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特開2025-151384医療システム、制御装置、制御方法および制御プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025151384
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】医療システム、制御装置、制御方法および制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/045 20060101AFI20251002BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
A61B1/045 618
A61B1/00 655
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024052783
(22)【出願日】2024-03-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和5年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靱化事業」「外科手術のデジタルトランスフォーメーション:情報支援内視鏡外科手術システムの開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】畠山 直也
(72)【発明者】
【氏名】原口 雅史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠太
【テーマコード(参考)】
4C161
【Fターム(参考)】
4C161BB06
4C161CC06
4C161DD01
4C161GG13
4C161HH51
4C161JJ11
4C161LL02
4C161WW02
4C161WW13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】先端レンズに汚れが付着しても、汚れを避けて観察を続ける制御装置、制御方法、制御プログラムを提供する。
【解決手段】内視鏡が、注目対象を含む画像Dを取得し、少なくとも1つのプロセッサを備え、プロセッサが、内視鏡の視野内における注目対象の位置を取得し、視野内における内視鏡の汚れの位置を算出し、汚れの位置とは異なる位置に目標領域Bを設定し、目標領域の位置および注目対象の位置に基づいて、注目対象が目標領域内に配置されるように内視鏡を注目対象に追従させるように制御する制御装置。
【選択図】図7A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡の移動を制御する制御装置であって、
前記内視鏡が、注目対象を含む画像を取得し、
少なくとも1つのプロセッサを備え、
該プロセッサが、
前記内視鏡の視野内における前記注目対象の位置を取得し、
前記視野内における前記内視鏡の汚れの位置を算出し、
前記汚れの位置とは異なる位置に目標領域を設定し、
該目標領域の位置および前記注目対象の位置に基づいて、前記注目対象が前記目標領域内に配置されるように前記内視鏡を前記注目対象に追従させる、制御装置。
【請求項2】
前記プロセッサが、
前記汚れの位置と、前記視野の端とを結ぶ直線上に前記目標領域の中心を設定する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記視野の端が、前記汚れの位置から最も遠い端である、請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記プロセッサが、
前記視野内に存在する複数の汚れ間の距離に基づいて、
該距離が所定の閾値以下である場合には、前記汚れの位置として、前記複数の汚れの代表位置を算出し、
前記距離が前記閾値よりも大きい場合には、前記汚れの位置として、前記複数の汚れの位置をそれぞれ算出する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
前記プロセッサが、
前記複数の汚れの位置をそれぞれ算出した場合に、各前記汚れの位置と前記視野の端とを結ぶ複数の直線の中心の中央値に、前記目標領域の中心を設定する、請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記プロセッサが、
前記複数の汚れの位置を通過する多角形、円または楕円の重心位置に、前記目標領域の中心を設定する、請求項4に記載の制御装置。
【請求項7】
前記プロセッサが、
前記汚れの面積を算出し、
該汚れの面積が所定の閾値よりも大きい場合にのみ、前記汚れの位置を算出する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項8】
少なくとも1つのメモリを備え、
該メモリが、前記視野内において前記目標領域として設定可能な設定可能領域を記憶し、
前記プロセッサが、前記設定可能領域内において前記目標領域を設定する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項9】
少なくとも1つのメモリを備え、
該メモリが、前記視野内において前記目標領域として設定可能な複数の候補領域を記憶し、
前記プロセッサが、算出された前記汚れの位置を含まない前記候補領域のいずれかに前記目標領域を設定する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項10】
前記プロセッサが、前記視野内において、算出された前記汚れの位置から周囲に向かって小さくなる重みを付与することにより重みの勾配を形成し、重みが最も低くなる位置に前記目標領域の中心を設定する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項11】
注目対象を含む画像を取得する内視鏡と、
該内視鏡を移動させる移動装置と、
前記画像内の前記注目対象の位置に基づいて前記移動装置を制御する制御装置と、
を備え、
該制御装置が、
少なくとも1つのプロセッサを備え、
該プロセッサが、
前記内視鏡の視野内における前記注目対象の位置を含む位置情報を取得し、
前記視野内における前記内視鏡の汚れの位置を算出し、
前記汚れの位置とは異なる位置に目標領域を設定し、
該目標領域の位置および前記注目対象の位置に基づいて、前記注目対象が前記目標領域内に配置されるように前記内視鏡を前記注目対象に追従させる、医療システム。
【請求項12】
プロセッサが、
内視鏡の視野内における注目対象の位置を取得することと、
前記視野内における前記内視鏡の汚れの位置を算出することと、
前記汚れの位置とは異なる位置に目標領域を設定することと、
該目標領域の位置および前記注目対象の位置に基づいて、前記注目対象が前記目標領域内に配置されるように前記内視鏡を前記注目対象に追従させることとを含む、制御方法。
【請求項13】
内視鏡の視野内における注目対象の位置を取得することと、
前記視野内における前記内視鏡の汚れの位置を算出することと、
前記汚れの位置とは異なる位置に目標領域を設定することと、
該目標領域の位置および前記注目対象の位置に基づいて、前記注目対象が前記目標領域内に配置されるように前記内視鏡を前記注目対象に追従させることとをプロセッサに実行させる、制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療システム、制御装置、制御方法および制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物を含む画像を内視鏡により取得し、内視鏡の視野内に設定された所定の3次元領域によって、内視鏡を処置具等の注目対象に追従させる医療システムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、処置シーンを検出して、所定の3次元領域の位置をオフセットすることにより、剥離先などを見易くしながら内視鏡を注目対象に追従させる技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。さらに、手術用カメラの先端レンズを回転させる前後に取得された映像情報を分析してレンズに付着した汚れを検出する技術が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2022/54428号公報
【特許文献2】国際公開第2022/54882号公報
【特許文献3】特開2013-197652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内視鏡を注目対象に追従させながら処置している場合に、処置によって発生した飛散物が内視鏡先端のレンズに付着して、注目対象の視認性が悪くなる場合がある。汚れによって注目対象の視認性が悪くなった場合に、汚れによる影響を抑えて、内視鏡を注目対象に追従させて処置を継続できることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、内視鏡の移動を制御する制御装置であって、前記内視鏡が、注目対象を含む画像を取得し、少なくとも1つのプロセッサを備え、該プロセッサが、前記内視鏡の視野内における前記注目対象の位置を取得し、前記視野内における前記内視鏡の汚れの位置を算出し、前記汚れの位置とは異なる位置に目標領域を設定し、該目標領域の位置および前記注目対象の位置に基づいて、前記注目対象が前記目標領域内に配置されるように前記内視鏡を前記注目対象に追従させる、制御装置である。
【0006】
本発明の他の態様は、注目対象を含む画像を取得する内視鏡と、該内視鏡を移動させる移動装置と、前記画像内の前記注目対象の位置に基づいて前記移動装置を制御する制御装置と、備え、該制御装置が、少なくとも1つのプロセッサを備え、該プロセッサが、前記内視鏡の視野内における前記注目対象の位置を含む位置情報を取得し、前記視野内における前記内視鏡の汚れの位置を算出し、前記汚れの位置とは異なる位置に目標領域を設定し、該目標領域の位置および前記注目対象の位置に基づいて、前記注目対象が前記目標領域内に配置されるように前記内視鏡を前記注目対象に追従させる、医療システムである。
【0007】
本発明の他の態様は、プロセッサが、内視鏡の視野内における注目対象の位置を取得することと、前記視野内における前記内視鏡の汚れの位置を算出することと、前記汚れの位置とは異なる位置に目標領域を設定することと、該目標領域の位置および前記注目対象の位置に基づいて、前記注目対象が前記目標領域内に配置されるように前記内視鏡を前記注目対象に追従させることとを含む、制御方法である。
【0008】
本発明の他の態様は、内視鏡の視野内における注目対象の位置を取得することと、前記視野内における前記内視鏡の汚れの位置を算出することと、前記汚れの位置とは異なる位置に目標領域を設定することと、該目標領域の位置および前記注目対象の位置に基づいて、前記注目対象が前記目標領域内に配置されるように前記内視鏡を前記注目対象に追従させることとをプロセッサに実行させる、制御プログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る医療システムの外観図である。
図2図1の医療システムのブロック図である。
図3】内視鏡の視野内に設定される3次元の目標領域を示す図である。
図4図3の目標領域の横断面の一例を示す内視鏡画像である。
図5A図3の深さX1における目標領域の内視鏡画像上のサイズを説明する図である。
図5B図3の深さX2における目標領域の内視鏡画像上のサイズを説明する図である。
図5C図3の深さX3における目標領域の内視鏡画像上のサイズを説明する図である。
図6A】距離が近い2つの汚れにおいて、両方の汚れの重心位置を汚れの位置として算出する例を示す図である。
図6B】距離が近い2つの汚れにおいて、各汚れの重心位置を汚れの位置として算出する例を示す図である。
図7A】視野内に1つの汚れがある場合の新たな目標領域の設定方法の一例を示す図である。
図7B】視野内に複数の汚れがある場合の新たな目標領域の設定方法の一例を示す図である。
図8図1の医療システムの制御装置によって実行される制御方法のフローチャートである。
図9A】視野内に複数の汚れがある場合の新たな目標領域の設定方法の他の例を示す図である。
図9B】視野内に複数の汚れがある場合の新たな目標領域の設定方法のさらに他の例を示す図である。
図10】内視鏡の視野を見上げる視野に設定する場合の内視鏡の移動の一例を示す図である。
図11A】内視鏡の視野を見上げる視野に設定する場合の内視鏡画像の一例を示す図である。
図11B】内視鏡の視野を見下ろす視野に設定する場合の内視鏡画像の一例を示す図である。
図12A】内視鏡の視野を見上げる視野に設定した場合であって、汚れがなく、上半分の中央に目標領域を配置した内視鏡画像の一例を示す図である。
図12B図12Aにおいて汚れが付着した内視鏡画像の一例を示す図である。
図12C図12Bの汚れによる目標領域の移動を説明する内視鏡画像の一例を示す図である。
図12D図12Cの新たな目標領域に処置具の先端が配置されるように内視鏡を移動させた場合の内視鏡画像の一例を示す図である。
図13A】内視鏡の視野を左半分に設定した場合であって、汚れがなく、左半分の中央に目標領域を配置した内視鏡画像の一例を示す図である。
図13B図13Aにおいて汚れが付着した内視鏡画像の一例を示す図である。
図13C図13Bの汚れによる目標領域の移動を説明する内視鏡画像の一例を示す図である。
図13D図13Cの新たな目標領域に処置具の先端が配置されるように内視鏡を移動させた場合の内視鏡画像の一例を示す図である。
図14】複数の候補領域が予め設定された内視鏡画像の一例を示す図である。
図15】人口ポテンシャル法のポテンシャル勾配と同様にして、汚れ等に付された重みの勾配によって新たな目標領域を設定するために、内視鏡画像上における重みの分布の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る医療システム10、制御装置4、制御方法および制御プログラムについて図面を参照して説明する。
本実施形態に係る医療システム10は、図1に示すように、患者Pの体内に挿入される内視鏡1および処置具2と、内視鏡1を保持し内視鏡1を体内で移動させる移動装置3と、内視鏡1および移動装置3と接続され移動装置3を制御する制御装置4と、内視鏡画像Dを表示する表示装置5とを備える。
【0011】
内視鏡1は、例えば、先端レンズを有する硬性鏡であり、撮像素子を有し内視鏡画像D(図4参照。)を取得する撮像部1a(図2参照。)を備える。内視鏡1は、処置具2の先端2a(以下、注目対象とも言う。)を含む内視鏡画像Dを撮像部1aによって取得し、内視鏡画像Dを制御装置4に送信する。撮像部1aは、例えば、内視鏡1の先端部に設けられた3次元カメラであり、処置具2の先端2aの3次元位置の情報を含むステレオ画像を内視鏡画像Dとして取得する。
【0012】
移動装置3は、複数の関節3aを有するロボットアームであって、ロボットアームの先端部において内視鏡1の基端部を保持する。一例において、移動装置3は、図3に示すように、X軸に沿う前後の直線移動、Y軸回りの回転(ピッチ)およびZ軸回りの回転(ヨー)の3つの運動の自由度を有し、好ましくはX軸回りの回転(ロール)の運動の自由度をさらに有する。X軸は、内視鏡1の光軸Aと同一の直線上の軸であり、Y軸およびZ軸は、光軸Aと直交し内視鏡画像Dの横方向および縦方向に対応する方向にそれぞれ延びる軸である。
【0013】
制御装置4は、図2に示すように、中央演算処理装置のような少なくとも1つのプロセッサ4aと、メモリ4bと、記憶部4cと、入力インタフェース4dと、出力インタフェース4eと、ネットワークインタフェース4fとを備える。
内視鏡1から送信された内視鏡画像Dは、入力インタフェース4dを経由して制御装置4に逐次入力され、出力インタフェース4eを経由して表示装置5に逐次出力され、表示装置5に表示される。術者等の操作者は、表示装置5に表示される内視鏡画像Dを観察しながら体内に挿入された処置具2を操作し、処置具2によって体内の患部の処置を行う。
【0014】
メモリ4bは、RAM(random access memory)のような揮発性の記憶装置からなり、プロセッサ4aの作業領域として使用される。
記憶部4cは、コンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体であり、例えば、公知の磁気ディスク、光ディスク、フラッシュメモリまたはROM(read-only memory)等である。
【0015】
記憶部4cは、プロセッサ4aに処理を実行させるために必要なプログラムおよびデータを記憶している。制御装置4の後述の機能は、プログラムがメモリ4bに読み込まれプロセッサ4aによって実行されることによって、実現される。制御装置4の一部の機能は、専用の論理回路等によって実現されてもよい。
【0016】
制御装置4は、マニュアルモードおよび追従モードを有する。マニュアルモードは、術者等の操作者が内視鏡1を手動で操作するモードであり、追従モードは、制御装置4が処置具2の先端2aに内視鏡1を自動的に追従させるモードである。
【0017】
制御装置4は、操作者からの指示に基づいてマニュアルモードと追従モードとを切り替える。例えば、制御装置4は、人間の音声を認識することができる人工知能を備え、「マニュアルモード」の音声を認識したときにマニュアルモードへ切り替え、「追従モード」の音声を認識したときに追従モードへ切り替える。制御装置4は、内視鏡1に設けられたマニュアル操作スイッチ(図示略)のオンオフに従ってマニュアルモードと追従モードとを切り替えてもよい。
【0018】
マニュアルモードにおいて、例えば、術者等の操作者は、制御装置4に接続された操作装置(図示略)を操作することによって、移動装置3を遠隔操作することができる。
追従モードにおいて、制御装置4は、処置具2の先端2aの3次元位置に基づいて移動装置3を制御することによって、処置具2の先端2aが目標領域Bの中心に向かって移動するように、処置具2の先端2aに内視鏡1を3次元的に追従させる。
【0019】
具体的には、制御装置4は、内視鏡画像D内の処置具2を認識し、内視鏡画像Dを用いて処置具2の先端2aの3次元位置を算出する。次いで、制御装置4は、内視鏡1の光軸Aが、処置具2の先端2aに向かって光軸Aに交差する方向に移動し、かつ、内視鏡1の先端が先端2aから所定の観察距離だけ離れた位置へ向かって光軸Aに沿う奥行方向に移動するように、各関節3aを動作させる。
【0020】
目標領域Bは、内視鏡1の視野F内に設定され、相互に直交するX方向、Y方向およびZ方向に寸法を有する所定の3次元領域である。X方向は、内視鏡1の光軸Aに平行な奥行方向である。Y方向およびZ方向は、光軸Aに直交する方向であり、内視鏡画像Dの横方向および縦方向にそれぞれ平行な方向である。
【0021】
目標領域Bは、図3および図4に示すように、内視鏡1の先端からX方向に離れた位置に配置され、X方向において視野Fの一部の範囲に設定される。また、目標領域Bは、横断面が内視鏡1の先端に近付く程小さくなる3次元形状を有する。内視鏡画像D上における目標領域Bは、特に指定されていない初期状態において、内視鏡画像Dの中心を含む中央部分の領域である。光軸Aに直交する目標領域Bの横断面の形状は、矩形、円形および楕円形のいずれであってもよく、多角形等の他の形状であってもよい。目標領域Bは、内視鏡画像Dに重畳表示されてもよく、非表示であってもよい。
【0022】
一例において、目標領域Bの横断面の形状は、内視鏡画像Dの形状に相似する形状である。例えば、内視鏡画像Dが矩形である場合、目標領域Bの横断面も矩形である。内視鏡画像D上に表示される目標領域Bは内視鏡画像Dの観察を妨げる可能性があるので、目標領域Bは非表示であることが好ましい。目標領域Bが内視鏡画像Dと相似形状である場合、術者は、非表示である目標領域Bの位置を認識し易くなる。
【0023】
一般に、内視鏡1の視野Fは、内視鏡1の先端または先端の近傍に頂点を有する錐状である。目標領域Bは、内視鏡1の視野Fと共通の頂点を有する錐台状であることが好ましい。このような目標領域Bによれば、図5A図5Cに示すように、X方向の位置X1,X2,X3に関わらず、内視鏡画像D上における目標領域Bの見かけのサイズおよび位置は一定である。
【0024】
プロセッサ4aは、内視鏡1から送られてきた内視鏡画像Dを処理して、公知の方法により、内視鏡1の先端レンズに付着している汚れを検出し、検出した汚れのYZ方向の位置を算出する。汚れの位置は、内視鏡画像D上における検出された汚れが配置されている画素(ピクセル)位置(座標)であり、例えば、以下の汚れ検出ルールに従って算出される。
【0025】
<汚れ検出ルール>
(a)汚れが単一の画素または連続する複数画素範囲に及ぶ場合であってその画素数(面積)が第1閾値以下である場合には、汚れは存在しないものとみなす。
(b)汚れが連続する複数画素範囲に及びその画素数が、第1閾値よりも大きい場合には、汚れの位置は、その複数画素にわたる範囲の重心となる画素位置である。
【0026】
(c)図6Aに示すように、汚れが連続しない複数画素範囲に及ぶ場合には、各汚れ範囲H1,H2間の距離dが、第2閾値以下であれば、単一の汚れの範囲とみなす。そして、それらの汚れ範囲H1,H2の面積割合に応じた重心位置OH(代表値)となる画素位置を汚れの位置とする。図中、簡略化のため、汚れを円によって示しているが、検出される汚れは任意の形状でよい。
【0027】
(d)図6Bに示すように、汚れが連続しない複数画素範囲に及び、各汚れ範囲H1,H2間の距離dが、第2閾値よりも大きければ、各汚れ範囲H1,H2の重心位置OHとなる画素位置をそれぞれ汚れの位置とする。
【0028】
プロセッサ4aは、内視鏡1から送られてきた内視鏡画像Dに基づいて処置具2の先端2aの位置を算出する。さらに、プロセッサ4aは、算出された汚れの位置OHに基づいて新たな目標領域Bの位置を設定する。
新たな目標領域Bの位置は、例えば、以下の目標位置設定ルールに従って設定される。
【0029】
<目標位置設定ルール>
(e)プロセッサ4aは、単一の汚れ範囲OHのみが検出された場合には、図7Aに示すように、その汚れ範囲Hの重心位置OHである汚れの位置と、内視鏡画像Dの4隅(視野の端)とを結ぶ4本の直線L1~L4の長さを算出する。そして、プロセッサ4aは、4本の直線L1~L4の内、最も長い直線(ここではL2)の中央位置LAを、新たな目標領域Bの位置(中心位置)として設定する。
【0030】
(f)プロセッサ4aは、複数の汚れ範囲Hが検出された場合には、図7Bに示すように、各汚れ範囲H1,H2について、上記と同様にして最も長い直線LMAX,LMAX2の中央位置LA1,LA2を算出する。そして、プロセッサ4aは、全ての最も長い直線LMAX,LMAX2の中央位置LA1,LA2の中央値LOを新たな目標領域Bの位置として設定する。
【0031】
プロセッサ4aは、設定された目標領域Bの位置と、算出された処置具2の先端2aの位置とに基づいて、移動装置3の各関節3bの駆動量を算出し、移動装置3を作動させる。これにより、汚れH,H1,H2の位置とは異なる位置に目標領域Bが設定され、検出された処置具2の先端2aが設定された目標領域Bに配置されるように、内視鏡1が処置具2に追従して移動させられる。
【0032】
次に、本実施形態に係る医療システム10の作用について、図面を参照して以下に説明する。
術者は、表示装置5に表示される内視鏡画像Dを観察しながら、患者Pの体内に挿入された処置具2を操作することによって処置を行う。処置中、術者等の操作者は、例えば音声によって、マニュアルモードから追従モードへ、または、追従モードからマニュアルモードへ切り替える。
【0033】
図8に示されるように、ステップS1において追従モードに切り替えられたとき、プロセッサは、ステップS2~S10の制御方法を実行し、追従モードで移動装置3を制御する。
本実施形態に係る制御方法は、まず、プロセッサ4aが、内視鏡画像Dに基づいて、処置具の先端2aの位置を算出する(ステップS2)。次いで、プロセッサ4aは、内視鏡画像Dに基づいて、内視鏡1の先端レンズの汚れを検出するための処理を実施し(ステップS3)、汚れの有無を判定する(ステップS4)。先端レンズに汚れがあると判定された場合には、プロセッサ4aが、汚れの位置を算出する(ステップS5)。
【0034】
次いで、プロセッサ4aは、汚れの位置に基づいて、上記目標位置設定ルールに従って新たな目標領域Bの位置を算出し(ステップS6)、算出された位置に目標領域Bを設定する(ステップS7)。そして、設定された目標領域B内に、処置具2の先端2aが配置されるように、移動装置3を作動させる(ステップS8)。新たな目標領域B内に処置具2の先端2aが配置されたか否かが判定され(ステップS9)、配置されていない場合には、ステップS8からの工程が繰り返される。
【0035】
そして、術者等の操作者が、例えば音声によって、追従モードからマニュアルモードへ切り替えたか否かが判定され(ステップS10)、切り替えられていない場合には、ステップS2からの工程が繰り返される。
このように、本実施形態によれば、新たな目標領域Bが、視野内の汚れていない領域に設定されるので、先端レンズに汚れが付着しても、汚れを避けて処置具2の先端2aを捉えることができる。これにより、処置具2の先端2aの周辺に汚れによって阻害されていない広い視野を確保して、術者が処置を継続し易くすることができるという利点がある。
【0036】
また、本実施形態によれば、汚れが単一の画素または連続する複数画素範囲に及ぶ場合であってその画素数が第1閾値以下である場合に、汚れは存在しないものとみなした。これにより、視野を阻害しない程度の小さな汚れによって目標領域Bを移動させる無駄な処理を防止し、かつ、目標領域Bの無駄な移動を防止して処置し易さを向上することができる。
【0037】
また、汚れが連続する複数画素範囲に及びその画素数が、第1閾値よりも大きい場合には、汚れの位置は、その複数画素にわたる範囲の重心となる画素位置としたので、比較的大きな汚れの塊を1つの汚れとして処理することができる。さらに、複数の汚れの範囲が近接している場合に、単一の汚れとみなしているので、処理を簡易化することができる。
【0038】
また、本実施形態によれば、視野内において検出された汚れと、内視鏡画像Dの4隅とを結んだ直線L1~L4の内、最も長い直線LMAXの中央位置LAに新たな目標領域Bの中央位置を設定した。さらに、複数の汚れ範囲が検出された場合には、各汚れ範囲について、最も長い直線LMAX1,LMAX2の中央位置LA1,LA2の中央値LOを新たな目標領域Bの位置として設定した。これにより、簡易な方法で、新たな目標領域Bを視野内の汚れていない領域に配置できる。
【0039】
なお、本実施形態においては、視野内において検出された汚れと、内視鏡画像Dの4隅とを結んだ直線の内、最も長い直線LMAXの中央点に新たな目標領域Bの中央位置を設定した。これに代えて、直線LMAXの中央点ではない直線LMAX上の他の位置に新たな目標領域Bを設定してもよい。また、最長の直線LMAXに限られず、所定の長さ以上の直線の内の何れかの直線上に新たな目標領域Bを設定してもよい。
【0040】
また、図9Aに示すように、比較的離れた複数の汚れH1,H2,H3が存在する場合に、汚れH1,H2,H3の位置を通る円の中心位置に、新たな目標領域Bの中心位置を設定してもよい。円に代えて、楕円あるいは、図9Bに示すように、内視鏡画像Dのいずれかの隅を含めた多角形の中心に目標領域Bを設定してもよい。これによれば、汚れによって視野が阻害されない比較的広い領域に新たな目標領域Bを設定でき、より広い視野で処置具2の先端2aを観察しながら処置を継続することができる。なお、例としてここでは汚れは、汚れH1,H2,H3が存在する場合で説明したが、汚れは3つの場合に限らず、複数の汚れであればいくつの汚れが存在する場合でも本手法のような目標領域Bの設定が可能である。
【0041】
また、新たな目標領域Bが内視鏡画像Dからはみ出してしまうことを防止するために、算出される新たな目標領域Bの中心位置のとり得る座標を内視鏡画像Dの中央の所定範囲に制限してもよい。
【0042】
また、内視鏡1の視野Fは、図3に示すように、内視鏡1の先端または先端の近傍に頂点を有する錐状であるため、視野Fの上半分は処置しようとする組織等の観察対象を見上げる視野となり、視野Fの下半分は観察対象を見下ろす視野となる。処置の種類によっては、見上げる視野または見下ろす視野によって実施したい場合がある。
【0043】
すなわち、見上げる視野で処置したい場合には、術者等の操作者からの指示に基づいて、プロセッサ4aが、図10に示すように、視野の上側において観察対象を捉えるように、内視鏡1を移動させるよう移動装置3を作動させる。図10によれば、目標領域を視野の中央に配置した場合に処置具2が組織によって隠れている場合であっても、見上げる視野に設定することにより、組織を回避して処置具2を観察することが可能となる。
【0044】
一方、見下ろす視野で処置したい場合には、術者等の操作者からの指示に基づいて、プロセッサ4aが視野の下側において観察対象を捉えるように、内視鏡1を移動させるよう移動装置3を作動させる。これにより、図11Aに示すように、目標領域Bは視野Fの上半分の中央に配置され、見下ろす視野で処置したい場合には、例えば、図11Bに示すように、目標領域Bは視野Fの下半分の中央に配置される。
【0045】
これらの場合に、汚れの検出に応じて目標領域Bを移動する場合には、新たな目標領域Bも見上げる視野または見下ろす視野が継続されるように設定されることが好ましい。したがって、これらの場合に対応するために、例えば、メモリ4b内に目標領域Bとして設定可能な設定可能領域を記憶し、プロセッサ4aが、設定可能領域内において新たな目標領域Bを設定することにしてもよい。
【0046】
すなわち、見上げる視野によって処置を行う場合には、図12Aに示すように、視野の上半分が設定可能領域としてメモリ4bに記憶され、新たな目標領域Bは視野の上半分内に限定される。この状態において、図12Bに示すように汚れが検出された場合には、図12Cに示すように、目標領域Bは視野の上半分において主として左右(図の場合には右側)に移動した位置に設定される。そして、図12Dに示すように、新たに設定された目標領域B内に処置具2の先端2aが配置されるように、内視鏡1が移動させられる。
【0047】
同様に、見下ろす視野によって処置を行う場合には、視野の下半分が設定可能領域としてメモリに記憶され、新たな目標領域Bは視野の下半分内に限定される。したがって、目標領域Bは視野の下半分において主として左右に移動するように設定される。
【0048】
また、図13Aに示すように、内視鏡画像D内において処置具を左から右へ移動させながら組織を切開するような処置を行う場合には、処置具2の移動方向前方(図の場合には右方向)の切開先(領域E)に広い視野を確保することが要求される。このような場合には、プロセッサ4aは操作者の指示に応じて視野の左側において処置具2の先端2aを捉えるように内視鏡1を移動させるよう移動装置3を作動させ、目標領域Bは視野の左半分の中央に配置される。
【0049】
したがって、汚れの検出に応じて目標領域Bを移動する場合には、視野の左半分が設定可能領域としてメモリ4bに記憶され、新たな目標領域Bも視野の左半分内において主として上下に移動するように設定される。すなわち、図13Bに示すように汚れが検出された場合には、図13Cに示すように、目標領域Bは視野の左半分において主として上下(図の場合には上側)に移動した位置に設定される。そして、図13Dに示すように、新たに設定された目標領域B内に処置具2の先端2aが配置されるように、内視鏡1が移動させられる。
【0050】
同様にして視野の左方向に広い視野を確保することが求められる処置においては、視野の右半分が設定可能領域としてメモリ4bに記憶され、新たな目標領域Bも視野の右半分内において主として上下に移動するように設定される。
【0051】
このようにすることで、先端レンズに汚れが付着しても、同じ条件の視野を確保しながら、汚れを避けて処置具2の先端2aを捕らえることができる。
設定可能領域を記憶して、新たな目標領域Bを設定可能領域内に制限することに代えて、汚れの検出に応じた目標領域Bの移動方向を制限することによっても同様の効果を得ることができる。また、設定可能領域は、視野の上半分、下半分、左半分または右半分に限られるものではなく、視野を左右または上下に3以上に分割したいずれかの視野に設定されてもよい。
【0052】
また、設定可能領域を記憶することに代えて、視野内において目標領域Bとして設定可能な複数の候補領域Baを予めメモリ4bに記憶しておき、プロセッサ4aが、汚れを含まない候補領域Baのいずれかを新たな目標領域Bとして設定してもよい。図14に示す例では、9個の黒丸で示すように、視野内の左右3箇所、上下3箇所の合計9箇所に等間隔を開けて、候補領域Baの中心位置が設定されている。
【0053】
予め記憶しておいた候補領域Baの中から新たな目標領域Bを選ぶので、内視鏡画像D外に目標領域Bの一部がはみ出してしまうことを防止でき、観察し易さを維持することができる。候補領域Baが相互に重複しない例を示したが、これに代えて、候補領域Baは相互に重複していてもよいし、隙間をあけて配置されていてもよい。
【0054】
また、人口ポテンシャル法のポテンシャル勾配と同様にして、内視鏡画像D内の各位置に重みを付与し、重みが小さいほど汚れから遠ざかる重みの勾配を設定することにより、新たな目標領域を重みの最も小さい領域に設定してもよい。例えば、図15に示すように、算出された汚れの位置において最も高く、その周辺に向かって低くなる重みを付与することにより、汚れから遠ざかるほど低くなる重みの勾配を設定できる。図15における細線は重みの等高線を示している。また、例えば、上述した見上げる視野の場合には、視野の下半分に上側に向かって低くなる重みの勾配を設定することにより、汚れと同じ仕組みで、視野の下半分に新たな目標領域がされないようにすることができる。
【0055】
また、目標領域Bを移動させた後、内視鏡1を患者Pの体内から抜去したタイミングまたは抜去した内視鏡1を再度患者Pの体内に挿入するタイミングで、目標領域Bを視野の中央にリセットしてもよい。内視鏡1を患者Pの体内から抜去する直前に、見上げる視野、見下ろす視野、あるいは左右方向に広く見せる視野のように視野をオフセットしていた場合には、リセットされる目標領域Bの位置は、元のオフセットされた方向に復帰してもよい。
【0056】
上記実施形態において、内視鏡1が、3次元のステレオ画像を内視鏡画像Dとして取得することとしたが、これに代えて、2次元の内視鏡画像Dを取得してもよい。この場合、例えば、内視鏡1の先端に設けられた距離センサ等の他の測距手段によって、処置具2の先端2aのX方向の位置を測定してもよい。
【0057】
上記実施形態において、内視鏡1の追従の注目対象を処置具2としたが、注目対象はこれに限定されるものではなく、手術中に内視鏡画像D内に映る任意の物体であってもよい。例えば、注目対象は、病変部、臓器、血管、マーカ、ガーゼ等の医用材料、または、処置具2以外の医療器具であってもよい。
【0058】
以上、本発明の実施形態およびその変形例について図面を参照して詳述したが、本発明の具体的な構成は上記実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の設計変更が可能である。また、上述の実施形態及び変形例において示した構成要素は、適宜組み合わせることが可能である。
例えば、被写体は、大腸以外の管腔であってもよく、内視鏡検査の対象となり得る管腔以外の臓器であってもよい。関心領域は、被写体に応じて設定されてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 内視鏡
2 処置具
2a 先端(注目対象)
3 移動装置
4 制御装置
4a プロセッサ
4b メモリ
10 医療システム
D 内視鏡画像(画像)
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図12D
図13A
図13B
図13C
図13D
図14
図15