(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001520
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】ワダライト及びワダライトの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/26 20060101AFI20241225BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20241225BHJP
【FI】
C01B33/26
H10N10/01
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101148
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 充紀
(72)【発明者】
【氏名】後藤 琢也
(72)【発明者】
【氏名】村口 正和
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA10
4G073BA11
4G073BA36
4G073BA57
4G073BA63
4G073BA75
4G073BA81
4G073BD01
4G073BD21
4G073CE06
4G073CM22
4G073FB29
4G073FC09
4G073FC14
4G073FD07
4G073FD23
4G073GA01
4G073GA03
4G073GA28
4G073GA30
4G073UA20
(57)【要約】
【課題】環境負荷が小さく且つ簡便にワダライトを得ることを目的とする。
【解決手段】ワダライトの製造方法1は、粘土鉱物に塩を混合させて混合物を得る混合工程S3と、混合物に熱処理を行う熱処理工程S4と、を有し、粘土鉱物は、風化された層状粘土鉱物であり、塩は、熱処理工程S4において溶融塩となる金属塩化物である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土鉱物に塩を混合させて混合物を得る混合工程と、
前記混合物に熱処理を行う熱処理工程と、を有し、
前記粘土鉱物は、風化された層状粘土鉱物であり、
前記塩は、前記熱処理工程において溶融塩となる金属塩化物である
ことを特徴とするワダライトの製造方法。
【請求項2】
前記粘土鉱物は、風化黒雲母であり、
前記塩は、塩化カルシウムである
ことを特徴とする請求項1に記載されたワダライトの製造方法。
【請求項3】
前記混合工程よりも前に行われ、前記粘土鉱物に金属元素のイオンを吸着させる吸着工程を更に有し、
前記金属元素のイオン半径は、前記塩に含まれる金属のイオン半径以上である
ことを特徴とする請求項2に記載されたワダライトの製造方法。
【請求項4】
前記金属元素は、セシウムである
ことを特徴とする請求項3に記載されたワダライトの製造方法。
【請求項5】
前記熱処理工程は、600℃以上850℃未満の熱処理温度で前記混合物を加熱する
ことを特徴とする請求項4に記載されたワダライトの製造方法。
【請求項6】
前記熱処理工程は、700℃以上850℃未満の熱処理温度で前記混合物を加熱する
ことを特徴とする請求項2に記載されたワダライトの製造方法。
【請求項7】
前記吸着工程は、前記粘土鉱物に前記金属元素を混合させて熱処理を行うことによって、前記金属元素のイオンを前記粘土鉱物に吸着させる
ことを特徴とする請求項3に記載されたワダライトの製造方法。
【請求項8】
前記吸着工程は、前記粘土鉱物の重量に対して2wt%以上6wt%以下の重量の前記金属元素が添加されるように前記粘土鉱物に前記金属元素を混合させることによって、前記金属元素のイオンを前記粘土鉱物に吸着させる
ことを特徴とする請求項4に記載されたワダライトの製造方法。
【請求項9】
前記混合工程は、前記粘土鉱物と前記塩とを同じ質量で混合させる
ことを特徴とする請求項2に記載されたワダライトの製造方法。
【請求項10】
X線回折法によって測定されたX線回折スペクトルにおいて、回折強度が最も高いメインピークの半値幅(FWHM)が、0.197以上0.258以下の値を有する
ことを特徴とするワダライト。
【請求項11】
鉄、マグネシウム、チタン、カリウム及びマンガンの少なくとも1つの元素を含有する
ことを特徴とするワダライト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワダライト及びワダライトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワダライトは、表面に吸着した水によって、良好なプロトン伝導性が得られることから、湿度センサ等に用いられている。一方、ワダライトの製造方法においては、当該製造方法の工程における熱処理が高温となる。熱処理が高温となった場合、環境負荷が大きくなるばかりか、製造時に使用する基板の種類が大きく制約される等、簡便に製造することが難しくなる。
【0003】
特許文献1には、基板の耐熱性にあまり拘束されることなく、基板上に膜状のワダライト化合物を形成することが可能な、ワダライト化合物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された製造方法では、基板上にワダライトを形成する前の工程において、ワダライトの原料となる非晶質材料を1450℃~1800℃の高温で保持して溶融し、急冷する必要がある。更に、特許文献1に開示された製造方法は、急冷後の材料に対して850℃未満の温度で熱処理を行う必要がある。したがって、特許文献1に開示された製造方法は、環境負荷が大きく且つ手間の掛かる製造方法であった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、環境負荷が小さく且つ簡便にワダライトを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るワダライトの製造方法は、粘土鉱物に塩を混合させて混合物を得る混合工程と、前記混合物に熱処理を行う熱処理工程と、を有し、前記粘土鉱物は、風化された層状粘土鉱物であり、前記塩は、前記熱処理工程において溶融塩となる金属塩化物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、環境負荷が小さく且つ簡便な方法でワダライトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係るワダライトの製造方法を示す図。
【
図4】
図1に示す吸着工程が粘土鉱物に及ぼす影響について説明する図。
【
図5】セシウムイオンの吸着有無による風化黒雲母のX線回折スペクトルの違いを示す図。
【
図6】セシウムイオンの吸着有無による風化黒雲母の組成の違いを示す図。
【
図7】
図1に示す製造方法の実施例1~5及び比較例1~4における各製造条件及び結果を示す図。
【
図8】
図7に示す実施例1の製造物のX線回折スペクトルと、ワダライトのX線回折スペクトルとを比較した図。
【
図9】
図7に示す実施例2の製造物のX線回折スペクトルと、ワダライトのX線回折スペクトルとを比較した図。
【
図10】
図7に示す比較例1の製造物のX線回折スペクトルと、ワダライトのX線回折スペクトルとを比較した図。
【
図11】実施例1の製造物のX線回折スペクトルを示す
図8のメインピークと、実施例2の製造物のX線回折スペクトルを示す
図9のメインピークとを比較した図。
【
図12】
図7に示す実施例1~5及び比較例1~4の各製造物の組成を蛍光X線分析によって分析した結果を示す図。
【
図13】第2実施形態に係る製造方法の実施例6における製造物のX線回折スペクトルと、ワダライトのX線回折スペクトルとを比較した図。
【
図14】第3実施形態に係る熱電変換材料の製造方法を示す図。
【
図15】
図14に示す製造方法1の実施例7~11及び比較例5における各製造条件を示す図。
【
図16】
図15に示す実施例7~11及び比較例5の各製造物の導電率の測定結果を示す図。
【
図17】
図15に示す実施例7~11及び比較例5の各製造物のゼーベック係数の測定結果を示す図。
【
図18】
図15に示す実施例7~11及び比較例5の各製造物の熱拡散率の測定結果を示す図。
【
図19】
図15に示す実施例7~11及び比較例5の各製造物の無次元性能指数ZTの評価結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。各実施形態において同一の符号を付された構成又は機能については、特に言及しない限り、各実施形態において同様の構成又は機能を有し、その説明を省略する。
【0011】
[第1実施形態]
図1~
図12を用いて、第1実施形態に係るワダライトの製造方法1について説明する。
図1は、第1実施形態に係るワダライトの製造方法1を示す図である。
【0012】
本実施形態に係るワダライトの製造方法1の特徴は、出発材料として天然に豊富に存在する粘土鉱物を用いる点と、粘土鉱物と塩との混合後の熱処理において従来よりも低温でワダライトを製造できる点とである。
【0013】
本実施形態に係る製造方法1は、
図1に示すように、出発材料である粘土鉱物を粉砕及び分級する粉砕・分級工程S1と、分級された粘土鉱物に所定の金属元素を吸着させる吸着工程S2と、を有する。更に、本実施形態に係る製造方法1は、粘土鉱物に塩を混合させて混合物を得る混合工程S3と、混合物に熱処理を行う熱処理工程S4と、を有する。
【0014】
<出発材料>
図2は、風化黒雲母のX線回折スペクトルを示す図である。
図3は、黒雲母のX線回折スペクトルを示す図である。
【0015】
出発材料である粘土鉱物は、層状粘土鉱物である。層状粘土鉱物は、例えば、1:1型の粘土鉱物と、2:1型の粘土鉱物とが挙げられる。1:1型の粘土鉱物の具体例としては、蛇紋石族(例えば、カオリナイト)が挙げられる。2:1型の粘土鉱物の具体例としては、タルク-パイロフィライト族(例えば、タルク)、スメクタイト族(例えば、モンモリロナイト)、バーミキュライト族(例えば、風化黒雲母)、雲母族(例えば、黒雲母、イライト、バイオタイト)、脆雲母族又は緑泥石族等が挙げられる。
【0016】
本実施形態に係る製造方法1の出発材料である粘土鉱物は、風化された層状粘土鉱物が好ましく、特に、風化黒雲母が好ましい。風化黒雲母は、天然に豊富に存在し、入手が容易な材料である。黒雲母自体は、薄いシート状の粘土層が積み重なったような層状の結晶構造を有する。風化黒雲母は、風化によって、シート状の粘土層が特定の方向に剥がれる劈開が生じて、特に外縁部分が解れるように膨潤していることが多い。これにより、風化黒雲母は、粘土層の層間が広がっており、陽イオンが粘土層の層間に進入し易く、熱処理工程S4での塩との反応が促進され易い。更に、風化黒雲母は、吸着工程S2において金属元素が吸着され易く、後述するように高純度のワダライトを製造し易い。このようなことから、本実施形態に係る製造方法1の出発材料としては、風化黒雲母が好ましい。
【0017】
風化黒雲母のX線回折スペクトルは、
図2に示すように、回折角度が6deg~10deg付近において、非対称且つブロードなピークを有している。これは、風化黒雲母は、風化によって層状の結晶構造が乱れたことが要因と考えられる。黒雲母は結晶性が高いので、黒雲母のX線回折スペクトルは、
図3に示すように、シャープなピークを有している。すなわち、風化黒雲母と黒雲母とは、X線回折スペクトルを比較することによって判別可能である。なお、X線回折スペクトルは、X線回折法によって測定された回折強度を回折角度毎に表したスペクトルである。
【0018】
<粉砕・分級工程S1>
出発材料である粘土鉱物は、バルク状のものであってもよいが、均一なワダライトを高効率に製造するためには、所定の粒径に粉砕することが好ましい。粉砕・分級工程S1において粉砕された粘土鉱物の粒径は、特に限定されず、例えば、平均粒径5μm以下であってもよいし、平均粒径5μmより大きく20μm以下であってもよい。粉砕・分級工程S1における粘土鉱物の粉砕方法は、特に限定されず、例えば、自動乳鉢を用いた粉砕方法であってもよい。
【0019】
粉砕・分級工程S1における粘土鉱物の分級方法は、特に限定されず、例えば、水簸(すいひ)を用いた分級方法であってもよい。水簸を用いた分級方法は、粉砕された粘土鉱物を水に入れて掻き混ぜて不純物を除去し乾燥させることによって分級する方法である。水簸による分級方法は、任意の粒径の粘土鉱物を得ることができると共に、不純物を除去することができるので、より均一なワダライトを製造可能な点において好ましい。
【0020】
<吸着工程S2>
図4は、
図1に示す吸着工程S2が粘土鉱物に及ぼす影響について説明する図である。
図5は、セシウムイオンの吸着有無による風化黒雲母のX線回折スペクトルの違いを示す図である。
図6は、セシウムイオンの吸着有無による風化黒雲母の組成の違いを示す図である。
【0021】
吸着工程S2は、粉砕・分級工程S1によって得られた粘土鉱物に、所定の金属元素イオンを吸着させる。吸着される金属元素は、後の混合工程S3及び熱処理工程S4において用いられる塩(例えば塩化カルシウム)に含まれる金属(例えばカルシウム)と比べて、イオン半径が同等以上であれば、特に限定されない。すなわち、吸着される金属元素のイオン半径は、混合工程S3において混合される塩に含まれる金属のイオン半径以上である。吸着される金属元素としては、例えば、ナトリウム、カリウム、ルビジウム又はセシウム等が挙げられる。粘土鉱物が風化黒雲母である場合、吸着される金属元素としてはセシウムが好ましい。
【0022】
吸着工程S2では、まず、
図4(a)に示すように、吸着される金属元素イオン(セシウムイオン)が、粘土鉱物の外縁部分から粘土鉱物を構成する粘土層の層間へ進入して吸着する。そして、
図4(b)に示すように、吸着された金属元素イオンの隣に、新たな金属元素イオンが吸着していき、
図4(c)に示すように、金属元素イオンが、粘土層の層間に連続的(又は集団的)に吸着する。すると、
図4(d)に示すように、まとまった金属元素イオンの吸着によって、金属元素イオンが吸着された粘土層の層間距離が収縮する。すると、
図4(e)に示すように、隣接した粘土層が剥離し、金属元素イオンの表面吸着サイトが出現する。
【0023】
図4(a)~
図4(e)に示すような現象によって、吸着工程S2では、粘土層の層間に金属元素イオンが吸着し、粘土層の層間距離が収縮し、粘土層に沿った方向において粘土層の層間距離が均一に整う。実際に、セシウムイオン吸着無しの風化黒雲母の層間距離は10.54Å程度であるが、セシウムイオン吸着有りの風化黒雲母の層間距離は10.20Å程度である。また、
図5に示すように、セシウムイオン吸着有りの風化黒雲母のX線回折スペクトルは、セシウムイオン吸着無しの風化黒雲母のX線回折スペクトルよりも、6deg~10deg付近のピークがシャープな形状を有していることが分かる。これは、セシウムイオン吸着有りの風化黒雲母は、吸着されたセシウムイオンによって、粘土層の規則性が高まり、層状構造が整うことが要因と考えられる。風化黒雲母は、イオン半径の大きいセシウムイオンの吸着によって、元々粘土層の層間に存在していたカリウムイオン等と交換される。実際に、
図6に示すように、セシウムイオン吸着有りの風化黒雲母は、セシウムイオン吸着無しの風化黒雲母よりも、セシウムイオンの量が増加する代わりにカリウムイオンの量が減少している。
【0024】
吸着工程S2においてセシウムイオンが風化黒雲母の粘土層の層間に吸着されると、セシウムイオン及びこれに化学的性質が類似したイオンが当該層間に吸着し易くなるだけでなく、当該層間が均一に広がる。これにより、後の熱処理工程S4での塩(例えば塩化カルシウム)と風化黒雲母との反応の際に、イオン半径の大きいカルシウムイオンが、粘土層の層間の奥深くに進入し易くなり、層間に吸着されたセシウムイオンと交換され易い。したがって、吸着工程S2においてセシウムイオンを吸着させることは、後の熱処理工程S4での風化黒雲母と塩との反応を促進されるという効果を奏する。但し、本実施形態に係る製造方法1において、吸着工程S2は必須でない。
【0025】
吸着工程S2を実現する手法としては、例えば、吸着される金属元素イオンを含む溶液(例えば塩化セシウム溶液)と粘土鉱物(例えば風化黒雲母)とを混合させることによって、当該金属元素イオンを当該粘土鉱物に吸着させる手法がある。この際、当該粘土鉱物の重量に対して2wt%以上6wt%以下の重量の当該金属元素が添加されるように、当該粘土鉱物に当該金属元素を混合させることが好ましい。これによって、吸着工程S2は、当該金属元素イオンを当該粘土鉱物に過不足なく吸着させることができる。具体的には、例えば、塩化セシウム溶液に水簸材料を分散させて風化黒雲母と混合し、一夜穏やかに攪拌を続けることによって、セシウムイオンが吸着された風化黒雲母を得ることができる。この際、風化黒雲母の重量に対して2wt%以上6wt%以下の重量のセシウムが添加されるように、塩化セシウム溶液と風化黒雲母とを混合させればよい。
【0026】
<混合工程S3>
混合工程S3は、粉砕・分級工程S1又は吸着工程S2によって得られた粘土鉱物に塩を混合させて混合物を得る。混合される塩は、後の熱処理工程S4において溶融塩となる金属塩化物である。これは、混合される塩が後の熱処理工程S4において高温になった際に溶融塩となれば、イオンとしての作用が生じてワダライトを製造できるが、混合される塩が高温になった際に昇華してしまえば、ワダライトを製造できないからである。混合される塩としては、例えば、塩化カルシウムが好ましい。混合される塩化カルシウムとしては、例えば、昭和化学株式会社製であって製品等のコードが0305-2250、0305-2260又は0305-2280である塩化カルシウム粉末と同等の平均粒径を有する塩化カルシウム粉末が好ましい。
【0027】
混合工程S3では、粉砕・分級工程S1又は吸着工程S2によって得られた粘土鉱物(例えば風化黒雲母)と、塩(例えば塩化カルシウム)とを同じ質量で混合させてもよい。具体的には、例えば、風化黒雲母と塩化カルシウムとを同じ質量で混合させてもよい。これは、反応させる塩化カルシウムを多量に準備しなくても十分であることを意味しており、風化黒雲母の構造上の特徴、すなわち風化によって粘土層が膨潤し層間が広がっていることが要因と考えられる。従来の特許文献1(特開2013-23400号公報)では、その段落0067に記載されているように、非晶質材料の4倍という多量の塩化カルシウムが必要であった。これに対して、本実施形態に係る製造方法1では、従来よりも少量の塩を混合させたとしてもワダライトを製造することができる。
【0028】
<熱処理工程S4>
熱処理工程S4は、混合工程S3によって得られた混合物に熱処理を行う。具体的には、例えば、風化黒雲母と塩化カルシウムとの混合物を、環状電気炉等の一般的な電気炉を用いて、600℃以上850℃未満の熱処理温度で加熱する。熱処理時間は、特に限定されないが、例えば2時間であってもよい。熱処理工程S4の後、本実施形態に係る製造方法1では、熱処理工程S4によって得られた熱処理物を、水洗し、遠心分離により固液分離した後に液相を破棄し、残った固相を80℃にて乾燥させることによって、ワダライトを得ることができる。
【0029】
混合物がセシウム吸着有りの風化黒雲母と塩化カルシウムとの混合物である場合、熱処理工程S4における熱処理温度は、600℃以上850℃未満であってもよい。熱処理工程S4における熱処理温度が700℃以上850℃未満であると、高純度のワダライトを製造することができるので、好ましい。また、混合物がセシウム吸着無しの風化黒雲母と塩化カルシウムとの混合物である場合、熱処理工程S4における熱処理温度は、700℃以上850℃未満であってもよい。熱処理工程S4における熱処理温度が850℃未満という低い温度であってもワダライトを製造することができるのは、風化黒雲母の粘土層の層間が広がっており、カルシウムイオンが当該層間に進入し易く、風化黒雲母と反応し易いからである。
【0030】
なお、基板上に膜状のワダライトを製造する場合、本実施形態の熱処理工程S4のように低温でワダライトが製造できるようになれば、基板の耐熱性について拘束され難い。したがって、本実施形態に係る製造方法1は、製造時に使用する基板の種類が制約され難くなり、製造環境の自由度を向上させることができ、より簡便にワダライトを製造することができる。
【0031】
<実施例>
図7は、
図1に示す製造方法1の実施例1~5及び比較例1~4における各製造条件及び結果を示す図である。
図7に示す各結果において、〇印はワダライトが製造できたことを示し、◎印は高純度のワダライトが製造できたことを示し、×印はワダライトが製造できなかったことを示す。
【0032】
実施例1では、出発材料である粘土鉱物として、福島県小野町産の風化黒雲母を準備し、当該風化黒雲母を粉砕機で粉砕及び分級した。粉砕及び分級された風化黒雲母について、レーザ回折散乱法(Zetasizer Nano-ZS、マルバーン・パナリティカル社製の装置を使用)を用いて粒度を測定したところ、平均粒径は5μmであった。また、当該風化黒雲母のX線回折スペクトルは、
図2に示す通りであり、結晶質であることが確認できる。これは、従来の特許文献1が非晶質材料を用いてワダライトを製造することと明確に異なっている。
【0033】
続いて、実施例1では、粉砕及び分級された風化黒雲母0.5gに対して塩化カルシウム0.5gを混合させて攪拌し、均一に混合された混合物を得た。すなわち、実施例1では、セシウムイオン吸着無しの風化黒雲母に塩化カルシウムを同じ質量で混合させて混合物を得た。得られた混合物に対して、熱処理温度を700℃とし、熱処理時間を2時間として熱処理を行った。熱処理によって得られた熱処理物を、水洗し、遠心分離により固液分離した後に液相を破棄し、残った固相を80℃にて乾燥させることによって、実施例1の製造物を得た。
【0034】
続いて、実施例1の製造物のX線回折スペクトルを粉末X線回折法によって測定し、ワダライトのX線回折スペクトルと比較した。
【0035】
図8は、
図7に示す実施例1の製造物のX線回折スペクトルと、ワダライトのX線回折スペクトルとを比較した図である。
図8において、灰色線は実施例1の製造物のX線回折スペクトルを示し、破線はワダライトのX線回折スペクトルを示す。
【0036】
図8に示すように、実施例1の製造物のX線回折スペクトルは、回折角度が33deg付近において回折強度が最も高いメインピークを有しており、ワダライトのX線回折スペクトルと一致した。実施例1の製造物のX線回折スペクトルは、メインピーク以外のピークについても、ワダライトのX線回折スペクトルと一致した。したがって、実施例1の製造物はワダライトであることが確認された。但し、実施例1の製造物のX線回折スペクトルは、6deg~10deg付近にピークを有する。このピークは、風化黒雲母の層状構造に由来するピークである。すなわち、実施例1の製造物は、その大部分がワダライトであるが、その一部には風化黒雲母の層状構造が残存していることが確認された。
【0037】
実施例2では、実施例1と同様に粉砕及び分級された風化黒雲母に塩化セシウム溶液を混合させて、風化黒雲母にセシウムイオンを吸着させた。この際、風化黒雲母の重量に対して4.0wt%の重量のセシウムが添加されるように、風化黒雲母に塩化セシウム溶液を混合させた。実施例2のこれ以外の製造条件は、実施例1と同様である。
【0038】
図9は、
図7に示す実施例2の製造物のX線回折スペクトルと、ワダライトのX線回折スペクトルとを比較した図である。
図9において、灰色線は実施例2の製造物のX線回折スペクトルを示し、破線はワダライトのX線回折スペクトルを示す。
【0039】
図9に示すように、実施例2の製造物のX線回折スペクトルは、回折角度が33deg付近において回折強度が最も高いメインピークを有しており、ワダライトのX線回折スペクトルと一致した。実施例2の製造物のX線回折スペクトルは、メインピーク以外のピークについても、ワダライトのX線回折スペクトルと一致した。更に、実施例2の製造物のX線回折スペクトルは、6deg~10deg付近に出現する風化黒雲母の層状構造に由来のピークを有していなかった。したがって、実施例2の製造物は、風化黒雲母の層状構造が完全に消失しており、実施例1よりも高純度のワダライトであることが確認された。
【0040】
実施例3では、セシウムイオン吸着有りの風化黒雲母と塩化カルシウムとの混合物に対して、熱処理温度を600℃とし、熱処理時間を2時間として熱処理を行った。実施例3のこれ以外の製造条件は、実施例2と同様である。
【0041】
実施例3の製造物のX線回折スペクトルは、実施例1の製造物のX線回折スペクトルと同様に、風化黒雲母の層状構造に由来のピークを有しているものの、メインピークを含む大半のピークがワダライトのX線回折スペクトルと一致した。実施例3の製造物は、その大部分がワダライトであるが、その一部には風化黒雲母の層状構造が残存していることが確認された。
【0042】
実施例4では、風化黒雲母の重量に対して2.2wt%の重量のセシウムが添加されるように、風化黒雲母に塩化セシウム溶液を混合させて、風化黒雲母にセシウムイオンを吸着させた。実施例4のこれ以外の製造条件は、実施例2と同様である。
【0043】
実施例4の製造物のX線回折スペクトルは、実施例2の製造物のX線回折スペクトルと同様に、風化黒雲母の層状構造に由来のピークを有しておらず、ワダライトのX線回折スペクトルと一致した。実施例4の製造物は、高純度のワダライトであることが確認された。
【0044】
実施例5では、セシウムイオン吸着有りの風化黒雲母と塩化カルシウムとの混合物に対して、熱処理温度を600℃とし、熱処理時間を2時間として熱処理を行った。実施例5のこれ以外の製造条件は、実施例4と同様である。
【0045】
実施例5の製造物のX線回折スペクトルは、実施例1及び実施例3の製造物のX線回折スペクトルと同様に、風化黒雲母の層状構造に由来のピークを有しているものの、メインピークを含む大半のピークがワダライトのX線回折スペクトルと一致した。実施例5の製造物は、その大部分はワダライトであるが、その一部には風化黒雲母の層状構造が残存していることが確認された。
【0046】
比較例1では、出発材料である粘土鉱物として、インド産の黒雲母を準備し、実施例1と同様に当該黒雲母を粉砕機で粉砕及び分級した。比較例1のこれ以外の製造条件は、実施例1と同様である。
【0047】
図10は、
図7に示す比較例1の製造物のX線回折スペクトルと、ワダライトのX線回折スペクトルとを比較した図である。
図10において、灰色線は比較例1の製造物のX線回折スペクトルを示し、破線はワダライトのX線回折スペクトルを示す。
【0048】
図10に示すように、比較例1の製造物のX線回折スペクトルは、回折角度が33deg付近においてメインピークを有しておらず、ワダライトのX線回折スペクトルと一致しなかった。したがって、比較例1の製造物はワダライトではないことが確認された。なお、発明者は、比較例1の製造条件によって、パイロキシン(輝石)又はヘマタイト(赤鉄鉱)が製造されることを確認した。
【0049】
比較例2では、セシウムイオン吸着無しの風化黒雲母と塩化カルシウムとの混合物に対して、熱処理温度を600℃とし、熱処理時間を2時間として熱処理を行った。比較例2のこれ以外の製造条件は、実施例1と同様である。
【0050】
比較例2の製造物のX線回折スペクトルは、回折角度が33deg付近においてメインピークを有しておらず、ワダライトのX線回折スペクトルと一致しなかった。比較例2の製造物は、その大部分が風化黒雲母の層状構造を維持しており、ワダライトではないことが確認された。
【0051】
比較例3では、セシウムイオン吸着有りの風化黒雲母と塩化カルシウムとの混合物に対して、熱処理温度を500℃とし、熱処理時間を2時間として熱処理を行った。比較例3のこれ以外の製造条件は、実施例2と同様である。
【0052】
比較例3の製造物のX線回折スペクトルは、回折角度が33deg付近においてメインピークを有しておらず、ワダライトのX線回折スペクトルと一致しなかった。比較例3の製造物は、その大部分が風化黒雲母の層状構造を維持しており、ワダライトではないことが確認された。
【0053】
比較例4では、セシウムイオン吸着有りの風化黒雲母に塩化カルシウムを10倍の質量で混合させて混合物を得た。比較例4のこれ以外の製造条件は、比較例3と同様である。
【0054】
比較例4の製造物のX線回折スペクトルは、回折角度が33deg付近においてメインピークを有しておらず、ワダライトのX線回折スペクトルと一致しなかった。比較例4の製造物は、その大部分が風化黒雲母の層状構造を維持しており、ワダライトではないことが確認された。
【0055】
<実施例に対する考察>
実施例1、比較例1及び比較例2の各結果等から、粘土鉱物が黒雲母である場合、熱処理温度が700℃以下ではワダライトを製造できないが、粘土鉱物が風化黒雲母である場合、熱処理温度が700℃以上ではワダライトを製造可能であることが分かる。これは、前述したように、風化黒雲母が、風化によって粘土層が膨潤し層間が広がっていることから、陽イオンが粘土層の層間に進入し易く、熱処理工程S4での塩との反応が促進され易いことが要因と考えられる。
【0056】
実施例1及び実施例2の各結果等から、セシウムイオンが風化黒雲母に吸着されることによって、ワダライトを高純度に製造可能であることが分かる。これは、前述したように、セシウムイオンの吸着によって、セシウムイオンと化学的性質が類似したイオンが当該層間に吸着し易くなるだけでなく、当該層間が均一に広がっていることから、当該イオンが粘土層の層間の奥深くに進入し易く、熱処理工程S4での塩との反応が促進され易いことが要因と考えられる。
【0057】
実施例1及び実施例3の各結果等から、セシウムイオンが風化黒雲母に吸着されることによって、熱処理温度を600℃に低下させてもワダライトを製造可能であることが分かる。これは、前述のように、セシウムイオンの吸着によって熱処理工程S4での塩との反応が促進され易いことが要因と考えられる。すなわち、セシウムイオンの吸着によって熱処理温度を低下させることができる。
【0058】
比較例3及び比較例4の各結果から、熱処理温度が500℃では、塩化カルシウムの量を10倍にしても、ワダライトを製造できないことが分かる。
【0059】
このようなことから、700℃という低温の熱処理温度でワダライトを製造させるには、風化された層状粘土鉱物(例えば風化黒雲母)を用いることが重要であることが分かった。更に、熱処理温度を低下させるには、風化された層状粘土鉱物に金属元素イオン(例えばセシウムイオン)を吸着させることが重要であることが分かった。
【0060】
図11は、実施例1の製造物のX線回折スペクトルを示す
図8のメインピークと、実施例2の製造物のX線回折スペクトルを示す
図9のメインピークとを比較した図である。
【0061】
図11に示すように、実施例1の製造物のメインピークは、半値幅(FWHM:full width at half maximum)が0.258であり、回折強度が7000cps(counts per second)程度であった。実施例2の製造物のメインピークは、半値幅(FWHM)が0.197であり、回折強度が8000cps程度であった。
【0062】
すなわち、風化黒雲母の層状構造に由来するピークを有するワダライトが製造された実施例1のメインピークよりも、当該ピークを有していない高純度のワダライトが製造された実施例2のメインピークの方が、半値幅が小さく、且つ、回折強度が高い。
【0063】
ここで、結晶内部に不純物が存在すると、X線回折法による測定の際に、X線が結晶内部で散乱するので、回折強度のピークがブロードになり、且つ、ピークの回折強度が低くなる。よって、結晶内部に不純物が存在すると、メインピークの半値幅が増加する傾向にある。また、結晶内部の不純物がばらつきを持つと、回折角度の分散も発生するので、メインピークの半値幅が更に増加する傾向にある。したがって、メインピークの半値幅が小さく、且つ、回折強度が高い程、ワダライトの純度が高いと考えることができる。
【0064】
したがって、風化黒雲母の層状構造に由来するピークだけでなく、メインピークの半値幅及び回折強度を評価することによって、高純度のワダライトが製造できたか否かを正確に判定することができる。
【0065】
また、実施例1及び実施例2の各結果並びに
図11等から、風化黒雲母に塩化カルシウムを同じ質量で混合させた混合物に対して、700℃以上850℃未満の熱処理温度で熱処理を行うことによって、メインピークの半値幅(FWHM)が0.197以上0.258以下の値を有するワダライトを製造することができる。すなわち、本実施形態に係る製造方法1によって製造されたワダライトは、メインピークの半値幅(FWHM)が0.197以上0.258以下の値を有するワダライトを含む。
【0066】
図12は、
図7に示す実施例1~5及び比較例1~4の各製造物の組成を蛍光X線分析によって分析した結果を示す図である。
【0067】
実施例1~5では出発材料として天然に存在する風化黒雲母を用いていることから、実施例1~5で製造されたワダライトは、鉄、マグネシウム、チタン、カリウム及びマンガンの少なくとも1つの元素を含有することが分かる。すなわち、本実施形態に係る製造方法1によって製造されたワダライトは、鉄、マグネシウム、チタン、カリウム及びマンガンの少なくとも1つの元素を含有するワダライトを含む。
【0068】
図12には、セシウムイオン吸着無しの風化黒雲母、セシウムイオン吸着有りの風化黒雲母、及び、黒雲母の各組成を蛍光X線分析によって分析した結果についても記載されている。風化黒雲母は、黒雲母よりも鉄等の元素の割合が小さいことが分かる。これは、黒雲母の風化によって、鉄等の元素の溶脱が発生していることが要因と考えられる。
【0069】
[第2実施形態]
図13を用いて、第2実施形態に係るワダライトの製造方法1について説明する。第2実施形態に係る製造方法1において、第1実施形態と同様の構成については、説明を省略する。
【0070】
第2実施形態に係るワダライトの製造方法1は、吸着工程S2が第1実施形態と異なり、吸着工程S2以外の工程が第1実施形態と同様である。
【0071】
すなわち、第1実施形態に係る吸着工程S2では、吸着される金属元素イオンを含む溶液(例えば塩化セシウム溶液)と粘土鉱物(例えば風化黒雲母)とを混合させることによって、当該金属元素イオンを当該粘土鉱物に吸着させていた。
【0072】
これに対し、第2実施形態に係る吸着工程S2では、粘土鉱物に金属元素を混合させて熱処理を行うことによって、当該金属元素イオンを当該粘土鉱物に吸着させる。具体的には、第2実施形態に係る吸着工程S2では、例えば、風化黒雲母に塩化セシウム粉末を混合させて熱処理を行うことによって、セシウムイオンを風化黒雲母に吸着させることができる。
【0073】
<実施例>
第2実施形態に係る製造方法1の実施例である実施例6では、
図7に示す実施例2と同様に粉砕及び分級された風化黒雲母を準備した。そして、実施例6では、当該風化黒雲母に塩化セシウム粉末を同じ質量で混合させて、熱処理温度を700℃とし、熱処理時間を2時間として熱処理を行い、水洗して余分な塩を除去した。これによって、セシウムイオンが吸着された風化黒雲母の粉末材料を得た。得られた粉末材料において、風化黒雲母に対するセシウムイオンの吸着割合は、風化黒雲母の重量に対してセシウムの重量が13.0wt%であった。実施例6のこれ以外の製造条件は、実施例2と同様である。
【0074】
なお、発明者は、実施形態2に係る吸着工程S2によれば、風化黒雲母の重量に対して13.0wt%以上15wt%以下の重量のセシウムが添加されるようにセシウムイオンを風化黒雲母に吸着させることができることを確認している。
【0075】
図13は、第2実施形態に係る製造方法1の実施例6における製造物のX線回折スペクトルと、ワダライトのX線回折スペクトルとを比較した図である。
図13において、灰色線は実施例6の製造物のX線回折スペクトルを示し、破線はワダライトのX線回折スペクトルを示す。
【0076】
実施例6の製造物のX線回折スペクトルは、実施例2の製造物のX線回折スペクトルと同様に、風化黒雲母の層状構造に由来のピークを有しておらず、ワダライトのX線回折スペクトルと一致した。実施例6の製造物は、高純度のワダライトであることが確認された。
【0077】
第2実施形態の吸着工程S2は、熱処理を伴うことによって、風化黒雲母を混合させた塩化セシウム溶液を攪拌する必要がないので、第1実施形態よりも短時間でセシウムイオンを風化黒雲母に吸着させることができる。
【0078】
[第3実施形態]
図14~
図19を用いて、第3実施形態に係る熱電変換材料の製造方法1について説明する。第3実施形態に係る製造方法1において、第1実施形態と同様の構成については、説明を省略する。
【0079】
図14は、第3実施形態に係る熱電変換材料の製造方法1を示す図である。
【0080】
第3実施形態に係る製造方法1は、第1実施形態に係る製造方法1に対して、加圧成形工程S5及び焼成工程S6を追加することによって、熱電変換材料を製造する方法である。
【0081】
具体的には、第3実施形態に係る製造方法1は、粉砕・分級工程S1及び熱処理工程S4が、第1実施形態と同様の工程であってもよい。第3実施形態に係る製造方法1は、吸着工程S2の有無に関わらず熱電変換材料を製造可能である。すなわち、第3実施形態に係る製造方法1は、第1又は第2実施形態と同様の吸着工程S2を有していてもよいが、工程簡便化の観点から吸着工程S2を有していなくてもよい。第3実施形態に係る製造方法1は、混合工程S3が、第1実施形態と異なる。第3実施形態に係る製造方法1は、加圧成形工程S5及び焼成工程S6が、第1実施形態に対して追加されている。以下、第3実施形態に係る製造方法1のうち、第1実施形態と異なる工程について説明する。
【0082】
<混合工程S3>
混合工程S3は、粉砕・分級工程S1によって得られた粘土鉱物に、1種類又は2種類以上のアルカリ金属塩化物を混合させて混合物を得る。混合されるアルカリ金属塩は、特に限定されないが、例えば、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム又は塩化マグネシウム等が好ましい。例えば、塩化カルシウム、塩化カリウム及び塩化マグネシウムのそれぞれの融点は、700℃から800℃程度であるが、2種類以上のアルカリ金属塩化物を混合させた混合塩は、特定の混合比において共晶温度が低下する。したがって、当該混合塩は、粘土鉱物との反応温度を低下させる効果が期待できる。更に、当該混合塩は、その混合比を調整することによって、任意の性能を示す熱電変換材料を製造することができる。このようなことから、混合工程S3は、本実施形態に係る製造方法1の特徴的な工程である。
【0083】
<加圧成形工程S5>
第3実施形態に係る製造方法1は、第1実施形態と同様に、熱処理工程S4によって得られた熱処理物を水洗し、遠心分離により固液分離し、残った固相を乾燥させることによって、粉末材料(ワダライト)を得る。加圧成形工程S5は、当該粉末材料に対して加圧成形処理を行って成形物を得る。具体的には、加圧成形工程S5は、例えば、直径16mmの錠剤成型器に当該粉末材料を収容し、油圧プレス機によって荷重10Tで加圧してペレット状に加圧成形する。
【0084】
加圧成形工程S5は、成形物内部に残存するボイドの量を低減することが可能となる。これによって、加圧成形工程S5は、後の焼成工程S6の際の熱の影響によって、成形物内部に残存するボイドが膨張して成型物の割れ又は歪みが発生することを抑制することができる。加圧成形工程S5は、成形物内部に残存するボイドを極力低減できる程度に加圧成形できればよく、その手法は特に限定されない。なお、加圧成形工程S5は、焼成工程S6と一緒に行われてもよい。
【0085】
<焼成工程S6>
焼成工程S6は、加圧成形工程S5によって得られた成形物に対して再度熱処理を行って当該成形物を焼成する。具体的には、焼成工程S6は、環状電気炉等の一般的な電気炉を用いて、100℃/h以上200℃/h以下の昇温速度によって所定の焼成温度まで昇温させ、当該焼成温度を所定の焼成時間だけ維持して、当該成形物を焼成する。焼成温度は、特に制限されないが、例えば900℃以上950℃以下の温度であってもよい。焼成時間は、特に限定されないが、例えば5時間であってもよい。
【0086】
昇温速度については、急速に昇温させると、成形物中のボイドが急速に外部に抜けることになり、割れ又は歪み等が発生する要因となるので、好ましくない。成形物は、熱伝導率が低いので、昇温速度条件を厳密に制御する必要がある。発明者は、実験を重ねた結果、昇温速度が200℃/hを超えると、成形物に割れ等が発生することを見出した。このため、昇温速度は200℃/h以下であることが好ましい。製造時間の短縮化の観点から、昇温速度は100℃/h以上200℃/h以下であることがより好ましい。なお、前述のとおり、成形物の割れ又は歪みが成形物内部のボイドにあると考えられることから、成形物の水分を十分に乾燥させることが重要である。第3実施形態に係る製造方法1は、焼成工程S6の前に、当該成形物を十分に乾燥させる乾燥工程を有していてもよい。
【0087】
<実施例>
図15は、
図14に示す製造方法1の実施例7~11及び比較例5における各製造条件を示す図である。
【0088】
実施例7では、出発材料である粘土鉱物として、風化黒雲母を準備し、当該風化黒雲母を粉砕機で粉砕及び分級した。粉砕及び分級された風化黒雲母について、レーザ回折散乱法(Zetasizer Nano-ZS、マルバーン・パナリティカル社製の装置を使用)等を用いて粒度を測定したところ、平均粒径は5μmであった。
【0089】
続いて、実施例7では、粉砕及び分級された風化黒雲母0.5gに対して塩化カルシウム0.5gを混合させて攪拌し、均一に混合された混合物を得た。すなわち、実施例7では、風化黒雲母に塩化カルシウムを同じ質量で混合させて混合物を得た。得られた混合物に対して、熱処理温度を700℃とし、熱処理時間を2時間として熱処理を行った。熱処理によって得られた熱処理物を、水洗し、遠心分離により固液分離した後に液相を破棄し、残った固相を80℃にて乾燥させることによって、粉末材料を得た。
【0090】
続いて、実施例7では、得られた粉末材料を直径16mmの錠剤成型器に収容し、油圧プレス機によって荷重10Tで加圧してペレット状に加圧成形し、成形物を得た。続いて、実施例7では、得られた成形物に対して、昇温速度を100℃/hとし、焼成温度を950℃とし、焼成時間を5時間として再度熱処理を行い、当該成形物を焼成した。その後、得られた焼成物を自然冷却して、実施例7の製造物を得た。
【0091】
実施例8では、実施例7と同様に粉砕及び分級された風化黒雲母0.5gと、塩化カルシウム及び塩化ナトリウムを塩化カルシウム:塩化ナトリウム=1:1の混合比で混合させた混合塩0.5gとを、均一に混合し、混合物を得た。実施例8のこれ以外の製造条件は、実施例7と同様である。
【0092】
実施例9では、混合塩として塩化カルシウム及び塩化カリウムを選択し、その混合比を塩化カルシウム:塩化カリウム=1:1とした。実施例9のこれ以外の製造条件は、実施例8と同様である。
【0093】
実施例10では、混合塩の混合比を塩化カルシウム:塩化カリウム=1:3とした。実施例10のこれ以外の製造条件は、実施例9と同様である。
【0094】
実施例11では、混合塩の混合比を塩化カルシウム:塩化カリウム=3:1とした。実施例11のこれ以外の製造条件は、実施例9と同様である。
【0095】
比較例5では、粘土鉱物である風化黒雲母に塩を混合させずに、熱処理工程S4の熱処理を行った。比較例5のこれ以外の製造条件は、実施例7と同様である。
【0096】
図16~
図19を用いて、
図15に示す実施例7~11及び比較例5の各製造物の性能評価について説明する。
【0097】
熱電変換材料の性能評価においては、熱電変換材料の無次元性能指数ZTによって評価することができる。無次元性能指数ZTは、ZT=S2σT/κの式によって表わされる。Sは熱電変換材料のゼーベック係数、Tは熱電変換材料の絶対温度、σは熱電変換材料の導電率、κは熱電変換材料の熱伝導率である。熱伝導率κは、比熱及び密度を熱拡散率に乗算することによって算出することができる。このため、実施例7~11及び比較例5の各製造物の性能評価を行うため、所定の温度範囲(高温領域である650℃から850℃まで)において、各製造物の導電率[S/cm]、ゼーベック係数[μV/K]、熱拡散率[mm2/s]を測定した。そして、当該温度範囲におけるZTを算出した。
【0098】
図16は、
図15に示す実施例7~11及び比較例5の各製造物の導電率の測定結果を示す図である。
図17は、
図15に示す実施例7~11及び比較例5の各製造物のゼーベック係数の測定結果を示す図である。
図18は、
図15に示す実施例7~11及び比較例5の各製造物の熱拡散率の測定結果を示す図である。
図19は、
図15に示す実施例7~11及び比較例5の各製造物の無次元性能指数ZTの評価結果を示す図である。
【0099】
一般的に室温における粘土鉱物の導電率は10
-13のオーダであるが、実施例7~11の各製造物の導電率は、
図16に示すように、10
-5のオーダに向上している。無次元性能指数ZTの式から、導電率の向上は、無次元性能指数ZTの向上に寄与することが明らかである。したがって、実施例7~11の各製造物は、単なる粘土鉱物よりも熱電変換性能が向上できているといえる。更に、実施例7~11の各製造物の無次元性能指数ZTは、
図19に示すように、高温領域(650℃から850℃まで)において変動が見られる。したがって、実施例7~11の各製造物は、熱電変換材料として有用であることが確認された。
【0100】
なお、従来の熱電変換材料については、高温領域での熱電性能を評価する事例は少ない。これは、従来の熱電変換材料は、高温領域での構造が不安定である材料が多く、熱電性能が期待できないからである。加えて、従来の熱電変換材料は、高温環境に設置した場合に、熱電変換材料が熱の影響を受けて、割れたり、変形したりすることが懸念されていたからである。
【0101】
これに対して、実施例7~11の各製造物は、
図19に示すように、高温領域においても熱電変換材料としての性能を示している。また、出発材料として、粘土鉱物を使用しているので、陶器にも利用される出発材料になることから、熱に対する影響を受け難く、耐熱性を有することで、高温領域での使用に適している。したがって、第3実施形態に係る製造方法1は、高温領域において使用可能な熱電変換材料を製造することができる。
【0102】
<実施例に対する考察>
実施例7~11及び比較例5の各評価結果から、1種類又は2種類以上のアルカリ金属塩化物を混合させた方が、アルカリ金属塩を混合させないよりも、無次元性能指数ZTが向上することが分かった。したがって、1種類又は2種類以上のアルカリ金属塩を混合させる混合工程S3を有することによって、熱電変換性能に好影響をもたらすことが分かる。これは、伝導電子及び正孔が担う電子伝導と、点欠陥が担うイオン伝導との加算的な寄与によるものと考えられる。したがって、この作用を期待できるアルカリ金属塩であれば、本実施形態の効果を奏すると考えられる。
【0103】
実施例9~11においては、2種類のアルカリ金属塩化物の混合塩を準備し、その混合比を異ならせることによって、高温領域における無次元性能指数ZTのピーク位置をシフト可能であることが分かった。この結果から、2種類以上のアルカリ金属塩化物の混合比を調整することで、所望の高温領域において、より熱電変換性能を発揮する熱電変換材料を製造可能になることが分かる。これは、アルカリ金属塩化物の伝導特性が温度に依存するものと考えられる。この特性を利用することで、当該熱電変換材料を設置する環境に合わせて所望の熱電変換性能を有する熱電変換材料を製造することが可能になる。
【0104】
実施例8、9の各評価結果から、塩化カルシウム及び塩化カリウムを混合塩として用いた場合の無次元性能指数ZTが、塩化カルシウム及び塩化ナトリウムを混合塩として用いた場合の無次元性能指数ZTよりも高かった。すなわち、アルカリ金属塩化物の混合塩としては、塩化カルシウム及び塩化カリウムの方が好ましいことが分かった。これは、アルカリ金属塩化物の吸着量が多いこと、及び、吸着構造が均一であることが要因であると考えられる。したがって、吸着量が多く、且つ、吸着構造が均一となるようなアルカリ金属塩化物の組み合わせであれば、熱電変換性能を向上させることができると考えられる。
【0105】
従来の熱電変換材料は、鉛、テルル、ビスマス、アンチモン等の無機化合物を用いて製造されていた。これらの材料は、希少性が高くコストが高かったり、毒性を有していたりするという課題があった。これに対し、第3実施形態に係る製造方法1は、地球上に豊富に存在する環境負荷の低い材料を使用して熱電変換材料を製造することができるので、従来よりも安全且つ安価に熱電変換材料を製造することができる。
【0106】
更に、従来の熱電変換材料の製造に用いられる材料は、重元素を含んでいるので、従来の熱電変換材料は重量が大きくなってしまうという課題があった。これに対し、第3実施形態に係る製造方法1は、従来よりも軽い元素によって構成される材料を使用して熱電変換材料を製造することができるので、従来よりも軽量な熱電変換材料を製造することができる。
【0107】
更に、従来の熱電変換材料の使用温度領域は、室温から600℃までの低温領域が大半であるので、高温領域での使用には適さないという課題もあった。これに対し、第3実施形態に係る製造方法1は、600℃以上の高温領域であっても安定的に熱電変換性能を発揮する熱電変換材料を製造することができる。したがって、第3実施形態に係る製造方法1によって製造された熱電変換材料は、原子力発電又はボイラー等の高温環境下でも使用可能であり、産業上の利用可能性を拡大することができる。
【0108】
以上のように、第3実施形態に係る製造方法1は、風化黒雲母にアルカリ金属塩化物を混合させて混合物を得る混合工程S3と、得られた混合物に熱処理を行う熱処理工程S4と、熱処理が行われた混合物を加圧成形して成形物を得る加圧成形工程S5と、得られた成形物を焼成する焼成工程S6と、を有する。
【0109】
これにより、第3実施形態に係る製造方法1は、環境負荷が小さく且つ簡便な方法でワダライトを含むケイ酸塩鉱物を製造することができると共に、当該ケイ酸塩鉱物を中間体として最終的には、高温領域で使用可能であり軽量な熱電変換材料を安全且つ安価に製造することができる。
【0110】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更を行うことができる。本発明は、或る実施形態の構成を他の実施形態の構成に追加したり、或る実施形態の構成を他の実施形態と置換したり、或る実施形態の構成の一部を削除したりすることができる。
【符号の説明】
【0111】
1…製造方法、S1…粉砕・分級工程、S2…吸着工程、S3…混合工程、S4…熱処理工程、S5…加圧成形工程、S6…焼成工程
【手続補正書】
【提出日】2024-09-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土鉱物に金属元素のイオンを吸着させる吸着工程と、
前記粘土鉱物に塩を混合させて混合物を得る混合工程と、
前記混合物に熱処理を行う熱処理工程と、を有し、
前記粘土鉱物は、風化された層状粘土鉱物であり、
前記塩は、前記熱処理工程において溶融塩となる金属塩化物であり、
前記金属元素のイオン半径は、前記塩に含まれる金属のイオン半径以上である
ことを特徴とするワダライトの製造方法。
【請求項2】
前記粘土鉱物は、風化黒雲母であり、
前記塩は、塩化カルシウムである
ことを特徴とする請求項1に記載されたワダライトの製造方法。
【請求項3】
前記金属元素は、セシウムである
ことを特徴とする請求項2に記載されたワダライトの製造方法。
【請求項4】
前記熱処理工程は、600℃以上850℃未満の熱処理温度で前記混合物を加熱する
ことを特徴とする請求項3に記載されたワダライトの製造方法。
【請求項5】
前記熱処理工程は、700℃以上850℃未満の熱処理温度で前記混合物を加熱する
ことを特徴とする請求項2に記載されたワダライトの製造方法。
【請求項6】
前記吸着工程は、前記粘土鉱物に前記金属元素を混合させて熱処理を行うことによって、前記金属元素のイオンを前記粘土鉱物に吸着させる
ことを特徴とする請求項2に記載されたワダライトの製造方法。
【請求項7】
前記吸着工程は、前記粘土鉱物の重量に対して2wt%以上6wt%以下の重量の前記金属元素が添加されるように前記粘土鉱物に前記金属元素を混合させることによって、前記金属元素のイオンを前記粘土鉱物に吸着させる
ことを特徴とする請求項3に記載されたワダライトの製造方法。
【請求項8】
前記混合工程は、前記粘土鉱物と前記塩とを同じ質量で混合させる
ことを特徴とする請求項2に記載されたワダライトの製造方法。