(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025154035
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】温熱環境計測装置及びそれを用いた温熱環境解析方法
(51)【国際特許分類】
G01J 5/10 20060101AFI20251002BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20251002BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20251002BHJP
G01J 1/02 20060101ALN20251002BHJP
G01N 25/18 20060101ALN20251002BHJP
【FI】
G01J5/10 C
G01C3/06 120Q
G06T7/00 350B
G01J1/02 C
G01N25/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024056813
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】524121292
【氏名又は名称】榊原 直人
(71)【出願人】
【識別番号】524123414
【氏名又は名称】サノ シン
(74)【代理人】
【識別番号】110003546
【氏名又は名称】弁理士法人伊藤IP特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榊原 直人
(72)【発明者】
【氏名】サノ シン
【テーマコード(参考)】
2F112
2G040
2G065
2G066
5L096
【Fターム(参考)】
2F112AD01
2F112CA08
2G040AA09
2G040AB08
2G040BA14
2G040BA27
2G040CA01
2G040CA07
2G040DA06
2G040DA15
2G040DA24
2G040GA01
2G040ZA09
2G065AA04
2G065AB02
2G065BC35
2G066AC09
2G066BC15
2G066CA01
2G066CA16
5L096AA09
5L096GA07
5L096GA51
5L096HA11
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】対象空間の温熱環境を全方位に亘って自動で計測できる技術を比較的簡易な手段で実現する。
【解決手段】本開示の温熱環境計測装置は、複数の検出器を複数の軸の周りに回転させることで対象空間の温熱環境を全方位に亘って計測する装置である。この計測装置1は、モータ4と、筐体部10と、回転部20と、を備える。そして、複数の検出器は、対象空間内の物体の赤外線放射を測定する赤外線センサ2と、対象空間内の物体にレーザー光を照射して該物体から反射された反射光を受光することで該物体までの距離を測定する測距センサ3と、を含んで構成される。また、筐体部10が、モータ4を構成する第1モータ41によって所定の第1軸の周りに回転せしめられ、回転部20が、モータ4を構成する第2モータ42によって第1軸と略直交する第2軸の周りに回転せしめられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の検出器を複数の軸の周りに回転させることで対象空間の温熱環境を全方位に亘って計測する温熱環境計測装置であって、
前記複数の検出器を前記複数の軸の周りに回転させるために供されるモータと、
前記モータ、電源、及び電子基板を内蔵する筐体部と、
前記筐体部に軸支され、前記複数の検出器と、それらの基板であるセンサ基板と、を内蔵する回転部と、
を備え、
前記複数の検出器は、前記対象空間内の物体の赤外線放射を測定する赤外線センサと、前記対象空間内の物体にレーザー光を照射して該物体から反射された反射光を受光することで該物体までの距離を測定する測距センサと、を含んで構成され、
前記筐体部が、前記モータを構成する第1モータによって所定の第1軸の周りに回転せしめられ、前記回転部が、前記モータを構成する第2モータによって前記第1軸と略直交する第2軸の周りに回転せしめられる、
温熱環境計測装置。
【請求項2】
前記赤外線センサ及び前記測距センサは、前記第1軸及び前記第2軸の略軸線上に配置される、
請求項1に記載の温熱環境計測装置。
【請求項3】
前記回転部は、その両端に軸端部を有し、
前記筐体部は、前記回転部の前記軸端部を軸支するための軸受けを有し、
前記センサ基板が、前記軸受けの前記回転部の側から前記筐体部の側へ前記軸端部内を貫通することで、該センサ基板の一部が該筐体部に内蔵されるように構成される、
請求項1に記載の温熱環境計測装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の温熱環境計測装置を用いた温熱環境解析方法であって、
前記測距センサによって測定された前記対象空間内の物体までの距離に基づいて、該対象空間の3次元点群の位置を表す3次元点群情報を生成する第1ステップと、
前記赤外線センサによって測定された前記対象空間内の物体の温度に関する温度情報を、前記3次元点群情報を用いて該対象空間の3次元点群にマッピングする第2ステップと、
前記対象空間の3次元点群にマッピングされた前記温度情報を可視化する第3ステップと、
を有する、温熱環境解析方法。
【請求項5】
前記第2ステップでは、所定の時刻に前記赤外線センサによって測定された前記温度情報がマッピングされ、
前記第3ステップによって可視化された前記温度情報に基づいて、前記対象空間の断熱性又は/及び気密性を評価する第1評価ステップを、更に有する、
請求項4に記載の温熱環境解析方法。
【請求項6】
前記第1評価ステップでは、前記対象空間の上下方向の断熱性の差分である上下差分、又は/及び前記対象空間の左右方向の断熱性の差分である左右差分が算出され、
前記上下差分又は/及び前記左右差分に基づいて、前記対象空間内のユーザの快適性を評価する快適性評価ステップを、更に有する、
請求項5に記載の温熱環境解析方法。
【請求項7】
前記快適性評価ステップでは、
前記対象空間内の物体からの放射温度である平均放射温度に基づいて、前記ユーザに影響する作用温度が更に算出されるとともに、該作用温度に基づいて該ユーザの快適性が評価され、
前記第1評価ステップでは、
前記作用温度と前記対象空間の気温との差分が所定の閾値以上である場合に、該対象空間の断熱性又は/及び気密性の欠損により、該対象空間の内外で熱の移動が生じていると評価される、
請求項6に記載の温熱環境解析方法。
【請求項8】
前記第2ステップでは、所定の時間間隔で前記赤外線センサによって測定された前記温度情報が測定時刻毎にマッピングされ、
前記第3ステップでは、前記測定時刻毎にマッピングされた前記温度情報が経時的に可視化され、
前記第3ステップによって可視化された前記温度情報に基づいて、前記対象空間の断熱性又は/及び気密性を評価する第2評価ステップを、更に有する、
請求項4に記載の温熱環境解析方法。
【請求項9】
前記第2評価ステップでは、前記第3ステップにおいて可視化された前記温度情報の経時的な変化である温度経時変化が、前記対象空間の外の外気温の変化と連動している場合に、該対象空間の断熱性又は/及び気密性が欠損していると評価される、
請求項8に記載の温熱環境解析方法。
【請求項10】
前記第2評価ステップでは、前記第3ステップにおいて可視化された前記温度情報の経時的な変化である温度経時変化において、前記対象空間の上下方向に温度差が生じている場合に、該対象空間の断熱性又は/及び気密性が欠損していると評価される、
請求項8に記載の温熱環境解析方法。
【請求項11】
前記第2評価ステップにおいて、前記対象空間の断熱性又は/及び気密性が欠損していると評価された場合に、前記温度経時変化に対する機械学習を用いた画像診断に基づいて、前記対象空間の断熱性又は/及び気密性の欠損原因を評価することを更に実行し、
前記欠損原因の評価では、所定の教師データを用いて学習を行うことにより構築された機械学習モデルに前記温度経時変化の画像データを入力し、識別結果を出力することが実行される、
請求項9又は請求項10に記載の温熱環境解析方法。
【請求項12】
前記第2ステップでは、所定の時間間隔で前記赤外線センサによって測定された前記温度情報が測定時刻毎にマッピングされ、
前記第3ステップでは、前記測定時刻毎にマッピングされた前記温度情報が経時的に可視化され、
前記第3ステップによって可視化された前記温度情報と、前記対象空間の内外の温度と、に基づいて、該対象空間内の物体について、その熱的性質を含んだ物理特性を推定する推定ステップを、更に有する、
請求項4に記載の温熱環境解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の検出器を複数の軸の周りに回転させることで対象空間の温熱環境を全方位に亘って計測する温熱環境計測装置、及びそれを用いた温熱環境解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建物の室内について、温度センサを用いて空間の温度を測定したり赤外線センサを用いて壁面の任意の部分の温度を測定したりすることで温熱環境を計測し、該建物の環境性能をシミュレーションすることが行われてきた。
【0003】
一方、建物を設計する際には、各部屋の大きさや間取り、外気温や日射量等の住居環境を考慮して、換気や空調装置の設定位置、断熱材の使用量やその配置等が設定されることがある。そして、このようにして設計、施工された建物について、部屋毎に温熱環境をシミュレーションする技術が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、簡単な操作で建物の各部屋の冬季の温熱環境をシミュレーションすることのできる建物の温熱環境シミュレーション装置が開示されている。この温熱環境シミュレーション装置では、記憶手段に建物の各部屋の情報が記憶され、これら情報に基づいて、部屋毎の熱損失係数と部屋毎の夏期の日射取得係数と冬期の日射取得係数とが算出され得る。これにより、各部屋の平均室温等の温熱環境をシミュレーションすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から知られている、センサを用いた温熱環境の計測では、対象空間を画定する壁面について、任意の部分の温度を対象空間の壁面の代表温度として扱って、該対象空間の環境性能がシミュレーションされることが多い。そうすると、例えば、断熱材の使用量やその配置等に偏りがあると、対象空間の環境性能を正確に予測できなくなる事態が生じ得る。一方で、従来までの赤外線センサを用いて対象空間の壁面を全方位に亘って計測しようとしても、該赤外線センサによって検出される温度は、或る計測範囲の二次元情報でしかないため、該対象空間において、その温度情報を有する場所の特定が困難であることが多い。また、そのような従来センサを用いた複数壁面の温度計測では、測定者が手動で赤外線放射の方向を調整する必要があるため、温度計測に多くの手間を要することになる。
【0007】
ここで、例えば、特許文献1に記載の技術によれば、記憶された情報に基づいて建物の温熱環境を精度良くシミュレーションできるようにも思われる。しかしながら、特許文献1に記載の技術で用いられる建物の各部屋の情報は、床、天井、外壁等の面積、熱貫流率や、窓等の開口面積、熱貫流率や、窓や外壁等が設けられる方位に対応した方位係数や外気との接触度を示す係数であって、各部屋の壁面における断熱材の配置等を考慮したものではない。また、仮に、シミュレーションする対象空間を画定する壁面について、全方位に亘ってその物理特性の情報を予め記憶させようとすると、結局は対象空間の壁面の温度を全方位に亘って計測する必要がある。そして、従来までの赤外線センサを用いて対象空間の壁面を全方位に亘って計測しようとすると、上述したような課題が生じ得る。
【0008】
そこで、本開示の目的は、対象空間の温熱環境を全方位に亘って自動で計測できる技術を比較的簡易な手段で実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の温熱環境計測装置は、複数の検出器を複数の軸の周りに回転させることで対象空間の温熱環境を全方位に亘って計測する装置である。この温熱環境計測装置は、前記複数の検出器を前記複数の軸の周りに回転させるために供されるモータと、前記モータ、電源、及び電子基板を内蔵する筐体部と、前記筐体部に軸支され、前記複数の検出器と、それらの基板であるセンサ基板と、を内蔵する回転部と、を備える。そして、前記複数の検出器は、前記対象空間内の物体の赤外線放射を測定する赤外線センサと、前記対象空間内の物体にレーザー光を照射して該物体から反射された反射光を受光することで該物体までの距離を測定する測距センサと、を含んで構成される。また、前記筐体部が、前記モータを構成する第1モータによって所定の第1軸の周りに回転せしめられ、前記回転部が、前記モータを構成する第2モータによって前記第1軸と略直交する第2軸の周りに回転せしめられる。
【0010】
上記の温熱環境計測装置では、例えば、対象空間を画定する壁面の温度情報について、全方位に亘って三次元的に可視化することができる。詳しくは、測距センサによって測定された対象空間の壁面までの距離に基づいて該対象空間の3次元点群情報を生成し、赤外線センサによって測定された対象空間の壁面の温度に関する温度情報を上記の3次元点群にマッピングすることで、対象空間の温度情報を全方位に亘って三次元的に可視化することができる。また、この温熱環境計測装置では、モータからの動力により、筐体部が第1軸の周りに左右方向に、回転部が第2軸の周りに上下方向に、自動で回転せしめられるため、測定者が手動で赤外線放射の方向を調整する必要がなく、計測装置のみを用いた簡易な構成により、対象空間の温熱環境を全方位に亘って自動で計測することができる。なお、このとき、温熱環境計測装置は、温度情報の画像を回転角度毎に複数取得し、それらを重ね合わせて対象空間の全方位画像として自動で可視化することができるため、温度計測に要する手間を大幅に削減することができる。
【0011】
そして、上記の温熱環境計測装置において、前記赤外線センサ及び前記測距センサは、前記第1軸及び前記第2軸の略軸線上に配置されてもよい。これによれば、デバイスの回転によって生じ得るセンサ視点のズレによる誤差(視差効果)を可及的に抑制することができる。また、前記回転部は、その両端に軸端部を有し、前記筐体部は、前記回転部の前記軸端部を軸支するための軸受けを有し、前記センサ基板が、前記軸受けの前記回転部の側から前記筐体部の側へ前記軸端部内を貫通することで、該センサ基板の一部が該筐体部に内蔵されるように構成されてもよい。
【0012】
また、本開示は、上記の温熱環境計測装置を用いた温熱環境解析方法である。この温熱環境解析方法は、前記測距センサによって測定された前記対象空間内の物体までの距離に基づいて、該対象空間の3次元点群の位置を表す3次元点群情報を生成する第1ステップと、前記赤外線センサによって測定された前記対象空間内の物体の温度に関する温度情報を、前記3次元点群情報を用いて該対象空間の3次元点群にマッピングする第2ステップと、前記対象空間の3次元点群にマッピングされた前記温度情報を可視化する第3ステップと、を有する。
【0013】
そして、上記の温熱環境解析方法において、前記第2ステップでは、所定の時刻に前記赤外線センサによって測定された前記温度情報がマッピングされ、前記第3ステップによって可視化された前記温度情報に基づいて、前記対象空間の断熱性又は/及び気密性を評価する第1評価ステップを、更に有してもよい。そして、前記第1評価ステップでは、前記対象空間の上下方向の断熱性の差分である上下差分、又は/及び前記対象空間の左右方向の断熱性の差分である左右差分が算出され、前記上下差分又は/及び前記左右差分に基づいて、前記対象空間内のユーザの快適性を評価する快適性評価ステップを、更に有してもよい。この場合、前記快適性評価ステップでは、前記対象空間内の物体からの放射温度である平均放射温度に基づいて、前記ユーザに影響する作用温度が更に算出されるとともに、該作用温度に基づいて該ユーザの快適性が評価され、前記第1評価ステップでは、前記作用温度と前記対象空間の気温との差分が所定の閾値以上である場合に、該対象空間の断熱性又は/及び気密性の欠損により、該対象空間の内外で熱の移動が生じていると評価され得る。
【0014】
また、上記の温熱環境解析方法において、前記第2ステップでは、所定の時間間隔で前記赤外線センサによって測定された前記温度情報が測定時刻毎にマッピングされ、前記第3ステップでは、前記測定時刻毎にマッピングされた前記温度情報が経時的に可視化され、前記第3ステップによって可視化された前記温度情報に基づいて、前記対象空間の断熱性又は/及び気密性を評価する第2評価ステップを、更に有してもよい。この場合、前記第2評価ステップでは、前記第3ステップにおいて可視化された前記温度情報の経時的な変化である温度経時変化が、前記対象空間の外の外気温の変化と連動している場合に、該対象空間の断熱性又は/及び気密性が欠損していると評価され得る。または、前記第2評価ステップでは、前記第3ステップにおいて可視化された前記温度情報の経時的な変化である温度経時変化において、前記対象空間の上下方向に温度差が生じている場合に、該対象空間の断熱性又は/及び気密性が欠損していると評価され得る。
【0015】
また、上記の温熱環境解析方法において、前記第2ステップでは、所定の時間間隔で前記赤外線センサによって測定された前記温度情報が測定時刻毎にマッピングされ、前記第3ステップでは、前記測定時刻毎にマッピングされた前記温度情報が経時的に可視化され、前記第3ステップによって可視化された前記温度情報と、前記対象空間の内外の温度と、に基づいて、該対象空間内の物体について、その熱的性質を含んだ物理特性を推定する推定ステップを、更に有してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、対象空間の温熱環境を全方位に亘って自動で計測できる技術を比較的簡易な手段で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態における温熱環境計測装置の概略構成を示す図である。
【
図2】第1モータを用いた第1軸周りの左右方向の回転について説明するための図である。
【
図3】第2モータを用いた第2軸周りの上下方向の回転について説明するための図である。
【
図4】対象空間の温熱環境を全方位に亘って計測するために回転せしめられる計測装置の使用態様を示す図である。
【
図5】センサ基板が軸端部内を貫通することで、電子基板とセンサ基板とを繋げるケーブルが筐体部内に収納される態様を例示する図である。
【
図6】第2実施形態に係る温熱環境解析方法における処理フローを例示する第1のフローチャートである。
【
図7】第2実施形態に係る温熱環境解析方法における処理フローを例示する第2のフローチャートである。
【
図8】機械学習モデルを構成するニューラルネットワークを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて、本開示の実施の形態を説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本開示は実施形態の構成に限定されない。
【0019】
<第1実施形態>
第1実施形態における温熱環境計測装置の概要について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態における温熱環境計測装置の概略構成を示す図である。なお、
図1(a)は、後述する筐体部および回転部のカバーを外した状態を表していて、この温熱環境計測装置が使用される際には、
図1(b)に示すように筐体部および回転部がカバーにより蓋をされる。また、以下の説明において、対象空間は、例えば、建物の部屋を表し、対象空間内の物体は、例えば、部屋の壁面や窓等を表す。
【0020】
本実施形態に係る計測装置1は、複数の検出器を複数の軸の周りに回転させることで対象空間の温熱環境を全方位に亘って計測する温熱環境計測装置である。
【0021】
ここで、複数の検出器は、赤外線センサ2と、測距センサ3と、を含んで構成される。赤外線センサ2は、対象空間内の物体の赤外線放射を測定するセンサであって、例えば、対象空間の壁面の温度を計測することができる。測距センサ3は、対象空間内の物体にレーザー光を照射して該物体から反射された反射光を受光することで該物体までの距離を測定する、所謂LiDAR(Light Detection And Ranging)である。
【0022】
そして、計測装置1は、上記の複数の検出器を複数の軸の周りに回転させるために供されるモータ4を備える。本実施形態では、上記の複数の検出器を第1軸の周りに左右方向に回転させる第1モータ41と、上記の複数の検出器を第2軸の周りに上下方向に回転させる第2モータ42と、によって、モータ4が構成される。なお、第1モータ41を用いた第1軸周りの左右方向の回転については、後述する
図2に基づいて、第2モータ42を用いた第2軸周りの上下方向の回転については、後述する
図3に基づいて、詳細を説明する。
【0023】
また、計測装置1は、モータ4、電源5、電子基板6を内蔵する筐体部10を備える。ここで、電源5は、モータ4や赤外線センサ2、測距センサ3のための電源であって、電子基板6は、これらの動作を制御するために用いられる。なお、
図1に示すように、筐体部10は、支柱30によって支持される。
【0024】
そして、計測装置1は、上記の筐体部10に軸支され、複数の検出器(赤外線センサ2、測距センサ3)と、それらの基板であるセンサ基板7と、を内蔵する回転部20を備える。なお、回転部20には、
図1(a)に示すように、ステレオカメラ8が内蔵されてもよい。これにより、上記の複数の検出器により計測される物体の温度や物体までの距離に加えて、対象空間の物体の画像を取得することが可能になる。なお、対象空間の物体の色画像を取得することが可能な構成であれば、ステレオカメラ8に限定されることはない。
【0025】
ここで、
図2は、第1モータ41を用いた第1軸周りの左右方向の回転について説明するための図である。なお、
図2では、第1モータ41を用いて、筐体部10を第1軸周りに左右方向に回転させるための構成のみを図示している。
【0026】
図2に示すように、第1モータ41からの動力は、ベルトおよびプーリーを介して、筐体部10に形成された回転軸に伝達される。詳しくは、第1モータ41の出力軸411にはプーリー412が接続され、該プーリー412にベルト413が架けられる。また、筐体部10においては、該筐体部10と剛に接合された支持ブロック12から突出するように、該支持ブロック12と一体に形成された回転軸11が設けられ、該回転軸11の支持ブロック12側にプーリー111が接続される。そして、上記のベルト413が、プーリー111に架けられる。これにより、第1モータ41からの動力が、筐体部10に形成された回転軸11に伝達されることになる。
【0027】
そして、上記の回転軸11は、その端部が筐体部10から下方に突出する。また、支柱30の上端部には、軸受け31が圧入される。そうすると、回転軸11の端部が軸受け31に挿入可能に構成されることになり、第1モータ41から伝達された動力により回転軸11が回転することで、支柱30に対して筐体部10が第1軸周りに左右方向に回転せしめられることになる。
【0028】
一方、
図3は、第2モータ42を用いた第2軸周りの上下方向の回転について説明するための図である。なお、
図3では、第2モータ42を用いて、回転部20を第2軸周りに上下方向に回転させるための構成のみを図示している。
【0029】
図3に示すように、第2モータ42からの動力は、ベルトおよびプーリーを介して、回転部20の軸端部210に伝達される。詳しくは、第2モータ42の出力軸421にはプーリー422が接続され、該プーリー422にベルト423が架けられる。また、回転部20においては、該回転部20から左右に突出するように、該回転部20の左右方向の両端には軸端部210が設けられ、該軸端部210の一方にプーリー211が接続される。そして、上記のベルト423が、プーリー211に架けられる。これにより、第2モータ42からの動力が、回転部20に設けられた軸端部210に伝達されることになる。
【0030】
ここで、筐体部10は、回転部20の軸端部210を軸支するための軸受け100を有する。そして、回転部20の軸端部210が、筐体部10の軸受け100によって軸支された状態で、第2モータ42から伝達された動力により回転することで、筐体部10に対して回転部20が第2軸周りに上下方向に回転せしめられることになる。
【0031】
また、本実施形態に係る計測装置1では、赤外線センサ2及び測距センサ3が、上記の第1軸及び第2軸の略軸線上に配置されてもよい。これにより、デバイスの回転によって生じ得る視差効果を排除または軽減することができる。
【0032】
ここで、
図4は、対象空間の温熱環境を全方位に亘って計測するために回転せしめられる計測装置1の使用態様を示す図である。
【0033】
図4(a)は、赤外線センサ2および測距センサ3が、第1軸の周りに左右方向に回転した状態を表す図であって、この
図4(a)に示すように、赤外線センサ2および測距センサ3が第1軸の略軸線上に配置されることで、計測装置1が第1軸の周りに左右方向に回転しても、これらセンサの視点の位置の変化が可及的に抑制される。これにより、例えば、上記のセンサを用いて可視化された温度情報の画像を回転角度毎に複数取得し、それらを重ね合わせて対象空間の全方位画像として可視化する場合に、デバイスの回転によって生じ得るセンサ視点のズレによる誤差(視差効果)を可及的に抑制することができる。
【0034】
一方、
図4(b)は、赤外線センサ2および測距センサ3が、第2軸の周りに上下方向に回転した状態を表す図であって、この
図4(b)に示すように、赤外線センサ2および測距センサ3が第2軸の略軸線上に配置されることで、計測装置1が第2軸の周りに上下方向に回転しても、これらセンサの視点の位置の変化が可及的に抑制される。これにより、視差効果を可及的に抑制することができる。
【0035】
また、本実施形態に係る計測装置1では、センサ基板7が、軸受け100の回転部20の側から筐体部10の側へ軸端部210内を貫通することで、該センサ基板7の一部が該筐体部10に内蔵されるように構成されてもよい。これにより、電子基板6とセンサ基板7とを繋げるケーブルを筐体部10内に収納することが可能になり、以て、ケーブルの干渉を可及的に抑制することができる。これについて、
図5に基づいて説明する。なお、後述する電子基板6とセンサ基板7との接触は、スライドコンタクトにより実現されてもよい。
【0036】
図5は、センサ基板7が軸端部210内を貫通することで、電子基板6とセンサ基板7とを繋げるケーブルが筐体部10内に収納される態様を例示する図である。
【0037】
図5に示すように、センサ基板7が、軸受け100の回転部20の側から筐体部10の側へ軸端部210内を貫通すると、筐体部10内にセンサ基板7の先端部7aが露出することになる。そして、センサ基板7の先端部7aと電子基板6とが、ケーブル6aによって接続されることで、電子基板6からセンサ基板7へ電力や制御信号等が送られることになる。ここで、センサ基板7は、回転部20の回転に伴って、電子基板6に対して回転運動を行う。そのため、電子基板6とセンサ基板7とを繋げるケーブルは、上記の回転運動を許容できる程度のフレキシブル性が求められる。この場合、仮に、上記のケーブルが外部に露出していると、周囲との干渉により上記の回転運動が阻害されたりケーブルが破断したりしてしまう虞がある。これに対して、
図5に例示する態様によれば、上記の回転運動に伴ってフレキシブルに動作するケーブル6aが筐体部10内に収納されることで、ケーブルが周囲と干渉してしまう事態を抑制することができる。
【0038】
そして、このような計測装置1を用いると、対象空間を画定する壁面の温度情報について、全方位に亘って三次元的に可視化することができる。詳しくは、測距センサ3によって測定された対象空間の壁面までの距離に基づいて該対象空間の3次元点群情報を生成し、赤外線センサ2によって測定された対象空間の壁面の温度に関する温度情報を上記の3次元点群にマッピングすることで、対象空間の温度情報を全方位に亘って三次元的に可視化することができる。
【0039】
また、上記の計測装置1では、モータ4からの動力により、筐体部10が第1軸の周りに左右方向に、回転部20が第2軸の周りに上下方向に、自動で回転せしめられるため、測定者が手動で赤外線放射の方向を調整する必要がなく、計測装置1のみを用いた簡易な構成により、対象空間の温熱環境を全方位に亘って自動で計測することができる。なお、このとき、計測装置1は、温度情報の画像を回転角度毎に複数取得し、それらを重ね合わせて対象空間の全方位画像として自動で可視化することができるため、温度計測に要する手間を大幅に削減することができる。
【0040】
そして、以上に述べた計測装置1によれば、対象空間の温熱環境を全方位に亘って自動で計測できる技術を比較的簡易な手段で実現することができる。
【0041】
<第2実施形態>
第2実施形態における温熱環境解析方法について、以下に説明する。なお、本実施形態に係る温熱環境解析方法は、上記の第1実施形態の説明で述べた計測装置1を用いた解析方法である。また、以下の説明において、対象空間は、例えば、建物の部屋を表し、対象空間内の物体は、例えば、部屋の壁面や窓等を表す。
【0042】
ここで、
図6は、本実施形態に係る温熱環境解析方法における処理フローを例示する第1のフローチャートである。なお、以下に説明する処理フローは、例えば、CPUなどの演算処理装置や、該演算処理装置によって実行されるプログラム・データ等が展開されるメモリ、記憶装置などを備えた画像処理装置によって、実行され得る。この画像処理装置では、補助記憶装置に格納されたプログラムを主記憶装置の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて所定の目的に合致した各機能を実現することができる。ただし、一部または全部の機能はASICやFPGAのようなハードウェア回路によって実現されてもよい。また、このような画像処理装置は、上記の第1実施形態の説明で述べた計測装置1に搭載されてもよいし、外部のサーバ装置によって実現されてもよい。
【0043】
本フローでは、先ず、S101において、計測装置1が備える複数の検出器による測定データが取得される。ここで、上記の測定データは、第1実施形態の説明で述べた赤外線センサ2によって測定される対象空間内の物体の赤外線放射に関するデータや、測距センサ3によって測定される対象空間内の物体までの距離に関するデータである。また、本実施形態においては、計測装置1が、検出器として更に温度センサおよび湿度センサを備えていて、S101の処理では、これらセンサによって測定される気温データや湿度データが併せて取得される。なお、画像処理装置は、上述した測定データを、画像処理装置が計測装置1に搭載される場合には、例えば、センサ基板を介して、画像処理装置が外部のサーバ装置によって実現される場合には、例えば、通信インタフェースを介して、取得することができる。
【0044】
次に、画像処理装置は、測距センサ3によって測定された対象空間内の物体までの距離に基づいて、該対象空間の3次元点群の位置を表す3次元点群情報を生成するとともに、赤外線センサ2によって測定された対象空間内の物体の赤外線放射に基づいて、該対象空間内の物体の温度に関する温度情報を生成する(S102)。なお、これら3次元点群情報および温度情報の生成には、周知の技術を用いることができる。また、3次元点群情報の生成には、カメラによって撮影された対象空間内の画像に基づくCADモデルが用いられてもよいし、CADモデルは予め作成されたものでもよい。
【0045】
画像処理装置は、S102の処理において3次元点群情報および温度情報を生成すると、次に、上記の温度情報を上記の3次元点群情報を用いて対象空間の3次元点群にマッピングする処理を実行する(S103)。このとき、画像処理装置は、上記の温度情報の行列を3次元点群に合成することで、3次元温度点群を生成する。そして、対象空間の3次元点群にマッピングされた温度情報(3次元温度点群)を該対象空間の3次元モデルに可視化する処理を実行する(S104)。このとき、画像処理装置は、任意のカラースペクトラムにマッピングした3次元カラー点群としてのモデルを生成する。なお、これら処理には、周知の技術を用いることができる。
【0046】
これにより、例えば、対象空間を画定する壁面の温度情報について、全方位に亘って三次元的に可視化することができる。従来の計測装置では、赤外線センサによって或る計測範囲の二次元情報しか得られなかったのに対して、本開示によれば、対象空間の温熱環境を全方位に亘って自動で可視化することができる。
【0047】
そして、画像処理装置は、可視化された温度情報に基づいて、対象空間の断熱性、気密性を評価する(S105)。そして、S105の処理の後、本フローの実行が終了される。
【0048】
ここで、上記の断熱性、気密性の評価では、対象空間の内部と外部とを隔てる壁や窓等において、周囲の温度コンターに対して低温または高温になっている場所について、断熱性や気密性が欠損していると評価され得る。
【0049】
また、本実施形態における温熱環境解析方法では、温度情報の経時的な変化に基づいて、対象空間の断熱性、気密性が評価されてもよい。ここで、
図7は、本実施形態に係る温熱環境解析方法における処理フローを例示する第2のフローチャートである。なお、
図7に示す各処理において、上記の
図6に示した処理と実質的に同一の処理については、同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0050】
図7に示す例では、S201の処理において、測定時刻が到来したか否かが判別される。ここで、上記の測定時刻は、所定の時間間隔毎に設定され得る時刻であって、例えば、任意の初期時刻に対して1時間毎に設定される時刻である。そして、S201において肯定判定された場合、画像処理装置はS101の処理へ進み、S201において否定判定された場合、画像処理装置はS202の処理へ進む。
【0051】
ここで、S201において肯定判定された場合には、画像処理装置は、上記の
図6に示したS101~S103の処理を実行する。つまり、所定の時間間隔でセンサによって測定された測定データに基づいて、温度情報が測定時刻毎に3次元点群にマッピングされることになる。
【0052】
一方、S201において否定判定された場合、次に、画像処理装置は、S202の処理において、測定終了時刻が到来したか否かを判別する。ここで、上記の測定終了時刻は、任意に設定され得る時刻であって、例えば、初期時刻から24時間後の時刻である。そして、S202において肯定判定された場合、画像処理装置はS203の処理へ進み、S202において否定判定された場合、画像処理装置はS201の処理へ戻る。
【0053】
S202において肯定判定された場合、次に、画像処理装置は、測定時刻毎に対象空間の3次元点群にマッピングされた温度情報(3次元温度点群)を該対象空間の3次元モデルに経時的に可視化する処理を実行する(S203)。
【0054】
そして、画像処理装置は、可視化された温度情報に基づいて、対象空間の断熱性、気密性を評価する(S204)。そして、S204の処理の後、本フローの実行が終了される。
【0055】
ここで、上記の断熱性、気密性の評価では、S203の処理において可視化された温度情報の経時的な変化である温度経時変化が、対象空間の外の外気温の変化と連動している場合に、該対象空間の断熱性又は/及び気密性が欠損していると評価され得る。詳しくは、温度経時変化が外気温の変化と比較して小さい場合には、対象空間の内外で熱の移動が抑制されていると評価され、温度経時変化が外気温の変化と連動して大きい場合には、対象空間の内部と外部とを隔てる壁や窓等において、断熱欠損や漏気、熱橋が存在すると評価され得る。
【0056】
また、上記の断熱性、気密性の評価では、温度経時変化において、対象空間の上下方向に温度差が生じている場合に、該対象空間の断熱性又は/及び気密性が欠損していると評価され得る。ここで、本開示人は、対象空間において断熱や気密が不十分であると、該対象空間の上下方向に温度差が生じ得ることを見出した。そこで、本実施形態では、温度経時変化において対象空間の上下方向に温度差が生じている場合に、対象空間の内部と外部とを隔てる壁や窓等において、断熱欠損や漏気、熱橋が存在すると評価されてもよい。
【0057】
なお、これら断熱性、気密性の評価の結果、対象空間の断熱性又は/及び気密性が欠損していると評価された場合に、画像処理装置は、温度経時変化に対する機械学習を用いた画像診断に基づいて、対象空間の断熱性又は/及び気密性の欠損原因を評価することを更に実行してもよい。そして、上記の欠損原因の評価では、所定の教師データを用いて学習を行うことにより構築された機械学習モデルに温度経時変化の画像データを入力し、識別結果を出力することが実行され得る。
【0058】
そして、上記の機械学習モデルには、例えば、ディープラーニングにより生成されるニューラルネットワークモデルを用いることができる。ここで、
図8は、機械学習モデルを構成するニューラルネットワークを説明するための図である。機械学習モデル30は、温度経時変化の画像データの入力を受け付ける入力層31と、入力層31に入力された該画像データから、対象空間の断熱性又は/及び気密性の欠損による部分的な温度変化を表す特徴量を抽出する中間層(隠れ層)32と、特徴量に基づく識別結果(欠損原因)を出力する出力層33とを有する。なお、
図8の例では、機械学習モデル30は、1層の中間層32を有しており、入力層31の出力が中間層32に入力され、中間層32の出力が出力層33に入力されている。ただし、中間層32の数は、1層に限られなくてもよく、機械学習モデル30は、2層以上の中間層32を有してもよい。
【0059】
また、
図8によると、各層31~33は、1又は複数のニューロンを備えている。例えば、入力層31のニューロンの数は、入力される画像データに応じて設定することができる。また、出力層33のニューロンの数は、識別結果である欠損原因に応じて設定することができる。
【0060】
そして、隣接する層のニューロン同士は適宜結合され、各結合には重み(結合荷重)が機械学習の結果に基づいて設定される。
図8の例では、各ニューロンは、隣接する層の全てのニューロンと結合されているが、ニューロンの結合は、このような例に限定されなくてもよく、適宜設定することができる。
【0061】
このような機械学習モデル30は、例えば、建物の壁や窓等における経時的な温度変化箇所と周辺温度との差分の大きさや該差分を該温度変化箇所の距離で微分した値などの説明変数と、断熱欠損、漏気、熱橋等の熱移動の原因を表すラベルと、の組みである教師データを用いて教師あり学習を行うことで構築される。具体的には、特徴量とラベルとの組みをニューラルネットワークに与え、ニューラルネットワークの出力がラベルと同じとなるように、ニューロン同士の結合の重みがチューニングされる。このようにして、教師データの特徴を学習し、入力から結果を推定するための機械学習モデルが帰納的に獲得される。
【0062】
また、本実施形態では、上記の
図7に示したS203の処理において可視化された温度情報と、対象空間の内外の温度と、に基づいて、該対象空間内の物体について、その熱的性質を含んだ物理特性が推定されてもよい。
【0063】
この場合、例えば、建物の壁面について、内外の温度情報と熱伝導モデルとを用いることで、壁面に使用されている断熱材の物理特性を推定することができる。
【0064】
以上に述べた温熱環境解析方法によれば、対象空間の温熱環境を全方位に亘って自動で計測できる技術を比較的簡易な手段で実現することができる。
【0065】
<第2実施形態の変形例>
第2実施形態の変形例における温熱環境解析方法について、以下に説明する。本変形例では、上記の第2実施形態の説明で述べた対象空間の断熱性、気密性の評価において、更に、対象空間の上下方向の断熱性の差分である上下差分、又は/及び対象空間の左右方向の断熱性の差分である左右差分が算出される。そして、上記の上下差分又は/及び左右差分に基づいて、対象空間内のユーザの快適性を評価する快適性評価が実行される。
【0066】
ここで、上記の上下差分、左右差分は、例えば、対象空間の壁面の温度を表すコンター画像において、天井面と床面との温度の差分(上下方向の差分)や、任意の壁面とその壁面に対向する壁面との温度の差分(左右方向の差分)を用いて、算出することができる。
【0067】
そして、画像処理装置は、上記の上下差分、左右差分を算出すると、その結果に基づいて、例えば、これらにおいて2℃の差分が生じている場合に、対象空間内のユーザの快適性が損なわれていると評価することができる。
【0068】
また、画像処理装置は、対象空間内の物体からの放射温度である平均放射温度に基づいて、ユーザに影響する作用温度を更に算出してもよい。
【0069】
ここで、上記の平均放射温度は、例えば、対象空間を画定する各壁面について、その表面温度と、ユーザと壁面との位置関係に応じた係数と、を積算し、壁面毎の積を足し合わせることで算出され得る。そして、上記の作用温度は、対象空間内の気温と平均放射温度とを重み付け平均することで算出され得る。
【0070】
画像処理装置は、このようにして算出される作用温度に基づいて、例えば、ユーザによる対象空間の空調設定温度と上記の作用温度とに2℃の差分が生じている場合に、対象空間内のユーザの快適性が損なわれていると評価することができる。
【0071】
また、この場合、画像処理装置は、上記の作用温度と対象空間の気温との差分が、例えば、2℃以上である場合に、該対象空間の断熱性又は/及び気密性の欠損により、該対象空間の内外で熱の移動が生じていると評価することができる。
【0072】
<その他の変形例>
上記の実施形態はあくまでも一例であって、本開示はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施しうる。
【0073】
例えば、上記の第1実施形態の説明で述べた計測装置1を用いて解析を行った対象空間の温熱環境に基づいて、該対象空間内に設置され得る空調設備の最適化が行われてもよい。
【0074】
この場合、対象空間の3次元点群にマッピングされることで可視化された温度情報に基づいて、例えば、空調によって該対象空間の温度分布がより均一化できる位置に空調設備が配置され得る。
【0075】
また、対象空間に設置される空調設備の空調能力は、該対象空間の床面積に基づいて設定される場合が多い。しかしながら、対象空間の断熱性又は/及び気密性が低いと、該対象空間の床面積に基づいて設定され得る空調能力では不足してしまう事態が生じ得る。そこで、本変形例によれば、対象空間に設置される空調設備の空調能力が、該対象空間の床面積、及び該対象空間の断熱性又は/及び気密性に基づいて設定され得る。
【符号の説明】
【0076】
1・・・・・計測装置
2・・・・・赤外線センサ
3・・・・・測距センサ
4・・・・・モータ
5・・・・・電源
6・・・・・電子基板
7・・・・・センサ基板
10・・・・筐体部
20・・・・回転部
41・・・・第1モータ
42・・・・第2モータ