(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025152067
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】感知装置
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20251002BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024053790
(22)【出願日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茎田 啓行
(57)【要約】
【課題】圧電振動子の発振周波数の変化に基づいて当該圧電振動子の周囲のガスに含まれる被感知物質を感知する感知装置について、利便性を高くすること。
【解決手段】本発明の感知装置は、圧電振動子の発振周波数の変化に基づいて前記圧電振動子の周囲のガスに含まれる被感知物質を感知する感知装置において、前記被感知物質が付着する前記圧電振動子と、前記圧電振動子を第1の振動次数で発振させる第1発振回路と、前記圧電振動子を第1の振動次数よりも大きい第2の振動次数で発振させる第2発振回路と、前記第1発振回路及び前記第2発振回路から各々出力される発振周波数を測定する周波数測定部と、前記圧電振動子の温度を変更する温度変更部と、前記第2発振回路から出力される周波数信号に基づいて、前記温度変更部により前記圧電振動子を昇温させる温度制御部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子の発振周波数の変化に基づいて前記圧電振動子の周囲のガスに含まれる被感知物質を感知する感知装置において、
前記被感知物質が付着する前記圧電振動子と、
前記圧電振動子を第1の振動次数で発振させる第1発振回路と、
前記圧電振動子を第1の振動次数よりも大きい第2の振動次数で発振させる第2発振回路と、
前記第1発振回路及び前記第2発振回路から各々出力される発振周波数を測定する周波数測定部と、
前記圧電振動子の温度を変更する温度変更部と、
前記第2発振回路から出力される周波数信号に基づいて、前記温度変更部により前記圧電振動子を昇温させる温度制御部と、
を備える感知装置。
【請求項2】
前記温度制御部は、前記前記第2発振回路からの周波数信号の出力停止に基づいて、前記温度変更部により前記圧電振動子の温度を上昇させる請求項1記載の感知装置。
【請求項3】
前記第1発振回路は前記圧電振動子を基本波で発振させ、前記第2発振回路は前記圧電振動子を3倍波で発振させる請求項2記載の感知装置。
【請求項4】
前記圧電振動子は、前記第1発振回路及び前記第2発振回路に共用され、
時分割で発振される請求項3記載の感知装置。
【請求項5】
前記圧電振動子は第1振動領域と、第2振動領域とを含み、
前記第2振動領域を覆うことで前記物質の当該第2振動領域への付着を妨げるカバーが設けられ、
前記第1振動領域、前記第2振動領域が時分割で発振する請求項4記載の感知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子を用いた感知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子を用いた熱重量分析(Quartz Thermogravimetric analysis:QTGA)が知られている。具体的にはこのQTGAは、水晶振動子を加熱または冷却することによって当該水晶振動子の周囲のガスに含まれる物質を水晶振動子に対して付着または脱離させる。それによって起きる水晶振動子の発振周波数の変化に基づき、当該物質に関する分析を行うという、QCM(Quartz crystal microbalance)を利用した分析手法である。
【0003】
そのようなQTGAを行う装置としては、水晶振動子、発振回路、水晶振動子の温度を変更する手段、及び水晶振動子の発振周波数をモニターする手段を備えることで、水晶振動子に対するガス中の物質の付着状態を感知できるように構成されている。例えば、特許文献1にはそのような装置について示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
QTGAを行うにあたり、上記した感知装置についての水晶振動子を含むモジュールを比較的長い時間、分析を行う環境に配置して、当該水晶振動子へガスに含まれる物質を付着させつつ、発振周波数をモニターすることが必要となる場合が有る。その際に、上記の物質の付着量が過剰になることで水晶振動子の発振が停止してしまうことで、QTGAを行えなくなってしまう懸念が有る。なお、発明の実施形態で詳しく述べるようにQTGAを行うにあたり、低次の振動次数での発振周波数を取得することの他に、高次の振動次数での発振周波数を取得することが望まれるが、この高次の振動次数での発振は、より発振停止が発生しやすい。
【0006】
以上のことから、水晶振動子を備える感知センサについて複数用意して、水晶振動子の発振が停止する前にそれまで使用していたものに代えて新たな感知センサでの分析を行うようにしたり、測定開始後の予め設定したタイミングで水晶振動子を加熱することで物質を脱離させた後に再度付着させたりするなどの対策が必要となる場合が有る。しかし、上記のように使用する感知センサの数を増やすことは、分析の手間やコストがかかる。また、水晶振動子の発振停止には分析を行う環境における温度や真空度、付着する物質の種類など、様々な要素が関与するため、実際に発振停止となるタイミングを正確に特定することが困難である。それ故に、上記したように水晶振動子を加熱する場合には、発振停止が見込まれるタイミングよりも比較的大きく前倒して加熱を行うタイミングを設定することになる。そのために十分な長さで継続して水晶振動子への物質の付着状況を観察することができず、分析の精度を十分に高くすることができないおそれが有る。
【0007】
特許文献1の装置は、水晶振動子からのガスの脱離温度及び脱離速度を特定するにあたり、ガスに含まれる物質が付着し得る構成の検出用水晶振動子、当該物質の付着が不可であるリファレンス用水晶振動子の各々の発振周波数の基本波及び3倍波を利用することが記載されている。しかし、この特許文献1には、上記の問題を解決する手法は示されていない。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧電振動子の発振周波数の変化に基づいて当該圧電振動子の周囲のガスに含まれる被感知物質を感知する感知装置について、利便性を高くすることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の感知装置は、圧電振動子の発振周波数の変化に基づいて前記圧電振動子の周囲のガスに含まれる被感知物質を感知する感知装置において、
前記被感知物質が付着する前記圧電振動子と、
前記圧電振動子を第1の振動次数で発振させる第1発振回路と、
前記圧電振動子を第1の振動次数よりも大きい第2の振動次数で発振させる第2発振回路と、
前記第1発振回路及び前記第2発振回路から各々出力される発振周波数を測定する周波数測定部と、
前記圧電振動子の温度を変更する温度変更部と、
前記第2発振回路から出力される周波数信号に基づいて、前記温度変更部により前記圧電振動子を昇温させる温度制御部と、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の感知装置によれば、低次の振動次数で圧電振動子を発振させる第1発振回路からの周波数信号が取得不可となることが防止されるように、当該圧電振動子の昇温が行われ、且つこの昇温を行うタイミングが当該第1発振回路からの周波数信号の取得が不可となるタイミングから大きく前倒しされてしまうことを防ぐことができる。そのため、上記の昇温を行うまでの第1発振回路からの周波数信号の推移を長期間に亘って観察することができ、第2発振回路からの周波数信号を用いた高感度での被感知物質の感知を行うことができ、且つ第1及び第2発振回路からの周波数信号の取得が共に不可になることによる作業の中止を防止することができる。このような利点が有るため、本発明の感知装置については利便性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る感知装置の縦断側面図である。
【
図3】前記感知装置における水晶振動子と発振回路との接続を示すブロック図である。
【
図4】感知装置の運用例を説明するためのグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態である感知装置1について、
図1の縦断側面図を参照して説明する。感知装置1はQTGAを行うための装置であり、水晶振動子5及び発振回路を含む感知センサ10と、感知センサ10が着脱される接続部材23と、発振周波数の検出や感知センサ10の各部への電力供給を行う制御ユニット7と、により構成されている。
【0013】
感知センサ10は、ベース2と、ペルチェ素子ユニット3と、振動子ホルダ4と、がこの順に並んで配置されることで構成されており、これらの部材のうち隣り合う部材については互いに接続されている。以下、感知センサ10の構成を説明するにあたり、ベース2、振動子ホルダ4が、夫々下方側、上方側に位置する向きであるものとして説明する。ただし、この説明上での向きに感知センサ10の配置は限定されず、使用時における当該感知センサ10の向きは任意である。上記の水晶振動子5は、振動子ホルダ4によって下方から支持されている。
【0014】
ベース2は平面視円形のブロックとして構成されており、中央部が上方に突出することで円形の台21をなし、台21上にペルチェ素子ユニット3が設けられる。また、ベース2の下面側も突出し、角型のコネクタ22を形成している。コネクタ22が接続部材23の凹部24に差し込まれることで、コネクタ22に形成される端子が接続部材23に形成された不図示の導電路を介して制御ユニット7と電気的に接続される。また、接続部材23は図示しない冷却機構により冷却されており、コネクタ22が凹部24に差し込まれた状態で下方からベース2に接して、当該ベース2を冷却する。
【0015】
上記したペルチェ素子ユニット3は、振動子ホルダ4を介して圧電振動子である水晶振動子5を加熱及び冷却する温度変更部であり、互いに積層された第1ペルチェ素子31、第2ペルチェ素子32によって構成されている。第1ペルチェ素子31が下側、第2ペルチェ素子32が上側に夫々配置されている。第1ペルチェ素子31及び第2ペルチェ素子32については、水晶振動子5の冷却時には共に上面が吸熱面、下面が放熱面となり、水晶振動子5の加熱時には共に上面が放熱面、下面が吸熱面となる。そのように水晶振動子5の冷却時に第2ペルチェ素子32の放熱面を第1ペルチェ素子31が冷却するので、ペルチェ素子ユニット3は水晶振動子5を比較的低い温度に冷却可能であり、その冷却時に第1ペルチェ素子31の放熱面から生じた熱については、ベース2を介して接続部材23へと排熱される。このペルチェ素子ユニット3により、水晶振動子5は例えば-80℃~+125℃の範囲内で温度変更される。
【0016】
ベース2の平面視での中央部には、密閉空間25が形成されており、密閉空間25に回路基板26が設けられている。なお、回路基板26は上記したペルチェ素子ユニット3による放熱の影響を受けないように、当該回路基板26と密閉空間25を形成する壁面との間には、図示しない断熱部材が介在する。回路基板26上には集積回路チップ(ICチップ)27が設けられている。集積回路チップ27には、後述する第1発振回路61、第2発振回路62、スイッチ63~65が含まれる。
【0017】
振動子ホルダ4は、上側に開口する凹部41を備えた水平姿勢の基板として構成されている。後述する水晶振動子5の第1振動領域51及び第2振動領域52の下面が凹部41に臨むように、当該凹部41の開口縁部は、水晶振動子5の周縁部を下面側から支え、且つ当該水晶振動子5を水平姿勢で保持する。
【0018】
続いて
図2も参照して、水晶振動子5の構成について説明する。
図2は水晶振動子5の上面を示すと共に、集積回路チップ27の構成を示すブロック図でもある。水晶振動子5は、例えばATカットの圧電片である円形の水晶片50を備えている。この水晶片50の一面側(上面側)及び他面側(下面側)には、例えば金(Au)によって構成された、一対の第1励振電極(検出電極)51、53と、一対の第2励振電極(参照電極)52、54とが、互いに離間して配置されている。水晶片50において、第1励振電極51、53に挟まれた領域は第1振動領域55を構成し、第2励振電極52、54に挟まれた領域は第2振動領域56を構成し、これらの第1振動領域55、第2振動領域56は個別に振動が可能である。
【0019】
励振電極51~54は円形であり、その円の縁の一部が水晶振動子5の周縁へ向って引き出されることで、引き出し電極57として構成されている。また、水晶片50上には温度センサ58として例えば白金(Pt)の抵抗が設けられており、水晶片50に形成されたAuからなる導電パターン59にその両端が接続されている。温度センサ58については、制御ユニット7からの電流供給と抵抗値の検出とが行われ、制御ユニット7は検出した抵抗値に基づいて、水晶振動子5の温度を検出する。引き出し電極57及び導電パターン59は、振動子ホルダ4に設けられる導電パターン及び振動子ホルダ4と回路基板26との間に鉛直に伸びる棒状の導電部材28を介して、回路基板26の端子に接続されている。
【0020】
なお、上記したベースのコネクタ22の端子は、ベース2に設けられる導電路を介してペルチェ素子ユニット3及び回路基板26の各端子に電気的に接続されている。上記したようにコネクタ22が接続部材23の凹部24に差し込まれて、当該コネクタ22の端子と制御ユニット7との接続がなされることで、回路基板26上の集積回路チップ27、温度センサ58、水晶振動子5を構成する励振電極51~54、ペルチェ素子ユニット3は、制御ユニット7に電気的に接続される。
図3は、そのように接続がなされた状態を示すブロック図である。
【0021】
また感知センサ10は、カバー11を備えている。カバー11は、水晶振動子5及び振動子ホルダ4の上方を覆う平面視円形の主部12と、主部12の周縁から下方へと伸びて振動子ホルダ4及びペルチェ素子ユニット3の側方を囲む筒部13と、を備え、筒部13の下端はベース2上の台21の外側に接する。主部12には、第1励振電極51に平面視で重なる位置に円形の貫通孔14が形成されており、貫通孔14の周縁部は下方へと延出されて、第1励振電極51に近接する筒状のシールド15を形成する。このようにカバー11が形成されることで、感知センサ10の周囲のガスに含まれる被感知物質は、励振電極51~54のうち励振電極51に(振動領域としては第1振動領域55、第2振動領域56のうち第1振動領域55)に限定的に付着する。
【0022】
感知装置1では制御ユニット7によって、既述したようにガスに含まれる被感知物質が付着する第1振動領域55の発振周波数と、被感知物質が付着しない第2振動領域56の発振周波数と、が各々取得される。これら第1振動領域55、第2振動領域56から各々出力される発振周波数の差分を算出することによって、感知センサ10の周囲の温度変化の影響をキャンセルし、第1振動領域55への被感知物質の付着状態を精度高く検出することができる。従って、第1振動領域55は被感知物質の検出用の振動領域、第2振動領域はリファレンス用の振動領域である。
【0023】
発振周波数の取得についてさらに詳しく述べると、この感知装置1では、第1振動領域55、第2振動領域56の各々について、基本波での発振と、3倍波(基本波の3次のオーバートーン)での発振とを、時分割で切り替えて行う。従って、第1振動領域55における基本波の発振周波数と、第2振動領域56における基本波での発振周波数と、を各々取得してそれらの差分を算出することができ、また、第1振動領域56における3倍波の発振周波数と、第3振動領域56における3倍波の発振周波数と、を各々取得してそれらの差分を算出することができる装置構成となっている。
【0024】
上記した集積回路チップ27に含まれる第1発振回路61は、第1振動領域55及び第2振動領域56を基本波で発振させ、第2発振回路62は、第1振動領域55及び第2振動領域56を3倍波で発振させる。具体的には例えば常温において、第1発振回路61は10MHzで、第2発振回路62は30MHzで、夫々第1振動領域55及び第2振動領域56を発振させる。
【0025】
このように振動次数が1である基本波、及び振動次数が3である3倍波での発振を行うのは以下の理由による。振動次数が大きいほど、被感知物質の励振電極への付着量に対する周波数の変化量が大きいため、当該被感知物質の検出感度を高くすることができる。ただし、振動次数が大きいほど、発振回路の負性抵抗が低くなることで発振余裕度が減少する。これは、発振が停止するまでに励振電極に付着可能な被感知物質の量が少なくなるため、測定を行える周波数の範囲が狭いということである。
【0026】
つまり感知センサ10を配置する環境におけるガスの量によって、基本波及び3倍波のうちのいずれを用いてQTGAを行うことが有利であるかは異なる。具体的な例示を行うと、例えば人工衛星などの宇宙空間にて用いられるシステムを構成する部材(部品や接着剤など)から出るガス(アウトガス)の当該放出状況を観察するために、当該部材及び感知センサ10を任意の環境に設置して周波数測定を行うものとする。仮にこの部材からアウトガスが微量に放出される場合は当該アウトガスの放出状況を観察するにあたって、3倍波での発振周波数を用いることが、精度高く放出状況を把握できることから有利である。一方、アウトガスの放出量が比較的大きい場合は、多量の物質が励振電極に付着しても発振出力の停止が起こりにくい基本波での発振周波数を用いてアウトガスの放出状況を観察することが有利となる。
【0027】
そのため感知装置1では、上記したように基本波及び3倍波の各々の発振周波数が取得されるように構成されている。そして、この感知装置1においては、第1励振電極51へのガスに含まれる物質の堆積が進行するにあたって第1振動領域55について、3倍波での発振の方が基本波での発振よりも先に停止する性質を利用し、3倍波での発振停止のタイミングに基づいて水晶振動子5を加熱して昇温させる。それによって、基本波での発振停止が防止されるように構成されている。さらに具体的に述べると、感知装置1を構成する制御ユニット7によって、第1振動領域55における3倍波の周波数信号の当該制御ユニット7への出力の有無についての検出が行われる。即ち、第1振動領域55の3倍波での振動について停止しているか否かが検出される。そして、3倍波の周波数信号の出力停止が検出されると、制御ユニット7はペルチェ素子ユニット3によって水晶振動子5を昇温させて第1励振電極51に付着した被感知物質を脱離させ、第1振動領域55の基本波による発振停止を防止し、当該基本波での発振周波数の取得が継続可能であるように構成されている。
【0028】
図2に戻って、集積回路チップ27に設けられる各素子について説明する。第1励振電極51、53、第2励振電極52、54の後段にスイッチ63が設けられ、スイッチ63の後段にスイッチ64が設けられる。なお、
図2では下面側の第1励振電極53、第2励振電極54の図示は省略している。スイッチ64の後段に第1発振回路61、第2発振回路62が設けられ、第1発振回路61及び第2発振回路62の後段にスイッチ65が設けられ、スイッチ65の後段に制御ユニット7が設けられる。
【0029】
スイッチ63、64により、第1励振電極51、53が第1発振回路61に接続されて第1振動領域55が基本波で発振する状態と、第1励振電極51、53が第2発振回路62に接続されて第1振動領域55が3倍波で発振する状態と、第2励振電極52、54が第1発振回路61に接続されて第2振動領域56が基本波で発振する状態と、第2励振電極52、54が第2発振回路62に接続されて第2振動領域56が3倍波で発振する状態と、が時分割で順番に切り替えられ、この切替えが繰り返し行われる。また、スイッチ63、64の動作に同期してスイッチ65が動作し、第1発振回路61の制御ユニット7への接続と、第2発振回路62の制御ユニット7の接続と、が時分割で交互に切り替えられる。
【0030】
以上のスイッチ63~65の動作により、第1振動領域55、第2振動領域56は時分割で発振し、第1振動領域55からの基本波の周波数信号、第1振動領域55からの3倍波の周波数信号、第2振動領域56からの基本波の周波数信号、第2振動領域56からの3倍波の周波数信号が時分割で順番に制御ユニット7に繰り返し出力される。以降は、第1発振回路61から出力される信号の周波数について、第1振動領域55における基本波の周波数を基本波検出周波数F1、第2振動領域56における基本波の周波数を基本波リファレンス周波数F1′と記載する。そして第2発振回路62から出力される信号の周波数について、第1振動領域55における3倍波の周波数を3倍波検出周波数F3、第2振動領域56における3倍波の周波数を3倍波リファレンス周波数F3′と記載する。
【0031】
続いて、温度制御部を構成する制御ユニット7について
図3を参照して説明する。制御ユニット7は、電源部71、周波数測定部72、画面表示部73、温度検出部74及び温度制御プログラム75を備える。電源部71は集積回路チップ27、ペルチェ素子ユニット3、温度センサ58等の装置の各部への電力供給を行うが、
図3では便宜上、集積回路チップ27、ペルチェ素子ユニット3のみに電力供給を行うように示している。周波数測定部72は、集積回路チップ27から出力される周波数信号を受信し、基本波検出周波数F1、基本波リファレンス周波数F1′、3倍波検出周波数F3、3倍波リファレンス周波数F3′を夫々測定する。画面表示部73は、周波数測定部72によって測定された基本波検出周波数F1、基本波リファレンス周波数F1′、3倍波検出周波数F3、3倍波リファレンス周波数F3′の画面表示を行う。
【0032】
温度検出部74は、上記したように温度センサ58の抵抗値から水晶振動子5の温度を検出する。温度制御プログラム75は、3倍波検出周波数F3をモニターし、且つ電源部71からペルチェ素子ユニット3へ供給される電力を制御することで、水晶振動子5の温度を制御する。この温度制御プログラム75によって、上記した3倍波検出周波数F3の取得が不可となった場合における水晶振動子5の温度制御が行われる。そのように水晶振動子5の温度制御するにあたっては、温度検出部74による検出値が用いられる。後述する装置の運用例にて、この温度制御プログラム75によって実行される水晶振動子の温度制御例を示す。
【0033】
続いて
図4を参照して、感知装置1の運用の一例について説明する。
図4は、測定中に取得される基本波検出周波数F1、基本波リファレンス周波数F1′、3倍波検出周波数F3及び3倍波リファレンス周波数F3′の推移と、測定中に温度センサ58によって取得される水晶振動子5の温度の推移と、を対応させて示すチャート図である。
【0034】
この測定では真空排気がなされる測定環境に感知センサ10と、測定対象となる部材とが設置され、当該測定対象の部材からのアウトガスの放出状況を観察するものとする。測定環境には例えば開閉自在なシャッタが設けられ、シャッタを閉じることで測定対象の部材と感知センサ10とを隔離する状態と、シャッタを開くことで測定対象の部材と感知センサ10とを隔離しない状態と、を切替え可能であるものとする。
【0035】
チャート中の時刻t0で、制御ユニット7による基本波検出周波数F1、基本波リファレンス周波数F1′、3倍波検出周波数F3及び3倍波リファレンス周波数F3′の取得が開始される。続く時刻t1でペルチェ素子ユニット3による水晶振動子5の冷却が開始され、当該水晶振動子5の温度が低下する。温度変化によって水晶振動子5の発振特性が変化し、各周波数F1、F1′、F3、F3′は各々変化する。
【0036】
ペルチェ素子ユニット3による冷却が続けられることで水晶振動子5がさらに降温し、水晶振動子5が予め設定された温度に冷却されると(時刻t2)、当該温度に維持される。測定空間のシャッタが開き、測定対象の部材から放出されて水晶振動子5の周囲に供給されたアウトガスが冷却され、当該ガスに含まれる被感知物質が第1励振電極51へ付着する。その付着により、基本波検出周波数F1及び3倍波検出周波数F3が低下する(時刻t3)。なお、3倍波検出周波数F3の方が、基本波検出周波数F1よりも単位時間あたりの低下量が大きい。
【0037】
ガスに含まれる被感知物質の付着が進行し、それによる基本波検出周波数F1及び3倍波検出周波数F3の低下が進行するが、付着が過剰となることで第1振動領域55での3倍波による発振が停止し、3倍波検出周波数F3の取得が不可となる(時刻t4)。なお、既述したように高次波による発振の方が低次波による発振よりも先に停止するため、この3倍波での発振停止時において、基本波検出周波数F1の取得は続けられている。
【0038】
3倍波検出周波数F3が取得されなくなったことにより、ペルチェ素子ユニット3による水晶振動子5の冷却が停止し、水晶振動子5の加熱が開始される(時刻t4)。水晶振動子5の温度が上昇することで、第1励振電極51に付着した被感知物質は測定空間へと脱離して除去され、基本波検出周波数F1は上昇する。そのように被感知物質の脱離が進行することで、第1振動領域55は3倍波での発振が再度可能となり、3倍波検出周波数F3が再度取得される(時刻t5)。被感知物質の脱離が続けられているので、3倍波検出周波数F3も、基本波検出周波数F1と同様に上昇する。被感知物質の脱離が完了すると、基本波検出周波数F1及び3倍波検出周波数F3が一定ないしは概ね一定で推移する状態となる(時刻t6)。そして、水晶振動子5の温度が予め設定された温度に達すると、水晶振動子5の温度上昇は停止する(時刻t7)。時刻t4~t7における水晶振動子5の温度制御が、上記した温度制御プログラム75によって実行される。
【0039】
例えば水晶振動子5を昇温させる時刻t4以降は測定空間のシャッタを閉じて感知センサ10と測定対象物とを隔離しておき、時刻t0以降の動作を再度行うことで各周波数F1、F1′、F3、F3′を改めて取得し、それまでに取得した各周波数と共に分析に利用してもよいし、時刻t4に至るまでに取得した各周波数F1、F1′、F3、F3′のみを分析に利用してもよい。なお、分析を行うにあたっては既述したように水晶振動子5の周囲の温度変化による周波数への影響をキャンセルするために、各時刻でのF1-F1′、F3-F3′を算出し、これらF1-F1′の時系列データ、F3-F3′の時系列データを用いればよい。制御ユニット7はこれらのF1-F1′、F3-F3′の各時系列データを算出し、表示可能であるように構成されていてもよい。
【0040】
以上のように感知装置1によれば、3倍波検出周波数F3の取得の有無(即ち、3倍波での第1振動領域56の発振の有無)に基づいて水晶振動子5を加熱して昇温させることで、基本波検出周波数F1の出力停止を防止することができ、且つこの加熱のタイミングが基本波検出周波数F1の出力停止のタイミングから早くなりすぎることを防止することができる。そのため装置としての利便性が高い。
【0041】
ところで
図4のチャートで示した例では、3倍波検出周波数F3の取得が不可となると同時にペルチェ素子ユニット3による昇温を行うことで水晶振動子5の加熱を開始しているが、水晶振動子5の加熱のタイミングは3倍波検出周波数F3の取得が不可となるのと同時に行うことには限られない。例えば3倍波検出周波数F3の取得が不可となったタイミングから予め設定された時間の経過後に、加熱が開始されてもよい。
【0042】
また、3倍波検出周波数F3の単位時間あたりの低下量は、基本波検出周波数F1の単位時間あたりの低下量よりも大きい。そのため、測定を開始して3倍波検出周波数F3が低下して、予め設定された周波数(基準周波数とする)に達したら、水晶振動子5の加熱を開始するようにしてもよい。また、3倍波検出周波数F3が所定の量だけ低下したら、水晶振動子5の加熱を行うようにしてもよい。従って、3倍波検出周波数F3に基づいて水晶振動子5の加熱を行うタイミングを制御するにあたり、これまでに述べてきた例のような当該3倍波検出周波数F3の取得が不可となる(3倍波での発振が停止する)ことをトリガーとすることには限られない。ただしそれらのように、3倍波での発振が行われている状態で水晶振動子5を加熱することは、基本波検出周波数F1の取得が不可となるタイミングから比較的大きく前倒して加熱を行うことになるおそれがある。そのため、水晶振動子5を加熱するまでにおける基本波検出周波数F1を取得する期間を長くする観点から、これまでに述べたように3倍波検出周波数F3が取得不可となることをトリガーとして水晶振動子5の加熱を行うことが好ましい。
【0043】
ところで基本波及び3倍波の周波数の取得を行う例を述べたが、取得する周波数としては基本波及び3倍波の周波数であることには限られない。例えば基本波と、5倍波(振動次数としては5)とを取得したり、3倍波と、5倍波とを取得したりする装置構成としてもよい。上記したように被感知物質が水晶振動子の励振電極に堆積するにあたり、高次波での発振の方が低次波での発振よりも先に停止する。そのため基本波と5倍波とを用いる場合には振動次数が大きい5倍波での発振停止をトリガーとして水晶振動子5の加熱を行えばよいし、3倍波と5倍波とを用いる場合にも振動次数が大きい5倍波での発振停止をトリガーとして水晶振動子5の加熱を行えばよい。ただし、これまでに述べたように振動次数が大きいほど、第1振動領域55を振動させつつ付着させることができる被感知物質の量が小さくなってしまう。従って、周波数測定を比較的長期に亘って行うことで感知センサの周囲の被感知物質の状態を観察する観点から、基本波と3倍波とを用いることが好ましい。
【0044】
ところで感知装置としては、ペルチェ素子ユニット3を備える構成とすることに限られない。具体例を示すと、ベース2上にペルチェ素子ユニット3の代わりに上方へと伸びる棒状の支持部材が設けられ、この支持部材により振動子ホルダ4が支持され、当該振動子ホルダ4には温度変更自在なヒーターが設けられる。そして、ベース2のコネクタ22が差し込まれる接続部材23について、例えば液体窒素によって比較的低い一定の温度に冷却され、ベース2、支持部材、振動子ホルダ4を介した伝熱により、水晶振動子5についても比較的低い温度に冷却可能とされるという構成とすることができる。このように装置を構成した場合は振動子ホルダ4のヒーターが温度変更部であり、当該ヒーターの温度が変更されることで、水晶振動子5の温度が変更される。
【0045】
また、上記の感知装置1では、基本波で振動する水晶振動子、3倍波で振動する水晶振動子が互いに同じものとされている。つまり、水晶振動子5が、第1発振回路61、第2発振回路62に共用された構成であるが、発振回路毎に水晶振動子が設けられる構成であってもよい。そして、水晶振動子5を昇温させるにあたっては、ペルチェ素子ユニット3への供給電力を抑えて、当該ペルチェ素子ユニット3の冷却性能を低下させるようにしてもよい。つまり、水晶振動子5を加熱することで昇温させることには限られない。
【0046】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更及び組み合わせがなされてもよい。
【符号の説明】
【0047】
3 ペルチェ素子ユニット
5 水晶振動子
61 第1発振回路
62 第2発振回路
72 周波数測定部
75 温度制御プログラム