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特開2025-15281乗り物酔い検知装置および乗り物酔い検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015281
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】乗り物酔い検知装置および乗り物酔い検知方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/08 20120101AFI20250123BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20250123BHJP
   B60W 50/12 20120101ALI20250123BHJP
   B60W 40/109 20120101ALI20250123BHJP
【FI】
B60W40/08
B60W50/14
B60W50/12
B60W40/109
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118600
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木田 正吾
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 洋幸
(72)【発明者】
【氏名】堀田 英則
(72)【発明者】
【氏名】楽松 武
(72)【発明者】
【氏名】織田 泰彰
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA60
3D241BA70
3D241DB09B
3D241DD02B
3D241DD02Z
(57)【要約】
【課題】乗り物酔いの予防または早期対策の実現に資する乗り物酔い検知装置および方法を提供する。
【解決手段】
搭乗者にかかる横方向加速度が所定の加速度以上となる第1運転状態での走行後、横方向加速度が所定の加速度未満となる第2運転状態での走行中であることを検出する。第1運転状態での走行後、第2運転状態での走行中であることを検出した場合に、第1運転状態および第2運転状態のそれぞれにおいて検出した搭乗者の頭部姿勢をもとに、搭乗者における乗り物酔いの進行度合いを判定し(S304~S307)、乗り物酔いの進行度合いをもとに、所定の指示信号を生成する。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭乗者にかかる横方向加速度が所定の加速度以上となる第1運転状態での走行後、前記横方向加速度が前記所定の加速度未満となる第2運転状態での走行中であることを検出する走行状態検出手段と、
前記搭乗者の頭部姿勢を検出する頭部姿勢検出手段と、
前記走行状態検出手段により前記第1運転状態での走行後、前記第2運転状態での走行中であることを検出した場合に、前記第1運転状態および前記第2運転状態のそれぞれにおいて前記頭部姿勢検出手段により検出した前記搭乗者の頭部姿勢をもとに、前記搭乗者における乗り物酔いの進行度合いを判定する進行度合判定手段と、
前記進行度合判定手段により判定した前記乗り物酔いの進行度合いをもとに、所定の指示信号を生成する信号生成手段と、を備える、乗り物酔い検知装置。
【請求項2】
前記走行状態検出手段は、車両の舵角が所定の舵角以上でありかつ車速が所定の車速以上である状態を前記第1運転状態として、前記第1運転状態での走行後、前記舵角が前記所定の舵角未満に減じた場合に、前記車両が前記第2運転状態での走行中であることを検出する、請求項1に記載の乗り物酔い検知装置。
【請求項3】
前記走行状態検出手段は、前記第1運転状態での走行が所定の時間以上に亘って継続した場合に、前記舵角の減少をもって前記車両が前記第2運転状態での走行中であることを検出する、請求項2に記載の乗り物酔い検知装置。
【請求項4】
前記進行度合判定手段は、前記乗り物酔いの進行度合いを指標する参照値を算出し、
前記信号生成手段は、前記進行度合判定手段により算出した参照値が所定の閾値以上である場合に、前記指示信号を生成する、請求項1に記載の乗り物酔い検知装置。
【請求項5】
前記進行度合判定手段は、前記第1運転状態での走行中、前記搭乗者の頭部が前後方向軸を中心に回転した状態にある場合に、前記搭乗者の頭部が直立位置にあるかまたは前記前後方向軸以外の軸を中心に回転した状態にある場合よりも大きな値として、前記参照値を算出する、請求項4に記載の乗り物酔い検知装置。
【請求項6】
前記進行度合判定手段は、前記第1運転状態での走行中、前記搭乗者の頭部が前後方向軸を中心に回転した状態にあり、前記第2運転状態での走行中、前記搭乗者の頭部が直立位置にある場合に、それ以外の場合よりも大きな値として、前記参照値を算出する、請求項4に記載の乗り物酔い検知装置。
【請求項7】
前記進行度合判定手段は、前記第1運転状態での走行中と前記第2運転状態での走行中とで前記搭乗者の頭部姿勢が変化し、前記第2運転状態での走行中、前記搭乗者の頭部が前後方向軸を中心に回転した状態にある場合に、それ以外の場合よりも小さな値として、前記参照値を算出する、請求項4に記載の乗り物酔い検知装置。
【請求項8】
前記搭乗者の視線の向きを検出する視線方向検出手段をさらに備え、
前記進行度合判定手段は、前記第1運転状態での走行中に前記視線方向検出手段により検出した前記搭乗者の視線が下向きである場合に、正面または上向きである場合よりも大きな値として、前記参照値を算出する、請求項4から7のいずれか一項に記載の乗り物酔い検知装置。
【請求項9】
前記搭乗者の車外情報取得状況を判定する状況判定手段をさらに備え、
前記進行度合判定手段は、前記第1運転状態での走行中における前記搭乗者の車外情報取得状況に応じて異なる値として、前記参照値を算出する、請求項4から7のいずれか一項に記載の乗り物酔い検知装置。
【請求項10】
前記進行度合判定手段は、前記第1運転状態での走行後に前記第2運転状態で走行するたびに前記参照値を算出するとともに、前記参照値の累積値を算出し、
前記信号生成手段は、前記進行度合判定手段により算出した累積値が所定の閾値以上である場合に、前記指示信号を生成する、請求項1に記載の乗り物酔い検知装置。
【請求項11】
前記指示信号に応じて動作し、前記搭乗者に乗り物酔いに対する注意を促す案内手段をさらに備える、請求項1に記載の乗り物酔い検知装置。
【請求項12】
前記信号生成手段は、前記乗り物酔いの進行度合いに応じて異なる前記指示信号を生成する、請求項11に記載の乗り物酔い検知装置。
【請求項13】
前記第1運転状態での走行後、前記第2運転状態で走行する経路にあるか否かを判定する走行経路判定手段と、
前記走行経路判定手段により前記経路にあると判定した場合に、前記頭部姿勢検出手段により検出した前記搭乗者の現在の頭部姿勢をもとに、前記搭乗者に対して頭部姿勢の変更を促す事前案内手段と、をさらに備える、請求項1に記載の乗り物酔い検知装置。
【請求項14】
前記搭乗者が前記事前案内手段による案内後においてもなお案内前の頭部姿勢を維持する場合に、前記第1運転状態での走行に際して前記搭乗者にかかる横方向加速度を減少させるように、車両の運転状態を制御する運転状態制御手段をさらに備える、請求項13に記載の乗り物酔い検知装置。
【請求項15】
搭乗者にかかる横方向加速度が所定の加速度以上となる第1運転状態にある場合に、前記第1運転状態での走行中の前記搭乗者の頭部姿勢である第1頭部姿勢を検出し、
前記第1運転状態での走行後、前記横方向加速度が前記所定の加速度未満となる第2運転状態にある場合に、前記第2運転状態での走行中の前記搭乗者の頭部姿勢である第2頭部姿勢を検出し、
前記第2運転状態での走行中、前記第1頭部姿勢および前記第2頭部姿勢をもとに、前記搭乗者に乗り物酔いの予兆があるか否かを判定する、乗り物酔い検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物酔い検知装置および乗り物酔い検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心電図、呼吸および発汗等、搭乗者の生体情報をもとに、搭乗者が乗り物酔いを発症していることを検知する技術が存在する(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4882433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生体情報は、乗り物酔い以外の様々な要因によっても変動する。よって、生体情報に基づく検知結果は、必ずしも搭乗者が乗り物酔いを発症していることを正確に指標するものではない。
【0005】
他方で、乗り物酔いの症状が実際に発現する前にまたは発症した乗り物酔いが比較的軽度であるうちに、搭乗者に乗り物酔いに対する注意を促し、乗り物酔いの予防または早期対策に繋げることが望まれる。
【0006】
このような実状に鑑み、本発明は、車両の運転状態から搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況にあることを判定可能とし、乗り物酔いの予防または早期対策の実現に資する乗り物酔い検知装置および乗り物酔い検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため、本発明の一実施形態に係る乗り物酔い検知装置は、搭乗者にかかる横方向加速度が所定の加速度以上となる第1運転状態での走行後、前記横方向加速度が前記所定の加速度未満となる第2運転状態での走行中であることを検出する走行状態検出手段と、前記搭乗者の頭部姿勢を検出する頭部姿勢検出手段と、前記走行状態検出手段により前記第1運転状態での走行後、前記第2運転状態での走行中であることを検出した場合に、前記第1運転状態および前記第2運転状態のそれぞれにおいて前記頭部姿勢検出手段により検出した前記搭乗者の頭部姿勢をもとに、前記搭乗者における乗り物酔いの進行度合いを判定する進行度合判定手段と、前記進行度合判定手段により判定した前記乗り物酔いの進行度合いをもとに、所定の指示信号を生成する信号生成手段と、を備える。
【0008】
本発明の他の実施形態に係る乗り物酔い検知方法は、搭乗者にかかる横方向加速度が所定の加速度以上となる第1運転状態にある場合に、前記第1運転状態での走行中の前記搭乗者の頭部姿勢である第1頭部姿勢を検出し、前記第1運転状態での走行後、前記横方向加速度が前記所定の加速度未満となる第2運転状態にある場合に、前記第2運転状態での走行中の前記搭乗者の頭部姿勢である第2頭部姿勢を検出し、前記第2運転状態での走行中、前記第1頭部姿勢および前記第2頭部姿勢をもとに、前記搭乗者に乗り物酔いの予兆があるか否かを判定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、所定以上の横方向加速度がかかっている状態での搭乗者の頭部姿勢と、この横方向加速度が解消した後の頭部姿勢と、の双方をもとに、搭乗者が乗り物酔いの発症を助長する頭部姿勢にある場合に、搭乗者に乗り物酔いの予兆があると判定する。これにより、搭乗者に不快感や体調不良等、乗り物酔いの症状が実際に発現する前に警報を発して、乗り物酔いの発症を抑制したり、乗り物酔いの症状が発現するに至ったものの、症状が比較的軽度であるうちに対策を講じて、症状の進行を遅らせたりすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る乗り物酔い検知装置の概略的な構成を示す模式図である。
図2】同上乗り物酔い検知装置のコントロールユニットの内部構成を示す概略図である。
図3】乗り物酔い検知処理の全体的な流れを示すフローチャートである。
図4】錯覚量算出処理(旋回走行時)の内容を示すフローチャートである。
図5】錯覚量算出処理(旋回後の直進走行時)の内容を示すフローチャートである。
図6】事前案内処理の内容を示すフローチャートである。
図7】回転軸に応じた頭部姿勢の分類を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
(乗り物酔い検知装置の全体構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る乗り物酔い検知装置1の概略的な構成を示す。
【0013】
本実施形態に係る乗り物酔い検知装置1は、車両に搭載され、走行中、搭乗者が乗り物酔い(いわゆる動揺病をいう)を発症しやすい状況にあることを判定し、搭乗者がそのような状況にある場合に、搭乗者に乗り物酔いに対する注意を促す。これにより、乗り物酔いの発症自体を抑制したり、乗り物酔いの症状が発現するに至ったものの、症状が比較的軽度であるうちに対策を講じて、症状の進行を遅らせたりすることを可能とする。搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況にあるか否かは、基本的には、車両の運転状態をもとに判定する。
【0014】
具体的には、搭乗者がその身体、特に頭部に対して所定以上の横方向加速度がかかる状態を経験した後、この横方向加速度が解消した状況をもって、搭乗者に乗り物酔いの予兆である運動錯覚が生じやすく、乗り物酔いを発症しやすい状況にあると判定する。運動錯覚に対する搭乗者の感受性、換言すれば、搭乗者が実際に感じる運動錯覚の強さは、その状況における搭乗者の姿勢、特に頭部姿勢に大きく依存する。そこで、所定以上の横方向加速度がかかっている状態での搭乗者の頭部姿勢と、横方向加速度が解消した後の頭部姿勢と、を検出し、これら双方の姿勢をもとに、搭乗者が乗り物酔いの発症を助長する頭部姿勢にある場合に、搭乗者に乗り物酔いの予兆があるとして、搭乗者に対する案内を実施する。
【0015】
乗り物酔い検知装置1は、コントロールユニット101を備えるとともに、乗り物酔いの検知に関わる各種のセンサ201~203を備え、さらに、HMI(ヒューマンマシンインターフェース)装置301を備える。
【0016】
コントロールユニット101は、乗り物酔い検知装置1の演算部を構成し、本実施形態において、コントロールユニット101は、中央演算装置(CPU)のほか、入出力インターフェースおよびROM,RAM等、各種のメモリユニットを備えた電子制御ユニットとして具現可能である。
【0017】
本実施形態では、車内カメラ201、車速センサ202および舵角センサ203を備える。これら各種のセンサ201、202、203は、乗り物酔い検知装置1の検出部を構成する。
【0018】
車内カメラ201は、車内監視用のカメラであり、車両の室内(以下「車室」という)全体を撮影可能である。車内カメラ201は、運転者および他の同乗者を撮影し、その画像情報をコントロールユニット101に出力する。コントロールユニット101は、車内カメラ201から取得した画像情報をもとに、搭乗者の上半身、特に頭部の姿勢または向きを検出可能である。さらに、コントロールユニット101は、車内カメラ201から取得した画像情報をもとに、搭乗者の視線の向き(以下「視線方向」という)を検出することも可能である。以上に加え、本実施形態では、搭乗者の着座位置、つまり、搭乗者が着座している座席の位置を検出する。車内カメラ201は、例えば、車室に備わるバックミラーないしルームミラーのケースに内蔵または装着することにより、車室全体を撮影可能である。
【0019】
車速センサ202は、車両の走行速度(以下「車速」という)VSPを検出する。車速VSPの検出は、例えば、車両の前後に備わる車輪、つまり、駆動輪および従動輪の回転速度を夫々検出し、前輪の回転速度と後輪の回転速度とを平均することによる。
【0020】
舵角センサ203は、車両の直進方向に対する前輪、つまり、操舵輪の向き(以下「舵角」という)θstrを検出する。舵角θstrの検出は、運転席に備わるステアリングホイールの回転角を前輪の操作角に換算することによる。
【0021】
車速センサ202により検出された車速VSPおよび舵角センサ203により検出された舵角θstrは、いずれもコントロールユニット101に出力される。車速VSPおよび舵角θstrは、車両の運転状態の指標であり、コントロールユニット101は、車速VSPおよび舵角θstrをもとに、車両の運転状態を判定する。
【0022】
HMI装置301は、搭乗者に乗り物酔いの予兆がある場合に、コントロールユニット101から出力される指示信号により作動して、搭乗者に乗り物酔いに対する注意を促す案内を実施する。この案内は、視覚的なものであってもよいし、聴覚的なものであってもよい。例えば、HMI装置301として警告灯またはスピーカーを採用し、警告灯を点灯させたり、スピーカーから警告を内容とする音声情報を発出させたりする。これ以外に、HMI装置301は、次に述べる車載ナビゲーション装置211と連係可能なディスプレイ装置によっても具現可能であり、案内を文字または記号等の視覚情報として表示させてもよい。
【0023】
以上に加え、乗り物酔い検知装置1は、車両に備わる車載ナビゲーション装置211と連係して動作可能である。
【0024】
車載ナビゲーション装置211は、道路地図情報が予め記憶され、図示しないディスプレイ装置に道路地図を表示可能である。さらに、車載ナビゲーション装置211は、車両の目標地点を運転者が設定可能であり、車両の現在位置と目標位置とに基づき、現在位置から目標位置に至る走行経路を検索し、検索した走行経路を道路地図上に表示する。走行経路は、運転者の選択により適宜変更可能である。コントロールユニット101は、車載ナビゲーション装置211と連係し、走行経路の道路特性を判定する。そして、走行経路に搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況、つまり、搭乗者に運動錯覚を生じさせやすい状況となり得る区間が存在する場合に、HMI装置301を作動させ、搭乗者に対する案内(以下、搭乗者に乗り物酔いの予兆がある場合に行う「案内」との区別のため、特に「事前案内」という)を実施する。本実施形態において、事前案内は、姿勢、特に頭部姿勢の是正である。
【0025】
(コントロールユニットの内部構成)
図2は、コントロールユニット101の内部構成を示す概略図である。
【0026】
本実施形態では、運転者以外の同乗者を、乗り物酔い検知の対象である「搭乗者」とする。同乗者には、運転席の隣りの助手席に座る同乗者の他、運転席よりも後方の後部席に座る同乗者が含まれる。これに限らず、同乗者に加えて運転者を搭乗者に含めることも可能である。
【0027】
走行状態検知部111は、搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況、具体的には、搭乗者にかかる横方向加速度が所定の加速度以上となる運転状態での走行に続き、搭乗者にかかる横方向加速度が減少して、この所定の加速度未満となる運転状態での走行中であることを検知する。本実施形態では、車速センサ202および舵角センサ203の出力情報をもとに、所定以上の車速での旋回走行に続き、直進または直進に近い状態での走行(以下「直進走行」という)中であることを検知する。
【0028】
頭部姿勢検出部112は、車内カメラ201の出力情報をもとに、搭乗者Pの頭部姿勢を検出する。
【0029】
図7は、本実施形態において検出対象とする搭乗者Pの頭部姿勢を示す。本実施形態では、図7(a)に示す頭部姿勢(以下「基本姿勢」という)を基本とし、図7(b)に示す頭部姿勢を「捻れ姿勢」、図7(c)に示す頭部姿勢を「傾斜姿勢」として、頭部姿勢検出部112による検出対象に分類する。搭乗者Pの頭部は、基本姿勢では正面を向き、捻れ姿勢では上下方向軸(ヨー軸ともいう)Ayを中心に回転した状態にあり、傾斜姿勢では前後方向軸(ロール軸ともいう)Arを中心に回転した状態にある。捻れ姿勢における頭部の回転角を「頭部ヨー角」Hyといい、傾斜姿勢における頭部の回転角を「頭部ロール角」Hrという。
【0030】
視線方向検出部113は、車内カメラ201の出力情報をもとに、搭乗者の視線方向を検出する。
【0031】
状況判定部114は、搭乗者の車外情報取得状況を判定する。具体的には、車両の開口部、例えば、窓を介して車外情報を取得可能な状況にある場合、例えば、大きな窓が存在し、車外の風景を視認可能であるなど、車外に対して充分な視界を確保することができる場合は、車外情報取得状況が良好であると判定する。他方で、窓が存在しなかったり、存在するとしても小さく、車外に対する視界が狭かったりする場合は、車外情報取得状況が不良であると判定する。助手席に座る同乗者にあっては車外情報取得状況が良好であると判定可能であり、車両のボディまたはピラー等が邪魔となり、視界の全体または一部が遮断される後部席に座る同乗者あっては車外情報取得状況が不良であると判定可能である。
【0032】
進行度合判定部115は、搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況、つまり、搭乗者に所定以上の横方向加速度がかかっている状態での走行後、この横方向加速度が解消した状態での走行中である場合、具体的には、旋回後の直進走行中である場合に、搭乗者における乗り物酔いの進行度合いを判定する。ここで、所定以上の横方向加速度がかかっている状態での走行中の搭乗者の頭部姿勢と、横方向加速度が解消した状態での走行中の頭部姿勢と、のそれぞれを検出し、これら双方の頭部姿勢を進行度合いの判定に反映させる。これに加え、本実施形態では、所定以上の横方向加速度がかかっている状態での走行中の搭乗者の視線方向を検出し、これも進行度合いの判定に反映させる。
【0033】
案内情報生成部116は、乗り物酔いの進行度合いをもとに、搭乗者に乗り物酔いに対する注意を促す内容の案内情報を生成し、これを指示信号としてHMI装置301に出力する。
【0034】
本実施形態では、乗り物酔いの進行度合いを指標する参照値として、錯覚量Ivを算出するとともに、搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況、具体的には、所定の時間に亘る旋回後の直進走行を経験するたびに算出した錯覚量Ivを逐次加算し、錯覚量Ivの累積値Rmを算出する(進行度合判定部115)。そして、累積値Rmが所定の閾値X1に達した場合に、乗り物酔いを今後発症する可能性があるか、乗り物酔いを既に発症している可能性があるとして、HMI装置301に指示信号を出力し、搭乗者に対する案内を実施する(案内情報生成部116)。錯覚量Ivは、所定以上の横方向加速度がかかっている状態での走行中の搭乗者の頭部姿勢、視線方向および車外情報取得状況、さらに、横方向加速度が解消した状態での走行中の頭部姿勢に応じて異なる値として算出される。
【0035】
走行経路判定部117は、車載ナビゲーション装置211により設定された車両の走行経路、つまり、車両が走行を予定している経路に、搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況となり得る区間、具体的には、通過に相応の時間を要するほどに長い湾曲路に直進路が続く区間が存在するか否かを判定する。
【0036】
事前案内情報生成部118は、車両の走行経路に、搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況となり得る区間が存在する場合に、HMI装置301を作動させ、搭乗者に対する事前案内を実施する。本実施形態では、その際、搭乗者の頭部姿勢を検出し、現在の頭部姿勢が運動錯覚の強度に大きな影響を及ぼす姿勢である場合に、事前案内により頭部姿勢の変更を促す。
【0037】
運転状態制御部119は、搭乗者が事前案内の実施後においてもなお案内前の頭部姿勢を維持している場合に、上記区間を実際に走行する際に搭乗者に生じる運動錯覚を緩和するように、車両の運転状態を強制的に制御する。例えば、湾曲路への進入前に車速VSPを低減させ、湾曲路の走行中に搭乗者にかかる横方向加速度を低下させる。
【0038】
(乗り物酔い検知処理の内容)
図3は、乗り物酔い検知処理の全体的な流れを示すフローチャートである。本実施形態において、乗り物酔い検知処理は、コントロールユニット101により所定の周期で実行される。
【0039】
S101では、車内カメラ201の出力情報等、各種のセンサ情報を取得する。
【0040】
S102では、錯覚量Ivを算出する。錯覚量Ivの算出は、図4のフローチャートに示す手順による。
【0041】
S103では、錯覚量Ivが0よりも大きいか否か、換言すれば、搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状態での走行を経験し、搭乗者に運動錯覚が生じたか否かを判定する。錯覚量Ivが0よりも大きい場合は、S104へ進み、0である場合は、S105へ進む。
【0042】
S104では、錯覚量Ivの累積値Rmに今回新たに算出した錯覚量Ivを加算し、累積値Rmを更新する。
Rm=Rm+Iv …(1)
【0043】
S105では、蓄積量Rmを減少させる。つまり、搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況にないため、搭乗者における運動錯覚の蓄積が部分的に解消したとして、蓄積量Rmを減少させるのである。一制御周期当たりの蓄積量Rmの減少分は、適宜設定可能であり、本実施形態では、現時点での蓄積量Rmの関数として算出する。
Rm=Rm-f(Rm) …(2)
【0044】
S106では、累積値Rmが所定の閾値X1以上であるか否かを判定する。累積値Rmが所定の閾値X1以上である場合は、S107へ進み、閾値X1未満である場合は、S101へ戻り、S101からS106の処理を繰り返し実行する。
【0045】
S107では、搭乗者において乗り物酔いを今後発症する可能性があるか、既に発症している可能性があるとして、搭乗者に乗り物酔いに対する注意を促す案内を実施する。案内の内容および注意の程度は、累積値Rmに応じて変更可能である。例えば、現時点において自覚症状はなく、発症には至っていないものの、今後発症する可能性があることを知らせる場合は、搭乗者に対し、乗り物酔いを発症する可能性があるため、休憩をとるように促す内容の音声情報を提供する。
【0046】
(錯覚量算出処理の内容)
図4は、錯覚量算出処理(旋回走行時)の内容を示すフローチャートである。
【0047】
S201では、車速VSPおよび舵角θstrを読み込む。
【0048】
S202では、車速VSPが所定の閾値VSP1以上であるか否かを判定する。車速VSPが所定の閾値VSP1以上である場合は、S203へ進み、閾値VSP1未満である場合は、S209へ進む。
【0049】
S203では、舵角θstrが所定の閾値θ1以上であるか否かを判定する。舵角θstrが所定の閾値θ1以上である場合は、S204へ進み、閾値θ1未満である場合は、S209へ進む。S202およびS203では、搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況に至る前段階として、搭乗者にかかる横方向加速度が所定の加速度以上となる運転状態での走行中であるか否かを判定する。
【0050】
S204では、旋回走行中における搭乗者の頭部姿勢として、前後方向軸Arを中心とする頭部の回転角(つまり、頭部ロール角)Hrを検出するとともに、上下方向軸Ayを中心とする頭部の回転角(つまり、頭部ヨー角)Hyを検出する。
【0051】
S205では、搭乗者の視線方向角Aeを検出する。本実施形態において、視線方向角Aeは、搭乗者の視線方向が水平方向に対してなす角の大きさである。
【0052】
S206では、舵角θstrが所定の閾値θ1未満であるか否か、換言すれば、車速VSPが所定の閾値VSP1以上であり、舵角θstrが所定の閾値θ1以上である旋回走行から、舵角θstrが減少し、閾値θ1未満となる直進走行へ移行したか否かを判定する。舵角θstrが所定の閾値θ1未満である場合にのみ、S207へ進み、それ以外の場合は、旋回走行を継続中であるとして、S201へ戻る。
【0053】
S207では、車速VSPが所定の閾値VSP1以上であり、舵角θstrが所定の閾値θ1以上である旋回走行の継続時間TIMを測定し、これが所定の時間T1よりも長いか否か、換言すれば、所定の時間T1よりも長い時間に亘って旋回走行を継続したか否かを判定する。継続時間TIMが所定の時間T1よりも長い場合は、S208へ進み、時間T1以内である場合、つまり、湾曲路が短く、旋回走行を短い時間のうちに終了した場合は、S209へ進む。
【0054】
S208では、図5のフローチャートに示す手順に従って錯覚量Ivを算出する。
【0055】
S209では、錯覚量Ivを0(ゼロ値)に設定する。湾曲路を走行する際の車速VSPが低かったり、舵角θstrが小さかったり、湾曲路が短かったりした場合は、搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況には至っておらず、搭乗者に運動錯覚も生じていないとして、錯覚量Ivを0とする。
【0056】
図5は、錯覚量算出処理(旋回後の直進走行時)の内容を示すフローチャートである。
【0057】
S301では、旋回後の直進走行時における頭部ロール角Hr’を検出する。
【0058】
S302では、搭乗者の車外情報取得状況を判定する。搭乗者が助手席に着座しているなど、車外情報取得状況が良好である場合は、S308へ進み、後部席に着座しているなど、車外情報取得状況が良好でない場合は、S303へ進む。
【0059】
S303では、旋回走行中に検出した搭乗者の視線方向角Aeが所定の閾値A1未満であり、旋回走行中における搭乗者の視線が下向きであるか否かを判定する。搭乗者の視線方向角Aeが所定の閾値A1未満である場合は、S304へ進み、閾値A1以上である場合、つまり、旋回走行中における搭乗者の視線が正面を向いているか、上向きである場合は、S308へ進む。
【0060】
S304では、旋回走行中に検出した頭部ロール角Hrが所定の閾値H1よりも大きいか否か、換言すれば、旋回走行中にかかる横方向加速度に対し、搭乗者が前後方向軸Arを中心として閾値H1を超える角度Hrに亘って頭部を回転させたか否かを判定する。旋回走行中における頭部ロール角Hrが所定の閾値H1よりも大きい場合は、S307へ進み、閾値H1以下である場合は、S305へ進む。
【0061】
S305では、旋回走行中に検出した頭部ヨー角Hyが所定の閾値H2よりも大きいか否か、換言すれば、旋回走行中にかかる横方向加速度に対し、搭乗者が上下方向軸Ayを中心として閾値H2を超える角度Hyに亘って頭部を回転させたか否かを判定する。旋回走行中における頭部ヨー角Hyが所定の閾値H2よりも大きい場合は、S306へ進み、閾値H2以下である場合は、S308へ進む。
【0062】
S306では、直進走行中における頭部ロール角Hr’が所定の閾値H1よりも大きいか否か、換言すれば、旋回走行中に上下方向軸Ayを中心として回転させていた頭部を、その後の直進走行中に前後方向軸Arを中心に回転させているか否か(つまり、頭部を回転させる軸を、旋回走行から直進走行への移行前後で変更したか否か)を判定する。頭部ロール角Hr’が所定の閾値H1よりも大きい場合は、S308へ進み、閾値H1以下である場合は、S310へ進む。
【0063】
S307では、直進走行中における頭部ロール角Hr’が所定の閾値H1以下であるか否か、換言すれば、旋回走行中に前後方向軸Arを中心として回転させていた頭部を直進走行への移行後に是正し、頭部が直立姿勢にあるか否かを判定する。頭部ロール角Hr’が所定の閾値H1以下である場合は、S309へ進み、それ以外の場合、つまり、前後方向軸Arを中心とする頭部の回転が直進走行への移行後も維持されている場合は、S310へ進む。
【0064】
S308では、錯覚量Ivとして、比較的小さな第1錯覚量Iv1を算出する。
【0065】
S309では、錯覚量Ivとして、第1錯覚量Iv1よりも大きな第2錯覚量Iv2を算出する。
【0066】
S310では、錯覚量Ivとして、第1錯覚量Iv1と第2錯覚量Iv2との間の大きさである第3錯覚量Iv3を算出する。
【0067】
(事前案内処理の内容)
図6は、事前案内処理の内容を示すフローチャートである。
【0068】
S401では、車両の現在地点と目標地点とをもとに、現在地点から目標地点に至る車両の走行経路を設定する。
【0069】
S402では、設定した走行経路に、搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況となり得る区間が存在するか否かを判定する。本実施形態において、搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況となり得る区間とは、通過に相応の時間を要するほどに長い湾曲路に直進路が続く区間である。走行経路にそのような区間が存在する場合は、S403へ進み、存在しない場合は、今回の処理を終了する。
【0070】
S403では、搭乗者に対し、頭部姿勢の是正を促す案内を実施する。具体的には、この先、湾曲路を走行する予定であり、乗り物酔いの予防のために姿勢を正すことを促す案内である。過度な案内による煩わしさを回避するため、この事前案内は、搭乗者の視線方向が下向きであるなど、搭乗者が運動錯覚を強く感じる姿勢にある場合にのみ、行うようにしてもよい。
【0071】
S404では、搭乗者の頭部姿勢が是正されたか否かを判定する。是正された場合は、今回の処理を終了し、是正されていない場合は、S405へ進む。
【0072】
S405では、車速VSPを低減させるなど、車両の運転状態を強制的に変更する。
【0073】
(作用および効果の説明)
本実施形態に係る乗り物酔い検知装置1は、以上の構成を有する。以下に、本実施形態により得られる効果について説明する。
【0074】
第1に、搭乗者に所定以上の横方向加速度がかかる状態を経験した後、この横方向加速度が解消した状況をもって、搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況、換言すれば、搭乗者に乗り物酔いの予兆である運動錯覚が生じやすい状況にあると判定する。運動錯覚に対する搭乗者の感受性、つまり、搭乗者が実際に感じる運動錯覚の強さは、その状況における搭乗者の姿勢、特に頭部姿勢に応じて変化する。
【0075】
そこで、所定以上の横方向加速度がかかっている状態での搭乗者の頭部姿勢と、横方向加速度が解消した後の頭部姿勢と、の双方をもとに、搭乗者が乗り物酔いの発症を助長する頭部姿勢にある場合に、搭乗者に乗り物酔いの予兆があるとして、搭乗者に乗り物酔いに対する注意を促す案内を実施する。
【0076】
これにより、搭乗者に不快感や体調不良等、乗り物酔いの症状が実際に発現する前に警報を発して、乗り物酔いの発症を抑制したり(乗り物酔いの予防)、乗り物酔いの症状が発現するに至ったものの、症状が比較的軽度であるうちに対策を講じて(乗り物酔いに対する早期対策)、症状の進行を防止したりすることが可能となる。
【0077】
第2に、車両の車速VSPが所定の車速VSP1以上であり、舵角θstrが所定の舵角θ1以上である状態(第1運転状態)での走行から、舵角θstrがこの所定の舵角θ1未満である状態(第2運転状態)での走行への移行をもって、搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況にあることを的確に検出することが可能となる。さらに、第1運転状態での走行が所定の時間に亘って継続したことを、上記状況にあることの条件とすることで、搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況にあることをより的確に検出することが可能となる。
【0078】
第3に、乗り物酔いの進行度合いを参照値(本実施形態では、錯覚量Iv)により数値化して把握可能とし、搭乗者に対し、乗り物酔いに関してその進行度合いに応じた適切な案内情報を提供することが可能となる。
【0079】
第4に、頭部の回転角Hr、Hyに応じて錯覚量Ivを異なる値として算出可能とすることで、錯覚量Ivに対して搭乗者が感じる運動錯覚の強さを適切に反映可能とし、搭乗者に対し、進行度合いに応じてより適切な案内情報を提供することが可能となる。
【0080】
具体的には、第1運転状態での走行中(例えば、旋回走行中)、頭部が前後方向軸Arを中心に回転した状態にある場合は、それ以外の場合、つまり、旋回走行中に頭部が直立位置にあったり、前後方向軸Ar以外の軸を中心に回転した状態にあったりする場合よりも搭乗者の感じる運動錯覚が強い。そこで、旋回走行中における頭部ロール角Hrが所定の閾値H1よりも大きい場合の錯覚量Ivを相対的に大きな値として算出することで(図5に示すS309、S310)、搭乗者が実際に感じる運動錯覚の強さを錯覚量Ivに反映させることができる。
【0081】
ここで、搭乗者が感じる運動錯覚は、第1運転状態での走行中に前後方向軸Arを中心に回転させていた頭部を第2運転状態での走行への移行後に直立位置に戻した場合に、最も強くなる。そこで、旋回走行中における頭部ロール角Hrに加え、旋回後の直進走行中における頭部ロール角Hr’を検出し、直進走行中における頭部ロール角Hr’が所定の閾値H1以下である場合の錯覚量Ivを最も大きな値として算出することで(図5に示すS309)、搭乗者が実際に感じる運動錯覚の強さを錯覚量Ivに対してより適切に反映させることができる。
【0082】
他方で、第1運転状態での走行(例えば、旋回走行)から第2運転状態での走行(例えば、直進走行)への移行後に搭乗者が感じる運動錯覚は、第1運転状態での走行中、頭部が上下方向軸Ayを中心に回転した状態にある場合に、緩和ないし抑制可能である。そこで、旋回走行中における頭部ヨー角Hyが所定の閾値H2よりも大きい場合の錯覚量Ivを相対的に小さな値として算出することで(図5に示すS308、S310)、搭乗者が実際に感じる運動錯覚の強さを錯覚量Ivに反映させることができる。
【0083】
そして、第2の運転状態での走行への移行後、搭乗者が感じる運動錯覚は、頭部の回転軸が上下方向軸Ayから前後方向軸Arに変化し、第2運転状態での走行中に頭部が前後方向軸Arを中心に回転した状態にある場合に、最も弱くなる。そこで、旋回後の直進走行中における頭部ロール角Hr’が所定の閾値H1よりも大きい場合の錯覚量Ivを最も小さな値として算出することで(図5に示すS308)、搭乗者が実際に感じる運動錯覚の強さを錯覚量Ivに対してより適切に反映させることができる。
【0084】
第5に、搭乗者が横方向加速度を受けている状況での視線の向きが運動錯覚の感受性に影響することから、錯覚量Ivの算出に際して視線の向き(視線方向Ae)を考慮することで、運動錯覚の実際の強さを反映したより適切な錯覚量Ivを算出可能とし、乗り物酔いの進行度合いに応じたより適切な案内情報を提供することが可能となる。
【0085】
第6に、車外の視覚的な情報を取得可能である場合は、運動錯覚が感じにくくなったり、実際に感じる運動錯覚が弱くなったりすることから、錯覚量Ivの算出に際して搭乗者における車外情報取得情報を考慮することで、運動錯覚の実際の強さを反映したより適切な錯覚量Ivを算出可能とし、乗り物酔いの進行度合いに応じたより適切なより案内情報を提供することが可能となる。
【0086】
第7に、錯覚量Ivの累積値Rmをもとに、乗り物酔いの進行度合いを、発症または自覚症状の発現までにどの程度の猶予があるのか、発症に至った乗り物酔いが比較的軽度なのか、重度なのかを含めて判定可能とし、物乗り物酔いの予防または早期対策を図ることが可能となる。
【0087】
第8に、車両の走行経路に搭乗者が乗り物酔いを発症しやすい状況となり得る区間が存在する場合に、事前案内を実施し、搭乗者に対して乗り物酔いを発症しやすい状況に至る前に頭部姿勢の変更を促すこと、具体的には、運動錯覚に対する感受性を弱める頭部姿勢への変更を促すことで、乗り物酔いのより確実な予防を図り、症状の進行を妨げることが可能となる。
【0088】
そして、事前案内の実施によってもなお搭乗者において頭部姿勢の是正が図られない場合に、車両の運転状態を強制的に変更することで、搭乗者の頭部姿勢によらず、搭乗者が感じる運動錯覚を確実に弱め、乗り物酔いの確実な予防を図り、症状の進行を妨げることが可能となる。
【0089】
参照値(錯覚量Iv)またはその累積値Rmと比較する閾値X1は、1つのみに限らず、異なる値の複数の閾値X1、X2…を設定することも可能である。具体的には、複数の閾値X1、X2…との比較により乗り物酔いの進行度合いを把握し、乗り物酔いの予兆がある場合の案内を、累積値Rmに応じて異なる態様または内容をもって実施する。例えば、累積値Rmが比較的小さな第1閾値X1に達した場合に、自覚症状の発現には至っていないものの、乗り物酔いを今後発症する可能性があることを知らせ、累積値Rmがさらに増大し、第1閾値X1よりも大きな第2閾値X2に達した場合に、乗り物酔いを既に発症している可能性があることを知らせ、休憩をとることを促す内容の案内を実施する。
【符号の説明】
【0090】
1…乗り物酔い検知装置、101…コントロールユニット、201…車内カメラ、202…車速センサ、203…舵角センサ、211…車載ナビゲーション装置、301…HMI装置、P…搭乗者、Ar…前後方向軸(ロール軸)、Ay…上下方向軸(ヨー軸)、Ap…左右方向軸(ピッチ軸)、Hy…頭部ヨー角、Hr…頭部ロール角。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7