(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015301
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】ボールねじ装置のねじ軸の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20250123BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20250123BHJP
B23G 1/02 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
F16H25/24 A
F16H25/22 B
B23G1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118627
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 龍之介
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA01
3J062BA14
3J062CD04
3J062CD45
(57)【要約】
【課題】コマを収容する凹部が形成されていないねじ軸の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示のねじ軸の製造方法は、素材をヘリカルカッターで切削し、環状の溝面を形成する溝面形成工程を含む。素材の外周面は、素材の第1中心線を中心に円筒状に形成される。ヘリカルカッターは、シャフトの外周面から突出し、刃先で素材の外周面を切削する切削刃を有する。溝面形成工程は、ヘリカルカッターが素材の外周面に沿って周方向に移動するように、ヘリカルカッターと素材の相対的な位置を変化させて、外周面に環状の溝面を形成する。さらに、ヘリカルカッターが素材に対し第1中心線と平行な軸方向の一方に次第に移動させ、外周軌道面を形成する。ヘリカルカッターが素材に対して軸方向の他方に次第に移動させ、循環溝面を形成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸の素材の外周面をヘリカルカッターで切削し、前記外周面に環状の溝面を形成する溝面形成工程を含み、
前記素材の前記外周面は、前記素材の第1中心線を中心に円筒状に形成され、
環状の前記溝面は、外周軌道面と、循環溝面と、を有し、
前記ヘリカルカッターは、
回転可能なシャフトと、
前記シャフトの外周面から突出し、前記シャフトの前記外周面に対し周方向に複数配置され、刃先で前記素材の前記外周面を切削する切削刃と、
を有し、
前記溝面形成工程は、
前記ヘリカルカッターが前記素材の前記外周面に沿って周方向に移動するように、前記ヘリカルカッターと前記素材の相対的な位置を変化させて、前記素材の前記外周面に環状の前記溝面を形成し、
さらに、前記ヘリカルカッターが前記素材の前記外周面に沿って周方向に移動するとき、前記ヘリカルカッターが前記素材に対し前記第1中心線と平行な軸方向の一方に次第に移動するように、前記ヘリカルカッターと前記素材の相対的な位置を変化させて、前記外周軌道面を形成し、かつ、前記ヘリカルカッターが前記素材に対して前記軸方向の他方に次第に移動するように、前記ヘリカルカッターと前記素材の相対的な位置を変化させて、前記循環溝面を形成する
ボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
【請求項2】
前記溝面形成工程で前記外周軌道面を形成するとき、前記素材に対する前記切削刃を当てる角度を保持し、前記切削刃の刃先と同一形状の前記外周軌道面を形成する
請求項1に記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
【請求項3】
前記切削刃の幅は、前記刃先から前記シャフトに向かって次第に大きくなっており、
前記溝面形成工程で前記循環溝面を形成するとき、前記素材に対する前記切削刃を当てる角度を保持しつつ、前記外周軌道面よりも深く切削する
請求項1又は請求項2に記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
【請求項4】
前記溝面形成工程で前記循環溝面を形成するとき、前記素材に対する前記切削刃を当てる角度が変えるように、前記ヘリカルカッターと前記素材の相対的な位置を変化させて、前記切削刃の幅よりも幅広な前記循環溝面を形成する
請求項1又は請求項2に記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
【請求項5】
前記溝面形成工程で前記循環溝面を形成する際、前記素材に対する前記切削刃の位置を前記軸方向に移動するように、前記ヘリカルカッターと前記素材の相対的な位置を変化させて、前記切削刃の幅よりも幅広な前記循環溝面を形成する
請求項1又は請求項2に記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
【請求項6】
前記循環溝面は、前記外周軌道面よりも幅広であり、
前記溝面形成工程の切削個所の開始点と終点とが合流する合流点が前記循環溝面にある
請求項1又は請求項2に記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
【請求項7】
前記切削刃の刃先は、ゴシックアーク形状となっている
請求項1又は請求項2に記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
【請求項8】
前記溝面形成工程の後に前記素材に熱処理を行う熱処理工程を含む
請求項1又は請求項2に記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理工程の後に、前記外周軌道面を研削する研削工程を含む
請求項8に記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボールねじ装置のねじ軸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献のボールねじ装置は、ナットと、ナットを貫通するねじ軸と、ナットとねじ軸との間に配置された複数のボールと、循環部品と、を備えている。ナットの内周面には、内周軌道面が形成されている。ねじ軸の外周面には、内周軌道面と対向する外周軌道面が形成されている。内周軌道面と外周軌道面との間は、螺旋状の軌道を構成している。複数のボールは、軌道に配置され、軌道に沿って螺旋方向に移動する。循環部品は、軌道の一端から軌道の他端に移動したボールを軌道の一端に戻す装置である。下記特許文献の循環部品は、ボールを1リード戻すコマである。コマは、ねじ軸の外周面に形成された凹部に取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、凹部の加工精度が低いと、コマに設けられた循環溝面とねじ軸の外周軌道面が一致しない。このため、ボールの移動が円滑に行われず、ボールねじ装置の作動性が低下する。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、コマを収容する凹部を形成しないボールねじ装置のねじ軸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係るボールねじ装置のねじ軸の製造方法は、ねじ軸の素材の外周面をヘリカルカッターで切削し、前記外周面に環状の溝面を形成する溝面形成工程を含む。前記素材の前記外周面は、前記素材の第1中心線を中心に円筒状に形成されている。環状の前記溝面は、外周軌道面と、循環溝面と、を有している。前記ヘリカルカッターは、回転可能なシャフトと、前記シャフトの外周面から突出し、前記シャフトの前記外周面に対し周方向に複数配置され、刃先で前記素材の前記外周面を切削する切削刃と、を有している。前記溝面形成工程は、前記ヘリカルカッターが前記素材の外周面に沿って周方向に移動するように、前記ヘリカルカッターと前記素材の相対的な位置を変化させて、前記素材の前記外周面に環状の前記溝面を形成する。さらに、前記ヘリカルカッターが前記素材の外周面に沿って周方向に移動するとき、前記ヘリカルカッターが前記素材に対し前記第1中心線と平行な軸方向の一方に次第に移動するように、前記ヘリカルカッターと前記素材の相対的な位置を変化させて、前記外周軌道面を形成し、かつ、前記ヘリカルカッターが前記素材に対して前記軸方向の他方に次第に移動するように、前記ヘリカルカッターと前記素材の相対的な位置を変化させて、前記循環溝面を形成する。
【0007】
本開示によれば、ねじ軸に循環溝面を形成される。よって、コマの循環溝面とねじ軸の外周軌道面が一致せず、ボールの移動が円滑に行われない、ということが回避される。
【0008】
また、前記ボールねじ装置のねじ軸の製造方法において、前記溝面形成工程で前記外周軌道面を形成するとき、前記素材に対する前記切削刃を当てる角度を保持し、前記切削刃の刃先と同一形状の前記外周軌道面を形成してもよい。
【0009】
また、前記ボールねじ装置のねじ軸の製造方法において、前記切削刃の幅は、前記刃先から前記シャフトに向かって次第に大きくなっている。前記溝面形成工程で前記循環溝面を形成するとき、前記素材に対する前記切削刃を当てる角度を保持しつつ、前記外周軌道面よりも深く切削する。
【0010】
前記構成によれば、循環溝面は、外周軌道面よりも幅広となる。
【0011】
また、前記ボールねじ装置のねじ軸の製造方法において、前記溝面形成工程で前記循環溝面を形成するとき、前記素材に対する前記切削刃を当てる角度が変えるように、前記ヘリカルカッターと前記素材の相対的な位置を変化させて、前記切削刃の幅よりも幅広な前記循環溝面を形成する。若しくは、前記ボールねじ装置のねじ軸の製造方法において、前記溝面形成工程で前記循環溝面を形成する際、前記素材に対する前記切削刃の位置を前記軸方向に移動するように、前記ヘリカルカッターと前記素材の相対的な位置を変化させて、前記切削刃の幅よりも幅広な前記循環溝面を形成する。
【0012】
前記構成によれば、幅が広い切削刃を有するヘリカルカッターに交換する手間を省くことができ、ねじ軸の生産性が向上する。
【0013】
また、前記ボールねじ装置のねじ軸の製造方法において、前記循環溝面は、前記外周軌道面よりも幅広である。前記溝面形成工程の切削個所の開始点と終点とが合流する合流点が前記循環溝面にある。
【0014】
本開示の製造方法によれば、合流点となる個所に段差が形成される可能性がある。前記構成によれば、循環溝面に段差が形成される可能性がある。一方で、循環溝面は、幅広であり、ボールとの隙間が生じている。よって、循環溝面に段差が形成されても、ボールの移動が阻害され難い。
【0015】
また、前記ボールねじ装置のねじ軸の製造方法において、前記切削刃の刃先は、ゴシックアーク形状となっていてもよい。
【0016】
また、前記ボールねじ装置のねじ軸の製造方法において、前記溝面形成工程の後に前記素材に熱処理を行う熱処理工程を含む。
【0017】
凹部が形成されたねじ軸を熱処理すると、凹部の開口部の縁部に割れ(いわゆる「焼き割れ」)が発生する可能性がある。一方で、本開示によれば、ねじ軸は凹部が形成されていない。よって、焼き割れを回避できる。また、熱処理により、ねじ軸が所望の硬さと靭性を備える。
【0018】
また、前記ボールねじ装置のねじ軸の製造方法において、前記熱処理工程の後に、前記外周軌道面を研削する研削工程を含む。
【0019】
前記構成によれば、ボールの移動が円滑となり、ボールねじ装置の作動性が向上する。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、凹部が不要なねじ軸を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施形態のボールねじ装置の断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態のねじ軸を外周側から視た図である。
【
図5】
図5は、実施形態のねじ軸の製造方法を示すフロー図である。
【
図6】
図6は、実施形態の準備工程において、素材をマシニングセンタに取り付けた状態を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態のヘリカルカッターを側方から視た側面図である。
【
図9】
図9は、実施形態において素材の外周面に環状の溝面(外周軌道面)を形成するときの図である。
【
図10】
図10は、実施形態において素材の外周面に環状の溝面(循環溝面)を形成するときの図である。
【
図11】
図11は、実施形態において素材の外周面に外周軌道面を形成している状態を示す図である。
【
図12】
図12は、実施形態において素材の外周面に循環溝面を形成している状態を示す図である。
【
図13】
図13は、変形例に係る溝面形成工程の循環溝面を形成している状態の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本開示が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0023】
図1は、実施形態のボールねじ装置の断面図である。
図2は、実施形態のねじ軸を外周側から視た図である。
図3は、
図2のIII-III線矢視断面図である。
図4は、
図2のIV-IV線矢視断面図である。実施形態のねじ軸の製造方法を説明する前に、ねじ軸1を備えるボールねじ装置100について簡単に説明する。
【0024】
図1に示すように、実施形態のボールねじ装置100は、ナット101と、ナット101の内部に配置されたねじ軸1と、複数のボール110(
図1で不図示、
図3と
図4参照)と、を備えている。ナット101は、ねじ軸1の中心線O1を中心に円筒状に形成されている。ナット101の内周面102には、螺旋状の内周軌道面103が形成されている。内周軌道面103は、内周面102の一端から他端まで連続して延在している。
【0025】
ねじ軸1は、中心線O1を中心とする円筒状の軸筒である。ねじ軸1の内周面6に、他の部品(不図示)を嵌合できるようになっている。なお、本開示は、円柱状(中実)のねじ軸1であってもよい。
【0026】
図2に示すように、ねじ軸1の外周面2には、環状の溝面3が4つ設けられている。4つの環状の溝面3は、中心線O1と平行な方向にずれて配置されている。この環状の溝面3は、外周軌道面4と循環溝面5とを有している。つまり、本実施形態では、ねじ軸1の外周面2に、4つの外周軌道面4と、4つの循環溝面5(
図2で3つのみ図示)と、が形成されている。
【0027】
外周軌道面4は、内周軌道面103(
図1参照)と同方向に延在する螺旋状の溝面である。外周軌道面4は、中心線O1を中心に周方向に約一周分、延在している。外周軌道面4と内周軌道面103との間は、軌道となっており、この軌道にボール110が配置されている。また、本実施形態では、外周軌道面4が4つであるため、軌道の数(回路数)も4つとなる。ただし、本開示は、軌道の数(回路数)が1つ以上あればよく、実施形態で例示した4つに限定されない。
【0028】
循環溝面5は、S字状の溝面である。循環溝面5に沿ったS字方向の一端と他端は、外周軌道面4の一端又は他端と接続する出入り口5aとなっている。これにより、軌道の一端から他端に移動したボール110は、循環溝面5に沿って移動し、軌道の一端に循環する。
【0029】
図3に示すように、外周軌道面4の溝形は、ゴシックアーク形状となっている。
図4に示すように、循環溝面5の溝形は、ゴシックアーク形状に形成されている。なお、本開示において、外周軌道面4の溝形と循環溝面5の溝形は、実施形態で示した例に限定されない。
【0030】
図3、
図4に示すように、循環溝面5は、外周軌道面4よりも深く形成されている。また、循環溝面5の溝幅は、外周軌道面4の溝幅よりも大きい。また、循環溝面5の深さ量は、出入り口5a(
図2参照)から中央部5bに近づくにつれて次第に大きくなっている。これにより、循環溝面5に沿って移動するボール110は、内周軌道面103のねじ山に引っ掛かることなく、移動する。次に、ねじ軸1の製造方法を説明する。
【0031】
図5は、実施形態のねじ軸の製造方法を示すフロー図である。
図5に示すように、本実施形態のねじ軸1の製造方法は、準備工程S1と、溝面形成工程S2と、熱処理工程S3と、研削工程S4と、を含む。
【0032】
準備工程S1は、ねじ軸1の素材10を準備し、その素材10をマシニングセンタ20(
図6参照)に取り付ける工程である。
図5に示すように、素材10は、第1中心線O10を中心とする円筒状の鋼材である。第1中心線O10と平行な方向を軸方向と称する。なお、本開示の素材は、鋼材以外の金属材料で形成されていてもよく、特に限定されない。
【0033】
素材10の外周面11及び内周面12は、断面形状が円形となっている。また、素材10は、軸方向の一方を向く第1端面13と、軸方向の他方を向く第2端面14と、を有している。なお、素材10の内周面12は、既にねじ軸1の内周面6と同一となっているため、本製造方法では特に加工しない。ただし、本開示は、素材10の内周面12の加工を適宜行ってもよい。つまり、ねじ軸の製造方法の開始前(準備工程S1の前)に、素材10の内周面12の加工を行ってもよいし、ねじ軸の製造方法の終了後(研削工程S4の後)に、素材10の内周面12の加工を行ってもよい。若しくは、ねじ軸の製造方法の各工程の間に素材10の内周面12の加工する工程を入れてもよい。つまり、本開示では、素材10の内周面12の加工の有無、加工方法及び順番について特に問わない。
【0034】
図6は、実施形態の準備工程において、素材をマシニングセンタに取り付けた状態を示す図である。
図7は、実施形態のヘリカルカッターを側方から視た側面図である。
図8は、実施形態の切削刃の拡大図である。
図6に示すように、マシニングセンタ20は、ヘリカルカッター21と、ヘリカルカッター21を駆動(回転)させる駆動装置(不図示)と、駆動装置(不図示)を支持する昇降装置(不図示)と、姿勢変換装置30と、姿勢変換装置30を移動させるテーブル装置(不図示)を備えている。昇降装置(不図示)と姿勢変換装置30とテーブル装置(不図示)は、ヘリカルカッター21と素材10の相対的な位置を変化させるための装置である。
【0035】
図7に示すように、ヘリカルカッター21は、中心線O22を中心とする円柱状のシャフト22と、シャフト22の先端部に設けられた複数の切削刃23と、を有している切削工具である。切削刃23は、シャフト22の外周面から突出している。また、複数の切削刃23は、シャフト22の外周面に対し、周方向に配置されている。
【0036】
図8に示す仮想線O23は、中心線O22(
図7参照)に直交し、かつ切削刃23の幅方向(中心線O22と平行な方向)の中央部を通過する仮想上の直線である。切削刃23は、仮想線O23を境界として幅方向に対称に形成されている。切削刃23の幅W23は、刃先23bから基部23aに向かって次第に大きくなっている。また、切削刃23の刃先23bは、ゴシックアーク形状となっている。
【0037】
駆動装置(不図示)が駆動すると、ヘリカルカッター21は、シャフト22の中心線O22を中心に回転する。複数の切削刃23のそれぞれは、中心線O22を中心に周方向に移動する。これにより、複数の切削刃23の刃先23bが素材10の外周面11を剥ぎ取り、素材10の外周面11に環状の溝面3が形成される。
【0038】
図6に示すように、昇降装置(不図示)は、ヘリカルカッター21を移動させる装置である。昇降装置(不図示)によってヘリカルカッター21が移動可能な方向は、第3方向Zである。第3方向Zは、中心線O22と平行な方向である。また、本実施形態では、中心線O22は、鉛直方向に延在している。
【0039】
テーブル装置(不図示)は、第1方向Xと第2方向Yに姿勢変換装置30を移動させる装置である。
図6に示す仮想平面K20は、第3方向Zを垂線とする仮想上の平面である。つまり、仮想平面K20は水平面となっている。そして、上記した第1方向Xは、仮想平面K20と平行な方向である。また、第2方向Yは、仮想平面K20と平行であり、かつ第3方向Zから視て、第1方向Xと直交する方向である。
【0040】
姿勢変換装置30は、テーブル装置(不図示)に載置された土台31と、土台31に支持された回動部32と、回動部32に支持された設置台33と、回動部32を回動させる第1駆動部(不図示)と、設置台33を回動させる第2駆動部(不図示)と、を備えている。土台31は、中心線O32回りに回動自在となるように、回動部32を支持している。回動部32は、中心線O33回りに回動自在となるように、設置台33を支持している。
【0041】
設置台33は、中心線O33を中心とする円形状の設置面34を有している。設置面34には、素材10を固定するためのチャック35が設けられている。また、本実施形態では、チャック35は、素材10の内周面12に当接し、素材10を固定している。なお、本開示は、チャック35が素材10の外周面11に当接することで、素材10を固定してもよい。また、ねじ軸(素材)が中実の場合、チャック35は素材10の外周面11に当接して素材10を固定する。
【0042】
素材10がチャック35に固定されると、素材10の第1中心線O10は、中心線O33と同軸となる。第2駆動部が駆動すると、設置台33は、中心線O33を中心に回動する。これにより、素材10も中心線O33を中心に回動し、ヘリカルカッター21により切削される部分が周方向に移動する。また、本実施形態では、素材10の第1端面13(
図6で不図示、
図5参照)が設置面34の方を向き、第2端面14が反対方向を向くように配置されている。
【0043】
回動部32の中心線O32は、水平方向に延在する。よって、第1駆動部(不図示)が駆動すると、回動部32は、中心線O32を中心に回動する。これにより、設置台33に固定された素材10が傾き、素材10の姿勢が変わる。次に溝面形成工程S2を説明する。
【0044】
図9は、実施形態において素材の外周面に環状の溝面(外周軌道面)を形成するときの図である。
図10は、実施形態において素材の外周面に環状の溝面(循環溝面)を形成するときの図である。
図9、
図10に示すように、溝面形成工程S2は、ヘリカルカッター21で素材10の外周面11を切削し、素材10の外周面11に環状の溝面3を形成する工程である。なお、本実施形態では、溝面形成工程S2を4回行い、環状の溝面3を4つ形成する。
【0045】
溝面形成工程S2は、最初に、駆動装置(不図示)を回転させ、ヘリカルカッター21を回転させる。次に、昇降装置(不図示)と姿勢変換装置30とテーブル装置(不図示)を駆動させ、ヘリカルカッター21の切削刃23の刃先23bを素材10の外周面11に当てる。これにより、素材10の外周面11が切削される。
【0046】
続いて、
図9、
図10に示すように、ヘリカルカッター21が素材10の外周面11に沿って周方向に移動するように、昇降装置(不図示)と姿勢変換装置30とテーブル装置(不図示)を駆動させる。これにより、切削個所が周方向に延在する。なお、本実施形態では、素材10の第2端面14と対向する方向から視て、ヘリカルカッター21が素材10を中心に右回り方向に移動している(
図6、
図9、
図10の矢印Aを参照)。
【0047】
また、切削個所は、素材10の外周面11を一周するように、言い換えると、切削個所の始点と溝面の終点とが接続するように、昇降装置(不図示)と姿勢変換装置30とテーブル装置(不図示)を駆動させる。これにより、素材10の外周面11に環状の溝面3が形成される。
【0048】
また、
図9に示すように、ヘリカルカッター21が素材10の外周面11に沿って周方向に移動しているとき、さらにヘリカルカッター21が素材10に対し軸方向の一方(第1端面13の方)に次第に近づくように、昇降装置(不図示)と姿勢変換装置30とテーブル装置(不図示)を駆動させる。言い換えると、
図9に示すように、中心線O22と第1中心線O10のそれぞれと直交する仮想線Pと平行な方向から視て、中心線O22と第1中心線O10とが交差するように(中心線O22と第1中心線O10とが成す角度がθ1となるように)素材10を傾ける。これにより、切削個所が螺旋方向に延在し、外周軌道面4が形成される。
【0049】
また、
図10に示すように、ヘリカルカッター21が素材10の外周面11に沿って周方向に移動しているとき、さらにヘリカルカッター21が素材10に対し軸方向の他方(第2端面14の方)に次第に近づくように、昇降装置(不図示)と姿勢変換装置30とテーブル装置(不図示)を駆動させる。言い換えると、
図10に示すように、中心線O22と第1中心線O10のそれぞれと直交する仮想線Pと平行な方向から視て、仮想線Pを中心に第1中心線O10が矢印Qで示す方向に傾くように(中心線O22と第1中心線O10とが成す角度がθ2となるように)素材10を傾ける。これにより、切削個所が第2端面14の方に延在し、循環溝面5が形成される。
【0050】
よって、上記工程によれば、外周軌道面4と循環溝面5とを連続して形成することができる。なお、本開示において、外周軌道面4と循環溝面5を形成する順番は特に問わない。また、環状の溝面3を形成する際、切削個所の開始点と終点とが合流する合流点は、循環溝面5にあることが好ましい。溝面形成工程S2によれば、切削個所の開始点と終点とが合流する合流点の溝面に段差が発生し易く、ボール110の円滑な転動を阻害する可能性がある。本実施形態の循環溝面5は、溝幅が大きく、ボール110との隙間がある。よって、段差が設けられても、ボール110の転動が阻害され難い。
【0051】
図11は、実施形態において素材の外周面に外周軌道面を形成している状態を示す図である。そのほか、溝面形成工程S2において、
図11に示すように、外周軌道面4を形成しているとき、素材10の外周面11に対し、切削刃23の刃先23bを当てる角度を保持しつつ(変えることなく)、切削する。これによれば、外周軌道面4の溝形は、切削刃23の刃先23bと同一形状のゴシックアーク形状となる。
【0052】
図12は、実施形態において素材の外周面に循環溝面を形成している状態を示す図である。溝面形成工程S2において、循環溝面5を形成しているとき、循環溝面5は、外周軌道面4よりも深くなるように切削する。また、循環溝面5のS字方向の端部から中央部に近づくにつれて次第に深くなるように切削する。さらに、循環溝面5を形成しているとき、素材10の外周面11に対し、切削刃23の刃先23bを当てる角度を保持しつつ(変えることなく)、切削する。これによれば、循環溝面5の溝形は、切削刃23と同一形状のゴシックアーク形状となる。また、循環溝面5は、外周軌道面4よりも幅広となる。
【0053】
上記した溝面形成工程S2を4回実施することで、
図5に示すように、素材10の外周面11に4つの環状の溝面3が形成される。なお、本実施形態では、環状の溝面3を形成するため、ヘリカルカッター21が素材10の外周面11を一周するように、昇降装置(不図示)と姿勢変換装置30とテーブル装置(不図示)を駆動させているが、本開示は、ヘリカルカッター21が素材10の外周面11を複数回周回するようにしてもよい。
【0054】
熱処理工程S3は、素材本体51の外周面52に焼き入れと焼き戻しを行う工程である。また、本開示は、焼き入れ前に浸炭処理を行ってもよい。これにより、ねじ軸1は、所望の硬さと靭性が得られる。なお、本開示は、熱処理の方法について特に問わない。
【0055】
研削工程S4は、外周軌道面4を砥石80で研削する工程である。これにより、ねじ軸1の製造が終了する。なお、本実施形態では、環状の溝面3のうち外周軌道面4のみを研削しているが、本開示は循環溝面5も併せて研削してもよい。
【0056】
以上、本実施形態のねじ軸の製造方法は、ねじ軸1の素材10の外周面11をヘリカルカッター21で切削し、外周面11に環状の溝面3を形成する溝面形成工程S2を含む。素材10の外周面11は、素材10の第1中心線O10を中心に円筒状に形成されている。環状の溝面3は、外周軌道面4と、循環溝面5と、を有する。ヘリカルカッター21は、回転可能なシャフト22と、シャフト22の外周面から突出し、シャフト22の外周面に対し周方向に複数配置され、刃先23bで素材10の外周面11を切削する切削刃23と、を有している。溝面形成工程S2は、ヘリカルカッター21が素材10の外周面11に沿って周方向に移動するように、ヘリカルカッター21と素材10の相対的な位置を変化させて、素材10の外周面11に環状の溝面3を形成する。さらに、ヘリカルカッター21が素材10の外周面11に沿って周方向に移動するとき、ヘリカルカッター21が素材10に対し第1中心線O10と平行な軸方向の一方に次第に移動するように、ヘリカルカッター21と素材10の相対的な位置を変化させて、外周軌道面4を形成する。また、ヘリカルカッター21が素材10に対して軸方向の他方に次第に移動するように、ヘリカルカッター21と素材10の相対的な位置を変化させて、循環溝面5を形成する。
【0057】
実施形態によれば、ねじ軸1に循環溝面5を形成される。このため、コマに設けられた循環溝面5とねじ軸1の外周軌道面4が一致せず、ボール110の移動が円滑に行われない、ということが回避される。
【0058】
また、実施形態のねじ軸の製造方法は、溝面形成工程S2で外周軌道面4を形成するとき、素材10に対する切削刃23を当てる角度を保持し、切削刃23の刃先23bと同一形状の外周軌道面4を形成している。
【0059】
また、実施形態のねじ軸の製造方法において、切削刃23の幅Wは、刃先23bからシャフト22に向かって次第に大きくなっている。溝面形成工程S2で循環溝面5を形成するとき、素材10に対する切削刃23を当てる角度を保持しつつ、外周軌道面4よりも深く切削する。
【0060】
これによれば、循環溝面5は、外周軌道面4よりも幅広となる。
【0061】
また、実施形態のねじ軸1の製造方法は、切削刃23の刃先23bは、ゴシックアーク形状となっている。
【0062】
また、実施形態のねじ軸1の製造方法は、溝面形成工程S2の後に素材10に熱処理を行う熱処理工程S3を含む。
【0063】
熱処理により、ねじ軸1が所望の硬さと靭性を備える。また、ねじ軸1(素材10)に凹部が形成されていないため、凹部の開口部の縁部に焼き割れが発生する、ということがない。
【0064】
また、実施形態のねじ軸1の製造方法は、熱処理工程S3の後に、外周軌道面4を研削する研削工程S5を含む。
【0065】
これによれば、ボール110の移動が円滑となり、ボールねじ装置100の作動性が向上する。
【0066】
以上、実施形態について説明したが、本開示は、実施形態で説明した例に限定されない。例えば、本開示のねじ軸1の製造方法は、熱処理工程S3及び研削工程S4を含んでいなくてもよい。また、本実施形態では、マシニングセンタ20を用いた例を挙げて説明したが、本開示は、マシニングセンタ20を用いなくてもよい。また、本実施形態では、テーブル装置は、姿勢変換装置30を仮想平面K20と平行な方向に移動させているが、本開示は、昇降装置を仮想平面K20と平行な方向に移動させるテーブル装置であってもよい。若しくは、本開示は、単独で(昇降装置を用いることなく)、第1方向Xと第2方向Yと第3方向Zとのそれぞれに方向に移動させることができるテーブル装置であってもよい。
【0067】
図13は、変形例に係る溝面形成工程の循環溝面を形成している状態の拡大図である。また、実施形態では、溝面形成工程S2の循環溝面5を形成するとき、素材10の外周面11に対し、切削刃23の刃先23bを当てる角度を保持しているが、本開示はこれに限定されない。例えば、素材10の外周面11に対し、切削刃23の刃先23bを当てる角度が変わるように(
図13の矢印B参照)、昇降装置(不図示)と姿勢変換装置30とテーブル装置(不図示)を駆動させてもよい。若しくは、素材10の外周面11に対し、切削刃23の刃先23bを当てる角度を保持しつつ切削刃23の位置を軸方向に移動するように(
図13の矢印Cを参照)、昇降装置(不図示)と姿勢変換装置30とテーブル装置(不図示)を駆動させてもよい。これによれば、循環溝面5は、切削刃23よりも幅広となる。よって、幅が広い切削刃を有するヘリカルカッターに交換する手間を省くことができ、ねじ軸の生産性が向上する。
【0068】
なお、本開示は、以下のような構成の組み合わせであってもよい。
(1)
ねじ軸の素材の外周面をヘリカルカッターで切削し、前記外周面に環状の溝面を形成する溝面形成工程を含み、
前記素材の前記外周面は、前記素材の第1中心線を中心に円筒状に形成され、
環状の前記溝面は、外周軌道面と、循環溝面と、を有し、
前記ヘリカルカッターは、
回転可能なシャフトと、
前記シャフトの外周面から突出し、前記シャフトの前記外周面に対し周方向に複数配置され、刃先で前記素材の前記外周面を切削する切削刃と、
を有し、
前記溝面形成工程は、
前記ヘリカルカッターが前記素材の前記外周面に沿って周方向に移動するように、前記ヘリカルカッターと前記素材の相対的な位置を変化させて、前記素材の前記外周面に環状の前記溝面を形成し、
さらに、前記ヘリカルカッターが前記素材の前記外周面に沿って周方向に移動するとき、前記ヘリカルカッターが前記素材に対し前記第1中心線と平行な軸方向の一方に次第に移動するように、前記ヘリカルカッターと前記素材の相対的な位置を変化させて、前記外周軌道面を形成し、かつ、前記ヘリカルカッターが前記素材に対して前記軸方向の他方に次第に移動するように、前記ヘリカルカッターと前記素材の相対的な位置を変化させて、前記循環溝面を形成する
ボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
(2)
前記溝面形成工程で前記外周軌道面を形成するとき、前記素材に対する前記切削刃を当てる角度を保持し、前記切削刃の刃先と同一形状の前記外周軌道面を形成する
(1)に記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
(3)
前記切削刃の幅は、前記刃先から前記シャフトに向かって次第に大きくなっており、
前記溝面形成工程で前記循環溝面を形成するとき、前記素材に対する前記切削刃を当てる角度を保持しつつ、前記外周軌道面よりも深く切削する
(1)又は(2)に記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
(4)
前記溝面形成工程で前記循環溝面を形成するとき、前記素材に対する前記切削刃を当てる角度が変えるように、前記ヘリカルカッターと前記素材の相対的な位置を変化させて、前記切削刃の幅よりも幅広な前記循環溝面を形成する
(1)又は(2)に記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
(5)
前記溝面形成工程で前記循環溝面を形成する際、前記素材に対する前記切削刃の位置を前記軸方向に移動するように、前記ヘリカルカッターと前記素材の相対的な位置を変化させて、前記切削刃の幅よりも幅広な前記循環溝面を形成する
(1)又は(2)に記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
(6)
前記循環溝面は、前記外周軌道面よりも幅広であり、
前記溝面形成工程の切削個所の開始点と終点とが合流する合流点が前記循環溝面にある
(1)から(5)のいずれか1つに記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
(7)
前記切削刃の刃先は、ゴシックアーク形状となっている
(1)から(6)のいずれか1つに記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
(8)
前記溝面形成工程の後に前記素材に熱処理を行う熱処理工程を含む
(1)から(7)のいずれか1つに記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
(9)
前記熱処理工程の後に、前記外周軌道面を研削する研削工程を含む
(8)に記載のボールねじ装置のねじ軸の製造方法。
【符号の説明】
【0069】
1 ねじ軸
2 外周面
3 環状の溝面
4 外周軌道面
5 循環溝面
10 素材
11 外周面
13 第1端面
14 第2端面
20 マシニングセンタ
21 ヘリカルカッター
22 シャフト
23 切削刃
23b 刃先
30 姿勢変換装置
100 ボールねじ装置
101 ナット
110 ボール
103 内周軌道面
O10 第1中心線