IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 九州高周波熱錬株式会社の特許一覧 ▶ 高周波熱錬株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-焼入れ装置 図1
  • 特開-焼入れ装置 図2
  • 特開-焼入れ装置 図3
  • 特開-焼入れ装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025153486
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】焼入れ装置
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20251002BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20251002BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
C21D9/00 A
C21D1/10 A
C21D1/00 123Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024055993
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】591106738
【氏名又は名称】九州高周波熱錬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 貢
(72)【発明者】
【氏名】白武 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】中野 義典
【テーマコード(参考)】
4K034
4K042
【Fターム(参考)】
4K034AA10
4K034BA02
4K034DB02
4K034DB03
4K034DB04
4K034FA01
4K034FA05
4K034FB09
4K042AA25
4K042BA01
4K042BA03
4K042DA01
4K042DB01
4K042DD04
4K042DD05
4K042DE02
4K042DF01
4K042DF02
4K042EA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ロッド状鋼材の外周面上の山部に対する焼入れを有効に行うことができる焼入れ装置を提供する。
【解決手段】焼入れ装置1は、山部52及び溝部53が形成されたロッド状鋼材51に対して用いられ、山部に焼入れを施すものであって、ロッド状鋼材を中心軸CLの周りで回転させるとともに軸方向の一方側に進行させる駆動部と、前記駆動部による前記ロッド状鋼材の回転及び進行の動作に伴い、螺旋状の山部の延びる方向に沿って遷移する前記山部の加熱対象箇所52aを、順次に加熱する加熱部21と、前記ロッド状鋼材を冷却する冷却部とを備え、前記冷却部が、前記加熱対象箇所よりも前記ロッド状鋼材の回転方向の前方側に位置する加熱完了箇所52bに向けて、冷媒を噴射する第一冷媒噴射部32と、前記軸方向で前記山部の前記加熱対象箇所に隣接する前記溝部53の加熱隣接箇所53aに向けて、冷媒を噴射する第二冷媒噴射部34とを有するものである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面上にて軸方向の少なくとも一部に、中心軸の周りで螺旋状に延びる山部及び溝部が形成されたロッド状鋼材に対して用いられ、前記山部に焼入れを施す焼入れ装置であって、
前記ロッド状鋼材を中心軸の周りで回転させるとともに軸方向の一方側に進行させる駆動部と、前記駆動部による前記ロッド状鋼材の回転及び進行の動作に伴い、螺旋状の前記山部の延びる方向に沿って遷移する前記山部の加熱対象箇所を、順次に加熱する加熱部と、前記ロッド状鋼材を冷却する冷却部とを備え、
前記冷却部が、前記加熱対象箇所よりも前記ロッド状鋼材の回転方向の前方側に位置する加熱完了箇所に向けて、冷媒を噴射する第一冷媒噴射部と、前記軸方向で前記山部の前記加熱対象箇所に隣接する前記溝部の加熱隣接箇所に向けて、冷媒を噴射する第二冷媒噴射部とを有する焼入れ装置。
【請求項2】
前記第一冷媒噴射部が、噴射口の位置及び/又は向きを変更可能に設けられている請求項1に記載の焼入れ装置。
【請求項3】
前記第二冷媒噴射部が、前記軸方向で前記加熱部を隔てて前記ロッド状鋼材の進行方向の前方側及び後方側の両側にそれぞれ配置されており、
それぞれの前記第二冷媒噴射部が、互いに異なる流量で冷媒を噴射可能である請求項1又は2に記載の焼入れ装置。
【請求項4】
前記加熱部と前記第二冷媒噴射部との間に配置されて前記加熱対象箇所と前記加熱隣接箇所との間を区切り、前記第二冷媒噴射部から噴射された冷媒の、前記加熱対象箇所側への流入を抑制する仕切り板をさらに備える請求項1又は2に記載の焼入れ装置。
【請求項5】
前記仕切り板が樹脂製であって、前記ロッド状鋼材の前記溝部の表面に接触する位置に設けられている請求項4に記載の焼入れ装置。
【請求項6】
前記第二冷媒噴射部の噴射口が、前記軸方向で前記山部の前記加熱対象箇所に隣接する前記溝部の、前記加熱部よりも前記回転方向の後方側に位置する前記加熱隣接箇所に向けて、冷媒を噴射させる位置及び向きに設けられている請求項1又は2に記載の焼入れ装置。
【請求項7】
前記第二冷媒噴射部が、冷媒を噴射させる向きの異なる複数個の噴射口を有する請求項1又は2に記載の焼入れ装置。
【請求項8】
前記第二冷媒噴射部が、前記加熱部よりも前記ロッド状鋼材の進行方向の少なくとも後方側に設けられており、
前記冷却部が、前記第二冷媒噴射部のさらに進行方向の後方側に設けられて前記ロッド状鋼材に冷媒を噴射するさらに第三冷媒噴射部を有する請求項1又は2に記載の焼入れ装置。
【請求項9】
前記加熱部が、誘導加熱用コイルを有する請求項1又は2に記載の焼入れ装置。
【請求項10】
前記駆動部が、前記ロッド状鋼材を中心軸の周りで回転させる回転駆動源と、前記ロッド状鋼材の前記山部及び/又は前記溝部に嵌め合わされ、前記回転駆動源による前記ロッド状鋼材の回転運動を前記軸方向の直線運動に変換する運動変換機構とを有する請求項1又は2に記載の焼入れ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外周面上に山部及び溝部が形成されたロッド状鋼材に対して用いられる焼入れ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロッド状鋼材には、外周面上で軸方向の少なくとも一部に、螺旋状の山部及び溝部が形成された中空の円筒状又は中実の円柱状のもの等がある。かかるロッド状鋼材では、外周面上に山部及び溝部が、軸方向で互いに隣接して交互に位置し、中心軸の周りで螺旋状に延びる態様で設けられている。
【0003】
そのようなロッド状鋼材の具体例であるボールねじのねじ軸は、外周面にねじ山及びねじ溝としての山部及び溝部が形成されたものであり、ボールねじの一部として使用される際に、ナットの内側で回転することにより、直線運動を回転運動へ又は回転運動を直線運動へ変換するべく機能する。
【0004】
上述したロッド状鋼材は、たとえば比較的大型のボールねじその他の送りねじのねじ軸等である場合、使用時に山部に多大な外力が作用し得る。このため、ロッド状鋼材の外周面上に形成された山部の強度や耐摩耗性を高めておくため、山部に部分的に加熱及び急冷による焼入れや焼き戻しを施すことを要する場合がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-13812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の目的は、ロッド状鋼材の外周面上の山部に対する焼入れを有効に行うことができる焼入れ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の焼入れ装置は、外周面上にて軸方向の少なくとも一部に、中心軸の周りで螺旋状に延びる山部及び溝部が形成されたロッド状鋼材に対して用いられ、前記山部に焼入れを施すものであって、前記ロッド状鋼材を中心軸の周りで回転させるとともに軸方向の一方側に進行させる駆動部と、前記駆動部による前記ロッド状鋼材の回転及び進行の動作に伴い、螺旋状の前記山部の延びる方向に沿って遷移する前記山部の加熱対象箇所を、順次に加熱する加熱部と、前記ロッド状鋼材を冷却する冷却部とを備え、前記冷却部が、前記加熱対象箇所よりも前記ロッド状鋼材の回転方向の前方側に位置する加熱完了箇所に向けて、冷媒を噴射する第一冷媒噴射部と、前記軸方向で前記山部の前記加熱対象箇所に隣接する前記溝部の加熱隣接箇所に向けて、冷媒を噴射する第二冷媒噴射部とを有するものである。
【0008】
上述した焼入れ装置では、前記第一冷媒噴射部が、噴射口の位置及び/又は向きを変更可能に設けられていることが好ましい。
【0009】
上述した焼入れ装置では、前記第二冷媒噴射部が、前記軸方向で前記加熱部を隔てて前記ロッド状鋼材の進行方向の前方側及び後方側の両側にそれぞれ配置されており、それぞれの前記第二冷媒噴射部が、互いに異なる流量で冷媒を噴射可能であることが好ましい。
【0010】
上述した焼入れ装置は、前記加熱部と前記第二冷媒噴射部との間に配置されて前記加熱対象箇所と前記加熱隣接箇所との間を区切り、前記第二冷媒噴射部から噴射された冷媒の、前記加熱対象箇所側への流入を抑制する仕切り板をさらに備えることが好ましい。
【0011】
この場合、前記仕切り板が樹脂製であって、前記ロッド状鋼材の前記溝部の表面に接触する位置に設けられていることが好ましい。
【0012】
上述した焼入れ装置では、前記第二冷媒噴射部の噴射口が、前記軸方向で前記山部の前記加熱対象箇所に隣接する前記溝部の、前記加熱部よりも前記回転方向の後方側に位置する前記加熱隣接箇所に向けて、冷媒を噴射させる位置及び向きに設けられていることが好ましい。
【0013】
上述した焼入れ装置では、前記第二冷媒噴射部が、冷媒を噴射させる向きの異なる複数個の噴射口を有することが好ましい。
【0014】
上述した焼入れ装置では、前記第二冷媒噴射部が、前記加熱部よりも前記ロッド状鋼材の進行方向の少なくとも後方側に設けられており、前記冷却部が、前記第二冷媒噴射部のさらに進行方向の後方側に設けられて前記ロッド状鋼材に冷媒を噴射する第三冷媒噴射部をさらに有することが好ましい。
【0015】
上述した焼入れ装置では、前記加熱部が、誘導加熱用コイルを有することが好ましい。
【0016】
上述した焼入れ装置では、前記駆動部が、前記ロッド状鋼材を中心軸の周りで回転させる回転駆動源と、前記ロッド状鋼材の前記山部及び/又は前記溝部に嵌め合わされ、前記回転駆動源による前記ロッド状鋼材の回転運動を前記軸方向の直線運動に変換する運動変換機構とを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上述した焼入れ装置によれば、ロッド状鋼材の外周面上の山部に対する焼入れを有効に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の一の実施形態の焼入れ装置を、ロッド状鋼材が配置された状態で示す側面図である。
図2図1の要部を拡大して示す側面図である。
図3図1の焼入れ装置が備える加熱部、冷却部の第二冷媒噴射部及び、それらの間に配置された仕切り板を示す斜視図である。
図4図2のIV-IV線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1に例示する焼入れ装置1は、ロッド状鋼材51に対して用いられ、ロッド状鋼材51の外周面上に形成された山部52に焼入れを施すものである。
【0020】
焼入れ装置1の対象とするロッド状鋼材51は、たとえ炭素鋼等の材質で、軸方向(図1の左右方向)にわたって中実の円柱状、又は、軸方向の少なくとも一部が中空の円筒状その他のロッド状を有する。ロッド状鋼材51は、図1に示すように、その外周面上で軸方向の少なくとも一部に、中心軸CLの周りにて螺旋状に延びる山部52及び溝部53が形成されている。
【0021】
図示のロッド状鋼材51は、一例として、種々の製造設備ないし機械に搭載されるボールねじ等の送りねじのねじ軸として用いられ得るものとしている。このロッド状鋼材51は、外周面に、それぞれねじ山及びねじ溝として機能する山部52及び溝部53が形成されたねじ部54aと、ねじ部54aの軸方向の一端部(図1では右側の端部)に一体に設けられ、山部や溝部が形成されておらず外周面が滑らかな胴部54bとを含んで構成されている。ねじ部54aでは、胴部54bの外周面の位置に比して半径方向の内側に窪む溝部53が、中心軸CLの周りで周回しながら軸方向の一方側から他方側に延びる螺旋状に形成されており、軸方向に隣り合う溝部53の間に、半径方向で胴部54bの外周面と同程度の位置に頂上がある山部52が区画されている。
【0022】
たとえば、比較的大型のボールねじのねじ軸としてのロッド状鋼材51は、そのボールねじの用途で使用されたときに、図示しないナットが、ねじ部54aに螺合して中心軸CLの周りで回転しながら繰返し軸方向に移動する度に、ねじ部54aの外周面の山部52に大きな外力が作用し、山部52の破損や摩耗が起こりやすい。これに対し、山部52の強度や耐摩耗性を向上させることを目的として山部52に焼入れを施すため、焼入れ装置1を使用することができる。この実施形態の焼入れ装置1では、山部52には焼入れを施す一方で、溝部53の底部等の少なくとも一部には焼入れを施さない。
【0023】
焼入れ装置1は概して、図1に白抜き矢印で示すように、ロッド状鋼材51を中心軸CLの周りで回転させるとともに軸方向の一方側(図1では左側)に進行させる駆動部11と、ロッド状鋼材51の山部52を加熱する加熱部21と、ロッド状鋼材51を冷却する冷却部31とを備えるものである。
【0024】
ここで、駆動部11は、ロッド状鋼材51を中心軸CLの周りで回転させつつ軸方向に進行させるべく駆動するものであれば、様々な機構を採用することができる。図示の実施形態では、ロッド状鋼材51を中心軸CLの周りで回転させる回転駆動源12と、ロッド状鋼材51の外周面に形成された螺旋状の山部52ないし溝部53を利用して、回転駆動源12によるロッド状鋼材51の回転運動を軸方向の直線運動に変換する運動変換機構13とで、駆動部11を構成している。
【0025】
より詳細には、この焼入れ装置1では、図1の紙面の奥行方向にロッド状鋼材51を隔てて互いに隣接して配置された対をなす回転自在の支持ローラ41が、軸方向に間隔をおいて複数対配置されており、それらの対をなす支持ローラ41の間であって支持ローラ41上にロッド状鋼材51が載置されている。そして、ロッド状鋼材51の上方側には、運動変換機構13としての一個又は複数個の嵌合ローラ13aが配置されている。嵌合ローラ13aは、図示のように、ロッド状鋼材51の溝部53に嵌め合わされ、支持ローラ41との間でロッド状鋼材51を挟み込むように設けられたものである。
【0026】
この状態で、ロッド状鋼材51が、回転駆動源12からの回転駆動力の付与によって回転駆動されると、軸方向及び周方向に移動せずに固定された嵌合ローラ13aが、ロッド状鋼材51の回転運動に従って螺旋状の溝部53内で転動する。これに伴い、ロッド状鋼材51に、嵌合ローラ13aから軸方向の一方側の向きの外力が作用し、回転駆動源12による回転運動が軸方向の直線運動に変換されて、ロッド状鋼材51が軸方向の一方側に進行する。なお、回転駆動源12は、軸方向に移動可能に設けられており、回転駆動力をロッド状鋼材51に与えると、ロッド状鋼材51とともに軸方向に移動する。
【0027】
このように図示の回転駆動源12及び運動変換機構13によれば、ロッド状鋼材51を中心軸CLの周りで回転させながら、軸方向の一方側に進行させることができる。この例では、運動変換機構13は、ロッド状鋼材51の溝部53に嵌め合わされる嵌合ローラ13aとしているが、溝部53に加えて又は代えて山部52に嵌め合わされるものであっても、回転運動を直線運動に変換することが可能である。図示は省略するが、運動変換機構13は、たとえばナットのような、ロッド状鋼材51の周囲の全周にわたって溝部53及び/又は山部52に嵌め合わされるものでもかまわない。
【0028】
駆動部11は、ロッド状鋼材51の回転運動と軸方向の直線運動をそれぞれ別に駆動する各駆動源を有するものとすることも可能であるが、この場合、各駆動源の動作を精密に同期させることが必要になる。図示の実施形態のように、回転駆動源12とそれによる回転運動を直線運動に変換する運動変換機構13とで駆動部11を構成することは、ロッド状鋼材51に形成された山部52ないし溝部53を有効に活用し、回転駆動源12の動作の調整のみでロッド状鋼材の回転及び進行の正確な制御を実現できる点で好ましい。
【0029】
またここで、この実施形態の焼入れ装置1では、加熱部21は、ロッド状鋼材51の軸方向の一部であって、その周方向の一部に固定されて設けられている(図2~4参照)。上記の駆動部11によってロッド状鋼材51が回転しながら軸方向の一方側に進行すると、そのロッド状鋼材51の動作に伴って、ロッド状鋼材51の山部52の各箇所が、加熱部21を設けた位置を順次に通過するところ、その通過時に当該箇所が加熱部21で順次に加熱される。ここでは、加熱部21を設けた位置に到達して加熱部21で加熱される山部52の箇所のことを、加熱対象箇所52aと称する。加熱対象箇所52aは、上記のロッド状鋼材51の動作に伴い、螺旋状の山部52の延びる方向に沿って遷移する。
【0030】
加熱部21は、たとえば、高周波電流の通電に基づく電磁誘導を利用して、ロッド状鋼材51の山部52の加熱対象箇所52aを加熱する誘導加熱用コイル22を有するものとすることができる。ここでは、誘導加熱用コイル22は、図2~4に示すように、ロッド状鋼材51の周方向の一部に沿って、山部52に対して若干間隔をおいた位置にて山部52を軸方向の両側から挟む形状を有する。より詳細には、この誘導加熱用コイル22は、山部52の延びる方向の一端側及び他端側にそれぞれ位置する二個のU字状部分22aと、山部52の軸方向の両側に隣接する各溝部53内に配置され、それらのU字状部分の先端部をつなぐように延びる棒状部分22bと、山部52から離れた位置で、二個のU字状部分22aどうしをその中央部で連結する連結部分22cとを含むものとしている。一方のU字状部分22aには、連結部分22cの連結箇所を挟んで二本の導線23が接続されている。但し、誘導加熱用コイル22は、山部52の加熱対象箇所52aを加熱できるものであれば、このような具体的な形状に限定されない。
【0031】
そしてまた、焼入れ装置1が備える冷却部31には、ロッド状鋼材51に向けて、水等の液体又は気体その他の冷媒を噴射する冷媒噴射部として、少なくとも第一冷媒噴射部32及び第二冷媒噴射部34が含まれている。
【0032】
このうち、第一冷媒噴射部32は、図示の例では、図1及び2に示すように、軸方向で加熱部21の位置とほぼ同じ位置であって、図4に示すように、たとえば、加熱部21よりもロッド状鋼材51の回転方向の前方側(図4のロッド状鋼材51上に描いた回転方向を意味する黒塗り矢印の方向の先端側)の位置、つまり、加熱部21で加熱された加熱対象箇所52aがその加熱の直後に通る位置に、ロッド状鋼材51の外周面から間隔をおいて配置されている。
【0033】
この第一冷媒噴射部32は、加熱部21による加熱対象箇所52aよりも回転方向の前方側に位置する加熱完了箇所52bに向けて、冷媒を噴射するものである。ここでは、山部52における加熱対象箇所52aの回転方向の前方側に隣接する箇所を、加熱完了箇所52bという。第一冷媒噴射部32から加熱完了箇所52bに冷媒を噴射することにより、加熱完了箇所52bは、加熱部21での加熱直後の高温状態から急冷される。加熱部21及び第一冷媒噴射部32により、山部52は、ロッド状鋼材51の回転及び進行の動作に伴って、加熱対象箇所52a及び加熱完了箇所52bで連続して焼入れが施される。第一冷媒噴射部32は、加熱完了箇所52bに冷媒を噴射できれば、その配置は、上述した位置に限らない。
【0034】
図示の実施形態では、第一冷媒噴射部32は、一例として、図2及び4に示すように、支持ロッド33aで支持される連結部材33bの先端にねじ等で取り付けたノズル部材33cに設けられている。支持ロッド33aは、二本の直線状のロッド部材33d、33eの相互を側面視でほぼ直角になる向きで、調整部材33fによって連結して構成されている。たとえば円柱状等の調整部材33fには、図面からは必ずしも明確ではないが、その軸方向(図2の奥行方向)にずれた箇所に形成された二個の孔部をそれぞれ、二本のロッド部材33d、33eが貫通して取り付けられている。また、ロッド部材33dは、図4に示すように、連結部材33bに形成された穴部33gにも挿入されている。ロッド部材33d、33eをそれぞれ調整部材33fの孔部内で回転させたり挿抜方向に移動させたりすることや、ロッド部材33dを連結部材33bの穴部33g内で回転させたり挿抜方向に移動させたりすることで、ノズル部材33cの噴出口の位置及び/又は向きを変更することができる。これにより、様々な寸法・形状のロッド状鋼材51の山部52に対する焼入れに対応させることが可能になる。
【0035】
なお、ノズル部材33の側方にはそれぞれ、二本の配管33hが取り付けられている。冷媒は、それらの配管33hからノズル部材33に供給されて、ノズル部材33の噴射口から噴射される。
【0036】
また、第二冷媒噴射部34は、図示の例では加熱部21を隔てて軸方向の両側に配置された配管等で構成されており、そこから、軸方向で山部52の加熱対象箇所52aに隣接する各溝部53の内側の箇所(「加熱隣接箇所53a」と称する。)に向けて、冷媒を噴射する。これにより、各加熱隣接箇所53aでの意図しない予熱や残熱ないし余熱が抑制され、そこを十分に冷却することができる。第二冷媒噴射部34は、必ずしも軸方向で加熱部21の両側に設けることを要せず、少なくともいずれか一方側に設けられていれば、その一方側における上記の予熱もしくは残熱を抑制する効果が得られる。
【0037】
また特に、加熱対象箇所52aに対して進行方向の後方側(図2では右側)に隣接する加熱隣接箇所53aでは、第二冷媒噴射部34から加熱隣接箇所53aへの冷媒の噴射により、さらに進行方向の後方側に隣接する山部52の箇所は、加熱部21による意図しない予熱が抑制されて十分に冷却される。その状態で、山部52の当該箇所は、その後に加熱対象箇所52a及び加熱完了箇所52bに順次に到達し、加熱部21での加熱及び第一冷媒噴射部32での急冷による焼入れが有効に施される。したがって、進行方向で加熱対象箇所52aの後方側の加熱隣接箇所53aを、前方側(図2では左側)の加熱隣接箇所53aよりも冷却するため、冷媒の噴射流量は、前方側の第二冷媒噴射部34よりも後方側の第二冷媒噴射部34で多くすることが好ましい場合がある。このような冷媒の噴射流量のコントロールを可能にするべく、進行方向の前方側及び後方側のそれぞれの第二冷媒噴射部34は、互いに異なる流量で冷媒を噴射可能に構成することが好適である。
【0038】
加熱部21の軸方向の一方側及び/又は他方側に設ける第二冷媒噴射部34としての噴射口を有する配管は、図3に示すように、その片側につき二本等の複数本設けてもよい。この場合、配管の噴射口も複数個存在する。たとえば、溝部53の幅が狭いこと等により、溝部53内の底面まで冷媒が十分に到達し難いときは、第二冷媒噴射部34としての複数本の各配管の噴射口を互いに異なる向きとすることで、溝部53内が十分に冷却されるように調整することができる。
【0039】
このような第二冷媒噴射部34は、その噴射口が、軸方向で山部52の加熱対象箇所52aに隣接する溝部53の、加熱部21よりも回転方向の後方側に位置する加熱隣接箇所53aに向けて、冷媒を噴射させる位置及び向きに設けられていることが好ましい。言い換えると、第二冷媒噴射部34で冷媒を噴射する加熱隣接箇所53aを、軸方向で加熱対象箇所52aに隣接する溝部53において、加熱部21よりも回転方向の後方側に位置する箇所とし、第二冷媒噴射部34の噴射口を、その加熱隣接箇所53aに冷媒が噴射される位置及び向きとすることが好適である。これにより、溝部53の加熱隣接箇所53aが加熱対象箇所52aの隣りを通過する前に、第二冷媒噴射部34から噴射される冷媒で十分に冷却されるので、加熱対象箇所52aの隣りを通過する際の加熱隣接箇所53aの加熱をより一層有効に抑制することができる。
【0040】
第二冷媒噴射部34から加熱隣接箇所53aに向けて冷媒を噴射させると、その冷媒の一部が加熱対象箇所52aに流入ないし飛散し、加熱部21による加熱対象箇所52aの加熱が妨げられる可能性が否めない。これに対処するため、図示の実施形態のように、加熱部21と第二冷媒噴射部34との間に、加熱対象箇所52aと加熱隣接箇所53aとの間を区切る仕切り板35を配置することが好ましい。それにより、第二冷媒噴射部34から噴射された冷媒の、加熱対象箇所52a側への流入を抑制することができる。
【0041】
仕切り板35は、たとえば耐熱性を有する樹脂製のものとすることができる。この場合、樹脂製の仕切り板35を、ロッド状鋼材51の溝部53の底面等の表面に若干押し付ける等して、溝部53の表面に接触させることができる位置に設けることが好ましい。それにより、仕切り板35と溝部53の表面との間から加熱隣接箇所53a側への冷媒の漏出ないし通過を効果的に抑制することができる。また、仕切り板35は、絶縁性を有する樹脂製のものとすれば、図示の実施形態のように、加熱部21の誘導加熱用コイル22の側部に直接的に取り付けることができる。さらにその仕切り板35の側方に、第二冷媒噴射部34としての配管を取り付けてもよい。
【0042】
仕切り板35は、加熱部21に対して軸方向で第二冷媒噴射部34を設けた側に配置されていればよい。図示のように、軸方向で加熱部21の両側に第二冷媒噴射部34を設けた場合、各第二冷媒噴射部34と加熱部21との間のそれぞれに、二枚の仕切り板35を配置することが好ましい。図示しないが、加熱部の軸方向のいずれか一方側だけに第二冷媒噴射部を設けた場合、その第二冷媒噴射部と加熱部との間に仕切り板を一枚配置すればよい。
【0043】
冷却部31は、図1、2に示すように、さらに第三冷媒噴射部36を有するものとすることができる。第三冷媒噴射部36は、たとえばブロック状部材の正面に多数の噴射口が形成されたもの等であり、加熱部21よりもロッド状鋼材の進行方向の後方側に位置する第二冷媒噴射部34のさらに後方側であって、図1、2では奥行方向でロッド状鋼材の背後に設けられている。この第三冷媒噴射部36は、加熱対象箇所52aに近づく前の山部52及び溝部53を事前に十分に冷却しておくため、そこに冷媒を噴射するものである。これにより、加熱部21による加熱対象箇所52aの加熱及び、第一冷媒噴射部32による加熱完了箇所52bの急冷がより効果的に行われるとともに、加熱部21による意図しない溝部53の加熱が有効に抑制される。
【0044】
以上に述べた焼入れ装置1を使用することにより、ロッド状鋼材51の外周面上の溝部53に対しては焼入れを行わない一方で、山部52に対しては焼入れを有効に行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
1 焼入れ装置
11 駆動部
12 回転駆動源
13 運動変換機構
13a 嵌合ローラ
21 加熱部
22 誘導加熱用コイル
22a U字状部分
22b 棒状部分
22c 連結部分
23 導線
31 冷却部
32 第一冷媒噴射部
33 ノズル部材
33a 支持ロッド
33b 連結部材
33c ノズル部材
33d、33e ロッド部材
33f 調整部材
33g 穴部
33h 配管
34 第二冷媒噴射部
35 仕切り板
36 第三冷媒噴射部
41 支持ローラ
51 ロッド状鋼材
52 山部
52a 加熱対象箇所
52b 加熱完了箇所
53 溝部
53a 加熱隣接箇所
54a ねじ部
54b 胴部
CL 中心軸
図1
図2
図3
図4