(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015228
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】モール糸、布帛及び衣料製品
(51)【国際特許分類】
D02G 3/42 20060101AFI20250123BHJP
D02G 3/34 20060101ALI20250123BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20250123BHJP
D03D 15/44 20210101ALI20250123BHJP
D03D 15/37 20210101ALI20250123BHJP
D03D 15/49 20210101ALI20250123BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20250123BHJP
D04B 21/16 20060101ALI20250123BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20250123BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20250123BHJP
A41D 31/04 20190101ALI20250123BHJP
A41D 31/14 20190101ALI20250123BHJP
【FI】
D02G3/42
D02G3/34
D03D15/47
D03D15/44
D03D15/37
D03D15/49
D04B1/16
D04B21/16
D01F6/92 303
A41D31/00 503E
A41D31/04 C
A41D31/14
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118500
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤原 彰大
(72)【発明者】
【氏名】梅田 亮太
(72)【発明者】
【氏名】尾形 暢亮
【テーマコード(参考)】
4L002
4L035
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA07
4L002AB00
4L002AB02
4L002AB04
4L002AC05
4L002AC07
4L002BA00
4L002CA00
4L002EA01
4L002EA02
4L002FA01
4L035AA05
4L035BB31
4L035JJ05
4L036MA05
4L036MA19
4L036MA20
4L036MA33
4L036MA39
4L036PA05
4L036RA04
4L036UA01
4L036UA25
4L048AA20
4L048AA21
4L048AA34
4L048AA37
4L048AA39
4L048AA55
4L048AA56
4L048AB07
4L048AB08
4L048AB11
4L048AB18
4L048AB21
4L048AB26
4L048AC18
4L048CA01
4L048CA10
4L048CA11
4L048DA01
(57)【要約】
【課題】軽量で保温性及び通気性があり、花糸の脱落が抑えられた布帛を製しやすいモール糸、布帛及び衣料製品を提供する。
【解決手段】芯糸と複数の花糸とを含むモール糸で、芯糸は複数の第1の長繊維を含み、各々の第1の長繊維は単繊維繊度が0.3dtex以上5.0dtex以下で、各々の花糸は複数の第2の長繊維を含んでなり且つ芯糸に把持された固定部が形成され、各々の第2の長繊維は単繊維繊度が0.3dtex以上8.0dtex以下で、モール糸の長尺方向と各々の花糸の長手方向とが水平に沿う方向を向いているとき、芯糸と第2の長繊維の先端との直線距離を高さT1とし、さらに、第2の長繊維がモール糸の長尺方向と直交する方向に沿って直線状となるように引き伸ばされているときに芯糸と第2の長繊維の先端との直線距離を高さT2とする場合に、高さT1の高さT2に対する比(高さT1/高さT2)が0.88以上であるモール糸である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸と、該芯糸に把持された複数の花糸と、を含むモール糸であって、
前記芯糸は複数の第1の長繊維を含んでなり、各々の第1の長繊維は単繊維繊度が0.3dtex以上5.0dtex以下であり、
各々の花糸は複数の第2の長繊維を含んでなり且つ前記芯糸に把持された固定部が形成され、各々の第2の長繊維は単繊維繊度が0.3dtex以上8.0dtex以下であり、
前記モール糸の長尺方向と前記各々の花糸の長手方向とが水平に沿う方向を向いているときに、前記芯糸と前記各々の第2の長繊維の先端との間の直線距離を前記各々の第2の長繊維の高さT1とし、さらに、前記各々の第2の長繊維が前記モール糸の長尺方向と直交する方向に沿って直線状となるように引き伸ばされているときにおける前記芯糸と前記各々の第2の長繊維の先端との間の直線距離を前記各々の第2の長繊維の高さT2とする場合に、前記高さT1の前記高さT2に対する比(前記高さT1/前記高さT2)が0.88以上である、モール糸。
【請求項2】
前記芯糸は、仮撚捲縮加工されており且つ捲縮率が3%以上40%以下である、請求項1に記載されたモール糸。
【請求項3】
前記固定部どうしの間隔が0.5mm以上2.0mm以下となるように、前記各々の花糸が前記芯糸に把持された、請求項1又は請求項2に記載されたモール糸。
【請求項4】
前記各々の花糸に2つ以上の前記固定部が形成されるように、前記各々の花糸が前記芯糸に把持された、請求項1又は請求項2に記載されたモール糸。
【請求項5】
前記各々の第2の長繊維は異型断面を有し、繊維断面に中空部が形成された中空繊維、繊維断面が略扁平状である扁平繊維、及び、繊維断面が溝を形成された形状で且つ繊維軸方向に沿って繊維断面の形状が変化している仮撚捲縮加工繊維から選択された1種以上の長繊維である、請求項1又は請求項2に記載されたモール糸。
【請求項6】
前記高さT1が1.5mm以上15.0mm以下である、請求項1又は請求項2に記載されたモール糸。
【請求項7】
前記複数の第1の長繊維及び前記複数の第2の長繊維の少なくとも一方は、エステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/またはエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物を共重合させたポリエステル系繊維を含む、請求項1又は請求項2に記載されたモール糸。
【請求項8】
前記複数の第1の長繊維及び前記複数の第2の長繊維の少なくとも一方は、ケミカルリサイクル又はマテリアルリサイクルされたポリエステル系繊維を含む、請求項1又は請求項2に記載されたモール糸。
【請求項9】
総繊度が550dtex以上1,000dtex以下である、請求項1又は請求項2に記載されたモール糸。
【請求項10】
繊維脱落率が0.8%以下である、請求項1又は請求項2に記載されたモール糸。
【請求項11】
請求項1又は請求項2に記載されたモール糸を含んでなる布帛。
【請求項12】
目付けが200g/m2以上350g/m2以下である、請求項11に記載された布帛。
【請求項13】
拡散性残留水分率が10%以下に至る時間が80分以下である、請求項11に記載された布帛。
【請求項14】
通気度が100cc/(cm2・秒)以上である、請求項11に記載された布帛。
【請求項15】
請求項11に記載された布帛を備える、衣料製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モール糸と、該モール糸を含んでなる布帛と、該布帛を備える衣料製品と、に関する。
【背景技術】
【0002】
モール糸は、芯糸と、該芯糸に把持された花糸と、を含む繊維素材である。芯糸のみからなる糸条と比べて、モール糸は、花糸が芯糸を覆い隠すように毛羽立って嵩高くなっており、太くてモコモコとした外観を有している。この特徴ある外観から、モール糸は、シェニール糸とも呼ばれている。一般的にモール糸は、飾り糸としてファッション用の衣料の襟等に使用される場合や、刺繍糸又は手編糸として手芸用品店で販売されている場合が多い。
【0003】
特許文献1では、芯糸と押さえ糸との撚糸を用いたモール糸が、開示されている。このモール糸では、芯糸と押さえ糸との間に花糸が融着固定されており、花糸が曲率半径0.5mm以上5.0mm以下の捲縮を有している。このような捲縮により、モール糸の嵩高性を向上させることができ、モール糸を詰め物として好適に用いることができる旨、特許文献1で説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-13788号公報
【特許文献2】特開平4-352840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、一般的にモール糸では、花糸が、洗濯により芯糸から抜け落ちやすいという問題がある。花糸が抜け落ちた部分では、芯糸が露出し、花糸に起因する嵩高なモコモコとした外観が損なわれてしまう。このため、例えば、日常的に繰り返し洗濯される衣料を製造する用途や、そのような衣料の材料となる布帛を製造する用途において、モール糸を使用することは、従来、あまり好ましくなかった。また、近年、マイクロプラスチックによる海洋汚染が問題になっている。これらのことを考慮すると、モール糸の花糸として合成樹脂繊維を使用する場合、モール糸を含む布帛や衣料が洗濯されても、花糸が芯糸から抜け落ちにくいことが望ましい。また、一般的に衣料では、嵩高くなるほど、保温性が増す利点がある反面、重量が増す問題や、蒸れやすい問題が生じやすい。これらの問題を解消して、なるべく着心地のよい衣料を製造できることが、望ましい。
【0006】
そこで、本発明の課題は、軽量で保温性及び通気性があり、花糸の脱落が抑えられた布帛を製造しやすいモール糸、前記布帛並びに衣料製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、一実施形態に係るモール糸は、
芯糸と、該芯糸に把持された複数の花糸と、を含むモール糸であって、
前記芯糸は複数の第1の長繊維を含んでなり、各々の第1の長繊維は単繊維繊度が0.3dtex以上5.0dtex以下であり、
各々の花糸は複数の第2の長繊維を含んでなり且つ前記芯糸に把持された固定部が形成され、各々の第2の長繊維は単繊維繊度が0.3dtex以上8.0dtex以下であり、
前記モール糸の長尺方向と前記各々の花糸の長手方向とが水平に沿う方向を向いているときに、前記芯糸と前記各々の第2の長繊維の先端との間の直線距離を前記各々の第2の長繊維の高さT1とし、さらに、前記各々の第2の長繊維が前記モール糸の長尺方向と直交する方向に沿って直線状となるように引き伸ばされているときにおける前記芯糸と前記各々の第2の長繊維の先端との間の直線距離を前記各々の第2の長繊維の高さT2とする場合に、前記高さT1の前記高さT2に対する比(前記高さT1/前記高さT2)が0.88以上である。
【0008】
斯かるモール糸によれば、複数の花糸により、嵩高な外観になりやすく、保温性を有しやすい。また、各々の第2の長繊維が上述した単繊維繊度を有し且つ上述した比(前記高さT1/前記高さT2)が0.88以上であることにより、モール糸を顕微鏡で観察すると芯糸から比較的細い各々の第2の長繊維が立ち上がっているような外観になっており、複数の花糸が軽量且つ通気しやすいものとなりやすい。さらに、芯糸に含まれる各々の第1の長繊維が上述した単繊維繊度を有することにより、各々の花糸が芯糸から抜け落ちにくくなっている。
【0009】
一実施形態に係る布帛は、前記モール糸を含んでなるものであり得る。一実施形態に係る衣料製品は、前記布帛を備えるものであり得る。
【発明の効果】
【0010】
以上に説明したように、本発明によれば、軽量で保温性及び通気性があり、花糸の脱落が抑えられた布帛を製造しやすいモール糸、前記布帛並びに衣料製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1に係るモール糸を拡大して撮影した顕微鏡写真である。
【
図2】それぞれ、(a)は中空繊維の一例の、(b)は扁平繊維の一例の、(c)は仮撚捲縮加工繊維の一例の繊維断面を示す電子顕微鏡写真である。
【
図3】採取した長繊維(例えば採取した第2の長繊維)の曲率半径の測定方法を説明する概略図である。
【
図4】実施形態1に係るモール糸において、各々の第2の長繊維に関する高さT1及び高さT2の測定方法を説明する概略図である。
【
図5】実施形態1に係るモール糸を製造する方法の一例(ウェールの数が3(n=3)の場合)を説明する模式図である。
図5では、この製造方法のうちの工程S1、工程S2及び工程S3を示している。
【
図6】実施形態1に係るモール糸を製造する方法の一例(ウェールの数が3(n=3)の場合)を説明する模式図である。
図6では、この製造方法のうちの工程S5と、製されたモール糸の一例とを示している。
【
図7】実施形態1に係るモール糸について、(a)は芯糸と複数の花糸とを含む構成を示し、(b)は(a)から芯糸を除いた場合を示す概略図である。
【
図8】実施形態2に係るモール糸について、(a)は芯糸と複数の花糸とを含む構成を示し、(b)は(a)から芯糸を除いた場合を示す概略図である。
【
図9】実施形態3に係るモール糸について、(a)は芯糸と複数の花糸とを含む構成を示し、(b)は(a)から芯糸を除いた場合を示す概略図である。
【
図10】実施形態4に係るモール糸について、(a)は芯糸と複数の花糸とを含む構成を示し、(b)は(a)から芯糸を除いた場合を示す概略図である。
【
図11】実施形態5に係るモール糸について、(a)は芯糸と複数の花糸とを含む構成を示し、(b)は(a)から芯糸を除いた場合を示す概略図である。
【
図12】実施形態6に係るモール糸について、(a)は芯糸と複数の花糸とを含む構成を示し、(b)は(a)から芯糸を除いた場合を示す概略図である。
【
図13】実施形態7に係るモール糸について、(a)は芯糸と複数の花糸とを含む構成を示し、(b)は(a)から芯糸を除いた場合を示す概略図である。
【
図14】実施例4乃至9、並びに比較例10及び11の各々で試作したモール糸について、顕微鏡写真を示す図である。
【
図15】実施例1乃至9、並びに比較例10及び11の各々で試作したモール糸に関して、(a)はモール糸のみを材料として用いて編んだメッシュ編地(布帛)の組織図を示し、(b)はこの編地(布帛)の表面を撮影した写真を示し、(c)はモール糸のみを材料として用いて試作した無縫製シャツを撮影した写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るモール糸は、少なくとも1本の芯糸と、該少なくとも1本の芯糸に把持された複数の花糸と、を含む繊維素材である。モール糸に含まれる複数の花糸は、1本以上の比較的長い花糸がモール糸の製造過程で切断され形成された、複数の比較的短い花糸(複数の断片となった花糸)でもよい。
【0013】
図示しないが、本発明に係るモール糸は、2本以上の芯糸を含むものであってもよい。例えば、本発明に係るモール糸が2本の芯糸を含む形態である場合、該2本の芯糸は、該2本の芯糸の間に花糸の一部が挟み込まれるように撚り合わされた双糸を形成していてもよい。例えば、本発明に係るモール糸が3本の芯糸を含む形態である場合、該3本の芯糸は、該3本の芯糸の間に花糸の一部が挟み込まれるように撚り合わされた三子糸を形成していてもよい。必要に応じて、構成樹脂等が同じである2本以上の芯糸を使用してもよく、又は、構成樹脂等が異なる2種以上の芯糸を使用してもよい。2本以上の芯糸を使用する場合、そのうちの少なくとも1本を芯糸と呼び、残る少なくとも1本を押さえ糸と呼んでもよい。花糸は、羽糸と呼んでもよい。
【0014】
<実施形態1>
以下、本明細書では、実施形態の例を、複数の図を参照し説明する。各図で同一又は類似の部分に、同一又は類似の符号を付している。また、本明細書では主に、
図1に示す実施形態1に係るモール糸10aを説明するが、本発明はこのモール糸10aの一実施形態に限られるものではない。
【0015】
モール糸10aは、1本の鎖編みされた芯糸20と、該1本の芯糸20に把持された複数の花糸30aとを含んでいる。複数の花糸30aに含まれる各々の花糸33は、芯糸20に挟まれ固定されるようにして、芯糸20に把持されている。
【0016】
芯糸20は、複数の第1の長繊維を含んでなるマルチフィラメント糸である。芯糸20に含まれる各々の第1の長繊維は、合成樹脂製であるため、ウール等の短繊維と比べて、伸びやすく、速く乾きやすい。同じ理由により、芯糸20は、短繊維から紡績されたスパン糸と比べて、引張強度に優れ、糸切れしにくく、取り扱い性に優れている。
【0017】
芯糸20に含まれる各々の第1の長繊維は、結晶性を有し、比較的高い融点を有するため、クリーニング等で加熱されてもヘタリにくい観点から、ポリアミド又はポリエステル等の、縮合重合による生成される熱可塑性ポリマーでもよい。第1の長繊維は、柔軟性に優れる観点では、例えばポリアミド系繊維であってもよい。ポリアミド系繊維を構成し得るポリアミドとして例えば、ナイロン6、ナイロン66、パラ系アラミド(例えばp-フェニレンジアミンとテレフタル酸クロリドとの重縮合体)又はメタ系アラミド(例えばm-フェニレンジアミンとイソフタル酸クロリドとの重縮合体)等が挙げられる。
【0018】
芯糸20に含まれる各々の第1の長繊維は、洗濯されても縮みにくく、速く乾きやすく、捲縮を付与しやすい観点では、ポリエステル系繊維であることが好ましい。ポリエステル系繊維を構成するポリエステルは、多価カルボン酸とポリオールとの重縮合体である。ポリエステルとして、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」ともいう)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート又はポリブチレンナフタレート等が挙げられる。第1の長繊維は、ここでポリアミド系繊維又はポリエステル系繊維の構成樹脂として幾つか例示したポリマーのうち、1種のポリマーからなる繊維でもよく、捲縮を付与しやすい観点では2種以上のポリマーからなるコンジュゲート繊維でもよい。
【0019】
芯糸20に含まれる各々の第1の長繊維は、アルカリ性の汗に触れた場合に汗を弱酸性へと変え、これにより雑菌の繁殖を抑え、汗のアンモニア臭を低減させ及び洗濯時に繊維表面から汚れが除去されやすい観点では、下記化学式1で表されるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/または下記化学式2で表されるエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物を共重合させたポリエステル系繊維であることが好ましい。
【0020】
【0021】
【0022】
上記化学式1において、A1は、芳香族基又は脂肪族基を示し、好ましくは炭素数6以上15以下の芳香族炭化水素基又は炭素数10以下の脂肪族炭化水素基であり、更に好ましくは炭素数6以上12以下の芳香族炭化水素基(例えばベンゼン環等)である。X1は、エステル形成性官能基を示し、例えば、下記化学式3に記載の官能基が挙げられる。
【0023】
【化3】
上記化学式3において、R´は低級アルキル基又はフェニル基を示し、a及びdは1以上の整数、bは2以上の整数である。
【0024】
上記化学式1において、X2は、X1と同一若しくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子を示し、好ましくはエステル形成性官能基である。上記化学式1において、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属で且つmは正の整数であり、好ましくは、Mがアルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム又はカリウム)で且つmが1である。
【0025】
上記化学式1で表されるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物としては、例えば、3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5-ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5-ジ(β-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5-ジ(β-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸カリウム、3,5-ジ(β-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸リチウム、2,6-ジカルボメトキシナフタレン-4-スルホン酸ナトウリム、2,6-ジカルボメトキシナフタレン-4-スルホン酸カリウム、2,6-ジカルボメトキシナフタレン-4-スルホン酸リチウム、2,6-ジカルボキシナフタレン-4-スルホン酸ナトリウム、2,6-ジカルボメトキシスフタレン-1-スルホン酸ナトリウム、2,6-ジカルボメトキシナフタレン-3-スルホン酸ナトリウム、2,6-ジカルボメトキシナフタレン-4,8-ジスルホン酸ナトリウム、2,6-ジカルボキシナフタレン-4,8-ジスルホン酸ナトリウム、2,5-ビス(ヒドロエトキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、及び、α-ナトリウムスルホコハク酸から選ばれた1種又は2種以上の化合物が挙げられる。
【0026】
上記化学式2において、A2は、芳香族基又は脂肪族基を示し、前記A1と同様である。X3は、エステル形成性官能基を示し、前記X1と同様である。X4は、X3と同一若しくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子を示し、前記X2と同様である。R1、R2、R3及びR4の各々は、アルキル基及びアリール基から選ばれた同一又は異なる基を示す。nは、正の整数であり、好ましくは1である。
【0027】
上記化学式2で表されるエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物としては、例えば、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、3-カルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3-カルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3-カルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3-カルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5-ジ(β-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5-ジ(β-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3-(β-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3-(β-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、4-ヒドロキシエトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、2,6-ジカルボキシナフタレン-4-スルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、及び、α-テトラブチルホスホニウムスルホコハク酸から選ばれた1種又は2種以上の化合物が挙げられる。
【0028】
環境負荷を低減させ、SDGsで標榜された持続可能な社会の実現に資する観点では、芯糸20に含まれる各々の第1の長繊維は、ケミカルリサイクル又はマテリアルリサイクルされたポリエステル系繊維であることが好ましい。
【0029】
芯糸20は、上述したポリアミド系繊維又はポリエステル系繊維として幾つか例示したポリマーのうち、1種のポリマーで構成された第1の長繊維を複数含んでなるマルチフィラメント糸でもよく、又は、それぞれ構成ポリマーが異なる2種以上の第1の長繊維を複数含んでなるマルチフィラメント糸でもよい。
【0030】
芯糸20がヘタリにくくなり、花糸33が把持された状態を維持やすい観点では、芯糸20に含まれる各々の第1の長繊維の単繊維繊度は、0.3dtex以上であり、好ましくは0.4dtex以上、更に好ましくは0.5dtex以上である。仮に、第1の長繊維の単繊維繊度が0.3dtex未満である場合、第1の長繊維が細すぎて破断しやすいため、芯糸がヘタリやすく実用に耐えない。花糸33が芯糸20から抜け落ちにくい観点では、各々の第1の長繊維の単繊維繊度は、5.0dtex以下であり、好ましくは3.0dtex以下、更に好ましくは2.0dtex以下である。仮に、第1の長繊維の単繊維繊度が5.0dtexを上回る場合、洗濯により花糸が抜け落ちる問題が顕在化しやすい。そのメカニズムは不明であるが、おそらく、第1の長繊維の単繊維繊度が5.0dtex以下である場合、芯糸20に含まれる第1の長繊維と、花糸33に含まれる第2の長繊維とが、それぞれ絡み合いやすい太さとなり、互いに絡み合って花糸33が芯糸20から抜け落ちにくくなるのではないかと推察される。
【0031】
本明細書において、繊度は、糸又は繊維について100mの質量を測定し、100倍することで繊度の数値を算出することを10回繰り返し、その平均値の値である。
【0032】
芯糸20の総繊度は、該芯糸20がヘタリにくい観点では、30dtex以上又は40dtex以上でもよく、好ましくは50dtex以上、更に好ましくは60dtex以上である。芯糸20の総繊度は、芯糸20から花糸33が抜け落ちにくい観点と、軽量で通気性の高い布帛を製しやすい観点とでは、例えば100dtex以下でもよく、好ましくは90dtex以下、更に好ましくは80dtex以下である。
【0033】
花糸30が抜け落ちにくいように把持する観点から、芯糸20は、仮撚加工されて捲縮(クリンプ)を付与されたマルチフィラメント糸であることが好ましい。捲縮を付与された場合の芯糸20における捲縮率は、花糸33が抜け落ちないように更に把持しやすい観点と、柔らかい風合いの布帛を製しやすい観点とでは、例えば3%以上でもよく、好ましくは5%以上、更に好ましくは10%以上である。捲縮を付与された場合の芯糸20における捲縮率は、芯糸20の反発性が強くなりすぎないように抑えて、ムラの少ない比較的均一な風合いの布帛を製しやすい観点では、例えば40%以下でもよく、好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下である。
【0034】
本明細書において、捲縮率は、JIS L 1015-2010の「8.12.2 けん縮率及び残留けん縮率」に準拠した方法により測定された測定値を採用する。
【0035】
芯糸20は、仮撚加工されて捲縮を有するものである場合、仮撚捲縮加工糸であることが好ましい。仮撚捲縮加工糸は、施撚の方向により、S方向又はZ方向のトルクを有する。仮撚捲縮加工糸としては、第1ヒーター域で仮撚をセットした、いわゆるone heater仮撚捲縮加工糸が挙げられ、又は、この糸を更に第2ヒーター域に導入して弛緩熱処理することによりトルクを減らした、いわゆるsecond heater仮撚捲縮加工糸が挙げられる。
【0036】
各々の花糸33は、合成樹脂製である第2の長繊維を複数含んでなる繊維群である。花糸33に含まれる各々の第2の長繊維は、クリーニング等で加熱されてもヘタリにくい観点から、ポリアミド系繊維又はポリエステル系繊維でもよい。各々の第2の長繊維は、洗濯されても縮みにくく、速く乾きやすく、捲縮を付与しやすい観点では、ポリエステル系繊維であることが好ましい。花糸33は、構成ポリマーが同じである1種の第2の長繊維からなる繊維群でもよく、又は、構成ポリマーが異なる2種以上の第2の長繊維からなる繊維群でもよい。各々の第2の長繊維は、芯糸20に含まれる第1の長繊維の説明で前述したポリマーのうち、1種のポリマーからなる繊維でもよいが、花糸33が嵩高い外観になりやすい観点では、2種以上のポリマーからなるコンジュゲート繊維であることが好ましい。コンジュゲート繊維は捲縮を有しやすいため、コンジュゲート繊維の群で構成された場合の花糸33は、各々のコンジュゲート繊維が捲縮を有することにより、嵩高い外観になりやすい。
【0037】
花糸33に含まれる各々の第2の長繊維は、一般的な円形の断面形状を有する長繊維でもよいが、好ましくは異型断面の形状を有する長繊維(繊維断面の形状が円形でない長繊維)である。例えば、上述したコンジュゲート繊維、又は、十字型、Y字型若しくはW字型等の様々な異型断面の形状を有する繊維を、各々の第2の長繊維として使用可能である。モール糸10aで各々の第2の長繊維として異型断面の形状を有する長繊維を使用する場合には、複数のこの長繊維を束ねたときに各々の長繊維に形成された凹凸や溝等の形状により長繊維どうしが密集しにくく、比較的大きな繊維間空間が形成され、このため、モール糸10aで製される布帛がこの繊維間空間により保温性、吸汗・促乾性、並びにドライタッチ(さらりとした肌ざわり及び清涼感のある触感)の風合いを発揮しやすい観点から好ましい。また、円形断面の長繊維と比べて、異型断面の形状を有する長繊維は、この長繊維に形成された凹凸や溝等により、芯糸20に含まれる各々の第1の長繊維に引っ掛かって絡まりやすく、このために花糸33が芯糸20から脱落しにくい観点からも好ましい。同様の観点から、各々の第2の長繊維は、更に好ましくは、繊維断面に中空部が形成された中空繊維、繊維断面が略扁平状である扁平繊維、及び、繊維断面が溝を形成された形状で且つ繊維軸方向に沿って繊維断面の形状が変化している仮撚捲縮加工された仮撚捲縮加工繊維から選択された1種以上の異型断面を有する長繊維である。
【0038】
上述した中空繊維の好ましい例として、
図2(a)に示すように、断面の中央部に中空部が形成され且つその周囲に複数の突起部が放射状に配されたポリエステル系繊維が挙げられる。この中空繊維(
図2(a))は、複数の中空繊維を束ねたときに各々の中空繊維が有する8つの突起部により比較的大きい繊維間空間が形成されやすいので保温性及び吸汗・速乾性に優れ、且つ、8つの突起部及び中空部により同じ繊維径を有する円形断面の繊維と比べてかなり軽量である観点から好ましい。また、上述した扁平繊維の好ましい例として、
図2(b)に示すように、一方側の繊維側方と他方側の繊維側方との各々に4つの凸状部により3つの溝部が形成された、略扁平状の繊維断面を有するポリエステル系繊維が挙げられる。この扁平繊維(
図2(b))は、円形断面の繊維と比べて、複数の扁平繊維を束ねたときに各々の扁平繊維が有する凸状部により比較的大きい繊維間空間が形成されるので吸汗性(吸水性)に優れ、吸収された汗(水分)は溝部により拡散されやすいため速乾性に優れ、また、略扁平状であるため防透け性に優れ、繊維が曲がりやすく、独特なしなやかさとドレープ性を発揮しやすい観点から好ましい。上述した仮撚捲縮加工繊維の好ましい例として、
図2(c)に示すように、繊維側方に溝部が形成されたポリエステル系繊維が仮撚捲縮加工されたことにより、溝部が形成された繊維断面の形状が繊維軸方向に沿って不定型に変化している仮撚捲縮加工繊維が挙げられる。この仮撚捲縮加工繊維(
図2(c))は、円形断面の繊維と比べて、不定形な繊維断面を有するので複数の仮撚捲縮加工繊維を束ねたときに大きな繊維間空間が形成されるために軽量性、吸汗・速乾性、及びドライタッチな風合いに優れ、並びに、不定形な繊維断面の凹凸や溝部により各々の第1の長繊維に絡まりやすく芯糸20から脱落しにくいので洗濯耐性に優れる観点からも好ましい。
【0039】
花糸33に含まれる各々の第2の長繊維は、雑菌の繁殖を抑え、汗のアンモニア臭を低減させ及び洗濯時に繊維表面から汚れが除去されやすい観点では、前述の化学式1で表されるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/または前述の化学式2で表されるエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物を共重合させたポリエステル系繊維であることが好ましい。花糸33に含まれる各々の第2の長繊維は、環境負荷を低減させ、SDGsで標榜された持続可能な社会の実現に資する観点では、ケミカルリサイクル又はマテリアルリサイクルされたポリエステル系繊維であることが好ましい。
【0040】
ある程度は毛羽立った嵩高い外観の花糸33を形成させて保温性を高める観点から、花糸33に含まれる各々の第2の長繊維の単繊維繊度は、0.3dtex以上であり、好ましくは0.4dtex以上、更に好ましくは0.5dtex以上である。仮に、第2の長繊維の単繊維繊度が0.3dtex未満である場合、各々の第2の長繊維が細すぎてヘタリやすいため、鎖編みされた芯糸20の長尺軸方向に沿って複数の第2の長繊維が横たわりやすく、花糸を毛羽立たせることが難しい。花糸33が芯糸20から抜け落ちにくい観点では、花糸33に含まれる各々の第2の長繊維の単繊維繊度は、8.0dtex以下であり、6.5dtex以下又は5.0dtex以下でもよく、好ましくは3.0dtex以下、更に好ましくは2.0dtex以下である。仮に、第2の長繊維の単繊維繊度が8.0dtexを上回る場合には、洗濯により花糸が抜け落ちやすくなる。おそらく、花糸33に含まれる各々の第2の長繊維が8.0dtex以下の単繊維繊度であると、芯糸20に含まれる各々の第1の長繊維と絡み合いやすい太さとなり、互いに絡み合って花糸33が芯糸20から抜け落ちにくくなるものと考えられる。
【0041】
各々の花糸33に含まれる複数の第2の長繊維は、各々の第2の長繊維どうしの間が
図1に例示するように幾らか開いた状態のものであり得る。各々の第2の長繊維の単繊維繊度の合計値として算出可能な、各々の花糸33の単糸繊度は、花糸33をある程度は毛羽立った嵩高な外観にする観点では、30dtex以上又は50dtex以上でもよく、好ましくは60dtex以上、更に好ましくは70dtex以上である。各々の花糸33の単糸繊度は、芯糸20から抜け落ちにくい観点と、軽量で通気性の高い布帛を製しやすい観点とでは、例えば200dtex以下又は150dtex以下でもよく、好ましくは100dtex以下又は90dtex以下、更に好ましくは80dtex以下である。
【0042】
毛羽立った嵩高い外観の花糸33を形成させて保温性を高める観点から、花糸33に含まれる各々の第2の長繊維は、捲縮(クリンプ)を有する繊維であってもよい。同様の観点から、第2の長繊維における捲縮の大きさを示す曲率半径は、例えば、2.0mm以下又は1.0mm以下又は0.50mm以下でもよく、好ましくは0.40mm以下、更に好ましくは0.35mm以下、更により好ましくは0.30mm以下である。一方、仮に、各々の第2の長繊維が過度な捲縮を有する場合、第2の長繊維どうしが必要以上に絡まり合うことにより、モール糸を用いて製した布帛においてダマやムラが生じやすく、保温性が幾らか損なわれる場合があり得る。保温性を有しやすいように捲縮を付与する観点では、花糸33に含まれる各々の第2の長繊維における捲縮の大きさを示す曲率半径は、例えば、0.10mm以上でもよく、好ましくは0.15mm以上である。ここで挙げた曲率半径の条件で満たしやすい観点から、芯糸20の説明で前述した仮撚捲縮加工糸を、花糸33として流用してもよい。このように花糸33として流用された場合の仮撚捲縮加工糸に含まれる、捲縮を有する複数の長繊維は、複数の第2の長繊維として扱うことができる。
【0043】
本明細書において、曲率半径は、顕微鏡により二次元的に観察される画像を用いた、
図3に例示するように、採取した長繊維34が形成している湾曲形状の半径の計測値である。曲率半径を計測は、モール糸10aの長尺方向に沿う方向Xで一定の間隔を空けて無作為に選出した10箇所において、1箇所ごとに1本の第2の長繊維を切り取るか又は抜き取るかして採取し、採取した長繊維34ごとに顕微鏡を用いて捲縮形態を確認可能な倍率で観察する。この観察画像を用い、捲縮を有する長繊維が形成している湾曲形状の半径を10回以上測定し、測定値の平均値を長繊維の曲率半径とする。
【0044】
図1、
図4及び
図7(a)に示すようにモール糸10aでは、1本の芯糸20において鎖編みにより形成され絞られたループ25内に、各々の花糸33(複数の第2の長繊維)の一部が挟み込まれ固定されたことにより、各々の花糸33に固定部37が形成されている。つまり、固定部37は、各々の花糸33(複数の第2の長繊維)の一部が芯糸20に巻き付かれて圧迫され、芯糸20の間で固定された状態になっている。また、
図7(b)は、モール糸10aにおける各々の花糸33の位置関係を説明するために、
図7(a)に示すモール糸10aから芯糸20を除いた状態での複数の花糸30aを示している。各々の花糸33(複数の第2の長繊維)において固定部37を形成していない残り部分は、固定部37から芯糸20の周方向へと幾らか花開くかのように各々の第2の長繊維が延在した羽部を形成した状態になっているか、又は、2つの固定部37どうしの間で牽引されて芯糸20と共に束ねられた複合部40(
図7(a))を形成した状態になっている。
【0045】
各々の花糸33がある程度は嵩高い外観となり保温性に優れた布帛を製しやすい観点では、各々の第2の長繊維の高さT1は、例えば、1.5mm以上、3.0mm以上又は5.0mm以上でもよく、好ましくは6.0mm以上、更に好ましくは7.0mm以上である。各々の第2の長繊維の高さT1は、軽量で通気性の高い布帛を製しやすい観点では、例えば、15mm以下、12mm以下又は10mm以下でもよく、好ましくは9.0mm以下、更に好ましくは8.0mm以下である。ここで挙げた各々の第2の長繊維の高さT1は、
図4に示すように、モール糸10aの長尺方向と、各々の花糸33(各々の第2の長繊維)の長手方向とが、それぞれ水平方向に沿う方向を向いているとき(
図4におけるXY平面上にあるとき)における、芯糸20と各々の第2の長繊維の先端(35a又は35b)との間の最短の直線距離である。この際、モール糸10aの長尺方向は、水平方向に沿うXY平面のうち、任意の一方向に沿う方向Xに向けられている。換言すると、高さT1は、各々の第2の長繊維が外力(例えば牽引力)を加えられておらず水平方向に沿うXY平面上に横たわっている状態において、芯糸20から各々の第2の長繊維の先端(35a又は35b)へと至る高さともいえる。
【0046】
各々の第2の長繊維の高さT2は、軽量で通気性に優れた布帛を製しやすい観点では、例えば15mm以下、12mm以下又は10mm以下でもよく、好ましくは9.5mm以下、更に好ましくは8.5mm以下である。ここで挙げた各々の第2の長繊維における高さT2は、モール糸10aの長尺方向と、各々の花糸33(各々の第2の長繊維)の長手方向とが、それぞれ水平方向に沿う方向を向いており(
図4におけるXY平面上にあり)、且つ、各々の第2の長繊維がモール糸10aの長尺方向に沿う方向Xと直交する方向Yに沿って直線状に引き伸ばされているときにおける、芯糸20と各々の第2の長繊維の先端(35a又は35b)との間の最短の直線距離である。換言すると、高さT2は、各々の第2の長繊維が水平方向に沿うXY平面上で、モール糸の長尺方向に沿う方向Xと直交する方向Yへと直線状になるように外力(例えば牽引力)を加えられ引き伸ばされている状態において、芯糸20から各々の第2の長繊維の先端(35a又は35b)へと至る高さともいえる。
【0047】
通気性に優れた布帛を製しやすい観点から、各々の第2の長繊維について上述した2種類の高さの比(高さT1/高さT2)が、0.880以上であり、例えば0.89以上でもよく、好ましくは0.90以上であり、更に好ましくは0.91以上である。各々の第2の長繊維における高さの比(高さT1/高さT2)が0.88以上であると、モール糸10aを顕微鏡観察すると、花糸33に含まれる複数の第2の長繊維が芯糸20から立ち上がっているような外観を有する。モール糸10aでは、この外観と、各々の第2の長繊維が細いこととが相俟って、直交する方向Yに沿って空気が通り抜けやすい。仮に、高さの比(高さT1/高さT2)が0.88未満であれば、この比が低値になるほど、各々の第2の長繊維がモール糸の長尺方向に沿う方向Xに向いて横たわる形状となり、直交する方向Yに沿って通り抜けようとする空気の流れが花糸(複数の第2の長繊維)により妨げられ、モール糸を含んでなる布帛の通気性が損なわれてしまう。
【0048】
本明細書における各々の第2の長繊維の高さT1は、次の方法により得られる値である。水平方向に沿って延在している平らなテーブル面に黒紙を載置し、この黒紙上にモール糸を載せ、モール糸の長尺方向が全体的に直線状となるように芯糸が黒紙に貼付された試料を作製する。貼付の際、第2の長繊維が黒紙に貼付されないように、注意する。もし、芯糸に絡まった花糸があれば、芯糸から花糸をほどいてから、芯糸を黒紙に貼付して試料を作製する。この試料を、顕微鏡を用いて倍率50倍にて10箇所で撮影し、得られた10箇所の撮影画像を用いて、第2の長繊維ごとに、
図4に示すように、芯糸20と第2の長繊維の先端(33a又は33b)との間の直線距離を計測する。50本の第2の長繊維について、この直線距離を計測し、平均値を各々の第2の長繊維の高さT1とする。
【0049】
本明細書における各々の第2の長繊維の高さT2は、次の方法により得られる値である。上述した高さT1の値を算出後の試料において、高さT1算出のための上述の直線距離を計測した同じ50本の第2の長繊維の各々について、第2の長繊維の先端(33a又は33b)部分を摘まんで、モール糸の長尺方向に沿う方向Xとは直交する方向Yへ牽引して直線状となるように引き伸ばした状態で、第2の長繊維の先端(33a又は33b)部分を黒紙に貼付する。試料は、第2の長繊維が直線状に引き伸ばされた状態で黒紙上に保持された状態のものとなる。この試料を、顕微鏡を用いて倍率50倍にて、貼付されている50本の第2の長繊維について、芯糸20と第2の長繊維の先端(33a又は33b)との間の直線距離を計測する。50本の第2の長繊維について、この直線距離を計測し、平均値を各々の第2の長繊維の高さT2とする。
【0050】
本発明者らは、一定の長さの芯糸20に対して、ある程度の数量の花糸33が把持されている場合に、花糸33が芯糸20から更に抜け落ちにくくなるという知見を見出した。おそらく、芯糸20に挟まれている花糸33の固定部37がある程度以上の太さに達すると、固定部37の太さにより芯糸20が圧迫され、芯糸20の間で固定部37が安定して把持されやすいものと推察される。この観点から、モール糸10aの長尺方向に沿う方向Xにおいて、芯糸20により花糸33が把持された固定部37どうしの間隔は、例えば6.0mm以下又は4.0mm以下でもよく、好ましくは2.0mm以下又は1.5mm以下、更に好ましくは1.2mm以下である。換言すれば、モール糸10aの長尺方向に沿う方向Xにおいて、花糸33が把持された固定部37の数が、例えば4.2部/inch以上又は6.4部/inch以上でもよく、好ましくは12.7部/inch以上又は16.9部/inch以上、更に好ましくは21.2部/inch以上ともいえる。
【0051】
また、一定の長さの芯糸20に対して、あまりに多くの花糸33が把持されていると、数多すぎる固定部37により芯糸20が過剰に圧迫され、一部の花糸33が芯糸20の間から押し出されやすいものと考えられる。つまり、芯糸20には、花糸33を安定して把持可能な上限量が潜在し、該上限量を超過して芯糸20に花糸33を把持させた場合、超過した分量に応じて一部の花糸33が芯糸20から脱落しやすいものと推察される。また、モール糸10aを使用して製する布帛の風合いを、柔らかなものとするには、芯糸20が圧迫されすぎず、幾らか柔軟であることが望ましい。これらの観点から、モール糸10aの長尺方向に沿う方向Xにおける固定部37どうしの間隔は、例えば0.5mm以上でもよく、好ましくは0.7mm以上、更に好ましくは0.9mm以上である。換言すれば、モール糸10aの長尺方向に沿う方向Xにおける固定部37の数が、例えば50部/inch以下でもよく、好ましくは36部/inch以下、更に好ましくは28部/inch以下ともいえる。
【0052】
上述した固定部37どうしの間隔は、モール糸10aの長尺方向に沿う方向Xが水平方向にあるようにモール糸10aを全体的に直線状にし、且つ、芯糸20に絡まった花糸33をほどいて、各々の花糸33が方向Xと直交する方向Yへ向いた状態になるように、モール糸10aを黒紙上に貼り付けた試料を作製し、顕微鏡を用いてこの試料を倍率50倍にて10箇所で撮影し、得られた10箇所の撮影画像を用いて隣接する固定部37どうしの間隔を計測した平均値である。
【0053】
図1、
図4、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、モール糸10aでは、各々の花糸33に固定部37が2つ形成されるように、各々の花糸33が芯糸20に把持されている。つまり、芯糸20に絞られたループ25が複数形成されており、各々の花糸33(複数の第2の長繊維)は、その繊維の長手方向の途中で、芯糸に複数形成されたループのうちの2つのループ内をくぐっており、各々の絞られたループ25内で固定されている。このように、モール糸10aでは、各々の花糸33が2つの固定部を有するため、固定部が1つしか形成されていない場合の花糸と比べて、各々の花糸33が芯糸20に強く把持され、芯糸20から脱落しにくく構成されている。また、前述したように、各々の花糸33において2つの固定部37どうしの間の部分は、芯糸20と共に束ねられて複合部40を形成している。この複合部40において、芯糸20に含まれる複数の第1の長繊維と、各々の花糸33に含まれる複数の第2の長繊維とが、幾らか絡み合いやすいことによっても、モール糸10aにおける各々の花糸33は芯糸20から脱落しにくく構成されていると考えられる。
【0054】
モール糸10aの総繊度は、該モール糸10aにより嵩高い外観で保温性を有する布帛を製しやすい観点では、例えば550dtex以上でもよく、好ましくは600dtex以上、更に好ましくは650dtex以上である。モール糸10aの総繊度は、該モール糸10aにより比較的軽量かつ通気性の高い布帛を製しやすい観点では、例えば1,300dtex以下又は1,000dtex以下でもよく、好ましくは900dtex以下、更に好ましくは800dtex以下である。
【0055】
各々の花糸33は、固定部37及び複合部40から選ばれた1つ以上の部分で芯糸20に融着固定されていてもよい。この場合、芯糸20に含まれる複数の第1の長繊維のうちに、低融点のポリエステル系繊維を、芯糸20における10質量%以下の範囲内で含ませてもよい。また、この場合、花糸33に含まれる複数の第2の長繊維のうちに、低融点のポリエステル系繊維を、花糸33における10質量%以下の範囲内で含ませてもよい。ここでの低融点とは、例えば130℃よりも高温かつ150℃未満でもよい。このような低融点のポリエステル系繊維として、例えば、ハードセグメントにポリエステル、ソフトセグメントにポリエーテル又はポリエステルを含むブロック共重合体が挙げられる。
【0056】
しかし、花糸33と芯糸20とを融着固定させた場合のモール糸10aを使用し布帛を製した場合、得られる布帛の風合いが幾らか硬くなってしまう。柔らかな風合いの布帛を製しやすい観点では、モール糸10aは、各々の花糸33と芯糸20とが実質的に融着固定されていないことが好ましい。このためには、例えば、芯糸20に含まれる複数の第1の長繊維及び花糸33に含まれる複数の第2の長繊維は、融点が150℃以上であるポリエステル系繊維からなることが好ましい。
【0057】
モール糸10aの製造方法は、特に限定されず、当業者であれば本明細書の記載に基づいて常法(例えば特許文献2参照)により製造可能である。一例としては、以下に説明する方法でモール糸10aを製造可能である。まず、まだ鎖編みされていないn本の芯糸と、まだ切断されていない(n-1)本の長い花糸と、を準備する。nは3以上の自然数である。n本の芯糸を平行に並べて鎖編みし、この際、各々の長い花糸を右隣りの芯糸と左隣りの芯糸との間で交互に振りながら芯糸と重ねて編成することにより、モール糸10aを製造可能である。
【0058】
上述の製造方法について、
図5及び
図6を参照し、n=3である場合の例を説明する。
図5に示すように、左側から右側へ順に、第一ウェール50a、第二ウェール50b及び第三ウェール50cが平行に並ぶように配し、以下に説明する工程S1乃至S5を経て、モール糸10aを製造する。
【0059】
工程S1で、各ウェール(50a、50b及び50c)に、1本の芯糸(20a、20b又は20c)を配する。最も左側にある第一ウェール50aでは、まだ鎖編みされていない芯糸20aと、まだ切断されていない第一の長い花糸31とを重ね、芯糸20aと第一の長い花糸31とが重なったループ25a1を編成する。第一ウェール50aの右隣りにある第二ウェール50bでも、同様にして、芯糸20bと、まだ切断されていない第二の長い花糸32と、が重なったループ25b1を編成する。一方、第二ウェール50bの右隣り(最も右側)にある第三ウェール50cでは、芯糸20cのみによるループ25c1を編成する。
【0060】
次の工程S2で、最も左側にある第一ウェール50aでは、「1つ前の工程」で形成された芯糸20aと第一の長い花糸31とが重なったループ(25a1又は後述する25a3)から、第一の長い花糸31のみを右隣りにある第二ウェール50bへと引き伸ばし、芯糸20aのみをこのループ(25a1又は後述する25a3)内にくぐらせ、芯糸20aのみによる新たなループ25a2を編成する。第二ウェール50bでは、「1つ前の工程」で形成された芯糸20bと第二の長い花糸32とが重なったループ(25b1又は後述する25b3)から、第二の長い花糸32のみを右隣りにある第三ウェール50cへと引き伸ばし、芯糸20bは左隣りにある第一ウェール50aから引き伸ばした第一の長い花糸31と重ね、「1つ前の工程」で形成されたループ(25b1又は後述する25b3)内をくぐらせ、芯糸20bと第一の長い花糸31とが重なった新たなループ25b2を編成する。第三ウェール50cでは、「1つ前の工程」で形成された芯糸20cのみによるループ(25c1又は後述する25c3)から、芯糸20cを引き伸ばし、左隣りにある第二ウェール50bから引き伸ばした第二の長い花糸32と重ね、「1つ前の工程」で形成されたループ(25c1又は後述する25c3)内をくぐらせ、芯糸20cと第二の長い花糸32とが重なった新たなループ25c2を編成する。なお、この工程S2で「1つ前の工程」とは、初めて工程S2を行う場合には前述した工程S1を指す。
【0061】
次の工程S3で、最も右側にある第三ウェール50cでは、直前の工程S2で形成された芯糸20cと第二の長い花糸32とが重なったループ25c2から、第二の長い花糸32のみを左隣りにある第二ウェール50bへと引き伸ばし、芯糸20cのみをこのループ25c2内にくぐらせ、芯糸20cのみによる新たなループ25c3を編成する。第二ウェール50bでは、直前の工程S2で形成された芯糸20bと第一の長い花糸31とが重なったループ25b2から、第一の長い花糸31のみを左隣りにある第一ウェール50aへと引き伸ばし、芯糸20bは右隣りにある第三ウェール50cから引き伸ばした第二の長い花糸32と重ねて、直前の工程S2で形成されたループ25b2内をくぐらせ、芯糸20bと第二の長い花糸32とが重なった新たなループ25b3を編成する。最も左側にある第一ウェール50aでは、直前の工程S2で形成された芯糸20aのみによるループ25a2から、芯糸20aを引き伸ばし、右隣りにある第二ウェール50bから引き伸ばした第一の長い花糸31と重ねて、直前の工程S2で形成されたループ25a2内をくぐらせ、芯糸20aと第一の長い花糸31とが重なった新たなループ25a3を編成する。
【0062】
図示していないが、次の工程S4では、上述した工程S2と工程S3とを交互に複数回繰り返す。これにより、各ウェール(50a、50b及び50c)で1本の芯糸(20a、20b又は20c)を鎖編みしつつ、第一の長い花糸31は左隣りの芯糸20aと右隣りの芯糸20bとに交互に絡み付くように橋渡しさせ、同様に、第二の長い花糸32は左隣りの芯糸20bと右隣りの芯糸20cとを交互に橋渡しさせる。なお、工程S4で2回目以降の工程S2を行う際、該工程S2での「1つ前の工程」とは、直前に行った工程S3を指す。
【0063】
上述した工程S1乃至工程S4を経て、芯糸(20a、20b及び20c)と第一の長い花糸31及び第二の長い花糸32とを編み上げた後、
図6に示す工程S5を行う。この工程S5では、第一ウェール50aと第二ウェール50bとの中間位置55aにおいて、第一の長い花糸31のうちで芯糸20aと芯糸20bとを橋渡しする部分を切断する。切断により、1本の第一の長い花糸31は、比較的短い複数の花糸30a(複数の断片としての花糸)となる。同様に、第二ウェール50bと第三ウェール50cとの中間位置55bにおいて、第二の長い花糸32のうちで芯糸20bと芯糸20cとを橋渡しする部分を切断し、1本の第二の長い花糸32から比較的短い複数の花糸30a(複数の断片としての花糸)を形成させる。また、芯糸20bをその両端で引っ張ると、ループ(25b1、25b2及び25b3)が絞られ(縮み込み)、絞られたループ25ごとに該ループ25内に各々の花糸33の一部を挟み込んで固定するように把持させ、モール糸10aを形成させる。
【0064】
上述した工程S5について、
図6では、第一の長い花糸31及び第二の長い花糸32を切断後、各ループ(25b1、25b2及び25b3)を絞ってモール糸10aを形成させる例を示した。あるいは、モール糸10aを更に製しやすい観点では、上述した工程S4又は工程S5において、各ループ(25b1、25b2及び25b3)を絞って芯糸20bに第一の長い花糸31及び第二の長い花糸32を把持させた後に、第一の長い花糸31及び第二の長い花糸32を切断することにより、モール糸10aを形成させることが好ましい。また、
図5及び
図6ではn=3の場合でのモール糸10aの製造方法を説明したが、n数が多いほどモール糸10aを同時に数多く製造可能で好ましい。nが4以上の場合、最も左側にある第一ウェールと最も右側にある第nウェールとを除けば、ウェールごとに1本のモール糸10aを製造可能である。つまり、(n-2)本のモール糸10aを同時に製造可能である。なお、
図6に示す、中間位置55aと中間位置55bとの間隔の長さ(つまり、第一の長い花糸31の切断箇所と第二の長い花糸32の切断箇所との間のカット幅Lの長さ)は、各々の第2の長繊維の高さT1の2倍に比較的近い長さになりやすい。また、
図6の下側では、モール糸10aの長尺方向に沿う方向Xにおいて0.25inchあたりに固定部37が6部形成される(24部/inch)ように試作した場合の顕微鏡写真を示しており、つまり、この場合の固定部37どうしの間隔Dは1/24inchである。
【0065】
図5及び
図6に例示した製造方法を経て、例えば第二ウェール50bで形成されたモール糸10aでは、
図7(a)に示すように、モール糸10aの長尺方向に沿う方向Xにおいて、各々の花糸33が芯糸20と共に束ねられた複合部40が連なっている。なお、
図7(a)において、芯糸20に対して紙面上側(一方側)に先端(35a及び35b)を向けた各々の花糸33は、第一の長い花糸31に由来する。
図7(a)において、芯糸20に対して紙面下側(他方側)に先端(35a及び35b)を向けた花糸33は、第二の長い花糸32に由来する。また、
図7(b)からも明らかなように、モール糸10aでは、モール糸10aの長尺方向に沿う方向Xにおいて、第一の長い花糸31由来で紙面上側(一方側)を向いている花糸33と、第二の長い花糸32由来で紙面下側(他方側)を向いている花糸33とが、交互に連なっている。このため、例えば、第一の長い花糸31と第二の長い花糸32とで幾らか物性の異なる糸を使用してモール糸10aを製した場合には、紙面上側(一方側)と紙面下側(他方側)とで柔らかさや風合い等の特性が大きく異なるモール糸10aを製造することも可能である。
【0066】
図示しないが、一実施形態に係る布帛は、モール糸10aを含んでなる布帛である。例えば、モール糸10aを含んで構成された織物又は編物が挙げられる。布帛は、例えば、モール糸10aとポリエステル系繊維とが交織され構成された織物でもよく、又は、モール糸10aとポリエステル系繊維とが交編され構成された編物でもよい。布帛に、ある程度の量のモール糸10aを含有させ、モール糸10aによる保温性、軽量性及び通気性を発揮させやすい観点では、布帛におけるモール糸10aの含有量は、例えば50質量%より高くてもよく、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上又は90質量%以上でもよく、好ましくは95質量%以上又は98質量%以上、更により好ましくは99%以上又は100%である。つまり、布帛は、モール糸10aから実質的になる織物又は編物であることが更に好ましい。織物よりも製造しやすい観点では、布帛は、モール糸10aからなる編物であることが更により好ましい。
【0067】
モール糸10aによる保温性を発揮させやすい観点では、ある程度の量のモール糸10aを使用するため、モール糸10aを含んでなる布帛の目付けは、例えば200g/m2以上でもよく、好ましくは250g/m2以上である。布帛を比較的軽量で通気性の高いものにする観点では、モール糸10aを含んでなる布帛の目付けは、例えば350g/m2以下、好ましくは300g/m2以下である。本明細書において、目付けは、JIS L 1096-2010の8.3に準拠した測定方法による測定値である。
【0068】
日常的に繰り返し洗濯し得る繊維製品(例えば衣料製品)を製する用途で、布帛を使用しやすい観点から、モール糸10aを含んでなる布帛は、繊維脱落率が例えば0.80%以下又は0.50%以下でもよく、好ましくは0.30%以下、更に好ましくは0.20%以下である。
【0069】
本明細書における繊維脱落率の値は、次の方法により得られる値である。
(繊維脱落率の計測方法)
ステップ1:布帛等の繊維製品から、合成繊維を含んでなる300mm×300mmサイズの試験片を3枚取得する。この際、平型ニクロムヒーター式のはんだこて(株式会社石崎電機製作所、型番:SB-100)を用いて、布帛から300mm×300mmサイズに切り出した切片を試験片とする。
ステップ2:取得した試験片を、電子天秤を用いて0.1μg単位まで質量を測定する。質量測定後の試験片を1枚ずつ、洗剤を使用せず、JIS L 1930 C4M法に準拠して、ドラム式洗濯機により洗濯する。洗濯された試験片を、同じドラム式洗濯機のタンブル乾燥により乾燥させる。
ステップ3:乾燥させた試験片を、電子天秤を用いて0.1μg単位まで質量を測定する。洗濯前の試験片の質量測定値をL0とし、洗濯及び乾燥後の試験片の質量測定値をL1とし、下記の式により、試験片からの繊維(マイクロプラスチック)脱落率(%)を算出する。
脱落率(%)=((L0-L1)/L0)×100
【0070】
速乾性があって蒸れにくい繊維製品(例えば衣料製品)を製しやすい観点から、モール糸10aを含んでなる布帛は、拡散性残留水分率が10%以下に達する時間が、80分以下であることが好ましい。この時間が短いほど、布帛が短時間で乾くため好ましい。本明細書において、拡散性残留水分率は、20℃×65%RH下の雰囲気中で試料(布帛)に約0.6gの水を滴下させ、各時間の質量を測定し、次の数式により算出する値である。
残留水分率(%)=各時間の水分量(g)/滴下(裏面)直後の水分量(g)×100
【0071】
通気性が高くて蒸れにくい繊維製品(例えば衣料製品)を製しやすい観点から、モール糸10aを含んでなる布帛における通気度は、好ましくは100cc/(cm2・秒)以上、更に好ましくは1秒あたり150cc/(cm2・秒)以上である。本明細書において通気度は、JIS L 1096-2010の8.26.1 A法(フラジール法)に準拠して測定した測定値である。
【0072】
保温性に優れる繊維製品(例えば衣料製品)を製しやすい観点から、モール糸10aを含んでなる布帛における保温率は、好ましくは60%以上、更に好ましくは65%以上である。本明細書における保温率の値は、JIS L 1096の8.27に準拠した測定方法により得られる値である。
【0073】
図示しないが、一実施形態に係る衣料製品は、モール糸10aを含んでなる布帛を備える製品である。例えば、トップス、ズボン、スカート、アウターウェア、下着、寝間着、帽子、手袋又は靴下等の製品が挙げられる。花糸33が芯糸20から抜け落ちにくいというモール糸10aの特性を活かす観点では、モール糸10aを含んでなる布帛を備える衣料製品は、日常的に繰り返し洗濯される一般衣料品であることが好ましい。また、モール糸10aによる保温性、軽量性及び通気性を活かす観点では、モール糸10aを含んでなる布帛を備える衣料製品は、従来のフリース素材の衣料に代替する衣料製品であることが更に好ましい。フリース素材の衣料に代替する衣料製品である場合、該衣料製品の質量は200g以上450g以下であることが好ましい。
【0074】
<他の実施形態2乃至8>
以下、
図8乃至
図13を参照し、他の実施形態に係るモール糸(10b乃至10g)を説明する。これらのモール糸(10b乃至10g)は、それぞれ、前述したモール糸10a(
図7(a))と概ね同様の構成及び作用効果を有する。モール糸10aと共通する事項の説明は概ね省略し、異なる事項を主に説明する。
【0075】
図8(a)に示す実施形態2に係るモール糸10bは、1本の鎖編みされた芯糸20と、該芯糸20に把持された複数の花糸30bとを含む。該複数の花糸30bに含まれる各々の花糸33は、芯糸20に形成され絞られたループ25内で挟まれた固定部37が2つ形成されている。モール糸10bは、例えば、
図5及び
図6を用いて説明した製造方法(n=3の場合)において、第三ウェール(第nウェール)で製造可能である。つまり、モール糸10bにおける各々の花糸33は、第二の長い花糸32に由来し得るものであり、第一の先端35a及び第二の先端35bを共に
図8(a)紙面上側(一方側)を向けている。一方、モール糸10bは、
図8(a)紙面下側(他方側)に先端を向けた花糸を含んでいない。
図8(b)では、モール糸10bにおける各々の花糸33の位置関係を説明するために、
図8(a)に示すモール糸10bから芯糸20を除いた状態での複数の花糸30bを示している(
図8の(a)と(b)との関係は、以下、後述する
図9乃至
図13の各々の(a)と(b)との関係でも同様である)。
図8(a)及び
図8(b)から明らかなように、モール糸10bの長尺方向に沿う方向Xでは、芯糸20と各々の花糸33とが束ねられた複合部40と、芯糸20のみの部分とが、交互に繰り返し連なっている。モール糸10bは、紙面上側(一方側)では花糸33により嵩高い外観となるが、紙面下側(他方側)には花糸がないため、前述のモール糸10a(
図7(a))と比べて軽量である。
【0076】
図9(a)に示す実施形態3に係るモール糸10cは、1本の鎖編みされた芯糸20と、該芯糸20に把持された複数の花糸30cとを含む。該複数の花糸30cに含まれる各々の花糸33は、芯糸20に形成され絞られたループ25内で挟まれた固定部37が2つ形成されている。上述のモール糸10b(
図8(a)及び
図8(b))と比べて、モール糸10c(
図9(a)及び
図9(b))は、概ね同様に構成されているが、第一の先端35aが紙面上側(一方側)を向き且つ第二の先端35bが紙面下側(他方側)を向いている点で異なっている。モール糸10cは、紙面上側(一方側)及び紙面下側(他方側)の双方で花糸33により嵩高い外観となり、且つ、前述のモール糸10a(
図7(a)及び
図7(b))と比べて花糸33の量が少ないため軽量である。
【0077】
図10(a)に示す実施形態4に係るモール糸10dは、1本の鎖編みされた芯糸20と、該芯糸20に把持された複数の花糸30dとを含む。該複数の花糸30dに含まれる各々の花糸33は、芯糸20に形成され絞られたループ25内で挟まれた固定部37が2つ形成されている。モール糸10dにおける各々の花糸33では、
図10(b)に示すように、第一の先端35aが紙面上側(一方側)を向き、第二の先端35bが紙面下側(他端側)を向いている。前述したモール糸10a(
図7(a)及び
図7(b))と比べて、モール糸10dは、例えば、製造過程で使用した第一の長い花糸と第二の花糸とで物性が異なっている場合でも、紙面上側(一方側)と紙面下側(他方側)とで柔らかさや風合い等の特性が略均一になりやすい。
【0078】
図11(a)に示す実施形態5に係るモール糸10eは、1本の鎖編みされた芯糸20と、該芯糸20に把持された複数の花糸30eとを含む。該複数の花糸30eに含まれる各々の花糸33は、芯糸に形成され絞られた複数のループのうち3つのループ内をくぐって固定部37が3つ形成されており(
図11(b))、第一の先端35a及び第二の先端35bを共に紙面上側(一方側)を向けている。モール糸10eの長尺方向に沿う方向Xでは、各々の花糸33が芯糸20と共に束ねられた複合部40と、芯糸20のみの部分とが、交互に繰り返し連なっている。モール糸10eでは各々の花糸33が3つの固定部37を有するため、前述のモール糸10b(
図8(a)及び
図8(b))のように各々の花糸33に2つの固定部を有する場合と比べて、花糸33が芯糸20から更に脱落しにくくなっている観点から好ましい。
【0079】
図12(a)に示す実施形態6に係るモール糸10fは、1本の鎖編みされた芯糸20と、該芯糸20に把持された複数の花糸30fとを含む。該複数の花糸30fに含まれる各々の花糸33は、固定部37が3つ形成されている(
図12(b))。モール糸10fにおける各々の花糸33は、第一の先端35aを紙面上側(一方側)に向け、第二の先端35bを紙面下側(他方側)に向けており、この点を除けばモール糸10fは前述のモール糸10e(
図12(a))と同様に構成されている。
【0080】
図13(a)に示す実施形態7に係るモール糸10gは、1本の鎖編みされた芯糸20と、該芯糸20に把持された複数の花糸30fとを含む。該複数の花糸30fに含まれる各々の花糸33は、固定部37が3つ形成されている(
図13(b))。モール糸10gの長尺方向に沿う方向Xでは、各々の花糸33が芯糸20と共に束ねられた複合部40が繰り返し連なっており、この点を除けばモール糸10gは前述のモール糸10e(
図11(a))と同様に構成されている。
【0081】
本発明に係るモール糸は、花糸が芯糸から脱落しにくい観点から、各々の花糸に固定部が好ましくは2つ以上、更に好ましくは3つ以上形成されていることが望ましい。製造工程の複雑化を避ける観点では、本発明に係るモール糸は、各々の花糸に固定部が5つ以下又は4つ以下形成されていてもよい。
【0082】
本明細書により開示される事項には、以下のものが含まれる。
(1)
芯糸と、該芯糸に把持された複数の花糸と、を含むモール糸であって、
前記芯糸は複数の第1の長繊維を含んでなり、各々の第1の長繊維は単繊維繊度が0.3dtex以上5.0dtex以下であり、
各々の花糸は複数の第2の長繊維を含んでなり且つ前記芯糸に把持された固定部が形成され、各々の第2の長繊維は単繊維繊度が0.3dtex以上8.0dtex以下であり、
前記モール糸の長尺方向と前記各々の花糸の長手方向とが水平に沿う方向を向いているときに、前記芯糸と前記各々の第2の長繊維の先端との間の直線距離を前記各々の第2の長繊維の高さT1とし、さらに、前記各々の第2の長繊維が前記モール糸の長尺方向と直交する方向に沿って直線状となるように引き伸ばされているときにおける前記芯糸と前記各々の第2の長繊維の先端との間の直線距離を前記各々の第2の長繊維の高さT2とする場合に、前記高さT1の前記高さT2に対する比(前記高さT1/前記高さT2)が0.88以上である、モール糸。
(2)
前記芯糸は、仮撚捲縮加工されており且つ捲縮率が3%以上40%以下である、前記(1)に記載されたモール糸。
(3)
前記固定部どうしの間隔が、0.5mm以上2.0mm以下となるように、前記各々の花糸が前記芯糸に把持された、前記(1)又は(2)に記載されたモール糸。
(4)
前記各々の花糸に2つ以上の前記固定部が形成されるように、前記各々の花糸が前記芯糸に把持された、前記(1)乃至(3)のいずれかに記載されたモール糸。
(5)
前記各々の第2の長繊維は異型断面を有し、繊維断面に中空部が形成された中空繊維、繊維断面が略扁平状である扁平繊維、及び、繊維断面が溝を形成された形状で且つ繊維軸方向に沿って繊維断面の形状が変化している仮撚捲縮加工繊維から選択された1種以上の長繊維である、前記(1)乃至(4)に記載されたモール糸。
(6)
前記高さT1が1.5mm以上15.0mm以下である、前記(1)乃至(5)のいずれかに記載されたモール糸。
(7)
前記複数の第1の長繊維及び前記複数の第2の長繊維の少なくとも一方は、エステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/またはエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物を共重合させたポリエステル系繊維を含む、前記(1)乃至(6)のいずれかに記載されたモール糸。
(8)
前記複数の第1の長繊維及び前記複数の第2の長繊維の少なくとも一方は、ケミカルリサイクル又はマテリアルリサイクルされたポリエステル系繊維を含む、前記(1)乃至(7)のいずれかに記載されたモール糸。
(9)
総繊度が550dtex以上1,000dtex以下である、前記(1)乃至(8)のいずれかに記載されたモール糸。
(10)
繊維脱落率が0.8%以下である、前記(1)乃至(9)のいずれかに記載されたモール糸。
(11)
前記(1)乃至(10)のいずれかに記載されたモール糸を含んでなる布帛。
(12)
目付けが200g/m2以上350g/m2以下である、前記(11)に記載された布帛。
(13)
拡散性残留水分率が10%以下に至る時間が80分以下である、前記(11)又は(12)に記載された布帛。
(14)
通気度が100cc/(cm2・秒)以上である、前記(11)乃至(13)のいずれかに記載された布帛。
(15)
前記(11)乃至(14)のいずれかに記載された布帛を備える、衣料製品。
(16)
前記(11)乃至(14)のいずれかに記載された布帛又は前記(15)に記載された衣料製品を製造するためのモール糸。
【0083】
本発明では、以上に説明した実施形態などに限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正又は変形を加えた態様でも実施することができる。本発明では、同一の作用又は効果を生じる範囲内で、いずれかの特定事項を他の技術に置換した形態で実施してもよい。
【実施例0084】
以下に幾つか実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0085】
芯糸:仮撚捲縮加工糸A1
ポリエチレンテレフタレート(艶消し剤の含有率0.3質量%、セミダル(SD))を用いて、通常の紡糸装置から280℃で溶融紡糸し、2,800m/分の速度で引き取り、延伸することなく巻き取り、半延伸されたマルチフィラメント糸を得た。このマルチフィラメント糸には、36本のPET長繊維が含まれており、各々の長繊維の断面形状は円形であった。このマルチフィラメント糸を、延伸倍率1.6倍、仮撚数2,500T/m(S方向)、ヒーター温度180℃、糸速350m/分の条件で延伸加工と仮撚捲縮加工とを同時に行い、総繊度84dtex/36本である仮撚捲縮加工糸A1(PET SD84T36、捲縮率20%)を試作した。この糸A1に含まれるPET長繊維の単繊維繊度は、約2.3dtexである。
【0086】
芯糸:仮撚捲縮加工糸A2
ポリエチレンテレフタレート(艶消し剤の含有率0.3質量%)を用いて、通常の紡糸装置から280℃で溶融紡糸し、2,800m/分の速度で引き取り、延伸することなく巻き取り、半延伸されたマルチフィラメント糸を得た。
このマルチフィラメント糸から、S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸と、Z方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸と、を製した。具体的には、延伸倍率1.6倍、仮撚数2,500T/m(S方向又はZ方向)、ヒーター温度180℃、糸速350m/分の条件で延伸加工と仮撚捲縮加工とを同時に行い、トルクの方向が異なる2種類の仮撚捲縮加工糸を得た。
次に、S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸と、Z方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸と、を合糸して空気交絡処理を行った。この空気交絡処理は、インターレースノズルを用いたインターレース加工であり、オーバーフィード率1.0%、圧空圧0.3MPa(3kgf/cm2)で50個/mの交絡を付与し、複合糸としての仮撚捲縮加工糸A2(PET SD66T72、捲縮率28%)を試作した。この糸A2は、総繊度66dtex/72本、トルク0T/mであり、糸A2に含まれるPET長繊維の単繊維繊度は、約0.92dtexである。
【0087】
比較対象の芯糸:非捲縮糸A3、A4
非捲縮糸A3として、ナイロン6製であり、総繊度56dtex/17本であるマルチフィラメント糸(NY6 56T/17)を準備した。また、非捲縮糸A4として、ナイロン6製であり、総繊度78dtex/24本であるマルチフィラメント糸(NY6 78T/24)を準備した。これらの糸A3及びA4は、実質的に捲縮を有しておらず、含まれるNY6長繊維の単繊維繊度が約3.3dtexであった。
【0088】
花糸:仮撚捲縮加工糸B1:
仮撚捲縮加工糸A1と比べて、SDの代わりにカチオン可染性共重合ポリエチレンテレフタレート(5-ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合、艶消し剤の含有率0.3質量%、CD)を用い、長繊維の本数を変更し、延伸倍率を変更したこと以外は、同様の試作条件により、総繊度66dtex/72本である仮撚捲縮加工糸B1(PET CD84T72、捲縮率8%)を試作した。この糸B1に含まれるPET長繊維の単繊維繊度は、約1.2dtexである。
【0089】
花糸:仮撚捲縮加工糸B2
ポリエチレンテレフタレート(艶消し剤の含有率0.3質量%、フルダル(FD))を用いて、通常の紡糸装置から280℃で溶融紡糸し、2,800m/分の速度で引き取り、延伸することなく巻き取り、半延伸されたマルチフィラメント糸を得た。このマルチフィラメント糸は、単繊維が十字形の断面形状を有するものである。このマルチフィラメント糸を、仮撚数2,633T/m、ヒーター温度(第1ヒーター160℃、第2ヒーター170℃)、糸速140m/分の条件の2ヒーター仮撚捲縮加工方式により、延伸加工と仮撚捲縮加工とを同時に行い、総繊度84dtex/72本である仮撚捲縮加工糸B2(PET FD84T72、捲縮率9.4%)を試作した。この糸B2に含まれる各々のPET長繊維は、単繊維繊度が1.2dtexであり、十字形の断面を有している。
【0090】
花糸:仮撚捲縮加工糸B3
ポリエチレンテレフタレート(艶消し剤の含有率0.3質量%、フルダル(FD))を用いて、通常の紡糸装置から280℃で溶融紡糸し、2,800m/分の速度で引き取り、延伸することなく巻き取り、半延伸されたマルチフィラメント糸を得た。このマルチフィラメント糸は、単繊維が扁平な断面形状を有するものである。このマルチフィラメント糸を、仮撚数2,633T/m、ヒーター温度(第1ヒーター160℃、第2ヒーター170℃)、糸速140m/分の条件の2ヒーター仮撚捲縮加工方式により、延伸加工と仮撚捲縮加工とを同時に行い、総繊度84dtex/30本である仮撚捲縮加工糸B3(PET FD84T30、捲縮率2.5%)を試作した。この糸B5に含まれる各々のPET長繊維は、単繊維繊度が2.8dtexであり、扁平な断面を有している。
【0091】
比較対象の花糸:非捲縮糸B4、B5
非捲縮糸B4として、レーヨン製で総繊度84dtex/50本である市販のマルチフィラメント糸(レーヨン 84T/50)を準備した。この糸B4に含まれるレーヨン長繊維の単繊維繊度は、約1.7dtexである。また、非捲縮糸B5として、レーヨン製で総繊度84dtex/24本である市販のマルチフィラメント糸(レーヨン 84T/24)を準備した。この糸B5に含まれるレーヨン長繊維の単繊維繊度は、3.5dtexである。糸B4及びB5の各々に含まれるレーヨン長繊維は、実質的に捲縮を有していなかった。
【0092】
次の表1に示すように、前述した糸A1乃至A4のいずれかを芯糸とし、前述した糸B1乃至B5のいずれかを花糸とする組み合わせ(実施例1乃至9、並びに比較例10及び11の各々)にて、前述したモール糸の製造方法でn=4以上の場合における工程S1乃至S5を経て、最も右端に位置するウェールと最も左端に位置するウェールとを除き、各ウェールで製されたモール糸を、実施例又は比較例に係るモール糸として採用した。つまり、試作したモール糸はいずれも、1本の鎖編みされた芯糸と、この芯糸に把持された複数本の花糸と、を含むモール糸である。この試作にあたり、芯糸と花糸との熱融着は行わなかった。実施例4乃至9、並びに比較例10及び11の各々に係るモール糸について、顕微鏡写真を
図14に示す。試作した各モール糸について、使用した芯糸及び花糸のそれぞれに含まれる各長繊維の単繊維繊度と、花糸に含まれる各長繊維について前述した方法で測定した比(高さT1/高さT2)とを、次の表1に示す。
【0093】
【0094】
試作した実施例1乃至9、並びに比較例10及び11の各々に係るモール糸について、花糸に含まれる各長繊維の高さT1、高さT2及び曲率半径を測定し、並びに、芯糸における花糸の固定部どうしの間隔を測定し、次の表2に示す。
【0095】
【0096】
実施例1乃至9、並びに比較例10及び11の各々について、試作したモール糸のみを材料として用い、常法により、
図15(a)及び
図15(b)に示す組織を有するメッシュ編地を試作した。試作した各々の編地(モール糸のみからなる布帛)について、前述した測定方法により、目付け、繊維脱落率、通気度及び保温率を計測し、次の表3に示す。
【0097】
【0098】
表1乃至表3より、実施例1乃至9では、比較例10及び11と比べて、布帛における保温率が高く、繊維脱落率が著しく低く抑えられていることが示唆された。比較例10と比べると、実施例1乃至9では、目付けの値が比較的に低く(比較的軽量で)、通気度が高いことが示唆された。
【0099】
また、実施例1乃至9、並びに比較例10及び11の各々について、試作したモール糸のみを材料として用い、常法により、
図15(a)及び
図15(b)に示す組織を有するメッシュ編地で主に構成された、成人男性用サイズの無縫製シャツ(ホールガーメント)を試作した(
図15(c)参照)。これら試作したシャツは、いずれも、質量が200g以上450g以下の範囲内にある軽量なものであった。比較例10又は11のモール糸から試作したシャツについては、冬季の屋外で試着したときに、従来のフリース素材による市販のシャツに似た程度の暖かさが感じられた。一方、実施例1乃至5のモール糸から試作したシャツや、実施例7乃至9のモール糸から試作したシャツでは、冬季の屋外で試着したときに、従来のフリース素材による市販のシャツと比べて、更に暖かく感じやすかった。