(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025154450
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】鉄基アモルファス合金、その粉粒体、及びその圧粉材
(51)【国際特許分類】
C22C 45/02 20060101AFI20251002BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20251002BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20251002BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20251002BHJP
B22F 1/08 20220101ALI20251002BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20251002BHJP
H01F 1/20 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
C22C45/02 A
B22F1/05
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
B22F1/08
H01F1/153 108
H01F1/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024057454
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】水野 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】木野 泰志
(72)【発明者】
【氏名】林 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】横井 聡汰
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018AA26
4K018BA13
4K018BB04
4K018BB07
4K018BD01
4K018KA43
4K018KA61
5E041AA11
5E041AA19
5E041BD03
5E041NN01
5E041NN06
5E041NN12
5E041NN15
(57)【要約】
【課題】鉄基アモルファス合金において、高い飽和磁化Msと、低い保磁力Hcとを両立すること。
【解決手段】鉄基アモルファス合金は、組成式FeaSibBcPdCeで表される鉄基アモルファス合金であり、組成比aは、76.0≦a≦80.0を満たし、組成比bは、3.0≦b≦6.9を満たし、組成比cは、9.9≦c≦14.0を満たし、組成比dは、0.8≦d≦4.6を満たし、組成比eは、1.0≦e≦4.1を満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式FeaSibBcPdCeで表される鉄基アモルファス合金であって、
各元素の組成比a、b、c、d、及びeを百分率により表す場合に、
a、b、c、d、及びeの和は、97.0≦a+b+c+d+e≦100であり、
Feの組成比aは、76.0≦a≦80.0を満たし、
Siの組成比bは、3.0≦b≦6.9を満たし、
Bの組成比cは、9.9≦c≦14.0を満たし、
Pの組成比dは、0.8≦d≦4.6を満たし、
Cの組成比eは、1.0≦e≦4.1を満たす、鉄基アモルファス合金。
【請求項2】
組成比b及び組成比cは、15.0≦b+c≦18.0を満たし、
組成比d及び組成比eは、4.0≦d+e≦6.0を満たす、請求項1に記載の鉄基アモルファス合金。
【請求項3】
保磁力HcがHc≦300A/mを満たし、且つ、
飽和磁化MsがMs≧155emu/gを満たす、請求項1又は2に記載の鉄基アモルファス合金。
【請求項4】
結晶化温度Txとガラス転移温度Tgとの差である過冷度ΔTxがΔTx≧100Kを満たし、且つ、
飽和磁化MsがMs≧155emu/gを満たす、請求項1又は2に記載の鉄基アモルファス合金。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の鉄基アモルファス合金からなる粉粒体。
【請求項6】
平均粒径D50が0.5μm≦D50≦50μmを満たす、請求項5に記載の粉粒体。
【請求項7】
請求項5に記載の粉粒体からなる圧粉材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄基アモルファス合金、その粉粒体、及びその圧粉材に関する。
【背景技術】
【0002】
軟磁性を有する鉄基アモルファス合金の粉粒体は、高い加工性を有するため、バルク材での利用に加えて、リボン状や、ワイヤー状や、粉粒体など、様々な形状及びサイズに加工され、幅広く利用されている。例えば、鉄基アモルファス合金の粉粒体を圧粉成形することにより得られる圧粉材のなかには、優れた磁気特性を示すものが多数存在する。そのため、鉄基アモルファス合金製の圧粉材は、有力な磁性材料といえる。
【0003】
特許文献1には、Gaや、Pdや、Zrなどの非常に高価な材料を使用せずに比較的安価に製造可能な鉄基アモルファス合金として、Fe、Si、B、P、及びCと、過冷度改善元素Mとからなる鉄基アモルファス合金が記載されている。ここで、過冷度改善元素Mは、鉄基アモルファス合金のアモルファス化を容易にする機能を有する元素である。特許文献1では、過冷度改善元素MとしてNb及びMoが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、軟磁性の磁性材料として鉄基アモルファス合金を利用する場合、鉄基アモルファス合金には、高い飽和磁化Ms(又は飽和磁束密度Bs)と低い保磁力Hcとが求められる傾向がある。なお、特許文献1においては、飽和磁化Msの代わりに飽和磁束密度Bsを用いている。飽和磁束密度Bsは、飽和磁化Msから換算可能であるので、特許文献1に記載の鉄基アモルファス合金について説明する場合には飽和磁束密度Bsを用いる。
【0006】
高い飽和磁化Msを得るためには、端的には、鉄基アモルファス合金に含まれるFeの量を増やせばよい。ただし、鉄基アモルファス合金におけるFeの組成比を高めれば高めるほど、アモルファス相に加えて結晶相が析出しやすくなる。鉄基アモルファス合金の製造者は、鉄基アモルファス合金のアモルファス化を容易にし、結晶相の析出を抑制するために、各元素の組成比を設計する場合が多い。すなわち、製造者は、所望の飽和磁化Ms及び保磁力Hcを両立できるように、各元素の組成比を設計する場合が多い。
【0007】
実際に特許文献1の表3及び表4を参照すると、鉄基アモルファス合金の各実施例について、過冷度ΔTx及び飽和磁束密度Bsが記載されている。なお、特許文献1では、保磁力Hcが記載されていないものの、その代わりとなる指標として過冷度ΔTxが用いられている。過冷度ΔTxは、鉄基アモルファス合金におけるアモルファス化の容易さを表す指標として利用されている。過冷度ΔTxは、その値が大きいほどアモルファス化が容易な傾向を有する。
【0008】
これらの実施例の中で、最も高い飽和磁束密度Bsを示す鉄基アモルファス合金は、実施例4-1であり、最も大きい過冷度ΔTxを示す鉄基アモルファス合金は、実施例3-6である。実施例4-1は、40.2の過冷度ΔTxと、1.53Tの飽和磁束密度Bsとを示す。また、実施例3-6は、52.8の過冷度ΔTxと、1.13Tの飽和磁束密度Bsとを示す。
【0009】
このように、鉄基アモルファス合金は、飽和磁化Ms及び保磁力Hcのうち、何れか一方の磁気特性を高めようとすると他方の磁気特性が低下する傾向を有する。言い替えれば、鉄基アモルファス合金においては、高い飽和磁化Msと、低い保磁力Hc(又は大きな過冷度ΔTx)とを両立することが難しい。
【0010】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、組成式FeaSibBcPdCeで表される鉄基アモルファス合金において、高い飽和磁化Msと、低い保磁力Hcとを両立することである。より具体的には、その目的は、保磁力HcがHc≦300A/mであり、且つ、飽和磁化MsがMs≧155emu/gである鉄基アモルファス合金の粉粒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る鉄基アモルファス合金は、組成式FeaSibBcPdCeで表される鉄基アモルファス合金である。本鉄基アモルファス合金においては、各元素の組成比a、b、c、d、及びeを百分率により表す場合に、a、b、c、d、及びeの和は、97.0≦a+b+c+d+e≦100であり、Feの組成比aは、76.0≦a≦80.0を満たし、Siの組成比bは、3.0≦b≦6.9を満たし、Bの組成比cは、9.9≦c≦14.0を満たし、Pの組成比dは、0.8≦d≦4.6を満たし、Cの組成比eは、1.0≦e≦4.1を満たす、構成が採用されている。
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る粉粒体は、上述した鉄基アモルファス合金からなる。
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る圧粉材は、上述した粉粒体からなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、組成式FeaSibBcPdCeで表される鉄基アモルファス合金において、高い飽和磁化Msと、低い保磁力Hcとを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施例である鉄基アモルファス合金のDSC曲線のグラフである。
【
図2】(a)は、本発明の一実施例及び一比較例である各鉄基アモルファス合金における保磁力を、Siの組成比a及びBの組成比cが張る空間にプロットした散布図である。(b)は、各鉄基アモルファス合金における保磁力を、Siの組成比a及びPの組成比dが張る空間にプロットした散布図である。(c)は、各鉄基アモルファス合金における保磁力を、Siの組成比a及びCの組成比eが張る空間にプロットした散布図である。(d)は、各鉄基アモルファス合金における保磁力を、Bの組成比c及びPの組成比dが張る空間にプロットした散布図である。(e)は、各鉄基アモルファス合金における保磁力を、Bの組成比c及びCの組成比eが張る空間にプロットした散布図である。(f)は、各鉄基アモルファス合金における保磁力を、Pの組成比d及びCの組成比eが張る空間にプロットした散布図である。
【
図3】各鉄基アモルファス合金における保磁力を、Siの組成比bとBの組成比cとの和、及び、Pの組成比dとCの組成比eとの和が張る空間にプロットした散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔実施形態1〕
本発明の実施形態1に係る鉄基アモルファス合金ついて説明する。本実施形態の鉄基アモルファス合金は、組成式FeaSibBcPdCeで表される鉄基アモルファス合金である。本実施形態では、Fe、Si、B、P、及びCの各元素の組成比a、b、c、d、及びeを百分率により表す。a、b、c、d、及びeの和は、97.0≦a+b+c+d+e≦100である。すなわち、本実施形態の鉄基アモルファス合金は、Fe、Si、B、P、及びC以外の元素を不純物元素と称する場合に、組成比が2.0未満であれば、不純物元素を含んでいてもよい。また、本実施形態の鉄基アモルファス合金は、Feの組成比aは、76.0≦a≦80.0を満たし、Siの組成比bは、3.0≦b≦6.9を満たし、Bの組成比cは、9.9≦c≦14.0を満たし、Pの組成比dは、0.8≦d≦4.6を満たし、Cの組成比eは、1.0≦e≦4.1を満たす。なお、以下においては、組成比a、b、c、d、及びeに代表される組成比の単位としてat%を用いる。また、組成比a、b、c、d、及びeに代表される組成比を表記するときに、小数点以下の2桁目を四捨五入し、小数点以下の1桁目までを用いる。
【0017】
なお、不純物の典型的な例としては、O(酸素)が挙げられる。本実施形態の鉄基アモルファス合金においては、Feの組成比が最も高い。そのため、鉄基アモルファス合金の表面には、主にFeが大気中に含まれる酸素によって酸化されることにより生じる酸化皮膜が形成されやすい。また、固体における表面の影響は、その固体のサイズが小さくなればなるほど顕著になる。サイズが小さくなればなるほど、体積に対する表面積の割合が大きくなるためである。実施形態2において後述するように、鉄基アモルファス合金の態様が粉粒体である場合、Oの組成比が1.0を超え3.0に迫る場合もあり得る。とはいえ、Oの組成比が3.0未満である鉄基アモルファス合金においては、高い飽和磁化Msと、低い保磁力Hcとを両立可能である。したがって、組成比が3.0未満である不純物元素は、鉄基アモルファス合金に含まれていてもよい。なお、不純物元素の組成比は、低いことが好ましく、2.0未満であってもよいし、1.0未満であってもよい。
【0018】
また、本実施形態の鉄基アモルファス合金において、組成比b及び組成比cは、15.0≦b+c≦18.0を満たし、組成比d及び組成比eは、4.0≦d+e≦6.0を満たす、ことが好ましい。
【0019】
なお、各組成比a、b、c、d、及びeの例としては、a:b:c:d:e=78.45:4.15:13:0.95:3.45が挙げられる。
【0020】
本実施形態での合金では、特許文献1の各実施例の合金と比較して、Bを多く含んでいる。すなわち、組成比cとしてより大きな値を採用している。この構成によれば、合金の密度を高めることができるので、飽和磁化Msを向上させることができる。そのうえで、Fe及びB以外の元素(すなわち、Si、P、及びC)の組成比を調整することによって、高い飽和磁化Msと低い保磁力Hcとを両立可能な合金を実現している。
【0021】
また、本実施形態の鉄基アモルファス合金においては、保磁力HcがHc≦300A/mを満たし、且つ、飽和磁化MsがMs≧155emu/gを満たす、ことが好ましい。なお、鉄基アモルファス合金の磁気特性(本実施形態では、保磁力Hc及び飽和磁化Ms)は、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer、VSM)及び超伝導量子干渉デバイス(Superconducting Quantum Interference Device、SQUID)磁束計に代表される磁気測定装置を用いて測定可能である。
【0022】
また、本実施形態の鉄基アモルファス合金は、結晶化温度Txとガラス転移温度Tgとの差である過冷度ΔTxがΔTx≧100Kを満たし、且つ、飽和磁化MsがMs≧155emu/gを満たす、構成であってもよい。なお、結晶化温度は、再結晶化開始温度とも呼ばれる。飽和磁化Msの測定方法は、上述した通りである。一方、過冷度ΔTxは、鉄基アモルファス合金の示差走査熱量(differential scanning calory、DSC)を測定したうえで、その測定結果であるDSC曲線から求めることができる。例えば、日本工業規格(JIS) H 7151-1991「アモルファス金属の結晶か温度測定方法」に記載された方法を用いてDSC測定を実施し、過冷度ΔTxを求めることができる。
【0023】
JIS H 7151-1991によれば、10℃/minの加熱速度で温度を上昇させることが好ましく、測定装置は、常にDSC曲線のベースラインができるだけ温度軸に平行な直線になるように調整されていることが好ましい。この調整は、DSC測定装置が自動的に実施するベースライン調整であってもよい。
【0024】
また、JIS H 7151-1991には、DSC曲線の発熱ピークが複数ある場合には、ベースラインBLxと、接線TLxとの交点を結晶化温度Txと定めることが記載されている。ここで、ベースラインBLxは、結晶化に伴う十分な熱量の放出が認められるピークのうちで、最も低い温度の発熱ピークの低温側におけるベースラインの高温側への延長線であり、接線TLxは、発熱ピークの低温側の曲線のうち勾配が最大となる点における接線である。なお、JIS H 7151-1991には、ガラス転移温度Tgの定め方が記載されていない。とはいえ、結晶化温度Txの定め方をガラス転移温度Tgにも適用すれば以下の通りである。すなわち、DSC曲線の吸熱ピークが複数ある場合には、ベースラインBLgと、接線TLgとの交点をガラス転移温度Tgと定めることができる。ここで、ベースラインBLgは、ガラス転移に伴う十分な熱量の吸収が認められるピークのうちで、最も高い温度の吸熱ピークの低温側におけるベースラインの高温側への延長線であり、接線TLgは、吸熱ピークの低温側の曲線のうち勾配が最大となる点における接線である。
【0025】
図1の(a)は、本実施形態の鉄基アモルファス合金の一実施例により得られたDSC曲線のグラフである。
図1の(b)は、
図1の(a)に示すグラフの拡大図であって、温度の上昇に伴い鉄基アモルファス合金が発熱する発熱領域RGの拡大図である。
図1の(b)には、ベースラインBLx及び接線TLxを図示している。
図1の(c)は、
図1の(a)に示すグラフの拡大図であって、温度の上昇に伴い鉄基アモルファス合金が吸熱する吸熱領域RAの拡大図である。
【0026】
図1の(a)に示すDSC曲線には、発熱領域RGに存在する3つのピークPG1,PG2,PG3と、吸熱領域RAに存在する1つのピークPA1と、が存在する。3つのピークPG1,PG2,PG3のうち最も低い温度に位置するのは、ピークPG1である。したがって、ベースラインBLxと、ピークPG1における接線TLxとの交点を結晶化温度Txとする。
図1によれば、結晶化温度Txは、約510℃である。同様に、上述した方法でガラス転移温度Tgを定めたところ、約290℃であった。したがって、ΔTx=Tx-Tgで定義される過冷度ΔTxは、約220℃となる。
【0027】
以上のように構成された鉄基アモルファス合金は、実施形態2において後述する粉粒体の原料として好適に用いることができる。
【0028】
なお、本実施形態の鉄基アモルファス合金を製造する製造方法は、特に限定されないので、既存の合金の製造方法のなかから適宜選択することができる。したがって、ここでは、製造方法に関する説明を省略する。
【0029】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2に係る粉粒体について説明する。本実施形態の粉粒体は、実施形態1に係る鉄基アモルファス合金を材料として製造された粉粒体である。すなわち、本実施形態の粉粒体は、実施形態1において説明した合金からなる。
【0030】
本実施形態では、実施形態1に係る鉄基アモルファス合金を材料として粉粒体を製造する製造方法として水アトマイズ法を用いる。水アトマイズ法は、平均粒径D50が比較的小さい粉粒体を製造するのに好適な製造方法である。水アトマイズ法を用いることによって、平均粒径D50が50μm以下である粉粒体を製造することができる。なお、水アトマイズ法で製造することができる粉粒体の下限値は、現時点において、0.5μmである。したがって、本実施形態に係る粉粒体は、平均粒径D50が0.5μm≦D50≦50μmを満たすことができる。さらに、本実施形態に係る粉粒体は、平均粒径D50が0.5μm≦D50≦20μmを満たすことができる。粉粒体の平均粒径D50を小径化できることによって、実施形態3において説明する圧粉材であって、電子部品などに用いる圧粉材をより小型化することができる。
【0031】
なお、水アトマイズ法については、特開2003-034849号公報や、特開2021-055182号公報などに記載されている。したがって、ここでは水アトマイズ法に関する説明を省略する。
【0032】
また、本実施形態の粉粒体の製造方法は、水アトマイズ法に限定されず、SWAP法やガスアトマイズ法などの製造方法であってもよい。
【0033】
〔実施形態3〕
本発明の実施形態3に係る圧粉材は、実施形態2に係る粉粒体を原料として、当該粉粒体を圧粉成形することによって得られる。したがって、本実施形態の圧粉材は、実施形態2に係る粉粒体からなる。
本実施形態に係る圧粉材では、原料として用いる粉粒体の平均粒径D50を上述したように小径化できる。そのため、本実施形態の圧粉材は、従来の圧粉材と比較して小型化を図ることができる。
【実施例0034】
本発明の複数の実施例である実施例群について、表1及び表2を参照して説明する。
【0035】
表1は、各合金について、組成比、鉄の含有量、合金密度、飽和磁化Ms、飽和磁束密度Bs、及び、保磁力Hcをまとめた表である。表1においては、組成比a~e、合金密度、飽和磁化Ms、及び保磁力Hcの各々について、値の大きさに応じて表記する小数点以下の桁数を変化させている。具体的には、組成比a及び飽和磁化Msは、小数点以下1桁で表記し、組成比b~e及び合金密度は、小数点以下2桁で表記し、保磁力Hcは、整数で表記している。なお、表1に記載の各組成比は、鉄基アモルファス合金の狙い組成と、出発原料に含まれている各元素の組成比と、に応じて算出される、いわゆる仕込み値の組成比である。各元素の仕込み値である組成比と、得られた合金における各元素の実際の組成比との間には、表2を参照して後述するように、有意な差が生じないと考えられる。したがって、表1では、各元素の仕込み値である組成比を用いて合金の組成比を定義している。ただし、得られた合金における各元素の実際の組成比を用いて合金の組成比を定義してもよい。
【表1】
【0036】
表2は、仕込み値の組成比として、a:b:c:d:e=78.45:4.15:13:0.95:3.45を採用した場合に得られた鉄基アモルファス合金の実施例13~20について、実際の組成比a~eと、飽和磁化Msと、保磁力Hcとをまとめた表である。表2を参照すれば、各実施例13~20において、飽和磁化Ms、及び、保磁力Hcの各々は、それぞれ、Ms≧155emu/g、及び、Hc≦300A/mを満たしていることが分かる。また、表2を参照すれば、各組成比a~eにおけるバラツキは、±1%の範囲内に収まっていることが分かった。したがって、本発明の一態様における鉄基アモルファス合金においては、各元素の仕込み値である組成比と、得られた合金における各元素の実際の組成比との間には、有意な差が生じないと見做せる。
【表2】
【0037】
また、得られた各合金を材料として、水アトマイズ法を用いて鉄基アモルファス合金の粉粒体を製造した。表1においては、各元素の組成比a、b、c、d、及びeについて、本発明の範疇を組成範囲として記載している。そのうえで、各合金の組成比a、b、c、d、及びeについて、前記組成範囲に含まれる場合にはT(True)を付し、前記組成範囲に含まれない場合にはF(False)を付している。そのうえで、a、b、c、d、及びeの全てがTの場合には実施例とし、何れか1つでもFの場合には比較例とした。なお、表1は、上段から下段へ向かうにしたがって、Feの組成比aが大きい順で並んでいる。
【0038】
各実施例の鉄基アモルファス合金は、過冷度ΔTxがΔTx≧100Kを満たし、且つ、飽和磁化MsがMs≧155emu/gを満たすことが分かった。
【0039】
また、一実施例の鉄基アモルファス合金について測定したDSC曲線のグラフを
図1に示す。
図1を参照すると、一実施例の鉄基アモルファス合金は、結晶化温度Txが約510℃であり、ガラス転移温度Tgが約290℃であり、過冷度ΔTxが約220℃であることが分かった。
【0040】
図2の(a)は、本発明の一実施例及び一比較例である各鉄基アモルファス合金における保磁力を、Siの組成比a及びBの組成比cが張る空間にプロットした散布図である。
図2の(b)は、各鉄基アモルファス合金における保磁力を、Siの組成比a及びPの組成比dが張る空間にプロットした散布図である。
図2の(c)は、各鉄基アモルファス合金における保磁力を、Siの組成比a及びCの組成比eが張る空間にプロットした散布図である。
図2の(d)は、各鉄基アモルファス合金における保磁力を、Bの組成比c及びPの組成比dが張る空間にプロットした散布図である。
図2の(e)は、各鉄基アモルファス合金における保磁力を、Bの組成比c及びCの組成比eが張る空間にプロットした散布図である。
図2の(f)は、各鉄基アモルファス合金における保磁力を、Pの組成比d及びCの組成比eが張る空間にプロットした散布図である。
【0041】
図3は、各鉄基アモルファス合金における保磁力を、Siの組成比bとBの組成比cとの和、及び、Pの組成比dとCの組成比eとの和が張る空間にプロットした散布図である。
【0042】
なお、
図2の各図及び
図3においては、保磁力HcがHc≦300A/mを満たしている鉄基アモルファス合金を白抜きの丸でプロットし、満たしていない(すなわちHc>300A/mを満たしている)鉄基アモルファス合金をバツ(あるいはx)でプロットしている。
【0043】
なお、
図2の各図は、各組成比a~eのうち2つの組成比に着目することにより得られる相関図である。したがって、
図2の各図に示す本発明の一態様における組成範囲(表1に示した組成範囲)の範囲内であっても×でプロットされた鉄基アモルファス合金が存在する。たとえば、
図2の(a)を参照すると、Siの組成比bが3.0≦b≦6.9を満たす鉄基アモルファス合金のなかにも、Hc≦300A/mを満たさない鉄基アモルファス合金(すなわち比較例)が5つ存在することが分かった。これらの5つの比較例は、組成比b以外の組成比a,c,d,eの少なくとも何れかが本発明の一態様における組成範囲に含まれない鉄基アモルファス合金である。
【0044】
また、
図3を参照すると、Siの組成比bとBの組成比cとの和b+cは、15.0≦b+c≦18.0を満たす場合にHc≦300A/mを満たすことが分かった。また、Pの組成比dとCの組成比eとの和d+eは、4.0≦d+e≦6.0を満たす場合にHc≦300A/mを満たすことが分かった。なお、15.0≦b+c≦18.0を満たす鉄基アモルファス合金、あるいは、4.0≦d+e≦6.0を満たす鉄基アモルファス合金であっても、×でプロットされた鉄基アモルファス合金が存在するのは、上述した理由と同じ理由によるものである。
【0045】
〔まとめ〕
本発明の一態様の目的は、組成式FeaSibBcPdCeで表される鉄基アモルファス合金において、高い飽和磁化Msと、低い保磁力Hcとを両立することである。より具体的には、その目的は、保磁力HcがHc≦300A/mであり、且つ、飽和磁化MsがMs≧155emu/gである鉄基アモルファス合金の粉粒体を提供することである。
【0046】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る鉄基アモルファス合金は、組成式FeaSibBcPdCeで表される鉄基アモルファス合金である。本鉄基アモルファス合金においては、各元素の組成比a、b、c、d、及びeを百分率により表す場合に、a、b、c、d、及びeの和は、97.0≦a+b+c+d+e≦100であり、Feの組成比aは、76.0≦a≦80.0を満たし、Siの組成比bは、3.0≦b≦6.9を満たし、Bの組成比cは、9.9≦c≦14.0を満たし、Pの組成比dは、0.8≦d≦4.6を満たし、Cの組成比eは、1.0≦e≦4.1を満たす、構成が採用されている。
【0047】
第1の態様に係る鉄基アモルファス合金は、Hc≦300A/mを満たす保磁力Hcと、Ms≧155emu/gである飽和磁化Msを示す。したがって、本鉄基アモルファス合金は、高い飽和磁化Msと、低い保磁力Hcとを両立することができる。
【0048】
本発明の第2の態様に係る鉄基アモルファス合金においては、上述した第1の態様に係る鉄基アモルファス合金の構成に加えて、組成比b及び組成比cは、15.0≦b+c≦18.0を満たし、組成比d及び組成比eは、4.0≦d+e≦6.0を満たす、構成が採用されている。
【0049】
上記の構成によれば、高い飽和磁化Msと、低い保磁力Hcとを確実に両立することができる。
【0050】
本発明の第3の態様に係る鉄基アモルファス合金においては、上述した第1の態様又は第2の態様に係る鉄基アモルファス合金の構成に加えて、保磁力HcがHc≦300A/mを満たし、且つ、飽和磁化MsがMs≧155emu/gを満たす、構成が採用されている。
【0051】
磁性体における保磁力Hc及び飽和磁化Msは、VSMやSQUIDなどに代表される磁気測定装置を用いて容易に測定することができる。したがって、鉄基アモルファス合金が本発明の範疇に含まれるものであるか否かを容易に確認することができる。
【0052】
本発明の第4の態様に係る鉄基アモルファス合金においては、上述した第1の態様又は第2の態様に係る鉄基アモルファス合金の構成に加えて、結晶化温度Txとガラス転移温度Tgとの差である過冷度ΔTxがΔTx≧100Kを満たし、且つ、飽和磁化MsがMs≧155emu/gを満たす、構成が採用されている。
【0053】
Tx-Tgで定義される過冷度ΔTxは、アモルファス化の容易さを表す指標として利用されており、特許文献1の実施例として挙げられている鉄基アモルファス合金では、最大でもΔTx=52.8Kであった。第4の態様に係る鉄基アモルファス合金は、ΔTx≧100Kを満たすので、従来よりも大幅にアモルファス化のしやすい鉄基アモルファス合金といえる。したがって、本鉄基アモルファス合金は、SWAP法だけでなく水アトマイズ法を用いても高い飽和磁化Msと、低い保磁力Hcとを両立することができるので、粉粒体の原料として好適である。
【0054】
上記の課題を解決するために、本発明の第5の態様に係る粉粒体は、上述した第1の態様又は第2の態様に係る鉄基アモルファス合金からなる。
【0055】
第5の態様に係る粉粒体は、第1の態様に係る鉄基アモルファス合金と同様に、高い飽和磁化Msと、低い保磁力Hcとを両立することができる。
【0056】
本発明の第6の態様に係る粉粒体においては、上述した第5の態様に係る粉粒体の構成に加えて、平均粒径D50が0.5μm≦D50≦50μmを満たす構成が採用されている。
【0057】
上述したように、本発明の一態様に係る鉄基アモルファス合金は、水アトマイズ法を用いた場合であっても、高い飽和磁化Msと、低い保磁力Hcとを両立した粉粒体を製造することができる。したがって、平均粒径D50が0.5μm≦D50≦50μmを満たす鉄基アモルファス合金の粉粒体を容易に製造することができる。
【0058】
上記の課題を解決するために、本発明の第7の態様に係る圧粉材は、上述した第5の態様又は第6の態様に係る粉粒体からなる。
【0059】
第7の態様に係る圧粉材は、第5の態様及び第6の態様に係る粉粒体と同様に、高い飽和磁化Msと、低い保磁力Hcとを両立することができる。
【0060】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。