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特開2025-153914水中油型乳化油脂組成物、および水中油型乳化油脂組成物を含有する食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025153914
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】水中油型乳化油脂組成物、および水中油型乳化油脂組成物を含有する食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/005 20060101AFI20251002BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20251002BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20251002BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20251002BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20251002BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20251002BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20251002BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20251002BHJP
【FI】
A23D7/005
A23D7/00 500
A21D2/14
A21D13/00
A21D13/80
A23L23/00
A23L35/00
A23L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024056630
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三平 浩人
(72)【発明者】
【氏名】石田 栄一
【テーマコード(参考)】
4B025
4B026
4B032
4B036
【Fターム(参考)】
4B025LB21
4B025LG13
4B025LG14
4B025LG36
4B026DC01
4B026DG04
4B026DG15
4B026DH10
4B026DK01
4B026DK10
4B026DL09
4B026DP01
4B026DP03
4B026DP04
4B026DP10
4B026DX04
4B032DB01
4B032DB05
4B032DG02
4B032DK02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK47
4B032DK51
4B032DP08
4B032DP33
4B032DP40
4B036LC01
4B036LE02
4B036LF19
4B036LH13
4B036LH22
4B036LH39
4B036LH49
4B036LK01
4B036LK06
4B036LP01
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、強度に優れたバター様の香りと呈味を発現し、乳脂肪のリパーゼ処理物に由来する異味を抑制した水中油型乳化油脂組成物、および前記水中油型乳化油脂組成物を含有する食品を提供することにある。
【解決手段】乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が155以上である風味素材を含有する、水中油型乳化油脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が155以上である風味素材を含有する、水中油型乳化油脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の水中油型乳化油脂組成物を含有する食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度に優れたバター様の香りと呈味を発現し、乳脂肪のリパーゼ処理物に由来する異味を抑制した水中油型乳化油脂組成物、および前記水中油型乳化油脂組成物を含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
製パン、製菓、調理食品分野において好ましい風味を発現するために、牛乳、脱脂粉乳、クリーム、バターといった様々な乳製品が使用されている。その中でも、バターは好ましい香りと呈味に優れており、バターを使用することで嗜好性の高い食品を製造することができ、食品の商品価値を高めることができる。
【0003】
しかしながら、バターは一般的な動植物油脂と比べて使用コストが高く、供給量に制限がある。また、バターは固形状の性状であり、可塑性を示す温度帯が狭いため、バターを使用する際には調温・溶解工程を行う必要があるといった作業性における課題がある。そのため、バターを使用する代わりに、油脂原料をリパーゼ処理して酸価を高くした酵素処理物を風味素材として少量添加することで、様々な食品に対してバター様の風味を発現させる方法が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、バターオイルをリパーゼで酵素処理し分解したもの、バターをメイラード反応させて油溶性画分を回収したもの、およびこれらの混合物から選ばれる酸価10~40のバター由来の成分を風味素材として使用することでバター様の風味を発現した油脂組成物を製造する方法が開示されている。特許文献2では、油脂原料をリパーゼ処理し、酸価が5~60である油脂原料のリパーゼ処理物を風味素材としてSUS型トリグリセリドとSSU型トリグリセリドを所定の割合で含む油脂に配合することで、バター様の風味を発現できる方法が開示されている。特許文献3では、乳原料を2段階にわけてリパーゼ処理することで得られた酸価30~80である乳脂肪のリパーゼ処理物を風味素材として使用することにより、バター様の風味を発現できる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-4807号公報
【特許文献2】特開2016-214155号公報
【特許文献3】特開2009-261339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
油脂原料をリパーゼ処理して酸価を高くすることにより、得られる風味が強くなるが、好ましくないえぐ味、金属味、酸味、苦味といった異味も発現してしまう。そのため、上記特許文献1~3では、バター風味と異味の兼ね合いから好ましい酸価の範囲が設定されており、強度に優れたバター様の香りと呈味を発現することが達成されていない。そのため、油脂原料のリパーゼ処理物由来の異味を抑制しつつ、さらなる強さのバター風味を発現できる方法が望まれている。
【0007】
本発明の課題はこのような現状に鑑み、強度に優れたバター様の香りと呈味を発現し、乳脂肪のリパーゼ処理物に由来する異味を抑制した水中油型乳化油脂組成物、および前記水中油型乳化油脂組成物を含有する食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、水中油型乳化組成物中に、乳脂肪のリパーゼ処理物であって、酸価が高い風味素材を含有させることで、強度に優れたバター様の香りと呈味を発現し、乳脂肪のリパーゼ処理物に由来する異味を抑制した水中油型乳化油脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の〔1〕~〔2〕である。
〔1〕乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が155以上である風味素材を含有する、水中油型乳化油脂組成物。
〔2〕〔1〕に記載の水中油型乳化油脂組成物を含有する食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、水中油型乳化油脂組成物中に、乳脂肪のリパーゼ処理物であって、酸価が高い風味素材を含有させることで、強度に優れたバター様の香りと呈味を発現し、乳脂肪のリパーゼ処理物に由来する異味を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は油相部と水相部からなり、乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が155以上である風味素材を含有することを特徴とするものである。
【0012】
なお、本発明における香りとは、本発明の水中油型乳化油脂組成物を含有する食品に対して喫食前に感じるバター様のミルキーな香り立ちのことであり、呈味とは、本発明の水中油型乳化油脂組成物を含有する食品を喫食した際に感じるバター様のまろやかでコクのある乳脂肪感のことであり、異味とは、油脂原料のリパーゼ処理物に由来するえぐ味、金属味、酸味、苦味の複合的な味のことである。
【0013】
本発明の水中油型乳化油脂組成物により、強度に優れた香りと呈味を発現する機構については以下のように推察している。
【0014】
酸価が155以上となるように、乳脂肪をリパーゼで分解することにより、遊離した短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸を豊富に含有する乳脂肪のリパーゼ処理物を得ることができる。この乳脂肪のリパーゼ処理物を風味素材として水中油型乳化油脂組成物に含有させることにより、風味素材中に豊富に含まれている短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸の一部が、水中油型乳化油脂組成物の連続相である水相部に溶解することで、強度に優れた香りが発現したと推察している。さらに、水相部に溶解しきれなかった短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、および長鎖脂肪酸が、分散相である油相部に溶解することで強度に優れた呈味が発現したと推察している。
【0015】
本発明の水中油型乳化油脂組成物により、乳脂肪のリパーゼ処理物に由来する異味を抑制する機構については以下のように推察している。
【0016】
酸価が高い油脂原料のリパーゼ処理物に由来する異味を感じる要因は、人の口腔内で、油脂のリパーゼ処理物中の短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸に由来する呈味が同じタイミングで発現することだと考えている。しかしながら、本発明の水中油型乳化油脂組成物では、乳脂肪のリパーゼ処理物中に豊富に含まれている短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸の一部が連続相である水相部に溶解し、水相部に溶解しきれなかった短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、および長鎖脂肪酸が分散相である油相部に溶解することにより、人の口腔内での短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸に由来する呈味の発現タイミングが異なる。そのため、乳脂肪のリパーゼ処理物であり酸価が155以上の風味素材を使用した場合であっても、乳脂肪のリパーゼ処理物に由来する異味が抑制されたと推察している。
【0017】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0018】
〔風味素材〕
本発明における風味素材は、油脂原料として乳脂肪を用いた乳脂肪のリパーゼ処理物である。乳脂肪を含む食品としては、バター、チーズ、生クリーム、牛乳、バターミルク、全粉乳等が挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種類以上を使用できる。好ましくは、バターである。これら乳脂肪を含む食品から抽出した油脂分を、リパーゼで分解するために用いる乳脂肪とすることができる。リパーゼとしては、動植物、微生物から分離した各種酵素を使用できる。具体的には、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、リゾープス(Rhizopus)属等の糸状菌、キャンディダ(Candida)属等の酵母、小山羊、山羊、小牛の口頭分泌腺から採取されるオーラル・リパーゼ(Oral Lipase)等が挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種類以上のリパーゼを使用できる。本発明の乳脂肪のリパーゼ処理物は、乳脂肪および乳脂肪の分解物の混合物であり、具体的にはトリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、脂肪酸の混合物である。
【0019】
風味素材の製造方法は特に制限されず、リパーゼの種類に応じて一般に用いられている至適温度、至適pH等の条件で製造することができる。例えば、バターオイル100質量部を攪拌しながら、予め水1~50質量部にリパーゼ0.001~2質量部を溶解したリパーゼ水溶液を添加し、25℃~60℃、pH3.0~8.0の範囲で分解を行う。目標となる酸価に達した後、酵素を濾別、酵素反応阻害剤を添加、あるいは加熱処理などにより酵素反応を停止させたのち、乾燥、遠心分離等により水分を除去することにより、本発明の風味素材を得ることができる。本発明の風味素材中の水分含有量は5.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1.0質量%以下である。
【0020】
本発明の風味素材の酸価は、乳脂肪のリパーゼ処理物を測定対象として基準油脂分析試験法「2.3.1-2013 酸価」に準じて測定を行った。本発明の風味素材の酸価は155以上であり、好ましくは155以上、205以下である。風味素材の酸価が155未満の場合、短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の生成量が少なく、強度に優れた香りと呈味を発現することができない。
【0021】
本発明の風味素材のトリアシルグリセロールは25.0質量%以下であり、かつジアシルグリセロールの含有量は15.0質量%以下であることが好ましい。トリアシルグリセロールとジアシルグリセロールの含有量が上記である場合、強度に優れた香りと呈味を発現し、乳脂肪のリパーゼ処理物に由来する異味を抑制するという本発明の効果をより高めることができる。なおトリアシルグリセロール、ジアシルグリセロールの含有量は、乳脂肪のリパーゼ処理物を測定対象として測定した値である。
【0022】
本発明の水中油型乳化油脂組成物中の風味素材の含有量は好ましくは1.0~14.0質量%であり、より好ましくは4.0質量%以上、10.0質量%以下である。風味素材の含有量が1.0質量%未満である場合は強度に優れた香りと呈味を発現することができない。一方、風味素材の含有量が14.0質量%を超える場合は添加量に見合った本発明の効果を得ることができない。
【0023】
〔水中油型乳化油脂組成物〕
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、油脂、および油溶性成分を含有する油相部と、水、および水溶性成分を含有する水相部からなり、上記風味素材を含有することを特徴としている。
【0024】
油脂には、食用に適する油脂が使用できる。具体的には、牛脂、豚脂、魚油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、コーン油、コメ油、バター、バターオイル等の動植物油脂、およびこれらの硬化油、極度硬化油、エステル交換油等が挙げられ、これらの群から選ばれる1種類以上を使用できる。油相部の油溶性成分としては、油溶性乳化剤、油溶性酸化防止剤、動植物タンパク質、油溶性フレーバー等が使用できる。水溶性成分としては、水溶性乳化剤、水溶性酸化防止剤、糖類、高糖化還元水飴、糖アルコール、乳、乳製品、澱粉、塩類、増粘多糖類、酸味料、酵素、pH調整剤等の安定剤、香辛料、呈味素材、水溶性フレーバー等が使用できる。
【0025】
水中油型乳化油脂組成物の乳化安定性が良好であるという観点と風味素材中の短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸が連続相である水相部に溶解しやすいという観点から、水中油型乳化油脂組成物中の油相部の含有量は好ましくは5.0~55.0質量%であり、より好ましくは10.0質量%以上、50.0質量%以下であり、さらに好ましくは15.0質量%以上、45.0質量%以下である。
【0026】
水中油型乳化油脂組成物の乳化安定性が良好であるという観点と風味素材中の短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸が連続相である水相部に溶解しやすいという観点から、水中油型乳化油脂組成物の油相部のメジアン径は好ましくは0.1μm~20.0μmであり、より好ましくは0.5μm以上、15.0μm以下である。
【0027】
本発明の水中油型乳化油脂組成物の製造方法は特に制限されず、公知の方法により製造することができる。本発明の風味素材の添加方法は特に制限されず、油相部と水相部のどちらに添加してもかまわないが、油相部と水相部とを乳化させた後に本発明の風味素材を添加する方法が好ましい。本発明の水中油型乳化油脂組成物を製造する方法としては、例えば、始めに、水、および水溶性乳化剤を加熱融解した水相部に対して、油脂、および油溶性乳化剤を加熱融解した油相部を添加して粗乳化液を製造する。次に、製造した粗乳化液に対して、本発明の風味素材を添加する。最後に、本発明の風味素材を含有した粗乳化液をホモジナイザー等の高圧均質化機により均質化を行い、冷却することにより水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。
【0028】
〔水中油型乳化油脂組成物を含有する食品〕
本発明の水中油型乳化油脂組成物の用途としては、例えば、食パン、テーブルロール、菓子パン、調理パン、フランスパン、ライブレッドなどのパン類、パイ、デニッシュ、クロワッサン等のペストリー類、シュトーレン、パネトーネ、ドーナツなどのイースト菓子類、パウンドケーキ、スポンジケーキ、クッキー、ホットケーキなどの菓子類、バタークリーム、ホイップクリーム、ジャム等のフィリング類、グラタン、リゾット、スープ、クリームシチュー、カレー、パスタソース、オムレツなどの原料の1つとして用いることができる。本発明の油脂組成物の用途としては、上記に制限されるものではない。
【実施例0029】
以下に本発明をさらに具体的に説明する。本発明の水中油型乳化油脂組成物は以下の実施例に何ら限定されるものではない。実施例中の配合量と配合割合は質量基準である。
【0030】
(風味素材の製造)
以下の方法で風味素材A~Gを製造した。
【0031】
溶解させたバターオイル(高保製薬工業株式会社製:Pure Cow GHEE 13kg)70.0gを用い、水26.5gにリパーゼ(天野エンザイム株式会社製:リパーゼAY「アマノ」30SD」)1.0gを溶解させたリパーゼ水溶液を添加し、45℃に加熱しながらスターラーで攪拌を行った。目標とする酸価に達した後、85℃で30分間加熱してリパーゼを失活させたのち、遠心分離で水相部を除去して、風味素材A~E(風味素材A:酸価180、風味素材B:酸価205、風味素材C:酸価155、風味素材D:酸価140、風味素材E:酸価70)を製造した。
【0032】
風味素材Fはバターオイルの替わりにパーム油、風味素材Gはバターオイルの替わりにヤシ油を油脂原料として用い、風味素材A~Eと同様の処理を行うことで、風味素材F、風味素材G(風味素材F:酸価180、風味素材G:酸価180)を製造した。
上記で得た風味素材A~Gの水分含有量は5.0質量%以下であった。
【0033】
なお、上記で得た風味素材の酸価は、基準油脂分析試験法「2.3.1-2013 酸価」に準じて測定を行った。
【0034】
風味素材A~Gの製造に使用した油脂原料であるバターオイル、パーム油、ヤシ油の脂肪酸組成(質量%)を表1に示した。なお、上記の脂肪酸組成は基準油脂分析試験法「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成」に準じて測定した。
【0035】
【表1】
【0036】
なお、風味素材A、風味素材B、風味素材Cのトリアシルグリセロールの含有量は25.0質量%以下であり、ジアシルグリセロールの含有量は15.0質量%以下であった。
【0037】
(水中油型乳化油脂組成物の製造)
表2の配合組成で以下の方法により水中油型乳化油脂組成物を製造した。すなわち、実施例1では水615gに対し、ポリグリセリン脂肪酸エステル(太陽化学株式会社製:サンソフトQ-18S)12gを添加し、70℃に加熱し水相部とした。この水相部に対し、モノグリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社製:エマルジーP100)3gをナタネ油300gに溶解させ、70℃に加熱した油相部を添加し、70℃に加熱しながらプロペラ撹拌して粗乳化液を製造した。製造した粗乳化液に対して、風味素材A70gを添加して、70℃に加熱しながらプロペラ撹拌にて混合した。次に、高圧均質化機を用いて風味素材Aを含有した粗乳化液を均質化して、実施例1の水中油型乳化油脂組成物を製造した。実施例2~5、比較例1~5は表2の配合組成に従って、上記と同様にして水中油型乳化油脂組成物を製造した。
【0038】
なお、実施例1~5、比較例1~5の水中油型乳化油脂組成物の分散相である油相部のメジアン径は0.5μm~15.0μmであった。
【0039】
(油中水型乳化油脂組成物の製造)
表2の配合組成で以下の方法により油中水型乳化油脂組成物を製造した。すなわち、比較例6ではナタネ油750gに対し、モノグリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社製:エマルジーP100)3g、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(理研ビタミン株式会社製:ポエムPR-400)10gを添加し、70℃に加熱して油相部とした。この油相部に対し、水167gを添加し、70℃に加熱しながらプロペラ撹拌して乳化した後、風味素材A70gを添加した。これをコンビネーターにて急冷混和し、比較例6の油中水型乳化油脂組成物を製造した。
【0040】
(油脂組成物の製造)
表2の配合組成で以下の方法により油脂組成物を製造した。すなわち、比較例7ではナタネ油927gに対し、モノグリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社製:エマルジーP100)3g、風味素材A70gを添加し、70℃で加熱しながらプロペラ攪拌して溶解させ、これをコンビネーターにて急冷混和し、比較例7の油脂組成物を製造した。
【0041】
(バターロールの製造)
実施例1~5、および比較例1~5の水中油型乳化油脂組成物、比較例6の油中水型乳化油脂組成物、比較例7の油脂組成物を使用して、以下に示す配合、方法でバターロールを製造した。
【0042】
バターロールの製造方法:ミキサーボールに中種生地の原料を投入し、低速2分、中高速2分ミキシングし、捏ね上げ温度26℃の生地を得た。28℃で2時間発酵させた中種生地と本捏ね生地の原料をミキサーボールに投入し、低速2分、中高速5分ミキシング後、ショートニング(日油株式会社製:カナリヤエイト)を投入し、低速3分、中高速3分ミキシングし、捏ね上げ温度28℃の生地を得た。28℃で30分間発酵させた後、35gに分割し、ベンチタイムを30分間取った後、成形した。鉄板に並べた生地を温度35℃、湿度75%のホイロで50分間最終発酵を行った。最終発酵後、上火205℃、下火200℃のオーブンで8分間焼成した。焼成後40分間室温に放置した後、袋に入れ、20℃で1日保管したものを評価に用いた。
バターロールの配合:
[中種生地]
強力粉 70質量部
イースト 3質量部
イーストフード 0.1質量部
水 42質量部
[本捏ね生地]
強力粉 10質量部
薄力粉 20質量部
上白糖 14質量部
食塩 1.7質量部
脱脂粉乳 3質量部
全卵 12質量部
水 8質量部
水中油型乳化油脂組成物(実施例1~5、比較例1~5) 1質量部
油中水型乳化油脂組成物(比較例6) 1質量部
油脂組成物(比較例7) 1質量部
ショートニング 14質量部
【0043】
(バターロールの評価)
パネラー20名にて、室温にて実施例、および比較例のバターロールの香りを嗅ぎ、「香り」について以下の基準で評価した。また、パネラー20名にて、室温にて実施例、および比較例のバターロールを喫食し、「呈味」、「異味」について以下の基準で評価した。
【0044】
[香り]
20名のパネラーにて官能評価を行い、風味素材を添加していない比較例1の水中油型乳化油脂組成物を用いて製造したバターロールをコントロールとして、次の基準により採点し、その平均値を小数点第二位で四捨五入した点にて評価した。評価結果は表2下段の「香り」欄に示した。
<採点基準>
4点:コントロールと比べて、バター様のミルキーな香り立ちを強く感じる。
3点:コントロールと比べて、バター様のミルキーな香り立ちを感じる。
2点:コントロールと比べて、バター様のミルキーな香り立ち感じる。
1点:コントロールと同様に、バター様のミルキーな香り立ちを感じない。
<評価基準>
◎:3.5~4.0点
〇:3.0~3.4点
△:2.0~2.9点
×:1.0~1.9点
なお、香りの評価としては、◎、〇を合格とし、△、×は不合格とした。
【0045】
[呈味]
20名のパネラーにて官能評価を行い、風味素材を添加していない比較例1の水中油型乳化油脂組成物を用いて製造したバターロールをコントロールとして、次の基準により採点し、その平均値を小数点第二位で四捨五入した点にて評価した。評価結果は表2下段の「呈味」欄に示した。
<採点基準>
4点:コントロールと比べて、バター様のまろやかでコクのある乳脂肪感を強く感じる。
3点:コントロールと比べて、バター様のまろやかでコクのある乳脂肪感を感じる。
2点:コントロールと比べて、バター様のまろやかでコクのある乳脂肪感を弱く感じる。
1点:コントロールと同様に、バター様のまろやかでコクのある乳脂肪感を感じない。
<評価基準>
◎:3.5~4.0点
〇:3.0~3.4点
△:2.0~2.9点
×:1.0~1.9点
なお、呈味の評価としては、◎、〇を合格とし、△、×は不合格とした。
【0046】
[異味]
20名のパネラーにて官能評価を行い、風味素材を添加していない比較例1の水中油型乳化油脂組成物を用いて製造したバターロールをコントロールとして、次の基準により採点し、その平均値を小数点第二位で四捨五入した点にて評価した。評価結果は表2下段の「異味」欄に示した。
<採点基準>
4点:コントロール同様に、油脂原料のリパーゼ処理物に由来するえぐ味、金属味、酸味、苦味の複合的な味を感じない。
3点:コントロールと比べて、油脂原料のリパーゼ処理物に由来するえぐ味、金属味、酸味、苦味の複合的な味を微かに感じる。
2点:コントロールと比べて、油脂原料のリパーゼ処理物に由来するえぐ味、金属味、酸味、苦味の複合的な味を感じる。
1点:コントロールと比べて、油脂原料のリパーゼ処理物に由来するえぐ味、金属味、酸味、苦味の複合的な味を強く感じる。
<評価基準>
◎:3.5~4.0点
〇:3.0~3.4点
△:2.0~2.9点
×:1.0~1.9点
なお、後味の評価としては、◎、〇を合格とし、△、×は不合格とした。
【0047】
【表2】
【0048】
表2をみると、実施例1~5では香り、呈味、異味の全てにおいて合格の評価であることがわかる。一方、比較例1~7では、香り、呈味、異味のいずれかの評価が不合格であることがわかる。
【0049】
(水中油型乳化油脂組成物を含有する食品(パウンドケーキ)の製造)
パウンドケーキの製造方法:ショートニング(日油株式会社製:カナリヤエイト)と上白糖を卓上ミキサーに投入し、低速で4分撹拌した後、全卵を低速で撹拌しながら加えた。その後、ふるいで篩った薄力粉とベーキングパウダーを投入し、低速で1分ミキシングしてパウンドケーキ生地を得た。得られた生地を3分割して型に入れて、上火170℃、下火150℃のオーブンで35分間焼成した。焼成後2時間室温に放置した後、型から外して袋にいれ、20℃で1日保管したものを評価に用いた。
パウンドケーキの配合:
ショートニング 100質量部
上白糖 100質量部
全卵 100質量部
水中油型乳化油脂組成物(実施例1、比較例1) 2質量部
薄力粉 100質量部
ベーキングパウダー 1質量部
【0050】
(水中油型乳化油脂組成物を含有する食品(パウンドケーキ)の評価)
比較例1の水中油型乳化油脂組成物を用いて製造したパウンドケーキをコントロールとして、実施例1を用いて製造したパウンドケーキの香り、呈味、異味を評価したところ、強度に優れた香りと呈味が発現しており、乳脂肪のリパーゼ処理物に由来する異味が抑制されていた。
【0051】
(水中油型乳化油脂組成物を含有する食品(クリームシチュー)の製造)
クリームシチューの製造方法:鍋にショートニング(日油株式会社製:カナリヤエイト)を投入して中火にかけ、薄力粉を投入して混ぜながら加熱した。鍋を火からおろして、牛乳を投入し、再び火にかけて混ぜながらひと煮立ちさせてルウを得た。水に顆粒コンソメを溶かしたブイヨン、水中油型乳化油脂組成物、牛乳、得られたルウを投入し、ルウが溶けるまで加熱して得られたクリームシチューを評価に用いた。
クリームシチューの配合:
[ルウ]
ショートニング 30質量部
薄力粉 20質量部
牛乳 180質量部
[クリームシチュー]
ルウ 160質量部
水 150質量部
顆粒コンソメ 5質量部
水中油型乳化油脂組成物(実施例1、比較例1) 1質量部
牛乳 250質量部
【0052】
(水中油型乳化油脂組成物を含有する食品(クリームシチュー)の評価)
比較例1の水中油型乳化油脂組成物を用いて製造したクリームシチューをコントロールとして、実施例1を用いて製造したクリームシチューの香り、呈味、異味を評価したところ、強度に優れた香りと呈味が発現しており、乳脂肪のリパーゼ処理物に由来する異味が抑制されていた。
【0053】
(水中油型乳化油脂組成物を含有する食品(ホイップクリーム)の製造)
ホイップクリームの製造方法:卓上ミキサーにクリーム、水中油型乳化油脂組成物、グラニュー糖、水を投入して中高速で90秒撹拌して得られたホイップクリームを評価に用いた。
ホイップクリームの配合:
クリーム 100質量部
水中油型乳化油脂組成物(実施例1、比較例1) 0.5質量部
グラニュー糖 10質量部
水 200g
【0054】
(水中油型乳化油脂組成物を含有する食品(ホイップクリーム)の評価)
比較例1の水中油型乳化油脂組成物を用いて製造したホイップクリームをコントロールとして、実施例1を用いて製造したホイップクリームの香り、呈味、異味を評価したところ、強度に優れた香りと呈味が発現しており、乳脂肪のリパーゼ処理物に由来する異味が抑制されていた。