、前記誘電体基板の他面または内層にグランドプレーンを有する差動信号伝送装置において、
前記第二差動伝送線路において、前記正側信号線と前記負側信号線との間隔が前記接続点から離れるにしたがって拡大しており、
前記第二差動伝送線路において、前記正側信号線と前記負側信号線との間に、前記正側信号線および前記負側信号線との間隔が前記接続点から離れるにしたがって縮小するよう絶縁性磁性体の中間プレーンが配置された差動信号伝送装置。
【請求項16】
正側信号線と負側信号線とを有する第一差動伝送線路と、前記第一差動伝送線路とは物理的に異なる配置の正側信号線と負側信号線とを有する第二差動伝送線路が接続点において接続される差動信号伝送装置の製造方法において、
前記第一差動伝送線路の差動モードの特性インピーダンス及びコモンモードの特性インピーダンスに対し、前記第二差動伝送線路の前記正側信号線と前記負側信号線の自己インダクタンス、自己キャパシタンス、相互インダクタンス、および相互キャパシタンスのいずれか一の回路パラメータに対し、他の3つの回路パラメータを調整することによって、前記第二差動伝送線路の差動モードの特性インピーダンスが前記第一差動伝送線路の差動モードの特性インピーダンスと同じとなり、前記第二差動伝送線路のコモンモードの特性インピーダンスが前記第一差動伝送線路のコモンモードの特性インピーダンスと同じとなるよう前記第二差動伝送線路の回路パラメータを決定する工程を有する差動信号伝送装置の製造方法。
【請求項17】
請求項1から12のいずれか1項に記載の差動信号伝送装置の製造方法であって、
前記第二差動伝送線路における、前記正側信号線と前記負側信号線の前記接続点を基準とした各位置における、単位長当たりの、自己インダクタンスL0[H/m]、自己キャパシタンスCs[F/m]、相互インダクタンスLm[H/m]、相互キャパシタンスCm[F/m]と、前記第一差動伝送線路の差動モードの特性インピーダンスZD[Ω]、コモンモードの特性インピーダンスZC[Ω]との関係、
【数1】
に基づいて前記第二差動伝送線路の回路パラメータを決定する工程を有する差動信号伝送装置の製造方法。
【請求項18】
請求項14または15に記載の差動信号伝送装置の製造方法であって、前記第一差動伝送線路および前記第二差動伝送線路における単位長当たりの、自己インダクタンスL0[H/m]、自己キャパシタンスCs[F/m]が一定であり、前記第一差動伝送線路における、単位長当たりの、相互インダクタンスをLm0[H/m]、相互キャパシタンスをCm0[F/m]とした場合、前記第二差動伝送線路における、前記正側信号線と前記負側信号線の前記接続点を基準とした各位置における、単位長当たりの、相互インダクタンスLm[H/m]、相互キャパシタンスCm[F/m]が、
【数2】
に基づいて決定される工程を有する差動信号伝送装置の製造方法。
【請求項19】
請求項1から12、14、15のいずれか1項に記載の差動信号伝送装置の製造方法であって、
前記第一差動伝送線路の入力点をポート1、前記接続点をポート2、前記第二差動伝送線路の出力点をポート3とし、bを反射波、aを進行波、dおよびDを差動モード、cおよびCをコモンモード、反射波bと進行波aの添え字の1桁目は伝送モード、2桁目は該当ポート番号、ミックスドモードSパラメータ因子の1桁目は出力伝送モード、2桁目は入力伝送モード、3桁目は出力ポート番号、4桁目は入力ポート番号と定義し、前記ポート1から前記ポート2へのミックスドモードSパラメータS1と前記ポート2から前記ポート3へのミックスドモードSパラメータS2とを用いて、前記ポート1から前記ポート2、前記ポート2から前記ポート3への伝送を、
【数3】
と表現し、
前記ポート1と前記ポート2との間のミックスドモードTパラメータT1と前記ポート2と前記ポート3との間のミックスドモードTパラメータT2とを
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
と定義することにより、前記ポート1と前記ポート3の間のミックスドモードTパラメータTtotalがT1とT2の積となり、以下の添え字を、rは反射波、tは進行波、以下のミックスドモードTパラメータ因子の1桁目は出力伝送モード、2桁目は入力伝送モード、3桁目は出力波における反射波、進行波の区別、4桁目は入力波における反射波、進行波の区別としたとき、
【数8】
と表現し、この式から、前記ポート1から前記ポート3へのミックスモードSパラメータであるStotalによる表現
【数9】
【数10】
に変換して、変換して求めた前記Stotalにより、前記ポート1から前記ポート3への伝送特性を評価する工程
を有する差動信号伝送装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、差動信号伝送装置、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速通信のための信号線として、信号品質の安定化、RF不要輻射の抑制などの観点から、正側信号線と負側信号線をペアにして配線する差動伝送線路を用いることが多い。この差動伝送線路において性能を十分に確保するためには、正側信号線と負側信号線の対称性を保つと同時に、信号線の特性インピーダンスを一定に保つ必要があるが、コネクタへの配線部分など、物理的に継続して同じ形状で継続接続させることができない部分が生じる。このような場合、差動伝送線路にわたって特性インピーダンスが同じにする必要がある。例えば、特許文献1では、プリント基板上の差動伝送線路において、正負の両信号線路の間隔が広がる領域において、両信号線路間の相互インダクタンスの減少分を、正負両信号線間にグランドを挿入することにより信号線の対グランド容量を高めて差動インピーダンスを略一定に保つようにしている。
【0003】
また、特許文献2では、差動モードおよびコモンモードの特性インピーダンスが異なる二つの差動伝送線路を接続する場合に、それぞれのモードにおける両差動伝送線路インピーダンスを共に整合させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-274005号公報
【特許文献2】特開2012-44248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で開示されている技術では、正負両信号線の間隔が広がる領域以降において、相互インダクタンスはほぼ0になるが、両信号線の自己インダクタンスは信号線の太さが変化しないため、広がる前後の領域において一定である。正負両信号線の対グランド容量の増加は差動インピーダンス、コモンインピーダンス双方を減少させる効果はあるが、相互インダクタンスの減少は差動インピーダンスには増加、コモンインピーダンスには減少方向に寄与するため、正負両信号線の間隔が広がる領域の前後で差動インピーダンスをなんとか一致させることができたとしても、コモンインピーダンスの不整合は大きくなってしまうという問題があった。
【0006】
また、特許文献2で開示されている技術では、差動伝送線路そのものは最適化せずに、抵抗器による整合回路を用いてのインピーダンス整合であるため、エネルギー損失を生じてしまうという問題があった。
【0007】
本開示は、上記の課題を解決するものであり、インピーダンスの不整合が抑制され、エネルギー損失が少ない差動信号伝送装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の差動信号伝送装置は、グランドプレーンを有する誘電体基板に、互いに平行に配置された正側信号線と負側信号線により構成される第一差動伝送線路と、前記誘電体基板に配置され、正側信号線と負側信号線との間隔が変化する部分を有する第二差動伝送線路と、が接続点において接続された差動信号伝送装置において、前記第二差動伝送線路の前記正側信号線および前記負側信号線の単位長当たりの自己インダクタンスおよび自己キャパシタンスの値が前記正側信号線と前記負側信号線との間隔にしたがって変化しているものである。
【0009】
また、誘電体基板の一面に形成され、平行に配置された正側信号線と負側信号線とを有する第一差動伝送線路と、間隔が変化する部分を有し、それぞれの自己インダクタンスおよび自己キャパシタンスが位置によって変化しない正側信号線と負側信号線とを有する第二差動伝送線路とが接続点において接続され、少なくとも、前記誘電体基板の他面または内層にグランドプレーンを有する差動信号伝送装置において、 前記第二差動伝送線路において、前記正側信号線と前記負側信号線との間隔が前記接続点から離れるにしたがって拡大しており、前記第二差動伝送線路において、前記正側信号線と前記負側信号線との間に、前記正側信号線および前記負側信号線との間隔が前記接続点から離れるにしたがって縮小するよう非磁性体金属の中間プレーンが配置され、前記中間プレーンが形成されている領域に対向する前記グランドプレーンの領域には、導体が形成されない導体削除領域を有するものである。
【0010】
また、誘電体基板の一面に形成され、平行に配置された正側信号線と負側信号線とを有する第一差動伝送線路と、間隔が変化する部分を有し、それぞれの自己インダクタンスおよび自己キャパシタンスが位置によって変化しない正側信号線と負側信号線とを有する第二差動伝送線路とが接続点において接続され、少なくとも、前記誘電体基板の他面または内層にグランドプレーンを有する差動信号伝送装置において、前記第二差動伝送線路において、前記正側信号線と前記負側信号線との間隔が前記接続点から離れるにしたがって拡大しており、前記第二差動伝送線路において、前記正側信号線と前記負側信号線との間に、前記正側信号線および前記負側信号線との間隔が前記接続点から離れるにしたがって縮小するよう絶縁性磁性体の中間プレーンが配置されたものである。
【0011】
本開示の差動信号伝送装置の製造方法は、正側信号線と負側信号線とを有する第一差動伝送線路と、前記第一差動伝送線路とは物理的に異なる配置の正側信号線と負側信号線とを有する第二差動伝送線路が接続点において接続される差動信号伝送装置の製造方法において、前記第一差動伝送線路の差動モードの特性インピーダンス及びコモンモードの特性インピーダンスに対し、前記第二差動伝送線路の前記正側信号線と前記負側信号線の自己インダクタンス、自己キャパシタンス、相互インダクタンス、および相互キャパシタンスのいずれか一の回路パラメータに対し、他の3つの回路パラメータを調整することによって、前記第二差動伝送線路の差動モードの特性インピーダンスが前記第一差動伝送線路の差動モードの特性インピーダンスと同じとなり、前記第二差動伝送線路のコモンモードの特性インピーダンスが前記第一差動伝送線路のコモンモードの特性インピーダンスと同じとなるよう前記第二差動伝送線路の回路パラメータを決定する工程を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本開示の差動信号伝送装置によれば、差動モードの特性インピーダンスの不整合およびコモンモードの特性インピーダンスの不整合を抑制することが可能となり、エネルギー損失が少ない差動信号伝送装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】伝送線路の構成をモデル化して示す断面を含む斜視図であり、
図1Aはシングルエンド伝送線路、
図1Bは差動伝送線路の構成を示す。
【
図2】差動伝送線路の単位長あたりの、相互インダクタンスLm0と、自己キャパシタンスCsおよび相互キャパシタンスCm0の関係の一例を示す線図である。
【
図3】差動伝送線路の単位長あたりの、相互インダクタンスLm0と、自己インダクタンスL0の関係の一例を示す線図である。
【
図4】差動伝送線路の入力ポートと出力ポートの間の進行波と反射波をミックスドモードSパラメータで表現するモデル図である。
【
図5】2つの差動伝送線路が継続接続されている場合の進行波と反射波を表現するモデル図である。
【
図6】差動伝送線路の入力ポートと出力ポートの間の進行波と反射波をミックスドモードTパラメータで表現するモデル図である。
【
図7】モード変換成分が無いとした場合の同一の差動モード及び同一のコモンモードの特性インピーダンスの差動伝送線路を継続接続したときの差動モード反射係数SDD11の周波数特性の計算例を示す線図である。
【
図8】モード変換成分が無いとした場合の同一の差動モード及び同一のコモンモードの特性インピーダンスの差動伝送線路を継続接続したときの差動モード伝送係数SDD21の周波数特性の計算例を示す線図である。
【
図9】モード変換成分が無いとした場合の差動モードの特性インピーダンスは一致するが、コモンモードの特性インピーダンスは異なる差動伝送線路を継続接続したときの差動モード反射係数SDD11の周波数特性の計算例を示す線図である。
【
図10】モード変換成分が無いとした場合の差動モードの特性インピーダンスは一致するが、コモンモードの特性インピーダンスは異なる差動伝送線路を継続接続したときの差動モード伝送係数SDD21の周波数特性の計算例を示す線図である。
【
図11】差動伝送線路においてモード変換が生じる場合の影響を評価するために仮定した各モード変換成分の周波数特性を示す線図である。
【
図12】
図11で仮定したモード変換成分を有する場合の同一の差動モード及び同一のコモンモードの特性インピーダンスの差動伝送線路を継続接続したときの差動モード反射係数SDD11の周波数特性の計算例を示す線図である。
【
図13】
図11で仮定したモード変換成分を有する場合の同一の差動モード及び同一のコモンモードの特性インピーダンスの差動伝送線路を継続接続したときの差動モード伝送係数SDD21の周波数特性の計算例を示す線図である。
【
図14】
図11で仮定したモード変換成分を有する場合の差動モードの特性インピーダンスは一致するが、コモンモードの特性インピーダンスは異なる差動伝送線路を継続接続したときの差動モード反射係数SDD11の周波数特性の計算例を示す線図である。
【
図15】
図11で仮定したモード変換成分を有する場合の差動モードの特性インピーダンスは一致するが、コモンモードの特性インピーダンスは異なる差動伝送線路を継続接続したときの差動モード伝送係数SDD21の周波数特性の計算例を示す線図である。
【
図16】第一差動伝送線路におけるモード変換を説明するためのモデル図である。
【
図17】2つの差動伝送線路が接続されている差動信号伝送装置の構成を示す模式図である。
【
図18】実施の形態1による差動信号伝送装置の構成を示す平面図である。
【
図19】実施の形態1による差動信号伝送装置の別の構成を示す平面図である。
【
図20】実施の形態1による差動信号伝送装置のさらに別の構成を示す平面図である。
【
図21】実施の形態2による差動信号伝送装置の構成を示す平面図である。
【
図22】実施の形態2による差動信号伝送装置の別の構成を示す平面図である。
【
図23】実施の形態3による差動信号伝送装置の構成を示す平面図である。
【
図24】実施の形態3による差動信号伝送装置の別の構成を示す平面図である。
【
図25】実施の形態4による差動信号伝送装置の考察のために仮定する各差動伝送線路の回路パラメータの表を示す図である。
【
図26】実施の形態4による差動信号伝送装置において、第一差動伝送線路と第二差動伝送線路の差動モードの特性インピーダンスが一致、またはコモンモードの特性インピーダンスが一致すると仮定して算出した第二差動伝送線路の任意点xにおける正負両信号線間の相互キャパシタンスと、第二差動伝送線路の任意点xにおける正負両信号線間の相互インダクタンスに対する第一差動伝送線路における相互インダクタンスの比との関係例を示す線図である。
【
図27】実施の形態4による差動信号伝送装置において、
図26の両相互キャパシタンスから算出した第二差動伝送線路のそれぞれのコモンモードの特性インピーダンスと、
図26の差動モードの特性インピーダンス一致から算出した相互キャパシタンスを用いて算出した第二差動伝送線路の差動モードの特性インピーダンスと、第二差動伝送線路の任意点xにおける正負両信号線間の相互インダクタンスに対する第一差動伝送線路における相互インダクタンスの比との関係例を示す線図である。
【
図28】実施の形態4による差動信号伝送装置において、
図27の両コモンモードの特性インピーダンスと差動モードの特性インピーダンスから算出したそれぞれのコモンモードのリターンロス及び差動モードのリターンロスと、第二差動伝送線路の任意点xにおける正負両信号線間の相互インダクタンスに対する第一差動伝送線路における相互インダクタンスの比との関係例を示す線図である。
【
図29】実施の形態4による差動信号伝送装置の構成を示す平面図である。
【
図30】実施の形態4による差動信号伝送装置の第二差動伝送線路の構成を示す、断面を含む斜視図である。
【
図31】実施の形態4による差動信号伝送装置の別の構成を示す平面図である。
【
図32】実施の形態4による差動信号伝送装置の別の構成の第二差動伝送線路を示す、断面を含む斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、差動伝送線路による信号伝送装置において、例えば正側信号線と負側信号線の間隔が変化する部分を有するなど、差動伝送線路の構成が伝送途中で変化する構成の差動伝送線路において、差動インピーダンス、すなわち差動モードの特性インピーダンスのみならず、コモンインピーダンス、すなわちコモンモードの特性インピーダンスにも着目して差動伝送線路の解析を行い、不整合を抑制する技術を開示するものである。
【0015】
<各特性インピーダンスの定義>
まず、差動伝送線路をモデル化して解析を行う。
図1Aに示す構造を持つ信号線1と絶縁体(誘電体基板)3、導体のグランドプレーン4からなるシングルエンド伝送線路において、単位長あたりの自己インダクタンスをL0 [H/m]、信号線の対グランドプレーン4のキャパシタンスをC0 [F/m]、伝送線路の無損失を仮定すると、特性インピーダンスZ0[Ω]は以下の式で与えられる。
【数1】
【0016】
次に、
図1Bに示す構造を持つ、正側信号線1aと負側信号線1b、絶縁体(誘電体基板)3、導体のグランドプレーン4からなる差動伝送線路を考える。ここでも、伝送線路の無損失を仮定する。また、正側信号線1aと負側信号線1bは正側信号線1aと負側信号線1bの間の中心線に対して線対称となっている。正側信号線1aおよび負側信号線1bの単位長あたりの自己インダクタンスを
図1Aと同じL0 [H/m]、正負両信号線の対グランドプレーン4のキャパシタンス(自己キャパシタンス)をCs [F/m]、正側信号線1aと負側信号線1bとの間の相互インダクタンスをLm0 [H/m]、正負信号線の中間電位と、正負信号線それぞれとの間に生じる相互キャパシタンス(正負両信号線間容量の2倍)をCm0 [F/m]とし、差動モードの特性インピーダンスをZdif[Ω]、コモンモードの特性インピーダンスをZcom[Ω]、シングルエンド(SE)相当の特性インピーダンスをZs[Ω]とすると、Zs[Ω]、差動モードの伝送線路の片側あたりの特性インピーダンスZD[Ω]、コモンモードの伝送線路の片側あたりの特性インピーダンスZC[Ω]は以下の式で与えられる。
【数2】
【0017】
ここでLm0 << L0、Cm0 << Cs仮定すると、
【数3】
が成り立つ。
【0018】
一方、(1-3)、(1-4)式から
【数4】
と書ける。
【0019】
ここで、Cs、Lm0、Cm0をZs、ZC、ZD、L0を用いて表すと、(1-2)式も考慮して
【数5】
【0020】
一方、TEM波の伝送を仮定する場合、伝搬速度v0は差動モード伝送、コモンモード伝送、シングルエンド伝送で同一である必要があるので、
【数6】
ここで、kは定数であり、Cm0とCs、Lm0とL0の比は一定でかつ0 < k である必要がある。
【0021】
また、
【数7】
となる。Cs > 0なので、k < 1である必要がある。
【0022】
【数8】
これらを(4-1)式、(4-2)式、(4-3)式へ代入すると、
【0023】
【数9】
と書ける。次にL0、Cs、Cm0をZC、ZD、Lm0を用いて表すと、
【0024】
【数10】
となり、L0、Cs、Lm0、Cm0の4個の回路定数は、それぞれZC、ZDおよび他の一つの回路パラメータで表すことができる。
【0025】
(7-1)、(7-2)、(7-3)式を用いて計算したL0、Cs、Cm0のLm0依存性を
図2および
図3のグラフに示す。この関係を満たすとき、ZC、Z0、ZDは一定の値をそれぞれ保持できるが、そのためには例えばLm0の減少(増加)に対して、他の3つのパラメータも減少(増加)させる必要があることが分かる。Lm0以外のパラメータの減少(増加)に対しても、残りの3つのパラメータは減少(増加)させる必要がある。
【0026】
<差動伝送線路の継続接続>
一般に、ポート1とポート2の間の差動伝送線路で構成される高周波回路における進行波と反射波は、
図4及び下記(10)式のミックスドモードSパラメータで表現される。ここでadx: 差動進行波、bdx: 差動反射波、acx: コモン進行波、bcx: コモン反射波であり、xにはポート番号1または2が入る。
【数11】
ここで、ミックスドモードSパラメータからミックスドモードTパラメータへの変換を検討する。
【0027】
図5に示す第一差動伝送線路1と第二差動伝送線路2を縦続接続したとき、縦続接続後のミックスドモードSパラメータで表される伝送特性がどのようになるか考える。(10)式のミックスドモードSパラメータのままでは左辺右辺に入出力(ポート1またはポート2)が分散しているため、行列の積によって縦続接続後の特性を求めることができない。行列の積によって伝送特性を求めるには、ポート1とポート2の各進行波成分と各反射波成分がそれぞれ両辺に分離した「ミックスドモードTパラメータ」を、
図6及び(11)式のように定義、この式へ変換し、ミックスドモードTパラメータの行列の各パラメータを求める必要がある。ここでサフィックスのrは反射波、tは進行波を表す。また第一差動伝送線路1と第二差動伝送線路2との接続点であるポート2では、他方の入射波は自身の反射波、他方の反射波は自身の入射波となる。すなわちbd2 = ad2, ad2 = bd2, bc2 = ac2, ac2 = bc2が成立している。
【数12】
【0028】
(10)式からミックスドモードTパラメータを求める。(10)式でポート1側を左辺、ポート2側を右辺に集めて整理すると、
【数13】
【0029】
ここで、
【数14】
なので、
【数15】
とおくと、各成分は
【数16】
で与えられる。
【0030】
これらを用いると、(10)式は、
【数17】
と書ける。
【0031】
(15)式で定義されたミックスドモードTパラメータを用いることにより、差動伝送線路の入出力の関係が明確化された。ここでポート1とポート2間の第一差動伝送線路1のミックスドモードTパラメータをT1、ポート2とポート3間の第二差動伝送線路2のミックスドモードTパラメータをT2とすると、
【数18】
と表わされ、ポート2では前述のようにbd2 = ad2, ad2 = bd2, bc2 = ac2, ac2 = bc2が成立しているので、両ミックスドモードTパラメータの積が継続線路のミックスドモードTパラメータとなり、
【数19】
が成り立つ。
【0032】
次に、ミックスドモードTパラメータからミックスドモードSパラメータ(Stotal)への変換を検討する。(12)式で表される第一差動伝送線路1、2の縦続接続後のミックスドモードTパラメータ(Ttotal)からミックスドモードSパラメータへ再度変換することを考える。改めて
【数20】
と置き、ミックスドモードSパラメータの形に整理すると、
【0033】
【0034】
【数22】
と置くと、各成分は、
【数23】
で与えられる。
【0035】
これらを用いると式(15)は、
【数24】
となる。
【0036】
以上まとめると、2段縦続接続の差動伝送線路におけるミックスドモードSパラメータ(Stotal)を得る手順は、以下の1から3のような手順となる。
1:各線路のミックスドモードSパラメータをそれぞれミックスドモードTパラメータへ変換
2:得られた2つのミックスドモードTパラメータで行列積演算
(T=T1×T2の演算を行い全体のミックスドモードTパラメータを算出)
3:ミックスドモードTパラメータの積を再度ミックスドモードSパラメータへ変換し全体のミックスドモードSパラメータを得る(ミックスドモードTパラメータ → ミックスドモードSパラメータの変換を行う)。
変換したStotalを用いることにより、2段接続の差動伝送線路の伝送特性を評価することができる。
【0037】
<モードコンバージョン成分を無視する場合>
特別な場合として、差動からコモン、及びコモンから差動へのモード変換成分が存在しない場合、式(10)は以下のように書ける。
【数25】
【0038】
これのミックスドモードTパラメータは以下のように計算できる。
【数26】
【0039】
ここで、
【数27】
なので、これを計算すると、
【数28】
となる。
【0040】
ここで、第一差動伝送線路1のミックスドモードTパラメータをT1a、第二差動伝送線路2のミックスドモードTパラメータをT2aとすると、
【数29】
なので、両ミックスドモードTパラメータの積が連結線路のミックスドモードTパラメータとなり、
【数30】
が成り立つ。
【0041】
次に式(16a)で表される第一差動伝送線路1、2の継続接続後のミックスドモードTパラメータTtotalaからミックスドモードSパラメータStotalaへ再度変換することを考える。改めて
【数31】
と置き、ミックスドモードSパラメータStotalaの形に整理すると、
【数32】
であるので、
【0042】
【数33】
となる。これはモード変換のないミックスドモードSパラメータStotalaで表されるそれぞれ独立した線路を縦続接続した場合においても、差動モード成分の反射波は差動モード成分の進行波によってのみ、コモンモード成分の反射波はコモンモード成分の進行波によってのみで表されること、すなわち差動・コモンモードそれぞれの信号が互いに影響を与えないことを意味している。
【0043】
<モード変換成分が無視できる場合の計算例>
モード変換成分が無視できる場合の差動モード反射係数SDD11と差動モード伝送係数SDD21の計算例を
図7~
図10に示す。
図7および
図8は、(条件A)Zdif = 100.0[Ω]、Zcom = 27.7[Ω]の同一の伝送を縦続接続した場合の、それぞれSDD11およびSDD21を示している。また、(条件B)第一差動伝送線路1がZdif1 = 100.0[Ω]、Zcom1 = 27.7[Ω]であり、第二差動伝送線路2がZdif2 = 100.0[Ω]、Zcom2 = 55.4[Ω]と、Zdifは一致するが、Zcomが異なる差動伝送線路を継続接続した場合の、SDD11およびSDD21を
図9および
図10に示す。各図中の”_1”は第一差動伝送線路1を、”_2”は第二差動伝送線路2を、”_1&2”は第一差動伝送線路1と第二差動伝送線路2の縦続接続線路の属性であることを示す。
図7と
図9の特性を比較すると、Zcomの不一致による差動モード反射係数SDD11の劣化は見られない。
【0044】
<モード変換成分が無視できない場合の計算例>
次に第一差動伝送線路1の伝送係数 (ポート1→ ポート2、またはポート2→ ポート1のみで、ポート1→ ポート1またはポート2→ ポート2の反射成分は含まない)の各モード変換成分(SCD12_1, SCD21_1, SDC12_1, SDC21_1)を
図11のように仮定して、上述の(条件A)における差動モード反射係数SDD11および差動モード伝送係数SDD21の計算例を、
図12および
図13に、(条件B)における差動モード反射係数SDD11および差動モード伝送係数SDD21の計算例を、
図14および
図15に示す。一般にモード変換は高周波になればなるほど顕著になりやすく、昨今の通信の高速化された伝送線路においては次第に無視できない成分になっている。
図12と
図14のグラフを比較すると差動モード反射係数SDD11は1GHz以上の周波数においてZcomが一致しない(条件B)の場合、一致する(条件A)の場合と比較して増加すなわち悪化することが分かる。これは
図16を用いて次のように説明できる。
【0045】
図16中の右向きの矢印は進行波を、左向きの矢印は反射波を表す。負荷に送りたいのは差動の進行波であり、差動反射波が多いほど伝送効率は悪化、すなわちSDD11は大きくなる。SDD11を構成する反射波は、
(a)第一差動伝送線路1のポート1で反射する差動信号
(b-1)第一差動伝送線路1を進行し、第二差動伝送線路2のポート2で反射(SDD11_2)する差動信号
(b-2)第一差動伝送線路1内で差動からコモンへモード変換(SCD21_1)され、第二差動伝送線路2のポート2でコモンから差動モードに変換(SDC11_2)されて反射される信号
(c)第一差動伝送線路1内で差動からコモンへモード変換(SCD21_2)された後、第二差動伝送線路2のポート2で反射(SCC11_2)され、さらにそのコモンモード信号が第一差動伝送線路1内でコモンから差動モード変換(SDC12_1)された信号
の4種類がある。これらを
図16中に示している。ここで第一差動伝送線路1と第二差動伝送線路2でコモンモードの特性インピーダンスZcomが異なるので、コモンモード信号のポート2での反射が大きくなり、上記(c)の影響が大きくなるため、SCD21_1、SDC12_1が大きくなる高い周波数領域でSDD11が悪化(増加)したと考えられる。Zcomが一致する(条件A)の場合においても、(b-2)の影響(SCD21_1の影響)があるため、高い周波数領域でSDD11が若干悪化(増加)するが、(条件B)よりはかなり小さい。
【0046】
以上、モードコンバージョン成分が存在する場合に、第一差動伝送線路1と第二差動伝送線路2でZcomの不一致があると、SDD11が悪化(増加)し、差動モード信号の伝送に悪影響がある旨を説明した。
【0047】
<実施の形態>
高速通信のための信号線は、信号品質の安定化、RF不要輻射の抑制などの観点から、正側信号線と負側信号線をペアにして配線する差動伝送線路を用いることが多いが、性能を十分に確保するためには正側信号線と負側信号線の対称性を保つと同時に、信号線の特性インピーダンスを一定に保つ必要がある。
【0048】
実際の設計に当たっては物理的レイアウトの制約、例えば
図17に示すPCB(Print Circuit Board)の配線事例では、正側信号線1aと負側信号線1bを近接してレイアウトし、電気的結合がA点-B点間では確保できていても(第一差動伝送線路1)、B点より右の領域(第二差動伝送線路2)では接続先のコネクタ10などのレイアウトによって、コネクタ10の正側信号線2aの接続ポイント11aと負側信号線2bの接続ポイント11bが離れており、正側信号線2aと負側信号線2bを徐々に分離して配線せざるをえない場合がある。第一差動伝送線路1および第二差動伝送線路2では、正側信号線と負側信号線は図示しないPCBのグランド層とも容量結合しているとする。
【0049】
図17に示すようにx = 0(B点)で第一差動伝送線路1と第二差動伝送線路2を接続する場合を考える。第二差動伝送線路2においては、正側信号線2aと負側信号線2bの間隔の広がりに伴い、相互インダクタンスと相互キャパシタンスは徐々に減少して行く。一方、正側信号線と負側信号線パターンの幅・厚み・材質などによって決まる自己インダクタンスと、信号線パターンとPCBのグランド層との距離・間の絶縁体の誘電率等によって決まる自己キャパシタンスは第一差動伝送線路1および第二差動伝送線路2ともに一定とすると、前述の(1-3)式及び(1-4)式から明らかなように、第一差動伝送線路1の値と比較して、第二差動伝送線路2ではZDは増加、ZCは減少するため、差動信号、同相信号ともに第一差動伝送線路1と第二差動伝送線路2間の整合(マッチング)が取れなくなって行く。差動モードの特性インピーダンスZdif = 2ZD、コモンモードの特性インピーダンスZcom = ZC/2なので、その差は一層広がる。
【0050】
差動伝送線路は差動信号を伝達するのが目的なので、第一差動伝送線路1と第二差動伝送線路2の差動モードの特性インピーダンスZDを一致させることは言うまでもないが、第一差動伝送線路1にて差動モードからコモンモードへのモード変換が発生した場合、両差動伝送線路のコモンモードの特性インピーダンスZCが一致しない場合は、差動モードから変換されたコモンモード信号が第二差動伝送線路2(B点)で反射され、その反射波が第一差動伝送線路1にてコモンモードから差動モードへと変換されるため、第一差動伝送線路1の入力(A点)での差動信号の反射を大きくしてしまう。つまり、前述のモードコンバージョン成分が無視できない場合で記述したように、第一差動伝送線路1で差動モードからコモンモード、コモンモードから差動モードへのモード変換が発生する場合、正側信号線および負側信号線のコモンモードの特性インピーダンスの不一致がA点での差動モードの反射係数SDD11を大きく(悪化)させてしまう。通常、正側信号線と負側信号線とで完全に対称なレイアウトにすることは不可能なので、モード変換は必ず発生する。
【0051】
以上の解析の結果、差動伝送線路の連結時に差動モードの特性インピーダンスのみならず、コモンモードの特性インピーダンスをできる限り一致させることが課題となることがわかった。以下、解析の結果を、実際の差動伝送線路の構成にフィードバックして、差動モードの反射係数ができるだけ小さくなる差動伝送線路の構成を種々開示する。
【0052】
実施の形態1.
本実施の形態1は、マイクロストリップライン(MSL)による実施の形態である。
図18に信号線の対面にグランドプレーン4を持つマイクロストリップラインによる構成例を示す。
図18aは厚みが一定の信号線が形成されている信号線表層、
図18bは内層または裏面にグランドプレーン4が形成されたグランド層を示している。B点から右、すなわち第二差動伝送線路2において、正側信号線2aと負側信号線2bを分離配線する必要があるとすると、分離距離が大きくなればなるほど、相互インダクタンスLmと相互キャパシタンスCmは減少する。このとき前述の<各特性インピーダンスの定義>で考察したように、差動モードの特性インピーダンスとコモンモードの特性インピーダンスを一致させるためには他の2つのパラメータ、信号線の自己インダクタンスL0、信号線の対グランドの静電容量Csも減少させることが必要である。まず、正側信号線2aと負側信号線2bとの間隔の拡大にしたがって太くなる(幅が拡大する)よう信号線にテーパを付けることで、L0を徐々に低下させることができる。信号線が太くなる(単位長あたりの面積が増える)と、信号線のCsは増加するが、この増加分以上にCsを減少させる必要がある。これには太くなった信号線の直下のグランドプレーン(導体)4を削除(導体削除領域40a、40bを形成)することによりCsを減少させることができる。直下のグランドプレーン(導体)を削除しても信号線はその周辺のグランドプレーンと結合するので、Csは0にはならず、数値解析等で計算することができる。具体的には、PCBのパターン設計で実現可能なパターン幅から、変位x = xでのL0(x)を計算し、その値と第一差動伝送線路1の差動モードの特性インピーダンスZD[Ω]、コモンモード特性インピーダンスZC[Ω]を(6-1a)式~(6-3a)式に代入して、x = xでの他のパラメータCs(x)、Lm0(x)、Cm0(x)を求めることができる。もちろん(7-1)式~(7-3)式を用いて計算しても良い。求めたCs(x)、Lm0(x)、Cm0(x)となるよう、例えば、正側信号線2aと負側信号線2bとの距離、導体削除領域40a、40bの形状などの回路パラメータを設定すればよい。
【0053】
【数34】
上式を満足する構成とすることにより、ZC、ZDを一定に保つことができる。すなわち、上述のような手順で、第二差動伝送線路2の回路パラメータを決定することにより、少なくとも、第一差動伝送線路1と同じZC、ZDとなる第二差動伝送線路2を設計することができる。この回路パラメータを決定する手順は、以下の実施の形態2および実施の形態3においても同じである。
【0054】
この設計により設計された差動信号伝送装置の、第二差動伝送線路2は、結局、式(5-3)となる構成、すなわち、第二差動伝送線路2において、正側信号線2aと負側信号線2b間の単位長当たりの相互インダクタンスLm0と正側信号線2aおよび負側信号線2bの単位長当たりのそれぞれの自己インダクタンスL0との比Lm0/L0、および正側信号線2aと負側信号線2b間の単位長当たりの相互キャパシタンスCm0と正側信号線2aおよび負側信号線2bの単位長当たりのそれぞれの自己キャパシタンスCsの比Cm0/ Csが、正側信号線2aと負側信号線2bとの間隔によらず一定となっている。この構成は、本実施の形態1だけでなく、以下の実施の形態2および実施の形態3で説明する差動信号伝送装置においても同様である。
【0055】
図19にマイクロストリップラインによる別の構成例を示す。
図19aは厚みが一定の信号線が形成されている誘電体基板の信号線表層、
図19bは内層または裏面にグランドプレーン4が形成されたグランド層を示している。
図19では、
図18とは反対に第二差動伝送線路2の正側信号線2aおよび負側信号線2bにテーパを付けて細くすることにより、自己インダクタンスL0を増加させることを考える。この場合、他の3つのパラメータは増加させる必要があるので、両信号線の中間に磁性体の金属(鉄、ニッケルなど)の中間プレーン5を設け、正側信号線2aおよび負側信号線2bに中間プレーン5を漸近させる(B点より離れるにしたがってd(x)の値を小さくする)ことにより、信号線間の相互キャパシタンスCmと相互インダクタンスLmを漸増させる。なお、中間プレーンに磁性体でない金属(銅、アルミなど)を使用すると、Lmを増加させることができないので、インピーダンスの補正効果が小さくなる。中間プレーン5をグランドと結合させると、Cmの増加には寄与せず、Csの増加に寄与してしまうため、中間プレーン5の対面の同一領域のグランド層(導体)を削除(導体削除領域40を形成)することにより、中間プレーン5をCm増加にのみ寄与させる。更にB点より右の第二差動伝送線路2の領域で正側信号線2aおよび負側信号線2bの側面に、それぞれ側面グランドプレーン6aおよび6bを設け、それぞれの信号線と結合させることによりCsの増加を実現する。側面グランドプレーン6aと正側信号線2aとの距離、および側面グランドプレーン6bと負側信号線2bとの距離は、接続点bから離れるにしたがって小さくする。中間プレーン5とは反対側の側面グランドプレーン6aおよび6bは、グランドプレーン4とビア60で強固に接続し、電気的に低インピーダンスの0電位面とする。各回路パラメータの算出は
図18で説明したのと同様の方法と、中間プレーン5と側面グランドプレーン6aおよび6b間の距離の調整等で行う。
【0056】
図20にマイクロストリップラインによるさらに別の構成例を示す。
図20の構成では、
図20aに示す信号線表層と、
図21cに示すグランド層の間に、
図20bに示す新たな内層を設けている。
図19に示した構成ではL0の増加分に対して、Csの増加分が不足する場合、
図20bに示す新たな内層を設け、A点-B点間 (X<0)はグランドプレーンは無し、第二差動伝送線路の領域であるB点より右(X>0)部分のみグランドプレーン4cを設けることにより、Csを大きくすることができる。A点-B点間でプレーンを設けないのは、第一差動伝送線路1の特性インピーダンスへの影響を回避するためである。グランドプレーン4cは、
図20cのグランドプレーン4、および信号線表層の側面グランドプレーン6aおよび6bとビア60で強固に接続し、電気的に低インピーダンスの0電位とするとともに、中間プレーン5直下の導体は削除(導体削除領域40cを形成)する。
【0057】
実施の形態2.
本実施の形態2は、ストリップライン(SL)による実施の形態である。
図21に、ストリップラインによる構成の一例を示す。厚みが一定の信号線が配置される層を
図21bに示す内層(信号線内層2)とし、信号線内層2上下に、
図21aに示すグランドプレーン4aが形成されているグランド層1および
図21cに示すグランドプレーン4bが形成されているグランド層2を配置した以外は、
図18のマイクロストリップラインと同様である。第二差動伝送線路における正側信号線2aおよび負側信号線2bの幅を、接続点Bから離れるにしたがって広くするとともに、グランドプレーン4aおよびグランドプレーン4bの各信号線に対向する領域に、それぞれ導体が削除された導体削除領域40a、40bが形成されている。信号線内層2を挟むグランドプレーン4aおよび4bは、例えばビア60などにより電気的に強固に接続し、同電位とする。
【0058】
図22に、ストリップラインによる別の構成例を示す。厚みが一定の信号線を
図22bに示す内層(信号線内層2)とし、信号線内層2上下両側に
図22aに示す、グランドプレーン4aが形成されているグランド層1および
図22cに示すグランドプレーン4bが形成されているグランド層2を配置した以外は
図19のマイクロストリップラインと同様である。第二差動伝送線路における正側信号線2aおよび負側信号線2bの幅を、接続点Bから離れるにしたがって狭くするとともに、正側信号線2aおよび負側信号線2bの間に、磁性体の金属の中間プレーン5を配置し、さらに正側信号線2aおよび負側信号線2bの中間プレーン5の反対側にそれぞれ側面グランドプレーン6aおよび側面グランドプレーン6bを配置する。正側信号線2aおよび負側信号線2bと中間プレーン5との距離、正側信号線2aと側面グランドプレーン6aの距離、負側信号線2bと側面グランドプレーン6bとの距離は、
図19と同様、接続点Bから離れるにしたがって小さくする。信号線内層2を挟むグランドプレーン4aおよびグランドプレーン4b、信号線内層2における側面グランドプレーン6aおよび側面グランドプレーン6bはビア60などで電気的に強固に接続する。また、グランドプレーン4aおよびグランドプレーン4bにおいては、中間プレーン5の対面の領域の導体は削除(導体削除領域40を形成)する。
【0059】
正側信号線2aと負側信号線2bの間隔拡大領域で信号線の自己容量Csが不足する場合、
図20のマイクロストリップラインと同様に、グランド層1と信号線内層2、および信号線内層2とグランド層2の間それぞれに、
図20bに示すようなA点-B点間 (x < 0)はグランドプレーン(導体)なし、第二差動伝送線路の領域であるB点より右(x > 0)部分のみ、中間プレーン5の対面の領域の導体が削除された導体削除領域40cが形成されたグランドプレーン4cを設けた層を挿入することにより、Csの値を大きくすることができる。A点-B点間でプレーンを設けないのは、第一差動伝送線路1の特性インピーダンスへの影響を回避するためである。
【0060】
実施の形態3.
本実施の形態3は、コプレーナライン(CPW)による実施の形態である。
図23に、コプレーナラインによる構成の一例を示す。
図23aは厚みが一定の信号線が形成されている表層(信号線表層)、
図23bは内層または裏面にグランドプレーン4が形成されたグランド層を示している。コプレーナラインの場合、信号線表層の信号線とグランドプレーンの電気的結合は弱く、信号線表層に側面グランドプレーン61a、62a、61b、62bを形成し、正側信号線2aおよび負側信号線2bはそれぞれに近接する側面グランドプレーンに強く結合させる。正側信号線1a、2aおよび負側信号線1b、2bと同層で近接する側面グランドプレーン61a、62a、61b、62bは、それぞれビアを経由して、グランドプレーン4に接続され、電気的に低インピーダンスな0電位とする。縦続接続部B点より右の第二差動伝送線路2の領域では信号線の幅をB点から離れるにしたがって広げることにより、自己インダクタンスL0を下げるが、この領域では信号線と同層で近接するグランドプレーンの距離(正側信号線2aと側面グランドプレーン62aの距離、および負側信号線2bと側面グランドプレーン62bの距離)を徐々に広げて行くことにより、自己キャパシタンスCsを低下させる。相互インダクタンスLmと相互キャパシタンスCmはB点より右の領域では徐々に小さくなる。実施の形態1で説明したのと同様に、変位x = xでのL0(x)を計算し、その値と第一差動伝送線路1の差動モードの特性インピーダンスZD[Ω]、コモンモードの特性インピーダンスZC[Ω]を(6-1a)式~(6-3a)式に代入してx = xでの他のパラメータCs(x)、Lm0(x)、Cm0(x)を求められる。もちろん(7-1)式~(7-3)式を用いて計算しても良い。Cs(x)、Lm0(x)、Cm0(x)が求めた値となるよう、正側信号線2aと側面グランドプレーン62aの距離、および負側信号線2bと側面グランドプレーン62bの距離を決定する。
【0061】
図24にコプレーナラインによる別の構成例を示す。
図24aは厚みが一定の信号線が形成されている表層(信号線表層)、
図24bは内層または裏面にグランドプレーン4が形成されたグランド層を示している。
図19に示したマイクロストリップラインの構成と同様に、第二差動伝送線路2の正側信号線2aおよび負側信号線2bにテーパを付けて細くすることにより、自己インダクタンスL0を増加させる。第二差動伝送線路2の正側信号線2aと負側信号線2bの間に磁性体の金属の中間プレーン5を設けること、正側信号線2aおよび負側信号線2bと、中間プレーン5との距離、側面グランドプレーン62aおよび側面グランドプレーン62bとの距離、を継続接続部B点から離れるにしたがって小さくするといった考え方、各回路パラメータの算出も
図19の場合の説明と同様である。
【0062】
実施の形態4.
本実施の形態4は、第二差動伝送線路の自己インダクタンスL0と自己キャパシタンスCsを、第一差動伝送線路の自己インダクタンスL0と自己キャパシタンスCsと同じ値で一定とした構成の実施の形態である。前述のように、第一差動伝送線路と第二差動伝送線路のZD、ZCの各特性インピーダンスを一致させるため、これらのインピーダンスが変動する可能性がある領域においては、(6-1a)式~(6-3a)式等を使用して、x=xでの回路パラメータL0(x)、Cs(x)、Lm0(x)、Cm0(x)を求め、それぞれ変位xに応じて変化させることが理想であるが、物理的に困難な場合が多いと考えられる。その場合、第二差動伝送線路2において、L0、Csを一定として、すなわち正側信号線および負側信号線の線幅、厚み、対グランド間距離を一定として、Lm0(x)とCm0(x)の2個を相補的に変化させることで、縦続接続線路における差動モードの特性インピーダンスとコモンモードの特性インピーダンスをある程度一致させることができる。理由は、例えば(1-3)、(1-4)式でLm0が減少したとき、係数の符号が反対なのでCm0を増加させることにより、ZDおよびZCの変動を緩和する方向に動かすことができるからである。
【0063】
後述の
図29に示すマイクロストリップ線路の正側信号線1a、2aと負側信号線2a、2bにおいて、第一差動伝送線路1と第二差動伝送線路2の回路パラメータを
図25に示す表の通りとし、x = 0 (
図29B点)で第一差動伝送線路1と第二差動伝送線路2を接続する場合を考える。
【0064】
第一差動伝送線路1と第二差動伝送線路2間で、差動モードの特性インピーダンスとコモンモードの特性インピーダンスを一致させることを考えると、(1-3)、(1-4)式より
【数35】
【0065】
(8-1)式より、Cm(x)、Lm(x)について解くと、これをCmZd(x)、LmZd(x)とおいて、
【数36】
【0066】
(8-2)式より、Cm(x)、Lm(x)について解くと、これをCmZc(x)、LmZc(x)とおいて、
【数37】
と書ける。
【0067】
ここで第二差動伝送線路2において、(8-3a)式、(8-4a)式よりCmZd(x)とCmZc(x)をLm0/L0の関数として求めた一例は
図26のグラフのようになり、両者は負の比例の関係であることがわかる。Lm(x)/L0は正側信号線2aと負側信号線2bが離れてゆくことにより、相互インダクタンスが漸次低下していく様子を想定している。また、
#1:CmZd(x)とL0、Cs、Lm(x)から求めた第二差動伝送線路2の単路の差動モードの特性インピーダンスZD2(#1)
#2:CmZc(x)とL0、Cs、Lm(x)から求めた第二差動伝送線路2の単路のコモンモードの特性インピーダンスZC2(#2)
#3:CmZd(x)とL0、Cs、Lm(x)から求めた第二差動伝送線路2の単路のコモンモードの特性インピーダンスZC2(#3)
#4:第一差動伝送線路1の単路の差動モードの特性インピーダンスZD1(#4)
#5:第一差動伝送線路1の単路のコモンモードの特性インピーダンスZC1(#5)
も併せて
図27のグラフに示す。これによると、L0、Csが固定値であるので、Lm0/L0の減少とともにZD2、ZC2ともにZD1からの乖離が大きくなっていくことが分かるが、本来CmZc(x)を用いて計算すべきZC2が、CmZd(x)を用いて計算(#3)してもZD1からの乖離の度合いはCmZc(x)を用いて計算したZC2(#2)と比較して大きくなるものの、大差はないことが分かる。また#1、#2、#3それぞれから求めた第一差動伝送線路1と第二差動伝送線路2の接続点(B点)の差動モードとコモンモードのリターンロスを
図28のグラフに示す。CmZc(x)から計算したZC2でのコモンモードのリターンロス(#2)が、CmZd(x)を用いて計算したZC2でのコモンモードのリターンロス(#3)と大きな差はないため、コモンモードは考慮せず、差動モードの特性インピーダンスを一致させる目的で求めたCmZd(x)を用いても、コモンモードのリターンロスに与えるインパクトは小さいと言える。この考え方を用いて以下に具体的実現方法を考察する。
【0068】
<非磁性体の金属を中間プレーンとして使用>
マイクロストリップラインをベースとした構成の例を
図29、
図30に示す。
図29aは信号線が形成されている表層(信号線表層)、
図29bは内層または裏面にグランドプレーン4が形成されたグランド層、
図30は第二差動伝送線路2のx=xの位置で基板面に垂直な断面を含む拡大斜視図を示している。第二差動伝送線路2の領域で相互インダクタンスLm(x)の減少によるZDとZCへの影響を、相互キャパシタンスCm(x)の増加により補うために、非磁性体の金属である中間プレーン5を正側信号線2aと負側信号線2bの中間にレイアウトする。非磁性体の金属の中間プレーン5が無いと、x座標が右に行くほどLm(x)の減少と同時にCm(x)も減少する。非磁性体の金属の中間プレーン5を設けると、中間プレーン5と正側信号線2aおよび負側信号線2bそれぞれとの静電結合により、Cm(x)の増加分でLm(x)の減少分も補完できるように、中間プレーン5と正側信号線2aおよび負側信号線2bとの距離d(x)を、xの増大とともに小さくして行き、(8-3a)式に基づいてCm(x)を漸増させる。また、自己キャパシタンスCsを一定値でキープするために、グランドプレーン4に導体を削除した導体削除領域40を形成しておき、Cm(x)のみが増大するようにしておく。この方法ではZD(x)もZC(x)も第一差動伝送線路1のそれに完全に一致させることは不可能であるが、一定の改善効果は期待できる。
【0069】
<磁性体の絶縁体を中間プレーンとして使用>
同様にマイクロストリップラインをベースとした構成の例を
図31、
図32に示す。
図31aは信号線が形成されている表層(信号線表層)、
図31bは内層または裏面に形成されたグランド層、
図32は第二差動伝送線路2のx=xの位置で基板面に垂直な断面を含む拡大斜視図を示している。第二差動伝送線路2の領域で相互キャパシタンスCm(x)減少によるZDとZCへの影響を、相互インダクタンスLm(x)の増加により補うために、磁性体の絶縁体である中間プレーン51を正側信号線2aと負側信号線2bの中間にレイアウトする。磁性体の絶縁体の中間プレーン51が無いと、x座標が右に行くほどCm(x)の減少と同時にLm(x)も減少する。磁性体の絶縁体の中間プレーン51を設け、中間プレーン51と正側信号線2aおよび負側信号線2bそれぞれとの磁気結合により、Lm(x)の増加分でCm(x)の減少分も補完できるように、中間プレーン51と正側信号線2aおよび負側信号線2bとの距離d(x)をxの増大とともに小さくして行き、(8-3b)式に基づいてLm(x)を漸増させる。ただし、中間プレーン51の存在による静電結合もあるため、正側信号線2aと負側信号線2bとの距離が開くことによるCmの低下はある程度緩和される。また、自己インダクタンスL0を一定値でキープするために、グランド層の導体が磁性体である場合は削除しておき、Lm(x)のみが増大するようにする必要があるが、通常のPCBではグランド層の導体は銅、すなわち非磁性体なので削除は必要ない。この方法ではZD(x)もZC(x)も第一差動伝送線路1のそれらに完全に一致させることは不可能であるが、ある一定の改善効果は期待できる。
【0070】
図29から
図32で示した構成は、マイクロストリップラインに適用した例を示しているが、ストリップラインあるいはコプレーナラインにも適用することができる。
【0071】
以上の実施の形態1から4をまとめると、正側信号線2aと負側信号線2bとの間隔が変化する部分を有する第二差動伝送線路において、少なくとも正側信号線2aと負側信号線2bの自己インダクタンス、自己キャパシタンス、相互インダクタンス、および相互キャパシタンスのいずれかの回路パラメータに対し、他の三つのパラメータを調整することによって、第二差動伝送線路の差動モードの特性インピーダンスが第一差動伝送線路の差動モードの特性インピーダンスと同じ、もしくは略同じとなり、第二差動伝送線路のコモンモードの特性インピーダンスが第一差動伝送線路のコモンモードの特性インピーダンスと同じ、もしくは略同じとなるようにする技術を開示している。
【0072】
実施の形態1から3においては、正側信号線2aと負側信号線2bとの間隔が変化する部分を有する第二差動伝送線路において、少なくとも正側信号線2aと負側信号線2bの自己インダクタンス及び自己キャパシタンスを間隔にしたがって変化させることにより、間隔の変化、あるいは間隔の変化に加えて両信号線の中間に磁性体の金属による中間プレーン、にしたがって変化する相互インダクタンス及び相互キャパシタンスによる影響を補償する構成により、第二差動伝送線路の差動モードの特性インピーダンスを第一差動伝送線路の差動モードの特性インピーダンスと同じになるようにし、第二差動伝送線路のコモンモードの特性インピーダンスを第一差動伝送線路のコモンモードの特性インピーダンスと同じとなるようにする技術を開示している。
【0073】
また、実施の形態4においては、正側信号線2aと負側信号線2bとの間隔が変化する部分を有する第二差動伝送線路において、正側信号線2aと負側信号線2bの自己インダクタンスと自己キャパシタンスは位置によって変化させないが、正側信号線2aと負側信号線2b間の相互インダクタンス、または相互キャパシタンスを、相互キャパシタンスまたは相互インダクタンスによって補償する構成により、第二差動伝送線路の差動モードの特性インピーダンスを第一差動伝送線路の差動モードの特性インピーダンスと略同じになるようにし、第二差動伝送線路のコモンモードの特性インピーダンスを第一差動伝送線路のコモンモードの特性インピーダンスと略同じとなるようにする技術を開示している。
【0074】
上記のような差動伝送線路の構成、および計算方法を用いて、各回路パラメータ(正側信号線と負側信号線の、自己インダクタンス、自己キャパシタンス、相互インダクタンス、相互キャパシタンス)を設定することによって以下の効果が期待できる。
2つの差動伝送線路を縦続する場合において、
・差動モードの特性インピーダンスのみでなく、コモンモードの特性インピーダンスも一致、または略一致させることができるので、モードコンバージョンが発生する場合に、コモンモードの反射による入力端における差動モード信号の反射、すなわち伝送ロスを抑制することができる。
・ミックスドモードTパラメータを用いて、それぞれのミックスドモードSパラメータから、縦続接続後の線路のミックスドモードSパラメータを求めることができる。
【0075】
本開示には、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、この明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0076】
1 第一差動伝送線路、1a (第一差動伝送線路の)正側信号線、1b (第一差動伝送線路の)負側信号線、2 第二差動伝送線路、2a (第二差動伝送線路の)正側信号線、2b (第二差動伝送線路の)負側信号線、3 誘電体基板、4、4a、4b グランドプレーン、40、40a、40b、40c 導体削除領域、5、51 中間プレーン、6a、6b、61a、61b、62a、62b 側面グランドプレーン