(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025152811
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】圧電セラミック積層体
(51)【国際特許分類】
H10N 30/853 20230101AFI20251002BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20251002BHJP
H10N 30/05 20230101ALI20251002BHJP
H10N 30/063 20230101ALI20251002BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/20
H10N30/05
H10N30/063
C04B35/495
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024054915
(22)【出願日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 広司
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 吉進
(72)【発明者】
【氏名】市橋 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】須藤 優
(72)【発明者】
【氏名】山田 嗣人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正人
(57)【要約】
【課題】圧電セラミック積層体における高温、高電界下における絶縁性を高める。
【解決手段】Niを主成分とする内部電極12,13と圧電セラミック層11とが交互に積層された圧電セラミック積層体10である。X線回折法により得られる回折スペクトルにおいて、前記圧電セラミック層11は、2θ=15.4±0.1度(°)の範囲内で、副相に帰属する第1副相回折ピークを示し、前記第1副相回折ピークのピーク強度は、主相のメインピークのピーク強度を100とした場合に0.74以上2.45以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niを主成分とする内部電極と圧電セラミック層とが交互に積層された圧電セラミック積層体であって、
前記圧電セラミック層を構成する無鉛圧電組成物は、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の主相と、前記主相と異なる副相を含み、
X線回折法により得られる回折スペクトルにおいて、
前記圧電セラミック層は、2θ=15.4±0.1度の範囲内で、前記副相に帰属する第1副相回折ピークを示し、
前記第1副相回折ピークのピーク強度は、前記主相のメインピークのピーク強度を100とした場合に0.74以上2.45以下である、圧電セラミック積層体。
【請求項2】
更に、前記圧電セラミック層は、2θ=15.2±0.1度の範囲内で、前記副相に帰属する第2副相回折ピークを示し、
前記第2副相回折ピークのピーク強度は、前記主相の前記メインピークのピーク強度を100とした場合に0.55以上2.45以下である、請求項1に記載の圧電セラミック積層体。
【請求項3】
更に、前記圧電セラミック層は、2θ=15.7±0.1度の範囲内で、前記副相に帰属する第3副相回折ピークを示し、
前記第3副相回折ピークのピーク強度は、前記主相の前記メインピークのピーク強度を100とした場合に0.51以上0.80以下である、請求項1又は請求項2に記載の圧電セラミック積層体。
【請求項4】
前記副相は、Mn酸化物を含む、請求項1に記載の圧電セラミック積層体。
【請求項5】
前記Mn酸化物として、Mn2TiO4、Mn4Nb2O9、及び、MnOからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項4に記載の圧電セラミック積層体。
【請求項6】
前記Mn酸化物は、Scを含有する、請求項4に記載の圧電セラミック積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧電セラミック積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電セラミック積層体は、様々な用途で使用される。圧電セラミック積層体は、例えば、小型かつ低電圧でも高変位で駆動する圧電セラミックアクチュエータとして使用される。
一般的な圧電セラミック積層体は、環境に悪影響を及ぼす鉛を含んだPZT系(チタン酸ジルコン酸鉛系)の圧電セラミック積層体であり、内部電極に高価なPtやPdを含んでいる。
そのため、環境にやさしく、低コストで生産できる圧電セラミック積層体が求められている。例えば、安価なNiを主成分とした内部電極を用いた圧電セラミック積層体が開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-139132号公報
【特許文献2】国際公開第2015/046434号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、アクチュエータの用途では、圧電セラミック積層体は、高温、高電界下(例えば、100℃,3kV/mm)で使用されることが想定される。よって、圧電セラミック積層体は、このような過酷な条件下においても、高い絶縁性が要求される。
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、圧電セラミック積層体における高温、高電界下における絶縁性を高めることを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕
Niを主成分とする内部電極と圧電セラミック層とが交互に積層された圧電セラミック積層体であって、
前記圧電セラミック層を構成する無鉛圧電組成物は、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の主相と、前記主相と異なる副相を含み、
X線回折法により得られる回折スペクトルにおいて、
前記圧電セラミック層は、2θ=15.4±0.1度(°)の範囲内で、前記副相に帰属する第1副相回折ピークを示し、
前記第1副相回折ピークのピーク強度は、前記主相のメインピークのピーク強度を100とした場合に0.74以上2.45以下である、圧電セラミック積層体。
【0006】
〔2〕
更に、前記圧電セラミック層は、2θ=15.2±0.1度の範囲内で、前記副相に帰属する第2副相回折ピークを示し、
前記第2副相回折ピークのピーク強度は、前記主相の前記メインピークのピーク強度を100とした場合に0.55以上2.45以下である、〔1〕に記載の圧電セラミック積層体。
【0007】
〔3〕
更に、前記圧電セラミック層は、2θ=15.7±0.1度の範囲内で、前記副相に帰属する第3副相回折ピークを示し、
前記第3副相回折ピークのピーク強度は、前記主相の前記メインピークのピーク強度を100とした場合に0.51以上0.80以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の圧電セラミック積層体。
【0008】
〔4〕
前記副相は、Mn酸化物を含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の圧電セラミック積層体。
【0009】
〔5〕
前記Mn酸化物として、Mn2TiO4、Mn4Nb2O9、及び、MnOからなる群より選択される少なくとも1種を含む、〔4〕に記載の圧電セラミック積層体。
【0010】
〔6〕
前記Mn酸化物は、Scを含有する、〔4〕に記載の圧電セラミック積層体。
【発明の効果】
【0011】
本開示の圧電セラミック積層体は、高温、高電界下における絶縁性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を詳しく説明する。尚、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。また、本明細書において、各数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。また、図面は、開示内容を説明するための概念図であり、実際の寸法を正確に示したものではない。
【0014】
1.圧電セラミック層11
圧電セラミック層11を構成する無鉛圧電組成物は、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の主相と、主相と異なる副相を含む。
【0015】
ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物は、Aサイトにアルカリ系成分として、アルカリ金属(カリウム(K)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)等)のうちの少なくとも1種を含むことが好ましく、特に、カリウム(K)およびナトリウム(Na)のうちの少なくとも一方を含むことが好ましく、Bサイトにニオブ(Nb)が含まれることが好ましい。また、Aサイトにアルカリ系成分として、アルカリ土類金属(カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等の少なくとも1種)を含み得る。
【0016】
ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物は、以下の組成式(1)で表されるものが好ましい。
(A1aM1b)c(Nbd1Mnd2Tid3Zrd4Scd5)O3+e ・・・(1)
【0017】
元素A1はアルカリ金属であるLi(リチウム)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)のうちの少なくとも1種である。元素M1はアルカリ土類金属であるBa(バリウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)のうちの少なくとも1種である。
【0018】
上記組成式(1)において、元素A1と元素M1とは、ペロブスカイト構造のAサイトに配置され、Nb(ニオブ)、Mn(マンガン)、Ti(チタン)及びZr(ジルコニウム)は、Bサイトに配置される。
【0019】
上記組成式(1)における係数a~eの値としては、ペロブスカイト構造が成立する値のうち、無鉛圧電組成物の電気的特性又は圧電特性等の観点で好ましい値が選択される。
【0020】
具体的には、係数a,bは、0<a<1、0<b<1、a+b=1を満たし、a=0(即ち、何れのアルカリ金属を含まない組成物)、b=0(即ち、Ba、Ca、Srの何れも含まない組成物)は除外される。
【0021】
Aサイト全体に対する係数cは、0.80<c<1.10を満たし、0.90≦c≦1.05が好ましい。
【0022】
係数d1、d2、d3、d4、d5は、0<d1<1、0<d2<1、0<d3<1、0≦d4<1、0≦d5<1を満たす。d1=0(Nbを含まない組成物)、d2=0(Mnを含まない組成物)、d3=0(Tiを含まない組成物)は除外される。Zrの係数d4はゼロであってもよく(即ち、Zrを含まない組成物であってもよい)、Scの係数d5はゼロであってもよい(即ち、Scを含まない組成物であってもよい)。
【0023】
尚、Nbの係数d1は、好ましくは、0.830≦d1≦0.959である。Mnの係数d2は、好ましくは、0.001≦d2≦0.10である。Tiの係数d3は、好ましくは、0.005≦d3≦0.10である。Zrの係数d4は、好ましくは、0≦d4≦0.10である。Scの係数d5は、好ましくは、0≦d5≦0.10である。
このように、(2)の組成式にすることで(1)よりも高い圧電特性及び絶縁性を得ることができる。具体的には、Mnが所定量添加されることでMnがアクセプターとしてNbサイトに固溶し、酸素空孔を形成することで絶縁性が向上する。Tiが所定量添加されることで、結晶構造が変化し、圧電特性が向上すると考えられる。
【0024】
酸素の係数3+eのうち、係数eは、通常3である酸素の係数に対し、酸素の欠損或いは過剰を示す正又は負の値である。酸素の係数3+eは、主相がペロブスカイト型酸化物を構成する値を取り得る。係数eの典型的な値は、e=0であり、0≦e≦0.1が好ましい。なお、係数eの値は、主相の組成の電気的な中性条件から算出することができる。ただし、主相の組成としては、電気的な中性条件からやや外れた組成も許容できる。
【0025】
ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物は、以下の組成式(2)で表されるものがより好ましい。
(A1aM1b)c(Nbd1Mnd2Tid3Zrd4Scd5)O3+e ・・・(2)
【0026】
元素A1はアルカリ金属であるLi(リチウム)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)のうちの少なくとも1種である。元素M1はアルカリ土類金属であるBa(バリウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)のうちの少なくとも1種である。
【0027】
上記組成式(2)において、元素A1と元素M1とは、ペロブスカイト構造のAサイトに配置され、Nb(ニオブ)、Mn(マンガン)、Ti(チタン)及びZr(ジルコニウム)は、Bサイトに配置される。
【0028】
上記組成式(2)における係数a~eの値としては、ペロブスカイト構造が成立する値のうち、無鉛圧電組成物の電気的特性又は圧電特性等の観点で好ましい値が選択される。
【0029】
具体的には、係数a,bは、0<a<1、0<b<1、a+b=1を満たし、a=0(即ち、何れのアルカリ金属を含まない組成物)、b=0(即ち、Ba、Ca、Srの何れも含まない組成物)は除外される。
【0030】
Aサイト全体に対する係数cは、0.80<c<1.10を満たし、0.90≦c≦1.05が好ましい。
【0031】
係数d1、d2、d3、d4、d5は、0<d1<1、0<d2<1、0<d3<1、0≦d4<1、0≦d5<1を満たす。d1=0(Nbを含まない組成物)、d2=0(Mnを含まない組成物)、d3=0(Tiを含まない組成物)、d5=0(Scを含まない組成物)は除外される。Zrの係数d4はゼロであってもよい(即ち、Zrを含まない組成物であってもよい)。
【0032】
尚、Nbの係数d1は、好ましくは、0.830≦d1≦0.959である。Mnの係数d2は、好ましくは、0.001≦d2≦0.10である。Tiの係数d3は、好ましくは、0.005≦d3≦0.10である。Zrの係数d4は、好ましくは、0≦d4≦0.1である。Scの係数d5は、好ましくは、0.0002≦d5≦0.05である。
このように、(3)の組成にScが含まれることで、Scがアクセプターとして働きキャリアの生成が抑制されると推測される。この作用により、絶縁性が更に向上すると考えられる。
【0033】
前記ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物は、以下の組成式(3)で表されるものが更に好ましい。
【0034】
(Ka1Naa2Lia3Bab1Cab2Srb3)c(Nbd1Mnd2Tid3Zrd4Scd5)O3+e ・・・(3)
【0035】
上記組成式(3)と組成式(2)とは等価である。Kの係数a1は、0<a1≦0.7(好ましくは、0.095≦a1≦0.665)であり、Naの係数a2は、0<a1≦0.9(好ましくは、0.285≦a2≦0.855)であり、Liの係数a3は、0≦a3≦0.2(好ましくは、0≦a3≦0.1)である。また、Baの係数b1は、0≦b1≦0.2(好ましくは0≦b1≦0.1)であり、Caの係数b2は、0≦b2≦0.2(好ましくは0≦b2≦0.1)であり、Srの係数b3は、0≦b3≦0.2(好ましくは0≦b3≦0.1)である。
a,bの値をこれらの範囲にすることで、結晶構造がさらに最適化され、圧電特性が一段と良くなると考えられる。
【0036】
上記組成式(2)(3)で表されるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物において、Tiに対するScの含有割合(Sc/Ti)は、モル比で、0.004以上8以下である。Tiに対するScの含有割合がこのような範囲であると、圧電特性に優れると共に、高温条件下における絶縁性に優れる無鉛圧電組成物が得られる。
【0037】
さらに、(1)(2)(3)の組成式において、例えば、Ta,Hf,Si,Cu,Niなどの他元素を、例えば、0より大きく5mol%程度の範囲で微量含んでいても、特性への大きな影響はない。
【0038】
上記組成式(1)(2)(3)で表されるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物のうち、K、Na及びNbを主な金属成分とする酸化物は、「KNN」又は「KNN材」と称され、圧電特性、電気特性等に優れる。
【0039】
本実施形態において、無鉛圧電組成物に含まれる主相の割合は、本開示の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。主相の割合の上限値は、99.9質量%である。
【0040】
無鉛圧電組成物は、主相と異なる副相を含む。圧電セラミック積層体の圧電セラミック層は、X線回折法により得られる回折スペクトルにおいて、2θ=15.4±0.1度の範囲内で、副相に帰属する第1副相回折ピークを示す。第1副相回折ピークのピーク強度は、主相のメインピークのピーク強度を100とした場合に0.74以上2.45以下であり、好ましくは1.03以上1.76以下であり、より好ましくは1.23以上1.67以下である。
尚、主相のメインピークは、主相に種類により異なる。主相のメインピークは、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物では、2θ=14度~14.5度に現れるピークのうち最大強度のピークである。
【0041】
また、圧電セラミック層11は、2θ=15.2±0.1度の範囲内で、副相に帰属する第2副相回折ピークを示すことが好ましい。第2副相回折ピークのピーク強度は、主相のメインピークのピーク強度を100とした場合に、好ましくは0.77以上2.45以下であり、より好ましくは0.74以上2.34以下であり、更に好ましくは0.74以上1.29以下である。
【0042】
また、圧電セラミック層11は、2θ=15.7±0.1度の範囲内で、副相に帰属する第3副相回折ピークを示すことが好ましい。第3副相回折ピークのピーク強度は、主相のメインピークのピーク強度を100とした場合に0.51以上0.80以下であり、より好ましくは0.51以上0.70以下であり、更に好ましくは0.51以上0.60以下である。
【0043】
副相は、金属酸化物を含有する。副相は、金属酸化物及び不可避不純物からなることが好ましい。
副相は、それ自身では圧電特性を有しておらず、主相と混在することによって焼結性や緻密性を向上させる機能を有する。また、これらの副相を添加すると、優れた圧電定数d33や電気機械結合係数krを有する圧電セラミック層を得ることが可能である。副相の含有割合の合計値は、無鉛圧電組成物の全体100質量%に対して0.09質量%以上3.4質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上1.9質量%以下であることが更に好ましい。副相の含有割合の合計値が5体積%を超えると、圧電定数d33及び電気機械結合係数krが却って低下する可能性がある。
【0044】
金属酸化物としては、例えば、Mn2TiO4、Mn4Nb2O9、及び、MnOからなる群より選択される少なくとも1種を用いることできる。これらの金属酸化物を用いることで、主相の構造を安定化できる点で好ましい。
第1副相回折ピークは、Mn2TiO4系化合物に帰属する。
第2副相回折ピークは、Mn4Nb2O9系化合物に帰属する。
第3副相回折ピークは、MnO系化合物に帰属する。
なお、「Mn2TiO4系化合物」は、Mn2TiO4の構造が崩れない範囲で、構成元素(Mn,Ti,O)の比率が2:1:4からずれていても構わない。また、「Mn2TiO4系化合物」は、Mn,Ti,O以外の元素を合計で10モル%以下含んでいてもよい。
「Mn4Nb2O9系化合物」は、Mn4Nb2O9の構造が崩れない範囲で、構成元素(Mn,Nb,O)の比率が4:2:9からずれていても構わない。また、「Mn4Nb2O9系化合物」は、Mn,Nb,O以外の元素を合計で10モル%以下含んでいてもよい。
「MnO系化合物」は、MnOの構造が崩れない範囲で、構成元素(Mn,O)の比率が1:1からずれていても構わない。また、「MnO系化合物」は、Mn,O以外の元素を合計で10モル%以下含んでいてもよい。
【0045】
副相には、金属酸化物とともにSc(スカンジウム)が含有されていることが好ましい。副相におけるSc(スカンジウム)の含有量は特に限定されない。高電界下における絶縁性を更に向上させる観点から、Sc(スカンジウム)の含有量は、主相100モル%(KNN相100モル%)に対して、0.001モル%以上10モル%以下が好ましく、0.01モル%以上8モル%以下がより好ましく、0.1モル%以上5モル%以下が更に好ましい。
【0046】
2.内部電極12,13
内部電極12,13は、Ni(ニッケル)主成分とする。本開示において、「主成分」とは含有率(質量%)が50質量%以上の物質をいう。内部電極12,13は、Ni 100質量%であってもよい。
【0047】
3.圧電セラミック積層体10
圧電セラミック積層体10の一例について、
図1を参照して説明する。
図1は、圧電セラミック積層体10の断面図である。圧電セラミック積層体10は、
図1に示されるように、圧電セラミック層11と、圧電セラミック層11に接する複数の内部電極12,13と、内部電極12,13に接続される2つの外部電極14,15とを備える。圧電セラミック層11は、上述した無鉛圧電組成物により形成される。内部電極12,13は、ニッケルを主成分する。圧電セラミック層11と内部電極12,13とは、交互に積層されている。より具体的には、圧電セラミック層11と内部電極12,13とは、圧電セラミック層11、内部電極12、圧電セラミック層11、内部電極13、圧電セラミック層11等の順で積層されており、1つの圧電セラミック層11が2つの内部電極12,13によって挟まれている。2つの外部電極14,15は、圧電セラミック層11と内部電極12,13との積層体の外面に配されている。外部電極14,15は、例えばAuを主成分とする。1つの圧電セラミック層11に接する2つの内部電極12,13のうち一方の内部電極12の一端は、一方の外部電極14に接続され、他方の内部電極13の一端は、他方の外部電極15に接続されている。外部電極14,15間に電圧が印加されることで圧電セラミック層11が伸縮し、圧電セラミック積層体10全体が伸縮する。
【0048】
ここで、圧電セラミック積層体10の製造方法の一例を説明する。主相を形成するために必要な、複数種の原料粉末を用意し、それらの原料粉末を、目的とする組成となるように秤量する。原料粉末としては、主相に含まれる各元素の酸化物、各元素の炭酸塩、各元素の水酸化物等であってもよい。秤量後の各原料粉末の混合物にエタノールを加えたものを、ボールミルを用いて、好ましくは15時間以上湿式混合してスラリーを得る。得られたスラリーを乾燥し、乾燥後に得られた混合粉末を、例えば、大気雰囲気下で600~1000℃の温度条件で、1~10時間仮焼して、粉末状の主相仮焼物を得る。
【0049】
副相を形成するために必要な、複数種の原料粉末を用意し、それらの原料粉末を、目的とする組成となるように秤量する。副相を形成するために必要な、複数種の原料粉末の添加量を変えることで、副相のXRDピーク位置および副相の種類を制御する。
原料粉末としては、副相に含まれる各元素の酸化物、各元素の炭酸塩、各元素の水酸化物等であってもよい。秤量後の各原料粉末の混合物にエタノールを加えたものを、ボールミルを用いて、好ましくは15時間以上湿式混合してスラリーを得る。得られたスラリーを乾燥し、乾燥後に得られた混合粉末を、例えば、還元雰囲気下で1000~1300℃の温度条件で、1~10時間仮焼して、粉末状の副相仮焼物を得る。
【0050】
次いで、得られた主相仮焼物及び副相仮焼物に対して、分散剤、バインダ及び有機溶剤(例えば、トルエン)を加え、それらの混合物を粉砕・混合してスラリーを得る。その後、ドクターブレード法等を使用して、スラリーをシート形状に加工することにより、セラミックグリーンシートを作製する。
【0051】
次に、内部電極用導電性ペーストを用いて、セラミックグリーンシートの一面に、例えばスクリーン印刷により、内部電極となる電極層を形成する。電極層は、ニッケル(Ni)を主成分とする。
【0052】
その後、電極層が形成された複数のセラミックグリーンシートを、電極層が両側面から互い違いに露出するように積層し、得られた積層体の表裏両面に、更に、電極層が形成されていないセラミックグリーンシートをそれぞれ積層する。得られた積層体を圧着することにより、セラミックグリーンシートと電極層とが交互に積層された積層体を得る。この積層体を、所望の形状に切断し、その後、例えば200~400℃の温度条件で、2~10時間保持することで、脱バインダ処理を行う。
【0053】
脱バインダ処理後の積層体を、例えば1000~1200℃の温度条件下で、かつ加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガスを用いて、Ni電極が酸化しない酸素分圧下(例えば、酸素分圧が10-12atmの還元雰囲気下)で、2~5時間保持して焼成する。この際、アルミナセッタ上で焼成することで安定した特性を発現することができる。
その後、積層体を、例えば800±50℃、5-20時間、不活性雰囲気(例えばN2雰囲気)にてアニール処理を施す。
【0054】
焼成後の積層体の側面を適宜、研磨した後、例えばスパッタリング法により、Auからなる一対の外部電極を積層体の側面に形成する。一対の外部電極は、積層体を間に置きつつ互いに向かい合うように形成される。外部電極が形成された積層体に対して、分極処理を行うことにより、圧電素子が得られる。このようにして無鉛圧電組成物からなる圧電セラミック層11と、電極(内部電極12,13)とが交互に積層された構造を有する圧電セラミック積層体10が得られる。
【0055】
製造方法における各種の製造条件は一例であり、圧電セラミック積層体10の用途等に応じて適宜変更可能である。
【0056】
本明細書で開示される圧電セラミック積層体10は、高電界下での圧電特性に優れると共に、高温、高電界下においても絶縁性に優れる。このような圧電セラミック積層体10の用途は、特に限定されない。圧電セラミック積層体10は、アクチュエータ、ハプティクス、ブザー、超音波センサ、各種振動を検知するセンサ類(ノックスセンサ及び燃焼圧センサ等)、振動子、アクチュエータ、フィルタ等の圧電デバイス、高電圧発生装置、マイクロ電源、各種駆動装置、位置制御装置、振動抑制装置、流体吐出装置(塗料吐出及び燃料吐出等)等に利用できる。
【実施例0057】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。尚、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0058】
1. 圧電素子の作製
1.1 実施例
1.1.1 主相仮焼物の作製
原料粉末として、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、TiO2粉末、ZrO2粉末、MnCO3粉末、BaCO3粉末、Sc2O3粉末を用意し、これらの各原料粉末を、主相がニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物となるように秤量した。秤量後の各原料粉末の混合物に、適量のエタノールを加えたものを、ボールミルを用いて15時間湿式混合してスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥し、乾燥後に得られた混合粉末を、大気雰囲気下で900℃の温度条件で、5時間仮焼して、粉末状の主相仮焼物を得た。
【0059】
1.1.2 副相粉末の作製
Mn2TiO4(系化合物)は原料粉末として、Mn2O3粉末、TiO2粉末、を用いて化学量論比となるように秤量した。
Mn4Nb2O9(系化合物) は原料粉末として、MnCO3粉末、Nb2O5粉末、を用いて化学量論比となるように秤量した。
秤量後の各原料粉末の混合物に、適量のエタノールを加えたものを、ボールミルを用いて15時間湿式混合してスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥し、乾燥後に得られた混合粉末を、酸素分圧が10-12atmの還元雰囲気下にて1250℃の温度条件で、10時間仮焼して、粉末状の副相仮焼物を得た。
なお、MnOとSc(Sc2O3)は原料粉末を直接使用したため上記工程は行っていない。
【0060】
1.1.3 圧電素子の作製
次に、主相の仮焼粉末に対する副相粉末の割合が表1となるように、主相の仮焼粉末と副相の仮焼粉末を秤量した。次に、秤量した主相の仮焼粉末と副相の仮焼粉末に分散剤、バインダ及び有機溶剤を加え、それらの混合物を粉砕混合してスラリーを得た。次に、ドクターブレード法を使用して、スラリーをシート形状に加工することにより、セラミックグリーンシートを作製した。このとき、焼成後の積層圧電セラミック素子の圧電セラミック層の1層の膜厚が75μm程度となるように、グリーンシートの厚さを調整した。次に、内部電極用導電性ペーストを用いて、セラミックグリーンシートの一面に、スクリーン印刷により、焼成後の電極の厚みが2μm程度となるように内部電極となるNiを主成分とする電極層を形成した。
【0061】
その後、電極層が形成された複数のセラミックグリーンシートを、電極層が両側面から互い違いに露出するように積層し、得られた積層体の表裏両面に、更に、電極層が形成されていないセラミックグリーンシートをそれぞれ積層した。電極層に挟まれたセラミックグリーンシートの層数は、11層とした。得られた積層体を熱圧着することにより、セラミックグリーンシートと電極層とが交互に積層された積層体を得た。この積層体を、所望の形状に切断し、その後、窒素雰囲気300℃の温度条件で、5時間保持することで、脱バインダ処理を行った。
【0062】
アニール処理後の積層体の上下面及び側面を適宜、研磨した後、スパッタリング法により、Auからなる一対の外部電極を積層体の側面に形成した。そして、外部電極が形成された積層体に対して、40℃のシリコーンオイル中にセットし、3kV/mmのDC電界を15分間印加することで分極処理を行うことにより、積層圧電セラミック素子を作製した。なお、各試料の積層圧電セラミック素子の寸法は、長さ=約8mm、幅=約8mm、高さ=約1mmとした。
【0063】
1.2 比較例
比較例1は、次の点以外は、実施例1と同様にして、圧電素子のサンプルを作製した。1.1.2において副相仮焼物を作製せず、1.1.3において主相仮焼物に対して、分散剤、バインダ及びエタノールを加え、それらの混合物を粉砕・混合してスラリーを得た点以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作製した。比較例1は、副相がない。
【0064】
2. 評価方法
2.1 絶縁抵抗の測定
各実施例及び各比較例の圧電素子について、以下に示される方法により、絶縁抵抗(Ω・m)を測定した。100℃のシリコーンオイル中に、圧電素子を入れた状態で、直流電圧を3kV/mmの条件で1分間印加し、その際の絶縁抵抗(Ω・m)を測定した。結果は、表に示した。
【0065】
2.2 ピーク強度の測定
作製した圧電素子の圧電セラミック層を乳棒・乳鉢を用いて粉砕した。粉砕した微細な粉末をキャピラリー(φ=0.3mm、リンデマンガラス)の先端に充填し、波長0.7Åの単色X線を用いて2θ=0°~70°の範囲を0.01°ステップでデバイシュラー法により測定を行った。キャピラリー先端に充填した粉末に対して0.3mm×0.5mmのビームをあてることにより、圧電セラミック層全体の平均構造における回折ピークを取得した。X線の露光時間は、12分とした。
尚、X線回折測定とは、X線をサンプルに対して水平方向からθの角度で(結晶面に対してθの角度で)入射させ、サンプルから反射して出てくるX線のうち、入射X線に対して2θの角度のX線を検出することで、θに対する強度変化を調べる手法である。X線による回折では、ブラッグの条件(2dsinθ=nλ(λ:X線の波長、d:結晶の原子面間隔、n:整数))を満足するときに回折強度が高くなるが、そのときの結晶の面間隔(格子定数)と上記の2θとは対応関係にある。したがって、回折強度が高くなる2θの値に基づいて、X線が入射したサンプルの結晶構造や配向性を把握することができる。
主相のメインピークは、2θ=14.2±0.1度に現れる。
第1副相回折ピークは、2θ=15.4±0.1度に現れる。表中の「強度比X」は、主相のメインピークのピーク強度を100とした場合における、第1副相回折ピークのピーク強度の割合である。例えば、表2の実施例1では、主相のメインピークのピーク強度を100とした場合に、第1副相回折ピークのピーク強度が0.74となっていることを示している。
第2副相回折ピークは、2θ=15.2±0.1度のピークに現れる。表中の「強度比Y」は、主相のメインピークのピーク強度を100とした場合における、第2副相回折ピークのピーク強度の割合である。例えば、表2の実施例5では、主相のメインピークのピーク強度を100とした場合に、第2副相回折ピークのピーク強度が0.55となっていることを示している。
第3副相回折ピークは、2θ=15.7±0.1度のピークに現れる。表中の「強度比Z」は、主相のメインピークのピーク強度を100とした場合における、第3副相回折ピークのピーク強度の割合である。例えば、表2の実施例9では、主相のメインピークのピーク強度を100とした場合に、第3副相回折ピークのピーク強度が0.51となっていることを示している。
尚、表2中の強度比の「-」は、装置の検出限界以下であることを示す。すなわち、ピークが帰属する副相が存在しないことを意味している。
【0066】
3. 測定結果
各圧電素子におけるピーク強度比X,Y,Zと、絶縁抵抗を表2,3に示す。いずれの圧電素子の圧電セラミック層(比較例1、及び実施例1-実施例17)について組成分析を行ったところ、主相は
(K0.460Na0.470Ba0.070)1.000(Nb0.865Mn0.030Ti0.030Zr0.070Sc0.005)O3+e
であった。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
比較例1は、第1副相回折ピーク、第2副相回折ピーク、及び第3副相回折ピークのいずれも存在しなかった。比較例1は、高温、高電界下における絶縁抵抗(体積抵抗)が測定不可であった。この結果から、副相がない場合には、高温、高電界下における絶縁抵抗が低いことが分かった。
であった。
【0071】
実施例1~4は、第1副相回折ピークが観察された。実施例1~4は、第2副相回折ピーク及び第3副相回折ピークのいずれも観察されなかった。実施例1~4では、高温、高電界下における絶縁抵抗が良好であった。実施例1~4では、絶縁抵抗は、強度比Xが大きくなるにつれて大きくなった。尚、実施例1において、表2で「6*10^6」は、「6×106」を意味する。この標記は、表2,3において同様である。実施例1~実施例4について組成分析を行ったところ、副相はMn2TiO4であった。
【0072】
実施例5~8は、第1副相回折ピーク及び第2副相回折ピークが観察された。実施例5~8は、第3副相回折ピークは観察されなかった。実施例5~8では、高温、高電界下における絶縁抵抗が良好であった。実施例5~8の結果を考察する。実施例5~8について組成分析を行ったところ、副相はMn2TiO4及びMn4Nb2Oであった。強度比Yが2.00以下の実施例5,6,7は、強度比Yが2.00より大きい実施例8よりも高温、高電界下における絶縁抵抗が大きかった。この結果から、強度比Yは、2.00以下が好ましいことを分かった。
【0073】
実施例9は、第1副相回折ピーク及び第3副相回折ピークが観察された。実施例9は、第2副相回折ピークは観察されなかった。実施例9について組成分析を行ったところ、副相はMn2TiO4及びMnOであった。
実施例10は、第1副相回折ピーク、第2副相回折ピーク、及び第3副相回折ピークがいずれも観察された。実施例10について組成分析を行ったところ、副相はMn2TiO4、Mn4Nb2O9、及びMnOであった。
実施例9,10では、高温、高電界下における絶縁抵抗が良好であった。これらの結果から、副相にMnOが存在していても高温、高電界下における絶縁抵抗が大きいことが確認された。また、副相はMn2TiO4、Mn4Nb2O9、及びMnOの3種であっても、高温、高電界下における絶縁抵抗が大きいことが確認された。
【0074】
実施例11~17では、高温、高電界下における絶縁抵抗が特に良好であった。この結果から、副相のMn酸化物がScを含有すると、高温、高電界下における絶縁抵抗が特に良好となることが分かった。副相がMn2TiO4の場合(実施例11,15,17)、Mn2TiO4及びMn4Nb2O9の場合(実施例12,13)、Mn2TiO4、Mn4Nb2O9、及びMnOの場合(実施例14,16)のいずれであっても、Scを含有すると、高温、高電界下における絶縁抵抗が特に良好となることが分かった。
実施例11と実施例15と実施例17とを比べると、実施例11、実施例15、実施例17の順で、高温、高電界下における絶縁抵抗が高くなっていることから、Scの含有量は主相100モル%(KNN相100モル%)に対して1.0モル%以上がより好ましく、5.0モル%以上が更に好ましいことが分かった。
実施例14と実施例16を比べると、実施例16の方が、高温、高電界下における絶縁抵抗が高くなっていることから、Scの含有量は主相100モル%(KNN相100モル%)に対して1.0モル%以上がより好ましいことが分かった。
【0075】
4.実施例の効果
本実施例の圧電セラミック積層体は、高温、高電界下における絶縁性が高い。
【0076】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、様々な変形又は変更が可能である。