(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025152081
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】感知装置
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20251002BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024053814
(22)【出願日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 昇一
(57)【要約】
【課題】 感知装置の小型化を図る技術を提供すること。
【解決手段】気体である被感知物質を圧電振動子に吸着させ、圧電振動子の発振周波数の変化に基づいて、被感知物質を感知する感知装置において、仕切り板を挟んで、ペルチェ素子部の排熱面側の領域を収容する第1の凹部と、回路基板を収容する第2の凹部とが形成されたベース体を備え、ペルチェ素子部の温調面に、圧電振動子を保持したセンサ基板を接するように設ける。回路基板には、圧電振動子を発振させる発振回路が搭載されると共に、外部との接続を行うためのコネクタが表面実装され、コネクタは、ベース体の第2の凹部が形成された領域の側面側から外部との接続が行われる。コネクタは、感知装置の側面側から外部に接続されるように設けられているので、感知装置の小型化を図ることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体である被感知物質を圧電振動子に吸着させ、当該圧電振動子の温度を変化させて被感知物質を脱離させ、圧電振動子の発振周波数の変化と前記温度との関係に基づいて、被感知物質を感知する感知装置において、
前記圧電振動子を保持したセンサ基板と、
前記センサ基板と接し、前記圧電振動子の温度を変化させるための温調面と、前記温調面の反対側の排熱面とを備えたペルチェ素子部と
前記圧電振動子に対して電気的に接続され、当該圧電振動子を発振させる発振回路が搭載されると共に、外部との接続を行うためのコネクタが表面実装された回路基板と、
仕切り板を挟んで、前記ペルチェ素子部の前記排熱面側の領域を収容する第1の凹部と、前記回路基板を収容する第2の凹部とが形成されたベース体と、
前記第1の凹部が形成されている領域の前記ベース体と、前記第1の凹部の外部に突出している前記ペルチェ素子部と、前記センサ基板とを収容し、前記被感知物質を吸着させる前記圧電振動子の配置領域に対応させて開口部が形成されたカバー体と、
前記第2の凹部を塞ぐベースカバーと、を備え、
前記コネクタは、前記ベース体の前記第2の凹部が形成された領域の側面側から外部との接続が行われることを特徴とする感知装置。
【請求項2】
前記ペルチェ素子は、前記排熱面が前記仕切り板と接するよう前記第1の凹部内に収容され、前記回路基板は、前記発振回路が前記仕切り板から離間するように前記第2の凹部内に収容されていることを特徴とする請求項1に記載の感知装置。
【請求項3】
前記発振回路と前記仕切り板との離間距離は、0.3~1.5mmの範囲内であることを特徴とする請求項2に記載の感知装置。
【請求項4】
前記感知装置は、真空雰囲気内で使用され、前第2の凹部と前記ベースカバーとの間の前記回路基板を収容する空間が真空雰囲気となることにより、前記仕切り板から離間して設けられた前記発振回路が、当該仕切り板に対して真空断熱されることを特徴とする請求項2に記載の感知装置。
【請求項5】
前記コネクタは、前記仕切り板と前記回路基板との間に配置され、前記仕切り板は、前記コネクタが配置されている領域よりも、前記発振回路が配置されている領域の方が、厚さ寸法が大きく構成されていることを特徴とする請求項1に記載の感知装置。
【請求項6】
前記発振回路が配置されている領域の前記仕切り板の厚さ寸法は、3~5mmの範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の感知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧電振動子の周波数変化により被感知物質を感知する感知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス中に含まれる物質を感知する感知装置として、水晶振動子を用いたQCM(Quartz crystal microbalance)が知られている。このようなQCMを利用した物質の分析手法の一つとして、水晶振動子にガスを付着させた後、当該水晶振動子の温度を低温の状態から徐々に上げて、当該水晶振動子に付着したガスを脱離させる手法が知られている。
【0003】
この手法は熱重量測定法の一種であり、ガスの脱離前後の周波数変化量を測定することで、ガスの付着量が取得され、ガスが脱離する際の温度を検出することで、ガスの成分が特定される。上記の水晶振動子の温度変更を能動的に行うためにペルチェ素子を内蔵した分析装置が知られており、このようにQCMとガスを離脱させるための温度調節手段とを組み合わせた感知装置は、TQCM(Thermoelectric QCM)とも呼ばれる(例えば後述の特許文献2)。
このようなTQCMは、温度調節部や水晶振動子の発振回路などを備え、構造が複雑化すると共に大型化しており、小型化を図ることが求められている。
【0004】
なお、特許文献1には、水晶振動子センサと、ペルチェ素子と、伝熱材とを上方からこの順で積層した構成が記載されている。また、特許文献2には、圧電振動子を備えた基板と、熱電素子部と、支持板とを一体化し、ベース部に着脱自在に設ける構成が記載されている。
しかしながら、これら特許文献1及び特許文献2では小型化には着目されておらず、本発明の課題を解決する構成は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-257394号公報
【特許文献2】特開2020-193846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、感知装置の小型化を図る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、
気体である被感知物質を圧電振動子に吸着させ、当該圧電振動子の温度を変化させて被感知物質を脱離させ、圧電振動子の発振周波数の変化と前記温度との関係に基づいて、被感知物質を感知する感知装置において、
前記圧電振動子を保持したセンサ基板と、
前記センサ基板と接し、前記圧電振動子の温度を変化させるための温調面と、前記温調面の反対側の排熱面とを備えたペルチェ素子部と、
前記圧電振動子に対して電気的に接続され、当該圧電振動子を発振させる発振回路が搭載されると共に、外部との接続を行うためのコネクタが表面実装された回路基板と、
仕切り板を挟んで、前記ペルチェ素子部の前記排熱面側の領域を収容する第1の凹部と、前記回路基板を収容する第2の凹部とが形成されたベース体と、
前記第1の凹部が形成されている領域の前記ベース体と、前記第1の凹部の外部に突出している前記ペルチェ素子部と、前記センサ基板とを収容し、前記被感知物質を吸着させる前記圧電振動子の配置領域に対応させて開口部が形成されたカバー体と、
前記第2の凹部を塞ぐベースカバーと、を備え、
前記コネクタは、前記ベース体の前記第2の凹部が形成された領域の側面側から外部との接続が行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、圧電振動子の発振周波数の変化に基づいて、圧電振動子に吸着させた被感知物質を感知する感知装置において、圧電振動子を発振させる発振回路が搭載される回路基板に、外部との接続を行うためのコネクタを表面実装している。この回路基板は、ベース体の第2の凹部に収容され、コネクタは感知装置の側面側から外部に接続されるように設けられているので、感知装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】比較形態の感知装置を示す縦断側面図である。
【
図2】比較形態の感知装置を示す外観斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る感知装置を示す縦断側面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る感知装置を示す分解斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る感知装置を示す外観斜視図である。
【
図6】本発明の感知装置が設けられた感知システムの一例を示す縦断側面図である。
【
図7】本発明の感知装置の他の例を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、TQCMである感知装置に関するものであり、感知装置の小型化を図ることを目的としている。このため、本発明の説明に先立ち、比較形態として、従来型の感知装置の構成について簡単に説明する。
<比較形態>
図1は比較形態の感知装置11の縦断側面図、
図2はその外観斜視図である。これらの図に示す感知装置11は、ベース本体121と裏蓋部122とからなるベース部12を備えている。ベース本体121は平面視円形のブロックにより構成され、その上面側の中央部に平面視円形の突起部123を備えている。
【0011】
ベース部12の上面には円板状のペルチェベース130が設けられており、このペルチェベース130の上にペルチェ素子部13が配置されている。なお、ペルチェベース130には、ペルチェ素子部13の配置位置の位置決め用の凹部(不図示)が形成されている。さらにペルチェ素子部13の上面側には、水晶振動子14を備えたセンサ基板15が設けられている。水晶振動子14はその両面に励振電極141、142を備え、導電性のピン151を介して、後述する発振回路17と電気的に接続されている。ペルチェ素子部13は水晶振動子14の温度調整を行うものであり、この例では大きさが互いに異なる角型のペルチェ素子131、132を2段に積層している。
【0012】
ベース本体121における突起部123の外側には、ペルチェ素子部13及びセンサ基板15を上方側から覆うようにカバー16が設けられている。このカバー16は下方が開口した円筒形状に形成され、その下端部がベース本体121の上面に取付けられる。カバー16には、水晶振動子14上面に設けられた励振電極141に対して、被感知物質であるガスを供給するために、開口部161が形成されている。
【0013】
ベース本体121と突起部123の内側には空間124が形成されており、この空間124内に、発振回路17を備えた回路基板18が収容されている。発振回路17は、回路基板18の上下両面に、互いに対向するように配置されている。空間124の高さ寸法は、上下の発振回路17を含む回路基板18の高さ寸法よりも大きく形成されている。例えば上側の発振回路17の上面と、空間124の天井面との間には、5mm程度の隙間が形成されている。そして、回路基板18の下方側は、ベース部12の裏蓋部122により閉じられる。
【0014】
また、裏蓋部122の下面側には、下方側へ突出するように、横方向に扁平な筐体形状のコネクタカバー191が設けられている。このコネクタカバー191の内部には、回路基板18を外部と電気的に接続するためのコネクタ19が収納されている。コネクタ19を外部の電力供給部と接続することにより、発振回路17や水晶振動子14が外部と電気的に接続される。なお、水晶振動子4や発振回路17等、本発明の感知装置1にも設けられている構成部材については、後述する。
【0015】
この例では、感知装置11の下方側に突出するようにコネクタ19が設けられており、発振回路17が収容される空間124は、上方の発振回路17の上面と当該空間124の天井面125との離間距離が大きく設定され、ベース部12の内部は回路基板18の上方に比較的大きな空間を備えている。さらに、ベース部12にペルチェベース130を介してペルチェ素子部13を設けているので、感知装置11は上下方向に大きい構成となっている。
このような感知装置11の大きさの一例を挙げると、ベース部12の直径L11が例えば35mm、コネクタ19の下端からカバー16の上端までの高さL12が例えば37.25mmである。
【0016】
続いて、本発明のTQCMである感知装置1の実施形態について、
図3~
図5を参照して説明する。感知装置1においても、ベース体2の上面側にペルチェ素子部3と、圧電振動子である水晶振動子4を保持したセンサ基板5とが積層され、ベース体2の下面側に形成された空間内に回路基板6が配置される。但し、この感知装置1では、回路基板6にコネクタ7が直接、表面実装され、当該コネクタ7が外部と接続されるように構成されている点が、比較形態の感知装置11とは相違している。
図3~
図5では、図面に向かって左右方向をX方向、前後方向をY方向、上下方向をZ方向とし、左右方向については、
図3の紙面右側を一端側、左側を他端側として説明する。
【0017】
以下、感知装置1の各部について具体的に説明する。
図3及び
図4に示すように、ベース体2は、平面視矩形状の下方部材22の一面側(上面側)の中央部に、平面視円形状の突出部23を設けて構成されている。下方部材22を含むベース体2は、例えば高い伝熱性が得られるようにニッケルメッキがされた銅により構成されている。
【0018】
突出部23の上面側には、平面視略矩形状の第1の凹部24が設けられている。ベース体2を平面視したとき、第1の凹部24は、突出部23の中央部に形成されている。第1の凹部24の底部241は平坦面として構成され、当該底部241には、後述するピン53を挿入するための孔部242が形成されている。各孔部242は、ピン53の配置位置に対応して形成されている(
図4参照)。
【0019】
一方、下方部材22の他面側(下面側)には第2の凹部25が形成されている。
図3に示すように、下方部材22において、第2の凹部25は、第1の凹部24の直下の領域から、ベース体2を左右方向に沿って見たときの一端側の側面27に亘って形成されている。
【0020】
また、第2の凹部25の高さ寸法は、第1の凹部24の直下の第1の領域251よりも、側面27側に寄った第2の領域252の方が大きくなるように形成されている。後述するように、第1の領域251には、発振回路61、62が配置され、第2の領域252にはコネクタ7が配置される。これら第1の領域251の天井面253と、第2の領域252の天井面254は各々、平坦面として構成されている。
【0021】
図3に示すように、上下に対向して配置された第1の凹部24と第2の凹部25との間は、仕切り板26により区画されている。仕切り板26の上面は、第1の凹部24の底部241を構成し、仕切り板26の下面は、第2の凹部25の天井面(第1の領域251においては天井面253、第2の領域252においては天井面254)を構成している。既述のように仕切り板26は、第1の領域251から第2の領域252に亘って、その厚さ寸法を変えて形成されている。例えば第1の領域251の仕切り板の厚さ寸法L1は、3~5mmの範囲内の例えば3mmに設定される。
さらに、ベース体2の側面27には、第2の凹部25と連通する開口271が形成されている。この開口271は、後述するベースカバー21と組み合わされて、コネクタ7を外部と接続するための開口部20を形成するものである。
【0022】
第1の凹部24にはペルチェ素子部3が設けられている。ペルチェ素子部3は、例えば各々、平面視角型の小片状の大小2つのペルチェ素子を上下に積み重ねて構成されている。ペルチェ素子部3の上面と下面は平坦面により構成され、その下面が仕切り板26の上面(第1の凹部24の底部241)と接するように第1の凹部24に設けられる。また、ペルチェ素子部3は平面的に見てセンサ基板5よりも小さく設定され、ペルチェ素子部3の上面がセンサ基板5の下面中央部に接触するように設けられている。
【0023】
ペルチェ素子部3は、センサ基板5と接触する面(上面)が、水晶振動子4の温度を変化させるための温調面31、温調面31の反対側の面(下面)が排熱面32として構成されている。この例では、ペルチェ素子部3の上段側の上面が温調面31として構成され、下段側の下面が排熱面32となる。そして、ペルチェ素子部3の下段側全体が排熱面側の領域として構成され、例えば当該領域が第1の凹部24に収容されている。
図3に示すように、ペルチェ素子部3の高さ寸法は、突出部23(第1の凹部24)の高さ寸法よりも大きく形成されている。従って、ペルチェ素子部3の上段側全体は第1の凹部24から外部に突出した状態で、既述の温調面31をセンサ基板5に接触させている。
【0024】
そして、ペルチェ素子部3へ供給される電流の方向が切り替えられることによって、温調面31が加熱面や冷却面に切り替えられて、センサ基板5を介して水晶振動子4の温度を変化させることができる。つまり、センサ基板5を冷却する際にはペルチェ素子部3の温調面31が冷却面となり、その排熱面32が加熱面となる。また、センサ基板5を加熱する際にはペルチェ素子部3の温調面31が加熱面となり、その排熱面32が冷却面となる。こうして、ペルチェ素子部3によって、水晶振動子4の温度を例えば-80℃~125℃の範囲内で変更できるように構成されている。
【0025】
センサ基板5は、例えばLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)により構成され、平面視略矩形状に形成されている。センサ基板5の上面は凹部51を備えており、水晶振動子4の周縁部は、当該凹部51の開口縁部に支持されている。開口縁部に支持された水晶振動子4は、センサ基板5の中央部に配置されている。また、センサ基板5の上面には、水晶振動子4の温度を検出するための温度検出部52が設けられている。なお、
図3及び
図4には、図示の便宜上、温度検出部52を互いに異なる位置に描いている。
【0026】
水晶振動子4は、例えばATカットされた圧電片である円板状の水晶片40を備えている。水晶片40の上面側には、例えば金(Au)などからなる第1の励振電極41と第2の励振電極42が、
図3及び
図4に示すように、左右方向に互いに離間して配置されている。第1の励振電極41は被感知物質を吸着させる反応電極であり、第2の励振電極42はリファレンス電極である。また、水晶片40の下面側には、第1及び第2の励振電極41、42と対向する領域に第3の励振電極43が設けられている。
【0027】
第1及び第2の励振電極41、42には、夫々引き出し電極441、442の一端が接続されており、これら引出し電極441、442と、第3の励振電極43の不図示の引出し電極及び温度検出部52は、センサ基板5に設けられる図示しない配線パターンや導電性部材を介して、棒状の導電部材である複数のピン53の上端部に対し、各々電気的に接続されている。
【0028】
これらのピン53は、
図4に示すように、センサ基板5の前後方向の両側に複数例えば4本ずつ設けられて、左右方向に配列されている。各ピン53は、センサ基板5の下面側から、垂直下方に向けて長く伸び出すように設けられている。既述のように、ペルチェ素子部3はセンサ基板5よりも平面的に見て小さく形成されている。このため、ピン53は、ペルチェ素子部3と干渉することなく、その外方領域を通ってさらに下方へと延在している。そして、第1の凹部24の底部241に形成された孔部242を貫通してさらに下方に伸びるように設けられる。
【0029】
このようなベース体2とペルチェ素子部3とは、ペルチェ素子部3の下面(排熱面)32と第1の凹部24の底部241とが、例えば銀ナノ粒子ペーストなどの金属ナノ粒子ペーストにより接着される。また、ペルチェ素子部3の上面(温調面)31とセンサ基板5の下面も、例えば前記金属ナノ粒子ペーストにより固定される。
【0030】
このようにペルチェ素子部3を介してセンサ基板5が設けられたベース体2は、第1の凹部24が形成されている領域において、上方側からカバー体8により覆われ、第1の凹部24の外部に突出しているペルチェ素子部3と、センサ基板5とはカバー体8に収容されている。カバー体8は有天井の起立した円筒として構成されており、ベース体2にペルチェ素子部3及びセンサ基板5を取り付けた後、センサ基板5の周囲、及び突出部23の側周面を囲むように、当該カバー体8の下端部がベース体2に取付けられる。
【0031】
カバー体8の天井部81は平坦面として構成され、この天井部81には平面視円形の開口部82が形成されている。この開口部82は、水晶振動子4の第1の励振電極41に対応する位置に設けられ、当該励振電極41に向けて気体である被感知物質を導入できるように構成されている。この例では、第1の励振電極41は反応電極であるので、第1の励振電極41が形成されている領域が、被感知物質を吸着させる圧電振動子(水晶振動子)4の配置領域に相当する。
【0032】
カバー体8の開口部82の開口縁は下方へと延伸されて、下方に向かうにつれて開口径が次第に小さくなる筒状のガイド83を形成している。例えばガイド83の下端は、水晶振動子4の表面からわずかに、例えば0.5mm離間するように設けられる。この例のカバー体8は、第2の励振電極42の周囲を囲む空間を形成する筒状の壁部84も備えており、この壁部84の下端も水晶振動子4の表面からわずかに離間するように設けられる。
【0033】
続いて、感知装置1におけるベース体2の下方側の構造について説明する。ベース体2の第2の凹部25には回路基板6が収容されている。回路基板6は、水平な板状体であり、第2の凹部25の第1の領域251と、第2の領域252とに亘って配置されている。回路基板6を左右方向に沿って見た他端側(
図3に向かって左側)の領域には、当該回路基板6の上面及び下面に発振回路61、62が各々設けられている。発振回路61、62は、シリコン製の半導体素子である集積回路(IC)によって構成されており、水晶振動子4に接続されて当該水晶振動子4を発振させるように構成されている。
【0034】
これら発振回路61、62は、例えば仕切り板26を介してペルチェ素子部3と対向するように第1の領域251に配置される。回路基板6は上方側の発振回路61の上面が仕切り板26から離間するように、第2の凹部25内に収容されている。感知装置1の小型化を図ることだけを優先すれば、仕切り板26に発振回路61を接触させることも考えられる。しかしながら、ペルチェ素子部3からの排熱の影響を抑えるためには、発振回路61と仕切り板とを離間させて配置することが好ましい。
【0035】
一方、第1の領域251の仕切り板の厚さ寸法L1は例えば3mmと、第2の領域252の厚さ寸法よりも大きく設定されている。このため、仕切り板26の厚さが、一様に第2の領域252と同程度に形成されている場合と比較すると、ペルチェ素子部3からの排熱の影響を下方側に伝えにくい。一方、感知装置1の大型化を抑える観点では、比較形態に係る感知装置11のように、5mmもの隙間を確保することは困難である。実施形態においては、上側の発振回路61の上面と仕切り板26の下面(第1の領域251の天井面253)との離間距離L2は、0.3~1.5mmの範囲内の例えば0.5mmに設定する場合を例示できる。
【0036】
また、回路基板6の第2の領域252側の上面には、外部との接続を行うためのコネクタ7が取付けられている。コネクタ7は、例えば2ピースのレセプタクル71により構成され、このレセプタクル71が回路基板6に表面実装(SMT:Surface Mount Technology)されている。つまり、回路基板6へのはんだの印刷→回路基板6へのレセプタクル71の搭載→加熱によりはんだを溶かしてレセプタクル71を固定する工程により実装されている。コネクタ7は、
図3に示すように、ベース体2の下方部材22の一端側の側面27に形成された開口271にレセプタクル71が臨むように配置されている。
【0037】
このように、コネクタ7は、ベース体2の第2の凹部25の第2の領域252において、回路基板6と仕切り板26との間に配置されている。当該コネクタ7が配置されている領域(第2の領域252)では、仕切り板26の厚さ寸法は、発振回路71が配置されている領域(第1の領域251)の厚さ寸法L1よりも小さい。
【0038】
ここで、
図3に示すコネクタ7の例のように、回路基板6の上面に表面実装されたレセプタクル71の高さ寸法が、同じ面に配置された発振回路61の高さ寸法よりも大きい場合について考える。この場合において、仕切り板26を一様に厚さ寸法L1で形成してしまうと、レセプタクル71を配置する空間を確保するため、第2の凹部25をより深く形成しなければならず、感知装置1が大型化する要因となってしまう。
【0039】
一方、下方部材22の側面27に向けてコネクタ7用の開口部20を形成する場合には、
図3に示すように、ペルチェ素子部3の直下の領域から離れた位置にレセプタクル71を配置することができる。ペルチェ素子部3の直下から離れた位置に配置することにより、当該ペルチェ素子部3からの排熱の影響を低減することができる。また、発振回路61と比較すると、レセプタクル71自体も熱による悪影響を受けにくい部品である。このようなことから、感知装置1の小型化を図るために、コネクタ7が設けられる第2の領域252では仕切り板26の厚さ寸法を小さくして、レセプタクル71を配置するための空間を確保している。
【0040】
さらに、
図4の分解斜視図に示すように、回路基板6の上面側には、発振回路61の前後の各端部に、既述のピン53を差し込むためのソケット63が2つ設けられている。各ソケット63には、複数、例えば4本のピン53を挿入することができるように挿入口が形成されている。これらの挿入口は、左右方向に並べて配置されている。
【0041】
ソケット63は導電性であり、各発振回路61、62と電気的に接続されている。各ソケット63の挿入口の形成位置は、各挿入口に差し込まれる既述のピン53の配置位置に対応している。なお、図示の便宜上、
図3においては、ソケット63の記載は省略してある。さらに、回路基板6にはケーブル64の一端が接続され、当該ケーブル64の他端はコネクタ7に接続されている。
【0042】
上述の構成によると、水晶振動子4に接続されたピン53は、ベース体2の孔部242を貫通して、回路基板6に設けられたソケット63の各挿入口に挿入される。このようにピン53がソケット63に差し込まれることで、回路基板6に接続された電極であるソケット63とピン53とが電気的に接続される。この結果、センサ基板5の水晶振動子4及び温度検出部52と回路基板6とが電気的に接続される。
このような回路基板6は、例えばネジ65によりベース体2の第2の凹部25に固定されている。
図3中、符号66はネジ65を挿入するネジ穴が形成されている部材であり、回路基板6は例えば第2の領域252において仕切り板26に対してネジ固定されている。
【0043】
また、ベース体2には、第2の凹部25を下面側から塞ぐベースカバー21が設けられる。ベースカバー21は例えば不図示のネジにてベース体2に取付けられる。こうして、第2の凹部25とベースカバー21との間に回路基板6を収容する空間250が形成される。ベースカバー21は、例えば
図3及び
図4に示すように、平面的に見て第2の凹部25を覆うことが可能に形成された水平な板部材211と、板部材211の一端側を屈曲して形成された垂直部位212と、を備えている。板部材211の厚さ寸法は例えば1mmに設定される。
【0044】
垂直部位212は、ベース体2の一端側側面27に形成された開口271と係合して、コネクタ7用の開口部20を形成するものである。これにより、コネクタ7のレセプタクル71は、当該開口部20を介して外部のプラグ(不図示)に接続される。
また、ベースカバー21を装着した状態において、回路基板6の下側の発振回路62の下面とベースカバー21の上面との離間距離は、0.3~1.5mmの範囲内の例えば0.5mmに設定する場合を例示できる。
【0045】
本実施の形態に係る感知装置1の特徴について述べる。本発明の感知装置1は、コネクタ7をベース体2の第2の凹部25内に収容し、ベース体2の側面27側から外部との接続を行う構成となっている。このため、比較形態のようにベース部12から下方に向けてコネクタ19が突出している構成に比べて、感知装置1の高さ寸法が小さくなり、小型化を図ることができる。
【0046】
また、比較形態ではベース部12にペルチェベース130を介してペルチェ素子13を設けていたのに対して、本発明の感知装置1では、ベース体2の第1の凹部24内にペルチェ素子部3を収容するように設けている。このようにベース体2とペルチェベースとを一体化することにより、ペルチェベース130の厚さ寸法に相当する分、感知装置1の高さ寸法を低減することができる。
【0047】
本発明は、感知装置1の小型化に着目し、発振回路61、62への熱影響を考慮しながら、比較形態の構成部材の見直しを図ったものである。これによって、ペルチェベース130を設けない構成であっても、ベース体2の仕切り板26の厚さ寸法L1や、仕切り板26の下面と発振回路61の上面との離間距離L2の適正化を図ることにより、既述のように、発振回路61、62への熱影響を抑えて、感知装置1の小型化を図ることができると捉えている。
【0048】
さらに、感知装置1では、ベースカバー21の厚さ寸法についても見直し、比較形態よりも薄型化している。また、カバー体8の開口部82についても、開口径を広くして、ガイド83の傾斜をゆるやかに形成することにより、センサ基板5とカバー体8の上面81との離間距離を比較形態よりも小さく設定している。これらの工夫によっても、感知装置1の小型化を図っている。
【0049】
また、感知装置1の小型化にあたり、構成部材を削減したり、薄型化していることから、感知装置1の軽量化や、コストダウンを図ることができる。さらに、比較形態ではコネクタ19は回路基板18にケーブルにて接続され、この接続は手作業によりはんだ付けすることにより行っていたが、本発明の感知装置1では、コネクタ7は回路基板6に表面実装されるため、手作業にてケーブルを接続する場合に比べて、作業工程が簡素化される。さらに、比較形態にて必要であったコネクタカバー191が不要となるため、部品点数が削減される。
【0050】
さらにまた、比較形態では、ペルチェベース130とペルチェ素子部13を接着した後に、ベース部12にネジ止めをしていたが、本発明の感知装置1ではベース体2にペルチェ素子部3を直接接着している。このため、ペルチェベース130のネジ止めに必要なロックボルトも不要となり、この点からも部品点数が削減される。このような部品点数や作業工数の削減によってもコストダウンを図ることができる。
このように本発明の感知装置1では、比較形態に比べて小型化、軽量化及び製造コストの低減を図ることができる。従って、ガスである被感知物質を感知する感知装置1の活用範囲を従来に比べて拡大することができる。
【0051】
このような感知装置1の大きさの一例を挙げると、ベース本体2の左右方向の大きさL3は27mm、前後方向の大きさL4は29mm、ベース本体2の下端からカバー体8の上端までの高さL5は18mmであり、比較形態の感知装置11に比べて小型化が図られている。
【0052】
続いて、感知装置1を用いた感知システム9について、
図6を参照して説明する。感知システム9は、真空容器90を備え、真空容器90は、その側面のうちの一面が感知装置1を冷却するための冷却部91として構成されている。そして感知装置1は、
図6に示すように真空容器90内において、冷却部91にベース体2が固定され、カバー体8の開口部82が横方向を向くように取り付けられる。冷却部91は例えば冷却媒体が流通する流路911を備えたチラーにより構成され、ベース体2を冷却し、このベース体2を介して発振回路61、62を備えた回路基板62を冷却できるように構成されている。
【0053】
ベース体2は伝熱性が高いため、チラーにより冷却されることによって、仕切り板26や突出部23も冷却される。これにより、ベース体2に接触するペルチェ素子部3やカバー体8も冷却され、感知装置1全体が冷却される。このように冷却部91の熱は、ベース体2を介して、ペルチェ素子部3に熱伝導されることから、ベース体2は、ペルチェ素子部3に対する給排熱を行うと言える。なおベース体2は、ペルチェ素子部3に対して給熱と排熱との一方を行う構成でも良い。
【0054】
真空容器90の内部には感知装置1の開口部82と対向する位置に試料92を支持するための台部93が設けられ、この台部93は加熱機構94により所定の温度に加熱できるようになっている。真空容器90は、排気路95を介して真空排気機構96に接続され、所定の真空度に真空排気されるように構成されている。
【0055】
また、感知装置1を冷却部91に取り付けたときに、真空容器90内においてコネクタ7のレセプタクル71と、電力供給部97に設けられたプラグとが互いに接続される。これにより、感知装置1は図示しない感知システム9の本体部に電気的に接続される。こうして、発振回路61、62が外部の本体部と電気的に接続され、水晶振動子4の発振周波数を取得できるように構成されている。またペルチェ素子部3に対して電流を供給できるように構成されると共に、温度検出部52で検出される水晶振動子4の温度が取得できるように構成される。そして、温度検出部52にて検出された水晶振動子4の温度に基づいて、ペルチェ素子部3へ供給される電流の向き及び供給電力を調整して、水晶振動子4の温度を調整する。これにより水晶振動子4の温度を所定の温度から所定の速度で昇温させることができる。
【0056】
この感知システム9においては、台部93に試料92を支持させた後、真空容器90を閉じ、真空容器90内を所定の真空度に真空排気すると共に、台部93を加熱機構94により例えば125℃に加熱する。これにより、試料92に含まれる被感知物質であるガスが昇華し、真空容器90内に放出される。一方、冷却部91に冷却媒体を供給すると共に、ペルチェ素子部3により温度を調整し、水晶振動子4を、例えば-80℃に冷却する。これにより、試料92の加熱により発生したガスが開口部82を介して感知装置1内に進入し、第1の励振電極41に付着する。
【0057】
このとき、水晶振動子4の質量変化により水晶振動子4の発振周波数が変化し、被感知物質を検出することができる。さらに発振周波数の取得を継続しながらペルチェ素子部3により温度を調節し、水晶振動子4を例えば1℃/分の速度で昇温させる。この水晶振動子4の昇温により、第1の励振電極41に付着した被感知物質が脱離すると、その時点で発振周波数が大きく変化する。感知システム9のユーザーは、発振周波数の経時変化を示すグラフから、発振周波数が変化するタイミングを読み出し、この変化したタイミングに基づいて当該変化が起きた温度を特定し、さらにはその温度に基づいて被感知物質の種類を特定することができる。
【0058】
また、この例では、水晶振動子4は第2の励振電極42(リファレンス電極)を備えているので、反応電極41側の発振周波数F1とリファレンス電極42側の発振周波数F2が測定される。そして、これら発振周波数F1、F2の差分を取得し、予め取得された前記差分と被感知物質の量(質量)との関係から、前記差分に対応する被感知物質の量を検出することができる。
【0059】
このように感知装置1は、感知システム9の真空雰囲気内にて使用され、第2の凹部25とベースカバー21との間の回路基板6を収容する空間250が真空雰囲気となる。これにより、仕切り板26から離間して設けられた発振回路61が仕切り板26に対して真空断熱される。従って、発振回路61と仕切り板26との離間距離L2が0.3~1.5mmの範囲内と、比較的距離が小さい場合であっても、元々仕切り板26からの排熱の影響が小さい。一方、仕切り板26自体は冷却部91からの熱伝導により速やかに冷却されるため、結果として仕切り板26からの熱影響は抑えられる。このようなことから、感知装置1の小型化を図るために、前記離間距離L2を小さく設定しても、発振回路61への熱影響はそれほど大きくならない。
【0060】
本発明の感知装置1の他の例について
図7に示す。当図は、コネクタ7が回路基板6の下面に設けられている構成例である。この例においても、ベース体2Aは下方部材22Aと突出部23を備えており、仕切り板26Aの上方側については上述の実施形態と同様に構成されている。
一方で、仕切り板26Aは例えば厚さ寸法が一様に構成することが可能である。この仕切り板26Aの下方に形成された第2の凹部25A内に、発振回路61、62を備えた回路基板6が配置されると共に、回路基板6の下面にコネクタ7が表面実装されている。
【0061】
そして、第2の凹部25Aを下方側からベースカバー21Aにより塞ぎ、ベース体2Aの一端側の側面27Aに形成された開口272との間にコネクタ7用の開口部20Aが形成される。
この例においても、例えば仕切り板26Aの厚さ寸法を調整することにより、ベース体2Aの下方部材22Aの高さ寸法を、
図3、
図4に示す実施形態の下方部材22と揃えることができ、感知装置1の小型化を図ることができる。
【0062】
上述の実施形態では、2ピースコネクタのレセプタクル71を回路基板6に設け、外部のプラグに接続される構成とした。一方で、回路基板6に、2ピースコネクタのプラグを表面実装し、外部に設けられたレセプタクルに接続される構成としてもよい。また、上述の実施形態では、水晶振動子4の一面側に反応電極である第1の励振電極41とリファレンス電極である第2の励振電極42を備える構成としたが、水晶振動子4の一面側には反応電極としての励振電極のみを備える構成であってもよい。、
【符号の説明】
【0063】
1 感知装置
2 ベース体
21 ベースカバー
3 ペルチェ素子部
4 水晶振動子
41、42、43 励振電極
5 センサ基板
6 回路基板
61、62 発振回路
7 コネクタ