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特開2025-154103眼鏡レンズ加工装置及び眼鏡レンズ加工装置の制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025154103
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ加工装置及び眼鏡レンズ加工装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B24B 9/14 20060101AFI20251002BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20251002BHJP
【FI】
B24B9/14 A
B24B41/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024056916
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】柴田 一徳
(72)【発明者】
【氏名】内門 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】北川 祐輝
【テーマコード(参考)】
3C034
3C049
【Fターム(参考)】
3C034AA13
3C034BB75
3C049AA03
3C049AA18
3C049AB01
3C049AB05
3C049AB06
(57)【要約】
【課題】 当接部材が一方向に傾斜可能にされたフレキシブルレンズ押えの使用範囲を広げることを可能にする。
【解決手段】 眼鏡レンズを挟持して保持するレンズ保持軸であって、眼鏡レンズの前面側を保持する第1レンズ保持軸と、眼鏡レンズの後面側を保持する第2レンズ保持軸と、を備えるレンズ保持軸と、第1レンズ保持軸及び第2レンズ保持軸を互いに独立して軸回りに回転可能な回転手段と、指令信号を受け付ける信号受付手段と、を備え、第2レンズ保持軸には、眼鏡レンズの後面に当接する当接部材であって、一方向のみに傾斜可能な当接部材を持つフレキシブルレンズ押えが取り付けられ、信号受付手段は、当接部材の傾斜方向を定める指令信号を受け付け可能とされ、制御手段は、2つのレンズ保持軸によって眼鏡レンズが保持される前に、回転手段を制御し、指令信号に基づいて第1レンズ保持軸又は第2レンズ保持軸の回転角度を変更する。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズの周縁を加工具によって加工する眼鏡レンズ加工装置であって、
眼鏡レンズを挟持して保持する2つのレンズ保持軸であって、眼鏡レンズの前面側を保持する第1レンズ保持軸と、眼鏡レンズの後面側を保持する第2レンズ保持軸と、を備えるレンズ保持軸と、
前記第1レンズ保持軸及び前記第2レンズ保持軸を互いに独立して軸回りに回転可能な回転手段と、
指令信号を受け付ける信号受付手段と、
制御手段と、を備え、
前記第2レンズ保持軸には、眼鏡レンズの後面に当接する当接部材であって、一方向のみに傾斜可能な当接部材を持つフレキシブルレンズ押えが取り付けられ、
前記信号受付手段は、前記当接部材の傾斜方向を定める指令信号を受け付け可能とされ、
前記制御手段は、前記2つのレンズ保持軸によって眼鏡レンズが保持される前に、前記回転手段を制御し、前記指令信号に基づいて前記第1レンズ保持軸又は前記第2レンズ保持軸の回転角度を変更することを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。
【請求項2】
請求項1の眼鏡レンズ加工装置であって、
前記第2レンズ保持軸を前記第1レンズ保持軸側に相対的に移動して、前記第1レンズ保持軸及び前記第2レンズ保持軸によって眼鏡レンズを挟持して保持するレンズ保持軸移動手段を備え、
前記制御手段は、前記レンズ保持軸移動手段の駆動によって前記第1レンズ保持軸及び前記第2レンズ保持軸が眼鏡レンズの保持を完了させる前に、前記回転角度を変更することを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。
【請求項3】
請求項1又は2の眼鏡レンズ加工装置であって、
前記当接部材の傾斜方向を定める指令信号は、所定の基準状態に対する前記当接部材の傾斜方向の角度の信号と、眼鏡レンズに処方されたプリズム方向を示す信号と、眼鏡レンズの乱視軸角度を示す信号と、の少なくとも一つを含むことを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れかの眼鏡レンズ加工装置であって、
眼鏡レンズの周縁を前記加工具によって加工するレンズ加工手段を備え、
前記制御手段は、前記指令信号に基づいて前記第1レンズ保持軸の回転角度を初期状態から前記第2レンズ保持軸に対して独立して回転し、前記2つのレンズ保持軸による眼鏡レンズの保持が完了した後には、前記第1レンズ保持軸及び前記第2レンズ保持軸を同期して回転させることで、前記第1レンズ保持軸の回転角度を初期状態に戻すか、又は前記回転角度に基づいて前記レンズ加工手段による加工データを補正することを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れかの眼鏡レンズ加工装置であって、
前記制御手段は、前記2つのレンズ保持軸によって眼鏡レンズが保持された後は、前記回転手段の駆動を制御し、前記第1レンズ保持軸及び前記第2レンズ保持軸を同期して回転させることで、前記加工具によって眼鏡レンズの周縁を加工させることを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。
【請求項6】
眼鏡レンズを挟持して保持する2つのレンズ保持軸であって、眼鏡レンズの前面側を保持する第1レンズ保持軸と、眼鏡レンズの後面側を保持する第2レンズ保持軸と、を備えるレンズ保持軸と、前記第1レンズ保持軸及び前記第2レンズ保持軸を互いに独立して軸回りに回転可能な回転手段と、指令信号を受け付ける信号受付手段と、制御部と、を備える眼鏡レンズ加工装置の制御プログラムであって、
前記第2レンズ保持軸には、眼鏡レンズの後面に当接する当接部材であって、一方向のみに傾斜可能な当接部材を持つフレキシブルレンズ押えが取り付けられ、
前記信号受付手段は、前記当接部材の傾斜方向を定める指令信号を受け付け可能とされ、
前記制御部に実行されることで、前記2つのレンズ保持軸によって眼鏡レンズが保持される前に、前記回転手段を制御し、前記指令信号に基づいて前記第1レンズ保持軸又は前記第2レンズ保持軸の回転角度を変更するステップを、前記眼鏡レンズ加工装置に実行させることを特徴とする眼鏡レンズ加工装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼鏡レンズの周縁を加工する眼鏡レンズ加工装置及びその制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズを2つのレンズ保持軸で挟持して保持し、レンズ保持軸で保持された眼鏡レンズの周縁を砥石等の加工具により加工する眼鏡レンズ加工装置が知られている。この種の装置においては、2つのレンズ保持軸は、眼鏡レンズの前面(前屈折面)側を保持する第1レンズ保持軸と、眼鏡レンズの後面(後屈折面)側を保持する第2レンズ保持軸と、によって構成され、第2レンズ保持軸の先端には、眼鏡レンズの後面に当接される当接部材を持つレンズ押えが取り付けられている。
【0003】
この種のレンズ押えとしては、眼鏡レンズの後面に当接される当接部材が一方向のみに傾斜可能にされたフレキシブルレンズ押えが、特許文献1で開示されている。このフレキシブルレンズ押えによれば、例えば、眼鏡レンズの光学中心から横方向(0度-180度の左右方向)に偏位した位置に、レンズ保持軸の軸中心を位置させて眼鏡レンズが保持される場合、フレキシブルレンズ押えの当接部材が眼鏡レンズの後面の傾斜に沿って横方向に傾斜されることで、眼鏡レンズは2つのレンズ保持軸で安定して保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-305703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、当接部材が一方向に傾斜可能にされたフレキシブルレンズ押えが用いられる眼鏡レンズ加工装置においては、さらなる改良が望まれる。例えば、眼鏡レンズの屈折面の形状は様々であるため、眼鏡レンズの屈折面によっては、眼鏡レンズは2つのレンズ保持軸で安定して保持されないことがある。この場合、眼鏡レンズの周縁の加工時に、いわゆる軸ズレ等の不都合が発生しやすくなる。このため、当接部材が一方向に傾斜可能にされたフレキシブルレンズ押えの使用範囲が限られる問題があった。
【0006】
本開示は、上記従来技術に鑑み、当接部材が一方向に傾斜可能にされたフレキシブルレンズ押えの使用範囲を広げることが可能な眼鏡レンズ加工装置及び眼鏡レンズ加工装置の制御プログラムを提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本開示の第1態様に係る眼鏡レンズ加工装置は、眼鏡レンズの周縁を加工具によって加工する眼鏡レンズ加工装置であって、眼鏡レンズを挟持して保持する2つのレンズ保持軸であって、眼鏡レンズの前面側を保持する第1レンズ保持軸と、眼鏡レンズの後面側を保持する第2レンズ保持軸と、を備えるレンズ保持軸と、前記第1レンズ保持軸及び前記第2レンズ保持軸を互いに独立して軸回りに回転可能な回転手段と、指令信号を受け付ける信号受付手段と、制御手段と、を備え、前記第2レンズ保持軸には、眼鏡レンズの後面に当接する当接部材であって、一方向のみに傾斜可能な当接部材を持つフレキシブルレンズ押えが取り付けられ、前記信号受付手段は、前記当接部材の傾斜方向を定める指令信号を受け付け可能とされ、前記制御手段は、前記2つのレンズ保持軸によって眼鏡レンズが保持される前に、前記回転手段を制御し、前記指令信号に基づいて前記第1レンズ保持軸又は前記第2レンズ保持軸の回転角度を変更することを特徴とする。
【0008】
(2) 本開示の第2態様に係る眼鏡レンズ加工装置の制御プログラムは、眼鏡レンズを挟持して保持する2つのレンズ保持軸であって、眼鏡レンズの前面側を保持する第1レンズ保持軸と、眼鏡レンズの後面側を保持する第2レンズ保持軸と、を備えるレンズ保持軸と、前記第1レンズ保持軸及び前記第2レンズ保持軸を互いに独立して軸回りに回転可能な回転手段と、指令信号を受け付ける信号受付手段と、制御部と、を備える眼鏡レンズ加工装置の制御プログラムであって、前記第2レンズ保持軸には、眼鏡レンズの後面に当接する当接部材であって、一方向のみに傾斜可能な当接部材を持つフレキシブルレンズ押えが取り付けられ、前記信号受付手段は、前記当接部材の傾斜方向を定める指令信号を受け付け可能とされ、前記制御部に実行されることで、前記2つのレンズ保持軸によって眼鏡レンズが保持される前に、前記回転手段を制御し、前記指令信号に基づいて前記第1レンズ保持軸又は前記第2レンズ保持軸の回転角度を変更するステップを、前記眼鏡レンズ加工装置に実行させることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】眼鏡レンズ加工装置における加工機構部の構成を説明する図である。
図2】チャック部120の構成例を示す図である。
図3】レンズ形状測定ユニット300の概略構成図である。
図4】フレキシブルレンズ押え500の構成を説明する図である。
図5】眼鏡レンズ加工装置に関する制御ブロック図である。
図6】加工条件を設定するときのディスプレイ60の画面例である。
図7】レンズLEが保持された状態のレンズチャック軸102をY方向から見た図である。
図8図7に対して、レンズLEが横プリズム(左右の横方向のプリズム成分)を持つ場合の例である。
図9】レンズLEが縦プリズム(上下方向のプリズム成分)を持つ場合の例であり、X方向及びY方向に直交する方向から見た場合の図である。
図10図9と同じく、レンズチャック軸102をX方向及びY方向に直交する方向から見た場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[概要]
以下、典型的な実施形態の1つについて、図面を参照して説明する。なお、以下の<>にて分類された項目は、独立又は関連して利用されうる。
【0011】
例えば、眼鏡レンズ加工装置(例えば、眼鏡レンズ加工装置1)は、2つ(一対)のレンズ保持軸(例えば、レンズチャック軸102)を備える。例えば、2つのレンズ保持軸は、第1レンズ保持軸(例えば、レンズチャック軸102L)及び第2レンズ保持軸(例えば、レンズチャック軸102R)を備える。例えば、第1レンズ保持軸は、眼鏡レンズの前面側を保持するために構成されている。例えば、第2レンズ保持軸は、眼鏡レンズの後面側を保持するために構成されている。
【0012】
例えば、第2レンズ保持軸には、フレキシブルレンズ押え(例えば、フレキシブルレンズ押え500)が取り付けられる。例えば、フレキシブルレンズ押えは、眼鏡レンズの後面に当接する当接部材であって、一方向のみに傾斜可能な当接部材(例えば、当接部材530)を持つものが使用される。なお、当接部材の一方向のみ傾斜は、フレキシブルレンズ押えが第2レンズ保持軸に取り付けられた状態で、第2レンズ保持軸の軸方向に対して直交する方向の内の一方向のみとされる。
【0013】
例えば、眼鏡レンズ加工装置は、回転手段(例えば、回転駆動部110)と、信号受付手段(例えば、制御部50)と、を備える。例えば、回転手段は、第1レンズ保持軸及び第2レンズ保持軸を互いに独立して軸回り(第1レンズ保持軸及び第2レンズ保持軸のそれぞれの軸回り)に回転することを可能に構成されている。例えば、信号受付手段は、指令信号を受け付ける。例えば、信号受付手段は、フレキシブルレンズ押えが持つ当接部材の傾斜方向を定める指令信号を受け付け可能とされている。
【0014】
例えば、眼鏡レンズ加工装置は、制御手段(例えば、制御部50)と、を備える。例えば、制御手段は、回転手段を制御するために構成されている。例えば、制御手段は、2つのレンズ保持軸によって眼鏡レンズが保持される前に、回転手段を制御し、信号受付手段によって受け付けられた指令信号に基づいて第1レンズ保持軸又は第2レンズ保持軸の回転角度を他方に対して独立して変更する。これにより、一方向のみに傾斜可能にされた当接部材を持つフレキシブルレンズ押えの使用範囲(適用範囲)を広げることができる。すなわち、フレキシブルレンズ押えが持つ当接部材の傾斜方向が眼鏡レンズの後面の傾斜方向に合せて変更されることで、2つのレンズ保持軸によって眼鏡レンズが安定して保持されるため、眼鏡レンズの周縁の加工時に発生する軸ズレを抑えることができる。
【0015】
例えば、当接部材の傾斜方向を定める指令信号は、所定の基準状態(第2レンズ保持軸の初期角度)に対する当接部材の傾斜方向の角度の信号と、眼鏡レンズに処方されたプリズム方向を示す信号と、眼鏡レンズの乱視軸角度を示す信号と、の少なくとも一つを含んでいてもよい。なお、眼鏡レンズに処方されたプリズム方向の情報、及び眼鏡レンズの乱視軸角度の情報は、データ取得手段(例えば、データ取得ユニット10)によって取得されることで、当接部材の傾斜方向を定める指令信号として使用されてもよい。
【0016】
例えば、眼鏡レンズ加工装置は、レンズ保持軸移動手段(例えば、チャック部120)を備えていてもよい。例えば、レンズ保持軸移動手段は、第1レンズ保持軸及び第2レンズ保持軸によって眼鏡レンズを挟持して保持するために、第2レンズ保持軸を第1レンズ保持軸側に相対的に移動する。この場合、例えば、制御手段は、レンズ保持軸移動手段による眼鏡レンズの保持を完了させる前に、信号受付手段によって受け付けられた指令信号に基づいて第1レンズ保持軸又は第2レンズ保持軸の回転角度を変更する。この場合、2つのレンズ保持軸による眼鏡レンズの保持の完了前であれば、制御手段は、レンズ保持軸移動手段を制御し、第2レンズ保持軸を第1レンズ保持軸側に相対的に移動しながら、第1レンズ保持軸又は第2レンズ保持軸の回転角度を変更してもよい。
【0017】
なお、制御手段は、信号受付手段による指令信号の受付けが無い場合、又は指令信号の傾斜方向が所定の基準方向であった場合には、前記回転角度を変更する制御を行わない。これにより、フレキシブルレンズ押え持つ当接部材の傾斜方向を変更する必要が無い場合は、2つのレンズ保持軸によって眼鏡レンズが保持される前に、2つのレンズ保持軸の一方の独立した回転が不要となり、余分な動作が行われない。
【0018】
例えば、眼鏡レンズ加工装置は、眼鏡レンズの周縁を加工具(例えば、加工具214)によって加工するレンズ加工手段(例えば、レンズ加工ユニット200)を備える。また、例えば、制御手段は、前記指令信号に基づいて第1レンズ保持軸の回転角度を初期状態から第2レンズ保持軸に対して独立して回転してもよい。この場合、制御手段は、2つのレンズ保持軸による眼鏡レンズの保持が完了した後には、第1レンズ保持軸及び第2レンズ保持軸を同期して回転させることで、第1レンズ保持軸の回転角度を初期状態に戻してもよい。あるいは、制御手段は、第1レンズ保持軸を独立して回転させたときの回転角度に基づいてレンズ加工手段による加工データを補正してもよい。例えば、加工データの補正は、眼鏡レンズの周縁加工において、2つのレンズチャックを同期して回転させる制御データが、先の回転角度分だけ補正されることで求められる。これにより、第1レンズ保持軸の回転角度が変更される構成の場合であっても、適切に眼鏡レンズの周縁が加工される。
【0019】
また、例えば、制御手段は、2つのレンズ保持軸によって眼鏡レンズが保持された後は、回転手段の駆動を制御し、第1レンズ保持軸及び第2レンズ保持軸を同期して回転させることで、加工具によって眼鏡レンズの周縁を加工させる。これにより、眼鏡レンズの周縁の加工時に発生する軸ズレが抑えられ、適切に眼鏡レンズの周縁が加工される。
【0020】
なお、本開示においては、本実施形態に記載した装置に限定されない。例えば、下記実施形態の機能を行う眼鏡レンズ加工装置の制御プログラム(ソフトウェア)をネットワーク又は各種記憶媒体等を介して、システムあるいは装置に供給する。そして、システムあるいは装置の制御装置(例えば、CPU等)がプログラムを読み出し、実行することも可能である。
【0021】
例えば、眼鏡レンズ加工装置の制御プログラムは、制御部によって実行されることで、2つのレンズ保持軸によって眼鏡レンズが保持される前に、回転手段を制御し、指令信号に基づいて第1レンズ保持軸又は第2レンズ保持軸の回転角度を変更するステップを、制御部に実行させる。
【0022】
[実施例]
本開示の典型的な実施例の一つについて、図面を参照して説明する。図1は、実施例に係る眼鏡レンズ加工装置1における加工機構部の構成を説明する図である。
【0023】
眼鏡レンズ加工装置1は、レンズ保持手段の例であるレンズ保持ユニット100と、被加工レンズである眼鏡レンズ(以下、レンズLE)の周縁を加工具214によって加工するレンズ加工手段の例であるレンズ加工ユニット200と、を備える。また、眼鏡レンズ加工装置1は、レンズLEの屈折面形状を測定するために構成されたレンズ形状測定ユニット300を備える。
【0024】
<レンズ保持ユニット>
レンズ保持ユニット100は、レンズLEを保持(挟持)するためのレンズ保持軸の例である一対のレンズチャック軸102と、キャリッジ101と、を備える。レンズチャック軸102は、レンズLEの前面(前屈折面)側を保持する第1レンズ保持軸の例であるレンズチャック軸102Lと、レンズLEの後面(後屈折面)側を保持する第2レンズ保持軸の例であるレンズチャック軸102Rと、を備える。キャリッジ101の左腕101Lに、レンズチャック軸102Lが回転可能に保持されている。また、キャリッジ101の右腕101Rに、レンズチャック軸102Rが回転可能に保持されている。
【0025】
レンズ保持ユニット100は、回転手段の例である回転駆動部110を備える。レンズチャック軸102L及びレンズチャック軸102Rは、回転駆動部110によって、互いに独立して回転可能にされている。回転駆動部110は、レンズチャック軸102Lを回転させるモータ111L(図5参照)と、レンズチャック軸102Rを回転させるモータ111Rと、を備える。モータ111Lの回転は、ギヤ等の回転伝達機構を介してレンズチャック軸102Lに伝達される。同様に、モータ111Rの回転は、ギヤ等の回転伝達機構を介してレンズチャック軸102Rに伝達される。
【0026】
図2に示されるように、レンズLEの前面には、加工治具のカップCUが固定される。レンズチャック軸102Lの先端には、カップCUの基部CUaが挿入されるカップ受け103が取り付けられている。また、レンズチャック軸102Rの先端には、フレキシブルレンズ押え500が取り付けられている。フレキシブルレンズ押え500の構成は後述する。
【0027】
レンズ保持ユニット100は、レンズ保持軸移動手段の例であるチャック部120を備える。チャック部120は、一対のレンズチャック軸102によって眼鏡レンズを挟持するために、フレキシブルレンズ押え500が取り付けられたレンズチャック軸102Rをレンズチャック軸102L側に相対的に移動するために使用される。なお、図1において、レンズチャック軸102の軸方向をX方向とする。
【0028】
図2は、チャック部120の例を示す図である。レンズチャック軸102Rの後方には、キャリッジ101の右腕101Rの内部で、送りネジ123が回転可能に保持されている。チャック部120は、レンズチャック軸102Rをその軸方向(X方向)に移動するための駆動源であるモータ121を備える。モータ121の回転は、プーリ、ベルト等から構成される回転伝達部を介して送りネジ123に伝達される。送りネジ123のネジ部には送りナット124が配置されている。送りナット124は、ネジガイド127に形成されたキー溝128によって回転されず、送りネジ123の回転により、レンズチャック軸102Rの軸方向に移動可能とされている。ネジガイド127は、右腕101Rと一体的に結合されている。また、送りネジ123の先端には、レンズチャック軸102Rを回転自在に連結するカップリング129が取り付けられている。これによりレンズチャック軸102Rは、回転自在で、かつ送りナット124によって軸方向に移動される。また、レンズチャック軸102Rの外周にはギヤ125が配置されている。ギヤ125は、モータ111Rの回転が回転伝達機構(図示を略す)を介して伝達される。ギヤ125は、レンズチャック軸102Rと一体的に回転可能に右腕101Rに取り付けられており、且つ、レンズチャック軸102Rがその軸方向(X方向)に移動可能なように取り付け機構が構成されている。例えば、レンズチャック軸102RにはX方向に延びるキー溝が形成され、ギヤ125にはレンズチャック軸102Rのキー溝に対応するキーが形成されている。
【0029】
レンズチャック軸102Rの先端にはフレキシブルレンズ押え500が取り付けられている。モータ121によって送りネジ123が回転されことにより、送りナット124がX方向に移動され、これに伴ってレンズチャック軸102Rがその先端方向へ移動される。そして、カップ受け103にカップCUを介してレンズチャック軸102に装着されたレンズLEが、フレキシブルレンズ押え500で押圧される。これにより、レンズLEがレンズチャック軸102Rとレンズチャック軸102Lとによって保持(挟持)される。なお、チャック部120は、図2に示された構成に限られず、種々の構成が使用され得る。
【0030】
<レンズ加工ユニット>
レンズ加工ユニット200は、加工具ユニット210と、移動ユニット250と、を備える。移動ユニット250は、レンズチャック軸102の保持されたレンズLEと、加工具(加工具ユニット210が備える加工具214等)との相対的な位置関係を変えるために使用される。
【0031】
(加工具ユニット)
加工具ユニット210は、第1加工具ユニット210Aを備える。第1加工具ユニット210Aは、加工具回転軸211を回転するためのモータ213を備える。加工具回転軸211は、レンズチャック軸102と平行な位置関係で、回転軸保持ユニット212によって回転可能に保持されている。回転軸保持ユニット212は、ベース2に取り付けられている。加工具回転軸211にレンズLEの周縁を加工するための複数の加工具214が取り付けられている。例えば、加工具214は、高カーブレンズの仕上げ用加工具214a、鏡面仕上げ用加工具214b、低カーブ用の仕上げ加工具214c、粗加工具214dの少なくとも何れか一つを備える。鏡面仕上げ用加工具214b及び仕上げ加工具214cは、それぞれヤゲン加工用のV溝と、平加工用の平仕上げ面と、の少なくとも何れかを備える。本実施例では、加工具214には砥石が利用されるが、カッターが使用されてもよい。
【0032】
加工具ユニット210は、付加的に第2加工具ユニット210Bを備えていてもよい。第2加工具ユニット210Bは、キャリッジ101の後方に配置されている。第2加工具ユニット210Bは、レンズLEの周縁を粗加工するための粗加工具221と、面取り加工具223と、を備える。例えば、粗加工具221はカッターが使用されるが、エンドミルが使用されてもよい。面取り加工具223は砥石が使用される。
【0033】
粗加工具221は、加工具駆動軸222に連結されている。面取り加工具223は、加工具駆動軸224に連結されている。加工具駆動軸222及び加工具駆動軸224はモータ226によって回転される。加工具駆動軸222に連結された粗加工具221は、加工具の位置を変化させるための旋回機構225によって所定の加工位置に移動される。なお、第2加工具ユニット210Bの構成は、特開2017-177234号公報に記載された構成を採用できるので、詳細はこれを参照されたい。
【0034】
(移動ユニット)
移動ユニット250は、レンズチャック軸102と、加工具回転軸(加工具回転軸211及び第2加工具駆動軸222)と、の軸間距離方向(以下、Y方向とする)の位置関係を相対的に変えるY移動ユニット251を備える。また、移動ユニット250は、レンズチャック軸102の軸方向(X方向)におけるレンズLEと加工具加工具214との位置関係を相対的に変えるX移動ユニット261と、を備える。なお、実施例では、Y方向はX方向に直交する方向である。
【0035】
X移動ユニット261は、モータ262を備える。モータ262の回転により移動支基260がX方向に移動される。これにより、移動支基260に搭載されたキャリッジ101及びレンズチャック軸102(レンズLE)がX方向に移動される。なお、X移動ユニット261の構成は、加工具ユニット210が持つ加工具(加工具214、粗加工具221等)をX方向に移動させる構成でもよい。また、X移動ユニット261は、レンズ形状測定ユニット300が持つ測定子310(図3参照)と、レンズチャック軸102に保持されたレンズLEと、のX方向の位置関係を変えるためにも使用されもよい。
【0036】
Y移動ユニット251は、キャリッジ101(レンズチャック軸102とレンズLE)をY方向に移動するためのモータ252を備える。移動支基260にはY方向に延びるシャフト253が取り付けられている。移動支基260にはモータ252が固定されている。モータ252の回転はY方向に延びるボールネジ254に伝達され、ボールネジ254の回転によりキャリッジ101(レンズチャック軸102とレンズLE)はY方向に移動される。なお、実施例ではY移動ユニット251は、レンズチャック軸102をY方向に移動する構成であるが、加工具ユニット210が持つ加工具(加工具214、粗加工具221等)をY方向に移動させる構成でもよい。
【0037】
<レンズ形状測定ユニット>
図3は、レンズ形状測定ユニット300の概略構成図である。レンズ形状測定ユニット300は、レンズLEの屈折面形状を測定するための測定子310を備える。実施例では、測定子310は、レンズLEの前面に接触させる測定子311と、レンズLEの後面に接触させる測定子312と、を備える。また、レンズ形状測定ユニット300は、測定子311、262のX方向の移動位置を検知するためのセンサ(検知器)321を備える。
【0038】
測定子311、262は、X方向に移動可能なアーム315によって保持されている。実施例では、アーム315はU字上の形状を有する。また、実施例では、アーム315は支柱317に取付けられ、支柱317がX軸方向移動可能にブロック319に保持されている。支柱317は図示を略すバネ(付勢部材)によって、図3の状態を中立位置として、レンズLEの前面側方向及び後面側方向にそれぞれ付勢されている。測定子311、312のX方向の移動位置は、アーム315及び支柱317を介してセンサ321によって検知される。センサ321の構成は周知のものが使用される。
【0039】
レンズLEの屈折面形状(前面、後面)の測定時には、レンズチャック軸102の回転によってレンズLEが回転され、玉型に基づいてレンズチャック軸102のY方向の移動が制御されることにより、玉型に対応したレンズLEの前面及び後面のX方向の位置がセンサ321によって検知される。なお、実施例の装置では、レンズチャック軸102のX方向の移動制御も利用してレンズLEの前面及び後面の屈折形状の測定が行われる。
【0040】
<フレキシブルレンズ押え>
図4は、フレキシブルレンズ押え500の構成を説明する図である。図4(a)はフレキシブルレンズ押え500を上からみた図であり、図4(b)はフレキシブルレンズ押え500の側面図であり、図4(c)はフレキシブルレンズ押え500の斜視図である。
【0041】
フレキシブルレンズ押え500は、レンズチャック軸102Rの先端に固定される基部部材510と、基部部材510に対して一方向に傾斜可能な可動部材520と、レンズLEの後面に当接する当接部材530と、の3つの部材から構成される。なお、基部部材510は、基部部材510がレンズチャック軸102Rの先端に取り付けられた場合に、レンズチャック軸102Rの軸方向に対して直交する方向の内の一方向のみに傾斜可能にされているものである。
【0042】
図4において、基部部材510の先端側(当接部材530が位置する側)には、円弧中心Oを中心として円弧状に延びる凹溝であるアリ溝515が形成されている。例えば、アリ溝515は断面が台形凹形状である。円弧中心Oは、フレキシブルレンズ押え500がレンズチャック軸102Rに取り付けられた場合に、レンズチャック軸102Rの中心軸X01上に位置し、且つ、当接部材530の当接面530aに対してやや後方に位置する(弾性体から成る当接部材530の変形分を見込んだ位置に設定されていればよい)。なお、基部部材510の後端側(当接部材530が位置する側とは反対側)の内部には、レンズチャック軸102Rの先端が挿入される挿入穴(図示を略す)が形成されている。その挿入穴に、レンズチャック軸102Rの先端が挿入されることで、フレキシブルレンズ押え500がレンズチャック軸102Rの先端に取り付けられる。
【0043】
可動部材520の基部部材510側には、アリ溝515の円弧方向にのみスライド可能に嵌り合う、円弧状の凸部としてのアリ部525が形成されている。アリ部525も、アリ溝515と同じく、円弧中心Oを中心として円弧状に形成されている。アリ部525の円弧の長さは、アリ溝515の円弧の長さより長くされている。これにより、アリ溝515に嵌め込まれたアリ部525を持つ可動部材520は、円弧中心Oを中心として、アリ部525が延びる一方向に傾斜可能に、基部部材510に保持される。
【0044】
当接部材530は、ゴム等の弾性体からなり、レンズLEが位置する側に当接面530aを持つ。当接部材530は、可動部材520に嵌め込まれることにより、可動部材520に取り付けられると共に、基部部材510に対する可動部材520の抜けを制限する制限部材を兼ねる。当接部材530の当接面530aは、レンズLEの前面に固定される加工治具のカップCUの外形形状とほぼ同じ大きさに形成されている。本実施例では、カップCU及び当接部材530の外形は、略楕円形状に形成されている。
【0045】
このような構成のフレキシブルレンズ押え500を組み付ける際は、まず、作業者は、基部部材510のアリ溝515に対して可動部材520のアリ部525をスライドさせて挿入する。次に、作業者は、可動部材520に当接部材330を嵌め込む。これで、フレキシブルレンズ押え500の組み付けが完了する。フレキシブルレンズ押え500の清掃が必要になった場合は、作業者は、組み付け時の逆の手順で各部材を取り外せばよく、容易に各部材を清掃できる。
【0046】
<制御系の構成>
図5は眼鏡レンズ加工装置1に関する制御ブロック図である。眼鏡レンズ加工装置1は制御部50を備える。制御部50に、図1図2及び図3に示した各ユニットの電気系構成要素(モータ、センサー等)が接続されている。制御部50は、眼鏡レンズ加工装置1の全体の制御を司り、各ユニットのモータを制御し、レンズLEの周縁加工を行う。例えば、制御部50は、CPU、ROM、及びRAM、等を備える。
【0047】
眼鏡レンズ加工装置1は、データ取得ユニット10を備える。データ取得ユニット10は入力ユニットの機能を兼ねていてもよい。例えば、データ取得ユニット10は、ディスプレイ60を備える。例えば、データ取得ユニット10は入力ユニット13を備える。表示手段の例であるディスプレイ60はタッチパネルの機能を備え、入力ユニット13を含むように構成されていてもよい。
【0048】
制御部50は、データ取得ユニット10の一部を構成し、各種のデータを取得してもよい。また、制御部50は、各種信号を受け付ける信号受付手段を兼ねていてもよい。また、制御部50は、各種情報を出力する出力手段を兼ねていてもよい。制御部50に記憶部20が接続され、データ取得ユニット10によって取得された各種データが記憶部20に記憶される。また、記憶部20には、眼鏡レンズ加工装置1の動作を制御するための各種の制御プログラムが記憶されている。例えば、制御プログラムには、フレキシブルレンズ押え500の当接部材530の傾斜方向を定める指令信号に基づき、レンズチャック軸102L又はレンズチャック軸102Rの回転角度を変更するための制御プログラムが含まれている。また、例えば、制御プログラムには、レンズLEの周縁を加工具214によって加工するための制御プログラムが含まれている。記憶部20は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる不揮発性の記憶媒体であってもよい。また、記憶部20は、可搬性の記憶媒体であってもよい。
【0049】
データ取得ユニット10は、玉型形状測定装置30に接続されていてもよい。例えば、玉型形状測定装置30は、眼鏡フレームのリムを測定することで、レンズLEの玉型(レンズLEを周縁加工するための目標の外形形状)を得る。また、玉型は記憶部20に記憶されているデータが使用されてもよい。データ取得ユニット10は玉型形状測定装置30又は記憶部20から玉型データを取得する。なお、「玉型」は動径長と動径角で定義される二次元の形状である。
【0050】
また、データ取得ユニット10は、データサーバー32に接続されていてもよい。例えば、データサーバー32には、被加工レンズであるレンズLEの処方データ(球面度数S、乱視度数C、乱視軸角度A、プリズム度数とそのプリズム方向、等)が記憶され、眼鏡装用者のIDに紐付けてレンズLEの処方データが取得されてもよい。
【0051】
また、データ取得ユニット10は、バーコードリーダー34が接続されていてもよい。バーコードリーダー34によって読み取られたバーコードに関係付けられた各種の情報(例えば、眼鏡装用者のID、レンズLEの処方データ、眼鏡装用者の検眼情報、等)が、データ取得ユニット10によって取得される。あるいは、バーコードリーダー34によって読み取られたバーコードに基づき、データサーバー32に保存された各種の情報が呼び出されることで、データ取得ユニット10によって取得されてもよい。
【0052】
<制御動作>
以上のような構成を備える眼鏡レンズ加工装置1の動作を説明する。初めに、データ取得ユニット10によってレンズLEの玉型データTD(動径長、動径角のデータ)が取得される。例えば、玉型形状測定装置30によって測定された眼鏡フレームのリムの輪郭形状がデータ取得ユニット10に入力される。玉型データTDは記憶部20に記憶されていたデータが呼び出されることで、データ取得ユニット10によって取得されてもよい。
【0053】
玉型データTDが取得されたら、操作者はレンズLEの周縁を加工するための加工条件をディスプレイ60によって設定(入力)する。図6は、加工条件を設定するときのディスプレイ60の画面例である。ディスプレイ60の画面610のID入力欄612には、眼鏡装用者のIDが入力される。
【0054】
図6において、画面610には、玉型データTDに基づく右眼用玉型図形TGRと左眼用玉型図形TGLが表示されている。レンズLEの周縁加工のために、玉型に対するレンズLEの光学中心位置を配置するためのレイアウトデータが入力される。例えば、レイアウトデータは、左右の玉型中心間距離FPD(右眼用玉型TGRの幾何中心TCRと左眼用玉型TGLの幾何中心TCLとの中心間距離)と、瞳孔間距離PD(右眼用光学中心OCRと左眼用光学中心OCLとの距離)と、左右の玉型の幾何中心に対する光学中心の高さ距離と、を含む。これらの値は、画面上の表示欄がタッチされることで表示されるテンキーによって入力できる。なお、これらのレイアウトデータは、眼鏡装用者IDに基づき、データサーバー32に記憶された値がデータ取得ユニット10によって取得されることで、設定されてもよい。
【0055】
また、加工条件として、レンズLEの材質、フレームのタイプ(メタル、セル、リムレス、等)、レンズ周縁加工モード(オートヤゲン加工、強制ヤゲン加工、平加工、等)、鏡面加工の有無、面取り加工の有無、レンズのチャッキングモード(枠心モード、光心モード)が入力欄620によって設定される。
【0056】
(眼鏡レンズの保持動作)
加工条件の設定が完了したら、操作者は、未加工のレンズLEを2つのレンズチャック軸102によって保持させる。以下では、右眼用のレンズLEが枠芯チャックされる場合を例にして説明する。
【0057】
操作者は、カップCUが固定された未加工のレンズLEを、レンズチャック軸102Lとレンズチャック軸102Rとの間に挿入した後、カップCUの基部CUaをレンズチャック軸102Lのカップ受け103に装着する。その後、ディスプレイ60のチャックスイッチ622が押されると、そのスイッチ信号が制御部50によって受け付けられる。そして、制御部50の制御により、チャック部120のモータ121が駆動されることで、レンズチャック軸102Rがレンズチャック軸102L側に移動され、フレキシブルレンズ押え500によってレンズLEの後面が押圧されることで、レンズLEが2つのレンズチャック軸102によって保持される。
【0058】
ここで、レンズチャック軸102Rに取り付けられたフレキシブルレンズ押え500が持つ当接部材530の傾斜方向は、初期状態では眼鏡レンズ加工装置1のY方向に直交する方向に設定されている(これを基準状態とする)。すなわち、レンズチャック軸102LにカップCUを介して装着されるレンズLEの基準角度方向(乱視角度Aの0度-180度方向)は、X方向から見た時にY方向に直交する方向とされ、基準状態における当接部材530の傾斜方向も、この基準角度方向に一致する方向(X方向から見た時にY方向に直交する方向)とされている。
【0059】
このため、例えば、レンズLEがプリズム成分を持たず(すなわち、プリズム処方されておらず)、また、レンズLEの乱視軸角度Aが0度(180度)及び90度から大きく外れていない場合には、図7図7は、レンズチャック軸102をY方向から見た図である)に示すように、フレキシブルレンズ押え500の当接部材530は、レンズLEの後面の傾斜に沿って矢印KA方向に傾斜される。このため、当接部材530のほぼ全面がレンズLEの後面を押圧し、レンズLEは2つのレンズチャック軸102で安定して保持される。なお、図7は、右眼用のレンズLEが枠芯チャックで保持される場合(レンズLEの光学中心から横方向(左右方向)に偏位した位置に、レンズチャック軸102の軸中心が位置される場合)である。また、枠芯チャックの場合であっても、一般的に、玉型の幾何中心TCRに対する右眼用光学中心OCRの偏位(高さ距離)は僅かなため(図6参照)、フレキシブルレンズ押え500の当接部材530がY方向(上下方向)に傾斜されない構成であっても、レンズLEは2つのレンズチャック軸102で安定して保持される。
【0060】
図8は、図7に対して、レンズLEが横プリズム(左右の横方向のプリズム成分)を持つ場合の例である。この場合、当接部材530の傾斜方向が基準状態(Y方向に直交する方向)の設定のままであっても、当接部材530は、レンズLEの後面の傾斜に沿って矢印KA方向に大きく傾斜される。このため、レンズLEは2つのレンズチャック軸102で安定して保持される。
【0061】
一方、図9は、レンズLEが縦プリズム(上下方向のプリズム成分)を持つ場合の例であり、X方向及びY方向に直交する方向(すなわち、当接部材530の傾斜方向)から見た場合の図である。この場合、当接部材530の傾斜方向が基準状態(Y方向に直交する方向)の設定のままであると、当接部材530は、レンズLEの後面の傾斜に沿って傾斜されない。このため、当接部材530は、レンズLEの後面に対して部分的な当接(片当たり)となる。言い換えると、当接部材530によってレンズLEの厚い側は強く押さえられるが、レンズLEの薄い側は強く押さえられない。この場合、レンズLEの周縁の加工時に、いわゆる軸ズレの不都合が発生しやすい。
【0062】
そこで、本開示では、制御部50は、レンズチャック軸102Rをレンズチャック軸102L側に移動させる前に、当接部材530の傾斜方向を定める指令信号に基づき、レンズチャック軸102R(レンズチャック軸102Lであってもよい)の回転角度を変更することで、当接部材530の傾斜方向をレンズLEの後面形状に対応させる。
【0063】
例えば、レンズチャック軸102によるレンズLEの保持前に、操作者は、図6の画面610における設定欄630にて、当接部材530の傾斜方向を設定する。例えば、レンズLEが縦プリズムを持つ場合、操作者は、設定欄630にて、眼鏡レンズに処方されたプリズム方向を示す信号として縦プリズムモードを設定(選択であってもよい)する。縦プリズムモードが設定されると、制御部50は、この設定信号を当接部材530の傾斜方向を定める指令信号として受付ける。そして、制御部50は、チャックスイッチ622が押されると、レンズチャック軸102Rをレンズチャック軸102L側に移動させる前に(レンズLEが一対のレンズチャック軸102によって保持される前に)、モータ111Rを駆動し、レンズチャック軸102Rを基準状態から90度回転させる。これにより、当接部材530の傾斜方向が、レンズLEの縦プリズムの方向に合わせられる。
【0064】
その後、チャック部120が駆動されることでレンズチャック軸102Rがレンズチャック軸102L側に移動される。レンズチャック軸102Rの移動によって、レンズLEの後面に当接部材530が当たった後、さらに当接部材530が押し込まれることで、図10のように、当接部材530が矢印KA方向に傾斜される。図10は、図9と同じく、レンズチャック軸102をX方向及びY方向に直交する方向から見た場合の図である。これにより、レンズLEが縦プリズムである場合(すなわち、Y方向においてレンズLEの厚みが偏っている場合)であっても、当接部材530の全面(ほぼ全面)がレンズLEの後面を押圧し、レンズLEは2つのレンズチャック軸102で安定して保持される。
【0065】
上記では、当接部材530の傾斜方向を定める指令信号の入力として、設定欄630にて縦プリズムモードを設定する例を説明したが、当接部材530の傾斜方向の角度が直接数値で入力されてもよい。例えば、レンズLEのプリズム方向が縦方向(上下方向)の場合には、設定欄630にて90度(又は270度)の値で入力されてもよい。この場合、レンズLEのプリズム成分が45度等の斜め方向であった場合にも対応できる。
【0066】
また、接部材530の傾斜方向を定める指令信号は、操作者が画面610の設定欄630にて入力(設定)するのではなく、レンズLEの処方データに含まれるプリズム度数のプリズム方向がデータ取得ユニット10によって取得されることで入されてもよい。
【0067】
また、上記では、当接部材530の傾斜方向を変更する制御に関し、レンズLEがプリズム処方された場合を例にしたが、これに限られない。例えば、レンズLEが一定以上の高度数の乱視度数C(例えば、マイナス3D以上)を持つ場合にも、当接部材530の傾斜方向を変更する制御が適用されてもよい。レンズLEが乱視度数Cを持つ場合、一般的に、レンズLEの後面形状が乱視度数の強主経線方向と弱主経線方向とで変えられている。すなわち、乱視度数の乱視軸角度Aに応じてレンズLEの後面の傾斜が異なる。そこで、例えば、乱視軸角度Aが45度の場合には、当接部材530の傾斜方向も基準状態に対して45度方向となるように、乱視軸角度Aに応じてレンズチャック軸102Rが回転される。これにより、当接部材530がレンズLEの後面傾斜に沿って傾斜されやすくなる。したがって、レンズLEが高度数の乱視度数Cを持つ場合であっても、レンズLEが2つのレンズチャック軸102によって保持される。
【0068】
なお、レンズLEの乱視軸角度Aは、プリズム方向の場合と同様に、操作者が設定欄630にて入力してもよい。あるいは、データ取得ユニット10によってレンズLEの処方データ(球面度数S、乱視度数C、乱視軸角度A)が取得されることで、取得された処方データに従って制御部50によって自動的に設定されてもよい。すなわち、制御部50によって当接部材の傾斜方向を定める指令信号が自動的に受け付けられる。
【0069】
なお、当接部材530の傾斜方向を定める指令信号が入力されない場合(言い換えると、当接部材530の傾斜方向を定める指令信号が受付けられていない場合)、又は指令信号の傾斜方向が所定の基準方向(初期角度方向)であった場合、制御部50は、レンズチャック軸102Rの回転を行うことなく、チャックスイッチ622のスイッチ信号に基づき、レンズチャック軸102Rをレンズチャック軸102L側に移動してレンズLEを2つのレンズチャック軸102によって保持させる。
【0070】
(眼鏡レンズの保持後の動作)
レンズLEがレンズチャック軸102によって保持された後の加工動作を簡単に説明する。レンズLEがレンズチャック軸102によって保持されると、まず初めに、制御部50によってレンズ形状測定ユニット300を用いたレンズLEの前面及び後面の屈折面の形状測定が、玉型データに基づいて実行される。レンズLEの形状測定が終了すると、その測定結果と玉型とに基づいて、例えば、レンズLEの周縁に形成するヤゲン形成データが演算される。
【0071】
次に、制御部50によってレンズ加工ユニット200の動作が制御され、レンズLEの周縁が加工具214によって加工される。例えば、初めに、Y移動ユニット251及びX移動ユニット261が制御され、レンズLEの周縁が粗加工具214d(又は粗加工具221)によって粗加工され、その後、仕上げ加工具214cによってヤゲン形成データに基づいてレンズLEの周縁が仕上げ加工される。レンズLEの周縁加工時には、レンズチャック軸102L及びレンズチャック軸102Rは、それぞれモータ111L及びモータ111Rによって同期して回転される。そして、このレンズLEの周縁の加工時、前述のように、フレキシブルレンズ押え500の当接部材530の傾斜方向を定める指令信号に基づき、レンズチャック軸102Rの回転角度が変更され、レンズLEが2つのレンズチャック軸102で安定して保持されていることで、レンズLEの周縁加工に伴う、レンズLEの軸ズレの発生が抑えられる。これにより、レンズLEの周縁が精度よく加工される。
【0072】
<変容例>
以上、本開示の典型的な実施例を説明したが、本開示は上記で示した実施例に限られず、種々の変容が可能である。
【0073】
例えば、上記では、当接部材530の傾斜方向を定める指令信号に基づき、レンズチャック軸102Rの回転角度が変更されるものとしたが、相対的に第1レンズ保持軸のレンズチャック軸102Lの回転角度が変更されてもよい。この場合、レンズLEが2つのレンズチャック軸102に保持された後、先の回転角度分が戻されるように2つのレンズチャック軸102が同期して回転されることで、図8の場合と同様に、レンズチャック軸102Lは初期状態とされる。その後は前述と同様に、レンズLEの形状測定及び周縁加工がレンズ加工ユニット200によって実行される。
【0074】
なお、レンズチャック軸102L側の回転角度の変更においては、レンズチャック軸102Lの回転角度が戻される制御は必ずしも必要なく、その場合は、レンズLEの周縁加工において、2つのレンズチャック軸102を同期して回転させる制御データが、先の回転角度分だけ補正されればよい。レンズLEの形状測定時も同様である。
【0075】
また、第1レンズ保持軸のレンズチャック軸102Lの回転角度が変更される場合、例えば、レンズチャック軸102Lのカップ受け103に装着されたカップCUが、磁石によって保持される構成にされているとよい。この場合、操作者がレンズLEから手を離しても、レンズLEはレンズチャック軸102Lから落下せず、レンズチャック軸102Lに装着されたままとなるので、操作者がレンズLEに手を添えることなく、レンズチャック軸102Lが回転される。
【0076】
また、上記では、レンズチャック軸102L及びレンズチャック軸102Rが左右方向に延びる構成の例を説明したが、これに限られない。レンズチャック軸102L及びレンズチャック軸102Rは、上下方向に延びる構成であってもよい。この場合も、操作者がレンズLEに手を添えなくても、レンズLEが落下せず、レンズチャック軸102Lが回転可能にされる。
【0077】
また、上記説明では、当接部材530の傾斜方向が変更された後に、チャック部120が駆動されることでレンズチャック軸102Rが移動されるものとしたが、これに限られない。例えば、レンズチャック軸102Rが相対的にレンズチャック軸102L側に移動されながら、同時に、当接部材530の傾斜方向の変更が行われもよい。これにより、眼鏡レンズ加工装置1の動作時間の延長化が抑えられる。すなわち、当接部材530の傾斜方向の変更に伴う時間が余分にかからず、当接部材530の傾斜方向の変更が行われない場合と同じ動作時間とされる。
【符号の説明】
【0078】
1 眼鏡レンズ加工装置
10 データ取得ユニット
20 記憶部
50 制御部
102 レンズチャック軸
102L レンズチャック軸
102R レンズチャック軸
110 回転駆動部
200 レンズ加工ユニット
214 加工具
500 フレキシブルレンズ押え
530 当接部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10