(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025153980
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】押込試験装置、及び押込試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/42 20060101AFI20251002BHJP
【FI】
G01N3/42 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024056726
(22)【出願日】2024-03-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)、「データ駆動型分子設計を基点とする超複合材料の開発」、「材料特性評価の自動データ収集システムの構築」、委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 千明
(72)【発明者】
【氏名】岡本 鷹一
(72)【発明者】
【氏名】康 超
(72)【発明者】
【氏名】関口 悠
(72)【発明者】
【氏名】内藤 昌信
(57)【要約】
【課題】試料のヤング率及び動的粘弾性をより正確に測定できる押込試験装置、及び押込試験方法を提供する。
【解決手段】試料に圧子を押込む、押込試験装置であって、圧子と、前記圧子を上下方向に変位させ得るアクチュエータと、前記圧子の位置を測定する変位センサと、前記圧子にかかる荷重を測定する荷重測定部と、前記圧子の温度を調節する第1温度調節部と、前記圧子の下部に配置され前記試料の温度を調節する第2温度調節部とを備える、押込試験装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に圧子を押込む、押込試験装置であって、
圧子と、
前記圧子を上下方向に変位させ得るアクチュエータと、
前記圧子の位置を測定する変位センサと、
前記圧子にかかる荷重を測定する荷重測定部と、
前記圧子の温度を調節する第1温度調節部と、
前記圧子の下部に配置され、前記試料の温度を調節する第2温度調節部と、
を備える、押込試験装置。
【請求項2】
前記圧子の温度を測定する第1温度測定部と、
前記試料の温度を測定する第2温度測定部と、を更に備える、請求項1に記載の押込試験装置。
【請求項3】
前記荷重測定部の温度を調節する第3温度調節部を、更に備える、請求項1に記載の押込試験装置。
【請求項4】
前記第1温度調節部、及び、前記第2温度調節部がヒータであり、前記第3温度調節部がクーラーである、請求項3に記載の押込試験装置。
【請求項5】
試料のヤング率を測定する押込試験方法であって、
圧子の温度と、試料の温度を、調整し、
前記圧子を試料に押込み、
圧子にかかる荷重と、圧子の変位とを測定し、
当該荷重及び変位から、試料のヤング率を算出する、押込試験方法。
【請求項6】
試料の動的粘弾性を測定する押込試験方法であって、
圧子の温度と、試料の温度を、調整し、
前記圧子を一定の振動数で振動させながら試料に押込み、
圧子にかかる荷重と、圧子の変位とを測定し、
当該荷重及び変位から、試料の貯蔵弾性率及び損失弾性率を算出する、押込試験方法。
【請求項7】
試料の動的粘弾性を測定する押込試験方法であって、
圧子を一定の振動数で振動させながら試料に押込み、
圧子と、試料とを、加熱しながら、
圧子にかかる荷重と、圧子の変位とを測定し、
当該荷重及び変位から、試料の貯蔵弾性率及び損失弾性率の温度プロファイルを作成する、押込試験方法。
【請求項8】
前記試料が、熱可塑性樹脂及び/又は硬化性樹脂を含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の押込試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押込試験装置、及び押込試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の硬さを計測する手法として押込試験が知られている。例えば、特許文献1~5には、圧子と、圧子の位置を変化させるアクチュエータと、圧子の荷重を測定するロードセル等を備えた、押込試験装置及び当該装置を用いた押込試験方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-88212号公報
【特許文献2】特開2013-160662号公報
【特許文献3】特開2017-129557号公報
【特許文献4】特開2017-203668号公報
【特許文献5】特開2021-103155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、試料のヤング率及び動的粘弾性をより正確に測定できる押込試験装置、及び押込試験方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る押込試験装置は、圧子と、前記圧子を上下方向に加振し得るアクチュエータと、前記圧子の位置を測定する変位センサと、前記圧子にかかる荷重を測定する荷重測定部と、前記圧子の温度を調節する第1温度調節部と、前記圧子の下部に配置され前記試料の温度を調節する第2温度調節部と、を備える。
【0006】
上記押込試験装置は、前記圧子の温度を測定する第1温度測定部と、前記試料の温度を測定する第2温度測定部と、を更に備えていてもよい。
【0007】
上記いずれかの押込試験装置は、前記荷重測定部の温度を調節する第3温度調節部を、更に備えていてもよい。
【0008】
上記いずれかの押込試験装置は、前記第1温度調節部、及び、前記第2温度調節部がヒータであり、前記第3温度調節部がクーラーであってもよい。
【0009】
本発明に係る押込試験方法は、試料のヤング率を測定する押込試験方法であって、
圧子の温度と試料の温度を調整し、前記圧子を試料に押込み、圧子にかかる荷重と圧子の変位とを測定し、当該荷重及び変位から試料のヤング率を算出する。
【0010】
本発明に係る別の押込試験方法は、試料の動的粘弾性を測定する押込試験方法であって、圧子の温度と試料の温度を調整し、前記圧子を一定の振動数で振動させながら試料に押込み、圧子にかかる荷重と圧子の変位とを測定し、当該荷重及び変位から試料の貯蔵弾性率及び損失弾性率を算出する。
【0011】
本発明に係る別の押込試験方法は、試料の動的粘弾性を測定する押込試験方法であって、圧子を一定の振動数で振動させながら試料に押込み、圧子と試料とを加熱しながら、圧子にかかる荷重と圧子の変位とを測定し、当該荷重及び変位から試料の貯蔵弾性率及び損失弾性率の温度プロファイルを作成する。
【0012】
上記いずれかの押込試験方法は、前記試料が熱可塑性樹脂及び/又は硬化性樹脂を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、試料のヤング率及び動的粘弾性をより正確に測定できる押込試験装置、及び押込試験方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】押込試験装置の別の一例を示す模式図である。
【
図3】押込試験装置の別の一例を示す模式図である。
【
図4】押込試験装置の制御手段の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各実施形態において同一の構成については同一の符号を付して、その説明を省略又は簡略化する。説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化され、各部材は縮尺が大きく異なることがある。
本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「垂直」、「直交」、「同一」等の用語については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
数値範囲を示す「~」は、特に断りが無い限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む。
【0016】
[押込試験装置]
(第1実施形態)
図1を参照して押込試験装置の構成を説明する。
図1は押込試験装置100の一例を示す模式図である。
図1の例に示す第1実施形態の押込試験装置100は、圧子10と、アクチュエータ20と、変位センサ30と、荷重測定部40と、第1温度調節部51と、第2温度調節部52を備える。
圧子10の形状は、特に限定されず、測定対象の試料90の材質や、測定の目的などに応じて適宜選択すればよい。圧子10は一例として球圧子である。圧子10の材質は特に限定されないが、通常、金属製である。
アクチュエータ20は、圧子10を少なくとも上下方向(図中のZ軸方向)に変位させるものであり、一定の振動数で圧子10を上下振動させ得るものであってもよい。アクチュエータ20は公知のものを用いることができ、一例として、ボイスコイルモータ(VCM)である。
変位センサ30は、少なくとも圧子10のZ軸方向の変位を測定するものである。変位センサ30は公知のものを用いることができ、一例として、差動変圧器(LVDT)である。
荷重測定部40は、圧子10にかかる荷重を測定するものである。荷重測定部40は公知のものを用いることができ、一例として、ロードセルである。
第1温度調節部51は圧子10の温度を調節する。また、第2温度調節部52は試料90の温度を調節する。第1温度調節部51及び第2温度調節部52は、測定したい温度域をカバーできるものであればよく、例えばペルチェ素子等であってもよく、加温だけでよい場合はヒータであってもよい。
押込試験装置100は、支柱81により支えられていてもよい。
図1の例では、アクチュエータ20と変位センサ30が、アーム83,84を介して支柱81に固定されている。また、支柱81は、土台82に固定されていてもよく、土台82上に第2温度調節部52を設置してもよい。
試料90は、第2温度調節部52上に設置する。試料90に流動性がある場合は容器に収容して設置してもよい。
【0017】
次に
図4を参照して、押込試験装置100の制御手段を説明する。
図4は、押込試験装置の制御手段の一例を示すブロック図である。
図4の例に示す制御手段70は、入力部71、出力部72,算出部73,制御部74、記憶部75を備えている。制御手段70は、専用機であってもよく、公知のパーソナルコンピュータ、PDA、タブレット端末等を用いてもよい。
【0018】
入力部71は、押込試験装置100を用いて押込試験を実施するための各種の情報の入力を受け付けるための入力手段である。入力部71は、少なくとも圧子の変位情報、圧子にかかる荷重情報を取り込む手段(例えば、変位センサ30及び荷重測定部40と接続可能な端子)を有し、更に、第1温度測定部61及び第2温度測定部62から温度情報を取り込む手段を有していてもよく、また、必要に応じて、キーボード、タッチパネルや、各種のスイッチ類などを備えていてもよい。
【0019】
出力部72は、押込試験装置100を用いて押込試験を実施するために必要な各種の情報を出力する出力手段であり、例えば、モニタ等として構成されている。
【0020】
算出部73は、圧子10にかかる荷重情報と、圧子10の変位情報から、試料の7ヤング率及び動的粘弾性を算出する。算出方法の具体例は後述する。当該算出部73は、具体的には、CPU、当該CPU上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを格納するためのRAMなどの内部メモリを備えて構成されている。
【0021】
記憶部75は、制御手段70の処理に必要な各種の情報を記憶する記憶手段であり、例えばハードディスクやその他の記録媒体によって構成される。記憶部75は、例えば、圧子10にかかる荷重情報、圧子10の変位情報、圧子10及び/又は試料90の温度情報等と、測定時刻等とを記憶していてもよく、算出部73で算出された結果を記憶してもよい。また記憶部75は、上記各種プログラムや、界面破壊率測定方法を実行するためのプログラムが格納されていてもよい。
【0022】
制御部74は、少なくとも押込試験装置100及び制御手段70を構成する各部を制御するものであり、例えば、アクチュエータ20の振動制御、各温度調節部51~53の温度制御などを行ってもよい。制御部74は、算出部73と同様、CPU、当該CPU上で解釈実行される各種のプログラム及びプログラムや各種のデータを格納するためのRAMなどの内部メモリを備えて構成される。
【0023】
上記第1実施形態の押込試験装置100は、圧子10の温度を調節する第1温度調節部51と、試料90の温度を調節する第2温度調節部52を備えるため、例えば、圧子の温度と、試料の温度を、同一温度に調整することで、試料の粘弾性特性をより正確に測定できる。
また、第1温度調節部51と、第2温度調節部52に、同様の昇温制御を行うことで、試料の粘弾性特性の温度プロファイルを作成することができる。例えば、試料が熱可塑性樹脂の場合、ガラス転移温度以下の温度域と、ガラス転移温度以上の温度域では、粘弾性特性が大きく異なる。また、試料が熱硬化性樹脂の場合も、熱硬化温度以下の温度域と、熱硬化温度以上の温度域では粘弾性特性が大きく異なる。上記第1実施形態の押込試験装置100によればこのような試料についても、正確な粘弾性特性の情報を得ることができる。
【0024】
(変形例1)
図2は、押込試験装置の別の一例を示す模式図である。
図2に示す押込試験装置100は、圧子10の温度を測定する第1温度測定部61と、試料90の温度を測定する第2温度測定部62を備える点が、第1実施形態の押込試験装置と異なる。
第1温度測定部61は圧子10の温度又はその近傍の温度を測定する。また、第2温度測定部62は試料90の温度を測定する。第1温度測定部61及び第2温度測定部62は、公知のものを用いることができ、一例として熱電対であり、上記制御手段70の入力部71と接続される。
変形例1の押込試験装置は、圧子と試料の温度をモニタできるため、圧子と試料が同一温度になっているかを確認できる。また、押込試験を昇温条件下で行う場合に、圧子と試料が同様に昇温するように各温度調節部を自動制御することもできる。
【0025】
(変形例2)
図3は、押込試験装置の別の一例を示す模式図である。
図3に示す押込試験装置100は、前記荷重測定部40の温度を調節する第3温度調節部を備える点が、第1実施形態の押込試験装置と異なる。
第3温度調節部53は、荷重測定部40の温度が、荷重測定部の適切な使用温度範囲を外れないようにするための部材である。第3温度調節部53により、圧子10を高温又は低温で使用する際にも、荷重測定部40の温度変化を抑えることができる。第3温度調節部53は、例えばペルチェ素子等であってもよく、第1温度調節部51がヒータの場合は、クーラーであってもよい。クーラーは例えば、循環水による水冷式などでもよい。
なお上記の変形例1~2は、実施形態1に組み合わせて適用してもよい。
【0026】
[押込試験方法]
次に押込試験方法について3例を挙げて説明する。
(第2実施形態)
第2実施形態の押込試験方法は、試料のヤング率を測定する押込試験方法であって、圧子の温度と試料の温度を調整し、前記圧子を試料に押込み、圧子にかかる荷重と圧子の変位とを測定し、当該荷重及び変位から試料のヤング率を算出する。
【0027】
例えば、圧子10を金属製の圧子とし、圧子のヤング率が試料のヤング率よりも十分に大きいと仮定すると、試料のヤング率Eは下記式(1)で表される。
【0028】
【数1】
ただし、νは試料のポアソン比、Sは接触剛性、Aは接触面積である。
【0029】
接触剛性Sの算出方法以下の通りである。まず、圧子を試料に押込み除荷するまでの、圧子にかかる荷重と、圧子の変位から、荷重-変位曲線(P-δ曲線)を作成する。次いで、除荷曲線の上半を下記式(2)にフィッティングして、B、δf、及びmを決定する。
P = B(δ-δf)m (2)
【0030】
上記B、δ
f、及びmを用いて、下記式(3)により接触剛性Sを算出する。
【数2】
【0031】
接触面積Aは、圧子を半径R0の球圧子と仮定して、接触深さをδcとすると、下記式(4)で表される。
A=2πR0δc (4)
【0032】
接触深さをδcは、圧子が球圧子の場合は、下記式(5)で表される。
δc = δ-0.75(P/S) (5)
【0033】
(第3実施形態)
第3実施形態の押込試験方法は、試料の動的粘弾性を測定する押込試験方法であって、圧子の温度と試料の温度を調整し、前記圧子を一定の振動数で振動させながら試料に押込み、圧子にかかる荷重と圧子の変位とを測定し、当該荷重及び変位から試料の貯蔵弾性率及び損失弾性率を算出する。
【0034】
貯蔵弾性率E’、損失弾性率E”、及び、正接損失tanφは、下記式(6)~(8)により算出される。
【数3】
【数4】
【数5】
ただし、式(6)のSは動的剛性(式(9))であり、式(7)のCωは減衰(式(10))であり、Aは接触面積(前記式(4)及び式(5))である。
【数6】
【数7】
ただし、ΔP
0は荷重振幅、Δδ
0は変位振幅、φは荷重・変位の位相差である。
【0035】
上記実施形態2及び実施形態3の押込試験方法によれば、特定温度(例えば40℃以上)における試料の正確なヤング率E、貯蔵弾性率E’及び損失弾性率E”が測定できる。
【0036】
(第4実施形態)
第4実施形態の押込試験方法は、試料の動的粘弾性を測定する押込試験方法であって、圧子を試料に押込み、圧子と試料とを加熱しながら、圧子にかかる荷重と圧子の変位とを測定し、当該荷重及び変位から、試料の貯蔵弾性率及び損失弾性率の温度プロファイルを作成する。
【0037】
貯蔵弾性率、損失弾性率及び正接損失の算出方法は、上記第3実施形態で説明したとおりである。前記第1実施形態の押込試験装置を用いることで、圧子と試料の温度を容易に調整することができ、自動で試料の動的粘弾性の温度プロファイルが作成できる。
【0038】
上述の実施の形態及びその変形例は、本発明の技術内容を説明することを目的とする例示として記載されたものであり、本願に係る発明の技術的範囲をこの記載の内容に限定する趣旨ではない。本願に係る発明の技術的範囲は、明細書、図面、及び特許請求の範囲又はこれに均等の範囲において当業者が想到可能な限り、変更、置き換え、付加、省略されたものも含む。
【符号の説明】
【0039】
10 圧子
20 アクチュエータ
30 変位センサ
40 荷重測定部
51 第1温度調節部
52 第2温度調節部
53 第3温度調節部
61 第1温度測定部
62 第2温度測定部
70 制御手段
71 入力部
72 出力部
73 算出部
74 制御部
75 記憶部
81 支柱
82 土台
83、84 アーム
90 試料
100 押込試験装置