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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015343
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】造形装置、および造形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/118 20170101AFI20250123BHJP
   B29C 64/245 20170101ALI20250123BHJP
   B29C 64/209 20170101ALI20250123BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20250123BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20250123BHJP
   B29C 64/241 20170101ALI20250123BHJP
【FI】
B29C64/118
B29C64/245
B29C64/209
B33Y10/00
B33Y30/00
B29C64/241
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118698
(22)【出願日】2023-07-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・令和5年3月1日に公開された2023年度精密工学会春季大会学術講演会の論文集のウェブサイト ・令和5年3月3日に公開された日本機械学会 生産システム部門研究発表講演会2023「コロケーション講演会」の予稿集のウェブサイト ・令和5年7月13日に公開された学術論文誌Polymers のウェブサイト ・令和5年3月6日から7日に開催された日本機械学会 生産システム部門研究発表講演会2023「コロケーション講演会」 ・令和5年3月14日から16日に開催された2023年度精密工学会春季大会学術講演会
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小池 綾
(72)【発明者】
【氏名】シン ジアン
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA13
4F213AA24
4F213AA28
4F213AA29
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL32
4F213WL35
4F213WL52
4F213WL67
4F213WL73
4F213WL74
4F213WL87
4F213WL92
(57)【要約】
【課題】造形精度を高くすることができる造形装置および造形方法を提供する。
【解決手段】造形装置は、造形材料を用いて造形を行う造形装置であって、前記造形材料を吐出するノズルと、前記ノズルから吐出される前記造形材料を載置する載置面を含む造形台と、前記ノズルから吐出される前記造形材料に、前記造形台に向かう方向への加速度を付与する付与機構と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形材料を用いて造形を行う造形装置であって、
前記造形材料を吐出するノズルと、
前記ノズルから吐出される前記造形材料を載置する載置面を含む造形台と、
前記ノズルから吐出される前記造形材料に、前記造形台に向かう方向への加速度を付与する付与機構と、を有する、造形装置。
【請求項2】
前記ノズルから吐出された前記造形材料により形成した造形材料層を、前記載置面上に積層することにより前記造形を行い、
前記付与機構は、前記造形材料層に前記加速度を付与する、請求項1に記載の造形装置。
【請求項3】
前記付与機構は、所定の回転軸回りに前記ノズルおよび前記造形台を回転させることで、前記ノズルから吐出される前記造形材料に、前記造形台に向かう方向への遠心加速度を付与する、請求項1または請求項2に記載の造形装置。
【請求項4】
前記回転軸を挟んで前記造形台とは反対側に配置される荷重部材を有する、請求項3に記載の造形装置。
【請求項5】
前記荷重部材は、前記回転軸を中心に、前記載置面上に載置される前記造形材料と対称な位置に配置される、請求項4に記載の造形装置。
【請求項6】
前記ノズルよりも前記回転軸に近い位置に配置されるアクチュエータ機構を含む、請求項3に記載の造形装置。
【請求項7】
前記回転軸は、重力方向に直交する、請求項3に記載の造形装置。
【請求項8】
前記付与機構により前記加速度が付与された状態において、前記ノズルから吐出される前記造形材料は、前記付与機構により前記加速度が付与されていない状態において、前記ノズルから吐出される前記造形材料よりも多い、請求項1または請求項2に記載の造形装置。
【請求項9】
重力場が1Gのときに吐出可能な前記ノズルの直径をLとすると、
加速度場がn×Gのときの前記ノズルの直径はL/√nである、請求項1または請求項2に記載の造形装置。
【請求項10】
造形材料を用いて造形を行う造形装置による造形方法であって、
前記造形装置が、
ノズルにより、前記造形材料を吐出し、
造形台の載置面により、前記ノズルから吐出される前記造形材料を載置し、
付与機構により、前記ノズルから吐出される前記造形材料に、前記造形台に向かう方向への加速度を付与する、造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、造形装置、および造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生産工学やものづくり産業において、三次元物体の造形装置および造形方法が知られている。
【0003】
造形装置および造形方法として、熱可塑性樹脂を造形材料として、ノズルから吐出した造形材料により形成される造形材料層を積層するものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-164928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
造形材料を用いて造形を行う造形装置および造形方法では、造形材料を吐出するノズルの出口穴のサイズが小さいほど、ノズルから吐出される造形材料が少なくなるため、高分解能な造形が可能になり、造形精度が高くなる。しかしながら、ノズルの出口穴のサイズを小さくすると、ノズルから造形材料を吐出するための力よりも造形材料の表面張力が大きくなってノズルから造形材料を吐出できなくなる場合がある。このため、造形材料を吐出可能な程度にノズルの出口穴のサイズを大きくする必要があり、造形精度を高くする点で改善の余地があった。
【0006】
本開示に係る実施形態は、造形精度を高くすることができる造形装置および造形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の実施形態に係る造形装置は、造形材料を用いて造形を行う造形装置であって、前記造形材料を吐出するノズルと、前記ノズルから吐出される前記造形材料を載置する載置面を含む造形台と、前記ノズルから吐出される前記造形材料に、前記造形台に向かう方向への加速度を付与する付与機構と、を有する。
【0008】
本開示の実施形態に係る造形方法は、造形材料を用いて造形を行う造形装置による造形方法であって、前記造形装置が、ノズルにより、前記造形材料を吐出し、造形台の載置面により、前記ノズルから吐出される前記造形材料を載置し、付与機構により、前記ノズルから吐出される前記造形材料に、前記造形台に向かう方向への加速度を付与する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の実施形態によれば、造形精度を高くすることができる造形装置および造形方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る造形装置を模式的に示す正面図である。
図2】実施形態に係る造形装置を模式的に示す側面図である。
図3】実施形態に係る付与機構を説明する斜視図である。
図4】実施形態に係るノズルを模式的に示す断面図である。
図5】ノズル出口穴近傍での吐出圧力と遠心力と表面張力の関係を示す図である。
図6】重力場における造形結果を模式的に示す図である。
図7】無重力場における造形結果を模式的に示す図である。
図8】遠心力場における造形結果を模式的に示す図である。
図9】実施形態に係る造形装置による造形結果を示す図である。
図10】ノズル温度と加速度と造形物の重量の関係を示す図である。
図11】ノズルから吐出後のフィラメント状造形材料の直径を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の実施形態に係る造形装置および造形方法について図面を参照しながら詳細に説明する。但し、以下に示す形態は、本実施形態の技術思想を具現化するための造形装置および造形方法を例示するものであって、以下に限定するものではない。また、実施形態に記載されている構成部の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本開示の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさ、位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。また、以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており詳細説明を適宜省略する。
【0012】
以下に示す図面において、方向表現として、X軸、Y軸およびZ軸を有する直交座標を用いる場合がある。X軸、Y軸およびZ軸は、互いに直交する。X軸の矢印が向く方向を+X側、+X側とは反対側を-X側と表記する。Y軸の矢印が向く方向を+Y側、+Y側とは反対側を-Y側と表記する。Z軸の矢印が向く方向を+Z側、+Z側とは反対側を-Z側と表記する。
【0013】
Y軸は、実施形態に係る造形装置が備える付与機構の回転軸に沿う軸を示すものとする。Z軸に沿うZ方向は、重力方向に沿う方向を示すものとする。但し、これらの方向表現は、相対的な位置関係を説明するためのものに過ぎず、実施形態の方向を限定するものではない。
【0014】
本明細書においてX軸、Y軸およびZ軸に沿うとは、ある対象がこれら軸に対して±10°の範囲内の傾きを有することを含む。また、本明細書において「直交」は、厳密に90度の角度をなすことを要求するものではなく、±10度以下の90度からのずれを含んでもよい。
【0015】
<実施形態に係る造形装置の構成例>
図1図4を参照して、実施形態に係る造形装置の構成について説明する。図1および図2は、実施形態に係る造形装置100の構成の一例を模式的に示す図である。図1は、造形装置100を+Y側からみた正面図である。図2は、造形装置100を+X側からみた側面図である。図3は、造形装置100が有する付与機構3の一例を説明する斜視図である。図4は、造形装置100が有するノズル1を模式的に示す断面図である。図4は、ノズル1の出口穴102の中心軸1cを含むノズル1の断面を示している。
【0016】
図1および図2に示すように、本実施形態に係る造形装置100は、造形材料を吐出するノズル1と、ノズル1から吐出される造形材料を載置する載置面21を含む造形台2と、ノズル1から吐出される造形材料に、造形台2に向かう方向への加速度を付与する付与機構3と、を有する。造形装置100は、造形材料を用いて造形を行う造形装置である。造形装置100は、一例として、ノズル1から吐出された造形材料により造形を行う、材料押出方式の造形装置である。
【0017】
図1および図2に示す例では、造形装置100は、ベース部材4と、支持部材5と、円筒部材6と、フレーム部材7と、供給機構8と、ヒータ9と、荷重部材10と、アクチュエータ機構11と、保持部材12と、テーブル13と、を有する。また造形装置100は、制御部14と、モータ15と、配線16と、スリップリング17と、一対の軸受ブラケット18と、一対のイケール19と、を有する。
【0018】
造形装置100は、付与機構3により付与される加速度を、ノズル1から吐出される造形材料に作用させることで、加速度が作用していない場合と比較して細い状態で、ノズル1から造形材料を吐出させることができる。
【0019】
付与機構3により加速度が付与される「ノズル1から吐出される造形材料」には、「ノズル1から吐出される前の、ノズル1の内部にある造形材料」、または「ノズル1から吐出された後の造形材料」が含まれる。「細い状態」とは、ノズル1から吐出されるフィラメント状の造形材料において、フィラメントの直径またはフィラメントの幅が小さくなった状態を意味する。フィラメントの直径は、フィラメント状の造形材料の断面形状が略円形である場合に対応する。フィラメントの幅は、フィラメント状の造形材料の断面形状が矩形、多角形または楕円形等である場合に対応する。
【0020】
ノズル1から吐出される造形材料が細くなることで、高分解能な造形が可能になる。これにより、本実施形態では、造形精度を高くすることができる造形装置および造形方法を提供できる。なお、ここでの造形精度には、造形装置による造形物の形状精度、および造形物の機械的強度が少なくとも含まれる。
【0021】
また、造形装置100は、ノズル1から吐出された造形材料により形成した造形材料層を、載置面21上に積層することにより造形を行い、付与機構3は、上記の造形材料層に加速度を付与する。造形装置100では、付与機構3により付与される加速度を載置面21上に形成される各造形材料層に作用させることにより、層間で互いに圧着される。これにより、各造形材料層間の接合強度を増大させ、造形装置100により造形される造形物の機械的強度を高くすることができる。
【0022】
さらに、付与機構3は、所定の回転軸30回りにノズル1および造形台2を回転させることで、ノズル1から吐出される造形材料に、造形台2に向かう方向への遠心加速度を付与する。図1に矢印で示した回転方向Rは、付与機構3によるノズル1の回転方向を表している。造形台2は、ノズル1よりも回転軸30から遠い位置に配置され、付与機構3によりノズル1とともに回転する。造形装置100は、付与機構3に回転機構を用いて遠心加速度を付与することで、簡単な構成により、ノズル1から吐出される造形材料に、造形台2に向かう方向への加速度を付与することができる。
【0023】
以下、造形装置100が有する各構成とその機能について詳細に説明する。
【0024】
図1において、ベース部材4は、造形装置100の各構成部を支持する基礎となる板状の部材である。ベース部材4は、造形装置100を移動できるようにキャスターや取っ手が適宜設けられてよい。支持部材5は、ベース部材4の+Z側の面に固定され、円筒部材6を支持する。
【0025】
円筒部材6は、ノズル1、造形台2、フレーム部材7、供給機構8、ヒータ9、荷重部材10、アクチュエータ機構11、保持部材12、テーブル13および制御部14等を内側に配置する。また円筒部材6は、付与機構3に含まれる構成の一部を内側に配置できる。円筒部材6は、これら各構成を円筒部材6の内側に配置することで、各構成が付与機構3によって回転軸30回りに回転されたときに誤って造形装置100から外れて飛ばされた場合にも、円筒部材6の内側面で受け止めることができる。これにより、各構成が造形装置100の周辺に飛ばされることを防止し、造形装置100の安全性を高くすることができる。
【0026】
図1に示すように、フレーム部材7は、複数の柱状部材を含み、造形台2、第1載置台71、第2載置台72および第3載置台73等を柱状部材によって支持する。フレーム部材7は付与機構3に接続している。
【0027】
図2および図3に示すように、付与機構3は、軸心部材31と、連結部材32と、第1プーリ33と、ベルト34と、第2プーリ35と、軸受部材36と、を有する。軸心部材31は、連結部材32を介してフレーム部材7に接続される。また軸心部材31は、Y方向における連結部材32の両側に配置された一対の軸受ブラケット18に、軸受部材36を介して接続される。軸心部材31は、一対の軸受ブラケット18に接続された状態で、その中心軸に略一致する回転軸30回りに回転することができる。一対の軸受ブラケット18は、対応するイケール19を介してベース部材4に固定される。
【0028】
図2に示すように第1プーリ33は、ベース部材4上に載置されたモータ15の軸心151に接続される。モータ15には、ステッピングモータやDC(Direct Current)モータ等の様々なモータを使用できる。第2プーリ35は、軸心部材31に接続される。ベルト34は、第1プーリ33と第2プーリ35に架け回される。
【0029】
造形装置100は、モータ15の回転トルクを、第1プーリ33、ベルト34および第2プーリ35を介して軸心部材31に伝達することにより、軸心部材31を回転させる。図3に示すように、造形装置100は、軸心部材31を回転させることで、連結部材32を介して軸心部材31に接続されるフレーム部材7を、回転軸30回りに回転させることができる。
【0030】
図1に示すように、第1載置台71には、アクチュエータ機構11が固定される。アクチュエータ機構11は、2軸ステージ111と昇降ステージ112とを含む。2軸ステージ111および昇降ステージ112は、テーブル13に接続される。テーブル13は保持部材12を介してノズル1に接続される。アクチュエータ機構11は、2軸ステージ111により、造形台2の載置面21に平行な平面内で直交する2軸方向に、テーブル13を移動させることができる。また、アクチュエータ機構11は、昇降ステージ112により、載置面21の法線方向に、テーブル13を移動させることができる。
【0031】
第2載置台72には、制御部14が固定される。制御部14は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、電気回路、電子回路およびメモリ等を含む。制御部14は、プロセッサ、電気回路、電子回路およびメモリ等を用いて、アクチュエータ機構11の駆動を制御できる。また、制御部14は、ノズル1による造形材料の吐出を制御することもできる。
【0032】
造形装置100は、制御部14の制御下で、アクチュエータ機構11によりテーブル13を移動させることで、造形台2の載置面21に平行な平面内で略直交する2軸方向、および載置面21の法線方向のそれぞれに、ノズル1を移動させることができる。
【0033】
図2に示すように、制御部14は、外部装置から配線16およびスリップリング17を介して供給される電力および信号に応じて駆動される。造形装置100は、スリップリング17を介することで、フレーム部材7の回転に応じて回転する制御部14に電力および信号を供給することができる。造形装置100では、スリップリング17を介して外部装置から制御部14に電力や信号を供給可能にすることで、付与機構3により回転される部材を減らすことができる。付与機構3により回転される部材を減らすことで、造形装置100の構成を簡略化でき、また付与機構3による回転に必要な駆動電力を低減することができる。
【0034】
但し、造形装置100において制御部14等に電力および信号を供給するための構成は、スリップリング17を用いるものに限定されない。例えば、制御部14等に電力を供給する電源や信号を供給する制御装置は、造形装置100がフレーム部材7に配置されてもよい。この場合、電源や制御装置は、制御部14等とともに付与機構3により回転される。一方、造形装置100では、制御部14が円筒部材6の外側に配置され、制御部14からスリップリング17を介してアクチュエータ機構11およびノズル1に制御信号が供給されてもよい。
【0035】
本明細書では、造形台2は移動せず、ノズル1が造形台2に対して移動する構成を示すが、ノズル1は移動せず、造形台2がノズル1に対して移動する構成であってもよい。つまり、造形台2とノズル1は、互いに直交する3軸方向に相対移動できればよい。また、アクチュエータ機構11は、2軸ステージ111および昇降ステージ112を有するものに限定されず、リニアガイド機構やパラレルリンク機構を有するものであってもよい。
【0036】
図1に示すように、第2載置台72には、供給機構8がさらに固定される。供給機構8が有する回転可能なリールの外周面には、造形材料80がフィラメントの状態で巻き付けられている。供給機構8は、リールの外周面に巻き付けられた造形材料80を、リールを回転させることによって巻き出し、テーブル13や第1載置台71に形成された貫通孔等を通して、保持部材12に保持されるノズル1に、造形材料80を供給することができる。
【0037】
供給機構8は、リールの外周面に巻き付けられた造形材料80を、リールと一体にカートリッジに格納し、カートリッジからノズル1に造形材料80を供給することもできる。また、造形材料80は、フィラメントの状態でリールに巻き付けられて供給されるものに限らず、ペレットと呼ばれる細かい粒子で供給されてもよい。
【0038】
第3載置台73には、荷重部材10が固定される。荷重部材10は、回転軸30を挟んで造形台2とは反対側に配置される。回転軸30を挟んで造形台2とは反対側に荷重部材10を配置することで、ノズル1および造形台2と荷重部材10との均衡性を高くすることができる。これにより、荷重部材10がない場合と比較して、付与機構3によるノズル1および造形台2の回転を安定化させることができる。また、ノズル1および造形台2の回転が安定化することで外乱を低減できるため、造形装置100による造形精度を高くすることができる。ノズル1および造形台2の回転を安定化させる観点では、荷重部材10は、回転軸30を中心に載置面21上に載置される造形材料と対称な位置に配置されることが好ましい。また荷重部材10の重量は、ノズル1および造形台2等の重量と釣り合いがとれた重量であることが好ましい。
【0039】
図4に示すように、ノズル1は、収容部材101と、出口穴102と、を有する。ノズル1は、収容部材101の内側に収容された造形材料80を、出口穴102を通してノズル1の外部に吐出することができる。
【0040】
造形材料80には、高温になると溶ける熱可塑性樹脂等が挙げられる。造形に用いられる熱可塑性樹脂には、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS:Acrylonitrile Butadiene Styrene)、ポリ乳酸(PLA:Poly-Lactic Acid)、アクリレートスチレンアクリロニトリル(ASA:Acrylate Sthrene Acrylonitrile)、ポリアミド(PA:Poly Amide)、ポリエチレンテレフタレート(PET:Polyethylene Terephthalate)、ポリカーブネト(PC:Poly Carbonate)、ポリフェニルスルホン(PPSU:PolyPhenylSulfone)、ポリエーテルイミド(PEI:Polyetherimide)等が挙げられる。造形装置100は、上記の樹脂に銅や、木質、炭素繊維等を混ぜ込んだ複合化材料を、造形材料として用いることもできる。
【0041】
ノズル1の外側には、ヒータ9が配置される。ヒータ9は、供給機構8から供給され、ノズル1の収容部材101の内側に収容される造形材料80を加熱することで溶融させる。図4に示した溶融領域81は、造形材料80がヒータ9の加熱により吐出可能な状態に溶融された領域を表している。ノズル1は、制御部14の制御下で、溶融された造形材料80に圧力を加えることで、出口穴102から造形材料80を吐出することができる。なお、ノズル1に対するヒータ9の配置位置は、適宜決定可能である。
【0042】
造形装置100は、制御部14により、2軸ステージ111によるノズル1の移動と、ノズル1からの造形材料80の吐出と、を制御することで、造形台2の載置面21上に、ノズル1から吐出された造形材料80によって、載置面21に平行な平面内で略直交する2軸方向に延在する造形材料層を形成できる。また、造形装置100は、昇降ステージ112によりノズル1を移動させることで、造形台2の載置面21の法線方向に上記の造形材料層を複数積層できる。
【0043】
また、造形台2は、載置面21とは反対側の面に、ヒートシンク22を有することができる。ヒートシンク22は、ヒータ9により加熱された状態で載置面21上に積層される各造形材料層の熱を放熱し、冷却させる。
【0044】
造形装置100は、造形対象である造形物Mの三次元データを複数の層にスライスしたデータに基づき、ノズル1から吐出された造形材料80により形成される複数の造形材料層を積層する。造形物Mの三次元データにおける全ての層が、造形材料層として載置面21上に積層された後、冷却して固まることで、造形装置100による造形物Mの造形が完了する。
【0045】
アクチュエータ機構11は、ノズル1よりも回転軸30に近い位置に配置されることが好ましい。例えば、付与機構3によりアクチュエータ機構11が回転されると、アクチュエータ機構11に遠心加速度が作用し、アクチュエータ機構11に含まれる機構部品が干渉すること等によって、アクチュエータ機構11によるノズル1の移動が不安定になる場合がある。アクチュエータ機構11をノズル1よりも回転軸30に近い位置に配置することで、アクチュエータ機構11に作用する遠心加速度を低減させることができる。これにより、アクチュエータ機構11によるノズル1の移動を安定化させ、造形装置100による造形精度を高くすることができる。
【0046】
また、造形装置100では、回転軸30は、重力方向(Z方向)に直交することが好ましい。回転軸30を重力方向に直交させることで、回転軸30が重力方向と直交しない場合と比較して、造形装置100の床等への設置面積を狭くできる。これにより、造形装置100が配置されるスペースを削減できる。
【0047】
また、回転軸30を重力方向に直交させることで、回転軸30が重力方向と直交しない場合と比較して、付与機構3によって回転される各構成が誤って放り出される範囲を制限できるため、安全性を高くすることができる。より具体的には、造形装置100では、水平方向に飛び出すおそれがある水平面の角度360度を回転軸30回りの360度方向に制限できる。回転軸30回りの上下左右方向等に部材が飛び出す可能性はあるが、造形装置100の操作者等は造形装置100の前後方向に位置することが多く、少なくも下方向(床方向)と上方向(天井方向)には基本的に人は存在しない。そのため、造形装置100から飛び出した部材等が人に当たることを好適に防止できる。
【0048】
造形装置100が有する構成のうち、ベース部材4、支持部材5、円筒部材6、ノズル1、造形台2、フレーム部材7、供給機構8、荷重部材10、保持部材12、テーブル13、一対の軸受ブラケット18、および一対のイケール19等の部材は、金属材料または樹脂材料等を含んで構成できる。剛性を高くする観点や耐熱性を高くする観点では、金属材料を含んで構成されることが好ましい。一方、軽量化の観点では、樹脂材料を含んで構成されることが好ましい。
【0049】
<造形装置100の主な作用>
まず、図5を参照して、ノズル1から吐出される造形材料80に付与する加速度の作用について、詳細に説明する。図5は、本実施形態に係るノズル1の出口穴102近傍での吐出圧力と遠心力と表面張力との関係の一例を示す図である。図5は、ノズル1の出口穴102の中心軸1cを含むノズル1の断面を示している。
【0050】
図5において、造形材料80は、収容部材101の内側に収容され、溶融状態にある。造形材料80には、吐出圧力Pと遠心力Hの和が作用している。造形材料80'は、収容部材101の内側から出口穴102の内部に移動途中の造形材料を表している。造形材料80'には、表面張力σ(N/m)が作用している。直径Lは、円形の出口穴102の直径である。なお、出口穴102の断面形状が矩形等の円形以外である場合には、Lは出口穴102の幅であってもよい。
【0051】
ノズルから造形材料を吐出させる造形装置では、ノズルの出口穴の直径Lが小さいほど、ノズルから吐出されるフィラメント状の造形材料の直径を小さくできる。これにより、造形の分解能が高くなり造形精度が高くなる。
【0052】
例えば、造形材料に遠心力を作用させない状態で、重力方向の下向きに造形材料を吐出する場合、収容部材の内側にある造形材料には、吐出圧力Pと重力の和が作用する。吐出圧力Pと重力の和が造形材料の表面張力σよりも大きいと、収容部材の内側にある造形材料は、出口穴に移動し、出口穴を通ってノズルの外側に吐出される。一方、ノズルの出口穴の直径Lが小さいほど、造形材料の表面張力σが重力と比べて相対的に大きくなる。収容部材の内側にある造形材料に作用する吐出圧力Pと重力の和が表面張力σよりも小さくなると、収容部材の内側にある造形材料は、出口穴に移動できなくなる結果、ノズルから吐出できなくなる場合がある。ノズルから造形材料が吐出できる程度に出口穴の直径Lを大きくすると、ノズルから吐出されるフィラメント状の造形材料の直径が、出口穴の直径Lに応じて大きくなる。これにより、高い造形精度が得られず、造形精度の点で改善の余地があった。
【0053】
本実施形態に係る造形装置100では、付与機構3により、ノズル1から吐出される造形材料80に、遠心加速度を付与して遠心力Hを作用させる。モータ15の回転数を上げる等して付与機構3により付与する遠心加速度を大きくし、吐出圧力Pと遠心力Hの和を表面直力σよりも大きくすることで、ノズル1から造形材料80を吐出可能にしつつ、ノズル1の出口穴102の直径Lを小さくすることができる。これにより、ノズル1から吐出される造形材料80に、付与機構3で加速度を付与しない場合と比較して、ノズル1の出口穴102の直径Lを小さくし、ノズル1から吐出されるフィラメント状の造形材料80の直径を小さくすることができる。この結果、造形装置100による造形精度を高くすることができる。
【0054】
次に、図6図8を参照して、ノズル1から吐出される造形材料80、並びに造形台2の載置面21上に形成された造形材料層に、それぞれ加速度を付与することの作用について、詳細に説明する。
【0055】
図6は、重力場における造形結果を模式的に示す図である。図7は、無重力場における造形結果を模式的に示す図である。図8は、本実施形態に係る遠心力場における造形結果の一例を模式的に示す図である。
【0056】
重力場は、少なくともノズル1から吐出される造形材料に重力がかかっている状態、別の観点では1Gが付与されている状態、を意味する。この「1G」における「G」は、重力加速度を示している。無重力場は、重力がほぼかかっていない状態を意味する。但し、宇宙空間においても、星からの重力がわずかであってもかかっているという観点では、無重力場は、微小重力場と称することもできる。遠心力場は、少なくともノズル1から吐出される造形材料に遠心力がかかっている状態を意味する。以降では、遠心力加速度を、重力加速度の「G」を用いてn×Gと表現する場合がある。なお、nは自然数である。
【0057】
図6および図7は、ノイズから吐出される造形材料に加速度が付与されない場合、すなわち本実施形態が適用されない場合を示す図である。しかしながら、図6および図7では、説明をわかりやすくするために、本実施形態に係る構成と実質的に同じ機能を有する構成には、本実施形態における符号と同じ符号を付している。また、図6図8は、ノズル1から吐出された造形材料80により形成され、載置面21上に積層された複数の造形材料層M0を側方から見た様子を示している。
【0058】
図6において、フィラメント直径p1は、重力場において、ノズル1から吐出されたフィラメント状の造形材料80の直径を表している。フィラメント直径p1は、ノズル1から造形材料80が吐出できる程度に大きくした出口穴の直径Lに応じたものとなる。
【0059】
隙間e1は、造形台2の載置面21上に形成され、積層される複数の造形材料層M0同士の間に生じた隙間を表している。造形材料層M0同士の間に隙間があると、造形材料層M0の接合強度が低下し、層M0が剥離しやすくなる結果、造形される造形物Mの機械的強度が低下する。造形材料層M0同士の間の隙間e1の数が多くなったり、1つの隙間e1当たりの体積が大きくなったりするほど、造形物Mの機械的強度は低下する。また隙間e1は、造形において意図しないものであるため、隙間e1が生じた分、造形物Mの形状誤差が大きくなる。
【0060】
図7において、フィラメント直径p2は、無重力場において、ノズル1から吐出されたフィラメント状の造形材料80の直径を表している。フィラメント直径p2は、ノズル1から造形材料80が吐出できる程度に大きくした出口穴の直径Lに応じたものとなる。無重力場では、ノズル1から吐出される造形材料80に重力が作用しないため、重力場と比較して出口穴の直径Lを大きくする分、フィラメント直径p2はフィラメント直径p1よりも大きくなっている。従って、無重力場での造形は、重力場での造形と比較して、造形精度が低くなる。
【0061】
隙間e2は、造形台2の載置面21上に形成され、積層される複数の造形材料層M0同士の間に生じた隙間を表している。無重力場では、載置面21上に積層される複数の造形材料層M0に重力が作用しない。このため、重力場における隙間e1と比較して造形材料層M0同士の密着性が低くなる結果、隙間e2の数がさらに多くなるとともに、1つの隙間e2当たりの体積が大きくなっている。従って、無重力場での造形は、重力場での造形と比較して、造形物Mの機械的強度が低くなる。また隙間e2が生じた分、造形物Mの形状誤差が大きくなる。
【0062】
図8において、フィラメント直径p3は、本実施形態に係る遠心力場において、ノズル1から吐出されたフィラメント状の造形材料80の直径を表している。遠心力場では、ノズル1から吐出される造形材料80に重力よりも大きい遠心力を作用させることができるため、重力場と比較して出口穴102の直径Lを小さくできる分、フィラメント直径p3はフィラメント直径p1よりも小さくすることができる。これにより、遠心力場での造形は、無重力場および重力場での造形と比較して造形精度が高くなる。
【0063】
図8に示すように、遠心力場では、造形台2の載置面21上に形成され、積層される複数の造形材料層M0のそれぞれを構成する造形材料80に重力よりも大きい遠心力を付与できるため、重力場と比較して、造形材料層M0同士の密着性を上げることができる。これにより、重力場と比較して、造形材料層M0同士の間に生じる隙間を低減することができる。
【0064】
造形材料層M0同士の間の隙間を低減することで、造形材料層M0同士の接合強度を高くし、造形材料層M0同士が剥離することを低減できる。これにより、遠心力場での造形は、無重力場および重力場での造形と比較して、造形物Mの機械的強度を高くすることができる。また造形材料層M0同士の間での隙間を低減できる結果、造形物Mの形状誤差を低減することができる。
【0065】
付与機構3による遠心力場は、宇宙空間等の無重力場においても生成できる。このため、造形装置100は、宇宙空間等の無重力場において造形を行う場合にも、高い造形精度を実現することができる。
【0066】
<実施例>
(仕様例)
表1は、実施例に係る造形装置100の仕様の一例を示している。但し、本開示に係る造形装置100の仕様項目および仕様値は、表1に示す例に何ら限定されない。
【表1】
【0067】
表1における「回転半径」は、造形装置100の回転軸30から造形台2の載置面21までの最短距離に対応する。実施例では、例えば598rpmにおいて、100Gにほぼ等しい遠心加速度が得られた。
【0068】
(造形結果例)
図9は、実施例に係る造形装置100による造形結果の一例を示す図である。図9において、縦軸は加速度aを示し、横軸はノズル1の温度Tを示している。
【0069】
加速度a1は1Gである。つまり、加速度a1での造形結果は、造形装置100の付与機構3により加速度が付与されておらず、ノズル1から吐出される造形材料に重力のみが作用する状態で行われたものである。一方、加速度a2は、32Gにほぼ等しい。つまり、加速度a2での造形結果は、造形装置100の付与機構3により、32Gにほぼ等しい遠心加速度が付与された状態で行われたものである。
【0070】
ノズル1の温度T1は、200℃である。ノズル1の温度T2は220℃であ。図9に示した4つの画像のそれぞれは、対応する遠心加速度aおよびノズル1の温度Tごとで、ノズル1から造形材料80を約10秒間吐出したときに得られた造形物Mを示している。
【0071】
図9に示すように、ノズル1から吐出された造形材料の量は、ノズル1の温度T1および温度T2のそれぞれにおいて、加速度a1の場合よりも加速度a2の場合のほうが多くなった。また、図9に示すように、ノズル1から吐出されたフィラメント状の造形材料の直径は、ノズル1の温度T1および温度T2のそれぞれにおいて、加速度a1の場合よりも加速度a2の場合のほうが小さくなった。具体的には、加速度a1での造形物Mでは、フィラメント状の造形材料が視認されるのに対し、加速度a2での造形物Mでは、フィラメント状の造形材料が視認できないほど、フィラメント状の造形材料の直径が小さくなった。
【0072】
図10は、図9の造形結果における、ノズル1の温度と加速度と造形物Mの重量との関係の一例を示す図である。図10において、縦軸はノズル1から吐出された造形材料の重量を示し、横軸はノズル1の温度Tを示している。ノズル1の温度T1,T2および加速度a1,a2の条件は、図9で示したものと同じである。斜線ハッチングで示したグラフは、加速度a1において、ノズル1から吐出された造形材料の重量を示している。ドットハッチングで示したグラフは、加速度a2において、ノズル1から吐出された造形材料の重量を示している。
【0073】
図10に示すように、ノズル1の温度T1では、加速度a1においてノズル1から10秒間に吐出された造形材料の重量は、67.67mgであった。加速度a2においてノズル1から10秒間に吐出された造形材料の重量は、567.39mgであった。一方、ノズル1の温度T2では、加速度a1においてノズル1から10秒間に吐出された造形材料の重量は、67.88mgであった。加速度a2においてノズル1から10秒間に吐出された造形材料の重量は、430.80mgであった。
【0074】
別の観点では、ノズル1の温度がT1において、加速度a2でノズル1から10秒間に吐出された造形材料の重量は、加速度a1でノズル1から10秒間に吐出された造形材料の重量の8.38倍であった。また、ノズル1の温度がT2において、加速度a2でノズル1から10秒間に吐出された造形材料の重量は、加速度a1でノズル1から10秒間に吐出された造形材料の重量の6.35倍であった。
【0075】
以上のように、造形装置100では、付与機構3により加速度が付与された状態においてノズル1から吐出される造形材料は、付与機構3により加速度が付与されていない状態においてノズル1から吐出される造形材料と比較して多くなった。また、ノズル1から吐出される造形材料が多くなることに伴い、ノズル1から吐出される造形材料の重量が重くなった。これらにより、造形装置100では、ノズル1から吐出される造形材料に加速度を付与することで、短い時間で多くの造形材料を吐出できることが分かった。造形装置100では、短い時間で多くの造形材料を吐出することで、造形の生産性を高くすることができる。
【0076】
次に、図11は、図9の造形結果における、ノズル1から吐出された後の、フィラメント状の造形材料の直径を測定した結果の一例を示す図である。図11においても、図9と同様に、縦軸は加速度aを示し、横軸はノズル1の温度Tを示している。ノズル1の温度T1,T2および加速度a1,a2の条件も図9で示したものと同じである。
【0077】
図11において、加速度a1およびノズル1の温度T1では、ノズル1から吐出された造形材料のフィラメント直径p21は、555μmであった。加速度a1およびノズル1の温度T2では、ノズル1から吐出された造形材料のフィラメント直径p22は、461μmであった。一方、加速度a2およびノズル1の温度T1では、ノズル1から吐出された造形材料のフィラメント直径p23は、114μmであった。加速度a2およびノズル1の温度T2では、ノズル1から吐出された造形材料のフィラメント直径p24は、82μmであった。
【0078】
ここで、理論式に基づき、図11の結果を考察する。重力と表面張力σとの比を示す無次元数であるエトベス数Eは、次の式(1)により表される。式(1)において、Δρ(kg/m)は造形材料の密度差、g(m/s)は重力加速度をそれぞれ表している。
【数1】
【0079】
ノズル1の出口穴102の直径Lは400μmである。1Gである加速度a1で得られたフィラメント直径p21の555μmと、フィラメント直径p21の461μmは、直径Lよりもわずかに大きい直径である。このため、これらの結果は、式(1)に基づくと、妥当な結果であると考えられる。
【0080】
一方、加速度a2は32Gであるため、式(1)の重力加速度gを加速度a2に置き換えると、式(1)に基づくノズル1から吐出された造形材料のフィラメント直径は、ノズル1の出口穴102の直径Lの1/√(32)倍(=70.8(μm))になることが想定される。加速度a2で得られたフィラメント直径p23の114μmと、フィラメント直径p24の82μmは、それぞれ400μmよりも70.8μmに近い値である。このため、これらの結果は、妥当な結果であると考えられる。
【0081】
以上のように、式(1)に基づくと、重力場が1Gのときに吐出可能なノズル1の直径をLとすると、加速度a2が32Gの場合には、ノズル1の出口穴102の直径をL/√(32)とすることができることが分かった。一般化すると、造形装置100では、重力場が1Gのときに吐出可能なノズル1の直径をLとすると、加速度場がn×Gのときのノズル1の直径はL/√nであってよいことが分かった。造形装置100では、付与機構3による加速度が作用していない場合と比較して、出口穴102の直径が小さいノズル1を利用して造形材料を吐出させることができるため、造形精度を高められることが分かった。
【0082】
なお、図9図11に示した例では、ノズル1の温度が200℃および220℃であり、加速度a2が32Gの場合を例示したが、これらに限定されない。例えば、上述した表1に示した仕様の範囲において、ノズル1の温度や遠心加速度、ノズル1の出口穴102の直径等を適宜変更できる。
【0083】
以上、好ましい実施の形態について詳説したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0084】
加速度の付与機構3は、回転により遠心加速度を付与するものに限らず、例えば往復運動により加速度を付与するものであってもよい。
【0085】
フレーム部材7に支持される載置台は、第1載置台71、第2載置台72および第3載置台73の3つに限らず、適宜増減されてよい。1以上の載置台に固定される部材も、適宜決定可能である。
【0086】
実施形態の説明で用いた序数、数量等の数字は、全て本開示の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本開示は例示された数字に制限されない。また、構成要素間の接続関係は、本開示の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本開示の機能を実現する接続関係をこれに限定するものではない。
【0087】
本開示の造形装置および造形方法は、造形精度を高くすることができるので、生産工学やものづくり産業等の様々な用途に利用できる。例えば、ものづくり産業では、本開示の造形装置を、様々な形状や大きさの三次元物体を造形可能な三次元プリンタとして利用できる。また、本開示の造形方法を、様々な三次元物体を造形し、提供可能な造形サービスとして利用できる。さらに、本開示の造形装置および造形方法によれば、無重力場や微小重力場においても高い造形精度を得ることができるので、宇宙空間等においても三次元物体を造形できる。従って、宇宙工学分野における応用展開も期待できる。但し、本開示の造形装置および造形方法は、これらの用途に限定されるものではない。
【0088】
本開示の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 造形材料を用いて造形を行う造形装置であって、前記造形材料を吐出するノズルと、前記ノズルから吐出される前記造形材料を載置する載置面を含む造形台と、前記ノズルから吐出される前記造形材料に、前記造形台に向かう方向への加速度を付与する付与機構と、を有する、造形装置である。
<2> 前記ノズルから吐出された前記造形材料により形成した造形材料層を、前記載置面上に積層することにより前記造形を行い、前記付与機構は、前記造形材料層に前記加速度を付与する、前記<1>に記載の造形装置である。
<3> 前記付与機構は、所定の回転軸回りに前記ノズルおよび前記造形台を回転させることで、前記造形材料に、前記造形台に向かう方向への遠心加速度を付与する、前記<1>または前記<2>に記載の造形装置である。
<4> 前記回転軸を挟んで前記造形台とは反対側に配置される荷重部材を有する、前記<3>に記載の造形装置である。
<5> 前記荷重部材は、前記回転軸を中心に、前記載置面上に載置される前記造形材料と対称な位置に配置される、前記<4>に記載の造形装置である。
<6> 前記ノズルよりも前記回転軸に近い位置に配置されるアクチュエータ機構を含む、前記<3>から前記<5>のいずれか1つに記載の造形装置である。
<7> 前記回転軸は、重力方向に直交する、前記<3>から前記<6>のいずれか1つに記載の造形装置である。
<8> 前記付与機構により前記加速度が付与された状態において、前記ノズルから吐出される前記造形材料は、前記付与機構により前記加速度が付与されていない状態において、前記ノズルから吐出される前記造形材料よりも多い、前記<1>から前記<7>のいずれか1つに記載の造形装置である。
<9> 重力場が1Gのときに吐出可能な前記ノズルの直径をLとすると、加速度場がn×Gのときの前記ノズルの直径はL/√nである、前記<1>から前記<8>のいずれか1つに記載の造形装置である。
<10> 造形材料を用いて造形を行う造形装置による造形方法であって、前記造形装置が、ノズルにより、前記造形材料を吐出し、造形台の載置面により、前記ノズルから吐出される前記造形材料を載置し、付与機構により、前記ノズルから吐出される前記造形材料に、前記造形台に向かう方向への加速度を付与する、造形方法である。
【符号の説明】
【0089】
1 ノズル
1c 中心軸
101 収容部材
102 出口穴
2 造形台
21 載置面
22 ヒートシンク
3 付与機構
30 回転軸
31 軸心部材
32 連結部材
33 第1プーリ
34 ベルト
35 第2プーリ
36 軸受部材
4 ベース部材
5 支持部材
6 円筒部材
7 フレーム部材
71 第1載置台
72 第2載置台
73 第3載置台
8 供給機構
80 造形材料
81 溶融領域
9 ヒータ
10 荷重部材
11 アクチュエータ機構
111 2軸ステージ
112 昇降ステージ
12 保持部材
13 テーブル
14 制御部
15 モータ
151 軸心
16 配線
17 スリップリング
18 一対の軸受ブラケット
19 一対のイケール
100 造形装置
a、a1、a2 加速度
T、T1、T2 温度
e1、e2 隙間
P 吐出圧力
H 遠心力
L ノズルの直径
M 造形物
M0 造形材料層
R 回転方向
σ 表面張力
p11、p12、p13、p21、p22、p23、p24 フィラメント直径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11