(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015440
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】ボールねじ機構の構成要素及びそのような構成要素を組み込んだ機構
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
F16H25/22 M
F16H25/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024099551
(22)【出願日】2024-06-20
(31)【優先権主張番号】2307660
(32)【優先日】2023-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】507018894
【氏名又は名称】エヌテエヌ ユロップ
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス ソリン
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA16
3J062CD04
3J062CD47
3J062CD54
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ボールねじ機構の耐用年数を増加させる。
【解決手段】第1のフランク32を有する螺旋軌道28は、一定ピッチの螺旋を形成する複数の連続するターンの中間セクション36と、中間セクション36の第1の軸線方向端部40における第1の再循環セクション38と、を含む。第1の理論上の仮想フランク56は、中間セクション36から第1の軸線方向端部40を越えて、一定ピッチで、螺旋軌道28の第1のフランク32の仮想の幾何学的延長部によって画定される。第1の再循環セクション38において、螺旋軌道28の第1のフランク32は、中間セクション36に向かって軸線方向に向けられ、第1の理論上の仮想フランク56に対して軸線方向オフセットD11を有し、螺旋軌道28の第1のフランク32は、第1の理論上の仮想フランク56よりも中間セクション36から更に離れている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボール(16)を案内するために基準軸(100)の周りに螺旋軌道(28)を形成するボールねじ機構(10)の構成要素(14)であって、前記構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)は、軌道基部と、前記軌道基部の両側で互いに対向する第1のフランク(32)及び第2のフランク(34)と、を有し、前記構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)は、Pに等しい一定ピッチの螺旋を形成する1つ以上の連続するターンの少なくとも1つの中間セクション(36)と、前記中間セクション(36)の第1の軸線方向端部(40)における第1の再循環セクション(38)と、前記中間セクション(36)の第2の軸線方向端部(44)における第2の再循環セクション(42)と、を含み、第1の理論上の仮想フランク(56)は、前記中間セクション(36)から前記第1の軸線方向端部(40)及び/又は前記第2の軸線方向端部(44)を越えて、一定のピッチPで、前記構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第1のフランク(32)の仮想の幾何学的延長部によって画定され、
-前記第1の再循環セクション(38)において、前記構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第1のフランク(32)は、前記中間セクション(36)に向かって軸線方向に向けられ、前記第1の理論上の仮想フランク(56)に対して軸線方向オフセットD11を有し、前記構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第1のフランク(32)は、前記第1の理論上の仮想フランク(56)よりも前記中間セクション(36)から更に離れており、かつ/又は
-前記第2の再循環セクション(42)において、前記構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第1のフランク(32)は、前記中間セクション(36)から軸線方向に離れて向けられ、前記第1の理論上の仮想フランク(56)に対して軸線方向オフセットD21を有し、前記構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第1のフランク(32)は、前記第1の理論上の仮想フランク(56)よりも前記中間セクション(36)に近い、構成要素(14)。
【請求項2】
再循環チャネル(46)は、前記第1及び第2の再循環セクションを接続し、口部を介して前記第1及び第2の再循環セクションの各々に開口する、請求項1に記載の構成要素(14)。
【請求項3】
前記第1の再循環セクション(38)に開口する前記再循環チャネル(46)の前記口部に対して接線方向の軸線方向平面で測定された前記軸線方向オフセットD11は、絶対値で1μmよりも大きく、かつ/又は絶対値で25μmよりも小さい、請求項2に記載の構成要素(14)。
【請求項4】
-前記軸線方向オフセットD11は、前記基準軸(100)の周りの角度セクタにわたって、前記中間セクション(36)の前記第1の端部(40)におけるゼロ値から最大値まで絶対値が連続的に増加し、かつ/又は
-前記軸線方向オフセットD21は、前記基準軸(100)の周りの角度セクタにわたって、前記中間セクション(36)の前記第2の端部(44)におけるゼロ値から最大値まで絶対値が連続的に増加する、請求項1~3のいずれか一項に記載の構成要素(14)。
【請求項5】
-前記軸線方向オフセットD11の前記最大値は、前記第1の再循環セクション(38)内に開口する前記再循環チャネル(46)の前記口部に対して接線方向又は割線方向の軸線方向平面内で達成され、かつ/又は
--前記軸線方向オフセットD21の前記最大値は、前記第2の再循環セクション(42)内に開口する前記再循環チャネル(46)の前記口部に対して接線方向又は割線方向の軸線方向平面内で達成される、請求項2又は請求項3と組み合わされた請求項4に記載の構成要素(14)。
【請求項6】
-前記第1の再循環セクション(38)は、10°よりも大きく360°よりも小さく、好ましくは30°よりも大きく、好ましくは180°よりも小さく、好ましくは90°よりも小さい角度セクタにわたって延在し、かつ/又は
-前記第2の再循環セクション(42)は、10°よりも大きく360°よりも小さく、好ましくは30°よりも大きく、好ましくは180°よりも小さく、好ましくは90°よりも小さい角度セクタにわたって延在する、請求項1~5のいずれか一項に記載の構成要素(14)。
【請求項7】
第2の理論上の仮想フランク(58)は、前記中間セクション(36)から前記第1の軸線方向端部(40)及び前記第2の軸線方向端部(44)を越えて、一定のピッチPで、前記構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第2のフランク(34)の仮想の幾何学的延長部によって画定され、
-前記第1の再循環セクション(38)において、前記構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第2のフランク(34)は、前記第2の理論上の仮想フランク(58)に対して軸線方向オフセットD12を有し、前記軸線方向オフセットD12は、任意の軸線方向平面において絶対値で測定され、前記軸線方向オフセットD11以下であり、前記構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第2のフランク(34)は、前記第2の理論上の仮想フランク(58)よりも前記中間セクション(36)から離れており、かつ/又は
-前記第2の再循環セクション(42)において、前記構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第2のフランク(34)は、前記第2の理論上の仮想フランク(58)に対して軸線方向オフセットD22を有し、前記軸線方向オフセットD22は、任意の軸線方向平面において絶対値で測定され、前記軸線方向オフセットD21以下であり、前記構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第2のフランク(34)は、前記第2の理論上の仮想フランク(58)よりも前記中間セクション(36)に近い、請求項1~6のいずれか一項に記載の構成要素(14)。
【請求項8】
-前記軸線方向オフセットD12は、絶対値が前記軸線方向オフセットD11に等しく、かつ/又は
-前記軸線方向オフセットD22は、絶対値が前記軸線方向オフセットD21に等しい、請求項7に記載の構成要素(14)。
【請求項9】
第2の理論上の仮想フランク(58)は、前記中間セクション(36)から前記第1及び第2の軸線方向端部(40,44)を越えて、一定のピッチPで、前記構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第2のフランク(34)の仮想の幾何学的延長部によって画定され、
-前記第1の再循環セクション(38)において、前記構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第2のフランク(34)は、前記第2の理論上の仮想フランク(58)と一致し、かつ/又は
-前記第2の再循環セクション(42)において、前記構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第2のフランク(34)は、前記第2の理論上の仮想フランク(58)と一致する、請求項1~6のいずれか一項に記載の構成要素(14)。
【請求項10】
ボールねじ機構(10)であって、
-螺旋軌道を有する2つの構成要素、すなわちねじ及びナットであって、前記2つの構成要素のうちの第1の構成要素は、請求項1~9のいずれか一項に記載の構成要素であり、前記2つの構成要素のうちの第2の構成要素は、前記ボールねじ機構(10)の基準軸(100)の周りに螺旋軌道(18)を有し、前記第2の構成要素(12)の前記螺旋軌道(18)は、前記基準軸(100)の周りにPに等しい一定ピッチの螺旋を形成する、2つの構成要素と、
-前記第1の構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)と前記第2の構成要素(12)の前記螺旋軌道(18)との間の閉回路内、及び前記再循環チャネル(46)内を循環するように位置決めされたボール(16)と、
を備える、ボールねじ機構(10)。
【請求項11】
前記第2の構成要素(12)の前記螺旋軌道(18)は、軌道基部と、前記軌道基部の両側で互いに対向する第1のフランク(22)及び第2のフランク(24)と、を有し、前記第2の構成要素(12)の前記螺旋軌道(18)の前記第1のフランク(22)は、前記第1の構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第1のフランク(32)と同じ第1の軸線方向(110)に対向し、前記第2の構成要素(12)の前記螺旋軌道(18)の前記第2のフランク(24)は、前記第1の構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第2のフランク(34)と同じ第2の軸線方向(120)に対向し、前記中間セクション(36)において、前記ボール(16)が前記第2の構成要素(12)の前記螺旋軌道(18)の前記第1のフランク(22)及び前記第2のフランク(24)と、前記第1の構成要素(14)の前記軌道(28)の前記第1のフランク(32)とに同時に接触しているとき、前記ボール(16)と前記第1の構成要素(14)の前記螺旋軌道(28)の前記第2のフランク(34)との間に軸線方向構造クリアランスJが存在する、請求項10に記載のボールねじ機構(10)。
【請求項12】
-前記オフセットD11は、前記軸線方向構造クリアランスJよりも小さく、かつ/又は
-前記オフセットD21は、前記軸線方向構造クリアランスJよりも小さく、かつ/又は
-前記軸線方向に平行に測定された前記軸線方向構造クリアランスJは、1μmよりも大きく、かつ/又は
-前記軸線方向に平行に測定された前記軸線方向構造クリアランスJは、25μm未満である、請求項11に記載のボールねじ機構(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ機構、及びナット又はねじのいずれかであり得る、そのような機構のための構成要素に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2017-106583(A2)号公報は、ねじ、ナット及びボールを備えるボールねじ機構を記載している。ねじは、ボールねじ機構の基準軸の周りに一定ピッチPの螺旋軌道を形成する。ナットはまた、基準軸の周りにPに等しい一定ピッチの螺旋軌道を形成し、この軌道は、複数の連続するターンの少なくとも1つの中間セクションと、中間セクションの第1の軸線方向端部における第1の再循環セクションと、中間セクションの第2の軸線方向端部における第2の再循環セクションと、を備える。ナットはまた、第1及び第2の再循環セクションを接続し、口部を介して第1及び第2の再循環セクションの各々に開口する再循環チャネルを形成する。ボールは、ナットの螺旋軌道とねじの螺旋軌道との間の閉回路内、及び再循環チャネル内を循環するように位置決めされる。デフレクタが、ボールを螺旋軌道と再循環チャネルとの間で案内するよう再循環チャネルの口部に位置決めされている。
【0003】
このタイプのボールねじでは、デフレクタにもかかわらず、ボールと再循環チャネルの口部に形成された鋭い縁部との間の接触に起因するボールのチッピングが観察される。このチッピングは、ボールねじの耐用年数を著しく低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来技術の欠点を克服し、ボールねじ機構の耐用年数を増加させる手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、ボールを案内するために基準軸の周りに螺旋軌道を形成するボールねじ機構の構成要素が提案され、構成要素の螺旋軌道は、軌道基部と、軌道基部の両側で互いに対向する第1のフランク及び第2のフランクとを有し、構成要素の螺旋軌道は、Pに等しい一定ピッチの螺旋を形成する1つ以上の連続するターンの少なくとも1つの中間セクションと、中間セクションの第1の軸線方向端部における第1の再循環セクションと、中間セクションの第2の軸線方向端部における第2の再循環セクションと、を含み、第1の理論上の仮想フランクは、中間セクションから第1の軸線方向端部及び/又は第2の軸線方向端部を越えて一定ピッチPで、構成要素の螺旋軌道の第1のフランクの仮想の幾何学的延長部によって画定される。構成要素は、
-第1の再循環セクションにおいて、構成要素の螺旋軌道の第1のフランクが、中間セクションに向かって軸線方向に向けられ、第1の理論上の仮想フランクに対して軸線方向オフセットD11を有し、構成要素の螺旋軌道の第1のフランクは、第1の理論上の仮想フランクよりも中間セクションから更に離れており、かつ/又は
-第2の再循環セクションにおいて、構成要素の螺旋軌道の第1のフランクが、中間セクションから軸線方向に離れて向けられ、第1の理論上の仮想フランクに対して軸線方向オフセットD21を有し、構成要素の螺旋軌道の第1のフランクは、第1の理論上の仮想フランクよりも中間セクションに近い。
【0007】
軸線方向オフセットは、螺旋軌道上を転動するボールに加えられる力を低減し、第1及び/又は第2の再循環セクション内にクリアランスを生成して、ボール再循環を容易にする。
【0008】
一実施形態によれば、再循環チャネルは、第1及び第2の再循環セクションを接続し、口部を介して第1及び第2の再循環セクションの各々に開口する。口部は、基準軸を含む同じ平面内に位置合わせすることができる。特に、再循環チャネルの口部は、軸線方向オフセットが、ボールがもはや負荷を受けないことを確実にする場所である。ボールと再循環チャネル口部の縁部との間の接触を回避するのに必要な軸線方向オフセットは小さい。実際には、例えば、第1の再循環セクション内に開口する再循環チャネルの口部に対して接線方向の軸線方向平面において測定された軸線方向オフセットD11は、絶対値で1μmよりも大きく、かつ/又は絶対値で25μmよりも小さくてもよい。
【0009】
一実施形態では、軸線方向オフセットD11は、基準軸の周りの角度セクタにわたって、中間セクションの第1の端部におけるゼロ値から最大値まで絶対値が連続的に増加する。
【0010】
一実施形態では、軸線方向オフセットD21は、基準軸の周りの角度セクタにわたって、中間セクションの第2の端部におけるゼロ値から最大値まで絶対値が連続的に増加する。
【0011】
好ましくは、軸線方向オフセットD11の最大値は、第1の再循環セクションに開口する再循環チャネルの口部に対して接線方向又は割線方向の軸線方向平面内で達成される。
【0012】
好ましくは、軸線方向オフセットD21の最大値は、第2の再循環セクションに開口する再循環チャネルの口部に対して接線方向又は割線方向の軸線方向平面内で達成される。
【0013】
したがって、回転方向に応じた力の減少又は増加は、ボールの経路に沿って漸進的である。
【0014】
一実施形態では、第1の再循環セクションは、10°よりも大きく360°よりも小さく、好ましくは30°よりも大きく、より好ましくは180°よりも小さく、最も好ましくは90°よりも小さい角度セクタにわたって延在する。
【0015】
一実施形態では、第2の再循環セクションは、10°よりも大きく360°よりも小さく、好ましくは30°よりも大きく、より好ましくは180°よりも小さく、最も好ましくは90°よりも小さい角度セクタにわたって延在する。
【0016】
したがって、2つの目的が両立しており、一方の目的は、ねじとナットとの間で伝達される負荷のための中間セクションによって構成される有用な部分を最大化することであり、他方の目的は、ナットの再循環セクションによって構成される移行部分における良好なボール案内を確実にすることである。
【0017】
オフセットD11及びオフセットD21は、構成要素によってボールに及ぼされる力の軸線方向成分が一方向を指すときに有用であり、力が一方向である用途では十分であり得る。
【0018】
構成要素が、その軸線方向成分が双方向である力を受ける可能性が高いと仮定すると、有利には、中間セクションから第1の軸線方向端部及び第2の軸線方向端部を越えて、一定のピッチPで、構成要素の螺旋軌道の第2のフランクの仮想の幾何学的延長部によって画定される第2の理論上の仮想フランクが提供される。一実施形態では、構成要素の螺旋軌道の第2のフランクは、第1の再循環セクションにおいて、第2の理論上の仮想フランクに対する軸線方向オフセットD12を有し、軸線方向オフセットD12は、任意の軸線方向平面において絶対値で測定され、軸線方向オフセットD11以下であり、構成要素の螺旋軌道の第2のフランクは、第2の理論上の仮想フランクよりも中間セクションから離れている。好ましくは、軸線方向オフセットD12は、絶対値が軸線方向オフセットD11に等しい。
【0019】
代替的に、第1の再循環セクションにおいて、構成要素の螺旋軌道の第2のフランクは、第2の理論上の仮想フランクと一致するようにされ得る。
【0020】
一実施形態では、構成要素の螺旋軌道の第2のフランクは、第2の再循環セクションにおいて、第2の理論上の仮想フランクに対する軸線方向オフセットD22を有し、軸線方向オフセットD22は、任意の軸線方向平面において絶対値で測定され、軸線方向オフセットD21以下であり、構成要素の螺旋軌道の第2のフランクは、第2の理論上の仮想フランクよりも中間セクションに近い。好ましくは、軸線方向オフセットD22は、絶対値が軸線方向オフセットD21に等しい。
【0021】
代替的に、第2の再循環セクションにおいて、構成要素の螺旋軌道の第2のフランクは、第2の理論上の仮想フランクと一致するようにされ得る。
【0022】
本発明の別の態様は、ボールねじ機構に関し、ボールねじ機構は、螺旋軌道を有する2つの構成要素、すなわちねじ及びナットであって、2つの構成要素のうちの第1の構成要素は、先行請求項のいずれか一項に記載の構成要素であり、2つの構成要素のうちの第2の構成要素は、ボールねじ機構の基準軸の周りに螺旋軌道を有し、第2の構成要素の螺旋軌道は、基準軸の周りにPに等しい一定ピッチの螺旋を形成する、2つの構成要素と、第1の構成要素の螺旋軌道と第2の構成要素の螺旋軌道との間の閉回路内、及び再循環チャネル内を循環するように位置決めされたボールと、を備える。
【0023】
一実施形態によれば、第2の構成要素の螺旋軌道は、軌道基部と、軌道基部の両側で互いに対向する第1のフランク及び第2のフランクと、を有し、第2の構成要素の螺旋軌道の第1のフランクは、第1の構成要素の螺旋軌道の第1のフランクと同じ第1の軸線方向に対向し、第2の構成要素の螺旋軌道の第2のフランクは、第1の構成要素の螺旋軌道の第2のフランクと同じ第2の軸線方向に対向し、中間セクションにおいて、ボールが第2の構成要素の螺旋軌道の第1のフランク及び第2のフランクと、第1の構成要素の軌道の第1のフランクとに同時に接触しているとき、ボールと第1の構成要素の螺旋軌道の第2のフランクとの間に軸線方向構造クリアランスJが存在する。
【0024】
オフセットの大きさを決めるときに、この構造的なクリアランスを考慮に入れることが有利である。好ましくは、オフセットD11は、軸線方向クリアランスJよりも小さい。好ましくは、オフセットD21は、軸線方向クリアランスJよりも小さい。好ましくは、軸線方向に平行に測定された軸線方向構造クリアランスJは、1μmよりも大きい。好ましくは、軸線方向に平行に測定された軸線方向構造クリアランスJは、25μm未満である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】ボールねじ機構のナット及びねじの軌道及び/又は再循環チャネル上を循環するボールを特に示す、ボールねじ機構の斜視軸線方向断面図である。
【
図2】
図1に示すボールねじ機構の軸線方向断面図である。
【
図3】ボールねじ機構の軌道上を循環するボールの位置決めの概略図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態によるナット軌道の第1の端部セクションの詳細図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態によるナット軌道の第2の端部セクションの詳細図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態によるナット軌道の第1の端部セクションの詳細図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態によるナット軌道の第2の端部セクションの詳細図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態によるナット軌道の第1の端部セクションの詳細図である。
【
図9】本発明の第3の実施形態によるナット軌道の第2の端部セクションの詳細図である。
【
図10】ボールと軌道面との間に形成されるクリアランスを示すボールねじ機構の概略断面図である。
【
図11】ボールと軌道との間に形成されるクリアランスを説明するためのボールねじ機構の他の概略断面図である。
【0026】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図面を参照しながら以下の説明を読めば明らかになるであろう。
【0027】
より明確にするために、同一又は類似の要素は、全ての図において同一の参照符号によって識別される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1及び
図2は、2つのねじ山構成要素、すなわちねじ12及びナット14と、ボール16と、を備えるボールねじ機構10を示している。
【0029】
ねじ12は、金属、例えば鋼で作られ、ボールねじ機構10の基準軸100の周りに螺旋軌道18を形成し、基準軸100から径方向に離れて面している。この螺旋軌道18は、軌道基部20と、軌道基部20の両側で互いに対向する第1のフランク22及び第2のフランク24と、を有する、基準軸100の周りの一定のピッチPの螺旋状の包絡線を有し、第1のフランク22は基準軸100の第1の軸線方向110に対向し、第2のフランク24は基準軸100の第2の軸線方向120に対向する。ねじ12の螺旋軌道18のフランク22、24は、好ましくは、螺旋軌道18の母線に対して垂直な平面において凹状断面、例えば円弧を有し、軌道基部20のいずれかの側に延在する対角線リブ、又は連続円弧を形成することができる。
【0030】
ナット14は、金属、例えば鋼で作られ、基準軸100の周りで基準軸100に対向する螺旋軌道28を形成し、軌道基部30と、軌道基部30の両側で互いに対向する第1のフランク32及び第2のフランク34と、を有し、第1のフランク32は基準軸100の第1の軸線方向110に対向し、第2のフランク34は基準軸100の第2の軸線方向120に対向する。ナット14の螺旋軌道28の基部30は、基準軸100から一定の距離にある。
【0031】
ナット14の螺旋軌道28は、Pに等しい一定ピッチの螺旋を形成する複数の連続するターンの中間セクション36と、中間セクション36の第1の軸線方向端部40における第1の再循環セクション38と、中間セクション36の第2の軸線方向端部44における第2の再循環セクション42と、を含む。少なくとも中間セクション36において、ナット14の螺旋軌道28のフランク32、34は、好ましくは、螺旋軌道28の母線に対して垂直な平面において凹状断面、例えば円弧を有し、軌道基部30の両側に延在する対角線リブを形成することができる。
【0032】
ナット14はまた、再循環チャネル46を形成し、この再循環チャネルは、第1の再循環セクション38を第2の再循環セクション42に接続し、口部48、50を介して第1及び第2の再循環セクション38、42の各々に開口する。各口部48、50の縁部は、鋭い縁部を形成することができる。デフレクタ52、54は、ボール16が再循環チャネル46の入口又は出口で方向を変えるときにボール16を案内するために、好ましくはインサートとして、場合によってはプラスチック又は金属で作られて、口部48、50に配置される。
【0033】
ボール16は、例えば鋼又はセラミックで作ることができ、ナット14の螺旋軌道28とねじ12の螺旋軌道との間の閉回路内、並びに再循環チャネル46内を、好ましくはボール16の間にセパレータなしで循環するようにサイズ決め及び位置決めされる。
【0034】
軌道及びボール16は、好ましくは、中央セクション36において、ボール16がねじ12の螺旋軌道の第2のフランク24及びナット14の軌道28の第1のフランク32と同時に接触しているとき、ボール16とナット14の螺旋軌道28の第2のフランク34との間に軸線方向の構造的クリアランスJが存在するような寸法にされる。軸線方向に対して平行に測定されたこの軸線方向構造クリアランスJは、好ましくは、1μmよりも大きく25μmよりも小さく、
図4に概略的に誇張して示されている。
【0035】
循環セクションにおけるナット14の螺旋軌道28を説明するために、第1の理論上の仮想フランク56(
図4~
図9の破線)は、中間セクション36から第1の端部40及び第2の端部44を越えて、一定のピッチPで、ナット14の螺旋軌道28の第1のフランク32の仮想の幾何学的延長部として幾何学的に画定することができる。同様に、第2の理論上の仮想フランク58(
図4~
図9の破線)は、中間セクション36から軸線方向の第1の端部40及び第2の端部44を越えて、一定のピッチPで、ナット14の螺旋軌道28の第2のフランク34の仮想の幾何学的延長部として幾何学的に画定することができる。
【0036】
第1の再循環セクション38において、
図4に示すように、ナット14の螺旋軌道28の第1のフランク32は、第1の方向110で中間セクション36に向かって軸線方向に対向し、第1の理論上の仮想フランク56に対して軸線方向オフセットD11を有し、ナット14の螺旋軌道28の第1のフランク32は、第1の理論上の仮想フランク56よりも中間セクション36から更に離れている。第1の再循環セクション38は、
図10及び11に示す、10°よりも大きく360°よりも小さく、好ましくは30°よりも大きく、より好ましくは180°よりも小さく、最も好ましくは90°よりも小さい角度セクタAにわたって延在する。好ましくは、軸線方向オフセットD11は、基準軸100の周りの角度セクタにわたって、中間セクション36の第1の端部40におけるゼロ値から最大値まで絶対値が連続的に増加し、好ましくは連続的なドリフトを有する。軸線方向オフセットD11は、第1の再循環セクション38内に開口する再循環チャネル46の口部48に対して接線方向であるか又はこれと交差する軸線方向平面において最大値に達する。第1の再循環セクション38に開口する再循環チャネル46の口部48に対して接線方向の軸線方向平面において測定される軸線方向オフセットD11は、絶対値で1μmよりも大きく、好ましくは絶対値で25μm未満である。それは、好ましくは、軸線方向構造クリアランスJよりも小さい。
【0037】
同様に、第2の再循環セクション42において、
図5に示すように、ナット14の螺旋軌道28の第1のフランク32は、中間セクション36から軸線方向に離れて対向し、第1の理論上の仮想フランク56に対して軸線方向オフセットD21を有し、ナット14の螺旋軌道28の第1のフランク32は、第1の理論上の仮想フランク56よりも中間セクション36に近い。第2の再循環セクション42は、10°よりも大きく360°よりも小さく、好ましくは30°よりも大きく、より好ましくは180°よりも小さく、最も好ましくは90°よりも小さい角度セクタにわたって延在する。好ましくは、軸線方向オフセットD21は、絶対値が連続的に増加し、好ましくは、基準軸100の周りの角度セクタにわたって、中間セクション36の第2の端部44におけるゼロ値から最大値まで連続的にドリフトする。軸線方向オフセットD21は、第2の再循環セクション42に開口する再循環チャネル46の口部50に対して接線方向であるか又はこれと交差する軸線方向平面において最大値に達する。第2の再循環セクション42に開口する再循環チャネル46の口部50に対して接線方向の軸線方向平面において測定される軸線方向オフセットD21は、絶対値で1μmより大きく、好ましくは絶対値で25μm未満である。それは、好ましくは、軸線方向構造クリアランスJよりも小さい。
【0038】
第1のフランク32の漸進的なオフセットは、第1の再循環セクション38及び第2の再循環セクション42において循環するボール16が、特に、中間セクション36において、力がボール16によってナット14の第1のフランク32に加えられるようにボールねじ機構が負荷されるときに、漸進的に無負荷にされることを可能にする。
【0039】
第1の再循環セクション38において、ナット14の螺旋軌道28の第2のフランク34は、第2の理論上の仮想フランク58に対して軸線方向オフセットD12を任意に有してもよく、軸線方向オフセットD12は、任意の軸線方向平面において絶対値で測定され、軸線方向オフセットD11以下であり、ナット14の螺旋軌道28の第2のフランク34は、第2の理論上の仮想フランク58よりも中間セクション36から更に離れている。
図4に示す例では、軸線方向オフセットD12は、絶対値が軸線方向オフセットD11に等しい。
【0040】
同様に、ナット14の螺旋軌道28の第2のフランク34は、
図5に示すように、第2の再循環セクション42において第2の理論上の仮想フランク58に対して軸線方向オフセットD22を有してもよく、軸線方向オフセットD22は、任意の軸線方向平面において絶対値で測定され、軸線方向オフセットD21以下であり、ナット14の螺旋軌道28の第2のフランク34は、第2の理論上の仮想フランク58よりも中間セクション36に近い。
【0041】
第2のフランク34の漸進的なオフセットは、第1の再循環セクション38及び第2の再循環セクション42において循環するボール16が、特に、中間セクション36において、力がボール16によってナット14の第2のフランク34に加えられるようにボールねじ機構が負荷されるときに、漸進的に無負荷にされることを可能にする。したがって、第2のフランク34の漸進的なオフセットは、ボールねじ機構10が双方向の軸線方向の合力を受ける可能性がある用途において有用である。
【0042】
第2の実施形態では、特に力が一方向である用途の場合、ナット14の螺旋軌道28の第2のフランク34は、
図6及び
図7に示すように、第1及び/又は第2の再循環セクション42において第2の理論上の仮想フランク58と一致することができる。
【0043】
図8及び
図9に示す別の実施形態によれば、第1の再循環セクション38において、ナット14の螺旋軌道28の第2のフランク34は、第2の理論上の仮想フランク58に対して軸線方向オフセットD12を有し、軸線方向オフセットD12は、任意の軸線方向平面において絶対値で測定され、軸線方向オフセットD11以下であり、ナット14の螺旋軌道28の第2のフランク34は、今度は、第2の理論上の仮想フランク58よりも中間セクション36に近い。
図4に示す例では、軸線方向オフセットD12は、絶対値が軸線方向オフセットD11に等しい。
【0044】
同様に、ナット14の螺旋軌道28の第2のフランク34は、
図5に示すように、第2の再循環セクション42において第2の理論上の仮想フランク58に対して軸線方向オフセットD22を有してもよく、軸線方向オフセットD22は、任意の軸線方向平面において絶対値で測定され、軸線方向オフセットD21以下であり、ナット14の螺旋軌道28の第2のフランク34は、第2の理論上の仮想フランク58よりも中間セクション36から更に離れている。
【0045】
一実施形態では、固定ピッチ軌道がナットに提供され、可変ピッチ軌道及び再循環軌道がねじに提供されるという意味で、2つのねじ山構成要素が逆にされる。
【外国語明細書】