(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015225
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】ウレタン樹脂、バインダー樹脂の水分散体、及び水性インク
(51)【国際特許分類】
C08G 18/65 20060101AFI20250123BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20250123BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20250123BHJP
C08G 18/08 20060101ALI20250123BHJP
C08G 18/73 20060101ALI20250123BHJP
C08G 18/75 20060101ALI20250123BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
C08G18/65 005
C09D11/30
C08G18/00 C
C08G18/08 019
C08G18/73
C08G18/75
C08F220/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118494
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100220205
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 伸和
(72)【発明者】
【氏名】小島 正幸
(72)【発明者】
【氏名】西 涼香
(72)【発明者】
【氏名】大久保 利江
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸男
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
【テーマコード(参考)】
4J034
4J039
4J100
【Fターム(参考)】
4J034BA08
4J034CA04
4J034CA15
4J034CB03
4J034CC02
4J034CC03
4J034CC26
4J034CC28
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4J034CC44
4J034CC45
4J034CC54
4J034CC61
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4J034CD05
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4J034HC71
4J034HC73
4J034QC04
4J034RA07
4J039AE04
4J039BE01
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4J039BE12
4J039CA06
4J039DA02
4J039EA36
4J039EA43
4J039EA44
4J039EA46
4J039FA02
4J039GA24
4J100AJ01P
4J100AJ02P
4J100AL03R
4J100AL05Q
4J100AL08Q
4J100AL08R
4J100BC08Q
4J100BC53R
4J100JA07
(57)【要約】
【課題】密着性、耐摩擦性、及び耐エタノール性に優れた乾燥皮膜である画像をポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリエチレンテレフタレート等の各種プラスチック製のフィルムに形成しうる、吐出安定性に優れた水性インク用のバインダー成分を調製することが可能な、環境に配慮されたウレタン樹脂を提供する。
【解決手段】フィルム印刷用の水性インクに配合されるバインダー樹脂の水分散体を調製するためのウレタン樹脂である。ポリマー型ジオール(a1)及びイソソルバイド(a2)を含むジオール成分に由来する構成単位と、カルボキシ基含有ジオール成分に由来する構成単位と、ジイソシアネート成分に由来する構成単位と、ジアミン成分に由来する構成単位と、を有し、ポリマー型ジオール(a1)とイソソルバイド(a2)の質量比が、(a1):(a2)=30:70~70:30であり、酸価が10~50mgKOH/gである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム印刷用の水性インクに配合されるバインダー樹脂の水分散体を調製するためのウレタン樹脂であって、
数平均分子量500~3,000のポリマー型ジオール(a1)及びイソソルバイド(a2)を含むジオール成分に由来する構成単位と、
ジメチロールプロパン酸及びジメチロールブタン酸からなる群より選択される少なくとも一種のカルボキシ基含有ジオール成分に由来する構成単位と、
ジイソシアネート成分に由来する構成単位と、
ジアミン成分に由来する構成単位と、を有し、
前記ポリマー型ジオール(a1)と前記イソソルバイド(a2)の質量比が、(a1):(a2)=30:70~70:30であり、
酸価が10~50mgKOH/gであるウレタン樹脂。
【請求項2】
前記ポリマー型ジオール(a1)が、ポリテトラメチレングリコール、ポリイソソルバイドカーボネートジオール、ポリイソソルバイドテトラメチレンカーボネートジオール、及びポリイソソルバイドヘキサメチレンカーボネートジオールからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記ジイソシアネート成分が、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソイアネート、及びイソホロンジイソシアネートからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記ジアミン成分が、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、及びイソホロンジアミンからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載のウレタン樹脂。
【請求項3】
フィルム印刷用の水性インクに配合されるバインダー樹脂の水分散体であって、
水性媒体と、
前記水性媒体中に分散した、請求項1又は2に記載のウレタン樹脂中のカルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されて形成された樹脂粒子と、を含有し、
前記樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径が、20~150nmであるバインダー樹脂の水分散体。
【請求項4】
請求項3に記載のバインダー樹脂の水分散体を含有するフィルム印刷用の水性インク。
【請求項5】
顔料、水性媒体、及び前記顔料を前記水性媒体中に分散させる高分子分散剤をさらに含有し、
前記高分子分散剤が、酸価が50~200mgKOH/gであり、数平均分子量が5,000~20,000であるアクリル系ポリマーのアルカリ中和物であり、
前記アクリル系ポリマーが、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、及びイタコン酸モノアルキルエステルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(i)と、
イソボルニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、及びオクタデシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(ii)と、
テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、及びイソブチル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(iii)と、を有し、
前記アクリル系ポリマーのすべての構成単位に占める、前記構成単位(i)~(iii)の合計割合が、80質量%以上である請求項4に記載の水性インク。
【請求項6】
インクジェット記録用である請求項5に記載の水性インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン樹脂、バインダー樹脂の水分散体、及び水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤を含有する印刷用の従来の油性インクは、有機溶剤が揮発性有機物質であることから、環境への影響が懸念されている。このため、有機溶剤に代えて、水又は水と水溶性有機溶剤の混合溶剤である水性媒体を用いた水性インクが製品化されている。そして、プラスチックフィルム等のラベルにグラビア印刷法やフレキソ印刷法等の印刷方法によって水性インクを付与し、各種の画像が印刷されている。また、近年のIT化に伴い、水性インクによるオンデマンド印刷が可能なインクジェット印刷が盛んに実施されている。そして、インクジェット印刷法の高機能化により、個人用、事務用、業務用、記録用、カラー表示用、及びカラー写真用と多岐にわたって水性インクが使用されている。
【0003】
また、水性インクは、近年、オフィス用のコンシューマ型のインクジェットプリンタや大判印刷用ワイドフォーマットインクジェットプリンタから、産業用機器であるインクジェット印刷機へと適用範囲が拡大している。インクジェット印刷法は、印刷用の版が不要な印刷方法であることから、少量多種の産業用印刷物をオンデマンドで得ることができる方法として有用である。また、環境への配慮といった観点から、水性インクを用いるインクジェット印刷法が盛んに提案されている。
【0004】
産業用途としては、例えば、サインディスプレイ、屋外広告、施設サイン、ディスプレイ、POP広告、交通広告、パッケージング、容器、及びラベル等の用途がある。これらの用途に適用される印刷基材(記録媒体)としては、紙、ボール紙、写真紙、及びインクジェット専用紙等の紙媒体;ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリエステル、及びナイロン等のプラスチック媒体;綿布、エステル布、ナイロン生地、及び不織布等の布地;等がある。さらに、産業用途の場合、版が不要なオンデマンド印刷が主流であるとともに、高速印刷適性が要求されている。そして、染料を色材として含有する水性インクで記録した画像は、耐水性や耐光性等の耐久性に乏しいことから、顔料を色材として含有する水性インクが用いられている。特に、顔料を色材として含有する水性インクを用いるプラスチックフィルム等のラベルへの印刷が産業用途として注目されており、オンデマンドで高速印刷可能なインクジェット記録用の水性顔料インクが盛んに開発されている。
【0005】
例えば、耐久性が向上した画像をプラスチックフィルム(以下、単に「フィルム」とも記す)に記録すべく、皮膜形成しうるアクリル系又はウレタン系のバインダー成分を添加したインクジェット用のインクが提案されている(特許文献1及び2)。なお、インクジェット記録用の水性顔料インクの場合、顔料を安定してインク中に微分散させる必要がある。このため、界面活性剤や高分子分散剤を用いて顔料を経時的に安定して微分散させた顔料分散液、及びこれを用いたインクジェット用のインクが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4157868号公報
【特許文献2】特表2009-515007号公報
【特許文献3】国際公開第2013/008691号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3で提案されたインクジェット用のインクには、記録する画像の耐久性を向上させるべく、バインダー樹脂が配合されている。しかし、これらのインクを用いた場合でも、フィルムへの密着性及び耐摩擦性等の耐久性に優れた画像を記録することは困難であった。
【0008】
ところで、昨今の地球温暖化傾向、二酸化炭素排出問題、資源問題、及び海洋プラスチック問題等に鑑み、環境配慮型の技術の重要性が増大している。従来の水性インクや水性顔料分散液に配合されるバインダー樹脂や顔料を分散させるための高分子分散剤としては、石油材料に由来するモノマー等の原材料を用いて合成された樹脂等が用いられている。すなわち、従来の水性インクで記録される画像は石油材料由来の材料で主に形成されており、必ずしも環境配慮型の技術が適用されているとはいえなかった。
【0009】
これまで、ポリ乳酸やポリヒドロキシアルカン酸等の生分解性プラスチックで形成された容器やラベル等の印刷基材がインクジェット印刷技術に適用されていた。その一方で、このような印刷基材に記録される画像に対しては、環境配慮型の技術が必ずしも十分に適用されていないといった課題があった。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、密着性、耐摩擦性、及び耐エタノール性に優れた乾燥皮膜である画像をポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリエチレンテレフタレート等の各種プラスチック製のフィルムに形成しうる、吐出安定性に優れた水性インク用のバインダー成分を調製することが可能な、環境に配慮されたウレタン樹脂を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、このウレタン樹脂を用いて得られるバインダー樹脂の水分散体、及び水性インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下に示すウレタン樹脂が提供される。
[1]フィルム印刷用の水性インクに配合されるバインダー樹脂の水分散体を調製するためのウレタン樹脂であって、数平均分子量500~3,000のポリマー型ジオール(a1)及びイソソルバイド(a2)を含むジオール成分に由来する構成単位と、ジメチロールプロパン酸及びジメチロールブタン酸からなる群より選択される少なくとも一種のカルボキシ基含有ジオール成分に由来する構成単位と、ジイソシアネート成分に由来する構成単位と、ジアミン成分に由来する構成単位と、を有し、前記ポリマー型ジオール(a1)と前記イソソルバイド(a2)の質量比が、(a1):(a2)=30:70~70:30であり、酸価が10~50mgKOH/gであるウレタン樹脂。
[2]前記ポリマー型ジオール(a1)が、ポリテトラメチレングリコール、ポリイソソルバイドカーボネートジオール、ポリイソソルバイドテトラメチレンカーボネートジオール、及びポリイソソルバイドヘキサメチレンカーボネートジオールからなる群より選択される少なくとも一種であり、前記ジイソシアネート成分が、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソイアネート、及びイソホロンジイソシアネートからなる群より選択される少なくとも一種であり、前記ジアミン成分が、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、及びイソホロンジアミンからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]に記載のウレタン樹脂。
【0012】
また、本発明によれば、以下に示すバインダー樹脂の水分散体が提供される。
[3]フィルム印刷用の水性インクに配合されるバインダー樹脂の水分散体であって、水性媒体と、前記水性媒体中に分散した、前記[1]又は[2]に記載のウレタン樹脂中のカルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されて形成された樹脂粒子と、を含有し、前記樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径が、20~150nmであるバインダー樹脂の水分散体。
【0013】
さらに、本発明によれば、以下に示す水性インクが提供される。
[4]前記[3]に記載のバインダー樹脂の水分散体を含有するフィルム印刷用の水性インク。
[5]顔料、水性媒体、及び前記顔料を前記水性媒体中に分散させる高分子分散剤をさらに含有し、前記高分子分散剤が、酸価が50~200mgKOH/gであり、数平均分子量が5,000~20,000であるアクリル系ポリマーのアルカリ中和物であり、前記アクリル系ポリマーが、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、及びイタコン酸モノアルキルエステルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(i)と、イソボルニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、及びオクタデシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(ii)と、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、及びイソブチル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(iii)と、を有し、前記アクリル系ポリマーのすべての構成単位に占める、前記構成単位(i)~(iii)の合計割合が、80質量%以上である前記[4]に記載の水性インク。
[6]インクジェット記録用である前記[4]又は[5]に記載の水性インク。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、密着性、耐摩擦性、及び耐エタノール性に優れた乾燥皮膜である画像をポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリエチレンテレフタレート等の各種プラスチック製のフィルムに形成しうる、吐出安定性に優れた水性インク用のバインダー成分を調製することが可能な、環境に配慮されたウレタン樹脂を提供することができる。また、本発明によれば、このウレタン樹脂を用いて得られるバインダー樹脂の水分散体、及び水性インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ウレタン樹脂>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本明細書中の各種物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。本発明のウレタン樹脂の一実施形態は、フィルム印刷用の水性インクに配合されるバインダー樹脂の水分散体を調製するためのウレタン樹脂である。本実施形態のウレタン樹脂は、数平均分子量500~3,000のポリマー型ジオール(a1)及びイソソルバイド(a2)を含むジオール成分に由来する構成単位と、ジメチロールプロパン酸及びジメチロールブタン酸からなる群より選択される少なくとも一種のカルボキシ基含有ジオール成分に由来する構成単位と、ジイソシアネート成分に由来する構成単位と、ジアミン成分に由来する構成単位と、を有する。また、ポリマー型ジオール(a1)とイソソルバイド(a2)の質量比が、(a1):(a2)=30:70~70:30である。そして、本実施形態のウレタン樹脂の酸価は、10~50mgKOH/gである。以下、本実施形態のウレタン樹脂の詳細について説明する。
【0016】
(ジオール成分)
ウレタン樹脂は、数平均分子量500~3,000のポリマー型ジオール(a1)及びイソソルバイド(a2)を含むジオール成分に由来する構成単位を有する。ジオール成分は、ポリマー型ジオール(a1)及びイソソルバイド(a2)のみで実質的に構成されることが好ましい。ポリマー型ジオール(a1)としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、これらのランダム構造体やブロック構造体、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、及びビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物等のポリエーテルジオール;ポリネオペンチルアジペート、両末端水酸基ポリカプロラクトン等のポリエステルポリオール;ポリブタジエンポリオール、及びポリイソプレンポリオール等のポリオレフィンポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネート、イソソルバイドカーボネートジオール、イソソルバイドテトラメチレンカーボネートジオール、及びイソソルバイドヘキサメチレンカーボネートジオール等のポリカーボネートジオール;ポリジメチルシロキサンポリオール等のポリシリコーンポリオール;を挙げることができる。
【0017】
但し、ポリエステルポリオールを用いると、エステル基が加水分解しやすくなることがある。また、ポリオレフィンポリオールを用いると、粘着性が高まりやすくなることがある。さらに、ポリシリコーンポリオールを用いると、フィルムへの密着性がやや低下することがある。このため、耐加水分解性、柔軟性、及び密着性により優れた画像を形成する観点から、ポリマー型ジオール(a1)は、ポリエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールであることが好ましい。
【0018】
また、ポリマー型ジオール(a1)は、ポリテトラメチレングリコール、ポリイソソルバイドカーボネートジオール、ポリイソソルバイドテトラメチレンカーボネートジオール、及びポリイソソルバイドヘキサメチレンカーボネートジオールからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。ポリテトラメチレングリコールは、反発弾性、耐摩耗性、耐加水分解性、及び低温での柔軟性の観点で好ましいとともに、環境に配慮されたバイオマスポリオールの一種である。ポリイソソルバイドカーボネートジオール、ポリイソソルバイドテトラメチレンカーボネートジオール、及びポリイソソルバイドヘキサメチレンカーボネートジオールは、複素環式構造を有するイソソルバイドに由来する化合物であることから、高硬質性及び耐擦過性等の観点で好ましい。イソソルバイドは、でんぷんや糖等の植物原料由来のジオールであるとともに、ブタンジオールやヘキサメチレングリコールについても植物原料由来のものが開発されている。なお、ポリマー型ジオール(a1)は、比較的安価で入手しやすいことから、ポリテトラメチレングリコールであることが好ましく、植物原料由来のポリテトラメチレングリコールであることがさらに好ましい。
【0019】
ポリマー型ジオール(a1)の数平均分子量(Mn)は500~3,000であり、好ましくは1,000~2,000である。ポリマー型ジオール(a1)の数平均分子量が500未満であると、ウレタン樹脂中のウレタン結合が密になりすぎてしまい、画像の柔軟性が低下する。一方、ポリマー型ジオール(a1)の数平均分子量が3,000超であると、画像が柔らかくなりすぎてしまい、フィルムとの密着性が低下する。
【0020】
本明細書における「数平均分子量(Mn)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値である。数平均分子量が異なる複数のポリマー型ジオール(a1)を組み合わせて用いてもよい。但し、複数のポリマー型ジオール(a1)は、いずれも、数平均分子量(Mn)が500~3,000の範囲内であることが好ましい。
【0021】
イソソルバイド(a2)は、分子中に2つの二級水酸基を有する複素環式ジオールである。イソソルバイド(a2)は剛直性の高い分子構造を有することから、イソソルバイド(a2)に由来する構成単位をウレタン樹脂に導入することで、画像の耐擦過性を向上させることができる。また、イソソルバイド(a2)は縮合環構造を有するとともに、エーテル結合を含むことから、イソソルバイド(a2)に由来する構成単位をウレタン樹脂に導入することで、フィルムへの画像の密着性を向上させることができる。さらに、イソソルバイド(a2)は植物原料由来のジオールであることから、環境に配慮したウレタン樹脂とすることができる。
【0022】
ポリマー型ジオール(a1)とイソソルバイド(a2)の質量比は、(a1):(a2)=30:70~70:30であり、好ましくは(a1):(a2)=40:60~60:40である。ポリマー型ジオール(a1)とイソソルバイド(a2)の質量比を上記の範囲内とすることで、イソソルバイド(a2)とジイソシアネート成分の反応によって形成されるウレタン結合をウレタン樹脂中に密にかつ多く導入することができる。そして、このようなウレタン樹脂を用いることで、耐擦過性及びフィルムへの密着性が向上した画像を形成することができる。イソソルバイド(a2)の比率が少なすぎると、ウレタン樹脂が軟質になり、フィルムへの画像の密着性が低下する。一方、イソソルバイド(a2)の比率が多すぎると、ウレタン樹脂の合成時に粘度が高くなりすぎてしまうとともに、水分散体とすることが困難になる。さらに、ウレタン樹脂が硬質になり、画像の柔軟性が低下してフィルムから脱離ししやすくなることがある。
【0023】
ジオール成分は、ポリマー型ジオール(a1)及びイソソルバイド(a2)以外の低分子量のジオールを含んでいてもよい。低分子量のジオールとしては、エチレングリコール、2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、及び1,4-ビス(ヒドロキシメチルシクロヘキサン)等の炭素数2~20の多価アルコールを挙げることができる。また、グリセリン及びトリメチロールプロパン等の多官能アルコールを用いることもできる。
【0024】
(カルボキシ基含有ジオール成分)
ウレタン樹脂は、ジメチロールプロパン酸及びジメチロールブタン酸からなる群より選択される少なくとも一種のカルボキシ基含有ジオール成分に由来する構成単位を有する。この構成単位中のカルボキシ基をアルカリで中和することで、ウレタン樹脂を水に分散させた水分散体(ディスパージョン)とすることができる。なお、リン酸基やスルホン酸基といったカルボキシ基以外の酸性基を含有するジオール成分を用いると、これらの酸性基をアミン化合物で中和した場合、アミン化合物が揮発しにくいため、形成される画像の耐水性が低下する。これに対して、カルボキシ基含有ジオール成分を用いることで、カルボキシ基を中和したアミン化合物が揮発しやすく、画像の親水性を低下させて耐水性を高めることができる。
【0025】
(ジイソシアネート成分)
ウレタン樹脂は、ジイソシアネート成分に由来する構成単位を有する。ジイソシアネート成分としては、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフチルジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや芳香族アルキルジイソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジシクロヘキシレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;等を挙げることができる。また、必要に応じて、ビュレット体や、イソシアヌレート構造を有する多官能イソシアネートを用いることもできる。
【0026】
ジイソシアネート成分は、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソイアネート、及びイソホロンジイソシアネートからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらのジイソシアネート成分は脂肪族ジイソシアネートであり、これらのジイソシアネート成分を用いることで、画像の耐光性及び耐黄変性を向上させることができる。なかでも、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネートは、いずれも分子量が小さいため、イソソルバイド(a2)との反応によるウレタン結合を密に形成して、画像の耐擦過性及びフィルムへの密着性をより高めることができる。さらに、植物原料由来のペンタメチレンジイソシアネート及びリジンジイソシアネートを用いることで、環境に配慮したウレタン樹脂とすることができる。
【0027】
また、イソホロンジイソシアネートの分子中には、1級のイソシアネート基及び2級のイソシアネート基がある。2級のイソシアネート基は1級のイソシアネート基よりも反応性が低いため、重合時の急激な反応を抑制する。また、反応性の異なる2つのイソシアネート基を有するイソホロンジイソシアネートを用いると、得られるウレタン樹脂の分子量を調整しやすい。さらに、カルボキシ基含有ジオール中のカルボキシ基よりも、ジオール成分中の水酸基と優先的に反応するので、重合によるゲル化を抑制することができる。また、イソホロンジイソシアネートを用いると、ウレタン樹脂中にシクロアルキル基を導入することができるので、ウレタン樹脂の物性の向上に寄与することができる。なかでも、植物原料由来のペンタメチレンジイソシアネートと、反応を制御しうるイソホロンジイソシアネートを併用することで、目的とするウレタン樹脂を容易に合成することができるために好ましい。
【0028】
(ジアミン成分)
ウレタン樹脂は、ジアミン成分に由来する構成単位を有する。ジアミン成分は、ウレタン樹脂の分子量の制御や重合反応の停止のために用いられる成分であり、ジイソシアネート成分と反応して尿素結合を形成し、ウレタン樹脂を鎖延長させることができる。ジアミン成分としては、エチレンジアミン、トリメチルジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキシメチレンジアミン、デカンジアミン、ドデカンジアミン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、及びイソホロンジアミン等を挙げることができる。また、ヒドラジン及びアジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジン化合物をジアミン成分として用いることができる。
【0029】
ジアミン成分は、ペンタメチレンジアミン、ヘキシメチレンジアミン、及びイソホロンジアミンからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。ペンタメチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミンを用いると、イソソルバイド(a2)との反応による尿素結合を密に形成して、画像の耐擦過性及びフィルムへの密着性をより高めることができる。また、イソホロンジアミンを用いると、ウレタン樹脂中にシクロアルキル基を導入することができるので、ウレタン樹脂の物性の向上に寄与することができる。さらに、植物原料由来のペンタメチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミンを用いることで、環境に配慮したウレタン樹脂とすることができる。なお、ウレタン樹脂を重合する際には、ブチルアミン及びモノエタノールアミン等のジアミン成分以外のモノアミン成分を反応停止剤として用いることができる。
【0030】
(ウレタン樹脂)
ウレタン樹脂の酸価は10~50mgKOH/gであり、好ましくは15~40mgKOH/gである。酸価が10mgKOH/g未満であると、アルカリで中和しても水分散体を調製することが困難であり、分散させたとしても粒子径が大きくなりすぎてしまう。一方、酸価が50mgKOH/g超であると、水可溶性になりやすい、又は粒子径が小さくなりすぎてしまい、水分散体の粘度が過度に上昇することがある。ウレタン樹脂の酸価は、フェノールフタレインを用いる滴定法によって測定することができる。
【0031】
ウレタン樹脂の数平均分子量(Mn)は、10,000~1,000,000であることが好ましく、合成時の粘度及び印画物の物性等の観点から、10,000~50,000であることがさらに好ましい。ウレタン樹脂の分子量は、適量の臭化リチウムを溶解させたジメチルホルムアミド(DMF)を展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の値である。また、ウレタン樹脂の分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、1.5~3であることが好ましい。
【0032】
ウレタン樹脂中のウレタン結合の含有量は、1~10mol/kgであることが好ましく、1.5~6mol/kgであることがさらに好ましい。ウレタン樹脂中の尿素結合の含有量は、0.5mol/kg以下であることが好ましく、0.1~0.3mol/gであることがさらに好ましい。ウレタン結合及び尿素結合の含有量をそれぞれ上記の範囲内とすることで、粗大粒子の生成を抑制することができるとともに、フィルムに対する画像の密着性をさらに向上させることができる。ウレタン樹脂の分子量、ウレタン結合の含有量、及び尿素結合の含有量は、いずれも、各成分の配合比を設定することで調整することができる。
【0033】
<バインダー樹脂の水分散体>
本発明の水分散体の一実施形態は、フィルム印刷用の水性インクに配合されるバインダー樹脂の水分散体であり、水性媒体と、この水性媒体中に分散した、前述のウレタン樹脂中のカルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されて形成された樹脂粒子と、を含有する。そして、樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径(メジアン径(D50))が、20~150nmである。
【0034】
本実施形態の水分散体は、従来公知の方法にしたがって前述のウレタン樹脂を合成した後、カルボキシ基の少なくとも一部を中和してウレタン樹脂を自己乳化させ、樹脂粒子を形成することによって製造することができる。より具体的には、まず、ジオール成分、ジイソシアネート成分、カルボキシ基含有ジオール成分、及び有機溶剤を混合して加熱する。これにより、末端イソシアネートのウレタンプレポリマーを得ることができる。必要に応じて、オクタン酸錫、2-エチルヘキサン酸ビスマス、ジルコニウム塩、及び三級有機アミン等の触媒を用いてもよい。有機溶剤としては、水性インクに含有させることが可能な後述の水溶性有機溶剤を用いることができる。なかでも、アセトン、テトラヒドロフラン、及びメチルエチルケトン等の低沸点溶剤;ジメチルホルムアミド、及び3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等のアミド系溶剤等の高沸点溶剤;を用いることが好ましい。なお、ペンタメチレンジイソシアネートを用いる場合、反応性が高いため、カルボキシ基含有ジオール成分のカルボキシ基と反応してゲル化する場合がある。このため、ジオール成分とペンタメチレンジイソシアネートを反応させた後にカルボキシ基含有ジオール成分を添加して反応させ、ペンタメチレンジイソシアネートとカルボキシ基の反応を制御することが好ましい。
【0035】
ウレタンプレポリマーが所定のイソシアネート当量になった後、アルカリと水の混合物を添加する。同時にジアミン成分を添加するか、アルカリと水の混合物の添加後にジアミン成分を添加する。次いで、激しく撹拌しながら鎖延長反応させるとともに、カルボキシ基の少なくとも一部を中和して樹脂粒子を形成させる。低沸点溶剤を用いた場合には、必要に応じて減圧しながら加熱して低沸点溶剤を留去することで、目的とするウレタン樹脂(バインダー樹脂)の水分散体を得ることができる。高沸点溶剤を用いた場合には、高沸点溶剤を留去させずに、そのままウレタン樹脂(バインダー樹脂)の水分散体とすることができる。得られる水分散体中の樹脂粒子(ウレタン樹脂)の含有量は、10~50質量%とすることが好ましく、20~30質量%とすることがさらに好ましい。
【0036】
ウレタン樹脂中のカルボキシ基を中和するアルカリとしては、アンモニア、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、及びジメチルアミノエタノール等の有機アミン;水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;等を挙げることができる。なかでも、脱溶剤工程で揮発しにくい、トリエチルアミン及びジエタノールアミン等の高沸点の有機アミンを用いることが好ましい。アルカリの量は、カルボキシ基の一部又は全部を中和しうる量であればよい。具体的には、目的とする粒子径の樹脂粒子が形成される量とすればよい。
【0037】
水分散体中の樹脂粒子の平均粒子径(体積基準の累積50%粒子径(D50))は20~150nmであり、好ましくは25~100nm、さらに好ましくは30~80nmである。樹脂粒子の平均粒子径が20nm未満であると、粒子径が小さすぎてしまい、インクの粘度が増大してしまう。一方、樹脂粒子の平均粒子径が150nm超であると、インクジェット記録に適用した場合に、ヘッドに詰まりが生じやすくなる場合がある。樹脂粒子の平均粒子径(体積基準の累積50%粒子径(D50))は、動的光散乱式の測定装置を使用して測定することができる。
【0038】
<水性インク>
本発明の水性インクの一実施形態は、フィルム印刷用の水性インクであり、前述のウレタン樹脂を用いて調製されるバインダー樹脂の水分散体を含有する。前述のバインダー樹脂を皮膜形成用の成分として配合することで、密着性、耐摩擦性、及び耐エタノール性に優れた乾燥皮膜である画像を各種プラスチック製のフィルムに形成しうる、吐出安定性に優れた水性インクとすることができる。
【0039】
本実施形態の水性インクは、水性グラビアインク、水性フレキソインク、水性文具用インク、水性シルクスクリーンインク、水性インクジェットインク、及び紫外線硬化型水性インク等として有用である。なかでも、カルボキシ基を多く含有するバインダー樹脂を含有するため、ある程度乾燥しても洗浄が容易で再溶解可能であるとともに、吐出安定性が良好であることから、インクジェット記録用のインクとして好適である。
【0040】
(水性インク)
本実施形態の水性インクは、クリアインクであってもよいし、着色剤を含有するカラーインクであってもよい。着色剤としては、染料、顔料、着色ビーズ、及び金属粉等を挙げることができる。着色剤は、印刷物の用途や印刷濃度等に応じて適宜選択して配合される。また、水性インクには、各種の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、界面活性剤、防腐剤、有機溶剤、レベリング剤、表面張力調整剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、フィラー、ワックス、増粘剤、消泡剤、防カビ剤、及び帯電防止剤等を挙げることができる。
【0041】
クリアインクは、例えば、水、水溶性有機溶剤、バインダー樹脂の水分散体、及び各種の添加剤等を混合及び撹拌して均一化した後、フィルターでろ過して異物やごみ等を除去して調製することができる。また、着色剤として染料を含有するカラーインクについても、クリアインクと同様にして調製することができる。
【0042】
顔料や着色ビーズ等の水不溶性の着色剤を含有するカラーインクは、これらの着色剤を高分子分散剤で分散させて得た分散液を用いて調製することができる。また、自己分散性顔料を用いてカラーインクを調製することもできる。自己分散性顔料は、酸性基や塩基性基が顔料の表面に結合した自己分散性の顔料である。
【0043】
高分子分散剤(「顔料分散剤」とも記す)は、顔料を水性媒体中に分散させるための成分である。高分子分散剤としては、ビニル系ポリマーを用いることができる。高分子分散剤を構成するモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、及びビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー;ブチルアクリレート及び2-エチルヘキシルアクリレート等のアクリレート系モノマー;メチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、エトキシエトキシエチルメタクリレート、ブトキシエトキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、及びジエチルアミノエチルメタクリレート等のメタクリレート系モノマー;酢酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;ビニルピリジン及びビニルイミダゾール等の複素環ビニルモノマー;等を挙げることができる。
【0044】
高分子分散剤の具体例としては、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-アクリル酸エチル-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸エトキシエチル共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸2-ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸ベンジル-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸ジメチルアミノエチル-アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-マレイン酸-マレイン酸のポリエチレングリコールプロピレングリコールモノブチルエーテルモノアミンのアミド化物共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル-メタクリル酸-2-エチルヘキシルメタクリル酸共重合体等を挙げることができる。
【0045】
フィルム印刷用の水性インクのさらに好ましい実施態様としては、顔料、水性媒体、及び顔料を水性媒体中に分散させる高分子分散剤をさらに含有するものを挙げることができる。
【0046】
(顔料)
顔料としては、有機顔料及び無機顔料を用いることができる。有機顔料としては、フタロシアニン系、アゾ系、アゾメチンアゾ系、アゾメチン系、アンスラキノン系、ぺリノン・ペリレン系、インジゴ・チオインジゴ系、ジオキサジン系、キナクリドン系、イソインドリン系、イソインドリノン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、及びインダスレン系等の有彩色顔料;ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、及びチャンネルブラック等のカーボンブラック顔料;竹炭及び備長炭等の植物由来のブラック顔料;植物油等から得られるバイオマスカーボンブラック顔料;を挙げることができる。無機顔料としては、体質顔料、酸化チタン系顔料、酸化鉄系顔料、及びスピンネル顔料等を挙げることができる。
【0047】
印刷物(画像)に隠蔽力が必要とされる場合以外は、有機系の微粒子顔料を用いることが好ましい。高精彩で透明性を示す印刷物が必要とされる場合には、ソルトミリング等の湿式粉砕又は乾式粉砕で微細化した顔料を用いることが好ましい。ノズル詰まりの回避等を考慮すると、1.0μm超の粒子を除去した、平均粒子径0.2μm以下の有機顔料や、平均粒子径0.4μm以下の無機顔料を用いることが好ましい。
【0048】
顔料の具体例をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで示すと、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、97、109、110、117、120、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、175、180、181、185、191;C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、64、71、73;C.I.ピグメントレッド4、5、9、23、48、49、52、53、57、97、112、122、123、144、146、147、149、150、166、168、170、176、177、180、184、185、192、202、207、214、215、216、217、220、221、223、224、226、227、228、238、240、242、254、255、264、269、272;C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50;C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64;C.I.ピグメントグリーン7、36;C.I.ピグメントブラック7;C.I.ピグメントホワイト6;等を挙げることができる。
【0049】
なかでも、インクジェット記録に好適であるとともに、発色性、分散性、及び耐候性等の観点から、C.I.ピグメントイエロー74、83、109、128、139、150、151、154、155、180、181、185等の黄色顔料;C.I.ピグメントレッド122、170、176、177、185、269、C.I.ピグメントバイオレット19、23等の赤色顔料;C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、15:6等の青色顔料;C.I.ピグメントブラック7等の黒色顔料;C.I.ピグメントホワイト6等の白色顔料;が好ましい。
【0050】
(水性媒体)
水性インクは、水と水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有する。水溶性有機溶剤としては、エタノール及びイソプロパノール等のアルコール系溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、及びジエチレングリコール等の多価グリコール系溶剤;プロピルグリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルt-ブチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤;ピロリドン、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、及び3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等のアミド系溶剤;エチレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;ジメチルスルホキシド及びスルホラン等の硫黄系溶剤;ジメチルイミダゾリジノン及びテトラメチル尿素等の尿素系溶剤;等を挙げることができる。
【0051】
安全性、湿潤性、保湿性、及び揮発性等の観点から、多価アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、及びアミド系溶剤が好ましい。これらの水溶性有機溶剤を、高分子分散剤を製造する際の溶剤として用いてもよい。
【0052】
(高分子分散剤)
高分子分散剤は、アクリル系ポリマーのアルカリ中和物であることが好ましい。そして、このアクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、及びイタコン酸モノアルキルエステルからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(i)と、イソボルニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、及びオクタデシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(ii)と、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、及びイソブチル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(iii)と、を有することが好ましい。
【0053】
構成単位(i)は、カルボキシ基を有する構成単位である。構成単位(i)中のカルボキシ基をアルカリで中和することで、高分子分散剤を水性媒体中に溶解させることができる。
【0054】
構成単位(ii)を構成するモノマーは、炭素数10以上のアルキル基を有する疎水性モノマーである。構成単位(ii)は、疎水性相互作用によって顔料に吸着する。アクリル系ポリマーのすべての構成単位に占める、構成単位(ii)の割合は、5~80質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがさらに好ましい。構成単位(ii)は、炭素数の多いアルキル基を持ったモノマーで構成されていることから、バインダー樹脂として用いる、イソソルバイド(a2)を含むジオール成分に由来する構成単位を有する前述のウレタン樹脂との相溶性が高い。このため、このアクリル系ポリマーとウレタン樹脂を併用した水性インクは、成分が分離等しにくく、鮮明で光沢性の高い画像を記録することができる。
【0055】
構成単位(iii)は、アクリル系ポリマーの主骨格を形成する構成単位である。なかでも、環状エーテル基を有するテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートを用いると、フィルムとの密着性が向上するとともに、イソソルバイド(a2)を含むジオール成分に由来する構成単位を有する前述のウレタン樹脂との相溶性が高いために好ましい。
【0056】
アクリル系ポリマーを構成するモノマーは、植物原料由来の材料であることが好ましい。イタコン酸類は、発酵法で得られる、バイオマス由来のモノマーであることが好ましい。また、イタコン酸モノアルキルエステルのエステル基を形成するアルコールは、発酵法で得られるバイオマスエタノールであることが好ましい。イソボルニル(メタ)アクリレートは、松脂等から得られるカンフェンと、(メタ)アクリル酸との転化反応によって調製されるモノマーであることが好ましい。ドデシル(メタ)アクリレート及びオクタデシル(メタ)アクリレートは、ヤシ油等の長鎖カルボン酸を還元して得られる長鎖アルコールのエステル化物であることが好ましい。テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートは、トウモロコシから得られるフラールを水素化したテトラヒドロフルフリルアルコールのエステル化物であることが好ましい。エチル(メタ)アクリレートは、デンプン等を発酵して得られるエタノールのエステル化物であることが好ましい。ブチル(メタ)アクリレート及びイソブチル(メタ)アクリレートは、ひまし油のクラッキングで得られる炭素数4のアルコールのエステル化物であることが好ましい。
【0057】
アクリル系ポリマーのすべての構成単位に占める、構成単位(i)~(iii)の合計割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが好ましい。なお、アクリル系ポリマーは、構成単位(i)~(iii)のみで実質的に構成されていることが好ましい。構成単位(i)~(iii)の合計割合を80質量%以上とすることで、環境により配慮された高分子分散剤とすることができる。
【0058】
アクリル系ポリマーの酸価は、50~200mgKOH/gであることが好ましく、60~150mgKOH/gであることがさらに好ましい。アクリル系ポリマーの酸価が50mgKOH/g未満であると、アルカリで中和しても水に溶解しにくく、高分子分散剤としての機能が十分に発揮されない場合がある。一方、アクリル系ポリマーの酸価が200mgKOH/g超であると、カルボキシ基が多すぎるために耐水性及び耐エタノール性が低下する場合がある。アクリル系ポリマーの酸価は、構成単位(i)の比率を調整することで制御することができる。
【0059】
アクリル系ポリマーの数平均分子量は、5,000~20,000であることが好ましく、6,000~15,000であることがさらに好ましい。アクリル系ポリマーの数平均分子量が5,000未満であると、顔料に吸着したとしても、水溶解性が高いために脱離しやすく、分散安定性を高めることが困難になることがある。一方、アクリル系ポリマーの数平均分子量が20,000超であると、インクの粘度が過度に上昇しやすくなり、チクソトロピックになる場合がある。
【0060】
アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤や過酸化ベンゾイル等の過酸化物系開始剤の存在下、モノマー単独の塊状重合、乳化重合、又はインクに配合される水溶性有機溶剤を用いた溶液重合によって、アクリル系ポリマーを得ることができる。そして、得られたアクリル系ポリマーをアルカリで中和することで、アクリル系ポリマーの中和物である高分子分散剤を得ることができる。なお、高分子分散剤の溶液を顔料と混合した後、貧溶剤に添加する又は酸で処理して高分子分散剤を析出させ、顔料を処理又はカプセル化してポリマー処理顔料を調製してもよい。
【0061】
重合法としては、分子量を揃えて分散性能を均一化することができるため、リビングラジカル重合法が好ましい。具体的には、ニトロキサイド媒介重合(NMP法)、原子移動ラジカル重合(ATRP法)、可逆的付加開裂型連鎖移動重合(RAFT法)、有機テルルリビングラジカル重合(TERP法)、可逆的移動触媒重合(RTCP法)、及び可逆的触媒媒介重合(RCMP法)等がある。
【0062】
アクリル系ポリマーは、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、グラジエントコポリマー、星形ポリマー、及びデンドリマー等の高次構造を有するポリマーのいずれであってもよい。なかでも、アクリル系ポリマーは、水不溶性のポリマーブロックであるA鎖と、水溶解性のポリマーブロックであるB鎖とを有するA-Bブロックコポリマーであることが好ましい。水不溶性のA鎖が顔料に吸着することで、高分子分散剤が顔料から脱離しにくくなる。そして、B鎖が水に溶解し、立体障害及び電気的反発によって顔料の分散安定性を長期にわたって維持することができる。また、記録ヘッドでインクが乾燥した場合であっても、水溶解性のB鎖が存在するために速やかに再溶解し、顔料の分散状態を元に戻すことができる。A-Bブロックコポリマーは、リビングラジカル重合法で合成することができる。なかでも、構造制御が容易なRTCP法やRCMP法で合成することが好ましい。
【0063】
(バインダー樹脂)
水性インクは、前述のバインダー樹脂の水分散体を含有する。水性インクは、前述のバインダー樹脂以外のバインダー樹脂(その他のバインダー樹脂)をさらに含有してもよい。その他のバインダー樹脂としては、スチレン-アクリル樹脂、アクリル樹脂、他のモノマーで構成されたウレタン樹脂、及びポリエステル樹脂等を用いることができる。これらの樹脂をエマルジョンや水分散体等の状態として水性インクに添加することができる。なかでも、前述の高分子分散剤を構成するモノマーと同様のモノマーで構成されたアクリル樹脂をその他のバインダー樹脂として用いることが、高分子分散剤やバインダー樹脂(ウレタン樹脂)との相溶性が良好であるために好ましい。
【0064】
(インクジェット記録用の水性インク)
顔料を高分子分散剤で水性媒体中にあらかじめ分散させた顔料分散液を用いて、インクジェット記録用の水性インクを調製することが好ましい。顔料分散液中の有機顔料の含有量は、1~30質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがさらに好ましい。また、顔料分散液中の無機顔料の含有量は、5~70質量%であることが好ましく、30~50質量%であることがさらに好ましい。顔料分散液中の高分子分散剤の量は、顔料100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、5~50質量部であることがさらに好ましい。
【0065】
この顔料分散液を用いて調製されるインクジェット記録用の水性インク中の顔料の含有量は、1~20質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがさらに好ましい。インクジェット記録用の水性インク中のバインダー樹脂の含有量は、顔料100質量部に対して、10~300質量部であることが好ましく、50~200質量部であることがさらに好ましい。水性インク中の水溶性有機溶剤の含有量は、使用する記録装置の吐出方法等に適合するように適宜設定すればよい。インクジェット記録用の水性インクに含有させる添加剤としては、前述の添加剤を挙げることができる。なかでも、pH調整のためのアルカリ;シリコーン系、アセチレングリコール系、フッ素系、アルキレンオキサイド系、及び炭化水素系の界面活性剤;防腐剤;ワックス成分;レベリング剤;等を用いることが好ましい。
【0066】
インクジェット記録用の水性インクの粘度は、顔料の種類等に応じて、記録ヘッドのノズルから吐出しうる適度な粘度に調整される。なかでも、水性インクの25℃における粘度は、2.9~3.3mPa・sであることが好ましく、3.0~3.2mPa・sであることがさらに好ましい。このような低粘度とすることで、既存のインクジェット方式の記録装置をもしいて画像を記録することができる。本実施形態の水性インクに用いるバインダー成分は、水に溶解した成分の量が少ないエマルジョンであるため、水性インクの粘度を低くすることができる。
【0067】
インクジェット記録用の水性インクのpHは、7.0~10.0であることが好ましく、7.5~9.5であることがさらに好ましい。pHが7.0未満であると、バインダー樹脂が析出しやすくなるとともに、顔料が凝集しやすくなることがある。一方、pHが10.0超であると、アルカリ性が強いために取り扱いにくくなる場合がある。
【0068】
インクジェット記録用の水性インクの表面張力は、インクジェット方式の記録装置の性能等に応じて適宜設定される。インクジェット記録用の水性インクの表面張力は、例えば、15~45mN/mであることが好ましく、20~40mN/mであることがさらに好ましい。
【0069】
(フィルム)
本実施形態の水性インクは、フィルム印刷用の水性インクである。印刷基材となるフィルムとしては、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリハロゲン化ビニル系、セルロース系、ポリスチレン系、ポリメタクリレート系、ポリアクリロニトリル系、ポリカーボネート系、ポリイミド系、ポリビニルアセタール系、及びポリビニルアルコール系の各種樹脂によって形成されたプラスチックフィルムを用いることができる。
【0070】
ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリα-オレフィン、ポリエチレン酢酸ビニル、ポリエチレンビニルアルコール、及びポリシクロオレフィン等を挙げることができる。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレチンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びポリ乳酸等を挙げることができる。ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、及びナイロン610等を挙げることができる。ポリハロゲン化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、及びポリフロロエチレン等を挙げることができる。なかでも、安価で入手が容易であるとともに、汎用性が高く、市場で頻繁に用いられている、ポリエチレンテレフタレート等で形成されたポリエステル系樹脂製フィルム;密着性及び耐摩擦性に優れた印刷皮膜(画像)が一般的に形成されにくい、ポリオレフィン系樹脂製フィルムを用いることが好ましく、ポリエチレン系樹脂フィルムやポリプロピレン系樹脂製フィルムを用いることがさらに好ましい。
【0071】
プラスチックフィルムは無延伸であってもよいし、一軸延伸や二軸延伸等の延伸されたものであってもよい。プラスチックフィルムの表面(印刷面)は、無処理であってもよいし、プラズマ処理、コロナ処理、放射線処理、及びシランカップリング処理等の表面処理がなされていてもよい。プラスチックフィルムは、単層構造であっても多層構造であってもよいし、アルミ蒸着や透明蒸着がなされていてもよい。プラスチックフィルムの厚さは、1~500μmであることが好ましく、5~200μmであることがさらに好ましい。プラスチックフィルムは、顔料や染料で着色されていてもよいし、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維、セルロースナノフィバー等の補強用フィラーが添加されたものであってもよい。
【実施例0072】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0073】
<ウレタン樹脂及び水分散体の製造>
(実施例1)
その内部を窒素ガスで置換した反応容器に、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(商品名「BiоPTMG1000」、三菱ケミカル社製、数平均分子量1,000)250部、イソソルバイド250部、ジメチロールプロピオン酸117部、及びテトラヒドロフラン(THF)436部を入れた。50℃に加熱して撹拌し、系内が均一となった後、イソホロンジイソシアネート(IPDI)692部を添加した。80℃に昇温して反応させ、所定のNCO%になったところでTHF436部を添加した。
【0074】
内温が50℃となるまで冷却した後、トリエチルアミン88部を添加して均一に撹拌した。系内が均一であることを確認した後、強撹拌しながらイオン交換水3,891部とエチレンジアミン17部の混合物を添加し、乳化しながら鎖伸長させたその後、65℃に加熱しながら減圧してTHFを留去し、ウレタン樹脂で形成された樹脂粒子を含有する水分散体U-1(固形分25%)を得た。ウレタン樹脂の酸価は37mgKOH/gであった。レーザー回折散乱式の粒度分布測定装置を使用して測定した樹脂粒子の平均粒子径(メジアン径(D50))は75nmであった。
【0075】
(実施例2~10、比較例1~4)
表1及び2の上段に示す配合(単位:部)としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、ウレタン樹脂で形成された樹脂粒子を含有する水分散体(固形分25%)U-2~10、HU-1~4を得た。得られた水分散体の物性等を表1及び2の下段に示す。
【0076】
表1及び2中の略号の意味を以下に示す。
・A1:ポリテトラメチレンエーテルグリコール、商品名「BioPTMG1000」(三菱ケミカル社製)、Mn1,000、バイオ化度95%
・A2:ポリテトラメチレンエーテルグリコール、商品名「BioPTMG2000」(三菱ケミカル社製)、Mn2,000、バイオ化度95%
・A3:ポリカーボネートポリオール、商品名「ベネビオールNL1010DB」(三菱ケミカル社製)、Mn1,000、バイオ化度22%
・A4:ポリカーボネートポリオール、商品名「ベネビオールNL2010DB」(三菱ケミカル社製)、Mn2,000、バイオ化度21%
・A5:ポリカーボネートポリオール、商品名「ベネビオールNL3010DB」(三菱ケミカル社製)、Mn3,000、バイオ化度21%
・A6:ポリイソソルバイドテトラメチレンカーボネートポリオール、商品名「ベネビオールHS0830B」(三菱ケミカル社製)、Mn800、バイオ化度35%)
・A7:ポリイソソルバイドヘキサメチレンカーボネートポリオール、商品名「ベネビオールHS0840H」(三菱ケミカル社製)、Mn800、バイオ化度37%)
・A8:イソソルバイド
・B1:イソホロンジイソシアネート(IPDI)
・B2:ペンタメチレンジアミン(バイオ化度71%)
・B3:リジンジイソシアネート(バイオ化度78%)
・B4:ヘキサメチレンジイソシアネート
・C1:ジメチロールプロピオン酸
・C2:ジメチロールブタン酸
・D1:エチレンジアミン
・D2:ペンタメチレンジアミン
・D3:イソホロンジアミン
・E1:テトラヒドロフラン(THF)
・F1:イオン交換水
・G1:トリエチルアミン
・G2:ジメチルアミノエタノール
【0077】
【0078】
【0079】
<顔料分散剤の製造>
(製造例1)
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)100部を反応容器に入れ、窒素をバブリングして80℃に加温した。別容器に、エチルメタクリレート(EMA)(発酵法で得られたエタノールを用いて合成されたメタクリレート)20部、イソボルニルメタクリレート(IBXMA)30部、テトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)(とうもろこしから得られたフルフリルアルコールを用いて合成されたメタクリレート)30部、メタクリル酸20部、及び2,2-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.5部を入れ、撹拌して均一なモノマー溶液を得た。得られたモノマー溶液を反応容器内に2時間かけて滴下した。滴下してから1時間後にAIBN1.5部を添加し、80℃でさらに5時間反応させた。冷却後、28%アンモニア水11.6部及びイオン交換水62.7部の混合物を添加して、淡褐色透明のポリマー溶液である顔料分散剤G-1の水溶液を得た。得られた顔料分散剤G-1(ポリマー)のMnは12,600、PDIは2.05、酸価は130.0mgKOH/gであった。また、顔料分散剤G-1の水溶液のpHは8.7であり、固形分濃度は36.5%であった。
【0080】
(製造例2)
BDG283.1部、THFMA59.6部、IBXMA59.6部、ヨウ素2.0部、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-70」、富士フイルム和光純薬製)(V-70)3.6部、及びN-アイオドスクシンイミド(NIS)0.1部を反応容器に入れた。窒素をバブリングしながら45℃に加温して4時間重合し、A鎖を形成した。反応液の一部をサンプリングし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したA鎖のMnは5,100、PDIは1.21であり、重合率は約100%であった。
【0081】
次いで、THFMA119部及びメタクリル酸30.2部の混合物を添加し、45℃で4時間重合してB鎖を形成し、A鎖からB鎖が伸長したA-Bブロックコポリマーを得た。得られたA-BブロックコポリマーのMnは10,700、PDIは1.31、酸価は73.0mgKOH/gであった。固形分から算出した重合率は約100%であった。
重合率を考慮して算出したB鎖の酸価は132.0mgKOH/gであった。
【0082】
重合溶液を室温まで冷却した後、28%アンモニア水23.4部及び水118.5部の混合物を添加し、淡褐色透明のポリマー溶液である顔料分散剤G-2の水溶液を得た。得られた顔料分散剤G-2の水溶液のpHは9.2であり、固形分濃度は41.1%であった。
【0083】
<インクジェット記録用の水性インクの製造>
(実施例11)
イオン交換水864部に、顔料分散剤G-1の水溶液411部(ポリマー150部)及びC.I.ピグメントブルー15:3(PB15:3、大日精化工業社製)600部を添加し、ディゾルバーで十分撹拌混合して混合物を得た。得られた混合物を、横型媒体分散機(商品名「ダイノミル0.6リットルマルチラボ」、シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズの径:0.5mm)を使用し、周速7m/sで分散処理してミルベース中に顔料を十分に分散させた。遠心分離処理(7,500rpm、20分間)した後、10μmのメンブレンフィルターでろ過して粗粒を除去した。イオン交換水を添加して濃度を調整し、顔料濃度14%である青色の水性顔料分散液B-1を得た。
【0084】
実施例1で得た水分散体U-1 16.0部、水性顔料分散液B-1 28.6部、プロピレングリコール18.0部、界面活性剤(商品名「シルフェイスSAG503A」、日信化学社製)0.5部、ポリエチレンワックス0.7部、及び水36.2部を混合した。十分撹拌した後、ポアサイズ5μmのメンブランフィルターでろ過して、インクジェット記録用の水性インクであるインクI-1を得た。得られたインクI-1の25℃における粘度は3.2mPa・sであった。
【0085】
(実施例12)
イオン交換水517.5部に、顔料分散剤G-2の水溶液182.5部(ポリマー75.0部)及びC.I.ピグメントブルー15:3(PB15:3、大日精化工業社製)300部を添加し、ディゾルバーで十分撹拌混合して混合物を得た。得られた混合物を用いたこと以外は、前述の実施例11と同様にして、顔料濃度14%である青色の水性顔料分散液B-2を得た。そして、実施例2で得た水分散体U-2及び得られた水性顔料分散液B-2を用いたこと以外は、前述の実施例11と同様にして、インクジェット記録用の水性インクであるインクI-2を得た。得られたインクI-2の25℃における粘度は2.9mPa・sであった。
【0086】
(実施例13~20、比較例5~8)
表3に示す種類の水分散体及び水性顔料分散液を用いたこと以外は、前述の実施例11と同様にして、インクジェット記録用の水性インクであるインクI-2~10、HI-1~4を得た。得られた各インクの25℃における粘度を表3に示す。
【0087】
<評価>
プレートヒーター付きのインクジェット記録装置(商品名「MMP825H」、マスターマインド社製)、及び以下に示す印刷基材を用意した。そして、調製したインクをそれぞれ使用して各印刷基材に画像を記録して印刷物を得た。具体的には、プレートヒーターを用いて表面温度が55℃となるように印刷基材を加熱してから各インクを付与して画像を記録した後、90℃の恒温槽内に10分間載置して乾燥し、印刷物を得た。
[印刷基材]
・OPPフィルム(ポリプロピレンフィルム、フタムラ化学社製、厚さ50μm)
・PETフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、フタムラ化学社製、厚さ50μm)
【0088】
(吐出安定性)
画像記録中のインクの吐出状態を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがってインクの吐出安定性を評価した。結果を表3に示す。
〇:吐出不良が認められなかった。
△:インク液滴の他に微少なスプラッシュが認められた。
×:途中でインクが吐出しなくなった、又はドットの飛び散りが認められた。
【0089】
(印刷物の外観)
得られた印刷物の外観を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって印刷物の外観を評価した。
〇:スジやムラが認められず、均一な画像が記録されていた。
×:スジやムラが認められた。
【0090】
(密着性)
画像にセロファンテープを十分に押し当ててから剥離した。フィルムからの画像の剥がれ具合を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって画像の密着性を評価した。
◎:まったく剥がれなかった。
○:僅かに剥がれた。
△:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が小さかった。
×:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が大きかった。
【0091】
(耐摩擦性(耐乾摩擦性及び耐湿摩擦性))
学振型摩擦堅牢度試験機(商品名「RT-300」、大栄科学社製)を使用し、乾燥した白布を500gの加重で画像の表面を100往復する乾摩擦試験、及び水で湿らせた白布を200gの加重で画像の表面を100往復する湿摩擦試験を行った。摩擦試験後の画像の剥がれ具合を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐摩擦性(耐乾摩擦性及び耐湿摩擦性)を評価した。
◎:まったく剥がれなかった。
○:僅かに剥がれた。
△:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が小さかった。
×:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が大きかった。
【0092】
(耐エタノール性)
画像表面に70%エタノール水溶液を滴下し、10秒間放置した後、綿棒で往復した。塗膜が剥がれるまでに要した往復回数を計測し、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐エタノール性を評価した。
◎:20回以上
〇:10回以上20回未満
△:5回以上10回未満
×:直ちに剥がれた、又は5回未満
【0093】
本発明の水性インクは、ラベル印刷や包装容器への印刷に用いる水性フレキソインクとして好適である。さらに、本発明の水性インクは、吐出安定性に優れることから、高速印刷対応のインクジェット記録用の水性インクとして有用であり、フィルム等をメディアとするパッケージング等の商業用印刷物を作製するためのインクとして好適である。