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  • 特開-蛍光体粉末、複合体および発光装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015220
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】蛍光体粉末、複合体および発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20250123BHJP
   C09K 11/02 20060101ALI20250123BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20250123BHJP
   H10H 20/851 20250101ALI20250123BHJP
【FI】
C09K11/64
C09K11/02 Z
C09K3/10 G
C09K3/10 L
C09K3/10 D
H01L33/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118485
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】田中 萌子
(72)【発明者】
【氏名】野見山 智宏
【テーマコード(参考)】
4H001
4H017
5F142
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001XA07
4H001XA08
4H001XA13
4H001XA14
4H001XA20
4H001XA38
4H001YA63
4H017AA04
4H017AB03
4H017AB08
4H017AB15
4H017AD02
4H017AE05
5F142AA62
5F142AA72
5F142BA02
5F142BA32
5F142CA02
5F142CC04
5F142CE02
5F142CF02
5F142CG03
5F142CG04
5F142CG05
5F142CG06
5F142CG07
5F142DA02
5F142DA03
5F142DA12
5F142DA43
5F142DA44
5F142DA53
5F142DA56
5F142DA63
(57)【要約】
【課題】信頼性が向上した蛍光体粉末を提供する。
【解決手段】CASN蛍光体粒子およびSCASN蛍光体粒子からなる群より選択される一種または二種以上の蛍光体粒子を含む蛍光体粉末であって、プレッシャークッカー試験機を用いて、前記蛍光体粉末5gを130℃、相対湿度98%、0.16MPaの雰囲気下にて53時間暴露するプレッシャークッカー試験をおこなったとき、CIE1976L表色系で規定される、前記プレッシャークッカー試験前の前記蛍光体粉末の測色値(L 、a 、b )と、プレッシャークッカー試験後の前記蛍光体粉末の測色値(L 、a 、b )との色差ΔE={(L -L +(a -a +(b -b 1/2が25.0以下である蛍光体粉末。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CASN蛍光体粒子およびSCASN蛍光体粒子からなる群より選択される一種または二種以上の蛍光体粒子を含む蛍光体粉末であって、
プレッシャークッカー試験機を用いて、前記蛍光体粉末5gを130℃、相対湿度98%、0.16MPaの雰囲気下にて53時間暴露するプレッシャークッカー試験をおこなったとき、
CIE1976L表色系で規定される、前記プレッシャークッカー試験前の前記蛍光体粉末の色度座標(L 、a 、b )と、前記プレッシャークッカー試験後の前記蛍光体粉末の色度座標(L 、a 、b )との色差ΔE={(L -L +(a -a +(b -b 1/2が25.0以下である蛍光体粉末。
【請求項2】
前記(L -L が65.0以下である、請求項1に記載の蛍光体粉末。
【請求項3】
前記(a -a が260.0以下である、請求項1または2に記載の蛍光体粉末。
【請求項4】
前記(b -b が300.0以下である、請求項1または2に記載の蛍光体粉末。
【請求項5】
一般式、EuSrCaAlSiで示され、0<a<1.00、0<b<1.00、0<c<1.00、0.70<a+b+c<1.30、0.70<d<1.30、0.70<e<1.30、0<f<3.00、0<g<3.00、2.50<f+g<3.50である蛍光体粒子を含む、請求項1または2に記載の蛍光体粉末。
【請求項6】
a<0.30である、請求項5に記載の蛍光体粉末。
【請求項7】
b>0.50である、請求項5に記載の蛍光体粉末。
【請求項8】
前記蛍光体粉末のb/(b+c)のモル比が0.96以上0.99以下である、請求項5に記載の蛍光体粉末。
【請求項9】
前記蛍光体粉末のレーザ回折散乱法による体積基準のメジアン径D50が1μm以上40μm以下である、請求項1または2に記載の蛍光体粉末。
【請求項10】
下記方法2による、前記蛍光体粉末の相対蛍光強度減少率が10.0%以下である、請求項1または2に記載の蛍光体粉末。
(方法2)
前記蛍光体粉末の、分光光度計を用いて測定される相対蛍光強度をY(%)とし、プレッシャークッカー試験機を用いて、前記蛍光体粉末5gを130℃、相対湿度98%、0.16MPaGの雰囲気下にて53時間保持した後における前記蛍光体粉末の相対蛍光強度をY(%)としたとき、100×(Y-Y)/Yを相対蛍光強度減少率(%)とする。
【請求項11】
前記Yが150%以上である、請求項10に記載の蛍光体粉末。
【請求項12】
下記方法3による、前記蛍光体粉末の波長455nmの光に対する吸収率減少率が5.0%以下である、請求項1または2に記載の蛍光体粉末。
(方法3)
前記蛍光体粉末の、分光光度計を用いて測定される波長455nmの光に対する吸収率をZ(%)とし、プレッシャークッカー試験機を用いて、前記蛍光体粉末5gを130℃、相対湿度98%、0.16MPaGの雰囲気下にて53時間保持した後における前記蛍光体粉末の波長455nmの光に対する吸収率をZ(%)としたとき、100×(Z-Z)/Zを吸収率減少率(%)とする。
【請求項13】
前記Zが90.0%以上である、請求項12に記載の蛍光体粉末。
【請求項14】
請求項1または2に記載の蛍光体粉末と、前記蛍光体粉末を封止する封止材と、を備える複合体。
【請求項15】
前記封止材が、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ガラスおよびセラミックスからなる群より選択される一種または二種以上を含む、請求項14に記載の複合体。
【請求項16】
励起光を発する発光素子と、
前記励起光の波長を変換する請求項14に記載の複合体と、
を備える発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粉末、複合体および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
白色LEDを製造するため、青色LEDチップからの青色光を赤色光に変換する赤色蛍光体が研究されている。赤色蛍光体としては、いわゆるCASN蛍光体やSCASN蛍光体などが知られている。
特許文献1には、高密度光励起時でも発光特性が優れており、中でも発光スペクトルの半値幅が狭く、発光の量子効率維持率が高い窒化物蛍光体を提供することを目的として、一般式MSrCaAlSiで表される結晶相を含み、4000mW/mm光励起での量子効率維持率が85%以上であることを特徴とする蛍光体が記載されている。この一般式において、Mは付活元素を表し、0<a<0.05、0.95≦b≦1、0≦c<0.1、a+b+c=1、0.7≦d≦1.3、0.7≦e≦1.3、2.5≦f≦3.5である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-077800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、信頼性が向上した蛍光体粉末、並びに、信頼性が向上した蛍光体粉末を用いた、複合体および発光装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、CASN蛍光体粒子およびSCASN蛍光体粒子からなる群より選択される一種または二種以上の蛍光体粒子を含み、かつプレッシャークッカー試験前後における色差ΔEが特定の範囲である蛍光体粉末が信頼性を向上できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明によれば、以下に示す蛍光体粉末、複合体および発光装置が提供される。
【0007】
[1]
CASN蛍光体粒子およびSCASN蛍光体粒子からなる群より選択される一種または二種以上の蛍光体粒子を含む蛍光体粉末であって、
プレッシャークッカー試験機を用いて、前記蛍光体粉末5gを130℃、相対湿度98%、0.16MPaの雰囲気下にて53時間暴露するプレッシャークッカー試験をおこなったとき、
CIE1976L表色系で規定される、前記プレッシャークッカー試験前の前記蛍光体粉末の色度座標(L 、a 、b )と、前記プレッシャークッカー試験後の前記蛍光体粉末の色度座標(L 、a 、b )との色差ΔE={(L -L +(a -a +(b -b 1/2が25.0以下である蛍光体粉末。
[2]
前記(L -L が65.0以下である、[1]に記載の蛍光体粉末。
[3]
前記(a -a が260.0以下である、[1]または[2]に記載の蛍光体粉末。
[4]
前記(b -b が300.0以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の蛍光体粉末。
[5]
一般式、EuSrCaAlSiで示され、0<a<1.00、0<b<1.00、0<c<1.00、0.70<a+b+c<1.30、0.70<d<1.30、0.70<e<1.30、0<f<3.00、0<g<3.00、2.50<f+g<3.50である蛍光体粒子を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の蛍光体粉末。
[6]
a<0.30である、[5]に記載の蛍光体粉末。
[7]
b>0.50である、[5]または[6]に記載の蛍光体粉末。
[8]
前記蛍光体粉末のb/(b+c)のモル比が0.96以上0.99以下である、[5]~[7]のいずれかに記載の蛍光体粉末。
[9]
前記蛍光体粉末のレーザ回折散乱法による体積基準のメジアン径D50が1μm以上40μm以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の蛍光体粉末。
[10]
下記方法2による、前記蛍光体粉末の相対蛍光強度減少率が10.0%以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の蛍光体粉末。
(方法2)
前記蛍光体粉末の、分光光度計を用いて測定される相対蛍光強度をY(%)とし、プレッシャークッカー試験機を用いて、前記蛍光体粉末5gを130℃、相対湿度98%、0.16MPaGの雰囲気下にて53時間保持した後における前記蛍光体粉末の相対蛍光強度をY(%)としたとき、100×(Y-Y)/Yを相対蛍光強度減少率(%)とする。
[11]
前記Yが150%以上である、[10]に記載の蛍光体粉末。
[12]
下記方法3による、前記蛍光体粉末の波長455nmの光に対する吸収率減少率が5.0%以下である、[1]~[11]のいずれかに記載の蛍光体粉末。
(方法3)
前記蛍光体粉末の、分光光度計を用いて測定される波長455nmの光に対する吸収率をZ(%)とし、プレッシャークッカー試験機を用いて、前記蛍光体粉末5gを130℃、相対湿度98%、0.16MPaGの雰囲気下にて53時間保持した後における前記蛍光体粉末の波長455nmの光に対する吸収率をZ(%)としたとき、100×(Z-Z)/Zを吸収率減少率(%)とする。
[13]
前記Zが90.0%以上である、[12]に記載の蛍光体粉末。
[14]
[1]~[13]のいずれかに記載の蛍光体粉末と、前記蛍光体粉末を封止する封止材と、を備える複合体。
[15]
前記封止材が、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ガラスおよびセラミックスからなる群より選択される一種または二種以上を含む、[14]に記載の複合体。
[16]
励起光を発する発光素子と、
前記励起光の波長を変換する[14]または[15]に記載の複合体と、
を備える発光装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、信頼性が向上した蛍光体粉末、並びに、信頼性が向上した蛍光体粉末を用いた、複合体および発光装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】発光装置の構造の一例を模式的に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合がある。
図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0011】
本実施形態では、数値範囲を示す「A~B」は、特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0012】
<蛍光体粉末>
本実施形態の蛍光体粉末は、CASN蛍光体粒子およびSCASN蛍光体粒子からなる群より選択される一種または二種以上の蛍光体粒子を含む。そして、本実施形態の蛍光体粉末は、蛍光体粉末の蛍光特性をより向上させる観点から、SCASN蛍光体粒子を含むことが好ましい。
【0013】
本実施形態のCASN蛍光体粒子は、(Si,Al)-N正四面体が結合することにより構成され、その骨格の間隙にCa原子が位置し、Ca2+の一部が発光中心として作用するEu2+などの賦活元素に置換された蛍光体粒子である。
本実施形態のSCASN蛍光体粒子は、(Si,Al)-N正四面体が結合することにより構成され、その骨格の間隙に位置するCa原子の一部がSr原子に置換され固溶しており、さらにCa2+の一部が発光中心として作用するEu2+などの賦活元素に置換された蛍光体粒子である。
【0014】
本実施形態の蛍光体粉末は、プレッシャークッカー試験前後での色差ΔEが25.0以下である。
ここで、色差ΔEは、プレッシャークッカー試験機を用いて、蛍光体粉末5gを130℃、相対湿度98%、0.16MPaの雰囲気下にて53時間暴露するプレッシャークッカー試験をおこなったとき、CIE1976L表色系で規定される、プレッシャークッカー試験前の蛍光体粉末の色度座標(L 、a 、b )と、プレッシャークッカー試験後の蛍光体粉末の色度座標(L 、a 、b )と、から下記式により算出される。
ΔE={(L -L +(a -a +(b -b 1/2
【0015】
本発明者の検討によれば、蛍光体粉末のプレッシャークッカー試験前後での色差ΔEと、蛍光体粉末の信頼性との間に関連性があることを見出した。
本発明者が上記知見をもとにさらに検討を重ねた結果、プレッシャークッカー試験機を用いて、蛍光体粉末5gを130℃、相対湿度98%、0.16MPaの雰囲気下にて53時間暴露するプレッシャークッカー試験をおこなったとき、CIE1976L表色系で規定される、プレッシャークッカー試験前の蛍光体粉末の測色値(L 、a 、b )と、プレッシャークッカー試験後の蛍光体粉末の測色値(L 、a 、b )との色差ΔEを25.0以下の範囲内とすることによって、蛍光体粉末の信頼性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
本実施形態の蛍光体粉末の色差ΔEは、蛍光体粉末の信頼性をより向上させる観点から、好ましくは0.0以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上、さらに好ましくは2.5以上であり、そして、25.0以下、好ましくは23.0以下、より好ましくは21.0以下、さらに好ましくは20.0以下、さらに好ましくは19.0以下、さらに好ましくは17.0以下、さらに好ましくは15.0以下、さらに好ましくは12.0以下、さらに好ましくは10.0以下、さらに好ましくは8.0以下、さらに好ましくは7.0以下である。
【0017】
本実施形態の蛍光体粉末の(L -L は、蛍光体粉末の信頼性をより向上させる観点から、好ましくは0.0以上、より好ましくは0.1以上であり、そして、好ましくは65.0以下、より好ましくは50.0以下、さらに好ましくは40.0以下、さらに好ましくは30.0以下、さらに好ましくは25.0以下、さらに好ましくは20.0以下、さらに好ましくは15.0以下、さらに好ましくは10.0以下、さらに好ましくは5.0以下、さらに好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.0以下である。
【0018】
本実施形態の蛍光体粉末の(a -a は、蛍光体粉末の信頼性をより向上させる観点から、好ましくは0.0以上、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.3以上であり、そして、好ましくは260.0以下、より好ましくは220.0以下、さらに好ましくは150.0以下、さらに好ましくは100.0以下、さらに好ましくは50.0以下、さらに好ましくは10.0以下、さらに好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.0以下である。
【0019】
本実施形態の蛍光体粉末の(b -b は、蛍光体粉末の信頼性をより向上させる観点から、好ましくは0.0以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1.0以上であり、そして、好ましくは300.0以下、より好ましくは250.0以下、さらに好ましくは200.0以下、さらに好ましくは150.0以下、さらに好ましくは120.0以下、さらに好ましくは100.0以下、さらに好ましくは90.0以下、さらに好ましくは70.0以下、さらに好ましくは50.0以下、さらに好ましくは40.0以下、さらに好ましくは30.0以下である。
【0020】
本実施形態において、蛍光体粉末のプレッシャークッカー試験前後での色差ΔEを測定する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、色差計を用いて、C光源、2°視野の条件で、蛍光体粉末のCIE1976L***表色系で規定される色度座標(L 、a 、b )を測定する。次いで、プレッシャークッカー試験機を用いて、蛍光体粉末5gを130℃、相対湿度98%、0.16MPaの雰囲気下にて53時間暴露するプレッシャークッカー試験をおこなった後の蛍光体粉末のCIE1976L***表色系で規定される色度座標(L 、a 、b )を、同様の方法で測定する。次いで、各色度座標の測定値をもとに、(L -L 、(a -a および(b -b をそれぞれ算出する。そして、下記式によりΔEを算出する。
ΔE={(L -L +(a -a +(b -b 1/2
【0021】
本実施形態の蛍光体粉末は、原材料の選択、各原材料の使用比率、製造手順・製造条件などを適切に選択することによって得ることができる。原材料の選択および原材料の量比については、好ましくは、Sr含有原料を多めに用いること、後述する「核」を添加すること、などが挙げられる。製造手順・製造条件については、好ましくは、適切な条件で大気加熱処理を行うこと、密封容器を用いて焼成およびアニールを行うこと、等が挙げられる。これらの詳細については追って述べる。
【0022】
(結晶構造、元素組成など)
本実施形態の蛍光体粒子は、CaAlSiNと同一の結晶相を有する一般式EuSrCaAlSiで表される蛍光体粒子からなる。この一般式において、0<a<1.00、0<b<1.00、0<c<1.00、0.70<a+b+c<1.30、0.70<d<1.30、0.70<e<1.30、0<f<3.00、0<g<3.00、2.50<f+g<3.50である。
【0023】
結晶相については粉末X線回折により確認できる。結晶相は、結晶の単相が好ましいが、蛍光体特性に大きな影響がない限り、異相を含んでいても構わない。異相の有無は、例えば粉末X線回折により目的の結晶相によるもの以外のピークの有無により判別できる。
【0024】
aについては、蛍光体粉末の蛍光特性を向上させる観点から、好ましくは0.01<a、より好ましくは0.03<a、さらに好ましくは0.05<a、さらに好ましくは0.06<a、さらに好ましくは0.07<aであり、そして、好ましくはa<0.30、より好ましくはa<0.25、さらに好ましくはa<0.20、さらに好ましくはa<0.15、さらに好ましくはa<0.10である。
【0025】
bについては、蛍光体粉末の蛍光特性を向上させる観点から、好ましくは0.50<b、より好ましくは0.60<b、さらに好ましくは0.70<b、さらに好ましくは0.80<b、さらに好ましくは0.83<bであり、そして、好ましくはb<0.99、より好ましくはb<0.95、さらに好ましくはb<0.90である。
【0026】
「Sr量が多い」という観点の別指標として、b/(b+c)のモル比は、蛍光体粉末の蛍光特性を向上させる観点から、好ましくは0.96以上、より好ましくは0.97以上、さらに好ましくは0.98以上であり、そして、好ましくは0.99以下である。
【0027】
cについては、蛍光体粉末の蛍光特性を向上させる観点から、0<cであり、そして、好ましくはc<0.20、より好ましくはc<0.15、さらに好ましくはc<0.10、さらに好ましくはc<0.05、さらに好ましくはc<0.03である。
【0028】
dについては、蛍光体粉末の蛍光特性を向上させる観点から、好ましくは0.80<d、より好ましくは0.85<d、さらに好ましくは0.90<d、さらに好ましくは0.95<dであり、そして、好ましくはd<1.20、より好ましくはd<1.15、さらに好ましくはd<1.10、さらに好ましくはd<1.05である。
【0029】
eについては、蛍光体粉末の蛍光特性を向上させる観点から、好ましくは0.75<e、より好ましくは0.80<e、さらに好ましくは0.85<e、さらに好ましくは0.90<eであり、そして、好ましくはe<1.20、より好ましくはe<1.10、さらに好ましくはe<1.05、さらに好ましくはe<1.00、さらに好ましくはe<0.97である。
【0030】
fについては、蛍光体粉末の蛍光特性を向上させる観点から、好ましくは2.55<f、より好ましくは2.60<f、さらに好ましくは2.65<f、さらに好ましくは2.70<f、さらに好ましくは2.75<fであり、そして、好ましくはf<3.40、より好ましくはf<3.20、さらに好ましくはf<3.10、さらに好ましくはf<3.00、さらに好ましくはf<2.90、さらに好ましくはf<2.85、さらに好ましくはf<2.82である。
【0031】
gについては、蛍光体粉末の蛍光特性を向上させる観点から、好ましくは0.01<g、より好ましくは0.05<g、さらに好ましくは0.10<g、さらに好ましくは0.15<gであり、そして、好ましくはg<0.80、より好ましくはg<0.50、さらに好ましくはg<0.40、さらに好ましくはg<0.35、さらに好ましくはg<0.30、さらに好ましくはg<0.25である。
【0032】
本実施形態において、蛍光体粉末に含まれる各元素のmol比のうち、Eu、Sr、Ca、AlおよびSiのmol比は、例えば、加圧酸分解法によって蛍光体粉末を溶解させ、試料溶液を調製し、得られた試料溶液を対象としてICP発光分光分析装置を用いて元素の定量分析を行うことにより測定することができる。
本実施形態において、蛍光体粉末に含まれる各元素のmol比のうち、NおよびOのmol比は、例えば、蛍光体粉末0.03gを量り取り、酸素・窒素分析装置により酸素および窒素の含有量を測定し、求めることができる。
【0033】
(メジアン径D50
本実施形態の蛍光体粒子のメジアン径D50は、蛍光体粉末の信頼性をより向上させる観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上、さらに好ましくは17μm以上、さらに好ましくは20μm以上であり、そして、好ましくは40μm以下、より好ましくは36μm以下、さらに好ましくは33μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。青色LEDからの青色光を赤色光に変換する用途においては、この程度のメジアン径が、輝度、変換効率、信頼性などの諸性能のバランスの点で好ましい。
【0034】
本実施形態において、蛍光体粉末のメジアン径D50は、例えば、レーザ回折散乱法により、体積基準の値として測定することができる。
メジアン径D50の調整は、粉砕、篩分けなどの公知の手段を適宜適用することで行うことができる。詳細は後述する。
【0035】
(吸収率)
本実施形態の蛍光体粉末の波長455nmの光に対する吸収率Z1は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは90.0%以上、より好ましくは92.0%以上、さらに好ましくは94.0%以上、さらに好ましくは95.0%以上であり、そして、好ましくは99.9%以下、より好ましくは99.0%以下、さらに好ましくは98.0%以下である。
【0036】
本実施形態において、蛍光体粉末の波長455nmの光に対する吸収率Z1は、例えば、以下の方法により求めることができる。
まず、蛍光体粉末を凹型セルに表面が平滑になるように充填し、積分球の開口部に取り付ける。次いで、発光光源であるXeランプから455nmの波長に分光した単色光を、光ファイバーを用いて蛍光体の励起光として前記積分球内に導入する。この励起光である単色光を蛍光体粉末に照射し、分光光度計を用いて蛍光スペクトルを測定する。
得られた蛍光スペクトルのデータから、蛍光体粉末の発光強度を決定し、励起反射光フォトン数(Qref)および蛍光フォトン数(Qem)を算出する。励起反射光フォトン数は450~465nmの波長範囲で、蛍光フォトン数は465~800nmの範囲で算出する。また、同じ装置を用い、積分球の開口部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製、スペクトラロン(登録商標))を取り付けて、波長が455nmの励起光のスペクトルを測定する。その際、450~465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出する。
上述の算出結果から、以下に示す計算式に基づいて、蛍光体の455nmの光に対する吸収率Z1を求める。
455nmの光に対する吸収率Z1=((Qex-Qref)/Qex)×100
【0037】
(内部量子効率)
本実施形態の蛍光体粉末の波長455nmの光により励起される際の内部量子効率は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは60.0%以上、より好ましくは64.0%以上、さらに好ましくは67.0%以上、さらに好ましくは70.0%以上、そして、好ましくは99.0%以下、より好ましくは90.0%以下、さらに好ましくは85.0%以下、さらに好ましくは80.0%以下である。
【0038】
本実施形態において、蛍光体粉末の波長455nmの光により励起される際の内部量子効率は、例えば、上述した励起反射光フォトン数(Qref)、蛍光フォトン数(Qem)および励起光フォトン数(Qex)の算出結果から、以下に示す計算式に基づいて求めることができる。
内部量子効率=(Qem/(Qex-Qref))×100
【0039】
(外部量子効率)
本実施形態の蛍光体粉末の波長455nmの光により励起される際の外部量子効率は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは60.0%以上、より好ましくは63.0%以上、さらに好ましくは66.0%以上、さらに好ましくは68.0%以上、そして、好ましくは99.0%以下、より好ましくは90.0%以下、さらに好ましくは85.0%以下、さらに好ましくは80.0%以下である。
【0040】
本実施形態において、蛍光体粉末の波長455nmの光により励起される際の外部量子効率は、例えば、上述した励起反射光フォトン数(Qref)、蛍光フォトン数(Qem)および励起光フォトン数(Qex)の算出結果から、以下に示す計算式に基づいて求めることができる。
外部量子効率=(Qem/Qex)×100
なお、上記式から外部量子効率と、455nmの光に対する吸収率および内部量子効率との関係式は以下のように表すことができる。
外部量子効率=455nmの光に対する吸収率×内部量子効率
【0041】
(ピーク波長、半値幅)
本実施形態の蛍光体粉末に波長455nmの光を照射したときの蛍光スペクトルのピーク波長は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは600nm以上、より好ましくは610nm以上、さらに好ましくは620nm以上、さらに好ましくは630nm以上、さらに好ましくは633nm以上であり、そして、好ましくは670nm以下、より好ましくは660nm以下、さらに好ましくは650nm以下、さらに好ましくは645nm以下、さらに好ましくは643nm以下である。
さらに、この蛍光スペクトルのピークの半値幅は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは70.0nm以上、より好ましくは71.0nm以上、さらに好ましくは72.0nm以上、さらに好ましくは73.0nm以上であり、そして、好ましくは77.0nm以下、より好ましくは76.0nm以下、さらに好ましくは75.0nm以下である。
本実施形態において、蛍光体粉末に波長455nmの光を照射したときの蛍光スペクトルは、例えば、上述した吸収率Zの測定方法と同様の方法により測定することができる。
【0042】
(相対蛍光強度)
本実施形態の蛍光体粉末の相対蛍光強度Yは、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは150%以上、より好ましくは170%以上、さらに好ましくは190%以上、さらに好ましくは200%以上、さらに好ましくは210%以上、さらに好ましくは220%以上、さらに好ましくは225%以上であり。相対蛍光強度Yの上限は特に限定されないが、例えば、400%以下であり、350%以下であってもよく、300%以下であってもよく、280%以下であってもよく、260%以下であってもよい。
【0043】
本実施形態において、蛍光体粉末の相対蛍光強度Yは、例えば、455nmの単色光をYAG:Ceに照射して得られる発光スペクトルのピーク強度を100%とし、上述した吸収率Zの測定方法と同様の方法により測定される蛍光スペクトルにおけるピーク強度を相対ピーク強度(%)で表すことで求めることができる。つまり、相対蛍光強度Yは、標準サンプルに対する相対値である。
【0044】
(プレッシャークッカー試験後の吸収率)
プレッシャークッカー試験機を用いて、本実施形態の蛍光体粉末5gを130℃、相対湿度98%、0.16MPaGの雰囲気下にて53時間保持した後における本実施形態の蛍光体粉末の455nmの光に対する吸収率Zは、蛍光体粉末の信頼性をより向上させる観点から、好ましくは92.0%以上、より好ましくは93.0%以上、さらに好ましくは94.0%以上、さらに好ましくは94.5%以上であり、そして、好ましくは99.9%以下、より好ましくは99.0%以下、さらに好ましくは98.5%以下である。
本実施形態において、蛍光体粉末の455nmの光に対する吸収率Zは、例えば、上述した吸収率Zの測定方法と同様の方法により求めることができる。
【0045】
本実施形態の蛍光体粉末の、100×(Z-Z)/Zにより算出される吸収率減少率(%)は、蛍光体粉末の信頼性をより向上させる観点から、好ましくは-5.0%以上、より好ましくは-1.0%以上、さらに好ましくは0.0%以上であり、そして、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下である。
【0046】
(プレッシャークッカー試験後の相対蛍光強度)
プレッシャークッカー試験機を用いて、本実施形態の蛍光体粉末5gを130℃、相対湿度98%、0.16MPaGの雰囲気下にて53時間保持した後における本実施形態の蛍光体粉末の相対蛍光強度Yは、SCASN蛍光体粒子を含む場合、蛍光体粉末の信頼性をより向上させる観点から、好ましくは221%以上、より好ましくは223%以上、さらに好ましくは225%以上であり、そして、好ましくは400%以下、より好ましくは300%以下、さらに好ましくは260%以下である。
また、本実施形態の蛍光体粉末の相対蛍光強度Yは、CASN蛍光体粒子を含む場合、蛍光体粉末の信頼性をより向上させる観点から、好ましくは130%以上、より好ましくは150%以上、さらに好ましくは170%以上、さらに好ましくは190%以上、さらに好ましくは200%以上、さらに好ましくは210%以上、さらに好ましくは220%以上であり、そして、好ましくは400%以下、より好ましくは300%以下、さらに好ましくは260%以下である。
【0047】
本実施形態の蛍光体粉末の、100×(Y-Y)/Yにより算出される相対蛍光強度減少率(%)は、蛍光体粉末の信頼性をより向上させる観点から、好ましくは-5.0%以上、より好ましくは-1.0%以上、さらに好ましくは0.0%以上であり、そして、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは6.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下である。
【0048】
<蛍光体粉末の製造方法>
本実施形態の蛍光体粉末は、原材料の選択、各原材料の使用比率、製造手順・製造条件などを適切に選択することによって得ることができる。具体的には、本実施形態の蛍光体粉末は、好ましくは、
・出発原料を混合して原料混合粉末を得る混合工程と、
・原料混合粉末を焼成して塊状の焼成粉を得る焼成工程と、
・塊状の焼成粉を粉状化する粉状化工程と、
・粉状の焼成粉を熱処理してアニール粉を得るアニール工程と、
・アニール粉を酸処理して酸処理粉を得る酸処理工程と、
・水簸により酸処理粉から微粒子粉を除去する水簸工程と、
・酸処理粉を大気加熱処理して大気加熱処理粉を得る大気加熱処理工程と、
を経ることで製造することができる。また、蛍光体粉末の製造に際しては、これら以外の追加の工程があってもよい。
【0049】
(混合工程)
本実施形態の混合工程においては、出発原料を混合して原料混合粉末とする。
本実施形態の出発原料は、蛍光体粉末の蛍光特性をより向上させる観点から、ユウロピウム化合物、ストロンチウム化合物、カルシウム化合物、窒化ケイ素および窒化アルミニウムをすべて含むことが好ましく、酸化ユウロピウム、窒化ストロンチウム、窒化カルシウム、窒化ケイ素および窒化アルミニウムをすべて含むことがより好ましい。
本実施形態の各出発原料の形態は、好ましくは粉末状である。
【0050】
本実施形態のユウロピウム化合物は、蛍光体粉末の蛍光特性をより向上させる観点から、酸化ユウロピウム、窒化ユウロピウムおよびフッ化ユウロピウムからなる群より選択される一種を単独で含むことが好ましく、酸化ユウロピウムを単独で含むことがより好ましい。
【0051】
本実施形態の焼成工程において、ユウロピウムは、固溶するもの、揮発するもの、および、異相成分として残存するものに分けられる。ユウロピウムを含有した異相成分は酸処理等で除去することが可能である。ただし、ユウロピウムを含有した異相成分があまりに多量に生成した場合、酸処理で不溶な成分が生成し、輝度が低下する。また、余分な光を吸収しない異相であれば、残存した状態でもよく、この異相にユウロピウムが含有されていてもよい。
【0052】
本実施形態のユウロピウム化合物の量は、蛍光体粉末の蛍光特性をより向上させる観点から、仕込み比における前述の一般式中のaが、好ましくは0.05<a<0.15、より好ましくは0.07<a<0.10となるような量で用いられることが好ましい。ちなみに、後述の核粒子を用いる場合、上記不等式中のaには、核粒子中のユウロピウムの量は含まない。
【0053】
一方、本実施形態のストロンチウム化合物の量は、蛍光体粉末の蛍光特性をより向上させる観点から、仕込み比における前述の一般式中のbが、好ましくは0.85<b<1.00、より好ましくは0.95<b<0.98となるような量で用いられることが好ましい。ちなみに、後述の核粒子を用いる場合、上記不等式中のbには、核粒子中のストロンチウムの量は含まない。
【0054】
本実施形態の出発原料は(原料混合粉末は)、メジアン径が10μm以上20μm以下であるSCASN蛍光体核粒子を含むことが好ましい。つまり、出発原料の一部は、メジアン径が10μm以上20μm以下であるSCASN蛍光体核粒子であることが好ましい。
本実施形態のSCASN蛍光体核粒子のメジアン径は、蛍光体粉末の蛍光特性をより向上させる観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上であり、そして、好ましくは20μm以下、より好ましくは17μm以下である。
本明細書では、このSCASN蛍光体核粒子を、単に「核粒子」「核」などとも表記する。
【0055】
詳細は不明だが、核粒子を用いることで、後の焼成工程において、核粒子を起点として結晶化が進行すると考えられる。このため、核粒子を用いずに焼成工程を行う場合とは結晶成長の仕方などが変わると考えられる(例えば、核を用いることで、粒子一つ一つの組成が、核を使用しない場合と比較して、揃いやすくなると考えられる)。そして、おそらくその結果として、蛍光特性が向上した蛍光体粉末を得やすくなると考えられる。
【0056】
本実施形態の核粒子は、一例として、前述の本実施形態の蛍光体粉末と同じ一般式で表される蛍光体粉末であることができる。換言すると、核粒子は、一例として、プレッシャークッカー試験前後での色差ΔEが必ずしも25.0以下ではないが、本実施形態の蛍光体粉末と同一または類似の組成である。
【0057】
核粒子を用いる場合、その量は、蛍光体粉末の蛍光特性をより向上させる観点から、原料混合粉末の全量中、好ましくは7質量%以上、より好ましくは9質量%以上であり、そして、好ましくは13質量%以下、より好ましくは11質量%以下である。
【0058】
核粒子は、例えば、本実施形態の蛍光体粉末とほぼ同様の工程を経ることで得ることができる。すなわち、本実施形態の蛍光体粉末の製造工程において、混合工程で核粒子を添加しない以外は同様にして核粒子を得ることができる。核粒子の組成(一般式)についても、好ましくは本実施形態の蛍光体粉末と同様である。
【0059】
本実施形態の混合工程において、原料混合粉末は、例えば、出発原料を乾式混合する方法や、各出発原料と実質的に反応しない不活性溶媒中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法などを用いて得ることができる。混合装置としては、例えば、小型ミルミキサー、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミルなどを用いることができる。装置を用いた混合の後、必要に応じて篩により凝集物を取り除くことで、原料混合粉末を得ることができる。
出発原料の劣化や、意図せぬ酸素の混入を抑えるため、本実施形態の混合工程は、窒素雰囲気下や、水分(湿気)ができるだけ少ない環境下で行われることが好ましい。
【0060】
(焼成工程)
本実施形態の焼成工程においては、混合工程で得られた原料混合粉末を焼成して焼成粉を得る。
本実施形態の焼成工程における焼成温度は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは1850℃以上、より好ましくは1900℃以上であり、そして、好ましくは2050℃以下、より好ましくは2000℃以下である。焼成温度が上記下限値以上であることで、蛍光体粒子の粒成長がより効果的に進行する。そのため、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより一層向上させることができる。焼成温度が上記上限値以下であることで、蛍光体粒子の分解をより一層抑制できる。そのため、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより一層向上させることができる。
【0061】
本実施形態の焼成工程における加熱保持時間は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは5時間以上、より好ましくは7時間以上であり、そして、好ましくは15時間以下、さらに好ましくは10時間以下である。
本実施形態の焼成工程における圧力は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは0.7MPaG以上、より好ましくは0.8MPaG以上であり、そして、好ましくは1MPaG以下、より好ましくは0.9MPaG以下である。
酸素濃度のコントロールなどの観点では、本実施形態の焼成工程は窒素ガス雰囲気下で行われることが好ましい。つまり、焼成工程は、圧力0.7MPaG以上1MPaG以下の窒素ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0062】
本実施形態の焼成工程では、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、焼成中に原料混合粉末と反応しにくい容器に混合物を充填して加熱することが好ましい。具体的には、高融点容器を用いることが好ましく、タングステン製容器を用いることがより好ましい。これにより、異相の発生を抑えることができる。
【0063】
また、本実施形態の焼成工程では、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、上記の容器は気密性が高い密封容器であることが好ましい。密封条件下で原料混合粉末を焼成することで、容器内部への酸素や水分(湿気)の侵入を防ぎ、原料混合粉末の劣化などを抑制することができるため、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させることができる。
密封容器の構造は、容器の蓋部と本体部との間の隙間を狭くすることにより、容器内部が密封された構造であることが好ましい。密封容器の蓋部と本体部との間の隙間を狭くする方法として、例えば、従来の容器が本体部の上に蓋部を置くだけの構造であるところ、容器の本体部と蓋部とが互いに嵌め合う構造とする方法が挙げられる。
【0064】
(粉状化工程)
本実施形態の粉状化工程においては、解砕、粉砕、分級等の処理を単独または組み合わせて用いることにより、焼成粉を一旦粉状にする。焼成工程を経て得られる焼成粉は、通常、塊状の焼結体であるため、焼成粉を粉状化して取り扱いやすくする。
【0065】
本実施形態の粉状化工程の具体的な処理方法としては、例えば、焼結体をボールミルや振動ミル、ジェットミル等の一般的な粉砕機を使用して所定の粒度に粉砕する方法が挙げられる。ただし、過度の粉砕は、光を散乱しやすい微粒子を生成する場合や、粒子表面に結晶欠陥をもたらすことで発光効率の低下を引き起こす場合があるので留意する。
【0066】
(アニール工程)
本実施形態のアニール工程においては、粉状化工程後に、焼成工程における焼成温度よりも低い温度で、焼成粉をアニールしてアニール粉を得る。
これにより、蛍光体粉末の発光効率を十分に向上させることができる。また、元素の再配列により、ひずみや欠陥が除去されるため、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスを向上させることができる。
一方、アニール工程では異相が発生する場合がある。しかし、これは後述する酸処理工程によって十分に除去することができる。
【0067】
本実施形態のアニール工程は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、水素ガス雰囲気中またはアルゴン雰囲気中で行うことが好ましく、アルゴン雰囲気中で行うことがより好ましい。
【0068】
本実施形態のアニール工程における圧力は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは0.7MPaG以上、より好ましくは0.8MPaG以上であり、そして、好ましくは1MPaG以下、より好ましくは0.9MPaG以下である。
本実施形態のアニール工程における熱処理温度は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは1250℃以上、より好ましくは1300℃以上であり、そして、好ましくは1450℃以下、より好ましくは1400℃以下である。
本実施形態のアニール工程における熱処理時間は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは5時間以上、より好ましくは7時間以上、そして、好ましくは10時間以下、さらに好ましくは9時間以下である。
【0069】
本実施形態のアニール工程では、焼成工程と同様に、熱処理中に焼成粉と反応しにくい容器、例えば高融点容器、具体的には内壁がタングステン製である容器に混合物を充填して加熱することが好ましい。
また、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、アニール工程で用いられる容器が上述したような密封容器であることが好ましく、焼成工程とアニール工程で用いられる容器がいずれも密封容器であることがより好ましい。
【0070】
(酸処理工程)
本実施形態の酸処理工程においては、アニール工程で得られたアニール粉を酸処理して酸処理粉を得る。
これにより、発光に寄与しない不純物の少なくとも一部を除去することができる。ちなみに、発光に寄与しない不純物は、焼成工程やアニール工程の際に発生すると推察される。
【0071】
本実施形態の酸処理工程では、酸として、フッ化水素酸、硫酸、リン酸、塩酸、硝酸からなる群より選ばれる一種または二種以上の酸を含む水溶液を用いることができる。特に、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、水溶液は好ましくは塩酸、フッ化水素酸、硝酸、および、フッ化水素酸と硝酸の混酸を含み、より好ましくは塩酸を含む。
【0072】
本実施形態の酸処理工程は、アニール粉を、上述の酸を含む水溶液に分散させることにより行うことができる。攪拌の時間は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは30分以上、より好ましくは45分以上であり、そして、好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間以下である。また、攪拌の際の温度は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であり、そして、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下である。
【0073】
本実施形態の酸処理工程の後、アニール粉が分散した液を煮沸処理してもよく、蛍光体粉末以外の物質をろ過で分離し、必要に応じて蛍光体粒子に付着した物質を水洗してもよい。水洗後は、通常、自然乾燥または乾燥機での乾燥により、蛍光体粉末を乾燥させる。乾燥した蛍光体粉末をるつぼに入れて加熱して表面改質してもよい。
【0074】
(水簸工程)
本実施形態の水簸工程においては、酸処理工程の後、水簸により酸処理粉から微粒子粉を除去する。これにより、蛍光体粉末の蛍光特性を低下させるような微粒子粉を除去することができ、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させることができる。
【0075】
水簸工程は、酸処理粉を分散媒中に投入し、分散液を調製して撹拌した後、当該分散液中の酸処理粉を沈殿させ、上澄みを除去することによって行う。上澄み除去後、沈殿物をろ集し、乾燥させることで、微粒子粉の除去された酸処理粉を得ることができる。水簸工程では、上述の分散液の調製、上澄みの除去を繰り返し行ってよい。分散媒としては、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
【0076】
(大気加熱処理工程)
本実施形態の大気加熱処理工程においては、水簸工程の後、酸処理粉に対して大気加熱処理を行い、大気加熱処理粉を得る。
これにより、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスが向上する。一方で、過度の大気加熱処理は蛍光体粉末の蛍光特性を低下させるため、適切な条件で大気加熱処理を行うことが蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスの向上には重要である。
【0077】
本実施形態の大気加熱処理工程は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、大気中において、大気圧下で行われることが好ましい。
本実施形態の大気加熱処理工程における熱処理温度は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは250℃以上、より好ましくは280℃以上、さらに好ましくは320℃以上、さらに好ましくは350℃以上、さらに好ましくは380℃以上であり、そして、好ましくは450℃以下、より好ましくは420℃以下である。熱処理温度が下限値以上であることにより、蛍光体粉末の信頼性をより向上させることができ、熱処理温度が上限値以下であることにより、蛍光体粉末の蛍光特性の低下を抑制することができる。
【0078】
本実施形態の大気加熱処理工程における熱処理時間は、蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは2時間以上、さらに好ましくは3.5時間以上であり、そして、好ましくは6時間以下、さらに好ましくは5時間以下である。熱処理時間が下限値以上であることにより、蛍光体粉末の信頼性をより向上させることができ、熱処理時間が上限値以下であることにより、蛍光体粉末の蛍光特性の低下を抑制することができる。
【0079】
本実施形態の大気加熱処理工程における昇温速度は、蛍光体粉末の蛍光体粉末の信頼性および蛍光特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは1℃/分以上、より好ましくは2℃/分以上であり、そして、好ましくは10℃/分以下、より好ましくは5℃/分以下、さらに好ましくは3℃/分以下である。
【0080】
<複合体>
本実施形態の複合体は、例えば、上述した蛍光体粉末と、その蛍光体粉末を封止する封止材と、を備える。本実施形態の複合体においては、上述した蛍光体粉末が封止材中に分散している。
本実施形態の封止材は、複合体の信頼性をより向上させる観点から、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ガラスおよびセラミックスからなる群より選択される一種または二種以上を含むことが好ましい。
【0081】
本実施形態の蛍光体粉末の含有量は、複合体の全量を100質量%としたときに、複合体の信頼性をより向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0082】
本実施形態の複合体を作製する方法としては、液体状の樹脂、ガラス、セラミックスなどに、本実施形態の蛍光体粉末を加え、均一に混合し、その後、加熱処理により硬化または焼結させて作製する方法が挙げられる。
【0083】
<発光装置>
本実施形態の発光装置は、励起光を発する発光素子と、励起光の波長を変換する本実施形態の複合体と、を備える。
以下、本実施形態の発光装置を、本実施形態の発光装置の構造の一例を模式的に示す概略断面図である図1を用いて説明する。図1に示されるように、発光装置100は、発光素子120、ヒートシンク130、ケース140、第1リードフレーム150、第2リードフレーム160、ボンディングワイヤ170、ボンディングワイヤ172および複合体40を備える。
【0084】
発光素子120はヒートシンク130上面の所定領域に実装されている。ヒートシンク130上に発光素子120を実装することにより、発光素子120の放熱性を高めることができる。なお、ヒートシンク130に代えて、パッケージ用基板を用いてもよい。
【0085】
発光素子120は、励起光を発する半導体素子である。発光素子120としては、たとえば、近紫外から青色光に相当する300nm以上500nm以下の波長の光を発生するLEDチップを使用することができる。発光素子120の上面側に配設された一方の電極(図示せず)が金線などのボンディングワイヤ170を介して第1リードフレーム150の表面と接続されている。また、発光素子120の上面に形成されている他方の電極(図示せず)は、金線などのボンディングワイヤ172を介して第2リードフレーム160の表面と接続されている。
【0086】
ケース140には、底面から上方に向かって孔径が徐々に拡大する略漏斗形状の凹部が形成されている。発光素子120は、上記凹部の底面に設けられている。発光素子120を取り囲む凹部の壁面は反射板の役目を担う。
【0087】
複合体40は、ケース140によって壁面が形成される上記凹部に充填されている。複合体40は、発光素子120から発せられる励起光をより長波長の光に変換する波長変換部材である。複合体40として、本実施形態の複合体が用いられ、樹脂などの封止材30中に上述の蛍光体粉末1が分散している。発光装置100は、発光素子120の光と、この発光素子120の光を吸収し励起される蛍光体粉末1から発生する光との混合色を発する。なお、混合色として白色を得るには(発光装置100を白色LEDとするには)、複合体40が、蛍光体粉末1に加え、例えばLuAG蛍光体粉末を含むことが好ましい(封止材30中に、蛍光体粉末1に加え、LuAG蛍光体粉末が分散していることが好ましい)。
本実施形態においては、蛍光体粉末1の蛍光スペクトルのピーク波長や半値幅が一定の数値範囲内にあることにより、良好な白色光を得やすい。
【0088】
ちなみに、図1では、表面実装型の発光装置が例示されているが、発光装置は表面実装型に限定されない。発光装置は、砲弾型やCOB(チップオンボード)型、CSP(チップスケールパッケージ)型などであってもよい。
【0089】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0090】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例のみに限定されない。
【0091】
(実施例1)
<核剤の調製>
まず、容器に、60.61gのα型窒化ケイ素(Si、宇部興産株式会社製、SN-E10グレード)、53.13gの窒化アルミニウム(AlN、株式会社トクヤマ製、Eグレード)、及び13.68gの酸化ユウロピウム(Eu、信越化学工業株式会社製)を入れ、予備混合した。
【0092】
次に、水分が1質量ppm以下、酸素濃度が50質量ppm以下に調整された窒素雰囲気に保持したグローブボックス中で、上記容器に、5.76gの窒化カルシウム(Ca、Materion社製)、及び106.82gの窒化ストロンチウム(Sr、株式会社高純度化学研究所製、純度2N)を更に入れ、乾式混合し、混合物を得た。
【0093】
グローブボックス内で、240gの上記混合物を、タングステン製の密封容器に充填した。この密封容器の蓋を閉じた後、グローブボックスから取り出し、カーボンヒーターを備える電気炉内に配置した。その後、電気炉内の圧力が0.1PaG以下となるまで十分に真空排気した。ここで、密封容器は、本体部と蓋部とが互いに嵌め合う構造であることにより、従来の容器よりも蓋部と本体部との間の隙間が狭くなっており、密封性が向上している。
【0094】
真空排気を継続したまま、電気炉内の温度が600℃になるまで昇温した。600℃に到達した後、電気炉内に窒素ガスを導入し、電気炉内の圧力が0.85MPaGとなるように調整した。その後、窒素ガスの雰囲気下で、電気炉内の温度が1950℃になるまで昇温し、1950℃に到達してから8時間かけて加熱処理した。その後、加熱を終了し、室温まで冷却した。室温まで冷却した後、容器から赤色の塊状物を回収した。回収した塊状物を乳鉢で解砕及び通篩し、メジアン径16μmの核粒子(核剤)を調製した。
【0095】
<蛍光体粉末の製造>
容器に、51.50gのα型窒化ケイ素(Si、宇部興産株式会社製、SN-E10グレード)、45.14gの窒化アルミニウム(AlN、株式会社トクヤマ製、Eグレード)、15.50gの酸化ユウロピウム(Eu、信越化学工業株式会社製)、及び24.00gの上述のように調製した核剤を、それぞれ測り取り、予備混合した。
【0096】
次に、水分が1質量ppm以下、酸素濃度が50質量ppm以下に調整された窒素雰囲気に保持したグローブボックス中で、上記容器に、0.27gの窒化カルシウム(Ca、Materion社製)、及び103.58gの窒化ストロンチウム(Sr、株式会社高純度化学研究所製、純度2N)を更に測り取り、乾式混合した。これによって混合粉末を得た。核剤と原料粉末との仕込み量の関係(質量%)および原料粉末中における各元素の仕込み量の内訳(mol比)を表1に示す。
【0097】
グローブボックス内で、240gの上記混合粉末を、タングステン製の密封容器に充填した。この密封容器の蓋を閉じた後、グローブボックスから取り出し、カーボンヒーターを備える電気炉内に配置した。その後、電気炉内の圧力が0.1PaG以下となるまで十分に真空排気した。
【0098】
真空排気を継続したまま、電気炉内の温度が600℃になるまで昇温した。600℃に到達した後、電気炉内に窒素ガスを導入し、電気炉内の圧力が0.85MPaGとなるように調整した。その後、窒素ガスの雰囲気下で、電気炉内の温度が1950℃になるまで昇温し、1950℃に到達してから8時間かけて加熱処理した。その後、加熱を終了し、室温まで冷却させた。室温まで冷却した後、容器から赤色の塊状物を回収した。回収した塊状物を解砕、通篩し、粒度を調整して焼成粉を得た。
【0099】
得られた焼成粉をタングステン製の密封容器に充填し、カーボンヒーターを備えた電気炉内に速やかに移し、炉内の圧力が0.1PaG以下となるまで十分に真空排気した。真空排気を継続したまま加熱を開始し、温度が600℃に到達したところで、炉内にアルゴンガスを導入し、炉内雰囲気の圧力が大気圧となるように調整した。アルゴンガスの導入を開始した後も1350℃まで昇温を続けた。温度が1350℃に到達してから8時間かけて加熱処理した。その後、加熱を終了して室温まで冷却した。室温まで冷却した後、容器から、アニール処理後の粉体を回収した。回収した粉体は、篩を通過させ粒度を調整した。このようにして、アニール粉を得た。
【0100】
得られたアニール粉を、室温下、2.0Mの塩酸に、スラリー濃度が25質量%となるように投入して70~80℃の条件で1時間浸した。これにより酸処理を行った。酸処理後、塩酸スラリーを攪拌しながら1時間煮沸処理した。煮沸処理後のスラリーを室温まで冷却し濾過し、固形分から酸処理液を分離し、酸処理物を得た。酸処理物を、100~120℃の範囲の温度設定をした乾燥機内に12時間置いて乾燥させることで酸処理粉を得た。
【0101】
得られた酸処理粉をヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液中に投入し、分散液を調製して撹拌した後、当該分散液中の酸処理粉を沈殿させ、上澄みを除去した。上澄みを除去した後、沈殿物をろ集し、乾燥させることで、微粒子粉の除去された酸処理粉を得た。分散液の調製、上澄みの除去は、5回繰り返して行った。
【0102】
次いで、得られた酸処理粉をアルミナ製坩堝に充填し、カーボンヒーターを備えた電気炉内に速やかに移し、大気雰囲気下、大気圧の条件で温度が300℃になるまで2.5℃/分の昇温速度で昇温した。次いで、温度が300℃に到達してから1時間かけて大気加熱処理を行った。その後、加熱を終了し、室温まで冷却させ、大気加熱処理粉を得た。
以上により、実施例1の蛍光体粉末を得た。
【0103】
得られた蛍光体サンプルに対して、X線回折装置(株式会社リガク製UltimaIV)を用い、CuKα線を用いた粉末X線回折を行った。得られたX線回折パターンは、CaAlSiN結晶と同一の回折パターンが認められ、主結晶相がCaAlSiN結晶と同一の結晶構造を有することが確認された。
【0104】
(実施例2)
大気加熱処理について、処理温度を400℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の蛍光体粉末を得た。
【0105】
(実施例3)
大気加熱処理について、処理時間を4時間としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の蛍光体粉末を得た。
【0106】
(実施例4)
大気加熱処理について、処理温度を400℃、処理時間を4時間としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の蛍光体粉末を得た。
【0107】
(比較例1)
大気加熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の蛍光体粉末を得た。
【0108】
(比較例2)
大気加熱処理について、処理温度を200℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の蛍光体粉末を得た。
【0109】
(比較例3)
焼成・アニールで用いた容器について、タングステン製の密封容器の代わりに、タングステン製の非密封容器を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例3の蛍光体粉末を得た。ここで、非密封容器とは、本体部の上に蓋部を置くだけの構造の容器である。
【0110】
<色差ΔE
まず、色差計(日本電色工業社製、ZE6000)を用いて、C光源、2°視野の条件で、蛍光体粉末のCIE1976L***表色系で規定される色度座標(L 、a 、b )を測定した。次いで、プレッシャークッカー試験機(エスペック社製、EHS-221M)を用いて、蛍光体粉末5gを130℃、相対湿度98%、0.16MPaの雰囲気下にて53時間暴露するプレッシャークッカー試験をおこなった後の蛍光体粉末のCIE1976L***表色系で規定される色度座標(L 、a 、b )を、同様の方法で測定した。次いで、各色度座標の測定値をもとに、(L -L 、(a -a および(b -b をそれぞれ算出した。そして、下記式によりΔEを算出した。結果を表2に示す。
ΔE={(L -L +(a -a +(b -b 1/2
【0111】
<組成>
まず、加圧酸分解法によって蛍光体粉末を溶解させ、試料溶液を調製した。次いで、得られた試料溶液を対象として、ICP発光分光分析装置(島津製作所社製、ICPE-9000)を用いて元素の定量分析を行い、蛍光体粉末に含まれるEu、Sr、Ca、AlおよびSiのmol比を測定した。結果を表1に示す。
さらに、蛍光体粉末0.03gを量り取り、酸素・窒素分析装置により酸素および窒素の含有量を測定し、NおよびOのmol比を求めた。結果を表1に示す。
【0112】
<メジアン径>
Microtrac MT3300EX II(マイクロトラック・ベル社製)を用い、JIS R1629:1997に準拠したレーザ回折散乱法により、蛍光体粉末の粒度分布を測定した。具体的には、イオン交換水100mLに蛍光体粉末0.1g程度を投入し、そこにUltrasonic Homogenizer US-150E(日本精機製作所社製、チップサイズφ20mm、Amplitude100%、発振周波数19.5KHz、振幅約31μm)で3分間、分散処理を行い、その後、MT3300EX IIで測定を行った。得られた粒度分布から蛍光体粉末のメジアン径D50を求めた。結果を表2に示す。
【0113】
<蛍光スペクトル>
ローダミンBと副標準光源により補正を行った分光蛍光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、F-7000)を用いて蛍光測定を行った。
具体的には、まず、蛍光体粉末を凹型セルに表面が平滑になるように充填し、積分球の開口部に取り付けた。次いで、発光光源であるXeランプから455nmの波長に分光した単色光を、光ファイバーを用いて蛍光体の励起光として前記積分球内に導入した。この励起光である単色光を蛍光体粉末に照射し、分光光度計を用いて蛍光スペクトルを測定した。
【0114】
<ピーク波長、半値幅、相対蛍光強度>
得られた蛍光体粉末に波長455nmの光を照射したときの蛍光スペクトルから、蛍光スペクトルのピーク波長およびピークの半値幅を求めた。また、ピーク強度から、蛍光体粉末の相対蛍光強度Yも求めた。結果を表2に示す。
ここで、相対蛍光強度Yは、455nmの単色光をYAG:Ce(化成オプトニクス株式会社製、P46Y3)に照射して得られる発光スペクトルのピーク高さを100%とし、上記蛍光スペクトルのピーク強度を相対ピーク強度(%)で表すことで求めた。つまり、相対蛍光強度Yは、標準サンプルに対する相対値である。
【0115】
<吸収率、内部量子効率、外部量子効率>
得られた蛍光スペクトルのデータから、蛍光体粉末の発光強度を決定し、励起反射光フォトン数(Qref)および蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は450~465nmの波長範囲で、蛍光フォトン数は465~800nmの範囲で算出した。また、同じ装置を用い、積分球の開口部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製、スペクトラロン(登録商標))を取り付けて、波長が455nmの励起光のスペクトルを測定した。その際、450~465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
上述の算出結果から、以下に示す計算式に基づいて、蛍光体粉末の455nmの光に対する吸収率Z1、内部量子効率および外部量子効率を求めた。結果を表2に示す。
455nmの光に対する吸収率Z1=((Qex-Qref)/Qex)×100
内部量子効率=(Qem/(Qex-Qref))×100
外部量子効率=(Qem/Qex)×100
【0116】
<相対蛍光強度減少率>
プレッシャークッカー試験機(エスペック社製、EHS-221M)を用いて、蛍光体粉末5gを130℃、相対湿度98%、0.16MPaGの雰囲気下にて53時間保持した後における蛍光体粉末の相対蛍光強度Y(%)を上述したYと同様の方法で測定した。以上の測定値から、100×(Y-Y)/Yによりプレッシャークッカー試験前後での蛍光体粉末の相対蛍光強度減少率(%)を求めた。結果を表2に示す。
【0117】
<吸収率減少率>
プレッシャークッカー試験機(エスペック社製、EHS-221M)を用いて、蛍光体粉末5gを130℃、相対湿度98%、0.16MPaGの雰囲気下にて53時間保持した後における蛍光体粉末の455nmの光に対する吸収率Z(%)を上述したZと同様の方法で測定した。以上の測定値から、100×(Z-Z)/Zによりプレッシャークッカー試験前後での蛍光体粉末の吸収率減少率(%)を求めた。結果を表2に示す。
【0118】
原料の仕込み比については表1に示す。
表1において、Eu(mol比)、Sr(mol比)、Ca(mol比)、Al(mol比)、Si(mol比)、b/(b+c)の欄の数値には、核粒子中の元素は含まれていない。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
プレッシャークッカー試験前後での色差ΔEが25.0以下である実施例1~4の蛍光体粉末は、相対蛍光強度減少率が3.7%以下であり、吸収率減少率が1.6%以下であった。
一方、プレッシャークッカー試験前後での色差ΔEが25.0を超える比較例1~2の蛍光体粉末は、相対蛍光強度減少率が10.5%以上であり、吸収率減少率が5.2%以上であった。
このことから、実施例1~4の蛍光体粉末は、比較例1~3の蛍光体粉末に対し信頼性が向上したことが理解される。
【符号の説明】
【0122】
1 蛍光体粉末
30 封止材
40 複合体
100 発光装置
120 発光素子
130 ヒートシンク
140 ケース
150 第1リードフレーム
160 第2リードフレーム
170 ボンディングワイヤ
172 ボンディングワイヤ
図1