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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025153019
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】監視装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/34 20200101AFI20251002BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20251002BHJP
   H02K 11/27 20160101ALI20251002BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20251002BHJP
【FI】
G01R31/34 A
G01R19/00 A
G01R19/00 M
H02K11/27
H02P29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024055275
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(72)【発明者】
【氏名】三浦 進平
(72)【発明者】
【氏名】小川 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】荒木 剛
(72)【発明者】
【氏名】横山 貴裕
【テーマコード(参考)】
2G035
2G116
5H501
5H611
【Fターム(参考)】
2G035AA04
2G035AA11
2G035AB07
2G035AC10
2G035AD19
2G035AD28
2G035AD65
2G116BA03
2G116BB02
2G116BB10
2G116BD06
5H501CC05
5H501DD04
5H501GG11
5H501HA09
5H501HB07
5H501JJ25
5H501LL22
5H501LL51
5H501MM09
5H611AA01
5H611BB01
5H611PP02
5H611QQ05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】三相交流に接続されるモータを搭載した機器について、劣化を正確に診断できる監視装置を提供する。
【解決手段】モータ30を搭載した機器の監視装置100であって、モータは三相交流と接続され、三相交流の1相分の電流を取得する、三相交流が供給される線を通す方式の電流検出器CT1、CT2を2つ備え、2つの電流検出器から2相分の電流を取得する取得部111と、取得部から出力された2相分の電流の位相差が、2つの電流検出器を同一方向に取り付けた場合の位相差よりも小さい場合に、取得した2相分の電流のうち1相分の正負の極性を補正する補正部112と、補正部による補正後の2相分の電流から残り1相分の電流を算出する算出部113と、算出部により算出された残り1相分の電流を少なくとも含む情報を用いて機器の劣化に関する情報を出力する出力部115と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを搭載した機器の監視装置であって、
前記モータは三相交流と接続され、
前記三相交流の1相分の電流を取得する、当該三相交流が供給される線を通す方式の電流検出器を2つ備え、
2つの前記電流検出器から2相分の電流を取得する取得部と、
前記取得部から出力された2相分の電流の位相差が、2つの前記電流検出器を同一方向に取り付けた場合の位相差よりも小さい場合に、取得した当該2相分の電流のうち1相分の正負の極性を補正する補正部と、
前記補正部による補正後の前記2相分の電流から残り1相分の電流を算出する算出部と、
前記算出部により算出された前記残り1相分の電流を少なくとも含む情報を用いて前記機器の劣化に関する情報を出力する出力部と、
を備える監視装置。
【請求項2】
前記補正部による補正後の前記2相分の電流と、前記算出部により算出された前記残り1相分の電流とを用いて、前記機器の劣化に関する情報を出力する、請求項1に記載の監視装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記電流検出器から取得した2相分の電流のオフセットをそれぞれ補正するオフセット補正部を備える、請求項1または2に記載の監視装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記取得部から出力された前記2相分の電流の合成波の振幅が、当該取得部から出力された当該電流の振幅よりも大きくなった場合に、当該取得部から出力された当該2相分の電流の位相差が、2つの前記電流検出器を同一方向に取り付けた場合の位相差よりも小さいと判定する、請求項1または2に記載の監視装置。
【請求項5】
前記取得部は、前記電流検出器から取得した2相分の電流のうち、少なくとも一方のゲインを補正するゲイン補正部を備える、請求項4に記載の監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電気駆動される回転機械の電気的特徴量に基づき、前記回転機械を搭載する機器の機械要素の異常に関する判断を行う判断部を備え、前記電気的特徴量は、前記回転機械を駆動する電動機の電流と相関のある信号の特定の周波数成分であり、前記特定の周波数成分は、前記回転機械の回転周波数の所定の正の整数倍の成分であり、前記判断部は、前記回転機械の回転周波数の変化による、前記機械要素の異常と前記電気的特徴量との関係の変動を考慮して、前記判断を行う、異常判断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-28644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三相交流に接続されるモータを搭載した機器の劣化を診断する場合に、作業スペースやコストの観点から、2つの電流検出器を用いて三相交流の2相分の電流を取得し、取得した2相分の電流から残り1相分の電流を算出して機器の劣化を診断することがある。2相分に対する電流検出器の取り付け方向を正しい関係で設置しなければ残り1相分の電流を正しく算出することができず、算出した残り1相分の電流を用いて劣化を診断する場合に正確な診断ができない。
本開示は、三相交流に接続されるモータを搭載した機器について、2相分の電流を2つの電流検出器により取得して残り1相分の電流を算出し、算出した残り1相分の電流を用いて機器の劣化を診断する場合に、2相分に対する電流検出器の取り付け方向に関して補正をしないで機器の劣化を診断する場合よりも正確に診断を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の監視装置は、モータを搭載した機器の監視装置であって、前記モータは三相交流と接続され、前記三相交流の1相分の電流を取得する、当該三相交流が供給される線を通す方式の電流検出器を2つ備え、2つの前記電流検出器から2相分の電流を取得する取得部と、前記取得部から出力された2相分の電流の位相差が、2つの前記電流検出器を同一方向に取り付けた場合の位相差よりも小さい場合に、取得した当該2相分の電流のうち1相分の正負の極性を補正する補正部と、前記補正部による補正後の前記2相分の電流から残り1相分の電流を算出する算出部と、前記算出部により算出された前記残り1相分の電流を少なくとも含む情報を用いて前記機器の劣化に関する情報を出力する出力部と、を備える。この場合、三相交流に接続されるモータを搭載した機器について、2相分の電流を2つの電流検出器により取得して残り1相分の電流を算出し、算出した残り1相分の電流を用いて機器の劣化を診断する場合に、2相分に対する電流検出器の取り付け方向に関して補正をしないで機器の劣化を診断する場合よりも正確に診断を行うことができる。
また、本開示の監視装置は、前記補正部による補正後の前記2相分の電流と、前記算出部により算出された前記残り1相分の電流とを用いて、前記機器の劣化に関する情報を出力する。この場合、1相分の電流から劣化診断を行う場合よりも正確に診断を行うことができる。
ここで、前記取得部は、前記電流検出器から取得した2相分の電流のオフセットをそれぞれ補正するオフセット補正部を備える。この場合、取得した2相分の電流の位相差を正確に算出することができる。
また、前記補正部は、前記取得部から出力された前記2相分の電流の合成波の振幅が、当該取得部から出力された当該電流の振幅よりも大きくなった場合に、当該取得部から出力された当該2相分の電流の位相差が、2つの前記電流検出器を同一方向に取り付けた場合の位相差よりも小さいと判定する。この場合、位相差を算出することなく、取得した2相分の電流の位相差が2つの当該電流検出器を同一方向に取り付けた場合の位相差よりも小さいか否かを判定することができる。
また、前記取得部は、前記電流検出器から取得した2相分の電流のうち、少なくとも一方のゲインを補正するゲイン補正部を備える。この場合、取得した2相分の電流の合成波を正確に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本実施の形態に係る監視装置を適用した監視システムの構成例を示す図である。
図2】本実施の形態に係る監視装置の構成例を示す図である。
図3】取得部から出力された2相分の電流の波形を示す図であり、(a)は2つの電流センサが同一方向に取り付けられた場合の波形を、(b)は2つの電流センサが互い違いの方向に取り付けられた場合の波形を示す。
図4】位相差の算出方法を説明する図であり、(a)は第1電流センサおよび第2電流センサにより検出された電流の波形の例を、(b)は各検出時間における電流の振幅の測定値の例を示す図である。
図5】本実施の形態に係る監視装置によるモータを搭載した機器の劣化の診断処理の流れの例を示す図である。
図6】取得部から出力された2相分の電流を合成した合成波の波形を示す図であり、(a)は2つの電流センサが同一方向に取り付けられた場合の合成波の波形を、(b)は2つの電流センサが互い違いの方向に取り付けられた場合の合成波の波形を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、添付図面を参照して、実施の形態について詳細に説明する。
<監視システムの構成>
図1は、本実施の形態に係る監視装置100を適用した監視システム1の構成例を示す図である。
監視システム1は、インバータ装置10と、モータ30と、監視装置100とを備える。
【0008】
インバータ装置10は、例えば三相の交流電源(商用電源)と接続され、交流電源から供給される交流電力によりモータ30を駆動する。インバータ装置10の構成についての詳細は後述する。
【0009】
モータ30は、例えば、IPMモータ(Interior Permanent Magnet Motor)である。モータ30は、例えば空気調和装置に備えられた冷媒回路の圧縮機を駆動する。
インバータ装置10とモータ30とは、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwがそれぞれ流れる3本の電線21U、21V、21Wにより接続される。以下において、3本の電線21U、21V、21Wを区別しない場合、電線21と呼ぶことがある。
【0010】
監視装置100は、モータ30を搭載した機器の劣化を診断する。モータ30を搭載した機器とは、例えば圧縮機である。機器の劣化は、例えば、モータ30の軸受の摩耗(以下、「軸受摩耗」)、モータ30の軸受の摩擦変動の増加、地絡あるいはレアショートに至る絶縁劣化等を含む。また、機器がモータ30を備える圧縮機である場合、機器の劣化は、圧縮機の油シール性の低下、圧縮機の圧縮室に液冷媒が入り込み圧縮される液圧縮等を含む。
【0011】
監視装置100は、電流を検出する第1電流センサCT1と、第2電流センサCT2とを備える。以下において、第1電流センサCT1、第2電流センサCT2を区別しない場合、電流センサCTと呼ぶことがある。また、第1電流センサCT1、第2電流センサCT2をあわせて2つの電流センサCTと呼ぶことがある。図1では、2つの電流センサCTを、モータ30とモータ30を駆動するインバータ装置10との間の電線21に取り付ける場合について示す。電流センサCTは電流検出器の一例である。
【0012】
第1電流センサCT1、第2電流センサCT2は、3本の電線21のうち何れか2つに取り付けられ、取り付けられた電線21の電流を検出する。図1では第1電流センサCT1が電線21Uに、第2電流センサCT2が電線21Vに取り付けられた場合について示す。電流センサCTは、電線21を通す方式の電流検出器であり、例えばクランプ式で電線21をはさみ込むことにより取り付け/取り外しが可能なカレントトランスである。カレントトランスは、電線21の周囲に発生する磁場を検出することにより電線21を流れる電流を検出する。
図1に示す例においては、電流センサCTは円形状であり、支点Sを中心に電流センサCTの先端部分が回転することにより電流センサCTの先端部分が開き、電線21に取り付け/取り外しが可能となっている。
【0013】
監視装置100は、例えばサービスエンジニアにより使用される。サービスエンジニアは監視装置100を携帯して測定箇所へ行き、電流センサCTを電線21に取り付けて電流を検出し、診断対象の機器の劣化の診断結果を得る。
このように電流センサCTを電線21に取り付けて電流を検出する場合、2つの電流センサCTが正しい取り付け方向の関係と異なって取り付けられることが起こり得る。本実施形態においては、監視装置100が図2に示す構成を有することにより、2つの電流センサCTが正しい取り付け方向の関係と異なって取り付けられた場合においても機器の劣化を正確に診断することができる。
【0014】
図2は、本実施の形態に係る監視装置100の構成例を示す図である。図2において、インバータ装置10の構成についても合わせて示す。
インバータ装置10は、コンバータ回路11と、リアクトル12と、コンデンサ13と、インバータ回路14とを備える。コンバータ回路11は、交流を直流に変換する回路である。コンバータ回路11は、例えば、ダイオードブリッジ回路である。コンデンサ13は、コンバータ回路11の出力を平滑化する。インバータ回路14は、コンデンサ13によって平滑化された直流を、所定周波数及び所定電圧の交流に変換する。インバータ回路14は、例えば、ブリッジ接続された複数(ここでは6個)のスイッチング素子を備える。スイッチング素子は、入力された直流をスイッチングすることで、直流を三相交流に変換する。変換された三相交流がモータ30を駆動する。
【0015】
監視装置100は、取得部111と、補正部112と、算出部113と、診断部114と、出力部115とを備える。
取得部111は、2つの電流センサCTから2相分の電流を取得し、以下に記載する変換および補正を行った後に補正された2相分の電流を補正部112に出力する。取得部111は、A/D変換部116と、電流変換部117と、オフセット補正部118と、ゲイン補正部119とを備える。
【0016】
A/D変換部116は、2つの電流センサCTにより検出された電流をアナログ信号として取得し、取得したアナログ信号をA/D変換によりデジタル化する。
電流変換部117は、A/D変換部116によりデジタル化された信号を電流次元に変換する。
【0017】
オフセット補正部118は、2つの電流センサCTから取得した2相分の電流のオフセットを補正する。2つの電流センサCTのオフセットにずれがあると、取得した電流の平均レベルを0Aと認識できない。オフセット補正部118は、例えば電流が流れていないときの検出値を0Aに合わせることでオフセットを補正する。
ゲイン補正部119は、2つの電流センサCTから取得した2相分の電流のゲインを補正する。2つの電流センサCTのゲインにずれがあると、取得した電流の振幅レベルを本来と異なって認識してしまう。ゲイン補正部119は、例えば取得した2相分の電流のうち一方を補正し、もう一方の電流と振幅を揃えることでゲインを補正する。
【0018】
補正部112は、取得部111から出力された2相分の電流の位相差が、2つの電流センサCTを同一方向に取り付けた場合の位相差よりも小さい場合に、取得した2相分の電流のうち1相分の正負の極性を補正する。補正部112は、位相差判定部120と極性補正部121とを備える。
位相差判定部120は、取得部111から出力された2相分の電流の位相差が、2つの電流センサCTを同一方向に取り付けた場合の位相差よりも小さいか否かを判定する。
極性補正部121は、取得部111から出力された2相分の電流のうち1相分の正負の極性を補正する。
【0019】
算出部113は、2つの電流センサCTにより検出された2相分の電流から残り1相分の電流を算出する。
診断部114は、算出部113により算出された残り1相分の電流を少なくとも含む情報を用いてモータ30を備えた機器の劣化を診断する。診断部114は、例えば極性補正部121による補正後の2相分の電流と、算出部113により算出された残り1相分の電流とを用いて機器の劣化に関する情報を出力する。診断部114は、例えば3相分の電流から電線21を流れる3相電流の電流ベクトルを算出し、算出した電流ベクトルに基づいて機器の劣化を診断する。電流ベクトルIaは、Ia=√(Iu+Iv+Iw)と算出することができる。
【0020】
出力部115は、モータ30を備えた機器の劣化に関する情報を出力する。出力部115は、例えば監視装置100が備える表示画面(不図示)に機器の劣化に関する情報を出力する。
取得部111、補正部112、算出部113、診断部114、出力部115の各機能は、例えば、マイクロコンピュータと、それを動作させるためのソフトウエアが格納されたメモリデバイス等を用いて構成することができる。
【0021】
<電流の算出>
3本の電線21U、21V、21Wを流れるU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwは、Iu+Iv+Iw=0の関係が成立する。そのため、2相分の電流を検出することで、残り1相分の電流を算出することができる。
ここで、電流センサCTは測定する電流に対して測定方向が決まっており、電流センサCTが逆向きに取り付けられると測定値は-1をかけた値となる。そのため、2つの電流センサCTの取り付け方向を正しい関係で取り付けなければ残り1相分の電流を正しく算出することができない。
【0022】
第1電流センサCT1が電線21Uに、第2電流センサCT2が電線21Vに取り付けられ、2つの電流センサCTにより検出された2相分の電流から残り1相分の電流を算出する場合について考える。
2つの電流センサCTが同一方向に取り付けられている場合、電線21Wを流れるW相電流Iwは、Iw=-(Iu+Iv)として正しく算出される。一方で、2つの電流センサCTが互い違いの方向に取り付けられている場合(ここでは、電線21Vに取り付けられた電流センサCTが逆向きであるとする)、W相電流Iwは、Iw=-(Iu-Iv)として算出されてしまい、正しい値とならない。この場合、算出したW相電流Iwを用いてモータ30を搭載した機器の劣化を診断しても正確な診断とならない。
【0023】
そこで、本実施の形態においては、モータ30を搭載した機器の劣化の診断に際して、取得した電流の正負の極性を2つの電流センサCTの取り付け方向に応じて補正し、補正後の電流を用いて劣化の診断を行う。
2つの電流センサCTの取り付け方向は、例えば取得部111から出力された2相分の電流の位相差から判定する。
【0024】
<位相差の算出>
図3は、取得部111から出力された2相分の電流の波形を示す図であり、(a)は2つの電流センサCTが同一方向に取り付けられた場合の波形を、(b)は2つの電流センサCTが互い違いの方向に取り付けられた場合の波形を示す。図3(a)、(b)に示す2つの波形は、2つの電流センサCTによりそれぞれ検出された相電流の波形である。図3において、横軸は時間を、縦軸は振幅を示し、横軸は電流周期の半分を1とし、縦軸は電流波形の振幅を1としている。
【0025】
図3(a)に示すように、2つの電流センサCTが同一方向に取り付けられた場合には、検出された2相分の電流の位相差は、2/3πとなる。一方、図3(b)に示すように、2つの電流センサCTが互い違いの方向に取り付けられた場合には、検出された2相分の電流の位相差は、π/3になる。2つの電流センサCTが同一方向に取り付けられた場合の位相差(2/3π)は、2つの電流センサCTが互い違いの方向に取り付けられた場合に検出される2相分の電流の位相差(π/3)よりも大きい。つまり、2つの電流センサCTにより検出された2相分の電流の位相差が、2つの電流センサCTを同一方向に取り付けた場合の位相差よりも小さい場合、2つの電流センサCTは互い違いの方向に取り付けられていることが分かる。
【0026】
取得部111から出力された2相分の電流の位相差は位相差判定部120により算出される。位相差判定部120は、例えば取得部111から出力された2相分の電流の正負が変わるゼロクロスポイントを算出し、ゼロクロスポイントから位相差を算出する。
図4は、位相差の算出方法を説明する図であり、(a)は第1電流センサCT1および第2電流センサCT2により検出された電流の波形の例を、(b)は各検出時間における電流の振幅の測定値の例を示す図である。図4(a)に示す2つの波形は、図4(b)に示す各検出時間における2つの電流センサCTによる測定値に基づいてそれぞれ算出されたものである。図4(a)において、横軸は時間を、縦軸は振幅を示し、横軸は電流周期の半分を1とし、縦軸は電流波形の振幅を1としている。
【0027】
図4(a)において、t1+は第1電流センサCT1により検出した電流が正から負に変わるゼロクロスポイントを、t1-は第1電流センサCT1により検出した電流が負から正に変わるゼロクロスポイントを示す。図4(a)においてt1-は第1電流センサCT1により検出した電流におけるt1+の次のゼロクロスポイントである。また、t2+は第2電流センサCT2により検出した電流が正から負に変わるゼロクロスポイントを示す。これらゼロクロスポイントはそれぞれ電流の正負が変わる直前、直後の検出時間から算出される。例えばt1+を算出する場合、第1電流センサCT1により検出した電流の正負が変わる直前、直後の隣り合う検出時間をそれぞれt+、t-とし、そのときの電流をi+、i-とすると、t1+ = (t- i+- t+ i- ) / ( i+- i-)と算出することができる。図4(b)に示す例においては、t+ = 0.666667、t- = 0.833333、i+ = 0.244688、i- = -0.2729であり、t1+ = 0.745458と算出される。同様にして、t1-、t2+が算出される。
【0028】
算出された第1電流センサCT1により検出した電流の二つのゼロクロスポイントの時間差は電流周期Tの半分であることから、電流周期Tは、T = 2 | t1+ - t1- |と算出することができる。ゼロクロスポイントt1+と、ゼロクロスポイントt2+と、電流周期Tとから、位相差φは、φ = 2π | t1+ - t2+ | / Tと算出することができる。
【0029】
<劣化の診断>
図5は、本実施の形態に係る監視装置100によるモータ30を搭載した機器の劣化の診断処理の流れの例を示す図である。図5では第1電流センサCT1が電線21Uに、第2電流センサCT2が電線21Vに取り付けられた場合について示す。
図5において、まず、監視装置100は、電流センサCTにより電流を検出する(ステップS101)。検出された電流はアナログ信号として取得部111のA/D変換部116により取得される。そして、A/D変換部116がA/D変換により、取得した信号をデジタル化する(ステップS102)。
【0030】
次に、電流変換部117が、A/D変換部116によりデジタル化された信号を電流次元に変換する(ステップS103)。変換された信号はオフセット補正部118に出力される。
オフセット補正部118は、取得した2相分の電流のオフセットを補正する(ステップS104)。オフセット補正部118は、例えば電流が流れていないときの検出値を0Aに合わせることでオフセットを補正する。
【0031】
次に、ゲイン補正部119は、取得した2相分の電流のゲインを補正する(ステップS105)。ゲイン補正部119は、例えば取得した2相分の電流のうち一方を補正し、もう一方の電流と振幅を揃えることでゲインを補正する。
【0032】
次に、位相差判定部120は、取得部111から出力された2相分の電流の位相差が、2つの電流センサCTを同一方向に取り付けた場合の位相差よりも小さいか否かを判定する(ステップS106)。位相差判定部120は、例えば取得部111から出力された2相分の電流の正負が変わるゼロクロスポイントを算出し、ゼロクロスポイントから位相差を算出する。
【0033】
位相差判定部120が、取得部111から出力された2相分の電流の位相差が、2つの電流センサCTを同一方向に取り付けた場合の位相差よりも小さいと判定した場合(ステップS106でYES)、極性補正部121は、取得部111から出力された2相分の電流のうち1相分の正負の極性を補正する(ステップS107)。極性補正部121は、例えば取得部111から出力された2相分の電流のうち1相分の電流に対し-1をかけることにより正負の極性を補正する。
一方、位相差判定部120が、取得部111から出力された2相分の電流の位相差が、2つの電流センサCTを同一方向に取り付けた場合の位相差よりも小さくないと判定した場合(ステップS106でNO)、ステップS108の処理に移る。
【0034】
次に、算出部113が残り1相分の電流を算出する(ステップS108)。算出部113は、補正部112から出力された2相分の電流を用いて残り1相分の電流を算出する。2つの電流センサCTが互い違いの方向に取り付けられている場合には、算出部113は、極性補正部121による補正後の2相分の電流から残り1相分の電流を算出することとなる。
【0035】
次に、診断部114が、算出部113により算出された残り1相分の電流を少なくとも含む情報を用いてモータ30を備えた機器の劣化を診断する(ステップS109)。
【0036】
例えば診断部114は電流ベクトルを算出し、算出した電流ベクトルに基づいて例えばモータ30の軸受摩耗の進行度を判定する。電流ベクトルと軸受摩耗の進行度との関係は、例えば、実験やシミュレーションから予め規定される。診断部114は、算出した電流ベクトルと、予め規定された電流ベクトルと軸受摩耗の進行度との関係とからモータ30の軸受摩耗の進行度を判定する。
また、例えば、実験やシミュレーションから機器に異常が生じていると判断可能な電流ベクトルの閾値が予め規定され、出力部115が機器に異常が生じているか否かを判定する構成としてもよい。
【0037】
次に、出力部115が、モータ30を備えた機器の劣化に関する情報を出力する(ステップS110)。機器の劣化に関する情報とは、例えばモータ30の軸受摩耗の進行度やモータ30の軸受の摩擦変動の増加度等の劣化の進行度合いを示す情報を含む。
【0038】
なお、本実施の形態においては、オフセット補正部118、ゲイン補正部119はA/D変換部116、電流変換部117による変換後の2相分の電流のオフセット、ゲインをそれぞれ補正したが、これに限定されない。例えば、オフセット補正部118、ゲイン補正部119は、A/D変換部116による変換後の2相分の電流のオフセットおよびゲインを補正する構成としてもよい。
【0039】
また、図5のステップS106において、位相差判定部120は取得部111から出力された2相分の電流を合成した合成波の振幅から位相差を判定してもよい。
図6は、取得部111から出力された2相分の電流を合成した合成波の波形を示す図であり、(a)は2つの電流センサCTが同一方向に取り付けられた場合の合成波の波形を、(b)は2つの電流センサCTが互い違いの方向に取り付けられた場合の合成波の波形を示す。図6において、横軸は時間を、縦軸は振幅を示し、横軸は電流周期の半分を1とし、縦軸は取得部111から出力された相電流の電流波形の振幅を1としている。
【0040】
取得部111から出力された2相分の電流の波形は図3(a)、(b)に示す通りであり、図6(a)は図3(a)に示す2相分の電流を合成した合成波の波形を、図6(b)は図3(b)に示す2相分の電流を合成した合成波の波形を示す。
2つの電流センサCTが同一方向に取り付けられた場合の合成波の振幅は図6(a)に示すように取得部111から出力された電流の振幅(図3(a)参照)と等しい。また、2つの電流センサCTが互い違いの方向に取り付けられた場合の合成波の振幅は図6(b)に示すように取得部111から出力された電流(図3(b)参照)の振幅の√3倍となる。
【0041】
以上から、位相差判定部120は、取得部111から出力された2相分の電流の合成波の振幅が取得部111から出力された電流の振幅よりも大きくなった場合に、2つの電流センサCTを同一方向に取り付けた場合よりも位相差が小さいと判定することができる。
【0042】
また、図5のステップS109において、診断部114は、3相分の電流から電線21を流れる3相電流の逆相電流ベクトルを算出し、算出した逆相電流ベクトルを用いて機器の劣化を診断してもよい。逆相電流ベクトルI2は、
と算出することができる。ここで、aはベクトルオペレータであり、
である。
また、診断部114は、算出部113により算出された残り1相分の電流のみを用いて機器の劣化を診断してもよい。
【0043】
<効果>
本開示の監視装置100は、モータ30を搭載した機器の監視装置100であって、前記モータ30は三相交流と接続され、前記三相交流の1相分の電流を取得する、当該三相交流が供給される電線21を通す方式の電流センサCTを2つ備え、2つの前記電流センサCTから2相分の電流を取得する取得部111と、前記取得部111から出力された2相分の電流の位相差が、2つの前記電流センサCTを同一方向に取り付けた場合の位相差よりも小さい場合に、取得した当該2相分の電流のうち1相分の正負の極性を補正する補正部112と、前記補正部112による補正後の前記2相分の電流から残り1相分の電流を算出する算出部113と、前記算出部113により算出された前記残り1相分の電流を少なくとも含む情報を用いて前記機器の劣化に関する情報を出力する出力部115と、を備える。この場合、三相交流に接続されるモータ30を搭載した機器について、2相分の電流を2つの電流センサCTにより取得して残り1相分の電流を算出し、算出した残り1相分の電流を用いて機器の劣化を診断する場合に、2相分に対する電流センサCTの取り付け方向に関して補正をしないで機器の劣化を診断する場合よりも正確に診断を行うことができる。
また、本開示の監視装置100は、前記補正部112による補正後の前記2相分の電流と、前記算出部113により算出された前記残り1相分の電流とを用いて、前記機器の劣化に関する情報を出力する。この場合、1相分の電流から劣化診断を行う場合よりも正確に診断を行うことができる。
ここで、前記取得部111は、前記電流センサCTから取得した2相分の電流のオフセットをそれぞれ補正するオフセット補正部118を備える。この場合、取得した2相分の電流の位相差を正確に算出することができる。
また、前記補正部112は、前記取得部111から出力された前記2相分の電流の合成波の振幅が、当該取得部111から出力された当該電流の振幅よりも大きくなった場合に、当該取得部111から出力された当該2相分の電流の位相差が、2つの前記電流センサCTを同一方向に取り付けた場合の位相差よりも小さいと判定する。この場合、位相差を算出することなく、取得した2相分の電流の位相差が2つの前記電流センサCTを同一方向に取り付けた場合の位相差よりも小さいか否かを判定することができる。
また、前記取得部111は、前記電流センサCTから取得した2相分の電流のうち、少なくとも一方のゲインを補正するゲイン補正部119を備える。この場合、取得した2相分の電流の合成波を正確に算出することができる。
【0044】
以上、実施の形態について説明したが、本開示の技術的範囲は上記の実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記の実施の形態を2つ以上組み合わせたものや、上記の実施の形態に種々の変更または改良を加えたものも、本開示の技術的範囲に含まれることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0045】
10…インバータ装置、21…電線、30…モータ、100…監視装置、111…取得部、112…補正部、113…算出部、114…診断部、115…出力部、CT…電流センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6