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  • 特開-感知装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025152098
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】感知装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20251002BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024053835
(22)【出願日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茎田 啓行
(57)【要約】
【課題】圧電振動子に付着するガスに含まれる被感知物質を感知するための感知装置において、圧電振動子を安定して発振させて周波数を測定する。
【解決手段】 感知装置は、圧電振動子の発振周波数の変化に基づいて、前記圧電振動子の周囲のガスに含まれると共に当該圧電振動子に付着する被感知物質を感知するための感知装置において、冷却されることで前記被感知物質が付着する圧電振動子と、前記圧電振動子の温度を変更するための温度変更部と、前記圧電振動子を発振させる発振回路を含む集積回路チップが設けられる基板と、前記発振回路から出力される周波数信号を受信して前記圧電振動子の発振周波数を測定する周波数測定部と、前記集積回路チップを加熱するために前記温度変更部とは別個に設けられるヒータと、前記ヒータに供給する電力を変更可能な電力供給部と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子の発振周波数の変化に基づいて、前記圧電振動子の周囲のガスに含まれると共に当該圧電振動子に付着する被感知物質を感知するための感知装置において、
冷却されることで前記被感知物質が付着する圧電振動子と、
前記圧電振動子の温度を変更するための温度変更部と、
前記圧電振動子を発振させる発振回路を含む集積回路チップが設けられる基板と、
前記発振回路から出力される周波数信号を受信して前記圧電振動子の発振周波数を測定する周波数測定部と、
前記集積回路チップを加熱するために前記温度変更部とは別個に設けられるヒータと、
前記ヒータに供給する電力を変更可能な電力供給部と、
を備える感知装置。
【請求項2】
前記電力供給部は、前記ヒータに供給する電圧を変更することで前記電力を変更する電圧変更部である請求項1記載の感知装置。
【請求項3】
前記電圧変更部は、前記基板に設けられるレギュレータを介して前記発振回路に電圧を供給し、
前記レギュレータ及び前記ヒータに供給される電圧が共に変更される請求項2記載の感知装置。
【請求項4】
前記ヒータは、前記基板に設けられる請求項3記載の感知装置。
【請求項5】
前記周波数測定部への前記周波数信号の出力状態に応じて前記ヒータに供給する電圧を変更するための制御部が設けられる請求項2ないし4のいずれか一つに記載の感知装置。
【請求項6】
前記周波数信号の出力状態は、当該周波数信号の前記周波数測定部への出力の有無であり、
前記ヒータに印加する電圧を予め設定された初期値から上昇させたときの前記周波数信号の有無に基づいて、前記制御部が前記ヒータに供給する電圧を決定する請求項5記載の感知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子の周波数変化により被感知物質を感知する感知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばガス中に含まれる物質を感知する感知装置として、水晶振動子を用いたQCM(Quartz crystal microbalance)を利用する装置が知られている。この感知装置では水晶振動子を例えば-190℃程度の極低温に冷却することにより水晶振動子にガスを付着させ、続いて水晶振動子の温度を徐々に上げて、水晶振動子に付着したガスを脱離させる。その脱離による発振周波数の変化と、発振周波数の変化が起きた温度とから、ガスの成分の同定や付着量の検出などの分析を行うことができる。
【0003】
特許文献1には、水晶振動子を冷却して感知センサを高感度化する技術が記載されている。また特許文献2には、ICチップが設置される基板を冷却する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011―203007号公報
【特許文献2】特開2012-220454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した感知装置は、測定を行う環境に配置される感知センサを備える。例えばこの感知センサには、上記の水晶振動子の他に集積回路チップが設けられる。水晶振動子との距離が比較的大きくなって発振が不安定になることを防ぐため、水晶振動子を発振させる発振回路は、この集積回路チップに組み込まれることで感知センサ内に設けられる。
【0006】
集積回路チップを構成するシリコン等の半導体は、過度に冷却されるとキャリアの密度が少なくなることで、絶縁性が高まる。従って、被感知物質を付着させるために水晶振動子を冷却するにあたっては、この集積回路チップが過度に冷却されて各回路素子の機能が停止することにより、当該水晶振動子の発振が不可になってしまうことを防止する必要が有る。その一方で、比較的高い温度環境下においては、発振回路の負性抵抗が小さくなることで発振余裕度が低下する。それにより、当該発振回路の動作が不安定または動作不可となってしまうおそれがある。
【0007】
ところで水晶振動子の温度を様々な範囲内で変化させることによってガスの付着、脱離を行い、発振周波数を測定することが検討されている。具体的には上記した-190℃程度の温度よりも低い温度を下限とする範囲内で水晶振動子の温度を変更して発振周波数の取得を行うこと、及び-190℃よりも高い温度を下限とする範囲内で水晶振動子の温度を変更して発振周波数の取得を行うことが検討されている。従って、感知センサに水晶振動子と共に設けられる発振回路の周囲の温度は、感知センサの使用の度に変化し得ることになる。
【0008】
以上に述べたことから、発振回路の周囲の温度が異なっても水晶振動子を安定して発振させて周波数を測定することができる感知装置が求められている。上記の特許文献1、2には、このような問題を解決できる手法は示されていない。
【0009】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、圧電振動子に付着するガスに含まれる被感知物質を感知するための感知装置において、圧電振動子を安定して発振させて周波数を測定することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る感知装置は、圧電振動子の発振周波数の変化に基づいて、前記圧電振動子の周囲のガスに含まれると共に当該圧電振動子に付着する被感知物質を感知するための感知装置において、
冷却されることで前記被感知物質が付着する圧電振動子と、
前記圧電振動子の温度を変更するための温度変更部と、
前記圧電振動子を発振させる発振回路を含む集積回路チップが設けられる基板と、
前記発振回路から出力される周波数信号を受信して前記圧電振動子の発振周波数を測定する周波数測定部と、
前記集積回路チップを加熱するために前記温度変更部とは別個に設けられるヒータと、
前記ヒータに供給する電力を変更可能な電力供給部と、
を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の感知装置によれば、圧電振動子に付着するガスに含まれる被感知物質を感知するための感知装置において、圧電振動子を安定して発振させて周波数を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る感知装置を用いた実験装置の縦断側面図である。
図2】前記感知装置を示すブロック図である。
図3】前記感知装置の温度調節動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る感知装置1の全体構成について図1図2に基づいて説明する。図1は、ガスに含まれる被感知物質を検知するための一例の実験装置と、当該実験装置に用いられる感知装置1とを示す縦断側面図である。図2は、感知装置1を示すブロック図である。感知装置1は、本体部2と、本体部2に接続できるように構成された感知センサ3と、を備えている。本体部2は、感知センサ3への給電、及び感知センサ3に設けられる水晶振動子4の発振周波数の測定を行う。
【0014】
感知センサ3は、実験装置を構成する真空容器70内に設けられる。真空容器70は感知センサ3を冷却可能であり、水晶振動子4に対して、当該真空容器70内の試料77から生じるガスを被感知物質として付着及び脱離させることによる実験を行うことができるように構成されている。実験においては感知装置1の測定動作として、この付着及び脱離をなすための水晶振動子4の温度制御に並行した発振周波数の測定が行われる。
【0015】
以後の説明においてはXYZ直交座標系を用い、実験装置に設置される感知センサ3において後述のベース体32側を下方として、Z軸の方向を上下方向として説明する。ただし、感知センサ3については任意の向きで使用することができ、以下の説明で述べる向きで使用されることに限られない。
【0016】
感知センサ3の全体構成について説明する。図1に示すように感知センサ3は、下方側が開放された円筒状の蓋部31と、蓋部31の下方を塞ぐベース体32と、ベース体32に取り付けられた基板40及びセンサ基板50と、を備えている。
【0017】
ベース体32は、例えばニッケル鍍金がされた銅により円板状に構成され、実験装置によって極低温まで冷却可能に取り付けられる取付部33と、取付部33の上面の中心部に平面形状円形の突出部34と、を有する。突出部34には、平面視矩形の凹部35が形成され、凹部35の中央部はさらに凹むことで凹部36を形成している。凹部36の周縁部上に、断熱部材である板状のスペーサ37を介して基板40の周縁部が支持されている。基板40には、集積回路チップ(ICチップ)41~43と、ヒータ47とが搭載されている。
【0018】
また凹部36の底部には孔部36aが形成され、複数のケーブル62が孔部36aに挿通されている。当該ケーブル62は基板40に設けられる配線パターンと、ベース体32の下部側に設けられるコネクタ61に設けられる接続端子と、を電気的に接続する導電路をなす。コネクタ61は図示しない接続部材に差し込まれる。この接続部材に設けられる導電路を介して、コネクタ61の接続端子は、真空容器70の外部に設けられる本体部2の接続端子に電気的に接続される。このようにコネクタ61が差し込まれて、本体部2との電気的接続がなされるので、感知センサ3は本体部2に対して着脱自在である。
【0019】
基板40の上面の左右の端縁部にはソケット64が設けられている。そして、ソケット64上には板状のカバー65が設けられ、ICチップ41~43及びヒータ47を覆う。ソケット64に挿通されると共にZ方向に伸びる複数のピン66が設けられ、当該ピン66によってセンサ基板50がカバー65の上方に水平な姿勢で支持されている。ピン66の下端部は基板40及びスペーサ37を貫通して、ベース体32に接続されている。このピン66は、センサ基板50を支持する支持部材であると共に導電部材である。
【0020】
センサ基板50の上面には、凹部52が形成されている。またセンサ基板50には、水晶振動子4を加熱するための発熱抵抗で構成されたヒータ54が埋設されている。圧電振動子である水晶振動子4は、凹部52の開口を覆う様にセンサ基板50上に設けられ、例えばATカットの圧電片である円板状の水晶片4aを備えている。図2に示すように、水晶片4aの上面側及び下面側には夫々、一対の第1の励振電極(反応電極)4b、4cと、一対の第2の励振電極(リファレンス電極)4d、4eと、これらに夫々接続された不図示の配線パターンと、が例えば金(Au)などによって形成されている。
【0021】
水晶片4aにおいて、第1の励振電極4b、4cに挟まれる領域を第1振動領域40Aとし、第2の励振電極4d、4eに挟まれる領域を第2振動領域40Bとする。この水晶振動子4は、ベース体32が冷却される際にピン66及びセンサ基板50を介した伝熱によって冷却される。その一方で、当該水晶振動子4は、温度変更部であるヒータ54が昇温することによるセンサ基板50からの伝熱によって、加熱される。さらに水晶片4aの上面には、水晶振動子4の温度を検出するための温度センサ55が設けられており、この温度センサ55から出力される検出信号に基づいて、本体部2は温度検出を行う。
【0022】
上記した蓋部31は水晶振動子4及びセンサ基板50の上方を覆い、且つベース体32の突出部34の周囲を囲むように配置されて、蓋部31とベース体32とが係合される。蓋部31の上面部には、すり鉢状の開口部31aが形成されている。開口部31aに水晶振動子4の上面側の第1の励振電極4bが臨み、第2の励振電極4dは感知センサ3の外部空間と遮断される。開口部31aの下端は、水晶振動子4の表面から0.5mm離間している。
【0023】
センサ基板50に形成される配線パターン、ピン66及びソケット64からなる導電路を介して、励振電極4b~4e、ヒータ54、温度センサ55の各々は、基板40の配線パターンに電気的に接続されている。そのように導電路が形成されること、及び上記したようにケーブル62を介して基板40の配線パターンと本体部2の接続端子とが電気的に接続されることで、ICチップ41~43に含まれる各回路素子、ヒータ47及び温度センサ55に対して本体部2から給電を行うこと、励振電極4b~4eが後述の発振回路44に電気的に接続されて水晶振動子4が発振すること、発振回路44からの周波数信号及び温度センサ55からの検出信号の本体部2への取り出しが可能である。
【0024】
ICチップ41~43について詳しく述べる。当該ICチップ41は半導体、例えばシリコンにより構成されている。例えばICチップ41には発振回路44が、ICチップ42にはレギュレータ45が、ICチップ43には2つのスイッチ48、49が、夫々形成されている。レギュレータ45は、本体部2から発振回路44へ供給される電圧を調整する。
【0025】
上記の基板40上のヒータ47は、常温で例えば300Ω程度の発熱抵抗であり、ICチップ41~43に設けられる各回路素子を加熱して、比較的低い温度環境での動作を担保する。ヒータ47の一端は本体部2とレギュレータ45とを接続する導電路に接続され、ヒータ47の他端は接地されている。従って、レギュレータ45とヒータ47とは、それぞれ本体部2に対して並列に接続され、同一の電圧が印加される。また、発振回路44にはレギュレータ45から、例えば3Vの電圧が印加される。
【0026】
スイッチ48は励振電極4b、4dのうちのいずれか一方を発振回路44に接続し、スイッチ49は励振電極4c、4eのうちのいずれか一方を発振回路44に接続する。スイッチ48、49の動作は互いに同期し、励振電極4b、4cが発振回路44に接続される状態と、励振電極4d、4eが発振回路44に接続される状態と、が時分割で切り替わり、第1振動領域40A及び第2振動領域40Bが各々振動する。
【0027】
続いて、電力供給部をなす本体部2について説明する。本体部2は、制御部20と、電源部21と、周波数測定部22と、温度検出部23と、操作部と、表示部と、を備える。電源部21は、例えば電圧可変レギュレータを備えた電圧変更部として構成され、ヒータ47及びレギュレータ45へ電圧を出力し、この出力電圧については変更可能である。従って、ヒータ47への供給電力及び当該ヒータ47の発熱量が変化する。
【0028】
また、レギュレータ45についても、発振回路44への出力電圧(3V)と、当該レギュレータ45へ出力電圧との差分に応じて発熱する。このレギュレータ45が形成されるICチップ42は、ヒータ47と共に、ICチップ41、43を加熱し、低温環境下で発振回路44及びスイッチ48、49の動作を担保する役割を果たす。以降の説明では、電源部21からヒータ47及びレギュレータ45への出力電圧をV1とする。
【0029】
周波数測定部22は、発振回路44からの周波数信号の出力の有無を検出し、周波数信号が出力される場合には、その周波数を測定する。即ち、反応電極側の第1振動領域40Aにおける第1の発振周波数F1と、リファレンス電極側の第2振動領域40Bにおける第2の発振周波数F2とが、周波数測定部22によって夫々測定される。温度検出部23は、温度センサ55から出力される検出信号から、水晶振動子4の温度を検出する。
【0030】
ところで発明が解決する手段の項目で述べたように、発振回路44については動作可能な温度範囲内で、より低い温度とすることが水晶振動子4を安定して発振させるために好ましい。制御部20は、感知装置1の測定動作を行う際に発振回路44がそのような温度となるように出力電圧V1を自動設定するためのプログラムを含む。後に詳しく述べるように、制御部20は出力電圧V1について、初期電圧V0から所定の刻み量で段階的に上昇させ、その上昇中の周波数信号の検出の有無に基づいて測定動作時の値を決定する。
【0031】
初期電圧V0及び刻み量である増加電圧αのデータについて、図示しない本体部2の記憶部に格納される。なお初期電圧V0は、例えば感知センサ3の構成上、発振回路44を安定して動作させることが可能な最低電圧とする。一例として、初期電圧V0は5Vであり、増加電圧αは0.5Vである。また記憶部には、この出力電圧V1の自動設定に用いられる、ICチップ41~43が動作可能な範囲の下限の温度(動作可能温度T℃と記載する)以下や出力電圧V1の上限値である上限電圧Vhのデータについても格納される。T℃は、例えば-160℃程度に設定される。上限電圧Vhは、例えばレギュレータ45の定格電圧、ヒータ47の定格電圧及び電源部21が出力可能な電圧のうちの最も低い値とされ、例えば12Vである。
【0032】
本体部2に設けられる表示部はランプや液晶画面などにより構成され、第1の発振周波数F1、第2の発振周波数F2、温度センサ55による検出温度が夫々表示される。また、後述する出力電圧V1の設定フローで当該設定が行えない場合に、表示部にその旨が表示される。そして、本体部2における操作部は、ユーザーが操作するスイッチやボタンによって構成され、この操作部に対する所定の操作により、出力電圧V1の自動設定を行うことができる。
【0033】
実験装置についてさらに説明する。実験装置を構成する真空容器70の側面は、感知センサ3を冷却するための冷却部71として構成されている。冷却部71は、ベース体32の底部の中央に対向する部分が貫通し、感知センサ3を設置したときに本体部2のコネクタ61を配置できるように形成されている。また冷却部71は、例えば液体窒素(N)などの冷却媒体が流通する流路71aを備え、ベース体32を-190℃程度に冷却する。上記のピン66等を介した熱伝導によって水晶振動子4についても同程度の温度に冷却可能である。
【0034】
真空容器70の内部には、感知センサ3の開口部31aと対向する位置に試料77を支持するための台部73が設けられている。この台部73は、加熱機構74により試料77を所定の温度に加熱できるようになっている。真空容器70は、排気路75を介して真空排気機構76に接続され、所定の真空度に真空排気されるように構成されている。
【0035】
感知装置1の測定動作を行う前(即ち、実験を開始する前)に、出力電圧V1の自動設定を行う。図3は、その自動設定のフローチャートであり、制御部20により実行される。実験者は、先ず温度センサ55によって検出される温度が、感知センサ3を設置する環境の温度である-190℃程度の温度になっていることを確認した後、自動設定を開始するための所定の操作を、本体部2の操作部に対して行う。電源部21は、例えば5Vである初期電圧V0を出力電圧V1として、レギュレータ45及びヒータ47に印加する(ステップS1)。そして印加開始から所定の時間経過後、発振回路44から本体部2へ周波数信号が出力されているか否かを判断する(ステップS2)。
【0036】
ステップS2で周波数信号が出力されていないと判断された場合、温度センサ55による検出温度が、動作可能温度T℃以上かどうか判断する(ステップS3)。ステップS3で検出温度が動作可能温度T℃以上と判断された場合は、感知装置1の動作不良により計測不可であるものとしてその旨を示す表示を行い(ステップS4)、自動設定を終了する。
【0037】
ステップS3で検出温度が動作可能温度T℃未満と判断された場合は、出力電圧V1+増加電圧αが上限電圧Vhより高いかどうか判断する(ステップS5)。ステップS5で、出力電圧V1+増加電圧αが上限電圧Vhより高いと判断された場合は、感知装置1の動作不良により計測不可であるものとしてその旨を示す表示を行い(ステップS6)、自動設定を終了する。
【0038】
ステップS5で出力電圧V1+増加電圧αが上限電圧Vh以下であると判断された場合は、出力電圧V1をそれまでの電圧からα上昇させる。即ち、ステップS5で上限電圧Vhとの比較を行った電圧となるように出力電圧V1が変更される(ステップS7)。それにより、レギュレータ45及びヒータ47の温度上昇によってICチップ41、43の温度が上昇する。そしてステップS1以降のフローが再度、実施される。
【0039】
ステップS2で所定の発振回路44から本体部2へ周波数信号が出力されていると判断された場合は、この判断時の出力電圧V1が測定動作時に用いられるものとして決定され(ステップS8)、自動設定が終了してこの出力電圧V1が維持される。また、取得される周波数信号から、第1の発振周波数F1及び第2の発振周波数F2が測定されて、表示部に表示される。
【0040】
その後、例えば真空容器70内を所定の真空度に真空排気すると共に、台部73を加熱機構74により加熱する。上記の自動設定を行うにあたり、水晶振動子4は冷却されているので、台部73の加熱により試料77から生じたガスが開口部31aを介して感知センサ3内に進入し、第1の励振電極4bに吸着する。その後、実験者が本体部2の操作部から所定の操作を行うと測定動作が開始され、例えば水晶振動子4の検出温度が例えば1℃/1分の速度で昇温するように、センサ基板50のヒータ54への給電が制御される。検出温度が所定の温度に至るまで、このような水晶振動子4の昇温が続けられ、このように水晶振動子4の温度制御がなされる間、第1の発振周波数F1及び第2の発振周波数F2が本体部によってモニターされる。検出温度が所定の温度に達したら温度上昇及び周波数のモニターが停止し、感知装置1の測定動作が終了する。
【0041】
そして、例えば実験者はこれらの第1の発振周波数F1及び第2の発振周波数F2の差分値の経時変化のデータを取得し、このデータから被感知物質の特定を行ったり、吸着量などの算出を行ったりする。上記した第1の発振周波数F1及び第2の発振周波数F2の取得中、出力電圧V1は既述のフローのステップS8で決定された値に保たれる。なお、上記したヒータ54への給電の制御も制御部20のプログラムにより実施される。
【0042】
上記の例では実験装置の真空容器70内に感知センサ3を配置しているが、感知センサ3としてはこのような真空容器70内に限られず、様々な環境に配置することができる。そのような様々な環境に感知センサ3を配置するにあたり、本体部2は出力電圧V1を変更し、発振回路44及びスイッチ48、49が動作可能な温度であって且つ発振回路44が過度に高温となることを防止することができる。従って、水晶振動子4を安定して発振させて第1の発振周波数F1及び第2の発振周波数F2を測定することができる。その結果として実験の精度を高めることができる。
【0043】
なお、仮に複数の感知センサ3を比較的温度が低い同一環境に設置するものとし、出力電圧V1が変更不可であり、各感知センサ3に同一の出力電圧V1が供給されるものとする。この場合であっても、感知センサ3の個体差により、ある感知センサ3では周波数を測定することができ、別の感知センサ3では周波数の測定が不可となる状況が発生し得る。つまり同一の環境に配置される感知センサ3であっても適正な出力電圧V1は異なり得るので、出力電圧V1が変更されないとすれば、感知センサ3毎に適正な出力電圧V1を設定する必要が有る。そのために、装置の製造工程を複雑化させてしまうおそれがある。出力電圧V1を可変させる感知装置1によれば、そのような製造工程の複雑化を防ぎつつ、各感知センサ3に適正な出力電圧V1を供給することができる。
【0044】
そして図3で述べたように出力電圧V1は自動で設定されるので、装置のユーザーの負担が少ない。また、この自動設定は出力電圧V1を段階的に上昇させ、その上昇を行う度に周波数信号の出力の有無の判断をもって、当該出力電圧V1が適正か否かの判断がなされるように行われる。そのため、決定される出力電圧V1が比較的大きい値に決定されることが防止される。従って、水晶振動子4の発振についてより確実に安定させることができる。また、ヒータ47及びレギュレータ45による水晶振動子4への熱影響が抑えられるので、水晶振動子4については比較的低い温度になるように冷却することができるので、実験を行うにあたって感知装置1の適用範囲を広くすることができる。ところで上記した増加電圧αは、1回の測定動作で一定とすることに限られず、ステップS1以降の一連の判断フローが繰り返されるにあたって変更させてもよい。例えば、繰り返し回数が多くなるにつれて、小さくなるようにしてもよい。
【0045】
また、上記したようにICチップ41、43を加熱するにあたり、レギュレータ45とヒータ47とは、それぞれ本体部2に対して並列に接続され、本体部2から各々出力電圧V1が印加されることで発熱する。従って、感知センサ3へ供給する電力を抑えつつ、ICチップ41、43が発熱量を大きくして、本体部2による周波数信号の取得を可能にすることができるので、感知装置1の運用コストを抑えることができる。
【0046】
なお発振回路44、レギュレータ45、スイッチ48、49について、別個のICチップに含まれるものとして示したが、共通のICチップに含まれるようにしてもよい。そしてヒータ47について、ICチップと別個に設けることに限られず、ICチップに組み込まれた構成とされてもよい。
【0047】
感知センサとしては、感知センサ3と同様な構造を有するものに限らず、例えば異なる発振回路44の断熱構造を備えていてもよい。また、感知センサ3が設けられる実験装置は、液体窒素の代わりに液体窒素より低温の液体ヘリウムが供給されて、当該感知センサ3を冷却する構成であってもよい。
【0048】
発振回路44から本体部2への周波数信号の出力の有無に基づいて出力電圧V1の設定が行われることを説明したが、この周波数信号のレベルを検出し、所定のレベル以下である場合には発振回路44等の加熱が不十分であるものとして、出力電圧V1を上昇させるようにしてもよい。つまり、上記のフローのステップS2では、検出される周波数信号のレベルが基準値以下であるか否かの判断を行うようにする。このように出力電圧V1を決定する判断基準となる発振回路44からの周波数数信号の出力状態としては、周波数信号の有無に限られない。
【0049】
また、出力電圧V1について自動設定により感知装置1の測定動作時の値が決定されることには限られない。操作部からユーザーの操作で変更可能であるように本体部2が構成され、ユーザーが表示部を見て第1の発振周波数F1及び第2の発振周波数F2が取得されているか否かを確認しつつ操作部からの操作を行うことで、測定動作時の値の決定がなされるようにしてもよい。
【0050】
なお測定動作において水晶振動子4の温度を次第に上昇させる例を示したが、そのような温度制御を行うことには限られない。例えば感知センサ3を設置した環境における被感知物質の量の推移を観察するために、水晶振動子4を所定の温度に保ち続けるようにしてもよい。
【0051】
また、ヒータ47についてはICチップ41、43を効率良く加熱するために、これらICチップ41、43が搭載される基板40に設けられることが好ましいが、そのような構成とすることには限られない。例えば基板40の上方に、当該基板40に近接する基板を設け、当該基板に設けられていてもよい。このようにヒータ47は、センサ基板50のヒータ54と別個に設けられて、ICチップ41を加熱するものであればよい。なお、第1の発振周波数F1及び第2の発振周波数F2の両方を取得することが好ましいが、第1の発振周波数F1のみを取得するようにしてもよく、従ってスイッチ48、49が設けられない構成であってもよい。それ故に、ヒータ47としては少なくとも発振回路44を含むICチップ41を加熱するものであればよい。
【0052】
また、ヒータ47についてレギュレータ45と本体部2とを接続する導電路に接続することには限られず、レギュレータ45とは独立して電力が供給され、その電力が変更可能である構成とされていてもよい。
【0053】
本実施形態において冷却媒体の流路71aは、実験装置の真空容器70に形成されて感知センサ3に設けられていないが、感知センサ3の例えばベース体32に設けられていてもよく、水晶振動子4を所望する極低温まで冷却できれば感知センサ3のベース体32以外の部分を冷却するように配置されていてもよい。また感知センサ3については、当該感知センサ3の外部から水晶振動子4が冷却される構成とすることには限られず、感知センサ3内にペルチェ素子のような水晶振動子4を冷却する機構が組み込まれていてもよく、このペルチェ素子については、センサ基板50を介して水晶振動子4を冷却することができるように、センサ基板50の下面に接するように設ければよい。なお、水晶振動子4の加熱する際にもこのペルチェ素子を用いればよく、このようにペルチェ素子を設けた場合は、当該ペルチェ素子が温度変更部に該当する。また、水晶振動子4はペルチェ素子や冷却媒体の流路71aの作用によって冷却されることには限られず、感知センサ3が配置される自然環境の温度により冷却されてもよい。この自然環境には、宇宙空間も含まれる。従って感知装置1を使用するにあたり、水晶振動子4を冷却する機構は無くてもよい。
【0054】
なお、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更及び組み合わせがなされてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 感知装置
21 電源部22 周波数測定部
4 水晶振動子
40 基板
41 ICチップ
43 発振回路
47 ヒータ
54 ヒータ
図1
図2
図3