(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025152065
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20251002BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
F02D43/00 301H
F02D43/00 301Z
F02D43/00 301B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024053784
(22)【出願日】2024-03-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年10月6日に公益社団法人自動車技術会 2023年秋季大会 講演予稿集にて発表 令和5年10月11日に公益社団法人自動車技術会 2023年秋季大会にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松島 佑斗
(72)【発明者】
【氏名】津村 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】拜崎 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】杉元 聖和
(72)【発明者】
【氏名】中川 滋
(72)【発明者】
【氏名】新谷 修平
(72)【発明者】
【氏名】三好 正城
(72)【発明者】
【氏名】上木 壮宏
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384AA01
3G384BA13
3G384BA24
3G384BA26
3G384DA04
3G384EA26
3G384FA01Z
3G384FA06Z
3G384FA29Z
3G384FA58Z
(57)【要約】
【課題】燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を抑制する。
【解決手段】エンジンの制御装置は、吸気バルブ11及び排気バルブ12の開閉によってガス交換が行われる気筒2を有し、かつ複数の気筒が順次、燃焼サイクルを実行することにより運転するエンジン1と、エンジンに取り付けられ、かつ複数の気筒それぞれの燃焼に関係するデバイスと、デバイスに制御信号を出力することによって、エンジンの運転を制御するコントローラ100と、を備え、コントローラは、エンジンのプラントモデル1000であって、燃焼サイクル間の燃焼変動の規則性を表すプラントモデルに基づいて、複数の気筒それぞれの燃焼前に、気筒の状態量を推定しかつ推定した状態量に基づき補正した制御信号をデバイスに出力する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気バルブ及び排気バルブの開閉によってガス交換が行われる気筒を有し、かつ複数の前記気筒が順次、燃焼サイクルを実行することにより運転するエンジンと、
前記エンジンに取り付けられ、かつ前記複数の気筒それぞれの燃焼に関係するデバイスと、
前記デバイスに制御信号を出力することによって、前記エンジンの運転を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記エンジンのプラントモデルであって、前記燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を表すプラントモデルに基づいて、前記複数の気筒それぞれの燃焼前に、前記気筒の状態量を推定しかつ推定した状態量に基づき補正した制御信号を前記デバイスに出力する、
エンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの制御装置において、
前記プラントモデルは、一燃焼サイクル毎に、前記気筒の状態量を推定するモデルであり、
前記コントローラは、前記プラントモデルに基づいて、前記気筒の状態量として、温度、空気量、既燃ガス量、及び燃料量を推定する、
エンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンの制御装置において、
前記プラントモデルは、前記気筒のガス交換に関係する物理モデルと、前記気筒内の燃焼に関係する統計モデルとの結合モデルである、
エンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のエンジンの制御装置において、
前記複数の気筒のそれぞれに対応して前記エンジンに取り付けられ、かつ気筒内の圧力に対応する信号を、前記コントローラへ出力する指圧センサを備え、
前記コントローラは、前記指圧センサの信号に基づく前記気筒内の燃焼状態と、前記プラントモデルとに基づいて、次に燃焼が行われる気筒の前記吸気バルブが閉じる前に、当該気筒の状態量を推定する、
エンジンの制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のエンジンの制御装置において、
前記指圧センサの信号に基づく燃焼状態は、図示平均有効圧力(IMEP)と燃焼重心(MFB50)とを含む、
エンジンの制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載のエンジンの制御装置において、
前記デバイスは、前記複数の気筒のそれぞれに対応して前記エンジンに取り付けられ、かつ前記気筒内へ供給される燃料を噴射するインジェクタを含み、
前記コントローラは、推定した状態量に基づいて、燃料噴射量を調整する、
エンジンの制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載のエンジンの制御装置において、
前記インジェクタは、少なくとも前記吸気バルブが閉じる前の吸気行程において、燃料を噴射し、
前記コントローラは、前記吸気行程における前記インジェクタによる前記燃料噴射量を調整する、
エンジンの制御装置。
【請求項8】
請求項4に記載のエンジンの制御装置において、
前記デバイスは、前記吸気バルブの開閉タイミングを変更する吸気動弁機構を含み、
前記コントローラは、推定した状態量に基づいて、前記吸気バルブの開閉タイミングを調整する、
エンジンの制御装置。
【請求項9】
請求項4に記載のエンジンの制御装置において、
前記デバイスは、前記複数の気筒のそれぞれに対応して前記エンジンに取り付けられ、かつ前記気筒内の混合気に点火する点火プラグを含み、
前記コントローラは、推定した状態量に基づいて、前記点火プラグの点火タイミングを調整する、
エンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、エンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来の内燃機関制御装置が記載されている。この内燃機関制御装置は、排気ガスをシリンダの筒内に戻すEGR(Exhaust Gas Recirculation)制御を行い、燃焼サイクルにおいて吸気バルブ及び排気バルブの双方が閉じている状態における筒内のガスの温度とEGR率とを求め、この求めたガスの温度とEGR率とに基づいて点火タイミングを補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された従来の制御装置は、吸気バルブが閉じた後に、筒内のガスの温度とEGR率とを求めて、当該燃焼サイクルにおける点火タイミングを補正する。つまり、従来の制御装置は、一サイクル毎に気筒の状態量を計測して、デバイスの制御量の補正を行っていた。
【0005】
これに対し、本願発明者らは、前のサイクルの燃焼が後のサイクルの燃焼に影響を及ぼすことによって、サイクルの進行に対して規則性を有する燃焼変動が発生することを、新たに見出した。このような複数の燃焼サイクルにまたがる長期的な燃焼変動は、従来の制御装置のように一サイクル毎に気筒の状態量を計測していたのでは、計測することができず、燃焼変動を抑制することもできない。
【0006】
ここに開示する技術は、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示する技術は、エンジンの制御装置に係る。このエンジンの制御装置は、
吸気バルブ及び排気バルブの開閉によってガス交換が行われる気筒を有し、かつ複数の前記気筒が順次、燃焼サイクルを実行することにより運転するエンジンと、
前記エンジンに取り付けられ、かつ前記複数の気筒それぞれの燃焼に関係するデバイスと、
前記デバイスに制御信号を出力することによって、前記エンジンの運転を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記エンジンのプラントモデルであって、前記燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を表すプラントモデルに基づいて、前記複数の気筒それぞれの燃焼前に、前記気筒の状態量を推定しかつ推定した状態量に基づき補正した制御信号を前記デバイスに出力する。
【0008】
コントローラは、デバイスに制御信号を出力することを通じて、エンジンの複数の気筒それぞれの燃焼を制御する。複数の気筒が順次、燃焼サイクルを実行することにより、エンジンは運転する。
【0009】
コントローラは、プラントモデルに基づいて、複数の気筒それぞれの燃焼前に、気筒の状態量を推定する。コントローラは、プラントモデルを用いることにより、複数の気筒それぞれの燃焼前に、気筒の状態量を推定できる。
【0010】
プラントモデルは、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を表す。燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動は、前のサイクルの燃焼が後のサイクルの燃焼に影響を及ぼすことによって生じる。コントローラは、推定した気筒の状態量に基づいてデバイスの制御量を補正する。コントローラは、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動が抑制されるよう、デバイスの制御量を補正する。コントローラが、補正した制御信号をデバイスに出力することにより、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動が抑制される。
【0011】
燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動は、エンジンの定常運転時、つまり、デバイスの制御量が時間に対して一定に維持されるような運転時においても発生し得る。前述したエンジンの制御装置は、エンジンの定常運転時における燃焼変動を抑制できる。
【0012】
前記プラントモデルは、一燃焼サイクル毎に、前記気筒の状態量を推定するモデルであり、
前記コントローラは、前記プラントモデルに基づいて、前記気筒の状態量として、温度、空気量、既燃ガス量、及び燃料量を推定する、としてもよい。
【0013】
燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動は、一燃焼サイクル毎の変動とは限らず、二以上の燃焼サイクルにまたがった周期的な変動となる場合がある。燃焼サイクル間の燃焼変動の周期が、二以上の燃焼サイクルからなる周期であっても、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動は、前のサイクルの燃焼が後のサイクルの燃焼に影響を及ぼすことが連続することの結果である。そこで、プラントモデルは、一燃焼サイクル毎に、気筒の状態量を推定するモデルとする。このようなプラントモデルは、特定周期の燃焼変動への適用に限定されず、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動に広く適用できる。プラントモデルの汎用性が高まる。
【0014】
また、本願発明者らの検討によれば、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動が生じる原因の一つは、前の燃焼サイクルにおける未燃燃料が、内部EGRガスを通じて後のサイクルの燃焼に影響を及ぼすためと推測される。そこで、コントローラが、プラントモデルに基づいて、気筒の状態量として、温度、空気量、既燃ガス量、及び燃料量を推定する。推定された温度、空気量、既燃ガス量、及び燃料量に基づいてデバイスの制御量が補正されることにより、燃焼サイクル間の燃焼変動が抑制される。
【0015】
前記プラントモデルは、前記気筒のガス交換に関係する物理モデルと、前記気筒内の燃焼に関係する統計モデルとの結合モデルである、としてもよい。
【0016】
こうすることにより、精度の高いプラントモデルが、簡略に構築できる。
【0017】
前記エンジンの制御装置は、前記複数の気筒のそれぞれに対応して前記エンジンに取り付けられ、かつ気筒内の圧力に対応する信号を、前記コントローラへ出力する指圧センサを備え、
前記コントローラは、前記指圧センサの信号に基づく前記気筒内の燃焼状態と、前記プラントモデルとに基づいて、次に燃焼が行われる気筒の前記吸気バルブが閉じる前に、当該気筒の状態量を推定する、としてもよい。
【0018】
燃焼変動には、前述した燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動の他に、例えば複数の気筒間における燃料噴射量のばらつきといった要因によりランダムで発生する燃焼変動が含まれる。ランダムで発生する燃焼変動は、前の燃焼サイクルにおける燃焼状態を計測すれば把握できる。
【0019】
コントローラは、前の燃焼サイクルにおける燃焼状態を、指圧センサの信号に基づいて計測する。これにより、コントローラは、前の燃焼サイクルにおいて発生したランダムな燃焼変動を、次に燃焼が行われる気筒の燃焼前に把握できる。コントローラはまた、前述したように、プラントモデルに基づいて燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を把握できる。その結果、コントローラは、次に燃焼が行われる気筒の燃焼前に、当該気筒の状態量を、精度よく推定できる。
【0020】
コントローラはまた、前の燃焼サイクルにおける燃焼が終了すれば、指圧センサの信号とプラントモデルとに基づいて、次に燃焼が行われる気筒の状態量を推定できる。コントローラは、比較的早いタイミング、具体的には、吸気バルブが閉じる前に、当該気筒の状態量を推定できる。気筒の状態量が早いタイミングで推定できることは、コントローラが補正制御を行うことのできるデバイスの種類を増やす。このことは、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動の抑制に有利である。
【0021】
前記指圧センサの信号に基づく燃焼状態は、図示平均有効圧力(IMEP:Indicated Mean Effective Pressure)と燃焼重心(MFB50)とを含む、としてもよい。ここで、MFB50は、質量燃焼割合(mass fraction burned)が50%となるクランク角である。
【0022】
本願発明者らの検討によれば、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動の一例として、IMEPとMFB50との二次元平面上で周回するように、IMEP及びMFB50が、複数の燃焼サイクルにわたって変動する挙動が確認できた。IMEPとMFB50との二つのパラメータにより燃焼状態が把握されることにより、コントローラは、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を効果的に抑制できる。
【0023】
前記デバイスは、前記複数の気筒のそれぞれに対応して前記エンジンに取り付けられ、かつ前記気筒内へ供給される燃料を噴射するインジェクタを含み、
前記コントローラは、推定した状態量に基づいて、燃料噴射量を調整する、としてもよい。
【0024】
前述したように、燃焼サイクル間の燃焼変動が生じる原因の一つは、前の燃焼サイクルにおける未燃燃料が、後のサイクルの燃焼に影響を及ぼすためである。つまりEGRガスを通じて後のサイクルへ送られる未燃燃料が多いと、当該サイクルの燃焼が相対的に良好になり、EGRガスを通じて後のサイクルへ送られる未燃燃料が少ないと、当該サイクルの燃焼が相対的に悪化する。
【0025】
推定した状態量に基づいて燃料噴射量が増減されれば、燃焼サイクル間の燃焼変動が抑制される。
【0026】
前記インジェクタは、少なくとも前記吸気バルブが閉じる前の吸気行程において、燃料を噴射し、
前記コントローラは、前記吸気行程における前記インジェクタによる前記燃料噴射量を調整する、としてもよい。
【0027】
コントローラは、前述したように、指圧センサの信号に基づく気筒内の燃焼状態と、プラントモデルとに基づいて、次に燃焼が行われる気筒の吸気バルブが閉じる前に、当該気筒の状態量を推定できる。従って、コントローラは、吸気バルブが閉じる前の吸気行程において、インジェクタによる燃料噴射量の調整が可能である。
【0028】
前記デバイスは、前記吸気バルブの開閉タイミングを変更する吸気動弁機構を含み、
前記コントローラは、推定した状態量に基づいて、前記吸気バルブの開閉タイミングを調整する、としてもよい。
【0029】
前述したように、コントローラは、次に燃焼が行われる気筒の吸気バルブが閉じる前に、当該気筒の状態量を推定できるから、吸気バルブの開閉タイミングの調整が実現する。
【0030】
前記デバイスは、前記複数の気筒のそれぞれに対応して前記エンジンに取り付けられ、かつ前記気筒内の混合気に点火する点火プラグを含み、
前記コントローラは、推定した状態量に基づいて、前記点火プラグの点火タイミングを調整する、としてもよい。
【0031】
点火タイミングの調整は、燃焼重心を変更させるから、燃焼変動の抑制に有効である。
【発明の効果】
【0032】
前述したエンジンの制御装置は、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図2】
図2は、エンジンの制御装置のブロック図である。
【
図3】
図3は、エンジンの運転領域マップを示している。
【
図4】
図4は、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を示している。
【
図5】
図5は、規則性を有する燃焼変動が発生するメカニズムの例を示している。
【
図6】
図6は、エンジンのプラントモデルを示している。
【
図7】
図7は、プラントモデルに係る変数表である。
【
図8】
図8は、コントローラの制御ブロック図である。
【
図9】
図9は、制御ブロックにおける一部の構成を示している。
【
図10】
図10は、エンジンの制御に係るタイミングチャートである。
【
図11】
図11は、ここに開示するエンジンの制御の効果を示している。
【
図12】
図12は、変形例に係る、制御ブロックにおける一部の構成を示している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、エンジンの制御装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明するエンジンの制御装置は例示である。
【0035】
(エンジンの構成)
図1は、エンジン1を示している。
図2は、エンジン1を含むエンジン1の制御装置のブロック図である。エンジン1は、自動車に搭載される。エンジン1は、当該自動車の走行用の駆動源である。エンジン1は、例えばガソリンを含有する燃料の供給を受けて運転する。
【0036】
エンジン1は、気筒2を有するエンジン本体1aを備えている。エンジン本体1aは、複数の気筒2を有している。複数の気筒2は、例えば
図1における紙面に直交する方向に一列に並んでいる。
【0037】
エンジン本体1aは、気筒2が形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上に位置するシリンダヘッド4とを有している。気筒2内には、ピストン5が往復動可能に嵌挿されている。ピストン5は、コンロッド8を介してクランクシャフトと連結されている。気筒2とシリンダヘッド4とピストン5とによって燃焼室6が形成される。ピストン5の往復動に伴い、気筒2は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を含む燃焼サイクルを繰り返す。エンジン1は、複数の気筒2が順次、燃焼サイクルを実行することにより運転する。
【0038】
シリンダヘッド4は、吸気ポート9と排気ポート10とを有している。吸気ポート9は、吸気通路20に接続されている。吸気ポート9は、吸気通路20から供給されるガスを気筒2内へ導入するためのポートである。排気ポート10は、排気通路30に接続されている。排気ポート10は、排気ガスを気筒2から排気通路30に導出するためのポートである。
【0039】
エンジン1は、吸気バルブ11及び排気バルブ12を有している。吸気バルブ11は、吸気ポート9を開閉する。排気バルブ12は、排気ポート10を開閉する。
【0040】
エンジン1は、吸気動弁機構を有している。吸気動弁機構は、吸気バルブ11を動かす。本実施形態の吸気動弁機構は、吸気S-VT17を含む。吸気S-VT17は、電動又は油圧駆動により、吸気カムシャフトの、クランクシャフトに対する回転位相を、所定の角度範囲内で連続的に変更する。吸気バルブ11の開弁時期及び閉弁時期は、吸気バルブ11の開期間を一定に維持したまま、連続的に、進角側又は遅角側へ変化する。なお、吸気S-VT17は、前述した構造に限定されない。
【0041】
エンジン1は、排気動弁機構を有している。排気動弁機構は、排気バルブ12を動かす。本実施形態の排気動弁機構は、排気S-VT18を含む。排気S-VT18は、電動又は油圧駆動により、排気カムシャフトの、クランクシャフトに対する回転位相を、所定の角度範囲内で連続的に変更する。排気S-VT18によって、排気バルブ12の開弁時期及び閉弁時期は、排気バルブの開期間を一定に維持したまま、連続的に、進角側又は遅角側へ変化する。なお、排気S-VT18は、前述した構造に限定されない。
【0042】
前述したように、吸気通路20は吸気ポート9に接続されている。吸気通路20の上流の端部に、エアクリーナ21が配設されている。エアクリーナ21は、新気を濾過する。エアクリーナ21を通過した空気が、吸気通路20及び吸気ポート9を介して気筒2に供給される。
【0043】
エアフローセンサSN2が、吸気通路20におけるエアクリーナ21の下流に位置している。エアフローセンサSN2は、吸気通路20における空気流量に対応する信号を出力する。
【0044】
吸気通路20におけるエアフローセンサSN2の下流に、スロットルバルブ22が位置している。スロットルバルブ22は、吸気通路20の通過断面積の大きさを変更する。
【0045】
前述したように、排気通路30は排気ポート10に接続されている。触媒装置31が、排気通路30の途中に位置している。触媒装置31は、気筒2から排出された排気ガスを浄化する。触媒装置31は、例えば三元触媒を含む。三元触媒は、HC及びCOを酸化し、NOxを還元することにより、排気ガスに含まれるエミッションを除去する。なお、触媒装置31は、三元触媒に限定されない。
【0046】
エンジン1は、点火プラグ13を有している。点火プラグ13は、気筒2毎に、シリンダヘッド4に取り付けられている。点火プラグ13は、燃焼室6内の混合気に強制的に点火する。点火プラグ13の点火時期は、後述するコントローラ100によって指定される。
【0047】
エンジン1は、インジェクタ14を有している。インジェクタ14は、気筒2毎に、シリンダヘッド4に取り付けられている。インジェクタ14は、所定の時期に、燃焼室6内へ、コントローラ100によって指定された量の燃料を噴射する。
【0048】
エンジンの制御装置は、
図2に示すように、コントローラ100を有している。コントローラ100は、エンジン1の運転を制御する。コントローラ100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントロールユニットである。コントローラ100は、CPU101、メモリ102、入出力バス103を備えている。CPU101は、コンピュータプログラムを実行する中央演算処理装置である。このコンピュータプログラムは、OS等の基本制御プログラム、及び、OS上で起動されて特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む。メモリ102は、種々のコンピュータプログラム、又は、該コンピュータプログラムの実行時に用いられるデータを格納する。このコンピュータプログラムは、エンジン1を制御するための制御プログラムである。メモリ102には、CPU101が一連の処理を行う際に使用される処理領域が設けられる。入出力バス103は、コントローラ100に対して電気信号の入出力をするものである。
【0049】
コントローラ100には、前述したエアフローセンサSN2が電気的に接続されている。エアフローセンサSN2は、コントローラ100へ信号を出力する。コントローラ100にはまた、クランク角センサSN1、アクセル開度センサSN3、及び指圧センサSN4が電気的に接続されている。クランク角センサSN1は、シリンダブロック3に取り付けられ、クランクシャフトの回転に対応する信号を、コントローラ100へ出力する。アクセル開度センサSN3は、アクセルペダル機構に取り付けられ、アクセルペダルの操作量に対応した信号を、コントローラ100へ出力する。指圧センサSN4は、
図1に示すように、気筒2毎に、シリンダヘッド4に取り付けられている。指圧センサSN4は、気筒2内の圧力に対応する信号を、コントローラ100へ出力する。コントローラ100は、これらのセンサSN1-SN4からの信号を受ける。
【0050】
コントローラ100は、センサSN1-SN4からの信号に基づいてエンジン1の状態を判断するとともに、点火プラグ13、インジェクタ14、吸気S-VT17、排気S-VT18、及び、スロットルバルブ22へ制御信号を出力する。コントローラ100は、各デバイスへ制御信号を出力することを通じて、エンジン1の運転を制御する。
【0051】
図3は、エンジン1の制御に係るマップ300を例示している。マップ300は、コントローラ100のメモリ102に記憶されている。
【0052】
マップ300は、エンジン1のIMEPと回転数によって規定されている。マップ300は、第1領域301と第2領域302との二つの領域を含む。より詳細に、第1領域301は、気筒2内の混合気を火花点火燃焼させる領域であり、第1領域301は、換言すればSI(Spark Ignition)領域である。第2領域302は、気筒2内の混合気を圧縮着火燃焼させる領域であり、第2領域302は、換言すればHCCI(Homogeneous Charge Compression Ignition)領域である。第2領域302は、エンジン1の全運転領域において、低回転から中回転にかけての領域でかつ中負荷の領域である。第1領域301は、第2領域302を除く領域である。
【0053】
次に、エンジン1の基本制御について簡単に説明をすると、コントローラ100は、前述したクランク角センサSN1、エアフローセンサSN2、及びアクセル開度センサSN3からの信号に基づいてエンジン1の目標IMEP及び目標回転数を設定すると共に、設定した、目標IMEP及び目標回転数に応じて、
図3のマップ300に基づき運転領域を判定する。そして、判定した運転領域に応じて、ECU100は、吸気バルブ11及び排気バルブ12の開閉時期、燃料の噴射タイミング及び噴射量、並びに、点火の有無及び点火タイミングを変える。
【0054】
具体的に、エンジン1の運転状態が第1領域301にある場合に、吸気S-VT17は、吸気バルブ11を所定のタイミングで開閉し、排気S-VT18は、排気バルブ12を所定のタイミングで開閉する。インジェクタ14は、吸気行程及び/又は圧縮行程の期間中に、気筒2の中に燃料を噴射する。点火プラグ13は、圧縮上死点の付近において、混合気に点火する。
【0055】
一方、エンジン1の運転状態が第2領域302にある場合に、吸気S-VT17は、吸気バルブ11を所定のタイミングで開閉し、排気S-VT18は、排気バルブ12を所定のタイミングで開閉する。インジェクタ14は、吸気行程の期間中に、気筒2の中に燃料を噴射する。点火プラグ13は、混合気への点火を行わない。混合気は、圧縮上死点の付近において、圧縮自着火し、燃焼する。
【0056】
このエンジン1は、一部の運転領域においてHCCI燃焼を行うため、燃費性能が高い。しかし、HCCI燃焼は、ノッキング又は失火により、狭い領域に制限される。第2領域302の低負荷側の限界は、気筒2内の温度が自着火温度に達することができずに、失火してしまうことにより制限される。例えば内部EGRガスを気筒2内へ導入すれば、気筒2内の温度を高めることができ、
図3に白抜きの矢印で示すように、第2領域302を低負荷側へ拡大できる可能性がある。ところが、気筒2内へ導入されるEGRガス量が多くなりすぎると、燃料変動が増大してしまう。燃料変動の増大により、第2領域302の拡大は制限される。
【0057】
(燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動)
本願発明者らは、気筒2内へのEGRガス量を多くした条件でエンジン1を運転した場合の燃焼変動を確認した。なお、エンジン1は、混合気の空気過剰率λが1を超えるリーンにしかつHCCI燃焼により運転する。
図4は、燃焼変動の指標として図示平均有効圧力(IMEP)と燃焼重心(MFB50)とを採用し、縦軸をIMEP、横軸をMFB50とした二次元平面において、燃焼サイクル毎のIMEP及びMFB50を示している。なお、
図4の数字1、2、・・・は、燃焼サイクルの順番である。
図4から、燃焼サイクル1、燃焼サイクル2、燃焼サイクル3と進むに従い、IMEPが次第に低下すると共に、MFB50が次第に遅角していることがわかる。また、燃焼サイクル3、燃焼サイクル4、燃焼サイクル5、燃焼サイクル6と進むに従い、前記とは逆にIMEPが次第に高まると共に、MFB50が次第に進角していることがわかる。そして、燃焼サイクル7のIMEP及びMFB50は、燃焼サイクル1のIMEP及びMFB50に近い。つまり、燃焼サイクル1、燃焼サイクル2、及び燃焼サイクル3は、IMEPの低下及びMFB50の遅角となる低下フェーズであり、燃焼サイクル4、燃焼サイクル5、及び燃焼サイクル6は、IMEPの低下及びMFB50の遅角となる上昇フェーズである。この場合、IMEP及びMFB50は、複数の燃焼サイクルにわたって、
図4において左回りに周回するように変動している。
【0058】
本願発明者らは、
図4に示した運転条件において、全ての燃焼サイクルの自己相関係数という統計的な数値で確認したところ、6燃焼サイクル周期の燃焼変動が起きていることが確認できた。
図4においても、燃焼サイクル7のIMEP及びMFB50は、燃焼サイクル1のIMEP及びMFB50に近く、燃焼サイクル8のIMEP及びMFB50は、燃焼サイクル2のIMEP及びMFB50に近く、燃焼サイクル9のIMEP及びMFB50は、燃焼サイクル3のIMEP及びMFB50に近い。
【0059】
燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動が発生するメカニズムについて、本願発明者らは、次のように推測する。
図5は、燃焼変動が発生するメカニズムを説明するための図である。
図5における左端の1、2、・・・の数字は、
図4の燃焼サイクルの番号に対応する。
【0060】
燃焼サイクル1では、EGRガス中の未燃燃料が少ない状態で、高温のEGRガスが気筒2内に吸入されたことに伴い、着火時期が進角した燃焼が行われる。燃焼サイクル1での燃焼重心は、進角側であり、燃焼効率、発熱量、及びIMEPはそれぞれ中程度(つまり、平均的)である。燃焼サイクル1の燃焼による排気ガスの温度は、冷却損失の増大により温度がある程度低くなり、排気ガス中の未燃燃料は、前サイクルよりも増える。
【0061】
燃焼サイクル2では、燃焼サイクル1の、温度が低い排気ガスが気筒2内に吸入されることにより、着火時期が遅角した燃焼が行われる。燃焼サイクル2での燃焼重心は、燃焼サイクル1よりも遅角し、燃焼効率の低下により、発熱量及びIMEPがそれぞれ低下する。燃焼サイクル2の燃焼による排気ガスの温度は、発熱量が少なかったため低下すると共に、排気ガス中の未燃燃料も増える。
【0062】
燃焼サイクル3では、燃焼サイクル2の、温度が低い排気ガスが気筒2内に吸入されることにより、着火時期がさらに遅角する。燃焼効率はさらに悪化するものの、EGRガス中に多く含まれる未燃燃料の一部が燃焼したため、発熱量及びIMEPの低下は小さく、冷却損失の減少により、排気ガス温度がある程度上昇する。排気ガス中の未燃燃料は、少し減少する。
【0063】
燃焼サイクル4では、EGRガスの温度がある程度高い温度であり、かつEGRガス中の未燃燃料も多いため、着火時期がある程度進角する。しかし、EGRガス中の未燃燃料を全て燃焼しきれるほどの早い着火時期ではなく、結果的に発熱量及びIMEPは平均レベルである。排気ガス温度は上昇し、排気ガス中の未燃燃料は、減少する。
【0064】
燃焼サイクル5では、燃焼サイクル4と同様に、EGRガスの温度が高くかつEGRガス中の未燃燃料量が多いため、着火時期がさらに進角し、発熱量及びIMEPがさらに上昇する。冷却損失が少ないため、排気ガスは、ある程度温度が高く、未燃燃料の一部は、次の燃焼サイクルへ持ち越される。
【0065】
燃焼サイクル6では、EGRガスの温度がある程度高く、未燃燃料も比較的多いため、着火時期がさらに進角する。着火時期が十分に早いため、残っていた未燃燃料が全て燃焼し、発熱量及びIMEPが高くなる。排気ガスの温度はさらに高くなり、EGRガス中の未燃燃料は少ないため、次の燃焼サイクルは、燃焼サイクル1と、実質的に同じになる。
【0066】
前述した燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動は、内部EGRガスを介して、排気ガスの温度の高低,未燃燃料の量の多少が、燃焼サイクルをまたいで、後の燃焼サイクルの燃焼に影響を与えていると考えられる。
【0067】
ここに開示する技術は、このような燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を抑制する。
【0068】
なお、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動は、前述した6燃焼サイクル周期の燃焼変動に限らない。燃焼変動の周期は、様々な周期となり得る。また、燃焼変動は、周期性を持たない規則性を有する場合もある。ここに開示する技術は、それら燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動の抑制に、広く適用できる。
【0069】
(燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を抑制する制御)
(プラントモデル)
前述した燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を抑制するために、本願発明者らは、当該燃焼変動を表すエンジン1のプラントモデルを作成した。
図6は、エンジン1のプラントモデル1000を示している。前述した燃焼変動は、6燃焼サイクルを周期とする燃焼変動であったが、燃焼サイクル間の燃焼変動は、前のサイクルの燃焼が後のサイクルの燃焼に影響を及ぼすことが連続することの結果である。そこで、プラントモデル1000は、一燃焼サイクル毎に、気筒2の状態量を推定するモデルとする。このようなプラントモデル1000は、特定周期の燃焼変動への適用に限定されず、汎用性が高い。
【0070】
前述した燃焼変動のメカニズムに関係する気筒2内の温度及び未燃燃料量を推定することができるよう、プラントモデル1000では、気筒2内の温度及び物質量を筒内状態量として扱い、前の燃焼サイクルの燃焼結果が、内部EGRを通じて次の燃焼サイクルの筒内状態量に情報を伝達する構成とする。
【0071】
プラントモデル1000の簡略化を考慮し、プラントモデル1000は、ガス交換モデルと燃焼モデルとを結合したモデルとする。ガス交換モデル1010は、物理モデルであり、燃焼モデル1020は、統計モデルである。
【0072】
また、一つのサイクル内での状態量の変化は、吸気バルブ11及び排気バルブ12の開閉イベント毎に考慮すべき物理が大きく異なる。そこで
図6に示すように、ガス交換モデル1010は、一燃焼サイクル内の各離散タイミングの状態量を求める個別のモデル1011、1012、1013、1014、1015を作成した。プラントモデル1000は、それらのモデル1011、1012、1013、1014、1015、1020を連成してトータルで一燃焼サイクル分の現象を表現する構造とした。
【0073】
具体的にIVO(Intake Valve Opening)モデル1011、IVC(Intake Valve Closing)モデル1012、woCombTDC(without Combustion Top Dead Center)モデル1013、燃焼モデル1020、EVO(Intake Valve Opening)モデル1014、EVCモデル1015は、それぞれ以下の通りである。なお、
図7は、モデルに含まれる変数を示している。
【0074】
IVOモデル1011
【0075】
【0076】
IVCモデル1012
【0077】
【0078】
woCombTDCモデル1013
【0079】
【0080】
燃焼モデル1020
【0081】
【0082】
EVOモデル1014
【0083】
【0084】
EVCモデル1015
【0085】
【0086】
本願発明者らは、前述したプラントモデル1000が、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を再現することを確認した。
【0087】
なお、前述したモデルは一例であり、ここに開示する技術は、前述したモデルに限定されない。
【0088】
(エンジンの制御ブロック)
図8は、コントローラ100によって構成される、エンジン1の制御ブロックを示している。
図8において破線で囲った部分が、コントローラ100に対応する。
図8において二点鎖線で囲った部分が、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を抑制する制御に係る。エンジン1の制御は、フィードバック制御であって、前の燃焼サイクルにおけるエンジン1の燃焼状態から、次の燃焼サイクルにおける気筒2内の状態量を推定すると共に、推定した状態量に基づき、IMEP及びMFB50の変動が抑制されるように補正した制御信号をデバイスに出力する制御である。
【0089】
前述したように、コントローラ100は、エンジン1に対して制御指示量を出力する。エンジン1の、複数の気筒2が順次、燃焼サイクルを実行することにより、エンジン1が運転する。指圧センサSN4は、複数の気筒2それぞれにおける圧力変動に対応する信号をコントローラ100へ出力する。
【0090】
コントローラ100は、指圧センサSN4の信号に基づいて、複数の気筒2それぞれにおける燃焼状態の指標としてIMEP及びMFB50を算出し、計測したIMEP及びMFB50を減算器1001に入力する。減算器1001は、計測したIMEP及びMFB50と、目標のIMEP及びMFB50との差を、状態量推定器1002に入力する。
【0091】
状態量推定器1002は、プラントモデル1000を用いて作成されたカルマンフィルタである。状態量推定器1002の入力は、指圧センサSN4による計測されたIMEP及びMEB50、目標のIMEP及びMFB50、及び、後述するフィードバック制御器1003の出力であって、遅延されたフィードバック制御器1003の制御値である。状態量推定器1002は、次の燃焼サイクルにおける状態量、つまり、気筒2内の温度、空気量、既燃ガス量、及び燃料量を推定し、推定した状態量を出力する。気筒2内の温度は、吸気バルブ11が閉じたタイミングでの気筒2内の温度、空気量は、吸気バルブ11が閉じたタイミングでの気筒2内の空気量、既燃ガス量は、吸気バルブ11が閉じたタイミングでの気筒2内の既燃ガス量、そして、燃料量は、吸気バルブ11が閉じたタイミングでの気筒2内の燃料量である。
【0092】
フィードバック制御器1003は、状態量推定器1002の出力である推定状態量と、目標状態量とを入力として、状態推定量と目標状態量とから、IMEP及びMFB50の変動が抑制されるような、換言すれば、気筒2内の状態量が、燃焼サイクル間において変動せずに一定に維持されるよう、デバイスの制御量の補正量を出力する。フィードバック制御器1003は、最適レギュレータである。フィードバック制御器1003も、プラントモデル1000を用いて作成される。
【0093】
コントローラ100はまた、基本制御器1004を有する。基本制御器1004は、いわゆる従来の制御器に相当する。基本制御器1004は、クランク角センサSN1、エアフローセンサSN2、及びアクセル開度センサSN3の信号に基づいて目標トルクを設定すると共に、目標トルクが実現するよう、エンジン1のデバイスの制御量を出力する。
【0094】
図9は、
図8における一点鎖線で囲んだ部分80の構成を示している。コントローラ100は、エンジン1での燃焼に関係するデバイスとして、吸気S-VT17、排気S-VT18、点火プラグ13、及びインジェクタ14へ制御指示量を出力する。
【0095】
具体的に、基本制御器1004は、吸気バルブ11の開閉タイミングである目標のIVO及びIVC、排気バルブ12の開閉タイミングである目標のEVO及びEVC、点火プラグ13の点火タイミングである目標点火時期、及び、インジェクタ14の燃料噴射量である目標噴射量をそれぞれ出力する。
【0096】
また、フィードバック制御器1003は、IVO及びIVCの補正量、EVO及びEVCの補正量、点火時期の補正量、及び、燃料噴射量の補正量をそれぞれ出力する。
【0097】
加算器1005は、これら目標量と補正量とをそれぞれ加算して指示量を設定する。コントローラ100は、吸気S-VT17へIVO及びIVCの制御指示量を出力し、排気S-VT18へEVO及びEVCの制御指示量を出力し、点火プラグ13へ点火時期の制御指示量を出力し、インジェクタ14へ燃料の噴射量の制御指示量を出力する。
【0098】
吸気S-VT17は、指示されたIVO及びIVCとなるよう吸気カムシャフトの回転位相を設定し、排気S-VT18は、指示されたEVO及びEVCとなるよう排気カムシャフトの回転位相を設定する。インジェクタ14は、指示された量の燃料を、吸気行程及び/又は圧縮行程の特定時期に、気筒2内へ噴射し、点火プラグ13は、指示されたタイミングで、気筒2内の混合気に点火を行う。なお、エンジン1がHCCI燃焼を行う場合、コントローラ100は、点火プラグ13への制御指示量を出力しない。
【0099】
図10は、コントローラ100がデバイスへ制御指示量を出力するタイミングを示すタイミングチャートを例示している。
図10の横軸はクランク角の進行、縦軸は気筒2内の圧力であり、
図10は、複数の燃焼サイクルにわたる気筒2内の圧力の変化を例示している。コントローラ100は、前述したように指圧センサSN4の信号に基づいて前の燃焼サイクル(n-thサイクル)における燃焼状態(つまり、IMEP[n]及びMFB50[n])の情報を取得して、次の燃焼サイクル((n+1)-thサイクル)でのデバイスの補正量を設定する。燃焼状態の情報は、前の燃焼サイクルにおける燃焼終了後に取得できるから、コントローラ100は、次の燃焼サイクルの吸気バルブ11が閉弁する前に、制御指示量を演算できる(
図10の「制御演算タイミング」を参照)と共に、インジェクタ14、点火プラグ13、吸気S-VT17、及び排気S-VT18へ制御指示量を出力することができる(
図10の二点鎖線の矢印参照)。その結果、コントローラ100は、
図10に示すように、吸気行程中に噴射タイミングが設定された、インジェクタ14による燃料噴射量の調整を行うことができる。
【0100】
(制御の効果)
図11は、ここに開示する技術が適用されたエンジン1の制御の効果を示している。
図11において、コントローラ100は、インジェクタ14に対してのみ、補正された制御指示量を出力している。つまり、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動が抑制されるよう、インジェクタ14の燃料噴射量の調整が行われている。
【0101】
例えば
図5に示す燃焼サイクル1、2、3、4、5、6のそれぞれにおいて、燃料噴射量の調整が行われると仮定して、その各燃焼サイクル1、2、3、4、5、6のそれぞれにおいて燃料噴射量の調整がどのように行われるかを説明する。燃焼サイクル1では未燃燃料が増えるような燃焼が行われるため、コントローラ100は、
図5の右端に示すように、インジェクタ14の燃料噴射量が減少するような補正を行う。同様に、燃焼サイクル2及び燃焼サイクル3において、コントローラ100は、インジェクタ14の燃料噴射量が減少するような補正を行う。逆に、燃焼サイクル4では未燃燃料が減るような燃焼が行われるため、コントローラ100は、インジェクタ14の燃料噴射量が増加するような補正を行う。同様に、燃焼サイクル5及び燃焼サイクル6において、コントローラ100は、インジェクタ14の燃料噴射量が増加するような補正を行う。
【0102】
図11の横軸は、燃焼サイクル数を示している。
図11の上図は燃料噴射量の変動を示し、中図はIMEPの変動を示し、下図はMFB50の変動を示している。
図11におけるC0よりも左は、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を抑制する制御(つまり、本制御)を行っていない場合の各パラメータの変動を示している。エンジン1は定常運転を行っており、燃料噴射量の実質的に一定である一方で、IMEP及びMFB50は、大きく変動している。C0よりも右は、本制御を行っている場合の各パラメータの変動を示している。エンジン1は定常運転を行っているものの、本制御の実行により燃料噴射量が補正されるため、燃料噴射量の変動は大きい。その一方で、IMEP及びMFB50の変動は、抑制されていることがわかる。
【0103】
従って、ここに開示する技術は、燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動を抑制できる。エンジン1の定常運転時における燃焼サイクル間の規則性を有する燃焼変動が抑制されるため、ここに開示する技術がコントローラ100に適用されることによって、
図3に示す運転領域マップにおいて、HCCI領域を低負荷側へ拡大させることができる。HCCI領域の拡大は、エンジン1の燃費性能を向上させる。
【0104】
(変形例)
図12は、コントローラ100の変形例を示している。この変形例は、混合気の空気過剰率λを1でSI燃焼によりエンジン1が運転する場合の例である。
図12は、
図8における一点鎖線で囲んだ部分80の構成を示している。基本制御器1004は、目標IMEPを出力する。フィードバック制御器1003は、IMEPの補正量とMFB50の補正量とを出力する。加算器1005は、目標IMEPとIMEPの補正量とを加算して、最終の目標IMEPを設定する。最終の目標IMEPが設定されれば、気筒2内へ導入する目標の空気量が定まる。目標の空気量と、エアフローセンサSN2の計測信号に基づく実際の空気量とから、吸気バルブ11のIVO及びIVC、並びに、排気バルブ12のEVO及びEVCがそれぞれ設定される。コントローラ100は、吸気S-VT17へIVO及びIVCの制御指示量を出力し、排気S-VT18へEVO及びEVCの制御指示量を出力する。吸気S-VT17は、吸気カムシャフトの回転位相を調整し、排気S-VT18は、排気カムシャフトの回転位相を調整する。
【0105】
また、実際の空気量から、空気過剰率λが1となるように、燃料噴射量の制御指示量が設定される。コントローラ100は、インジェクタ14へ燃料噴射量の制御指示量を出力する。インジェクタ14は、指示された量の燃料を、吸気行程及び/又は圧縮行程の特定時期に、気筒2内へ噴射する。
【0106】
さらに、最終の目標IMEPが設定されれば、目標MFB50が設定される。加算器1005は、目標MFB50とMFB50の補正量とを加算する。目標MFB50とMFB50の補正量とエアフローセンサSN2の計測信号に基づく実際の空気量とから、コントローラ100は、最終の目標MFB50を設定する。最終の目標MFB50と、実際の空気量とから、点火プラグ13の点火時期の制御指示量が設定される。コントローラ100は、点火プラグ13へ点火時期の制御指示量を出力する。点火プラグ13は、指示されたタイミングで、気筒2内の混合気に点火を行う。
【0107】
この制御においても、燃焼サイクル間における規則的を有する燃焼変動が抑制できる。
【0108】
なお、ここに開示する技術に関し、コントローラ100は、吸気S-VT17、排気S-VT18、点火プラグ13、及びインジェクタ14のうちの、少なくとも一つのデバイスへ制御指示量を出力するようにしてもよい。
【0109】
また、ここに開示する技術は、前述した構成のエンジン1への適用に限定されない。ここに開示する技術は、様々な構成のエンジンへ広く適用することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 エンジン
11 吸気バルブ
12 排気バルブ
13 点火プラグ
14 インジェクタ
100 コントローラ
1000 プラントモデル
2 気筒
SN4 指圧センサ