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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025154172
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】インバータ一体型電動機
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/60 20160101AFI20251002BHJP
【FI】
H02P29/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024057032
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】西本 誉
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA09
5H501AA20
5H501CC04
5H501DD04
5H501DD08
5H501EE08
5H501GG03
5H501GG05
5H501HA08
5H501HA09
5H501HB07
5H501HB08
5H501HB16
5H501JJ03
5H501JJ04
5H501KK06
5H501LL14
5H501LL22
5H501LL23
5H501LL35
5H501LL38
5H501LL52
5H501MM05
(57)【要約】
【課題】スイッチング素子の温度を精度良く推定することができるインバータ一体型電動機を提供すること。
【解決手段】インバータ一体型電動機は、電動モータ11と、インバータ10と、スイッチング部21と、インバータハウジングとを有し、インバータ10は、ドライバー24と、スイッチング部21と、スイッチング素子Qを冷却する冷却水温度を検出する温度検出部15と、スイッチング部21を制御する制御部30とを備え、制御部30は、冷却水温度に基づいて、スイッチング部21の損失を特定する損失特定部38と、冷却水温度に基づいて、スイッチング素子Qの熱抵抗を特定する熱抵抗特定部39と、損失と、熱抵抗とに基づいて、スイッチング素子Qの温度を推定する温度推定部40と、推定されたスイッチング素子Qの温度が高温である場合、スイッチング素子Qの出力を抑制するようにドライバー24を制御するPWM制御部37と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と一体回転する回転子、及びコイルが巻回され、前記回転子が内周側に配置された円筒状の固定子を有する電動モータと、
前記電動モータを駆動するインバータと、
前記電動モータと、前記インバータとを収容するとともに、前記インバータを冷却する冷却水が内部を流れる冷却水路を備えるハウジングと、を有し、
前記インバータは、
ドライバーと、
前記ドライバーによって駆動されるスイッチング素子であって、温度検出機能を有していない前記スイッチング素子とを有するスイッチング部と、
前記冷却水の温度を検出する温度検出部と、
前記スイッチング部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記冷却水の温度に基づいて、前記スイッチング部の損失を特定する損失特定部と、
前記冷却水の温度に基づいて、前記スイッチング素子の熱抵抗を特定する熱抵抗特定部と、
前記損失と、前記熱抵抗とに基づいて、前記スイッチング素子の温度を推定する温度推定部と、
前記温度推定部によって推定された前記スイッチング素子の温度が高温である場合、前記スイッチング素子の出力を抑制するように前記ドライバーを制御する動作制御部と、
を備えるインバータ一体型電動機。
【請求項2】
前記損失特定部は、冷却水路を流れる前記冷却水の流量に更に基づいて、前記損失を特定する、
請求項1に記載のインバータ一体型電動機。
【請求項3】
前記スイッチング部は、変換する電力の相に応じた数のアームと、前記アームに対応する数の複数の前記スイッチング素子を有し、
前記スイッチング素子の温度を前記アーム毎に検出する素子温度検出部と、
前記素子温度検出部の検出結果と、前記損失とに基づいて、前記アーム毎の損失である相損失を特定する相損失特定部と、を更に備え、
前記温度推定部は、前記相損失と、前記スイッチング素子毎の前記熱抵抗とに基づいて、前記スイッチング素子毎の温度を推定し、
前記動作制御部は、複数の前記スイッチング素子の温度のうち、高温である前記スイッチング素子の出力を抑制するように前記ドライバーを制御する、
請求項1、又は請求項2に記載のインバータ一体型電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ一体型電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インバータが備える複数のスイッチング素子に対して、それぞれサーミスタ等の温度検出部を設ける技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。このインバータでは、各スイッチング素子の温度が所定の閾値を超えた場合、スイッチング素子に流れる電流を制限することで、スイッチング素子を保護することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-261078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、スイッチング素子の近傍に設けられた温度検出部では、スイッチング素子の内部温度を精度良く検出することが困難である場合がある。したがって、特許文献1に開示の技術では、スイッチング素子の温度の閾値に、温度検出部の検出精度に基づいた余裕を持たせる必要があり、インバータの性能を十分に引き出すことができない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するインバータ一体型電動機は、回転軸と一体回転する回転子、及びコイルが巻回され、前記回転子が内周側に配置された円筒状の固定子を有する電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータと、前記電動モータと、前記インバータとを収容するとともに、前記インバータを冷却する冷却水が内部を流れる冷却水路を備えるハウジングと、を有し、前記インバータは、ドライバーと、前記ドライバーによって駆動されるスイッチング素子であって、温度検出機能を有していない前記スイッチング素子とを有するスイッチング部と、前記冷却水の温度を検出する温度検出部と、前記スイッチング部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記冷却水の温度に基づいて、前記スイッチング部の損失を特定する損失特定部と、前記冷却水の温度に基づいて、前記スイッチング素子の熱抵抗を特定する熱抵抗特定部と、前記損失と、前記熱抵抗とに基づいて、前記スイッチング素子の温度を推定する温度推定部と、前記温度推定部によって推定された前記スイッチング素子の温度が高温である場合、前記スイッチング素子の出力を抑制するように前記ドライバーを制御する動作制御部と、を備えることを特徴とする。
【0006】
かかる構成によれば、スイッチング素子の温度を精度良く推定することができる。
上記目的を達成するインバータ一体型電動機において、前記損失特定部は、冷却水路を流れる前記冷却水の流量に更に基づいて、前記損失を特定してもよい。
【0007】
かかる構成によれば、スイッチング素子の温度を更に精度良く推定することができる。
上記目的を達成するインバータ一体型電動機は、前記スイッチング部は、変換する電力の相に応じた数のアームと、前記アームに対応する数の複数の前記スイッチング素子を有し、前記スイッチング素子の温度を前記アーム毎に検出する素子温度検出部と、前記素子温度検出部の検出結果と、前記損失とに基づいて、前記アーム毎の損失である相損失を特定する相損失特定部と、を更に備え、前記温度推定部は、前記相損失と、前記スイッチング素子毎の前記熱抵抗とに基づいて、前記スイッチング素子毎の温度を推定し、前記動作制御部は、複数の前記スイッチング素子の温度のうち、高温である前記スイッチング素子の出力を抑制するように前記ドライバーを制御してもよい。
【0008】
かかる構成によれば、スイッチング素子の温度を更に精度良く推定しつつ、各スイッチング素子の性能を十分に引き出すことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スイッチング素子の温度を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、電動圧縮機の説明に用いられる図である。
図2図2は、電動圧縮機の説明に用いられる図である。
図3図3は、冷却水路の一例を示す図である。
図4図4は、制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、変形例の電動圧縮機の説明に用いられる図である。
図6図6は、素子温度検出部の設置位置の説明に用いられる図である。
図7図7は、制御部の処理の他の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態]
以下、図面を参照し電動機、及び電動圧縮機を具体化した実施形態について説明する。
<全体構成>
図1、及び図2を参照し、車両用空調装置100の構成について説明する。図1、及び図2に示すように、実施形態の車両用空調装置100は、電動圧縮機101と、冷媒回路103とを備える。電動圧縮機101は、圧縮部102と、インバータ一体型電動機M1とを備える。電動圧縮機101は、冷媒を圧縮する。圧縮部102と、インバータ一体型電動機M1とは、ハウジング104に収容されている。ハウジング104は、圧縮部102を収容する圧縮部ハウジング105、インバータ一体型電動機M1を収容するインバータハウジング106、及びモータハウジング107を備える。冷媒回路103は、例えば、熱交換器、及び膨張弁等を有している。車両用空調装置100は、電動圧縮機101によって冷媒が圧縮され、かつ冷媒回路103によって冷媒の熱交換、及び膨張が行われることによって、車内の冷暖房を行う。電動圧縮機101は、圧縮した冷媒とともにオイルを吐出する。
【0012】
<電動圧縮機>
上述したように、圧縮部102は、圧縮部ハウジング105に収容される。圧縮部ハウジング105は、モータハウジング107に固定されている。モータハウジング107は、吸入口50を備える。吸入口50は、冷媒回路103に接続されている。圧縮部ハウジング105は、吐出口51を備える。吐出口51は、冷媒回路103に接続されている。
【0013】
圧縮部102は、吸入口50からハウジング104内に吸入された冷媒を圧縮する。圧縮された冷媒は、吐出口51から冷媒回路103に吐出される。圧縮部102としては、遠心式タイプ、スクロールタイプ、ピストンタイプ、ベーンタイプ等、任意である。モータ28は、圧縮部102を駆動させる。
【0014】
<インバータ一体型電動機>
インバータ一体型電動機M1は、電動モータ11を備える。電動モータ11は、筒状のモータハウジング107に収容されている。電動モータ11は、回転子12、及び3相のコイルU,V,Wが巻回された固定子13を有する。電動モータ11は、3つのコイルU,V,Wを備える3相モータである。回転子12は、回転軸と一体回転する。固定子13は、モータハウジング107の周壁114の内周面に固定されている。固定子13は、例えば、円筒状である。固定子13の内周側には、回転子12が配置されている。回転子12は、コイルU,V,Wへの通電によって回転する。圧縮部102は、回転子12の回転によって駆動する。これにより、圧縮部102は、流体を圧縮する。
【0015】
インバータ一体型電動機M1は、インバータ10を備える。インバータ10は、インバータハウジング106に収容されている。具体的には、インバータハウジング106は、モータハウジング107に固定されつつ、モータハウジング107の周壁114の外周面に設けられている。インバータハウジング106がモータハウジング107に設けられることで収容空間A1が画定されている。すなわち、インバータ10は、モータハウジング107の周壁114の外周面と、インバータハウジング106との間の収容空間A1内に設けられている。これに伴い、インバータ10は、モータハウジング107の周壁114の外周面に設けられるとともに、インバータハウジング106によって覆われている。
【0016】
インバータ10は、回路基板BDを備える。回路基板BDは、板状である。回路基板BDには、フィルター回路FTと、平滑コンデンサCと、温度検出部15と、スイッチング部21と、相電流検出部22と、入力電圧検出部23と、制御部30と、記憶部80とが電気的に接続されている。
【0017】
インバータ一体型電動機M1は、固定子13と、インバータ10とを冷却するための冷却水が流れる冷却水路14を備える。冷却水路14は、モータハウジング107の周壁114に形成されている。冷却水路14は、インバータ10を構成するとともに発熱する発熱素子と、固定子13との間に形成されている。発熱素子は、冷却水路14が構成されたモータハウジング107の周壁114と、回路基板BDとの間に設けられている。発熱素子とは、例えば、フィルター回路FTを構成する素子や、平滑コンデンサCや、スイッチング部21である。冷却水路14は、モータハウジング107の周壁114の内部に区画されている。冷却水路14には、不図示の冷却部により冷却された冷却水が、不図示のポンプ等の動作により循環しており、発熱素子を冷却する。温度検出部15は、冷却水路14を流れる冷却水の温度である冷却水温度を検出する。
【0018】
スイッチング部21は、変換する電力の相に応じた数のアームを備える。本実施形態では、スイッチング部21は、電動モータ11のu相,v相,w相の3相のレグを備え、各レグにつき、上アームと、下アームとの2つのアームを備える。したがって、本実施形態のスイッチング部21は、6つのアームを備える。また、スイッチング部21は、各アームに対応する数の複数のスイッチング素子Qを備える。本実施形態のスイッチング部21は、各アームにつき2つのスイッチング素子Qを備える。つまり、スイッチング部21は、12個のスイッチング素子Qを備える。また、スイッチング部21は、スイッチング素子Qに対応する数のダイオードDを備える。具体的には、スイッチング部21は、u相に係るスイッチング素子Q1u~Q4uと、v相に係るスイッチング素子Q1v~Q4vと、w相に係るスイッチング素子Q1w~Q4wとを備える。また、スイッチング部21は、ダイオードD1u~D4uと、ダイオードD1v~D4vと、ダイオードD1w~D4wとを備える。以降の説明において、スイッチング素子Q1u~Q4u,Q1v~Q4v,Q1w~Q4wを総称する場合には、単にスイッチング素子Qと記載する。また、スイッチング素子Q1u~Q4u,Q1v~Q4v,Q1w~Q4w,ダイオードD1u~D4u,ダイオードD1v~D4v,ダイオードD1w~D4wについて、u相、v相、及びw相の構成を互いに区別しない場合には、符号の末尾のu,v,wを省略して記載する。
【0019】
スイッチング素子Q1~Q4としては、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やスイッチング素子Q1~Q4とダイオードD1~D4とが一体であるMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)が用いられる。スイッチング素子Q1と、スイッチング素子Q2とは、互いに並列接続されている。スイッチング素子Q3と、スイッチング素子Q4とは、互いに並列接続されている。スイッチング素子Q1、及びスイッチング素子Q2と、スイッチング素子Q3、及びスイッチング素子Q4とは、バッテリBAの正極端子と、負極端子との間に、互いに直列接続されている。各スイッチング素子Q1~Q4には、それぞれダイオードD1~D4が並列接続されている。また、バッテリBAと、スイッチング素子Q1~Q4との間には、平滑コンデンサCと、フィルター回路FTとが、バッテリBAに対してそれぞれ互いに並列接続されている。
【0020】
スイッチング素子Q1u,Q2uと、スイッチング素子Q3u,Q4uとの接続線は、途中で分岐してコイルUに接続されている。スイッチング素子Q1v,Q2vと、スイッチング素子Q3v,Q4vとの接続線は、途中で分岐してコイルVに接続されている。スイッチング素子Q1w,Q2wと、スイッチング素子Q3w,Q4wとの接続線は、途中で分岐してコイルWに接続されている。
【0021】
スイッチング部21は、ドライバー24を備える。ドライバー24は、制御部30の制御に基づいて、スイッチング素子Q1u~Q4u,Q1v~Q4v,Q1w~Q4wを駆動する。これにより、電動モータ11が駆動する。バッテリBAは、充放電可能な蓄電装置である。バッテリBAの定格電圧は、例えば、800[V]である。フィルター回路FTは、バッテリBAが供給する電力に重畳するノイズを除去する。
【0022】
図3には、冷却水路14の一例が模式的に示されている。上述したように、冷却水路14は、モータハウジング107の周壁114に設けられている。回路基板BDには、上述した各種構成の他、内部電源回路、及び通信回路等が構成されている。内部電源回路は、バッテリBAが供給する電力の電圧を、制御部30が用いる各種電圧に変換、及び供給する。通信回路は、電動圧縮機が搭載される車両などの他の装置と、制御部30との通信に用いられる回路である。
【0023】
図3に示すように、冷却水路14は、冷却水路14を流れる冷却水によりパッケージPK1~PK6が冷却されるように、パッケージPK1~PK6の下部に配置される。パッケージPK1は、スイッチング部21に係る回路のうち、u相の上アームに対応する回路部品を構成する。具体的には、パッケージPK1には、スイッチング素子Q1u~Q2u、及びダイオードD1u~D2uが構成されている。パッケージPK2は、スイッチング部21に係る回路のうち、u相の下アームに対応する回路部品を構成する。具体的には、パッケージPK2には、スイッチング素子Q3u~Q4u、及びダイオードD3u~D4uが構成されている。パッケージPK3は、スイッチング部21に係る回路のうち、v相の上アームに対応する回路部品を構成する。具体的には、パッケージPK3には、スイッチング素子Q1v~Q2v、及びダイオードD1v~D2vが構成されている。パッケージPK4は、スイッチング部21に係る回路のうち、v相の下アームに対応する回路部品を構成する。具体的には、パッケージPK4には、スイッチング素子Q3v~Q4v、及びダイオードD3v~D4vが構成されている。パッケージPK5は、スイッチング部21に係る回路のうち、w相の上アームに対応する回路部品を構成する。具体的には、パッケージPK5には、スイッチング素子Q1w~Q2w、及びダイオードD1w~D2wが構成されている。パッケージPK6は、スイッチング部21に係る回路のうち、w相の下アームに対応する回路部品を構成する。具体的には、パッケージPK6には、スイッチング素子Q3w~Q4w、及びダイオードD3w~D4wが構成されている。パッケージPK1~PK6には、温度検出機能を有する機能部が含まれていない。また、パッケージPK1~PK6は、例えば、ディスクリート部品により実現される。
【0024】
これにより、冷却水路14は、冷却水路14を流れる冷却水により、スイッチング素子Qを冷却している。また、図3に示す一例では、冷却水路14は、スイッチング素子Qの他にも、ドライバー24や、制御部30を冷却している。ドライバー24や制御部30は、スイッチング素子Qに比して、冷却水路14の下流に設けられている。温度検出部15は、例えば、冷却水路14のうち、パッケージPK1~PK6に対応する位置よりも下流であって、かつドライバー24や制御部30に対応する位置よりも上流における冷却水の温度を検出する位置に設けられている。これにより、温度検出部15は、スイッチング部21が備える各部のうち、スイッチング素子Qのみを冷却した後の冷却水の温度を検出する。
【0025】
図1に戻り、相電流検出部22は、電動モータ11に流れる相電流を検出する。相電流検出部22は、少なくとも2相分の相電流を検出する。本実施形態において、相電流検出部22は、u相電流Iu、v相電流Iv、及びw相電流Iwを検出する。3相のうち2相分の相電流を検出して、残りの1相分の相電流は2相分の相電流から算出するようにしてもよい。u相電流Iu、v相電流Iv、及びw相電流Iwは、電動モータ11の各相に流れる実電流である。
【0026】
入力電圧検出部23は、バッテリBAからスイッチング部21に入力される入力電圧Viを検出する。
<制御部>
制御部30は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予め記憶部80が備えるHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの非一過性の記憶媒体を備える記憶装置(不図示)に格納されていてもよい。
【0027】
記憶部80は、上記の各種記憶装置、或いはEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等により実現されてもよい。
【0028】
制御部30は、複数の指令値を算出する。制御部30は、複数の指令値によってスイッチング素子Qを制御する。制御部30は、センサレス制御によってスイッチング部21を制御する。センサレス制御は、電動モータ11の回転子12の位置を検出するハードウェアの位置センサを用いずにスイッチング部21を制御する方式である。制御部30は、センサレス制御として、誘起電圧方式による位置推定を実行する。誘起電圧方式は、3相のコイルU,V,Wに発生する誘起電圧に基づき、回転子12の位置を推定する方式である。スイッチング部21が制御されることで、電動モータ11が駆動する。
【0029】
制御部30は、電流座標変換部31と、位置推定部32と、減算部33と、速度指令制御部34と、減算部35と、電流指令制御部36と、PWM制御部37と、損失特定部38と、熱抵抗特定部39と、温度推定部40と、を備える。
【0030】
電流座標変換部31は、位置推定部32から回転子12の位置を取得する。電流座標変換部31は、相電流Iu,Iv,Iwを、回転子12の位置に基づいてd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。d軸及びq軸は、dq座標系の座標軸である。dq座標系は、電動モータ11の回転子12とともに回転する座標系である。
【0031】
位置推定部32は、電流座標変換部31からd軸電流Id、及びq軸電流Iqを取得する。位置推定部32は、電流指令制御部36からd軸電圧指令値Vd、及びq軸電圧指令値Vqを取得する。位置推定部32は、d軸電流Id、及びq軸電流Iqと、d軸電圧指令値Vd、及びq軸電圧指令値Vqと、電動モータ11によって定まる定数と、に基づいてコイルU,V,Wに発生する誘起電圧を算出する。そして、位置推定部32は、誘起電圧に基づき回転子12の位置を推定する。位置推定部32は、誘起電圧に基づいて回転子12の回転速度を推定する。位置推定部32が推定する回転子12の回転速度は、速度検出値ωである。
【0032】
減算部33は、速度指令値ω*と、位置推定部32によって推定された速度検出値ωとの差分である速度偏差Δωを算出する。速度指令値ω*は、回転子12の回転速度の目標値である。速度指令値ω*は、外部から入力される。速度指令値ω*は、例えば、車両の上位制御装置から制御部30に入力される。
【0033】
速度指令制御部34は、速度偏差Δωに基づいて目標電流値であるモータ電流指令値Iαを算出する。例えば、速度指令制御部34は、フィードバック制御を用いることによって速度偏差Δωが0に収束するように、d軸電流指令値IdRefと、q軸電流指令値IqRefとを算出する。フィードバック制御は、例えば、比例積分制御である。
【0034】
減算部35は、d軸電流指令値IdRefと、d軸電流Idとの差分ΔIdを算出しつつ、q軸電流指令値IqRefと、q軸電流Iqとの差分ΔIqを算出する。
電流指令制御部36は、差分ΔIdに基づいてd軸電圧指令値Vdを算出する。電流指令制御部36は、差分ΔIqに基づいてq軸電圧指令値Vqを算出する。電流指令制御部36は、例えば、フィードバック制御を用いることによって差分ΔId、及び差分ΔIqが0に収束するように、d軸電圧指令値Vd、及びq軸電圧指令値Vqを算出する。フィードバック制御としては、例えば、比例積分制御を用いることができる。
【0035】
PWM制御部37は、d軸電圧指令値Vd、及びq軸電圧指令値Vqを、位置推定部32が推定した回転子12の位置、入力電圧Vi、及び温度推定部40によって特定されたスイッチング素子Qの温度に基づいて、u相電圧指令値Vu、v相電圧指令値Vv、及びw相電圧指令値Vwに変換する。PWM制御部37が温度推定部40によって特定されたスイッチング素子Qの温度に基づいて、u相電圧指令値Vu、v相電圧指令値Vv、及びw相電圧指令値Vwに変換する処理の詳細については、後述する。
【0036】
ドライバー24は、PWM制御部37によって出力されたu相電圧指令値Vu、v相電圧指令値Vv、及びw相電圧指令値Vwに基づいて、スイッチング素子Q1u~Q4u,Q1v~Q4v,Q1w~Q4wを駆動する。PWM制御部37が、動作制御部に相当する。
【0037】
スイッチング部21は、電圧指令値Vu,Vv,Vwに基づいて制御される。詳細にいえば、PWM制御部37は、電圧指令値Vu,Vv,Vwとキャリア周波数とに基づいて、PWM信号を生成し、PWM信号によってスイッチング素子Qを制御する。
【0038】
損失特定部38は、温度検出部15が検出した冷却水温度に基づいて、スイッチング部21の損失を特定する。損失特定部38は、例えば、PWM制御部37の制御に伴うキャリア周波数と、相電流検出部22によって検出されたu相電流Iu、v相電流Iv、及びw相電流Iwと、入力電圧検出部23によって検出された入力電圧Viとに基づいて、常温時のスイッチング部21の損失を特定する。そして、損失特定部38は、温度検出部15が検出した冷却水温度が、基準温度に比して高い程、特定した常温時のスイッチング部21の損失を大きく補正しつつ、冷却水温度が、基準温度に比して低い程、特定した常温時のスイッチング部21の損失を小さく補正する。
【0039】
基準温度とは、例えば、スイッチング部21の通常動作時において温度検出部15が検出した冷却水温度と合致する温度である。温度検出部15が検出した冷却水温度が、基準温度に比して高い場合、スイッチング部21が高負荷で動作しており、スイッチング部21の損失は、通常動作時に比して大きくなる。また、温度検出部15が検出した冷却水温度が、基準温度に比して低い場合、スイッチング部21が低負荷で動作しており、スイッチング部21の損失は、通常動作時に比して小さくなる。損失特定部38は、この特性に基づいて、常温時のスイッチング部21の損失を補正する。
【0040】
熱抵抗特定部39は、温度検出部15が検出した冷却水温度に基づいて、スイッチング素子Qの熱抵抗を特定する。ここで、冷却水路14を流れる冷却水温度と、スイッチング素子Qの熱抵抗とは、相関する。冷却水温度が高い程、スイッチング素子Qの熱抵抗は小きく、冷却水温度が低い程、スイッチング素子Qの熱抵抗は大きくなる。熱抵抗特定部39は、例えば、冷却水温度と、スイッチング素子Qの熱抵抗との対応を示す熱抵抗情報に基づいて、スイッチング素子Qの熱抵抗を特定する。本実施形態において、熱抵抗特定部39は、スイッチング素子Q1u~Q4u,Q1v~Q4v,Q1w~Q4wの何れも同一の熱抵抗であるものとして特定する。
【0041】
温度推定部40は、損失特定部38によって特定されたスイッチング部21の損失と、熱抵抗特定部39によって特定されたスイッチング素子Qの熱抵抗と、温度検出部15によって検出された冷却水温度とに基づいて、スイッチング素子Qの温度を推定する。具体的には、温度推定部40は、スイッチング部21の損失に、熱抵抗を乗じた値と、冷却水温度との和を、スイッチング素子Qのジャンクション温度として推定する。本実施形態の温度推定部40は、スイッチング素子Q1u~Q4u,Q1v~Q4v,Q1w~Q4wの何れも同一のジャンクション温度であるものとして推定する。
【0042】
PWM制御部37は、温度推定部40によって推定されたスイッチング素子Qのジャンクション温度が高温である場合、スイッチング素子Qの出力を抑制するように、スイッチング部21を制御する。PWM制御部37は、例えば、推定されたスイッチング素子Qのジャンクション温度が、基準ジャンクション温度よりも高い場合、スイッチング素子Qのジャンクション温度が高温であるものとして、スイッチング素子Qの出力を抑制する。基準ジャンクション温度とは、例えば、スイッチング素子Qの動作推奨温度として予め定められた温度である。上述したように、PWM制御部37は、d軸電圧指令値Vd、及びq軸電圧指令値Vqに基づいて、u相電圧指令値Vu、v相電圧指令値Vv、及びw相電圧指令値Vwに変換する。一方で、PWM制御部37は、推定されたスイッチング素子Qのジャンクション温度が高温である場合、d軸電圧指令値Vd、及びq軸電圧指令値Vqに基づくu相電圧指令値Vu、v相電圧指令値Vv、及びw相電圧指令値Vwに比して、u相電圧指令値Vu、v相電圧指令値Vv、及びw相電圧指令値Vwが小さくなるように、変換処理を実行する。これにより、スイッチング素子Qの出力が抑制される。
【0043】
<制御部において実行される処理>
図4を参照し、制御部30が実行する一連の処理を説明する。図4に示すフローチャートの処理は、所定の時間間隔毎に繰り返し実行される。また、図4に示すフローチャートと並行して、PWM制御部37が、u相電圧指令値Vu、v相電圧指令値Vv、及びw相電圧指令値Vwを導出するまでの基本的な処理が実行されている。
【0044】
まず、制御部30は、温度検出部15から冷却水路14を流れる冷却水温度の温度を示す情報を取得する(ステップS100)。次に、損失特定部38は、温度検出部15が検出した冷却水温度に基づいて、スイッチング部21の損失を特定する(ステップS102)。損失特定部38は、温度検出部15が検出した冷却水温度が、基準温度に比して高い程、スイッチング部21の通常時の損失に比して、損失を大きく補正しつつ、冷却水温度が、基準温度に比して低い程、スイッチング部21の通常時の損失に比して、損失を小さく補正する。
【0045】
次に、熱抵抗特定部39は、温度検出部15が検出した冷却水温度に基づいて、スイッチング素子Qの熱抵抗を特定する(ステップS106)。熱抵抗特定部39は、例えば、冷却水温度と、スイッチング素子Qの熱抵抗との対応を示す熱抵抗情報に基づいて、スイッチング素子Qの熱抵抗を特定する。
【0046】
次に、温度推定部40は、損失特定部38によって特定されたスイッチング部21の損失と、熱抵抗特定部39によって特定されたスイッチング素子Qの熱抵抗と、温度検出部15によって検出された冷却水温度とに基づいて、スイッチング素子Qの温度を推定する(ステップS108)。温度推定部40は、例えば、スイッチング部21の損失に、熱抵抗を乗じた値と、冷却水温度との和を、スイッチング素子Qのジャンクション温度として推定する。
【0047】
次に、PWM制御部37は、温度推定部40によって推定されたスイッチング素子Qのジャンクション温度に基づいて、スイッチング部21の動作を制御する(ステップS110)。具体的には、PWM制御部37は、推定されたスイッチング素子Qのジャンクション温度が高温である場合、スイッチング素子Qの出力を抑制するように、スイッチング部21を制御する。より具体的には、PWM制御部37は、推定されたスイッチング素子Qのジャンクション温度が高温である場合、d軸電圧指令値Vd、及びq軸電圧指令値Vqに基づくu相電圧指令値Vu、v相電圧指令値Vv、及びw相電圧指令値Vwに比して、u相電圧指令値Vu、v相電圧指令値Vv、及びw相電圧指令値Vwが小さくなるように、変換処理を実行する。これにより、スイッチング素子Qの出力が抑制される。また、PWM制御部37は、推定されたスイッチング素子Qのジャンクション温度が高温ではない場合、スイッチング素子Qの出力を抑制せずに、通常通りの態様でドライバー24を制御する。
【0048】
[実施形態の効果]
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)制御部30は、PWM制御部37と、損失特定部38と、熱抵抗特定部39と、温度推定部40とを備える。損失特定部38は、温度検出部15によって検出された冷却水温度に基づいて、スイッチング部21の損失を特定する。熱抵抗特定部39は、温度検出部15によって検出された冷却水温度に基づいて、スイッチング素子Qの熱抵抗を特定する。温度推定部40は、特定された損失と、熱抵抗とに基づいて、スイッチング素子Qのジャンクション温度を推定する。PWM制御部37は、温度推定部40によって推定されたスイッチング素子Qのジャンクション温度が高温である場合、スイッチング素子Qの出力を抑制するようにスイッチング部21を制御する。
【0049】
上述したように、パッケージPK1~PK6には、温度検出機能を有する機能部が含まれていない。これに伴い、一般に、スイッチング素子Qのジャンクション温度を特定するには、スイッチング素子Qの近傍に温度検出部を設けつつ、温度検出部の検出結果からジャンクション温度を推定する方法が知られている。しかしながら、この方法では、スイッチング素子Qの温度を精度良く検出することができず、スイッチング素子Qの動作にまだ余力があっても、スイッチング素子Qの出力を抑制する場合があった。したがって、この方法では、インバータ10の性能を十分に引き出すことが困難である。
【0050】
上述したように、温度推定部40は、スイッチング素子Qを冷却する冷却水の冷却水温度に基づいて、スイッチング素子Qのジャンクション温度を推定する。ここで、冷却水温度は、スイッチング素子Qのジャンクション温度と相関するものの、急激に変化するものではない。したがって、冷却水温度は、スイッチング素子Qのジャンクション温度を推定する際に安定した変数として用いることができる。かかる構成によれば、冷却水温度に基づいて、スイッチング素子Qのジャンクション温度を精度良く検出することができる。したがって、インバータ10は、性能を十分に引き出すことができる。
【0051】
上記各実施形態は以下のように変更してもよい。なお、上記実施形態および以下の各別例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせてもよい。
[変形例]
上述した実施形態では、温度推定部40が、スイッチング素子Q1u~Q4u,Q1v~Q4v,Q1w~Q4wの何れもが同一のジャンクション温度であるものとして推定する場合について説明した。変形例では、スイッチング部21の各アームのスイッチング素子Qについて、ジャンクション温度を推定する場合について説明する。なお、上述した実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して、説明を省略する。
【0052】
図5に示すように、変形例のインバータ10は、素子温度検出部16と、制御部30aとを備える。素子温度検出部16は、スイッチング部21の各アームのスイッチング素子Qの近傍に設けられ、スイッチング素子Qの温度をアーム毎に検出する。上述したように、スイッチング部21は、電動モータ11のu相,v相,w相の3相のレグを備え、各レグにつき、上アームと、下アームとの2つのアームを備える。したがって、変形例のインバータ10は、素子温度検出部16a~16fの6つの素子温度検出部16を備える。
【0053】
図6に示すように、素子温度検出部16a~16fは、例えば、各パッケージPKの近傍にそれぞれ設けられる。具体的には、素子温度検出部16aは、パッケージPK1の近傍に設けられ、u相の上アームのスイッチング素子Q1u~Q2uの温度を検出する。素子温度検出部16bは、パッケージPK2の近傍に設けられ、u相の下アームのスイッチング素子Q3u~Q4uの温度を検出する。素子温度検出部16cは、パッケージPK3の近傍に設けられ、v相の上アームのスイッチング素子Q1v~Q2vの温度を検出する。素子温度検出部16dは、パッケージPK4の近傍に設けられ、v相の下アームのスイッチング素子Q3v~Q4vの温度を検出する。素子温度検出部16eは、パッケージPK5の近傍に設けられ、w相の上アームのスイッチング素子Q1w~Q2wの温度を検出する。素子温度検出部16fは、パッケージPK6の近傍に設けられ、w相の下アームのスイッチング素子Q3w~Q4wの温度を検出する。
【0054】
図5に戻り、変形例のインバータ10は、制御部30に代えて、制御部30aを備える。制御部30aは、制御部30が備える構成に加えて、相損失特定部41を備える。相損失特定部41は、素子温度検出部16a~16fの検出結果と、損失特定部38によって特定されたスイッチング部21の損失とに基づいて、アーム毎の損失である相損失を特定する。具体的には、相損失特定部41は、素子温度検出部16a~16fによって検出された温度の比に基づいて、損失特定部38によって特定されたスイッチング部21の損失を振り分ける。相損失特定部41は、例えば、高い温度が検出されたアームには、高い損失の値を当該アームの相損失として振り分けつつ、低い温度が検出されたアームには、低い損失の値を当該アームの相損失として振り分ける。また、相損失特定部41は、各アームに振り分けた相損失の総和が、損失特定部38によって特定された損失と合致するように振り分けを行う。
【0055】
変形例の温度推定部40は、相損失特定部41によって特定されたアーム毎の相損失と、熱抵抗特定部39によって特定されたスイッチング素子Qの熱抵抗と、温度検出部15によって検出された冷却水温度とに基づいて、スイッチング素子Q毎の温度を推定する。具体的には、温度推定部40は、スイッチング素子Qに対応するアームの相損失に、スイッチング素子Qの熱抵抗を乗じた値と、冷却水温度との和を、当該スイッチング素子Qのジャンクション温度として推定する。温度推定部40は、各スイッチング素子Qについて、それぞれジャンクション温度を推定する。PWM制御部37の処理は、上述した実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0056】
<制御部において実行される処理>
図7を参照し、制御部30aが実行する一連の処理を説明する。図7に示すフローチャートの処理において、図4に示すフローチャートの処理と同様の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0057】
ステップS102の処理の後、相損失特定部41は、スイッチング素子Qの温度をアーム毎に検出した検出結果を素子温度検出部16a~16fから取得する(ステップS200)。次に、相損失特定部41は、素子温度検出部16a~16fの検出結果と、損失特定部38によって特定されたスイッチング部21の損失とに基づいて、アーム毎の損失である相損失を特定する(ステップS202)。相損失特定部41は、例えば、高い温度が検出されたアームには、高い損失の値を当該アームの相損失として振り分けつつ、低い温度が検出されたアームには、低い損失の値を当該アームの相損失として振り分ける。また、相損失特定部41は、各アームに振り分けた相損失の総和が、損失特定部38によって特定された損失と合致するように振り分けを行う。
【0058】
変形例のステップS108において、温度推定部40は、熱抵抗特定部39によって特定されたアーム毎の相損失と、熱抵抗特定部39によって特定されたスイッチング素子Q毎の熱抵抗と、温度検出部15によって検出された冷却水温度とに基づいて、スイッチング素子Q毎の温度を推定する。
【0059】
[変形例の効果]
変形例のインバータ10は、素子温度検出部16a~16fを備える。素子温度検出部16a~16fは、スイッチング素子Qの温度をアーム毎に検出する。変形例のインバータ10は、制御部30aを備える。制御部30aは、相損失特定部41を備える。相損失特定部41は、素子温度検出部16a~16fの検出結果と、損失特定部38によって特定された損失とに基づいて、アーム毎の損失である相損失を特定する。変形例の熱抵抗特定部39は、温度検出部15によって検出された冷却水温度と、相損失特定部41によって特定された相損失とに基づいて、スイッチング素子Q毎の熱抵抗を特定する。変形例の温度推定部40は、熱抵抗特定部39によって特定されたアーム毎の相損失と、熱抵抗特定部39によって特定されたスイッチング素子Q毎の熱抵抗と、温度検出部15によって検出された冷却水温度とに基づいて、スイッチング素子Q毎の温度を推定する。変形例のPWM制御部37は、温度推定部40によって推定された複数のスイッチング素子Qのうち、高温であるスイッチング素子Qの出力を抑制するようにスイッチング部21を制御する。
【0060】
かかる構成によれば、インバータ10は、素子温度検出部16によって検出された各スイッチング素子Qの温度に基づいて、精度良く各スイッチング素子Qのジャンクション温度を推定することができる。したがって、インバータ10は、インバータ10の性能を十分に引き出すことができる。
【0061】
また、インバータ10は、12個のスイッチング素子Qがそれぞれ温度検出機能を有している場合に比して、少ない数の(変形例では、6個の)素子温度検出部16a~16fを備える。これにより、インバータ10は、温度検出機能を備えることに伴うコストの上昇を抑制することができる。
【0062】
○損失特定部38は、冷却水路14を流れる冷却水の流量に更に基づいて、スイッチング部21の損失を特定してもよい。損失特定部38は、例えば、PWM制御部37の制御に伴うキャリア周波数と、相電流検出部22によって検出されたu相電流Iu、v相電流Iv、及びw相電流Iwと、入力電圧検出部23によって検出された入力電圧Viとに基づいて、冷却水の流量が通常時のスイッチング部21の損失を特定する。そして、損失特定部38は、冷却水の流量が、基準流量に比して少ない程、特定した通常時のスイッチング部21の損失を大きく補正しつつ、冷却水の流量が、基準流量に比して多い程、特定した通常時のスイッチング部21の損失を小さく補正する。
【0063】
基準流量とは、例えば、スイッチング部21が通常動作時において冷却水路14を流れる冷却水の流量である。冷却水の流量が、基準流量に比して少ない場合、スイッチング部21が高負荷で動作しており、スイッチング部21の損失は、通常動作時に比して大きくなる。また、冷却水の流量が、基準流量に比して多い場合、スイッチング部21が低負荷で動作しており、スイッチング部21の損失は、通常動作時に比して小さくなる。損失特定部38は、この特性に基づいて、通常時のスイッチング部21の損失を補正する。
【0064】
○温度検出部15が設けられる位置は、上述した位置と違う位置であってもよい。ここで、スイッチング部21が備える構成のうち、ドライバー24や制御部30が冷却水に与える温度変化は、スイッチング素子Qが与える温度変化に比して十分に小さい。したがって、温度検出部15は、冷却水路14のうち、いずれの位置に配置されていてもよい。
【0065】
○熱抵抗特定部39は、冷却水路14を流れる冷却水の流量に更に基づいて、スイッチング素子Qの熱抵抗を特定してもよい。この場合、熱抵抗特定部39は、冷却水温度と、冷却水の流量と、スイッチング素子Qの熱抵抗との対応を示す熱抵抗情報に基づいて、スイッチング素子Qの熱抵抗を特定する。
【0066】
○温度推定部40が推定するスイッチング素子Qの温度は、スイッチング素子Qのジャンクション温度に代えて、パッケージPKの内部温度であってもよい。
○冷却水路14は、スイッチング素子Qのみを冷却するような設計であってもよい。この場合、冷却水路14は、ドライバー24や制御部30,30aを冷却する箇所を有しない。
【0067】
○制御部30は、誘起電圧方式に代えて(或いは、加えて)、高調波重畳方式による位置推定によって回転子12の位置を推定してもよい。
○スイッチング部21を構成する回路基板BDには、内部電源回路、及び通信回路等が構成されていなくてもよい。
【0068】
○インバータ10は、バッテリBAから適切な電力が供給される場合には、フィルター回路FTを備えていなくてもよい。
図7に示すステップS102の処理と、ステップS200の処理は、逆の順序で実行されてもよい。
【0069】
○上述したように、スイッチング部21は、各アームに対応する数の複数のスイッチング素子Qを備えていればよい。したがって、スイッチング部21は、例えば、各アームに1つのスイッチング素子Qを備えるものであってよく、各アームに互いに並列接続された3つ以上のスイッチング素子Qを備えていてもよい。この場合、パッケージPKには、各アームに設けられたスイッチング素子Qと、スイッチング素子Qに対応する数のダイオードDが構成されていてもよい。
【0070】
○本実施形態における車両用空調装置100に用いられる圧縮部102は、燃料電池車に搭載されるとともに、大気中の空気を圧縮して燃料電池に供給するエアコンプレッサでもよい。また、圧縮部102はポンプでもよく、例えば、燃料電池車に搭載されるとともに、燃料電池に対して水素を循環させる水素ポンプであってもよい。
【符号の説明】
【0071】
10…インバータ、11…電動モータ、12…回転子、13…固定子、14…冷却水路、15…温度検出部、16,16a,16b,16c,16d,16e,16f…素子温度検出部、21…スイッチング部、22…相電流検出部、23…入力電圧検出部、24…ドライバー、30,30a…制御部、31…電流座標変換部、32…位置推定部、33,35…減算部、34…速度指令制御部、36…電流指令制御部、37…PWM制御部、38…損失特定部、39…熱抵抗特定部、40…温度推定部、41…相損失特定部、80…記憶部、100…車両用空調装置、101…電動圧縮機、102…圧縮部、103…冷媒回路、104…ハウジング、BA…バッテリ、BD…回路基板、C…平滑コンデンサ、D,D1,D1u,D1v,D1w,D2,D2u,D2v,D2w,D3,D3u,D3v,D3w,D4,D4u,D4v,D4w…ダイオード、FT…フィルター回路、M1…インバータ一体型電動機、PK,PK1,PK2,PK3,PK4,PK5,PK6…パッケージ、Q,Q1,Q1u,Q1v,Q1w,Q2,Q2u,Q2v,Q2w,Q3,Q3u,Q3v,Q3w,Q4,Q4u,Q4v,Q4w…スイッチング素子、U,V,W…コイル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7