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特開2025-151383内視鏡システム、制御装置、制御方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025151383
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】内視鏡システム、制御装置、制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/045 20060101AFI20251002BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
A61B1/045 622
A61B1/00 655
A61B1/045 618
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024052782
(22)【出願日】2024-03-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和5年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靱化事業」「外科手術のデジタルトランスフォーメーション:情報支援内視鏡外科手術システムの開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】原口 雅史
(72)【発明者】
【氏名】畠山 直也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 寛
(72)【発明者】
【氏名】北口 大地
【テーマコード(参考)】
4C161
【Fターム(参考)】
4C161AA24
4C161BB02
4C161BB03
4C161BB06
4C161CC06
4C161DD01
4C161DD03
4C161GG13
4C161GG27
4C161HH52
4C161SS21
4C161WW06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】内視鏡画像を観察しながら処置具を操作する術者が、簡易に、直感的に処置し易い内視鏡画像を表示することができる内視鏡システム、制御装置、制御方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】プロセッサが、術者が操作する第1の処置具を被検体内に挿入するための第1のポートPの第1の位置、術者が操作する第2の処置具を被検体内に挿入するための第2のポートPの第2の位置および被検体内の注目対象Tの第3の位置を取得し、取得された第1、第2および第3の位置に基づいて、術者からみた注目対象Tの上下方向を示す第1のベクトルVを内視鏡の視軸Bに直交する平面Cに投影した第2のベクトルVの方向と、表示装置に表示される画像の上下方向とが所定の相対角度となるように、画像を回転させる内視鏡システム。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのプロセッサと、
内視鏡と、
該内視鏡を保持し、前記プロセッサからの制御信号によって前記内視鏡の位置および姿勢を調整する移動装置と、
前記内視鏡により取得された画像を表示する表示装置と、を備え、
前記プロセッサが、
術者が操作する第1の処置具を被検体内に挿入するための第1のポートの第1の位置、前記術者が操作する第2の処置具を前記被検体内に挿入するための第2のポートの第2の位置および前記被検体内の注目対象の第3の位置を取得し、
取得された前記第1、前記第2および前記第3の位置に基づいて、前記術者からみた前記注目対象の上下方向を示す第1のベクトルを前記内視鏡の視軸に直交する平面に投影した第2のベクトルの方向と、前記表示装置に表示される前記画像の上下方向とが所定の相対角度となるように、前記画像を回転させる内視鏡システム。
【請求項2】
前記プロセッサが、前記第1、前記第2および前記第3の位置を含む平面に直交する方向に前記第1のベクトルを定義する請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項3】
前記所定の相対角度が0°である請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項4】
前記所定の相対角度が、事前に設定されたプリセット値または入力されたオフセット値の少なくとも1つである請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項5】
前記内視鏡が、長手軸方向に沿って延びる挿入部を備え、
前記移動装置が、前記長手軸回りに前記内視鏡を回転させる駆動機構を備え、
前記プロセッサが、前記駆動機構を作動させる前記制御信号を送信することにより、前記画像を回転させる請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の内視鏡システム。
【請求項6】
前記プロセッサが、画像処理により前記画像を回転させる請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の内視鏡システム。
【請求項7】
前記プロセッサが、
前記第3の位置と、前記平面上の前記第1の位置と前記第2の位置との間の第4の位置とを結ぶ第3のベクトルを算出し、
前記第3の位置が変化したときに、水平面に投影した前記第3のベクトルの角度変化の関数により算出された角度だけ、前記画像を回転させる請求項2に記載の内視鏡システム。
【請求項8】
前記内視鏡が、長手軸方向に沿って延びる挿入部を備え、
少なくとも1つのメモリを備え、
該メモリが、前記第1の位置、前記第2の位置および前記挿入部を挿入する第3のポートの位置とを記憶し、
前記プロセッサが、前記第1の位置、前記第2の位置および前記第3のポートの位置を前記メモリから取得する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の内視鏡システム。
【請求項9】
前記術者の頭部の傾きを検出するセンサを備え、
前記プロセッサが、前記センサにより検出された傾きに基づいて前記第1のベクトルの傾きを調整する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の内視鏡システム。
【請求項10】
前記内視鏡は、視軸の向きを変更可能な斜視型または湾曲部を有する内視鏡であって、
前記プロセッサが、前記第3の位置と、前記第1の位置と前記第2の位置との間の第4の位置とを結ぶ直線に、前記内視鏡の視軸を近づけるように前記移動装置および/または前記内視鏡を制御する請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項11】
内視鏡と、該内視鏡を保持し該内視鏡の位置および姿勢を調整する移動装置と、前記内視鏡により取得された画像を表示する表示装置と、を備える内視鏡システムの制御装置であって、
少なくとも1つのプロセッサを備え、
該プロセッサが、
術者が操作する第1の処置具を被検体内に挿入するための第1のポートの第1の位置、前記術者が操作する第2の処置具を前記被検体内に挿入するための第2のポートの第2の位置および前記被検体内の注目対象の第3の位置を取得し、
取得された前記第1、前記第2および前記第3の位置に基づいて、前記術者からみた前記注目対象の上下方向を示す第1のベクトルを前記内視鏡の視軸に直交する平面に投影した第2のベクトルの方向と、前記表示装置に表示される前記画像の上下方向とが所定の相対角度となるように、前記画像を回転させる内視鏡システムの制御装置。
【請求項12】
内視鏡と、該内視鏡を保持し前記内視鏡の位置および姿勢を調整する移動装置と、前記内視鏡により取得された画像を表示する表示装置と、を備える内視鏡システムの制御方法であって、
術者が操作する第1の処置具を被検体内に挿入するための第1のポートの第1の位置、前記術者が操作する第2の処置具を前記被検体内に挿入するための第2のポートの第2の位置および前記被検体内の注目対象の第3の位置を取得することと、
取得された前記第1、前記第2および前記第3の位置に基づいて、前記術者からみた前記注目対象の上下方向を示す第1のベクトルを前記内視鏡の視軸に直交する平面に投影した第2のベクトルの方向と、前記表示装置に表示される前記画像の上下方向とが所定の相対角度となるように、前記画像を回転させることとを含む内視鏡システムの制御方法。
【請求項13】
内視鏡と、該内視鏡を保持し前記内視鏡の位置および姿勢を調整する移動装置と、前記内視鏡により取得された画像を表示する表示装置と、を備える内視鏡システムの制御プログラムであって、
術者が操作する第1の処置具を被検体内に挿入するための第1のポートの第1の位置、前記術者が操作する第2の処置具を前記被検体内に挿入するための第2のポートの第2の位置および前記被検体内の注目対象の第3の位置を取得することと、
取得された前記第1、前記第2および前記第3の位置に基づいて、前記術者からみた前記注目対象の上下方向を示す第1のベクトルを前記内視鏡の視軸に直交する平面に投影した第2のベクトルの方向と、前記表示装置に表示される前記画像の上下方向とが所定の相対角度となるように、前記画像を回転させることとをコンピュータに実行させる内視鏡システムの制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡システム、制御装置、制御方法およびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
外科用内視鏡の挿入部の長手軸回りの回転角度を制御する手術ロボットが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0320514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の手術ロボットにおいては、内視鏡の挿入部の回転角度の制御に当たり、腹腔内の環境を予めモデリングすることにより生成されたデータを用いている。しかしながら、腹腔内の環境をすべてモデリングするには膨大な処理が必要であるとともに、処置しようとする注目領域が想定されていない環境に配置されている場合には、制御が困難となる。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、内視鏡画像を観察しながら処置具を操作する術者が、簡易に、直感的に処置し易い内視鏡画像を表示することができる内視鏡システム、制御装置、制御方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、少なくとも1つのプロセッサと、内視鏡と、該内視鏡を保持し、前記プロセッサからの制御信号によって前記内視鏡の位置および姿勢を調整する移動装置と、前記内視鏡により取得された画像を表示する表示装置と、を備え、前記プロセッサが、術者が操作する第1の処置具を被検体内に挿入するための第1のポートの第1の位置、前記術者が操作する第2の処置具を前記被検体内に挿入するための第2のポートの第2の位置および前記被検体内の注目対象の第3の位置を取得し、取得された前記第1、前記第2および前記第3の位置に基づいて、前記術者からみた前記注目対象の上下方向を示す第1のベクトルを前記内視鏡の視軸に直交する平面に投影した第2のベクトルの方向と、前記表示装置に表示される前記画像の上下方向とが所定の相対角度となるように、前記画像を回転させる内視鏡システムである。
【0007】
本発明の他の態様は、少なくとも1つのプロセッサと、内視鏡と、該内視鏡を保持し、前記プロセッサからの制御信号によって前記内視鏡の位置および姿勢を調整する移動装置と、前記内視鏡により取得された画像を表示する表示装置と、を備え、前記プロセッサが、術者が操作する第1の処置具を被検体内に挿入するための第1のポートの第1の位置、前記術者が操作する第2の処置具を前記被検体内に挿入するための第2のポートの第2の位置および前記被検体内の注目対象の第3の位置を取得し、該第3の位置と、前記第1の位置と前記第2の位置との間の第4の位置とを結ぶ直線に、前記内視鏡の視軸を近づけるように前記移動装置および/または前記内視鏡を制御する内視鏡システムである。
【0008】
本発明の他の態様は、内視鏡と、該内視鏡を保持し該内視鏡の位置および姿勢を調整する移動装置と、前記内視鏡により取得された画像を表示する表示装置と、を備える内視鏡システムの制御装置であって、少なくとも1つのプロセッサを備え、該プロセッサが、術者が操作する第1の処置具を被検体内に挿入するための第1のポートの第1の位置、前記術者が操作する第2の処置具を前記被検体内に挿入するための第2のポートの第2の位置および前記被検体内の注目対象の第3の位置を取得し、取得された前記第1、前記第2および前記第3の位置に基づいて、前記術者からみた前記注目対象の上下方向を示す第1のベクトルを前記内視鏡の視軸に直交する平面に投影した第2のベクトルの方向と、前記表示装置に表示される前記画像の上下方向とが所定の相対角度となるように、前記画像を回転させる内視鏡システムの制御装置である。
【0009】
本発明の他の態様は、内視鏡と、該内視鏡を保持し前記内視鏡の位置および姿勢を調整する移動装置と、前記内視鏡により取得された画像を表示する表示装置と、を備える内視鏡システムの制御方法であって、術者が操作する第1の処置具を被検体内に挿入するための第1のポートの第1の位置、前記術者が操作する第2の処置具を前記被検体内に挿入するための第2のポートの第2の位置および前記被検体内の注目対象の第3の位置を取得することと、取得された前記第1、前記第2および前記第3の位置に基づいて、前記術者からみた前記注目対象の上下方向を示す第1のベクトルを前記内視鏡の視軸に直交する平面に投影した第2のベクトルの方向と、前記表示装置に表示される前記画像の上下方向とが所定の相対角度となるように、前記画像を回転させることとを含む内視鏡システムの制御方法である。
【0010】
本発明の他の態様は、内視鏡と、該内視鏡を保持し前記内視鏡の位置および姿勢を調整する移動装置と、前記内視鏡により取得された画像を表示する表示装置と、を備える内視鏡システムの制御プログラムであって、術者が操作する第1の処置具を被検体内に挿入するための第1のポートの第1の位置、前記術者が操作する第2の処置具を前記被検体内に挿入するための第2のポートの第2の位置および前記被検体内の注目対象の第3の位置を取得することと、取得された前記第1、前記第2および前記第3の位置に基づいて、前記術者からみた前記注目対象の上下方向を示す第1のベクトルを前記内視鏡の視軸に直交する平面に投影した第2のベクトルの方向と、前記表示装置に表示される前記画像の上下方向とが所定の相対角度となるように、前記画像を回転させることとをコンピュータに実行させる内視鏡システムの制御プログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る内視鏡システムの全体構成図である。
図2図1の内視鏡システムを示すブロック図である。
図3図1の内視鏡システムを用いた患者の腹腔鏡手術を説明する概略図である。
図4図1の内視鏡システムの内視鏡とトロッカとを示す部分的な縦断面図である。
図5図1の内視鏡システムの制御方法を示すフローチャートである。
図6図5の内視鏡システムの制御方法を説明する概略図である。
図7A】内視鏡の撮像素子の上下方向を鉛直方向に配置したときの内視鏡画像と、第2のベクトルとを重ねた図である。
図7B】内視鏡の撮像素子の上下方向を第2のベクトルに一致させるように、図7Aの内視鏡画像を回転させた図である。
図8図1の内視鏡システムにおいて、注目対象を変更する場合を説明する概略図である。
図9A図7Aよりも術者に近い位置に配置される注目対象を撮影した内視鏡画像であって、内視鏡の撮像素子の上下方向を鉛直方向に配置したときの内視鏡画像と、第2のベクトルとを重ねた図である。
図9B】内視鏡の撮像素子の上下方向を第2のベクトルに一致させるように、図9Aの内視鏡画像を回転させた図である。
図10図5の制御方法の変形例を示すフローチャートである。
図11図5の制御方法の他の変形例を示すフローチャートである。
図12図1の内視鏡システムの変形例を説明する図である。
図13図1の内視鏡システムの変形例であって、斜視型の内視鏡を備える内視鏡システムを説明する図である。
図14図1の内視鏡システムの変形例であって、湾曲部を有する内視鏡を備える内視鏡システムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る内視鏡システム1、制御装置5、制御方法およびプログラムについて図面を参照して説明する。
本実施形態に係る内視鏡システム1は、図1に示すように、内視鏡2および処置具7を患者(被検体)Dの体内に挿入し、処置具7を内視鏡2によって観察しながら処置具7によって患部等の対象部位を処置する手術、例えば、腹腔鏡手術に使用される。
【0013】
図1および図2に示されるように、内視鏡システム1は、内視鏡2と、内視鏡2を保持し移動させる移動装置3と、ユーザによって操作される操作装置4と、操作装置4からの操作信号に基づいて移動装置3を制御する制御装置5と、表示装置6とを備える。内視鏡2は、長手軸Aに沿って延びる筒状の鏡筒部(挿入部)2aを備え、視軸Bが長手軸Aに一致する直視型の硬性鏡である。
【0014】
内視鏡2は、1以上の処置具7と共に患者Dの体内に挿入され、1以上の処置具7を含む内視鏡画像(画像)Cを取得する撮像素子2cを備える。内視鏡2は、撮像素子2cによって取得された内視鏡画像Cを、制御装置5を経由して表示装置6に送信する。撮像素子2cは、例えば、内視鏡2の基端に設けられた3次元カメラであり、ステレオ画像を内視鏡画像Cとして取得する。表示装置6は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の任意のディスプレイである。術者Eは、表示装置6に表示される内視鏡画像Cを観察しながら処置具7を操作する。
【0015】
内視鏡2および処置具7は、図3および図4に示すようにトロッカ8内をそれぞれ経由して患者Dの体内、例えば、腹腔内に挿入される。トロッカ8は、腹壁に形成された穴P,P,Pに取り付けられる筒状の器具であり、穴P,P,P近傍のピボット点を支点にして揺動可能である。
【0016】
移動装置3は、少なくとも6個の関節M~Mを有する多関節のロボットアームである。移動装置3は、内視鏡2を保持する先端に、関節Mとして、内視鏡2を長手軸A回りに回転駆動する駆動機構3aを備える。内視鏡2は、移動装置3の動作によって、位置および姿勢が3次元的に調整される。移動装置3は、各関節M~Mの角度を検出する角度センサ3bを備えている。角度センサ3bは、例えば、各関節M~Mに設けられたエンコーダ、ポテンショメータまたはホールセンサである。
【0017】
図2に示されるように、制御装置5は、少なくとも1つのプロセッサ5aと、少なくとも1つのメモリ5bと、記憶部(メモリ)5cと、入力インタフェース5dと、出力インタフェース5eとを備える。制御装置5は、内視鏡2、移動装置3および表示装置6に表示される内視鏡画像Cを制御する。また、制御装置5は、入力インタフェース5dおよび出力インタフェース5eを経由して内視鏡2、移動装置3、操作装置4および表示装置6と接続され、内視鏡画像Cおよび信号等を、入力インタフェース5dおよび出力インタフェース5eを経由して送受信する。
【0018】
記憶部5cは、コンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体であり、例えば、ハードディスクドライブ、光ディスクまたはフラッシュメモリ等である。記憶部5cは、後述する制御方法をプロセッサ5aに実行させる制御プログラムと、プロセッサ5aの処理に必要なデータとを記憶している。また、記憶部5cには、移動装置3の各関節M~M間のリンクの長さであるリンク長が記憶されている。
【0019】
プロセッサ5aは、記憶部5cからRAM(Random Access Memory)等のメモリ5bに読み込まれた制御プログラムに従って後述する制御方法を実行する。プロセッサ5aが実行する後述の処理の一部は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、SoC(System-On-A-Chip)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはPLD(Programmable Logic Dvice)等の専用の論理回路やハードウェア等によって実現されてもよい。
【0020】
プロセッサ5aは、追従モードおよび静止モードのいずれかによって移動装置3を制御してもよい。術者などのユーザは、制御装置5に設けられたユーザインタフェース(図示略)を使用して、静止モードおよび追従モードの一方を選択することができる。
【0021】
静止モードは、処置具7の位置に関わらず内視鏡2を一定位置に維持するモードである。
追従モードは、プロセッサ5aが処置具7の位置に基づいて移動装置3を制御することによって、内視鏡2を処置具7に自動的に追従させるモードである。例えば、プロセッサ5aは、処置具7の先端の位置を、内視鏡画像Cを用いたステレオ計測によって取得し、処置具7の先端が内視鏡画像C内に配置されるように、移動装置3を制御して内視鏡2を移動させる。
【0022】
一般には、移動装置3は、内視鏡2により取得される内視鏡画像Cの上下方向が変動しないように、撮像素子2cの上下方向を維持したまま内視鏡2の位置および姿勢を変化させる。
本実施形態に係る内視鏡システム1においては、移動装置3は、以下に説明する制御方法に従って、内視鏡2をその長手軸A回りに回転させながら内視鏡2の位置および姿勢を変化させる。
【0023】
次に、本実施形態に係る内視鏡システム1の制御方法について、図面を参照して以下に説明する。
図5に示すように、プロセッサ5aは、まず、トロッカ8を取り付けるために腹壁に形成された穴(ポート)P,P,Pの3次元位置を取得する(ステップS1)。
【0024】
トロッカ8は、内視鏡2を挿入するためのカメラポートPおよび2つの処置具7を挿入するための第1、第2のポートP,Pにそれぞれ取り付けられている。第1のポートPは、術者Eが右手で操作する処置具(第1の処置具)7を挿入するためのトロッカ8が取り付けられる穴である。第2のポートPは術者Eが左手で操作する処置具(第2の処置具)7を挿入するためのトロッカ8が取り付けられる穴である。図6において、平面Cは、第1のポートPおよび第2のポートPが配置されている腹壁を、便宜上、水平面として概略的に示している。
【0025】
カメラポートPの3次元位置および第1、第2のポートP,Pの3次元位置(第1、第2の位置)は、それぞれ、測定により、あるいは数値入力により取得される。各3次元位置は、例えば、先端にプローブ(図示略)を配置した移動装置3を動作させて、プローブを各ポートP,P,Pに接触させたときに、角度センサ3bにより取得された移動装置3の各関節M~Mの角度情報から取得されてもよい。
【0026】
次に、プロセッサ5aは、腹腔内の被検体における注目対象Tの3次元位置(第3の位置)を取得する(ステップS2)。注目対象Tは、例えば、内視鏡2によって取得された内視鏡画像C内におけるいずれかの処置具7の先端点、あるいは内視鏡画像Cの画像中心に配置される点である。注目対象Tの3次元位置は、カメラポートPから内視鏡2を挿入した状態における移動装置3の各関節M~Mのリンク長および角度と、内視鏡画像Cから算出される注目対象Tまでの距離とに基づいて算出される。図6において、平面Cは、注目対象Tが配置されている被写体を、便宜上、水平面として概略的に示している。
【0027】
そして、プロセッサ5aは、取得された第1、第2および第3の位置に基づいて、術者Eからみた注目対象Tの上下方向を示す第1のベクトルVを算出する(ステップS3)。第1のベクトルVは、図6に示すように第3の位置を起点として、第1、第2および第3の位置を含む平面Cに直交する方向に定義される。第1のベクトルVの大きさは任意でよい。
【0028】
また、術者Eの視線方向を示す第3のベクトルVは、上述した平面C上の第1のポートPと第2のポートPとの間、例えば、中央位置(第4の位置)Pと、注目対象Tとを結ぶ直線L上に定義される。すなわち、術者Eの頭部Hは、右手で保持する処置具7と、左手で保持する処置具7との間に位置し、眼の高さは平面Cの延長上に概略位置するものと設定している。第3のベクトルVの大きさも任意でよい。
【0029】
また、プロセッサ5aは、第1のベクトルVを内視鏡2の視軸Bに直交する平面Cに投影した第2のベクトルVの方向を算出する(ステップS4)。内視鏡2の視軸Bは、カメラポートPの3次元位置と、注目対象Tの3次元位置とを結ぶ直線L上に定義される。
【0030】
図7Aに、撮像素子2cの上下方向を鉛直方向に維持したまま取得された内視鏡画像Cと第2のベクトルVとを重ねた図を示す。図中、「Z」は腹腔内の被写体を概略的に示している。第2のベクトルVは、表示装置6によって表示されてもされなくてもよい。
【0031】
術者Eの視線方向を示す第3のベクトルVは、腹壁上の中央位置Pと、体内の注目対象Tとを結ぶ直線Lに沿って延びており、水平面である平面C,Cに対して傾斜している。したがって、第1のベクトルVは、直線Lに沿う方向以外の方向から見れば、鉛直方向に対して傾斜しており、直線Lに平行ではない視軸Bに沿う直線Lに直交する平面Cに投影された第2のベクトルVも鉛直方向に対して傾斜している。
【0032】
プロセッサ5aは、駆動機構3aに制御信号を送り、第2のベクトルVの方向と、表示装置6に表示される内視鏡画像Cの上下方向とが一致する(相対角度が0°となる)ように、内視鏡2を長手軸A回りに回転させる(ステップS5)。これにより、図7Bに示すように表示装置6に表示される内視鏡画像Cが画像中心回りに矢印の方向に回転し、第2のベクトルVが鉛直上方に向けられる。
【0033】
そして、プロセッサ5aは、処理を終了するか否かを判定し(ステップS6)、終了しない場合には、ステップS2からの工程を繰り返す。
このように、本実施形態に係る内視鏡システム1、制御装置5、制御方法およびプログラムによれば、表示装置6に表示される内視鏡画像Cの上下方向に第2のベクトルVの方向を一致させるように内視鏡画像Cが回転させられる。
【0034】
したがって、表示装置6の内視鏡画像Cを確認しながら処置具7の操作を行う術者Eにとっての上下方向に表示される内視鏡画像Cの上下方向を合わせることができる。これにより、術者Eは、処置具7を直感的に操作することができる。例えば、処置具7の先端を術者Eが直感的に真っ直ぐに上下に移動させるように操作すると、表示装置6に表示された内視鏡画像C内においても、処置具7を上下に移動させることができる。
【0035】
また、追従モードにおいて、処置具7を移動させたときには、プロセッサ5aは、処置具7の先端が内視鏡画像Cの、例えば、画像中心に配置されるように、移動装置3を制御して内視鏡2を移動させる。これにより、第1のベクトルVおよび第2のベクトルVが変化するので、プロセッサ5aは、表示装置6に表示される内視鏡画像Cの上下方向を第2のベクトルVの方向に常に一致させるように駆動機構3aを作動させる。
【0036】
例えば、図8に示すように、第1のポートPおよび第2のポートPから水平方向に比較的遠い位置に配置される注目対象Tから比較的近い位置に配置される注目対象Tに処置具7の先端を移動させた場合について説明する。注目対象Tを撮影した内視鏡画像Cにおいては、図8に示すように、水平面である平面C,Cに対して平面Cのなす角度が比較的小さいため、取得された内視鏡画像Cの上下方向に対して第2のベクトルVのなす角度は比較的小さい。これに対して、第1のポートPおよび第2のポートPから水平方向に比較的近い位置に配置される注目対象Tを撮影した内視鏡画像Cにおいては、平面C,Cに対して平面Cのなす角度が比較的大きくなる。このため、取得された内視鏡画像Cの上下方向に対して第2のベクトルVのなす角度は比較的大きくなる。
【0037】
すなわち、図7Aおよび図9Aに示すように、撮像素子aの上下方向を鉛直方向に維持したまま取得された内視鏡画像Cをそのまま表示装置6に表示したのでは、注目対象T,T毎に内視鏡画像Cの上下方向に対する術者Eの認識する上下方向が変動する。このため、術者Eによる処置具7の正確な操作が困難になる。本実施形態によれば、図7B図9Bに示すように、表示装置6に表示される内視鏡画像Cの上下方向を第2のベクトルVの方向に常に一致させるので、注目対象T,Tを変更しても、術者Eが常に直感的に処置具7を正確に操作することができるという利点がある。
【0038】
なお、本実施形態においては、プロセッサ5aが移動装置3の駆動機構3aを作動させて、内視鏡2を長手軸A回りに回転させることにより、撮像素子2cにより取得される内視鏡画像Cの画角自体を回転させた(ステップS5)。これに代えて、図10に示すように、プロセッサ5aが、撮像素子2cにより取得された内視鏡画像Cを画像処理によって画像中心回りに回転させてもよい(ステップS7)。これによれば、内視鏡2を物理的に回転させないので、移動装置3に駆動機構3aを設けずに済み、内視鏡システム1を簡易に構成できるという利点がある。
【0039】
また、本実施形態においては、第1のポートP、第2のポートPおよび注目対象Tの位置を含む平面Cに直交する第1のベクトルVを定義し、第1のベクトルVを内視鏡2の長手軸Aに直交する平面Cに投影した第2のベクトルVに基づいて、内視鏡画像Cの回転角度を算出した。これに代えて、図11に示すように、注目対象T,Tの変化によって、術者Eの視線方向である第3のベクトルVが鉛直軸回りに回転する場合には、その回転角度θyawの関数f(θyaw)によって求められる回転角度θrollだけ、内視鏡画像Cを回転させてもよい。
【0040】
具体的には、プロセッサ5aは術者Eの視線方向に第3のベクトルVを定義し、第3のベクトルVを水平面である平面Cに投影したベクトルの注目対象T,Tの変化による鉛直軸回りの回転角度θyawを算出する。
そして、例えば、下式により、角度θrollを算出する。
θroll=f(θyaw)=Kθyaw
ここで、Kは定数である。
これによれば、第1のベクトルVおよび第2のベクトルVを算出せずに済み、簡単な演算によって内視鏡画像Cの回転角度θrollを求めるので、計算量が少なくて済むという利点がある。
【0041】
また、本実施形態においては、第2のベクトルVが、表示装置6に表示される内視鏡画像Cの上下方向に一致するように内視鏡画像Cを回転させることとした。これに代えて、第2のベクトルVが、表示装置6に表示される内視鏡画像Cの上下方向に対して所定の角度をなすように内視鏡画像Cを回転させてもよい。術者Eによっては、第2のベクトルVの方向を内視鏡画像Cの上下方向に一致していない方が処置具7を操作し易い場合もあるので、術者Eの好みの角度をプリセット値またはオフセット値の少なくとも一方に設定できるようにすればよい。
【0042】
また、第1のポートP、第2のポートPおよびカメラポートPの位置を、実施する手技の種類に対応付けて予め記憶部5cに記憶しておいてもよい。プロセッサ5aは、ユーザインタフェース4aを用いて術者Eを含むユーザに、実施する手技の種類を入力させ、対応する位置情報を記憶部5cから読み出すことにより取得すればよい。
【0043】
また、内視鏡システム1が、図12に示すように、術者Eの頭部Hに取り付けるジャイロセンサあるいは位置センサのようなセンサ9を備え、プロセッサ5aがセンサ9により検出された頭部Hの傾きに基づいて第1のベクトルVの傾きを調整してもよい。頭部Hの左右方向の傾きαによって、術者Eの認識する上下方向が変動するので、傾きαを加味して第1のベクトルVを算出すればよい。これにより、術者Eが術中に頭部Hを傾けても、表示装置6に表示される内視鏡画像Cの上下方向を術者Eの認識する上下方向に一致させることができる。
【0044】
また、本実施形態においては、内視鏡2として、視軸Bが挿入部2aの長手軸A方向に一致する直視型の硬性鏡を例示した。これに代えて、視軸Bが長手軸Aに対して傾斜している斜視型または挿入部2aの先端に視軸Bの方向を変更可能な湾曲部2bを備える内視鏡2を採用してもよい。この場合に、プロセッサ5aは、視軸Bの方向を第3のベクトルVの方向に近づけるように移動装置3および/または内視鏡2を制御してもよい。
【0045】
すなわち、内視鏡2が斜視型である場合について、図13を参照して説明する。内視鏡2が斜視型である場合には、内視鏡2を直線Lとは異なる方向から体内に挿入しても、内視鏡2の先端を直線L上に配置した状態で注目対象T,Tを視野内に配置することができる。
【0046】
プロセッサ5aは、視軸Bを、直線Lに対して略平行に、かつ、距離を所定の閾値よりも小さくするように移動装置3を制御する。特に、視軸Bを直線Lに一致させるように移動装置3を制御することが好ましい。これにより、撮像素子2cにより取得される内視鏡画像Cの上下方向は、術者Eの認識する上下方向に略一致するので、内視鏡画像Cを回転させる処理が不要となる。これによっても。術者Eが直感的に処置具7を操作することができる。なお、視軸Bを直線Lに一致させるように移動装置3を制御した後、視軸Bと直線Lとが完全に一致していない場合には、取得された第1、第2および第3の位置に基づいて、術者Eからみた注目対象の上下方向を示す第1のベクトルVを視軸Bに直交する平面に投影した第2のベクトルVの方向と、表示装置6に表示される内視鏡画像Cの上下方向とが所定の相対角度となるように、内視鏡画像Cを回転させてもよい。
【0047】
また、内視鏡2が湾曲部2bを有する場合も同様である。この場合には、図14に示されるように、プロセッサ5aは、視軸Bを、直線Lに対して略平行に、かつ、距離を所定の閾値よりも小さくするように移動装置3および/または内視鏡2の湾曲部2bを制御する。これにより、内視鏡画像Cを回転させる処理を伴うことなく、撮像素子2cにより取得される内視鏡画像Cの上下方向を術者Eの認識する上下方向に簡易に一致させることができる。これによっても。術者Eが直感的に処置具7を操作することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態およびその変形例について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改良が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 内視鏡システム
2 内視鏡
2a 鏡筒部(挿入部)
3 移動装置
3a 駆動機構
5 制御装置
5a プロセッサ
5c 記憶部(メモリ)
6 表示装置
7 処置具(第1の処置具、第2の処置具)
9 センサ
A 長手軸
B 視軸
C 内視鏡画像(画像)
平面
D 患者(被検体)
E 術者
H 頭部
カメラポート(第3のポート)
第1のポート
第2のポート
注目対象
第1のベクトル
第2のベクトル
第3のベクトル
α 傾き
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14