IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧

<>
  • 特開-溶銑の脱りん方法 図1
  • 特開-溶銑の脱りん方法 図2A
  • 特開-溶銑の脱りん方法 図2B
  • 特開-溶銑の脱りん方法 図3A
  • 特開-溶銑の脱りん方法 図3B
  • 特開-溶銑の脱りん方法 図4
  • 特開-溶銑の脱りん方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015149
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】溶銑の脱りん方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/28 20060101AFI20250123BHJP
   C21C 1/02 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
C21C5/28 H
C21C1/02 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118338
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大内 慶太
(72)【発明者】
【氏名】中須賀 貴光
【テーマコード(参考)】
4K014
4K070
【Fターム(参考)】
4K014AA03
4K014AB03
4K014AB04
4K070AB01
4K070AB06
4K070AC02
4K070AC05
4K070AC13
4K070AC14
4K070BA07
4K070BA12
4K070EA19
(57)【要約】
【課題】スクラップの多量溶解と、脱りん能および鉄歩留の向上の両立を可能とする溶銑の脱りん方法を提供する。
【解決手段】本発明は、転炉型容器1内に、所定式のスクラップ比率RSCを4.0%以上16.5%以下でスクラップ2を装入し、その後に溶銑3を装入して、溶銑3の脱りん処理を行う溶銑の脱りん方法において、溶銑3の装入完了後に、転炉型容器1を垂直に戻してから、溶銑3の脱りん処理を開始するまでの時間t1の間隔を0.95分以上とし、溶銑3を取鍋4から転炉型容器1へ装入を開始してから、溶銑3の脱りん処理を開始するまでの時間t2を3.05分以上とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉型容器内に、式(1)で表されるスクラップ比率RSCを4.0%以上16.5%以下でスクラップを装入し、その後に溶銑を装入して、前記溶銑の脱りん処理を行う溶銑の脱りん方法において、
前記溶銑の装入完了後に、前記転炉型容器を垂直に戻してから、前記溶銑の脱りん処理を開始するまでの時間t1の間隔を、0.95分以上とする
ことを特徴とする溶銑の脱りん方法。
【数1】
【請求項2】
前記溶銑を取鍋から前記転炉型容器へ装入を開始してから、前記溶銑の脱りん処理を開始するまでの時間t2を、3.05分以上とする
ことを特徴とする請求項1に記載の溶銑の脱りん方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉型容器内にスクラップを装入後に溶銑を装入し、上底吹き撹拌でスクラップを溶解させつつ、溶銑の脱りん処理を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉型容器を用いた溶銑脱りんプロセスでは、転炉型容器に、まずスクラップ(例えば、製鉄所内で発生するトリミング屑、板屑、コイル屑など)を装入し、その後、取鍋から溶銑を装入して、脱りん剤(石灰、酸化鉄)を投入し、上底吹き撹拌でスクラップを溶解させつつ、溶銑の脱りん処理を行っている。スクラップを用いた溶銑の脱りん処理をする技術としては、例えば、特許文献1~3などに開示されているものがある。
【0003】
特許文献1は、上底吹転炉で溶銑を脱りん処理する際に、通常の処理条件では完全には溶解しないサイズのスクラップ配合を可能にすることを目的としている。具体的には、溶銑の脱りん処理をするにあたり、溶銑の温度を考慮して、完全には溶解しないスクラップ量を含む装入スクラップ配合比率(SR)を算出し、前記溶銑と共に装入するスクラップとして、前記算出して得られた装入スクラップ配合比率(SR)に前記比表面積を考慮したスクラップをその比表面積を変えずに充当して用いて、前記転炉で脱りん処理を行った後の当該転炉内に前記装入したスクラップの一部が溶け残っているものとされている。
【0004】
特許文献2は、鉄スクラップ(以下、単に「スクラップ」と記す)の多量溶解と溶銑の脱燐反応とを両立させることを目的としている。具体的には、スクラップ配合比率が10%以上である脱燐処理を1チャージ目として脱りん処理を実施し、この脱りん処理後に未溶解のスクラップを溶銑の一部及びスラグとともに前記精錬炉内に残したまま溶銑を出湯し、次いで、2チャージ目として溶銑のみを前記精錬炉に装入してこの溶銑に脱りん処理を施し、この脱りん処理後、前記精錬炉を出湯口側に倒炉して溶銑を出湯することとされている。
【0005】
特許文献3は、処理時間を延長させることなく、大量の鉄スクラップを迅速に溶解することを可能にすることを目的としている。具体的には、鉄スクラップのプレス屑を鉄源として溶解するに際し、溶解する前に前記プレス屑の内部に予め炭素源を混合させることとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-132809号公報
【特許文献2】特許5145736号公報
【特許文献3】特開2006-097048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、溶銑の脱りん吹錬では、固体酸素(FeO)やスクラップを転炉型容器に装入することが一般的である。このスクラップをより多く用いた方がFe分としては高くなり、出湯量を一定とした時に溶銑量を減らすことができ、さらにCO2の削減に寄与させることができる。
【0008】
一方で、スクラップの融点は溶銑よりも高いので、そのスクラップを転炉型容器に多量に装入すると、吹錬開始時にスクラップが完全溶解しない場合がある。
【0009】
スクラップと溶銑では、スクラップの方が高密度である。その高密度な固体が液体(溶銑)に存在する場合、撹拌強度が低下することが知られており、脱りん吹錬では処理後りん濃度の上昇や、鉄歩留の低下に伴う製造コストの悪化を招く虞がある。
【0010】
特許文献1は、スクラップの一部が溶け残っているものとされている。すなわち、特許文献1は技術的に異なる。このスクラップを溶け残らせておくことは、脱りん吹錬中の撹拌効率を低下させる虞があるため、反応速度が悪化する。また、溶け残ったスクラップは、系外に排出されるため、溶銑の顕熱がスクラップ昇熱に奪われることとなりロスが多い。そのため、スクラップを確実に溶解させた方が、CO2の削減効果としては大きい。さらに、溶け残ったスクラップは、系外に排出されるため、鉄歩留としては悪くなってしまい、生産性は極めて低くなる。
【0011】
特許文献2は、未溶解のスクラップを精錬炉内に残したまま溶銑を出湯するものとされている。すなわち、特許文献2は技術的に異なる。このスクラップを溶け残らせておくことは、脱りん吹錬中の撹拌効率を低下させる虞があるため、反応速度が悪化する。また、スクラップを溶け残らせるため、鉄歩留としては悪くなってしまい、生産性は極めて低くなる。
【0012】
特許文献3は、鉄スクラップを鉄源として溶解するに際し、Cを添加する操業であるため、製造コストが高くなる虞がある。
【0013】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、スクラップの多量溶解と、脱りん能および鉄歩留の向上の両立を可能とする溶銑の脱りん方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
【0015】
本発明にかかる溶銑の脱りん方法は、転炉型容器内に、式(1)で表されるスクラップ比率RSCを4.0%以上16.5%以下でスクラップを装入し、その後に溶銑を装入して、前記溶銑の脱りん処理を行う溶銑の脱りん方法において、前記溶銑の装入完了後に、前記転炉型容器を垂直に戻してから、前記溶銑の脱りん処理を開始するまでの時間t1の間隔を、0.95分以上とすることを特徴とする。
【0016】
【数1】
【0017】
好ましくは、前記溶銑を取鍋から前記転炉型容器へ装入を開始してから、前記溶銑の脱りん処理を開始するまでの時間t2を、3.05分以上とするとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の溶銑の脱りん方法によれば、スクラップの多量溶解と、脱りん能および鉄歩留の向上の両立を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】転炉型容器における溶銑の脱りん処理の操業工程表と、本発明の範囲(黒色太線で囲った枠内)の概略を模式的に示した図である。
図2A】スクラップの量が少ないなどの嵩が小さいときにおける転炉型容器にスクラップを装入した後の状況を模式的に示した図である。
図2B】スクラップの量が多いなどの嵩が大きいときにおける転炉型容器にスクラップを装入した後の状況を模式的に示した図である。
図3A】転炉型容器が傾動しているときにおける撹拌の状況を模式的に示した図である。
図3B】転炉型容器を垂直の状態に戻したときにおける撹拌の状況を模式的に示した図である。
図4】鉄歩留(%)と、溶銑の装入終了~吹錬開始までの時間t1(min)の関係を示した図である(本実施例1~6、比較例7)。
図5】鉄歩留(%)と、溶銑の装入開始~吹錬開始までの時間t2(min)の関係を示した図である(本実施例1~6、比較例8)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかる溶銑の脱りん方法の実施形態を、図を参照して説明する。
【0021】
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をも
って本発明の構成を限定するものではない。
【0022】
さて、従来では、スクラップ2を用いて溶銑3を脱りんするにあたり、スクラップ2の溶け残りが無いようにするため、スクラップ2の厚みや量をコントロールしていた。ところが、スクラップ2を多く用いたほうがFe分としては高くなり、出湯量を一定にしたときに溶銑量を減らすことができるといった有利な面があった。
【0023】
本発明の溶銑の脱りん方法は、あえて一定時間待ってから、脱りん処理を開始することとしている。本発明の溶銑の脱りん方法に従えば、スクラップ2の厚みや量などを多くすることができる。また、本発明は、熱ロスなどの影響も少ないものとなっている。
【0024】
以下に、本発明にかかる溶銑の脱りん方法について、詳しく説明する。
【0025】
本発明にかかる溶銑の脱りん方法は、転炉型容器1内にスクラップ2を装入する際、スクラップ比率RSCが4.0%以上となるようにする。その後、溶銑3を装入する。溶銑3の装入完了後に、転炉型容器1を垂直に戻してから、溶銑3の脱りん処理を開始するまでの時間t1の間隔を0.95分以上とする。その後、溶銑3の脱りん処理を行う。
【0026】
また、溶銑3を取鍋4から転炉型容器1へ装入を開始してから、溶銑3の脱りん処理を開始するまでの時間t2を3.05分以上とする。
【0027】
詳しくは、溶銑3の脱りん処理を行うに際して、転炉型容器1内に、式(1)で表されるスクラップ比率RSCを、4.0%以上16.5%以下でスクラップ2を装入する。その後、溶銑3を装入する。
【0028】
【数2】
【0029】
なお、式(1)のパラメータの定義については、後述する表1を参照するとよい。
【0030】
一般に、転炉の操業においては、転炉型容器1内にスクラップ2を装入した後に、溶銑3を装入して脱りん処理をする場合、そのスクラップ2を含む溶銑3に対して、脱りん反応に必要なCaO源を含む石灰と、石灰の溶融に寄与する酸化鉄源(FeO)を炉内へ投入する。
【0031】
溶銑3とスラグ7を均一に混合するため、転炉型容器1の炉口に挿入された吹錬用上吹きランス5より、溶銑3に向けて気体酸素を吹き付けるとともに、転炉型容器1の底部に配備されている底吹き羽口6から、不活性ガス(底吹きガス)を吹き込んで溶銑3を攪拌する吹錬を行っている(図1を参照)。なお、脱りん処理時の溶銑3の温度は、1300~1400℃である。また、本実施形態の精錬容器については、転炉型容器1を対象とする。
【0032】
高炉から出銑された溶銑3は、不純物であるりんを含んでいるため、脱炭吹錬の前に、転炉型容器1にて脱りん処理を行うのが一般的である。転炉型容器1での脱りん処理としては、石灰と固体酸素(酸化鉄)を副原料として溶銑3へ投入する。なお、脱りん反応については、以下の式で表される。
【0033】
3(CaO)+2[P]+5FeO→3(CaO・P2O5)+5Fe(l)
また、主原料として溶銑3以外にスクラップ2を用いる場合、脱りん吹錬は脱炭吹錬と異なり、処理の温度が低いため、スクラップ2の溶解促進の観点では、溶け残ってしまう可能性が有る。そのスクラップ2の溶け残りがないように、脱りん処理では、厚みの薄いスクラップ2を用いることが一般的である。
【0034】
なお、本実施形態においては、例えば、製鉄所内で発生するトリミング屑、板屑、コイル屑などを比較的に薄い厚みのスクラップ2として用いるとよい。また、参考に「一般社団法人 日本鉄リサイクル工業会」で示されている規格を見ると、炭素鋼スクラップのヘビー(品種)のH2~H4(等級)が、本発明においては対象としている。
【0035】
しかしながら、薄いスクラップ2を多量に用いると転炉型容器1内で嵩が大きくなり、
溶銑装入時の溶銑3とスクラップ2の接触時間の観点で、嵩が大きくなると、スクラップ2の溶解には不利になる。
【0036】
上記の反応を促進させるための方策の1つとして、溶銑3の撹拌が重要であるが、スクラップ2-溶銑3のように液体比重よりも重い固体を液体に入れた場合、均一混合時間が悪化することが知られており(例えば、参考文献:「樋口ら, CAMP-ISIJ, Vol.32, 2019,
141」などを参照)、撹拌動力密度が低下する。
【0037】
この撹拌動力密度の低下は、脱珪酸素効率の低下、脱りん酸素効率の低下による脱りん能の悪化、スラグフォーミング増加による鉄歩留の悪化などを招いてしまう。例えば、脱りん能の低下は、後工程での必要な酸素量が増えることにより、CO2発生量の増加や、必要な副原料も増えてしまい、コスト面でデメリットがある。また、鉄歩留の低下についても、生産量が落ちるだけではなく、CO2発生量の原単位が増えてしまい、デメリットが大きい。
【0038】
そこで、吹錬中の撹拌効率を低下させることなく、スクラップ2を溶解する必要がある。例えば、スクラップ2が残存していることによる撹拌効率の低下を、安価に抑制するための方策として、脱りん処理を開始するまでに、スクラップ2を十分に溶銑3に溶解させておくことが考えられる。
【0039】
また、スクラップ比率RSCが16.5%までは液相線温度以上を保つため、保持することでのスクラップ2の溶解の促進が見込まれる。しかしながら、スクラップ比率RSCが16.5%を超えると、溶銑温度は液相線温度以下となり、溶銑3が凝固してしまい操業弊害がでてしまう虞がある。すなわち、スクラップ2を十分に溶銑3に溶解させておくことができる上限が、スクラップ比率RSC:16.5%以下となる。
【0040】
以上の実操業や設備の制約などの観点から、本実施形態では、スクラップ比率RSCの上下限について、4.0%以上16.5%以下と規定している。
【0041】
本発明では、脱りん処理の前にスクラップ2を溶解させるため、溶銑3の装入完了後、転炉型容器1を垂直に戻してから、脱りん処理を開始するまでの時間t1を、0.95分以上14.95分以下とする。
【0042】
一般的に、脱りん処理を行うときには、底吹きノズル6からガス撹拌を行うことが、一般的である。また、溶銑3を装入する工程については、転炉型容器1を傾動させ、取鍋4(溶銑鍋)から溶銑3を装入し、装入後に転炉型容器1を垂直に戻す流れとなっている。
【0043】
溶銑3を装入している間は、底吹きノズル6への溶銑3の差し込みを防ぎつつ、溶銑3のスプラッシュが起きない流量でガスを流通させる。つまり、溶銑3を装入している間は、底吹きノズル6からガスを少し吹き出しておく。
【0044】
この転炉型容器1を垂直した状態で、底吹きノズル6の位置から溶銑面3までの高さが最も高く且つ、撹拌動力密度を最大とするためには、この時間t1を確保することが、脱りん処理の前にスクラップ2が溶解することとなり、脱りん処理中の撹拌力低下の抑制につながる。
【0045】
上記の影響を調査した結果、転炉型容器1が垂直に戻してから吹錬を開始するまでに、すなわち時間t1の間隔を0.95分(57秒)以上設ける必要があることが分かった。
【0046】
なお、時間t1の下限値については、0.95分を下回った場合、溶け残ったスクラップ2の影響により、撹拌効率が低下してしまい、鉄歩留も低下する。
【0047】
一方、時間t1の上限値については、サイクルタイムが延長され、溶銑3の脱りん比率の低下に伴うコストアップが懸念されるため、サイクルタイムの許容範囲(例えば、14.95分以下)に収めることが効率的である。なお、時間t1の上限を14.95分以下に規定していることについては、後述する時間t2の規定に基づいて導き出したものである。
【0048】
以上の実操業や設備の制約などの観点から、溶銑3の装入完了後、転炉型容器1を垂直に戻してから脱りん処理を開始するまでの時間t1について、0.95分以上14.95分以下と規定している。
【0049】
また、本発明では、溶銑3を取鍋4から転炉型容器1に装入を開始してから、脱りん処理を開始するまでの時間t2を、3.05分以上18.00分以下とする。
【0050】
さらに、溶銑3の装入中の時間を確保することも、スクラップ2の溶解には寄与するこ
とがわかっている。この溶銑3の装入時間と吹錬開始までの時間の合計時間t2を確保することが、最もスクラップ2による撹拌効率への影響が低くなる。
【0051】
そこで、この時間t2の影響を評価すると、3.05分(3分3秒)以上が必要であることが分かった。
【0052】
また、時間t2の上限については、例えば、特開2006-97048号公報を参照すると最長で18分となっており、当業者間では長くとも前述の時間までにすることが適切であるとされている。このように、時間t2の上限値については、実操業や設備の制約などの観点から、18.00分以下と規定している。
【0053】
また、このことから、上記した時間t1の上限については、18.00分-3.05分(時間t2の下限)=14.95分以下としている。すなわち、脱りん吹錬の比率を下げないという観点から、脱りん吹錬を開始するまでの時間を、本発明で規定したt1,t2の範囲内に収めることが好ましい。
【0054】
表1に、式(1)および式(2)で用いられるパラメータを示す。
【0055】
【表1】
【0056】
ここで、転炉型容器1における溶銑3の脱りん処理の操業工程について説明する。
【0057】
図1に、転炉型容器1における溶銑3の脱りん処理の操業工程表と、本発明の範囲(黒色太線で囲った枠内)を示す。
【0058】
図1に示すように、溶銑3の装入工程について、本実施形態では、溶銑3が転炉型容器1に入り始めた状態を、溶銑3の装入開始と定義する。
【0059】
転炉型容器1を傾転させ、スクラップ2を装入し、その後溶銑3の装入を開始する。転炉型容器1を傾転させながら溶銑3の装入を継続する。
【0060】
転炉型容器1を傾動状態から垂直の状態に戻す。この転炉型容器1が垂直の状態に戻ったときを、溶銑3の装入終了と定義する。
【0061】
次に、薄物のスクラップ2を装入したときの課題について説明する。
【0062】
図2Aに、スクラップ2の量が少ないなどの嵩が小さい時における転炉型容器にスクラップを装入した後の状況を示す。
【0063】
図2Aに示すように、スクラップ2の量が少ないとき、もしくは、スクラップ2の厚みが厚いものが装入されているなど、スクラップ2の嵩が小さいときは、転炉型容器1内に分散されるスクラップ2は狭い範囲となるため、スクラップ2と溶銑3との接触はしやすい。
【0064】
図2Bに、スクラップ2の量が多いなどの嵩が大きい時における転炉型容器1にスクラップ2を装入した後の状況を示す。
【0065】
図2Bに示すように、スクラップ2の量が多い時、もしくは、スクラップ2の厚みが薄いものが装入されているなど、スクラップ2の嵩が大きいときは、転炉型容器1内に分散されるスクラップ2は広い範囲となるため、スクラップ2の表層部に溶銑面3が接触するまでの時間は長くなる。
【0066】
本発明は上記を対象とした技術であり、このスクラップ2の表層部に到達した溶銑3との接触時間t1を確保することが本発明の特徴である。
【0067】
以下に、転炉型容器1における撹拌動力密度のイメージについて説明する。
【0068】
図3Aに、転炉型容器1が傾動しているときにおける撹拌の状況を示す。
【0069】
図3Aに示すように、底吹きノズル6は、炉底部についていることが一般的である。転炉型容器1が傾動しているときは、底吹きノズル6の位置から溶銑表面までの深さが浅く、撹拌動力密度としては低くなる。
【0070】
図3Bに、転炉型容器1を垂直の状態に戻したときにおける撹拌の状況を示す。
【0071】
図3Bに示すように、転炉型容器1が垂直の状態になったとき、底吹きノズル6から溶銑面3までの深さは最も深くなるため、撹拌動力密度は最大となる。すなわち、スクラップ2の溶解に効果的な因子の1つとして、撹拌動力密度が高いことが上げられる。そのため、この転炉型容器1の垂直状態を長く確保することが重要である。
【0072】
ここで、転炉型容器1の垂直状態の定義について述べる。
【0073】
転炉型容器1の垂直状態は、3°程度の誤差があるのが一般的である。このことより、本実施形態では、87~103°までを、転炉型容器1の垂直状態と定義してよいものとする。また例えば、容器は異なるが、特開2015-34346号公報(3~8°を傾斜としている)などを参照するとよい。
[実施例]
以下に、本発明の溶銑の脱りん方法に従って実施した実施例及び、本発明と比較するために実施した比較例について、説明する。
【0074】
本実施例における実施条件については、以下の通りである。
【0075】
【表2】
【0076】
なお、本明細書に記載した実施の形態は本発明の例示であって、これに限定されるものではない。
【0077】
【表3】
【0078】
表4に、本発明の溶銑の脱りん方法に従って実施した実施例、および比較例を示す。を示す。なお、表4は、実施条件までを示したものである。表5は、実施結果を示したものである。
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】
【0081】
表4、表5に示すように、本実施例1は、規定の4.0%以上16.5%以下を満たすようにスクラップ比率RSCを5.1%とし、溶銑3の装入完了後に、転炉型容器1を垂直に戻してから、溶銑3の脱りん処理を開始するまでの時間t1が1.80分(1分48秒)で規定の0.95分以上14.95分以下を満たし、溶銑3を取鍋4から転炉型容器1へ装入開始してから、脱りん処理を開始するまでの時間t2が3.48分で規定の3.05分以上18.00分以下を満たすことで、鉄歩留が98.47%で98.2%以上となり、鉄歩留の向上という良好な結果を得られた。
【0082】
本実施例2は、スクラップ比率RSCを7.4%とし、時間t1が1.40分で規定の0.95分以上14.95分以下を満たし、時間t2が3.50分で規定の3.05分以上18.00分以下を満たすことで、鉄歩留が98.40%で98.2%以上となり、鉄歩留の向上という良好な結果を得られた。
【0083】
本実施例3は、スクラップ比率RSCを4.7%とし、時間t1が1.70分で規定の0.95分以上14.95分以下を満たし、時間t2が3.73分で規定の3.05分以上18.00分以下を満たすことで、鉄歩留が98.31%で98.2%以上となり、鉄歩留の向上という良好な結果を得られた。
【0084】
本実施例4は、スクラップ比率RSCを4.7%とし、時間t1が0.97分で規定の0.95分以上14.95分以下を満たし、時間t2が3.22分で規定の3.05分以上18.00分以下を満たすことで、鉄歩留が98.24%で98.2%以上となり、鉄歩留の向上という良好な結果を得られた。
【0085】
本実施例5は、スクラップ比率RSCを4.8%とし、時間t1が0.95分で規定の0.95分以上14.95分以下を満たし、時間t2が3.18分で規定の3.05分以上18.00分以下を満たすことで、鉄歩留が98.83%で98.2%以上となり、鉄歩留の向上という良好な結果を得られた。
【0086】
本実施例6は、スクラップ比率RSCを4.5%とし、時間t1が1.15分で規定の0.95分以上14.95分以下を満たし、時間t2が3.08分で規定の3.05分以上18.00分以下を満たすことで、鉄歩留が98.22%で98.2%以上となり、鉄歩留の向上という良好な結果を得られた。
【0087】
一方、比較例7は、時間t1が0.92分で規定の0.95分以上14.95分以下を満たさないため、鉄歩留が98.10%で98.2%を下回り、鉄歩留が悪化した。
【0088】
比較例8は、時間t2が2.93分で規定の3.05分以上18.00分以下を満たさないため、鉄歩留が96.94%で98.2%を下回り、鉄歩留が悪化した。
【0089】
比較例9は、時間t1が0.93分で規定の0.95分以上14.95分以下を満たさず且つ、時間t2が2.93分で規定の3.05分以上18.00分以下を満たさないため、鉄歩留が97.23%で98.2%を下回り、鉄歩留が悪化した。
【0090】
比較例10は、時間t1が0.88分で規定の0.95分以上14.95分以下を満たさず且つ、時間t2が2.80分で規定の3.05分以上18.00分以下を満たさないため、鉄歩留が98.07%で98.2%を下回り、鉄歩留が悪化した。
【0091】
さて、本発明の効果の指標については、鉄歩留で行った。鉄歩留の定義を式(2)に示す。
【0092】
【数3】
【0093】
なお、パラメータの定義については、表1を参照するとよい。
【0094】
図4に、鉄歩留(%)と、溶銑3の装入終了~吹錬開始までの時間t1(min)の関係を示す(本実施例1~6、比較例7)。
【0095】
図4に示すように、本実施例の結果から、溶銑3の装入完了後に、転炉型容器1を垂直に戻してから、溶銑3の脱りん処理を開始するまでの時間t1が0.95分以上であれば、鉄歩留が著しく向上していることが分かる。
【0096】
また、時間t1において、処理後のりん濃度については変わっておらず、比較例ではスクラップ2による撹拌強度の低下によりスラグ7のFeOの還元が遅い一方で、脱りんに有利なスラグ組成となり、大きくは変わらなかったものと考えられる。
【0097】
図5に、鉄歩留(%)と、溶銑3の装入開始~吹錬開始までの時間t2(min)の関係を示す(本実施例1~6、比較例8)。
【0098】
図5に示すように、本実施例の結果から、溶銑3を取鍋4(溶銑鍋)から転炉型容器1へ装入開始してから、脱りん処理を開始するまでの時間t2が3.05分以上であれば、鉄歩留が著しく向上していることが分かる。
【0099】
また、時間t2においても、処理後のりん濃度については変わっておらず、比較例ではスクラップ2による撹拌強度の低下によりスラグ7のFeOの還元が遅い一方で、脱りんに有利なスラグ組成となり、大きくは変わらなかったものと考えられる。
【0100】
まとめると、本発明は、転炉型容器1内に、上記の式(1)で表されるスクラップ比率RSCを4.0%以上16.5%以下でスクラップ2を装入し、その後に溶銑3を装入して、溶銑3の脱りん処理を行う溶銑の脱りん方法において、溶銑3の装入完了後に、転炉型容器1を垂直に戻してから、溶銑3の脱りん処理を開始するまでの時間t1の間隔を0.95分以上14.95分以下とする。また、溶銑3を取鍋4から転炉型容器1へ装入開始してから、脱りん処理を開始するまでの時間t2を3.05分以上18.00分以下とする。
【0101】
以上、本発明の溶銑の脱りん方法によれば、スクラップ2の多量溶解と、脱りん能および鉄歩留の向上の両立を可能とする。
【0102】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0103】
1 転炉型容器
2 スクラップ
3 溶銑
4 取鍋
5 上吹きランス
6 底吹き羽口
7 スラグ
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5