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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025152511
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】プレートれんがの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/106 20060101AFI20251002BHJP
   C04B 35/043 20060101ALI20251002BHJP
   C04B 35/443 20060101ALI20251002BHJP
   B22D 41/22 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
C04B35/106
C04B35/043 500
C04B35/443
B22D41/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024054420
(22)【出願日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 経一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡本 稔彦
【テーマコード(参考)】
4E014
【Fターム(参考)】
4E014MA04
(57)【要約】
【課題】Al、Si及びCを含有する耐火原料配合物より得られるプレートれんがの耐消化性をさらに向上させることのできるプレートれんがの製造方法を提供する。
【解決手段】炭素原料を1質量%以上4質量%以下含むとともに、Si含有率が8質量%以上40質量%以下であるアルミニウムシリコン合金を含み、残部が主として耐火性骨材からなる耐火原料配合物に、有機バインダーを添加して混練し、成形後、非酸化雰囲気にて800℃以上1350℃以下で熱処理する、プレートれんがの製造方法において、耐火原料配合物中のSi含有率RSiとAl含有率RAlの比:RSi/(RSi+RAl)が0.5以上0.8以下、RAlが0.5以上5以下であり、かつRAlの85%以上が前記アルミニウムシリコン合金に由来し、さらにトータルカーボン値Tが2以上5以下であり、かつT/(RSi+T)が0.3以上0.67以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原料を1質量%以上4質量%以下含むとともに、Si含有率が8質量%以上40質量%以下であるアルミニウムシリコン合金を含み、残部が主として耐火性骨材からなる耐火原料配合物に、有機バインダーを添加して混練し、成形後、非酸化雰囲気にて800℃以上1350℃以下で熱処理する、プレートれんがの製造方法であって、
前記耐火原料配合物中のSi含有率をRSi(質量%)、Al含有率をRAl(質量%)としたとき、RSi/(RSi+RAl)が0.5以上0.8以下、RAlが0.5以上5以下であり、かつRAlの85%以上が前記アルミニウムシリコン合金に由来し、
さらに前記耐火原料配合物中のC含有率をR(質量%)、前記耐火原料配合物に対する有機バインダーの添加率をA(質量%)、当該有機バインダーの残炭率をB(%)としたとき、R+(A×B/100)で表されるトータルカーボン値Tが2以上5以下であり、かつT/(RSi+T)が0.3以上0.67以下である、プレートれんがの製造方法。
【請求項2】
前記耐火性骨材が、アルミナ原料、アルミナジルコニア原料、ジルコニアムライト原料、マグネシア原料、スピネル原料及び炭化珪素原料から選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載のプレートれんがの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属の流量制御のためのスライディングノズル装置に使用されるプレートれんがの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の製造において、取鍋やタンディッシュ等の溶融金属容器から排出される溶鋼の流量を制御するために、スライディングノズル装置が使用される。このスライディングノズル装置には2枚又は3枚の耐火物製のノズル孔を持つプレートれんがが使用される。このプレートれんがは重ね合わせられ、面圧が付加された状態で摺動され、ノズル孔の開度を調整することで溶鋼の流量が調整される。
【0003】
かかるプレートれんがには、耐食性や耐酸化性を付与する目的で、アルミニウム又はAlを含有するアルミニウム合金が添加されている。Alは融点が660℃とSi(融点1410℃)と比較して低く、低温で反応してその効果を発揮する。アルミニウムを添加したプレートれんがは、Alの融点以下の温度で加熱する不焼成又は軽焼タイプの材質と、融点以上の高温でAlを反応焼結させる高温焼成タイプの材質とに分類される。不焼成、軽焼タイプのプレートれんがは、主にフェノール樹脂の硬化によって強度が付与されているが、鋳造時、特に稼働面付近にある組織中のAlは高温条件下となることから耐火物中のCや気孔中の雰囲気と反応焼結し、AlやAlなどを生成する。これらの物質の生成によって組織が緻密化することから、熱間での強度の向上や耐食性の改善効果が得られることが、非特許文献1及び特許文献1に示されている。
【0004】
また、耐食性、特にFeOに対する耐食性に関しては、組織内部のAlやAlは、実使用時、高温下でAlガス等の気相となり稼働面へ移動し、溶鋼中のOと反応して界面で緻密なAl層を形成して、保護層としての機能を持ち優れた耐用性を示すことが非特許文献2及び特許文献2に示されている。
Alは、AlとCとの共存下、800℃以上の温度条件で容易に生成するが、空気中の水分によっても容易に水和される。そのため、耐火物の組織中にAlが存在すると、高湿条件で保管された場合、Alが水和反応によって体積膨張する、水和反応に伴いガスが発生する等により耐火物に亀裂が発生する、組織が崩壊する等のいわゆる消化現象を生じる。不焼成、軽焼タイプの材質は、製造時にはAlを生成しないが、実使用時の受熱によりAlを生成することから、再使用や使用後品を回収して加工して再生使用する条件では、消化によって亀裂を生じる、又は粉化することから使用できないという問題を生じる。
【0005】
一方で、Alの融点以上の高温焼成するタイプの材質は、焼成温度や焼成条件によっては、耐火物組織中に消化しやすいAlを生成することから、ユーザーでの保管条件や、特に海外などへ出荷する場合は船便などを利用することから長期間の保管となり消化の影響を受けやすい。そのため、アルミニウムを添加して高温焼成するタイプの材質は、焼成後にピッチやタールを含浸して空気中の水分と接触することを避け、消化を抑制する手法がとられている。しかしながら、ピッチを含浸しても完全に消化を防止することはできない。
【0006】
これに対して、特許文献3には、アルミニウム及び/又はアルミニウム合金を含有し、さらにシリコンを0.5質量%以上5質量%以下含有する耐火原料配合物に有機バインダーを添加して混練し、成形後、窒素ガス雰囲気にて1000℃以上1400℃以下で焼成するプレートれんがの製造方法が示されている。すなわち、窒素雰囲気で焼成することで、AlとNとの反応が進行しやすくなり、AlNの生成が促進されることで消化の要因となるAlの生成が抑制される。また、シリコンを添加することで同じくSiCが生成し、Alの生成が抑制され消化されにくくなる。しかしながら、特許文献3では、窒素雰囲気での焼成を必須とし、焼成の雰囲気ガスとして窒素ガスを使用することから高コストとなり、さらにシリコンを添加しても、れんが組織内でAlが単独で存在している領域ではAlを生成し消化の要因となることから、より厳しい条件では消化のリスクが発生する。
【0007】
特許文献4では、アルミナ原料を75~97質量%、アルミニウム及び/又はアルミニウム合金を0.5~20質量%、シリコン、粘土、炭化珪素、及び炭化硼素のうち1種以上を0.1~15質量%含有する耐火原料配合物に有機バインダーを添加し、混練後、成形し、400~800℃以下で熱処理するプレートれんがの製造方法が示されている。特許文献4では、400~800℃の温度条件で熱処理していることから焼成によって生成するAlの含有量は少ないが、実使用時は、内孔及び稼働面では1000℃以上の高温条件下に長時間さらされることから、使用時にAlを生成する。よって、使用後のれんがを再生使用するには消化のリスクがある。
【0008】
特許文献5では、アルミナ質耐火骨材及びカーボン含有原料をC含量として1~10質量%よりなる耐火性原料に対して外掛けで1~15質量%のアルミニウムシリコン合金を含有してなり1000℃を超え、1500℃までの温度範囲で熱処理されていることを特徴とするアルミナ―カーボン質スライドゲートプレートが示されている。特許文献5では、AlとSiを併用することで、シリコン粒子又はアルミニウム粒子の周りに薄いSiO層を形成し、アルミニウムの消化を防止する効果があるとされている。一方で、AlとSiを個別に適用するのではなくアルミニウムシリコン合金として使用することでAlSiCやAlNの生成が生成し、Alの生成が少なく、耐消化性が優れるとされている。
【0009】
一方、非特許文献3では、AlSiCもAlと同様に容易に水和され消化の要因となることが報告されている。この報告では、アルミニウムとシリコンをともに添加すると、焼成時にアルミニウム粒子とシリコン粒子が接する部分では共融し、さらに周囲のCと反応するとエネルギー的にAlよりもSiCを優先して生成することが示されており、SiCの生成にCが消費され、Alの生成を抑制することで耐消化性を改善する効果が得られると報告されている。
【0010】
よって、上記特許文献5では、アルミニウムシリコン合金として、Si含有率が5~50質量%のアルミニウムシリコン合金であることが示されているが、Si含有率の低いアルミニウムシリコン合金を使用し、かつ、C量がSiCを生成するSiの生成量に対して多く存在する条件ではAl及びAlSiCを生成し、より厳しい条件で評価すると容易に消化する。また、アルミニウムシリコン合金はSi含有率が高いほど融点が高くなり製造が困難となり、特許文献5に示されているSi含有率が50質量%のアルミニウムシリコン合金は、非常に高価な原料となり現実的ではない。
【0011】
また、特許文献6では2~23質量%のAlSiCと2~10質量%の炭素材料を使用し、150~1400℃で焼成したプレートれんがが示されている。特許文献6では、AlSiC中のSの含有割合を100ppm以下とすることで硫化水素ガスによるプレートの亀裂の発生が抑えられることが示されている。しかしながら、AlSiC自体も水和することから、水和に対してより厳しい条件では消化トラブルの要因となり得る。さらに、AlSiCは非常に高価な原料であり現実的でない。
【0012】
また、特許文献7では、耐火性骨材及び炭素質原料からなる耐火性原料100質量%に対して、Al及び/又はAlを含む合金の含有量が外掛けで0.1~10質量%であり、1000℃で3時間還元雰囲気で加熱した見掛け気孔率が13%以下である炭素含有れんがにおいて、アルカリ金属化合物を、アルカリ金属酸化物換算で0.03~5質量%含有させてなることを特徴とする炭素含有れんがが示されている。特許文献7では、アルカリ類やグリコール類又は水に可溶なアルカリ金属化合物を適用することで、高温下でアルカリが蒸発・ガス化して揮発する際の”酸化作用あるいは触媒作用”によって、Alの酸化が促進されてAlを生成し、中間生成物であるAlやAlNが残存しない効果を生じるとされており、このことにより、”実用する上で消化の問題が起こらない炭素含有れんが”を得ることができるとされている。しかしながら、アルカリ金属化合物の添加は、プレートれんがの耐熱性や耐食性を低下させる要因となることから好ましくない。また、添加されたアルカリ金属類が揮発すると、揮発した残部は空隙となることかられんが組織が高気孔率となり、プレートれんがの耐食性などの特性を低下させる要因となる。
【0013】
このようにアルミニウムを添加したプレートれんがの消化抑制策について、従前より数多くの提案がなされている。しかしながら、近年は環境面での改善も求められており、持続可能な改善目標を掲げて、耐火物に関してもリサイクルへの関心が高く、プレートれんがに関しては、使用後に回収して再加工して使用される再生プレートとして使用されるケースが多い。プレートれんがを再生使用する場合、一度熱負荷を受けた使用後のプレートれんがを回収し再生加工する。再生加工する工程では、使用時に亀裂を生じたプレートれんがの稼働面となる摺動面を湿式で研磨し、加熱によって乾燥処理を行う。さらに、使用後、回収、再加工され、再使用されるまでには、再度、炉前で保管されることになる。条件によっては長期間の保管となり、消化に関してより厳しい条件となる。以上のことから、消化に関してさらに厳しい条件でもトラブルなく使用されるには、これまでの提案内容では不十分であり、さらに改善が必要な状態であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第15/129745号
【特許文献2】国際公開第18/155030号
【特許文献3】国際公開第10/071196号
【特許文献4】国際公開第09/119683号
【特許文献5】特開2012-192430号公報
【特許文献6】特許第6646779号公報
【特許文献7】特開2004-149330号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】鹿野弘、原田力、大塚健二、金子俊明:耐火物39[11]638-640(1987)
【非特許文献2】佐藤康、山口明良、原田力:耐火物39[12]709-712(1987)
【非特許文献3】岡本稔彦、赤峰経一郎、清水公一、後藤潔:第11回鉄鋼用耐火物研究会報告集140-153(2023)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、Al、Si及びCを含有する耐火原料配合物より得られるプレートれんがの耐消化性をさらに向上させることのできるプレートれんがの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記課題を解決するために、Al、Si及びCを含有する耐火原料配合物より得られるプレートれんがに関し、優れた耐食性、耐酸化性、強度等の特性を保持し、かつ、耐消化性に優れた特性を得るために必要な条件として、Al、Si及びCの各含有率とその比率、耐火原料配合物中のAl、Siの存在形態、並びに熱処理温度及び熱処理雰囲気に着目して試験及び検討を繰り返し行った。その結果、より厳しい条件でも消化の影響を受けない条件を見出した。
【0018】
すなわち、本発明の一観点によれば、次のプレートれんがの製造方法が提供される。
炭素原料を1質量%以上4質量%以下含むとともに、Si含有率が8質量%以上40質量%以下であるアルミニウムシリコン合金を含み、残部が主として耐火性骨材からなる耐火原料配合物に、有機バインダーを添加して混練し、成形後、非酸化雰囲気にて800℃以上1350℃以下で熱処理する、プレートれんがの製造方法であって、
前記耐火原料配合物中のSi含有率をRSi(質量%)、Al含有率をRAl(質量%)としたとき、RSi/(RSi+RAl)が0.5以上0.8以下、RAlが0.5以上5以下であり、かつRAlの85%以上が前記アルミニウムシリコン合金に由来し、
さらに前記耐火原料配合物中のC含有率をR(質量%)、前記耐火原料配合物に対する有機バインダーの添加率をA(質量%)、当該有機バインダーの残炭率をB(%)としたとき、R+(A×B/100)で表されるトータルカーボン値Tが2以上5以下であり、かつT/(RSi+T)が0.3以上0.67以下である、プレートれんがの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、Al、Si及びCを含有する耐火原料配合物より得られるプレートれんがの耐消化性をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
非酸化雰囲気下、800℃以上の高温条件では、AlとCは容易にAlを生成する。そして、Alは以下の反応式によって容易に水和される。
Al(s)+12HO(l、g)=4Al(OH)+3CH(g)…(1)
このAlからAl(OH)への水和反応によって体積膨張する。さらにメタンガスの発生等により体積収縮を生じ、これらの体積膨張・収縮によって、れんが組織が破壊され、亀裂を生じる、粉化などの組織崩壊を生じる等の消化現象を生じる。このように、AlとCを含有するプレートれんがは、その熱処理条件や使用条件によっては、組織内部に容易にAlを生成し、消化現象を生じトラブルの要因となる。
【0021】
そこで本発明では、Al、Si及びCを含有し、高温で熱処理するプレートれんがの製造方法において、消化し難い条件を調査し検討した。まず、非特許文献3を参考に、AlとSiの含有比率を変えた配合をコークスに埋め込む一酸化炭素雰囲気下で1200℃の温度条件で熱処理したサンプルをオートクレーブ試験で耐消化性を評価し、消化し難いAlとSiの比率を調査した。また、AlとともにSiを含有することにより耐消化性が改善するメカニズムを調査、考察した。その結果、非特許文献3に示されているようにAl含有率に対してSi含有率を上げていくと、消化要因となるAl及びAlSiCの生成が抑制され、消化し難いSiCの生成が促進されることが判った。また、れんが特性としてSi含有率を上げてAl含有率を下げていくと、強度と弾性率が著しく低下し、見掛気孔率が高くなる傾向が見られた。これらのサンプルをオートクレーブ試験によって耐消化性を評価した結果、Si含有率が高く、Alの生成が確認されなかった、又は生成がごく微量であったサンプルは消化しなかった。具体的にはAlのみを含有するサンプル、及びSiとAlの比率が0:1~1:1のサンプルまでが消化し、Siのみを含有するサンプル、及びSiとAlの比率が1:0~3:2のサンプルまでが消化しなかった。すなわち、Al及びAlSiCの生成がない、又は少ないサンプルは消化しなかった。
【0022】
これらのサンプルのミクロ組織を観察した結果、Alのみを含有するサンプルは、アルミニウムの球状の粒子が溶融して、粒子の外へ溶融したAlが溶出してAlを主な構成物とすると考えられる反応物を生成していた。また、粒子内部は粒子外部へのAlの溶出により空隙を形成していた。Alと考えられる反応物は空隙を含むアルミニウム粒子の反応痕の周囲に連結して形成されており、この強固な連結組織によって高い強度と緻密な組織がもたらされていると考えられた。一方で、水和によってこの連結組織が容易に崩壊し、このことが、れんが組織の亀裂や崩壊となる消化現象の要因となることが推測された。Siのみを含有するサンプルは、破砕粒子であるシリコンの残存(未反応Si)が多く観察され、一部のシリコン粒子の表層から反応が進行し反応物を生成していた。
これに対して、アルミニウムとシリコンを併用したサンプルでは、アルミニウム粒子とシリコン粒子が接する部分では、溶融したAlがシリコン粒子を取り込み、Al、Siともに溶融(共融)しており、反応物を生成していた。EPMAによる調査結果から溶融したシリコンの反応物はSiCであると考えられた。
このことからシリコンを単体で含有する場合と比較して、アルミニウムとシリコンを両方含有する場合は、アルミニウム粒子とシリコン粒子が接する部分では、高融点のSiが溶融してSiCを多く生成し、反応が促進されることが判った。
【0023】
AlとSiの共融した組織とCとの反応は以下のように示される。
4/3Al(l)+C(s)=4/3Al(s)…(2)
Si(l)+C(s)=SiC(s)…(3)
顕微鏡による観察及びEPMAによる調査結果などから、反応式(3)の方が反応式(2)よりも優先して反応が進行すると考えられた。そこで、熱力学的な考察を加える目的で、それぞれの反応に伴う自由エネルギー変化を計算した。その結果、本発明における熱処理の温度範囲では、反応式(3)が反応式(2)よりも反応に伴う自由エネルギー変化ΔGが低く、AlよりもSiCの方が安定で優先して生成することが判った。
【0024】
以上のことから、Al、Si及びCを含有する耐火原料配合物より得られるプレートれんがの耐消化性を大きく改善するには、消化の要因であるAlの生成を抑制することが効果的であることが判った。また、Alの生成を抑制するには、熱処理時又は実使用時の高温条件下で、AlとSiが共融状態となることが望ましく、AlとSiの共融組織にCが反応しても、Cが優先的にSiと反応してSiCの生成に消費され、結果として、CとAlの反応によるAlの生成が抑制されることが判った。
【0025】
さらに本発明者らが試験及び検討を重ねた結果、高温条件下で確実にAlとSiの共融組織を形成するには、耐火原料配合物中のAl含有率とSi含有率の比率が特定の範囲内であり、かつ、Si含有率とトータルカーボン値の比率が特定の範囲内であって、さらに、Al源として、アルミニウムシリコン合金を使用することが有効であることが判った。
【0026】
本発明は以上の知見及び考察に基づき想到されたもので、その要旨は次の通りである。
炭素原料を1質量%以上4質量%以下含むとともに、Si含有率が8質量%以上40質量%以下であるアルミニウムシリコン合金を含み、残部が主として耐火性骨材からなる耐火原料配合物に、有機バインダーを添加して混練し、成形後、非酸化雰囲気にて800℃以上1350℃以下で熱処理する、プレートれんがの製造方法であって、
前記耐火原料配合物中のSi含有率をRSi(質量%)、Al含有率をRAl(質量%)としたとき、RSi/(RSi+RAl)が0.5以上0.8以下、RAlが0.5以上5以下であり、かつRAlの85%以上が前記アルミニウムシリコン合金に由来し、
さらに前記耐火原料配合物中のC含有率をR(質量%)、前記耐火原料配合物に対する有機バインダーの添加率をA(質量%)、当該有機バインダーの残炭率をB(%)としたとき、R+(A×B/100)で表されるトータルカーボン値Tが2以上5以下であり、かつT/(RSi+T)が0.3以上0.67以下である、プレートれんがの製造方法。
【0027】
このように本発明のプレートれんがの製造方法は、炭素原料及びアルミニウムシリコン合金を含み、残部が主として耐火性骨材からなる耐火原料配合物に、有機バインダーを添加して混練し成形後、非酸化雰囲気にて800℃以上1350℃以下で熱処理することを基本的構成とするものである。
【0028】
本発明において耐火原料配合物の残部に主として含まれる耐火性骨材としては、耐火物の原料として一般的に使用されている、アルミナ原料、アルミナジルコニア原料、ジルコニアムライト原料、マグネシア原料、スピネル原料及び炭化珪素原料から選択される1種又は2種以上を使用することができ、例えば、アーク溶融により製造された電融原料、シャフトキルンやロータリーキルンで製造された焼結原料などを使用することができる。電融原料としては、電融アルミナ、電融マグネシア、電融スピネル、電融ムライト、電融アルミナジルコニア、電融ジルコニアムライト、電融ジルコニア等があり、焼結原料としては、焼結アルミナ、焼結マグネシア、焼結ムライト、焼結スピネル等がある。なお、本発明において耐火原料配合物の残部は、主として上述の耐火性骨材からなるが、このほかに、仮焼アルミナや、炭化硼素、窒化珪素、窒化アルミニウム等の炭化物、硼化物、窒化物などを適宜含有することができる。
【0029】
本発明において耐火原料配合物は、上述の耐火性骨材に加えて炭素原料及びアルミニウムシリコン合金を含むが、炭素原料としては、耐火原料として一般的に使用されている、無定形又は結晶質の炭素粉末を使用することができ、具体的には、ピッチやコークス、仮焼無煙炭、鱗片状黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラックなどを使用することができる。また、アルミニウムシリコン合金も、耐火原料として一般的に使用されているものを使用できるが、このうち本発明では、Si含有率が8質量%以上40質量%以下のものを使用する。なお、以下の説明では、Si含有率が8質量%以上40質量%以下のアルミニウムシリコン合金を「特定アルミニウムシリコン合金」ともいう。
【0030】
本発明では、上述の耐火原料配合物に、有機バインダーを添加して混練し、成形後、非酸化雰囲気にて800℃以上1350℃以下で熱処理する。有機バインダーとしては、成形時の強度付与、カーボンボンド形成等のために一般的に耐火物に使用されているものを使用することができるが、フェノール樹脂が最も好ましい。フェノール樹脂としては、ノボラックタイプ、レゾールタイプ、粉末タイプ、溶剤を用いた液状タイプのいずれも使用できる。
【0031】
本発明において熱処理は非酸化雰囲気にて行う。非酸化雰囲気での熱処理としては、例えば、耐火物製の容器中に成形体とコークス粉を入れて熱処理する方法、あるいは雰囲気ガスをコントロールする公知の方法を利用できる。
また、本発明において熱処理は800℃以上1350℃以下で行う。熱処理温度が800℃未満ではAlとSiの反応による焼結が不十分となり、十分な強度を得ることができない。一方、熱処理温度が1350℃を超えると過度に焼結して、著しく高強度、高弾性率となり耐スポーリング性が低下する。また、熱処理中に亀裂を発生する要因にもなる。
【0032】
以上の基本的構成において本発明は、耐火原料配合物中のSi含有率をRSi(質量%)、Al含有率をRAl(質量%)としたとき、RSi/(RSi+RAl)が0.5以上0.8以下、RAlが0.5以上5以下であり、かつRAlの85%以上が特定アルミニウムシリコン合金に由来することを第一の技術的特徴とするものである。
すなわち、熱処理中に確実にAlとSiの共融組織を形成するには、RSi/(RSi+RAl)が0.5以上0.8以下である必要がある。RSi/(RSi+RAl)が0.5未満であると、Alの生成により十分な耐消化性を得ることができない。一方、RSi/(RSi+RAl)が0.8を超えると、耐消化性は良好であるが、Al含有率が低下することから、プレートれんがとして十分な強度や酸化鉄(FeO)に対する耐食性等の特性を得ることができない。
【0033】
本発明において耐火原料配合物中のAl含有率(RAl)は、0.5質量%以上5質量%以下とする。Al含有率が0.5質量%未満では、強度や耐食性などの特性が不十分となる。一方、Al含有率が5質量%を超えると、過度に焼結して組織が強固となり耐スポーリング性が著しく低下する。
また、Al含有率(RAl)の85%は、特定アルミニウムシリコン合金に由来するものとする。Al含有率(RAl)の15%超が特定アルミニウムシリコン合金以外の原料に由来すると、Alを生成して消化する可能性がある。
このように本発明では主たるAl源として特定アルミニウムシリコン合金、すなわちSi含有率が8質量%以上40質量%以下であるアルミニウムシリコン合金を使用する。主たるAl源としてSi含有率が8質量%未満のアルミニウムシリコン合金を使用すると、AlとSiの共融物中のSi量が少なく、当該アルミニウムシリコン合金が単体で存在する部分ではAlを生成し消化する可能性がある。またSi含有率が40質量%超のアルミニウムシリコン合金は融点が高くなり、かかるアルミニウムシリコン合金の製造自体が困難であり、工業的には利用できない。
【0034】
本発明は、上述の第一の技術的特徴に加え、耐火原料配合物中のC含有率をR(質量%)、耐火原料配合物に対する有機バインダーの添加率をA(質量%)、当該有機バインダーの残炭率をB(%)としたとき、R+(A×B/100)で表されるトータルカーボン値Tが2以上5以下であり、かつT/(RSi+T)が0.3以上0.67以下であることを第二の技術的特徴とするものである。
【0035】
耐火原料配合物中のC含有率(R)は、炭素原料に由来するものである。本発明において耐火原料配合物は、炭素原料を1質量%以上4質量%以下の含有率で含有する。炭素原料は、耐火物の過度な焼結を抑制し弾性率を低減する、熱伝導率をアップする、耐スラグ性を付与する等の効果を奏するが、耐火原料配合物中の炭素原料の含有率が0.5質量%未満では、これらの効果を十分に得ることができない。一方、炭素原料の含有率が4質量%を超えると、消化の要因であるAlを生成しやすくなるとともに、耐酸化性が低下する。
【0036】
本発明においてトータルカーボン値Tは、上述の通り、耐火原料配合物中の炭素原料に由来するC含有率(R)と、有機バインダーの残炭分(A×B/100)との合計値である。そして本発明では、このトータルカーボン値Tを2以上5以下の範囲とする。耐火原料配合物中の炭素原料に由来するC、有機バインダーの残炭分に由来するCはともに、耐火物の弾性率を低減し、耐スラグ性を改善する効果を奏し、さらに有機バインダーの残炭分に由来するCは、カーボンボンドを形成する等の効果を奏する。一方、AlとSiの共融物と反応し、SiCやAlのC源となり得る。すなわち、トータルカーボン値Tが2未満では弾性率を低減し耐スラグ性を付与する等の効果が十分に得られない。一方、トータルカーボン値Tが5を超えるとSiCだけでなくAlを生成することから、耐消化性を低下させる要因となる。
【0037】
そこで本発明者らが、耐消化性及びその他の特性を向上する観点からAlよりSiCを優先的に生成させるべく、トータルカーボン値TとSi含有率RSiとの関係に着目して試験及び検討を重ねたところ、T/(RSi+T)を0.3以上0.67以下とすることが有効であることが判った。すなわち、T/(RSi+T)が0.3未満では、SiCの生成が少なく十分な強度が得られず、またC量が少ないことから、弾性率が高くなり耐スポーリング性が低下する。一方、T/(RSi+T)が0.67を超えると、SiCの生成量に対してC量が過剰となりAlを生成し耐消化性が低下する。
【0038】
以上の通り本発明によれば、上記第一及び第二の技術的特徴を備えることで、Al、Si及びCを含有する耐火原料配合物より得られるプレートれんがについて、優れた耐食性、耐酸化性、強度等の特性を保持しつつ、耐消化性をさらに向上させることができる。具体的には、オートクレーブ試験による158℃で6時間の加熱条件でも消化による亀裂又は粉化を生じないプレートれんがを得ることができる。なお、本発明者らは、実際のプレートれんがを、客先などで保管中に、消化によるトラブルを生じた材質について、各種評価方法によって消化現象を再現できないか検討を行った。その結果、消化トラブルを生じたプレートれんが材質は、オートクレーブ試験で、158℃の温度条件下、6時間加熱すると、亀裂を生じる、れんが組織が粉化するなど組織の崩壊による消化現象を生じた。また、この評価方法で、実績として消化トラブルがないプレートれんが材質を評価しても消化しなかった。すなわち、オートクレーブ試験による158℃で6時間の加熱条件で消化するか否かは、実際に消化トラブルを生じるか否かの指標となる。
【0039】
なお、本発明では、さらに組織を緻密化し強度や耐食性を付与するために、熱処理後にコールタール又はピッチを含浸する工程を含むことができる。また、コールタールやピッチに含有される有害物質を除去するために、含浸後に加熱処理する工程を含むこともできる。
【実施例0040】
表1及び表2に、それぞれ本発明の実施例及び比較例を示している。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1及び表2に示す配合割合の耐火原料配合物100質量%に対して、有機バインダーとして残炭率が30%のフェノール樹脂を表1及び表2に示す添加率で添加し、混練した後、縦230mm、幅100mm、厚さ45mmの形状にオイルプレスで成形した。この成形体を乾燥した後に、同じく表1及び表2に示す温度で熱処理し、れんが試料を得た。熱処理は、炭化珪素製のれんが容器にコークス粉とともに成形体を埋め込んだ後に、昇温速度を100℃/hとして最高温度で3時間保持する、非酸化雰囲気での熱処理とした。得られた各例のれんが試料について、その特性として、曲げ強さ、耐酸化摩耗性、耐食性、耐スポーリング性、及び耐消化性をそれぞれ以下の要領で評価した。
【0044】
<曲げ強さ>
JIS R 2213に準拠して室温での曲げ強さを測定した。
<耐酸化摩耗性>
所定形状のサンプルを電気炉で大気雰囲気下800℃の温度条件で5時間酸化した後に、酸化面をブラウンアルミナ砥粒でショットブラストし、試験後の摩耗重量を測定して摩耗量を指数化した。具体的には、実施例2の摩耗量を摩耗指数100として各サンプルの摩耗指数を求めた。この摩耗指数が小さいほど耐酸化摩耗性が高いということである。
<耐食性>
高周波誘導炉にて内張法による浸食試験を実施した。浸食試験は、メタルとしてSS400、浸食材として酸化鉄を用いて、1600℃の温度条件で3時間実施した。試験後の内張を解体してサンプル断面を計測して溶損量を求め、その溶損量を指数化した。具体的には、実施例2の溶損量を溶損指数100として各サンプルの溶損指数を求めた。この溶損指数が小さいほど耐食性が高いということである。
<耐スポーリング性>
高周波誘導炉にて溶銑浸漬法によるスポーリング試験を実施した。スポーリング試験では、40mm×40mm×180mmの角柱形状に切り出したサンプルを、1600℃の溶銑に3分浸漬した後に空冷する方法を3回繰り返して、外観の亀裂程度を評価した。表1及び表2では、亀裂程度が小の場合を○、亀裂程度が中の場合を△、亀裂程度が大の場合を×と表記し、○又は△を合格とした。
<耐消化性>
40mm×40mm×40mm形状に加工したサンプルを、オートクレーブに入れて、158℃で6時間加熱した後のサンプルの外観から評価した。表1及び2では、外観が良好な場合を○、粉化、崩壊又は亀裂が見られた場合を×と表記した。○がオートクレーブ試験で消化しなかったということであり、×がオートクレーブ試験で消化したということである。
【0045】
実施例1~4は、耐火原料配合物に配合するアルミニウムシリコン合金のSi含有率が異なる例であるが、いずれも本発明の範囲内であり、耐消化性を始めとして良好な特性が得られた。
これに対して比較例1は、アルミニウムシリコン合金を使用せず、シリコンを使用した例である。Siは融点が高くAlと比較して熱処理により強度が発現し難いことから、比較例1ではSi含有率(RSi)を5質量%として常温曲げ強さを確保している。一方で、耐食性向上に効果のあるAlを含有していないことから、耐食性が著しく低下した。
比較例2及び3は、Al源としてアルミニウムを使用した例であり、いずれもオートクレーブ試験で消化した。比較例4は、Si含有率(RSi)が3質量%のアルミニウムシリコン合金を使用した例であり、これもオートクレーブ試験で消化した。
【0046】
実施例5及び6は、耐火原料配合物中のAl含有率(RAl)が異なるとともにRSi/(RSi+RAl)が異なる例であるが、いずれも本発明の範囲内であり、耐消化性を始めとして良好な特性が得られた。
これに対して比較例5は、Al含有率(RAl)が本発明の上限値を上回る例であり、熱処理工程で過度の焼結が進み、その結果、耐スポーリング性が著しく低下した。一方、比較例6は、Al含有率(RAl)が本発明の下限値を下回る例であり、耐酸化摩耗性及び耐食性が著しく低下した。
比較例7は、RSi/(RSi+RAl)が本発明の上限値を上回る例であり、相対的にAl含有率(RAl)が低いことから、耐食性が著しく低下した。一方、比較例8は、RSi/(RSi+RAl)が本発明の下限値を下回る例であり、相対的にAl含有率(RAl)が高いことから、オートクレーブ試験で消化した。
【0047】
実施例7~9は、耐火原料配合物中のC含有率(R)、トータルカーボン値T、及びT/(RSi+T)が異なる例であるが、いずれも本発明の範囲内であり、耐消化性を始めとして良好な特性が得られた。
これに対して比較例9は、耐火原料配合物中のC含有率(R)、トータルカーボン値T、及びT/(RSi+T)が本発明の上限値を上回る例であり、Cが多いことから耐酸化摩耗性及び耐食性が著しく低下した。また、Cが過剰に存在することからAlが多く生成され、オートクレーブ試験で消化した。一方、比較例10は、耐火原料配合物中のC含有率(R)、トータルカーボン値T、及びT/(RSi+T)が本発明の下限値を下回る例であり、Cが少ないことから耐スポーリング性が著しく低下した。また、気孔率が高くなり耐食性も低下した。
【0048】
実施例10は、RAlの85%がアルミニウムシリコン合金に由来し、残りの15%がアルミニウムに由来する例であるが、本発明の範囲内であり、耐消化性を始めとして良好な特性が得られた。
これに対して、比較例11はRAlの80%がアルミニウムシリコン合金に由来し、残りの20%がアルミニウムに由来する例であり、Alが単独で存在する部分においてAlを生成しやすく、オートクレーブ試験で消化した。
【0049】
表3に、本発明の他の実施例及び比較例を示している。
【0050】
【表3】
【0051】
実施例11及び12は、表1に示した実施例2と同じ配合で熱処理温度のみが異なる例であるが、本発明の範囲内であり、耐消化性を始めとして良好な特性が得られた。
これに対して比較例12は、熱処理温度が本発明の下限値を下回る例であり、曲げ強さが低下し、耐酸化摩耗性も低下した。一方、比較例13は、熱処理温度が本発明の上限値を上回る例であり、過度な焼結により耐スポーリング性が著しく低下した。
実施例13及び14は、耐火性骨材が異なる例であるが、本発明の範囲内であり、耐消化性を始めとして良好な特性が得られた。