(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015183
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】水性ボールペン用インク組成物および水性ボールペン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/18 20060101AFI20250123BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20250123BHJP
B01J 13/16 20060101ALN20250123BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K7/00
B01J13/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118412
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】松尾 浩志
【テーマコード(参考)】
2C350
4G005
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350NA01
4G005AA01
4G005AB14
4G005BA02
4G005DC13Y
4G005DC46Y
4G005DC50Y
4G005DD04Z
4G005DD05Z
4G005DD08Y
4G005DD08Z
4G005DD12Z
4G005DD34Z
4G005DD35Z
4G005DD38Z
4G005DD53Y
4G005DD57Y
4G005DD58Z
4G005DD59Y
4G005EA08
4J039AD09
4J039AE04
4J039AE09
4J039BA04
4J039BC60
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE15
4J039BE22
4J039BE30
4J039CA06
4J039EA36
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】てかりを抑制するとともに、マット感と発色性に優れ、かつ、優れた耐擦過性を有する描線を書くことができる水性ボールペン用インク組成物を提供する。
【解決手段】色材と、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、ウレア/ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂およびオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂粒子とを含有し、インク組成物中の非水溶性成分全体に占める、粒子径2μm以上の粒子の割合(%)が体積基準で8%以上であり、粒子径4μm以上の粒子の割合(%)が体積基準で3%以上であることを特徴とする水性ボールペン用インク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材と、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、ウレア/ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂およびオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂粒子とを含有し、
インク組成物中の非水溶性成分全体に占める、粒子径2μm以上の粒子の割合(%)が体積基準で8%以上であり、粒子径4μm以上の粒子の割合(%)が体積基準で3%以上であることを特徴とする水性ボールペン用インク組成物。
【請求項2】
前記樹脂粒子のうち少なくとも一種が、コアシェル型のマイクロカプセルであり、前記マイクロカプセルの粒子膜の厚さが50~900nmであり、粒子径が1~30μmである、請求項1に記載の水性ボールペン用インク組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水性ボールペン用インク組成物を搭載した水性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マットな質感で描線の耐擦過性にも優れる水性ボールペン用インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
描線の滲みを防止するとともに、耐擦過性、隠蔽性および滑らかな書き味を有する筆記具用インク組成物が開発されている。耐擦過性および書き味の滑らかな水性インク組成物として、特許文献1、2では、酸化チタン等の顔料粒子、体質材、凝集分散剤、凝集コントロール剤、自己架橋型樹脂エマルション、ポリオレフィン樹脂粒子および溶媒を含み、20℃における粘性指数nが0.6~1.0である筆記具用水性インキ組成物(特許文献1)や、顔料粒子、体質材、凝集分散剤、凝集コントロール剤、アクリル樹脂および溶媒を含み、20℃における粘性指数nが0.6~1.0である筆記具用水性インキ組成物が開示されている(特許文献2)。また、光輝性顔料粒子、ポリオレフィン樹脂粒子、弾性重合体、水溶性アクリルポリマーおよび溶媒を含み、前記弾性重合体がガラス転移温度(Tg)1~70℃である、スチレン-ブタジエンエラストマーまたはアクリル系エラストマーであり、20℃における粘性指数nが0.7~1.0である筆記具用水性インキ組成物も開示されている(特許文献3)。これらの水性インキ組成物では、平均粒子径が0.1~35μmの比較的大きなポリオレフィン樹脂粒子を添加することで、筆記線に高い滑性および耐擦過性を付与している。
【0003】
隠蔽性が高く、鮮明な筆跡を長期に渡り維持できるインキ組成物として、所定の大きさの複合粒子を配合した報告例もある(特許文献4、5)。特許文献4では、高分子樹脂中に酸化チタンや酸化亜鉛等の隠蔽性粒子を分散させた平均粒子径200μm以下の複合粒子を含有する筆記具用インキ組成物が開示されている。特許文献5では、隠蔽性粒子と、シリカ、アマニ油およびトール油の中から選ばれる少なくとも一種である構造粘性付与剤とが溶媒に分散された分散体が封入された平均粒子径200μm以下のマイクロカプセル粒子を含有する筆記具インキ組成物が開示されている。これらの文献では、複合粒子またはマイクロカプセル粒子を配合することで、隠蔽性や良好な書き味に安定性や流出性をインクに付与している。
【0004】
描線の隠蔽性の他に、描線のてかりを抑えた報告例もある(特許文献6)。中空状や扁平状で平均粒子径1.5μm以下の白色樹脂粒子が2.5~50重量%と、造膜性樹脂エマルションが固形分で2.5~50重量%含まれる水性インキ組成物では、白色樹脂粒子と造膜性樹脂エマルションとの比を固形分で1:0.2~1:3にすることで、盛り上がった立体状でかつ艶が消えた筆跡を形成することができる。
【0005】
しかしながら、これらの文献はいずれも、フェルトペン用などのインク組成物に関するものであり、水性ボールペン用インク組成物については、耐擦過性や滑らかな書き味、鮮明な筆跡を実現するための最適化が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6602199号公報
【特許文献2】特許第6509649号公報
【特許文献3】特許第6559480号公報
【特許文献4】特許第4762509号公報
【特許文献5】特許第4756836号公報
【特許文献6】特開2006-70236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、マットな質感で発色が良く、かつ、筆記描線の耐擦過性に優れた水性ボールペン用インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水性ボールペン用インク組成物は、色材と、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、ウレア/ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂およびオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂粒子とを含有し、インク組成物中の非水溶性成分全体に占める、粒子径2μm以上の粒子の割合(%)が体積基準で8%以上であり、粒子径4μm以上の粒子の割合(%)が体積基準で3%以上である。
前記樹脂粒子のうち少なくとも一種は、コアシェル型のマイクロカプセルであり、前記マイクロカプセルの粒子膜の厚さは50~900nmであり、粒子径が1~30μmであることが好ましい。
本発明の水性ボールペンは、前記水性ボールペン用インク組成物を搭載したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、てかりを抑制したマットな質感で発色が良く、かつ、筆記描線の耐擦過性に優れた水性ボールペン用インク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の水性ボールペン用インク組成物について、詳細に説明する。
本発明の水性ボールペン用インク組成物(以下単に「インク組成物」ともいう。)は、色材と、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、ウレア/ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂およびオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂粒子とを含有する。
【0011】
本発明に用いる色材としては、従来公知の染料、無機系および有機系の顔料ならびに樹脂粒子顔料が用いられる。
染料には、水に溶解または分散する種々の染料を使用することができる。具体的には、メチルバイオレットおよびローダミン等の塩基性染料;アシッドレッド52、エオシン(食用赤色103号)、フオキシン(食用赤色104号)、ブリリアントブルーFCF、ウォーターイエロー6-Cおよびウォーターブルー105等の酸性染料;ダイレクトスカイブルー5B、ダイレクトバイオレットBBおよびダイレクトブラック154等の直接染料が挙げられる。
【0012】
顔料は、筆記具用水性インクに通常使用される無機系および有機系顔料を特に制限なく使用することができる。具体的には、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化クロムおよび群青等の無機系顔料;ペリレン系顔料、ペリノン顔料、染料レーキ、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ニトロ顔料およびニトロソ顔料等の有機系顔料が挙げられる。
前記無機系および有機系顔料は、プラスチックピグメント、もしくは発色性および分散性に優れる塩基性染料で染色した樹脂粒子(擬似顔料)の形態であってもよいし、白色顔料として、粒子内部に空隙のある中空樹脂粒子の形態であってもよい。
前記した色材のうち、水性インク組成物中での分散性に優れ、比重や粒子径の調節が容易である点から、カーボンブラック、酸化チタン、有機系顔料、またはこれらの擬似顔料等が好ましい。なお、カーボンブラックには、三菱カーボンブラック#40(三菱ケミカル社製)などの市販品が用いられる。
前記した染料や顔料は、筆記具用水性インクに通常使用されるものであれば、その種類には特に制限はない。また、種々の市販品を使用することができる。
【0013】
色材には、筆跡にマットな質感や耐擦過性を付与する点から、通常は平均粒子径70~3500nmのものを用いる。樹脂粒子との配合バランスを考慮に入れると、平均粒子径70~1500nmとすることが好ましい。
本発明のインク組成物における色材の含有量は、通常1~30質量%、好ましくは5~20質量%である。
【0014】
本発明に用いる樹脂粒子には、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、ウレア/ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂およびオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種が用いられる。
ウレタン樹脂、ウレア樹脂、およびウレア/ウレタン樹脂は、イソシアネート成分とアミン成分またはアルコール成分とが反応して形成される樹脂である。メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとが重縮合して形成される合成樹脂である。アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルの重合体である。オレフィン樹脂は、エチレンおよびプロピレンなどのアルケンをモノマーとして合成される樹脂である。
【0015】
ウレタン樹脂、ウレア樹脂、ウレア/ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂およびオレフィン樹脂の粒子径は、筆跡にマットな質感や耐擦過性を付与する点から、通常は1~30μmとする。前記した色材との配合バランスを考慮に入れると、5~20μmとすることが好ましい。
【0016】
前記ウレタン樹脂、ウレア樹脂、ウレア/ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂およびオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂粒子のうち、少なくとも一種は、コアシェル型のマイクロカプセルであることが好ましい。加えて、前記マイクロカプセルの粒子膜の厚さは50~900nm、粒子径は1~30μmであることが好ましい。前記粒子膜の厚さは100~700nm、前記粒子径は5~20μmであることがより好ましい。
コアシェル型のマイクロカプセルは、例えば、非水溶性の溶媒やワックス等の芯物質をウレタン樹脂等の壁物質で被覆した粒子である。マイクロカプセル化は、用途に応じて、例えば、界面重合、界面重縮合、insitu重合、液中硬化被覆、流体系の相分離、融解分散冷却、気中懸濁被覆、およびスプレードライにより行うことができる。
【0017】
本発明のインク組成物における前記樹脂粒子の含有量は、通常1~30質量%、好ましくは1~15質量%である。
【0018】
本発明のインク組成物は、通常、前記した色材および樹脂粒子を水溶性溶剤に溶解または分散させた状態である。
水溶性溶剤は、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコールおよびグリセリン等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等である。
インク組成物中、水溶性溶剤の含有量は、通常は3~30質量%である。
【0019】
本発明の水性ボールペン用インク組成物は、色材と、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、ウレア/ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂およびオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂粒子とを含有し、インク組成物中の非水溶性成分全体に占める、粒子径2μm以上の粒子の割合(%)が体積基準で8%以上であり、粒子径4μm以上の粒子の割合(%)が体積基準で3%以上である。
ここで、本発明のインク組成物の非水溶性成分全体の体積基準の粒子径分布において、インク組成物中の粒子の性状は、粒子の大きさによって散乱光強度の散乱角度依存性(散乱パターン)が変わるという現象を利用したレーザー回折/散乱法により算出される。なお、「粒子径」とは、粒子径分布解析装置マイクロトラックHRA9320-X100(日機装社製)を用いて、屈折率1.81、体積基準で算出された粒子径のことである。さらにインク組成物中の非水溶性成分全体に占める粒子の割合(%)についても、前記した測定方法で体積基準で算出される。
【0020】
また「粒子」は、前記したウレタン樹脂、ウレア樹脂、ウレア/ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂およびオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂粒子を含めて、インク組成物における粒子径2μm以上または粒子径4μm以上の粒子を指す。平均粒子径2μm以上および平均粒子径4μm以上の粒子の割合(%)をそれぞれ体積基準で8%以上および3%以上の範囲にするために、前記樹脂粒子以外に、粒度分布が既知の市販材料、例えばケミパールW401、ケミパールW800およびケミパールW900(三井化学社製)ならびにMX-500L、MX-1000(綜研化学社製)、等を添加してもよい。
【0021】
粒子径2μm以上の粒子の割合(%)は、体積基準で8%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、その上限は概ね70%以下、好ましくは50%以下である。粒子径4μm以上の粒子の割合(%)は、体積基準で3%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、その上限は、概ね25%以下、好ましくは20%以下である。
【0022】
粒子径2μm以上の粒子および粒子径4μm以上の粒子の割合(%)が前記範囲であるとき、インク組成物で描いた筆跡が微細な凹凸を形成し、マット感(艶消し効果)が得られる。また、インク組成物全体における、粒子径2μm以上の粒子および粒子径4μm以上の粒子の割合(%)が前記範囲であることで、書き味を損ねることなく耐擦過性を向上させることができる。粒子径2μm以上および4μm以上の粒子の割合(%)が体積基準でそれぞれ8%未満および3%未満であると、インク組成物で描いた筆跡が微細な凹凸を十分に形成せず、マット感(艶消し効果)が得られない。一方、粒子径2μm以上および4μm以上の粒子の割合(%)が過大であると、インクの吐出性が悪くなり、書き味が重く、描線が掠れることがある。
【0023】
前記粒子がマイクロカプセルである場合、その粒子膜の厚さは50~900nmが好ましく、100~700nmがより好ましい。粒子膜の厚さが前記範囲にあるとき、粒子は適度な強度を有し、吐出性が向上する。
【0024】
本発明における樹脂粒子の粒子膜の測定は、凍結された樹脂粒子の断面画像を画像解析することによって行うことができる。具体的には、凍結乾燥器(RLE-III-103、共和真空技術社製)を用いて、分散された樹脂粒子を凍結乾燥し、観察試料を得た後、エポキシの二液硬化樹脂を用いて試料を包埋し、断面試料作製装置(冷却クロスセクションポリッシャIB-19520CCP、日本電子社製)を用いて断面を作製した。その後、得られた断面を走査電子顕微鏡(セミインレンズFE-SEM S-4700、日立ハイテク社製)により、体積基準粒子径が2μm以上の粒子を10個選択し、選択した個々の樹脂粒子を観察し、5点の粒子膜の平均値を算出する。選択した個々の粒子膜を平均することにより樹脂粒子の平均粒子膜を得ることができる。
【0025】
前記インク組成物は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の添加剤を含有することができる。添加剤としては香料、増粘剤、pH調整剤、防錆剤、潤滑剤、濡れ剤、分散剤、気泡抑制剤、消泡剤および防腐剤等が挙げられる。
【0026】
香料は、水性ボールペンに香りを付与するものであり、非水溶性でかつ、耐擦過性など、本発明の効果を損なわないものであれば、その成分は制限されるものではない。香料は、イソシアネート成分とアミン成分またはアルコール成分とを反応させて、前記したウレタン樹脂、ウレア樹脂、およびウレア/ウレタン樹脂を製造するに際して、適量を添加してもよい。
【0027】
増粘剤には、合成高分子、セルロースおよび多糖類が用いられる。具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、架橋型アクリル酸重合体、セルロースおよびその誘導体、キサンタンガム、レオザンガム、ウェランガム、ジェランガムならびにスクシノグリカン等である。
【0028】
pH調整剤は、例えば、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、尿素、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウム等である。pH調整剤を適宜添加することで、本発明のインク組成物のpH(25℃)を6~9.5の範囲に調整することが好ましい。
【0029】
防錆剤は、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライトおよびサポニン類等である。
潤滑剤は、例えば、多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、およびアルキル燐酸エステル等のノニオン系界面活性剤;リン酸エステル、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、およびアルキルアリルスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤;ポリアルキレングリコールの誘導体およびポリエーテル変性シリコーン等、顔料の表面処理に用いる潤滑剤が挙げられる。
【0030】
濡れ剤は、例えば、リン酸エステル、フッ素系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤、およびシリコーン系界面活性剤等である。濡れ剤は、筆記面上でのインク組成物のはじきを抑制するために使用される。
【0031】
分散剤には、水溶性高分子の他に、前記したノニオン系界面活性剤およびアニオン系界面活性剤が用いられる。
気泡抑制剤は、例えば、システイン、グルタチオン、ヒドロキシルアミン、アスコルビン酸、エリソルビン酸およびこれらの塩、ならびにN-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー等である。
【0032】
消泡剤は、例えば、シリコーン系のエマルション型、オイル型、またはオイルコンパウンド型等があるが、シリコーン系のエマルションを油性溶剤との組み合わせて用いることが好ましい。
防腐剤は、例えば、安息香酸ナトリウム、ナトリウムオマジン、チアゾリン系化合物およびベンズイミダゾール系化合物等である。
前記した添加剤は一種単独でも二種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明のインク組成物は、前記した色材、樹脂粒子、水溶性溶剤、その他の添加剤を水性ボールペン用インクの用途に応じて適宜組み合わせて、ホモミキサー、ホモジナイザーまたはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することにより、さらに必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去することにより調製することができる。
【0034】
本発明のインク組成物では、剪断速度383sec-1における粘度が25℃で通常1~100mPa・sであり、30~50mPa・sであることが好ましい。前記剪断速度における粘度が100mPa・sを超えると、インク流量が低いために、筆感が重く、滑らかに書きづらくなる。一方、1mPa・s未満であると、筆跡の滲みや裏抜けが生じやすい。
【0035】
筆記性やインク安定性の点から、25℃における383sec-1の粘度は1~100mPa・sでかつ、粘性指数nは0.1~0.8とすることが好ましく、前記粘度を1~80mPa・sとし、かつ、粘性指数nを0.2~0.75とすることがより好ましい。粘性指数nは、非ニュートン性流体の擬塑性を表す指標であり、オストワルド型粘度計を用いて、剪断速度と見かけ粘度の関係から算出される。
【0036】
本発明のインク組成物を用いることで、てかりを抑えたマットな質感で発色の良い筆記線を書くことができ、かつ、筆記線の耐擦過性にも優れる。
【0037】
本発明の水性ボールペンは、前記インク組成物を搭載したものである。前記インク組成物を0.15~2.0mm径のボールを備えたインク収容体(リフィール)に充填し、次いでその後端にポリブテン、シリコーンオイルおよび鉱油等のインク追従体を充填する。このリフィールをボールペンチップなどのペン先部を備えたボールペンの軸筒に収容することで水性ボールペンが得られる。
水性ボールペンの構造は、特に制限されるものではなく、軸筒自体をリフィールとして該軸筒内にインク組成物を充填した直液式の水性ボールペンであってもよい。
【実施例0038】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0039】
〔水性ボールペン用インク組成物の調製〕
実施例1~3および比較例1~4で使用した色材および樹脂粒子の製造方法を以下に示す。
〔製造例1:ウレタン系着色樹脂粒子Aの製造〕
油相溶液として、エチレングリコールモノベンジルエーテル11.6部と分散剤(DISPERBYK-111、ビックケミー・ジャパン社製)1.8部とを60℃に加温しながら、顔料(カーボンブラック、CabotMogul L、キャボット社製)2.0部と、シナジスト(フタロシアニン顔料誘導体、ソルスパース5000、ルーブリゾール社製)0.2部とを加えて十分分散させた。次いで、ここにプレポリマーとしてキシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(タケネートD110N、三井化学社製)9.0質量部を加えて、油相溶液を調製した。
水相溶液としては、蒸留水600質量部を60℃に加温しながら、ここに分散剤としてポリビニルアルコール(PVA-205、クラレ社製)15質量部を溶解して、水相溶液を調製した。
60℃の水相溶液に油相溶液を投入し、ホモジナイザーで6時間撹拌することにより乳化混合して重合を完了した。得られた分散体を遠心処理することで着色樹脂粒子Aを得た。このウレタン系着色樹脂粒子Aの体積基準平均粒子径は、800nmであった。
【0040】
〔製造例2:ウレタン系着色樹脂粒子Bの製造〕
油相溶液として、エチレングリコールモノベンジルエーテル11.6部と分散剤(DISPERBYK-111、ビックケミー・ジャパン社製)1.8部とを60℃に加温しながら、顔料(カーボンブラック、CabotMogul L、キャボット社製)2.0部と、シナジスト(フタロシアニン顔料誘導体、ソルスパース5000、ルーブリゾール社製)0.2部とを加えて十分分散させた。次いで、ここにプレポリマーとしてキシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(タケネートD110N、三井化学社製)9.0質量部を加えて、油相溶液を調製した。
水相溶液としては、蒸留水600質量部を60℃に加温しながら、ここに分散剤としてポリビニルアルコール(PVA-205、クラレ社製)10質量部を溶解して、水相溶液を調製した。
60℃の水相溶液に油相溶液を投入し、ホモジナイザーで6時間撹拌することにより乳化混合して重合を完了した。得られた分散体を遠心処理することで着色樹脂粒子Bを得た。このウレタン系着色樹脂粒子Bの体積基準でのメジアン径は、2.0μmであった。
【0041】
〔製造例3:ウレタン系樹脂粒子Cの製造〕
顔料およびシナジストを加えないこと以外は、製造例2と同様にして、ウレタン系樹脂粒子Cを製造した。ウレタン系樹脂粒子Cの体積基準でのメジアン径は、5.5μmであった。
【0042】
〔製造例4:メラミン系樹脂粒子Eの製造〕
スチレン‐無水マレイン酸共重合体(A-C573A、573P、ハネウェル社製)を少量の水酸化ナトリウムと共に溶解して調製したpH4.5の5重量%水溶液300重量部中に、レモン香料(PH‐6968、高砂香料工業社製)200重量部を加え、日本精機製ウルトラホモジナイザーを用いて乳化した。
一方、メラミン20重量部及び37重量%ホルマリン45重量部を水35重量部に加え、さらに20重量%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0に調整し、80℃で30分間加熱して、メチロールメラミン水溶液を調製した。
次に、このメチロールメラミン水溶液を、前記のエマルションに加え、75℃で2時間混ぜ合わせてレモン香料を内包したメラミン樹脂壁膜を有するマイクロカプセル分散液を得た。このマイクロカプセルの粒径をマイクロトラックHRA9320-X100(日機装社製)を用いて測定したところ、体積粒径分布におけるメジアン径が6.0μmであり、2μm以上の粒子の割合が90%であった。
【0043】
実施例1~3および比較例1~4のインク組成物の調製方法を以下に示す。
[実施例1]
カーボンブラック(三菱ケミカル社製、三菱カーボンブラック#40(平均粒径400nm))0.1質量%、製造例1で調製した着色樹脂粒子A(平均粒径800nm)15.0質量%、アクリル粒子(綜研化学社製、MX-1000(平均粒径10.0μm))2.0質量%、キサンタンガム0.3質量%、エチレングリコール3.0質量%、グリセリン8.0質量%、添加剤8.0質量%および蒸留水63.6質量%(表1中、残部と記載)を混合して、インク組成物を調製した。
【0044】
[実施例2~3][比較例1~4]
色材、樹脂粒子、増粘剤、水溶性溶剤およびその他の添加剤を、表1に示す配合割合で混合してインク組成物を調製した。
表1中、「残部」は、光輝性水性インク100質量%から、各成分の合計量(質量%)を引いた値である。
なお、実施例3および比較例1で使用した樹脂粒子であって、表1中のポリオレフィン粒子F(平均粒径600nm)は、三井化学社製のケミパールW900である。
【0045】
〔水性ボールペンの作製〕
ボールペン〔三菱鉛筆社製、商品名:ユニボールシグノUMN-307〕の軸を使用し、内径3.8mm、長さ113mmのポリプロピレン製インク収容管とボールペンチップ(ホルダー:ステンレス製、ボール:超硬合金ボール、ボール径:0.5mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに、各水性ボールペン用インク組成物を充填し、インク後端にポリブテンからなるインク追従体を充填して、水性ボールペンを5本ずつ作製した。
【0046】
〔評価〕
(1)マット感
描線の艶感を目視により確認した。評価基準は以下のとおりである。
A:マット感があった
B:わずかに艶があった
C:艶感を有していた
【0047】
(2)耐擦過性
調製後、24時間経過した各水性ボールペン用インク組成物をボールペンに充填した後、筆記用紙に手書きでらせんを描いた。24時間経過後、描線の上に重さ200gの分銅を包んだキムワイプ(日本製紙クレシア社製)を置き、らせんの中心軸方向に10cm移動させることを同一方向に50回行った。その後、描線の剥離具合を目視により確認した。評価基準を以下に示す。
A:剥離がなく鮮明な筆跡
B:若干剥離があり、やや不鮮明な筆跡
C:剥離が著しく、不鮮明な筆跡
【0048】
【0049】
粒子径4μm以上の粒子の割合が2%と少ない比較例1は、耐擦過性はあるが、筆跡がてかり、マット感に劣っていた。また、粒子径4μm以上の粒子が含まれていない比較例2~4ではいずれも筆跡を軽く擦ると汚れてしまい、耐擦過性に劣っていた。比較例2~4の結果から、粒子径4μm以上の粒子が含まれていない場合、粒子径2μm以上の粒子の含有量を5~65%の範囲で変えても、マット感や耐擦過性が得られないことが分かった。