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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015333
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】分析装置およびゲイン調整装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20250123BHJP
   G01N 30/74 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01N30/74 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118670
(22)【出願日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043CA03
2G043DA05
2G043EA18
2G043JA01
2G043LA02
2G043NA13
2G043NA14
(57)【要約】
【課題】試料に含まれる成分の濃度に応じて光電子増倍管による適切な測定結果を得ることを課題とする。
【解決手段】高速液体クロマトグラフ1は、試料から発生する蛍光を検出する光電子増倍管63と、光電子増倍管63のゲインを調整するゲイン調整装置7とを備える。ゲイン調整装置7は、光電子増倍管63による蛍光の検出値を取得する取得部72と、光電子増倍管63に電力を供給する電源部74と、取得部72が取得した検出値に応じて電源部74を制御することにより、試料の1回の分析中において光電子増倍管63のゲインを調整する電源制御部73とを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を励起する光源と、
試料から発生する蛍光を検出する光電子増倍管と、
前記光電子増倍管のゲインを調整するゲイン調整装置と、
を備え、
前記ゲイン調整装置は、
前記光電子増倍管による蛍光の検出値を取得する取得部と、
前記光電子増倍管に電力を供給する電源部と、
前記取得部が取得した前記検出値に応じて前記光電子増倍管の前記電源部を制御することにより、前記試料の1回の分析中において前記光電子増倍管のゲインを調整する電源制御部と、
を含む分析装置。
【請求項2】
前記ゲイン調整装置は、
前記光電子増倍管から出力された前記検出値を、前記光電子増倍管のゲインに応じて補正する補正部、
を含む、請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記補正部は、
前記電源部により前記光電子増倍管に供給される電圧値を取得し、取得した前記電圧値に基づいて前記光電子増倍管のゲインを算出するゲイン算出部、
を含む、請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記電源制御部は、
前記取得部が取得した前記検出値が第1の閾値を超えたとき、前記光電子増倍管のゲインを下げる指示を前記電源部に与え、前記取得部が取得した前記検出値が第2の閾値を下回ったとき、前記光電子増倍管のゲインを上げる指示を前記電源部に与える、請求項1に記載の分析装置。
【請求項5】
前記取得部は、前記補正部による補正後の検出値を取得する、請求項2に記載の分析装置。
【請求項6】
蛍光発光性を有する試料に励起光が照射され、前記光電子増倍管は発生した蛍光を検出する、請求項1に記載の分析装置。
【請求項7】
前記ゲイン調整装置は、蛍光検出器が備える前記光電子増倍管のゲインを調整する、請求項1に記載の分析装置。
【請求項8】
光電子増倍管のゲインを調整するゲイン調整装置であって、
前記光電子増倍管の検出値を取得する取得部と、
前記光電子増倍管に電力を供給する電源部と、
前記取得部が取得した前記検出値に応じて前記電源部を制御することにより、試料に対する1回の分析中において前記光電子増倍管のゲインを調整するする電源制御部と、
を含む、ゲイン調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光検出器のゲインを調整するゲイン調整装置およびゲイン調整装置を備える分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速液体クロマトグラフに用いられる検出器として、蛍光検出器がある。蛍光検出器に用いられる光電子増倍管は、微弱光を高感度で検出することが可能である。
【0003】
試料濃度が高い場合には、蛍光強度が強くなり、光電子増倍管の出力が飽和する場合がある。このため、試料濃度が高い場合には、光電子倍増管のゲインを低下させることで、出力の飽和を回避する必要がある。一方、試料濃度が低い場合には、成分に起因する信号が電気系統などのノイズに埋もれないように、光電子倍増管のゲインを上昇させる必要がある。
【0004】
下記特許文献1に開示された高速液体クロマトグラフは、UV-VIS検出器ユニットを備える。この検出器ユニットは、検出器ユニット内でサンプルを通過しない参照ビームを検出する構成を備える。これにより、検出器ユニットが備える光源から出力された光の強度の変動を取得するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2020-526770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えばクロマトグラフによる不純物分析においては、1つの試料に含まれる高濃度の主成分と低濃度の不純物の両方を分析する必要がある。しかし、上述したように、高濃度の成分を分析する場合には、光電子増倍管のゲインを低下させる必要があり、低濃度の成分を分析する場合には、光電子増倍管のゲインを上昇させる必要があるため、これらの成分を一度に分析することはできなかった。このため、感度を犠牲にして低ゲインの設定で分析を実行する方策、あるいは、ゲインを変更して2回の分析を行うなどの方策が採られている。
【0007】
本発明の目的は、試料に含まれる成分の濃度に応じて蛍光検出器による適切な測定結果を得ることができる分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に従う分析装置は、試料を励起する光源と、試料から発生する蛍光を検出する光電子増倍管と、光電子増倍管のゲインを調整するゲイン調整装置とを備える。ゲイン調整装置は、光電子増倍管による蛍光の検出値を取得する取得部と、光電子増倍管に電力を供給する電源部と、取得部が取得した検出値に応じて光電子増倍管の電源部を制御することにより、試料の1回の分析中において光電子増倍管のゲインを調整する電源制御部とを含む。
【0009】
本発明の他の局面に従うゲイン調整装置は、光電子増倍管のゲインを調整するゲイン調整装置であって、光電子増倍管の検出値を取得する取得部と、光電子増倍管に電力を供給する電源部と、取得部が取得した検出値に応じて電源部を制御することにより、試料に対する1回の分析中において光電子増倍管のゲインを調整するする電源制御部とを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、試料に含まれる成分の濃度に応じて光電子増倍管による適切な測定結果を得ることができる分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態に係る高速液体クロマトグラフの全体図である。
図2】本実施の形態に係る蛍光検出器およびゲイン調整装置のブロック図である。
図3】光電子増倍管が入力する蛍光強度を示すグラフである。
図4】光電子増倍管に印加する電圧を示すグラフである。
図5】光電子増倍管から出力される検出値を示すグラフである。
図6】補正後の検出値を示すグラフである。
図7】高濃度領域が飽和した状態の検出値を示すグラフである。
図8】低濃度領域がノイズに埋もれた状態の検出値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態に係るゲイン調整装置およびゲイン調整装置を備える分析装置について説明する。
【0013】
(1)装置の全体構成
図1は、本実施の形態に係る高速液体クロマトグラフ1を示す全体図である。高速液体クロマトグラフ1は、溶媒供給部2、送液ポンプ3、試料注入装置4、カラム5、蛍光検出器6およびゲイン調整装置7を備える。高速液体クロマトグラフ1は、本発明の分析装置の例である。
【0014】
溶媒供給部2は、水系溶媒、有機溶媒などの溶媒を貯留する。送液ポンプ3は、溶媒供給部2に貯留された溶媒を、移動相として分析流路に供給する。試料注入装置4は、分析流路に供給された溶媒に、試料を注入する。試料が注入された溶媒は、カラム5に導入される。カラム5においては、試料に含まれる成分は、移動相と固定相との相互作用に基づいて分離される。カラム5において分離された試料は、溶媒とともに蛍光検出器6に導入される。蛍光検出器6は、試料に励起光を照射し、試料から発生した蛍光を光電子増倍管で検出する。ゲイン調整装置7は、蛍光検出器6のゲインを調整する。また、ゲイン調整装置7は、蛍光検出器6のゲインに応じて、蛍光検出器6の検出値を補正する。
【0015】
(2)蛍光検出器の構成
次に、図2を参照しながら、蛍光検出器6の構成について説明する。蛍光検出器6は、図2に示すように、光源61、フローセル62、光電子増倍管(PMT)63および電流電圧変換回路64を備えて構成される。
【0016】
光源61は、試料に励起光を照射する。光源61としては、キセノンランプ、重水素ランプなどが用いられる。光源61から照射された励起光は、分光器(図示省略)によって特定の波長を有する励起光として取り出され、フローセル62内を流れる試料に照射される。
【0017】
フローセル62内を流れる蛍光発光性を有する試料に励起光が照射されることにより、試料から蛍光が発生する。試料から発生した蛍光は、分光器(図示省略)において、特定の波長の光が選択され、光電子増倍管63に入射する。
【0018】
光電子増倍管63は、試料から発生した蛍光を受光し、光電効果により光の強度に応じた電子を発生させる。そして、光電子増倍管63は、発生した電子を増幅させることにより、電気信号としての試料の検出値を出力する。
【0019】
電流電圧変換回路64は、光電子増倍管63から出力された検出値としての電流を電圧に変換する。電流電圧変換回路64において電圧に変換された試料の検出値は、ゲイン調整装置7に出力される。
【0020】
(3)ゲイン調整装置の構成
次に、図2を参照しながらゲイン調整装置7の構成について説明する。ゲイン調整装置7は、図2に示すように、除算部71,取得部72、電源制御部73、電源部74およびゲイン算出部75を備える。除算部71およびゲイン算出部75により補正部70が構成される。
【0021】
補正部70は、蛍光検出器6から出力された試料の検出値を入力する。補正部70は、光電子増倍管63のゲインの値(増倍率)に応じて、入力した検出値を補正する。補正部70は、補正後の検出値を、試料の測定値として出力する。
【0022】
取得部72は、補正部70から出力された補正後の検出値を入力する。取得部72は、取得した補正後の検出値を電源制御部73に与える。
【0023】
電源制御部73は、電源部74を制御する。電源制御部73は、取得部72から取得した試料の補正後の検出値に基づいて、電源部74を制御する。電源部74は、光電子増倍管63に電力を供給する高圧電源である。
【0024】
電源制御部73は、試料の補正後の検出値が第1の閾値よりも高い場合には、光電子増倍管63に印加する電圧を低下させる指示を電源部74に与える。例えば、電源制御部73は、現在の印加電圧から所定電圧を低減させる指示を電源部74に与える。電源制御部73は、試料の補正後の検出値が第2の閾値よりも低い場合には、光電子増倍管63に印加する電圧を上昇させる指示を電源部74に与える。例えば、電源制御部73は、現在の印加電圧から所定電圧を上昇させる指示を電源部74に与える。
【0025】
ゲイン算出部75は、電源部74より光電子増倍管63に印加されている電圧値を取得する。ゲイン算出部75は、電源部74が現在供給している電圧値に基づいて、光電子増倍管63のゲインを算出する。ゲイン算出部75は、光電子増倍管63に印加される電圧と、光電子増倍管63のゲインとの関係をテーブルとして記憶している。ゲイン算出部75は、記憶しているテーブルに基づいて、光電子増倍管63の現在のゲインを算出する。光電子増倍管における印加電圧とゲインとの関係は、製品ごとのばらつきが存在する場合がある。したがって、本実施の形態のゲイン調整装置7は、蛍光検出器6に取り付けられた光電子増倍管63についてのテーブルを予め記憶装置に記憶している。なお、このテーブルは、工場出荷時に提供されてもよいし、蛍光検出器6およびゲイン調整装置7を備える高速液体クロマトグラフ1において、測定により取得されてもよい。
【0026】
なお、光電子増倍管のゲインは、以下の式で表すことができる:
μ=A・Vkn
この式において、μはゲイン、Vは印加電圧、A,k,nは回路や光電子増倍管の装置に依存する定数である。
【0027】
除算部71は、ゲイン算出部75において算出された光電子増倍管63の現在のゲインを取得し、取得したゲインに基づいて、試料の検出値を補正する。本実施の形態において、除算部71は、蛍光検出器6から出力された検出値をゲインで除算することで、補正後の検出値を出力する。
【0028】
(4)ゲイン調整方法
次に、図3図9を参照しながら、本実施の形態に係るゲイン調整方法について説明する。図3に示すグラフSAは、光電子増倍管63に入力される蛍光強度を示す。グラフSAは、フローセル62内の試料から発生した実際の蛍光強度を示す。グラフSAには、試料に含まれる高濃度の成分を示す領域C1と、試料に含まれる低濃度の成分を示す領域C2が含まれている。例えば、領域C1は、試料に含まれる主成分の検出領域であり、領域C2は、試料に含まれる不純物の検出領域である。
【0029】
領域C1は、高濃度の成分を示す領域であり、蛍光強度が強くなっている。このため、光電子増倍管63のゲインが大きい場合には、図7に示すように、光電子増倍管63の検出値が領域C1の周辺で飽和する可能性がある。領域C2は、低濃度の成分を示す領域であり、蛍光強度が弱くなっている。このため、光電子増倍管63のゲインが小さい場合には、図8に示すように、光電子増倍管63の検出値が領域C2の周辺で電気系などに起因するノイズNSに埋もれる可能性がある。そこで、本実施の形態のゲイン調整装置7は、光電子増倍管63に印加する電圧を調整することで、検出値が飽和することや、ノイズに埋もれることを回避する。
【0030】
図4に示すグラフSBは、光電子増倍管63に供給される電圧の変化を示す。つまり、グラフSBは、電源部74から光電子増倍管63に印加される電圧の変化を示す。本実施の形態においては、電源部74は、2段階の電圧V1とV2を切り替えて、光電子増倍管63に供給する。光電子増倍管63は、電圧V1が印加されることでゲインを高く維持し、電圧V2が印加されることでゲインを低下させる。電圧V1は、低濃度の成分も高感度に検出可能に設定された電圧である。電圧V2は、高濃度の成分も飽和することなく検出可能に設定された電圧である。
【0031】
図3に示すグラフSAにおいて、TH1で示される蛍光強度は、光電子増倍管63において第1の閾値TH1の検出値が出力される強度である。また、TH2で示される蛍光強度は、光電子増倍管63において第2の閾値TH2の検出値が出力される強度である。
【0032】
図3に示すグラフSAで示すように、時間t1において、検出値は第1の閾値TH1を超えている。電源制御部73は、取得部72から受け取った検出値が第1の閾値TH1を超えていると判定したとき、電源部74に電圧を低下させる指示を与える。図4に示すように、時間t1の前の段階では電源部74が光電子増倍管63に印加する電圧はV1である。電源制御部73は、検出値が第1の閾値TH1を超えたとき、電源部74に対して、電圧をV1からV2に低減させる指示を送る。低減させる電圧幅は、ユーザにより設定可能としておけばよい。
【0033】
図4に示すように、電源部74により光電子増倍管63に印加させる電圧は、時間t1において瞬時に電圧V2に下がらない。印加電圧は、しばらくの間ゆっくりと低下した後、電圧V2まで低下する。これは高圧電源である電源部74は、一般に出力電圧の変更に時間を要するためである(例えば、100ミリ秒~1秒程度のタイムラグを要する。)。
【0034】
図3に示すように、時間t2において、検出値は第2の閾値TH2を下回っている。電源制御部73は、取得部72から受け取った検出値が第2の閾値TH2を下回っていると判定したとき、電源部74に電圧を上昇させる指示を与える。図4に示すように、時間t1の後、電源部74が光電子増倍管63に印加する電圧はV2である。電源制御部73は、検出値が第2の閾値TH2を下回ったとき、電源部74に対して、電圧をV2からV1に上昇させる指示を送る。増加させる電圧幅は、ユーザにより設定可能としておけばよい。
【0035】
上記のように、高圧電源である電源部74は、一般に出力電圧の変更に時間を要する。したがって、電源部74により光電子増倍管63に印加させる電圧は、時間t2において瞬時に電圧V1に上がらない。印加電圧は、しばらくの間ゆっくりと低下した後、電圧V1まで上昇する。
【0036】
図5で示すグラフSCは、光電子増倍管63から出力された検出値の変化を示す。グラフSCが示すように、高濃度の成分を示す領域C1の検出値は、図3に示すグラフSAに比べて低く抑えられている。これは、時間t1から時間t2の間に、光電子増倍管63に印加される電圧がV2に低減されたことにより、光電子増倍管63のゲインが低下したためである。これにより、高濃度の成分を示す領域C1は、その検出値が低減されているものの、検出値が飽和することは回避されている。
【0037】
図6で示すグラフSDは、補正部70による補正後の検出値の変化を示す。図5のグラフSCと比べると、高濃度の成分を示す領域C1における検出値が補正されていること分かる。図6で示すグラフSDは、図3で示すグラフSAの形状を復元できていることが分かる。補正部70によりゲインに応じた検出値の補正が行われるので、疑似的にゲインが一定の場合と同様の出力信号を得ることができる。
【0038】
図3図6で示したように、試料に含まれる低濃度の成分の領域C2は、電圧V1が光電子増倍管63に供給されることで正しい検出値が得られる。つまり、光電子増倍管63のゲインが高く維持されることで、低濃度の成分もノイズに埋もれることなく正しく検出される。また、試料に含まれる高濃度の成分の領域C1は、電圧V1よりも低い電圧V2が光電子増倍管63に供給されることで、飽和することなく検出される。つまり、光電子増倍管63のゲインが低減され、高濃度の成分も飽和することなく正しく検出される。検出値が飽和しないので、光電子増倍管63の実際のゲインが分かれば、補正部70により補正処理で元の蛍光強度が復元可能である。
【0039】
このように、本実施の形態のゲイン調整装置7は、電源部74が光電子増倍管63に供給する電圧に応じて、検出値の補正を行う。これにより、試料に対する1回の分析中に光電子増倍管63のゲインを変更しながら、本来の分析結果としての検出値を正しく復元することが可能である。例えば、電源制御部73が電源部74に与える電圧の変更指示のタイミングに基づいて、補正部70が検出値を補正することも考えられる。しかし、このような方法をとった場合、電源部74から印加される電圧の変化にタイムラグが生じるため、正確に検出値を補正することができない。本実施の形態においては、電源制御部73による電圧変更の指示タイミングに基づくことなく、実際に電源部74から供給される電圧の変化に応じて各瞬間の光電子増倍管63の実際のゲインを推定し、それにより検出値を補正するので、検出値の正しい補正が可能である。
【0040】
本実施のゲイン調整装置7は、高速液体クロマトグラフ1により試料の1回の分析中において、光電子増倍管63のゲインを調整する。これにより、高濃度の成分と低濃度の成分が含まれるような試料であっても、1回の分析で分析結果を得ることができる。したがって、本実施の形態の蛍光検出器6のダイナミックレンジを仮想的に広げることが可能である。従来のように、ゲインを変更して2回の分析を行うなどの方策が不要であり、分析処理の効率化を図ることができる。
【0041】
(5)他の実施の形態
上記実施の形態において、取得部72は、補正部70により補正された後の検出値を入力する構成とした。他の実施の形態として、取得部72は、補正部70による補正がされる前の検出値を入力してもよい。この場合、取得部72は、電流電圧変換回路64から出力値を入力するように構成すればよい。電源制御部73は、補正前の検出値と閾値とを比較して、電源部74を制御する。この場合は、補正前の検出値に応じた閾値が設定される必要がある。
【0042】
上記実施の形態においては、第1の閾値TH1と第2の閾値TH2の2つの閾値を用いた。他の実施の形態として、単一の閾値THを用いることもできる。この場合、閾値THを超えた場合には光電子増倍管63のゲインを低減させ、閾値THを下回った場合には、光電子増倍管63のゲインを上昇させればよい。ただし、ノイズなどの原因により、短時間で検出値が増減する場合などは、ゲインの切り替えが頻繁に発生するので、上記実施の形態のとおり、2つの閾値を用いることが好ましい。
【0043】
上記の実施の形態では、分析装置として高速液体クロマトグラフを用いる場合を例に説明した。本実施の形態の蛍光検出器6およびゲイン調整装置7は、他にも、ガスクロマトグラフ、二次電子増倍管を用いた質量分析装置、あるいは、他の種類の液体クロマトグラフにも適用可能である。
【0044】
(6)態様
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0045】
(第1項)
一態様に係る分析装置は、
試料を励起する光源と、
試料を検出する光電子増倍管と、
前記光電子増倍管のゲインを調整するゲイン調整装置と、
を備え、
前記ゲイン調整装置は、
前記光電子増倍管による前記試料の検出値を取得する取得部と、
前記光電子増倍管に電力を供給する電源部と、
前記取得部が取得した前記検出値に応じて前記光電子増倍管の前記電源部を制御することにより、前記試料の1回の分析中において前記光電子増倍管のゲインを調整する電源制御部と、
を含む。
【0046】
試料に含まれる成分の濃度に応じて光電子増倍管による適切な測定結果を得ることができる。
【0047】
(第2項)
第1項に記載の分析装置において、
前記ゲイン調整装置は、
前記光電子増倍管から出力された前記検出値を、前記光電子増倍管のゲインに応じて補正する補正部、
を含んでもよい。
【0048】
光電子増倍管のゲインに応じて検出値が補正されるので、適切な測定結果が得られる。
【0049】
(第3項)
第2項に記載の分析装置において、
前記補正部は、
前記電源部により前記光電子増倍管に供給される電圧値を取得し、取得した前記電圧値に基づいて前記光電子増倍管のゲインを算出するゲイン算出部、
を含んでもよい。
【0050】
電源部から供給される電圧に基づいて検出値が補正されるので、適切な測定結果が得られる。
【0051】
(第4項)
第1項に記載の分析装置において、
前記電源制御部は、
前記取得部が取得した前記検出値が第1の閾値を超えたとき、前記光電子増倍管のゲインを下げる指示を前記電源部に与え、前記取得部が取得した前記検出値が第2の閾値を下回ったとき、前記光電子増倍管のゲインを上げる指示を前記電源部に与えてもよい。
【0052】
検出値が変動する場合などに電圧が頻繁に変更されることを回避できる。
【0053】
(第5項)
第2項に記載の分析装置において、
前記取得部は、前記補正部による補正後の検出値を取得してもよい。
【0054】
補正後の検出値に基づいて、濃度に応じたゲイン調整が可能である。
【0055】
(第6項)
第1項に記載の分析装置において、
蛍光発光性を有する試料に励起光が照射され、前記光電子増倍管は発生した蛍光を検出してもよい。
【0056】
試料から発生した蛍光強度に応じて、適切なゲイン調整が行われる。
【0057】
(第7項)
第1項に記載の分析装置において、
前記ゲイン調整装置は、蛍光検出器が備える前記光電子増倍管のゲインを調整してもよい。
【0058】
高感度に成分を検出可能である。
【0059】
(第8項)
他の態様に係るゲイン調整装置は、
光電子増倍管のゲインを調整するゲイン調整装置であって、
前記光電子増倍管の検出値を取得する取得部と、
前記光電子増倍管電力を供給する電源部と、
前記取得部が取得した前記検出値に応じて前記電源部を制御することにより、試料に対する1回の分析中において前記光電子増倍管のゲインを調整するする電源制御部と、
を含む。
【0060】
試料に含まれる成分の濃度に応じて光電子増倍管による適切な測定結果を得ることができる。
【符号の説明】
【0061】
1…高速液体クロマトグラフ、6…蛍光検出器、7…ゲイン調整装置、63…光電子増倍管、70…補正部、71…除算部、72…取得部、73…電源制御部、74…電源部、75…ゲイン算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8