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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015427
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】正極極板及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20250123BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20250123BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250123BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250123BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/131
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024086566
(22)【出願日】2024-05-28
(31)【優先権主張番号】202310878729.8
(32)【優先日】2023-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】524152768
【氏名又は名称】江蘇正力新能電池技術股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU ZENERGY BATTERY TECHNOLOGIES GROUP CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 68, Xin’anjiang Road, Southeast Street, Changshu, Suzhou City, Jiangsu 215500, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】韓 延林
(72)【発明者】
【氏名】劉 宏勇
(72)【発明者】
【氏名】于 哲勲
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017DD05
5H017EE05
5H017EE06
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ07
5H029DJ08
5H029HJ01
5H029HJ08
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB08
5H050DA02
5H050DA03
5H050DA08
5H050DA10
5H050FA18
5H050HA01
5H050HA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リチウム電池に高エネルギ密度と優れたDCR性能を同時に持たせることができる正極極板を提供する。
【解決手段】正極極板は、正極集電体と、前記正極集電体に設けられる正極活物質層とを含み、正極活物質層の圧密密度であるaは、2.9≦a≦3.5であり、単位がg/cmであり、正極活物質層の面密度であるbは、0.012≦b≦0.018であり、単位がg/cmであり、正極活物質層における導電剤の質量百分率であるcは、2.4%≦c≦4.4%であり、正極活物質層は、3.3<a×b/c<5.5という式を満たす。上記正極極板が上記条件を満たす場合、当該正極極板から製造されたリチウム電池は、セルのエネルギ密度を保証するとともに優れたDCR性能を有することができ、したがって大量のDOE実験を回避でき、リチウム電池の研究開発時間及びコストを効果的に節約することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極極板であって、
正極集電体と、
前記正極集電体に設けられる正極活物質層と、を含み、
前記正極活物質層の圧密密度であるaは、2.9≦a≦3.5であり、単位がg/cmであり、
前記正極活物質層の面密度であるbは、0.012≦b≦0.018であり、単位がg/cmであり、
前記正極活物質層における導電剤の質量百分率であるcは、2.4%≦c≦4.4%であり、
前記正極活物質層は、3.3<a×b/c<5.5という式を満たす、
ことを特徴とする正極極板。
【請求項2】
前記正極活物質層の圧密密度は、3.1≦a≦3.3である、
ことを特徴とする請求項1に記載の正極極板。
【請求項3】
前記正極活物質層の面密度は、0.014≦b≦0.016である、
ことを特徴とする請求項1に記載の正極極板。
【請求項4】
前記正極活物質層における導電剤の質量百分率は、3%≦c≦4%である、
ことを特徴とする請求項1に記載の正極極板。
【請求項5】
前記正極活物質層は、3.35<a×b/c<5という式を満たす、
ことを特徴とする請求項1に記載の正極極板。
【請求項6】
前記正極活物質層における導電剤は、導電性カーボンブラックである、
ことを特徴とする請求項1に記載の正極極板。
【請求項7】
前記正極集電体は、アルミニウム箔又は炭素被覆アルミニウム箔である、
ことを特徴とする請求項1に記載の正極極板。
【請求項8】
前記正極活物質層に含まれる正極活物質は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物から選ばれる1種又は複数種である、
ことを特徴とする請求項1に記載の正極極板。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の正極極板を含む、
ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項10】
前記リチウムイオン電池は負極極板をさらに含み、前記負極極板は負極集電体と前記負極集電体に設けられる負極活物質層とを含み、
前記負極活物質層の圧密密度は、1.35g/cmであり、
前記負極活物質層の面密度は、0.0058g/cmであり、
前記負極活物質層における導電剤の質量百分率は、1.6%である、
ことを特徴とする請求項9に記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の技術分野に関し、特に、正極極板及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会の発展及び科学技術の進歩に伴い、自動車は、徐々に主流の徒歩代替手段となった。しかし、自動車の数が多くなるにつれて交通が徐々に混雑し、垂直離着陸機が徐々に人々の注目を集めている。加えて、原油価格が年々増加するため、電気駆動の垂直離着陸機(Electric Vertical Take off and Landing,EVTOL)が、科学技術に追い求められる目標となっている。現在、リチウムイオン電池は、EVTOL駆動の最適な選択となっている。EVTOLは、独自性を有するため、リチウムイオン電池が高エネルギ密度、高出力及び長寿命を兼ね備えることが要求される。
【0003】
これに鑑みて、エネルギ密度を維持するとともに高出力を持続的に提供できるリチウムイオン電池を提供するのは、航空機産業の発展を促進する要件となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする技術的課題は、正極極板及びリチウムイオン電池を提供し、正極極板表面の正極活物質層の面密度、圧密密度及び導電剤含有量を制御することにより、当該正極極板を含むリチウム電池に高エネルギ密度と優れるDCR性能を同時に持たせることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は下記技術的解決手段を提供する。
【0006】
本発明の第1態様は、正極極板であって、
正極集電体と、
前記正極集電体に設けられる正極活物質層と、を含み、
前記正極活物質層の圧密密度であるaは、2.9≦a≦3.5であり、単位がg/cmであり、前記正極活物質層の面密度であるbは、0.012≦b≦0.018であり、単位がg/cmであり、前記正極活物質層における導電剤の質量百分率であるcは、2.4%≦c≦4.4%であり、
前記正極活物質層は、3.3<a×b/c<5.5という式を満たす、
正極極板を提供する。
【0007】
さらに、前記正極活物質層の圧密密度は、3.1≦a≦3.3であることがより好ましい。
【0008】
さらに、前記正極活物質層の面密度は、0.014≦b≦0.016であることがより好ましい。
【0009】
さらに、前記正極活物質層における導電剤の質量百分率は、3%≦c≦4%であることがより好ましい。
【0010】
さらに、前記正極活物質層は、3.35<a×b/c<5という式を満たすことがより好ましい。
【0011】
さらに、前記正極活物質層における導電剤は導電性カーボンブラックである。
【0012】
さらに、前記正極集電体は、アルミニウム箔又は炭素被覆アルミニウム箔であることが好ましい。
【0013】
さらに、前記正極活物質層に含まれる正極活物質は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物から選ばれる1種又は複数種であってもよい。
【0014】
さらに、上記正極極板は、湿式塗布の方法によって製造されることができ、該方法は具体的に、
正極活物質、導電剤、結着剤及び溶媒を均一混合して正極スラリーを得るステップと、
調製した正極スラリーを正極集電体に均一塗布し、乾燥し、冷間プレスした後、前記正極極板を得るステップと、を含む。
【0015】
本発明の第2態様は、第1態様に記載の正極極板を含むリチウムイオン電池を提供する。
【0016】
さらに、前記リチウムイオン電池は負極極板をさらに含み、前記負極極板は負極集電体と前記負極集電体に設けられる負極活物質層とを含み、前記負極活物質層の圧密密度は1.35g/cmであることが好ましく、前記負極活物質層の面密度は0.0058g/cmであることが好ましく、前記負極活物質層における導電剤の質量百分率は1.6%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
従来技術と比較して、本発明の技術的効果は以下の通りである。
本発明は、正極極板を提供しており、正極極板における正極活物質層の圧密密度a、面密度b及び導電剤の質量百分率cの値を合理的に制御し、かつ三者が3.3<a×b/c<5.5という特定関係式を満たすようにすることにより、上記正極極板を含むリチウムイオン電池が高エネルギ密度及び高出力の性能を兼ね備えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術及び科学用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解するものと意味が同じである。本明細書で使用される用語は、具体的な実施例を説明するためのものにすぎず、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で使用される用語「及び/又は」は、列挙する1つ又は複数の関連項目の任意の及び全ての組み合わせを含む。本発明に記載される「含む」又は「含有する」は、前記成分に加えて他の成分を含んでもよいことを意味する。本発明に記載される「含む」又は「含有する」は、閉鎖的な「である」又は「からなる」に置き換えてもよい。
【0019】
背景技術に記載されたように、航空機産業の発展を促進するために、エネルギ密度を維持するとともに高出力を持続的に提供できるリチウムイオン電池が求められている。
【0020】
上記技術的課題を解決するために、本発明の実施例は、正極集電体と、正極集電体に設けられる正極活物質層とを含む正極極板を提供する。
【0021】
ここで、当該正極活物質層の圧密密度であるaは、2.9≦a≦3.5であり、単位がg/cmである。正極活物質層の面密度であるbは、0.012≦b≦0.018であり、単位がg/cmである。正極活物質層における導電剤の質量百分率であるcは、2.4%≦c≦4.4%である。当該正極活物質層は、3.3<a×b/c<5.5という式を満たす。
【0022】
具体的に、発明者は、正極極板における正極活物質層の圧密密度、面密度及び導電剤の質量比率がセルのエネルギ密度及び出力性能に対して影響を与えるが、その影響にはある程度の限界及び相関性があることを発見した。
【0023】
リチウムイオン電池が放電時、リチウムイオンは負極材料から脱離して正極材料に挿入される。正極に対するリチウムイオンの挿入過程は圧密密度に関係し、圧密密度は大きすぎても小さすぎても電池のレート性能に影響する。圧密密度が大きすぎると、原料粒子間の距離が減少し、接触がより緊密になり、それに応じて電子伝導性が向上するが、正極活物質層の液体吸収能力が圧密密度の増大に伴って落ち、イオンの移動通路がそれに応じて減少又は閉塞され、大量のイオンの急速移動に不利である。その結果、イオン拡散抵抗が増大し、これにより大電流放電が制限され、放電電圧が低下し、放電容量が減少する。圧密密度が小さすぎると、原料粒子間の距離が増大し、電解液に対する正極活性層の吸収能力が強く、それに応じてイオンの通路が増加してイオンの急速移動に有利であるが、粒子間の接触確率及び接触面積は圧密密度の減少に伴って低下し、電子の伝導に不利である。その結果、電子抵抗が増大し、これにより大電流放電が影響され、放電分極が増加する。これに鑑みて、発明者らは、正極活物質層の圧密密度を適切な範囲、即ち2.9≦a≦3.5であって単位がg/cmである範囲に制御することにより、イオンの移動通路が閉塞されずに原料粒子間を十分に接触させ、大電流放電時に良好な導電性と素早いイオン移動能力を兼ね備えることを保証して、放電分極を減少させることができると発見した。
【0024】
いくつかの好ましい実施例において、正極活物質層の圧密密度の値の範囲は、3.1≦a≦3.3であることがより好ましく、例えば、aは、3.1、3.12、3.13、3.14、3.15、3.16、3.17、3.18、3.19、3.2、3.25、3.3などであってもよく、上記値を含むが、これらに限定されない。
【0025】
また、本発明の実施例において、リチウムイオン電池の放電時に、リチウムイオンは負極材料から脱離して正極材料に挿入され、リチウムイオンの移動距離は面密度に関係する。面密度が高すぎると、リチウムイオンの移動距離が面密度の増大に伴って増加し、それに応じてイオン拡散抵抗が増加するため、セルの出力性能が低下する。面密度が低すぎると、セルの出力性能が向上するが、セル補助材の割合が増加するにつれて、セルのエネルギ密度が低下する。これに鑑みて、発明者らは、正極活物質層の面密度を適切な範囲、即ち0.012≦b≦0.018であって単位がg/cmである範囲内に制御することにより、リチウムイオン電池が良好な出力性能と高エネルギ密度を兼ね備えることを保証できると発見した。
【0026】
いくつかの好ましい実施形態において、正極活物質層の面密度の値の範囲は、0.014≦b≦0.016であることがより好ましく、例えば、bは、0.014、0.0142、0.0143、0.0144、0.0145、0.0146、0.0147、0.0148、0.0149、0.015、0.155.0.016などであり、上記値を含むが、これらに限定されない。
【0027】
本発明の実施例において、正極活物質層における導電剤の含有量は、正極極板の電子インピーダンス及び電池のエネルギ密度に直接影響する。正極活物質層における導電剤の含有量の割合が高すぎると、正極極板の電子インピーダンスが低下し、セルの出力性能の向上に有利であるが、導電剤の含有量の割合が増加するにつれて、正極活物質層における正極活物質の割合がそれに応じて低下するため、セルのエネルギ密度に影響する。正極活物質層における導電剤の含有量の割合が低すぎると、セルのエネルギ密度の向上に有利であるが、導電剤の含有量の低下に伴って電子インピーダンスが増大するため、セルの出力性能に影響する。これに鑑みて、発明者らは、正極活物質層における導電剤の質量百分率を適切な範囲、即ち2.4%≦c≦4.4%に制御することにより、リチウムイオン電池が高エネルギ密度を有するとともに優れた出力性能を有することができると発見した。
【0028】
いくつかの好ましい実施例において、正極活物質層における導電剤の質量百分率の値の範囲は、3%≦c≦4%であることがより好ましく、例えば、cは、3.1%、3.13%、3.16%、3.18%、3.2%、3.22%、3.24%、3.26%、3.28%、3.3%、3.4%、3.5%、3.6%、3.7%、3.8%、3.9%などであり、上記値を含むが、これらに限定されない。
【0029】
正極活物質層の圧密密度、面密度又は導電剤の質量割合を最適化することにより、リチウムイオン電池のエネルギ密度又は出力性能をある程度改善することができるが、各要因は、エネルギ密度及び出力性能をともに改善する点で大きく制限される。発明者らは、上記パラメータが適切な値の範囲内にあり且つ3.3<a×b/c<5.5という式を満たすときでなければ、当該正極極板を含むリチウムイオン電池が高エネルギ密度及び高出力性能を兼ね備えることはできないことを発見した。上記した3.3<a×b/c<5.5という式は以下のような方法により得られた。(1)各因子の大きさとセルエネルギ密度及び出力性能との間の論理的な正負の相関を検討し、例えば、a、bはいずれも、それぞれの好ましい値の範囲内で、値の増大に伴って、対応するセルのエネルギ密度が増大し、出力性能が落ちる(DCR値が増大する)一方、cの値は、(好ましい値の範囲で)値が増大するに伴って、セルのエネルギ密度が低下し、出力性能が向上する(DCR値が減少する)。(2)各因子の大きさとセルのエネルギ密度及び出力性能との間の論理的な正負の相関が既知であることを前提として、各因子の数値の大きさによるセルの性能への影響の重要さに基づいて、因子の乗(例えば2乗、3乗など)を決定して式を構築する。(3)全数調査により得られた実験データに基づいて式を調整して、式の好ましい範囲を得る。
【0030】
いくつかの好ましい実施例において、正極活物質層は、3.35<a×b/c<5という式を満たすことがより好ましく、例えば、a×b/cの値の範囲は、3.5~4.0、4.0~4.3、4.3~4.5、又は4.5~5.0であってもよい。
【0031】
いくつかの好ましい実施例において、正極活物質層における導電剤は導電性カーボンブラック(SP)である。
【0032】
いくつかの好ましい実施例において、正極集電体は、アルミニウム箔又は炭素被覆アルミニウム箔であることが好ましい。
【0033】
いくつかの好ましい実施例において、正極活物質層に含まれる正極活物質は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物から選ばれる1種又は複数種であることが好ましく、NCM系、NCA6系の正極活物質であることがより好ましく、例えば、NCM8系正極活物質LiNi0.83Co0.12Mn0.05であることがより好ましい。
【0034】
本発明の実施例は、上記正極極板の製造方法をさらに提供し、該製造方法は、
正極活物質、導電剤、結着剤及び溶媒を均一混合して正極スラリーを得るステップと、
調製した正極スラリーを正極集電体に均一塗布し、乾燥し、冷間プレスした後、前記正極極板を得るステップと、を含む。
【0035】
いくつかの好ましい実施例において、結着剤としては、ポリアクリル酸、ポリビニリデンフロライド、ポリビニリデンジフロライド、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンラテックスのうちの1種又は複数種を選択してもよい。溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)を選択してもよい。
【0036】
本発明の実施例は、上記正極極板を含むリチウムイオン電池をさらに提供する。
【0037】
具体的に、リチウムイオン電池は、ケース、正極極板、セパレータ、負極極板及び電解液を含む。正極極板、セパレータ及び負極極板を積層し、ラミネート又は巻回によりベアセルを形成し、タブを超音波溶接し、ベアセルをケースに入れ、乾燥して水分を除去し、電解液を注入した後に封止して電池を得る。
【0038】
いくつかの好ましい実施例において、負極極板は、負極集電体と、前記負極集電体に設けられる負極活物質層とを含み、ここで、負極集電体は銅箔であってもよい。
【0039】
いくつかの好ましい実施例において、負極活物質層の圧密密度は1.35g/cmであることが好ましく、負極活物質層の面密度は0.0058g/cmであることが好ましく、負極活物質層における導電剤の質量百分率は1.6%であることが好ましい。
【0040】
いくつかの好ましい実施例において、負極活物質層に含まれる負極活物質は、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、メソカーボンマイクロビーズ及びケイ素材料から選ばれる1種又は複数種であってもよいが、本発明はこれらの材料に限定されず、他の周知のリチウムイオン電池の負極活物質を使用してもよい。
【0041】
いくつかの好ましい実施例において、セパレータは、ポリプロピレンフィルムを利用してもよく、リチウムイオン電池に利用可能な他のセパレータ材料を利用してもよい。電解液は、リチウム塩と溶媒とを含み、リチウム塩は、LiPF6、LiBF4、LiTFSIなどであってもよく、溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートのうちから選ばれるいくつかからなる混合溶媒でもよく、例えば、エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートが1:1:1の体積比で混合された混合溶媒である。
【0042】
以下、当業者が本発明をよりよく理解して実施できるように、実施例に基づいて本発明をさらに説明する。ただし、列挙する実施例は本発明に対する限定ではない。
【0043】
<実施例1>
本実施例は、リチウムイオン電池の製造に関し、具体的に下記ステップを含む。
(1)正極極板の製造:正極活物質LiNi0.83Co0.12Mn0.05と、導電剤SPと、結着剤PVDFとを質量比95.5:3.5:1で混合し、NMPを加えて撹拌して均一混合した正極スラリーを得る。正極スラリーを正極集電体に均一塗布し、乾燥し、冷間プレスした後に正極極板を得る。当該正極極板の表面にある、正極スラリーにより形成される正極活物質層は、圧密密度が3.2g/cmであり、面密度が0.015g/cmである。
(2)負極極板の製造:黒鉛とシリコン酸化物(SiO)とが質量比81:19で混合された負極活物質、SPとCNTとが質量比82:3で混合された導電剤、及び、PAAとSBRとが質量比2:1で混合された結着剤を、質量比95.1:1.6:3.3で混合し、脱イオン水を加えて撹拌して均一混合した負極スラリーを得る。負極スラリーを負極集電体に塗布し、乾燥し、冷間プレスした後に負極極板を得る。当該負極極板の表面にある、負極スラリーにより形成される負極活物質層は、圧密密度が1.35g/cmであり、面密度が0.0058g/cmである。
(3)セパレータ:45%の空隙率を有するポリエチレンフィルムを利用する。
(4)電解液:エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートを体積比1:1:1で混合して混合溶媒を得、リチウム塩LiPFを加えて、LiPFの濃度が1.2mol/Lである電解液を得る。
(5)リチウムイオン電池の組立:正極極板、セパレータ及び負極極板を積層し、巻回によりベアセルを形成し、ベアセルを外装ケースに入れ、乾燥した後に電解液を注入し、真空封止、静置、フォーメーション、整形などの工程を経て、リチウムイオン電池を得る。
【0044】
<実施例2>
本実施例は、リチウムイオン電池の製造に関し、正極極板の製造のみで実施例1と相違し、その他はすべて同じであり、正極極板の製造は、具体的に以下の通りである。
正極活物質LiNi0.83Co0.12Mn0.05と、導電剤SPと、結着剤PVDFとを質量比95.6:3.4:1で混合し、NMPを加えて撹拌して均一混合した正極スラリーを得、正極スラリーを正極集電体に均一塗布し、乾燥し、冷間プレスした後に正極極板を得る。当該正極極板の表面にある、正極スラリーにより形成される正極活物質層は、圧密密度が3.3g/cmであり、面密度が0.014g/cmである。
【0045】
<実施例3>
本実施例は、リチウムイオン電池の製造に関し、正極極板の製造のみで実施例1と相違し、その他はすべて同じであり、正極極板の製造は、具体的に以下の通りである。
正極活物質LiNi0.83Co0.12Mn0.05と、導電剤SPと、結着剤PVDFとを質量比95.4:3.6:1で混合し、NMPを加えて撹拌して均一混合した正極スラリーを得、正極スラリーを正極集電体に均一塗布し、乾燥し、冷間プレスした後に正極極板を得る。当該正極極板の表面にある、正極スラリーにより形成される正極活物質層は、圧密密度が3.1g/cmであり、面密度が0.016g/cmである。
【0046】
<実施例4>
本実施例は、リチウムイオン電池の製造に関し、正極活物質層の圧密密度が2.9g/cmである点のみで実施例1と相違し、その他はすべて同じである。
【0047】
<実施例5>
本実施例は、リチウムイオン電池の製造に関し、正極活物質層の圧密密度が3.5g/cmである点のみで実施例1と相違し、その他はすべて同じである。
【0048】
<実施例6>
本実施例は、リチウムイオン電池の製造に関し、正極活物質層の面密度が0.012g/cmである点のみで実施例1と相違し、その他はすべて同じである。
【0049】
<実施例7>
本実施例は、リチウムイオン電池の製造に関し、正極活物質層の面密度が0.018g/cmである点のみで実施例1と相違し、その他はすべて同じである。
【0050】
<実施例8>
本実施例は、リチウムイオン電池の製造に関し、正極活物質層における導電剤の質量割合が4%である点のみで実施例1と相違し、その他はすべて同じである。
【0051】
<実施例9>
本実施例は、リチウムイオン電池の製造に関し、正極活物質層における導電剤の質量割合が4.4%である点のみで実施例1と相違し、その他はすべて同じである。
【0052】
<比較例1>
本比較例は、リチウムイオン電池の製造に関し、正極活物質層の圧密密度が2.4g/cmである点のみで実施例1と相違し、その他はすべて同じである。
【0053】
<比較例2>
本比較例は、リチウムイオン電池の製造に関し、正極活物質層の圧密密度が3.6g/cmである点のみで実施例1と相違し、その他はすべて同じである。
【0054】
<比較例3>
本比較例は、リチウムイオン電池の製造に関し、正極活物質層の面密度が0.01g/cmである点のみで実施例1と相違し、その他はすべて同じである。
【0055】
<比較例4>
本比較例は、リチウムイオン電池の製造に関し、正極活物質層の面密度が0.02g/cmである点のみで実施例1と相違し、その他はすべて同じである。
【0056】
<比較例5>
本比較例は、リチウムイオン電池の製造に関し、正極活物質層における導電剤の質量割合が2%である点のみで実施例1と相違し、その他はすべて同じである。
【0057】
<比較例6>
本比較例は、リチウムイオン電池の製造に関し、正極活物質層における導電剤の質量割合が5.5%である点のみで実施例1と相違し、その他はすべて同じである。
【0058】
<比較例7>
本比較例は、リチウムイオン電池の製造に関し、正極活物質層における導電剤の質量割合が2.4%である点のみで実施例1と相違し、その他はすべて同じである。
【0059】
<性能テスト>
上記実施例及び比較例で調製したリチウムイオン電池のエネルギ密度及びDCR性能をテストし、具体的な操作は以下の通りである。
【0060】
エネルギ密度テスト:25℃で、実施例及び比較例で製造したリチウムイオン電池を1Cレートで満充電し、その後に1Cレートで完全放電し、実際の放電エネルギを記録する。実際の放電エネルギとリチウムイオン電池の重量(25℃で秤量する)との比がリチウムイオン電池の実際のエネルギ密度である。
【0061】
DCR性能テスト:25℃で、実施例及び比較例で製造したリチウムイオン電池を1Cの電流で定電流定電圧で満充電し、5min放置した後、1Cで30min定電流放電し、5min静置し、静置終了時の電圧値V1を記録する。2Cで30sパルス放電し、パルス放電終了時の電圧値V2を記録する。2C電流値に対する、V1とV2の電圧差の比の値は、電池のSOC50%放電のDCRである。
【0062】
上記性能テスト結果を下記表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
上表における実施例1~9と比較例1~7のデータとの対比から分かるように、正極極板における正極活物質層の圧密密度が2.9~3.5の間に制御され、面密度が0.012~0.018の間に制御され、導電剤の質量割合が2.4%~4.4%の間に制御されるとともに、上記パラメータが3.3<a×b/c<5.5という関係式を満たす場合、当該正極極板から製造されたリチウムイオン電池は、高エネルギ密度と優れたDCR性能(即ち優れた出力性能)を兼ね備える。
【0065】
実施例1と比較例1、2から分かるように、圧密密度が低すぎること(比較例1)又は高すぎること(比較例2)は、いずれもリチウムイオン電池のDCR性能に影響し、かつ式a×b/cで計算した値が3.3~5.5に入らなく、電池の総合性能が劣る。
【0066】
実施例1と比較例3及び4から分かるように、面密度が低すぎること(比較例3)又は高すぎること(比較例4)は、リチウムイオン電池のエネルギ密度及びDCR性能に影響する。面密度が低すぎると、DCR値が小さく、即ち良好な出力性能を有するが、電池のエネルギ密度が239Wh/Kgまで低くなる。面密度が高すぎると、電池のエネルギ密度が著しく向上するが、DCR値が大きすぎて出力性能が劣る。また、電池のエネルギ密度が低すぎるか又はDCR値が大きすぎると、電池の総合性能が劣る。この場合、式a×b/cで計算した値が3.3~5.5に入らない。
【0067】
実施例1と比較例5及び6から分かるように、正極活物質層における導電剤の質量割合が低すぎること(比較例5)又は高すぎること(比較例6)は、リチウムイオン電池のエネルギ密度及びDCR性能に影響する。正極活物質層における導電剤の質量割合が低すぎると、高エネルギ密度を有するが、DCRの値が大きく、それに応じて出力性能が劣る。正極活物質層における導電剤の質量の割合が高すぎると、DCRの値が著しく減少して電池の出力性能の向上に有利であるが、エネルギ密度が低い。
【0068】
比較例7から分かるように、正極極板の圧密密度、面密度及び導電剤含有量はいずれも好ましい範囲内にあるが、a×b/cの計算値は6.40であり、好ましい値の範囲を満たさない。当該正極極板から製造した電池は、高エネルギ密度を有するが、電池のDCR値が高すぎて総合性能が比較的に劣る。一方、同じ程度のエネルギ密度を維持する前提でDCRの値をより一層低下させることは、電池分野において困難である。
【0069】
なお、正極極板における正極活物質層の圧密密度が3.1~3.3の間に制御され、面密度が0.014~0.016の間に制御され、導電剤の質量割合が3%~4%の間に制御されるとともに、上記パラメータが3.35<a×b/c<5という関係式を満たす場合、例えば上記実施例1、2、3、8などは、比較的高いエネルギ密度及び低いDCR値を兼ね備えることができ、総合性能がより優れる。
【0070】
以上から分かるように、正極極板における正極活物質層の圧密密度、面密度及び導電剤の質量割合をともに最適化するとともに上記パラメータが3.3<a×b/c<5.5という式を満すようにすることにより、当該正極極板を含むリチウムイオン電池が高エネルギ密度及び高出力性能を兼ね備える。
【0071】
上記実施例は本発明を十分に説明するために列挙した好適な実施例にすぎず、本発明の保護範囲はこれらに限定されない。当業者は、本発明に基づいて行われた等価置換又は変換は、いずれも本発明の保護範囲内に該当する。本発明の保護範囲は特許請求の範囲に準じる。