(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015262
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】マクロスティッキー処理剤
(51)【国際特許分類】
D21H 21/02 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
D21H21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118568
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(74)【代理人】
【識別番号】100130683
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 政広
(72)【発明者】
【氏名】三枝 隆
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AG34
4L055AG64
4L055AG88
4L055AH22
4L055CB31
4L055CB34
4L055CB35
4L055EA19
4L055EA20
4L055EA25
4L055EA32
4L055FA06
(57)【要約】
【課題】 本発明は、新たなマクロスティッキー処理技術を提供することを主な目的とする。
【解決手段】 本発明は、融点が50℃以下の油脂状化合物、カチオン基を有するポリビニルアルコール、及び、陽転させるために用いるカチオン性化合物から選択される1種又は2種以上を含有する、マクロスティッキー処理剤を提供できる。本発明は、前記マクロスティッキー処理剤を、マクロスティッキー含有対象に用いる、マクロスティッキー処理方法を提供できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が50℃以下の油脂状化合物、カチオン基を有するポリビニルアルコール、及び、陽転させるために用いるカチオン性化合物から選択される1種又は2種以上を含有する、マクロスティッキー処理剤。
【請求項2】
前記油脂状化合物が、親水基を有し、水への溶解度が0.1%以下の油脂状化合物である、請求項1に記載のマクロスティッキー処理剤。
【請求項3】
前記油脂状化合物が、ポリアルキレンオキサイド化合物、又は、グリセリンエステル化合物である、請求項1に記載のマクロスティッキー処理剤。
【請求項4】
前記カチオン性化合物は、マクロスティッキー含有対象を陽転させる量以上になるように用いるカチオン性ポリマーである、請求項1に記載のマクロスティッキー処理剤。
【請求項5】
紙製造における原質工程又は抄紙工程のスクリーン又はクリーナーで生じるリジェクトに対して用いるためのものである、請求項1又は2に記載のマクロスティッキー処理剤。
【請求項6】
古紙原料を用いて紙を製造する工程中のスラリーに対して用いるためのものである、請求項1又は2に記載のマクロスティッキー処理剤。
【請求項7】
融点が50℃以下の油脂状化合物、カチオン基を有するポリビニルアルコール、及び、陽転させるために用いるカチオン性化合物から選択される1種又は2種以上を含有する、マクロスティッキー処理剤を、マクロスティッキー含有対象に用いる、マクロスティッキー処理方法。
【請求項8】
前記カチオン性化合物を、マクロスティッキー含有対象を陽転させる量以上になるように使用する、請求項7に記載のマクロスティッキー処理方法。
【請求項9】
マクロスティッキー含有対象に対して、前記カチオン性化合物を陽転させる量以上になるように使用すること、その後アニオン性化合物及び/又は別のスラリーを陽転が解消されるまで使用することを含む、請求項7又は8に記載のマクロスティッキー処理方法。
【請求項10】
前記油脂状化合物が、親水基を有し、水への溶解度が0.1%以下の油脂状化合物である、請求項7に記載のマクロスティッキー処理方法。
【請求項11】
前記油脂状化合物が、ポリアルキレンオキサイド化合物、又は、グリセリンエステル化合物である、請求項7又は10に記載のマクロスティッキー処理方法。
【請求項12】
前記マクロスティッキー含有対象が、紙製造における原質工程又は抄紙工程のスクリーン又はクリーナーで生じるリジェクトである、請求項7又は8に記載のマクロスティッキー処理方法。
【請求項13】
前記マクロスティッキー含有対象が、古紙原料を用いて紙を製造する工程中のスラリーである、請求項7又は8に記載のマクロスティッキー処理方法。
【請求項14】
前記マクロスティッキー含有対象中のマクロスティッキー量が、5000mm2/kg以上である、請求項7又は8に記載のマクロスティッキー処理方法。
【請求項15】
前記マクロスティッキー処理剤の使用量が、対マクロスティッキー0.001mg/mm2以上である、請求項7又は8に記載のマクロスティッキー処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロスティッキー処理剤、及びマクロスティッキー処理方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
紙製造におけるパルプ含有水にピッチが含まれ、ピッチ障害を引き起こしている。一般的に、ピッチとは、パルプ由来の樹脂成分、再生古紙中の合成粘着物質、製紙工程で使用される添加薬剤に由来する有機物を主体とする疎水性の粘着物質をいう。抄紙原料に用いるパルプ含有水にピッチが含まれ、集積されることで、集塊化したピッチ塊による欠点(spots)の多発、抄紙機、製紙用具又は製紙工程における設備などに付着したピッチによる裁断、製品品質低下、生産効率低下、脱水性悪化などのピッチトラブルの原因となっている。
【0003】
ピッチトラブルに対しては、設備の樹脂コーティング、スクリーンやクリーナーによるピッチ夾雑物除去;ニーダーやリファイナーによるピッチ塊微細化などの機械的な対策や用具洗浄剤などの外添薬剤、及び、定着剤、分散剤、不粘着化剤、分解酵素などの内添薬剤などの薬剤による対策;定期的なマシン洗浄、余剰白水やリジェクトスラリーの系外排出量などの操業条件調整による対策などのピッチトラブル対策が実施されている。
【0004】
ピッチトラブル対策のための内添薬剤として、以下のようなものが提案されている。例えば、無機薬剤や微粒子樹脂によるピッチ粘着性低減用の内添薬剤が知られており、例えば、特許文献1には、天然タルク粉末に少量の非膨潤性フツ素雲母粉末を混合してなる製紙用パルプピッチ吸着剤が提案されている。
また、界面活性剤の分散作用によるピッチ集塊化防止用の内添薬剤が知られており、例えば、特許文献2には、構成単位としてマレイン酸またはマレインアミド酸と、イソブチレン、ジイソブチレンまたはスチレンとを含む重合体、およびノニオン性界面活性剤を、重量比で50:50ないし10:90の割合で含有することを特徴とする製紙用ピッチ付着防止剤が提案されている。
ポリマーの定着作用の内添薬剤によるピッチ系外排出、分散作用の内添薬剤によるピッチの凝集化防止が知られており、例えば特許文献3には、当該文献記載の式(I):で表わされる構成単位と、当該文献記載の式(II):で表わされる構成単位からなり、式(I)で表わされる構成単位が約70~80モル%、式(II)で表わされる構成単位が約30~20モル%である水溶性のポリビニルアルコールを有効成分とする抄紙系ピッチ分散剤が提案されている。
また、酵素によるピッチ分解の内添薬剤が知られており、例えば、特許文献4には、機械パルプの製造工程及び/又は機械パルプを使用する製紙工程において、製紙原料及び/又は白水を脂肪酸グリセライド加水分解酵素で処理して製紙原料及び/又は白水中のピッチを除去することを特徴とするピッチトラブル防止法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61-048975号公報
【特許文献2】特公昭59-028676号公報
【特許文献3】特公平02-014479号公報
【特許文献4】特公平04-029794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、近年、製紙工程におけるピッチ障害を検討した。ピッチは、微細ピッチとマクロスティッキーとに大別される。
【0007】
微細ピッチは150μm未満のピッチであり、水の再利用に伴い抄紙工程の工程水中に蓄積してトラブルの原因となる特徴がある。微細ピッチに対する内添剤処理は状況に応じて定着、分散、不粘着、分解の作用の薬剤を使い分ければ一定の効果が期待できる。
【0008】
一方で、マクロスティッキーは粒子径150μm以上の大型のピッチ(JIS P8231:2005に準じた方法で定量)といわれ、板紙で見られるマクロスティッキーは原料古紙の夾雑物である粘着テープ、粘着ラベル、接着剤成分など有機系の粘着物の未離解物由来のものが多い。近年の古紙の再利用率向上に伴い、粘着テープなどの粘着剤成分や接着剤成分のような有機系の粘着物が多く含まれている低級古紙を、原料として再利用するようになってきており、このような粘着物から形成されやすく粒子が大きいマクロスティッキー対策も重要になってきている。
【0009】
しかしながら、マクロスティッキーは粒子が大きいことから、微細ピッチに対して効果が期待できるような、定着作用又は分散作用の効果を発揮させる内添薬剤では、マクロスティッキーに対する内添薬剤によるピッチコントロールの効果は十分ではない(例えば、後記〔実施例〕で示す比較例1-1~1-8で使用された薬剤など)。
【0010】
そこで、本発明は、マクロスティッキー処理の新たな技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、マクロスティッキーの特徴を鋭意検討した結果、マクロスティッキーを良好に処理できる薬剤及び条件を新たに見出すことができた。本発明は、以下のとおりである。
【0012】
本発明は、融点が50℃以下の油脂状化合物、カチオン基を有するポリビニルアルコール、及び、陽転させるために用いるカチオン性化合物から選択される1種又は2種以上を含有する、マクロスティッキー処理剤を提供できる。
本発明は、融点が50℃以下の油脂状化合物、カチオン基を有するポリビニルアルコール、及び、陽転させるために用いるカチオン性化合物から選択される1種又は2種以上を含有する、マクロスティッキー処理剤を、マクロスティッキー含有対象に用いる、マクロスティッキー処理方法を提供できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新たなマクロスティッキー処理技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る製紙工程(調成工程、抄紙工程、水回収工程)の一例を示す概略図であり、本実施形態の工程はこれに限定されない。
【
図2】本実施形態におけるポリマーの推定分子量を求めるために使用するグラフの一例を示す。横軸は固有粘度(η)、縦軸は平均分子量(×10
4)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が限定されて解釈されることはない。なお、数値における上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。また、数値の「~」は、特に言及しなければ、「以上」「以下」の意味である。
【0016】
1.本発明に係るマクロスティッキー処理技術
【0017】
本発明は、マクロスティッキー処理の新たな技術を提供することを主な目的とする。
本発明者は、マクロスティッキーの性質を鋭意検討した結果、マクロスティッキーを良好に処理できる薬剤及び条件を新たに見出すことができた。本技術は、著しく強い作用でマクロスティッキーを不粘着化できる技術であり、これにより対象に含まれるマクロスティッキーの処理がより良好にでき、マクロスティッキー由来のピッチトラブルを低減できる。この本技術として、(a)特定の油脂状化合物、特定のポリビニルアルコール、及び、特定のカチオン性化合物から選択される1種又は2種以上をマクロスティッキー処理用の薬剤として用いること、(b)マクロスティッキー含有対象に対して特定のカチオン性化合物を用いて当該対象を陽転させること、などが挙げられる。(c)紙製造におけるマクロスティッキー含有対象は、特に限定されず、例えば、マクロスティッキーを含む水などが挙げられ、より好適な例として、マクロスティッキーを含む工程水(例えばマクロスティッキーを含むパルプ含有水(以下「スラリー」ともいう)など)などから選択される1種又は2種以上が挙げられる。対象におけるマクロスティッキー量(例えば、含有量、付着量)が多いものでも本技術にて処理することができる。マクロスティッキー量が多い水として、例えば、マクロスティッキー除去能力があるスクリーン又はクリーナーのリジェクトで再利用される水、古紙原料を用いるパルプ含有水、循環するパルプ含有水などが挙げられ、このような対象に集中的に処理を行うことができる。
【0018】
本発明に係るマクロスティッキー処理技術について、以下に、本発明に係るマクロスティッキー処理剤、及び本発明に係るマクロスティッキー処理方法をより詳細に説明する。
【0019】
本発明は、著しく強い作用でマクロスティッキーを不粘着化してマクロスティッキー由来のピッチトラブルを低減する技術を提供できる。
本発明を用いることで、ピッチ由来の欠点が減ることにより損紙率、継ぎ手率が減り、生産性及び製品(紙)の品質が向上する。また、本発明を用いることで、紙製造に備える抄紙機や工程設備に付着したピッチによる断紙を低減できる。また、本発明を用いることで、紙製造における抄紙機や設備の清掃頻度、洗浄時間を削減できる。また、本発明を用いることで、用具劣化による紙製造の脱水性悪化、水分むらが解消され、生産量増量、蒸気量低減、製品品質向上が可能になる。また、本発明を用いることで、リジェクト原料が再利用可能になり、また、夾雑物が多い安価原料を使用できるようになる。
【0020】
本発明は、抄紙機のマクロスティッキー由来の汚れ及びそれによる欠点(spots)、断紙を低減する技術を提供でき、紙製造の作業又は工数の効率化、紙製品の品質向上が可能になる。また、本発明は、原料古紙に含まれるテープやラベル由来の未離解の粘着物であるマクロスティッキーによるピッチ障害が発生しやすい板紙抄紙機を対象とした技術を提供できる。また、薬剤処理でマクロスティッキーの粘着性を低減することにより抄紙機へのマクロスティッキーの付着やマクロスティッキー同士の付着によるマクロスティッキーの粗大化を防止する技術を提供できる。
【0021】
2.本発明に係るマクロスティッキー処理剤
本実施形態におけるマクロスティッキー処理剤の説明において、上記「1.」下記「3.」「4.」などと重複する、対象、液状油脂状化合物、カチオン性ポリビニルアルコール、陽転用カチオン性化合物などの各構成や各処理方法などの説明については適宜省略するが、当該「1.」「3.」「4.」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、適宜採用することができる。また、本実施形態におけるマクロスティッキー処理方法の例の説明において、後述の説明も、本実施形態に当てはめることができ、適宜採用することもできる。
【0022】
本発明は、融点が50℃以下の油脂状化合物(以下、「液状油脂状化合物」ともいう)、カチオン基を有するポリビニルアルコール(以下、「カチオン性PVA」ともいう)、及び、陽転させるために用いるカチオン性化合物(以下、「陽転用カチオン性化合物」ともいう)から選択される1種又は2種以上を含有する、マクロスティッキー処理剤を提供できる。当該カチオン性化合物は、水溶性であることが好ましく、当該水溶性とは、20℃における水に対する溶解度が0.01%以上であり、市販品又は化合物の説明において水溶性とされている化合物などが挙げられる。
【0023】
2-1.液状油脂状化合物
本発明に用いる融点が50℃以下の油脂状化合物は、特に限定されないが、50℃より低い融点であって融点以上の温度で液状である油脂状化合物が好ましく、当該油脂状化合物の融点は、好ましくは30℃以下、より好ましくは10℃以下であり、また、融点が0℃以上のものが好ましい。
本明細書において、化合物の融点は、JIS K0064―1992に従って、測定できる。
【0024】
本発明に用いる前記液状油脂状化合物は、水への溶解度がほとんどないものが好適であり、例えば、不水溶性、難水溶性などともいうが、このような場合には、水に分散させながら用いることが好適である。前記液状油脂状化合物の水への溶解度(20℃)は、好適には0.3%以下、より好適には0.2%以下、さらに好適には0.1%以下のものが望ましく、0.1%以下の実質的に水に溶解しないものがより好適である。また、前記液状油脂状化合物は、水と相分離する疎水性の化合物であることが好適である。
本明細書において、混合比率を変えた純水と対象物の混合物を、20℃、1時間、撹拌後分散物や沈殿物が見られない最高濃度を溶解度とした。
前記液状油脂状化合物は、対象に使用(添加など)する際に、実質的に水に溶解せずに、さらに分散可能な化合物であることが好適である。当該分散としては、撹拌、混合、噴射などの物理的な分散法又は乳化剤(好適には0.5~3%濃度)などのさらなる配合による化学的な分散法を適宜用いることができる。
【0025】
前記液状油脂状化合物は、親水部位及び/又はグリセロール骨格を有するものが好適である。
前記「親水部位」として、特に限定されないが、当該親水部位には親水基が存在することが好適であり、当該親水基として、例えば、水酸基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、スルホン酸基(-SO3H)、リン酸基(-O4PH2)、アシル基(-(C=O)-)、アミノ基(-NH2、-NHR、-NRR´)、エーテル結合部位、エステル結合部位などが挙げられる。エステル結合部位は、カルボン酸エステル、炭酸エステル、リン酸エステル、硝酸エステルなどが挙げられるが、これらに限定されない。親水部位は、これから1種又は2種以上を選択することができ、親水基は塩の形態であってもよい。親水基のうち、水酸基又はカルボキシル基が好適であり、さらに水酸基がより好適である。なお、塩としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩(Li、Na、Kなど)、アルカリ土類金属(Mg、Caなど)、鉱酸塩(塩酸、硫酸、リン酸など)有機酸塩(乳酸、クエン酸など)などが挙げられる。
【0026】
また、前記「グリセロール骨格」として、特に限定されないが、ROCH2-CH(OR)-CH2ORが挙げられ、当該Rは、同一又は別々の飽和又は不飽和の炭化水素基(好適には炭素数6~30)が好適である。当該グリセロール骨格を有する油脂状化合物は、グリセリン分子1つに、高級脂肪酸1、2又は3分子がエステル結合したものがより好適であり、高級脂肪酸3分子がエステル結合したトリグリセライドがさらに好適である。
【0027】
本発明に用いる液状油脂状化合物のうち、親水基を有し水への溶解度が0.1%以下の油脂状化合物、及び/又は、前記グリセロール骨格を有し水への溶解度が0.1%以下の油脂状化合物が好適である。
前記親水基を有し水への溶解度が0.1%以下の油脂状化合物として、例えば、ポリアルキレンオキサイド化合物、グリセロールアルキレンオキサイド付加物、高級脂肪酸アルキレンオキサイド付加物などが挙げられる。前記グリセロール骨格を有し水への溶解度が0.1%以下の油脂状化合物として、例えば、植物油、トリグリセライドなどが挙げられる。これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
〔GPC分析による重量平均分子量の測定方法〕
本明細書における重量平均分子量は、基準物質を用いて、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)分析により測定することができる。
【0028】
本発明に用いる液状油脂状化合物は、ポリアルキレンオキサイド化合物、及び/又は、グリセリンエステル化合物であることが好適である。
【0029】
前記液状油脂状化合物は、マクロスティッキー由来又はその形成原因となる粘着物の未離解物由来の粘着性を低下させることができる。当該液状油脂状化合物のうち、液状ポリアルキレンオキサイド化合物、液状グリセリンエステル化合物、液状炭化水素化合物、高級アルコール、及び界面活性剤などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。当該液状油脂状化合物の各例示は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、当該液状油脂状化合物は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0030】
2-1-1.液状ポリアルキレンオキサイド化合物
液状ポリアルキレンオキサイド化合物は、少なくともポリアルキレンオキサイド部位を有する化合物であることが好適である。
【0031】
前記液状ポリアルキレンオキサイド化合物のうち、以下の一般式(1)で表される化合物が好適であり、より好適には以下の一般式(2)で表される化合物である。
【0032】
液状ポリアルキレンオキサイド化合物における重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは100~50,000、より好ましくは500~30,000、さらに好ましくは1,000~10,000である。
また、前記液状ポリアルキレンオキサイド化合物の重量平均分子量は、GPC分析により測定することができ、このとき標準ポリマー:ポリエチレンオキサイドを基準物質として用いることができる。
【0033】
【0034】
前記一般式(1)中のR1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子(H)又は炭化水素基であることが好適であり、より好適にはR1及びR2は、それぞれ水素原子である。
【0035】
R1及びR2における炭化水素基は、飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基のいずれでもよいが、飽和炭化水素基が好適である。当該炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であることが好適であり、より好適にはアルキル基である。当該炭化水素基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1~5である。当該炭化水素基は、鎖状(直鎖状、分岐鎖状)又は脂環式のいずれでもよく、鎖状が好ましい。
【0036】
R1及びR2における炭素数1~5のアルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、sec-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基などが挙げられ、これらから1種又は2種以上を用いることができる。
【0037】
なお、R1及びR2は、互いに結合して環を形成してもよい。R1及びR2が互いに結合して環を形成し、かつ前記一般式(1)のAがエチレン基である場合、前記一般式(1)で表される化合物として、例えばクラウンエーテルと呼ばれる環状ポリエーテル化合物などが挙げられるが、これに限定されない。
【0038】
前記式(1)中の「(OA)」は、オキシアルキレン基又はポリオキシアルキレン基が好適であり、当該ポリオキシアルキレン基の合計付加モル数(前記一般式(1)中のn)は、好ましくは2~1000、より好ましくは5~500、さらに好ましくは10~200、よりさらに好ましくは20~100である。ここでポリオキシアルキレン基の付加モル数は、単一の分子においては整数値を示し、複数種の分子の集合体としては平均値である有理数を示すことができる。以下、付加モル数については同様に規定する。なお、「(OA)n」において、異なる複数種のアルキレンオキサイドを付加させてもよく、この場合には、配列はランダムでもブロックでもよい。
【0039】
また、前記一般式(1)中のnの繰り返しは、化合物の重量平均分子量にて表現してもよい。一般式(1)で表される化合物の重量平均分子量は、前記ポリアルキレンオキサイド化合物における重量平均分子量と同様であり、好ましくは1,000~10,000である。
【0040】
前記一般式(1)中、前記「A」は、特に限定されないが、アルキレン基を示すことが好適であり、この炭素数は好適には1~4、より好適には2~4である。当該アルキレン基は、鎖状(直鎖状、分岐鎖状)又は脂環式のいずれでもよく、鎖状が好ましい。
【0041】
前記Aにおけるアルキレン基として、例えば、メチレン基(-CH2-)、エチレン基(-(CH2)2-)、トリメチレン基(-(CH2)3-)、プロピレン(-CH(CH3)CH2-)基、ブチレン基(n-、イソ-、sec-、tert-)、ペンチル基(n-、イソ-、ネオ-)などが挙げられ、このうち、エチレン基、プロピレン基が好適である。これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0042】
上記一般式(1)で表されるポリアルキレンオキサイド化合物として、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどのポリアルキレングリコール;ポリエチレンオキシド-ブロックとポリプロピレンオキシド-ブロックとより成るブロック共重合体;エチレンとプロピレンオキシドとのランダム共重合体などのエチレングリコール-プロピレングリコール共重合体などのポリアルキレングリコール共重合体が挙げられる。このうち、ポリプロピレングリコールが好適である。
【0043】
前記ポリプロピレングリコールとして、特に限定されないが、例えば、PPG2000、PPG4000等)などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0044】
前記液状ポリアルキレンオキサイド化合物として、以下の一般式(2)で表される化合物が好適であり、また、ポリアルキレンオキサイドジオール化合物が好適である。前記一般式(2)で表される化合物として、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリアルキレングリコール共重合体などが挙げられる。このうち、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体が好適である。これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0045】
【0046】
前記一般式(2)中の「(OA)n」、「OA」、「A」などは、前記一般式(1)の「(OA)n」、「OA」、「A」などを採用することが好適である。前記一般式(2)で表される化合物の重量平均分子量は、好ましくは1,000~10,000である。前記一般式(2)中の「A」は、炭素数1~4のアルキレン基であることが好適であり、当該炭素数は2~4であることがより好適であり、当該アルキレン基は、鎖状(直鎖状、分岐鎖状)が好適である。前記一般式(2)中のAにおけるアルキレン基のうち、エチレン基及び/又はプロピレン基が好適であり、より好適にはプロピレン基である。
【0047】
前記液状ポリアルキレンオキサイド化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記ポリアルキレンオキサイド化合物は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0048】
2-1-2.液状グリセリンエステル化合物
【0049】
本発明に用いる液状グリセリンエステル化合物とは、グリセリンが有する水酸基が、例えば単数又は複数のカルボキシル基を有する化合物とエステル結合を形成した化合物であることが好適である。液状グリセリンエステル化合物は、より好適には、グリセリンと脂肪酸とのエステル化合物(以下、「液状グリセリン脂肪酸エステル」ともいう)である。
【0050】
本発明に用いる液状グリセリン脂肪酸エステルとして、特に限定されないが、例えば、モノグリセライド、ジグリセライド、トリグリセライド、有機酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。なお、一般的に、トリグリセライド(トリアシルグリセロール)には乳化剤としての性質がないといわれているが、本明細書において、液状グリセリン脂肪酸エステル、トリグリセライド(トリアシルグリセロール)を含む意味である。なお、モノグリセライド、ジグリセライド、トリグリセライドは、それぞれ、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、トリアシルグリセロールとも呼ばれている。
【0051】
液状グリセリンエステル化合物として、モノグリセライド、ジグリセライド、及びトリグリセライド、並びに、植物油から選択される1種又は2種以上を用いることがより好適であり、液状グリセリンエステル化合物のうち、トリグリセライド、及び天然由来の植物油がさらに好適であり、トリグリセライド(好適には植物油由来のトリグリセライド)がより好適である。
【0052】
前記液状グリセリンエステル化合物は、例えば、油脂から得られる高級脂肪酸とグリセリンを反応させて製造してもよく、このときモノグリセライド、ジグリセライド、及びトリグリセライドなどを適宜製造することもできる。高級脂肪酸とは、脂肪族モノカルボン酸の一種で、長鎖炭化水素の1価のカルボン酸であり、この炭素数は6以上であることが好適である。
【0053】
前記液状グリセリンエステル化合物を構成する脂肪酸の炭素数は、好適には6以上、より好適には12~30、さらに好適には14~24、より好適には16~22である。また、当該脂肪酸として、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれでもよく、鎖状(直鎖状、分岐鎖状)又は脂環式のいずれでもよく、このうち鎖状が好適であり、直鎖状がより好適である。前記脂肪酸としては、高級脂肪酸が好適である。
【0054】
前記高級脂肪酸として、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸などの飽和脂肪酸;パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、アラキドン酸、エイコサペンタン酸、ドコサヘキサエン酸などの不飽和脂肪酸などが挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択することができる。このうち、当該脂肪酸として、少なくとも、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸から選択される1種又は2種以上を含むことが好適である。
【0055】
また、前記液状グリセリンエステル化合物は、天然の果実、種子又は花などの植物、魚油などの動物などの天然より得られる天然系のグリセリンエステル化合物などを公知の方法で精製したり、さらに精製したグリセリンエステル化合物を公知の方法で融点差を利用して分離、再精製をしたりして得ることができ、適宜、植物油、トリグリセライド、ジグリセライド又はモノグリセライドを得ることもできる。当該天然系のグリセリンエステル化合物として、微生物由来のグリセリンエステル化合物を用いてもよい。
【0056】
天然由来の液状グリセリンエステル化合物(好適にはトリグリセライド)として、特に限定されないが、例えば、アマニ油、ヒマワリ油、ダイズ油、ナタネ油、ゴマ油、オリーブ油、パーム核油、パーム油、ヤシ油などの植物油及び当該植物油由来のグリセリンエステル化合物などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。このうち、植物油及び/又は植物由来のトリグリセライドが好ましく、ナタネ油及び/又はナタネ由来のトリグリセライドがさらに好ましい。植物油及び当該植物油由来のグリセリンエステル化合物のうち、植物由来のトリグリセライドが好適である。なお、一般的に、植物油由来のグリセリンエステルを構成する脂肪酸は、高級脂肪酸である。
【0057】
前記液状グリセリンエステル化合物は、水には実質的に溶解せず油状を保つものが好適であり、より具体的には、水1Lに対する添加濃度30~3000mg/Lにおいて、実質的に溶解せずに油状であることが好適である。
【0058】
前記液状グリセリンエステル化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記液状グリセリンエステル化合物は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0059】
2-1-3.液状炭化水素化合物
液状炭化水素化合物は、鎖状又は脂環式のいずれでもよく、より具体的には、例えば、スクワラン、流動パラフィン、流動イソパラフィン、水添ポリイソブテン、α-オレフィンオリゴマー;n-ヘプタデカン、n-オクタデカン、n-ノナデカン、n-エイコサン、n-ヘンエイコサン、n-ドコサン、n-トリコサン、n-ウンデカン、n-トリデカン、n-ドデカン、n-テトラデカン、n-ペンタデカン、n-ヘキサデカンなどの液状炭化水素系パラフィン(より好適には炭素数11~23脂肪族炭化水素)などが挙げられる。このうち、液状炭化水素系パラフィンが好適であり、より好適には流動パラフィンである。これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
前記液状炭化水素油の重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは1,000~10,000である。
また、前記液状炭化水素油の重量平均分子量は、標準ポリマー:ポリスチレンを基準物質として、GPC分析により測定することができる。
【0060】
前記液状炭化水素化合物(好適には液状炭化水素系パラフィン)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記液状炭化水素化合物(好適には液状炭化水素系パラフィン)は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0061】
2-1-4.高級アルコール
高級アルコールとして、飽和アルコール又は不飽和アルコールのいずれでもよく、例えば、ラウリルアルコール、テトラデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、天然油脂から採取される高級アルコール及びそれらの混合物などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。当該高級アルコールの炭素数は、例えば8~16程度であり、より好適には10~14、さらに好適には10~12である。
【0062】
高級アルコールは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、高級アルコールは、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0063】
2-2.カチオン性ポリビニルアルコール
本発明に用いるカチオン基を有するポリビニルアルコール(以下、「カチオン性ポリビニルアルコール(PVA)」又は「カチオン化PVA」ともいう)は、特に限定されない。当該カチオン性ポリビニルアルコールは、当該カチオン基として、アミノ基、イミノ基、グアニジノ基、4級アンモニウム塩基など挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を有することが好適であり、このうち、より好ましくは4級アンモニウム塩基である。
前記カチオン性ポリビニルアルコールは、マクロスティッキー由来又はその形成原因となる粘着物の未離解物由来の粘着性を低下させることができる。
【0064】
また、カチオン性ポリビニルアルコールは、カチオン基を側鎖に有することが好適であり、また、水酸基を側鎖に有することが好適である。当該カチオン性ポリビニルアルコールは、ケン化度相当のビニルアルコールの構造単位と、未ケン化部分のビニルエステル系単量体由来の構造単位と、カチオン性の構造単位とを有することが好適である。
【0065】
前記カチオン性ポリビニルアルコールのケン化度(JISK6726-1994に準拠)は、特に限定されないが、その好適な下限値として好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上であり、また、その好適な上限値として好ましくは100モル%以下、より好ましくは99モル%以下、さらに好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下であり、当該好適な数値範囲として、好ましくは80~95モル%である。なお、一般的にケン化度が高いと水への溶解が高いとされる。
〔ケン化度の測定方法〕
ケン化度の測定方法は、JISK6726に準拠して行うことができる。
【0066】
前記カチオン性ポリビニルアルコールの平均重合度は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは100以上、より好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上、より好ましくは1000以上であり、また、その好適な上限値として好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、さらに好ましくは3000以下であり、当該好適な数値範囲として、好ましくは1000~3000である。
〔平均重合度の測定方法〕
平均重合度の測定方法は、JISK6726を準拠して行うことができる。
【0067】
カチオン性ポリビニルアルコールのコロイド当量は、特に限定されないが、その好適な下限値として好ましくは0.01meq/g以上、より好ましくは0.05meq/g以上、さらに好ましくは0.1meq/g以上、より好ましくは0.2meq/g以上であり、また、その好適な上限値として好ましくは10meq/g以下、より好ましくは5meq/g以下、さらに好ましくは2meq/g以下、より好ましくは1meq/g以下であり、当該好適な数値範囲として、好ましくは0.1~2meq/gである。
【0068】
なお、コロイド当量値によって、カチオン化度を表すことができる。また、コロイド当量値は、以下の〔カチオンのコロイド当量値の測定方法〕で測定できる。
〔カチオンのコロイド当量値の測定方法〕
試料50ppm水溶液(純水で希釈)に0.5重量%硫酸水溶液を加えて撹拌し、pH3に調整し、トルイジンブルー指示薬(和光純薬工業(株)製)を2~3滴入れ、N/400ポリビニルアルコール硫酸カリウム溶液(和光純薬工業(株)製)で滴定する。青色が赤紫色に変わり数秒経っても赤紫色が消えない点を終点とする。同様に純水にて空試験を行う(ブランク)。
カチオンのコロイド当量値(meq/g)=〔試料の測定値(ml)-空試験の滴定量(ml)〕/2
【0069】
本発明に用いるカチオン性ポリビニルアルコールは、公知の製造方法にて得ることができ、例えば、カチオン基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合体をケン化することによって得ることができる。カチオン基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体の共重合体は、従来の公知の重合方法などにて得ることができる。さらに当該共重合体のケン化物は、通常公知の方法、例えばビニルエステル系共重合体をケン化する方法などにて得ることができる。ケン化後にさらに変性させてもよく、当該変性方法としては、例えば、アセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、オキシアルキレン化する方法などが挙げられる。
【0070】
不飽和単量体のカチオン基としては、アミノ基、イミノ基、グアニジノ基、4級アンモニウム塩基などがあり、好ましくは4級アンモニウム塩基である。また、4級アンモニウム塩基を有する不飽和単量体として、特に限定されないが、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられるが、これに限定されない。また、前記ビニルエステル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。このうち、酢酸ビニルが好ましく用いられる。また、カチオン基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体の他にも共重合可能な不飽和単量体を共重合しても良い。これらの単量体は、単独でも2種以上を併用してもよい。例えば、共重合体として、酢酸ビニルとジアリルジメチルアンモニウムクロライドの共重合物のケン化物が挙げられる。
【0071】
カチオン性ポリビニルアルコールは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、当該カチオン性ポリビニルアルコールは、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0072】
2-3.陽転用カチオン性化合物
本発明に用いる陽転させるために用いるカチオン性化合物(以下、「陽転用カチオン性化合物」ともいう)は、特に限定されない。また、陽転用カチオン性化合物はカチオン性化合物を含有する、マクロスティッキー含有対象を陽転させるために用いる薬剤又はカチオン性薬剤であってもよく、カチオン性化合物を含有し、マクロスティッキー含有対象を陽転させる量以上に用いてマクロスティッキーを処理する剤であってもよい。
前記陽転用カチオン性化合物として、特に限定されないが、例えば、カチオン性界面活性剤、カチオン性高分子化合物などが挙げられる。
【0073】
前記陽転用カチオン性化合物は、当該添加量を増加させることで、マクロスティッキーを含む対象の状態を陽転させるためのカチオン性化合物であり、当該対象を陽転させる量以上に添加するように用いることが好適である。
【0074】
本明細書における「陽転」とは次のとおりである。通常、製紙原料であるパルプスラリーはアニオン性であり、これにカチオン性化合物を添加して、カチオン余剰状態になることを陽転と言う。「陽転する」又は「陽転させる」と、ゼータ電位又は流動電位が-(マイナス)から+(プラス)に変化する。本発明では、処理対象(例えば、原料スラリーやパルプ含有水、リジェクトの水などの対象)のゼータ電位を測定し、ゼータ電位の変化を観察することで、-(マイナス)から+(プラス)に変化したときを「陽転する」又は「陽転させる量又は陽転させる量以上」と判断することが好適である。
【0075】
原料スラリーは、パルプ繊維又はアニオントラッシュなどのアニオン性物質を含んでおり、これら物質はマクロスティッキーよりもカチオン性化合物との反応性が強い。このため、原料スラリーにカチオン性化合物を添加すると、マクロスティッキー以外の物質がカチオン性化合物と先に反応する。マクロスティッキー以外の物質が全てカチオン性化合物と反応すると、カチオン性化合物が余剰状態となる。この余剰状態になったときに、マクロスティッキーを含む対象(例えば原料スラリーやパルプ含有水など)が「陽転する」。対象が陽転する量以上のカチオン性化合物をマクロスティッキーを含む対象に添加することで、余剰状態となった余剰分のカチオン性化合物とマクロスティッキーとが反応する。これによりマクロスティッキー由来又はその形成原因となる粘着物の未離解物由来の粘着性を低下させることができる。
【0076】
すなわち、本発明に用いる陽転させるために用いるカチオン性化合物は、マクロスティッキー由来の粘着性を低下させることができる。当該陽転用カチオン性化合物は、紙製造工程におけるマクロスティッキーを含む対象を陽転させる量以上になるように使用(添加、配合、混合など)することにより、マクロスティッキー由来の粘着性をより効率よく低下させることができる。
また、前記陽転用カチオン性化合物は、マクロスティッキー含有対象を陽転させる量よりも多く使用(添加など)するように用いることが好適であり、これにより、紙製造工程における対象に含まれるマクロスティッキーを良好に処理することができ、マクロスティッキー由来又はその形成原因となる粘着物の未離解物由来の粘着性を低下させ、これにより、工程水中のマクロスティッキーの他への付着防止及び工程水中でのマクロスティッキーの粗大化防止ができる。このとき、陽転用カチオン性化合物のうち、カチオン性界面活性剤、カチオン性高分子化合物を用いることがより好適である。
【0077】
本発明に用いるカチオン性界面活性剤として、特に限定されないが、例えば、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロリドなどの第四級テトラアルキルアンモニウム塩;ベンジルジメチルドデシルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムクロリドなどの第四級ベンジルアンモニウム塩;N-ドデシルピリジニウムクロリドなどのピリジニウム塩などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。このうち、一般に塩化ベンザルコニウムと総称されるベンジルジメチルアルキルアンモニウムクロリドを好適に用いることができる。ベンジルジメチルアルキルアンモニウム塩のアルキル基の炭素数は、10~20であることが好ましく、12~16であることがより好ましい。
【0078】
本発明に用いるカチオン性高分子化合物として、特に限定されないが、例えば、一般式(3)又は一般式(4)で表されるジアリルジアルキルアンモニウム塩構造、一般式(5)で表されるビニルピリジニウム塩構造、一般式(6)で表される(メタ)アクリロイルオキシエチルトリアルキルアンモニウム塩構造、一般式(7)で表される環状アミジンのアンモニウム塩構造、一般式(8)で表されるジアルキルアミンとエピハロヒドリンの付加重合体構造、一般式(9)で表されるN,N,N',N'-テトラアルキルアルキレンジアミンとアルキレンジハライドの付加重合体構造などを有する高分子化合物などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0079】
【0080】
【0081】
本発明においては、カチオン性高分子化合物として、これらの構造を有する単独重合体、共重合体のいずれをも用いることができ、さらに、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、スチレン、酢酸ビニル、N-ビニルピロリドンなどのノニオン性単量体が共重合されたカチオン性高分子化合物も用いることができる。
これらのカチオン性高分子化合物のうち、一般式(4)で表される構造単位を有するポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を特に好適に用いることができる。
前記(メタ)アクリロイルオキシエチルトリアルキルアンモニウム塩構造を有する高分子化合物の具体例として、特に限定されないが、例えば、アクリルアミドとアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドの共重合物、メタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドの重合物などが挙げられる。
前記環状アミジンのアンモニウム塩構造を有する高分子化合物の具体例として、特に限定されないが、例えば、アクリルアミド・アクリロニトリル・N-ビニルアクリルアミジン塩酸塩・N-ビニルアクリルアミド・ビニルアミン塩酸塩・N-ビニルホルムアミド共重合物などが挙げられる。
前記ジアルキルアミンとエピハロヒドリンの付加重合体構造を有する高分子化合物の具体例として、特に限定されないが、例えば、アルキルアミン・エピクロルヒドリン縮合物などが挙げられる。
【0082】
カチオン性高分子化合物(より好適にはポリジアリルジメチルアンモニウム塩)の数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、その好適な下限値として好ましくは1,000以上、より好ましくは5,000以上、さらに好ましくは10,000以上であり、また、その好適な上限値として好ましくは1,000,000以下、より好ましくは800,000以下、さらに好ましくは500,000以下、より好ましくは400,000以下であり、当該好適な数値範囲として、好ましくは10,000~500,000である。
【0083】
〔水溶性カチオン高分子化合物の推定平均分子量の算出方法〕
本明細書において、水溶性カチオン高分子化合物の分子量は、固有粘度と平均分子量の関係から、推定平均分子量を求めることができる。より具体的には、固有粘度と平均分子量とがわかる各種ポリマーから、固有粘度と平均分子量との関係性を求める。試料ポリマーの固有粘度を測定する。試料ポリマーの固有粘度を、固有粘度と平均分子量の関係に当てはめ、当該関係から、試料ポリマーの平均分子量を求め、求めた平均分子量を、試料ポリマーの推定平均分子量とする。なお、
図2は、DAM(CH
3Cl)(2-メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド)重合物のデータである。また、カチオン性PVAの場合には、重合度×207.5=平均分子量としてもよい。
【0084】
〔各種ポリマー(水溶性カチオン高分子化合物)の推定平均分子量の求め方〕
下記〔固有粘度測定方法〕のハギンスの式に基づく固有粘度の求め方に従って求めたポリマー(水溶性カチオン高分子化合物)の固有粘度[η]を、「光散乱法による分子量測定結果より求めた[η]と平均分子量(×10
4)との関係(例えば、
図2参照)」に当てはめ、当該相関関係から、ポリマーの平均分子量を求め、これを、固有粘度及び平均分子量の関係に基づくポリマー(水溶性カチオン高分子化合物)の推定分子量とすることができる。
【0085】
〔固有粘度測定方法〕
(I)~(V)の手順に従って、固有粘度を求めることができる。
(I)キャノンフェンスケ粘度計(株式会社草野化学製No.75)5本をガラス器具用中性洗剤に1日以上浸漬後、水で十分洗浄し、乾燥させる。
(II)前述したコロイド当量値の測定操作と同じ手順で、W/Oエマルション型ポリマーを水で希釈し、ポリマー濃度0.2質量%の水溶液を調製する。
(III)前記(II)で調製したポリマー濃度0.2質量%の水溶液50mLに2モル/L硝酸ナトリウム水溶液50mLを加え、マグネチックスターラーにて500rpmで20分間撹拌し、ポリマー濃度0.1質量%の1モル/L硝酸ナトリウム水溶液を得た。これを1モル/L硝酸ナトリウム水溶液で希釈して、0.02、0.04、0.06、0.08、0.1質量%の5段階のポリマー濃度のポリマー溶液試料を調製する。なお、ポリマー未添加の1モル/L硝酸ナトリウム水溶液をブランク液とする。
(IV)温度30℃(±0.02℃内)に調整した恒温水槽内に、(I)で準備した粘度計5本を垂直に取り付けた。各粘度計にホールピペットにてブランク液10mLを入れた後、温度を一定にするために約30分間静置する。その後、スポイト栓を用いて液を吸い上げ、自然落下させて、標線を通過する時間をストップウォッチで1/100秒単位まで測定する。この測定を、各粘度計について5回繰り返し、平均値をブランク値(t0)とする。
(V)(III)で調製した5段階のポリマー濃度のポリマー溶液試料各10mLを、ブランク液の測定を行った粘度計5本に入れ、温度を一定にするために約30分間静置する。その後、ブランク液の測定と同様の操作を3回繰り返し、濃度ごとの通過時間の平均値を測定値(t)とする。
ブランク値t0、測定値t、及びポリマー溶液試料の濃度[質量/体積%](=C[g/dL])から、下記数式(5)及び(6)に示す関係式より、相対粘度ηrel、比粘度ηSP及び還元粘度ηSP/C[dL/g]を求める。
ηrel=t/t0 (5)
ηSP=(t-t0)/t0=ηrel-1 (6)
これらの値から、上述したハギンスの式に基づく固有粘度の求め方に従って、各ポリマーの固有粘度[η]を求める。
【0086】
本発明に用いる陽転用カチオン性化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、当該陽転用カチオン性化合物は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0087】
2-4.<任意成分>
本発明では、上記液状油脂状化合物、カチオン性PVA、又は陽転用カチオン性化合物以外に、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜、任意成分を、水系などの対象に同時期又は別々に使用したり、薬剤中に含ませてもよい。当該任意成分として、特に限定されないが、例えば、塩類、増粘剤、分散剤、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防腐剤などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を使用することができる。
【0088】
2-5.本発明に関する用途、用法などについて
本発明に用いる、液状油脂状化合物、カチオン性PVA、又は陽転用カチオン性化合物(以下、これらを本発明に用いる化合物ともいう)は、例えば、マクロスティッキー由来又はその形成原因となる粘着物の未離解物由来の粘着性低下作用、製紙工程におけるピッチ汚れ低減作用、製紙工程におけるピッチ由来の欠点および断紙低減作用などを有する。当該処理作用として、例えば、マクロスティッキー付着防止作用、マクロスティッキー粗大化防止作用、汚れ低減作用などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上に用いることができるが、これらに限定されない。本発明に用いる化合物は、上述したマクロスティッキー処理作用などを有するので、本発明に用いる化合物を、ピッチ汚れ処理剤、マクロスティッキー処理剤、製紙工程用の薬剤などの薬剤に含有させることができ、又はこれら薬剤に使用することができる。本発明は、本発明に用いる化合物自体を、上述した製紙工程におけるピッチ汚れ処理剤、マクロスティッキー処理剤などの薬剤として使用することもできる。
【0089】
また、本発明は、上述したピッチ汚れ処理、マクロスティッキー処理などの目的のために用いる化合物(例えば、液状油脂状化合物、カチオン性PVA、陽転用カチオン性化合物)を提供できる。また、本発明に用いる化合物は、上述したピッチ汚れ処理剤、マクロスティッキー処理剤などの薬剤又は製剤を製造するために使用することができる。また、本発明は、本発明に用いる化合物を、製紙工程又は製紙工程に用いる装置に対して使用する又は添加する、製紙工程におけるピッチ汚処理方法、マクロスティッキー処理方法などを提供することもできる。本発明に用いる化合物としては、液状油脂状化合物、カチオン性PVA、及び陽転用カチオン性化合物から選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0090】
本発明に用いる薬剤の形態は、特に限定されず、液状、スラリー状又は粉末状であってもよく、また、本発明に用いる化合物の使用方法、使用量、使用場所などは、後述する本発明に係る処理方法を適宜採用することができる。
【0091】
本発明に用いる化合物は、好適には紙製造工程に用いることが好適である。当該紙製造工程として、例えば調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上が好適であり、このうち、原質工程(調成工程)及び/又は抄紙工程に用いることが好ましい。
本発明に用いる薬剤は、紙製造における原質工程又は抄紙工程のスクリーン又はクリーナーで生じるリジェクトに対して用いるためのものであることが好適である。
また、紙原料を用いて紙を製造する工程中のスラリー又は脱水ケーキに対して用いるためのものであることが好適である。
【0092】
3.本発明に係るマクロスティッキー処理方法
本実施形態におけるマクロスティッキー処理方法の説明において、上述した「1.」「2.」、後述する「4.」などと重複する、対象、液状油脂状化合物、カチオン性ポリビニルアルコール、陽転用カチオン性化合物などの各構成や各処理方法などの説明については適宜省略するが、当該「1.」「2.」「4.」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、適宜採用することができる。また、本実施形態におけるマクロスティッキー処理方法の例の説明において、後述の説明も、本実施形態に当てはめることができ、適宜採用することもできる。
【0093】
本実施形態は、融点が50℃以下の油脂状化合物、カチオン基を有するポリビニルアルコール、及び、陽転させるために用いるカチオン性化合物から選択される1種又は2種以上を、又は当該特定の化合物を含むマクロスティッキー処理剤を、マクロスティッキー含有対象に使用する、マクロスティッキー処理方法を提供できる。当該処理対象に、本実施形態に用いる化合物又は薬剤を混合して、マクロスティッキー処理を実施できる。また、本実施形態は、マクロスティッキーの不粘着化方法又はマクロスティッキーの粘着性低減方法であってもよい。
【0094】
より好適なマクロスティッキー処理方法は、前記陽転用カチオン性化合物を、マクロスティッキー含有対象が陽転する量よりも多く使用(添加など)することである。
より好適なマクロスティッキー処理方法は、前記マクロスティッキー含有対象に対して、前記カチオン性化合物を陽転させる量よりも多く使用(添加など)すること、その後アニオン性薬剤及び/又は別のスラリーを陽転が解消されるまで使用(添加など)することを含むことである。
【0095】
本実施形態において、処理対象として、紙製造において、マクロスティッキーを含むような各種工程に関するもの、例えば、各種工程水、各種工程スラリー、各種工程脱水ケーキなどが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を対象とすることができるが、これらに限定されない。
【0096】
本実施形態において、処理対象であるマクロスティッキー含有対象が、古紙原料を用いて紙を製造する工程中のスラリー(パルプ含有水)であることが好適である。特に古紙原料には、粘着テープやラベルなどが付着した古紙(例えば新聞紙、ダンボール、雑誌など)などが使用されるため、このような古紙が多くなるほど、マクロスティッキーの元となる成分(好適には(メタ)アクリレート系成分)が多く含まれる。古紙を原料とするスラリー中のマクロスティッキーは夾雑物である粘着テープやラベルや接着剤の未離解の粘着物が主であり、当該未離解物はスクリーン又はクリーナーで除去している。このため、原質工程又は抄紙工程におけるスクリーン又はクリーナーのリジェクトには、マクロスティッキーが濃縮されている。本実施形態により、このようなリジェクトを処理対象とすることで、原料として再利用することができる。
【0097】
本実施形態により、古紙原料を用いて紙を製造する工程を含む紙製造におけるスラリー、脱水ケーキ、パルプ含有水などを処理対象として処理することで、紙製造におけるスラリー又は脱水ケーキ中のマクロスティッキーをより良好に処理することができる。
また、本実施形態において、マクロスティッキー含有対象が、紙製造における原質工程又は抄紙工程のスクリーン又はクリーナーで生じるリジェクトであることが好適である。本実施形態により、リジェクト中のマクロスティッキーをより良好に処理することができ、これによりマクロスティッキーが濃縮されているリジェクトを原料として再利用することができる。このとき、処理効率を考慮すると、処理対象のマクロスティッキー量は5000mm2/kg以上であることが好ましい。
【0098】
本実施形態における紙製造工程において、スクリーン工程及び/又はクリーナー工程を含む除塵工程の工程順序又は設置場所は、特に限定されず、紙製造工程のうちで、単数又は複数設けて、実施してもよく、また、調成工程及び/又は抄紙工程のうちで適宜設けてもよく、対象に含まれるゴミやピッチなどを除去するために、適宜、工程後、工程前又は工程間に設けてもよい。また、スクリーン又はクリーナー後のリジェクト(又はリジェクトを含む対象)には、マクロスティッキーが含まれるため、本実施形態により、リジェクト(又はリジェクトを含む対象)を処理することで、対象中に含まれるマクロスティッキーをより良好に処理することができる。
【0099】
また、本実施形態において、マクロスティッキー含有対象中のマクロスティッキー量は、特に限定されないが、その好適な下限値として、処理効率の観点から、好ましくは100mm2/kg以上、より好ましくは1000mm2/kg以上、さらに好ましくは2000mm2/kg以上、より好ましくは3000mm2/kg以上、さらに好ましくは5000mm2/kg以上であることが好適であり、また、その好適な上限値として、対象中のマクロスティッキー含有量に対応して薬剤の添加量を増加させ調整することで特に限定されないが、例えば、100000mm2/kg以下、50000mm2/kg以下又は10000mm2/kg以下などが挙げられる。
【0100】
〔マクロスティッキー量(mm2/kg)の測定方法〕
本明細書におけるマクロスティッキー含有量(mm2/kg)、マクロスティッキー1mm2は、JIS P8231:2005にて測定することができる。
【0101】
また、本実施形態において、対マクロスティッキーにおけるマクロスティッキー処理剤の添加量は、特に限定されないが、その好適な下限値として好ましくは対マクロスティッキー0.0001mg/mm2以上、より好ましくは0.0005mg/mm2以上、さらに好ましくは0.001mg/mm2以上、より好ましくは0.005mg/mm2以上であり、また、その好適な上限値として、対象中のマクロスティッキー含有量に対応して薬剤の添加量を増加し調整することで特に限定されないが、例えば、対マクロスティッキー0.5mg/mm2以下、又は0.1mg/mm2以下などが挙げられるが、薬剤コストなどの観点から、好ましくは対マクロスティッキー0.05mg/mm2以下、より好ましくは0.01mg/mm2以下である。
【0102】
また、本実施形態において、本発明に用いる化合物の使用濃度は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは5mg/L以上、より好ましくは10mg以上、さらに好ましくは20mg/L以上、さらに好ましくは30mg/L以上、より好ましくは50mg/L以上、より好ましくは100mg/L以上、より好ましくは200mg/L以上、より好ましくは300mg/L以上であり、また、その好適な上限値としては特に限定されないが、薬剤コストの観点から、好ましくは5000mg/L以下、より好ましくは4000mg/L以下、さらに好ましくは3000mg/L以下である。当該化合物の使用濃度とは、対象がマクロスティッキー含有工程水の場合には「本発明に用いる化合物mg/工程水1L」である。
【0103】
また、本実施形態において、前記陽転用カチオン性化合物をマクロスティッキー処理剤として使用する場合には、マクロスティッキー含有対象に対して、当該対象を陽転させる量以上に前記陽転用カチオン性化合物を使用(添加など)することが好適である。本実施形態において対象を陽転にすることで、陽転用カチオン性化合物は、対象に含まれるマクロスティッキーに対してより良好に反応し、マクロスティッキーを処理することができる。本実施形態では、対象が陽転後にマクロスティッキーと反応したカチオン性化合物はマクロスティッキーから再び離れることはないという利点がある。このため、本実施形態において、陽転後の対象に、さらにアニオン性化合物及び/又は別のスラリーと混合させても、陽転用カチオン性化合物と反応したマクロスティッキーの粘着性低下状態は、維持されるという利点がある。
【0104】
また、本実施形態において、マクロスティッキー含有対象に対して、当該対象を陽転させる量以上に、前記陽転用カチオン性化合物を使用(添加など)すること、及び、その後アニオン性化合物及び/又は別のスラリー(パルプ含有水)を、陽転が解消されるまで、対象に使用(添加など)することを含むことが好適である。
【0105】
本実施形態において、マクロスティッキー処理剤の化合物として使用できるかどうかの評価(判定)を、後記〔実施例〕における粘着テープに対する不粘着効果を剥離強度(N)と添加量(mg/L)との関係によるマクロスティッキー処理の評価方法を用いて行うことが好適である。例えば、薬剤使用(添加など)量の増量に伴い、粘着テープの剥離強度が低下していく場合などが挙げられ、より具体的には、例えば、無添加の剥離強度(N)と、使用量3000mg/Lとの剥離強度(N)の差が0.5以上又は1以上の差があること;負の傾きが大きいことなどが挙げられる。
【0106】
陽転用カチオン性化合物であるかどうかの評価(判定)として、後記〔実施例〕で行った「マクロスティッキー処理評価方法(陽転の有無)」を、用いることが好適である。試料の薬剤量を順次増量させたときの、剥離強度(N)、カチオン要求量(μeq/L)、ゼータ電位(mV)から選択される1種又は2種以上の値が、変化したものを、「陽転用カチオン性化合物」と判定することが好適である。一例として、剥離強度(N)を用いる場合には、無添加と添加との対比において、例えば、剥離強度(N)が0.2又は0.4より低下するもの;例えば、薬剤添加量が上限300mg/Lとしたときに、0~300mg/Lの間で、カチオン要求量が正から負に変化するもの及び/又はゼータ電位が負から正に変化するもの;が挙げられ、少なくともカチオン要求量又はゼータ電位を指標とすることが好適であり、より好適にはこれら両方を指標にすることである。
【0107】
本実施形態では、マクロスティッキー含有対象に対して、本発明に用いる化合物を、当該マクロスティッキー含有対象を陽転させる量以上に使用(添加など)することが好適である。さらに、本実施形態では、陽転処理後のマクロスティッキー含有対象に対し、さらにアニオン性化合物及び/又は別のスラリー(対象)を使用(添加など)し、陽転を解消させることができる。陽転解消後であっても、マクロスティッキーとカチオン性化合物との反応状態は、維持(具体的には、マクロスティッキーの粘着性の低下状態の維持)ができるという利点を有する。
本実施形態における陽転の測定又は監視は、カチオン要求量及び/又はゼータ電位の分析又は測定にて行うことが好適であり、当該分析又は測定は、カチオン要求量及び/又はゼータ電位が測定可能な装置又は方法、工程などを用いて行うことが好適である。当該装置、方法、工程などは、特に限定されないが、市販品の測定装置や測定キット、公知の分析方法などが挙げられる。
【0108】
本実施形態で処理対象とするマクロスティッキー含有対象は、上記「2.」で説明したように、製紙工程におけるマクロスティッキーなどを含むピッチ含有水などが挙げられる。当該ピッチ含有水又はマクロスティッキー含有水は、パルプを含むパルプ含有水であってもよく、当該パルプは、バージンパルプ、古紙パルプ又はこれらの混合物のいずれでもよく、当該パルプ濃度は、0.5~5%程度などが挙げられる。
また、本実施形態における処理対象である製紙工程におけるマクロスティッキー含有対象は、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上に存在する工程水などであることが好適である。また、本実施形態における処理対象は、マクロスティッキーが多く含まれるような成分又は対象、例えば、少なくともスクリーン処理後又はクリーナー処理後のリジェクト又は対象が好適である。
【0109】
処理対象であるマクロスティッキー含有対象の性状について、以下で説明するが、好適な数値範囲内になるように、希釈(例えば水希釈)及び/又は濃縮(例えば、熱、膜、減圧)を行ってもよく、当該希釈又は濃縮は、マクロスティッキー含有対象を希釈及び/又は濃縮するように構成されている装置にて行ってもよい。
【0110】
処理対象であるマクロスティッキーの大きさ(粒子径)は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは100μm以上又は150μm以上であり、その好適な上限値として、好ましくは10000μm以下、より好ましくは5000μm以下、さらに好ましくは2000μm以下、さらにより好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下であり、より好適な数値範囲として、より好ましくは150μm以上500μm以下である。
【0111】
本実施形態において、処理対象であるマクロスティッキーの大きさ(粒子径)は、JIS P8231:2005に準拠してスリット間隙が100μm又は150μmなどのスクリーン板を備えた装置を通過しないようなものと定義することができる。また、スクリーン板の目開きサイズを変更することで処理対象に含まれるマクロスティッキーの大きさを確認することができる。例えば、目開き150μmのスリットスクリーン板を用いて分離されたものを、粒子径150μm以上のマクロスティッキーとすることができる。例えば、目開き1000μmのスリットスクリーンを通過し次いで目開き100μmのスリットスクリーンを通過しないようにして分離した場合には、粒子径1000μm以下100μm以上のマクロスティッキーとすることができる。
【0112】
処理対象であるマクロスティッキー含有対象のカチオン要求量(μeq/L)は特に限定されないが、好適には正の値であり、より好適には+5~+5000μeq/L程度、さらに好適には+10~+1000μeq/L、より好適には+50~+200μeq/Lである。
処理対象であるマクロスティッキー含有対象のゼータ電位(mV)は特に限定されないが、好適には負の値であり、より好適には0~-200mV程度であり、さらに好適には-5~-100mV、より好適には-10~-50mVである。
【0113】
処理するときの対象のpHは特に限定されないが、好ましくはpH5~13、より好ましくはpH5~10である。
【0114】
処理するときの対象の温度及び/又は処理する薬剤の温度は、特に限定されないが、その好適な下限値として好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上であり、また、その好適な上限値として好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下、さらに好ましくは40℃以下であり、当該好適な数値範囲として、例えば10~50℃が挙げられる。例えば、薬剤添加場所(タンク、配管など)などに、加熱冷却装置又は加熱冷却工程をさらに備えて、処理対象及び/又は薬剤の温度を調整することが好適である。
【0115】
3-1.製紙工程の概要
本実施形態の方法を使用する製紙工程は、特に限定されず、本実施形態の方法は、公知の製紙工程又は将来生じ得る製紙工程に適用することができる。前記製紙工程には、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程が含まれていることが好適である。一例として、
図1を示すが、本実施形態の工程はこれに限定されない。本実施形態において、例えば「製紙用具を洗浄する(こと)」等の「する(こと)」を、「工程」又は「ステップ」としてもよいし、「ステップ」を「する(こと)」又は「工程」としてもよし、「工程」を「する(こと)」又はステップとしてもよい。また、本実施形態において、「工程」、「機構」は、システム、装置又は部としてもよく、「装置」は、システム、機構又は部にしてもよく、「部」は、機構、装置又はシステム等に備えるための部又は装置としてもよい。
【0116】
本実施形態の方法は、製紙工程においてピッチを含む処理対象を処理することが好適であり、ピッチのなかでもマクロスティッキーを処理できるので、マクロスティッキーを含む処理対象を対象とすることが好適である。また、本実施形態の方法は、調成工程(調成機構)、抄紙工程(抄紙機構)、及び水回収工程(水回収機構)から選択される1種又は2種以上のマクロスティッキーを含む処理対象を処理することが好適ある。
【0117】
前記処理対象として、製紙工程における、各種工程水などから選択される1種又は2種以上が挙げられる。通常、パルプ含有水には、マクロスティッキーなどのピッチが混入しているため、当該パルプ含有水を、前記処理対象とすることが好適である。なお、製紙工程においてパルプ原料として使用されるパルプ含有水は、一般的にパルプ濃度0.5~5%程度といわれている。
【0118】
調成工程は、一般的な調成工程でもよく、例えば、抄紙に用いられる原料(パルプなど)を調整及び配合して製紙原料をつくるように構成されていてもよい。抄紙工程は、一般的な抄紙工程でもよく、製紙原料を抄紙機で抄き上げるように構成されてもよい。水回収工程は、一般的な水回収工程でもよく、例えば、調成工程及び/又は抄紙工程にて生じた水を、回収、循環又は排出させるように構成されていてもよく、さらに、抄紙工程にて生じた水を回収する工程が好ましい。
【0119】
以下に、本実施形態における、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程について、詳細に説明する(例えば
図1参照)が、本実施形態の各工程はこれに限定されない。
【0120】
3-1-1.調成工程
調成工程は、特に限定されず、通常の調成工程でもよく、例えば、化学パルプ、機械パルプ又は古紙パルプを調製する工程が挙げられる。
本実施形態の方法における調成工程では、古紙を原料とした調成工程が好ましい。
【0121】
調成工程として、例えば、パルパー装置などによる溶解工程、ニーダー装置などによる離解工程、クリーナー装置及び/又はスクリーン装置などによる除塵工程、シックナー装置などによる洗浄及び/又は濃縮工程、リファイナー装置などによる叩解工程など及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0122】
本実施形態におけるクリーナー工程は、原料に混入した砂利やステープラーの針などの大きな異物をクリーナー装置などの分離装置にて分離するように構成されている工程である。本実施形態において、クリーナー工程後のリジェクト又はリジェクトを含む対象を処理することで、リジェクト又はこれを含む対象に含まれるマクロスティッキーをより良好に処理することが好適である。
【0123】
また、本実施形態におけるスクリーン工程は、スクリーン装置に設けられたスリット幅を通過できない異物を除去するように構成されている工程である。スクリーン方式として、スリットスクリーン方式及びホールスクリーン方式などが挙げられるが、これらに限定されない。一例として、所定(例えば、150μm、300μm、400μm又は500μm)のスリット幅を有するスリットスクリーンの場合、例えば、ピッチ含有対象を所定のスリット幅のスリットスクリーンを通過させたときに、ピッチ含有対象中に含まれていた所定(例えば、150μm、300μm、400μm又は500μm)の大きさ以上の異物は、このスリット幅を通過できずにリジェクトとして除去される。本実施形態において、スクリーン工程後のリジェクト又はリジェクトを含む対象を処理することで、リジェクト又はこれを含む対象に含まれるマクロスティッキーをより良好に処理することが好適である。
【0124】
本実施形態の方法では、除塵工程において、クリーナー工程を行い、次いでスクリーン工程を行う順が好ましい。より好適な態様として、前記ピッチ含有対象が、スクリーン処理後のピッチ含有対象であるか、又は、スクリーン処理後のピッチ含有対象を再利用する、調成工程、抄紙工程、及び水回収工程から選択される1種又は2種以上のピッチ含有対象であり、当該ピッチ含有対象には、マクロスティッキーが含まれていることが好適である。
【0125】
調成工程として、離解工程、除塵工程、濃縮工程、及び、叩解工程の順に行うことが好ましく、これらの工程の前に、原料を溶解させる溶解工程、除塵工程を加えて、溶解工程、除塵工程、並びに、離解工程、除塵工程、濃縮工程、及び叩解工程の順に行ってもよい。
【0126】
本実施形態の方法では、調成工程のうち、除塵工程におけるスクリーン工程から排出されるリジェクトなどのピッチ含有水を処理することが好ましい。
【0127】
本実施形態の方法であれば、スクリーンなどの除塵装置をすり抜けるような大きさのマクロスティッキーであっても処理できる。
【0128】
なお、調成工程を行う調成系又は調成装置は、製紙原料をつくるように構成されていればよく、一般的な調成系又は調成装置を用いてもよい。
【0129】
3-1-2.抄紙工程
抄紙工程は、特に限定されず、通常の抄紙工程でもよい。
抄紙工程には、ワイヤーパートで、調成した製紙原料(精選紙料)を網上に流し込んでろ過させて紙層を形成する紙層形成工程、プレスパートで、得られた湿紙を毛布(フェルト)と共に2本のロール間に通して圧搾脱水する湿紙脱水工程、及びこれら工程から生じた水を貯留部及び流路(サイロ、ピット、配管など)などにて水(特にパルプ含有水)を回収し、種箱やチェストなどに循環させる一次循環水工程が含まれ、この抄紙工程の水には、パルプの他にピッチが含まれている。なお、抄紙工程は、湿紙脱水工程の後にドライヤーパートで、湿紙を乾燥する湿紙乾燥工程を含んでいてもよい。
本実施形態の方法では、抄紙工程のうち、紙層形成工程、湿紙脱水工程、及び一次循環水工程などから選択される1種又は2種以上におけるピッチ含有対象を処理することが好ましい。
【0130】
本実施形態の方法では、抄紙工程で生じる水及び/又は回収する水には、マクロスティッキーなどのピッチが含まれているため、これらピッチ含有水を、ピッチ含有対象として、処理することができる。より好適な態様として、例えば、種箱からの原料を白水で希釈したアプローチ系原料、アプローチ系原料をクリーナーやスクリーンなどの除塵装置から排出されるリジェクト、シールピット、白水サイロ及び回収水タンクの白水などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上のピッチ含有対象を処理してもよい。
【0131】
抄紙工程を行う抄紙系又は抄紙装置は、抄紙できるように構成されていればよく、一般的な抄紙系又は抄紙装置を用いてもよい。
抄紙系又は抄紙装置として、例えば、ワイヤーパート、プレスパート及びドライヤーパートなどが備えられているが、これらに限定されず、さらに、スクリーンなどの除塵装置、チェスト(例えばミキシングチェスト、マシンチェストなど)、リファイナー、種箱及びインレット、白水サイロ、シールピット、回収水タンク、白水回収水流路、などから選択される1種又は2種以上がさらに備えられていてもよい。
【0132】
3-1-3.水回収工程
水回収工程は、特に限定されず、通常、製紙工程の各工程(より好適には調成工程及び/又は抄紙工程)から発生した水(例えば、シャワー水、洗浄水、余剰水、白水、ろ液など)を、調成工程及び/又は抄紙工程にて再利用するために水を回収し循環させるように構成されている。当該水回収工程には、例えば、スクリーンなどの除塵装置、加圧浮上装置、ポリディスクフィルター、水貯留部、チェスト、配管や流路、ポンプなどから選択される1種又は2種以上が備えられ、これらは、目的に応じるように、水を回収、循環、又は処理できるようにネットワーク的に接続されていることが好ましい。
本実施形態の方法において、水回収工程において回収、循環、再利用する水にはピッチが含まれているので、水回収工程におけるピッチ含有水を、ピッチ含有対象として、処理することが、好ましい。
【0133】
本実施形態における水回収工程は、一次循環水工程と、二次循環水工程とを含むことが好ましい。通常、抄紙工程内における水循環を一次循環といい、抄紙工程にて生じ当該工程外に移送されて循環する水循環を二次循環という。一例として、一次循環水工程は、抄紙工程で生じた水を回収し、回収した水を、抄紙工程にて循環して再利用することが好ましい。一例として、二次循環水工程は抄紙工程で生じた水を回収し、回収した水を、調成工程に移送し再利用する、又は系外に排出するように構成されていることが好ましい。
【0134】
水回収工程を行う水回収系又は水回収装置は、各工程から発生した水を回収したり、目的の設備に水を移送したり、また水が循環できるように構成されており、例えば、水貯留部、チェスト、配管や流路、ポンプ、スクリーンなどの除塵装置などを含み、目的に応じてネットワーク的に接続されているように構成されていてもよい。
【0135】
本実施形態における紙製造機構は、調成機構、抄紙機構及び水回収機構から選択される1種又は2種以上を備えることが好適である。当該機構を、装置としてもよい。さらに本実施形態において、本実施形態の薬剤を添加するように構成されている薬剤添加機構を備えることが好適である。さらに、対象中のマクロスティッキー含有量又は状態を測定又は監視するために、マクロスティッキー測定機構を備えることが好適である。
本実施形態における紙製造機構は、(a)調成機構、抄紙機構及び水回収機構から選択される1種又は2種以上と、(b)前記調成機構、抄紙機構又は水回収機構の少なくともいずれかに、本実施形態の薬剤を使用する薬剤使用機構を備えることが好適であり、さらに当該薬剤使用機構及びマクロスティッキー測定機構を備えることがより好適である。また、薬剤使用機構として、例えば、対象が流れる配管、及び対象を貯留するためのタンクなどに添加する薬剤添加装置などが挙げられる。本実施形態の薬剤は、スクリーン処理後又はクリーナー処理後のマクロスティッキー濃度が高くなりやすい対象又はその下流、スクリーン処理後又はクリーナー処理後であって調成工程又は抄紙工程で利用される循環水に添加することが好適である。
【0136】
本実施形態に備える制御部を含む制御機構は、マクロスティッキー含有対象に対して本実施形態の薬剤を添加するように薬剤添加機構に指示する。当該制御機構は、より好適には、対象中のマクロスティッキー含有量又は状態を監視するように、マクロスティッキー測定機構に指示をする。当該制御機構は、マクロスティッキー測定結果に基づき、本実施形態の薬剤の実施(例えば、使用量)を調整するように指示する。例えば、当該制御機構は、マクロスティッキー濃度が所定の測定値又は前回の測定結果よりも高い場合には、本実施形態の薬剤の使用量を増加させること、及び/又は、マクロスティッキー濃度が所定の測定値又は前回の測定結果よりも低い場合には、本実施形態の薬剤の使用量を減少させること、を実行させることができる。なお、薬剤の使用量として、使用濃度及び/又は使用時間などが挙げられ、また薬剤の実施として、薬剤の使用量の他、物理的な使用、例えば、撹拌速度、流量の速度、噴射圧などを含んでもよい。当該制御機構は、このような増減調整を実行させてフィードバック制御を行うことが可能である。
【0137】
本実施形態におけるマクロスティッキー処理方法の例の説明において、上述した説明、例えば「1.」などと重複する、本発明に用いる薬剤、対象、紙製造、調成工程、抄紙工程、制御などの各構成や各処理方法などの説明については適宜省略するが、上述した説明、「1.」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、適宜採用することができる。また、本実施形態におけるマクロスティッキー処理方法の例の説明において、後述する説明を、本実施形態に当てはめることができ、適宜採用することもできる。
【0138】
本実施形態に係るマクロスティッキー処理管理システムには、上述した少なくとも制御部を備えるマクロスティッキー処理管理装置が備えられていることが好適である。本実施形態のマクロスティッキー処理管理システムは、制御部又は当該制御部を備えるマクロスティッキー処理管理装置と、他の部又は他の装置とが、無線及び/又は有線にて、送受信可能な通信部を更に設けてもよい。
【0139】
なお、本実施形態に関する方法を、マクロスティッキー処理状況などを管理するための装置(例えば、コンピュータ、PLC、サーバ、クラウドサービスなど)におけるCPUなどを含む装置又は制御部によって実現させることも可能である。また、本実施形態に関する方法を、記録媒体(不揮発性メモリ(USBメモリ、SSD(ソリッドステートドライブ)など)、HDD、CD、DVD、ブルーレイディスク(BD)など)などを備えるハードウェア資源にプログラムとして格納し、制御部によって実現させることも可能である。当該制御部によって、粗マクロスティッキーに所定量の薬剤を添加するように制御するマクロスティッキー処理状況の管理システムなど、当該制御部もしくは当該システムを備える装置を提供することも可能である。また、当該管理装置には、キーボードなどの入力部、ネットワークなどの通信部、ディスプレイなどの表示部などを備えてもよい。
【0140】
マクロスティッキー処理状況などを管理するための装置又はマクロスティッキー処理の管理システムは、キーボードなどの入力部、ネットワークなどの通信部、ディスプレイなどの出力部、HDDなどの記憶部、上述した測定部や薬剤添加部などを備えることができる。当該装置又はシステムは、入力部、出力部、記憶部を備えることが好ましく、さらに、薬剤添加部を備えることが好ましく、通信部及び/又は測定部を備えることが好ましい。
前記入力部は、本実施形態の方法を行う操作者によって、ユーザ操作を受け付けることができる。当該入力部は、例えばマウス及び/又はキーボードなどを含むことができる。また、表示装置のディスプレイ面がタッチ操作を受け付ける入力部として構成されてもよい。
前記出力部は、マクロスティッキー処理状況及びこれに関連する情報(例えば、表、図、説明文など)などを出力することができる。当該出力部は、例えば、画像を表示する表示装置、音を出力するスピーカー、紙などの印刷媒体に印刷する印刷装置などを挙げることができるが、これらに限定されない。
前記記憶部は、操作者が入力したデータ、マクロスティッキー処理状況をみるために設定されているデータを記憶することができる。当該記憶部は、例えば記録媒体を含んでよい。
また、本実施形態に係るマクロスティッキー処理管理システムは、プログラム及びハードウェアを利用することによって実行することができる。本発明の一実施形態に係るコンピュータ1の一実施形態(図示せず)は、これに限定されないが、コンピュータ1の構成要素として、CPUを少なくとも備え、さらに、RAM、記憶部、出力部、入力部、通信部、ROM、及び測定部などから選択される1種又は2種を備えることができ、このうちRAM、記憶部、出力部及び入力部を備えることが好適であり、さらに、通信部、測定部、ROMなどを少なくとも1つ備えることが好適である。それぞれの構成要素は、例えばデータの伝送路としてのバスで接続されていることが好適である。
【0141】
4.本技術は、以下の構成、技術的特徴、又は別の側面を採用できる。
・〔1〕 融点が50℃以下の油脂状化合物、カチオン基を有するポリビニルアルコール、及び、陽転させるために用いるカチオン性化合物から選択される1種又は2種以上を含有する、マクロスティッキー処理剤。
・〔2〕 前記油脂状化合物が、親水基を有し、水への溶解度が0.1%以下の油脂状化合物である、前記〔1〕に記載のマクロスティッキー処理剤。
・〔3〕 前記油脂状化合物が、ポリアルキレンオキサイド化合物、及び/又は、グリセリンエステル化合物である、前記〔1〕又は〔2〕に記載のマクロスティッキー処理剤。
・〔4〕 前記カチオン性化合物は、マクロスティッキー含有対象を陽転させる量以上になるように用いるカチオン性ポリマーである、前記〔1〕に記載のマクロスティッキー処理剤。
・〔5〕 紙製造における原質工程又は抄紙工程のスクリーン又はクリーナーで生じるリジェクトに対して用いるためのものである、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一つに記載のマクロスティッキー処理剤。
・〔6〕 古紙原料を用いて紙を製造する工程中のスラリーに対して用いるためのものである、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一つに記載のマクロスティッキー処理剤。
・〔7〕 融点が50℃以下の油脂状化合物、カチオン基を有するポリビニルアルコール、及び、陽転させるために用いるカチオン性化合物から選択される1種又は2種以上を含有する、マクロスティッキー処理剤を、マクロスティッキー含有対象に用いる、マクロスティッキー処理方法。
・〔8〕 前記カチオン性化合物を、マクロスティッキー含有対象を陽転させる量以上になるように使用する、前記〔7〕に記載のマクロスティッキー処理方法。
・〔9〕 マクロスティッキー含有対象に対して、前記カチオン性化合物を陽転させる量以上になるように使用すること、その後アニオン性化合物及び/又は別のスラリーを陽転が解消されるまで使用することを含む、前記〔7〕又は〔8〕に記載のマクロスティッキー処理方法。
・〔10〕 前記油脂状化合物が、親水基を有し、水への溶解度が0.1%以下の油脂状化合物である、前記〔7〕~〔9〕のいずれか一つに記載のマクロスティッキー処理方法。
・〔11〕 前記油脂状化合物が、ポリアルキレンオキサイド化合物、及び/又は、グリセリンエステル化合物である、前記〔7〕~〔10〕のいずれか一つに記載のマクロスティッキー処理方法。
・〔12〕 前記マクロスティッキー含有対象が、紙製造における原質工程又は抄紙工程のスクリーン又はクリーナーで生じるリジェクトである、前記〔7〕~〔11〕のいずれか一つに記載のマクロスティッキー処理方法。
・〔13〕 前記マクロスティッキー含有対象が、古紙原料を用いて紙を製造する工程中のスラリーである、前記〔7〕~〔12〕のいずれか一つに記載のマクロスティッキー処理方法。
・〔14〕 前記マクロスティッキー含有対象中のマクロスティッキー量が、5000mm2/kg以上である、前記〔7〕~〔13〕のいずれか一つに記載のマクロスティッキー処理方法。
・〔15〕 前記マクロスティッキー処理剤の使用量が、対マクロスティッキー0.001mg/mm2以上である、前記〔7〕~〔14〕のいずれか一つに記載のマクロスティッキー処理方法。
・〔16〕 融点が50℃以下の油脂状化合物、カチオン基を有するポリビニルアルコール、及び、陽転させるために用いるカチオン性化合物から選択される1種又は2種以上を使用する、又は前記〔1〕~〔6〕のいずれか一つに記載のマクロスティッキー処理剤等の薬剤を使用する、マクロスティッキー処理方法。
・〔17〕 マクロスティッキー処理用又はマクロスティッキー処理に用いるための、化合物であり、当該化合物が、融点が50℃以下の油脂状化合物、カチオン基を有するポリビニルアルコール、又は、陽転させるために用いるカチオン性化合物、又はこれらから選択される1種又は2種以上の化合物である。
・〔18〕 マクロスティッキー処理剤等の薬剤の製造における化合物の使用又は当該薬剤の製造に用いるための化合物であり、当該化合物が、融点が50℃以下の油脂状化合物、カチオン基を有するポリビニルアルコール、又は、陽転させるために用いるカチオン性化合物、又は、これらから選択される1種又は2種以上である。
【実施例0142】
以下の実施例及び比較例を挙げて、本発明の実施形態について説明をする。なお、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0143】
<試験例1>
実機スラリー中のマクロスティッキーは非常に少ないため実機スラリーを用いたマクロスティッキー処理剤の評価は難しい。古紙原料中のマクロスティッキーの主要源である粘着テープに対する実機白水中での粘着力低下度を比較した。評価用の粘着テープは粘着剤がマクロスティッキーの主要成分であるアクリレート系のものを用いた。
【0144】
〔マクロスティッキー処理の評価方法〕
縦長25mm、横長75mm、厚さ1mmのガラス板に、ダイヤテックス社製養生テープ(パイオランクロス粘着テープY-09-GR 幅25mm)を、粘着面を外側にして固定し、粘着テープ固定のガラス板を200mLビーカー内に立てかける。
前記粘着テープ固定のガラス板を立てかけた200mLビーカーに、段ボール原紙製造工場の原質工程白水(SS濃度0.15%、pH7.0)を入れて、マグネチックスターラーでこのピーカー内の白水(水温20℃、pH7.0、パルプ含有0.15%)を10分間撹拌し、撹拌により白水を粘着テープの粘着面と接触させる(チップ長さ25mm、回転数1000rpm)。撹拌しながら、このビーカーに薬剤(各供試薬剤A~N)を添加し、さらに撹拌を維持し、撹拌により薬剤を含む白水を粘着テープの粘着面と接触させる。添加後30分後に、粘着テープを固定しているガラス板をビーカーの薬剤を含む白水から取り出し、ガラス板に固定した粘着テープを水道水で軽く洗浄する。洗浄後に粘着テープをガラス板から外し、粘着テープの粘着面をSUS板(直径100mm)に張り付け、このSUS板を東洋ろ紙製吸水ろ紙(NO26、直径185mm)2枚で挟み、3.5kgf/cm2で1分間プレスした。プレス後、ろ紙を除去し、粘着テープ張り付けSUS板を机上で配置し、半日間(12時間以上14時間以下)、室温(20~30℃)で乾燥後、この粘着テープをSUS板から剥がすときの剥離強度を測定した(測定装置:東洋製機製作所製STROGRAPH E-S、剥離速度:100mm/分)。評価した薬剤の組成を表1に示す。
【0145】
原質工程白水の性状は、パルプ含有量0.15%、pH7.0であった。
【0146】
薬剤A~N 各薬剤の平均分子量は、以下のようにして、測定した。
薬剤A,I,J:GPC分析、標準物質ポリエチレングリコール(重量平均分子量)
薬剤C,H,M:GPC分析、標準物質ポリスチレン(重量平均分子量)
薬剤E:固有粘度から換算(固有粘度と平均分子量との関係に基づく推定平均分子量)
薬剤K,N:GPC分析、標準物質ポリアクリル酸ソーダ(重量平均分子量)
また、薬剤のケン化度、平均重合度、コロイド当量等は、上述した各種測定方法(〔ケン化度の測定方法〕、〔平均重合度の測定方法〕、〔カチオンのコロイド当量値の測定方法〕、〔固有粘度測定方法〕、〔水溶性カチオン高分子化合物の推定平均分子量の算出方法〕等)を用いて測定した。
【0147】
表2に試験結果を示す(実施例1-1~実施例1-5、比較例1-1~比較例1-8)。
ポリプロピレングリコール(薬剤A)、トリグリセリド(薬剤B)、流動パラフィン(薬剤C)、カチオン化PVA(酢酸ビニルとジアリルジメチルアンモニウムクロライドの共重合物のけん化物:薬剤D)、ポリDADMAC(薬剤E)の試験では、剥離強度の低下が見られたため、ポリプロピレングリコール(薬剤A)、トリグリセリド(薬剤B)、流動パラフィン(薬剤C)、カチオン化PVA(薬剤D)、ポリDADMAC(薬剤E)は、実機白水中でアクリレート系粘着テープの粘着性を低下させた。一方で、一般的な内添ピッチコントロール剤である高塩基性塩化アルミ(薬剤F)、ベントナイト(薬剤G)、フェノールレジンアルカリ溶液(薬剤H)、PVA(薬剤L)の試験では、剥離強度の低下が見られなかった。なお、薬剤A、薬剤B、薬剤Cの試験では、白水中でのこれらの分散を促進するためにポリオキシアルキレンラウリルエーテル(薬剤I)を薬剤A~Cに対して重量比で2%配合したが、薬剤Iの試験において、薬剤I自体は、剥離強度低下作用がなかった。
【0148】
薬剤A、薬剤Hは、ともにポリプロピレングルコール化合物だが、薬剤Aは剥離強度が低下したのに対して、薬剤Hは剥離強度が低下しなかった。薬剤Aは水に対する溶解度が1mg/L未満であり、薬剤Aより分子量が低い薬剤Hは水に対する溶解度が10000mg/L以上である。評価した30~3000mg/Lの添加量では薬剤Aは水に溶解せず油状を保ち、薬剤Hは水に溶解していた。薬剤が効果を発揮するには添加濃度で溶解せず、水中に分散していることが必要だった。
【0149】
薬剤C、薬剤Mは、ともに炭化水素系パラフィンだが、薬剤Cは剥離強度が低下したのに対して、薬剤Mは剥離強度が低下しなかった。薬剤Cは液体であり、薬剤Cより分子量が高い薬剤Mは固体である。薬剤が効果を発揮するには使用温度(水温)で液体状の油として水中に分散していることが必要だった。
【0150】
薬剤A、薬剤B、薬剤Cはいずれも液体状の油で評価濃度では水に溶けないが薬剤Cは薬剤Aと薬剤Bより剥離強度低下の度合いが小さかった。薬剤Aと薬剤Bは分子内に親水部位(薬剤Aでは水酸基、薬剤Bではアシル基の親水基)を有している。炭化水素などの疎水部位のみしか持たない油より、親水部位を持つ油の方が有効だった。
【0151】
薬剤Dと薬剤Eは水に溶解するが剥離強度が低下した。両者ともカチオン性ポリマーである。薬剤Dと薬剤LはともにPVA系だがカチオン化していない薬剤Lは剥離強度が低下しなかった。アニオンポリマーである薬剤Kも剥離強度が低下しなかった。水に溶解する薬剤の場合カチオン基を有することが必要だった。
【0152】
表3に薬剤Eの低添加量領域における剥離強度と試験液の陽転状況を示す(比較例2-1~比較例2-5、実施例2-1~実施例2-6)。表3の陽転の欄の「○」が陽転したことを示す。陽転状況は2分間静置後の試験液上澄み液のMutek社製PCD03pH(Particle Charge Detector:粒子荷電検出装置)を用いて測定したカチオン要求量及びPEN KEM社製LAZER ZEE METER MODERL501(ゼータ電位測定装置)を用いて測定したゼータ電位から判断した。薬剤Eは25mg/L以上添加すると剥離強度の低下が見られた。同様に薬剤Eを25mg/L以上添加すると試験液が陽転していた。カチオン薬剤の効果を得るには陽転するまで添加する必要があった。
【0153】
表4に薬剤Dの剥離強度と試験液の陽転状況を示す(比較例3-1、実施例3-1~実施例3-3)。薬剤Dもカチオン性薬剤だが陽転しない添加量で剥離強度の低下が見られた。
【0154】
表5にカチオン薬剤で処理した場合の不粘着効果の残留性を示す(実施例4-1~実施例4-2、比較例4-1)。薬剤Eで処理した粘着テープの試験水を薬剤無添加の試験水に交換した実施例1は剥離強度低下効果が一定量残留していた。薬剤Eで処理した粘着テープの試験水にアニオン性薬剤である薬剤N添加して陽転を解消した実施例2でも剥離強度低下効果が一定量残留していた。薬剤Nを薬剤Eより先に添加した比較例では薬剤Eが粘着テープと反応する前に薬剤Nと反応して消耗されるため剥離強度の低下がほとんど見られなかった。
【0155】
このことより、本発明者は、融点が50℃以下の油脂状化合物、カチオン基を有するポリビニルアルコール、及び、陽転させるために用いるカチオン性化合物から選択される1種又は2種以上を、マクロスティッキー処理剤として、使用することで、マクロスティッキーの粘着性及びこの原因となる粘着物の未離解物由来の粘着性を低減させることができることを見出した。この技術により、抄紙機への付着防止や、マクロスティッキー同士による又はその原因となる粘着物の未離解物の付着によるマクロスティッキーの粗大化を防止することができる。
【0156】
また、本発明者は、マクロスティッキー又はこの原因となる粘着物の未離解物の含有対象に対して、前記カチオン性化合物を、マクロスティッキー含有対象を陽転させる量以上に添加することにより、マクロスティッキーの粘着性及びこの原因となる粘着物の未離解物由来の粘着性を低減させることができることを見出した。さらに、その後アニオン性化合物及び/又は別のスラリーを陽転が解消されるまで添加しても、マクロスティッキー又はこの原因となる粘着物の未離解物における粘着性低減効果がある程度維持できることを見出し、陽転した後の工程でもある程度の粘着性低減効果を維持できると考えられる。この技術により、抄紙機への付着防止や、マクロスティッキー同士による又はその原因となる粘着物の未離解物の付着によるマクロスティッキーの粗大化を防止することができる。
【0157】
また、上述の結果から、本技術は、マクロスティッキー又はこの原因となる粘着物の未離解物が対象中に多く存在するような、古紙原料を用いて紙を製造する工程中のスラリー、及び、紙製造における原質工程又は抄紙工程のスクリーン又はクリーナーで生じるリジェクトに対しても、非常に有益な技術であると考える。
【0158】
本技術では、マクロスティッキーを対象としていることがポイントとなる。経験則的に、夾雑物除去用のリジェクト中又は粘着物が多く混入している原料(工程水)中のマクロスティッキー量が5000mm2/kg以上の場合にマクロスティッキー由来の欠点や用具汚れが発生すしやすい傾向があり、このようなマクロスティッキー量が多い原料(工程水)のみを対象にマクロスティッキー処理を行うことは経済合理性がある。本技術であれば、このようなマクロスティッキー量に合わせて本技術のマクロスティッキー処理剤の添加量を増量させることで、このような工程水でもマクロスティッキー処理が対応可能である。マクロスティッキー量当たりの薬剤添加量の試算として、薬剤最低添加量30mg/L、添加対象最大濃度200000mg/L(=0.2kg/L)、マクロスティッキー量最大150000mm2/kgと設定すると、マクロスティッキー量あたりの薬剤最低添加量は30/0.2/150000=0.001mg/mm2と算出できる。本技術は、対象中のマクロスティッキー量は、処理効率などを考慮すると、5000mm2/kg以上が好ましいと考える。本技術における好適なマクロスティッキー処理剤の添加量は、マクロスティッキー1mm2に対して、0.001mg以上の薬剤添加量、すなわち対マクロスティッキー0.001mg/1mm2以上であることが好適であると考える。なお、マクロスティッキー含有量mm2/kg、マクロスティッキー1mm2は、JIS P8231:2005にて測定することができる。
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
1:製紙工程、10:原料、2:調成工程、21:溶解工程、22:解離工程、23:除塵工程(クリーナー工程、スクリーン工程)、24:濃縮工程、25:叩解工程、3:抄紙工程、31:除塵工程、32:紙層形成工程、33:湿紙脱水工程、34:湿紙乾燥工程、4:水回収工程、41:一次循環水工程、42:二次循環水工程、43:白水、5:紙、6:排水、100:本実施形態のマクロスティッキー含有対象の処理工程、機構若しくは装置