(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025154345
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】ガスバリア性及び層間密着性を有する積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 5/18 20060101AFI20251002BHJP
B32B 23/06 20060101ALI20251002BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20251002BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
B32B5/18
B32B23/06
B32B27/10
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024057280
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000223193
【氏名又は名称】東罐興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】長▲浜▼ 英昭
(72)【発明者】
【氏名】久富 祥人
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑典
(72)【発明者】
【氏名】荒木 慶
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD06
3E086BA04
3E086BA14
3E086BA15
3E086BB01
4F100AH04B
4F100AH04D
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4F100AK31C
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4F100JM01B
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4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】多孔質性基材に形成される目止め層及びバリア層が欠陥なく形成され、優れた層間密着性及びガスバリア性を発現可能な積層体を提供する。
【解決手段】多孔質性基材上に、目止め層、アンカー層及び酸素バリア層をこの順で備えている積層体であって、前記目止め層が、少なくともアニオン性ラテックス及びナノセルロースを含有し、前記アンカー層が、少なくとも多価カチオン樹脂を含有し、前記酸素バリア層が、少なくともナノセルロースを含有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質性基材上に、目止め層、アンカー層及び酸素バリア層をこの順で備えている積層体であって、
前記目止め層が、少なくともアニオン性ラテックス及びナノセルロースを含有し、
前記アンカー層が、少なくとも多価カチオン樹脂を含有し、
前記酸素バリア層が、少なくともナノセルロースを含有することを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記多孔質性基材が、紙製基材である請求項1記載の積層体。
【請求項3】
前記ナノセルロースが、セルロースナノクリスタルである請求項1又は2記載の積層体。
【請求項4】
前記酸素バリア層が、セルロースナノクリスタル及び多価カチオン樹脂の混合層である請求項3記載の積層体。
【請求項5】
前記多孔質性基材と前記目止め層と前記アンカー層との界面における界面剥離強度が、1N/15mm以上である請求項1又は2記載の積層体。
【請求項6】
前記目止め層及び前記酸素バリア層におけるナノセルロースの量がそれぞれ固形量として1.0g/m2であるときの23℃50RH%における酸素透過度が、5cc/m2・day・atm未満である請求項1又は2記載の積層体。
【請求項7】
前記セルロースナノクリスタルが、アニオン性官能基として少なくとも硫酸基及び/又はスルホ基を含有し、前記アニオン性官能基の総量が0.1mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下である請求項3記載の積層体。
【請求項8】
前記多価カチオン樹脂が、ポリエチレンイミンである請求項4記載の積層体。
【請求項9】
請求項2記載の積層体から成形された紙容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙製基材のような多孔質性基材に目止め層、アンカー層及びガスバリア層が形成されて成る積層体に関するものであり、より詳細には、包装容器に成形加工された場合でも層間剥離を生じることがなく、優れたガスバリア性及び層間密着性を発現可能な積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な製品に紙製基材のような多孔質性基材が使用されている。例えば、環境に優しい紙製基材は紙容器などの素材として広く普及している。紙製基材などの多孔質性基材は、基材のみでは耐液性やガスバリア性に劣ることから、基材表面に耐液性樹脂層やガスバリア層を積層して使用されることが多い。しかしながら、耐液性を有する基材に直接ガスバリア材を塗布しても良好なガスバリア層を形成できないことから、耐液性樹脂から成る目止め層、その上にガスバリア層を積層して使用されることがある。
例えば下記特許文献1には、原紙または加工紙の少なくとも片面に、乾燥後の樹脂固形分が0.1~30g/m2となるようにスチレン・ブタジエン共重合体からなる目止め剤層が塗布法で形成され、該目止め剤層表面の濡れ張力が36mN/m以上、かつコッブ吸水度が10g/m2以下であり、前記目止め剤層上に、乾燥後の樹脂固形分が0.5~30g/m2となるようにポリビニルアルコール系樹脂からなるガスバリア層が塗布法で形成されることを特徴とするガスバリア性紙製材料が提案されている。
【0003】
また紙製容器が有する優れた環境特性を損なうことのない材料として天然資源由来材料であるセルロースナノファイバーを含有するコーティング層を形成することも提案されている。
例えば下記特許文献2には、基紙と、前記基紙の少なくとも一方の面に目止め層を備え、前記目止め層が、少なくとも顔料、ラテックス、数平均繊維長が20nm以上250nm以下であるセルロースナノファイバーを含有することを特徴とする剥離紙用原紙が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5869829号公報
【特許文献2】特開2020-139238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1においては、目止め層によりポリビニルアルコール系樹脂の紙への浸透が防止されているとしても、多孔質性基材である紙製部材に形成された目止め層には、ピンホールやクラックが生じている場合があり、このような目止め層上にガスバリア層が直接形成されていることから、目止め層とガスバリア層の界面剥離強度が低く、層間密着性に劣るという問題がある。またポリビニルアルコール系樹脂によりガスバリア層が形成されていることから、得られるガスバリア性は充分満足するものではなく、より高いガスバリア性を発現可能な積層体が要求されている。
【0006】
上記特許文献2は、目止め層に、ラテックスと共にセルロースナノファイバーを配合することにより目止め性を向上させ、均一な剥離剤層を形成することを目的としたものであることから、この積層構造は、包装容器などの高いガスバリア性を要求される用途へ使用するには不充分である。また目止め剤は顔料、ラテックス及びセルロースナノファイバーを含有することから高粘度であり、このような目止め剤を多量に塗布する必要があることから乾燥に時間がかかり、目止め層形成にコストがかかるおそれがある。更に目止め層と基材の界面剥離強度が低く、包装容器などへの成形負荷に耐えることは困難である。
【0007】
従って本発明の目的は、多孔質性基材に形成される目止め層及びガスバリア層が欠陥なく形成され、優れたガスバリア性及び層間密着性を発現可能な積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、多孔質性基材上に、目止め層、アンカー層及び酸素バリア層をこの順で備えている積層体であって、前記目止め層が、少なくともアニオン性ラテックス及びナノセルロースを含有し、前記アンカー層が、少なくとも多価カチオン樹脂を含有し、前記酸素バリア層が、少なくともナノセルロースを含有することを特徴とする積層体が提供される。
【0009】
本発明の積層体においては、
(1)前記多孔質性基材が、紙製基材であること、
(2)前記ナノセルロースが、セルロースナノクリスタルであること、
(3)前記酸素バリア層が、セルロースナノクリスタル及び多価カチオン樹脂の混合層であること、
(4)前記多孔質性基材と前記目止め層との界面における界面剥離強度が、1N/15mm以上であること、
(5)前記目止め層及び前記酸素バリア層におけるナノセルロースの量がそれぞれ固形量として1.0g/m2であるときの23℃50RH%における酸素透過度が、5cc/m2・day・atm未満であること、
(6)前記セルロースナノクリスタルが、アニオン性官能基として少なくとも硫酸基及び/又はスルホ基を含有し、前記アニオン性官能基の総量が0.1mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下であること、
(7)前記多価カチオン樹脂が、ポリエチレンイミンであること、
(8)積層体から紙容器が成形されること、
が好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層体においては、表面平滑性に劣る多孔質性基材上に形成する目止め層に、アニオン性ラテックス及びナノセルロースが含有されていることにより、ナノセルロースによるフィラー効果が付与され、クラックやピンホール等の欠陥のない目止め層を形成することができ、更に多孔質性基材と目止め層との層間密着性に優れる。また目止め層上にアンカー層を介して酸素バリア層が形成されていることにより、目止め層と酸素バリア層との層間密着性を向上することが可能となり、容器などへ成形する際に積層体に成形負荷がかかっても、層間剥離を生じることが有効に防止されていると共に、酸素バリア層にもクラック等の欠陥を生じることがなく、優れたガスバリア性(特に酸素バリア性)を発現することが可能となる。
【0011】
更に本発明の積層体においては、アンカー層として多価カチオン樹脂が使用されていることにより、後述するように、酸素バリア層がナノセルロースと多価カチオン樹脂の混合物から形成される。これにより、ナノセルロースによる自己組織化構造が多価カチオン樹脂によって強化されるため、ナノセルロースだけで発現されるガスバリア性よりも優れたガスバリア性を発現することができる。
またアンカー層中に多価カチオン樹脂が存在することによって、目止め層とアンカー層との界面及びアンカー層と酸素バリア層との界面における密着強度が向上し、容器などに成形する際の成形負荷に起因する界面破壊(層間剥離)が生じることが有効に防止されている。
更にまた上記酸素バリア層は、セルロースナノファイバーのみから成る従来の酸素バリア層に比して耐熱性及び屈曲耐性に優れており、容器などに成形する際のヒートシール処理や折り曲げ処理に付された場合にも劣化することがなく、積層体が有する優れたガスバリア性を成形物においても維持することができる。
【0012】
すなわち、後述する実施例の結果から明らかなように、目止め層中にナノセルロースを配合しない積層体(比較例1、2)、目止め層中のラテックスとしてカチオン性ラテックスを使用した積層体(比較例3、4)、目止め層中にアニオン性ラテックス及びナノセルロースを配合したとしてもアンカー層を形成することなく酸素バリア層を形成した積層体(比較例6)、目止め層を形成することなくアンカー層を形成した積層体(比較例5)は、いずれも本発明の積層体(実施例1~6)に比して酸素透過度が大きく、ガスバリア性に劣っていることが明らかである。
これに対して、本発明の積層体では、酸素透過度が、5cc/m2・day・atm未満と優れたガスバリア性を有すると共に、クラックやピンホールの発生もなかった。また界面剥離強度が1N/15mm以上であり、層間剥離が有効に防止されていることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】積層体の酸素バリア層表面のレーザ顕微鏡(20倍)観察像であり、(A)は実施例1の積層体及び(B)は比較例1の積層体をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の積層体は、
図1に示すように、多孔質性基材1上に、目止め層2、アンカー層3及び酸素バリア層4をこの順で備えている積層体であって、前記目止め層が、少なくともアニオン性ラテックス及びナノセルロースを含有し、前記アンカー層が、少なくとも多価カチオン樹脂を含有し、前記酸素バリア層が、少なくともナノセルロースを含有することが重要な特徴である。
本発明の積層体における目止め層においては、目止め層の主成分であるアニオン性ラテックスと共にナノセルロースが配合されていることにより、アニオン性ラテックスによる多孔質性基材への耐水性の付与と共に、ナノセルロースによるフィラー効果によって多孔質性基材の表面平滑性を向上し、クラックやピンホール等の欠陥のない目止め層を形成することができ、ひいては酸素バリア層についてもクラック等の欠陥を生じることがなく、優れたガスバリア性を発現することができる。
本発明の積層体におけるアンカー層においては、アンカー層として多価カチオン樹脂が使用されていることにより、多価カチオン樹脂から成るアンカー層のアンカー効果によって、目止め層と酸素バリア層との密着性を向上できる。また後述するように、アンカー層の多価カチオン樹脂が酸素バリア層に移行して、酸素バリア層がナノセルロースと多価カチオン樹脂の混合物から成る層として形成される。これにより、ナノセルロースによる自己組織化構造が多価カチオン樹脂によって強化されるため、ナノセルロースだけで発現されるガスバリア性よりも優れたガスバリア性を発現することが可能となる。
【0015】
(多孔質性基材)
本発明の積層体の基材である多孔質性基材としては、積層体の用途などに応じて任意の基材を使用することができ、紙製基材の他、陶板や石板、織布や不織布等を例示することができ、特に紙製基材であることが好ましい。本発明によればこのような多孔質性基材にガスバリア性及び層間密着性を付与することができる。
紙製基材としては、これに限定されないが、例えば、上質紙、模造紙、アート紙、コート紙、純白ロール紙、クラフト紙、耐水性を高めたラベル用紙、コップ原紙、カード紙、アイボリー紙、マニラボールなどの板紙、ミルクカートン原紙、カップ原紙、合成紙、クレイコート紙、耐水紙、耐酸紙等の公知の紙製基材を挙げることができる。
紙製基材の厚みは、50~450μmの範囲にあることが好ましく、カップ型容器を成形する場合には、150~400μmの範囲にあることが好ましい。また紙製基材の坪量は、100~400g/m2、特に150~350g/m2の範囲にあることが好ましい。
【0016】
(目止め層)
本発明の積層体において、多孔質性基材に耐水性を付与するために形成される目止め層は、少なくともアニオン性ラテックス及びナノセルロースを含有する。
前述した通り、本発明における目止め層は主成分となるアニオン性ラテックスに加えてナノセルロースが配合されているため、ナノセルロースによるフィラー効果によりクラックやピンホール等の欠陥のない目止め層を形成することができると共に、多孔質性基材の表面平滑性を向上することができる。また後述するアンカー層の存在と相俟って多孔質性基材と酸素バリア層の密着性を向上することができる。
【0017】
[アニオン性ラテックス]
目止め層の主成分となるアニオン性ラテックスとしては、硫酸基、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基等のアニオン性官能基を有するものであればよく、これに限定されないが、スチレン・ブタジエン系共重合体、スチレン・アクリル系共重合体、エチレン・酢酸ビニル系共重合体、ブタジエン・メチルメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル・ブチルアクリレート系共重合体、無水マレイン酸共重合体、アクリル酸・メチルメタクリレート系共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン系共重合体などの各種共重合体のラテックス等を例示することができる。中でもアクリロニトリル・ブタジエン系共重合体およびスチレン・ブタジエン系共重合体のラテックスを好適に使用することができる。また上記のラテックスの中から1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。ラテックスの粒子径も特に限定されないが、例えば、平均粒子径(D50)が100~1000nmの微粒子を使用できる。
【0018】
[ナノセルロース]
目止め層に配合するナノセルロースとしては、セルロース原料を強酸で加水分解して成るセルロースナノクリスタル、或いはセルロース原料をTEMPO触媒を用いて酸化処理した後、機械解繊処理を行うことにより製造された粒径が小さく且つ粒径分布が狭いセルロースナノファイバー等、従来公知のナノセルロースを例示できるが、特にセルロースナノクリスタルを好適に使用することができる。
本発明におけるナノセルロースは、アニオン性官能基の量が0.01mmol/g~4.0mmol/gであることが好適であり、0.1mmol/gより多く且つ4.0mmol/gであることがより好適であり、0.2mmol/g~2.0mmol/gであることが更に好適である。すなわち、セルロースナノクリスタル及びセルロースナノファイバーは、いずれもアニオン性官能基を有するものであるが、セルロースナノクリスタルはセルロースナノファイバーに比してアニオン性官能基量が少ないことから、アニオン性ラテックスとの反発が少なく、クラックやピンホール等の欠陥への影響が少ないと共に、熱劣化により黄変するおそれも少ない。アニオン性官能基としては、硫酸基、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基等が挙げられ、これらを1種又は2種以上有していてもよいが、少なくとも硫酸基及び/又はスルホ基を有することが好適である。アニオン性官能基を2種以上有している場合、上記アニオン性官能基の量はアニオン性官能基の総量を意味する。なお、本明細書において、硫酸基は硫酸エステル基をも含む概念であり、リン酸基はリン酸エステル基をも含む概念である。
ナノセルロースは、アニオン性ラテックス100質量部に対して0.0001~0.1質量部、特に0.001~5質量部の量で配合されていることが好適であり、これにより、アニオン性ラテックスによる目止め効果を損なうことなく、ナノセルロースによるフィラー効果を発現することが可能となる。
【0019】
具体的なナノセルロースとしては、これに限定されないが、下記(1)~(3)のセルロースナノクリスタル或いは下記(4)のセルロースナノファイバーを例示できる。
(1)セルロース原料を硫酸処理することにより得られた硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタル。
(2)上記(1)の硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルを、水溶性カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素、TEMPO触媒、酸化剤の何れかを用いて親水化処理することにより得られた、硫酸基及び/又はスルホ基を含有するセルロースナノクリスタル、或いは硫酸基及び/又はスルホ基と、リン酸基又はカルボキシ基を含有するセルロースナノクリスタル。
または、ネバードライ処理、又はネバードライ処理と上記親水化処理とを組み合わせることにより得られた、硫酸基及び/又はスルホ基を含有するセルロースナノクリスタル、或いは硫酸基及び/又はスルホ基と、リン酸基及び/又はカルボキシ基を含有するセルロースナノクリスタル。
(3)セルロース原料をリン酸基含有化合物で処理した後、解繊処理することにより得られるリン酸基含有セルロースナノクリスタル。
(4)セルロース原料をTEMPO触媒を用いて酸化処理した後、機械解繊処理を行うことにより製造された粒径が小さく且つ粒径分布が狭いセルロースナノファイバー。
【0020】
(1)セルロースナノクリスタル
セルロースナノクリスタルは、セルロース繊維を硫酸や塩酸で酸加水分解処理することにより得られる、ロッド状のセルロース結晶繊維であるが、本発明においては、自己組織化構造の形成に寄与可能な硫酸基及び/又はスルホ基を有する、硫酸処理によるセルロースナノクリスタルを使用することが好適である。
硫酸処理によるセルロースナノクリスタルは、一般に硫酸基及び/又はスルホ基を0.01~0.5mmol/gの量で含有する。またセルロースナノクリスタルは、平均繊維径が50nm以下、特に2~50nmの範囲にあり、平均繊維長が100~500nmの範囲にあり、アスペクト比が5~50の範囲にあり、結晶化度が60%以上、特に70%以上であるものを好適に用いることができる。
【0021】
(2)セルロースナノクリスタルを親水化処理して成るセルロースナノクリスタル
上述したとおり、セルロースナノクリスタル自体が硫酸基及び/又はスルホ基を有していればそのまま使用することができるが、セルロースナノクリスタルの硫酸基及び/又はスルホ基の含有量は少量であることから、水溶性カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体の何れかを用いた処理により、セルロースナノクリスタルの硫酸基及び/又はスルホ基量を調整することが好適である。当該処理を行うことで、セルロースナノクリスタルが更に微細繊維化される。またリン酸-尿素、TEMPO触媒又は酸化剤の何れかを用いた処理により、リン酸基やカルボキシ基等のアニオン性官能基が導入される。または、ネバードライ処理、又はネバードライ処理及び上記親水化処理を組み合わせることにより、硫酸基及び/又はスルホ基量の調整と共に、リン酸基やカルボキシ基等のアニオン性官能基が導入される。
尚、親水化処理は、硫酸基、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基等のアニオン性官能基の総量が上記範囲となる限り、いずれか一つの処理を行えばよいが、同一の処理を複数回、或いは他の処理と組み合わせて複数回行ってもよい。
【0022】
<ネバードライ処理による親水化処理>
セルロースナノクリスタルは、スプレードライ、加熱、減圧などによる乾燥処理を行ってパウダー等の固形化を経るが、乾燥処理による固形化の際にセルロースナノクリスタルに含有するアニオン性官能基の一部が脱離して親水性が低下する。すなわち、アニオン性官能基を含有するセルロースナノクリスタルについてパウダー等の固形化を経ないネバードライ処理は親水化処理として挙げられる。アニオン性官能基は、硫酸基及び/又はスルホ基等が挙げられる。
【0023】
<カルボジイミドを用いた親水化処理>
カルボジイミドを用いた処理においては、ジメチルホルムアミド等の溶媒中でセルロースナノクリスタルとカルボジイミドを撹拌し、これに硫酸を添加した後、0~80℃の温度で5~300分反応させて硫酸エステルとする。カルボジイミド及び硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して5~30mmolの量で使用することが好ましい。
次いで水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入された硫酸基及び/又はスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルが調製される。この処理による硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基を0.3~1.3mmol/gの量で含有する。
カルボジイミドとしては、分子内にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する水溶性化合物である1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等を例示できる。また有機溶媒に溶解するジシクロヘキシルカルボジイミド等を使用することもできる。
【0024】
<硫酸を用いた親水化処理>
本発明で使用するセルロースナノクリスタルは、セルロース繊維を硫酸で加水分解処理して成るものであることが好ましいが、このセルロースナノクリスタルを更に硫酸を用いて親水化処理する。硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して40~65質量部の量で使用することが好ましい。40~60℃の温度で5~300分反応させ、その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、セルロースナノクリスタルの硫酸基及び/又はスルホ基量が調整される。
【0025】
<三酸化硫黄-ピリジン錯体を用いた親水化処理>
三酸化硫黄-ピリジン錯体を用いた処理においては、ジメチルスルホキシド中でセルロースナノクリスタルと三酸化硫黄-ピリジン錯体を、0~60℃の温度で5~240分反応させることにより、セルロースグルコースユニットの6位の水酸基に硫酸基及び/又はスルホ基が導入され、硫酸基及び/又はスルホ基含有ナノセルロースが調製される。この処理による硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基を0.3~1.3mmol/gの量で含有する。
三酸化硫黄-ピリジン錯体は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して0.5~4gの質量で配合することが好ましい。
上記反応終了後、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入された硫酸基及び/又はスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、ジメチルホルムアミド又はイソプロピルアルコールを添加して、遠心分離等によって洗浄した後、透析膜等を用いた濾過処理で不純物を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
【0026】
<リン酸-尿素を用いた親水化処理>
リン酸-尿素を用いた親水化処理は、リン酸-尿素を用いてリン酸基を導入する従来公知の処理と同様に行うことができる。具体的には、尿素含有化合物の存在下で、セルロースナノクリスタルとリン酸基含有化合物を、135~180℃の温度で5~120分反応させることによって、セルロースグルコールユニットの水酸基にリン酸基を導入し、硫酸基及び/又はスルホ基と、リン酸基を含有するセルロースナノクリスタルが調製される。この処理による硫酸基及び/又はスルホ基と、リン酸基を含有するセルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基と、リン酸基を合計で0.01~4.0mmolの量で含有する。
リン酸基含有化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩等を例示できる。中でもリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸等を好適に使用できる。リン酸基含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して10~100mmolの量で添加することが好ましい。
また尿素含有化合物としては、尿素、チオ尿素、ビュウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素などを例示できる。中でも尿素を好適に使用できる。尿素含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して150~200mmolの量で使用することが好ましい。
【0027】
<TEMPO触媒を用いた親水化処理>
TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)を用いた親水化処理は、TEMPO触媒を用いた従来公知の酸化方法と同様に行うことができる。具体的には、硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタルを、TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)を介した水系、常温、常圧の条件下で、セルロースグルコースユニットの6位の水酸基をカルボキシ基に酸化する親水化反応を生じさせる。この処理による硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基と、カルボキシ基を合計で0.01~4.0mmolの量で含有する。
TEMPO触媒としては、上記2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルの他、4-アセトアミド-TEMPO、4-カルボキシ-TEMPO、4-フォスフォノキシ-TEMPO等のTEMPOの誘導体を用いることもできる。
TEMPO触媒の使用量は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して0.01~100mmol、好ましくは0.01~5mmolの量である。
また親水化酸化処理時には、単独又はTEMPO触媒と共に、酸化剤、臭化物又はヨウ化物等の共酸化剤を併用することが好適であり、これらは従来公知の処方によって添加することができる。
【0028】
(3)リン酸基含有化合物で処理したリン酸基含有セルロースナノクリスタル
本発明においては、セルロース系原料をリン酸基含有化合物で処理し、セルロースグルコースユニットの6位の水酸基にリン酸基を導入した後、解繊処理することにより得られるリン酸基含有セルロースナノクリスタルを用いることもできる。この処理により、リン酸基含有セルロースナノクリスタルは、リン酸基を0.01~4.0mmol/gの量で含有する。
リン酸基含有化合物を用いた処理としては、上記リン酸-尿素を用いた処理と同様に行うことができる。またかかる処理の後に行う解繊処理は、従来公知の方法によって行うことができ、具体的には、超高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、グラインダー、高速ブレンダー、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル、離解機、叩解機、二軸押出機等を使用して微細化することができる。解繊処理は、乾式又は湿式の何れで行うこともできるが、次いで行う架橋処理は、スラリー状態で行うことが好ましいことから、水等を分散媒として超高圧ホモジナイザー等により微細化することが好適である。
【0029】
(4)セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバーの原料となるセルロース原料としては、従来よりセルロースナノファイバーの原料として使用されていたセルロース系原料を使用することができ、これに限定されないが、クラフトパルプ、木材パルプ、非木材パルプ、コットン、バクテリアセルロース等の他、製紙等の栽ち落としであってもよい。好適には、クラフトパルプを使用することが望ましい。また木材パルプは漂白されたもの又は無漂白のものの何れであってもよい。
セルロースナノファイバーにおいては、微細化処理は、従来公知の方法によって行うことができ、具体的には、超高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、グラインダー、高速ブレンダー、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル、離解機、叩解機、二軸押出機等を使用して微細化することができる。微細化処理は、乾式又は湿式の何れで行うこともできるが、次いで行う酸化処理は、微細化セルロースのスラリー状態で行うことが好ましいことから、水等を分散媒として超高圧ホモジナイザー等により微細化することが好適である。
クラフトパルプ等の原料セルロース又は上記微細化されたセルロースは、上述したTEMPO触媒による酸化処理を行うことにより、セルロースグルコースユニットの6位の水酸基をカルボキシ基に酸化する酸化反応を生じさせる。
酸化処理された微細化セルロースを解繊処理することにより、所望のセルロースナノファイバーが得られる。
セルロースナノファイバーは、平均繊維径が1000nm以下、特に2~100nmの範囲にあり、平均繊維長が100~1000nmの範囲にあり、アスペクト比が10~10000の範囲にあるものを好適に用いることができる。
【0030】
(アンカー層)
本発明の積層体において、アンカー層は少なくとも多価カチオン樹脂を含有する。多価カチオン樹脂はカチオン性官能基を有する水溶性あるいは水分散性の樹脂であることが好適である。前述した通り、本発明におけるアンカー層は多価カチオン樹脂が配合されているため、多価カチオン樹脂によるアンカー効果によって、目止め層と酸素バリア層との密着性を向上できる。
本発明の積層体において、アンカー層には更に金属炭酸塩が配合されていることが好適である。アンカー層に金属炭酸塩が配合されていることにより、後述する酸素バリア層形成用分散液からアンカー層に移行したナノセルロースと金属炭酸塩由来の金属イオンとがイオン架橋を形成し、ナノセルロースの自己組織化構造が更に強化される。
【0031】
[多価カチオン樹脂]
多価カチオン樹脂としては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリン、ポリアミンエピクロロヒドリン等の水溶性アミンポリマー、ポリアクリルアミド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、ジシアンジアミドホルマリン、ポリ(メタ)アクリレート、カチオン化澱粉、カチオン化ガム、ゼラチン、キチン、キトサン等を挙げることができるが、中でも水溶性アミンポリマー、特にポリエチレンイミンを好適に使用することができる。なお、本明細書において、水溶性とは25℃の水1Lに1gが溶解できることを意味する。上記の多価カチオン樹脂は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。前記多価カチオン樹脂の数平均分子量は特に限定されないが、通常100~200,000であり、1,000~180,000が好適であり、10,000~150,000がさらに好適であり、80,000~120,000がさらに好適である。なお、本明細書における分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定し、ポリスチレン換算の分子量として求めた値である。
【0032】
[金属炭酸塩]
金属炭酸塩としては、アルカリ土類金属(マグネシウムMg、カルシウムCa、ストロンチウムSr、バリウムBa等)、周期表8族金属(鉄Fe、ルテニウムRu等)、周期表11族金属(銅Cu等)、周期表12族金属(亜鉛Zn等)、周期表13族金属(アルミニウムAl等)等の1~3価の金属の炭酸塩が例示できるが、特に2~3価であることが好ましく、好適にはカルシウム、マグネシウム、亜鉛等の2価の金属の炭酸塩を使用することができる。また、上記金属イオンは1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。本発明においては特に、炭酸カルシウムを好適に使用できる。
金属炭酸塩の含有量は、多価カチオン樹脂100質量部に対して10~500質量部であることが好適であり、100~300質量部がさらに好適である。
【0033】
(酸素バリア層)
本発明の積層体において、酸素バリア層は少なくともナノセルロースを含有する。ナノセルロースとしては目止め層で用いる前記ナノセルロースと同様のものを用いることができ、ガスバリア層においてもセルロースナノクリスタルを好適に使用することができる。
酸素バリア層に用いられるセルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基、カルボキシ基、リン酸基等のアニオン性官能基を0.1mmol/gより多く且つ4.0mmo/g以下の範囲で含有していることが好適である。アニオン性官能基の量が0.1mmol/gより多ければ、セルロースナノクリスタルの荷電反発が大きくなり、セルロースナノクリスタルの分散性が向上する。その一方、アニオン性官能基の量が4.0mmol/g以下であれば、セルロースナノクリスタルの結晶構造を維持しやすく、セルロースナノクリスタルが本来有する結晶化度、強度、ガスバリア性等の優れた性能を発現できる。
【0034】
本発明の積層体において、酸素バリア層はナノセルロースと多価カチオン樹脂の混合層、特にセルロースナノクリスタルと多価カチオン樹脂の混合層から成ることが好適である。すなわち、目止め層上に形成されるアンカー層として多価カチオン樹脂を用いることにより、アンカー層への密着性を発現可能な混合状態を有する混合層が酸素バリア層に形成される。
なお、このような混合状態の酸素バリア層は、ナノセルロースと多価カチオン樹脂を予め混合した混合液から成形することはできず、後述するように、多価カチオン樹脂を含有するアンカー層上にナノセルロースを含有する酸素バリア層形成用分散液を塗工することによって、ガスバリア性及びアンカー層への密着性を発現可能な混合状態を有する酸素バリア層として形成できる。すなわち、本発明の積層体における酸素バリア層の混合状態を定性的或いは定量的に表現することは困難であるが、ナノセルロースが有する自己組織化構造が維持された状態で多価カチオン樹脂及びナノセルロースが混合されることによって初めて形成されるものである。
【0035】
本発明の積層体において、酸素ガスバリア層には更に層状無機化合物、水酸基含有高分子、反応性架橋剤が配合されていることが好適である。アンカー層にこれら成分が配合されていることにより、積層体が高湿度下(例えば湿度80%RH)に曝された際にも優れたガスバリア性を発現できる。
【0036】
[層状無機化合物]
層状無機化合物としては、天然又は合成したもの、親水性又は疎水性を示し、溶媒により膨潤して劈開性を示す従来公知のものを使用でき、これに限定されないが、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、マイカ、テトラシリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、タルク、バーミキュライト、金雲母、ザンソフィライト、緑泥石等を例示することができ、合成マイカ(親水性膨潤性雲母)を好適に使用することができる。
層状無機化合物の含有量は、ナノセルロース100質量部に対して1~50質量部であることが好ましい。
【0037】
[水酸基含有高分子]
水酸基含有高分子としては、ポリビニルアルコール、酢酸ビニルアルコール共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、カルボキシルメチルセルロース、澱粉等を例示できるが、ポリビニルアルコールを好適に使用することができる。ポリビニルアルコールは、完全ケン化型で100~10,000の重合度を有することが好適である。
水酸基含有高分子の含有量は、ナノセルロース100質量部に対して1~50質量部であることが好ましい。
【0038】
[反応性架橋剤]
反応性架橋剤としては、ナノセルロース間に架橋構造を形成可能である限り制限なく使用できるが、本発明に用いるナノセルロースは、酸性条件下でも凝集することなく安定して分散可能なものであるので、特に、反応効率の良い多価カルボン酸又はその無水物を用いることが望ましい。
多価カルボン酸としては、クエン酸、シュウ酸、マロン酸等のアルキルジカルボン酸、テレフタル酸、マレイン酸等の芳香族ジカルボン酸、或いはこれらの無水物等を例示することができ、特に無水クエン酸を好適に使用することができる。
反応性架橋剤は、その種類によって含有量は異なるが、無水クエン酸を使用した場合で、ナノセルロース100質量部に対して1~50質量部の範囲で含有されていることが好ましい。
【0039】
(その他の層)
本発明の積層体においては、前述した多孔質性基材、目止め層、アンカー層、酸素バリア層の他、必要により他の層を形成することができる。
例えば、酸素バリア層及び紙製基材の表面に、耐水性を向上させるための疎水性熱可塑性樹脂からなる層や、ヒートシール性樹脂層、発泡樹脂層等、従来公知の層を必要により形成できる。
耐水性を付与可能な疎水性熱可塑性樹脂としては、オレフィン系共重合体、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、スチレン系共重合体、塩化ビニル系共重合体、アクリル系共重合体、ポリカーボネート等を使用できるが、特に耐水性とヒートシール性の観点からオレフィン系共重合体、ポリエステル樹脂を好適に使用することができる。また各層には必要に応じて印刷層を設けることができる。
【0040】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体の製造に際しては、紙製基材等の多孔質性基材の上に、まず目止め層を形成する。多孔質性基材の表面にアニオン性ラテックス及びナノセルロースを含有する目止め層形成用溶液を塗工し、5~200度の温度で0.1秒~24時間の条件で加熱乾燥することにより、溶媒を揮発すると共に、ラテックス粒子を融着させて目止め層を形成する。
目止め層形成用溶液は、塗工性及び製膜性の観点から、固形分基準でアニオン性ラテックスを30~60質量%の量で含有することが好ましい。また前述した通り、ナノセルロースはアニオン性ラテックス100質量部当たり0.0001~0.1質量部の量で含有されることが好適であり、溶液中には0.001~5質量部の量で含有されていることが好ましい。
目止め層形成用溶液に用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、2-ブタノン、アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤、及びこれらと水との混合溶媒であってもよく、塗工性及び製膜性の観点からエタノール、イソプロパノールを好適に使用できる。
塗布方法としては、これに限定されないが、例えばスプレー塗装、浸漬、或いはバーコーター、ロールコーター、グラビアコーター等により塗布することが可能である。加熱乾燥処理は、オーブン乾燥、赤外線加熱、高周波加熱等により行うことができる。
目止め層形成用溶液は、アニオン性ラテックス及びナノセルロースの固形分が1m2当たり10~50gとなるように塗工することが好ましい。
【0041】
次いで形成された目止め層の表面に、アンカー層形成用溶液を塗工することによりアンカー層を形成する。
アンカー層形成用溶液は、塗工性及び製膜性の観点から、固形分基準で多価カチオン樹脂を0.1~10質量%、特に0.2~2質量%の量で含有することが好ましい。上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、ガスバリア性及び界面剥離強度の向上を図ることができず、一方上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が多くてもガスバリア性及び界面剥離強度の更なる向上は得られず経済性に劣ると共に、塗工性や製膜性にも劣るおそれがある。
また、アンカー層形成用溶液に用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、2-ブタノン、アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤、及びこれらと水との混合溶媒であってもよい。
【0042】
アンカー層形成用溶液は、ガスバリア層中のナノセルロース量(固形分)を基準に、アンカー層形成用溶液の多価カチオン樹脂の濃度によって塗工量が決定される。すなわち、前述したとおり、ナノセルロース(固形分)を1m2当たり1.0gの量で含有する場合に、多価カチオン樹脂が1m2当たり0.01~2.0gの量で含有されるように、塗工することが好ましい。多価カチオン樹脂の量が1m2当たり0.01g以上であれば、目止め層とアンカー層との界面剥離強度を向上できる。その一方、多価カチオン樹脂の量が1m2当たり2.0g以下であれば、積層体のガスバリア性が向上する。
塗工方法としては、これに限定されないが、例えばスプレー塗装、浸漬、或いはバーコーター、ロールコーター、グラビアコーター等により塗布することが可能である。また塗膜の乾燥方法としては、温度5~200℃で0.1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましい。また乾燥処理は、オーブン乾燥、赤外線加熱、高周波加熱等により行うことができるが、自然乾燥であってもよい。
【0043】
次いで形成されたアンカー層の表面に、酸素バリア層形成用分散液を塗工することにより酸素バリア層を形成する。
酸素バリア層形成用分散液は、ナノセルロースを固形分基準で0.01~10質量%、特に0.5~5.0質量%の量で含有していることが好ましい。ナノセルロースの量が0.01質量%以上であれば、ガスバリア性が向上する。その一方、10質量%以下であれば、塗工性や製膜性に優れる。
また酸素バリア層形成用分散液に用いる溶媒としては、水だけでもよいが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、2-ブタノン、アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤と水との混合溶媒であってもよい。
また上記アンカー層形成用溶液又は酸素バリア層形成用分散液には、必要に応じて、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐水化剤、粘土鉱物、架橋剤、金属塩、微粒子、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等、公知の添加剤を配合することができる。
【0044】
酸素バリア層形成用分散液は、ナノセルロース(固形分)が1m2当たり0.1~3.0gとなるように塗工することが好ましい。
酸素バリア層形成用分散液の塗工方法及び乾燥方法は、アンカー層形成用溶液の塗工方法及び乾燥方法と同様に行うことができるが、温度5~200℃で0.1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましい。
【0045】
(積層体の用途)
本発明の積層体は、成形加工を行った後でも優れたガスバリア性及び層間密着性を発現可能である。そのため、多孔質性基材として紙製基材を用いた積層体から、カップやトレイ等の紙容器を成形するのが好適である。紙容器等の成形方法は特に限定されず、成形物の形態に応じて従来公知の方法により成形することができる。
【実施例0046】
以下に本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実施例には限定されない。各項目の測定方法は、次の通りである。
【0047】
<ナノセルロースのアニオン性官能基量>
アニオン性官能基含有ナノセルロースの分散液を秤量し、イオン交換水を加えて100mLに調製した。このアニオン性官能基含有ナノセルロース分散液に陽イオン交換樹脂を0.1g加えて攪拌処理した。その後ろ過を行い陽イオン交換樹脂とアニオン性官能基含有ナノセルロース分散液を分離した。陽イオン交換後の分散液に対して電位差自動滴定装置(京都電子社製)を用いて0.05M水酸化ナトリウム溶液を滴下し、アニオン性官能基含有ナノセルロースの分散液が示す電気伝導度の変化を計測した。得られた伝導度曲線からアニオン性官能基の中和の為に消費された水酸化ナトリウム滴定量を求め、下記式(1)を用いてアニオン性官能基量(mmol/g)を算出した。
アニオン性官能基量(mmol/g)=アニオン性官能基の中和の為に消費した水酸化ナトリウム滴定量(mL)×前記水酸化ナトリウム濃度(mmol/mL)÷アニオン性官能基含有ナノセルロースの固形質量(g)・・・(1)
【0048】
<酸素透過度>
酸素透過量測定装置(OX-TRAN2/22、モコン)を用いて、23℃、湿度50%RHの条件で積層体の酸素透過度(cc/m2・day・atm)を測定した。
【0049】
<界面剥離強度>
[接着剤溶液の調製]
固形分濃度50質量%の溶剤含有イソシアネート基末端ウレタン樹脂(主剤)50質量部及び固形分濃度75質量%の溶剤含有水酸基末端ウレタン樹脂(硬化剤)5質量部を秤量し、酢酸エチルを53質量部を加えて希釈分散し、接着剤溶液を調製した。
【0050】
[180°剥離試験用積層体の作製]
コロナ処理された2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」ということがある)フィルム(厚さ50μm)基材上に、前記接着剤溶液をバーコーターを用いてWet塗布量24g/m2で塗布し、100℃の熱風乾燥を行うことにより接着層を形成させた。前記接着層と、積層体の酸素バリア層をローラーで圧着し、180°剥離試験用積層体を作製した。前記積層体を50℃の環境下で2日間静置した後、23℃、湿度50%RHの環境下で更に1日間静置した。
【0051】
[180°剥離試験]
180°剥離試験用積層体を幅15mm×長さ180mmの短冊状に切り抜いて試験片を作製し、引張試験を行った。試験片は引張り速度20mm/minで180°剥離を行い、界面剥離強度(N/15mm)を測定した。各試験片について、最初の25mmを除いた少なくとも100mmの長さの剥離長さに渡って、力-つかみ移動距離曲線から界面剥離強度(N/15mm)を求めた。試験は23℃、湿度50%RHの環境下で行った。なお、本発明の積層体は目止め層上にアンカー層を介して酸素ガスバリア層が形成されていることにより、目止め層と酸素ガスバリア層との層間密着性が向上しているため、本試験により剥離するのは最も界面剥離強度が低い紙製基材/目止め層の界面である。
【0052】
<実施例1>
[水に分散したセルロースナノクリスタル分散液の調製]
パルプを64質量部の硫酸で分解処理及び精製処理した生成物を乾燥処理した。得られた硫酸基含有セルロースナノクリスタルにイオン交換水を加えてミキサーで分散処理することで、水に分散した硫酸基含有セルロースナノクリスタル分散液を得た。前記硫酸基有セルロースナノクリスタルは、硫酸基量0.25mmol/g、セルロース原料由来のカルボキシ基を含むアニオン性官能基の総量0.4mmol/g、平均粒径170~200nm、アスペクト比5~20であった。
【0053】
[セルロースナノクリスタル含有分散液(酸素バリア層形成用分散液)の調製]
前記セルロースナノクリスタル分散液にポリビニルアルコール(完全ケン化型)、合成マイカ(親水性膨潤性雲母)、無水クエン酸、硫酸、を添加して攪拌を行い、さらにpHが7になるまでアンモニアを加えて攪拌し、所定量のイソプロパノールを加えて攪拌することで、セルロースナノクリスタルの固形量が1.0質量部であり、セルロースナノクリスタル100質量部に対してポリビニルアルコール(完全ケン化型)、合成マイカ(親水性膨潤性雲母)、無水クエン酸、硫酸がそれぞれ30質量部、10質量部、10質量部、2質量部であり、溶媒の水/アルコールの混合割合が水90質量部に対してイソプロパノールが10質量部である、固形分濃度が1.52質量%のセルロースナノクリスタル含有分散液「バリア1」を調製した。
【0054】
[アンカー層形成用溶液の調製]
数平均分子量100,000のポリエチレンイミン(以下、「PEI」ということがある)に水とエタノールを加えて希釈分散し、更に軽質炭酸カルシウム(粒径0.2μm)を加えて分散し、PEIが0.5質量部、炭酸カルシウムが1.0質量部であり、溶媒の水/アルコールの混合割合が水50質量部に対してエタノールが50質量部である、固形分濃度が1.5質量%のアンカー層形成用溶液「アンカー1」を調製した。
【0055】
[目止め層形成用溶液の調製]
硫酸基量0.25mmol/g、セルロース原料由来のカルボキシ基を含むアニオン性官能基の総量0.4mmol/g、平均粒径170~200nm、アスペクト比5~20のセルロースナノクリスタル0.25質量部と、アニオン性スチレン・ブタジエン共重合体系エマルジョン(以下、「SBR」ということがある;DIC株式会社製、DS-407H)40質量部とを水に分散させた、固形分濃度が40.25質量%の目止め層形成用溶液を調製した。
【0056】
[積層体の作製]
原紙(一般紙、コッブ吸水度25g/m2、サイズ度300秒、平滑度45秒/10mL、坪量170g/m2)上に、前記目止め層形成用溶液をバーコーターを用いてWet塗布量13g/m2で塗布し、100℃で熱風乾燥することにより目止め層を形成させた。さらに目止め層上に、前記アンカー層形成用溶液「アンカー1」を、バーコーターを用いてWet塗布量12g/m2で塗布し、100℃で熱風乾燥することによりアンカー層を形成させた。さらにアンカー層上に、前記セルロースナノクリスタル含有分散液「バリア1」をバーコーターを用いてWet塗布量60g/m2で塗布し、150℃で熱風乾燥することにより多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタルを含有する混合層(酸素バリア層)が形成されて成る積層体を作製した。
【0057】
<実施例2>
目止め層形成用溶液のセルロースナノクリスタルを0.5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0058】
<実施例3>
目止め層形成用溶液のセルロースナノクリスタルを0.75質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0059】
<実施例4>
目止め層形成用溶液のセルロースナノクリスタルを1.0質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0060】
<実施例5>
目止め層形成用溶液のアニオン性SBRをアニオン性SBR(DIC株式会社製、5275B)に変更した以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0061】
<実施例6>
目止め層形成用溶液のアニオン性SBRをアニオン性アクリロニトリル・ブタジエン系共重合体(NBR;DIC株式会社製、DS-703)に変更した以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0062】
<比較例1>
目止め層形成用溶液のセルロースナノクリスタルを0質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0063】
<比較例2>
目止め層形成用溶液のセルロースナノクリスタルを0質量部に変更した以外は、実施例5と同様にして積層体を作製した。
【0064】
<比較例3>
目止め層形成用溶液のアニオン性SBRをカチオン性SBR(DIC株式会社製、DS-410)に変更した以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0065】
<比較例4>
目止め層形成用溶液のセルロースナノクリスタルを0質量部に変更した以外は、比較例3と同様にして積層体を作製した。
【0066】
<比較例5>
目止め層形成用溶液を塗布しない、すなわち原紙上にアンカー層形成用溶液を塗布する以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0067】
<比較例6>
アンカー層形成用溶液を塗布しない、すなわち目止め層上にセルロースナノクリスタル含有分散液を塗布する以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0068】
本発明の積層体は、耐水性及びガスバリア性に優れていると共に、層間密着性が高いことから、成形負荷がかけられた場合でも層間剥離を生じることがなく、カップ、トレイ等の包装容器に好適に使用できる。