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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025152509
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】解析方法
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/30 20190101AFI20251002BHJP
【FI】
G16C20/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024054414
(22)【出願日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】新土 誠実
(72)【発明者】
【氏名】洲上 唯一
(72)【発明者】
【氏名】真田 和昭
(72)【発明者】
【氏名】永田 員也
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 満
(72)【発明者】
【氏名】納所 泰華
(57)【要約】
【課題】粒子同士の接触を考慮し、かつ、有限要素解析等の数値解析手法を行わずとも、複合材料の特性値を解析できる。
【解決手段】複合材料の特性値を解析する解析方法は、複数の複合材料のそれぞれについて、形態特定情報等と共に接触許容領域寸法を含む特性値を設定する設定ステップ(S3)と、設定した特性値に基づき、マトリクスを含む充填構造モデルを生成する生成ステップ(S6)と、接触体積を算出する第1算出ステップ(S7)と、接触体積を比較することにより、特性値の大小を予測する予測ステップ(S9,S10)と、を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒子充填複合材料の配合から前記粒子充填複合材料の特性値を解析する解析方法であって、
前記複数の粒子充填複合材料のそれぞれについて、前記粒子充填複合材料に含まれる粒子の形態を特定する形態特定情報、前記粒子の体積分率、及び、前記粒子の特性値であって、式(1)により規定される、前記粒子の表面において他の粒子との重なりを許容する接触許容領域の寸法を示す接触許容領域寸法を含む特性値を設定する設定ステップと、
前記複数の粒子充填複合材料のそれぞれについて、前記形態特定情報、前記体積分率及び前記接触許容領域寸法に基づき、複数の粒子及び各粒子の隙間を埋めるマトリクスを含む充填構造モデルを生成する生成ステップと、
前記複数の粒子充填複合材料のそれぞれについて、前記充填構造モデルから、前記粒子同士が重なっている部分の体積を示す接触体積を算出する第1算出ステップと、
前記複数の粒子充填複合材料のそれぞれについて算出した前記接触体積を比較することにより、前記粒子充填複合材料の特性値の大小を予測する予測ステップと、を含み、
前記式(1)は、2t/(d-2t)で表され、tは、前記接触許容領域寸法であり、dは、前記粒子の表面上の2点を結ぶ線分であり、かつ前記粒子の重心を通る線分の長さである、解析方法。
【請求項2】
前記特性値は、熱伝導率又は電気伝導率である、請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
前記接触許容領域寸法は、前記式(1)が0.01~0.3を満たすときの値である、請求項1又は2に記載の解析方法。
【請求項4】
前記設定ステップにおいて、複数種の粒子のそれぞれに対して前記形態特定情報を設定し、
前記第1算出ステップにおいて、式(2)及び式(3)により多成分系の前記接触体積を算出し、
前記式(2)は、Vcontact i/j=(Vj*-Vj j)/Vjで表され、
前記式(3)は、Vcontact i/j=(Vj j-Vi-j j)/Vjで表され、
i,jは、粒子番号であり、
iは、粒子iの、1粒子あたりの体積であり、
・Vjは、粒子jの、1粒子あたりの体積であり、
・Vi*は、充填構造モデルに含まれる全ての粒子iどうしが接触していない場合の、粒子iの接触許容領域の体積の合計値であり、
・Vj*は、充填構造モデルに含まれる全ての粒子jどうしが接触していない場合の、粒子jの接触許容領域の体積の合計値であり、
・Vi iは、充填構造モデルに含まれる粒子iに着目したときに、充填構造モデルに、2つの粒子iの一部が重なっておりかつ一部に重なりを有する2つの粒子iの組が少なくとも1つ存在する状態における、粒子iの接触許容領域の体積の合計値であり、
・Vj jは、充填構造モデルに含まれる粒子jに着目したときに、充填構造モデルに、2つの粒子jの一部が重なっておりかつ一部に重なりを有する2つの粒子jの組が少なくとも1つ存在する状態における、粒子jの接触許容領域の体積の合計値であり、
・Vi-j iは、充填構造モデルに含まれる粒子i,jに着目したときに、粒子iにおいて粒子jと重なっている部分の体積の合計値であり、
・Vi-j jは、充填構造モデルに含まれる粒子i,jに着目したときに、粒子jにおいて粒子iと重なっている部分の体積の合計値である、請求項1又は2に記載の解析方法。
【請求項5】
さらに、前記充填構造モデルに対して有限要素解析を適用することにより、前記粒子充填複合材料の特性値を算出する第2算出ステップを含み、
前記第2算出ステップにおいて、所定の範囲において前記接触許容領域の特性値を指定する、請求項1又は2に記載の解析方法。
【請求項6】
前記粒子充填複合材料において、充填する粒子の体積分率が50体積%以上である、請求項1又は2に記載の解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の粒子を含む粒子充填複合材料の特性値を解析する解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子充填複合材料(以下、複合材料と称する)は、材料の様々な配合を調整した上で特性値を測定し、より優れた効果(所望の特性値)を有する配合が選択されることにより設計される。この配合の選択においては、複合材料がどのような特性を発現するのかを解析することが要求される。このような配合から解析を行うまでの間に多くの実験を行うことが要求されるため、多くの実験コスト及び時間が要求される。そこで近年、実験コスト及び時間を削減すべく、代表体積要素モデル(RVE(Representative volume element)モデル)を用いたシミュレーションにより複合材料の特性値を解析することが検討されている。そのような解析手法の一例が、例えば特許文献1,2に開示されている。
【0003】
特許文献1の解析手法では、複数の節点を有する複数の要素に分割した第1モデルと、第1モデルが有するそれぞれの節点と対称となる位置に節点が生成された第2モデルとを作成し、第1モデルと第2モデルとを結合して第3モデルを作成する。そして、第3モデルをシミュレーションモデルとし、境界条件を設定する。第1モデルは、有限要素法又は有限差分法等の数値解析手法を用いて変形解析を行うために用いるモデルである。
【0004】
特許文献2の解析手法では、形状特定情報及び体積分率に基づき、粒子と、各粒子間の隙間を埋めるマトリクスを含む第1,第2の充填構造モデルを生成し、第1,第2の充填構造モデルのそれぞれについて有限要素解析を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5771935号公報
【特許文献2】特開2021-60902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1,2には、粒子(フィラー)同士の重なりを考慮した充填構造モデルの生成について特段開示されていない。粒子同士の重なりを考慮した場合、既知の手法で生成される充填構造モデルは、現実の複合材料の構造から乖離したものとなる可能性がある。そのため、特許文献1、2の解析手法のように、有限要素解析等の数値解析手法を用いた場合、複合材料の特性値を精度よく解析できない可能性がある。
【0007】
また、上記数値解析手法では、粒子の体積分率が比較的高い複合材料(粒子が高充填化された複合材料)においては、予測された特性値が実験値から乖離することが知られている。さらに、上記数値解析手法は、比較的高い計算コスト及び時間を要する。
【0008】
本発明の一態様は、粒子同士の重なりを考慮し、かつ、上記数値解析手法を行わずとも、複合材料の特性値を解析できることが可能な解析方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る解析方法は、複数の粒子充填複合材料の配合から前記粒子充填複合材料の特性値を解析する解析方法であって、複数の粒子充填複合材料のそれぞれについて、粒子充填複合材料に含まれる粒子の形態を特定する形態特定情報、前記粒子の体積分率、及び、前記粒子の特性値であって、下記式(1)により規定される、前記粒子の表面において他の粒子との重なりを許容する接触許容領域の寸法を示す接触許容領域寸法を含む特性値を設定する設定ステップと、前記複数の粒子充填複合材料のそれぞれについて、前記形態特定情報、前記体積分率及び前記接触許容領域寸法に基づき、複数の粒子及び各粒子の隙間を埋めるマトリクスを含む充填構造モデルを生成する生成ステップと、前記複数の粒子充填複合材料のそれぞれについて、前記充填構造モデルから、前記粒子同士が重なっている部分の体積を示す接触体積を算出する第1算出ステップと、前記複数の粒子充填複合材料のそれぞれについて算出した前記接触体積を比較することにより、前記粒子充填複合材料の特性値の大小を予測する予測ステップと、を含み、式(1)は、2t/(d-2t)で表され、tは、前記接触許容領域寸法であり、dは、前記粒子の表面上の2点を結ぶ線分であり、かつ前記粒子の重心を通る線分の長さである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、粒子同士の重なりを考慮し、かつ、上記数値解析手法を行わずとも、複合材料の特性値を解析できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】解析装置の一例を示すブロック図である。
図2】モデル化した複合材料の充填構造の一例であるRVEモデルを示す模式図である。
図3】接触許容領域及び接触許容領域寸法を説明するための模式図である。
図4】2つの粒子が重なっている状態を示す模式図である。
図5】上記解析装置が備える制御部の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図6】解析結果の一例を示すグラフである。
図7】解析結果の別例を示すグラフである。
図8】粒子の形状について説明するための模式図である。
図9】粒子の形状について説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態ついて、詳細に説明する。本実施形態の解析装置1及び解析方法について説明する前に、まず、本実施形態の解析装置1及び解析方法が解析対象とする複合材料(粒子充填複合材料)と、モデル化した複合材料の構造の一例であるRVE(Representative volume element)モデルと、について説明する。
【0013】
<複合材料>
複合材料は、複数の粒子と樹脂とを混合することにより、所望の特性値を満たすように設計される材料である。具体的には、複合材料は、複数の粒子と、各粒子の隙間を埋めるマトリクスとを含む材料である。複合材料は、複数の粒子として、体積が異なる粒子を含んでいてもよい。この場合、複数の粒子を、体積が大きい順に、例えば、大粒子、中粒子及び小粒子等に分類できる。但し、複合材料に含まれる粒子の体積の種類は、大粒子、中粒子及び小粒子から構成される3種類に限らず、2種類又は4種類以上に分類されてもよい。粒子の原料は、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物等の無機物、又は、炭素系材料である。粒子の原料は、例えば、アルミナ又は窒化アルミニウム等である。マトリクスの原料は、例えば、エポキシ樹脂又はアクリル樹脂等のポリマー樹脂である。
【0014】
<RVEモデル>
図2は、モデル化した複合材料の充填構造の一例であるRVEモデルを示す模式図である。RVEモデルは、複数の粒子及び各粒子の隙間を埋めるマトリクスを含む充填構造モデルの一例である。図2の符号1001は、大粒子CP(Coarse Particles)と、小粒子FP(Fine Particles)と、マトリクスPM(Polymer Matrix)とを含むRVEモデルの一例を示している。図2の符号1002は、符号1001に示すRVEモデルから大粒子CPのみを抽出したRVEモデルの一例を示す図である。
【0015】
RVEモデルは、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向(3軸)に等価な単位セル(代表体積要素)により複合材料の充填構造を規定する立方体または直方体等のモデルである。RVEモデルは、その一辺の長さ、各粒子の大きさ(サイズ)、各粒子の形状及び各粒子の体積分率等が設定された後、モンテカルロシミュレーションを用いて、大きい粒子から順に、指定される体積分率になるまで各粒子を分散及び配置して生成される。本実施形態のRVEモデルでは、指定される接触許容領域寸法(後述)の範囲において各粒子同士の重なりを許容した状態で、各粒子が配置される。RVEモデルの生成には、MSCソフトウェア株式会社製のDigimat-FEを用いることができる。
【0016】
生成されたRVEモデルの全ての境界においては、周期対称性が担保されており、RVEモデルに含まれる複数の粒子及びマトリクスの界面は、完全に接着されているものとする。
【0017】
RVEモデルにおいて、対象粒子の体積分率は、「(対象粒子の体積)/(全粒子の体積+マトリクスの体積)」として求められる。例えば、図2の符号1001のRVEモデルにおいて、大粒子CPの体積をVc、小粒子FPの体積をVf、マトリクスMPの体積をVpとすると、大粒子CPの体積分率Vfc及び小粒子FPの体積分率Vffは、
・Vfc=Vc/(Vc+Vf+Vp)
・Vff=Vf/(Vc+Vf+Vp)
と表される。
【0018】
<本願の目的>
例えば熱伝導又は電気伝導等、物質移動が伴う特性については、各粒子がつながることにより発現する。そのため、例えば熱伝導率又は電気伝導率等の特性値を解析する場合、一般に、互いに異なる大きさを有する複数の粒子が高充填化された複合材料が使用される。また、数多くの制御因子が設定される。そのため、複合材料の特性値の解析が実験者の経験に基づきトライアンドエラーを通じて行われる場合、その解析には多大な時間及び負担を要する。従って、このような解析においては、シミュレーションを用いた特定値の予測が有用である。そして、上述したように、実験コスト及び時間を削減すべく、このシミュレーションとして、RVEモデルを用いた有限要素解析等の数値解析手法を用いることが検討されてきた。
【0019】
しかし、上述したように、本発明者らは、複合材料中の粒子同士の重なりを考慮した場合、既知の手法で生成される充填構造モデルにおける粒子の状態が現実の粒子の状態と乖離することから、複合材料の特性値を精度よく解析できないことを見出した。本発明者らは、上記数値解析手法では特に、粒子同士の重なりにより発現する特性(熱伝導又は電気伝導等)について精度よく解析できないことを見出した。また、特に複数の粒子が高充填化された複合材料において、上記数値解析手法により得られる特性値が実験値と乖離することが知られている。
【0020】
本発明者らは、これらの知見に基づき、以下に説明する解析装置1及び解析手法を想到した。以下に、解析装置1及び解析手法について説明する。
【0021】
<解析装置の構成>
図1は、解析装置1の一例を示すブロック図である。解析装置1は、例えば、入力部11、表示部12、制御部13及び記憶部14を備えている。解析装置1は、複数の複合材料の配合(構造)から複合材料の特性値を解析する装置である。解析装置1は、例えば、パーソナルコンピュータ等の一般的なコンピュータにより実現されていてよい。
【0022】
入力部11は、ユーザからの各種入力を受け付けて制御部13に出力する装置である。入力部11は、キーボード又はマウス等の入力デバイスであってよい。表示部12は、解析結果等、各種情報を表示するディスプレイである。制御部13は、解析装置1の動作を制御する制御装置である。制御部13の機能については後述する。
【0023】
記憶部14は、制御部13による制御に必要なデータを記憶する記憶装置である。記憶部14は、例えば、材料DB(Data Base)141を記憶する。材料DB141には、複合材料の構成材料(粒子及びマトリクス)となり得る原料に関する情報が格納されている。原料に関する情報には、例えば、上記構成材料となり得る原料の特性値等の情報が含まれている。
【0024】
本実施形態では、構成材料の特性値は、熱特性を表す熱伝導率、又は、電気特性を表す電気伝導率である。すなわち本実施形態では、解析対象となる複合材料の特性値は、熱伝導率又は電気伝導率である。上述したように、熱伝導及び電気伝導等の特性は、粒子同士の重なりにより発現するものであり、既知の手法ではその特性値を精度よく解析することが困難であった。解析装置1は、粒子同士の重なりを考慮した複合材料の特性値の解析を行うため、粒子同士の重なりにより発現する特性の特性値の解析に特に有効に機能する。つまり、解析装置1によれば、熱伝導率又は電気伝導率の解析を精度よく行うことが可能となる。
【0025】
但し、構成材料及び複合材料の特性値は、熱伝導率又は電気伝導率に限らず、熱機械特性を表す線膨張係数、力学特性(弾性特性)を表すヤング率又はポアソン比等であってもよい。
【0026】
制御部13は、例えば、設定部131、モデル生成部132、第1算出部133、予測部134、及び、第2算出部135を備える。但し、制御部13は、第2算出部135を必ずしも備えている必要はない。
【0027】
設定部131は、複数の複合材料のそれぞれについて、構成材料(粒子及びマトリクス)の原料を設定する。また、設定部131は、複数の複合材料のそれぞれについて、複合材料に含まれる粒子の形態を特定する形態特定情報、粒子の体積分率、及び、粒子の特性値を設定する。また、設定部131は、複数の複合材料のそれぞれについて、マトリクスの特性値を設定する。設定部131は、入力部11を介したユーザからの入力に基づき、複合材料を構成する構成材料の原料、粒子の形状、粒子の大きさ、及び、粒子の体積分率等を設定する。
【0028】
粒子の形状については、例えば、球状、繊維状(円柱状)、多面体状等の各種形状から選択されてもよい。粒子の大きさとしては、例えば、粒子の形状が球状である場合には直径、繊維状(円柱状)である場合には直径及び長さ、多面体状である場合には一辺の長さが設定される。粒子の形状及び大きさは、上記形態特定情報の一例である。
【0029】
また、設定部131は、材料DB141を参照して、粒子及びマトリクスの特性値を設定する。本実施形態では、設定部131は、粒子及びマトリクスの特性値として、熱伝導率又は電気伝導率を設定する。
【0030】
設定部131は、粒子の特性値としてさらに、接触許容領域寸法を設定する。接触許容領域寸法は、粒子の表面において他の粒子との重なりを許容する接触許容領域の寸法である。図3は、接触許容領域及び接触許容領域寸法を説明するための模式図である。図3は、球状の粒子について、その中心を含む断面を示す模式図である。図3に示すように、接触許容領域CA(Contact―tolerance Area)は、粒子の表面全体において、当該表面に対して垂直内向きに設定される所定の厚み(粒子の表面の法線または垂線に沿って当該表面から粒子の内側へ向かう所定の長さ)を有する層である。この厚みが接触許容領域寸法tである。また、粒子において、接触許容領域CAの内部の領域が、他の粒子との重なりを許容しない非接触領域NCAである。
【0031】
接触許容領域寸法tは、例えば、
2t/(d-2t) …式(1)
により規定される。dは、粒子の表面上の2点を結ぶ線分であり、かつ粒子の重心を通る線分の長さである。dは、上述した粒子の大きさに相当する値である。本実施形態の粒子の形状は球状であるため、図3に示すように、dは、球の直径(粒径)である。式(1)は、接触許容領域寸法tの、非接触領域NCA(Non Contact―tolerance Area)の寸法(「d-2t」で規定される寸法)に対する比である。dは、粒子の表面上の2点を結ぶ線分で、かつ粒子の重心を通る線分のうち、最長の線分であってもよい。
【0032】
接触許容領域寸法tは、式(1)が下記の所定値を満たすときの値として設定される。所定値は、例えば、解析装置1により得られる複合材料の特性値と、実験により得られる複合材料の特性値との比較によって設定される。所定値は、少なくとも粒子の大きさに依らず設定できる。例えば、所定値は、0.01~0.3に設定され、好ましくは0.05~0.1に設定される。原料がアルミナである場合、所定値は上記数値範囲内に設定でき、例えば0.058を妥当な値として設定できる。接触許容領域寸法tが上記数値範囲において設定されることにより、予測部134による複合材料の特性値の大小比較を精度よく行うことが可能となる。
【0033】
設定部131は、原料に複数種の粒子(大きさが互いに異なる粒子)が含まれる場合には、入力部11を介したユーザからの入力に基づき、複数種の粒子のそれぞれに対して形態特定情報を設定する。複数種の粒子としては、成分組成が互いに同じ粒子(例えば、大きさが互いに異なるアルミナ)であってもよいし、成分組成が互いに異なる粒子(例えば、アルミナと窒化アルミニウム)であってもよい。
【0034】
また、設定部131は、入力部11を介したユーザからの入力に基づき、モデル生成部132が生成する充填構造モデルの大きさとして、例えば立方体の一辺の長さを設定する。
【0035】
モデル生成部132は、複数の複合材料のそれぞれについて、設定部131が設定した各種情報に基づき、複数の粒子とマトリクスとを含む充填構造モデルを生成する。モデル生成部132は、複数の複合材料のそれぞれについて、上述したRVEモデルを生成する。
【0036】
第1算出部133は、複数の複合材料のそれぞれについて、モデル生成部132が生成した充填構造モデルから、粒子同士が重なっている部分の体積を示す接触体積を算出する。図4は、2つの粒子が重なっている状態を示す模式図である。図4は、2つの球状の粒子について、それぞれの粒子の中心を含む断面を示す模式図である。図4に示すように、一方の粒子の接触許容領域CAiと、他方の粒子の接触許容領域CAjとが重なっている領域CAijにおける体積が、接触体積Vcontact i/jである。
【0037】
第1算出部133は、接触体積Vcontact i/jを、例えば、
contact i/j=(Vj*-Vj j)/Vj …式(2)
、及び/又は、
contact i/j=(Vj j-Vi-j j)/Vj …式(3)
により算出する。
【0038】
i,jは、粒子番号である。式(2)は、i=jの場合の、粒子番号iの粒子と粒子番号jの粒子との接触体積を算出する式である。すなわち、粒子同士の大きさが同じである場合の接触体積を算出する式である。以降の説明において、粒子番号iの粒子を粒子iと称し、粒子番号jの粒子を粒子jと称する。式(3)は、i≠j(具体的にはi<j)の場合の、粒子iと粒子jとの接触体積を算出する式である。すなわち、粒子同士の大きさが異なる場合の接触体積を算出する式である。
【0039】
従って、第1算出部133は、複合材料中に互いに同じ大きさの粒子が含まれる場合には、式(2)を適用し、複合材料中に互いに異なる大きさの粒子が含まれる場合には、式(3)を適用する。そのため、複合材料中に、互い同じ大きさの粒子と互いに異なる大きさの粒子とが混在する場合、第1算出部133は、式(2)及び式(3)の両方を適用する。また、第1算出部133は、体積が大きい粒子から順に接触体積を算出する。
【0040】
式(2),式(3)における各符号の定義は、以下の通りである。
・Vi:粒子iの、1粒子あたりの体積。
・Vj:粒子jの、1粒子あたりの体積。ここで、i≦jの場合、Vi≧Vjであるものとする。
・Vi*:充填構造モデルに含まれる全ての粒子iどうしが接触していない場合の、粒子iの接触許容領域の体積の合計値(理論値)。
・Vj*:充填構造モデルに含まれる全ての粒子jどうしが接触していない場合の、粒子jの接触許容領域の体積の合計値(理論値)。
・Vi i:充填構造モデルに含まれる粒子iに着目したときに、充填構造モデルに、2つの粒子iの一部が重なっておりかつ一部に重なりを有する2つの粒子iの組が少なくとも1つ存在する状態における、粒子iの接触許容領域の体積の合計値(実値)。この充填構造モデルは、粒子iのみを用いて生成されてもよい。
・Vj j:充填構造モデルに含まれる粒子jに着目したときに、充填構造モデルに、2つの粒子jの一部が重なっておりかつ一部に重なりを有する2つの粒子jの組が少なくとも1つ存在する状態における、粒子jの接触許容領域の体積の合計値(実値)。この充填構造モデルは、粒子jのみを用いて生成されてもよい。
・Vi-j i:充填構造モデルに含まれる粒子i,jに着目したときに、粒子iにおいて粒子jと重なっている部分の体積の合計値。
・Vi-j j:充填構造モデルに含まれる粒子i,jに着目したときに、粒子jにおいて粒子iと重なっている部分の体積の合計値。
【0041】
第1算出部133は、Vi、Vj、Vi*、Vj*については、設定部131が設定した形状特定情報及び接触許容領域寸法に基づき算出する。第1算出部133は、Vi i、Vj j i-j i、Vi-j jについては、モデル生成部132が生成したRVEモデルを用いて算出する。
【0042】
i=jの場合、第1算出部133は、n通りの接触体積を算出する。3粒子が充填されたRVEモデルの場合、第1算出部133は、3通りの接触体積を算出する。具体的には、第1算出部133は、
・i=j=1の接触体積Vcontact 1/1=(V1*-V1 1)/V1
・i=j=2の接触体積Vcontact 2/2=(V2*-V2 2)/V2
・i=j=3の接触体積Vcontact 3/3=(V3*-V3 3)/V3
を算出する。
【0043】
i≠j(i≦j)の場合、第1算出部133は、n2通りの接触体積を算出する。3粒子が充填されたRVEモデルの場合、第1算出部133は、32=3通りの接触体積を算出する。具体的には、第1算出部133は、
・i=1,j=2の接触体積Vcontact 1/2=(V2 2-V1-2 2)/V2
・i=1,j=3の接触体積Vcontact 1/3=(V3 3-V1-3 3)/V3
・i=2,j=3の接触体積Vcontact 2/3=(V3 3-V2-3 3)/V3
を算出する。
【0044】
なお、本実施形態では、第1算出部133は、式(2)及び式(3)を用いることにより、接触体積を無次元化している。これに限らず、第1算出部133は、式(2)及び式(3)の分子のみを算出した結果を、接触体積としてもよい。
【0045】
また、成分組成が互いに異なる複数種の粒子が複合材料に含まれる場合、第1算出部133は、異なる成分組成を有する粒子同士の接触体積を算出する。すなわち、第1算出部133は、多成分系の接触体積を算出する。従って、成分組成が互いに同じである粒子を含む複合材料だけでなく、成分組成が互いに異なる粒子を含む複合材料についても、接触体積を用いた複合材料の特性値の解析が可能となる。
【0046】
予測部134は、第1算出部133が複数の複合材料のそれぞれについて算出した接触体積を比較することにより、各複合材料の特性値の大小を予測する。後述するように、接触体積と特性値(後述の実施例では熱伝導率)との間には相関関係がある。そのため、予測部134は、接触体積を比較することにより、複合材料の特性値の大小関係を予測できる。
【0047】
このように、制御部13は、接触許容領域寸法を設定し、充填構造モデルから接触体積を算出することにより、複合材料の特性値の大小関係を予測できる。従って、制御部13は、粒子同士の重なりを考慮して、複合材料の特性値の大小関係を予測できる。また、制御部13は、接触許容領域寸法の設定、及び、接触体積の算出により、充填構造モデルに対して有限要素解析を適用せずとも、複合材料の特性値の大小関係を予測できる。従って、制御部13は、粒子同士の重なりを考慮し、かつ、有限要素解析よりも計算コスト及び時間を要することなく、複合材料の特性値を解析することが可能となる。
【0048】
第2算出部135は、モデル生成部132が生成した充填構造モデルに対して有限要素解析を適用することにより、複合材料の特性値を算出する。第2算出部135は、所定の範囲において接触許容領域の特性値を指定して、有限要素解析を実行する。本実施形態では、この特性値として、熱伝導率又は電気伝導率が指定される。入力部11を介してユーザの入力を受け付けることにより、設定部131が接触許容領域の特性値を設定することにより、第2算出部135が接触許容領域の特性値を指定してもよい。
【0049】
上記所定の範囲は、例えば、0から粒子の特性値までの範囲であってよい。また、上記所定の範囲は、マトリクスの特性値から粒子の特性値までの範囲であってもよく、複合材料の表面にボイドが存在する場合には、ボイドの特性値から粒子の特性値までの範囲であってもよい。
【0050】
上述の通り、制御部13は、複合材料の特性値の大小関係を予測できる。一方で、制御部13は、接触許容領域寸法を設定すると共に、接触許容領域の特性値を指定することにより、有限要素解析を用いても複合材料の特性値を予測できる。すなわち、制御部13は、粒子同士の重なりを考慮し、かつ有限要素解析を用いて、複合材料の特性値を予測できる。
【0051】
上述したように、モデル生成部132は、設定部131が設定した構成材料の原料、形状特定情報、粒子の体積分率、粒子の特性値、及び、充填構造モデルの大きさに基づき、充填構造モデルを生成する。第2算出部135は、生成された充填構造モデルの要素分割を行い、有限要素モデルを生成する。そして、第2算出部135は、例えば以下のように、有限要素解析を行うことにより、複合材料の特性値を算出する。
【0052】
第2算出部135は、例えば、フリーメッシュ法を用い、充填構造モデルを複数の要素に分割する。要素には、充填構造モデルよりも大きさが小さい四面体要素を採用する。要素の形状は、四面体に限らず、五面体、六面体等の他の多面体を採用してもよい。
【0053】
第2算出部135は、充填構造モデルを要素分割した有限要素モデルに対して境界条件を設定する。解析対象が熱伝導率である場合、第2算出部135は、境界条件として、有限要素モデルの各境界における温度を設定する。第2算出部135は、解析対象が電気特性である場合、境界条件として、有限要素モデルの各境界における電位を設定し、解析対象が力学特性である場合、境界条件として、有限要素モデルの各境界における変位量を設定する。
【0054】
第2算出部135は、有限要素モデルに対して設定した境界条件に基づいて連立一次方程式を構築し、ソルバーを用いて連立一次方程式の解を求め、この解に基づき、複合材料の特性値を算出する。第2算出部135は、粒子がランダムに分散している充填構造モデルに対しては、3軸方向それぞれの特性値を算出できるが、この場合、3軸方向それぞれの特性値の平均値を複合材料の特性値として算出する。
【0055】
<解析方法>
図5は、制御部13の処理の流れ(解析方法)の一例を示すフローチャートである。設定部131は、粒子iの形態特定情報、粒子iの体積分率情報、及び、粒子iの特性値情報を、充填構造モデルを生成するための物性値として設定する(S1,S2,S3;設定ステップ)。S3において、設定部131は、粒子iの特性値として、粒子iの接触許容領域寸法を設定する。
【0056】
設定部131は、これらの情報について全て設定されたかを判定する(S4)。設定部131は、何れかの情報の設定を行っていないと判定した場合(S4でNO)、S1の処理に戻る。S1~S3の処理順はこれに限らず、どの順で行われてもよい。また、設定部131は、複合材料に大きさが異なる複数種の粒子が含まれる場合、設定部131は、複数種の粒子のそれぞれについて、S1~S3に示す情報を設定する。
【0057】
設定部131は、上述した全ての情報の設定を行ったと判定した場合(S4でYES)、マトリクス情報(例えばマトリクスの特性値)を、充填構造モデルを生成するための物性値として設定する(S5)。
【0058】
設定部131が上記各種情報を設定した後、モデル生成部132は、上記各種情報に基づき、複数の粒子及びマトリクスを含む充填構造モデルを生成する(S6;生成ステップ)。第1算出部133は、モデル生成部132が生成した充填構造モデルから、接触体積を算出する(S7;第1算出ステップ)。
【0059】
制御部13は、比較対象とする複数の複合材料のそれぞれについて、モデル生成部132が充填構造モデルを生成し、第1算出部133が接触体積を算出したかを判定する(S8)。制御部13は、比較対象の充填構造モデルを全て生成しておらず、比較対象の接触体積を全て算出していないと判定した場合(S8でNO)、S1の処理に戻る。これにより、比較対象とする複数の複合材料のそれぞれについて、接触体積が算出される。
【0060】
制御部13が、比較対象の充填構造モデルを全て生成し、比較対象の接触体積を全て算出したと判定した場合(S8でYES)、予測部134は、第1算出部133が算出した複数の接触体積を比較する(S9;予測ステップの一部)。そして、予測部134は、その比較により、複数の複合材料のそれぞれについての特性値の大小を予測する(S10;予測ステップの一部)。
【0061】
図示しないが、例えば第2算出部135は、S6の処理(充填構造モデルの生成)後、充填構造モデルに対して有限要素解析を適用することにより、複合材料の特性値を算出してもよい(第2算出ステップ)。
【0062】
<実施例>
図6は、解析結果の一例を示すグラフであり、複合材料における粒子の体積分率と、複合材料の熱伝導率との関係を示すグラフである。図6には、以下のグラフが含まれる。
・上述したように接触許容領域を規定した複合材料について充填構造モデルを生成し、第2算出部135により算出された複合材料の熱伝導率をプロットしたグラフ(図中の「本実施例」)。この場合の粒子の体積分率は、接触許容領域及び非接触領域の全体の体積分率である。
・接触許容領域を規定しない複合材料について充填構造モデルを生成し、有限要素解析を行うことにより得られた複合材料の熱伝導率をプロットしたグラフ(図中の「比較例」)。
・実測した複合材料の熱伝導率をプロットしたグラフ(図中の「実験結果例」)。
【0063】
図6のグラフの作成に際し、直径20μmの大粒子のアルミナと直径4μmの小粒子のアルミナとを含む複合材料を用いた。マトリクスとして、ポリマー樹脂を用いた。また、モデル比(=最大粒子径/充填構造モデル1辺の長さ)は0.6、失敗回数は50000回とした。
【0064】
さらに、接触許容領域を規定した複合材料において、接触許容領域の熱伝導率は7.5[W/mK]、非接触領域(コア領域)の熱伝導率は36[W/mK]、ポリマー樹脂の熱伝導率は0.18[W/mK]であった。また、接触許容領域寸法は、式(1)が0.058を満たすときの値とした。接触許容領域を規定しない複合材料において、粒子(非接触領域に相当)の熱伝導率は36[W/mK]、ポリマー樹脂の熱伝導率は0.18[W/mK]であった。
【0065】
図6に示すように、実験結果例では、体積分率が増加するにつれて複合材料の熱伝導率も増加する傾向にあることがわかる。本実施例についても、実験結果例と同じように、体積分率が増加するにつれて複合材料の熱伝導率も増加する傾向にあることがわかる。
【0066】
比較例についても、体積分率が増加するにつれて複合材料の熱伝導率も増加しているが、体積分率が増加するにつれて実験結果例から乖離する傾向にあることがわかる。一方、本実施例では、体積分率が増加しても、比較例と比べて実験結果例に近い値を示す傾向にあることがわかる。特に、本実施例では、体積分率が50体積%以上においても、比較例と比べて実験結果例に近い値を示していることがわかる。
【0067】
以上から、本実施形態の解析装置1が、接触許容領域を規定することにより、広い体積分率の範囲において複合材料の熱伝導率を精度よく予測できるといえる。特に、複合材料において、充填する粒子の体積分率が50体積%以上である場合においても、複合材料の熱伝導率を精度よく予測できるといえる。
【0068】
図7は、解析結果の別例を示すグラフである。図7の符号1011は、複合材料に含まれる大粒子と小粒子との体積比と、複合材料の熱伝導率との関係を示すグラフである。図7の符号1012は、複合材料に含まれる大粒子と小粒子との体積比と、複合材料における接触体積との関係を示すグラフである。図7の符号1012では、大粒子同士の接触体積(図中の「Vcontact L/L」)、大粒子と小粒子との接触体積(図中の「Vcontact L/S」)と、小粒子同士の接触体積(図中の「Vcontact S/S」)とのそれぞれにおいて、体積比毎のグラフを示している。図7では、横軸において、大粒子と小粒子との体積比として、大粒子と小粒子との粒径比を示している。
【0069】
図7のグラフの作成に際し、接触許容領域を規定した複合材料において、接触許容領域の熱伝導率を7.5[W/mK]、非接触領域(コア領域)の熱伝導率を36[W/mK]、ポリマー樹脂の熱伝導率を0.18[W/mK]とした。また、大粒子の体積分率及び小粒子の体積分率を、それぞれ30体積%とした。また、マトリクスとして、ポリマー樹脂を用いた。また、モデル比(=最大粒子径/充填構造モデル1辺の長さ)は0.6、失敗回数は50000回とした。また、接触許容領域寸法は、式(1)が0.058(tr=0.058)を満たすときの値とした。なお、図7の符号1012における点線は、粒子同士の重なりが無い場合の複合材料の熱伝導率の計算値(約1.3[W/mK])を示している。
【0070】
また、図7のグラフの作成に際しては、以下の大粒子及び小粒子を含む4種類の複合材料を準備した。
・直径20μm(dL=20μm)の大粒子のアルミナと直径4μm(dS=4μm)の小粒子のアルミナとを含む複合材料。粒径比(dL/dS)は5。
・直径20μm(dL=20μm)の大粒子のアルミナと直径6μm(dS=6μm)の小粒子のアルミナとを含む複合材料。粒径比(dL/dS)は約3.3。
・直径20μm(dL=20μm)の大粒子のアルミナと直径8μm(dS=8μm)の小粒子のアルミナとを含む複合材料。粒径比(dL/dS)は2.5。
・直径20μm(dL=20μm)の大粒子のアルミナと直径10μm(dS=10μm)の小粒子のアルミナとを含む複合材料。粒径比(dL/dS)は2。
【0071】
図7の符号1011に示すように、複合材料の熱伝導率は、粒径比が小さくなるにつれて小さくなる傾向にあることがわかる。また、図7の符号1012に示すように、少なくとも、大粒子と小粒子との接触体積(Vcontact L/S)と、小粒子同士の接触体積(Vcontact S/S)とにおいては、粒径比が小さくなるにつれて接触体積が小さくなることがわかる。これらの関係から、接触体積が小さくなるにつれて、複合材料の熱伝導率が小さくなる傾向にあることがわかる。
【0072】
以上から、接触体積が複合材料の熱伝導率に相関があるパラメータであることがわかる。そのため、予測部134は、第1算出部133が算出した各充填構造モデルの接触体積を比較することにより、各充填構造モデルにおける複合材料の熱伝導率の大小を予測できることがわかる。
【0073】
<変形例>
解析装置1は、各複合材料について、複合材料に含まれる各粒子に対して接触許容領域寸法を設定したうえで、粒子同士が重なっている部分の接触体積を算出し、各複合材料の接触体積を比較することにより、各複合材料の特性値の大小を比較する。これに限らず、解析装置1の予測部134は、各複合材料の特性値を予測してもよい。
【0074】
上述したように、複合材料の熱伝導率は、接触体積と相関がある。すなわち、解析対象とする複合材料の特性値と、接触体積との間には相関関係があるといえる。そのため、接触体積と複合材料の特性値との相関関係を示すデータ(相関関係表)を記憶部14に記憶しておくことができる。そして、予測部134は、上記相関関係表を参照することにより、第1算出部133が算出した接触体積に対応する特性値を特定することにより、複合材料の特性値を予測できる。
【0075】
相関関係表は、例えば、有限要素解析により特性値の解析を繰り返し行うことにより作成することが可能である。例えば、第1算出部133が算出した接触体積と、第2算出部135が算出した複合材料の特性値とを対応付けていくことにより、相関関係表が作成されてよい。複合材料の特性値を予測可能な程度のデータを有する相関関係表が作成できた後については、その後の予測において、第2算出部135による有限要素解析を用いた複合材料の特性値を算出せずとも、予測部134が当該特性値を予測できる。
【0076】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0077】
実施形態1では、形状が球である粒子を用いた複合材料の特性値の解析手法について説明した。実施形態1で説明した解析手法は、表面積を計算可能な粒子であれば、粒子の形状がどのような形状であっても適用可能である。そのような粒子の形状(球以外)の一例を以下に示す。
【0078】
図8及び図9は、粒子の形状について説明するための模式図である。図8の符号1021は、円柱状の粒子の一例を示す図である。図8の符号1021では、円柱状の粒子の外観と、当該粒子の底面と平行な平面で切ったときの断面(図中の「平面断面図」)と、粒子の底面の中心を通り、当該底面に垂直な平面で切ったときの断面(図中の「側面断面図」)とを示している。
【0079】
上述したように、接触許容領域CAは、粒子の表面全体において、当該表面に対して垂直内向きに設定される所定の厚みを有する層である。そのため、円柱状の粒子については、図8の符号1021に示すように接触許容領域寸法tが規定される。また、長さdは、例えば、円柱の底面を構成する円の直径として規定される。なお、図中の符号hは、円柱の底面の中心を通り、当該底面に垂直な平面で切ったときの断面において、両側の接触許容領域寸法tと、非接触領域NCAの厚みとの合計の長さを示す。長さdは、例えば、符号hで示す長さで規定されてもよい。
【0080】
図8の符号1022は、楕円状の粒子の一例を示す図である。図8の符号1022では、楕円状の粒子の外観と、当該粒子の長径を含む平面で切ったときの断面とを示している。楕円状の粒子についても、粒子の表面全体において接触許容領域寸法tを有する接触許容領域CAが設定される。長さdは、例えば楕円の短径である。長さdは、例えば楕円の長径であってもよい。
【0081】
図8の符号1023は、直方体状の粒子の一例を示す図である。図8の符号1023では、直方体状の粒子の外観と、当該粒子の一平面に平行な平面で切ったときの断面とを示している。直方体状の粒子についても、粒子の表面全体において接触許容領域寸法tを有する接触許容領域CAが設定される。長さdとしては、例えば、何れかの辺の長さが規定される。
【0082】
図9の符号1031は、多面体の粒子の一例を示す断面図である。図9の符号1031では、多面体の粒子の断面形状として、中心を通る平面で切ったときの断面形状が正六角形である場合の例を示している。多面体の粒子には、正多面体の粒子も含まれる。多面体の粒子についても、粒子の表面全体において接触許容領域寸法tを有する接触許容領域CAが設定される。長さdとしては、表面上の2点を結び、中心を通る線分であればよい。
【0083】
粒子の形状は、上述した以外の立体形状であってもよい。例えば、図9の符号1032に示すように、粒子の形状が、表面に複数の凹凸を含む形状であってもよい。このような形状であっても、粒子の表面全体において接触許容領域寸法tを有する接触許容領域CAを設定でき、また、長さdを規定できる。
【0084】
〔ソフトウェアによる実現例〕
解析装置1(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部13に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0085】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0086】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1又は複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線又は無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0087】
また、上記各制御ブロックの機能の一部又は全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0088】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータ又はクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0089】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る解析方法は、複数の粒子充填複合材料の配合から前記粒子充填複合材料の特性値を解析する解析方法であって、前記複数の粒子充填複合材料のそれぞれについて、前記粒子充填複合材料に含まれる粒子の形態を特定する形態特定情報、前記粒子の体積分率、及び、前記粒子の特性値であって、式(1)により規定される、前記粒子の表面において他の粒子との重なりを許容する接触許容領域の寸法を示す接触許容領域寸法を含む特性値を設定する設定ステップと、前記複数の粒子充填複合材料のそれぞれについて、前記形態特定情報、前記体積分率及び前記接触許容領域寸法に基づき、複数の粒子及び各粒子の隙間を埋めるマトリクスを含む充填構造モデルを生成する生成ステップと、前記複数の粒子充填複合材料のそれぞれについて、前記充填構造モデルから、前記粒子同士が重なっている部分の体積を示す接触体積を算出する第1算出ステップと、前記複数の粒子充填複合材料のそれぞれについて算出した前記接触体積を比較することにより、前記粒子充填複合材料の特性値の大小を予測する予測ステップと、を含む。
【0090】
本開示の態様2に係る解析方法は、態様1において、前記特性値は、熱伝導率又は電気伝導率である。
【0091】
本開示の態様3に係る解析方法は、態様1又は2において、前記接触許容領域寸法は、前記式(1)が0.01~0.3を満たすときの値である。
【0092】
本開示の態様4に係る解析方法は、態様1から3の何れかにおいて、前記設定ステップにおいて、複数種の粒子のそれぞれに対して前記形態特定情報を設定し、前記第1算出ステップにおいて、式(2)及び式(3)により多成分系の前記接触体積を算出する。
【0093】
本開示の態様5に係る解析方法は、態様1から4の何れかにおいて、さらに、前記充填構造モデルに対して有限要素解析を適用することにより、前記粒子充填複合材料の特性値を算出する第2算出ステップを含み、前記第2算出ステップにおいて、所定の範囲において前記接触許容領域の特性値を指定する。
【0094】
本開示の態様6に係る解析方法は、態様1から5の何れかにおいて、前記粒子充填複合材料において、充填する粒子の体積分率が50体積%以上である。
【0095】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0096】
1 解析装置
131 設定部
132 モデル生成部
133 第1算出部
134 予測部
135 第2算出部
S1,S2,S3 設定ステップ
S6 生成ステップ
S7 第1算出ステップ
S9,S10 予測ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9