(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025153965
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】粉末状セメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 7/02 20060101AFI20251002BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20251002BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
C04B7/02
C04B14/28
C04B28/02
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024056709
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】溝渕 裕美
(72)【発明者】
【氏名】久我 龍一郎
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA10
4G112PC12
4G112PC13
(57)【要約】
【課題】石灰石微粉末を大きな含有率で含む粉末状セメント組成物であって、コンクリート等の材料として用いた場合に、大きな圧縮強さを与えることができ、かつ、優れた耐硫酸塩性を有する粉末状セメント組成物を提供する。
【解決手段】セメント及び石灰石微粉末を含む粉末状セメント組成物であって、粉末状セメント組成物のボーグ式による鉱物組成は、エーライトの含有率が50~70質量%、ビーライトの含有率が5~15質量%、アルミネート相の含有率が2~10質量%、エーライトとビーライトの合計の含有率が60~80質量%、及び、エーライトとビーライトの質量比(エーライト/ビーライト)が5~10、の各条件を満たすものであり、粉末状セメント組成物中の石灰石微粉末の含有率が、5~15質量%である、粉末状セメント組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント及び石灰石微粉末を含む粉末状セメント組成物であって、
上記粉末状セメント組成物のボーグ式による鉱物組成は、エーライトの含有率が50~70質量%、ビーライトの含有率が5~15質量%、アルミネート相の含有率が2~10質量%、エーライトとビーライトの合計の含有率が60~80質量%、及び、エーライトとビーライトの質量比(エーライト/ビーライト)が5~10、の各条件を満たすものであり、
上記粉末状セメント組成物中の石灰石微粉末の含有率が、5~15質量%であることを特徴とする粉末状セメント組成物。
【請求項2】
上記ビーライトは、三酸化硫黄の固溶量が0.3質量%以上、五酸化二リンの固溶量が0.05質量%以上、及び、上記三酸化硫黄の固溶量と上記五酸化二リンの固溶量の合計が0.5~4質量%、の各条件を満たすものである請求項1に記載の粉末状セメント組成物。
【請求項3】
上記アルミネート相は、三酸化硫黄の固溶量が0.03質量%以上、酸化マグネシウムの固溶量が0.8~4.0質量%、及び、上記三酸化硫黄の固溶量と上記酸化マグネシウムの固溶量の合計が1.5~5.5質量%、の各条件を満たすものである請求項1に記載の粉末状セメント組成物。
【請求項4】
上記粉末状セメント組成物のボーグ式による鉱物組成として、フェライトの含有率が、5~12質量%である請求項1に記載の粉末状セメント組成物。
【請求項5】
上記粉末状セメント組成物中の水溶性アルカリ量が、0.2質量%以上である請求項1に記載の粉末状セメント組成物。
【請求項6】
上記粉末状セメント組成物中の三酸化硫黄の含有率が、2.2~4.0質量%である請求項1に記載の粉末状セメント組成物。
【請求項7】
上記粉末状セメント組成物のブレーン比表面積が、4,000~5,800cm2/gである請求項1に記載の粉末状セメント組成物。
【請求項8】
上記粉末状セメント組成物が、セメントクリンカ粉砕物、石膏及び石灰石微粉末以外の無機粉末を含まない、もしくは、5質量%以下の含有率で含む請求項1に記載の粉末状セメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セメント製造業において、カーボンニュートラルの実現を目指して、二酸化炭素の排出量を削減するための種々の取り組みが行われている。
例えば、ポルトランドセメント中の少量混合材の増量が、検討されている。少量混合材を増量させれば、その分、セメントクリンカ粉砕物を減量させることができるので、セメントクリンカの製造時に発生する二酸化炭素を減らすことができる。
少量混合材としては、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ等が知られている。しかし、高炉スラグ微粉末やフライアッシュは、これらの産出源である製鉄所や石炭火力発電所の規模の縮小によって、今後、産出量が減少していく可能性がある。
このため、高炉スラグ微粉末やフライアッシュを用いずに、セメントクリンカの使用量を削減させることができる技術が、求められている。
【0003】
一方、石灰石微粉末を含む種々のセメント組成物が、知られている。
その一例として、特許文献1に、付加製造装置用水硬性組成物を用いた、造形物の造形方法であって、ボーグの式で算出される値としてフェライト相の割合が4.0質量%以上であるセメントと、セメント100質量部に対して2~150質量部となる量の無機粉末(例えば、石灰石微粉末)と、水を混合して、セメント組成物を得るセメント組成物調製工程等を含むこと特徴とする造形物の造形方法が、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、石灰石微粉末を含む種々のセメント組成物が、知られている。
石灰石微粉末の量を増やした場合、その分、セメント組成物中のセメントの割合が減少するので、セメント組成物の硬化体の圧縮強さが低下するおそれがある。
一方、セメント組成物を、硫酸塩を含む環境下(例えば、土壌、地下水、工場排水等であって、硫酸塩の含有率が高いものに接しうる場所)で用いる場合、セメント組成物が、耐硫酸塩性に劣るものであると、セメント組成物の硬化体(例えば、コンクリート構造物)の表面部分に、大きな膨張が生じ、その結果、コンクリート構造物に、ひび割れが生じるおそれがある。
本発明の目的は、石灰石微粉末を大きな含有率で含む粉末状セメント組成物であって、コンクリート等の材料として用いた場合に、大きな圧縮強さを与えることができ、かつ、優れた耐硫酸塩性を有する粉末状セメント組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメント及び石灰石微粉末を含む粉末状セメント組成物であって、セメントが、特定の鉱物組成を有し、かつ、粉末状セメント組成物中の石灰石微粉末の含有率が、特定の範囲内である粉末状セメント組成物によれば、石灰石微粉末を大きな含有率で含むにもかかわらず、大きな圧縮強さ(例えば、モルタル圧縮強さ)を与えることができ、しかも、優れた耐硫酸塩性を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、以下の[1]~[8]を提供するものである。
[1] セメント及び石灰石微粉末を含む粉末状セメント組成物であって、上記粉末状セメント組成物のボーグ式による鉱物組成は、エーライトの含有率が50~70質量%、ビーライトの含有率が5~15質量%、アルミネート相の含有率が2~10質量%、エーライトとビーライトの合計の含有率が60~80質量%、及び、エーライトとビーライトの質量比(エーライト/ビーライト)が5~10、の各条件を満たすものであり、上記粉末状セメント組成物中の石灰石微粉末の含有率が、5~15質量%であることを特徴とする粉末状セメント組成物。
[2] 上記ビーライトは、三酸化硫黄の固溶量が0.3質量%以上、五酸化二リンの固溶量が0.05質量%以上、及び、上記三酸化硫黄の固溶量と上記五酸化二リンの固溶量の合計が0.5~4質量%、の各条件を満たすものである、上記[1]に記載の粉末状セメント組成物。
[3] 上記アルミネート相は、三酸化硫黄の固溶量が0.03質量%以上、酸化マグネシウムの固溶量が0.8~4.0質量%、及び、上記三酸化硫黄の固溶量と上記酸化マグネシウムの固溶量の合計が1.5~5.5質量%、の各条件を満たすものである、上記[1]または[2]に記載の粉末状セメント組成物。
[4] 上記粉末状セメント組成物のボーグ式による鉱物組成として、フェライトの含有率が、5~12質量%である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の粉末状セメント組成物。
[5] 上記粉末状セメント組成物中の水溶性アルカリ量が、0.2質量%以上である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の粉末状セメント組成物。
[6] 上記粉末状セメント組成物中の三酸化硫黄の含有率が、2.2~4.0質量%である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の粉末状セメント組成物。
[7] 上記粉末状セメント組成物のブレーン比表面積が、4,000~5,800cm2/gである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の粉末状セメント組成物。
[8] 上記粉末状セメント組成物が、セメントクリンカ粉砕物、石膏及び石灰石微粉末以外の無機粉末を含まない、もしくは、5質量%以下の含有率で含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の粉末状セメント組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の粉末状セメント組成物は、石灰石微粉末を5~15質量%という大きな含有率で含むにもかかわらず、水、骨材等と混合して、モルタル、コンクリート等を調製したときに、大きな圧縮強さ(例えば、モルタル圧縮強さ)を与えることができる。
また、本発明の粉末状セメント組成物は、水、骨材等と混合して、モルタル、コンクリート等を調製したときに、優れた耐硫酸塩性を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の粉末状セメント組成物(以下、「本発明の組成物」と略すことがある。)は、セメント及び石灰石微粉末を含む。
セメントは、セメントクリンカ粉砕物及び石膏を含む。
本発明において、粉末状セメント組成物(100質量%)の鉱物組成は、ボーグ式による算出値として、エーライトの含有率が50~70質量%、ビーライトの含有率が5~15質量%、アルミネート相の含有率が2~10質量%、エーライトとビーライトの合計の含有率が60~80質量%、及び、エーライトとビーライトの質量比(エーライト/ビーライト)が5~10、の各条件を満たすものである。
【0010】
エーライト(化学式:3CaO・SiO2;C3Sと略すことがある。)の含有率は、50~70質量%、好ましくは53~68質量%、より好ましくは56~66質量%、特に好ましくは59~64質量%である。
該含有率が50質量%未満であると、早期強度発現性(例えば、材齢7~14日の圧縮強さが大きいこと)が低下することがある。該含有率が70質量%を超えると、アルミネート相の割合が小さくなり、初期強度発現性(例えば、材齢1~3日の圧縮強さが大きいこと)が低下することがある。
【0011】
ビーライト(化学式:2CaO・SiO2;C2Sと略すことがある。)の含有率は、5~15質量%、好ましくは6~14質量%、より好ましくは6.5~13質量%、特に好ましくは7~12質量%である。
該含有率が5質量%未満であると、長期強度発現性(例えば、材齢28日以降の圧縮強さが大きいこと)が低下することがある。該含有率が15質量%を超えると、アルミネート相やエーライトの割合が小さくなり、初期強度発現性や早期強度発現性が低下することがある。
本発明において、ビーライトは、三酸化硫黄(SO3)の固溶量が0.3質量%以上、五酸化二リン(P2O5)の固溶量が0.05質量%以上、及び、三酸化硫黄(SO3)の固溶量と五酸化二リン(P2O5)の固溶量の合計が0.6~4%、の各条件を満たすことが好ましい。
これらの条件を満たすことによって、耐硫酸塩性をより高めることができる。
【0012】
アルミネート相(化学式:3CaO・Al2O3;C3Aと略すことがある。)の含有率は、2~10質量%、好ましくは2~7質量%、より好ましくは3~6質量%、特に好ましくは4~5質量%である。該含有率が2質量%未満であると、初期強度発現性が低下することがある。該含有率が10質量%を超えると、耐硫酸塩性が低下する。
本発明において、アルミネート相は、三酸化硫黄の固溶量が0.03質量%以上、酸化マグネシウムの固溶量が0.8~4.0質量%、及び、三酸化硫黄の固溶量と酸化マグネシウムの固溶量の合計が1.5~5.5質量%、の各条件を満たすことが好ましい。
これらの条件を満たすことによって、耐硫酸塩性をより高めることができる。
【0013】
エーライトとビーライトの合計の含有率は、60~80質量%、好ましくは63~78質量%、より好ましくは66~76質量%、特に好ましくは68~74質量%である。
該含有率が60質量%未満であると、長期に亘る強度発現性が低下することがある。該含有率が80質量%を超えると、本発明の粉末状セメント組成物中のセメントクリンカ粉砕物の割合が大きくなり、セメント製造時における二酸化炭素の排出量の削減の程度が小さくなることがある。
エーライトとビーライトの質量比(エーライト/ビーライト)は、5~10、好ましくは5.5~9.5、特に好ましくは6~9である。
該質量比が5未満であると、初期材齢の強度発現性が低下する。該質量比が10を超えると、耐硫酸塩性が低下し、また、長期材齢の強度発現性が低下することがある。
【0014】
フェライト相(化学式:4CaO・Al2O3・Fe2O3;C4AFと略すことがある。)の含有率は、特に限定されないが、好ましくは5~12質量%、より好ましくは6~11質量%、特に好ましくは7~10質量%である。
該含有率が5質量%以上であると、耐硫酸塩性をより高めることができる。該含有率が12質量%以下であると、他の鉱物(例えば、アルミネート相)の含有率を大きくすることができ、初期強度発現性等をより高めることができる。
【0015】
本発明の粉末状セメント組成物の鉱物組成であるエーライト(C3S)、ビーライト(C2S)、アルミネート相(C3A)、及びフェライト相(C4AF)の各含有率は、以下のボーグ式(1)~(4)を用い、かつ、石灰石微粉末の含有率によって補正したうえで、算出される。
(1) C3S(質量%)=(4.07×CaO(質量%))-(7.60×SiO2(質量%))-(6.72×Al2O3(質量%))-(1.43×Fe2O3(質量%))-(2.85×SO3(質量%))
(ただし、式(1)中、「CaO(質量%)」の値は、遊離石灰を含まない値である。)
(2) C2S(質量%)=(2.87×SiO2(質量%))-(0.754×C3S(質量%))
(3) C3A(質量%)=(2.65×Al2O3(質量%))-(1.69×Fe2O3(質量%))
(4) C4AF(質量%)=3.04×Fe2O3(質量%)
【0016】
本発明において、セメントに含まれる石膏としては、ポルトランドセメントの材料として用いられる一般的な石膏(特に、二水石膏、及び、セメントの製造時に生じることがある半水石膏)を用いることができる。
石膏の量は、アルミネート相の水和による瞬結の防止等の観点から、本発明の組成物中の三酸化硫黄(SO3)の含有率が、2.2~4.0質量%(好ましくは2.4~3.5質量%、より好ましくは2.5~3.0質量%)となるような量であることが好ましい。
【0017】
本発明の組成物の材料の一つである石灰石微粉末のブレーン比表面積は、好ましくは3,000~8,000cm2/g、より好ましくは4,000~7,000cm2/g、特に好ましくは4,500~6,000cm2/gである。
該値が3,000cm2/g以上であると、強度発現性をより高めることができる。該値が8,000cm2/g以下であると、流動性をより高めることができる。
本発明において、石灰石微粉末中の炭酸カルシウムの含有率は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。
【0018】
本発明の組成物中の石灰石微粉末の含有率は、5~15質量%である。
該含有率が5質量%未満であると、石灰石微粉末の使用量を大きくすることによって、セメント製造時の二酸化炭素の排出量を削減するという本発明の目的を十分に達成することができない。該含有率が15質量%を超えると、本発明の組成物の圧縮強さが低下する。
本発明の組成物中の石灰石微粉末の含有率は、石灰石微粉末の使用量を大きくすることによって、セメント製造時の二酸化炭素の排出量を削減する観点からは、好ましくは6質量%以上、より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは9質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、特に好ましくは11質量%以上である。
該含有率は、本発明の組成物の圧縮強さを大きくする観点からは、好ましくは14質量%以下、より好ましくは13質量%以下である。
【0019】
本発明のセメント組成物は、好ましくは、セメントクリンカ粉砕物、石膏及び石灰石微粉末以外の無機粉末(以下、「他の無機粉末」ともいう。)を含まない、もしくは、5質量%以下(好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下)の含有率で含むものである。
他の無機粉末の例としては、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム等が挙げられる。
【0020】
本発明の組成物中の水溶性アルカリ量は、好ましくは0.2質量%以上である。該量が0.2質量%以上であると、初期強度発現性をより高めることができる。
本発明において、「水溶性アルカリ量」とは、「JCAS-1-04:2004」(セメントの水溶性成分の分析方法)の方法に準拠して算出される値をいう。
本発明の組成物のブレーン比表面積は、好ましくは4,000~5,800cm2/g、より好ましくは4,200~5,600cm2/gである。該値が4,000cm2/g以上であると、強度発現性をより高めることができる。該値が5,800cm2/g以下であると、流動性をより高めることができる。
【0021】
本発明の組成物(粉砕後のもの)の原料(粉砕前のもの)の一例として、セメントクリンカ、未粉砕の石膏、及び、石灰石粒体の組み合わせが挙げられる。
セメントクリンカは、上述のクリンカ鉱物組成が得られるように、セメントの原料として用いられる各種の原料の種類(特に、水溶性アルカリ量が上述の好ましい範囲内になるように、建設発生土や都市ごみ焼却灰等の廃棄物が含まれていることが、好ましい。)及び量を定めた後、これら各種の原料を混合して焼成することによって得ることができる。
未粉砕の石膏としては、セメントの原料として一般的な粒度のもの(換言すると、セメントクリンカと共に粉砕する前のもの)を用いることができる。
石灰石粒体としては、例えば、最大粒径が5mm以下であり、かつ、20μmを超える粒度を有する粉体の割合が95質量%以上のものを用いることができる。
【0022】
本発明の組成物の製造方法の好ましい一例は、セメントクリンカと、未粉砕の石膏と、石灰石粒体を同時に粉砕して、本発明の組成物(粉末状のもの)を得る粉砕工程を含む。
このような同時粉砕を行うことによって、本発明の組成物の耐硫酸塩性をより高めることができる。
本発明の組成物は、通常、プレミックス品として製造される。この場合、本発明の組成物は、コンクリート等の調製時に、骨材、水、並びに、必要に応じて用いられる他の材料(例えば、混和剤)と混合される。
【実施例0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[材料]
材料として、以下のセメントクリンカ、未粉砕の石膏、及び石灰石粒体を用いた。
(1)セメントクリンカ
セメントクリンカとして、表1~表4に示す鉱物組成等を与えるクリンカ1~7(7種)を用いた。
なお、表1中、「C2S」は、ビーライトを示す。「C3A」は、アルミネート相を示す。
表2中、「石灰石微粉末の含有率」及び「水溶性アルカリ量」は、いずれも、粉末状セメント組成物の全量(100質量%)中の質量基準の値(%)を示す。「ブレーン比表面積」は、粉末状セメント組成物の値を示す。
表3中、「C3S」は、エーライトを示す。「C2S」は、ビーライトを示す。「C3A」は、アルミネート相を示す。「C4AF」は、フェライト相を示す。
表3~表4中、「セメント組成物」は、粉末状セメント組成物を示す。
(2)未粉砕の石膏
未粉砕の石膏として、二水石膏を用いた。
(3)石灰石粒体
石灰石粒体として、最大粒度が5mm以下であるものを用いた。石灰石粒体中の炭酸カルシウムの含有率は、70質量%以上である。
【0024】
表1~表4中の各値の測定方法は、以下のとおりである。
(a)粉末状セメント組成物の化学組成、及び、セメントクリンカの鉱物組成
ASTM C150-22 “Standard Specification for Portland Cement”における”ANNEXES A1. CALCULATION OF POTENTIAL CEMENT PHASE COMPOSITION”に準拠して、セメントクリンカの鉱物組成を求めた。
具体的には、ASTM C114”Standard Test Methods for Chemical Analysis of Hydraulic Cement”に準拠して蛍光X線法により測定した粉末状セメント組成物におけるCaO、SiO2、Al2O3、Fe2O3及びSO3の各含有率を用い、セメント化学の分野でボーグ式と呼ばれる計算式により基材セメントの鉱物組成を求めた後、同じくASTM C114の内、「X2.2.2 Thermogravimetric Analysis (TGA)」に規定される熱重量分析によるCaCO3の脱炭酸により生じた重量減少率によって求めた石灰石の量より、以下の式(1)に従い鉱物組成を補正し、石灰石混合セメントの鉱物組成を求めた。
Xf=Xb×(100-L)/100 (1)
(式中、Xfは仕上セメントにおける、Xbは基材セメントにおける、各々のC3S、C2S、C3A、C4AFの含有量(質量%)を、Lは石灰石含有量(質量%)である。)
【0025】
(b)石灰石微粉末の含有率
石灰石微粉末中の炭酸カルシウム(CaCO3)の含有率は、高温示差走査熱量計(NETZSCH社製TG-DTA2000SR)を使用して、窒素雰囲気中で試料約30mgを1,000℃まで昇温速度20℃/分にて昇温したときの600℃~700℃付近の質量減少量を求めた後、この質量減少量と、標準試薬の質量減少量との比率により求めた。
【0026】
(c)セメントクリンカ鉱物の化学組成
走査型電子顕微鏡におけるエネルギー分散X線分光法(以下、「SEM-EDS」という。)によって測定した。粉末状セメント組成物をエポキシ樹脂に包埋し、その後、樹脂表面を鏡面研磨した。鏡面研磨後、樹脂表面に炭素蒸着を行い、SEM 測定用試料を作製した。
測定装置として、日本電子社製の「FE-SEM JSM-7001F」を用い、下記条件で上記試料の鏡面におけるセメント粒子の組織像を観察した。組織像において、下記前記(イ)~(ニ)の特徴に基づき各鉱物を特定した。
(イ)C3S: 多角形粒子、明灰色、数十μm
(ロ)C2S: 楕円形粒子、暗灰色、数十μm
(ハ)C3A: シリケート相間に観察される不定形組織、暗灰色、数μm~十数μm
(ニ)C4AF: シリケート相間に観察される不定形組織、白色、数μm~十数μm
上記4つの鉱物について、5個以上の異なるセメントクリンカ粒内の各鉱物について15点以上、加速電圧:15kV、照射電流:2.0~2.1×10-9Aにて、特性X線を分析した。EDSはオックスフォード・インストゥルメンツ社製の「AZtec Version3.4」を用い、得られた平均値をC2SおよびC3Aにおける化学組成(質量%)として採用した。
【0027】
[実施例1]
表1~表2に示すクリンカ1と、石膏と、石灰石粒体を、ボールミル内に投入して、同時に粉砕し、粉末状セメント組成物(本発明の組成物)を得た。
この際、石膏の量は、粉末状セメント組成物中のSO3の割合が、クリンカ1に由来するSO3との合計で3.8質量%になる量(表4の実施例1の「SO3」の欄を参照)に定めた。
石灰石粒体の量は、粉末状セメント組成物中の含有率で14.2質量%となる量(表2の実施例1の「石灰石微粉末の含有率」の欄を参照)であった。
得られた粉末状セメント組成物について、水溶性アルカリ量、ブレーン比表面積(以上、表2を参照)、鉱物組成(表3を参照)、化学組成(表4を参照)、モルタル圧縮強さ(3日、7日、28日)、及び、材齢180日の膨張率(以上、表5を参照)を求めた。
ここで、水溶性アルカリ量は、「JCAS-1-04:2004」(セメントの水溶性成分の分析方法)に準拠して求めた。ブレーン比表面積、モルタル圧縮強さ、及び、材齢180日の膨張率は、「JIS R 5201:2015」(セメントの物理試験方法)に準拠して求めた。
なお、材齢180日の膨張率は、「0.05%以下」であれば、「耐硫酸塩性」が「高」(非常に良好)とされ、「0.05%を超え、0.10%以下」であれば、「耐硫酸塩性」が「中」(良好)であるとされる。
【0028】
[実施例2~5、比較例1~2]
クリンカの種類及び石灰石微粉末の量を表3に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
クリンカ1~7の鉱物組成等、及び、実施例1~5及び比較例1~2のセメント組成物の化学組成、物性等を、表1~表5に示す。表5中、「1.4<」は、1.4%を超えたことを示す。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
表5から、実施例1~5では、圧縮強さが大きく、かつ、膨張率が小さい(耐硫酸塩性に優れている)ことがわかる。一方、比較例1~2では、膨張率が大きく、耐硫酸塩性に劣ることがわかる。
上記ビーライトは、三酸化硫黄の固溶量が0.3質量%以上、五酸化二リンの固溶量が0.05質量%以上、及び、上記三酸化硫黄の固溶量と上記五酸化二リンの固溶量の合計が0.5~4質量%、の各条件を満たすものである請求項1に記載の粉末状セメント組成物。
上記アルミネート相は、三酸化硫黄の固溶量が0.03質量%以上、酸化マグネシウムの固溶量が0.8~4.0質量%、及び、上記三酸化硫黄の固溶量と上記酸化マグネシウムの固溶量の合計が1.5~5.5質量%、の各条件を満たすものである請求項1に記載の粉末状セメント組成物。
上記粉末状セメント組成物が、セメントクリンカ粉砕物、石膏及び石灰石微粉末以外の無機粉末を含まない、もしくは、5質量%以下の含有率で含む請求項1に記載の粉末状セメント組成物。