(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015372
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の製造方法、及び照明装置
(51)【国際特許分類】
H10H 20/817 20250101AFI20250123BHJP
H10H 20/825 20250101ALI20250123BHJP
F21S 2/00 20160101ALI20250123BHJP
【FI】
H01L33/16
H01L33/32
F21S2/00 482
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139558
(22)【出願日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2023116617
(32)【優先日】2023-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500221563
【氏名又は名称】ナイトライド・セミコンダクター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村本 宜彦
【テーマコード(参考)】
3K244
5F241
【Fターム(参考)】
3K244AA05
3K244BA31
3K244BA50
3K244CA02
3K244DA01
3K244LA10
5F241AA03
5F241AA06
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA12
5F241CA22
5F241CA40
5F241CA65
5F241CA74
5F241CA88
5F241CA99
5F241CB11
5F241FF11
(57)【要約】
【課題】発光素子を構成するGaN層に対してフォトニック結晶を効率的に形成することで、フォトニック結晶GaN発光素子を得る。
【解決手段】本方法は、サファイア基板10上に順次、n型GaN層12、MQW層14、p型GaN層16をエピタキシャル成長させてエピタキシャル構造を形成するステップと、p型GaN層16の表面に、電子ビーム描画及び誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングを用いてフォトニック結晶を形成するステップを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア基板上に順次、n型窒化ガリウム層、多重量子井戸層、p型窒化ガリウム層をエピタキシャル成長させてエピタキシャル構造を形成するステップと、
前記p型窒化ガリウム層の表面に、電子ビーム描画及び誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングを用いてフォトニック結晶を形成するステップと、
を備える、フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記フォトニック結晶を形成するステップは、
前記p型窒化ガリウム層の表面に疎水化処理を行うステップと、
前記p型窒化ガリウム層の表面にレジストを塗布するステップと、
電子ビームを前記レジストに照射して描画するステップと、
誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングにより塩素ガスで前記レジストを除去するステップと、
を備える、請求項1に記載のフォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記サファイア基板上に前記n型窒化ガリウム層を成長させる前に、前記サファイア基板上に、順次バッファ層、アンドープ窒化ガリウム層を成長させるステップ
を備える、請求項1に記載のフォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の発光波長は、375nm~390nmである、請求項1~3のいずれかに記載のフォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法で製造されたフォトニック結晶窒化ガリウム発光素子と、
前記フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子からの光を対象物に照射する照射光学系と、
を備える照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)を用いた発光素子(LED)チップから出た光の指向角を狭める場合、LEDデバイスにレンズを搭載して集光し、指向角を絞ることが検討されている。
【0003】
しかし、レンズの場合、指向性を少しでも変更する場合には金型を変える必要があり、コストが増大してしまう。また紫外線や深紫外線の場合、レンズの吸収を考慮して石英レンズが用いられることから、レンズも高額となってしまう。
【0004】
そこで、LEDデバイスにレンズを搭載せずに集光して指向性を狭める方法として、LEDチップ表面へ数100nmオーダのホールを数100nmピッチでフォトニック結晶を形成することが検討されている。
【0005】
特許文献1には、窒化ガリウム系フォトニック結晶及びその製造方法に関する発明が記載されている。すなわち、エピタキシャル成長において広い領域で転位密度が低減され結晶性が良好な窒化物半導体を得て、高性能の窒化ガリウム系半導体素子、窒化ガリウム系半導体基板、窒化ガリウム系フォトニック結晶を高い歩留まりで提供することを課題として、基板上に窒化ガリウム系半導体層を形成する工程と、当該窒化ガリウム系半導体層に複数のトレンチを配列して形成する工程と、窒素を含む雰囲気中で熱処理を行い、前記複数のトレンチのうち少なくとも2つ以上の互いに隣接するトレンチを変形させ、変形させた当該トレンチの位置に対応して前記窒化ガリウム系半導体層の内部に連続した空洞を形成し、当該空洞を有する前記窒化ガリウム系半導体層の上に窒化ガリウム系半導体の素子を形成する工程を具備することが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、長期に亘って劣化しにくく、エネルギー効率及び発光効率の高いフォトニック結晶発光ダイオードを提供することを課題として、第1半導体層、活性層、第2半導体層の3層がこの順に積層され、第1電極が第1半導体層に、第2電極が第2半導体層に、それぞれ電気的に接続された構造を有する発光ダイオードにおいて、3層のうち少なくとも第1半導体層と活性層を貫通する空孔が、フォトニック結晶構造を形成するように2次元周期的に配置されると共に、第1電極が、第1半導体層の、空孔と空孔を囲う第1非電流注入領域とを除いた領域を覆っているフォトニック結晶発光ダイオードが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-111766号公報
【特許文献2】特開2011-54828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、LED等の発光素子を窒化ガリウム(GaN)で構成する場合において、GaN層へのフォトニック結晶を形成する技術は未だ確立されていない。
【0009】
本発明の目的は、発光素子を構成するGaN層に対してフォトニック結晶を効率的に形成することで、フォトニック結晶GaN発光素子を得る方法、及び照明装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、サファイア基板上に順次、n型窒化ガリウム層、多重量子井戸層、p型窒化ガリウム層をエピタキシャル成長させてエピタキシャル構造を形成するステップと、前記p型窒化ガリウム層の表面に、電子ビーム描画及び誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングを用いてフォトニック結晶を形成するステップと、を備える、フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の製造方法である。
【0011】
本発明の1つの実施形態では、前記フォトニック結晶を形成するステップは、前記n型窒化ガリウム層の表面に疎水化処理を行うステップと、前記n型窒化ガリウム層の表面にレジストを塗布するステップと、電子ビームを前記レジストに照射して描画するステップと、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングにより塩素ガスで前記レジストを除去するステップと、を備える。
【0012】
本発明の他の実施形態では、前記サファイア基板上に前記n型窒化ガリウム層を成長させる前に、前記サファイア基板上に、順次バッファ層、アンドープ窒化ガリウム層を成長させるステップを備える。
【0013】
本発明のさらに他の実施形態では、前記フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の発光波長は、380nm~390nmである。
【0014】
また、本発明は、上記の製造方法で製造されたフォトニック結晶窒化ガリウム発光素子と、前記フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子からの光を対象物に照射する照射光学系とを備える照明装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、窒化ガリウム(GaN)発光素子を構成するGaN層にフォトニック結晶を確実に形成することができる。これにより、発光素子から射出する光の指向性を狭めることができる。また、窒化ガリウム発光素子の発光効率を増大させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その1)である。
【
図2】実施形態の誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングによるエッチング後のSEM画像であり、(A)はホール内側の径のSEM画像であり、(B)はホール外側の径のSEM画像である。
【
図3】実施形態のフリップチップ作成の説明図である。
【
図4】実施形態のフリップチップのI-V特性図である。
【
図5】実施形態のフリップチップのI-L特性図である。
【
図6】実施形態のフリップチップの発光強度図である。
【
図7】実施形態のフリップチップの発光スペクトル図である。
【
図8】実施形態のフリップチップの半値幅測定結果を示す図である。
【
図9】実施形態の照明装置及び露光装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0018】
本実施形態の基本原理は、GaN発光素子を構成するGaN層にフォトニック結晶を形成する際に、電子ビーム(EB)描画し、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングしたGaN層のエッチングレートが基板、GaN層の構造や結晶性の違いにより大きく異なることを考慮し、Si基板等にGaN層を成長させるのではなく、サファイア基板上にGaN層を成長させ、このようにして成長させたGaN層を対象として電子ビーム(EB)描画及び誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングによりフォトニック結晶を形成させるものである。
【0019】
本願発明者等は、Si基板上に成長させたGaN層に比べ、サファイア基板上に成長させたGaN層の方が、電子ビーム(EB)描画及び誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングによるエッチングレートが顕著に大きく、極めて効率的にGaN層の表面に所望間隔及び所望の径でホールを形成し、フォトニック結晶を形成できることを見出した。
【0020】
図1は、本実施形態におけるフォトニック結晶GaN発光素子(LED)を製造する方法を模式的に示す断面図である。
【0021】
図1に示すように、有機金属気相成長(MOCVD)装置を用いてサファイア基板10上に低温バッファ層(不図示)及びアンドープGaN(u-GaN)層(不図示)を積層し、その上にn-GaN層(n型GaN層)12、多重量子井戸(MQW)層14、及びp-GaN層(P型GaN層)16を順次積層して、385nm(375~390nm)で発光するエピタキシャル構造を成長させる。
【0022】
ここで、n-GaN層12は、より詳細には(AlInGaN)/(InGaN;Si)n―SLS(超格子構造)層及び(GaN;Si)コンタクト層から構成される。ここで、例えば(GaN;Si)は、SiがドープされたGaNであることを示す。
【0023】
また、多重量子井戸(MQW)層14は、(InGaN/AlGaN)のMQW層から構成される。
【0024】
また、p-GaN層16は、より詳細にはp-GaN(GaN;Mg)コンタクト層及び(AlGaN;Mg/GaN;Mg)p-SLS(超格子構造)層から構成される。p-GaN層16の厚さは、従来では50nm~150nm程度であるが、本実施形態ではp-GaN層16にフォトニック結晶(PhC)を形成するため、PhC形成時の深さ及びドライエッチングによるダメージを軽減させるためにその厚さを従来の2倍、すなわち100nm~300nm程度に設定している。
【0025】
本実施形態における「GaN層」は、必ずしもGaNの組成の単層を意味するものではなく、GaNを含むAlInGaN、InGaN、AlGaN等の組成の単層あるいは複数層を意味するものである。要するに、GaNを主成分とする単層あるいは複数層を意味する。
【0026】
なお、本実施形態のエピタキシャル層の発光波長は385nmであるが、それより長い波長とする場合、基本的なエピタキシャル構造は同じであるが、バンドギャップエネルギの関係から385nmの方がそれより長い波長に比べて(InGaN/AlInGaN)MQW発光層14のAl含有量を多く、In含有量を少なくする。
【0027】
次に、
図1の一点鎖線領域18で示すように、p-GaN層16の表面にフォトニック結晶(PhC)を形成する。図では一点鎖線領域18がp-GaN層16の表面に複数形成されているが、p-GaN層16の表面全体にわたって形成されていてもよい。
【0028】
その後、p-GaN層16上にITOを蒸着し、nGaN層12までエッチングしてメサ形状を形成する。さらに、エッチングした領域にn-パッドを形成し、その高さをメサ形状の高さに合わせる。そして、全面をSiO2蒸着して保護膜を形成し、n-パッド上及びITO上でSiO2を部分的にエッチングし、UBM(アンダーバンプメタル)をスパッタリングによりエッチング部分にAuを蒸着して、GaN発光素子(LEDチップ)が製造される。
【0029】
ここで、
図1に示されるフォトニック結晶の製造方法について、より詳細に説明する。フォトニック結晶(PhC)は、電子ビーム(EB)描画によりレジストにパターンを現像し、その後、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングによりエッチングすることで形成される。従って、フォトニック結晶を形成するに先立って、EB描画条件と誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングによるエッチング条件を設定する必要がある。
【実施例0030】
サファイア基板上に成長させた発光波長385nmのGaNウェハをリンス洗浄後、180℃で5分乾燥させた。その後、GaNウェハ表面を疎水性にするための処理(HMDS処理)を行い、スピンコータでUVレジストを500nm塗布し、その後、180℃で3minプリベークを行った。
【0031】
次に、高速マスクレス露光装置で2mm×2mmサイズ(合計5か所)のPhCパターンを、露光量(Dose量)を変化させて形成した。
【0032】
また、これと並行して、エッチングレートを確認するために、100μm×100μmサイズ(合計3か所)のホールを、露光量(Dose量)を一定にして形成した。各サイズの露光量(Dose量)は以下の通りである。
<2mm×2mm(合計5か所)>
露光量=140,150、160、170,180(μC/cm2)
<100μm×100μm>
露光量=200μC/cm2
【0033】
UVレジストを形成したGaNウェハを用い、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング装置にて塩素ガス(30sccm)で10minエッチングを行った。UV触針式段差計で深さを計測した結果、エッチングレートは55.2nm/minであった。
【0034】
図2は、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング装置でエッチング後のSEM画像を示す。PhCのホールには若干テーパが形成され、内側の径が200nm~230nm、外側の径が270nm~300nmであった。テーパの観点からは、露光量(Dose量)が180μC/cm
2~200μC/cm
2において良好(すなわちテーパが少ない)な結果が得られた。
図2(A)は露光量=170μC/cm
2でPhCパターンを形成した場合の内側の径のSEM画像であり、サイズは226.67nmであった。また、
図5(B)は同条件でPhCパターンを形成した場合の外側の径のSEM画像であり、サイズは285.33nmであった。
【0035】
このように、GaNウェハの表面に数100nmオーダのホールが数100nmピッチで形成され、フォトニック結晶(PhC)が形成されていることが確認された。
【0036】
なお、サファイア基板に代えて、PSS(Patterned Sapphire Substrate)基板を用いて同様にエピタキシャル層を成長させ、PhC形成を行った場合でも、サファイア基板上と同様の形状のホールが形成され、かつエッチングレートが約1.2倍増大することが確認された。
【0037】
次に、PhCを形成したGaNウェハを用い、PL波長と強度を測定した。その結果、PhC形成部分とその周囲のPhC未形成部分の強度を比較すると、PhC形成部分ではPhC未形成部分と比べて約1.5倍~約1.6倍の強度が得られることが確認された。これは、PhC形成により光の取り出し効率が向上しているためと考えられる。また、PL波長については、PhC形成部分ではPhC未形成部分と比べて0.5nm~1.0nm長波長側にシフトする傾向があることが確認された。
【0038】
次に、p-GaN層16の表面にフォトニック結晶(PhC)を形成し、p-GaN層16上にITOを蒸着し、nGaN層12までエッチングしてメサ形状を形成し、エッチングした領域にn-パッドを形成し、その高さをメサ形状の高さに合わせ、全面をSiO2蒸着して保護膜を形成し、n-パッド上及びITO上でSiO2を部分的にエッチングし、UBM(アンダーバンプメタル)をスパッタリングによりエッチング部分にAuを蒸着して、GaN発光素子(LEDチップ)を製造し、フリップチップにより実装基板上に実装して、I-V特性、I-L特性、発光スペクトル、発光強度を測定した。
【0039】
図3は、サファイア基板20の4インチウェハ表面の合計5か所の領域22a、22b、22c、22d、及び22eに数100nmオーダのフォトニック結晶を形成して発光エリア79×79μmのチップを作成する平面図を示す。
図3(A)はウェハの平面図、
図3(B)は、ウェハの所定位置に離間して形成された合計5か所のフォトニック結晶の形成領域22a~22eを示す。
図3(C)は
図3(B)の一つの領域22cの一部拡大図である。フォトニック結晶が形成された領域でLEDチップを製造してフリップチップ化するとともに、フォトニック結晶が形成されていない領域でLEDチップを製造してフリップチップにより実装基板上に実装した。
【0040】
図4は、フォトニック結晶を有するチップ(Sapphire-PhC)とフォトニック結晶を有しないチップ(Sapphire)のI-V特性の測定結果を示す。両者ともに良好な特性を示しており、フォトニック結晶の有無での差異は殆ど見られない。
【0041】
図5は、フォトニック結晶を有するチップ(Sapphire-PhC)とフォトニック結晶を有しないチップ(Sapphire)のI-L特性の測定結果を示す。両者ともに良好な特性を示しており、フォトニック結晶の有無での差異は殆ど見られない。
【0042】
図6は、フォトニック結晶を有するチップ(Sapphire-PhC)とフォトニック結晶を有しないチップ(Sapphire)の強度の測定結果を示す。また、
図7,
図8は、フォトニック結晶を有するチップ(Sapphire-PhC)とフォトニック結晶を有しないチップ(Sapphire)の発光スペクトル、半値全幅をそれぞれ示す。
図8において、WHは半値幅(半値全幅)、POは発光強度を示す。
【0043】
図6及び
図8から分かるように、フォトニック結晶を有するチップでは、フォトニック結晶を有しないチップに比べて発光強度が約1.74倍向上することが確認された。
【0044】
なお、本実施形態において、上述したように、p-GaN層16の表面にフォトニック結晶を形成し、p-GaN層16上にITOを蒸着した後にn-GaN層12までエッチングしてメサ形状を形成しているので、メサエッチング部分にはフォトニック結晶は存在していないものと推定される。但し、本願出願人は、メサ形状を有するチップ全面の色味が変化していることを確認しており、メサエッチング時にp-GaN層16表面のフォトニック結晶がn-GaN層12にも形成されている可能性もあり、これが光取り出し効率向上に寄与していることも想定され得る。
【0045】
以上のようにして、p-GaN層16の表面にフォトニック結晶(PhC)を形成することができる。そして、このようにして製造されたGaN発光素子を備える照明装置並びに照明装置を備えた露光装置を得ることができる。
【0046】
図9は、上述の実施形態にかかる製造方法で製造されたGaN発光素子を光源とした照明装置IUを備えた露光装置の構成を概略的に示す図である。
図10(A)は、照明装置IUに露光光を供給する光源ユニット120の構成を概略的に示す平面図であり、
図10(B)は光源ユニット120及び出力光学系130の内部構成を概略的に示す図である。
【0047】
図9において、照明装置IUは、出力光学系130を介した光源ユニット120からの露光光を集光する第1集光光学系140と、第1集光光学系140からの露光光が入射するフライアイレンズFELと、フライアイレンズFELからの露光光を集光して被照射面としてのレチクルREIを照明する第2集光光学系160とを備える。
【0048】
また、露光装置は、照明装置IUと、照明装置IUによって照明されたレチクル上パターン像を被露光基板としてのウェハに形成する投影光学系POとを備えている。
【0049】
次に、
図10を参照して、光源ユニット120及び出力光学系130について説明する。
【0050】
図10(A)において、光源ユニット120は、例えば基板121上に配列された複数(
図10(A)では、5×5)のLED(Light Emitting Diode)チップ123を備える。これらのLEDチップは、上述した実施形態の製造方法で製造されたGaN発光素子である。なお、LEDチップ123の個数は必要に応じて適宜変更してもよい。複数のLEDチップ123のそれぞれは、発光部231を有し、この発光部231から射出される光のピーク波長は380~390nmの範囲内にある。すなわち、発光部231は、紫外線LED(UVLED)である。発光部231から射出され光のピーク波長は385nmであることがより好ましい。発光部231の発光面は正方形であってもよく、長方形や六角形等の多角形であってもよい。なお、LEDチップ123は、基板上ではなく、例えばヒートシンク上に配列されていてもよい。
【0051】
図10(B)を参照して、光源ユニット120及び出力光学系130の構成について説明する。
図10(B)において、LEDチップ123が配列された2方向を、X方向及びY方向とする。X方向とY方向とは直交している。また、X方向及びY方向に直交する方向をZ方向とする。Z方向は、発光部231から射出される光の進行方向とほぼ一致している。なお、
図10(B)では、図面の明瞭化のために、Y方向に沿って一列に並んだ4つのLEDチップ123だけを示している。
【0052】
図10(B)に示すように、出力光学系130は、各LEDチップ123の発光部231の拡大像をそれぞれ形成するための複数の拡大光学系を備えている。それぞれの拡大光学系は、LEDチップ123の配列と対応するように配列されており、発光部231を、拡大倍率のもとで拡大投影する両側テレセントリックな光学系である。なお、
図10(B)では、出力光学系130の各拡大光学系を2枚の正レンズで図示しているが、拡大光学系を構成するレンズ枚数は2枚に限定されない。また、拡大光学系を反射系又は反射屈折系で構成してもよい。そして、出力光学系130は、拡大光学系に代えて、或いは加えて、等倍光学系、縮小光学系を備えていてもよい。
【0053】
図9及び
図10に示す実施形態では、出力光学系130の各拡大光学系は、出力光学系130の最終光学部材の近傍に、発光部231の拡大像を形成する。これにより、出力光学系130の最終光学部材の近傍には、密に配列された複数の光源像が位置する。
【0054】
図9に戻って、照明装置IUの各構成要件について説明する。
【0055】
第1集光光学系140は、光源ユニット120及び出力光学系130によって形成される光源像の位置またはその近傍に前側焦点が位置するように配置され、フライアイレンズFELの入射面をケーラー照明する。
【0056】
フライアイレンズFELは、たとえば正の屈折力を有する複数のレンズエレメントをその光軸が基準光軸AXと平行になるように縦横に且つ稠密に配列することによって構成されている。フライアイレンズFELを構成する各レンズエレメントは、レチクルREI上において形成すべき照野の形状(ひいてはウェハW上において形成すべき露光領域の形状)と相似な矩形状の断面を有する。
【0057】
したがって、フライアイレンズFELに入射した光束は複数のレンズエレメントにより波面分割され、各レンズエレメントの後側焦点面(射出面)またはその近傍には1つの光源像がそれぞれ形成される。すなわち、フライアイレンズFELの後側焦点面(射出面)またはその近傍には、複数の光源像からなる実質的な面光源すなわち二次光源が形成される。
【0058】
ここで、フライアイレンズFELの1つのレンズエレメントに着目すると、この1つのレンズエレメントの後側焦点面(射出面)またはその近傍には、光源ユニット120及び出力光学系130によって形成された複数の光源像の像が形成され、これら複数の光源像の像は、複数のLEDチップ123が配列されている領域と相似形状の領域に分布する。このため、複数のLEDチップ123が配列されている領域とフライアイレンズFELの各レンズエレメントの断面とは互いに相似形状であってもよい。
【0059】
さて、フライアイレンズFELの後側焦点面(射出面)またはその近傍に形成された二次光源からの光束は、その近傍に配置された開口絞り150に入射する。なお、本実施形態においてフライアイレンズFELの後側焦点面(射出面)と、光源ユニット120のLEDチップ配列面とは、光学的に共役である。
【0060】
開口絞り150は、投影光学系POの入射瞳面と光学的にほぼ共役な位置に配置され、二次光源の照明に寄与する範囲を規定するための可変開口部を有する。開口絞り150を介した二次光源からの露光光は、第2集光光学系160の集光作用を受けた後、所定のパターンが形成されたレチクルREIを重畳的に照明する。
【0061】
そして、照明装置IUによって照明されたレチクルREIからの露光光(レチクルREI上の照野内に位置するパターンを介した露光光)は、投影光学系POに入射し、被露光基板としてウェハW上にレチクルREIのパターン像を形成する。これにより、ウェハWの露光領域にはレチクルREIのパターンが露光される。なお、投影光学系POの投影倍率は、縮小倍率であっても拡大倍率であっても等倍であってもよい。また、投影光学系POは、屈折光学系であっても反射光学系であっても反射屈折光学系であってもよい。
【0062】
以上説明したように、本実施形態によれば、サファイア基板上に成長させたp-GaN層の表面に数100nmオーダのホールを数100nmピッチで形成することでフォトニック結晶を製造することができる。これにより、レンズを使用せずにLEDチップ単体で指向性を持たせる事が可能となり、金型を作る必要がなくコストを削減できる。また、LEDチップの発光効率をフォトニック結晶を形成しない場合と比べて約1.5倍以上に増大させ得る。
【0063】
なお、100μm角以下のマイクロUV-LEDフリップチップは、石英レンズの微細加工が困難であるため指向角を制御することが困難であり、更に、GaN基板を実装した後にリフトオフするため、PSS(Patterned Sapphire Substrate)基板による高屈折率の効果を応用できない場面で、マイクロチップの指向角制御、高効率化に有効である。