(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025152451
(43)【公開日】2025-10-09
(54)【発明の名称】車両のパワートレイン構造
(51)【国際特許分類】
B60K 1/00 20060101AFI20251002BHJP
【FI】
B60K1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024054354
(22)【出願日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004303
【氏名又は名称】弁理士法人三協国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 学
【テーマコード(参考)】
3D235
【Fターム(参考)】
3D235AA01
3D235BB06
3D235CC13
3D235DD17
3D235DD19
3D235FF43
3D235HH02
3D235HH22
3D235HH23
(57)【要約】
【課題】車両衝突時における安全性を確保することことができる車両のパワートレイン構造を提供する。
【解決手段】車両は、駆動装置とバッテリとインバータとを備える。駆動装置は、車両走行用のモータMと、導電性材料からなるモータハウジング510とを有する。バッテリハウジング510の後壁部510dには、バッテリから延びる配線が接続されるDCコネクタCN8が配設されている。モータハウジング510の内方には、DCコネクタCN8とインバータの回路部とを接続するDCバスバLN2と、DCコネクタCN8と車両に搭載される電動コンプレッサとの間を接続する補機配線LN3とが収容されている。DCバスバLN2から補機配線LN3が分岐するジャンクションボックスは、モータMのステータ514およびロータが収容されたモータ収容空間部510aよりも後方の後方空間部510bに配置されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に搭載されるとともに、前記車両の走行用の駆動源としてのモータと、少なくとも前記モータを収容する駆動装置ハウジングとを有する駆動装置と、
前記モータの電力源としてのバッテリと、
前記車両の前部に搭載されるとともに、前記モータと前記バッテリとの間で電力変換する回路部と、前記回路部を収容する変換装置ハウジングとを有する電力変換装置と、
を備え、
前記車両には、前記バッテリからの電力によって作動する補機が搭載されており、
前記変換装置ハウジングは、前記駆動装置ハウジングに対して密に接合、または、前記駆動装置ハウジングと一体に設けられており、
前記駆動装置ハウジングにおける後側の壁部には、前記バッテリから延びる配線が接続される電源コネクタが配設されており、
前記駆動装置ハウジングにおける内方には、前記電源コネクタと前記回路部とを接続する変換装置配線と、前記電源コネクタと前記補機との間を接続する補機配線と、が収容され、
前記変換装置配線から前記補機配線が分岐する分岐部は、前記駆動装置ハウジング内における前記モータよりも後方の部分に配置されている、
車両のパワートレイン構造。
【請求項2】
前記補機配線は、横断面での導電部の断面積が、前記変換装置配線における横断面での導電部の断面積よりも小さくなるように形成されている、
請求項1に記載の車両のパワートレイン構造。
【請求項3】
前記バッテリは、前記駆動装置よりも前記車両の後方側に搭載されている、
請求項1に記載の車両のパワートレイン構造。
【請求項4】
前記車両は、前記モータを含むパワートレインから出力される走行用の駆動力を車輪に伝達する出力軸を備え、
前記出力軸は、前記駆動装置ハウジングにおける前記モータよりも後方の部分を車幅方向に挿通するように配設されており、
前記分岐部は、前記出力軸の近傍であって、前記出力軸の外周における後端と前後方向で同位置、または前記後端よりも前方側に配置されている、
請求項1に記載の車両のパワートレイン構造。
【請求項5】
前記駆動装置ハウジングにおける前記モータを収容する部分は、ともに皿形状を有する2つのハウジング要素を有するとともに、当該2つのハウジング要素の開口縁同士が接合されて構成されており、
前記モータの回転軸に対して直交する方向において、前記2つのハウジング要素の内の一方のハウジング要素は、他方のハウジング要素よりも大径に形成されており、
前記変換装置ハウジングは、前記駆動装置ハウジングとは別体で設けられているとともに、前記一方のハウジング要素に対して車幅方向に隣接し、且つ、前記他方のハウジング要素の上に載置されている、
請求項1から請求項4の何れかに記載の車両のパワートレイン構造。
【請求項6】
前記一方のハウジング要素には、後方側に前記電力変換装置とのDC接続部が設けられ、且つ、前方側に前記電力変換装置とのAC接続部が設けられているとともに、内方の空間に前記AC接続部と前記モータとを接続するモータ接続線が収容されており、
前記補機配線は、前記分岐部から前記一方のハウジング要素の内方を前方に延びるとともに、前記モータ接続線に対して電気的絶縁が図られた状態で立体交差するように配策されている、
請求項5に記載の車両のパワートレイン構造。
【請求項7】
前記補機配線は、被覆線で構成されている、
請求項6に記載の車両のパワートレイン構造。
【請求項8】
前記駆動装置ハウジングおよび前記変換装置ハウジングは、ともに導電性材料を用いて形成されており、
前記変換装置配線における前記分岐部よりも前記回路部の側の箇所には、ノイズフィルタ部品が介挿されている、
請求項1から請求項4の何れかに記載の車両のパワートレイン構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のパワートレイン構造に関し、特にバッテリからの電力をモータと補機とに供給する電力供給路を有するパワートレイン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、モータを走行用の駆動源として備える車両が増加している。このような車両には、モータに電力供給するためのバッテリが搭載されている。モータを走行用の駆動源として備える車両の駆動装置が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示の車両用駆動装置は、走行用の駆動源としてのモータと、当該モータを収容するケースと、ケース内にモータとともに収容される電動ポンプとを備える。特許文献1に開示の車両用駆動装置では、ケースの上部に開口部が設けられるとともに、当該開口部が蓋体で塞がれた構成が採用されている。
【0004】
特許文献1に開示の車両用駆動装置では、蓋体にバッテリとの接続に供される電源コネクタが設けられている。ケース内においては、電源コネクタに接続された配線が分岐されている。分岐された一方の配線は、第1インバータを介してモータに接続されている。分岐されたもう一方の配線は、第2インバータを介して電動ポンプの電動機に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示の技術では、車両衝突時における安全性の確保が難しいと考えられる。具体的に、特許文献1に開示の車両用駆動装置では、ケースの上部に配される蓋体に電源コネクタが設けられており、当該電源コネクタを介してバッテリとの接続が図られている。車両走行用のモータに接続されるバッテリは、従来から用いられてきた鉛バッテリ等に比べて高電圧の電力を出力する。よって、特許文献1に開示の車両用駆動装置では、電源、コネクタ、およびこれに接続される配線の配線携帯によっては、車両衝突時に電源コネクタおよびこれに接続される配線が損傷し易くなることから、安全性の確保が難しいと考えられる。また、ケース外のDC配線が長くなり易い。
【0007】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、車両衝突時における安全性を確保することことができる車両のパワートレイン構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る車両のパワートレイン構造は、車両の前部に搭載されるとともに、前記車両の走行用の駆動源としてのモータと、少なくとも前記モータを収容する駆動装置ハウジングとを有する駆動装置と、前記モータの電力源としてのバッテリと、前記車両の前部に搭載されるとともに、前記モータと前記バッテリとの間で電力変換する回路部と、前記回路部を収容する変換装置ハウジングとを有する電力変換装置と、を備える。前記車両には、前記バッテリからの電力によって作動する補機が搭載されている。そして、本態様に係る車両のパワートレイン構造において、前記変換装置ハウジングは、前記駆動装置ハウジングに対して密に接合、または、前記駆動装置ハウジングと一体に設けられており、前記駆動装置ハウジングにおける後側の壁部には、前記バッテリから延びる配線が接続される電源コネクタが配設されており、前記駆動装置ハウジングにおける内方には、前記電源コネクタと前記回路部とを接続する変換装置配線と、前記電源コネクタと前記補機との間を接続する補機配線と、が収容されている。前記変換装置配線から前記補機配線が分岐する分岐部は、前記駆動装置ハウジングにおける前記モータよりも後方の部分に配置されている。
【0009】
上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、車両の前部に駆動装置が搭載されているとともに、電源コネクタが駆動装置ハウジングにおける後側(車両前後方向における後側)の壁部に配設されている。このため、車両が前突したような場合にも、車両の前部における駆動装置が搭載された部分に対して障害物が進入してきても、当該障害物やそれに押されて後方に移動する車両の部材などによって電源コネクタが損傷するのを抑制することができる。即ち、モータなどを収容する駆動装置ハウジングは、比較的高い剛性を有するので、前突時において電源コネクタを保護する保護部材として機能することになる。
【0010】
また、上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、駆動装置ハウジングの内方に変換装置配線と補機配線とが収容されるとともに、分岐部が駆動装置ハウジング内におけるモータよりも後方の部分に配置されている。このため、車両が前突したような場合にも、駆動装置ハウジングおよびモータ(ステータおよびロータ)が、変換装置配線、補機配線、および分岐部を保護する保護部材として機能する。
【0011】
従って、上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、車両衝突時における安全性を確保することことができる。また、変換装置配線、補機配線、および分岐部を駆動装置ハウジングの外側に設ける場合に比べて、これらが衝突時に周辺部材や車体に衝突して損傷するのを防ぐ空間、または、これらに対してプロテクタを配置する空間を確保する必要性を減らすことができる。
【0012】
なお、上記における「密に接合」とは、仮に駆動装置ハウジングと変換装置ハウジングとの接合部分に微細な隙間が生じた場合にも、当該隙間を通して電磁波が出入りしないことを示す。
【0013】
また、電力変換装置の回路部が実行する「電力変換」とは、電力の変数としての電圧、電流、周波数、位相、相数などの少なくとも1つの変数を別の形態に変換することを示す。例えば、直流電力と交流電力とを変換、電圧を昇降圧する変換などのことを示す。
【0014】
上記態様に係る車両のパワートレイン構造において、前記補機配線は、横断面での導電部の断面積が、前記変換装置配線における横断面での導電部の断面積よりも小さくなるように形成されていてもよい。
【0015】
上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、補機配線が、当該補機配線における導電部の断面積が、変換装置配線における導電部の断面積よりも小さくなるように形成されているので、補機配線を駆動装置ハウジング内で配策する場合の占有空間を小さく抑えることができる。よって、駆動装置ハウジングが大型化するのを抑制することができる。
【0016】
上記態様に係る車両のパワートレイン構造において、前記バッテリは、前記駆動装置よりも前記車両の後方側に搭載されていてもよい。
【0017】
上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、バッテリが駆動装置よりも車両の後方側に搭載されているので、駆動装置ハウジングの後側の壁部に配設された電源コネクタに対してバッテリを接続する配線の長さを短く抑えることができる。このため、バッテリと電力変換装置との間、およびバッテリと補機との間での電気抵抗を小さく抑えることができる。
【0018】
また、電源コネクタとバッテリとを接続する配線の長さを短く抑えることができるので、当該配線を配策するスペースを小さく抑えることができるとともに、製造コストの低減を図ることも可能である。
【0019】
上記態様に係る車両のパワートレイン構造において、前記車両は、前記モータを含むパワートレインから出力される走行用の駆動力を車輪に伝達する出力軸を備え、前記出力軸は、前記駆動装置ハウジングにおける前記モータよりも後方の部分を車幅方向に挿通するように配設されており、前記分岐部は、前記出力軸の近傍であって、前記出力軸の外周における後端と前後方向の同位置、または前記後端よりも前方側に配置されていてもよい。
【0020】
上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、分岐部が出力軸の近傍であって、当該出力軸の後端に対して前後方向で同位置、または後端よりも前方側に配置されているので、車両の前突時において駆動装置ハウジング内の後側の壁部や周辺の部材により分岐部が損傷するのを抑制することができる。即ち、出力軸は、比較的高い剛性を有するので、前突時において分岐部を保護する保護部材として機能することになる。
【0021】
上記態様に係る車両のパワートレイン構造において、前記駆動装置ハウジングにおける前記モータを収容する部分は、ともに皿形状を有する2つのハウジング要素を有するとともに、当該2つのハウジング要素の開口縁同士が接合されて構成されており、前記モータの回転軸に対して直交する方向において、前記2つのハウジング要素の内の一方のハウジング要素は、他方のハウジング要素よりも大径に形成されており、前記変換装置ハウジングは、前記駆動装置ハウジングとは別体で設けられているとともに、前記一方のハウジング要素に対して車幅方向に隣接し、且つ、前記他方のハウジング要素の上に載置されていてもよい。
【0022】
上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、径サイズが小径な他方のハウジング要素上に変換装置ハウジングが載置され、径サイズが大径な一方のハウジング要素に対して車幅方向に隣接するように配置されているので、径サイズが異なる一方のハウジング要素と他方のハウジング要素との段差部分を利用して変換装置ハウジングが配置される。よって、上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、スペースの有効利用によりパワートレイン全体でのサイズの大型化を抑制することができる。
【0023】
上記態様に係る車両のパワートレイン構造において、前記一方のハウジング要素には、後方側に前記電力変換装置とのDC接続部が設けられ、且つ、前方側に前記電力変換装置とのAC接続部が設けられているとともに、内方の空間に前記AC接続部と前記モータとを接続するモータ接続線が収容されており、前記補機配線は、前記分岐部から前記一方のハウジング要素の内方を前方に延びるとともに、前記モータ接続線に対して電気的絶縁が図られた状態で立体交差するように配策されていてもよい。
【0024】
上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、補機配線が一方のハウジング要素内を前方に延びるとともに、モータ接続線に対して電気的絶縁が図られた状態で立体交差している。このため、上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、分岐部が後方に配置されることにより前突時における分岐部の保護が図られるとともに、モータ接続線に対して立体交差することによりモータ接続線よりも前方まで補機配線を配策することができる。よって、上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、分岐部の保護を図りつつ、高い自由度をもって補機配線をモータ接続線よりも前方まで配策することができる。
【0025】
上記態様に係る車両のパワートレイン構造において、前記補機配線は、被覆線で構成されていてもよい。
【0026】
上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、被覆線で補機配線が構成されているので、駆動装置ハウジング内における他の部材との短絡を防ぎながら、レイアウト面での高い自由度をもって補機配線を配策することができる。
【0027】
上記態様に係る車両のパワートレイン構造において、前記駆動装置ハウジングおよび前記変換装置ハウジングは、ともに導電性材料を用いて形成されており、前記変換装置配線における前記分岐部よりも前記回路部の側の箇所には、ノイズフィルタ部品が介挿されていてもよい。
【0028】
上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、変換装置配線にノイズフィルタ部品が介挿されているので、電力変換装置で発生するノイズが変換装置配線におけるノイズフィルタ部品よりも電源コネクタ側、および電源コネクタからバッテリ側の配線へと漏出するのが防がれる(EMI(Electro Magnetic Interference)対策)。また、仮にバッテリから電源コネクタまでの配線に他の機器からのノイズがのった場合においても、当該ノイズが電力変換装置の駆動に干渉するのが防がれる(EMS(Electro Magnetic Susceptibility)対策)。
【0029】
また、上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、導電性材料で形成された駆動装置ハウジング内に変換装置配線が収容されているので、変換装置配線におけるノイズフィルタ部品よりも電力変換装置側からハウジング外に電磁波が放射されるのが防がれるとともに、駆動装置ハウジングの外方から変換装置配線に対して電磁波が干渉するのも防がれる。これより、EMS(Electro Magnetic Compatibility)対策がなされる。
【0030】
さらに、上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、補機配線が分岐される分岐部よりも電力変換装置の側にノイズフィルタ部品が介挿されているので、電力変換装置で発生したノイズが補機配線にのるのが防がれる。また、補機配線も駆動装置ハウジング内に収容されているので、当該ハウジングの外方から他の機器からのノイズが補機配線にのるのも防がれる。よって、上記態様に係る車両のパワートレイン構造では、前突時における電源コネクタおよび分岐部の保護と、EMC対策とを両立することができる。
【発明の効果】
【0031】
上記の各態様に係る車両のパワートレイン構造では、車両衝突時における安全性を確保することことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】実施形態に係るパワートレインが搭載されてなる車両の概略構成を示す図である。
【
図2】パワートレインを正面から見た正面図である。
【
図3】バッテリからの電力の供給路を示す図である。
【
図4】モータハウジング内の構成を示すエンジン側から見た左側面図である。
【
図6】
図4のA2部分を説明するための図であって、(a)は正面図、(b)が右側面図である。
【
図7】(a)は分岐配線を示す一部断面図、(b)はDCバスバを示す一部断面図である。
【
図9】インバータの構成を示す図であって、(a)は平面図、(b)は右側面図である。
【
図10】オフセット衝突時におけるインバータの姿勢変化を示す図であって、(a)は衝突前、(b)は衝突後を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明を例示的に示すものであって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0034】
なお、以下の説明で用いる図面において、「FR」は車両前方、「RR」は車両後方、「LH」は車両左方、「RH」は車両右方、「UP」は車両上方、「LO」は車両下方をそれぞれ示す。
【0035】
1.車両Vの構成
本発明の実施形態に係る車両Vの構成について、
図1を用いて説明する。
【0036】
図1に示すように、車両Vでは、インバータ(電力変換装置)100を含むパワートレインPTが前部のパワートレインルームR1に搭載されている。
【0037】
車両Vは、所謂、ハイブリッド電気自動車(HEV)である。車両Vには、走行用の駆動源(即ち、車輪Wの駆動源)としてのエンジンEおよびモータMが搭載されている。パワートレインPTは、エンジンEとモータMを含むとともに、これらに加えて、変速機TMを含む。
【0038】
モータMは、3相交流電力の供給を受けて回転する3相3線式の交流モータであって、回転軸と、回転軸の周囲に配された永久磁石を有するロータと、ロータの外周に配設され、複数のティースのそれぞれにコイルが巻回されてなるステータとを備える。複数のコイルは、U相コイル、V相コイル、およびW相コイルで構成されており、各相のコイルに対して互いに異なる位相の電流が供給される。
【0039】
変速機TMは、モータMに接続されており、モータMから入力された回転を減速する。変速機TMは、デファレンシャルギアDFと一体に構成されている。これより、変速機TMに入力された回転は、デファレンシャルギアDFを介してドライブシャフト(出力軸)Sに出力されて車輪Wに伝達される。
【0040】
本実施形態に係る車両Vは、一例としてパラレル式のハイブリッド電気自動車であって、モータMのみの駆動力による走行、モータMとエンジンEの双方の駆動力による走行、およびエンジンEのみの駆動力による走行が可能である。なお、車両Vは減速回生が可能であって、モータMは車両Vの減速時に車輪Wからの伝達力によって発電する。
【0041】
バッテリ200は、パワートレインPTよりも後方、具体的には車室R2の床下に搭載されている。バッテリ200は、モータMとの間で電力の授受を行う。モータMが走行用の駆動源として駆動する場合、バッテリ200はモータMに給電する。なお、この場合には、バッテリ200とモータMとの間の給電路中に設けられたDC-DCコンバータ300を介して直流電力が給電される。
【0042】
一方、車両Vの減速時にモータMが発電機として駆動する場合、バッテリ200はモータMによって生成された電力を蓄電する。
【0043】
インバータ100は、3相3線式のモータMに接続される。インバータ100は、バッテリ200からの直流電力を交流電力に変換してモータMに給電する電力変換装置である。具体的に、インバータ100は、バッテリ200からDC-DCコンバータ300を含む直流回路を経て供給された直流電力を3相交流電力に変換してモータMに給電する。
【0044】
また、インバータ100は、車両Vの減速時にモータMが発電機として駆動する場合、モータMによって生成された交流電力を直流電力に変換して、DC-DCコンバータ300を含む直流回路を経てバッテリ200に供給する。
【0045】
なお、
図1では図示を省略するが、車両Vは、当該車両Vの各部に設けられた電装品に給電するための低電圧バッテリも備える。低電圧バッテリは、バッテリ200よりも公称電圧が低いバッテリである。
【0046】
ここで、バッテリ200は、例えば、公称電圧が24V以上のリチウムイオンバッテリやニッケル水素バッテリであり、低電圧バッテリは、例えば、公称電圧が12V、あるいは24Vの鉛バッテリやリチウムイオンバッテリである。
【0047】
車両Vには、モータMおよびエンジンEを含むパワートレインPTを統括的に制御するコントローラであるPCM(Powertrain Control Module)400も搭載されている。
【0048】
2.パワートレインPTにおける各部の配置
パワートレインPTにおける各部の配置について、
図2を用いて説明する。
図2は、パワートレインPTを車両Vの前方から見た正面図である。
【0049】
図2に示すように、パワートレインルームR1内において、エンジンE、モータM、変速機TMの順に右方から左方へと配置されている。エンジンEは、エンジン下部を構成するシリンダブロック501と、シリンダブロック501の上方に配置されたシリンダヘッド502とを有する。
【0050】
モータMは、エンジンEのシリンダブロック501に対して左方に隣接して配されており、第1モータハウジング(一方のハウジング要素)511と第2モータハウジング(他方のハウジング要素)512とで構成されるモータハウジング510の内方に収容されている。第1モータハウジング511および第2モータハウジング512は、それぞれが皿形状(浅皿形状または深皿形状)を有し、互いの開口縁部同士が接合されてモータハウジング510を構成する。
【0051】
ここで、
図2ではモータハウジング510内に収容されるモータMの図示を省略するが、モータMの回転軸は車幅方向に沿って延びるように配されている。そして、モータMの回転軸が延びる方向(車幅方向)に対して直交する方向において、第1モータハウジング511は、第2モータハウジング512よりも大径に形成されている。
【0052】
なお、第1モータハウジング511および第2モータハウジング512は、ともに導電性材料(例えば、金属材料や炭素繊維強化樹脂)を用いて形成されている。
【0053】
変速機TMは、外殻としてのアクスルハウジング520を有する。アクスルハウジング520は、モータハウジング510における第2モータハウジング512の左側に隙間なく接合(緊結)されている。アクスルハウジング520の内部には、変速機TMを構成する変速機構と、デファレンシャルギアDFを構成するギア機構が収容されている。アクスルハウジング520は、導電性材料(例えば、金属材料や炭素繊維強化樹脂)を用いて形成されている。
【0054】
なお、パワートレインPTにおいて、シリンダブロック501、シリンダヘッド502、モータハウジング510、およびアクスルハウジング520の組み合わせにより駆動装置ハウジング500が構成されている。
【0055】
インバータ100は、車両Vの車幅方向において、第1モータハウジング511と第2モータハウジング512との段差部分を利用して配設されている。具体的に、インバータ100は、第1モータハウジング511の左側に隣接するとともに、第2モータハウジング512の上方からアクスルハウジング520の上方にかけての部分に配置されている。インバータ100は、第1モータハウジング511に形成されたコネクタ(
図2では、図示を省略、)と当該インバータ100のコネクタ(
図2では、図示を省略。)との結合により接続されている。なお、コネクタ同士の結合は、第1モータハウジング511に対してインバータ100を右方向にスライド移動させることによりなされる。
【0056】
また、インバータ100は、外殻を構成するインバータハウジング(変換装置ハウジング)101を有する。インバータハウジング101は、ブラケット530を介してアクスルハウジング520に固定されている。
【0057】
さらに、車両VのパワートレインルームR1(
図1を参照。)には、エアーコンディショナの電動コンプレッサ(補機)Cも搭載されている。電動コンプレッサCは、電力線ハーネスLN1を介してバッテリ200(
図1を参照。)からの直流電力の供給を受ける。電動コンプレッサCは、シリンダブロック501の前方側部分に配置されている。そして、電力線ハーネスLN1は、シリンダブロック501の外方を前壁面に沿って車幅方向に延びるように配策され、一端に接続されたコネクタCN1で駆動装置ハウジング500内の直流回路に接続され、他端に接続されたコネクタCN2で電動コンプレッサCに接続されている。
【0058】
3.バッテリ200と、パワートレインPTおよび電動コンプレッサCとの電気的接続
バッテリ200と、パワートレインPTおよび電動コンプレッサCとの電気的接続について、
図3を用いて説明する。
【0059】
図3に示すように、バッテリ200は、DC-DCコンバータ300を介してパワートレインPTに接続されている。パワートレインPTは、モータハウジング510内に収容されたモータMおよびフェライトコア(ノイズフィルタ部品)513を有する。モータMは、インバータ100にAC配線により接続されている。インバータ100は、DC-DCコンバータ300を介してバッテリ200に対してDC配線により接続されている。
【0060】
インバータ100とバッテリ200とを接続するDC配線には、コネクタCN1に接続されるDC配線(補機配線)が分岐されるジャンクションボックス(分岐部)JBが設けられている。上述のように、コネクタCN1には、電力線ハーネスLN1が接続されている。電力線ハーネスLN1は、コネクタCN2を介して電動コンプレッサCに接続されている。
【0061】
バッテリ200からの直流電力は、DC-DCコンバータ300を介してインバータ100に供給され、交流電力へと変換されてモータMに給電される。車両Vの減速時には、モータMで生成された交流電力がインバータ100で直流電力に変換されて、DC-DCコンバータ300を介してバッテリ200に供給される。
【0062】
一方、電動コンプレッサCには、バッテリ200からDC-DCコンバータ300を介して供給された直流電力が、ジャンクションボックスJBを経て供給される。なお、ジャンクションボックスJBは、インバータ100とバッテリ200とを接続するDC配線の内のフェライトコア513よりもバッテリ200側に配設されている。
【0063】
4.モータハウジング510内における各配線の配策形態
モータハウジング510内における各配線の配策形態について、
図4から
図7を用いて説明する。
図5は、
図4のA1部分を拡大した図であり、
図6は、
図4のA2部分を拡大した図である。
【0064】
図4に示すように、モータハウジング510の内方空間は、モータMのステータ514およびロータ(図示を省略。)が収納されるモータ収容空間部510aと、当該モータ収容空間部510aの後方に設けられた後方空間部510bと、モータ収容空間部510aの上方に設けられた上方空間部510cとを有する。なお、
図4では、モータハウジング510を構成する第1モータハウジング511と第2モータハウジング512の内の第1モータハウジング511だけを示しているが、第2モータハウジング512においては、内方に少なくともモータ収容空間部510aだけを有していればよい。また、
図4では、後方空間部510bおよび上方空間部510cにおいて、紙面手前側が解放された状態で示しているが、実際の第1モータハウジング511では、コネクタCN3,CN4を除き後方空間部510bおよび上方空間部510cは壁で塞がれている。
【0065】
後方空間部510bの後側は、後壁部(後側の壁部)510dで画定されている。そして、後壁部510dにおける上下方向の中程部分には、DCコネクタ(電源コネクタ)CN8が配設されている。DCコネクタCN8の上下方向での具体的な配設位置は、モータMのステータ514およびロータの径方向中心(回転軸)と同じ高さ位置とされている。DCコネクタCN8には、バッテリ200からDC-DCコンバータ300を介して延びる電力線が接続される。
【0066】
上方空間部510cの上側は、上壁部510eで画定されている。そして、上方空間部510cにおける後側の部分には、DCコネクタ(DC接続部)CN3が配設されている。また、上方空間部510cにおける前側の部分には、ACコネクタ(AC接続部)CN4が配設されている。DCコネクタCN3およびACコネクタCN4は、ともにそれぞれの端子部が左側(
図4の紙面手前側)に向けて突出するように設けられている。これらコネクタCN3,CN4は、インバータ100との接続のために設けられている。
【0067】
図6(a)、(b)に示すように、DCコネクタCN3には、2つのDCバスバ(変換装置配線)LN2が接続されている。DCバスバLN2は、もう一方の端部がDCコネクタCN8に接続されている。
図6(a)に示すように、DCバスバLN2は、DCコネクタCN3とDCコネクタCN8との間において、左右方向に蛇行するように配策されている。そして、DCバスバLN2が左右方向に延びる部分には、フェライトコア(ノイズフィルタ部品)513が介挿されている。このようにDCバスバLN2を左右方向に蛇行させ、その途中部分にフェライトコア513を介挿させることにより、DCバスバLN2を上下方向に向けて略直線状の延びる形態を採用するよりも、モータハウジング510における上下方向のサイズを小さくすることができる。
【0068】
DCバスバLN2におけるフェライトコア513が介挿された箇所とDCコネクタCN8に接続された箇所との間の部分には、補機配線LN3の接続箇所PT1,PT2が設けられている。即ち、DCバスバLN2におけるフェライトコア513が介挿された箇所とDCコネクタCN8に接続された箇所との間の部分には、補機配線LN3が分岐するジャンクションボックス(分岐部)JBが配されている。なお、補機配線LN3における接続箇所PT2には、ヒューズ515が介挿されている。
【0069】
ここで、
図4に示すように、後方空間部510bにおけるDCバスバLN2が配策された領域よりも下方の部分には、モータハウジング510を左右方向に挿通するドライブシャフト(出力軸)Sが配されている。ドライブシャフトSの外周における後端に上下方向に延びる仮想線Lsを引く。この場合に、
図6(b)に示すように、ジャンクションボックスJBは、仮想線Lsよりも前側に配置されている。即ち、ジャンクションボックスJBは、仮想線Lsよりも後壁部510dから離間した位置に設けられている。なお、ジャンクションボックスJBの位置については、車両前後方向において仮想線Lsと同位置であってもよい。
【0070】
図4に示すように、ジャンクションボックスJBで分岐された補機配線LN3は、上方空間部510cを通り前方に向けて配策されている。そして、補機配線LN3の前方側の端部は、コネクタCN1(
図2を参照。)に結合されるコネクタ(図示を省略。)に接続されている。
【0071】
図5に示すように、ACコネクタCN4には、3つのACバスバ(モータ接続線)LN4が接続されている。ACバスバLN4のそれぞれは、モータMにおけるステータ514(
図4を参照。)に設けられたコイルに接続されている。
【0072】
ここで、上方空間部510cにおいて、ACバスバLN4に対しては、電気的絶縁が図られた状態で補機配線LN3が立体交差している。本実施形態において、ACバスバLN4と補機配線LN3との電気的絶縁は、補機配線LN3に被覆線を採用することによりなされている。
【0073】
なお、
図4では、第2モータハウジング512の図示を省略しているが、DCコネクタCN3およびACコネクタCN4は、第1モータハウジング511に配設されている。また、DCバスバLN2、ACバスバLN4、および補機配線LN3については、第1モータハウジング511の内方空間に収容されている。
【0074】
5.DCバスバLN2と補機配線LN3の導電部
DCバスバLN2と補機配線LN3の導電部との横断面での断面積について、
図7を用いて説明する。
【0075】
図7(a)に示すように、補機配線LN3は、長手方向に直交する横断面において、導電部が断面積S3を有する。
【0076】
一方、
図7(b)に示すように、DCバスバLN2は、長手方向に直交する横断面において、断面積S2を有する。
【0077】
本実施形態において、補機配線LN3は、当該補機配線LN3における導電部の断面積S3が、DCバスバLN2の断面積S2よりも小さくなるように形成されている。
【0078】
なお、本実施形態では、DCコネクタCN3とDCコネクタCN8との間をDCバスバLN2で接続することとしているが、DCコネクタCN3とDCコネクタCN8との間を被覆線からなる配線で接続することも可能である。この場合においては、補機配線LN3は、当該補機配線LN3における導電部の断面積S3が、変換装置配線における導電部の断面積よりも小さくなるように形成されればよい。
【0079】
6.インバータ100の構造と配置
インバータ100の構造と配置について、
図8から
図10を用いて説明する。
【0080】
図8に示すように、車両Vの前後方向において、インバータ100の外殻を構成するインバータハウジング101は、後端部101aが、第1モータハウジング511、第2モータハウジング512、およびアクスルハウジング520の何れかの後端部と面一か、あるいは、第1モータハウジング511、第2モータハウジング512、およびアクスルハウジング520の何れの後端部よりも前方側に配置されている。具体的に、本実施形態においては、インバータハウジング101の後端部101aは、第1モータハウジング511、第2モータハウジング512、およびアクスルハウジング520の何れよりも前方側に配置されている。
【0081】
また、車両Vの前後方向において、インバータハウジング101の前端部101bは、第1モータハウジング511、第2モータハウジング512、およびアクスルハウジング520の何れかの前端部と面一か、あるいは、第1モータハウジング511、第2モータハウジング512、およびアクスルハウジング520の何れの後端部よりも後方側に配置されている。具体的に、本実施形態においては、インバータハウジング101の前端部101bは、第1モータハウジング511の前端部およびアクスルハウジング520の前端部よりも後退した位置に配置されている。また、インバータハウジング101の前端部101bは、第2モータハウジング512の前端部と略面一となる位置に配置されている。
【0082】
さらに、インバータハウジング101の後端部101aは、上方からの平面視において、前方から後方へと行くのに従って車幅方向の左側(外側)から右側(内側)へと幅が漸減するように先細り形状で形成されている。即ち、インバータハウジング101の後端部101aの後端面に沿って仮想線L2を引き、車幅方向に沿って仮想線L1を引く場合に、インバータハウジング101の後端部101aは、仮想線L2が仮想線L1に対して90°未満の角度(鋭角)で交差する形状で形成されている。
【0083】
上記のように、本実施形態のインバータハウジング101は、後端部101aが上記のような先細り形状で形成されているので、車両衝突時においてもインバータハウジング101が周辺の部位(ダッシュパネルDPなど)に衝突するのが抑制される。具体的に、
図10(a)に示すように、本実施形態に係る車両Vでは、前部に設けられたパワートレインルームR1にパワートレインPTが搭載されている。なお、
図10(a)、(b)では、パワートレインPTのうちのエンジンEとインバータ100のみを図示している。
【0084】
本実施形態に係る車両Vでは、パワートレインルームR1内において、エンジンEに対してインバータ100が左側に配置されている。そして、インバータ100は、インバータハウジング101の後端部101aが車両後方側となるように配置されている。
【0085】
また、パワートレインルームR1内に搭載されたパワートレインPTの周囲には、前方にバンパーレインフォースメントBR、両側方にフロントサイドフレームSFが配されている。バンパーレインフォースメントBRが車幅方向に延びるように配設され、フロントサイドフレームSFは前端がバンパーレインフォースメントBRに連結されて当該連結部分から後方に延びるように配設されている。
【0086】
図10(b)に示すように、車両Vがオフセット衝突した場合を想定する場合に、パワートレインルームR1に対しては、衝突物(障害物)700が矢印B1で示すように侵入してくる。この場合において、バンパーレインフォースメントBRは、左側部分が後方へと押し込まれる。これにより、左側のフロントサイドフレームSFは、一部が座屈等の変形を起こして衝撃力を吸収する。また、この場合において、パワートレインPTは、矢印B2で示すように上方からの平面視で左回転する。
【0087】
図10(b)に示すように、オフセット衝突によりパワートレインPTが矢印B2で示すように回転した場合において、インバータハウジング101の後端部101aは、車室R2側に近づくこととなる。
【0088】
ここで、仮にインバータハウジングの後端部901aが本実施形態のような先細り形状に形成されていない比較例の場合には、後端部901aがダッシュパネルDPに対して衝突することが考えられる。これに対して、本実施形態では、インバータハウジング101の後端部101aが上記のように先細り形状に形成されているので、後端部101aがダッシュパネルDPに衝突するのが回避される。
【0089】
次に、
図9(a)に示すように、インバータ100のインバータハウジング101は、ハウジング本体部102と蓋103との組み合わせで構成される。ハウジング本体部102は、上部に開口部を有し、蓋103は、ハウジング本体部102の開口部を塞ぐ。なお、ハウジング本体部102および蓋103は、ともに導電性材料(例えば、金属材料や炭素繊維強化樹脂)を用いて形成されている。
【0090】
図9(a)、(b)に示すように、ハウジング本体部102の右側側壁部には、後方側の部分にDCコネクタCN5が配設され、前方側の部分にACコネクタCN6が配設されている。DCコネクタCN5は、第1モータハウジング511に設けられたDCコネクタCN3(
図4を参照。)と結合され、ACコネクタCN6は、第1モータハウジング511に設けられたACコネクタCN4(
図4を参照。)と結合される。DCコネクタCN5とDCコネクタCN3との結合、およびACコネクタCN6とACコネクタCN4との結合は、インバータハウジング101を右方の第1モータハウジング511の側にスライド移動させることによりなされる。
【0091】
蓋103には、上方に向けて突出するように複数(本実施形態では、一例として3つ)のPCMコネクタCN71~CN73(以下では、まとめて、PCMコネクタCN7と記載する。)が設けられている。これらPCMコネクタCN7は、インバータ100に対してPCM400を接続するコネクタである。
【0092】
図9(a)に示すように、インバータ100は、インバータハウジング101内において、後端部101a側から前端部101b側に向けた方向に順に収容された、DC入出力部104、平滑部105、パワーモジュール部106、およびAC入出力部107を備える。なお、DC入出力部104については、先細り形状で構成されたインバータハウジング101の後端部101a内に収容されている。
【0093】
平滑部105は、フィルムコンデンサ、あるいは電解コンデンサなどの平滑コンデンサを含み構成されている。なお、平滑部105には、Xコンデンサが配設されていてもよい。
【0094】
パワーモジュール部106は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)から構成されている。なお、パワーモジュール部106は、必ずしもIGBTから構成されている必要はなく、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等、既知のパワーモジュールから構成されていてもよい。
【0095】
DCコネクタCN5は、DC入出力部104の一部として構成され、ACコネクタCN6は、AC入出力部107の一部として構成されている。
【0096】
なお、詳細な説明を省略するが、インバータハウジング101には、平滑部105およびパワーモジュール部106の冷却を行うための冷媒循環路も設けられている。
【0097】
7.効果
本実施形態に係る車両VのパワートレインPTに採用される構造では、車両Vの前部に設けられたパワートレインルームR1にパワートレインPTが搭載されているとともに、DCコネクタ(電源コネクタ)CN8が駆動装置ハウジング500における後側の壁部(具体的には、モータハウジング510の後壁部510d)に配設されている。このため、車両Vが前突したような場合にも、車両VのパワートレインルームR1に対して障害物700が進入してきても、当該障害物700やそれに押されて後方に移動する車両Vの部材などによってDCコネクタCN8が損傷するのを抑制することができる。即ち、モータMのステータ514やロータなどを収容するモータハウジング510は、比較的高い剛性を有するので、前突時においてDCコネクタCN8を保護する保護部材として機能することになる。
【0098】
また、本実施形態に係る車両VのパワートレインPTに採用される構造では、駆動装置ハウジング500の内方に、DCバスバ(変換装置配線)LN2と補機配線LN3とが収容されるとともに、ジャンクションボックス(分岐部)JBがモータハウジング510内におけるモータMよりも後方の部分(後方空間部510b)に配置されている。このため、車両Vが前突したような場合にも、駆動装置ハウジングおよびモータ(ステータおよびロータ)が、DCバスバLN2、補機配線LN3、およびジャンクションボックスJBを保護する保護部材として機能する。
【0099】
従って、本実施形態に係る車両VのパワートレインPTに採用される構造では、車両衝突時における安全性を確保することことができる。また、DCバスバLN2、補機配線LN3、およびジャンクションボックスJBを駆動装置ハウジング500の外側に設ける場合に比べて、これらが衝突時に周辺部材や車体に衝突して損傷するのを防ぐ空間、または、これらに対してプロテクタを配置する空間を確保する必要性を減らすことができる。
【0100】
なお、本実施形態では、駆動装置ハウジング500とインバータハウジング101とが密に接合されている。この場合の「密に接合」とは、仮に駆動装置ハウジング500とインバータハウジング101との接合部分に微細な隙間が生じた場合にも、当該隙間を通して電磁波が出入りしないことを示す。
【0101】
本実施形態に係る車両VのパワートレインPTに採用される構造では、補機配線LN3が、当該補機配線LN3における導電部の断面積S3が、DCバスバLN2の断面積S2よりも小さくなるように形成されているので、補機配線LN3をモータハウジング510内で配策する場合の占有空間を小さく抑えることができる。よって、モータハウジング510を含む駆動装置ハウジング500が不要に大型化するのを抑制することができる。
【0102】
また、本実施形態に係る車両VのパワートレインPTに採用される構造では、バッテリ200がパワートレインPTが搭載されたパワートレインルームR1よりも車両Vの後方側に配された車室R2の床下に搭載されているので、モータハウジング510の後壁部510dに配設されたDCコネクタCN8に対してバッテリ200を接続する配線の長さを短く抑えることができる。このため、バッテリ200とインバータ100との間、およびバッテリ200と電動コンプレッサCとの間での電気抵抗を小さく抑えることができる。
【0103】
また、DCコネクタCN8とバッテリ200とを接続する配線の長さを短く抑えることができるので、当該配線を配策するスペースを小さく抑えることができるとともに、製造コストの低減を図ることも可能である。
【0104】
本実施形態に係る車両VのパワートレインPTに採用される構造では、ジャンクションボックスJBがドライブシャフト(出力軸)Sの近傍であって、当該ドライブシャフトSの後端に対して前後方向で前方側に配置されているので、車両Vの前突時においてモータハウジング510の後壁部510dや周辺の部材によりジャンクションボックスJBが損傷するのを抑制することができる。即ち、ドライブシャフトSは、比較的高い剛性を有するので、前突時においてジャンクションボックスJBを保護する保護部材として機能することになる。
【0105】
また、本実施形態に係る車両VのパワートレインPTに採用される構造では、径サイズが小径な第2モータハウジング(他方のハウジング要素)512上にインバータハウジング101が載置され、径サイズが大径な第1モータハウジング(一方のハウジング要素)に対して車幅方向に隣接するように配置されているので、径サイズが異なる第1モータハウジング511と第2モータハウジング512との段差部分を利用してインバータハウジング101が配置される。よって、車両VのパワートレインPTに採用される構造では、スペースの有効利用によりパワートレインPT全体でのサイズの大型化を抑制することができる。
【0106】
また、本実施形態に係る車両VのパワートレインPTに採用される構造では、補機配線LN3が第1モータハウジング511内を前方に延びるとともに、ACバスバ(モータ接続線)LN4に対して電気的絶縁が図られた状態で立体交差している。このため、車両VのパワートレインPTに採用される構造では、ジャンクションボックスJBが後方に配置されることにより前突時におけるジャンクションボックスJBの保護が図られるとともに、ACバスバLN4に対して立体交差することによりACバスバLN4よりも前方まで補機配線LN3を配策することができる。よって、車両VのパワートレインPTに採用される構造では、ジャンクションボックスJBの保護を図りつつ、高い自由度をもって補機配線LN3をACバスバLN4よりも前方まで配策することができる。
【0107】
また、本実施形態に係る車両VのパワートレインPTに採用される構造では、被覆線で補機配線LN3が構成されているので、モータハウジング510内における他の部材との短絡を防ぎながら、レイアウト面での高い自由度をもって補機配線LN3を配策することができる。
【0108】
また、本実施形態に係る車両VのパワートレインPTに採用される構造では、DCバスバ(変換装置配線)LN2にフェライトコア(ノイズフィルタ部品)513が介挿されているので、インバータ100で発生するノイズがDCバスバLN2におけるフェライトコア513が介挿された箇所よりもDCコネクタCN8側、およびDCコネクタCN8からバッテリ200側の配線へと漏出するのが防がれる(EMI対策)。また、仮にバッテリ200からDCコネクタCN8までの配線に他の機器からのノイズがのった場合においても、当該ノイズがインバータ100の駆動に干渉するのが防がれる(EMS対策)。
【0109】
また、本実施形態に係る車両VのパワートレインPTに採用される構造では、導電性材料で形成されたモータハウジング510内にDCバスバ(変換装置配線)LN2が収容されているので、DCバスバLN2におけるフェライトコア513が介挿された箇所よりもインバータ100側からモータハウジング510外に電磁波が放射されるのが防がれるとともに、モータハウジング510の外方からDCバスバLN2に対して電磁波が干渉するのも防がれる。これより、EMS対策がなされる。
【0110】
さらに、本実施形態に係る車両VのパワートレインPTに採用される構造では、補機配線LN3が分岐されるジャンクションボックスJBよりもインバータ100側にフェライトコア513が介挿されているので、インバータ100で発生したノイズが補機配線LN3にのるのが防がれる。また、補機配線LN3もモータハウジング510内に収容されているので、当該ハウジング510の外方から他の機器のノイズが補機配線LN3にのるのも防がれる。よって、車両VのパワートレインPTに採用される構造では、前突時におけるDCコネクタCN8およびジャンクションボックスJBの保護と、EMC対策とを両立することができる。
【0111】
以上説明のように、本実施形態に係る車両VのパワートレインPTに採用される構造では、車両Vの衝突時における安全性を確保することことができる。
【0112】
[変形例]
上記実施形態では、駆動装置ハウジング500とインバータハウジング101とが別部材であって、互いに密に接合されてなる構成が採用されることとしたが、本発明では、駆動装置ハウジング500とインバータハウジング101とが一体である構成を採用することも可能である。即ち、本発明では、変換装置ハウジングが駆動装置ハウジングとは別体で設けられておらず、駆動装置ハウジングの一部が外方に膨出された部分を有するとともに、当該膨出された部分の内方に電力変換装置の構成が収容されてなる構成を採用することとしてもよい。この場合に、電力変換装置の構成については、駆動装置ハウジング内空間で構成部が密集配置されていることは必ずしも必要なく、ハウジング空間内で分散配置されてもよい。
【0113】
また、上記実施形態では、電力変換装置の一例としてインバータ100を採用することとしたが、本発明では、電力変換装置としてインバータ以外の装置を採用することも可能である。例えば、電力変換装置としてDC-DCコンバータを採用することなども可能である。
【0114】
また、上記実施形態では、補機配線LN3における導電部の断面積(横断面の断面積)S3について、DCバスバLN2の断面積(横断面の断面積)S2よりも小さいこととしたが、本発明では、補機配線における導電部の断面積が変換装置配線における導電部の断面積に対して同一またはそれ以上であってもよい。
【0115】
また、上記実施形態では、被覆線で補機配線LN3を構成し、バスバで変換装置配線を構成することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、補機配線をバスバで構成し、変換装置配線を被覆線で構成することとしてもよい。
【0116】
また、上記実施形態では、バッテリ200が車室R2の床下に搭載されてなる構成を採用したが、本発明は、バッテリの配置について、これに限定を受けるものではない。例えば、パワートレインルームにバッテリを搭載してもよいし、車室よりも後方の荷室の床下にバッテリを搭載してもよい。
【0117】
また、上記実施形態では、ドライブシャフトSがモータハウジング510内を車幅方向に挿通する構成を採用したが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、モータハウジングよりも後方に出力軸が配されてなる構成を採用することも可能である。
【0118】
また、上記実施形態では、第2モータハウジング512上にインバータハウジング101が載置されてなる構成を採用することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、駆動装置ハウジングの後方に変換装置ハウジングを配置したり、駆動装置ハウジングの側方に変換装置ハウジングを配置したりすることも可能である。
【0119】
また、上記実施形態では、ACバスバLN4に対して補機配線LN3が立体交差してなる構成を採用することとしたが、本発明では、ACバスバLN4と補機配線LN3とが立体交差することは必ずしも必要ない。例えば、ACバスバLN4およびACコネクタCN4よりも上方を補機配線LN3が通過するようにしてもよい。
【0120】
また、上記実施形態では、ノイズフィルタ部品の一例としてフェライトコア513を採用することとしたが、本発明では、フェライトコア以外のノイズフィルタ部品を採用することも可能である。例えば、チョークコイルやYコンデンサなどをノイズフィルタ部品として採用することも可能である。
【0121】
また、上記実施形態では、フェライトコア513をインバータハウジング101内ではなく、モータハウジング510内に収容してなる構成を採用することとしたが、本発明では、ノイズフィルタ部品を変換装置ハウジング内に収容する構成を採用することも可能である。
【0122】
また、上記実施形態では、配線同士の接続をソケット式のコネクタCN1~CN8の結合で行うこととしたが、本発明では、必ずしもソケット式のコネクタを用いて配線同士の接続を行う必要はない。例えば、端子同士を締結部材で締結することにより配線同士の接続を行うこととしてもよい。
【0123】
また、上記実施形態では、インバータハウジング101の後端部101aが先細り形状で形成されていることとしたが、本発明では、必ずしも変換装置ハウジングの後端部が先細り形状で形成されている必要はない。駆動装置ハウジングとの関係で、前突時やオフセット衝突時においても、変換装置ハウジングが周囲の部品(例えば、ダッシュパネルDPなど)に対する衝突が回避されるのであれば、形状に限定はない。
【0124】
また、上記実施形態では、モータハウジング510に対してインバータハウジング101を車幅方向にスライド移動させることによりコネクタCN3,CN4,CN5,CN6同士が結合されることとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、上下方向にコネクタ同士が結合される構成を採用するとともに、駆動装置ハウジングに対して変換装置ハウジングを上方から組付けて締結部材を用いてハウジング同士を接合することとしてもよい。
【0125】
また、上記実施形態では、インバータハウジング101とアクスルハウジング520とをブラケット530を介して固定することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、結合されるコネクタ同士をさらにねじ止めすることもできるし、変換装置ハウジングを駆動装置ハウジングに対して直接固定することとしてもよい。
【0126】
また、上記実施形態では、補機としてエアーコンディショナの電動コンプレッサCを一例としたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、パワートレインPTを冷却するための冷媒を循環させる冷媒ポンプを補機とすることも可能である。
【0127】
また、上記実施形態では、モータハウジング510に設けられたコネクタCN1から延びる電力線ハーネスLN1がシリンダブロック501の前方を通るように配策されることとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、電力線ハーネスLN1をシリンダブロック501内やシリンダヘッド502内を通るように配策することも可能である。
【符号の説明】
【0128】
100 インバータ(電力変換装置)
200 バッテリ
500 駆動装置ハウジング
510 モータハウジング
510b 後方空間部
510d 後壁部(後側の壁部)
C 電動コンプレッサ(補機)
CN3 DCコネクタ
CN8 DCコネクタ(電源コネクタ)
LN2 DCバスバ(変換装置配線)
LN3 補機配線
LN4 ACバスバ(モータ接続線)
S ドライブシャフト(出力軸)