(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025151933
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】搬送車システム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/693 20240101AFI20251002BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20251002BHJP
G05D 1/648 20240101ALI20251002BHJP
G01C 21/34 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
G05D1/693
G05D1/43
G05D1/648
G01C21/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024053570
(22)【出願日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】後藤 歩
【テーマコード(参考)】
2F129
5H301
【Fターム(参考)】
2F129BB03
2F129CC15
2F129CC16
2F129DD41
2F129EE54
2F129EE78
2F129EE79
2F129FF02
2F129FF62
2F129FF63
2F129HH20
5H301AA02
5H301AA03
5H301AA10
5H301BB05
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301DD07
5H301DD13
5H301DD15
5H301EE06
5H301FF06
5H301GG07
5H301GG16
5H301KK02
5H301KK03
5H301KK04
5H301KK08
5H301KK18
5H301KK19
5H301LL03
5H301LL12
5H301LL16
5H301QQ01
5H301QQ04
(57)【要約】
【課題】搬送効率を低下させずに、経路探索に要する時間を短縮することができる搬送車システムを提供する。
【解決手段】搬送車システム1は、経路2を走行して物品を搬送する搬送車10と、搬送車10を管理する搬送車コントローラ20と、を備える。搬送車コントローラ20は、物品を搬送元から搬送先へと搬送するための搬送要求を記憶する記憶部27と、搬送要求に含まれる搬送元及び搬送先に基づいて、経路2の少なくとも一部の区間における交通量を算出することにより、当該区間における搬送車10の走行方向を決定する走行方向決定部23と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ定められた経路を走行して物品を搬送する搬送車と、
前記搬送車を管理するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記物品を搬送元から搬送先へと搬送するための搬送要求を記憶する記憶手段と、
前記搬送要求に含まれる前記搬送元及び前記搬送先に基づいて、前記経路の少なくとも一部の区間における交通量を算出することにより、当該区間における前記搬送車の走行方向を、第1方向、前記第1方向とは反対の第2方向、又は双方向のうちの何れかに決定する走行方向決定手段と、を有する搬送車システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記搬送車のすれ違いができない狭路における走行方向を決定する、請求項1に記載の搬送車システム。
【請求項3】
前記コントローラは、前記狭路における走行方向を変更する際、前記狭路に前記搬送車が存在しないことを確認してから前記走行方向を変更する、請求項2に記載の搬送車システム。
【請求項4】
前記コントローラは、前記狭路における走行方向を変更する前に、現在の走行方向を基準として当該狭路の下流側である下流エリアから上流側である上流エリアへの仮の経路探索を実行し、走行経路が存在しない場合は当該狭路における走行方向を双方向に変更する、請求項2に記載の搬送車システム。
【請求項5】
前記コントローラは、前記仮の経路探索を交流量の少ない前記経路から行い、ある狭路において走行方向を双方向に変更した場合は、当該狭路の前記下流エリア及び前記上流エリアの間の前記仮の経路探索は実行しない、請求項4に記載の搬送車システム。
【請求項6】
前記コントローラは、前記搬送車が前記搬送元から前記搬送先へと走行する条件に加え、前記搬送車が待機ポイントから前記搬送元へ走行する条件、前記搬送車が前記搬送先から待機ポイントへ走行する条件、及び、異なる複数の待機ポイント間を走行する条件の少なくとも一つを交通量の算出条件に含める、請求項1~5の何れか一項に記載の搬送車システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、搬送車システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されるように、走行路上を走行する台車に、搬送元から搬送先へと荷物を搬送する搬送要求を処理させる搬送システムが知られている。このシステムでは、搬送コントローラ(搬送制御装置)は、走行区間の通過時間に基づくコストに基づいて複数の経路を評価し、この評価結果から最適な経路を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の経路探索方法では、経路の一部において台車同士の競合(例えば、すれ違い困難な通路における衝突など)が生じる状況になると、探索ノード数が急激に増加してしまい、経路探索に要する時間が増大するという問題がある。この問題に対し、その経路の一部に対して走行方向の制約をつける方法も考えられる。しかしそういった制約は、最短距離での搬送ができない時間帯を生じさせてしまう可能性があり、搬送効率の低下につながる。
【0005】
本開示は、搬送効率を低下させずに、経路探索に要する時間を短縮することができる搬送車システムを説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本開示の一態様に係る搬送車システムは、あらかじめ定められた経路を走行して物品を搬送する搬送車と、搬送車を管理するコントローラと、を備え、コントローラは、物品を搬送元から搬送先へと搬送するための搬送要求を記憶する記憶手段と、搬送要求に含まれる搬送元及び搬送先に基づいて、経路の少なくとも一部の区間における交通量を算出することにより、当該区間における搬送車の走行方向を、第1方向、第1方向とは反対の第2方向、又は双方向のうちの何れかに決定する走行方向決定手段と、を有する。
【0007】
[1]の搬送車システムによれば、コントローラが、搬送要求に含まれる搬送元及び搬送先に基づいて上記区間における交通量が算出され、走行方向が決められる。これにより、その区間における搬送車の通行台数を増やすことができる。また走行方向の決定により、探索ノード数の増加が抑えられる。よって、搬送効率を低下させずに、経路探索に要する時間を短縮することができる。
【0008】
[2]上記[1]の搬送車システムにおいて、コントローラは、搬送車のすれ違いができない狭路における走行方向を決定してもよい。狭路は、搬送車のすれ違いができないため通行台数に影響しやすい。少なくとも狭路において走行方向の決定を行うことで、走行方向の決定に要する時間を短縮することができる。また、不必要に走行方向に制限をかけることを防ぐこともできる。
【0009】
[3]上記[2]の搬送車システムにおいて、コントローラは、狭路における走行方向を変更する際、狭路に搬送車が存在しないことを確認してから走行方向を変更してもよい。この制御によれば、対面して走行する搬送車同士のデッドロックの発生を防ぐことができる。
【0010】
[4]上記[2]又は[3]の搬送車システムにおいて、コントローラは、狭路における走行方向を変更する前に、現在の走行方向を基準として当該狭路の下流側である下流エリアから上流側である上流エリアへの仮の経路探索を実行し、走行経路が存在しない場合は当該狭路における走行方向を双方向に変更してもよい。この制御によれば走行経路が確保されるので、搬送要求の実行不能状況を防ぐことができる。
【0011】
[5]上記[4]の搬送車システムにおいて、コントローラは、仮の経路探索を交流量の少ない経路から行い、ある狭路において走行方向を双方向に変更した場合は、当該狭路の下流エリア及び上流エリアの間の仮の経路探索は実行しなくてもよい。この制御によれば、交通量の少ない経路を双方向とすることで、搬送不能状況を防ぎながら、交通可能量の低下を抑えることができる。
【0012】
[6]上記[1]~[5]の何れか一つの搬送車システムにおいて、コントローラは、搬送車が搬送元から搬送先へと走行する条件に加え、搬送車が待機ポイントから搬送元へ走行する条件、搬送車が搬送先から待機ポイントへ走行する条件、及び、異なる複数の待機ポイント間を走行する条件の少なくとも一つを交通量の算出条件に含めてもよい。この制御によれば、各搬送車の現実の走行状態(動き)が加味されるため、走行方向がより正確に決定される。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、搬送効率を低下させずに、経路探索に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る搬送車システムの全体概要図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係るコントローラの機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、搬送車システムにおける経路を概念的に示す図である。
【
図4】
図4は、交通量の算出に適用されるアルゴリズムの一例を説明するための図である。
【
図5】
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)は、それぞれ、コントローラによって決定される走行方向の種類(決定結果)を示す図である。
【
図6】
図6は、狭路における走行方向の変更前の状態を例示する図である。
【
図7】
図7は、狭路における走行方向の変更後の状態を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
まず
図1及び
図2を参照して、搬送車システム1の概要について説明する。
図1に示されるように、搬送車システム1は、例えば電子部品等の製造工場の建屋に配置された複数の処理装置(図示せず)の間の物品の搬送、及び、建屋の外部と内部との間の物品の搬送等を行う搬送システムである。
図1及び
図2に示されるように、搬送車システム1は、物品を搬送する複数の搬送車10と、複数の搬送車10を制御する搬送車コントローラ(コントローラ)20と、搬送車コントローラ20に対して搬送要求を与える上位コントローラ5とを備える。搬送車システム1では、搬送車コントローラ20における制御により、MAPF(Multi-Agent Path Finding)、或いは多数台制御に基づく搬送車10の走行経路が演算される。
【0017】
搬送車システム1は、複数の棟を有する。
図1に示されるように、搬送車システム1は、例えば、第1棟BAと、第2棟BBとを備える。第1棟BA及び第2棟BBは、同じ階層に設けられており、例えば2本の接続路である第1狭路R1及び第2狭路R2によって接続されている。複数の搬送車10は、第1棟BA内の第1エリアAa、及び、第2棟BBの第2エリアAbを自在に走行する。
【0018】
第1棟BAには、例えば、1つ又は複数の(図示例では3つの)第1ステーションSAが設けられている。第1棟BAには、さらに、1つ又は複数の(図示例では2つの)充電ポイント11と、1つ又は複数の(図示例では1つの)待機ポイント13とが設けられている。第2棟BBには、例えば、1つ又は複数の(図示例では3つの)第2ステーションSBが設けられている。第2棟BBには、さらに、1つ又は複数の(図示例では2つの)充電ポイント11と、1つ又は複数の(図示例では1つの)待機ポイント13とが設けられている。第1棟BAに設置された第1ステーションSAでは、1つ又は複数の製造工程にかかる物品の移載が行われる。第2棟BBに設置された第2ステーションSBでは、第1ステーションSAに係る製造工程とは異なる、1つ又は複数の製造工程にかかる物品の移載が行われる。これらの製造工程は、所定の順序で繋がっている(相互に関連している)。
【0019】
複数の搬送車10は、各製造工程(各製造段階)に応じた物品を、ステーション間で搬送する。「ステーション」とは、搬送車10が荷積みや荷下ろしをする場所を意味する。充電ポイント11は、例えば搬送車10のバッテリに充電を行う(電力を供給する)充電器等を含む。待機ポイント13は、床面上の所定位置に設定される。上記の各種ステーション及び各種ポイントは、あくまで一例である。搬送車システム1に含まれる各種ステーション及び各種ポイントの個数と種類は、特に限定されない。充電ポイント11は、充電ステーションと呼ばれてもよい。
【0020】
なお、搬送車システム1は、コンベア等の他の搬送装置を備えてもよい。搬送車システム1は、入出庫に係るコンベア又はステーションを備えてもよい。第1ステーションSA及び第2ステーションSBのすべて又は少なくとも一部が、物品を仮置きするための1つの又は複数のバッファを有してもよい。搬送車システム1は、上述した以外にも、一般の搬送車システムに適用される他の公知の構成を備えてもよい。
【0021】
搬送車10は、予め定められた床面上の経路2に沿って自律的に走行する無人搬送車である。搬送車10は、例えば、AGV(Automated Guided Vehicle)である。経路2は、建屋の床面に、搬送車10の走行経路を形成するよう設けられた、例えば、磁気テープ又は磁気マーカーを含んでもよい。この場合、搬送車10は、磁気テープ又は磁気マーカー等から出力される磁気信号等を検出しながら走行する。なお、搬送車10は、レーザ等から光を発生させ、建屋の壁部等に取り付けられたミラーにて反射した反射光を検出することで自己位置を検出しながら走行してもよいし、GPS等の情報を利用することで自己位置を検出しながら走行してもよい。搬送車10に対する誘導方式として、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術が用いられてもよい。
【0022】
本実施形態の搬送車システム1には、複数の搬送車10が配備されている。各搬送車10は、少なくとも複数のステーション間で、物品を搬送する。各搬送車10は、何れかのステーションから、他の何れかのステーションへ物品を搬送可能である。各搬送車10は、異なる2つのステーションの間で、物品を移載(受け渡し)可能である。第1ステーションSA及び第2ステーションSBのそれぞれは、「移載ステーション」と呼ばれてもよい。
【0023】
搬送車10は、搬送車コントローラ20から搬送指令が割り当てられた場合、当該搬送指令の搬送元である第1ステーションSA又は第2ステーションSBの何れか1つから、搬送先である第1ステーションSA又は第2ステーションSBの別の何れか1つへと物品を搬送させるための走行制御及び荷積み荷下ろし制御を実行する。走行制御では、例えば、上記した各種の誘導方式が利用され得る。荷積み荷下ろし制御では、搬送車10が有するリフターを上昇及び下降させることで、搬送元のステーションから搬送車10への荷積みを実施し、搬送車10から搬送先のステーションへの荷下ろしを実施する。
【0024】
搬送車コントローラ20は、地上側に配置されて、複数の搬送車10を管理する制御装置である。搬送車コントローラ20は、プログラム等が記憶されたROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random AccessMemory)、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶媒体、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、及び、無線LAN等の通信回路等を有するコンピュータである。搬送車コントローラ20は、例えばROMに格納されているプログラムがRAM上にロードされてCPUで実行されるソフトウェアとして構成することができる。搬送車コントローラ20は、電子回路等によるハードウェアとして構成されてもよい。搬送車コントローラ20は、一つの装置で構成されてもよいし、複数の装置で構成されてもよい。複数の装置で構成されている場合には、これらがインターネット又はイントラネット等の通信ネットワークを介して接続されることで、論理的に一つの搬送車コントローラ20が構築される。
【0025】
搬送車コントローラ20は、搬送車10及び上位コントローラ5と、無線又は有線により接続されている。搬送車コントローラ20は、搬送車10から当該搬送車10の現在位置及び現在速度等に関する情報を受信する。搬送車コントローラ20は、上位コントローラ5から、あるステーションから別のステーションへ物品を搬送させるための搬送要求を受信する。搬送車コントローラ20は、受信した搬送要求に応じて搬送指令を生成し、搬送車10に対して当該搬送指令を割り付ける。
【0026】
搬送指令は、搬送要求における搬送元の移載ステーションから搬送先の移載ステーションまで物品を搬送車10により搬送させるための制御指令である。搬送指令は、搬送元の移載ステーションにおける物品の移載、搬送元の移載ステーションから搬送先の移載ステーションへの経路2に沿った走行、搬送先の移載ステーションにおける物品の移載に関する情報を含む。
【0027】
図2に示されるように、搬送車コントローラ20は、搬送要求受信部21と、複数の搬送車10を制御する(又は管理する)搬送車制御部22と、当該制御に係る情報を記憶する記憶部27とを有する。搬送要求受信部21は、例えば上位コントローラ5から、物品を搬送元(From)から搬送先(To)へと搬送するための搬送要求を受信する。搬送車システム1では、一日のシステム稼働開始時(朝など)において入出荷計画や生産計画等に基づいて複数の搬送要求が発生し得る。記憶部27は、例えば、1日単位の搬送要求バッチを記憶する。記憶部27は、複数の搬送要求を記憶する記憶手段である。
【0028】
或いは、搬送車システム1では、複数の搬送要求が、システム稼働中も逐次発生し得る。搬送要求受信部21は、受信した複数の搬送要求に応じて搬送要求を生成すると共に、これら複数の搬送要求を記憶部27に記憶させる。また将来の搬送要求が予測できない場合には、搬送要求受信部21及び記憶部27は、その時点の瞬間風速的な傾向を把握することを目的として、1時間に満たない時間単位の搬送要求を収集して記憶してもよい。なお、記憶部27は、経路2に関する情報や、各搬送車10の状態に関する情報を記憶してもよい。
【0029】
搬送車制御部22は、さらに、走行方向決定部(走行方向決定手段)23と、割付部24と、走行経路演算部25とを含む。走行方向決定部23は、搬送指令(搬送要求)に含まれる搬送元及び搬送先に基づいて、経路の少なくとも一部の区間における交通量を算出することにより、当該区間における搬送車の走行方向を決定する。搬送車システム1における「区間」については後述する。割付部24は、生成された搬送指令(搬送要求)に対して、何れかの搬送車10を割り付ける。走行経路演算部25は、搬送指令(搬送要求)に含まれる搬送元及び搬送先に基づいて、当該搬送を行う搬送車10の走行経路を演算する(経路探索を行う)。走行経路演算部25は、走行方向決定部23によって決定された上記区間における走行方向を加味して、走行経路の演算(経路探索)を行う。割付部24による搬送車10の割付け、及び、走行経路演算部25による走行経路の演算は、例えば、MAPF分野等における公知の手法によって実現される。
【0030】
本実施形態の搬送車システム1では、一定の搬送効率を維持しつつ、経路探索に要する時間を短縮するための構成が備わっている。走行方向決定部23は、例えば、搬送車10のすれ違いができない狭路における走行方向を決定する。搬送車システム1における「狭路」は、事前に設計者などにより決定されてもよい。搬送車システム1における経路2のレイアウトは、例えば、
図3に示されるように概念的に説明できる。経路2は、複数のノードNと、それらを接続する複数のリンクLとを含む。経路が図示例のように格子状で規定されている場合、あるノードNには、4本のリンクLが接続され、別のあるノードNには、3本のリンクLが接続され、また別のあるノードNには、2本のリンクLが接続される。例えば、第1狭路R1に相当する区間を構成する第1エリアAa側の端ノードN1aと第2エリアAb側の端ノードN1bとの間では、搬送車10はすれ違いができない。また第2狭路R2に相当する区間を構成する第1エリアAa側の端ノードN2aと第2エリアAb側の端ノードN2bとの間では、搬送車10はすれ違いができない。設計者は以上のことを把握しており、第1狭路R1及び第2狭路R2を「狭路」と定義する。
【0031】
なお、設計者による決定に限られず、搬送車コントローラ20が、経路2の中から狭路を抽出することもできる。すなわち、搬送車システム1において、狭路を自動的に抽出させてもよい。その場合、以下の4つのステップを経て狭路が抽出される。搬送車コントローラ20は、まず第1のステップとして、経路2のレイアウトを、停止可能ポイント(
図3中の各ノードN)及び各ノードN間を接続する搬送車通路(
図3中の各リンクL)からなるものと解釈する(この段階では、すべてのリンクLにおいて、走行方向は双方向(
図5(c)参照)である)。続いて第2のステップとして、搬送車コントローラ20は、リンクLの2つのリンク接続数を持ったノードNを抽出する。「2つのリンク接続数を持ったノード」は、
図3における狭路内ノードN1c及び狭路内ノードN2cである。続いて第3のステップとして、搬送車コントローラ20は、それらの狭路内ノードN1c、N2cから両方向にそれぞれリンクLをたどっていき、初めて到達した、それぞれ3つのリンク接続数を持った2つのノードNを特定する。搬送車コントローラ20は、これら2つのノードNを両端点とする通路を「狭路」と定義する。ここでいう「両端点」が、
図3における端ノードN1a、端ノードN1b、端ノードN2a、及び端ノードN2bである。なお、搬送車コントローラ20は、1つのリンク接続数を持ったノードNに行き着いた場合は、第2のステップに戻り、他を探す。そして搬送車コントローラ20は、第4のステップとして、第2のステップに戻って全てのノードNを探索するまで第2~第3ステップを繰り返す。以上の一連の探索処理により、搬送車システム1の経路2に含まれるすべての「狭路」が抽出される。
【0032】
走行方向決定部23は、搬送指令(搬送要求)に含まれる搬送元及び搬送先に基づいて、第1狭路R1及び第2狭路R2における交通量を算出することにより、これら第1狭路R1及び第2狭路R2における搬送車の走行方向を決定する。本明細書において、「狭路」は、走行方向決定部23(又は搬送車コントローラ20)によって選ばれた、経路2のうちの少なくとも一部の区間である。走行方向決定部23は、例えば、搬送車システム1において入荷と出荷の時間帯が切り替わるタイミング、又は、各製造工程においてバッチ処理が終わるタイミング等に再計算を行い、第1狭路R1及び第2狭路R2における走行方向を決定する。走行方向の制約をつけないで搬送車10の経路探索をするよりも、本実施形態のように走行方向を時々刻々算出した上で経路探索をすることにより、計算量が削減される。
【0033】
まず交通量の算出について説明する。交通量の算出に用いられる搬送指令(搬送要求)に係る情報は、例えば、一日のシステム稼働開始時(朝など)において、入出荷計画や生産計画から、予定された各搬送要求についての要求量の時間帯等、各種傾向がわかる。ここで、「入出荷計画」とは、流通業の物流センター内の搬送システムにおける、入荷場から保管場への搬送が主になる入荷時間帯と、保管場から出荷場への搬送が主になる出荷時間帯を示す情報である。また「生産計画」とは、製造業の工場内の搬送システムにおける、各工程間の搬送がいつどのくらいの量だけ見込まれるかを示す情報である。なお、その他の例として、将来の搬送要求が予測できない場合には、過去の一定時間内(例えば10分間等)に発生した搬送要求が交通量の算出に用いられてもよい。
【0034】
以下、
図3乃至
図5を参照して、搬送車コントローラ20による走行方向の決定について例示する。
図4は、搬送車システム1における交通量の算出に適用されるアルゴリズムの一例を説明するための図である。
図4に示されるアルゴリズムは、粘菌アルゴリズムと呼ばれる。このアルゴリズムでは、水道管の流れを適用して、粘菌の挙動がモデル化されている。
【0035】
まず、
図3で示される各ノードNに対し、識別番号(添字)として1,2,3,・・・の番号を割り振る。このとき、ある一つの搬送フローに着目し、そのフローの搬送元に対応するノード番号をs、搬送先に対応するノード番号をgとする。下記式中のQ
ij、D
ij、L
ijは、ノードN
iとN
j間の通路における、搬送要求量、交通量、通路長に相当するとともに、行列Q,D,Lの(i,j)要素と解釈される。下記式中のp
iは縦ベクトルpの要素iと解釈される。なお、ノードN
iとN
jが隣接しなければ、Q
ij=D
ij=L
ij=0である。L
ijは通路長であるため、計算上の時間発展に影響されない固定値であるが、Q
ijおよびD
ijは、計算上の時間発展に従って値が更新される(解として妥当な値に近づく)。計算ステップT=0における初期値は、ノードN
iとN
jが隣接するi,jに対し、Q
ij=0,D
ij=1とする。このとき、下記式(1)は、Ap=bで表される連立方程式を解くことを意味する。行列Aの対角要素は、下記式(5)で表される。j=neighborsとはノードN
iに隣接する任意のノード番号jを意味する。行列Aの非対角の(i,j)要素(i≠j)は、N
iとN
jが隣接しなければ0であり、N
iとN
jが隣接すれば下記式(6)で表される。縦ベクトルbの第s要素は-Q
oであり、第g要素は+Q
oであり、それ以外の成分は0である。ただし、Q
oは、着目している搬送フローの単位時間あたりの要求発生数を表す。
【0036】
以上から、計算ステップT=0においてAとbは既知の量で表されるため、連立方程式を解くことにより、pが求まる。そのpを下記式(3)に代入して行列Qが求まる。そのQを下記式(2)と(4)に代入して次ステップT=1でのDが求まる。以上の計算を、値が収束するまで繰り返して収束値Dを得る。なお、下記式(4)ではγ=1.5を用いており、収束までにT=10ステップ程度の繰り返し計算が必要で、この程度であれば実用規模の搬送システムでも計算時間は1秒もかからない。ただし、これは着目した一つの搬送フローに対する交通量であるため、以上の計算を繰り返して、第1エリアAaから第2エリアAbへと走行する搬送フローの積算値Dij(A→B)、すなわち、第1エリアAaから第2エリアAbへの交通量を算出する。同様に、走行方向決定部23は、第2エリアAbから第1エリアAaへと走行する搬送フローに対し,その交通量Dij(B→A)を算出する。
【0037】
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0038】
走行方向決定部23は、例えば、その通路の走行方向(走行方向に関する制約)を、交通量の大きいほうの方向に決定する。走行方向決定部23は、例えば、以上の処理を一定時間間隔で繰り返し、その時点での最適な走行方向を決定する。
【0039】
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)は、それぞれ、コントローラによって決定される走行方向の種類(決定結果)を示す図である。走行方向決定部23は、例えば第1狭路R1における走行方向を決定する場合、上記に例示した処理に基づき、第1狭路R1における走行方向を、第1方向D1(
図5(a)参照)、第1方向とは反対の第2方向D2(
図5(b)参照)、又は双方向D3(
図5(c)参照)のうちの何れかに決定する。23は、第2狭路R2に関しても、同様の手法で走行方向を決定する。
【0040】
また、走行方向決定部23は、走行方向を決定した後も、適宜、各狭路(第1狭路R1及び第2狭路R2)における走行方向を再計算することによって切り替える(変更する)。走行方向の切替えタイミングとしては、例えば、以下の種々の機会が考えられる。
(1)走行方向の決定に使用したスケジュールが全て終了したとき
(2)所定時刻において走行方向を切り替えることを前提として計算を行った上で、その所定時刻が到来したとき
(3)所定の処理数量で走行方向を切り替えることを前提として計算を行った上で、その所定の処理数量へ到達したとき
【0041】
また走行方向の変更も、上記した走行方向の決定と同様の手法で行われる。走行方向決定部23は、第1狭路R1及び第2狭路R2、又はこれらの何れか一方における走行方向を変更する際、当該狭路に搬送車10が存在しないことを確認してから、当該走行方向の変更を行う。言い換えれば、走行方向決定部23は、第1狭路R1及び第2狭路R2、又はこれらの何れかにおける走行方向を変更する際、当該狭路から搬送車10が退出したことを確認してから、当該走行方向の変更を行う。
【0042】
図6及び
図7に、走行方向の変更制御を例示する。
図6に示されるように、第1狭路R1及び第2狭路R2における走行方向(通路方向)を個別に決定した結果、例えば、第1狭路R1及び第2狭路R2の何れも第1方向D1と決められて(制約されて)いると、搬送車10が第2エリアAbから第1エリアAaへ移動できなくなる懸念が生じる。ここで、走行方向決定部23は、これらの狭路における走行方向を変更する。
【0043】
走行方向決定部23は、第1狭路R1及び第2狭路R2における走行方向を変更する前に、現在の走行方向を基準として、例えば当該狭路の下流側である第2エリアAb(下流エリア)から、上流側である第1エリアAa(上流エリア)への仮の経路探索を実行する。そして、走行方向決定部23は、経路探索の結果、走行経路が存在しない場合は、
図7に示されるように、例えば第1狭路R1における走行方向を双方向D3に変更する。この場合、第1狭路R1には、走行方向の制約が設けられないことになる。
【0044】
また走行方向決定部23は、上記仮の経路探索を交流量の少ない経路から行う。
図6に示された例では、第1狭路R1における交通量の方が、第2狭路R2における交通量よりも少なかった。そこで、走行方向決定部23は、まず第1狭路R1に関して、走行方向の確認を行う。また走行方向決定部23は、第1狭路R1(ある狭路)において走行方向を双方向D3に変更した場合は、第2エリアAb及び第1エリアAaの間(すなわち、上記仮の経路探索を実行したのと同一エリア間の)仮の経路探索は実行しない。
【0045】
本実施形態の搬送車システム1によれば、搬送車コントローラ20(具体的には、走行方向決定部23)が、搬送要求に含まれる搬送元及び搬送先に基づいて第1狭路R1及び第2狭路R2における交通量が算出され、走行方向が決められる。このとき、走行方向決定部23によって決定された、第1狭路R1及び第2狭路R2における走行方向が加味される。走行方向は、第1方向D1、第2方向D2、又は双方向D3の何れかに決定される。これにより、当該区間における搬送車10の通行台数を増やすことができる。また走行方向の決定により、探索ノード数の増加が抑えられる。よって、搬送効率を低下させずに、経路探索に要する時間を短縮することができる。
【0046】
走行方向を決定又は再計算するタイミングとして、交通量が大きく変動するタイミングが採用された場合、走行方向の変更時に悪影響を受ける搬送車10の数を抑えることができる。
【0047】
搬送車コントローラ20は、少なくとも、搬送車10のすれ違いができない狭路における走行方向を決定する。第1狭路R1及び第2狭路R2のような狭路は、搬送車10のすれ違いができないため通行台数に影響しやすい。少なくともこれらの狭路において走行方向の決定を行うことで、走行方向の決定に要する時間を短縮することができる。
【0048】
搬送車コントローラ20は、上記狭路における走行方向を変更する際、その変更対象の狭路に搬送車が存在しないことを確認してから走行方向を変更する。この制御によれば、対面して走行する搬送車10同士のデッドロックの発生を防ぐことができる。
【0049】
搬送車コントローラ20は、上記狭路における走行方向を変更する前に、現在の走行方向を基準として当該狭路の下流エリアから上流エリアへの仮の経路探索を実行し、走行経路が存在しない場合は当該狭路における走行方向を双方向に変更する(
図7参照)。この制御によれば走行経路が確保されるので、搬送要求の実行不能状況を防ぐことができる。すなわち、走行方向が、常にエリア内の任意のFrom-Toが走行できることを保証している。これにより、従来の入出庫複合モードとどちらか専用モードの頻繁な切替が必要なく、安定した搬送車走行を実現できる。
【0050】
搬送車コントローラ20は、仮の経路探索を交流量の少ない経路から行い、ある狭路において走行方向を双方向に変更した場合は(
図7における第1狭路R1参照)、当該狭路の同一エリア間の仮の経路探索は実行しない。この制御によれば、交通量の少ない経路を双方向とすることで、搬送不能状況を防ぎながら、交通可能量の低下を抑えることができる。
【0051】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、走行方向決定部23(搬送車コントローラ20)は、搬送車10が搬送元から搬送先へと走行する条件に加え、搬送車10が待機ポイント13(
図1参照)から搬送元へ走行する条件、搬送車10が搬送先から待機ポイント13へ走行する条件、及び、異なる複数の待機ポイント13間を走行する条件(待機ポイント13が同一エリアに複数ある場合)の少なくとも一つを交通量の算出条件に含めてもよい。また、待機ポイント13に代えて、充電ポイント11が考慮されてもよい。すなわち、走行方向決定部23(搬送車コントローラ20)は、搬送車10が搬送元から搬送先へと走行する条件に加え、搬送車10が充電ポイント11(
図1参照)から搬送元へ走行する条件、搬送車10が搬送先から充電ポイント11へ走行する条件、及び、待機ポイント13から充電ポイント11へと走行する条件の少なくとも一つを交通量の算出条件に含めてもよい。この制御によれば、各搬送車の現実の走行状態(動き)が加味されるため、走行方向がより正確に決定される。
【0052】
より詳細には、搬送車10が待機ポイント13(
図1参照)から搬送元へ走行する条件は、(荷積み時点ではなく)「搬送要求が割り当てられた時点」から荷下ろしまでの時間をいかに短くするか、という観点で有用である。搬送車10が搬送先から待機ポイント13へ走行する条件は、搬送車10が早く待機ポイントに戻り、次の要求に迅速に対応できる、という観点で有用である。搬送車10が異なる複数の待機ポイント13間を走行する条件は、例えば、待機中の搬送車10が(限られた数の充電場所を他車に譲るため等の理由で)追い出しがかかったときに発生する条件である。この要求の遂行に関係のない搬送車10が他車の走行領域を長く動き回れば動き回るほど、要求を遂行中の搬送車10の走行を妨害するリスクが増え、搬送の阻害要因となり得る。よって、搬送車10が異なる複数の待機ポイント13間を走行する条件は、要求を遂行中の搬送車10の走行を妨害するリスクを低減する観点で有用である。これらの条件を加味することは、本実施形態の搬送車システム1では任意(すなわち何れも省略可能)であるが、搬送目的をより確実に達成する観点で有用である。
【0053】
走行方向の不正確さは、例えば通過待ちや遠回りにつながり、搬送要求を実行する量が減少する。すなわち、搬送処理能力が低下する。したがって、走行方向決定部23によって走行方向が正確に決定されることは、搬送処理能力の確保(又は向上)をもたらす。
【0054】
走行方向決定部23(搬送車コントローラ20)は、狭路のみにおいて走行方向を決定する態様に限られず、狭路以外の一般の走行路における走行方向を決定してもよい。例えば、
図3に示される経路例では、多くのノードNに関して、搬送車10は床面上を4方向に移動可能である。走行方向決定部23は、当該走行路(一部の区間)における走行方向を決定する場合、走行路における移動可能方向をまず2方向のみに制約する。走行方向決定部23は、制約後の2方向を基に、走行方向を決定する。
【0055】
また、走行方向の決定において、すれ違いできるような2車線通路に対して、2車線とも同方向にする処理が行われてもよい。仮の経路探索を行わずに、走行方向を変更しても(切り替えても)よい。
【0056】
デッドロックが発生しないことを確認できた場合には、たとえ狭路(上記第1狭路R1等)から搬送車10が退出していないタイミングでも、走行方向を変更する切替え制御を行ってもよい。
【0057】
交通量の算出は、粘菌アルゴリズムに限られず、別の手法、例えば最大流問題を解くアルゴリズムを用いて行われてもよい。例えば、増加道法、又は線形計画問題等が挙げられる。別手法を用いることによっても、各通路に対し、交通量がより優勢な方向を計算してもよい。
【0058】
搬送車システム1が、1台のみの搬送車10を備えてもよい。搬送車システム1に含まれる搬送車10の台数は特に限定されない。
【0059】
搬送車10は、AGVに特に限定されず、例えば天井走行車及び有軌道台車等であってもよい。搬送車10は、昇降機能を備えて三次元空間を移動領域とする移動体、及び、三次元空間を自在に移動できるドローン等であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…搬送車システム、2…経路、10…搬送車、20…搬送車コントローラ(コントローラ)、21…搬送要求受信部、22…搬送車制御部、23…走行方向決定部(走行方向決定手段)、24…割付部、25…走行経路演算部、27…記憶部(記憶手段)、Aa…第1エリア、Ab…第2エリア、R1…第1狭路(狭路)、R2…第2狭路(狭路)。