(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015232
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】研磨装置及び研磨方法
(51)【国際特許分類】
B24B 7/24 20060101AFI20250123BHJP
B24B 55/06 20060101ALI20250123BHJP
B24B 41/06 20120101ALI20250123BHJP
B24B 7/06 20060101ALI20250123BHJP
B24B 37/04 20120101ALI20250123BHJP
【FI】
B24B7/24 A
B24B55/06
B24B41/06 B
B24B7/06
B24B37/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118507
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蓑輪 元
(72)【発明者】
【氏名】上田 康彦
(72)【発明者】
【氏名】早川 俊文
(72)【発明者】
【氏名】木下 孝治
【テーマコード(参考)】
3C034
3C043
3C047
3C158
【Fターム(参考)】
3C034AA07
3C034AA13
3C034BB76
3C034BB85
3C034DD08
3C034DD09
3C043BA02
3C043BA07
3C043BA08
3C043BB05
3C043CC07
3C043CC11
3C043CC13
3C043DD02
3C043DD05
3C043DD12
3C047FF08
3C047FF19
3C047HH15
3C158AA07
3C158AA14
3C158AB01
3C158AB03
3C158AB04
3C158AC04
3C158AC05
3C158CB05
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
3C158ED11
(57)【要約】
【課題】板状物を搬送しながら研磨する研磨装置、及び当該研磨装置を用いた研磨方法であって、高精度な研磨加工を可能とし、且つランニングコストの低減を図ることができる研磨装置、及び研磨方法を提供する。
【解決手段】板状物Gを搬送しながら研磨する研磨装置1であって、板状物Gの下面Ga2(一方の主面Ga)を支持した状態で当該板状物Gを搬送する搬送ベルト23と、前記板状物Gの搬送方向に延出し、当該搬送ベルト23を介して前記板状物Gの一方の主面Gaを支持する板状の支持部材24と、前記板状物Gの上面Ga1(他方の主面Ga)を研磨する研磨部(研磨手段)3とを備え、前記搬送ベルト23は、前記支持部材24上を摺動し、前記支持部材24との摺動側の面において保護膜Zを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状物を搬送しながら研磨する研磨装置であって、
板状物の一方の主面を支持した状態で当該板状物を搬送する搬送ベルトと、
前記板状物の搬送方向に延出し、当該搬送ベルトを介して前記板状物の一方の主面を支持する板状の支持部材と、
前記板状物の他方の主面を研磨する研磨手段とを備え、
前記搬送ベルトは、前記支持部材上を摺動し、前記支持部材との摺動側の面において保護膜を有する、
ことを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
前記搬送ベルトは、樹脂製部材からなる、
ことを特徴とする、請求項1に記載の研磨装置。
【請求項3】
前記保護膜は、金属の酸化被膜及び/または金属膜である、
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の研磨装置。
【請求項4】
前記支持部材は、金属からなり、
前記保護膜は、当該金属を含む酸化被膜及び/または金属膜である、
ことを特徴とする、請求項3に記載の研磨装置。
【請求項5】
前記搬送ベルトにおける前記支持部材との摺動側の面を、洗浄水によって洗浄する洗浄手段をさらに備え、
前記洗浄水の塩素濃度は、10ppm以上である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の研磨装置。
【請求項6】
支持部材によって、搬送ベルトを介して板状物の一方の主面を支持するとともに、
研磨手段によって、当該板状物の他方の主面を研磨する研磨方法であって、
前記支持部材上を摺動し、当該支持部材との摺動側の面に、金属の酸化被膜及び/または金属膜からなる保護膜を有する前記搬送ベルトによって、前記板状物を搬送する、
ことを特徴とする研磨方法。
【請求項7】
支持部材によって、搬送ベルトを介して板状物の一方の主面を支持するとともに、
研磨手段によって、当該板状物の他方の主面を研磨しつつ、
前記搬送ベルトにおける前記支持部材との摺動側の面を、洗浄水によって洗浄する洗浄手段をさらに備える研磨方法であって、
前記洗浄水の塩素濃度が10ppm以上である、
ことを特徴とする研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば薄板ガラス等からなる板状物の研磨装置、及び当該研磨装置を用いた板状物の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、薄板ガラス等からなる板状物の製造工程において、形成された板状物の平滑性を高めるために当該板状物の主面を研磨(または研削)する研磨装置の一例として、例えば、水平姿勢の状態で複数の板状物を一方向に搬送しながら、各板状物を連続して研磨する研磨装置が知られている(例えば、「特許文献1」を参照)。
上記研磨装置は、主に、水平方向且つ一方向を搬送方向とする無端状のコンベアベルト(搬送ベルト)と、当該搬送方向に延出し、上面において搬送ベルトの上部領域が摺動するベルト受台(支持部材)と、搬送ベルトの直上に配置される研磨工程(研磨手段)とを備えている。
また、研磨手段は、軸心方向を上下方向とするディスク状の回転研磨具(研磨パッド)と、当該研磨パッドに対して所定の研磨剤を供給可能な供給手段とを有し、当該研磨パッドは、軸心を中心にして回転可能、且つ上下移動可能に構成されている。
【0003】
そして、搬送ベルトは、搬送方向に移動する上記の上部領域(以下、適宜「搬送経路」と記載)と、当該搬送方向との逆方向に移動する下部領域(以下、適宜「リターン経路」と記載)とを有しており、複数の板状物は、当該搬送経路上に水平姿勢の状態で載置されて順に搬送されるとともに、研磨手段を通過する際、回転する研磨パッドを上方より押し当てられる。
これにより、複数の板状物は、研磨装置によって、一方向に搬送されながら順に研磨される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで前述したように、従来の研磨装置においては、支持部材の上面を摺動する搬送ベルトの搬送経路(上部領域)によって板状物が搬送されるとともに、当該板状物は、研磨装置を通過する際、研磨パッドを上方より押し当てられる。つまり、搬送ベルトの搬送経路は、板状物を介して研磨パッドによって加圧される。
従って、搬送ベルトの搬送経路と、支持部材との間の摩擦抵抗は増加し、当該搬送ベルトにおいて摩耗が発生し易くなる。
その結果、所望の強度が維持できなくなり、搬送ベルトの交換が必要となる交換周期が早まり、研磨装置のランニングコストが増大する要因となっていた。
【0006】
本発明は、以上に示した現状の問題点に鑑みてなされたものであり、板状物を搬送しながら研磨する研磨装置、及び当該研磨装置を用いた研磨方法であって、ランニングコストの低減を図ることができる研磨装置、及び研磨方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、本発明の態様1に係る研磨装置は、板状物を搬送しながら研磨する研磨装置であって、板状物の一方の主面を支持した状態で当該板状物を搬送する搬送ベルトと、前記板状物の搬送方向に延出し、当該搬送ベルトを介して前記板状物の一方の主面を支持する板状の支持部材と、前記板状物の他方の主面を研磨する研磨手段とを備え、前記搬送ベルトは、前記支持部材上を摺動し、前記支持部材との摺動側の面において保護膜を有することを特徴とする。
このような構成を有することにより、本発明に係る研磨装置によれば、支持部材上を摺動する搬送ベルトにおいて、摺動側の面に保護膜を設けることにより、当該搬送ベルトの搬送経路と、支持部材との間の摩擦抵抗は軽減し、当該搬送ベルトにおいて摩耗を抑制することができる。
従って、搬送ベルトにおける所望の強度を維持し、当該搬送ベルトの交換周期を延長することができ、研磨装置のランニングコストの低減を図ることができる。
【0009】
また、本発明の態様2に係る研磨装置は、上記態様1において、前記搬送ベルトは、樹脂製部材からなることを特徴とする。
このような構成を有することにより、板状物を傷付けることなく、当該板状物との間で生じる適度な摩擦力により安定して保持しつつ、搬送ベルトによって板状物を搬送することができる。
【0010】
また、本発明の態様3に係る研磨装置は、上記態様1または態様2において、前記保護膜は、金属の酸化被膜及び/または金属膜であることを特徴とする。
このような構成を有することにより、搬送ベルトにおける摺動側の面と、支持部材との間の摩擦抵抗を軽減し、当該搬送ベルトに生じる摩耗をより確実に抑制することができる。
【0011】
また、本発明の態様4に係る研磨装置は、上記態様3において、前記支持部材は、金属からなり、前記保護膜は、当該金属を含む酸化被膜及び/または金属膜であることを特徴とする。
このように、支持部材と同種の金属を含む酸化被膜及び/または金属膜によって保護膜が形成されることにより、搬送ベルトにおける摺動側の面と、支持部材との間の摩擦係数が減少し、当該搬送ベルトに生じる摩耗をより確実に抑制することができる。
【0012】
また、本発明の態様5に係る研磨装置は、上記態様1において、前記搬送ベルトにおける前記支持部材との摺動側の面を、洗浄水によって洗浄する洗浄手段をさらに備え、前記洗浄水の塩素濃度は、10ppm以上であることを特徴とする。
このような塩素濃度を有した洗浄水を用いて洗浄する洗浄手段を設けることにより、支持部材に対して、より確実に金属の酸化被膜を生じさせることができ、当該金属の酸化被膜を搬送ベルトに付着させることにより、搬送ベルトの内周面において、金属の酸化被膜からなる保護膜を、より安価に形成することができる。
【0013】
また、本発明の態様6に係る研磨方法は、支持部材によって、搬送ベルトを介して板状物の一方の主面を支持するとともに、研磨手段によって、当該板状物の他方の主面を研磨する研磨方法であって、前記支持部材上を摺動し、当該支持部材との摺動側の面に、金属の酸化被膜及び/または金属膜からなる保護膜を有する前記搬送ベルトによって、前記板状物を搬送することを特徴とする。
このような構成を有することにより、本発明に係る研磨方法によれば、支持部材上を摺動する搬送ベルトにおいて、摺動側の面に保護膜を設けることにより、当該搬送ベルトに生じる摩耗を抑制することができる。
従って、搬送ベルトの摩耗を抑制することで、当該搬送ベルトの交換周期を延長することができ、研磨装置のランニングコストの低減を図ることができる。
【0014】
また、本発明の態様7に係る研磨方法は、支持部材によって、搬送ベルトを介して板状物の一方の主面を支持するとともに、研磨手段によって、当該板状物の他方の主面を研磨しつつ、前記搬送ベルトにおける前記支持部材との摺動側の面を、洗浄水によって洗浄する洗浄手段をさらに備える研磨方法であって、前記洗浄水の塩素濃度が10ppm以上であることを特徴とする。
このような構成を有することにより、本発明に係る研磨方法によれば、支持部材に対して、洗浄手段より噴射される塩素濃度が10ppm以上の洗浄水を用いて、より確実に金属の酸化被膜を生じさせることができ、当該金属の酸化被膜を搬送ベルトに付着させることにより、搬送ベルトの内周面において、金属の酸化被膜からなる保護膜を、より安価に形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明に係る研磨装置、及び当該研磨装置を用いた研磨方法によれば、ランニングコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る研磨装置の全体的な構成を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の一実施形態について、
図1を用いて説明する。
なお、以下の説明においては便宜上、
図1中に示す矢印の方向によって、研磨装置1の前後方向、及び上下方向を規定して記述する。
また、
図1中における矢印Aの方向を、搬送部2の搬送方向と規定して記述する。
【0018】
[研磨装置1の全体構成]
先ず、本発明を具現化する研磨装置1の全体構成について説明する。
本実施形態における研磨装置1は、例えば、耐熱結晶化ガラス等の薄板ガラスからなる板状物Gの製造工程に設けられ、形成された板状物Gを搬送しつつ、当該板状物Gの主面Ga(本実施形態においては、上面Ga1)に対して、酸化セリウム等が含まれた研磨剤を供給しながら研磨パッド33を押し当てて、板状物Gを研磨(または研削)する装置である。
【0019】
なお、板状物Gの材質については、本実施形態のように、ガラス板に限定されるものではなく、セラミック板や樹脂板等、何れのものであってもよい。
また、板状物Gの形状についても、円板形状や多角形状など特に限定されないが、一般的に板状物Gは、矩形板状の部材である。
【0020】
研磨装置1は、主に、板状物Gを搬送する搬送部2と、搬送部2によって搬送される板状物Gを研磨する研磨部3とを備える。
また、研磨装置1は、後述する搬送ベルト23の内周部を洗浄する洗浄部4をさらに備える。
【0021】
搬送部2は、水平方向且つ一方向(本実施形態においては、左右方向)を軸心方向とする駆動プーリ21と、駆動プーリ21に対して搬送部2の搬送方向(矢印Aの方向)の上流側(本実施形態においては、後側)において、当該駆動プーリ21と平行に配置される従動プーリ22と、これらの駆動プーリ21及び従動プーリ22に巻回される無端状の搬送ベルト23と、搬送ベルト23の上部領域23aを支持する支持部材24とを備える。
【0022】
そして、駆動プーリ21には、駆動モータ等からなる第1駆動源(図示せず)が連結されており、当該第1駆動源によって、駆動プーリ21が軸心を中心にして所定方向X(本実施形態においては、反時計回り方向)に回転駆動されることにより、搬送ベルト23は、搬送方向に向かって上部領域23aを移動させるように回転される。
また、搬送ベルト23が回転されるのに伴い、従動プーリ22は、軸心を中心にして所定方向X(反時計回り方向)に回転される。
【0023】
搬送ベルト23は、例えばポリウレタンやポリエステル等からなる樹脂製部材からなることが好ましい。
搬送ベルト23は、駆動プーリ21及び従動プーリ22に巻回された状態において、搬送方向(本実施形態においては、前方向)に移動する上部領域23a(以下、適宜「搬送経路23a1」と記載)と、当該搬送方向との逆方向(本実施形態においては、後方向)に移動する下部領域23b(以下、適宜「リターン経路23b1」と記載)とを有する。
また、搬送ベルト23は、内周面において微細な厚みからなる保護膜Zを有する。
【0024】
なお、上記保護膜Zの構成の詳細については、後述する。
【0025】
そして、搬送ベルト23は、搬送経路23a1において、水平姿勢の状態で板状物Gを載置し、駆動プーリ21によって回転されることにより、当該板状物Gを搬送方向Aに向かって搬送する。
つまり、搬送ベルト23は、板状物Gの一方の主面Ga(本実施形態においては、下面Ga2)を支持した状態で、当該板状物Gを搬送する。
【0026】
このように、本実施形態においては、板状物Gを載置した状態で搬送する搬送ベルト23が、樹脂製部材によって形成されていることから、板状物Gを傷付けることなく、当該板状物Gとの間で生じる適度な摩擦力により安定して保持しつつ、搬送ベルト23によって板状物Gを搬送することができる。
【0027】
支持部材24は、鉄、鋼等からなる板状の金属からなることが好ましく、例えばS35C等からなる板状の一般構造用圧延鋼材からなることが好ましい。
なお、支持部材24の材質については、ステンレス等の合金鋼であってもよいが、この場合、当該支持部材24が酸化しにくいため、保護膜Zを形成しにくいことがある。
【0028】
支持部材24は、駆動プーリ21と従動プーリ22との間において、搬送方向に延出するように配置される。
また、支持部材24は、搬送ベルト23における搬送経路23a1の下面に対して、上面24aが接触した状態で配置される。
【0029】
そして、板状物Gが載置された搬送ベルト23が、駆動プーリ21によって回転されることにより、当該搬送ベルト23の搬送経路23a1は、支持部材24の上面24aを摺動する。
換言すると、支持部材24は、搬送ベルト23の搬送経路23a1を介して、上記板状物Gの一方の主面Ga(下面Ga2)を支持する。
【0030】
研磨部3は、本発明に係る研磨手段の一例であって、上下方向に移動(昇降)可能な本体部31と、本体部31の下面より下方に突出する複数(本実施形態においては、4本)の回転シャフト32・32・32・32と、これら複数の回転シャフト32・32・32・32の突出端部に各々設けられる研磨パッド33・33・33・33とを備える。
また、研磨部3は、各研磨パッド33に対して研磨剤を供給可能な供給手段(図示せず)を備える。
【0031】
本体部31において、複数の回転シャフト32・32・32・32は、互いに近接させた状態で、各々平行に配置されている。
また、これら複数の回転シャフト32・32・32・32には、駆動モータ等からなる第2駆動源(図示せず)が連結されており、当該第2駆動源によって、各回転シャフト32は、軸心を中心にして回転駆動可能に設けられている。
さらに、各研磨パッド33は、回転シャフト32と同軸上、且つ着脱可能に固定されている。
【0032】
そして、研磨部3は、搬送部2(より具体的には、搬送ベルト23)の直上に配置されており、搬送ベルト23によって搬送される板状物Gが、当該研磨部3の直下を通過する際、回転シャフト32・32・32・32を介して複数の研磨パッド33・33・33・33を各々回転駆動させた状態で、上記供給手段によって研磨剤を供給しつつ、当該複数の研磨パッド33・33・33・33を板状物Gに押し当てる。
これにより、板状物Gは、搬送部2によって搬送されつつ、研磨部3によって他方の主面Ga(上面Ga1)が研磨される。
【0033】
洗浄部4は、本発明に係る洗浄手段の一例であって、洗浄水Lを噴射するノズル41と、配管部材やポンプ等を介してノズル41と連結される洗浄タンク(図示せず)とを有する。
【0034】
ノズル41は、搬送ベルト23の内周側、且つ従動プーリ22の近傍において、リターン経路23b1における、従動プーリ22に進入する直前の領域(以下、適宜「進入領域Y」と記載)にノズル口41aを向けた状態で配置されている。
【0035】
そして、ノズル41より噴射される洗浄水Lによって、搬送ベルト23の内周部は、搬送経路23a1の搬送方向上流側(本実施形態においては、後側)に対して、より近傍に位置するリターン経路23b1の進入領域Yにて洗浄され、当該搬送経路23a1における支持部材24との摺動側の面(即ち、搬送経路23a1の下面)に付着する研磨剤や研磨屑等を優先的に除去する構成となっている。
【0036】
ここで、上述したように、本実施形態においては、搬送ベルト23によって搬送される板状物Gに対して、上方より研磨パッド33を押し当てることにより、当該板状物Gを研磨する構成となっていることから、搬送ベルト23の搬送経路23a1は、板状物Gを介して研磨パッド33によって下向きに加圧されることとなる。
【0037】
よって、研磨パッド33に供給される研磨剤や、研磨後の研磨屑などが、搬送経路23a1と支持部材24との間に侵入した場合、搬送ベルト23の内周面や支持部材24の上面24aに、摩耗、特に、偏摩耗が発生し易くなる。
従って、搬送ベルト23の内周面に付着した状態で、搬送経路23a1に進入する研磨剤や研磨屑等を除去することは、搬送ベルト23や支持部材24の摩耗や偏摩耗を抑制するうえで重要である。
【0038】
このようなことから、本実施形態においては、上述したように、搬送ベルト23(より具体的には、搬送経路23a1)における支持部材24との摺動側の面(搬送経路23a1の下面)を、洗浄水Lによって洗浄する洗浄部4をさらに備える構成となっている。
このような構成を有することにより、搬送方向に移動する搬送経路23a1と、支持部材24の上面24aとの間において、研磨剤や研磨屑等が侵入するのを防止し、搬送ベルト23や支持部材24に発生する摩耗や偏摩耗を抑制することができる。
【0039】
ところで、上述したように、支持部材24は金属からなり、また、支持部材24の上面24aを摺動する搬送ベルト23は樹脂製部材からなるため、研磨パッド33によって下向きに加圧される、搬送ベルト23の搬送経路23a1においては、支持部材24に比べて、摩耗や偏摩耗の発生がより促進されることとなる。
【0040】
一方、ノズル41から噴射される洗浄水Lの一部は、搬送ベルト23より滴下することなく当該搬送ベルト23の内周面に液滴となって付着して、搬送経路23a1へと送られる。
その結果、搬送ベルト23の内周面に付着した洗浄水Lは、支持部材24の上面24aに供給され、当該上面24aに錆等からなる金属の酸化被膜を生じさせる。
【0041】
このようなことから、本実施形態においては、研磨パッド33によって下向きに加圧された状態において、支持部材24の上面24aに対して搬送ベルト23(より具体的には搬送経路23a1)を摺動させることにより、当該上面24aに生じた金属の酸化被膜を、搬送ベルト23の内周面に擦り付けて付着させ、微細な厚みからなる保護膜Zを形成することとしている。
【0042】
なお、保護膜Zは、支持部材24の上面24aに、搬送ベルト23の内周面が擦り付けられることによって形成された金属膜であってもよく、搬送ベルト23の内周面に形成された当該金属膜が、上記液滴と反応して形成される酸化被膜であってもよい。
また、保護膜Zは、上記金属の酸化被膜、及び金属膜の何れか一方のみによって形成されていてもよく、両方によって形成されていてもよい。
【0043】
このように、本実施形態における搬送ベルト23においては、支持部材24との摺動側の面である内周部の全領域に亘って、保護膜Zを形成することとしており、当該保護膜Zは、支持部材24の上面24aに生じた錆等からなる金属の酸化被膜、搬送ベルト23の内周面が、支持部材24の上面24aに擦り付けられることで形成される金属膜、及び/または搬送ベルト23の内周面に形成された当該金属膜が、上記液滴と反応して形成される金属の酸化被膜等を主成分として構成されている。
なお、当該保護膜Zは、例えば、スパッタリング等の成膜装置により形成される金属膜を含んでいてもよい。
【0044】
このような構成を有することにより、樹脂製部材からなる搬送ベルト23において、保護膜Zを形成することなく樹脂製部材を露出させた状態に比べて、支持部材24との摺動側の面である内周面の硬度を、保護膜Zによって向上させることができ、金属からなる支持部材24に対して、当該搬送ベルト23に生じる摩耗をより確実に抑制することができる。
【0045】
また、上述したように、支持部材24は、鉄や鋼等、より具体的には、例えばS35C等からなる一般構造用圧延鋼材からなり、保護膜Zは、当該金属を含む酸化被膜、及び/または金属膜として形成されている。
また、保護膜Zの組成は、EPMA(電子線マイクロアナライザー)で測定することができる。
【0046】
ここで、上記酸化被膜は、例えば、金属の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物等を含む。
【0047】
このように、支持部材24と同種の金属を含む酸化被膜、及び/または金属膜によって保護膜Zが形成されることにより、搬送ベルト23における摺動側の面(内周面)と、支持部材24との間の摩擦係数が減少し、当該搬送ベルト23に生じる摩耗をより確実に抑制することができる。
【0048】
なお、保護膜Zの厚みは、0.1μm~600μmであることが好ましく、1μm~400μmであることがより好ましく、30~200μmであることがさらに好ましい。
このような構成を有することにより、当該搬送ベルト23に生じる摩耗をより確実に抑制することができる。
【0049】
さらに、本実施形態においては、搬送ベルト23の内周面を洗浄する洗浄水Lによって、支持部材24の上面24aに金属の酸化被膜を生じさせることで、当該酸化被膜を搬送ベルト23の内周面に擦り付けて付着させたり、搬送ベルト23の内周面に擦り付けられた、支持部材24の上面24a由来の金属膜を金属の酸化物に変化させことができるため、金属の酸化被膜からなる保護膜Zを、より安価に形成することができる。
【0050】
保護膜Zを形成する上で、搬送ベルト23の内周面に酸化被膜を形成し易くするために、本実施形態においては、洗浄水Lの塩素濃度が10ppm以上に設定されている。
なお、洗浄水Lの塩素濃度は、20ppm以上であることがより好ましい。
【0051】
このような塩素濃度を有した洗浄水Lであれば、支持部材24及び搬送ベルト23の内周面において、より短期間、且つ確実に、金属の酸化被膜を生じさせることができ、搬送ベルト23の内周面において、当該金属の酸化被膜からなる保護膜Zをより安価に形成することができる。
なお、塩素濃度が10ppm未満である場合、保護膜Zが形成されにくくなる。
【0052】
洗浄水Lの塩素濃度は、500ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましい。
洗浄水Lの塩素濃度が高すぎると、支持部材24において、錆が過剰に進行してしまう。その結果、例えば、却って搬送ベルト23の内周面の偏摩耗を誘発し、当該板状物の品質低下を引き起こすやすくなる。
【0053】
また、本実施形態においては、洗浄水Lの電導度が100mS/m以下に設定されており、50mS/m以下がより好ましい。
ここで、上記電導度は、洗浄水Lに混入された不純物の量を示す指標の一例であって、電導度の数値が小さいほど、不純物の量が少ないことを意味する。
【0054】
このような電導度に設定された洗浄水Lであれば、当該洗浄水Lに混入された不純物の量は十分少ないと判断することができ、搬送ベルト23と支持部材24との間に洗浄水Lが到達し、当該洗浄水L中に混入された不純物によって、搬送ベルト23及び支持部材24に摩耗や偏摩耗が発生するのを、効果的に抑制することができる。
【0055】
なお、洗浄水Lの電導度については、50mS/m以下であることがより好ましい。
また、絶縁性を有した不純物の量については、電導度のみによって把握することが困難であるが、このような絶縁性を有した不純物においても、搬送ベルト23及び支持部材24に摩耗や偏摩耗が発生するのを抑制する観点から、出来る限り洗浄水Lに混入されていないことが好ましい。
【0056】
[研磨装置1の作動手順]
次に、研磨装置1の作動手順について説明する。
【0057】
先ず始めに、搬送部2において、搬送ベルト23は、所定方向(搬送経路23a1が搬送方向(矢印Aの方向)に向かって移動する方向)に向かって回転された状態となっている。
また、研磨部3において、各回転シャフト32に固定された研磨パッド33は、回転動作を停止させた状態で、所定の上限位置にて待機した状態となっている。
さらに、洗浄部4において、ノズル41は、搬送ベルト23(より具体的には、リターン経路23b1の進入領域Y)の内周面に向かって、洗浄水Lを噴射させた状態となっている。
【0058】
そして、研磨装置1の搬送方向の上流側(本実施形態においては、後側)には、ローラコンベア等からなる上流側コンベア101が配置されており、当該上流側コンベア101によって搬送される板状物Gが所定位置に到達すると、研磨装置1は、研磨作業を開始する。
なお、上記所定位置については、例えば平面視において、板状物Gにおける搬送方向の下流側の端部(本実施形態においては、前端部)が、研磨部3に対して、当該搬送方向の上流側に僅かに離間する位置に設定されている。
【0059】
研磨作業が開始されると、研磨部3は、各回転シャフト32を回転駆動させて研磨パッド33を回転させるとともに、前述した供給手段(図示せず)よって各研磨パッド33に研磨剤を供給する。
その後、研磨部3は、本体部31を下降させ、複数(本実施形態においては、3個)の研磨パッド33・33・33を、所定の下限位置まで同時に変移させる。
【0060】
一方、上流側コンベア101によって搬送される板状物Gは、搬送ベルト23の搬送経路23a1に乗り移り、その後、当該搬送経路23a1によって、所定の搬送方向(矢印Aの方向)に向かって搬送される。
【0061】
その後、板状物Gは、研磨部3を通過する。
この際、板状物Gは、搬送方向の上流側に位置する研磨パッド33から順に、複数の研磨パッド33・33・33によって上面Ga1を加圧され、当該上面Ga1を研磨される。
【0062】
そして、平面視において、板状物Gにおける搬送方向の上流側の端部(本実施形態においては、後端部)が研磨部3を通過すると、当該研磨部3は、複数の研磨パッド33・33・33の回転動作を各々停止し、本体部31を上昇させて、これら複数の研磨パッド33・33・33を、所定の上限位置まで同時に変移させる。
また、研磨部3は、上記供給手段による研磨剤の供給を停止する。
これにより、研磨装置1による研磨作業は終了するとともに、研磨部3を通過した板状物Gは、研磨装置1の搬送方向の下流側(本実施形態においては、前側)に配置される下流側コンベア102に乗り移り、次工程へと搬送される。
【0063】
そして、後続して搬送される新たな板状物Gが、上記所定位置に到達することにより、上述した作動手順が再び繰り返されることとなる。
【実施例0064】
次に、洗浄水Lの実施例について説明する。
【0065】
先ず、実施例のサンプルとして、以下の表1に示すように、塩素濃度(Cl)が11.0ppmであり、且つ電導度(EC)が12mS/mである、所定の成分からなる洗浄液を用意した。
【0066】
【0067】
また、比較例のサンプルとして、以下の表2に示すように、塩素濃度(Cl)が6.1ppmであり、且つ電導度(EC)が6mS/mである、所定の成分からなる一般的な水道水を用意した。
【0068】
【0069】
そして、これらの洗浄水及び水道水を各々用いて、前述した研磨装置1を2週間稼働させ、その後、搬送ベルト23の内周面に形成された保護膜Zの形成状態を、目視によって確認した。
【0070】
上記洗浄液を用いた場合、搬送ベルト23の内周面には、略全領域に亘って保護膜Zが形成されていることを確認することができ、搬送ベルト23の内周面の摩耗がほとんど見られなかった。
一方、上記水道水を用いた場合、搬送ベルト23の内周面には、殆どの領域において保護膜Zが形成されていないことを確認することができ、保護膜Zが形成されていない部分では、搬送ベルト23が顕著に摩耗していた。
【0071】
以上のように、本実施形態における研磨装置1は、板状物Gを搬送しながら研磨する研磨装置であって、板状物Gの一方の主面Ga(より具体的には、下面Ga2)を支持した状態で当該板状物Gを搬送する搬送ベルト23と、板状物Gの搬送方向(矢印Aの方向)に延出し、当該搬送ベルト23を介して板状物Gの下面Ga2を支持する板状の支持部材24と、板状物Gの他方の主面Ga(より具体的には、上面Ga1)を研磨する研磨部(研磨手段)3とを備え、搬送ベルト23は、支持部材24上を摺動し、支持部材24との摺動側の面である内周面において保護膜Zを有することを特徴とする。
【0072】
また、本実施形態における研磨方法は、支持部材24によって、搬送ベルト23を介して板状物Gの一方の主面Ga(下面Ga2)を支持するとともに、研磨部(研磨手段)3によって、当該板状物Gの他方の主面Ga(より具体的には、上面Ga1)を研磨する研磨方法であって、支持部材24上を摺動し、当該支持部材24との摺動側の面である内周面に、金属の酸化被膜及び/または金属膜からなる保護膜Zを有する上記搬送ベルト23によって、板状物Gを搬送することを特徴とする。
【0073】
このような構成を有することにより、本実施形態における研磨装置1及び研磨方法によれば、支持部材24の上面24aを摺動する搬送ベルト23において、摺動側の面である内周面に保護膜Zを設けることにより、当該搬送ベルト23に生じる摩耗を抑制することができる。
従って、搬送ベルト23の摩耗を抑制することで、搬送ベルト23における所望の強度を維持し、当該搬送ベルト23の交換周期を延長することができ、研磨装置1のランニングコストの低減を図ることができる。
【0074】
さらに、本実施形態における研磨方法は、支持部材24によって、搬送ベルト23を介して板状物Gの一方の主面Ga(下面Ga2)を支持するとともに、研磨部(研磨手段)3によって、当該板状物Gの他方の主面Ga(より具体的には、上面Ga1)を研磨しつつ、支持部材24上を摺動する搬送ベルト23における当該支持部材24との摺動側の面を、洗浄水Lによって洗浄する洗浄部(洗浄手段)4をさらに備える研磨方法であって、当該洗浄水Lの塩素濃度が10ppm以上であることを特徴とする。
【0075】
このような構成を有することにより、本実施形態における研磨方法によれば、支持部材24に対して、洗浄部(洗浄手段)4より噴射される塩素濃度が10ppm以上の洗浄水Lを用いて、より確実に金属の酸化被膜を生じさせることができ、当該金属の酸化被膜を搬送ベルト23に付着させることにより、搬送ベルト24の内周面において、金属の酸化被膜からなる保護膜Zを、より安価に形成することができる。
【0076】
以上、本発明を具現化する一実施形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、及び範囲内の全ての変更を含む。