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特開2025-15309ウイルス凝集剤、ウイルス阻害剤及びウイルスの除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015309
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】ウイルス凝集剤、ウイルス阻害剤及びウイルスの除去方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/437 20060101AFI20250123BHJP
   A61K 31/375 20060101ALI20250123BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20250123BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20250123BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20250123BHJP
   C12Q 1/22 20060101ALI20250123BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20250123BHJP
   A01N 43/90 20060101ALI20250123BHJP
   A01N 43/08 20060101ALI20250123BHJP
   A01N 37/44 20060101ALI20250123BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20250123BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20250123BHJP
   A23L 33/00 20160101ALN20250123BHJP
【FI】
A61K31/437
A61K31/375
A61K47/18
A61K47/22
A61P31/12
C12Q1/22 ZNA
A01P1/00
A01N43/90 103
A01N43/90 104
A01N43/08 H
A01N37/44
A01N25/00 101
C12Q1/686 Z
A23L33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118638
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】モハマドイシャク ヌルシャフィカ
(72)【発明者】
【氏名】池本 一人
【テーマコード(参考)】
4B018
4B063
4C076
4C086
4H011
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB05
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB09
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE04
4B018LE05
4B018MD07
4B018ME14
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR41
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS28
4B063QX02
4C076BB01
4C076CC35
4C076DD51
4C076DD59
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA52
4C086NA05
4C086ZB33
4H011AA04
4H011BA06
4H011BB09
4H011BC06
4H011BC08
4H011DF04
(57)【要約】
【課題】一般的なフィルターでウイルスを除去することを可能にするウイルス凝集剤及びウイルスの除去方法、並びにPQQ単独使用に比べてウイルス阻害率が高められたウイルス阻害剤を提供する。
【解決手段】ピロロキノリンキノン等を含むウイルス凝集剤、ピロロキノリンキノン等とアスコルビン酸等とを含むウイルス阻害剤、及びウイルスを含む溶液にピロロキノリンキノン等を添加する第1の工程を含むウイルスの除去方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩を含む、ウイルス凝集剤。
【請求項2】
アスコルビン酸及び/又はその塩をさらに含む、請求項1に記載のウイルス凝集剤。
【請求項3】
酸性アミノ酸、中性アミノ酸及びそれらの塩から選ばれる1つ以上のアミノ酸をさらに含む、請求項2に記載のウイルス凝集剤。
【請求項4】
前記酸性アミノ酸を含み、前記酸性アミノ酸としてグルタミン酸を含む、請求項3に記載のウイルス凝集剤。
【請求項5】
前記中性アミノ酸を含み、前記中性アミノ酸としてグリシンを含む、請求項3に記載のウイルス凝集剤。
【請求項6】
前記ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩の合計含量:前記アスコルビン酸及び/又はその塩の合計含量の質量比が、1:[1~100]である、請求項2に記載のウイルス凝集剤。
【請求項7】
前記ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩の合計含量:前記アスコルビン酸及び/又はその塩の合計含量:前記1つ以上のアミノ酸の合計含量の質量比が、1:[1~100]:[1~100]である、請求項3に記載のウイルス凝集剤。
【請求項8】
前記ウイルスが、コロナウイルスである、請求項1~7のいずれか1項に記載のウイルス凝集剤。
【請求項9】
ウイルス除去用前処理剤として用いられる、請求項1~7のいずれか1項に記載のウイルス凝集剤。
【請求項10】
ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩と、アスコルビン酸及び/又はその塩とを含む、ウイルス阻害剤。
【請求項11】
酸性アミノ酸、中性アミノ酸及びそれらの塩から選ばれる1つ以上のアミノ酸をさらに含む、請求項10に記載のウイルス阻害剤。
【請求項12】
前記酸性アミノ酸を含み、前記酸性アミノ酸としてグルタミン酸を含む、請求項11に記載のウイルス阻害剤。
【請求項13】
前記中性アミノ酸を含み、前記中性アミノ酸としてグリシンを含む、請求項11に記載のウイルス阻害剤。
【請求項14】
前記ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩の合計含量:前記アスコルビン酸及び/又はその塩の合計含量の質量比が、1:[1~100]である、請求項10に記載のウイルス阻害剤。
【請求項15】
前記ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩の合計含量:前記アスコルビン酸及び/又はその塩の合計含量:前記1つ以上のアミノ酸の合計含量の質量比が、1:[1~100]:[1~100]である、請求項11に記載のウイルス阻害剤。
【請求項16】
前記ウイルスが、コロナウイルスである、請求項10~15のいずれか1項に記載のウイルス阻害剤。
【請求項17】
ウイルスを含む溶液に、ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩を添加する第1の工程を含むウイルスの除去方法。
【請求項18】
前記第1の工程後に、前記溶液を0.1~2マイクロメートルの細孔径のフィルターでろ過するろ過工程をさらに含む、請求項17に記載のウイルスの除去方法。
【請求項19】
前記ろ過工程前に、前記溶液に、アスコルビン酸及び/又はその塩を添加する第2の工程を含む、請求項18に記載のウイルスの除去方法。
【請求項20】
前記ろ過工程前に、前記溶液に、酸性アミノ酸、中性アミノ酸及びそれらの塩から選ばれる1つ以上のアミノ酸を添加する第3の工程を含む、請求項19に記載のウイルスの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス凝集剤、ウイルス阻害剤及びウイルスの除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルス等のウイルスは、ヒトに限らず、ネコ、イヌ、ウマ等の動物にも感染することが知られている。例えば、ヒトに感染するコロナウイルスは現在までに7種類が確認されており、ネコ等に感染するコロナウイルスも確認されている。
【0003】
これらのウイルスは、その大きさが20~100nm前後であるため、バクテリアでは可能な「一般的なフィルターを使用したろ過滅菌」をすることができないことから、ろ過性病原体と呼ばれることがある。
【0004】
したがって、これらのウイルスの除去方法や抗ウイルス剤を開発することが求められている。
【0005】
ウイルスの除去方法としては、ウイルス粒子よりも小さな細孔を有するフィルターを使用してウイルスを除去する方法が報告されている(特許文献1,2参照)。また、ウイルス捕捉能又はウイルス吸着能を有する基材を含むウイルス除去用フィルターも提案されている(特許文献3,4参照)。
【0006】
一方、抗ウイルス剤としては、ピロロキノリンキノン(以下PQQということがある)にウイルスの逆転写酵素に対する阻害活性があることが報告されている(特許文献5参照)。また、PQQがコロナウイルスで生じる炎症を抑制する可能性が報告されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-229827号公報
【特許文献2】国際公開第2016/031834号
【特許文献3】特開平11-5006号公報
【特許文献4】特表2003-505227号公報
【特許文献5】特開平1-283221号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Alberto Boretti , PQQ Supplementation and SARS-CoV-2 Spike Protein-Induced Heart Inflammation, Nat Prod Commun. 2022 Mar 8;17(3):1934578X221080929. doi: 10.1177/1934578X221080929.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ウイルス粒子より小さな細孔を有するフィルターは、特殊で容易に入手できない。また、ウイルス捕捉能やウイルス除去能を有する基材を含むフィルターも、特殊で容易に入手できない。これらのフィルターは、特殊で一般的でないために非常に高額である欠点がある。
【0010】
また、特許文献5に記載されるPQQの抗ウイルス剤は、その阻害活性が十分でない。
【0011】
また、PQQを使用するウイルスの除去方法については知られていない。
【0012】
したがって、比較的安価で入手しやすい0.1から2マイクロメートルの細孔径を有する一般的なフィルターでウイルスを除去できる方法が求められている。また、その際に有害でなく安価な物質で達成可能であることが求められている。
【0013】
また、ウイルス阻害活性が十分でないPQQについて、その活性を高めることができる組成物が求められている。
【0014】
本発明の目的は、一般的なフィルターでウイルスを除去することを可能にするウイルス凝集剤及びウイルスの除去方法、並びにPQQ単独使用に比べてウイルス阻害率が高められたウイルス阻害剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記目的を達成するために、下記のウイルス凝集剤、ウイルス阻害剤及びウイルスの除去方法を提供する。
【0016】
[1]ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩を含む、ウイルス凝集剤。
[2]アスコルビン酸及び/又はその塩をさらに含む、前記[1]に記載のウイルス凝集剤。
[3]酸性アミノ酸、中性アミノ酸及びそれらの塩から選ばれる1つ以上のアミノ酸をさらに含む、前記[2]に記載のウイルス凝集剤。
[4]前記酸性アミノ酸を含み、前記酸性アミノ酸としてグルタミン酸を含む、前記[3]に記載のウイルス凝集剤。
[5]前記中性アミノ酸を含み、前記中性アミノ酸としてグリシンを含む、前記[3]に記載のウイルス凝集剤。
[6]前記ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩の合計含量:前記アスコルビン酸及び/又はその塩の合計含量の質量比が、1:[1~100]である、前記[2]に記載のウイルス凝集剤。
[7]前記ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩の合計含量:前記アスコルビン酸及び/又はその塩の合計含量:前記1つ以上のアミノ酸の合計含量の質量比が、1:[1~100]:[1~100]である、前記[3]に記載のウイルス凝集剤。
[8]前記ウイルスが、コロナウイルスである、前記[1]~[7]のいずれか1つに記載のウイルス凝集剤。
[9]ウイルス除去用前処理剤として用いられる、前記[1]~[7]のいずれか1つに記載のウイルス凝集剤。
[10]ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩と、アスコルビン酸及び/又はその塩とを含む、ウイルス阻害剤。
[11]酸性アミノ酸、中性アミノ酸及びそれらの塩から選ばれる1つ以上のアミノ酸をさらに含む、前記[10]に記載のウイルス阻害剤。
[12]前記酸性アミノ酸を含み、前記酸性アミノ酸としてグルタミン酸を含む、前記[11]に記載のウイルス阻害剤。
[13]前記中性アミノ酸を含み、前記中性アミノ酸としてグリシンを含む、前記[11]に記載のウイルス阻害剤。
[14]前記ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩の合計含量:前記アスコルビン酸及び/又はその塩の合計含量の質量比が、1:[1~10]0である、前記[10]に記載のウイルス阻害剤。
[15]前記ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩の合計含量:前記アスコルビン酸及び/又はその塩の合計含量:前記1つ以上のアミノ酸の合計含量の質量比が、1:[1~100]:[1~100]である、前記[11]に記載のウイルス阻害剤。
[16]前記ウイルスが、コロナウイルスである、前記[10]~[15]のいずれか1つに記載のウイルス阻害剤。
[17]ウイルスを含む溶液に、ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩を添加する第1の工程を含むウイルスの除去方法。
[18]前記第1の工程後に、前記溶液を0.1~2マイクロメートルの細孔径のフィルターでろ過するろ過工程をさらに含む、前記[17]に記載のウイルスの除去方法。
[19]前記ろ過工程前に、前記溶液に、アスコルビン酸及び/又はその塩を添加する第2の工程を含む、前記[18]に記載のウイルスの除去方法。
[20]前記ろ過工程前に、前記溶液に、酸性アミノ酸、中性アミノ酸及びそれらの塩から選ばれる1つ以上のアミノ酸を添加する第3の工程を含む、前記[19]に記載のウイルスの除去方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、一般的なフィルターでウイルスを除去することを可能にするウイルス凝集剤及びウイルスの除去方法、並びにPQQ単独使用に比べてウイルス阻害率が高められたウイルス阻害剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】比較例2の粒子径分布図である。
図2】実施例8の粒子径分布図である。
図3】実施例9の粒子径分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0020】
〔ウイルス凝集剤〕
本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という)に係るウイルス凝集剤は、ピロロキノリンキノン(PQQ)、その誘導体及び/又はそれらの塩を含む。
【0021】
本実施形態に係るウイルス凝集剤は、ウイルス粒子を凝集させるウイルス凝集作用を有する。ここで、ウイルス凝集作用を有するとは、ウイルス含有液中のウイルス粒子の一部又は全部を凝集させる作用を有していればよい。当該ウイルス凝集作用により、一般的な細孔径(0.1~2μm)を有するフィルターを用いたろ過でウイルス含有液からウイルスの一部又は全部を除去し、その濾液中のウイルスを減少させることができる。好ましい実施形態によれば、例えば後述する実施例で行なったウイルス凝集試験でろ過によりウイルスを3%以上減少させることができ、より好ましい実施形態によればろ過によりウイルスを5%以上減少させることができ、さらに好ましい実施形態によればろ過によりウイルスを7%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、又は55%以上減少させることができる。
【0022】
凝集対象のウイルスは特に限定されない。ウイルスの中でもコロナウイルスが凝集対象として好ましい。コロナウイルスとしては、ヒトに感染するコロナウイルス(COVID-19の原因ウイルスを含む)のほか、動物に感染するコロナウイルス、例えば猫コロナウイルスなどが凝集対象として好適である。風邪のような比較的軽度の呼吸器疾患の原因となるウイルスは、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63及びHCoV-HKU1の4種類が知られており、また、重度の呼吸器疾患の原因となるウイルスは、SARS-CoV(SARSの原因ウイルス)、MERS-CoV(MERSの原因ウイルス)およびSARS-CoV-2(COVID-19の原因ウイルス)の3種類が知られており、これらのウイルスも凝集対象である。
【0023】
本実施形態において用いられるPQQとは、下記式(I)に記載される化学構造を有する化合物である。
【化1】
【0024】
PQQは、誘導体の形態で用いてもよい。PQQの誘導体は、PQQを例えば、エステル化、アシル化、又はシリル化することで得ることができる。特に、PQQをエステル化したPQQエステル体が好ましく、例えば、PQQをトリメチルエステル化したトリメチルエステルPQQ(下記式(II))やPQQをジメチルエステル化したジメチルエステルPQQが好ましいものとして挙げられる。さらにトリエチルエステルPQQ、トリプロピルPQQ、トリブチルPQQも好ましいものとして挙げられる。
【化2】
【0025】
PQQの誘導体としては、PQQをアミノ酸、例えばグリシンと反応させて得られるイミダゾピロロキノリン(IPQ)(下記式(III))も好ましいものとして挙げられる。
【化3】
【0026】
PQQ及びその誘導体は、塩の形態で用いてもよい。PQQ及びその誘導体の塩は、上記式中のカルボキシル基のうちの1~3つがアルカリ金属イオン等と塩を形成したものである。PQQ及びその誘導体の塩としては、特に制限されないが、例えば、アンモニウム塩、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属塩が好ましい。特にナトリウム塩が好適であり、モノナトリウム塩、ジナトリウム塩、トリナトリウム塩を使用でき、特にジナトリウム塩であるピロロキノリンキノン二ナトリウム塩が入手しやすく食品登録されているため使用しやすい。
PQQのジナトリウム塩は下記式(IV)で示される。好ましくは、下記式(V)のジナトリウム塩である。
【化4】
【化5】
【0027】
PQQ、その誘導体及びそれらの塩は、溶媒和物の形態で用いてもよい。溶媒和物としては、例えば、水和物が挙げられ、好ましくは1~3水和物であり、より好ましくは3水和物である。また、結晶溶媒を含む溶媒和物であってもよい。
【0028】
PQQは通常、上記式(I)に示される酸化型で提供されるが、酸化型PQQは容易に還元して還元型PQQを生成する。そのため、PQQは還元型であってもよく、還元型PQQがウイルス凝集剤としては酸化型PQQよりも好ましい。よって還元型PQQ、その誘導体及びそれらの塩も使用できる。還元型PQQは下記式(VI)で示される。
【化6】
【0029】
以下、単に「PQQ」と記載する場合、特段明示されない限り、PQQ(酸化型及び還元型)、その誘導体、それらの塩、及びそれらの溶媒和物を包含するものとする。
【0030】
PQQは、有機合成又は発酵により製造可能であり、本発明では特に限定されない。有機合成及び発酵による製造方法はいずれも、公知の製造方法により実施できる。市販されているものを使用することもできる。
【0031】
PQQは、機能性食品分野で多くの生理的機能が報告され、安全性も確認されているため、本実施形態に係るウイルス凝集剤は、細胞毒性が無く、ヒト等の動物に対して十分な安全性を有しているといえる。
【0032】
本実施形態に係るウイルス凝集剤は、アスコルビン酸及び/又はその塩をさらに含むことが好ましい。PQQに加えて、アスコルビン酸及び/又はその塩をさらに含むことにより、ウイルス凝集作用を高めることができる。すなわち、一般的な細孔径(0.1~2μm)を有するフィルターを用いたろ過によりウイルス含有液からウイルスを除去できる割合を高め、その濾液中のウイルスを減少させる割合を高めることができる。
【0033】
アスコルビン酸塩としては、例えばアスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウムなどが好適であり、アスコルビン酸ナトリウムがより好適である。食品で使用するグレードが好ましい。
【0034】
アスコルビン酸及び/又はその塩は、ウイルス含有液に添加前に、PQQと混合してウイルス凝集剤としてもよいし、PQQとアスコルビン酸及び/又はその塩とをそれぞれウイルス含有液に添加した後に液中で混合してウイルス凝集剤としてもよい。したがって、本実施形態に係るウイルス凝集剤には、PQQとアスコルビン酸及び/又はその塩とが混合された組成物の状態の実施形態のみならず、それぞれが単品としてセットで製造販売されるようなキット製品としての実施形態も包含される。
【0035】
本実施形態に係るウイルス凝集剤は、酸性アミノ酸、中性アミノ酸及びそれらの塩から選ばれる1つ以上のアミノ酸をさらに含むことが好ましい。PQQに加えて、当該アミノ酸をさらに含むことにより、ウイルス凝集作用を高めることができる。すなわち、一般的な細孔径(0.1~2μm)を有するフィルターを用いたろ過によりウイルス含有液からウイルスを除去できる割合を高め、その濾液中のウイルスを減少させる割合を高めることができる。上記アミノ酸は、アスコルビン酸及び/又はその塩との併用がより好ましい。
【0036】
アミノ酸としては、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン(スレオニン)、バリン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、プロリン、グリシン、アラニンを好適に使用できる。好ましくは、酸性アミノ酸である。具体的にはアスパラギン酸、グルタミン酸である。より好ましくは、グルタミン酸である。中性アミノ酸を含有することも好ましく、特にグリシンを含むことが好ましい。リジン、トリプトファン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性アミノ酸を含有することもできるが、含有しないことが好ましい。
【0037】
アミノ酸の塩は特に限定されないが、例えば、カルボキシル基等の酸性基に対しては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ジシクロヘキシルアミン等の有機アミンとの塩が挙げられる。アミノ基等の塩基性基に対しては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、臭化水素酸等の無機酸との塩、酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、酪酸、ヒベンズ酸、パモ酸、エナント酸、デカン酸、テオクル酸、サリチル酸、乳酸、シュウ酸、マンデル酸、リンゴ酸等の有機カルボン酸との塩、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸との塩が挙げられる。
【0038】
上記アミノ酸は、ウイルス含有液に添加前に、PQQやアスコルビン酸及び/又はその塩と混合してウイルス凝集剤としてもよいし、PQQ、アスコルビン酸及び/又はその塩、上記アミノ酸をそれぞれウイルス含有液に添加した後に液中で混合してウイルス凝集剤としてもよい。したがって、本実施形態に係るウイルス凝集剤には、PQQ、アスコルビン酸及び/又はその塩、及び上記アミノ酸が混合された組成物の状態の実施形態のみならず、それぞれが単品としてセットで製造販売されるようなキット製品としての実施形態も包含される。
【0039】
本実施形態に係るウイルス凝集剤は、PQQをウイルス凝集作用の有効量、含有していればよく、その含有量は限定されるものではない。例えば、ウイルス含有液に添加後のPQQ濃度が0.1μM~500μMとなるような含有量であればよい。好ましくは、同濃度が5~100μMとなるような含有量である。
【0040】
アスコルビン酸及び/又はその塩のウイルス凝集剤中の含有量は、ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩の合計含量:アスコルビン酸及び/又はその塩の合計含量の質量比が、1:[1~100]となるような含有量であることが好ましい。当該質量比は、より好ましくは1:[1~20]であり、さらに好ましくは1:[2~10]である。
【0041】
アミノ酸のウイルス凝集剤中の含有量は、ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩の合計含量:アスコルビン酸及び/又はその塩の合計含量:上記1つ以上のアミノ酸の合計含量の質量比が、1:[1~100]:[1~100]となるような含有量であることが好ましい。当該質量比は、より好ましくは1:[1~20]:[1~20]であり、さらに好ましくは1:[2~10]:[2~10]である。
【0042】
本実施形態に係るウイルス凝集剤は、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、から選ばれる1以上をさらに含むことが好ましい。PQQに加えて、塩化カルシウム等をさらに含むことにより、ウイルス凝集作用を高めることができる。すなわち、一般的な細孔径(0.1~2μm)を有するフィルターを用いたろ過によりウイルス含有液からウイルスを除去できる割合を高め、その濾液中のウイルスを減少させる割合を高めることができる。
【0043】
本実施形態に係るウイルス凝集剤は、ウイルス除去工程の前工程において、例えば次に説明するウイルスの除去方法の第1の工程において、ウイルスの除去を次工程以降で可能にするための前処理(具体的にはウイルス粒子の凝集化)を行なうウイルス除去用前処理剤として用いることができる。
【0044】
〔ウイルスの除去方法〕
本実施形態に係るウイルスの除去方法は、ウイルスを含む溶液に、ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩を添加する第1の工程を含む。添加後、これらを混合することにより、ウイルス粒子の一部又は全部を凝集させることができる。
【0045】
本実施形態に係るウイルスの除去方法は、上記第1の工程後に、PQQが添加されたウイルスを含む溶液を0.1~2μmの細孔径のフィルターでろ過するろ過工程をさらに含むことが好ましい。フィルターの細孔径は0.1~1.5μmが好ましく、0.1~1μmがより好ましく、0.1~0.5μmがさらに好ましい。一般的なフィルターとして0.2μm~0.5μmが安価で使用しやすい。フィルターの材料は目的に合わせて選択できる。セラミック、高分子で作られたものどちらでもよい。好ましくはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PES(ポリエーテルスルホン)、ナイロン、セルロース混合エステル、ポリプロピレン、セルロースが使用しやすく好ましい。
【0046】
ろ過は、ポンプ、シリンジどちらでも使用できる。フィルターの耐圧やサイズに合わせて使用できる。
【0047】
ろ過工程により、液中からウイルスの一部又は全部が除去される。凝集したウイルスを除去する手段は、上記ろ過に限られず、公知の除去手段を用いることができる。例えば、より細かい細孔径のフィルターを用いたろ過を行なってもよい。
【0048】
本実施形態に係るウイルスの除去方法は、上記ろ過工程前に、ウイルスを含む溶液に、アスコルビン酸及び/又はその塩を添加する第2の工程を含むことが好ましい。第2の工程は、第1の工程の前又は後に行ってもよいし、第1の工程と同時に行ってもよい。第1の工程と同時に行なう場合には、アスコルビン酸及び/又はその塩をPQQと事前に混合しておいて同時に添加してもよいし、別々に同時に添加してもよい。
【0049】
本実施形態に係るウイルスの除去方法は、上記ろ過工程前に、ウイルスを含む溶液に、酸性アミノ酸、中性アミノ酸及びそれらの塩から選ばれる1つ以上のアミノ酸を添加する第3の工程を含むことが好ましい。第3の工程は、第1の工程の前又は後に行ってもよいし、第1の工程と同時に行ってもよい。また、第3の工程は、第2の工程の前又は後に行ってもよいし、第2の工程と同時に行ってもよい。第1の工程及び/又は第2の工程と同時に行なう場合には、上記アミノ酸をPQQ、及び/又はアスコルビン酸等と事前に混合しておいて同時に添加してもよいし、別々に同時に添加してもよい。
【0050】
PQQ、アスコルビン酸及び/又はその塩、及び上記アミノ酸は、ウイルスを含む溶液への添加時において粉末、溶液のどちらでもよい。添加時のウイルスを含む溶液のpHは弱酸性から弱塩基性が使用できる。pHを強酸性又は強塩基性にすると、飲料や医薬品の製造に適さなくなる。好ましくは、pH2.5~8.5である。添加時のウイルスを含む溶液の温度は特に制限されないが、0℃~45℃が好ましい。0℃以下では凍結して有効性を示さない。また、45℃以上では熱殺菌された状態となるためウイルスの除去に有効性が見いだせない。さらに医薬品では変質して好ましくない。
【0051】
添加混合時間は、目的に合わせて適宜決定できる。1分から72時間程度ウイルスと接触させることで有効性を示すことができる。好ましくは5分から6時間である。
【0052】
各用語の定義や、各成分の含有量や含有比率などについては、ウイルス凝集剤で説明したのと同様である。
【0053】
〔ウイルス阻害剤〕
本実施形態に係るウイルス阻害剤は、ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩と、アスコルビン酸及び/又はその塩とを含む。ウイルス、ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩、アスコルビン酸及び/又はその塩といった各用語の定義については、ウイルス凝集剤で説明したのと同様である。
【0054】
本実施形態に係るウイルス阻害剤は、ウイルスの活性を阻害する作用を有しており、PQQ単独使用の場合に比べて、PQQ同濃度比較でウイルス活性阻害効果を高めることができる。好ましい実施形態によれば、例えば後述する実施例で行なったプラークアッセイでPQQ単独使用(比較例)の場合に比べて、PQQ同濃度比較でウイルス阻害率を1.2倍以上、より好ましくは1.3倍以上、さらに好ましくは1.4倍以上、さらに好ましくは1.5倍以上高めることができる。
【0055】
本実施形態に係るウイルス阻害剤は、酸性アミノ酸、中性アミノ酸及びそれらの塩から選ばれる1つ以上のアミノ酸をさらに含むことが好ましい。PQQに加えて、当該アミノ酸をさらに含むことにより、ウイルス活性阻害作用を高めることができる。
【0056】
アミノ酸としては、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン(スレオニン)、バリン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、プロリン、グリシン、アラニンを好適に使用できる。好ましくは、酸性アミノ酸である。具体的にはアスパラギン酸、グルタミン酸である。より好ましくは、グルタミン酸である。中性アミノ酸を含有することも好ましく、特にグリシンを含むことが好ましい。リジン、トリプトファン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性アミノ酸を含有することもできるが、含有しないことが好ましい。
【0057】
アミノ酸の塩は特に限定されないが、例えば、カルボキシル基等の酸性基に対しては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ジシクロヘキシルアミン等の有機アミンとの塩が挙げられる。アミノ基等の塩基性基に対しては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、臭化水素酸等の無機酸との塩、酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、酪酸、ヒベンズ酸、パモ酸、エナント酸、デカン酸、テオクル酸、サリチル酸、乳酸、シュウ酸、マンデル酸、リンゴ酸等の有機カルボン酸との塩、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸との塩が挙げられる。
【0058】
上記アミノ酸は、ウイルス含有液に添加前に、PQQやアスコルビン酸及び/又はその塩と混合してウイルス阻害剤としてもよいし、PQQ、アスコルビン酸及び/又はその塩、上記アミノ酸をそれぞれウイルス含有液に添加した後に液中で混合してウイルス阻害剤としてもよい。したがって、本実施形態に係るウイルス阻害剤には、PQQ、アスコルビン酸及び/又はその塩、及び上記アミノ酸が混合された組成物の状態の実施形態のみならず、それぞれが単品としてセットで製造販売されるようなキット製品としての実施形態も包含される。
【0059】
本実施形態に係るウイルス阻害剤は、PQQを有効量、含有していればよく、その含有量は限定されるものではない。PQQの有効量は、摂取対象の年齢、性別、体重、投与経路、症状の重篤度、その用途、動物種別等によって、適宜、決めることができる。例えば、PQQジナトリウム3水和物換算で1~50質量%含有することが好ましく、10~50質量%含有することがより好ましく、20~50質量%含有することがさらに好ましい。
【0060】
アスコルビン酸及び/又はその塩のウイルス阻害剤中の含有量は、ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩の合計含量:アスコルビン酸及び/又はその塩の合計含量の質量比が、1:[1~100]となるような含有量であることが好ましい。当該質量比は、より好ましくは1:[1~20]であり、さらに好ましくは1:[2~10]である。
【0061】
アミノ酸のウイルス阻害剤中の含有量は、ピロロキノリンキノン、その誘導体及び/又はそれらの塩の合計含量:アスコルビン酸及び/又はその塩の合計含量:上記1つ以上のアミノ酸の合計含量の質量比が、1:[1~100]:[1~100]となるような含有量であることが好ましい。当該質量比は、より好ましくは1:[1~20]:[1~20]であり、さらに好ましくは1:[2~10]:[2~10]である。
【0062】
本実施形態に係るウイルス阻害剤の投与方法は、経口に限らず、経皮、注射によっても可能であるが、経口投与が好ましい。経口投与の場合、粉末剤、カプセル剤、錠剤、チュアブル錠、口腔内崩壊錠(OD錠)、ドリンク剤が好ましい。また、口腔内でのウイルス増殖を抑えるために、うがい薬としても提供可能である。また、食品と混合して使用することができる。PQQはすでに安全性が確認された機能性食品であり、経口的に容易に摂取できるため、服薬コンプライアンスを実施することが容易である利点を有している。
【0063】
本実施形態に係るウイルス阻害剤は、経口摂取する場合、PQQ量で1日当たりピロロキノリンキノンジナトリウム換算で1~50mgになるようにするのがよい。5~40mgであることがより好ましく、10~30mgであることがさらに好ましい。1日当たりの投与回数は、1回でもよいし、複数回でもよい。
【0064】
本実施形態に係るウイルス阻害剤は、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、食品として使用可能な物がよい。目的に応じて適宜選択することができ、特に限定されないが、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶剤、安定化剤、溶解補助剤、酸化防止剤、着色剤、着香剤、甘味剤等の添加剤が挙げられる。
【0065】
賦形剤としては、特に制限されないが、例えば、糖類(白糖、乳糖、ブドウ糖、マンニトール等)、デンプン(コーンスターチ等)、結晶セルロース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0066】
結合剤としては、特に制限されないが、例えば、α化デンプン、ゼラチン、トラガントガム、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0067】
滑沢剤としては、特に制限されないが、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油などが挙げられる。
【0068】
崩壊剤としては、特に制限されないが、例えば、デンプン、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、寒天、クエン酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリンなどが挙げられる。
【0069】
溶剤としては、特に制限されないが、例えば、水、エタノール、グリセロール、生理食塩水、食用油等(大豆油、魚油、ミツロウ、ラード、中鎖脂肪酸トリグリセリド)などが挙げられる。
【0070】
安定化剤としては、特に制限されないが、例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチル、プロピレングルコールなどが挙げられる。
【0071】
溶解補助剤としては、特に制限されないが、例えば、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸などが挙げられる。
【0072】
酸化防止剤としては、特に制限されないが、例えば、アスコルビン酸、トコフェロール、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、クエン酸などが挙げられる。
【0073】
着色剤、着香剤、及び甘味剤としては、医薬及び食品分野において通常添加することが許容されているものがそれぞれ挙げられる。
【0074】
本実施形態に係るウイルス阻害剤の適用対象は、主に哺乳動物である。適当な哺乳動物としては、例えば、霊長類、家畜(例えば、ヒツジ、乳牛、ウマ、ロバ、ブタ)、実験室実験動物(例えば、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター)、コンパニオン・アニマル(例えば、ネコ、イヌ)及び捕らわれの野生動物(例えば、キツネ、シカ、ディンゴ)を挙げることができる。好ましくは、ヒト、猫である。
【0075】
本実施形態に係るウイルス阻害剤は、固形、半固形又は液体の飲食品に含有させて使用できる。具体的には、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、病者用食品、高齢者用食品、レトルト食品が挙げられる。より具体的な食品としては、例えば、菓子(クッキー、グミ、ゼリー等)、パン類、ご飯類、魚肉加工品、畜肉加工品、麺類、スープ類、ソース類、惣菜等、飲料(乳飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料、野菜飲料、粉末飲料、スポーツ飲料、栄養飲料等)が挙げられる。また、ヒト用の食品に限らず、ペット食品や家畜飼料などとしても提供可能である。
【実施例0076】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0077】
<実験材料>
PQQは、ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩(三菱ガス化学製のBioPQQ(製品名、登録商標))を使用した。このBioPQQは三水和物である。ウイルスは、ネココロナウイルスの一種である、ATCC(American Type Culture Collection)より入手したネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV:WSU 79-1146株)を使用した。ウイルスストック液の作製及びアッセイには、JCRBより購入したネコ腎臓由来細胞であるCRFK細胞を使用した。また、その他の化合物や試薬については、特に断りのない限り富士フィルム和光純薬株式会社製の製品を使用した。以下は文献に従って合成した。還元型PQQ(RPQQ)は、PQQをVC(アスコルビン酸)により還元することにより製造した(Acta Crystallogr B Struct Sci Cryst Eng Mater. 2017 Jun 1;73(Pt 3):489-497.)。イミダゾロピロロキノリン(IPQ)は、好気条件下でPQQとグリシンとを反応させることにより生成した(J Am Chem Soc 1995, 117 (11), 3278-3279.)。PQQトリメチルエステル(PQQ-TME)は、硫酸ジメチルによるPQQメチル化によって合成した(Eur J Biochem 1980, 108 (1), 187-192.)。
【0078】
<細胞培養及び実験用ウイルスストック液の作製>
(1)細胞培養
培養液は、E-MEM(WAKO)500mLに牛胎児血清(Biowest)50mL及びペニシリンストレプトマイシンX100(WAKO)5mLを添加し、混合したものを使用した。このE-MEM培養液を用いて、37℃、5%CO2環境下でCRFK細胞を培養した。
【0079】
(2)実験用ウイルスストック液の作製
ビオラモ カルチャーボトル175cm2に上記E-MEM培養液を25mL入れ、そこへCRFK細胞(80×105 cell/bottle)を植えた。一晩培養後、培養液25mLを入れ替えた。FIPV:WSU 79-1146株のウイルスストック液1mLを培養液に加えた。3日間培養後、ボトルを-60℃の冷凍庫に入れて培養液を凍らせた。24時間後、ボトルを冷凍庫から取り出して培養液を解凍し、遠心分離(3000rpm、5分)して沈殿物を除いた。沈殿物を除いた培養液を0.22μmフィルターでろ過し、実験用ウイルスストック液を作製した。使用時までウイルスストック液を-60℃で保存した。このウイルスストック液のプラークフォーミングユニットは、2×105PFU/mLであった。
【0080】
<ウイルス除去量の測定方法>
フィルターによるウイルス除去量を測定した。
ウイルスと本発明のウイルス凝集剤(PQQ又はPQQ+各種被験物質)とを混合したのち、混合液をフィルターろ過し、通過した濾液中のウイルスRNA量をリアルタイムPCR測定によって定量した。ウイルスからのRNA抽出はCell Amp direct RNA prep kit (Takara Bio)を使用した。
One Step (Takara Bio)を使用し、RT-qPCR反応でRNA量を定量した。
(PCR条件)
PCR条件は以下のとおりである。
パターン1(逆転写反応):42℃で5分、95℃で10秒
パターン2(PCR反応):Cycles 40、95℃で5秒、60℃で30秒
プライマーは以下の配列のものを用いた。
【0081】
【表1】
【0082】
<ウイルス凝集試験>
【0083】
(比較例1:コントロール)
作製した実験用ウイルスストック液をPBS緩衝液で希釈した溶液(2×104PFU/mL)を1mLシリンジとメンブレンディスクフィルター(細孔径0.20μmのセルロースアセテート製フィルター:ADVANTEC DISMIC-13CP)を使用してフィルターろ過した。この濾液についてリアルタイムPCRで測定したウイルスRNA量を100%とした。この時のウイルスRNA減少量(以下、ウイルス減少量ということがある)を0とした。
【0084】
(実施例1)
作製した実験用ウイルスストック液とPQQをPBS緩衝液を使用して調合した。最終的にウイルス濃度は2×104PFU/mL、PQQ濃度は80μg/mLになるように実験を行った。比較例1と同様に、フィルターろ過及びリアルタイムPCR測定を行った。ウイルス減少量は10%であった。結果を表2に示す。
【0085】
(実施例2~7)
実施例1と同様に実験用ウイルスストック液とPQQ及び各種被験物質(表2記載のアスコルビン酸、各種アミノ酸など)を、PBS緩衝液を使用して調合した。ウイルス濃度は2×104PFU/mL、PQQ濃度は80μg/mL、各種添加剤濃度は400μg/mLとなるように実験を行った。各種試験溶液を37℃で1時間、インキュベートした。その後、試験溶液を1mLシリンジとメンブレンディスクフィルター(細孔径0.20μmのセルロースアセテート製フィルター:ADVANTEC DISMIC-13CP)を使用してろ過し、凝集したウイルス粒子を除去した。濾液中のウイルスを定量化した。
ウイルスRNAの相対比率は、次の計算によって求めた。
ウイルスRNA(相対比率)=2^(-(コントロールのCt値-各サンプルのCt値))
これより、ウイルス減少量を100×{1-ウイルスRNA(相対比率)}により算出した。結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
表2から、PQQはウイルス減少効果、すなわち、一般的なフィルターを用いたろ過によるウイルス除去効果を有していることが分かる。ウイルス減少効果は、アスコルビン酸や塩化カルシウムなどとの併用により向上した。特に、PQQとアスコルビン酸及び酸性アミノ酸との併用(実施例5及び6)により、そのウイルス減少効果が飛躍的に向上した。
【0088】
上記のことから、フィルターの細孔を通過する大きさのウイルス粒子がPQQにより凝集してフィルターの細孔を通過できなくなったと考えられる。このことを粒子径測定により確認した。
【0089】
<粒子径分布の確認>
(1)実験準備
ウイルス濃縮(50mLから1.5mLへ33倍濃縮)を以下の通り行なった。
CRFK細胞を175cm2ボトル2本にコンフルエントになるように37℃、5%CO2環境下で培養した。培地を抜き、培地25mLとウイルスストック液800μLをボトルに入れた。3日間、培養した。ボトルを-80℃で凍結後、室温で培地を解凍した。0.45μmフィルターでろ過して50mLウイルス溶液(2×105PFU/mL)を得た。この50mLウイルス溶液を4本の限外ろ過膜CFU100Kに入れた。3000rpmで、30分間、遠心分離した。ウイルス濃縮液4mLを得た。これにPBS緩衝液16mLを加え、2本の限外ろ過膜CFU100Kに入れた。3000rpmで、30分間、遠心分離した。ウイルス濃縮液2mLを得た。これにPBS緩衝液8mLを加え、1本の限外ろ過膜CFU100Kに入れた。3000rpmで、30分間、遠心分離した。ウイルス濃縮液1.5mLを得た。200μLずつ分注した。この溶液を粒子径測定に使用した。
【0090】
(2)粒子径の測定
各サンプルは1%グルタルアルデヒド+1%ホルムアルデヒド溶液で固定化及び不活化した。Horiba Nano Particle analyzer (SZ-100)を使用し、リン酸バッファー(pH7.4、GIBCO)で100倍希釈して、各サンプルの粒子径を計測した。結果を表3及び図1~3に示す。これより、ウイルス粒子はPQQで処理することで凝集し、巨大化したことが分かる。
【0091】
【表3】
【0092】
<還元型PQQ及びPQQ誘導体によるウイルス凝集作用の確認>
本試験では還元型PQQ、及びPQQ誘導体であるイミダゾピロロキノリン(IPQ)とトリメチルエステルPQQを使用した。
PQQ誘導体化はDMSOで50mMになるように溶かしてPBS緩衝液で100μMになるように希釈した。また、アスコルビン酸(VC)とグルタミン酸を添加する場合はそれぞれ0.8μg/μLになるように調整した。前述したウイルス凝集試験を同様にして実施した。結果を表4に示す。
これより、酸化型PQQよりも還元型PQQやトリメチルエステルPQQの方がウイルス減少効果、すなわち、ウイルス凝集作用が高いことが確認された。
【0093】
【表4】
【0094】
<プラークアッセイ>
(使用培地)
培地1:E-MEM(WAKO)500mLに牛胎児血清(Biowest)50mL及びペニシリンストレプトマイシンX100(WAKO)5mLを混合した培養液
培地2:カルボキシメチルセルロース1%入り培地1
【0095】
(プラークアッセイ(その1))
CRFK細胞を2×105cell/wellになるように24wellプレートに培地1を1mL入れ、一晩培養した。実験用ウイルスストック液(ウイルス量100PFU)と表5記載の最終濃度になる量の各種ウイルス阻害剤の培地(比較例3は培地のみ)とを使って混合液200μLを作り、37℃で1時間処理した。この混合液を培地を抜いた細胞に1時間接触させた。ここへ培地2を1mL入れた。3日後、培地を抜いてパラホルムアルデヒド10%PBSに1時間処理して固定した。液を抜き、水洗浄した。クリスタルバイオレットで染色した。プラーク数を数えてウイルスの阻害率を計測した。結果を表5に示す。プラークは容器一面に増殖した細胞にウイルス感染によって細胞が破壊されてできる穴を意味する。この数はウイルス数と一致する。
【0096】
(プラークアッセイ(その2))
CRFK細胞を2×105cell/wellになるように24wellプレートに培地1を1mL入れ、一晩培養した。実験用ウイルスストック液(ウイルス量100PFU)と表6記載の最終濃度になる量の各種ウイルス阻害剤の培地(比較例6は培地)を使って混合液200μLを作り、37℃で1時間処理した。この混合液を培地を抜いた細胞に1時間接触させた。その後、液を抜き、培地で洗浄した。ここへ培地2を1mL入れた。3日後、培地を抜いてパラホルムアルデヒド10%PBSに1時間処理して固定した。液を抜き、水洗浄した。クリスタルバイオレットで染色した。プラーク数を数えてウイルスの阻害率を計測した。結果を表6に示す。
【0097】
【表5】
【0098】
【表6】
図1
図2
図3
【配列表】
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